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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B22F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B22F
審判 全部申し立て 2項進歩性  B22F
管理番号 1385157
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-06-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-04-30 
確定日 2022-04-06 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6799936号発明「ニッケル粒子、導電性ペースト、内部電極及び積層セラミックコンデンサ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6799936号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1〜11〕について訂正することを認める。 特許第6799936号の請求項1〜6,8〜11に係る特許を維持する。 特許第6799936号の請求項7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6799936号(請求項の数11。以下「本件特許」という。)の請求項1〜11に係る特許についての出願(特願2016−72630号。以下「本願」という。)は,平成28年3月31日に出願され,令和2年11月26日にその特許権の設定の登録がされ,同年12月16日に特許掲載公報が発行され,その後,令和3年4月30日に,本件特許の請求項1〜11(全請求項)に係る特許に対して,特許異議申立人 竹下瑞恵(以下「申立人1」という。)より,また,同年6月14日に,本件特許の請求項1〜11(全請求項)に係る特許に対して,特許異議申立人 井澤幹(以下「申立人2」という。)より,それぞれ特許異議の申立てがされたものである。
特許異議申立て後の手続の経緯は,次のとおりである。
令和3年 9月27日付け:取消理由通知及び審尋
同年11月29日 :意見書,訂正請求書及び回答書(特許権者)
同年12月20日付け:訂正請求があった旨の通知
令和4年 1月21日 :意見書(申立人1)
なお,令和3年12月20日付けで訂正請求があった旨を申立人1,2に通知したが,その指定期間内に申立人2から,意見書は提出されなかった。

第2 訂正の適否について

1 訂正請求の趣旨,及び訂正の内容
令和3年11月29日提出の訂正請求書による訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)の趣旨は,本件特許の特許請求の範囲を上記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1〜11について訂正することを求めるものであり,その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は,次のとおりである。下線は,訂正箇所を示す。

(1)訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「金属元素を20質量%以下含有するニッケル粒子であって、
走査型電子顕微鏡観察により測定された、」
と記載されているのを,
「金属元素を20質量%以下含有するニッケル粒子であって、
前記ニッケル粒子を、還元雰囲気下で、25℃から、昇温速度15℃/分で昇温させた際の、600℃〜1000℃における重量減少率が、0.1%未満であり、
走査型電子顕微鏡観察により測定された、」に訂正する。請求項1の記載を引用する請求項2〜6,9〜11も同様に訂正する。

(2)訂正事項2
訂正前の特許請求の範囲の請求項7を削除する。

(3)訂正事項3
訂正前の特許請求の範囲の請求項8に
「前記ニッケル粒子が、不活性雰囲気下で、25℃から、昇温速度15℃/分で昇温させた際の、200℃〜400℃における重量減少率が、25℃〜1000℃における重量減少率の50%〜70%であり、かつ、還元雰囲気下で、25℃から、昇温速度15℃/分で昇温させた際の、25℃〜300℃の重量減少率が、25℃〜1000℃における重量減少率の85%以上である、請求項1に記載のニッケル粒子。」
とあるところを,独立形式に改め,
「金属元素成分の含有量が85〜99質量%であり、前記金属元素以外の成分の含有量が1〜12質量%であるとともに、金属元素成分中、ニッケル元素を80質量%以上含有し、さらに銅、銀、金、白金又はパラジウムから選ばれる1種以上の金属元素を20質量%以下含有するニッケル粒子であって、
前記ニッケル粒子を、不活性雰囲気下で、25℃から、昇温速度15℃/分で昇温させた際の、200℃〜400℃における重量減少率が、25℃〜1000℃における重量減少率の50%〜70%であり、かつ、還元雰囲気下で、25℃から、昇温速度15℃/分で昇温させた際の、25℃〜300℃の重量減少率が、25℃〜1000℃における重量減少率の85%以上であり、
走査型電子顕微鏡観察により測定された、前記ニッケル粒子の一次粒子の平均粒子径D50が20nm〜150nmであり、一次粒子径の変動係数が、0.2以下であり、前記平均粒子径D50の2.0倍以上の粒子が、全粒子個数の0.1%以下であるニッケル粒子。」
に訂正する。請求項8の記載を引用する請求項9〜11も同様に訂正する。

(4)訂正事項4
訂正前の特許請求の範囲の請求項9に
「請求項1から8のいずれか1項」
と記載されているのを,
「請求項1から6、8のいずれか1項」
に訂正する。

(5)訂正事項5
訂正前の特許請求の範囲の請求項10に
「請求項1から8のいずれか1項」
と記載されているのを,
「請求項1から6、8のいずれか1項」
に訂正する。

2 本件訂正の適否についての判断

(1)訂正事項1について

ア 訂正の目的について
訂正事項1に係る訂正は,訂正前の請求項1に「前記ニッケル粒子を、還元雰囲気下で、25℃から、昇温速度15℃/分で昇温させた際の、600℃〜1000℃における重量減少率が、0.1%未満であり、」という発明特定事項を直列的に付加するものであるから,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
訂正後の請求項1を引用する請求項2〜6,9〜11についても同様である。

イ 新規事項の有無,特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項1に係る訂正は,訂正前の請求項7の「前記ニッケル粒子が、還元雰囲気下で、25℃から、昇温速度15℃/分で昇温させた際の、600℃〜1000℃における重量減少率が、0.1%未満である、請求項1に記載のニッケル粒子。」との記載,本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の段落【0028】の「本実施の形態に係るニッケル粒子は、還元雰囲気下で、25℃から、昇温速度15℃/分で昇温させた際の、600℃〜1000℃における重量減少率が、0.1%未満であることが好ましい。」との記載に照らし,願書に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面に記載した事項の範囲内の訂正であり,かつ,発明のカテゴリーや対象,目的を変更するものではなく,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当しないものであるから,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
訂正後の請求項1を引用する請求項2〜6,9〜11についても同様である。

(2)訂正事項2について

ア 訂正の目的について
訂正事項2に係る訂正は,訂正前の請求項7を削除するものであるから,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

イ 新規事項の有無,特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
上記アの請求項7の削除が,願書に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面に記載した事項の範囲内であり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでないことは明らかであるから,訂正事項2に係る訂正は,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項3について

ア 訂正の目的について
訂正事項3に係る訂正は,訂正前の請求項8について,訂正前の請求項1を引用する記載であったのを,請求項間の引用関係を解消して請求項1を引用しないものとし,独立形式の記載へ改めるための訂正であるから,特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。

イ 新規事項の有無,特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
上記アのとおり独立形式の記載へ改めることが,願書に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面に記載した事項の範囲内であり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでないことは明らかであるから,訂正事項3に係る訂正は,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(4)訂正事項4,5について

ア 訂正の目的について
訂正事項4,5は,請求項7の削除に伴い,それぞれ,訂正前の請求項9,10における請求項7の引用を削除するものであるから,いずれも,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」又は同項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。

イ 新規事項の有無,特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
上記アの請求項9,10における請求項7の引用の削除が,願書に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面に記載した事項の範囲内であり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでないことは明らかであるあるから,訂正事項4,5に係る訂正は,いずれも,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(5)独立特許要件について
本件においては,本件特許の全ての請求項に対して特許異議の申立てがされているので,訂正事項1〜5に係る訂正において訂正を認める要件として特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(6)一群の請求項について
訂正前の請求項1〜11について,請求項2〜11は請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって,請求項1に連動して訂正されるものであるから,請求項1〜11は一群の請求項であり,本件訂正は特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。
そして,本件訂正は,特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めがないから,本件訂正請求は,訂正後の請求項〔1〜11〕を訂正単位とする訂正の請求をするものである。

3 訂正の適否についてのまとめ
以上,訂正事項1〜5のいずれも,特許法第120条の5第2項ただし書第1号,第3号又は第4号を目的とするものであり,かつ,同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので,本件訂正を認める。

第3 本件発明,及び本件明細書の発明の詳細な説明の記載

1 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められるので,本件特許の請求項1〜6,8〜11に係る発明は,訂正特許請求の範囲に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下,各々「本件発明1〜6,8〜11」といい,総称して「本件発明」ということがある。なお,下線は当審が付した。以下同様。)。

「【請求項1】
金属元素成分の含有量が85〜99質量%であり、前記金属元素以外の成分の含有量が1〜12質量%であるとともに、金属元素成分中、ニッケル元素を80質量%以上含有し、さらに銅、銀、金、白金又はパラジウムから選ばれる1種以上の金属元素を20質量%以下含有するニッケル粒子であって、
前記ニッケル粒子を、還元雰囲気下で、25℃から、昇温速度15℃/分で昇温させた際の、600℃〜1000℃における重量減少率が、0.1%未満であり、
走査型電子顕微鏡観察により測定された、前記ニッケル粒子の一次粒子の平均粒子径D50が20nm〜150nmであり、一次粒子径の変動係数が、0.2以下であり、前記平均粒子径D50の2.0倍以上の粒子が、全粒子個数の0.1%以下であるニッケル粒子。
【請求項2】
前記金属元素成分が、ニッケル及び銅である、請求項1に記載のニッケル粒子。
【請求項3】
前記金属元素成分において、ニッケル及び銅の質量比(ニッケル:銅)が、99.99〜80.00:0.01〜20.00である、請求項2に記載のニッケル粒子。
【請求項4】
前記一次粒子の平均粒子径D50が30〜100nmである、請求項1に記載のニッケル粒子。
【請求項5】
前記金属元素以外の成分が、炭素、窒素、水素、酸素、硫黄及びリンからなる群から選ばれたいずれか1種又は2種以上である、請求項1に記載のニッケル粒子。
【請求項6】
前記ニッケル粒子の表面に、アミン化合物、アミド化合物及びニトリル化合物からなる群から選ばれたいずれか1種又は2種以上が付着している、請求項1に記載のニッケル粒子。
【請求項7】(削除)
【請求項8】
金属元素成分の含有量が85〜99質量%であり、前記金属元素以外の成分の含有量が1〜12質量%であるとともに、金属元素成分中、ニッケル元素を80質量%以上含有し、さらに銅、銀、金、白金又はパラジウムから選ばれる1種以上の金属元素を20質量%以下含有するニッケル粒子であって、
前記ニッケル粒子を、不活性雰囲気下で、25℃から、昇温速度15℃/分で昇温させた際の、200℃〜400℃における重量減少率が、25℃〜1000℃における重量減少率の50%〜70%であり、かつ、還元雰囲気下で、25℃から、昇温速度15℃/分で昇温させた際の、25℃〜300℃の重量減少率が、25℃〜1000℃における重量減少率の85%以上であり、
走査型電子顕微鏡観察により測定された、前記ニッケル粒子の一次粒子の平均粒子径D50が20nm〜150nmであり、一次粒子径の変動係数が、0.2以下であり、前記平均粒子径D50の2.0倍以上の粒子が、全粒子個数の0.1%以下であるニッケル粒子。
【請求項9】
請求項1から6、8のいずれか1項に記載のニッケル粒子を含有する導電性ペースト。
【請求項10】
請求項1から6、8のいずれか1項に記載のニッケル粒子をペースト化し、セラミック基板上に印刷した積層セラミックコンデンサ用の内部電極。
【請求項11】
請求項10に記載の内部電極とセラミック誘電体とを交互に層状に重ねて圧着し、焼成して一体化させた積層セラミックコンデンサ。」

2 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明(以下,単に「発明の詳細な説明」という。)には,次の記載がある(なお,「・・・」は記載の省略を表す。以下同様。)。

(1)「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の実施例では、核となる金属超微粒子の大きさが100nmを超えており、最終的に製造される金属微粒子の平均粒子径も1μm程度であることから、凝集が発生しにくく、粒子径のばらつきに対する許容範囲も広い。そのため、特許文献1の技術は、現在の工業材料に求められる、例えば平均粒子径が150nm以下の小さな金属微粒子の製造に適用できるものではない。
【0008】
また、平均粒子径が150nm以下の金属微粒子では、例えばニッケルなどの磁性材料を主成分とする場合、磁性によって凝集が生じやすくなり、分散性が低下することが懸念される。しかしながら、磁性材料を主要な成分とする金属微粒子において、磁性による分散性への影響を考慮した粒子設計はこれまでなされていない。
【0009】
本発明の目的は、平均粒子径が150nm以下であり、粒子径が均一でそのばらつきが小さく、かつ分散性に優れた金属微粒子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明のニッケル粒子は、金属元素成分の含有量が90〜99質量%であり、前記金属元素以外の成分の含有量が1〜10質量%であるニッケル粒子であって、
走査型電子顕微鏡観察により測定された、前記ニッケル粒子の一次粒子の平均粒子径D50が20nm〜150nmであり、一次粒子径の変動係数が、0.2以下であり、前記平均粒子径D50の2.0倍以上の粒子が、全粒子個数の0.1%以下である、
を備えている。
【0011】
また、本発明のニッケル粒子は、前記金属元素成分が、ニッケル、又は、ニッケル及び銅であってもよい。
【0012】
また、本発明のニッケル粒子は、前記金属元素成分において、ニッケル及び銅の質量比(ニッケル:銅)が、99.99〜80.00:0.01〜20.00であってもよい。
【0013】
また、本発明のニッケル粒子は、前記一次粒子の平均粒子径D50が30〜100nmであってもよい。
【0014】
また、本発明のニッケル粒子は、前記金属元素以外の成分が、炭素、窒素、水素、酸素、硫黄及びリンからなる群から選ばれたいずれか1種又は2種以上であってもよい。
【0015】
また、本発明のニッケル粒子は、その表面に、アミン化合物、アミド化合物及びニトリル化合物からなる群から選ばれたいずれか1種又は2種以上が付着していてもよい。
【0016】
また、本発明のニッケル粒子は、還元雰囲気下で、25℃から、昇温速度15℃/分で昇温させた際の、600℃〜1000℃における重量減少率が、0.1%未満であってもよい。
【0017】
また、本発明のニッケル粒子は、不活性雰囲気下で、25℃から、昇温速度15℃/分で昇温させた際の、200℃〜400℃における重量減少率が、25℃〜1000℃における重量減少率の50%〜70%であり、かつ、還元雰囲気下で、25℃から、昇温速度15℃/分で昇温させた際の、25℃〜300℃の重量減少率が、25℃〜1000℃における重量減少率の85%以上であってもよい。
【0018】
本発明の導電性ペーストは、上記いずれかのニッケル粒子を含有する。
【0019】
本発明の積層セラミックコンデンサ用の内部電極は、上記いずれかのニッケル粒子をペースト化し、セラミック基板上に印刷したものである。
【0020】
本発明の積層セラミックコンデンサは、上記内部電極とセラミック誘電体とを交互に層状に重ねて圧着し、焼成して一体化させたものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明のニッケル粒子は、その一次粒子の平均粒子径D50が150nm以下であり、一次粒子径の変動係数が、0.2以下であるため、粒子径が均一でそのばらつきが小さく、かつ分散性に優れている。特に、前記平均粒子径D50の2.0倍以上の粒子が、全粒子個数の0.1%以下であるため、粗大粒子が極めて少ない。そのため、このニッケル粒子は、例えばMLCCの内部電極材料、電力用半導体素子の接合材料などの用途として好適に利用できる。また、本発明の内部電極を用いたMLCCは、従来のニッケル粒子を使用した電極の膜厚をより薄くすることが可能であることから、小型高容量を実現でき、長寿命性、高信頼性に優れる。そのため、携帯電話、携帯端末、パーソナルコンピュータ、ドローンやスマートウオッチ等の電気・電子製品、オーディオ、通信、コンピュータ制御等の自動車用部品に好適に用いることができる。」

(2)「【発明を実施するための形態】
【0023】
[ニッケル粒子]
本実施の形態に係るニッケル粒子は、下記の構成a〜dを備えている。
<構成a>
本実施の形態に係るニッケル粒子は、ニッケル元素を主成分とする金属元素成分の含有量が85〜99質量%であり、前記金属元素以外の成分の含有量が1〜15質量%である。好ましくは、金属元素成分の含有量が90〜98質量%であり、前記金属元素以外の成分の含有量が2〜10質量%である。
ここで、「ニッケル元素を主成分とする」とは、金属元素成分中、ニッケル元素を80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上99.9重量%以下の範囲内で含有することを意味する。本実施の形態に係るニッケル粒子は、ニッケル以外の金属を含有していてもよい。そのような金属としては、例えば、チタン、コバルト、クロム、マンガン、鉄、アルミニウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、ジルコニウム、スズ、タングステン、モリブデン、バナジウム、バリウム、カルシウム、ストロンチウム。シリコン、アルミニウム、リン等の卑金属、金、銀、白金、パラジウム、イリジウム、オスミウム、ルテニウム、ロジウム、レニウム、ネオジウム、ニオブ、ホロニウム、ディスプロヂウム、イットリウム等の貴金属、希土類金属を挙げることができる。これらのニッケル以外の金属は、単独でもよく、又は2種以上含有していてもよい。好ましくは、「粗大粒子が極めて少なく、粒度分布のシャープな粒子を合成しやすい」などいう理由から、銅、銀、金、白金又はパラジウムであり、より好ましくは、銅である。ニッケル以外の金属として、銅を含有する場合、ニッケル及び銅の質量比(ニッケル:銅)が、99.99〜80.00:0.01〜20.00であることが好ましい。より好ましくは、99.99〜98.00:0.01〜2.00である。さらに好ましくは、99.99〜98.50:0.01〜1.50である。銅、銀、金、白金又はパラジウムを含有する場合、上記の銅、銀、金、白金又はパラジウム以外の金属を、さらに含有しても良い。前記ニッケル以外の金属は、凝集の原因となるニッケル粒子の磁性を弱め、分散性の向上に寄与する。従って、例えばニッケル元素に対する銅元素の含有割合が0.01質量%未満であると、分散性の改善効果が得られない。一方、20質量%を超えると、加熱還元による粒子成長の効率が悪くなる。マイクロ波による加熱還元をする場合は、マイクロ波を吸収し難くなるため、効率の悪化が特に顕著である。また、前記ニッケル以外の金属として銅を用いた場合は、銅元素の存在による粒子の酸化安定性の低下が生じ、さらには、MLCCの内部電極用の導電性ペースト材料として用いる場合に、脱バインダー工程において、銅の酸化が急速に起こり、クラックや層間剥離などの不具合が発生しやすくなる。
また、金属元素以外の成分としては、炭素、窒素、水素、酸素、硫黄及びリンからなる群から選ばれたいずれか1種又は2種以上が挙げられる。好ましくは、炭素、窒素、水素又は酸素である。これらの金属元素以外の成分を含むことで、ニッケル粒子において、良好な分散性を発現する。より好ましくは、炭素が0.1質量%〜8質量%、窒素が0.001質量%〜0.5質量%、水素が0.01質量%〜1質量%、酸素が0.1質量%〜10質量%である。さらに好ましくは、炭素が0.1質量%〜5質量%、窒素が0.001質量%〜0.3質量%、水素が0.05質量%〜0.7質量%、酸素が0.1質量%〜7質量%である。さらに好ましくは、炭素が0.5質量%〜4質量%、窒素が0.01質量%〜0.2質量%、水素が0.05質量%〜0.5質量%、酸素が0.5質量%〜5質量%である。
これらの金属元素以外の成分として、前記ニッケル粒子の表面に、アミン化合物、アミド化合物及びニトリル化合物からなる群から選ばれたいずれか1種又は2種以上が付着していることが、ニッケル粒子において、良好な分散性を発現するため好ましい。より好ましくは、炭素数1〜20のアルキル基を含む、アミン化合物、アミド化合物又はニトリル化合物からなる群から選ばれたいずれか1種又は2種以上である。また、これらの化合物の他に、これらの化合物同士の反応物や重合物が含まれていても良い。これらの化合物の含有量は、これらの化合物の合計量として、0.1質量%〜5.0質量%であることが好ましく、より好ましくは、0.3質量%〜4.0質量%である。
【0024】
<構成b>
本実施の形態に係るニッケル粒子は、走査型電子顕微鏡(SEM)により測定された、前記ニッケル粒子の一次粒子の平均粒子径D50(以下、単に「平均粒子径」ともいう。)が20nm〜150nmである。好ましくは、30nm〜100nmであり、より好ましくは、40nm〜100nmである。ニッケル粒子の平均粒子径が20nm未満であると、相対的にニッケル以外の金属の含有量が多くなり、加熱還元による粒子成長の効率が悪くなる、熱収縮率が大きくなる、(ニッケル以外の金属として銅を使用した場合、)酸化しやすくなる等の問題が起こり得る。マイクロ波による加熱還元をする場合は、マイクロ波を吸収し難くなるため、効率の悪化が特に顕著である。
また、平均粒子径が20nm未満では凝集しやすくなり、例えばMLCCの内部電極材料用の導電性ペーストとして用いる場合に、導電性ペーストの作製が困難になるばかりでなく、誘電体層の積層後の焼成時に誘電体との収縮率差が大きくなり、クラック等の問題が生じやすい。一方、ニッケル粒子の平均粒子径が150nmを超えると、例えばMLCCの内部電極材料用の導電性ペーストとして用いる場合に、電極層の表面に凹凸が発生し、電極層の薄層化及び多層化が困難になったり、電気的特性を低下させたりする原因となるなど、微細化への対応が困難になる。
【0025】
本実施の形態に係るニッケル粒子は、例えば球状、擬球状、長球状、立方体様、切頭四面体様、双角錐状、正八面体様、正十面体様、正二十面体様等の種々の形状であってよいが、例えばニッケル粒子を電子部品の電極に使用した場合の充填密度の向上という観点から、球状又は擬球状が好ましく、球状がより好ましい。ここで、ニッケル粒子の形状は、例えば、SEMで観察することにより確認できる。また、ニッケル粒子の平均粒子径は、SEMにより試料の写真を撮影して、その中から無作為に1000個〜100000個を抽出してそれぞれの粒子について面積を求め、真球に換算したときの粒子径から、個数基準にて求めることができる。
【0026】
<構成c>
本実施の形態に係るニッケル粒子は、走査型電子顕微鏡により測定された、一次粒子径の変動係数(標準偏差/平均粒子径;CV値)が、0.2以下である。CV値が0.2を超えると、例えばMLCCの内部電極用の導電性ペースト材料として用いる場合に、電極層の表面に凹凸が発生し、電極層の薄層化及び多層化が困難になったり、電気的特性を低下させたりする原因となることがある。
【0027】
<構成d>
本実施の形態に係るニッケル粒子は、走査型電子顕微鏡により測定された、平均粒子径D50の2.0倍以上の粒子が、全粒子個数の0.1%以下である。好ましくは、0.01%以下である。ここで、平均粒子径D50の2.0倍以上の粒子(以下、「粗大粒子」ともいう。)が0.1%を超えると、例えばMLCCの内部電極用の導電性ペースト材料として用いる場合に、電極層の表面に凹凸が発生し、電極層の薄層化及び多層化が困難になったり、電気的特性を低下させたりする原因となることがある。粗大粒子は、平均粒子径と比較して極端に大きいため、電極層の厚みのばらつきや、粗大粒子が誘電体層を貫通して隣接する内部電極層と接触し、ショートによる製品不良、または信頼性及び寿命低下、または十分な容量が得られなくなる、等の問題を引き起こす傾向にあるため、できるだけ少ない方が好ましい。
【0028】
また、MLCCの製造工程では、酸化反応や還元反応によってニッケル粒子が膨張・収縮して体積変化が生じる。また、セラミックス誘電体も焼結により膨張・収縮し、体積変化が生じる。ところが、ニッケル粒子とセラミックス誘電体とでは、焼結時における膨張・収縮による体積変化の挙動が異なる。すなわち、ニッケル粒子の焼結開始温度(約500℃)とセラミックス誘電体の焼結開始温度(約1000℃)が大きく異なるために、デラミネーションやクラック等の欠陥を生じるおそれがある。特に、粒子径が150nm以下のニッケル粒子は、MLCC製造時の焼結過程で誘電体層との熱収縮の差が従来の大粒子径のニッケル粒子に比べてより拡大し、内部電極層と誘電体層とのデラミネーションや内部電極層の膜切れが多くなり、やはり製品としての歩留まりに問題があった。
従って、ニッケル粒子は、特に、焼結開始温度以上の高温領域における熱収縮が小さい方が好ましい。その観点で、本実施の形態に係るニッケル粒子は、還元雰囲気下で、25℃から、昇温速度15℃/分で昇温させた際の、600℃〜1000℃における重量減少率が、0.1%未満であることが好ましい。より好ましくは、0%以下(つまり、0%又はマイナスの値)であることが、より好ましい。ここで、マイナスの値である場合、600℃〜1000℃において重量が増加していることを意味する。
また、本実施の形態に係るニッケル粒子は、不活性雰囲気下で、25℃から、昇温速度15℃/分で昇温させた際の、200℃〜400℃における重量減少率が、25℃〜1000℃における重量減少率の50%〜70%であり、かつ、還元雰囲気下で、25℃から、昇温速度15℃/分で昇温させた際の、25℃〜300℃の重量減少率が、25℃〜1000℃における重量減少率の85%以上であることが好ましい。
詳細は明らかではないが、本実施の形態に係るニッケル粒子は、600℃以下で、金属元素以外の成分の大部分が除去されるため、従来のニッケル粒子と比較して、特に600℃以上の高温領域における熱収縮が抑えられていると考えられる。」

(3)「【0039】
本実施の形態の導電性ペーストは、上記構成a〜dを備えたニッケル粒子を含有することによって、導電性ペースト中のニッケル粒子を高い分散状態に維持できる。その結果、導電性ペーストを塗布して電極膜を形成した場合の表面粗さを小さくすることができ、電気信頼性も向上させることができる。例えば、後記実施例に示す方法で測定される導電性ペーストの表面粗さの評価において、算術平均粗さRaを0.005μm以下、好ましくは、0.002μm以下に抑制できる。・・・
【0042】
[ニッケル粒子の製造方法]
本実施の形態に係るニッケル粒子の製造方法は、例えば、下記の工程I〜IVを含むことができる。
【0043】
<工程I>
本工程は、走査型電子顕微鏡観察による平均粒子径が10nm以上30nm以下の範囲内、ニッケル元素に対する銅元素の含有割合が3重量%以上30重量%以下の範囲内である種粒子を準備する工程である。
【0044】
種粒子は、工程IVにおいて、ニッケル粒子の成長の核として機能するものである。種粒子は、例えば、ニッケル塩及び銅塩を含む原料から、有機アミンの存在下で加熱による湿式還元によって製造することが好ましい。この場合、銅とニッケルとの標準電極電位の相違から、まず、核となる銅粒子が形成され、次に、銅粒子の表面にニッケル被膜が形成されることによって、種粒子が得られる。
【0045】
(銅塩)
銅塩としては、例えばカルボン酸銅を用いることが好ましい。また、カルボン酸銅としては、例えば、還元過程での解離温度(分解温度)が比較的低いギ酸銅、酢酸銅などを用いることが好ましい。また、カルボン酸銅は、無水物であってもよく、水和物であってもよい。銅塩を配合することによって、種粒子の形成を促進できるとともに、種粒子の粒子径の制御が容易になる。また、工程IVで得られるニッケル粒子の分散性を改善することができる。・・・
【0047】
なお、種粒子は、ニッケル及び銅以外の金属を含有していてもよい。その場合、種粒子の調製に際して、例えば、銀、金、白金及びパラジウムから選ばれる1種以上の金属の塩を使用してもよい。・・・」

(4)「【実施例】
【0082】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0083】
[粒子径及び粒度分布の測定]
SEMにより試料の写真を撮影して、その中から無作為に4000個のニッケル粒子を抽出してそれぞれの面積を求め、真球に換算したときの粒子径を個数基準として、一次粒子の90%径D90及び平均粒子径(メディアン径)D50を算出した。なお、D50が70nm以上の場合はSEMの倍率を5万倍として、70nm未満の場合はSEMの倍率を10万倍として、無作為に8視野以上撮影した。
また、CV値(変動係数)は、(一次粒子径の標準偏差)÷(D50)によって算出した。CV値が小さいほど、粒子径がより均一であることを示す。
【0084】
[粗大粒子及び最大粒子径の確認]
SEMにより試料の写真を撮影して、その中から無作為に10000個のニッケル粒子を抽出して、その中で、D50の2倍以上のニッケル粒子の個数を求めた。・・・
【0085】
[元素分析]
ニッケル粒子の金属元素成分の含有量は、ICP(誘導結合プラズマ発光分光分析法)で測定した。また、金属元素以外の成分の含有量は、元素分析装置FLASH2000(ジェイサイエンスラボ製)で測定した。
【0086】
[ニッケル粒子表面の有機物分析]
ソックスレー抽出器を用いて、2gの乾燥したニッケル粒子を、200mlのトルエンで、12時間抽出を行った。そして、得られた抽出液を、GC−MS(GCユニット 6890N Agilent Technologies製、MSユニット JMS−K9 日本電子製)で測定し、ニッケル粒子表面に付着している有機物を分析した。
【0087】
[重量減少率の測定]
示差熱天秤R−TG−DTA/H8120(リガク製)を用いて、昇温速度15℃/分で測定した。なお、不活性雰囲気下の測定は、窒素雰囲気下で測定し、還元雰囲気下の測定は、水素−窒素の混合ガス雰囲気(水素は3%)下で測定した。
【0088】
[表面平滑性]
ニッケル粒子A〜Eについては、ニッケル粒子合成後の反応液(ニッケル粒子スラリー)に対し、トルエン洗浄と遠心分離を5回繰り返し行った後、エバポレーターでトルエンを一部除去して、スラリー中のニッケル粒子が50質量%になるまで濃縮した。この濃縮物をガラス板上に塗布して、80℃で乾燥後、接触式の表面粗さ計で算術平均粗さRaを測定した。
ニッケル粒子Fについては、乾燥したニッケル粒子を、超音波ホモジナイザーを用いてトルエンに分散させてスラリー状にした後、エバポレーターでトルエンを一部除去して、スラリー中のニッケル粒子が50質量%になるまで濃縮した。この濃縮物をガラス板上に塗布して、80℃で乾燥後、接触式の表面粗さ計で算術平均粗さRaを測定した。
【0089】
[ニッケル粒子の合成]
実施例1〜4及び比較例1のニッケル粒子は、以下の工程I〜工程IVを通して合成した。この合成方法は、本発明のニッケル粒子を製造する方法の一例であり、製造方法は限定しない。
工程I:種粒子を形成する工程
工程II:ニッケル錯体溶液を準備する工程
工程III:前記種粒子と前記ニッケル錯体溶液とを混合して混合液を得る工程
工程IV:前記混合液中のニッケルイオンを加熱還元し、前記種粒子を核として金属ニッケルを析出・成長させてニッケル粒子を形成する工程
また、比較例2におけるニッケル粒子は、JFEミネラル製 NFP201S(平均粒子径:200nm)を用いた。
【0090】
<工程I>
(実施例1〜4及び比較例1)
6.0kgのオレイルアミンに70gのギ酸銅四水和物と350gのギ酸ニッケル二水和物を加え、窒素フロー下で120℃、60分間加熱することでギ酸銅とギ酸ニッケルをオレイルアミンに溶解した。
【0091】
上記の溶解液にマイクロ波を照射して190℃、10分間加熱して、6.1kgのニッケル粒子スラリー(1−A)を調製した。得られたニッケル粒子スラリー(1−A)の100gを分取して、上澄み液を取り除いた後、トルエンとメタノールを用いてそれぞれ2回洗浄した後、60℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥してニッケル種粒子aを調製した。
【0092】
ニッケル種粒子aのSEM写真を参照すると、ニッケル種粒子aの平均粒子径は15nm、CV値は0.14、銅元素の含有量は15.06質量%であった。
【0093】
<工程II>
(実施例1〜4及び比較例1)
50.1kgのオレイルアミンに20.6kgの酢酸ニッケル四水和物を加え、窒素フロー下で140℃、4時間加熱することでニッケル錯体溶液(2−A)を調製した。
【0094】
<工程III>
(実施例1)
25.0gの(1−A)及び、1050gの(2−A)を、反応容器中で撹拌し、混合液Aを得た。
(実施例2及び比較例1)
250gの(1−A)及び、10500gの(2−A)を、反応容器中で撹拌し、混合液B、Eを得た。
(実施例3)
1000gの(1−A)及び、10130gの(2−A)を、反応容器中で撹拌し、混合液Cを得た。
(実施例4)
2500gの(1−A)及び、8000gの(2−A)を、反応容器中で撹拌し、混合液Dを得た。
【0095】
<工程IV>
(実施例1)
混合液Aを、撹拌しながら、オイルバスで、235℃、15分間加熱することによって、ニッケル粒子スラリーAを得た。このニッケル粒子スラリーAを静置分離し、上澄み液を取り除いた後、トルエン及びメタノールを用いてそれぞれ2回洗浄し、真空乾燥機で60℃、6時間乾燥して、ニッケル粒子Aを得た。このニッケル粒子の物性を表1〜4に示した。また、実施例1で得たニッケル粒子のSEM写真を図1に示した。図1から、実施例1で得たニッケル粒子は、粗大粒子が観察されず、粒子径がほぼ揃っていた。
【0096】
(実施例2、3及び4)
それぞれ別個の反応容器中の混合液B、C、Dを、マイクロ波を照射して、235℃、15分間加熱することによって、ニッケル粒子スラリーB、C、Dを得た。これらのニッケル粒子スラリーを静置分離し、上澄み液を取り除いた後、トルエン及びメタノールを用いてそれぞれ2回洗浄し、真空乾燥機で60℃、6時間乾燥して、ニッケル粒子B、C、Dを得た。これらのニッケル粒子の物性を表1〜4に示した。
【0097】
(比較例1)
反応容器中の混合液Eを、マイクロ波を照射して、280℃、30分間加熱した他は、実施例2と同様にして、ニッケル粒子スラリーE及びニッケル粒子Eを得た。ニッケル粒子Eの物性を表1〜4に示した。
【0098】
【表1】

【0099】
【表2】

【0100】
【表3】

【0101】
【表4】

【0102】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。」

第4 特許異議の申立てについて

1 申立理由の概要

(1)申立人1は,本件特許に対する異議申立理由として下記ア〜ウを主張し,証拠方法として,いずれも,本願の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記エの甲第1号証〜甲第3号証を提示した。

ア 申立理由1(新規性)(取消理由として不採用)
訂正前の請求項1,4,5,9〜11に係る発明は,下記甲第1号証に記載された発明であり,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができないものであるから,その発明についての特許は,同法第113条第2号に該当し,取り消されるべきものである。

イ 申立理由2(進歩性)(取消理由として不採用)
訂正前の請求項1〜11に係る発明は,下記甲第1号証に記載された発明及び下記甲第2号証又は甲第3号証の記載に基いて,あるいは,下記甲第2号証又は甲第3号証に記載された発明及び下記甲第1号証の記載に基いて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その発明についての特許は,同法第113条第2号に該当し,取り消されるべきものである。

ウ 申立理由3(サポート要件)(取消理由として一部採用)
訂正前の請求項1〜11に係る発明は,特許発明の作用効果を奏しない比較例1を包含する,あるいは,ニッケル粒子に含まれる金属元素成分として銅以外の銀,金,白金又はパラジウムから選ばれる1種以上のものを含有する,発明の詳細な説明において何ら実証されていない態様を包含するので,訂正前の請求項1〜11に係る発明は,発明の詳細な説明に記載されたものとはいえず,訂正前の請求項1〜11に係る発明に係る特許は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから,特許法第113条第4号に該当し,取り消されるべきものである。

エ 証拠方法
甲第1号証:特開2006−161128号公報(以下「甲A」という。)
甲第2号証:特開2014−173105号公報(以下「甲B」という。)
甲第3号証:特開2014−145117号公報(以下「甲C」という。)

(2)申立人2は,本件特許に対する異議申立理由として下記アを主張し,証拠方法として,いずれも,本願の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記イの甲第1号証〜甲第6号証を提示した。

ア 申立理由4(進歩性)(取消理由として不採用)
訂正前の請求項1〜11に係る発明は,下記甲第1号証に記載された発明,下記甲第2号証の記載及び下記甲第3号証〜甲第6号証に記載された周知事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その発明についての特許は,特許法第113条第2号に該当し,取り消されるべきものである。

イ 証拠方法
甲第1号証:特開2014−145117号公報(上記「甲C」に同じ。)
甲第2号証:国際公開第2015/156080号(以下「甲D」という。)
甲第3号証:特開2014−173105号公報(上記「甲B」に同じ。)
甲第4号証:特開2009−197317号公報(以下「甲E」という。)
甲第5号証:特開2015−49973号公報(以下「甲F」という。)
甲第6号証:特開2002−53904号公報(以下「甲G」という。)

2 取消理由通知で通知された取消理由の概要
令和3年9月27日付け取消理由通知で通知された取消理由の概要は次のとおりである。

(1)取消理由A(サポート要件)
訂正前の請求項1〜6,9〜11に係る発明は,いずれも本件発明が解決しようとする課題を解決していない比較例1のニッケル粒子をその範囲内に包含しており,全ての範囲においてまで上記課題を解決できるとはいえないため,発明の詳細な説明に記載されたものとはいえず,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって,特許法第113条第4号に該当するから,訂正前の請求項1〜6,9〜11に係る特許は,取り消すべきものである。

第5 当審の判断
当審は,本件訂正による訂正後の本件発明に係る特許については,以下1のとおり取消理由を解消しており,また,以下2のとおり取消理由としなかった異議申立理由によって取り消すことはできないと判断する。

1 取消理由A(サポート要件)について

(1)本件発明1について

ア 上記第3 1のとおり,本件発明1は,取消理由の対象となっていない訂正前の請求項7に記載されていた「前記ニッケル粒子を、還元雰囲気下で、25℃から、昇温速度15℃/分で昇温させた際の、600℃〜1000℃における重量減少率が、0.1%未満」であるという点を発明特定事項として備えるものである。

イ 上記第3 2(4)に摘示した発明の詳細な説明の【0101】の表4等から,比較例1のニッケル粒子を,還元雰囲気下で,25℃から昇温速度15℃/分で昇温させた際の,600℃〜1000℃における重量減少率は1.1%であると認められ,上記「1.1%」は,本件発明1の上記「0.1%未満」の数値範囲外であるから,本件発明1は上記課題を解決していない上記比較例1をその範囲内に包含していない。

ウ その他に,本件発明1が発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないと考える理由もなく,本件発明1は,発明の詳細な説明に記載したものである。

(2)本件発明8について

ア 上記第3 1のとおり,本件発明8は,取消理由の対象となっていない訂正前の請求項8に記載されていた「前記ニッケル粒子を、・・・還元雰囲気下で、25℃から、昇温速度15℃/分で昇温させた際の、25℃〜300℃の重量減少率が、25℃〜1000℃における重量減少率の85%以上」であるという点を発明特定事項として備えるものである。

イ 上記表4等から,比較例1のニッケル粒子を,還元雰囲気下で,25℃から,昇温速度15℃/分で昇温させた際の,25℃〜300℃の重量減少率が,25℃〜1000℃における重量減少率の64%であると認められ,上記「64%」は,本件発明8の上記「85%以上」の数値範囲外であるから,本件発明8は上記課題を解決していない上記比較例1をその範囲内に包含していない。

ウ その他に,本件発明8が発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないと考える理由もなく,本件発明8は,発明の詳細な説明に記載したものである。

(3)本件発明2〜6,9〜11について
本件発明2〜6,9〜11は,いずれも,本件発明1又は8を引用しているので,上記(1)のアの点又は上記(2)のアの点を発明特定事項として備えており,上記(1)又は(2)と同様に検討すると,発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。

(4)以上(1)〜(3)から,本件特許は,取消理由Aによっては,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず,特許法第113条第4号に該当するとはいえない。

2 取消理由としなかった異議申立理由について

(1)申立理由1(新規性),申立理由2,4(進歩性)について

ア 各甲号証の記載事項,及び甲号証に記載された発明

(ア)甲A(申立人1の甲第1号証)の記載事項
甲A(特開2006−161128号公報)には,「ニッケルスラリー及びその製造方法並びに該ニッケルスラリーを用いたニッケルペースト又はニッケルインキ」(発明の名称)に関して,次の記載がある。

a 「【背景技術】
【0002】
ニッケル粉は種々の用途に用いられており、例えば、ニッケル粉を含む導電性ペーストの原料として種々の電極や回路を形成する用途に用いられている。具体的には、積層セラミックコンデンサ(Multi−layer Ceramic Capacitor:MLCC)の内部電極として一般的にニッケルが用いられているが、該内部電極は、ニッケル粉を含む導電性ペーストをセラミック誘電体等に塗布し、焼成して得られるものである。」

b 「【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、微粒化され、粒度分布がシャープで、且つ、分散性の良好なニッケル粒子が含まれたニッケルスラリーを提供する。そして、このニッケルスラリーを用いて、ニッケルペースト又はニッケルインキを製造し、これらによって形成した回路等に抵抗上昇の要因となる有機物残留がなく、膜密度の大きい薄膜形成が可能で膜抵抗を低くできるものを提供する。更に、そのニッケルスラリーの製造方法、並びに該ニッケルスラリーを用いたニッケルペースト又はニッケルインキを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、ニッケル塩、ポリオール及び貴金属触媒を含む反応液中にアミノ酸を添加することによって、平均一次粒径が小さく、粒度分布がシャープなニッケル粒子が得られることを知見し、本発明に到達した。
【0014】
すなわち、本発明は、ニッケル粒子と有機溶媒とからなるニッケルスラリーであって、当該ニッケル粒子は、その平均一次粒径が100nm以下であることを特徴とするニッケルスラリーを提供するものである。・・・
【0017】
また、上記ニッケルスラリーにおいて、ニッケル粒子の表面に0.5nm〜3nmの有機化合物層を有することが好ましい。」

c 「【0027】
平均一次粒径が100nmを超えるレベルのニッケル粒子は、従来の製造方法を適用してもある程度の製造は可能である。これに対し、本発明に係るニッケルスラリー中のニッケル粒子の平均一次粒径は、製造上不可避的に発生する一定のバラツキを考えても、100nm以下の値となる。そして、より最適な製造条件を適用することで、10nm〜70nmの範囲の微粒ニッケル粒子を得ることができ、高品質のニッケルスラリーを提供する事が可能となる。・・・
【0032】
また、粒子分散性を見る指標として変動係数を採用する事も好ましい。ここで変動係数CV値は、平均一次粒径Dと粒度分布の標準偏差SDとの関係式SD/D×100で表されるものであり、このCV値の値が小さいほど、粉粒の粒径が揃っており、大きなバラツキをもっていないことを意味している。・・・
【0034】
そして、上記ニッケル粒子は、その表面に適正な厚さの有機化合物層を有することが望ましい。この有機化合物層は、製造工程においてポリオールがオリゴマー化し、ニッケル粒子表面に付着したものと推察されるが、この有機化合物層を除去することなく、適正な厚さ残存させておく方が、分散剤を添加したと同様の効果が得られ好ましいのである。そして、後述するアミノ酸として、特にL−アルギニン及び/又はL−シスチンを併用することにより、特に良好な有機化合物層が形成されるのである。・・・
【0036】
(本発明に係るニッケルスラリーの製造方法)
本発明に係るニッケルスラリーの製造方法は、「ニッケル塩、ポリオール及び貴金属触媒を含む反応液を反応温度まで加熱し、該反応温度を維持しながら該反応液中のニッケルイオンを還元し、次いで有機溶媒で置換するニッケルスラリーの製造方法において、上記反応液にアミノ酸を添加することを特徴とするニッケルスラリーの製造方法」である。
【0037】
本発明に係る製造方法で用いられるニッケル塩は、特に限定されるものではなく、例えば、水酸化ニッケル、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、臭化ニッケル、酢酸ニッケル等が挙げられる。これらの中で水酸化ニッケルは、ニッケルペースト又はニッケルインキとした時に悪影響を及ぼすイオウ、ハロゲン等の元素を含んでいないため特に好ましい。
【0038】
そして、これらニッケル塩は、当該反応液中でニッケル濃度として1g/l〜100g/lの濃度とすることが好ましい。1g/l未満の濃度では、工業的に必要な生産効率を得ることが出来ず、100g/l濃度を超えると、還元析出するニッケル粒子が凝集することによって粒径が大きくなる傾向にあり、本来目的とするところである平均一次粒径が50nm以下のニッケル粒子が得られなくなるのである。
【0039】
本発明に係る製造方法で用いられるポリオールは、炭化水素鎖及び複数の水酸基を有する物質をいう。該ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール(沸点197℃)、ジエチレングリコール(沸点245℃)、トリエチレングリコール(沸点278℃)、テトラエチレングリコール(沸点327℃)、1,2−プロパンジオール(沸点188℃)、ジプロピレングリコール(沸点232℃)、1,2−ブタンジオール(沸点193℃)、1,3−ブタンジオール(沸点208℃)、1,4−ブタンジオール(沸点235℃)、2,3−ブタンジオール(沸点177℃)1,5−ペンタンジオール(沸点239℃)及びポリエチレングリコールからなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。このうちエチレングリコールは、沸点が低く、常温で液状であり取り扱い性に優れるため好ましい。本発明においてポリオールは、ニッケル塩に対する還元剤として作用すると共に、溶媒としても機能するものである。・・・
【0041】
本発明に係る製造方法で用いられる貴金属触媒は、上記反応液中において、ポリオールによるニッケル塩の還元反応を促進するものであり、例えば、塩化パラジウム、硝酸パラジウム、酢酸パラジウム、塩化アンモニウムパラジウム等のパラジウム化合物、硝酸銀、乳酸銀、酸化銀、硫酸銀、シクロヘキサン酸銀、酢酸銀等の銀化合物、塩化白金酸、塩化白金酸カリウム、塩化白金酸ナトリウム等の白金化合物、及び塩化金酸、塩化金酸ナトリウム等の金化合物等が挙げられる。このうち、硝酸パラジウム、酢酸パラジウム、硝酸銀又は酢酸銀は、得られるニッケル粉の純度が高くなり易く、また、製造コストが低くて済むため好ましい。・・・
【0044】
本発明に係る製造方法では、上記反応液にアミノ酸を添加する。このように反応液にアミノ酸を添加することによって、ニッケル粒子の一次粒径を小さく、かつ分散性を良好にすることができる。上記アミノ酸は、沸点又は分解点が反応温度以上であり、かつニッケル及び貴金属触媒とポリオール中で錯体を形成するものが用いられ、具体的にはL−アルギニン及び/又はL−シスチンが好ましく用いられる。・・・
【0045】
また、上記反応液は、必要に応じて、一定量の分散剤を含むことにより、得られるニッケル粒子がより微粒になり、還元析出した粒子同士の凝集化を防止し、粒度分布をよりシャープにできる。従って、この分散剤は、反応過程においてのみ必要なものであり、製品であるニッケルスラリー中では不要なものであり、ニッケルスラリー中には含ませないようにすることが好ましい。本発明で用いられる分散剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド、ポリ(2―メチル―2−オキサゾリン)等の含窒素有機化合物、及びポリビニルアルコール等が挙げられる。このうち、ポリビニルピロリドンは、得られるニッケル粒子の粒度分布がシャープになりやすいため好ましい。・・・」

d 「【実施例1】
【0052】
反応容器に張り込まれたエチレングリコール445.28g中で水酸化ニッケル31.31g、ポリビニルピロリドン(PVP)2.15g、100g/lの硝酸パラジウム溶液0.69ml及びL−アルギニン1.0gを攪拌しながら190℃で10時間加熱し、平均一次粒径37.86nmのニッケル粒子を得た。この反応液をエチレングリコールでデカンテーションを行い、反応液中のPVPを洗浄除去し、これをターピネオールで2回のデカンテーションを行い、ニッケル粉含有量80重量%、残部ターピネオールのニッケルスラリーを製造した。
【0053】
上記ニッケルスラリー中の50個のニッケル粒子の一次粒径(平均、標準偏差、最大値、最小値)を透過型電子顕微鏡で観察した結果を表1に示す。そして、FE−SEMの観察像を図1(×100000)に示した。しかし、FE−SEMレベルの分解能では、十分な粒子観察が出来ないことが分かる。そこで、図2に透過型電子顕微鏡での観察像を示す。この図2では、得られたニッケル粒子の様子が明瞭に観察出来る。また、乾燥膜の膜密度を以下の方法で測定したところ、表1に示されるように4.8g/cm3であった。・・・
【0065】
【表1】



(イ)甲Aに記載された発明
上記(ア)dに摘示した実施例1の上記「CV値」は,上記(ア)cに摘示した段落【0032】の記載内容に照らすと,「平均一次粒径Dと粒度分布の標準偏差SDとの関係式SD/D×100で表されるもの」を意味すると認められる。
そして,上記(ア)の摘示を総合勘案し,特に,上記実施例1のニッケル粒子に着目すると,甲Aには次の発明が記載されていると認められる。

「反応容器に張り込まれたエチレングリコール445.28g中で水酸化ニッケル31.31g,ポリビニルピロリドン2.15g,100g/lの硝酸パラジウム溶液0.69ml及びL−アルギニン1.0gを攪拌しながら190℃で10時間加熱して得たニッケル粒子であって,
50個のニッケル粒子の一次粒径を透過型電子顕微鏡で観察した結果,粒度分布の平均が37.86nm,標準偏差が6.58nm,最小値が21.46nm,最大値が55.72nm,CV値(平均一次粒径Dと粒度分布の標準偏差SDとの関係式SD/D×100で表されるもの)が17.38であるニッケル粒子。」
(以下「甲A発明」という。)

(ウ)甲B(申立人1の甲第2号証,申立人2の甲第3号証)の記載事項
甲B(特開2014−173105号公報)には,「ニッケルナノ粒子の表面改質方法」(発明の名称)に関して,次の記載がある。

a 「【背景技術】
【0002】
MLCCは、セラミックス誘電体と内部電極とを交互に層状に重ねて圧着し、焼成して一体化させたものである。このようなMLCCの内部電極を形成する際には、内部電極材料である金属ニッケル粒子をペースト化したのち、これをセラミックス基板上に印刷する。・・・」

b 「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、例えば150nm以下の粒径を有するニッケルナノ粒子の焼結時の熱収縮性を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、酸素含有ガスのプラズマで処理することにより、ニッケルナノ粒子の表面に適度な厚みで酸化ニッケルの被膜を形成することが可能になり、ニッケルナノ粒子の焼結時の収縮を効果的に抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明のニッケルナノ粒子の表面改質方法は、以下の(1)〜(3)の条件;
(1)走査型電子顕微鏡観察による平均粒子径が20nm以上150nm以下の範囲内であり、
(2)窒素雰囲気で熱重量分析によって測定される室温から500℃における重量減少率が0.5〜5%の範囲内であり、
(3)水酸化物の被膜を有するが、X線回折で結晶性の水酸化ニッケルが観測されない;を満たすニッケルナノ粒子を、グロー放電により生成させた酸素含有ガスのプラズマで処理し、酸化ニッケルの被膜を形成する工程を含むことを特徴とする。」

c 「【発明を実施するための形態】
【0019】
本実施の形態のニッケルナノ粒子の表面改質方法は、以下の(1)〜(3)の条件;
(1)走査型電子顕微鏡観察による平均粒子径が20nm以上150nm以下の範囲内であり、
(2)窒素雰囲気で熱重量分析によって測定される室温から500℃における重量減少率が0.5〜5%の範囲内であり、
(3)水酸化物の被膜を有するが、X線回折で結晶性の水酸化ニッケルが観測されない;を満たすニッケルナノ粒子を、グロー放電により生成させた酸素含有ガスのプラズマで処理し、酸化ニッケルの被膜を形成する工程を含んでいる。・・・
【0036】
[ニッケルナノ粒子]
次に、本実施の形態の表面改質方法で改質の対象となるニッケルナノ粒子について説明する。上記のとおり、本実施の形態で表面改質対象のニッケルナノ粒子は、以下の(1)〜(3)の条件;
(1)走査型電子顕微鏡観察による平均粒子径が20nm以上150nm以下の範囲内であり、
(2)窒素雰囲気で熱重量分析によって測定される室温から500℃における重量減少率が0.5〜5%であり、
(3)水酸化物の被膜を有するが、X線回折で結晶性の水酸化ニッケルが観測されない;を満たすニッケルナノ粒子である。
【0037】
本実施の形態の表面改質方法で用いるニッケルナノ粒子は、走査型電子顕微鏡観察による平均粒子径が20〜150nmの範囲内、好ましくは40〜150nmの範囲内がよい。・・・
【0038】
なお、本実施の形態の表面改質方法で用いるニッケルナノ粒子は、粒子径の変動係数(CV)が0.2以下であることが好ましい。変動係数を0.2以下とすることで、MLCCの製造過程で、ペースト塗布後の乾燥塗膜の表面平滑性が得られやすい。
【0039】
本実施の形態の表面改質方法で用いるニッケルナノ粒子は、窒素雰囲気下での熱重量分析によって測定される室温から500℃における重量減少率が0.5〜5%であり、好ましくは1〜3%の範囲内である。このような温度領域での重量減少は、水酸化物の被膜からの脱水によって酸化物の被膜に変化することに起因するものであるが、ニッケルナノ粒子の表面に有機物や吸着水が存在している場合もこの温度領域で重量減少が確認される。これらを考慮し、本実施の形態では、ニッケルナノ粒子の重量減少率を0.5〜5%の範囲内と規定している。すなわち、理想的には、熱収縮を抑えるために、重量減少率がゼロであり、不純物がないほうがよいが、実際には、ニッケルナノ粒子の表面には、例えば吸着水、酸化物、水酸化物、有機物等が付着しており、特に有機系の湿式合成においてはこれらの付着が避けられないことから、重量減少率の下限を0.5%としている。また、重量減少率が、0.5%未満であると、ニッケルナノ粒子の表面活性を抑制する効果が小さくなるばかりでなく、分散性が低下する場合がある。一方、重量減少率が5%を超えて大きい場合、表面改質によって形成される酸化物被膜が厚くなり過ぎる可能性がある。また、ニッケルナノ粒子の表面を修飾している保護剤の変質(例えば高分子化など)が促進されやすくなる恐れがある。・・・
【0041】
水酸化物の被膜は、X線回折により結晶性の水酸化ニッケルが観測されないという特徴を有している。このことは、本実施の形態で用いるニッケルナノ粒子において、水酸化物の被膜が、結晶性が低いアモルファス状の水酸化ニッケルによって構成されているか、又は、水酸化物の被膜が、X線回折によって検出できないレベルのものであることを意味している。水酸化物の被膜がアモルファス状又はX線回折による検出限界以下とすることによって、酸化ニッケル被膜への改質がスムーズに行われる。すなわち、プラズマ処理では、金属ニッケルを被覆する水酸化物の被膜から水分が揮発し、除去されて酸化物の被膜に変化する。このような脱水反応は、水酸化物の被膜の結晶性が高い場合よりも、アモルファス状又はX線回折による検出限界以下である場合の方が速やかに進行しやすい。
【0042】
本実施の形態の表面改質方法で用いるニッケルナノ粒子は、ニッケル元素を含有する。ニッケル元素の含有量は、その使用目的に応じて適宜選択すればよいが、ニッケル元素の量を、ニッケルナノ粒子100質量部に対し、好ましくは90質量部以上、より好ましくは95質量部以上とすることがよい。ニッケル以外の金属としては、例えば、チタン、コバルト、銅、クロム、マンガン、鉄、アルミニウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、ジルコニウム、スズ、タングステン、モリブデン、バナジウム、バリウム、カルシウム、ストロンチウム。シリコン、アルミニウム、リン等の卑金属、金、銀、白金、パラジウム、イリジウム、オスミウム、ルテニウム、ロジウム、レニウム、ネオジウム、ニオブ、ホロニウム、ディスプロヂウム、イットリウム等の貴金属、希土類金属を挙げることができる。これらは、単独で又は2種以上含有していてもよく、また水素、炭素、窒素、硫黄、ボロン等の金属元素以外の元素を含有していてもよいし、これらの合金であってもよい。
【0043】
本実施の形態の表面改質方法で用いるニッケルナノ粒子は、酸素元素を含有している。このような酸素元素は、ニッケルナノ粒子の表面に部分的に存在する水酸化物の被膜に含有される酸素元素に由来するものと考えられる。このことは、ニッケルナノ粒子における水酸化物の被膜の厚みが、平均粒子径の大小によらず殆ど大差がないのに対し、ニッケルナノ粒子の平均粒子径が小さくなるにつれ、酸素元素の含有量が高くなる傾向があることから推察される。すなわち、ニッケルナノ粒子の平均粒子径が小さいほど、その総表面積(全てのニッケルナノ粒子の合計の表面積)が大きいので、ニッケルナノ粒子全体に占める酸素元素の含有量が相対的に大きくなると考えられる。
【0044】
ニッケルナノ粒子における酸素元素の含有量は、プラズマ処理による改質の前後でほぼ一定であり、0.2〜5.0質量%の範囲内であり、好ましくは0.5〜2.0質量%の範囲内がよい。具体的には、本実施の形態における表面改質方法では、水酸化ニッケル(Ni(OH)2)は脱水によって酸化ニッケル(NiO)に改質されるとともに、ニッケルナノ粒子表面のニッケル元素が酸化されて緻密な酸化ニッケルに改質されるため、ニッケルナノ粒子表面に存在する酸素元素の含有量は、改質の前後でほとんど変化しない。このように、本実施の形態の表面改質方法では、大気圧グロー放電によるプラズマを利用し、ニッケルナノ粒子における酸素元素の含有量が実質的に変化しない程度の強さで表面酸化を行うものである。改質後の酸素元素の含有量が、0.2質量%未満であると、ニッケルナノ粒子の表面活性を抑制する効果が小さくなる傾向があり、5.0質量%を超えると、逆に焼結時に体積変化が生じやすくなる傾向がある。この酸素元素の含有量は、ニッケルナノ粒子の元素分析により確認することができる。・・・
【0052】
有機溶媒は、ニッケル塩を溶解できるものであれば、特に限定されず、例えばエチレングリコール、アルコール類、有機アミン類、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン等が挙げられるが、金属塩に対して還元作用があるエチレングリコール、アルコール類、有機アミン類等の有機溶媒が好ましい。このなかでも特に、1級の有機アミン(以下、「1級アミン」と略称する。)は、ニッケル塩との混合物を溶解することにより、ニッケルイオンとの錯体を形成することができ、ニッケル錯体(又はニッケルイオン)に対する還元能を効果的に発揮しやすく、加熱による還元温度が高温のニッケル塩に対して有利に使用できる。1級アミンは、ニッケルイオンとの錯体を形成できるものであれば、特に限定するものではなく、常温で固体又は液体のものが使用できる。ここで、常温とは、20℃±15℃をいう。
【0053】
常温で液体の1級アミンは、ニッケル錯体を形成する際の有機溶媒としても機能する。なお、常温で固体の1級の有機アミンであっても、加熱によって液体であるか、又は有機溶媒を用いて溶解するものであれば、特に問題はない。
【0054】
1級アミンは、芳香族1級アミンであってもよいが、反応液におけるニッケル錯体形成の容易性の観点からは脂肪族1級アミンが好適である。脂肪族1級アミンは、例えばその炭素鎖の長さを調整することによって生成するニッケルナノ粒子の粒径を制御することができる。ニッケルナノ粒子の粒径を制御する観点から、脂肪族1級アミンは、その炭素数が6〜20程度のものから選択して用いることが好適である。炭素数が多いほど得られるニッケルナノ粒子の粒径が小さくなる。このようなアミンとして、例えばオクチルアミン、トリオクチルアミン、ジオクチルアミン、ヘキサデシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ミリスチルアミン、ラウリルアミン等を挙げることができる。・・・
【0065】
本実施の形態の表面改質方法では、上記プラズマ処理によって、水酸化物の被膜が酸化物の被膜に変化する。このように生成した酸化物の被膜により、焼結時にはニッケルナノ粒子の内部への急激な酸化を抑制することができるので、デラミネーションやクラック等の欠陥の発生を回避できる。このように表面が改質されたニッケルナノ粒子は、酸化物の被膜によって熱収縮が抑制されるため、例えば積層セラミックコンデンサの内部電極の材料として好適に用いることができる。」

d 「【実施例】・・・
【0067】
[平均粒子径の測定]
SEM(走査電子顕微鏡)により試料の写真を撮影して、その中から無作為に200個を抽出してそれぞれの面積を求め、真球に換算したときの粒子径を個数基準として一次粒子の平均粒子径を算出した。・・・
【0069】
合成例1
<溶解工程>
酢酸ニッケル四水和物60.0g(241.1mmmol)にオレイルアミン690g(2.58mol)を加え、窒素フロー下で140℃、20分間加熱することによって酢酸ニッケルをオレイルアミンに溶解させた。・・・
【0075】
また、プラズマ処理を10回繰り返した場合のニッケルナノ粒子のTGAの測定結果の変化を図4に示した。図4から、プラズマ処理を繰り返す毎に、重量減少が生じており、プラズマ処理によって水酸化ニッケルなどの不純物が除去されていることがわかる。」

e 「【図4】



(エ)甲Bに記載された発明
上記(ウ)の摘示を総合勘案し,特に,上記(ウ)cに摘示した本実施の形態の表面改質方法によって改質したニッケル粒子に着目すると,甲Bには次の発明が記載されていると認められる。

「(1)走査型電子顕微鏡観察による平均粒子径が20nm以上150nm以下の範囲内であり,
(2)窒素雰囲気で熱重量分析によって測定される室温から500℃における重量減少率が0.5〜5%の範囲内であり,
(3)水酸化物の被膜を有するが,X線回折で結晶性の水酸化ニッケルが観測されない;を満たすニッケルナノ粒子を,グロー放電により生成させた酸素含有ガスのプラズマで処理し,酸化ニッケルの被膜を形成する表面改質方法によって改質したニッケルナノ粒子であって,
上記表面改質方法で用いるニッケルナノ粒子は,粒子径の変動係数(CV)が0.2以下であり,
上記表面改質方法で用いるニッケルナノ粒子は,ニッケル元素を含有し,ニッケル元素の含有量は,ニッケルナノ粒子100質量部に対し,90質量部以上であり,ニッケル以外の金属として,チタン,コバルト,銅,クロム,マンガン,鉄,アルミニウム,ナトリウム,カリウム,マグネシウム,ジルコニウム,スズ,タングステン,モリブデン,バナジウム,バリウム,カルシウム,ストロンチウム,シリコン,アルミニウム,リン等の卑金属,金,銀,白金,パラジウム,イリジウム,オスミウム,ルテニウム,ロジウム,レニウム,ネオジウム,ニオブ,ホロニウム,ディスプロヂウム,イットリウム等の貴金属,希土類金属を単独で又は2種以上含有し,水素,炭素,窒素,硫黄,ボロン等の金属元素以外の元素を含有し,
上記表面改質方法で用いるニッケルナノ粒子は,酸素元素を含有し,
酸素元素の含有量は,プラズマ処理による上記改質の前後でほぼ一定であり,0.2〜5.0質量%の範囲内である,
上記改質したニッケルナノ粒子。」
(以下「甲B発明」という。)

(オ)甲C(申立人1の甲第3号証,申立人2の甲第1号証)の記載事項
甲C(特開2014−145117号公報)には,「ニッケル微粒子含有組成物及びその製造方法」(発明の名称)に関して,次の記載がある。

a 「【背景技術】
【0002】
MLCCは、セラミックス誘電体と内部電極とを交互に層状に重ねて圧着し、焼成して一体化させたものである。MLCCの内部電極を形成する際には、内部電極材料である金属ニッケル微粒子をペースト化したのち、これをセラミックス基板上に印刷する。・・・
【0004】
近年、MLCCにおいて小型化・高容量化が進んでいる。MLCCの小型化、高容量化に対して、誘電体層(BaTiO3)と内部電極層(Ni)の両方の薄膜化が検討されており、それぞれの材料であるBaTiO3微粒子及びニッケル微粒子の小粒子径化が進んでいる。しかし、誘電体層においては、BaTiO3微粒子の粒子径が小さくなることにより、誘電率も急激に低下して、150nm以下の小粒子径化がなかなか進んでいない。一方、内部電極層においても、ニッケル微粒子の粒子径が150nm以下になると、気相合成によるニッケル微粒子では、粒子の粒度分布が広く、現存の分級技術では粗大粒子の除去が困難である。そのため、わずかに存在する粗大粒子が原因となって製品のショートが発生し、製品歩留まりが低下するという問題が生じている。そのような状況において、微細で粒度分布がシャープであり、粗大粒子が存在しないニッケル微粒子を製造することが可能な、湿式でのマイクロ波照射による合成方法が注目されている。
【0005】
しかし、粒子径が150nm以下のニッケル微粒子は、MLCC製造時の焼結過程で誘電体層との熱収縮の差が従来の大粒子径のニッケル微粒子に比べてより拡大し、内部電極層と誘電体層とのデラミネーションや内部電極層の膜切れが多くなり、やはり製品としての歩留まりに問題がある。」

b 「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、例えばMLCCの内部電極層等の用途に有用で、焼結時の熱収縮が抑制されており、焼結開始温度の高い電極材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、粗大粒子が存在せず、粒度分布がシャープな粒子を用いることを前提に、平均粒子径が異なる少なくとも2種類の粒子を組み合わせることで高密度化が可能になり、内部電極層の収縮や膜切れを効果的に抑えることが可能であるとの知見を得て本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明のニッケル微粒子含有組成物は、次の成分A及びB;
A)走査型電子顕微鏡観察による平均粒子径が60〜150nmの範囲内であり、かつ、粒子径の変動係数が0.2以下である第1のニッケル微粒子、
B)走査型電子顕微鏡観察による平均粒子径が10〜60nmの範囲内であり、粒子径の変動係数が0.2以下であり、かつ、5%熱収縮率温度が、前記第1のニッケル微粒子の5%熱収縮率温度より50℃以上高い第2のニッケル微粒子、
を含有するとともに、前記A成分の含有量が65〜95質量%の範囲内、前記B成分の含有量が5〜35質量%の範囲内であり、
前記第1のニッケル微粒子と前記第2のニッケル微粒子との平均粒子径の比(第1のニッケル微粒子/第2のニッケル微粒子)が2以上10以下の範囲内である。」

c 「【発明を実施するための形態】
【0024】
[ニッケル微粒子含有組成物]
以下、適宜図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の一実施の形態に係るニッケル微粒子含有組成物の構成を示す模式図である。本実施の形態のニッケル微粒子含有組成物100は、平均粒子径が60〜150nmの範囲内であり、かつ、粒子径の変動係数が0.2以下である第1のニッケル微粒子10(A成分)と、平均粒子径が10〜60nmの範囲内であり、粒子径の変動係数が0.2以下であり、かつ、5%熱収縮率温度が、第1のニッケル微粒子10の5%熱収縮率温度より50℃以上高い第2のニッケル微粒子20(B成分)と、を備えている。
【0025】
本実施の形態のニッケル微粒子含有組成物100において、第1のニッケル微粒子10の一次粒子の平均粒子径は60〜150nmの範囲内であり、70〜120nmの範囲内が好ましい。また、本実施の形態のニッケル微粒子含有組成物100において、第2のニッケル微粒子20の一次粒子の平均粒子径は10〜60nmの範囲内であり、20〜50nmの範囲内が好ましい。なお、第1のニッケル微粒子10と第2のニッケル微粒子20の平均粒子径は、いずれもSEM(走査電子顕微鏡)により試料の写真を撮影して、その中から無作為に200個を抽出してそれぞれの面積を求めることによって算出した。・・・
【0032】
本実施の形態のニッケル微粒子含有組成物100において、第1のニッケル微粒子10及び第2のニッケル微粒子20は、いずれも、粒子径の変動係数(CV)が0.2以下である。CV値を0.2以下とすることで、第1のニッケル微粒子10と第2のニッケル微粒子20の粒度分布がシャープとなるため、平均粒子径が異なるこれらの粒子を組み合わせる効果が高まる。従って、ニッケル微粒子含有組成物100を用いて、例えばMLCCの内部電極を形成する場合に、高い充填密度が得られ、熱収縮を抑制する効果が増大する。
【0033】
本実施の形態のニッケル微粒子含有組成物100において、第1のニッケル微粒子10及び第2のニッケル微粒子20は、例えば球状、疑似球状等の形状の微粒子であり、主成分としてニッケル元素を含有する。第1のニッケル微粒子10及び第2のニッケル微粒子20は、それぞれ、ニッケル以外の元素を含有することができる。ニッケル以外の金属としては、例えば、チタン、コバルト、銅、クロム、マンガン、鉄、アルミニウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、ジルコニウム、スズ、タングステン、モリブデン、バナジウム、バリウム、カルシウム、ストロンチウム、シリコン、アルミニウム、リン等の卑金属、金、銀、白金、パラジウム、イリジウム、オスミウム、ルテニウム、ロジウム、レニウム、ネオジウム、ニオブ、ホロニウム、ディスプロヂウム、イットリウム等の貴金属、希土類金属を挙げることができる。これらは、単独で又は2種以上含有していてもよく、また水素、炭素、窒素、硫黄、ボロン等の金属元素以外の元素を含有していてもよいし、これらの合金であってもよい。
【0034】
本実施の形態のニッケル微粒子含有組成物100において、第1のニッケル微粒子10及び第2のニッケル微粒子20は、それぞれ、金属成分を90質量%以上含有することが好ましい。金属成分の含有量が90質量%未満であると、電気抵抗が大きくなり、例えばMLCCの内部電極材料用途として好ましくない。なお、各種元素の含有量は、元素分析により確認することができる(以下、同様である)。
【0035】
また、第1のニッケル微粒子10及び第2のニッケル微粒子20は、それぞれ、全金属成分に対し、ニッケル元素を95質量%以上含有することが好ましく、95〜97質量%の範囲内とすることがより好ましい。第1のニッケル微粒子10及び第2のニッケル微粒子20の全金属成分に対するニッケル元素の含有量が95質量%未満であると、電気抵抗が大きくなり、電極特性に悪影響を及ぼす傾向となる。・・・
【0054】
ニッケル塩は、任意の有機溶媒に溶解させた状態で使用することが好ましい。有機溶媒は、ニッケル塩を溶解できるものであれば、特に限定されず、例えばエチレングリコール、アルコール類、有機アミン類、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン等が挙げられるが、金属塩に対して還元作用があるエチレングリコール、アルコール類、有機アミン類等の有機溶媒が好ましい。
【0055】
有機アミンとしては、1級の有機アミン(以下、「1級アミン」と略称する。)が好ましい。この1級アミンは、ニッケル塩との混合物を溶解することにより、ニッケルイオンとの錯体を形成することができ、ニッケル錯体(又はニッケルイオン)に対する還元能を効果的に発揮しやすく、還元温度が高温であるニッケル塩に対しても有利に使用できる。1級アミンは、ニッケルイオンとの錯体を形成できるものであれば、特に限定するものではなく、常温で固体又は液体のものが使用できる。ここで、常温とは、20℃±15℃をいう。
【0056】
常温で液体の1級アミンは、ニッケル錯体を形成する際の有機溶媒としても機能する。なお、常温で固体の1級の有機アミンであっても、加熱によって液体であるか、又は有機溶媒を用いて溶解するものであれば、特に問題はない。
【0057】
1級アミンは、芳香族1級アミンであってもよいが、反応液におけるニッケル錯体形成の容易性の観点からは脂肪族1級アミンが好適である。脂肪族1級アミンは、例えばその炭素鎖の長さを調整することによって、生成するニッケル微粒子の粒径を制御することができる。ニッケル微粒子の粒径を制御する観点から、脂肪族1級アミンは、その炭素数が6〜20程度のものから選択して用いることが好適である。炭素数が多いほど得られるニッケル微粒子の粒径が小さくなる。このようなアミンとして、例えばオクチルアミン、トリオクチルアミン、ジオクチルアミン、ヘキサデシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ミリスチルアミン、ラウリルアミン等を挙げることができる。」

d 「【実施例】
【0081】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0082】
[平均粒子径の測定]
SEM(走査電子顕微鏡)により試料の写真を撮影して、その中から無作為に200個を抽出してそれぞれの面積を求め、真球に換算したときの粒子径を個数基準として一次粒子の平均粒子径を算出した。また、CV値(変動係数)は、(標準偏差)÷(平均粒子径)によって算出した。なお、CV値が小さいほど、粒子径がより均一であることを示す。
【0083】
[熱機械分析(TMA)、熱重量分析(TGA)、5%熱収縮温度]
試料を5Φ×2mmの円柱状成型器に入れ、プレス成型して得られる成型体を作製し、窒素ガス(水素ガス3%含有)の雰囲気下で、熱機械分析(TMA)および熱重量分析(TGA)を行った。また、熱機械分析装置(TMA)により測定される5%熱収縮の温度を5%熱収縮温度とした。また、この測定を行うための成型時の密度を測定した。
【0084】
(合成例1)
<錯化反応液の調製>
254.2gの酢酸ニッケル四水和物(1.02mol)に745.8gのオレイルアミン(2.79mol)を加え、窒素フロー下で140℃、240分間加熱することによって錯化反応液A(ニッケルイオンの濃度;6wt%)を得た。
【0085】
<スラリーの形成>
得られた錯化反応液Aに、マイクロ波を照射して245℃まで加熱し、その温度を10分間保持することによって、ニッケル微粒子Aのスラリーを得た。
【0086】
ニッケル微粒子Aの元素分析の結果は、C;0.5、O;1.1、S;<0.1(いずれも、単位は質量%)であった。得られたニッケル微粒子Aの結晶構造は、X線回折から、FCC(面心立方格子)構造のみであることが判った。また、ニッケル微粒子Aの平均粒子径、CV値、5%熱収縮温度、600℃収縮率、収縮率測定時の成型密度を表1に示した。
【0087】
(合成例2)
<錯化反応液の調製>
169.5gの酢酸ニッケル四水和物(0.68mol)に830.5gのオレイルアミン(3.11mol)を加え、窒素フロー下で140℃、240分間加熱することによって錯化反応液B(ニッケルイオンの濃度;4wt%)を得た。
【0088】
<スラリーの形成>
得られた錯化反応液Bに、マイクロ波を照射して245℃まで加熱し、その温度を10分間保持することによって、ニッケル微粒子Bのスラリーを得た。
【0089】
ニッケル微粒子Bの元素分析の結果は、C;0.7、O;1.4、S;<0.1(いずれも、単位は質量%)であった。得られたニッケル微粒子Bの結晶構造は、X線回折から、FCC構造のみであることが判った。また、ニッケル微粒子Bの平均粒子径、CV値、5%熱収縮温度、600℃収縮率、収縮率測定時の成型密度を表1に示した。
【0090】
(合成例3)
<錯化反応液の調製>
127.1gの酢酸ニッケル四水和物(0.51mol)に872.9gのオレイルアミン(3.27mol)を加え、窒素フロー下で140℃、240分間加熱することによって錯化反応液C(ニッケルイオンの濃度;3wt%)を得た。
【0091】
<スラリーの形成>
得られた錯化反応液Cに、マイクロ波を照射して245℃まで加熱し、その温度を10分間保持することによって、ニッケル微粒子Cのスラリーを得た。
【0092】
ニッケル微粒子Cの元素分析の結果は、C;0.9、O;1.6、S;<0.1(いずれも、単位は質量%)であった。得られたニッケル微粒子Cの結晶構造は、X線回折から、FCC構造のみであることが判った。また、ニッケル微粒子Cの平均粒子径、CV値、5%熱収縮温度、600℃収縮率、収縮率測定時の成型密度を表1に示した。
【0093】
(合成例4)
<錯化反応液の調製>
169.5gの酢酸ニッケル四水和物(0.68mol)に830.5gのオレイルアミン(3.11mol)を加え、窒素フロー下で140℃、240分間加熱したのち、0.58gの硝酸銀(0.0034mol)を加えることによって錯化反応液D(ニッケルイオンの濃度;4wt%)を得た。
【0094】
<スラリーの形成>
得られた錯化反応液Dに、マイクロ波を照射して245℃まで加熱し、その温度を10分間保持することによって、ニッケル微粒子Dのスラリーを得た。
【0095】
ニッケル微粒子Dの元素分析の結果は、C;1.9、O;3.2、S;<0.1(いずれも、単位は質量%)であった。得られたニッケル微粒子Dの結晶構造は、X線回折から、FCC構造のみであることが判った。また、ニッケル微粒子Dの平均粒子径、CV値、5%熱収縮温度、600℃収縮率、収縮率測定時の成型密度を表1に示した。
【0096】
(合成例5)
<錯化反応液の調製>
60.0gの酢酸ニッケル四水和物(0.24mol)に690.0gのオレイルアミン(2.58mol)を加え、窒素フロー下で150℃、180分間加熱したのち、1.5gのトリオクチルホスフィン(4.0mmol)を溶解したオレイルアミン溶液の10.0gを加えることによって錯化反応液E(ニッケルイオンの濃度;1.9wt%)を得た。
【0097】
<スラリーの形成>
得られた錯化反応液Eに、マイクロ波を照射して245℃まで加熱し、その温度を10分間保持することによって、ニッケル微粒子E’のスラリーを得た。
【0098】
得られたニッケル微粒子E’のスラリーに、0.7gのドデカンチオールを溶解したオレイルアミン溶液の10.0gを添加して、再度、マイクロ波を照射して245℃で10分間加熱して、ニッケル微粒子Eのスラリーを得た。
【0099】
ニッケル微粒子Eの元素分析の結果は、C;1.0、O;2.3、S;0.55、P;0.45(いずれも、単位は質量%)であった。得られたニッケル微粒子Eの結晶構造は、X線回折から、FCC構造のみであることが判った。また、ニッケル微粒子Eの平均粒子径、CV値、5%熱収縮温度、600℃収縮率、収縮率測定時の成型密度を表1に示した。
【0100】
(合成例6)
<錯化反応液の調製>
169.5gの酢酸ニッケル四水和物(0.68mol)に830.5gのオレイルアミン(3.11mol)を加え、窒素フロー下で140℃、240分間加熱したのち、1.0gのトリオクチルホスフィン(4.0mmol)を溶解したオレイルアミン溶液の10.0gを添加し、更に0.58gの硝酸銀(0.0034mol)を加えることによって錯化反応液F(ニッケルイオンの濃度;4wt%)を得た。
【0101】
<スラリーの形成>
得られた錯化反応液Fに、マイクロ波を照射して245℃まで加熱し、その温度を10分間保持することによって、ニッケル微粒子F’のスラリーを得た。
【0102】
得られたニッケル微粒子F’のスラリーに、2.2gのドデカンチオールを溶解したオレイルアミン溶液の10.0gを添加して、再度、マイクロ波を照射して245℃で10分間加熱して、ニッケル微粒子Fのスラリーを得た。
【0103】
ニッケル微粒子Fの元素分析の結果は、C;2.5、O;3.9、S;0.70、P;0.29(いずれも、単位は質量%)であった。得られたニッケル微粒子Fの結晶構造は、X線回折から、FCC構造のみであることが判った。また、ニッケル微粒子Fの平均粒子径、CV値、5%熱収縮温度、600℃収縮率、収縮率測定時の成型密度を表1に示した。
【0104】
(合成例7)
<錯化反応液の調製>
60.0gの酢酸ニッケル四水和物(0.24mol)に1356.1gのオレイルアミン(5.08mol)を加え、窒素フロー下で140℃、240分間加熱して錯化反応液G(ニッケルイオンの濃度;1wt%)を得た。
【0105】
<スラリーの形成>
得られた錯化反応液Gに、マイクロ波を照射して260℃まで加熱し、その温度を10分間保持することによって、ニッケル微粒子G’のスラリーを得た。
【0106】
得られたニッケル微粒子G’のスラリーに、0.7gのドデカンチオールを溶解したオレイルアミン溶液の10.0gを添加して、再度、マイクロ波を照射して245℃で10分間加熱して、ニッケル微粒子Gのスラリーを得た。
【0107】
ニッケル微粒子Gの元素分析の結果は、C;3.0、O;3.9、S;0.50(いずれも、単位は質量%)であった。また、X線回折から、ニッケル微粒子Gには、結晶形態がFCC構造のニッケル以外に炭素を含有したHCP構造の炭化ニッケルが混在していることが判った。また、ニッケル微粒子Gの平均粒子径、CV値、5%熱収縮温度、600℃収縮率、収縮率測定時の成型密度を表1に示した。
【0108】
(合成例8)
<錯化反応液の調製>
169.5gの酢酸ニッケル四水和物(0.68mol)に830.5gのオレイルアミン(3.11mol)を加え、窒素フロー下で140℃、240分間加熱したのち、0.58gの硝酸銀(0.0034mol)を加えることによって錯化反応液H(ニッケルイオンの濃度;4wt%)を得た。
【0109】
<スラリーの形成>
得られた錯化反応液Hに、マイクロ波を照射して245℃まで加熱し、その温度を10分間保持することによって、ニッケル微粒子H’のスラリーを得た。
【0110】
得られたニッケル微粒子H’のスラリーに、2.2gのドデカンチオールを溶解したオレイルアミン溶液の10.0gを添加して、再度、マイクロ波を照射して245℃で10分間加熱して、ニッケル微粒子H”のスラリーを得た。
【0111】
得られたニッケル微粒子H”のスラリーを徐冷して、スラリー温度が150℃になった時点で、0.5gのリン酸ジエステル(クローダジャパン社製、商品名;N10A、重量平均分子量;約600)を溶解したオレイルアミン溶液の10.0gを10分間かけて添加後、1時間撹拌し、室温まで徐冷してニッケル微粒子Hのスラリーを得た。
【0112】
ニッケル微粒子Hの元素分析の結果は、C;2.5、O;3.1、S;0.65、P;0.07(いずれも、単位は質量%)であった。得られたニッケル微粒子Hの結晶構造は、X線回折から、FCC構造のみであることが判った。また、ニッケル微粒子Hの平均粒子径、CV値、5%熱収縮温度、600℃収縮率、収縮率測定時の成型密度を表1に示した。・・・
【0129】
【表1】



(カ)甲Cに記載された発明

a 甲C発明(実施の形態)
上記(オ)cに摘示した段落【0025】に,本実施の形態のニッケル微粒子含有組成物における第1のニッケル微粒子及び第2のニッケル微粒子について,一次粒子の平均粒子径が,それぞれ60〜150nmの範囲内及び20〜50nmの範囲内である旨が記載されていることから,甲Cの実施の形態に関する段落【0024】〜【0080】に記載された「平均粒子径」,「粒子径」は,それぞれ「一次粒子の平均粒子径」,「一次粒子径」を意味することは自明である。
また,上記(オ)cに摘示した本実施の形態のニッケル微粒子含有組成物の上記「変動係数」は,上記(オ)dに摘示した段落【0082】の記載内容に照らすと,「(標準偏差)÷(平均粒子径)によって算出した」ものであると認められる。
そして,上記(オ)の摘示を総合勘案し,特に,上記(オ)cに摘示した本実施の形態のニッケル微粒子含有組成物に着目すると,甲Cには次の発明が記載されていると認められる。

「一次粒子の平均粒子径が60〜150nmの範囲内であり,かつ,一次粒子径の変動係数が0.2以下である第1のニッケル微粒子(A成分)と,一次粒子の平均粒子径が20〜50nmの範囲内であり,一次粒子径の変動係数が0.2以下であり,かつ,5%熱収縮率温度が,第1のニッケル微粒子の5%熱収縮率温度より50℃以上高い第2のニッケル微粒子(B成分)と,を備えているニッケル微粒子含有組成物であって,
上記第1のニッケル微粒子と上記第2のニッケル微粒子の上記平均粒子径は,いずれも走査電子顕微鏡により試料の写真を撮影して,その中から無作為に200個を抽出してそれぞれの面積を求めることによって算出したものであり,
上記変動係数は(標準偏差)÷(平均粒子径)によって算出したものであり,
上記第1のニッケル微粒子及び上記第2のニッケル微粒子は,それぞれ,ニッケル以外の元素を含有し,ニッケル以外の金属としては,チタン,コバルト,銅,クロム,マンガン,鉄,アルミニウム,ナトリウム,カリウム,マグネシウム,ジルコニウム,スズ,タングステン,モリブデン,バナジウム,バリウム,カルシウム,ストロンチウム,シリコン,アルミニウム,リン等の卑金属,金,銀,白金,パラジウム,イリジウム,オスミウム,ルテニウム,ロジウム,レニウム,ネオジウム,ニオブ,ホロニウム,ディスプロヂウム,イットリウム等の貴金属,希土類金属を,単独で又は2種以上含有し,水素,炭素,窒素,硫黄,ボロン等の金属元素以外の元素を含有し,
上記第1のニッケル微粒子及び上記第2のニッケル微粒子は,それぞれ,金属成分を90質量%以上含有し,
上記第1のニッケル微粒子及び上記第2のニッケル微粒子は,それぞれ,全金属成分に対し,ニッケル元素を95質量%以上含有する,
ニッケル微粒子含有組成物。」
(以下「甲C発明(実施の形態)」という。)

b 甲C発明(合成例1)
上記(オ)の摘示を総合勘案し,特に,上記(オ)dに摘示した合成例1のニッケル微粒子Aに着目すると,甲Cには次の発明が記載されていると認められる。

「C;0.5,O;1.1,S;<0.1(いずれも,単位は質量%)であるニッケル微粒子であって,
走査電子顕微鏡により試料の写真を撮影して,その中から無作為に200個を抽出してそれぞれの面積を求め,真球に換算したときの粒子径を個数基準として算出した一次粒子の平均粒子径が140nmであり,
(標準偏差)÷(平均粒子径)によって算出したCV値(変動係数)が0.17であり,5%収縮温度が311℃であり,600℃収縮率が14.4%であるニッケル微粒子。」
(以下「甲C発明(合成例1)」という。)

(キ)甲D(申立人2の甲第2号証)の記載事項
甲D(国際公開第2015/156080号)には,「ニッケル粉末」(発明の名称)に関して,次の記載がある。

a 「[0001] 本発明は、電子部品などに使用される導電ペースト用途に適したニッケル粉末に係り、特に積層セラミックコンデンサの内部電極用途の導電ペーストに用いて好適なニッケル粉末に関する。」

b 「[0019] また、本発明のニッケル粉末は、ニッケル粉末中に含まれる個数50%径の3倍以上の粒径を有する粒子(以下、「粗大粒子」と記載することもある)の存在率は個数基準で100ppm以下が好ましく、50ppm以下であればより好ましい。粒度分布をこの範囲とすることで、積層セラミックコンデンサの製造時に電極層を平滑にすることができる。なお、粗大粒子の存在率の評価は、前記と同様に走査電子顕微鏡によりニッケル粉末の写真を撮影し、その写真から画像解析ソフトを使用して、粒子約100,000個のうち、粒径が前記で求めた個数50%径の3倍を超える粒子の数を数えて算出する。」

(ク)甲E(申立人2の甲第4号証)の記載事項
甲E(特開2009−197317号公報)には,「還元析出型球状NiP微小粒子およびその製造方法」(発明の名称)に関して,次の記載がある。

a 「【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、異方性導電フィルム用の導電粒子として使用される金属微小粒子の他には、基板等の配線形成に使用される材料としても好ましい金属微小粒子と、その製造方法に関するものである。」

b 「【0041】
(実施例1)
硫酸ニッケル六水和物と硫酸銅五水和物とを、NiとCuのモル比がNi/Cu=239となるよう調製して、純水に溶解し、金属塩水溶液を15(dm3)作製した。次に、酢酸ナトリウムを純水に溶解して、1.0(kmol/m3)の濃度とし、更に水酸化ナトリウムを加えてpH調製水溶液を15(dm3)作製した。そして、上記の金属塩水溶液とpH調製水溶液を撹拌混合し、30(dm3)の混合水溶液とし、pHを測定すると8.1の値を示した。そして、上記の混合水溶液をN2ガスでバブリングしながら外部ヒーターにより343(K)に加熱保持し、撹拌を続けた。
【0042】
次に、純水に1.8(kmol/m3)の濃度でホスフィン酸ナトリウムを溶解した還元剤水溶液を15(dm3)作製し、こちらも外部ヒーターによって343(K)に加熱した。そして、上記、30(dm3)の混合水溶液と15(dm3)の還元剤水溶液を、温度が343±1(K)となるように調製した後に混合し、無電解還元法によって微小粒子を得た。
【0043】
上記のようにして得られた微小粒子を乾燥させた後、レーザー回折散乱法による粒度分布計で粒子サイズを測定した。平均粒径d50の値は3.7μmで、d90とd10はそれぞれ、5.3μmと2.8μmあり、[(d90−d10)/d50]の式で与えられる粒度分布は0.68であった。粒子の形状をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察した結果は図1の通りであり、単分散の球形状であることが確認された。そして、微小粒子の成分組成を分析した結果は、下記の表1に示す通り、Cuが0.40質量%含まれたNiP微小粒子であった。
【0044】
(実施例2)
硫酸ニッケル六水和物と硫酸銅五水和物との割合を、NiとCuのモル比がNi/Cu=5となるように調製し、金属塩水溶液、pH調製水溶液と還元剤水溶液の液量を、それぞれ0.25(dm3)とした以外は、実施例1と同様にして、無電解還元法により微小粒子を作製した。なお、混合水溶液のpHは9.0であった。
【0045】
そして、レーザー回折散乱法により、粒径の分布を確認したところ、平均粒径d50値が8.9μm、[(d90−d10)/d50]値が0.58であり、図2のSEM写真に示す球状NiP微小粒子を得た。また、粒子の断面観察試料を作製し、FE−SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)により各元素の分布を観察したところ、図3〜6の通り、粒子中心から外側に向かって約2/3より内側に、Cuが濃密に分布していることが確認された。なお、成分組成の分析結果は、表1に示す通りの、Cuが14.36質量%であることが確認された。
【0046】
(実施例3)
硫酸ニッケル六水和物と硫酸銅五水和物の割合を、モル比にてNi/Cu=39となるように調製し、そして、pH緩衝剤を酢酸ナトリウムとマレイン酸二ナトリウムとし、それぞれの濃度を0.65(kmol/m3)、0.175(kmol/m3)に変更してpH調製水溶液を調製した以外は、実施例1と同様にして、無電解還元法により微小粒子を製造した。なお、混合水溶液のpHは8.2であった。
【0047】
得られた微小粒子の粒径を、レーザー回折散乱法の粒度分布計により測定した結果、平均粒径d50値は67.1μmで、[(d90−d10)/d50]値は0.51であった。また、上記の微小粒子をSEMにより観察した結果は図7の通りであり、単分散の球形状であることが確認された。なお、成分組成の分析結果は、表1に示す通りの、Cuが2.750質量%であることが確認された。
【0048】
(実施例4)
特許文献1に従い、Cuを添加しないニッケル塩水溶液と、水酸化ナトリウム0.9(kmol/m3)および酢酸ナトリウム1.0(kmol/m3)の混合水溶液を、それぞれ0.25(dm3)作製し、外部から加熱しながら撹拌を行ない、2液を混合して混合水溶液とし、N2ガスを流してバブリングを行なって、混合水溶液の温度が343±1(K)となるように調製した。
【0049】
一方で、純水に1.8(kmol/m3)の濃度でホスフィン酸ナトリウムを溶解した還元剤水溶液を0.25(dm3)作製し、こちらも外部ヒーターによって343(K)に加熱し、実施例1と同様な方法により、球状NiP微小粒子を得た。レーザー回折散乱法により、粒度分布を確認したところ平均粒径d50値が2.9μm、[(d90−d10)/d50]値は0.76であった。そして、表1の成分組成の分析結果から、Cuは不純物のレベル(0.001質量%未満)でしか確認されなかった。
【0050】
(実施例5)
硫酸ニッケル六水和物、硫酸銅五水和物とすず酸ナトリウム三水和物とを用い、Ni/Cuがモル比にて24、Ni/Snがモル比にて4.8となるように調製した以外は、実施例1と同様にして、無電解還元法により微小粒子を作製した。なお、混合水溶液のpHは9.6であった。
【0051】
そして、レーザー回折散乱法により、粒径の分布を確認したところ、平均粒径d50値が1.2μm、[(d90−d10)/d50]値が0.67であり、図8のSEM写真に示す球状NiP微小粒子を得た。また、粒子の断面観察試料を作製し、FE−SEMにより各元素の分布を観察したところ、図9〜13の通り、CuとSnが分布していることが確認された。なお、成分組成の分析結果は、表1に示す通りの、Cuが3.96質量%で、Snが0.67質量%であることが確認された。
【0052】
【表1】



(ケ)甲F(申立人2の甲第5号証)の記載事項
甲F(特開2015−49973号公報)には,「導電性ペースト及びそれに用いる複合ニッケル微粒子の製造方法」(発明の名称)に関して,次の記載がある。

a 「【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば積層セラミックスコンデンサ(MLCC)の内部電極材料、配線材料、多孔質材料、電磁波シールド材料、接合材料などの用途に利用できる導電性ペースト及びそれに用いる複合ニッケル微粒子の製造方法に関する。」

b 「【0028】
(第1の微粒子)
(A)成分の複合ニッケル微粒子100において、第1の微粒子10は、例えば球状、疑似球状等の形状の微粒子であり、主成分としてニッケル元素を含有する。すなわち、第1の微粒子10は、全金属成分に対し、ニッケル元素を90質量%以上含有することが好ましく、95〜99質量%の範囲内とすることがより好ましい。第1の微粒子10の全金属成分に対するニッケル元素の含有量が90質量%未満であると、電気抵抗が大きくなり、電極特性に悪影響を及ぼす場合がある。なお、各種元素の含有量は、元素分析により確認することができる(以下、同様である)。
【0029】
第1の微粒子10は、ニッケル以外の金属元素を含有することができる。ニッケル以外の金属としては、例えば、チタン、コバルト、銅、クロム、マンガン、鉄、アルミニウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、ジルコニウム、スズ、タングステン、モリブデン、バナジウム、バリウム、カルシウム、ストロンチウム、シリコン、アルミニウム、リン等の卑金属、金、銀、白金、パラジウム、イリジウム、オスミウム、ルテニウム、ロジウム、レニウム、ネオジウム、ニオブ、ホロニウム、ディスプロヂウム、イットリウム等の貴金属、希土類金属を挙げることができる。これらは、単独で又は2種以上含有していてもよく、これらの合金であってもよい。また、第1の微粒子10は、例えば水素、炭素、窒素、硫黄、ボロン等の金属元素以外の元素を含有していてもよい。
【0030】
第1の微粒子10は、金属成分を90質量%以上含有することが好ましい。金属成分の含有量が90質量%未満であると、電気抵抗が大きくなり、例えばMLCCの内部電極材料用途として好ましくない。
【0031】
(A)成分の複合ニッケル微粒子100において、第1の微粒子10の一次粒子の走査型電子顕微鏡による平均粒子径は、20nm以上120nm以下の範囲内であり、30nm以上100nm以下の範囲内がより好ましい。第1の微粒子10の一次粒子の平均粒子径が120nmを上回ると、本実施の形態の導電性ペーストを使用して例えばMLCCの内部電極層を形成した場合に、電極層の薄膜化が困難になる。一方、第1の微粒子10の一次粒子の平均粒子径が20nmを下回ると、凝集が激しくなるばかりかニッケル微粒子自身の焼結温度が低下し、ボイドが多く発生しやすくなる。その結果、本実施の形態の導電性ペーストを使用して例えばMLCCの内部電極層を形成した場合に静電容量が得にくくなり、それを避けるためには、複合化させる貴金属粒子の存在割合を多くする必要があり、経済的ではない。
【0032】
(A)成分の複合ニッケル微粒子100において、第1の微粒子10の粒子径の変動係数(標準偏差/平均粒子径)は0.24以下である。第1の微粒子10の粒子径の変動係数が0.24を超えると、粗大粒子の存在からショートによる製品不良や製品歩留まりの低下を招く可能性があり好ましくない。
【0033】
なお、(A)成分の複合ニッケル微粒子100において、第1の微粒子10及び第2の微粒子20の平均粒子径及び変動係数は、いずれもSEM(走査電子顕微鏡)により試料の写真を撮影して、その中から無作為に200個を抽出し、それぞれの面積を求めることによって算出することができる。
【0034】
(第2の微粒子)
(A)成分の複合ニッケル微粒子100において、第2の微粒子20は、貴金属元素を主成分として含有する。すなわち、第2の微粒子20は、全金属成分に対し、貴金属元素を90質量%以上含有することが好ましく、95質量%以上含有することがより好ましい。第2の微粒子20の全金属成分に対する貴金属元素の含有量が90質量%未満であると、耐焼結性を改善する効果が少なくなる傾向となる。貴金属元素としては、例えば、銀(Ag)、金(Au)、白金(Pt)及びパラジウム(Pd)から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。これらの貴金属元素は2種以上を組み合わせて含有してもよい。
【0035】
第2の微粒子20は、貴金属以外の元素を含有することができる。貴金属以外の金属としては、例えば、チタン、コバルト、銅、クロム、マンガン、鉄、アルミニウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、ジルコニウム、スズ、タングステン、モリブデン、バナジウム、バリウム、カルシウム、ストロンチウム、シリコン、アルミニウム、リン等の卑金属、レニウム、ネオジウム、ニオブ、ホロニウム、ディスプロヂウム、イットリウム等の希土類金属を挙げることができる。これらは、単独で又は2種以上含有していてもよく、これらの合金であってもよい。また、第2の微粒子20は、例えば水素、炭素、窒素、硫黄、ボロン等の金属元素以外の元素を含有していてもよい。
【0036】
(A)成分の複合ニッケル微粒子100において、第2の微粒子20の一次粒子の走査型電子顕微鏡による平均粒子径は、0.5nm以上10nm以下の範囲内が好ましく、0.8nm以上5.0nm以下の範囲内がより好ましい。第2の微粒子20の一次粒子の平均粒子径が10nmを上回ると、第1の微粒子10に付着、又は第1の微粒子10の粒子間に存在する第2の微粒子20の数が減少し、第1の微粒子10どうしの接触が多くなる。その結果、焼結を抑制する効果が低下するとともに、それを避けるために複合化させる第2の微粒子20の存在割合を多くする必要があり、経済的ではない。第2の微粒子20の一次粒子の平均粒子径が0.5nmを下回ると、第2の微粒子20どうしの凝集が激しくなるばかりか、貴金属元素を主成分とする第2の微粒子20自身の焼結温度が低下し、第1の微粒子10の焼結温度を向上させる効果が低くなる。
【0037】
(A)成分の複合ニッケル微粒子100において、第2の微粒子20の粒子径の変動係数(標準偏差/平均粒子径)は0.3以下であることが好ましい。第2の微粒子20の粒子径の変動係数が0.3を超えると、粗大粒子の存在で第1の微粒子10表面への付着または第1の微粒子10間の均一な混在が不可能となり、安定した耐焼結性が得にくくなる。
【0038】
(A)成分の複合ニッケル微粒子100において、第1の微粒子10に含有されるニッケル元素に対して、第2の微粒子20の割合は、0.1質量%以上5質量%未満、好ましくは0.1質量%以上4質量%以下がよい。第1の微粒子10に含有されるニッケル元素に対して、第2の微粒子20の割合が、0.1質量%未満では焼結を抑制する効果が少なくなり、5質量%以上であると、それ以上の効果の向上が期待できなくなるとともに、経済的にも好ましくない。」

(コ)甲G(申立人2の甲第6号証)の記載事項
甲G(特開2002−53904号公報)には,「金属粉末の製造方法,金属粉末,これを用いた導電性ペーストならびにこれを用いた積層セラミック電子部品」(発明の名称)に関して,次の記載がある。

a 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、金属粉末の製造方法,金属粉末,これを用いた導電性ペーストならびにこれを用いて内部電極を形成した積層セラミック電子部品に関するものである。」

b 「【0043】
【実施例】(実施例1)まず、水酸化ナトリウム12gと80%抱水ヒドラジン30gをエタノール50mlに溶解して還元剤溶液を作製した。次いで、硫酸ニッケル30.0g(Ni含有量7.4g)と、硫酸銅を表1に示した添加量、すなわち試料1から順に10.0〜1.0×10-9g(Cu含有量3.7〜3.7×10-10g)とを、エタノール100mlに溶解させた、試料1〜11の金属塩溶液を作製した。・・・
【0049】そこで、得られた試料1〜13の金属粉末について、Ni,Cu換算含有量、Ni換算100重量%に対するCuの含有割合ならびに平均粒径を測定し、平均粒径について評価を付して、これらを表2にまとめた。・・・
【0052】
【表2】



イ 本件発明1の新規性について

(ア)甲A発明との対比
本件発明1と甲A発明とを対比する。

a 成分組成について

(a)甲A発明は,上記ア(イ)のとおりの「ニッケル粒子」であるから,上記ニッケル粒子を構成する成分として,当然にニッケル元素(すなわち,金属元素成分の一種にも該当)を所定量含有していると認められ,その意味で,甲A発明のニッケル粒子は,金属元素成分を所定量含有し,金属元素成分中,ニッケル元素を所定量含有しているともいえる。

(b)そうすると,成分組成に関し,本件発明1と甲A発明とは,金属元素成分を所定量含有し,金属元素成分中,ニッケル元素を所定量含有する限りにおいて共通する。

b 電子顕微鏡観察により測定された各事項について

(a)本件発明1の「走査型電子顕微鏡」と甲A発明の「透過型電子顕微鏡」とは,「電子顕微鏡」である限りにおいて共通する。

(b)甲A発明の「粒度分布の平均」,「標準偏差」,「最大値」,「最小値」,「CV値」が,いずれも50個のニッケル粒子の一次粒径を透過型電子顕微鏡で観察した際に「測定された」数値であるか又は上記“測定された数値から算出された”ものであることは自明である(なお,上記「測定された」と,上記“測定された数値から算出された”とを纏めて,以下,単に「測定された」という。)。

(c)よって,甲A発明の上記「粒度分布の平均」は,上記(b)のとおり上記ニッケル粒子の一次粒径を透過型電子顕微鏡で観察した際に測定された結果であるから,本件発明1の「走査型顕微鏡観察により測定された、前記ニッケル粒子の一次粒子の平均粒子径D50」と,「顕微鏡観察により測定された、前記ニッケル粒子の一次粒子の平均粒子径」である点で共通する。

(d)甲A発明の以下(e)〜(h)の各種数値は,「透過型」電子顕微鏡により測定されたものであるから,本件発明1の「走査型」電子顕微鏡により測定された各種数値とは測定の条件が異なり,更に,甲A発明の粒度分布の平均が「D50」であるかであるかどうかが不明である点でも,本件発明1と各種数値を導出した前提が異なるが,以下(e)〜(h)において,数値自体を整理して比較する目的のために,上記の測定の条件及び前提の差異を便宜上考慮しないものとする(無論,以後,上記測定の条件等の差異を一致点とするという意味ではない。)。

(e)甲A発明の粒度分布の平均「37.86nm」は,本件発明1の平均粒子径D50「20nm〜150nm」の数値範囲内である。

(f)本件発明1の「一次粒子径の変動係数」は,上記第3 2(2)に摘示した発明の詳細な説明の【0026】の記載から,一次粒子径について,標準偏差/平均粒子径(すなわち,平均粒子径D50)を計算したものであると認められる。
一方で,甲A発明の上記一次粒径の「CV値」は,上記ア(イ)のとおり(上記標準偏差/平均一次粒径)×100を計算したものであるから,甲A発明の上記CV値「17.38」を本件発明1の上記変動係数に換算すると0.1738(=17.38/100)である。
したがって,甲A発明の上記CV値「17.38」(本件発明1の定義への換算値0.1738)は,本件発明1の上記変動係数「0.2以下」の数値範囲内である。

(g)甲A発明は,上記ア(イ)のとおり50個のニッケル粒子の一次粒径を透過型電子顕微鏡で観察した結果,最大値が55.72nmであるから,55.72nm超の大きさのニッケル粒子は存在しないと認められる。
そうすると,甲A発明の粒度分布の平均「37.86nm」の2.0倍(=75.72nm)以上の粒子は,全粒子個数の0%であるといえ,本件発明1の「0.1%以下」の数値範囲内である。

(h)以上(a)〜(g)を総合すると,電子顕微鏡観察により測定された各事項に関して,
本件発明1の「走査型電子顕微鏡観察により測定された、前記ニッケル粒子の一次粒子の平均粒子径D50が20nm〜150nmであり、一次粒子径の変動係数が、0.2以下であり、前記平均粒子径D50の2.0倍以上の粒子が、全粒子個数の0.1%以下」であることと,
甲A発明の「50個のニッケル粒子の一次粒径を透過型電子顕微鏡で観察した結果,粒度分布の平均が37.86nm,標準偏差が6.58nm,最小値が21.46nm,最大値が55.72nm,CV値(平均一次粒径Dと粒度分布の標準偏差SDとの関係式SD/D×100で表されるもの)が17.38である」こととは,
顕微鏡観察により測定された,前記ニッケル粒子の一次粒子の平均粒子径が20nm〜150nmであり,一次粒子径の変動係数が,0.2以下であり,前記平均粒子径の2.0倍以上の粒子が,全粒子個数の0.1%以下である限りにおいて共通する(ただし,甲A発明の変動係数等について,その算出に用いた平均粒子径が,「D50」であるかどうか不明である点を除く。)。

c 一致点
そうすると,本件発明1と甲A発明とは,次の点で一致する。

<一致点A−1>
金属元素成分を所定量含有し,金属元素成分中,ニッケル元素を所定量含有するニッケル粒子であって,
顕微鏡観察により測定された,前記ニッケル粒子の一次粒子の平均粒子径が20nm〜150nmであり,一次粒子径の変動係数が,0.2以下であり,前記平均粒子径の2.0倍以上の粒子が,全粒子個数の0.1%以下であるニッケル粒子である点(ただし,甲A発明の変動係数等について,その算出に用いた平均粒子径が,「D50」であるかどうか不明である点を除く。)。

d 相違点
一方で,本件発明1と甲A発明とは,次の点で相違する。

<相違点A−1>
本件発明1では,「金属元素成分の含有量が85〜99質量%であり、前記金属元素以外の成分の含有量が1〜12質量%であるとともに、金属元素成分中、ニッケル元素を80質量%以上含有し、さらに銅、銀、金、白金又はパラジウムから選ばれる1種以上の金属元素を20質量%以下含有する」のに対し,甲A発明では,「反応容器に張り込まれたエチレングリコール445.28g中で水酸化ニッケル31.31g,ポリビニルピロリドン2.15g,100g/lの硝酸パラジウム溶液0.69ml及びL−アルギニン1.0gを攪拌しながら190℃で10時間加熱して得たニッケル粒子」であって,金属元素成分及びニッケル元素を所定量含有するものの,それ以上のニッケル粒子の成分組成が不明である点。

<相違点A−2>
本件発明1では,「前記ニッケル粒子を、還元雰囲気下で、25℃から、昇温速度15℃/分で昇温させた際の、600℃〜1000℃における重量減少率が、0.1%未満」であるのに対し,甲A発明では,上記重量減少率が不明である点。

<相違点A−3>
本件発明1では,「走査型」電子顕微鏡で観察しており,ニッケル粒子の一次粒子の平均粒子径,変動係数及び平均粒子径の2.0倍以上の粒子の全粒子個数に対する割合(%)(以下,単に「割合(%)」という。)も,“走査型電子顕微鏡観察により測定された”数値であるのに対して,甲A発明では,「透過型」電子顕微鏡で観察しており,ニッケル粒子の一次粒子の平均粒子径,変動係数及び割合(%)も,“透過型電子顕微鏡観察により測定された”数値である点。

<相違点A−4>
ニッケル粒子の一次粒子について,本件発明1では,平均粒子径「D50」を測定しており,上記変動係数及び割合(%)も,上記「D50」に基づくのに対し,甲A発明では,「平均粒子径」を測定しているものの,平均粒子径が「D50」であるかどうかが不明であって,上記変動係数及び割合(%)も,「D50」に基づくものであるかどうかが不明である点。

(イ)相違点A−1の検討
事案にかんがみ,上記相違点A−1について検討する。

a まず,上記アの摘示箇所やその他の箇所を確認しても,甲Aには,ニッケル粒子の成分組成に関する更なる記載や示唆は見あたらない。

b 次に,相違点A−1に関連して,上記ア(イ)のとおり,甲A発明は,「反応容器に張り込まれたエチレングリコール445.28g中で水酸化ニッケル31.31g,ポリビニルピロリドン2.15g,100g/lの硝酸パラジウム溶液0.69ml及びL−アルギニン1.0gを攪拌しながら190℃で10時間加熱して得た」ニッケル粒子であって,上記ニッケル粒子の原料の各化合物(下線部)の配合量及び機能から,上記ニッケル粒子の成分組成が定まるか否かについて,更に検討する。

c 甲A発明の上記bの各化合物は,上記ア(ア)に摘示した甲Aの各記載事項に照らして,それぞれ少なくとも以下(a)〜(e)の機能等を有するものであると認められる。

(a)「エチレングリコール」について
甲A発明の上記「エチレングリコール」は,ポリオールの一種として用いられたものであり,ニッケル塩に対する還元剤として作用すると共に溶媒としても機能するものであって,更に,製造工程においてオリゴマー化し,ニッケル粒子表面に付着して,有機化合物層を形成するとものであると認められる(甲Aの段落【0034】,【0039】)。

(b)「水酸化ニッケル」について
甲A発明の上記「水酸化ニッケル」は,製造工程を経て還元されニッケル粒子に含まれるニッケル元素になるものであると認められる(甲Aの段落【0036】〜【0038】)。

(c)「ポリビニルピロリドン」について
甲A発明の上記「ポリビニルピロリドン」は,分散剤として添加するものであって,得られるニッケル粒子がより微粒になり,還元析出した粒子同士の凝集化を防止し,粒度分布をよりシャープにできる機能を有するものであると認められる(甲Aの段落【0045】)。

(d)「硝酸パラジウム」について
甲A発明の上記「硝酸パラジウム溶液」に含まれる「硝酸パラジウム」は,貴金属触媒として添加するものであって,ニッケル塩の還元反応を促進するものであり,得られるニッケル粉の純度が高くなり易くなる機能を有するものであると認められる(甲Aの段落【0041】)。

(e)「L−アルギニン」について
甲A発明の上記「L−アルギニン」は,アミノ酸として添加するものであって,良好な有機化合物層の形成に寄与するものであり,また,ニッケル粒子の一次粒径を小さく,かつ分散性を良好にする機能を有するものであると認められる(甲Aの段落【0034】,【0044】)。

d しかしながら,上記各化合物の機能等を考慮しても,原料として所定量配合された上記各化合物が,最終的に製造された上記ニッケル粒子中に含まれるのか否かや含まれる量について断定することができず,技術常識を考慮しても,甲A発明の更なる成分組成は不明である。

e なお,新規性に関し,申立人1は令和3年4月30日に提出の特許異議申立書(以下「申立書1」という。)において,次の主張をするものの(主張を整理するために,以下(a)〜(b)のとおり,便宜的に,主張1−1〜主張1−2に区分する),以下(c)のとおり,採用することができない。

(a)申立人1の主張1−1
申立人1は,申立書1の第23頁第15〜30行において,甲Aの実施例1における金属元素成分の含有量,金属元素以外の成分の含有量,金属元素成分中のニッケル元素の含有量,金属成分中のニッケル以外の金属元素について具体的には特定されていないことを認めた上,甲Aの段落【0017】,【0034】及び【0052】の記載事項を摘示し,甲Aのニッケル粒子の有機化合物層の厚さが0.5nmであると仮定した場合の有機化合物層の体積が粒子の8%以上となり,更にニッケル及びエチレングリコールの密度等を考慮すると,少なくとも有機化合物層が1質量パーセント以上となる旨を説示し,上記説示に基づき,甲Aは「金属元素成分の含有量が85〜99質量%」であり,「前記金属元素以外の成分の含有量が1〜12質量%」であるニッケル粒子を開示している旨を主張する(以下,「主張1−1」という。)。

(b)申立人1の主張1−2
申立人1は,申立書1の第24頁第1〜13行において,甲Aの実施例1の製造工程では,反応溶液に水酸化ニッケルとともに硝酸パラジウム溶液が添加されており,実施例1の反応により得られるニッケル粒子には,少なくとも微量のパラジウムを含有する蓋然性が極めて高い旨を説示し,上記説示等に基づき,甲Aは,「金属元素成分中、ニッケル元素を80質量%以上含有し、」かつ,「銅、銀、金、白金又はパラジウムから選ばれる1種以上の金属元素を20質量%以下含有する」ニッケル粒子を開示している旨を主張する(以下,「主張1−2」という。)。

(c)主張1−1及び主張1−2についての当審の判断
申立人1は,甲Aのニッケル粒子について,主張1−1において,「金属元素以外の成分の含有量が1〜12質量%」である旨を主張し,また,主張1−2において,「(金属元素成分中)パラジウムを20質量%以下」含有する旨を主張しているが,上記dのとおり,いずれも,原料として所定量配合された各化合物が,最終的に製造されたニッケル粒子中に含まれるか否かは,断定できず,まして含有量は不明である。
敷衍するに,甲Aでは,上記c(a)のとおり,上記「エチレングリコール」(ポリオールの一種として用いられたもの)はニッケル塩の還元剤かつ反応溶媒の機能等を有するものであり,また,上記c(d)のとおり,上記「パラジウム」はニッケル塩の還元反応触媒を構成する元素であるが,いずれも,得られたニッケル粒子に対する含有量は言及されておらず(段落【0039】〜【0043】),甲Aの実施例1でも,上記ア(ア)dに摘示したとおり,所定の反応液について,エチレングリコールでデカンテーションを行い,反応液中のポリビニルピロリドンを洗浄除去し,更にターピネオールで2回デカンテーションを行い,「ニッケル粉含有量80重量%、残部ターピネオールのニッケルスラリーを製造した」(段落【0052】)と記載されるに留まるので,スラリー中のニッケル粒子表面にニッケルを含むエチレングリコール層が形成されているか否かは不明であり,ましてその含有量を特定することはできない。
したがって,主張1−1及び主張1−2を採用することができない。

f その他,甲Aに相違点A−1が実質的な相違点でないと考えるに足りる記載や示唆は見あたらず,相違点A−1は実質的な相違点であるといえる。

g よって,本件発明1は,甲A発明と,少なくとも相違点A−1で相違しているから,その他の相違点について検討するまでもなく,甲A発明であるとはいえない。

ウ 本件発明4,5,9〜11の新規性について
本件発明4,5,9〜11は,いずれも本件発明1の発明特定事項を全て含むものであって,甲A発明と,少なくとも上記相違点A−1と同じ相違点で相違しているといえる。
上記イ(イ)で述べたとおり,甲A発明において相違点A−1は実質的な相違点であり,本件発明1が,甲A発明であるとはいえない以上,本件発明4,5,9〜11についても,同様に,甲A発明であるとはいえない。

エ 申立理由1(新規性)についてのまとめ
よって,本件発明1,4,5,9〜11は甲Aに記載された発明であるとはいえない。
したがって,申立理由1(新規性)によっては,請求項1,4,5,9〜11に係る特許を取り消すことはできない。

オ 本件発明1の進歩性について

(ア)甲A発明を引用発明とする場合

a 本件発明1と甲A発明とは上記イ(ア)cにおいて示した点で一致し,上記イ(ア)dにおいて示したとおり,相違点A−1〜相違点A−4で相違する。
そして,事案にかんがみ,上記相違点A−1について,容易想到性の観点から更に以下検討する。

b 甲A発明は,上記ア(ア)b〜cに摘示した甲Aの段落【0012】,【0014】,【0027】の記載事項から,微粒化され(平均一次粒径で100nm以下程度),粒度分布がシャープで,且つ分散性の良好なニッケル粒子を提供する旨を目的としたものであると認められ,これは本件発明1と同様の目的である。

c しかしながら,甲A発明は,鋭意検討を行った結果,ニッケル塩,ポリオール及び貴金属触媒を含む反応液中にアミノ酸を添加することによって,平均一次粒径が小さく,粒度分布がシャープなニッケル粒子が得られることを知見し,到達したものであって(上記ア(ア)bに摘示した甲Aの段落【0013】),本件発明1のように,ニッケル粒子について「金属元素成分の含有量が85〜99質量%であり、前記金属元素以外の成分の含有量が1〜12質量%であるとともに、金属元素成分中、ニッケル元素を80質量%以上含有し、さらに銅、銀、金、白金又はパラジウムから選ばれる1種以上の金属元素を20質量%以下含有する」ことを規定するものでなく,また,甲Aにはニッケル粒子の成分組成を制御することに関し記載も示唆もない。
そうすると,甲A発明において,ニッケル粒子の成分組成を制御する動機がない。

d 甲B〜Gにも,甲A発明のニッケル粒子の成分組成を「金属元素成分の含有量が85〜99質量%であり、前記金属元素以外の成分の含有量が1〜12質量%であるとともに、金属元素成分中、ニッケル元素を80質量%以上含有し、さらに銅、銀、金、白金又はパラジウムから選ばれる1種以上の金属元素を20質量%以下含有する」ようにすることを動機付けるに足りる記載は見あたらず,甲B〜Dに記載された事項及び周知技術(例えば,甲B,E〜G)を考慮しても動機付けることができるとはいえない。

e よって,甲A発明において,甲B〜Dに記載された事項及び周知技術(例えば,甲B,E〜G)を考慮しても,相違点A−1に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは,当業者が容易になし得たことであるとはいえない。

f なお,進歩性に関し,申立人1は,申立書1の第24頁第24行〜第25頁第10行において,甲Bの段落【0042】〜【0044】及び甲Cの段落【0033】〜【0035】の各記載事項を摘示し,甲Aに開示された発明において,甲B及び甲Cを参照することにより,ニッケル粒子の用途や特性に応じて,金属元素成分と金属元素成分以外の成分の含有割合,金属元素成分中のニッケル元素とニッケル元素以外の金属元素の含有割合を調整して,本件発明1の成分組成の範囲内とすることは設計事項である旨を主張する(以下「主張1−3」という。)。

g しかしながら,申立人1の上記主張1−3について検討しても,以下(a)〜(c)のとおりであるから,採用することができない。

(a)本件発明1は,上記第3 2の(1)に摘示した発明の詳細な説明の記載から,平均粒子径が150nm以下のニッケルなどの磁性材料を主成分とする金属微粒子において,磁性による分散性への影響を考慮した粒子設計がこれまでなされていないこと着目し(段落【0008】),平均粒子径が150nm以下であり,粒子径が均一でそのばらつきが小さく,かつ分散性に優れた金属微粒子を提供することを課題とし(段落【0009】),上記課題を解決するための手段として,ニッケル粒子の金属元素成分の含有量及び前記金属元素以外の成分の含有量等を規定したものであると認められ(段落【0010】),また,上記第3 2の(2)に摘示した段落【0023】の記載から,銅,銀,金,白金又はパラジウムが粗大粒子が極めて少なく,粒度分布のシャープな粒子を合成しやすい旨の技術思想,及び,前記ニッケル以外の金属が凝集の原因となるニッケル粒子の磁性を弱め,分散性の向上に寄与する旨の技術思想に基づき,ニッケル粒子の成分組成を制御することにより,本件発明1の成分組成に到達したものであると認められる。

(b)その一方で,申立人1の摘示した上記箇所を含め甲A〜C全体を確認しても,甲A〜Cには上記(a)の技術思想に基づき,ニッケル粒子の成分組成を制御することは,記載も示唆もされておらず,上記の技術思想無く,甲A発明において,申立人1が主張するように,ニッケル粒子の用途や特性に応じて,金属元素成分と金属元素成分以外の成分の含有割合,金属元素成分中のニッケル元素とニッケル元素以外の金属元素の含有割合を調整することにより,本件発明1の成分組成の範囲内に到達すると考えるに足りる根拠も見あたらない。
また,上記イ(イ)e(c)のとおり,甲Aにおける「パラジウム」は,還元反応触媒を構成する元素であって,上記デカンテーションで洗浄除去されると考えられるものであるから,甲A発明のニッケル粒子の成分組成について,甲Bや甲Cのニッケル粒子の成分組成(パラジウムの更なる含有等)を組み合わせる動機付けがない。

(c)以上のとおりであるから,甲A発明において,甲B〜Cを参照しても本件発明1のニッケル粒子の成分組成の範囲内とすることが設計事項であるとはいえない。

h したがって,他の相違点について検討するまでもなく,本件発明1は,甲A発明,甲B〜Dに記載された事項及び周知技術(例えば,甲B,E〜G)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ)甲B発明を引用発明とする場合
本件発明1と甲B発明とを対比する。

a ニッケル粒子について
本件発明1の「ニッケル粒子」と,甲B発明の上記ア(エ)の特定のプラズマ処理による表面改質方法によって改質した「ニッケルナノ粒子」とは,少なくとも「ニッケル粒子」であることにおいて共通する。

b 成分組成について
以下,本件発明1のニッケル粒子を構成する各発明特定事項(成分組成等)と甲B発明の上記改質したニッケルナノ粒子を構成する各発明特定事項(成分組成等)とを対比する。

(a)甲B発明は,上記ア(エ)のとおり,「上記表面改質方法で用いるニッケルナノ粒子」について,成分組成が特定されているが,上記成分組成は,上記改質をする前の成分組成であると認められ,上記改質した後の最終的に製造されたニッケルナノ粒子(すなわち,上記改質したニッケルナノ粒子)の成分組成を意味するものではない。
そして,甲B発明において,上記改質したニッケルナノ粒子の成分組成は特定されていない。

(b)上記改質前後の成分組成の変化について,以下に検討する。
まず,甲B発明の成分組成のうち酸素元素の含有量については,上記ア(エ)のとおり,上記改質の前後でほぼ一定であり,0.2〜5.0質量%の範囲内である。
また,上記ア(ウ)cで摘示した甲Bの段落【0041】に,プラズマ処理では,金属ニッケルを被覆する水酸化物の被膜から水分が揮発し,除去されて酸化物の被膜に変化する旨が記載されていることから,上記改質の前後で,少なくとも水素元素の含有量については変化すると考えられる。
それら以外の元素については,甲Bの上記ア(ウ)の摘示箇所やその他の箇所の記載を考慮しても,上記改質の前後で変化するか否かは不明である。
以上を総合すると,甲B全体の記載を参酌しても,少なくとも,甲B発明の上記改質したニッケルナノ粒子の成分組成が,「上記表面改質方法で用いるニッケルナノ粒子」の成分組成と同じであるとはいえない。

(c)甲B発明において,上記改質したニッケルナノ粒子の成分組成は特定されていないので,以下(d)〜(e)においては,甲B発明の「上記表面改質方法で用いるニッケルナノ粒子」の成分組成と,本件発明1のニッケル粒子の成分組成を対比する。
ただし,上記(b)のとおり甲B発明の「上記表面改質方法で用いるニッケルナノ粒子」の成分組成は,最終的に製造された物の成分組成ではなく,本件発明1のニッケル粒子の成分組成とは前提が異なるものであるが,以下(d)〜(e)の対比に限り上記前提の差異を便宜上考慮しないものとする(無論,以後,上記前提の差異を一致点とするという意味ではない。)。

(d)甲B発明の「上記表面改質方法で用いるニッケルナノ粒子」の成分組成は,上記ア(エ)のとおり,ニッケル元素の含有量が,ニッケルナノ粒子100質量部に対し90質量部以上であり,更に,ニッケル以外の上記各種金属も含有するので,必然的にニッケルナノ粒子中の金属元素成分の含有量は少なくとも90質量%以上であるといえ,また,必然的に金属元素成分中,ニッケル元素を少なくとも90質量%以上含有するといえる。

(e)甲B発明の「上記表面改質方法で用いるニッケルナノ粒子」の成分組成は,上記(d)の事項に加え,上記ア(エ)のとおり,ニッケル以外の金属として,銅,金,銀,白金等の上記各種元素を単独で又は2種以上含有し,金属元素以外の上記元素を含有していることを踏まえると,
本件発明1の「金属元素成分の含有量が85〜99質量%であり、前記金属元素以外の成分の含有量が1〜12質量%であるとともに、金属元素成分中、ニッケル元素を80質量%以上含有し、さらに銅、銀、金、白金又はパラジウムから選ばれる1種以上の金属元素を20質量%以下含有する」との成分組成と,
金属元素成分の含有量が90質量%以上であり,前記金属元素以外の成分を所定量含有するとともに,金属元素成分中,ニッケル元素を90質量%以上含有し,さらに銅,銀,金,白金又はパラジウムから選ばれる1種以上の金属元素を所定量含有する限りにおいて共通する。

c 走査型電子顕微鏡観察により測定された平均粒子径について

(a)甲B発明の上記改質したニッケルナノ粒子は上記ア(エ)のとおり,「(1)走査型電子顕微鏡観察による平均粒子径が20nm以上150nm以下の範囲内」であるところ,上記平均粒子径は,上記ア(ウ)dに摘示した甲Bの段落【0067】に開示された実施例における具体的な平均粒子径の測定に関する記載事項を考慮すれば,実質的に「一次粒子の平均粒子径」を意味するものであると認められる。

(b)よって,本件発明1の「走査型電子顕微鏡観察により測定された、前記ニッケル粒子の一次粒子の平均粒子径D50が20nm〜150nm」であることと,甲B発明の上記改質したニッケルナノ粒子の「(1)走査型電子顕微鏡観察による平均粒子径が20nm以上150nm以下の範囲内」であることとは,走査型電子顕微鏡観察により測定された,前記ニッケル粒子の一次粒子の平均粒子径が20nm〜150nmである限りにおいて共通する。

d 一致点
本件発明1と甲B発明とは,次の点で一致する。

<一致点B−1>
走査型電子顕微鏡観察により測定された,前記ニッケル粒子の一次粒子の平均粒子径が20nm〜150nmであるニッケル粒子である点。

e 相違点
一方で,本件発明1と甲B発明とは,次の点で相違する。

<相違点B−1>
本件発明1では,「ニッケル粒子」について「金属元素成分の含有量が85〜99質量%であり、前記金属元素以外の成分の含有量が1〜12質量%であるとともに、金属元素成分中、ニッケル元素を80質量%以上含有し、さらに銅、銀、金、白金又はパラジウムから選ばれる1種以上の金属元素を20質量%以下含有する」のに対し,甲B発明では,「上記改質する前のニッケルナノ粒子」について,金属元素成分の含有量が90質量%以上であって,前記金属元素以外の成分を所定量含有するとともに,金属元素成分中,ニッケル元素を90質量%以上含有し,さらに銅,銀,金,白金又はパラジウムから選ばれる1種以上の金属元素を所定量含有するものの,上記改質したニッケルナノ粒子の成分組成は,酸素元素の含有量以外が不明である点。

<相違点B−2>
本件発明1では,「前記ニッケル粒子を、還元雰囲気下で、25℃から、昇温速度15℃/分で昇温させた際の、600℃〜1000℃における重量減少率が、0.1%未満」であるのに対し,甲B発明では,「(2)窒素雰囲気で熱重量分析によって測定される室温から500℃における重量減少率が0.5〜5%の範囲内」であるものの,上記600℃〜1000℃における重量減少率が不明である点。

<相違点B−3>
ニッケル粒子の一次粒子について,本件発明1では,平均粒子径「D50」を測定しているのに対し,甲B発明では,「平均粒子径」を測定しているものの,平均粒子径が「D50」であるかどうかが不明である点。

<相違点B−4>
ニッケル粒子の一次粒子に関し,本件発明1では,「一次粒子径の変動係数が、0.2以下」であり、上記割合(%)が0.1%以下であるのに対し,甲B発明では,上記変動係数及び上記割合(%)が不明である点。

f 相違点B−1の検討
事案にかんがみ,上記相違点B−1について検討する。

(a)上記a(b)のとおり,甲B発明の酸素元素及び水素元素以外の成分組成については,上記改質の前後で変化するのか否かは不明であるところ,更に技術常識を考慮しても,変化の有無又は程度は不明であり,上記改質したニッケルナノ粒子の成分組成が,酸素元素以外についても,上記改質前のニッケルナノ粒子の成分組成と同じであると考えるに足りる根拠は見あたらず,また,上記改質前の上記成分組成に基づき,上記改質した後の上記成分組成を計算等により導出するに足りる根拠も見あたらない。

(b)申立人1は,申立書1の第18〜20,24頁において,甲Bの段落【0042】〜【0044】,【0037】〜【0038】,【0052】,【0054】,【0065】,【0039】,【0075】,【0002】の各記載事項を摘示し,申立書1の第25頁第14〜15行において,甲Bは,本件発明1の発明特定事項A〜E(申立書1の第15頁の分説からすると,相違点B−1で示した本件発明1のニッケル粒子の成分組成)を開示している旨を主張する(以下「主張1−4」という。)。

(c)しかしながら,申立人1の摘示する甲Bの上記(b)の段落やその他の箇所の記載事項を確認しても,本件発明1のニッケル粒子の成分組成が開示されているとはいえず,甲B発明の成分組成については上記bのとおりであるから,申立人1の上記主張1−4を採用することができない。

(d)その他に,甲Bに相違点B−1が実質的な相違点ではないと考えるに足りる記載や示唆は見あたらず,相違点B−1は実質的な相違点である。

(e)上記相違点B−1について容易想到性の観点から更に以下検討する。

(f)甲B発明は,上記ア(ウ)bに摘示した甲Bの段落【0009】の記載事項から,150nm以下の粒径を有するニッケルナノ粒子の焼結時の熱収縮性を改善する旨を目的としたものであると認められ,甲Bには,本件発明1のように上記(ア)g(a)に示した技術思想等に基づき,ニッケル粒子の成分組成を制御することは,記載も示唆もされていない。

(g)その他,甲Bの記載全体を見ても,甲B発明において,相違点B−1に係る本件発明1の発明特定事項に想到することを動機付けるに足りる記載は見あたらない。

(h)甲A,C〜Gにも,甲B発明のニッケル粒子の成分組成を「金属元素成分の含有量が85〜99質量%であり,前記金属元素以外の成分の含有量が1〜12質量%であるとともに,金属元素成分中,ニッケル元素を80質量%以上含有し,さらに銅,銀、金,白金又はパラジウムから選ばれる1種以上の金属元素を20質量%以下含有する」ようにすることを動機付けるに足りる記載は見あたらず,甲A,C〜Dに記載された事項及び周知技術(例えば,甲B,E〜G)を考慮しても動機付けることができるとはいえない。

(i)以上から,甲B発明において,甲A,C〜Dに記載された事項及び周知技術(例えば,甲B,E〜G)を考慮しても,相違点B−1に係る本件発明1の発明特定事項は,当業者が容易になし得たことであるとはいえない。

g 小括
したがって,他の相違点について検討するまでもなく,本件発明1は,甲B発明,甲A,C〜Dに記載された事項及び周知技術(例えば,甲B,E〜G)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)甲C発明(実施の形態)を引用発明とする場合
本件発明1と甲C発明(実施の形態)とを対比する。

a ニッケル粒子について
甲C発明(実施の形態)の「ニッケル微粒子含有組成物」は,上記ア(カ)aのとおり,上記第1のニッケル微粒子と上記第2のニッケル微粒子とを備えているものであり,ニッケル微粒子含有組成物全体としてみてもニッケル微粒子の形態であることに変わりは無いので,本件発明1の「ニッケル粒子」と,少なくともニッケル粒子である点で共通する。

b 成分組成について
以下に,本件発明1のニッケル粒子を構成する各発明特定事項(成分組成等)と甲C発明(実施の形態)のニッケル微粒子含有組成物を構成する各発明特定事項(成分組成等)とを対比する。

(a)甲C発明(実施の形態)の上記第1のニッケル微粒子及び上記第2のニッケル微粒子は,上記ア(カ)aのとおり,「それぞれ,金属成分を90質量%以上含有」するものであるから,総合してニッケル微粒子含有組成物としてみても,「金属成分を90質量%以上含有」すると認められる。
してみれば,本件発明1のニッケル粒子の「金属元素成分の含有量が85〜99質量%」であることと,甲C発明(実施の形態)のニッケル微粒子含有組成物の「金属成分を90質量%以上含有」することとは,金属元素成分を所定量含有する限りにおいて共通する。

(b)甲C発明(実施の形態)の上記第1のニッケル微粒子及び上記第2のニッケル微粒子は,上記ア(カ)aのとおり,「それぞれ,全金属成分に対し,ニッケル元素を95質量%以上含有」するものであるから,総合してニッケル微粒子含有組成物としてみても,「全金属成分に対し,ニッケル元素を95質量%以上含有」すると認められる。
してみれば,本件発明1の「金属元素成分中、ニッケル元素を80質量%以上含有」することと,甲C発明(実施の形態)のニッケル微粒子含有組成物の「全金属成分に対し,ニッケル元素を少なくとも95質量%以上含有」することとは,金属元素成分中、ニッケル元素を95質量%以上含有する限りにおいて共通する。

(c)上記(a)〜(b)の事項に加え,上記ア(カ)aのとおり,上記第1のニッケル微粒子及び上記第2のニッケル微粒子が,それぞれ,ニッケル以外の金属として,銅,金,銀,白金等の上記各種元素を,単独で又は2種以上含有し,金属元素以外の元素を含有していることを踏まえると,甲C発明(実施の形態)のニッケル微粒子含有組成物の成分組成は,
本件発明の「金属元素成分の含有量が85〜99質量%であり、前記金属元素以外の成分の含有量が1〜12質量%であるとともに、金属元素成分中、ニッケル元素を80質量%以上含有し、さらに銅、銀、金、白金又はパラジウムから選ばれる1種以上の金属元素を20質量%以下含有する」との成分組成と,
金属元素成分を所定量含有し,前記金属元素以外の成分を所定量含有するとともに,金属元素成分中,ニッケル元素を95質量%以上含有し,さらに銅,銀,金,白金又はパラジウムから選ばれる1種以上の金属元素を所定量含有する限りにおいて共通する。

c 走査型電子顕微鏡観察により測定された各事項について

(a)甲C発明(実施の形態)は,上記ア(カ)aのとおり,一次粒子の平均粒子径について,上記第1のニッケル微粒子においては,「60〜150nmの範囲内」であり,上記第2のニッケル微粒子においては,「20〜50nmの範囲内」であるから,ニッケル微粒子含有組成物全体の平均粒子径としては,少なくとも“20〜150nmの範囲内”であると認められる。
また,甲C発明(実施の形態)は,上記ア(カ)aのとおり,上記第1のニッケル微粒子及び上記第2のニッケル微粒子の一次粒子の平均粒子径について,いずれも,「走査電子顕微鏡により試料の写真を撮影して,その中から無作為に200個を抽出してそれぞれの面積を求めることによって算出」したものであるから,総合してニッケル微粒子含有組成物としてみても,「走査電子顕微鏡により試料の写真を撮影して,その中から無作為に200個を抽出してそれぞれの面積を求めることによって算出した」ものであると認められる。
そして,甲C発明(実施の形態)の上記走査電子顕微鏡による撮影乃至算出は,本件発明1の「走査型電子顕微鏡観察」による「測定」に含まれる。
してみれば,本件発明1の「走査型電子顕微鏡観察により測定された、前記ニッケル粒子の一次粒子の平均粒子径D50が20nm〜150nm」であることと,甲C発明(実施の形態)のニッケル微粒子含有組成物の一次粒子の平均粒子径が,“20〜150nmの範囲内”であって,「走査電子顕微鏡により試料の写真を撮影して,その中から無作為に200個を抽出してそれぞれの面積を求めることによって算出した」ものであることとは,走査型電子顕微鏡観察により測定された,前記ニッケル粒子の一次粒子の平均粒子径が20nm〜150nmである限りにおいて共通する。

(b)甲C発明(実施の形態)の上記第1のニッケル微粒子及び上記第2のニッケル微粒子は,上記ア(カ)aのとおり,いずれも,「一次粒子径の変動係数が0.2以下」であるものの,上記各ニッケル微粒子を総合してニッケル微粒子含有組成物全体としてみた場合には,平均粒子径が異なる集団同士を総合(混合)することになるので、平均粒子径の相違の程度や混合割合等が影響し、ニッケル微粒子含有組成物全体としてみた変動係数は、必ずしも「0.2以下」とはならない。
よって,本件発明1の「一次粒子径の変動係数が0.2以下」であることと,甲C発明(実施の形態)の上記第1のニッケル微粒子及び上記第2のニッケル微粒子の各「一次粒子径の変動係数が0.2以下」であることとを,一致点とすることはできない。

d 一致点
本件発明1と甲C発明(実施の形態)とは,次の点で一致する。

<一致点C−1>
金属元素成分を所定量含有し,前記金属元素以外の成分を所定量含有するとともに,金属元素成分中,ニッケル元素を95質量%以上含有し,さらに銅,銀,金,白金又はパラジウムから選ばれる1種以上の金属元素を所定量含有するニッケル粒子であって,
走査型電子顕微鏡観察により測定された,前記ニッケル粒子の一次粒子の平均粒子径が20nm〜150nmであるニッケル粒子である点。

e 相違点
一方で,本件発明1と甲C発明(実施の形態)とは,次の点で相違する。

<相違点C−1>
本件発明1では,「金属元素成分の含有量が85〜99質量%であり、前記金属元素以外の成分の含有量が1〜12質量%であるとともに、金属元素成分中、ニッケル元素を80質量%以上含有し、さらに銅、銀、金、白金又はパラジウムから選ばれる1種以上の金属元素を20質量%以下含有する」のに対し,甲C発明(実施の形態)では,金属元素成分の含有量が90質量%以上であって,前記金属元素以外の成分を所定量含有するとともに,金属元素成分中,ニッケル元素を95質量%以上含有し,さらに銅,銀,金,白金又はパラジウムから選ばれる1種以上の金属元素を所定量含有するものの,上記金属元素成分の含有量の上限,上記金属元素以外の成分の含有量の上限及び下限,並びに,金属元素成分中における銅,銀,金,白金又はパラジウムから選ばれる1種以上の金属元素の含有量の上限が特定されていない点。

<相違点C−2>
本件発明1では,「前記ニッケル粒子を、還元雰囲気下で、25℃から、昇温速度15℃/分で昇温させた際の、600℃〜1000℃における重量減少率が、0.1%未満」であるのに対し,甲C発明(実施の形態)では,上重量減少率が不明である点。

<相違点C−3>
ニッケル粒子の一次粒子について,本件発明1では,平均粒子径「D50」を測定しているのに対し,甲C発明(実施の形態)では,「平均粒子径」を測定しているものの,平均粒子径が「D50」であるかどうかが不明である点。

<相違点C−4>
本件発明1では,「一次粒子径の変動係数が、0.2以下」であるのに対し,甲C発明(実施の形態)では,上記第1のニッケル微粒子及び上記第2のニッケル微粒子の各一次粒子径の変動係数が0.2以下であるものの,これらを総合したニッケル微粒子含有組成物の変動係数が不明である点。

<相違点C−5>
ニッケル粒子の一次粒子に関し,本件発明1では,上記割合(%)が0.1%以下であるのに対し,甲C発明(実施の形態)では,上記割合(%)が不明である点。

f 相違点C−1の検討
事案にかんがみ,上記相違点C−1について検討する。

(a)申立人1は,申立書1の第21〜22,24〜25頁において,甲Cの段落【0033】〜【0035】,【0025】,【0032】,【0054】〜【0055】,【0057】,【0129】,【0002】,の各記載事項を摘示し、申立書1の第25頁第14〜15行において,甲Cは本件発明1の発明特定事項A〜E(申立書1の第15頁の分説からすると,相違点C−1で示した本件発明1のニッケル粒子の成分組成)を開示している旨を主張する(以下「主張1−5」という。)。

(b)しかしながら,甲Cの上記(b)の段落やそれ以外の箇所の記載事項を確認しても、本件発明1のニッケル粒子の成分組成が開示されているとはいえず,甲C発明(実施の形態)の成分組成については上記bのとおりであるから,申立人1の上記主張1−5を採用することができない。

(c)その他に,甲Cに相違点C−1が実質的な相違点ではないと考えるに足りる記載や示唆は見あたらず,相違点C−1は実質的な相違点である。

(d)上記相違点C−1について容易想到性の観点から更に以下検討する。

(e) 甲C発明(実施の形態)は,上記ア(オ)bに摘示した甲Cの記載事項から,MLCCの内部電極層等の用途に有用で、焼結時の熱収縮が抑制されており、焼結開始温度の高い電極材料を提供する旨を目的としたものであると認められ(段落【0011】),鋭意研究を重ねた結果、粗大粒子が存在せず、粒度分布がシャープな粒子を用いることを前提に、平均粒子径が異なる少なくとも2種類の粒子を組み合わせることで高密度化が可能になり、内部電極層の収縮や膜切れを効果的に抑えることが可能であるとの知見を得て完成するに至ったものであると認められるが(段落【0012】),甲Cには,本件発明1のように上記(ア)g(a)に示した技術思想等に基づき,ニッケル粒子の成分組成を制御することは,記載も示唆もされていない。

(f)その他,甲Cの記載全体を見ても,甲C発明(実施の形態)において,相違点C−1に係る本件発明1の発明特定事項に想到することを動機付けるに足りる記載は見あたらない。

(g)甲A〜B,D〜Gにも,甲C発明(実施の形態)のニッケル粒子の成分組成を「金属元素成分の含有量が85〜99質量%であり、前記金属元素以外の成分の含有量が1〜12質量%であるとともに、金属元素成分中、ニッケル元素を80質量%以上含有し、さらに銅、銀、金、白金又はパラジウムから選ばれる1種以上の金属元素を20質量%以下含有する」ようにすることを動機付けるに足りる記載は見あたらず,甲A〜B,Dに記載された事項及び周知技術(例えば,甲B,E〜G)を考慮しても動機付けることができるとはいえない。

(h)以上から,甲C発明(実施の形態)において,甲A〜B,Dに記載された事項及び周知技術(例えば,甲B,E〜G)を考慮しても,相違点C−1に係る本件発明1の発明特定事項は,当業者が容易になし得たことであるとはいえない。

g 小括
したがって,他の相違点について検討するまでもなく,本件発明1は,甲C発明(実施の形態),甲A〜B,Dに記載された事項及び周知技術(例えば,甲B,E〜G)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(エ)甲C発明(合成例1)等を引用発明とする場合
まず,本件発明1と甲C発明(合成例1)とを対比する。

a ニッケル粒子について
甲C発明(合成例1)の「ニッケル微粒子」は,本件発明1の「ニッケル粒子」と,少なくともニッケル粒子である点で共通する。

b 成分組成について
以下に,本件発明1のニッケル粒子を構成する各発明特定事項(成分組成等)と甲B発明の上記改質したニッケル微粒子を構成する各発明特定事項(成分組成等)とを対比する。

(a)甲C発明(合成例1)は,上記ア(カ)bのとおり「ニッケル微粒子」であるから,上記ニッケル微粒子を構成する成分として,当然にニッケル元素(すなわち,金属元素成分の一種にも該当)を所定量含有していると認められ,その意味で,甲C発明(合成例1)のニッケル微粒子は,金属元素成分を所定量含有し,金属元素成分中,ニッケル元素を所定量含有しているともいえる。

(b)甲C発明(合成例1)において,ニッケル元素以外の成分組成は,上記ア(カ)bのとおり「C;0.5,O;1.1,S;<0.1(いずれも,単位は質量%)である」が,C,O,S以外の元素については含有量が不明である。

(c)そうすると,成分組成に関して,本件発明1と甲C発明(合成例1)とは,金属元素成分を所定量,前記金属元素以外の成分を所定量含有し,金属元素成分中,ニッケル元素を所定量含有する限りにおいて共通する。

c 走査型電子顕微鏡観察により測定された各事項について

(a)甲C発明(合成例1)の一次粒子の平均粒子径は,上記ア(カ)bのとおり「走査電子顕微鏡により試料の写真を撮影して,その中から無作為に200個を抽出してそれぞれの面積を求め,真球に換算したときの粒子径を個数基準として算出」したものであるが,上記走査電子顕微鏡による撮影乃至算出は,本件発明1の「走査型電子顕微鏡観察」による「測定」に含まれる。また,平均粒子径の数値同士を比較すると,甲C発明(合成例1)は,上記ア(カ)bのとおり「140nm」であるから,本件発明1の「20〜150nm」の数値範囲内である。
してみれば,本件発明1の「走査型電子顕微鏡観察により測定された、前記ニッケル粒子の一次粒子の平均粒子径D50が20nm〜150nm」であることと,甲C発明(合成例1)の「走査電子顕微鏡により試料の写真を撮影して,その中から無作為に200個を抽出してそれぞれの面積を求め,真球に換算したときの粒子径を個数基準として算出した一次粒子の平均粒子径が140nm」であることとは,走査型電子顕微鏡観察により測定された,前記ニッケル粒子の一次粒子の平均粒子径が20nm〜150nmである限りにおいて共通する。

(b)本件発明1の「変動係数」は,上記第3 2(2)に摘示した発明の詳細な説明の【0026】の記載から,標準偏差/平均粒子径(すなわち,平均粒子径D50)を計算したものであると認められ,その一方で,甲C発明の上記「変動係数」は,上記ア(カ)bのとおり,(標準偏差)÷(平均粒子径)によって算出したものである。また,変動係数の数値同士を比較すると,甲C発明(合成例1)は,上記ア(カ)bのとおり「0.17」であるから,本件発明1の「0.2以下」の数値範囲内である。
してみれば,本件発明1の「一次粒子径の変動係数が0.2以下」であることと,甲C発明(合成例1)の「一次粒子」の「(標準偏差)÷(平均粒子径)によって算出したCV値(変動係数)が0.17である」こととは,「一次粒子径の変動係数が0.2以下」(ただし,甲C発明(合成例1)の変動係数について,その算出に用いた平均粒子径が,「D50」であるかどうか不明である点を除く。)である点で共通する。

d 一致点
本件発明1と甲C発明(合成例1)とは,次の点で一致する。

<一致点C−2>
金属元素成分を所定量,前記金属元素以外の成分を所定量含有し,金属元素成分中,ニッケル元素を所定量含有するニッケル粒子であって,
走査型電子顕微鏡観察により測定された,前記ニッケル粒子の一次粒子の平均粒子径が20nm〜150nmであるニッケル粒子であり,一次粒子径の変動係数が0.2以下(ただし,甲C発明(合成例1)の変動係数について,その算出に用いた平均粒子径が,「D50」であるかどうか不明である点を除く。)である点。

e 相違点
一方で,本件発明1と甲C発明(合成例1)とは,次の点で相違する。

(上記ア(オ)の摘示を総合勘案し,特に,上記ア(オ)dに摘示した合成例2のニッケル微粒子Bに着目して,甲C発明(合成例2)を認定し,本件発明1と各引用発明とを対比したとしても,その際の相違点は,次の相違点C−6〜C−10と同旨の内容である。上記ア(オ)dに摘示した合成例3〜8のニッケル微粒子C〜Hに着目して,甲C発明(合成例3)〜甲C発明(合成例8)を認定しても同様である。)

<相違点C−6>
本件発明1では,「金属元素成分の含有量が85〜99質量%であり、前記金属元素以外の成分の含有量が1〜12質量%であるとともに、金属元素成分中、ニッケル元素を80質量%以上含有し、さらに銅、銀、金、白金又はパラジウムから選ばれる1種以上の金属元素を20質量%以下含有する」のに対し,甲C発明(合成例1)では,金属元素成分を所定量,前記金属元素以外の成分を所定量含有し,金属元素成分中,ニッケル元素を所定量含有するものの,上記金属元素成分の含有量の上限及び下限,上記金属元素以外の成分の含有量の上限及び下限,並びに,金属元素成分中におけるニッケル元素の含有量の下限が特定されておらず,さらに銅、銀、金、白金又はパラジウムから選ばれる1種以上の金属元素を20質量%以下含有することが特定されていない点。

<相違点C−7>
本件発明1では,「前記ニッケル粒子を、還元雰囲気下で、25℃から、昇温速度15℃/分で昇温させた際の、600℃〜1000℃における重量減少率が、0.1%未満」であるのに対し,甲C発明(合成例1)では,5%収縮温度が311℃であって,600℃収縮率が14.4%であるものの,上記重量減少率が不明である点。

<相違点C−8>
ニッケル粒子の一次粒子について,本件発明1では,平均粒子径「D50」を測定しているのに対し,甲C発明(合成例1)では,「平均粒子径」を測定しているものの,平均粒子径が「D50」であるかどうかが不明である点。

<相違点C−9>
変動係数の算出(すなわち,標準偏差/平均粒子径)にあたり,平均粒子径が,本件発明1では「D50」であるのに対し,甲C発明(合成例1)では,「D50」であるかどうかが不明である点。

<相違点C−10>
ニッケル粒子の一次粒子に関し,本件発明1では,上記割合(%)が0.1%以下であるのに対し,甲C発明(合成例1)では,上記割合(%)が不明である点。

f 相違点C−6の検討
事案にかんがみ,上記相違点C−6について検討する。

(a)申立人2は,令和3年6月14日に提出の特許異議申立書(以下,「申立書2」という。)の第26頁の「(b)」等において,甲Cの実施例にて作製されたニッケル微粒子A〜Hは,金属元素以外の成分の含有量が1.6〜7.4質量%の範囲内であって,具体的には,甲Cの段落【0086】,等に開示された炭素等の含有量から,ニッケル微粒子A〜Hについて,合計含有量を算出すると,下限値が1.6質量%程度(ニッケル微粒子A)となり,上限値が7.4質量%(ニッケル微粒子G)となる(段落【0086】,【0107】)旨を主張する(以下「主張2−1」という。)。

(b)上記主張2−1について,以下に検討する。
確かに,上記ア(オ)dに摘示したとおり,甲Cの段落【0086】には,「ニッケル微粒子Aの元素分析の結果は、C;0.5、O;1.1、S;<0.1(いずれも、単位は質量%)であった。」と記載されており,上記「0.5」と上記「1.1」とを足せば1.6になる。
また,上記ア(オ)dに摘示したとおり,甲Cの段落【0107】には,「ニッケル微粒子Gの元素分析の結果は、C;3.0、O;3.9、S;0.50(いずれも、単位は質量%)であった。」と記載されており,上記「3.0」と上記「3.9」と上記「0.50」とを足せば7.4になる。

(c)しかしながら,上記段落【0086】,【0107】には,C,O,Sの元素分析の結果しか記載されておらず,その他の元素については含有量が不明である。
よって,上記段落【0086】,【0107】の記載からでは,金属元素以外の成分の含有量について,ニッケル微粒子Aが7.4質量%程度,ニッケル微粒子Hが1.6質量%程度とは定まらず,申立人2の上記主張2−1を採用することができない。

(d)その他に,少なくとも金属元素以外の成分の含有量について,甲Cに相違点C−6が実質的な相違点ではないと考えるに足りる記載や示唆は見あたらず,相違点Cー6は実質的な相違点である。

(e)上記相違点C−6について容易想到性の観点から更に以下検討する。

(f) 甲Cには,上記ア(オ)bに摘示したとおり,MLCCの内部電極層等の用途に有用で、焼結時の熱収縮が抑制されており、焼結開始温度の高い電極材料を提供する旨を目的とすること(段落【0011】),鋭意研究を重ねた結果、粗大粒子が存在せず、粒度分布がシャープな粒子を用いることを前提に、平均粒子径が異なる少なくとも2種類の粒子を組み合わせることで高密度化が可能になり、内部電極層の収縮や膜切れを効果的に抑えることが可能であるとの知見を得て完成するに至ったこと(段落【0012】)が開示されていると認められ,甲C発明(合成例1)は,上記2種類の粒子のうちの一種であると認められるものの,甲Cには,本件発明1のように,上記(ア)g(a)に示した技術思想等に基づき,ニッケル粒子の成分組成を制御することは,記載も示唆もされていない。

(g)その他,甲Cの記載全体を見ても,甲C発明(合成例1)において,相違点C−6に係る本件発明1の発明特定事項に想到することを動機付けるに足りる記載は見あたらない。

(h)甲A〜B,D〜Gにも,甲C発明(合成例1)のニッケル粒子の成分組成を「金属元素成分の含有量が85〜99質量%であり、前記金属元素以外の成分の含有量が1〜12質量%であるとともに、金属元素成分中、ニッケル元素を80質量%以上含有し、さらに銅、銀、金、白金又はパラジウムから選ばれる1種以上の金属元素を20質量%以下含有する」ようにすることを動機付けるに足りる記載は見あたらず,甲A〜B,Dに記載された事項及び周知技術(例えば,甲B,E〜G)を考慮しても動機付けることができるとはいえない。

(i)以上から,甲C発明(合成例1)において,甲A〜B,Dに記載された事項及び周知技術(例えば,甲B,E〜G)を考慮しても,相違点C−6に係る本件発明1の発明特定事項は,当業者が容易になし得たことであるとはいえない。

g 甲C発明(合成例2)〜甲C発明(合成例8)について検討しても,上記a〜fと同様である。

h 小括
したがって,他の相違点について検討するまでもなく,本件発明1は,甲C発明(合成例1)〜甲C発明(合成例8),甲A〜B,Dに記載された事項及び周知技術(例えば,甲B,E〜G)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

カ 本件発明2〜6,8〜11の進歩性について

(ア)本件発明2〜6,8〜11は,いずれも,本件発明1の上記成分組成に関する発明特定事項を含むものであり,少なくとも,甲A発明と相違点A−1と同じ相違点で相違し,甲B発明と,相違点B−1と同じ相違点で相違し,甲C発明(実施の形態)と相違点C−1と同じ相違点で相違し,甲C発明(合成例1)〜甲C発明(合成例8)と相違点C−6と同じ相違点で相違しているといえる。

(イ)上記オで述べたとおり,甲A発明において相違点A−1に係る本件発明1の発明特定事項に至ること,甲B発明において相違点B−1に係る本件発明1の発明特定事項に至ること,甲C発明(実施の形態)において相違点C−1に係る本件発明1の発明特定事項に至ること,甲C発明(合成例1)〜甲C発明(合成例8)において相違点C−6に係る本件発明1の発明特定事項に至ることは,いずれも当業者が容易になし得たことであるといえないので,他の相違点について検討するまでもなく,本件発明2〜6,8〜11は,甲A発明,甲B発明,甲C発明(実施の形態),甲C発明(合成例1)〜甲C発明(合成例8),甲A〜Dに記載された事項及び周知技術(例えば,甲B,E〜G)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

キ 申立理由2,4(進歩性)についてのまとめ
以上から,本件発明1〜6,8〜11は,甲Aに記載された発明,甲Bに記載された発明,甲Cに記載された発明,甲A〜Dに記載された事項及び周知技術(例えば,甲B,E〜G)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって,申立理由2,4(進歩性)によっては本件特許の請求項1〜6,8〜11に係る特許を取り消すことはできない。

(2)申立理由3(サポート要件)について

ア 検討

(ア)発明の詳細な説明の記載(段落【0009】)によれば,本件発明が解決しようとする課題は,平均粒子径が150nm以下であり,粒子径が均一でそのばらつきが小さく,かつ分散性に優れた金属微粒子を提供することであると認められる。

(イ)そして,発明の詳細な説明(段落【0008】,【0010】〜【0021】,【0023】〜【0028】,【0039】,【0044】〜【0045】,【0082】〜【0102】,特に,段落【0021】に,平均粒子径D50,一次粒子径の変動係数,上記割合(%)を,それぞれ所定の数値範囲にすることによる効果が開示されており,また,段落【0023】に,成分組成に関し,粒度分布,凝集の原因となるニッケル粒子の磁性,分散性等に関する作用機序が開示されている。)の記載を考慮すれば,上記課題は,「ニッケル粒子」において,「金属元素成分の含有量が85〜99質量%であり,前記金属元素以外の成分の含有量が1〜12質量%であるとともに、金属元素成分中、ニッケル元素を80質量%以上含有し、さらに銅、銀、金、白金又はパラジウムから選ばれる1種以上の金属元素を20質量%以下含有する」ものとし,走査型電子顕微鏡観察により測定された,前記ニッケル粒子の一次粒子の平均粒子径D50を「20nm〜150nm」とし,一次粒子径の変動係数を「0.2以下」とし,前記平均粒子径D50の2.0倍以上の粒子を「全粒子個数の0.1%以下」とした上で,前記ニッケル粒子を,「還元雰囲気下で、25℃から、昇温速度15℃/分で昇温させた際の、600℃〜1000℃における重量減少率が、0.1%未満」とすること,又は,「不活性雰囲気下で、25℃から、昇温速度15℃/分で昇温させた際の、200℃〜400℃における重量減少率が、25℃〜1000℃における重量減少率の50%〜70%であり、かつ、還元雰囲気下で、25℃から、昇温速度15℃/分で昇温させた際の、25℃〜300℃の重量減少率が、25℃〜1000℃における重量減少率の85%以上」とすることによって,解決できることが理解できる。

(ウ)そうすると,発明の詳細な説明の記載を総合すれば,上記(イ)の各要件を備える本件発明1〜6,8〜11は,発明の詳細な説明に記載されたものであり,当業者が,出願時の技術常識に照らして,発明の詳細な説明の記載により上記課題を解決できると認識できる範囲のものということができる。

(エ)したがって,本件発明1〜6,8〜11については,特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものである。

イ サポート要件に関する申立書1における申立人1の主張
申立人1は,申立書1の第32頁第18行〜第34頁第28行の「(ア)特許法第36条第6項第1号」において次の主張をする(主張を整理するために以下(ア)〜(ウ)のとおり,便宜的に主張(その1)〜主張(その3)に区分する。)。

(ア)主張(その1)の要旨
申立人1は,訂正前の請求項1に係る発明の「さらに銅、銀、金、白金又はパラジウムから選ばれる1種以上の金属元素を20質量%以下含有する」との発明特定事項(申立人1は「発明特定事項D」としている。)について,申立書1の第32頁第18行〜第33頁第7行において,発明の詳細な説明の段落【0023】,【0044】,【0047】,実施例(段落【0090】)の記載内容を摘示した上で,申立書1の第33頁第8〜25行において,
「第1に、発明特定事項Dに関して、本件特許明細書では、ニッケル以外の金属元素が銅である場合のみが実証されており、銅以外の銀、金、白金、パラジウムについては何らの実証がなされていない。特に、段落0023の記載より、銅と、銀、金、白金、パラジウムとでは、粗大粒子の存在と粒度分布に差が生じるものと思われるが、銀、金、白金、パラジウムの含有するニッケル粒子が、銅を含有するニッケル粒子と同様に発明特定事項F、G、Hをすべて具備するかどうかは、本件特許明細書からは不明である。
第2に、段落0044および段落0047では、工程Iにおいて銅の存在が必須とされており、銀、金、白金、パラジウムは追加的な金属元素成分とされている。したがって、銅と銀、金、白金、パラジウムの少なくとも1種との両方を含む場合はいざしらず、銅に代替して銀、金、白金、パラジウムを適用した場合にまで、銅と同様の作用効果が得られるとの認識が本件特許発明の発明者にあったということはできない。
よって、発明特定事項Dのうち、銅以外の銀、金、白金又はパラジウムから選ばれる1種以上の金属元素を包含する場合を包含する本件特許発明1の範囲にまで、出願時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないため、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものとは認められない。」
との旨を主張する(以下「主張(その1)」という。)。

(当審注;申立書1の第15頁から,申立人1の主張する上記発明特定事項Fとは,訂正前の請求項1に記載の「走査型電子顕微鏡観察により測定された、前記ニッケル粒子の一次粒子の平均粒子径D50が20nm〜150nmであり、」という事項であり,上記発明特定事項Gとは,訂正前の請求項1に記載の「一次粒子径の変動係数が、0.2以下であり、」という事項であり,上記発明特定事項Hとは,訂正前の請求項1に記載の「前記平均粒子径D50の2.0倍以上の粒子が、全粒子個数の0.1%以下である」という事項であると認められる。)。

(イ)主張(その2)の要旨
申立人1は,申立書1の第33頁第26行〜第34頁第21行において,発明の詳細な説明に開示された比較例1が,訂正前の請求項1に係る発明の各発明特定事項を具備する旨や上記比較例1が分散性に大きく劣っており,本件発明の作用効果を奏しない旨を説示した上で,申立書1の第34頁第22〜26行において,
「よって、比較例1のように本件特許発明の作用効果を奏しないことが明らかなニッケル粒子までも包含する本件特許発明1の範囲まで、出願時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないため、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものとは認められない。」
との旨を主張する(以下「主張(その2)」という。)。

(ウ)主張(その3)の要旨
申立人1は,上記主張(その1)ないし上記主張(その2)に続けて,申立書1の第34頁第27〜28行において,
「同様に、本件特許発明1を引用する本件特許発明2〜11のいずれも、発明の詳細な説明に記載されたものとは認められない。」
との旨を主張する(以下「主張(その3)」という。)。

ウ 上記主張(その1)〜主張(その3)についての当審の判断
以下(ア)〜(ウ)のとおり,上記主張(その1)〜主張(その3)については,採用できないものであるか,あるいは,その主張に基づく取消理由が解消しているものである。

(ア)主張(その1)についての当審の判断

a 申立人1が上記イ(ア)で指摘するように,確かに,発明の詳細な説明の実施例(段落【0082】〜【0101】)において,ニッケル粒子に含まれるニッケル以外の金属元素が銅である場合についてのみ開示されている。

b しかしながら,以下(a)〜(b)のとおり,発明の詳細な説明の記載から,銅,銀,金,白金,パラジウムについて共通の作用があることが理解できる。

(a)上記第3 2(2)に摘示した発明の詳細な説明【0023】の記載から,銅,銀,金,白金,パラジウムについては,ニッケル粒子に,単独又は2種以上含有されることにより,粗大粒子が極めて少なく,粒度分布のシャープな粒子を合成しやすいという共通の作用を有し,また,上記ニッケル以外の金属は,凝集の原因となるニッケル粒子の磁性を弱め,分散性の向上に寄与するという共通の作用を有することが理解できる。

(b)上記第3 2(3)に摘示した発明の詳細な説明【0044】の記載等から,上記工程IVにおいて,ニッケル粒子の成長の核として機能する種粒子は,銅とニッケルとの標準電極電位の相違から,まず,核となる銅粒子が形成され,次に,銅粒子の表面にニッケル被膜が形成されることにより,種粒子が得られると認められるところ,一般的に,銅,銀,金,白金,パラジウムの各標準電極電位が,いずれもニッケルより高いことを考慮すれば,種粒子の形成に際しても,銅,銀,金,白金,パラジウムが,共通の作用を示すことは自明である。

c そして,上記共通の作用及び実施例の記載を含め,発明の詳細な説明の記載等を総合すれば,本件発明1が,発明の詳細な説明に記載されたものであって,当業者が,出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により,本件発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものということができることは上記アのとおりである。

d よって,申立人1の主張(その1)を採用することができない。

(イ)主張(その2)についての当審の判断
申立人1の上記主張(その2)については取消理由A(サポート要件)として採用され,上記第4 2のとおり取消理由通知で通知された。そして,上記1のとおり,本件訂正による訂正後の本件発明1は,上記比較例1を,その範囲内に包含していないものであるから,上記主張(その2)に基づく取消理由は解消している。

(ウ)主張(その3)についての当審の判断
本件発明2〜6,8〜11についても,上記(ア)〜(イ)と同様に検討すると,上記主張(その3)は,採用できないもの(上記(ア)を参照。)であるか,あるいは,その主張に基づく取消理由が解消しているもの(上記(イ)を参照。)である。

エ 令和 4年 1月21日提出の意見書における申立人1の主張について
申立人1は,上記意見書の第2頁第12行〜第7頁第1行の「(1)サポート要件について」において,以下(ア)の主張(以下,主張(その4)という。)等をするものの,以下(イ)のとおり,主張(その4)を採用することができず,また,主張(その4)以外の主張は,いずれも,訂正により追加された事項についての見解など訂正の請求の内容に付随して生じる理由に係るものではなく,適切な取消理由を構成することが一見して明らかな場合に係るものでもないから,実質的に新たな理由を主張するものといえるため,採用しない。

(ア)主張(その4)の要旨
申立人1は,上記意見書の第2頁第14行〜第4頁第12行において,令和 3年 9月27日付け審尋の内容,上記審尋に対する特許権者の令和3年11月29日付け回答書の内容(第2頁の(2),第3頁の(4),第1頁ないし第2頁の(1)),発明の詳細な説明の段落【0023】の記載内容等を摘示しつつ,次の主張をする。

・主張(その4)
上記段落【0023】に列挙されている各種金属から,銅,銀,金,白金又はパラジウムの添加元素を選択的に採用する理由が存在しないとの旨,銅の反磁性が磁性を弱めることに影響しているのであれば,少なくとも白金やパラジウムの常磁性金属について銅元素と同様の作用機序を生ずるといえるのか疑問が生ずるとの旨,銀,金,白金,パラジウムに関して,上記各種金属全般から選択すべき特性が実証されていないというべきであるとの旨,銀,金,白金又はパラジウムを含むニッケル粒子に,銅を含むニッケル粒子と同様の作用機序があるとはいえないとの旨の主張。

(イ) 主張(その4)についての当審の判断
まず,上記第3 2(2)に摘示したとおり,発明の詳細な説明の段落【0023】には,「これらのニッケル以外の金属は、単独でもよく、又は2種以上含有していてもよい。好ましくは、『粗大粒子が極めて少なく、粒度分布のシャープな粒子を合成しやすい』などいう理由から、銅、銀、金、白金又はパラジウムであり、・・・」と記載されており,少なくともこの点で,上記各種金属の中から銅,銀,金,白金又はパラジウムの添加元素を選択的に採用する理由が存在しているということができる。
次に,発明の詳細な説明には,銅の反磁性がニッケル粒子の磁性を弱めることについては何も記載されておらず,ニッケル粒子の磁性を弱める原因が,銅の反磁性であると断定するに足りる根拠も見あたらない。
そして,発明の詳細な説明において,銀,金,白金又はパラジウムを含むニッケル粒子に関する実施例による実証について記載されていないものの,上記ウ(ア)において示したとおり,銀,金,白金,パラジウムに関する作用機序について十分に説明されている。
以上のとおりであるから,主張(その4)を採用することができない。

オ 申立理由3(サポート要件)についてのまとめ
申立人1の申立理由3(サポート要件)に関する主張については,上記イ〜エのとおりであり,また,申立人2は申立理由3(サポート要件)に関する主張をしておらず,上記アのとおり,本件発明1〜6,8〜11については,特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものである。
したがって,申立理由3(サポート要件)によっては,請求項1〜6,8〜11に係る特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおり,当審が通知した取消理由,及び,申立書1,2に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1〜6,8〜11に係る特許を取り消すことはできず,外に本件特許の請求項1〜6,8〜11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また,本件特許の請求項7は訂正により削除されたため,請求項7に係る特許に対して申立人1,2がした特許異議の申立てについては,対象となる請求項が存在しない不適法な特許異議の申立てであって,その補正をすることができないものであるから,特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって,結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属元素成分の含有量が85〜99質量%であり、前記金属元素以外の成分の含有量が1〜12質量%であるとともに、金属元素成分中、ニッケル元素を80質量%以上含有し、さらに銅、銀、金、白金又はパラジウムから選ばれる1種以上の金属元素を20質量%以下含有するニッケル粒子であって、
前記ニッケル粒子を、還元雰囲気下で、25℃から、昇温速度15℃/分で昇温させた際の、600℃〜1000℃における重量減少率が、0.1%未満であり、
走査型電子顕微鏡観察により測定された、前記ニッケル粒子の一次粒子の平均粒子径D50が20nm〜150nmであり、一次粒子径の変動係数が、0.2以下であり、前記平均粒子径D50の2.0倍以上の粒子が、全粒子個数の0.1%以下であるニッケル粒子。
【請求項2】
前記金属元素成分が、ニッケル及び銅である、請求項1に記載のニッケル粒子。
【請求項3】
前記金属元素成分において、ニッケル及び銅の質量比(ニッケル:銅)が、99.99〜80.00:0.01〜20.00である、請求項2に記載のニッケル粒子。
【請求項4】
前記一次粒子の平均粒子径D50が30〜100nmである、請求項1に記載のニッケル粒子。
【請求項5】
前記金属元素以外の成分が、炭素、窒素、水素、酸素、硫黄及びリンからなる群から選ばれたいずれか1種又は2種以上である、請求項1に記載のニッケル粒子。
【請求項6】
前記ニッケル粒子の表面に、アミン化合物、アミド化合物及びニトリル化合物からなる群から選ばれたいずれか1種又は2種以上が付着している、請求項1に記載のニッケル粒子。
【請求項7】(削除)
【請求項8】
金属元素成分の含有量が85〜99質量%であり、前記金属元素以外の成分の含有量が1〜12質量%であるとともに、金属元素成分中、ニッケル元素を80質量%以上含有し、さらに銅、銀、金、白金又はパラジウムから選ばれる1種以上の金属元素を20質量%以下含有するニッケル粒子であって、
前記ニッケル粒子を、不活性雰囲気下で、25℃から、昇温速度15℃/分で昇温させた際の、200℃〜400℃における重量減少率が、25℃〜1000℃における重量減少率の50%〜70%であり、かつ、還元雰囲気下で、25℃から、昇温速度15℃/分で昇温させた際の、25℃〜300℃の重量減少率が、25℃〜1000℃における重量減少率の85%以上であり、
走査型電子顕微鏡観察により測定された、前記ニッケル粒子の一次粒子の平均粒子径D50が20nm〜150nmであり、一次粒子径の変動係数が、0.2以下であり、前記平均粒子径D50の2.0倍以上の粒子が、全粒子個数の0.1%以下であるニッケル粒子。
【請求項9】
請求項1から6、8のいずれか1項に記載のニッケル粒子を含有する導電性ペースト。
【請求項10】
請求項1から6、8のいずれか1項に記載のニッケル粒子をペースト化し、セラミック基板上に印刷した積層セラミックコンデンサ用の内部電極。
【請求項11】
請求項10に記載の内部電極とセラミック誘電体とを交互に層状に重ねて圧着し、焼成 して一体化させた積層セラミックコンデンサ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-03-28 
出願番号 P2016-072630
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (B22F)
P 1 651・ 121- YAA (B22F)
P 1 651・ 113- YAA (B22F)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 平塚 政宏
特許庁審判官 祢屋 健太郎
粟野 正明
登録日 2020-11-26 
登録番号 6799936
権利者 日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
発明の名称 ニッケル粒子、導電性ペースト、内部電極及び積層セラミックコンデンサ  
代理人 渡邊 和浩  
代理人 渡邊 和浩  

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