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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
管理番号 1385158
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-06-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-04-30 
確定日 2022-03-22 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6779589号発明「リチウムイオン二次電池の正極活物質、及びリチウムイオン二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6779589号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜6〕、〔7〜16〕について訂正することを認める。 特許第6779589号の請求項2〜4、6、8〜10、12〜14、16に係る特許を維持する。 特許第6779589号の請求項1、5、7、11、15に係る特許についての特許異議申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
本件の特許第6779589号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜16に係る特許についての出願(特願2019−218359号。以下、「本願」という。)は、平成29年11月23日(優先権主張 平成28年11月24日)に出願した特願2017−225271号(以下、「原出願」という。)の一部を令和 1年12月 2日に新たな特許出願としたものであって、令和 2年10月16日にその特許権の設定登録がされ、同年11月 4日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1〜16(全請求項)に係る特許について、令和 3年 4月30日に特許異議申立人 浜 俊彦(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、令和 3年 8月30日付けで取消理由が通知され、同年11月 3日に特許権者による意見書及び訂正請求書が提出されたものである。
なお、当審は、令和 3年12月 7日付けで申立人に対し訂正請求があった旨を通知し、期間を指定して意見書提出の機会を与えたが、申立人から意見書は提出されなかった。

第2 本件訂正請求について
1 訂正請求の趣旨、及び訂正の内容について
令和 3年11月 3日に提出された訂正請求書により特許権者が行った訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)は、特許第6779589号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜6、7〜16について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は、以下のとおりである。なお、訂正箇所には、当審が下線を付した。

(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2に「コバルト酸リチウムを用いたリチウムイオン二次電池の正極活物質であって、コバルトとアルミニウムを有する第1の領域、及び前記第1の領域の少なくとも一部を被覆したフッ素を有する第2の領域を有し、前記コバルト、アルミニウム、フッ素の少なくとも一は、前記第1の領域と前記第2の領域とにわたって濃度勾配を有し、X線光電子分光測定により得られたフッ素/コバルトの原子数比は、0.05より大きく0.15より小さい、リチウムイオン二次電池の正極活物質。」とあるのを、「コバルト酸リチウムを用いたリチウムイオン二次電池の正極活物質であって、層状岩塩型の結晶構造を有し、コバルトとアルミニウムを有する第1の領域、及び岩塩型の結晶構造を有し、前記第1の領域の少なくとも一部を被覆したマグネシウムとフッ素を有する第2の領域を有し、前記コバルト、アルミニウム、フッ素の少なくとも一は、前記第1の領域と前記第2の領域とにわたって濃度勾配を有し、前記第2の領域の厚さは、0.5nm以上50nm以下であり、X線光電子分光測定により得られたフッ素/コバルトの原子数比は、0.05より大きく0.15より小さい、リチウムイオン二次電池の正極活物質。」に訂正する。
請求項2の記載を引用する請求項6も同様に訂正する。

(3)訂正事項3
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3に「コバルト酸リチウムを用いたリチウムイオン二次電池の正極活物質であって、コバルトとアルミニウムを有する第1の領域、及び前記第1の領域の少なくとも一部を被覆したマグネシムとフッ素を有する第2の領域を有し、前記コバルト、アルミニウム、マグネシウム、フッ素の少なくとも一は、前記第1の領域と前記第2の領域とにわたって濃度勾配を有する、リチウムイオン二次電池の正極活物質。」とあるのを、「コバルト酸リチウムを用いたリチウムイオン二次電池の正極活物質であって、層状岩塩型の結晶構造を有し、コバルトとアルミニウムを有する第1の領域、及び岩塩型の結晶構造を有し、前記第1の領域の少なくとも一部を被覆したマグネシウムとフッ素を有する第2の領域を有し、前記コバルト、アルミニウム、マグネシウム、フッ素の少なくとも一は、前記第1の領域と前記第2の領域とにわたって濃度勾配を有し、前記第2の領域の厚さは、0.5nm以上50nm以下である、リチウムイオン二次電池の正極活物質。」に訂正する。
請求項3の記載を引用する請求項6も同様に訂正する。

(4)訂正事項4
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4に「コバルト酸リチウムを用いたリチウムイオン二次電池の正極活物質であって、コバルトとアルミニウムを有する第1の領域、及び前記第1の領域の少なくとも一部を被覆したマグネシウムとフッ素を有する第2の領域を有し、前記コバルト、アルミニウム、マグネシウム、フッ素の少なくとも一は、前記第1の領域と前記第2の領域とにわたって濃度勾配を有し、X線光電子分光測定により得られたマグネシウム/コバルトの原子数比は、0.25より大きく0.3より小さい、リチウムイオン二次電池の正極活物質。」とあるのを、「コバルト酸リチウムを用いたリチウムイオン二次電池の正極活物質であって、層状岩塩型の結晶構造を有し、コバルトとアルミニウムを有する第1の領域、及び岩塩型の結晶構造を有し、前記第1の領域の少なくとも一部を被覆したマグネシウムとフッ素を有する第2の領域を有し、前記コバルト、アルミニウム、マグネシウム、フッ素の少なくとも一は、前記第1の領域と前記第2の領域とにわたって濃度勾配を有し、X線光電子分光測定により得られたマグネシウム/コバルトの原子数比は、0.25より大きく0.3より小さく、前記第2の領域の厚さは、0.5nm以上50nm以下である、リチウムイオン二次電池の正極活物質。」に訂正する。
請求項4の記載を引用する請求項6も同様に訂正する。

(5)訂正事項5
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(6)訂正事項6
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項6に「請求項1乃至請求項5のいずれか一において、X線光電子分光測定により得られた、リチウム/コバルトの原子数比は0.5より大きく、0.85より小さい、リチウムイオン二次電池の正極活物質。」とあるのを、「請求項2乃至4のいずれか一において、X線光電子分光測定により得られた、リチウム/コバルトの原子数比は0.5より大きく、0.85より小さい、リチウムイオン二次電池の正極活物質。」に訂正する。

(7)訂正事項7
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項7を削除する。

(8)訂正事項8
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項8に「正極及び負極を備えたリチウムイオン二次電池であって、前記正極は、コバルト酸リチウムを用いた正極活物質を有し、前記正極活物質は、コバルトとアルミニウムを有する第1の領域、及び前記第1の領域の少なくとも一部を被覆したフッ素を有する第2の領域を有し、前記コバルト、アルミニウム、フッ素の少なくとも一は、前記第1の領域と前記第2の領域とにわたって濃度勾配を有し、X線光電子分光測定により得られたフッ素/コバルトの原子数比は、0.05より大きく0.15より小さい、リチウムイオン二次電池。」とあるのを、「正極及び負極を備えたリチウムイオン二次電池であって、前記正極は、コバルト酸リチウムを用いた正極活物質を有し、前記正極活物質は、層状岩塩型の結晶構造を有し、コバルトとアルミニウムを有する第1の領域、及び岩塩型の結晶構造を有し、前記第1の領域の少なくとも一部を被覆したマグネシウムとフッ素を有する第2の領域を有し、前記コバルト、アルミニウム、フッ素の少なくとも一は、前記第1の領域と前記第2の領域とにわたって濃度勾配を有し、前記第2の領域の厚さは、0.5nm以上50nm以下であり、X線光電子分光測定により得られたフッ素/コバルトの原子数比は、0.05より大きく0.15より小さい、リチウムイオン二次電池。」に訂正する。
請求項8の記載を引用する請求項16も同様に訂正する。

(9)訂正事項9
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項9に「正極及び負極を備えたリチウムイオン二次電池であって、前記正極は、コバルト酸リチウムを用いた正極活物質を有し、前記正極活物質は、コバルトとアルミニウムを有する第1の領域、及び前記第1の領域の少なくとも一部を被覆したマグネシウムとフッ素を有する第2の領域を有し、前記コバルト、アルミニウム、マグネシウム、フッ素の少なくとも一は、前記第1の領域と前記第2の領域とにわたって濃度勾配を有する、リチウムイオン二次電池。」とあるのを、「正極及び負極を備えたリチウムイオン二次電池であって、前記正極は、コバルト酸リチウムを用いた正極活物質を有し、前記正極活物質は、層状岩塩型の結晶構造を有し、コバルトとアルミニウムを有する第1の領域、及び岩塩型の結晶構造を有し、前記第1の領域の少なくとも一部を被覆したマグネシウムとフッ素を有する第2の領域を有し、前記コバルト、アルミニウム、マグネシウム、フッ素の少なくとも一は、前記第1の領域と前記第2の領域とにわたって濃度勾配を有し、前記第2の領域の厚さは、0.5nm以上50nm以下である、リチウムイオン二次電池。」に訂正する。
請求項9の記載を引用する請求項16も同様に訂正する。

(10)訂正事項10
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項10に「正極及び負極を備えたリチウムイオン二次電池であって、前記正極は、コバルト酸リチウムを用いた正極活物質を有し、前記正極活物質は、コバルトとアルミニウムを有する第1の領域、及び前記第1の領域の少なくとも一部を被覆したマグネシウムとフッ素を有する第2の領域を有し、前記コバルト、アルミニウム、マグネシウム、フッ素の少なくとも一は、前記第1の領域と前記第2の領域とにわたって濃度勾配を有し、X線光電子分光測定により得られたマグネシウム/コバルトの原子数比は、0.25より大きく0.3より小さい、リチウムイオン二次電池。」とあるのを、「正極及び負極を備えたリチウムイオン二次電池であって、前記正極は、コバルト酸リチウムを用いた正極活物質を有し、前記正極活物質は、層状岩塩型の結晶構造を有し、コバルトとアルミニウムを有する第1の領域、及び岩塩型の結晶構造を有し、前記第1の領域の少なくとも一部を被覆したマグネシウムとフッ素を有する第2の領域を有し、前記コバルト、アルミニウム、マグネシウム、フッ素の少なくとも一は、前記第1の領域と前記第2の領域とにわたって濃度勾配を有し、X線光電子分光測定により得られたマグネシウム/コバルトの原子数比は、0.25より大きく0.3より小さく、前記第2の領域の厚さは、0.5nm以上50nm以下である、リチウムイオン二次電池。」に訂正する。
請求項10の記載を引用する請求項16も同様に訂正する。

(11)訂正事項11
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項11を削除する。

(12)訂正事項12
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項12に「正極及び負極を備えたリチウムイオン二次電池であって、前記正極は、コバルト酸リチウムを用いた正極活物質と、バインダ又は導電助剤と、を有し、前記正極活物質は、コバルトとアルミニウムを有する第1の領域、及び前記第1の領域の少なくとも一部を被覆したフッ素を有する第2の領域を有し、前記第2の領域は、前記第1の領域と前記バインダ又は前記導電助剤を有する第3の領域との間に位置し、前記コバルト、アルミニウム、フッ素の少なくとも一は、前記第1の領域と前記第2の領域とにわたって濃度勾配を有し、X線光電子分光測定により得られたフッ素/コバルトの原子数比は、0.05より大きく0.15より小さい、リチウムイオン二次電池。」とあるのを、「正極及び負極を備えたリチウムイオン二次電池であって、前記正極は、コバルト酸リチウムを用いた正極活物質と、バインダ又は導電助剤と、を有し、前記正極活物質は、層状岩塩型の結晶構造を有し、コバルトとアルミニウムを有する第1の領域、及び岩塩型の結晶構造を有し、前記第1の領域の少なくとも一部を被覆したマグネシウムとフッ素を有する第2の領域を有し、前記第2の領域は、前記第1の領域と前記バインダ又は前記導電助剤を有する第3の領域との間に位置し、前記コバルト、アルミニウム、フッ素の少なくとも一は、前記第1の領域と前記第2の領域とにわたって濃度勾配を有し、前記第2の領域の厚さは、0.5nm以上50nm以下であり、X線光電子分光測定により得られたフッ素/コバルトの原子数比は、0.05より大きく0.15より小さい、リチウムイオン二次電池。」に訂正する。
請求項12の記載を引用する請求項16も同様に訂正する。

(13)訂正事項13
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項13に「正極及び負極を備えたリチウムイオン二次電池であって、前記正極は、コバルト酸リチウムを用いた正極活物質と、バインダ又は導電助剤と、を有し、前記正極活物質は、コバルトとアルミニウムを有する第1の領域、及び前記第1の領域の少なくとも一部を被覆したマグネシウムとフッ素を有する第2の領域を有し、前記第2の領域は、前記第1の領域と前記バインダ又は前記導電助剤を有する第3の領域との間に位置し、前記コバルト、アルミニウム、マグネシウム、フッ素の少なくとも一は、前記第1の領域と前記第2の領域とにわたって濃度勾配を有する、リチウムイオン二次電池。」とあるのを、「正極及び負極を備えたリチウムイオン二次電池であって、前記正極は、コバルト酸リチウムを用いた正極活物質と、バインダ又は導電助剤と、を有し、前記正極活物質は、層状岩塩型の結晶構造を有し、コバルトとアルミニウムを有する第1の領域、及び岩塩型の結晶構造を有し、前記第1の領域の少なくとも一部を被覆したマグネシウムとフッ素を有する第2の領域を有し、前記第2の領域は、前記第1の領域と前記バインダ又は前記導電助剤を有する第3の領域との間に位置し、前記コバルト、アルミニウム、マグネシウム、フッ素の少なくとも一は、前記第1の領域と前記第2の領域とにわたって濃度勾配を有し、前記第2の領域の厚さは、0.5nm以上50nm以下である、リチウムイオン二次電池。」に訂正する。
請求項13の記載を引用する請求項16も同様に訂正する。

(14)訂正事項14
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項14に「正極及び負極を備えたリチウムイオン二次電池であって、前記正極は、コバルト酸リチウムを用いた正極活物質と、バインダ又は導電助剤と、を有し、前記正極活物質は、コバルトとアルミニウムを有する第1の領域、及び前記第1の領域の少なくとも一部を被覆したマグネシウムとフッ素を有する第2の領域を有し、前記第2の領域は、前記第1の領域と前記バインダ又は前記導電助剤を有する第3の領域との間に位置し、前記コバルト、アルミニウム、マグネシウム、フッ素の少なくとも一は、前記第1の領域と前記第2の領域とにわたって濃度勾配を有し、X線光電子分光測定により得られたマグネシウム/コバルトの原子数比は、0.25より大きく0.3より小さい、リチウムイオン二次電池。」とあるのを、「正極及び負極を備えたリチウムイオン二次電池であって、前記正極は、コバルト酸リチウムを用いた正極活物質と、バインダ又は導電助剤と、を有し、前記正極活物質は、層状岩塩型の結晶構造を有し、コバルトとアルミニウムを有する第1の領域、及び岩塩型の結晶構造を有し、前記第1の領域の少なくとも一部を被覆したマグネシウムとフッ素を有する第2の領域を有し、前記第2の領域は、前記第1の領域と前記バインダ又は前記導電助剤を有する第3の領域との間に位置し、前記コバルト、アルミニウム、マグネシウム、フッ素の少なくとも一は、前記第1の領域と前記第2の領域とにわたって濃度勾配を有し、X線光電子分光測定により得られたマグネシウム/コバルトの原子数比は、0.25より大きく0.3より小さく、前記第2の領域の厚さは、0.5nm以上50nm以下である、リチウムイオン二次電池。」に訂正する。
請求項14の記載を引用する請求項16も同様に訂正する。

(15)訂正事項15
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項15を削除する。

(16)訂正事項16
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項16に「請求項7乃至請求項15のいずれか一において、X線光電子分光測定により得られた、リチウム/コバルトの原子数比は0.5より大きく、0.85より小さい、リチウムイオン二次電池。」とあるのを、「請求項8、9、10、12、13、及び14のいずれか一において、X線光電子分光測定により得られた、リチウム/コバルトの原子数比は0.5より大きく、0.85より小さい、リチウムイオン二次電池。」に訂正する。

2 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無
ア 訂正事項1、5、7、11、15について
(ア)訂正の目的について
訂正事項1、5、7、11、15に係る訂正は、訂正前の請求項1、5、7、11、15を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、新規事項追加の有無について
訂正事項1、5、7、11、15に係る訂正は、訂正前の請求項1、5、7、11、15を削除するものであるから、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内での訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。
したがって、訂正事項1、5、7、11、15に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

イ 訂正事項2、8、12について
(ア)訂正の目的について
訂正事項2、8、12に係る訂正は、訂正前の請求項2、8、12に記載された「第1の領域」と「第2の領域」の態様をそれぞれ限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、新規事項追加の有無について
上記(ア)のとおり、訂正事項2、8、12に係る訂正は、訂正前の請求項2、8、12に記載された「第1の領域」と「第2の領域」の態様をそれぞれ限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。
また、訂正後の請求項2、8、12に記載された「第1の領域」が「層状岩塩型の結晶構造を有」するものであること、及び同じく「第2の領域」が「岩塩型の結晶構造を有し」、「マグネシウムを有」するものであって、その厚さが「0.5nm以上50nm以下であ」ることは、それぞれ本件明細書等の【0044】、【0046】、【0049】、【0052】、【0054】、【0087】、【0300】、【0301】に記載された事項であるから、訂正事項2、8、12に係る訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内での訂正である。
したがって、訂正事項2、8、12に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

ウ 訂正事項3について
(ア)訂正の目的について
訂正事項3に係る訂正は、訂正前の請求項3に記載された「第1の領域」と「第2の領域」の態様をそれぞれ限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、また、訂正前の請求項3の記載における「マグネシム」との誤記を「マグネシウム」に訂正するものであるから、同法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものに該当する。

(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、新規事項追加の有無について
上記(ア)のとおり、訂正事項3に係る訂正は、訂正前の請求項3に記載された「第1の領域」と「第2の領域」の態様をそれぞれ限定するとともに、誤記を訂正するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。
また、訂正後の請求項3に記載された「第1の領域」が「層状岩塩型の結晶構造を有」するものであること、及び同じく「第2の領域」が「岩塩型の結晶構造を有し」、「マグネシウムを有」するものであって、その厚さが「0.5nm以上50nm以下であ」ることは、それぞれ本件明細書等の【0044】、【0046】、【0049】、【0052】、【0054】、【0087】、【0300】、【0301】に記載された事項であるから、訂正事項3に係る訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内での訂正である。
したがって、訂正事項3に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

エ 訂正事項4、9、10、13、14について
(ア)訂正の目的について
訂正事項4、9、10、13、14に係る訂正は、訂正前の請求項4、9、10、13、14に記載された「第1の領域」と「第2の領域」の態様をそれぞれ限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、新規事項追加の有無について
上記(ア)のとおり、訂正事項4、9、10、13、14に係る訂正は、訂正前の請求項4、9、10、13、14に記載された「第1の領域」と「第2の領域」の態様をそれぞれ限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。
また、訂正後の請求項4、9、10、13、14に記載された「第1の領域」が「層状岩塩型の結晶構造を有」するものであること、及び同じく「第2の領域」が「岩塩型の結晶構造を有」するものであって、その厚さが「0.5nm以上50nm以下であ」ることは、それぞれ本件明細書等の【0044】、【0046】、【0049】、【0052】、【0054】、【0087】、【0300】、【0301】に記載された事項であるから、訂正事項4、9、10、13、14に係る訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内での訂正である。
したがって、訂正事項4、9、10、13、14に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

オ 訂正事項6について
(ア)訂正事項6に係る訂正は、訂正前の請求項6が請求項1〜5の記載を引用するものであったところ、訂正事項1、5によって請求項1、5が削除されることに伴って、削除される請求項1、5を訂正後の請求項6が引用しないようにするものであるから、特許法第120条の5ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

(イ)上記(ア)のとおり、訂正事項6に係る訂正は、訂正前の請求項6が請求項1〜5の記載を引用するものであったところ、訂正事項1、5によって請求項1、5が削除されることに伴って、削除される請求項1、5を訂正後の請求項6が引用しないようにするものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内での訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。
したがって、訂正事項6に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

カ 訂正事項16について
(ア)訂正事項16に係る訂正は、訂正前の請求項16が請求項7〜15の記載を引用するものであったところ、訂正事項7、11、15によって請求項7、11、15が削除されることに伴って、削除される請求項7、11、15を訂正後の請求項6が引用しないようにするものであるから、特許法第120条の5ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

(イ)上記(ア)のとおり、訂正事項16に係る訂正は、訂正前の請求項16が請求項7〜15の記載を引用するものであったところ、訂正事項7、11、15によって請求項7、11、15が削除されることに伴って、削除される請求項7、11、15を訂正後の請求項16が引用しないようにするものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内での訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。
したがって、訂正事項16に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(2)一群の請求項について
ア 本件訂正前の請求項1〜6について
(ア)本件訂正前の請求項1、5、6について、訂正前の請求項5、6はそれぞれ訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1、5、6は、一群の請求項である。

(イ)本件訂正前の請求項2、5、6について、訂正前の請求項5、6はそれぞれ訂正前の請求項2を直接又は間接的に引用するものであって、請求項2の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項2、5、6は、一群の請求項である。

(ウ)本件訂正前の請求項3、5、6について、訂正前の請求項5、6はそれぞれ訂正前の請求項3を直接又は間接的に引用するものであって、請求項3の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項3、5、6は、一群の請求項である。

(エ)本件訂正前の請求項4、5、6について、訂正前の請求項5、6はそれぞれ訂正前の請求項4を直接又は間接的に引用するものであって、請求項4の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項4、5、6は、一群の請求項である。

(オ)そして、上記(ア)〜(エ)の各一群の請求項は、共通する請求項5、6を有しているから、組み合わされて、本件訂正前の請求項1〜6が一つの一群の請求項を構成する。

イ 本件訂正前の請求項7〜16について
(ア)本件訂正前の請求項7、15、16について、訂正前の請求項15、16はそれぞれ訂正前の請求項7を直接又は間接的に引用するものであって、請求項7の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項7、15、16は、一群の請求項である。

(イ)本件訂正前の請求項8、15、16について、訂正前の請求項15、16はそれぞれ訂正前の請求項8を直接又は間接的に引用するものであって、請求項8の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項8、15、16は、一群の請求項である。

(ウ)本件訂正前の請求項9、15、16について、訂正前の請求項15、16はそれぞれ訂正前の請求項9を直接又は間接的に引用するものであって、請求項9の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項9、15、16は、一群の請求項である。

(エ)本件訂正前の請求項10、15、16について、訂正前の請求項15、16はそれぞれ訂正前の請求項10を直接又は間接的に引用するものであって、請求項10の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項10、15、16は、一群の請求項である。

(オ)本件訂正前の請求項11、15、16について、訂正前の請求項15、16はそれぞれ訂正前の請求項11を直接又は間接的に引用するものであって、請求項11の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項11、15、16は、一群の請求項である。

(カ)本件訂正前の請求項12、15、16について、訂正前の請求項15、16はそれぞれ訂正前の請求項12を直接又は間接的に引用するものであって、請求項12の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項12、15、16は、一群の請求項である。

(キ)本件訂正前の請求項13、15、16について、訂正前の請求項15、16はそれぞれ訂正前の請求項13を直接又は間接的に引用するものであって、請求項13の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項13、15、16は、一群の請求項である。

(ク)本件訂正前の請求項14、15、16について、訂正前の請求項15、16はそれぞれ訂正前の請求項14を直接又は間接的に引用するものであって、請求項14の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項14、15、16は、一群の請求項である。

(ケ)そして、上記(ア)〜(ク)の各一群の請求項は、共通する請求項15、16を有しているから、組み合わされて、本件訂正前の請求項7〜16が一つの一群の請求項を構成する。

ウ そして、本件訂正請求は、上記ア(オ)、及び上記イ(ケ)のとおりの、一群の請求項ごとに訂正の請求をするものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。

エ また、本件訂正請求は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、訂正後の請求項〔1〜6〕、〔7〜16〕を訂正単位とする訂正を請求するものである。

(3)独立特許要件について
本件は、訂正前の全請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1〜16について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

3 本件訂正請求についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び第9項において準用する同法第126条第4項から第6項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜6〕、〔7〜16〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2の3のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるから、本件訂正請求によって訂正された請求項1〜16に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明16」といい、総称して「本件発明」ということがある。)は、その訂正特許請求の範囲の請求項1〜16に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
コバルト酸リチウムを用いたリチウムイオン二次電池の正極活物質であって、
層状岩塩型の結晶構造を有し、コバルトとアルミニウムを有する第1の領域、及び岩塩型の結晶構造を有し、前記第1の領域の少なくとも一部を被覆したマグネシウムとフッ素を有する第2の領域を有し、
前記コバルト、アルミニウム、フッ素の少なくとも一は、前記第1の領域と前記第2の領域とにわたって濃度勾配を有し、
前記第2の領域の厚さは、0.5nm以上50nm以下であり、
X線光電子分光測定により得られたフッ素/コバルトの原子数比は、0.05より大きく0.15より小さい、リチウムイオン二次電池の正極活物質。
【請求項3】
コバルト酸リチウムを用いたリチウムイオン二次電池の正極活物質であって、
層状岩塩型の結晶構造を有し、コバルトとアルミニウムを有する第1の領域、及び岩塩型の結晶構造を有し、前記第1の領域の少なくとも一部を被覆したマグネシウムとフッ素を有する第2の領域を有し、
前記コバルト、アルミニウム、マグネシウム、フッ素の少なくとも一は、前記第1の領域と前記第2の領域とにわたって濃度勾配を有し、
前記第2の領域の厚さは、0.5nm以上50nm以下である、リチウムイオン二次電池の正極活物質。
【請求項4】
コバルト酸リチウムを用いたリチウムイオン二次電池の正極活物質であって、
層状岩塩型の結晶構造を有し、コバルトとアルミニウムを有する第1の領域、及び岩塩型の結晶構造を有し、前記第1の領域の少なくとも一部を被覆したマグネシウムとフッ素を有する第2の領域を有し、
前記コバルト、アルミニウム、マグネシウム、フッ素の少なくとも一は、前記第1の領域と前記第2の領域とにわたって濃度勾配を有し、
X線光電子分光測定により得られたマグネシウム/コバルトの原子数比は、0.25より大きく0.3より小さく、
前記第2の領域の厚さは、0.5nm以上50nm以下である、リチウムイオン二次電池の正極活物質。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
請求項2乃至請求項4のいずれか一において、
X線光電子分光測定により得られた、リチウム/コバルトの原子数比は0.5より大きく、0.85より小さい、リチウムイオン二次電池の正極活物質。
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
正極及び負極を備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、コバルト酸リチウムを用いた正極活物質を有し、
前記正極活物質は、層状岩塩型の結晶構造を有し、コバルトとアルミニウムを有する第1の領域、及び岩塩型の結晶構造を有し、前記第1の領域の少なくとも一部を被覆したマグネシウムとフッ素を有する第2の領域を有し、
前記コバルト、アルミニウム、フッ素の少なくとも一は、前記第1の領域と前記第2の領域とにわたって濃度勾配を有し、
前記第2の領域の厚さは、0.5nm以上50nm以下であり、
X線光電子分光測定により得られたフッ素/コバルトの原子数比は、0.05より大きく0.15より小さい、リチウムイオン二次電池。
【請求項9】
正極及び負極を備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、コバルト酸リチウムを用いた正極活物質を有し、
前記正極活物質は、層状岩塩型の結晶構造を有し、コバルトとアルミニウムを有する第1の領域、及び岩塩型の結晶構造を有し、前記第1の領域の少なくとも一部を被覆したマグネシウムとフッ素を有する第2の領域を有し、
前記コバルト、アルミニウム、マグネシウム、フッ素の少なくとも一は、前記第1の領域と前記第2の領域とにわたって濃度勾配を有し、
前記第2の領域の厚さは、0.5nm以上50nm以下である、リチウムイオン二次電池。
【請求項10】
正極及び負極を備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、コバルト酸リチウムを用いた正極活物質を有し、
前記正極活物質は、層状岩塩型の結晶構造を有し、コバルトとアルミニウムを有する第1の領域、及び岩塩型の結晶構造を有し、前記第1の領域の少なくとも一部を被覆したマグネシウムとフッ素を有する第2の領域を有し、
前記コバルト、アルミニウム、マグネシウム、フッ素の少なくとも一は、前記第1の領域と前記第2の領域とにわたって濃度勾配を有し、
X線光電子分光測定により得られたマグネシウム/コバルトの原子数比は、0.25より大きく0.3より小さく、
前記第2の領域の厚さは、0.5nm以上50nm以下である、リチウムイオン二次電池。
【請求項11】
(削除)
【請求項12】
正極及び負極を備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、コバルト酸リチウムを用いた正極活物質と、バインダ又は導電助剤と、を有し、
前記正極活物質は、層状岩塩型の結晶構造を有し、コバルトとアルミニウムを有する第1の領域、及び岩塩型の結晶構造を有し、前記第1の領域の少なくとも一部を被覆したマグネシウムとフッ素を有する第2の領域を有し、
前記第2の領域は、前記第1の領域と前記バインダ又は前記導電助剤を有する第3の領域との間に位置し、
前記コバルト、アルミニウム、フッ素の少なくとも一は、前記第1の領域と前記第2の領域とにわたって濃度勾配を有し、
前記第2の領域の厚さは、0.5nm以上50nm以下であり、
X線光電子分光測定により得られたフッ素/コバルトの原子数比は、0.05より大きく0.15より小さい、リチウムイオン二次電池。
【請求項13】
正極及び負極を備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、コバルト酸リチウムを用いた正極活物質と、バインダ又は導電助剤と、を有し、
前記正極活物質は、層状岩塩型の結晶構造を有し、コバルトとアルミニウムを有する第1の領域、及び岩塩型の結晶構造を有し、前記第1の領域の少なくとも一部を被覆したマグネシウムとフッ素を有する第2の領域を有し、
前記第2の領域は、前記第1の領域と前記バインダ又は前記導電助剤を有する第3の領域との間に位置し、
前記コバルト、アルミニウム、マグネシウム、フッ素の少なくとも一は、前記第1の領域と前記第2の領域とにわたって濃度勾配を有し、
前記第2の領域の厚さは、0.5nm以上50nm以下である、リチウムイオン二次電池。
【請求項14】
正極及び負極を備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、コバルト酸リチウムを用いた正極活物質と、バインダ又は導電助剤と、を有し、
前記正極活物質は、層状岩塩型の結晶構造を有し、コバルトとアルミニウムを有する第1の領域、及び岩塩型の結晶構造を有し、前記第1の領域の少なくとも一部を被覆したマグネシウムとフッ素を有する第2の領域を有し、
前記第2の領域は、前記第1の領域と前記バインダ又は前記導電助剤を有する第3の領域との間に位置し、
前記コバルト、アルミニウム、マグネシウム、フッ素の少なくとも一は、前記第1の領域と前記第2の領域とにわたって濃度勾配を有し、
X線光電子分光測定により得られたマグネシウム/コバルトの原子数比は、0.25より大きく0.3より小さく、
前記第2の領域の厚さは、0.5nm以上50nm以下である、リチウムイオン二次電池。
【請求項15】
(削除)
【請求項16】
請求項8、9、10、12、13、及び14のいずれか一において、
X線光電子分光測定により得られた、リチウム/コバルトの原子数比は0.5より大きく、0.85より小さい、リチウムイオン二次電池。」

第4 特許異議の申立てについて
1 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、後記する甲第1号証乃至甲第5号証を提出し、以下の理由により、本件訂正前の請求項1〜16に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

(1)申立理由1(明確性)(取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1〜16に係る発明は、第1の領域と第2の領域とにわたってフッ素が濃度勾配を有している場合には、第1の領域及び第2の領域はフッ素を含むため、第1の領域と第2の領域との境界をどのように定めたらいいのか不明確であり、明確であるとはいえないものであるから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

(2)申立理由2(新規性)、申立理由3(進歩性)(取消理由として不採用)
本件特許に係る分割出願は分割要件を満たさず、本件訂正前の請求項1〜16に係る発明は、本件特許の原出願の公開公報である甲第1号証に記載された発明であるか、又は甲第1号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第1項第3号又は第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

(3)申立理由4(サポート要件)
ア 申立理由4−1(取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1〜16に係る発明には、第1の領域がリチウム及び酸素を有しない態様、並びに第2の領域が酸素を有しない態様が含まれ得るところ、正極活物質の組成によってサイクル特性が変化することが技術常識であることを考慮すれば、第1の領域がリチウム及び酸素を有しない場合や、第2の領域が酸素を有しない場合においても、本件発明の課題を解決できるとは、当業者であっても認識できない。
したがって、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1〜16の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものとはいえないものであるから、同請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

イ 申立理由4−2(取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1〜16に係る発明には、第1の領域がアルミニウムを含む態様が含まれ得るところ、本願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)には、実施例として、第1の領域がアルミニウムを含まない場合の例が開示されているのみであり、正極活物質の組成によってサイクル特性が変化することが技術常識であることを考慮すれば、第1の領域がアルミニウムを含む場合においても、本件発明の課題を解決できるとは、当業者であっても認識できない。
したがって、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1〜16の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものとはいえないものであるから、同請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

ウ 申立理由4−3(取消理由として採用)
本件訂正前の請求項1、2、5〜8、11、12、15、16に係る発明には、第2の領域がマグネシウムを含まない態様が含まれ得るところ、本件明細書には、XPS分析により正極活物質粒子からMgが検出されないSample10において、エネルギー密度の維持率が低下することが示されており、第2の領域がマグネシウムを含まない場合においても、本件発明の課題を解決できるとは、当業者であっても認識できない。
したがって、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1、2、5〜8、11、12、15、16の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものとはいえないものであるから、同請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

エ 申立理由4−4(取消理由として採用)
本件訂正前の請求項1〜3、5〜9、11〜13、15、16に係る発明には、(Mg/Co)がいかなる値の正極活物質であっても含まれ得るところ、本件明細書には、(Mg/Co)が0.25未満であるSample8〜10において、エネルギー密度の維持率が低下することが示されており、(Mg/Co)が0.25未満である場合においても、本件発明の課題を解決できるとは、当業者であっても認識できない。
したがって、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1〜3、5〜9、11〜13、15、16の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものとはいえないものであるから、同請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

オ 申立理由4−5(取消理由として採用)
本件訂正前の請求項1、3〜7、9〜11、13〜16に係る発明には、フッ素/コバルトの原子数比がいかなる値の正極活物質であっても含まれ得るところ、本件明細書には、フッ素/コバルトの原子数比が0.15を超えるSample8〜10において、エネルギー密度の維持率が低下することが示されており、フッ素/コバルトの原子数比が0.15を超える場合においても、本件発明の課題を解決できるとは、当業者であっても認識できない。
したがって、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1、3〜7、9〜11、13〜16の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものとはいえないものであるから、同請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

(4)申立理由5(実施可能要件
ア 申立理由5−1(取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1〜16に係る発明には、第1の領域がリチウム及び酸素を有しない態様、並びに第2の領域が酸素を有しない態様が含まれ得るところ、本件明細書の発明の詳細な説明には、第1の領域がリチウム及び酸素を有しない態様、並びに第2の領域が酸素を有しない態様が開示されておらず、どのようにして、第1の領域がリチウム及び酸素を有しない正極活物質や、第2の領域が酸素を有しない正極活物質が得られるのか、当業者にとっても理解することができない。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件訂正前の請求項1〜16に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたとはいえないものであるから、同請求項に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

イ 申立理由5−2(取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1、2、5〜8、11、12、15、16に係る発明には、第2の領域がマグネシウムを含まない態様が含まれ得るところ、本件明細書の発明の詳細な説明には、第2の領域がマグネシウムを含まない態様が開示されておらず、本件明細書の段落[0087]の記載も考慮すれば、どのようにして、第2の領域がマグネシウムを含まない正極活物質が得られるのか、当業者にとっても理解することができない。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件訂正前の請求項1、2、5〜8、11、12、15、16に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたとはいえないものであるから、同請求項に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

(5)申立理由6(進歩性)(取消理由として採用)
本件訂正前の請求項1、3、7、9、11、13に係る発明は、甲第2号証に記載された発明、及び周知技術(甲第3号証、甲第4号証)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

(6)申立理由7(新規性)、申立理由8(進歩性)(取消理由として採用)
本件訂正前の請求項1、3、7、9、11、13に係る発明は、甲第5号証に記載された発明であるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
また、本件訂正前の請求項11、13に係る発明は、甲第5号証に記載された発明、及び周知技術(甲第3号証、甲第4号証)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

<証拠方法>
甲第1号証:特開2018−88407号公報
甲第2号証:特開2011−129498号公報
甲第3号証:特開2014−96268号公報
甲第4号証:特開2016−189321号公報
甲第5号証:特開2011−28976号公報
(以下、単に「甲1」等という。)

2 令和 3年 8月30日付け取消理由通知において通知した取消理由の概要
(1)取消理由1(サポート要件)
ア 取消理由1−1(申立理由4−3に対応)
本件明細書等の【表2】の記載からすると、Sample10は、XPS分析により正極活物質粒子からMgが検出されないものであり、しかも、本件明細書等の【0313】の記載や図31(A)の記載からして、上記Sample10は、容量維持率、すなわち、エネルギー密度の維持率が低下するものと認められる。
そうすると、上記Sample10は、エネルギー密度の維持率を向上する正極活物質粒子、又は二次電池を提供するとの本件発明が解決しようとする課題を解決できるとはいえない態様であるといえ、しかも、このような態様は、本件訂正前の請求項1、2、5〜8、11、12、15、16に係る発明に含まれ得るものであるから、本件訂正前の請求項1、2、5〜8、11、12、15、16に係る発明は、上記課題を解決できると当業者が認識できる範囲を超える態様を含むものであるといえる。
したがって、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1、2、5〜8、11、12、15、16の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものとはいえないものであるから、同請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

イ 取消理由1−2(申立理由4−4に対応)
本件明細書等の【表2】、【0300】、及び【図28】の記載からすると、Sample8〜10は、「マグネシウム/コバルトの原子数比」が、「0.1以下」又は「MgはXPSの検出限界以下」ものであり、しかも、本件明細書等の【0313】の記載や図31(A)の記載からして、上記Sample8〜10は、容量維持率、すなわち、エネルギー密度の維持率が低下するものと認められる。
そうすると、上記Sample8〜10は、エネルギー密度の維持率を向上する正極活物質粒子、又は二次電池を提供するとの本件発明が解決しようとする課題を解決できるとはいえない態様であるといえ、しかも、このような態様は、本件訂正前の請求項1〜3、5〜9、11〜13、15、16に係る発明に含まれ得るものであるから、本件訂正前の請求項1〜3、5〜9、11〜13、15、16に係る発明は、上記課題を解決できると当業者が認識できる範囲を超える態様を含むものであるといえる。
したがって、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1〜3、5〜9、11〜13、15、16の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものとはいえないものであるから、同請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

ウ 取消理由1−3(申立理由4−5に対応)
本件明細書等の【表2】、【0301】、及び【図29】の記載からすると、Sample8〜10は、「XPSにより得られたF/Coが0.2より大きく0.3より小さ」いものであり、しかも、本件明細書等の【0313】の記載や図31(A)の記載からして、上記Sample8〜10は、容量維持率、すなわち、エネルギー密度の維持率が低下するものと認められる。
そうすると、上記Sample8〜10は、エネルギー密度の維持率を向上する正極活物質粒子、又は二次電池を提供するとの本件発明が解決しようとする課題を解決できるとはいえない態様であるといえ、しかも、このような態様は、本件訂正前の請求項1、3〜7、9〜11、13〜16に係る発明に含まれ得るものであるから、本件訂正前の請求項1、3〜7、9〜11、13〜16に係る発明は、上記課題を解決できると当業者が認識できる範囲を超える態様を含むものであるといえる。
したがって、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1、3〜7、9〜11、13〜16の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものとはいえないものであるから、同請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

(2)取消理由2(進歩性:申立理由6に対応、職権により理由を追加)
本件訂正前の請求項1、3、5、7、9、11、13、15に係る発明は、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、取り消されるべきものである。

(3)取消理由3(新規性)、取消理由4(進歩性)(申立理由7、8に対応、職権により理由を追加)
本件訂正前の請求項1、3、7、9、11、13に係る発明は、甲5に記載された発明であるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
また、本件訂正前の請求項1、3、5、7、9、11、13、15に係る発明は、甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

3 当審の判断
(1)取消理由について
ア 取消理由1−1、1−2、1−3について
(ア)上記第3のとおり、本件発明2〜4、6、8〜10、12〜14、16は、本件訂正により、いずれも「第2の領域の厚さは、0.5nm以上50nm以下であ」るとの発明特定事項を備えるものとなった。

(イ)ここで、本件明細書等の【0052】、【0300】には、第2の領域の厚さや、実施例1で得られたSample8〜10に関し、以下の記載がある(なお、下線は、当審が付したものである。また、「・・・」は、記載の省略を表す。以下同様。)。
a 「【0052】
第2の領域102は、薄すぎると被覆層としての機能が低下するが、厚くなりすぎても容量の低下を招く。そのため、第2の領域102の厚さは0.5nm以上50nm以下が好ましく、0.5nm以上3nm以下がより好ましい。」

b 「【0300】
・・・また、Sample 8およびSample 9ではXPSにより得られたMg/Coが0.1以下であった。またSample 10ではMgはXPSでは検出下限以下となり検出されなかった。出発原料の比である(Li/Co)_Rが1.061となるSample 8以降は、マグネシウムの濃度が低く、正極活物質粒子の表面において、第2の領域102が薄い、またはほとんど形成されていない可能性がある。」

(ウ)そして、上記(イ)a、bの記載を考慮すると、実施例1で得られたSample8〜10の正極活物質粒子の表面の「第2の領域102」が「薄い」又は「ほとんど形成されていない」とは、被覆第2の領域102の厚さとして好適な厚みの下限として【0052】に記載された「0.5nm」よりも薄いことを意味すると解するのが合理的であるといえる。

(エ)そうすると、上記(ア)のとおり、本件発明2〜4、6、8〜10、12〜14、16は、「第2の領域の厚さは、0.5nm以上50nm以下であ」るとの発明特定事項を備えるものであるから、第2の領域の厚さが0.5nmよりも薄い上記Sample8〜10の態様が、本件発明2〜4、6、8〜10、12〜14、16に含まれるものとはいえない。

(オ)したがって、仮に、上記Sample8〜10が、エネルギー密度の維持率を向上する正極活物質粒子、又は二次電池を提供するとの本件発明が解決しようとする課題を解決できるとはいえない態様であるとしても、上記(エ)のとおり、上記Sample8〜10の態様が、本件発明2〜4、6、8〜10、12〜14、16に含まれるものとはいえない以上、本件発明2〜4、6、8〜10、12〜14、16が、上記課題を解決できると当業者が認識できる範囲を超える態様を含むものであるとはいえない。

(カ)よって、本件発明2〜4、6、8〜10、12〜14、16について、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるといえるから、同発明に係る特許が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。

イ 取消理由2について
(ア)甲2〜甲4の記載事項、及び甲2に記載された発明
甲2〜甲4の記載事項、及び甲2に記載された発明は、以下のとおりである。
a 甲2の記載事項
(a)「【請求項1】
リチウム、主要遷移金属元素M1、および上記主要遷移金属元素M1とは異なる金属元素M2を含有するリチウム遷移金属複合酸化物の粒子を含み、
上記金属元素M2は、上記粒子の表面部において粒子中心から粒子表面に向かう濃度勾配を有し、
粒子表面から所定深さまでの比率d(%)が0.020%≦d≦0.050%を満たす範囲内において、モル分率rが0.20≦r≦0.80の範囲内にある正極活物質。
(但し、比率d(%)=[(主要遷移金属元素M1の質量)+(金属元素M2の質量)]/(粒子全質量)、モル分率r=(金属元素M2の物質量)/[(主要遷移金属元素M1の物質量)+(金属元素M2の物質量)])」

(b)「【技術分野】
【0001】
この発明は、正極活物質、および非水電解質二次電池に関する。詳しくは、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子を含んでいる正極活物質に関する。」

(c)「【0012】
したがって、この発明の目的は、放電容量の低下を抑えつつ、優れたサイクル特性、および高温保存特性を得ることができるリチウム正極活物質、および非水電解質二次電池を提供することにある。」

(d)「【0028】
(正極)
正極21は、例えば、正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bが設けられた構造を有している。
・・・
【0029】
電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、リチウム(Li)を吸蔵および放出することが可能な化合物が用いられる。この化合物は、リチウム、主要遷移金属元素M1、および主要遷移金属元素M1とは異なる金属元素M2を含有するリチウム遷移金属複合酸化物の粒子を含んでいる。ここで、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子を構成する主要遷移金属とは、この粒子を構成する遷移金属のうち最も比率の大きい遷移金属を意味する。例えば、リチウム遷移金属複合酸化物として、平均組成LiCo0.98Al0.01Mg0.01O2のコバルト酸リチウムを用いる場合、主要遷移金属元素M1はコバルト(Co)である。金属元素M2は、粒子の表面部において粒子中心から粒子表面に向かう濃度勾配を有している。このような濃度勾配を有することで、リチウムイオンの拡散パスが確保できる。粒子表面から所定深さまでの比率d(%)が0.020%≦d≦0.050%を満たす範囲内において、モル分率rが0.20≦r≦0.80の範囲内にある。但し、比率d、およびモル分率rは以下の式(I)、および式(II)により定義される。
比率d(%)=[(主要遷移金属元素M1の質量)+(金属元素M2の質量)]/(粒子全質量) ・・・(I)
モル分率r=(金属元素M2の物質量)/[(主要遷移金属元素M1の物質量)+(金属元素M2の物質量)] ・・・(II)
・・・
【0032】
粒子表面から所定深さまでの比率d(%)が0.020%≦d≦0.050%を満たす範囲内において、モル分率rが0.20≦r≦0.80の範囲内にあると、サイクル特性、および高温保存特性を向上することができる。
・・・
【0036】
主に粒子表面に硫黄(S)、リン(P)、およびフッ素(F)から選ばれる少なくとも1種の元素Xを凝集した形態で含むことが好ましい。これにより、活性分子の安定化を図ることができるからである。
【0037】
金属元素M2の表面濃度が上昇していることが好ましい。具体的には、金属元素M2の濃度が、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子表面部において粒子中心から粒子表面に向かって上昇していることが好ましい。このように金属元素M2の表面濃度を上昇させたリチウム遷移金属複合酸化物の粒子は、好ましくは、リチウム、主要遷移金属元素M1、および金属元素M2を含有するリチウム遷移金属複合酸化物の粒子と、硫黄(S)、リン(P)、およびフッ素(F)から選ばれる少なくとも1種の元素Xを含む化合物とを反応させることにより得られる。この反応の際に、リチウム(Li)を含む化合物を共存させて反応させることが好ましい。このような化合物を共存させることで、反応の際に核材内部のLiが表面にしみ出てくることを防ぐことが期待できるからである。」

(e)「【0056】
[電池の製造方法]
次に、この発明の第1の実施形態による非水電解質二次電池の製造方法の一例について説明する。
【0057】
まず、リチウム、主要遷移金属元素M1、および金属元素M2を含むリチウム遷移金属複合酸化物の粒子と、硫黄(S)、リン(P)、およびフッ素(F)から選ばれる少なくとも1種の元素Xを含む化合物とを混合する。この際に、リチウム(Li)を含む化合物をさらに混合することが好ましい。次に、混合した材料に対してメカノケミカル処理を施し、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子の表面に、硫黄(S)、リン(P)、およびフッ素(F)から選ばれる少なくとも1種の元素Xを含む化合物と、好ましくはリチウム(Li)を含む化合物とを被着させる。メカノケミカル処理の時間は、5分以上2時間以下であることが好ましい。5分未満であると、被覆処理が不十分となる傾向があり、2時間を超えると、粒子が物理的に割れ、小粒径となる傾向があるからである。次に、焼成前駆体であるリチウム遷移金属複合酸化物の粒子を焼成する。焼成温度(熱処理の温度)は、500℃以上1500℃以下であることが好ましい。500℃未満であると、被覆処理が不十分となる傾向があり、1500℃を超えると、2次粒子化し、塗布性が悪化する傾向がある。以上により、金属元素M2の表面濃度が上昇したリチウム遷移金属複合酸化物の粒子が得られる。また、この粒子は、主に粒子表面に硫黄(S)、リン(P)、およびフッ素(F)から選ばれる少なくとも1種の元素Xを凝集した形態で含んでいる。」

(f)「【0067】
この第1の実施形態によるリチウム含有遷移金属酸化物の粒子では、粒子内部の主要遷移金属とは異なる金属元素M2を粒子表面に配することにより、正極活物質粒子と電解液と界面の安定化を図る。更に粒子近傍にS、P、およびFから選ばれる少なくとも1種の元素Xを凝集した形態で含むリチウム遷移金属複合酸化物を配することにより活性分子の安定化を図る。そして、両者の相乗効果を誘起させることで、非常に高いレベルの電池性能の向上を実現していると考えられる。さらに、金属元素M2の粒子表面での濃度が低い場合、十分なサイクル特性、および高温保存特性の向上が得られなくなる傾向があり、逆に高すぎる場合にはLiイオンの拡散を阻害し、十分な容量が得られなくなる傾向があるものと考えられる。」

(g)「【実施例】
【0083】
以下、実施例によりこの発明を具体的に説明するが、この発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0084】
この実施例において比率dおよびモル部分率rは、以下のようにして求めたものである。
【0085】
(比率d、モル部分率r)
0.2gのリチウム遷移金属複合酸化物にクエン酸およびクエン酸ナトリウムを混合して作製したpH5.0の緩衝溶液10mlを加え、1、2、・・・、20分の1分ごとに攪拌したものを0.2μmのフィルターでろ過した。得られた各溶液中の主要遷移金属元素M1(=Co)、および金属元素M2(=Mg、Mn、Ni)の質量/体積濃度を誘導結合プラズマ発光分析法(ICP−AES:Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectrometry)〔HORIBA JY238 ULTRACE〕で測定し、緩衝溶液10mlに溶解したM1、M2の質量を算出した。さらにその質量を用いて各属元素M1、M2の物質量[mol]を算出し、以下の式(I)、および式(II)から、比率d、およびモル分率rを求めた。ここでは、粒子が球形であると仮定し、溶解により粒子が相似に球形を保った状態で半径を減ずる状態で変化するものとして計算した。
比率d(%)=[(主要遷移金属元素M1の質量)+(金属元素M2の質量)]/(粒子全質量)×100・・・(I)
モル分率r=(金属元素M2の物質量)/[(主要遷移金属元素M1の物質量)+(金属元素M2の物質量)] ・・・(II)
・・・
【0089】
<実施例1>
正極活物質を以下のようにして作製した。 炭酸リチウム(Li2CO3)、炭酸コバルト(CoCO3)、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)、および炭酸マグネシウム(MgCO3)を0.5:0.98:0.01:0.01のモル比で混合したのち、空気中において900℃で5時間焼成することにより、母材となるリチウム・コバルト複合酸化物(LiCo0.98Al0.01Mg0.01O2)を得た。次に、平均粒子径13μm(レーザー散乱法により測定)のコバルト酸リチウム(LiCo0.98Al0.01Mg0.01O2)に対して炭酸リチウム(Li2CO3)とリン酸二水素アンモニウム(NH4H2PO4)が原子比でCo:Li:P=98:1:1となるように秤量・混合した。
【0090】
次に、混合した材料に対してメカノケミカル装置によって1時間処理を行い、コバルト酸リチウム粒子を中心材として、その表面に炭酸リチウムとリン酸二水素アンモニウムを被着させた。この焼成前駆体を毎分3℃の速度で昇温し、900℃で3時間保持した後に徐冷し、リチウム遷移金属複合酸化物を得た。マグネシウム(Mg)が粒子表面に均一に分布し、かつマグネシウム(Mg)の表面濃度が粒子内部に比べて高く、さらにリン酸リチウム(Li3PO4)が粒子表面に点在して存在するリチウム遷移金属複合酸化物を得た。マグネシウム(Mg)の表面濃度勾配の詳細を確認した結果、比率d=0.02%、0.05%におけるモル分率rはそれぞれ0.32、0.30であった。比率d=0.01%、0.10%におけるモル分率rはそれぞれ0.46、0.25であった。また、得られた粉末をSEM/EDXにて観察したところ、Mgが粒子表面に均一に分布し、さらにPが粒子表面に点在して存在することが確認された。また、この粉末についてCuKαを用いた粉末X線回折パターンを測定したところ、層状岩塩構造を有するLiCoO2に相当する回折ピークに加えてLi3PO4の回折ピークが確認された。また、粒子断面を切削して半径方向の元素分布をオージェ電子分光法により測定したところ、この測定からもMg濃度が表面から連続的に変化している様が観察された。
【0091】
以上のようにして得られたリチウム遷移金属複合酸化物の粒子を正極活物質として用い、以下に記すように非水電解質二次電池を作製した。
【0092】
正極を以下のようにして作製した。まず、正極活物質を98重量%、アモルファス性炭素粉(ケッチェンブラック)0.8重量%と、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)1.2重量%とを混合して正極合剤を調製した。次に、この正極合剤をN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に分散させて正極合剤スラリーを作製した後、この正極合剤スラリーを帯状アルミニウム箔よりなる帯状の正極集電体の両面に均一に塗布した。得られた塗布物を温風乾燥した後、ロールプレス機で圧縮成型し、正極合剤層を形成した。これにより、帯状の正極が得られた。
【0093】
負極を以下のようにして作製した。まず、黒鉛粉末95重量%と、PVdF5重量%とを混合して負極合剤を調製した。次に、この負極合剤をN−メチル−2−ピロリドンに分散させて負極合剤スラリーを作製した後、負極合剤スラリーを帯状銅箔よりなる帯状の負極集電体の両面に均一に塗布し、さらに、これを加熱プレス成型することにより、負極合剤層を形成した。これにより、帯状の負極が得られた。
【0094】
以上のように作製された帯状の正極、および帯状の負極を多孔性ポリオレフィンフィルムを介して多数回巻回し、渦巻き型の電極体を作製した。この電極体をニッケルめっきを施した鉄製電池缶に収納し、当該電極体の上下両面に絶縁板を配置した。次に、アルミニウム製正極リードを正極集電体から導出して、電池蓋と電気的な導通が確保された安全弁の突起部に溶接し、ニッケル製負極リードを負極集電体から導出して電池缶の底部に溶接した。
【0095】
エチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートとを体積混合比が1:1となるように混合し、混合溶液を調整した。次に、この混合溶液に1mol/dm3の濃度になるようにLiPF6を溶解して非水電解液を調製した。
【0096】
最後に、上述の電極体が組み込まれた電池缶内に電解液を注入した後、絶縁封口ガスケットを介して電池缶をかしめることにより、安全弁、PTC素子ならびに電池蓋を固定し、外径が18mmで高さが65mmの円筒型の非水電解質二次電池を作製した。
【0097】
(初期放電容量、および容量維持率の評価)
上述のようにして作製された非水電解質二次電池の初期放電容量、および容量維持率を、以下のようにして求めた。
まず、環境温度45℃、充電電圧4.35V、充電電流1.5A、充電時間2.5時間の条件で充電を行った後、放電電流2.0A、終止電圧3.0Vの条件で放電を行い、初期放電容量(1サイクル目の放電容量)を測定した。次に、上述の充放電条件にて充放電を繰り返した後、300サイクル目の放電容量を測定した。次に、1サイクル目の放電容量および300サイクル目の放電容量を用いて、以下の式から300サイクル後の容量維持率を求めた。
300サイクル後の容量維持率[%]=(300サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100
【0098】
(高温保存特性)
上述のようにして作製された非水電解質二次電池の高温保存特性を、以下に示すようにして求めた。
まず、環境温度45℃、充電電圧4.35V、充電電流1.5A、充電時間2.5時間の条件で充電を行った後、放電電流2.0A、終止電圧3.0Vの条件で放電を行い、初期容量を測定した。次に、環境温度45℃、充電電圧4.35V、充電電流1.5A、充電時間2.5時間の条件で充電を行った後、高温60℃の環境下に300時間保存した。次に、0.2Cの条件で放電を行い、高温保存後の放電容量を測定した。次に、初期容量および高温保存後の放電容量とを用いて、以下の式から高温保存後の容量維持率(高温保存特性)を求めた。
高温保存後の容量維持率[%]=(高温保存後の放電容量/初期容量)×100」

(h)「【0116】
表1、表2に、実施例1〜8、比較例1〜10の非水電解質二次電池の正極活物質の構成、およびその評価結果を示す。
【表1】

【0117】
【表2】

【0118】
表1から以下のことがわかる。
実施例1〜8では、放電容量の低下を抑えつつ、優れたサイクル特性、および高温保存特性を得ることができるのに対して、比較例1〜10では、このような特性を得ることができない。
【0119】
実施例1〜8では、比率dが0.02%≦d≦0.05%におけるモル分率rが0.20≦r≦0.80の範囲内にある。また、粒子表面から所定深さ(表層10〜100nm)までの比率d(%)が0.020≦d≦0.050の範囲において、粒子表面から深さ方向に向かってモル分率rが減少する傾向がある。
・・・
【0126】
以上により、粒子表面から所定深さまでの比率d(%)が0.020%≦d≦0.050%を満たす範囲内において、モル分率rを0.20≦r≦0.80の範囲内にすると、放電容量の低下を抑えつつ、優れたサイクル特性、および高温保存特性を得ることができる。」

b 甲2に記載された発明
上記aに摘記した事項を総合勘案し、特に、実施例1に着目すると、甲2には、次の発明が記載されていると認められる。

「炭酸リチウム(Li2CO3)、炭酸コバルト(CoCO3)、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)、および炭酸マグネシウム(MgCO3)を0.5:0.98:0.01:0.01のモル比で混合したのち、空気中において900℃で5時間焼成することにより、母材となるリチウム・コバルト複合酸化物(LiCo0.98Al0.01Mg0.01O2)を得、
次に、平均粒子径13μm(レーザー散乱法により測定)のコバルト酸リチウム(LiCo0.98Al0.01Mg0.01O2)に対して炭酸リチウム(Li2CO3)とリン酸二水素アンモニウム(NH4H2PO4)が原子比でCo:Li:P=98:1:1となるように秤量・混合し、
次に、混合した材料に対してメカノケミカル装置によって1時間処理を行い、コバルト酸リチウム粒子を中心材として、その表面に炭酸リチウムとリン酸二水素アンモニウムを被着させ、この焼成前駆体を毎分3℃の速度で昇温し、900℃で3時間保持した後に徐冷して得た、リチウム遷移金属複合酸化物であって、
マグネシウム(Mg)が粒子表面に均一に分布し、かつマグネシウム(Mg)の表面濃度が粒子内部に比べて高く、さらにリン酸リチウム(Li3PO4)が粒子表面に点在して存在することが確認され、Mgが粒子表面に均一に分布し、さらにPが粒子表面に点在して存在することが確認され、粒子断面を切削して半径方向の元素分布をオージェ電子分光法により測定したところ、この測定からもMg濃度が表面から連続的に変化している様が観察される、リチウム遷移金属複合酸化物であり、
上記リチウム遷移金属複合酸化物の粒子からなる、
非水電解質二次電池に用いられる正極活物質。」(以下、「甲2活物質発明」という。)

「甲2活物質発明に係る正極活物質を98重量%、アモルファス性炭素粉(ケッチェンブラック)0.8重量%と、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)1.2重量%とを混合して調製された正極合剤を用いて作製された帯状の正極、及び帯状の負極を多孔性ポリオレフィンフィルムを介して多数回巻回して渦巻き型の電極体を作製し、この渦巻き型の電極体が組み込まれた電池缶内に電解液を注入した後、絶縁封口ガスケットを介して電池缶をかしめることにより、安全弁、PTC素子ならびに電池蓋を固定して作製された、外径が18mmで高さが65mmの円筒型の非水電解質二次電池。」(以下、「甲2電池発明」という。)

c 甲3の記載事項
(a)「【請求項1】
正電極と負電極との間にセパレータを介して、捲回または積層してなる電極群に有機電解液を浸透または浸漬させてリチウムイオンの吸蔵・放出を繰返し行なうリチウム二次電池に用いられるリチウム二次電池用電極であって、
前記正電極は、正極集電箔とこの正極集電箔上に形成される正極活物質層とから形成され、前記負電極は、負極集電箔とこの負極集電箔上に形成される負極活物質層とから形成され、この正極および負極活物質がグラフェン相およびアモルファス相から選ばれた少なくとも1つの相を表面層として有する活物質であり、これら正および負極活物質層の表面に活性炭の層が形成されていることを特徴とするリチウム二次電池用電極。」

(b)「【0006】
本発明は、正電極と負電極との間にセパレータを介して、捲回または積層してなる電極群に有機電解液を浸透または浸漬させてリチウムイオンの吸蔵・放出を繰返し行なうリチウム二次電池に用いられるリチウム二次電池用電極である。
このリチウム二次電池用電極において、上記正電極は、正極集電箔とこの正極集電箔上に形成される正極活物質層とから形成され、上記負電極は、負極集電箔とこの負極集電箔上に形成される負極活物質層とから形成される。上記正極および負極活物質層を形成する活物質がグラフェン相およびアモルファス相から選ばれた少なくとも1つの相を表面層として有する活物質であり、集電箔上に形成されたこれら正および負極活物質層の表面にさらに活性炭の層が形成されていることを本発明のリチウム二次電池用電極は特徴とする。特に、該活性炭の比表面積が1000m2/g以上であることを特徴とする。
・・・
【発明の効果】
【0009】
本発明のリチウム二次電池用電極は、正・負極活物質層の表面に活性炭の層を形成するので、また、比表面積が1000m2/g以上の活性炭の層を形成することが特に好ましく、これら活性炭の層を形成していない電極に対して、1分以内という極めて短い充電時間で満充電にすることができるおよびリチウム二次電池が得られる。また、このリチウム二次電池は、超急速充電時に特に負極活物質表面上に金属リチウムデンドライトの析出を防止できる。」

d 甲4の記載事項
(a)「【請求項1】
Li及び遷移金属を含む化合物を一種以上含む活物質粒子と、前記活物質粒子表面の少なくとも一部を被覆する被覆層とを有し、
前記被覆層はグラフェンもしくは多層グラフェンの少なくとも一種からなり、前記被覆層におけるラマンスペクトルにおいて、Gバンド(1530cm−1〜1630cm−1のピーク)、Dバンド(1300cm−1〜1400cm−1のピーク)と2Dバンド(2650cm−1〜2750cm−1のピーク)を有し、
少なくともGバンドの強度で規格化した2Dバンドの強度(2Dint/Gint)が、0.05≦2Dint/Gintを満たすことを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質。」

(b)「【0002】
近年モバイル向けや電気自動車のような大型機器の電源としても注目されているリチウムイオン二次電池はレート特性やエネルギー密度の更なる向上が求められている。リチウムイオン二次電池は、主に正極、負極、電解液、セパレータなどから構成されており、中でも正極の特性を改善することでレート特性の向上が期待できる。
例えば特許文献1、2には導電材で正極活物質粒子の表面を被覆することで、正極の内部抵抗を低減する手法が報告されている。また、特許文献3は粒子表面に炭素を含む活物質のラマンスペクトルのGバンドとDバンドの強度比によって被覆層の炭素化度(電子伝導性)を制御しレート特性を向上している。
しかしながら、リチウムイオン二次電池の多用途化に伴い、更なるレート特性の向上が求められている。」

(イ)本件発明3について
a 対比
本件発明3と甲2活物質発明とを対比する。
(a)甲2活物質発明の「リチウム遷移金属複合酸化物の粒子からなる、非水電解質二次電池に用いられる正極活物質」は、「中心材」として「コバルト酸リチウム(LiCo0.98Al0.01Mg0.01O2)」(当審注:「Co」の次の「0.98」はコバルト原子の係数を表すものと認める。以下同じ。)を用いたものであり、これを正極活物質として用いた非水電解質二次電池は、「リチウムイオン二次電池」であるといえるから、本件発明3の「コバルト酸リチウムを用いたリチウムイオン二次電池の正極活物質」に相当する。

(b)甲2活物質発明の正極活物質に中心材として用いられる「コバルト酸リチウム(LiCo0.98Al0.01Mg0.01O2)」は、コバルトとアルミニウムを有するものであり、正極活物質における上記中心材の部分は、本件発明3の「コバルトとアルミニウムを有する第1の領域」に相当する。

(c)甲2活物質発明の「コバルト酸リチウム粒子を中心材として、その表面に炭酸リチウムとリン酸二水素アンモニウムを被着させ、この焼成前駆体を毎分3℃の速度で昇温し、900℃で3時間保持した後に徐冷して得」られ、「マグネシウム(Mg)が粒子表面に均一に分布し、かつマグネシウム(Mg)の表面濃度が粒子内部に比べて高く、さらにリン酸リチウム(Li3PO4)が粒子表面に点在して存在することが確認され、Mgが粒子表面に均一に分布し、さらにPが粒子表面に点在して存在することが確認され、粒子断面を切削して半径方向の元素分布をオージェ電子分光法により測定したところ、この測定からもMg濃度が表面から連続的に変化している様が観察される」上記コバルト酸リチウム粒子の中心材の表面の領域は、本件発明3の「第1の領域の少なくとも一部を被覆したマグネシウム」「を有する第2の領域」に対応する。

(d)そうすると、本件発明3と甲2活物質発明とは、
「コバルト酸リチウムを用いたリチウムイオン二次電池の正極活物質であって、
コバルトとアルミニウムを有する第1の領域、及び前記第1の領域の少なくとも一部を被覆したマグネシウムを有する第2の領域を有する、リチウムイオン二次電池の正極活物質。」
である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点3−2−1>
本件発明3は、第1の領域が「層状岩塩型の結晶構造を有」するのに対して、甲2活物質発明は、正極活物質に中心材として用いられる「コバルト酸リチウム(LiCo0.98Al0.01Mg0.01O2)」の部分が層状岩塩型の結晶構造を有するか否か不明な点。

<相違点3−2−2>
本件発明3は、第1の領域の少なくとも一部を被覆する第2の領域がマグネシウムに加えてフッ素を有するのに対して、甲2活物質発明は、コバルト酸リチウム粒子の中心材の表面の領域に、Mg、リン酸リチウム(Li3PO4)、及びPが分布乃至点在することは確認されているものの、フッ素を有するか否かは不明な点。

<相違点3−2−3>
本件発明3は、第2の領域が「岩塩型の結晶構造を有」するのに対して、甲2活物質発明は、コバルト酸リチウム粒子の中心材の表面の領域が岩塩型の結晶構造を有するか否か不明な点。

<相違点3−2−4>
本件発明3は、第2の領域の厚さが「0.5nm以上50nm以下であ」るのに対して、甲2活物質発明は、コバルト酸リチウム粒子の中心材の表面のMg、リン酸リチウム(Li3PO4)、及びPが分布乃至点在している領域の厚さが不明な点。

<相違点3−2−5>
本件発明3は、「前記コバルト、アルミニウム、マグネシウム、フッ素の少なくとも一は、前記第1の領域と前記第2の領域とにわたって濃度勾配を有」するのに対して、甲2活物質発明は、そのような濃度勾配を有するか否か不明な点。

b 相違点についての判断
(a)事案に鑑みて、上記相違点3−2−3についてまず検討する。
(a−1)上記(ア)aに摘記した甲2の記載事項を参照しても、甲2活物質発明におけるコバルト酸リチウム粒子の中心材の表面の領域、すなわち、本件発明3の「第2の領域」に相当する領域の結晶構造を「岩塩型」とすることを示唆する記載は見当たらない。

(a−2)また、上記(ア)cに摘記した甲3の記載事項、同じく上記(ア)dに摘記した甲4の記載事項を参照しても、甲2活物質発明におけるコバルト酸リチウム粒子の中心材の表面の領域の結晶構造を「岩塩型」とすることを動機付けるような記載を見いだせない。

(a−3)さらに、本件明細書等の【0054】の「第2の領域102は、岩塩型の結晶構造を有すると、第1の領域101との結晶の配向が一致しやすく、安定した被覆層として機能しやすいため好ましい。」との記載を考慮すると、本件発明3が上記相違点3−2−3に係る特定事項を備えることにより、層状岩塩型の結晶構造を備えた「第1の領域」との結晶の配向が一致しやすく、安定した被覆層として機能しやすいとの効果が奏されると認められるところ、甲2活物質発明や甲2〜甲4の記載事項からこのような効果を予測することは困難であるといえる。

(a−4)したがって、甲2活物質発明において、上記相違点3−2−3に係る発明特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(b)そうすると、上記相違点3−2−1、3−2−2、3−2−4、3−2−5について検討するまでもなく、本件発明3は、甲2に記載された発明、及び甲3、甲4の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)本件発明9、13について
a 上記第3のとおり、本件発明9、13は、いずれも「第2の領域」が「岩塩型の結晶構造を有」する点を発明特定事項として備えたものであるから、本件発明9、13と、甲2電池発明とを対比すると、両者は、少なくとも上記相違点3−2−3と同様の点で相違する。

b そして、上記aの相違点については、上記(イ)で検討したのと同様であるから、甲2電池発明においても、上記aの相違点に係る発明特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

c そうすると、その余の点について検討するまでもなく、本件発明9、13は、甲2に記載された発明、及び甲3、甲4の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(エ)小括
以上のとおりであるから、本件発明3、9、13は、甲2に記載された発明、及び甲3、甲4の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
なお、取消理由2の対象であった本件訂正前の請求項1、5、7、11、15は、本件訂正により削除された。

ウ 取消理由3、4について
(ア)甲5の記載事項、及び甲5に記載された発明
甲5の記載事項、及び甲5に記載された発明は、以下のとおりである。
a 甲5の記載事項
(a)「【請求項1】
主要遷移金属元素Aを含むリチウム含有遷移金属酸化物の表面の少なくとも一部に、主要遷移金属Aとは異なる少なくとも一種の金属元素M1が存在し、さらに上記金属元素M1と異なる金属元素M2の化合物が被着されてなるか、もしくはリチウム含有遷移金属酸化物の近傍に存在するようにした
正極活物質。
【請求項2】
全体の組成が、原子比で0.001<金属元素M1/(金属元素M1+主要遷移金属元素A)<0.2である
請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
上記金属元素M2の化合物が、金属塩、金属酸化物および金属ハロゲン化物から選択される少なくとも1種である
請求項2に記載の正極活物質。
・・・
【請求項8】
上記金属元素M2の化合物として用いる金属ハロゲン化物は、
全体の組成が、原子比で0.001<金属元素M2/(金属元素M2+主要遷移金属元素A)<0.15であり、
平均粒径が、30μm以下である
請求項3に記載の正極活物質。
【請求項9】
上記金属元素M2の化合物が金属フッ化物である
請求項8に記載の正極活物質。」

(b)「【技術分野】
【0001】
この発明は、正極および非水電解質二次電池に関し、特に、高容量で充放電サイクルに優れ、同時に高温環境での使用時に劣化の少ない正極活物質、正極および非水電解質電池に関する。」

(c)「【0013】
この発明は、上述の問題点を解消しようとするものであり、高容量で充放電サイクルに優れ、同時に高温環境での使用時に劣化の少ない正極活物質、正極および非水電解質電池を提供することを目的とする。」

(d)「【0077】
<実施例1>
[正極の作製]
まず、レーザー散乱法によって測定した平均粒子径が13μmのコバルト酸リチウム(LiCoO2)に対して炭酸マグネシウム(MgCO3)が原子比でCo:Mg=99:1(M1/(M1+A)=0.01)となるように秤量・混合した。続いて、メカノケミカル装置によって1時間処理を行い、コバルト酸リチウム粒子を中心材として、その表面に炭酸マグネシウムを被着させて焼成前駆体を作製した。
【0078】
次に、この焼成前駆体を毎分3℃の速度で昇温し、900℃で3時間保持した後に徐冷し、マグネシウム(Mg)がコバルト酸リチウム粒子表面に均一に分布した粒子を得た。さらに、この粒子に対して、平均粒径0.8μmとなるように粉砕したリン酸リチウム(Li3PO4)を原子比でCo:Li(LiCoO2中のLiは除く)=98:2(M2/(M2+A)=0.02)となるように加え、高速で混合攪拌を行ってこの発明のリチウム遷移金属複合酸化物を得た。
【0079】
得られた粉末をエネルギー分散型X線分析装置(EDX:Energy Dispersive X-ray)を備えた走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron microscope)(以下、SEM/EDXと称する)により観察した。すると、マグネシウムがリチウム遷移金属複合酸化物の表面全体に均一分布していることが確認された。そして、リン酸リチウムがリチウム遷移金属複合酸化物の表面に被着、あるいは粒子間に存在していることが確認された。
【0080】
また、この粉末について長波長のCuKαを用いた粉末X線回折(XRD:X-ray diffraction)パターンを測定した。すると、層状岩塩構造を有するコバルト酸リチウムに相当する回折ピークに加えてリン酸リチウムの回折ピークが確認された。また、粒子断面を切削して半径方向の元素分布をオージェ電子分光法により測定したところ、マグネシウム濃度が表面から連続的に変化している様子が観察された。
【0081】
以上のようにして得られたリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として用い、以下に記すように二次電池を作製し、高温時のサイクル特性および内部抵抗の変化を評価した。
【0082】
正極活物質を98重量%、導電剤としてのアモルファス性炭素粉(ケッチェンブラック)0.8重量%と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)1.2重量%とを混合して正極合剤を調製した。この正極合剤をN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に分散させて正極合剤スラリーを作製した後、正極合剤スラリーを帯状アルミニウム箔よりなる正極集電体の両面に均一に塗布した。そして、塗布された正極合剤スラリーを乾燥した後、ロールプレス機で圧縮成型し、正極活物質層を形成した。最後に、正極の正極集電体露出部分にアルミニウム(Al)製の正極端子を取り付けた。
【0083】
[負極の作製]
負極活物質として黒鉛粉末95重量%と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)5重量%とを混合して負極合剤を調製した。この負極合剤をN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に分散させて負極合剤スラリーを作製した後、負極合剤スラリーを帯状銅箔よりなる負極集電体の両面に均一に塗布した。そして、塗布された負極合剤スラリーを加熱プレス成型することにより、負極活物質層を形成した。最後に、負極の負極集電体露出部分にニッケル(Ni)製の負極端子を取り付けた。
【0084】
[電池の組み立て]
以上のように作製された帯状正極、帯状負極を厚み25μmの微孔性ポリオレフィンフィルムよりなるセパレータを介して密着させ、長手方向に多数回巻回し、渦巻き型の電極体を作製した。この電極体をニッケルめっきを施した鉄製電池缶に収納し、電極体の上下両面に絶縁板を配置した。次に、正極集電体と接続された正極端子を導出して、電池蓋と電気的な導通が確保された安全弁の突起部に溶接し、負極端子を負極集電体から導出して電池缶の底部に溶接した。
【0085】
一方、電解液は、エチレンカーボネート(EC)とメチルエチルカーボネート(MEC)との体積混合比が1:1である混合溶液に1mol/dm3の濃度になるように六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を溶解して作製した。最後に、電極体が組み込まれた電池缶内に電解液を注入した後、絶縁封口ガスケットを介して電池缶をかしめ、安全弁、PTC素子ならびに電池蓋を固定することにより、外径が18mmで高さが65mmの円筒型電池を作製した。
【0086】
[円筒型電池の評価]
(1)初期容量
上述のようにして作製した円筒型電池において、45℃の環境温度下で1.5Aの充電電流で電池電圧が4.35Vに達するまで定電流充電を行った後、総充電時間が2.5時間となるまで、電池電圧4.35Vでの定電圧充電を行った。その後、2.0Aの放電電流で放電を行い、電池電圧が3.0Vに達するまでの放電容量(1サイクル目の放電における放電容量)を初期容量として測定した。
【0087】
(2)容量維持率
上述の充放電と同様の条件により充電および放電を繰り返し、300サイクル目の放電容量を測定し、容量維持率を算出した。300サイクル後の容量維持率は、{(300サイクル目の放電容量/初期容量)×100}[%]から求めた。
【0088】
以下の実施例および比較例について、実施例1と同様に初期容量および300サイクル目の容量維持率を測定した。なお、それぞれの測定結果は、表1および表2として後に示す。」

(e)「【0146】
<実施例21>
平均粒径0.8μmのリン酸リチウム(Li3PO4)の替わりに、平均粒径1.2μmのフッ化アルミニウム(AlF3)を用いた。また、フッ化アルミニウムを加える際の比率を、原子比でCo:Al=98:2(M2/(M2+A)=0.02)となるようにして円筒型電池を作製した。これ以外は、実施例1と同様にして円筒型電池の評価を行った。
【0147】
実施例21で得られた粉末をSEM/EDXにより観察したところ、マグネシウムがリチウム遷移金属複合酸化物の表面全体に均一分布していることが確認された。そして、フッ化アルミニウムがリチウム遷移金属複合酸化物の表面に被着、あるいは粒子間に存在していることも確認された。
【0148】
また、実施例21で得られた粉末についてCuKαを用いた粉末X線回折パターンを測定したところ、層状岩塩構造を有するコバルト酸リチウムに相当する回折ピークに加えてフッ化アルミニウムの回折ピークが確認された。また、粒子断面を切削して半径方向の元素分布をオージェ電子分光法により測定したところ、マグネシウム濃度が表面から連続的に変化している様子が観察された。」

(f)「【0213】
以下の表1および表2に、評価の結果を示す。
【0214】
【表1】

【0215】
【表2】

・・・
【0218】
表1および表2に示すように、上述の組成の範囲および金属元素M2の平均粒径の範囲に入っている各実施例は、初期容量が8.0Wh以上となった。そして、充電電圧が4.40V以上の実施例1ないし32では、300サイクル後の容量維持率が74%以上となった。充電電圧が4.50Vと非常に高い実施例33では、300サイクル後の容量維持率が68%となった。」

b 甲5に記載された発明
上記aに摘記した事項を総合勘案し、特に、実施例21に着目すると、甲5には、次の発明が記載されていると認められる。

「レーザー散乱法によって測定した平均粒子径が13μmのコバルト酸リチウム(LiCoO2)に対して炭酸マグネシウム(MgCO3)が原子比でCo:Mg=99:1(M1/(M1+A)=0.01)となるように秤量・混合し、
続いて、メカノケミカル装置によって1時間処理を行い、コバルト酸リチウム粒子を中心材として、その表面に炭酸マグネシウムを被着させて焼成前駆体を作製し、この焼成前駆体を毎分3℃の速度で昇温し、900℃で3時間保持した後に徐冷して、マグネシウム(Mg)がコバルト酸リチウム粒子表面に均一に分布した粒子を得、
さらに、この粒子に対して、平均粒径1.2μmとなるように粉砕したフッ化アルミニウム(AlF3)を原子比でCo:Al=98:2(M2/(M2+A)=0.02)となるように加え、高速で混合攪拌を行って得た、
リチウム遷移金属複合酸化物であって、
マグネシウムがリチウム遷移金属複合酸化物の表面全体に均一分布していることが確認され、フッ化アルミニウムがリチウム遷移金属複合酸化物の表面に被着、あるいは粒子間に存在していることも確認され、粒子断面を切削して半径方向の元素分布をオージェ電子分光法により測定したところ、マグネシウム濃度が表面から連続的に変化している様子が観察される、リチウム遷移金属複合酸化物であり、
二次電池に用いられる正極活物質。」(以下、「甲5活物質発明」という。)

「甲5活物質発明に係る正極活物質を98重量%、導電剤としてのアモルファス性炭素粉(ケッチェンブラック)0.8重量%と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)1.2重量%とを混合して調製された正極合剤を用いて作製された帯状の正極、及び帯状の負極を厚み25μmの微孔性ポリオレフィンフィルムよりなるセパレータを介して密着させ、長手方向に多数回巻回して渦巻き型の電極体を作製し、この電極体が組み込まれた電池缶内に電解液を注入した後、絶縁封口ガスケットを介して電池缶をかしめ、安全弁、PTC素子ならびに電池蓋を固定することにより作製された、外径が18mmで高さが65mmの円筒型の二次電池。」(以下、「甲5電池発明」という。)

(イ)本件発明3について
a 対比
本件発明3と甲5活物質発明とを対比する。
(a)甲5活物質発明の「リチウム遷移金属複合酸化物」の「二次電池に用いられる正極活物質」は、「中心材」として「コバルト酸リチウム粒子」を用いたものであり、これを正極活物質として用いた二次電池は、「リチウムイオン二次電池」であるといえるから、本件発明3の「コバルト酸リチウムを用いたリチウムイオン二次電池の正極活物質」に相当する。

(b)甲5活物質発明の「コバルト酸リチウム粒子」を「中心材」とする「リチウム遷移金属複合酸化物」において、その「表面に被着」していることが確認された「フッ化アルミニウム」を構成するフッ素とアルミニウムは、リチウム遷移金属複合酸化物の表面近傍の径方向において、表面側から濃度が低下するような濃度勾配が生じていると認められる一方で、上記「コバルト酸リチウム粒子」の中心材に含まれるコバルトは、リチウム遷移金属複合酸化物の表面近傍の径方向において、中心側から濃度が低下するような濃度勾配が生じていると認められ、また、甲5活物質発明の「リチウム遷移金属複合酸化物の表面全体に均一分布していることが確認され」、「濃度が表面から連続的に変化している様子が観察される」「マグネシウム」は、上記リチウム遷移金属複合酸化物の表面にフッ素やアルミニウムとともに存在しているといえる。
そして、上記のような濃度勾配が生じている領域に境界を設定すれば、甲5活物質発明は、本件発明3の「コバルトとアルミニウムを有する第1の領域」、「前記第1の領域の少なくとも一部を被覆したマグネシウムとフッ素を有する第2の領域」、及び「前記コバルト、アルミニウム、マグネシウム、フッ素の少なくとも一は、前記第1の領域と前記第2の領域とにわたって濃度勾配を有する」に相当する構成を備えたものといえる。

(c)そうすると、本件発明3と甲5活物質発明とは、
「コバルト酸リチウムを用いたリチウムイオン二次電池の正極活物質であって、
コバルトとアルミニウムを有する第1の領域、及び前記第1の領域の少なくとも一部を被覆したマグネシウムとフッ素を有する第2の領域を有し、
前記コバルト、アルミニウム、マグネシウム、フッ素の少なくとも一は、前記第1の領域と前記第2の領域とにわたって濃度勾配を有する、リチウムイオン二次電池の正極活物質。」
である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点3−5−1>
本件発明3は、第1の領域が「層状岩塩型の結晶構造を有」するのに対して、甲5活物質発明は、アルミニウムを含む「コバルト酸リチウム素子」の「中心材」の部分が層状岩塩型の結晶構造を有するか否か不明な点。

<相違点3−5−2>
本件発明3は、第2の領域が「岩塩型の結晶構造を有」するのに対して、甲5活物質発明は、リチウム遷移金属複合酸化物の表面近傍のマグネシウムとフッ素を有する領域が岩塩型の結晶構造を有するか否か不明な点。

<相違点3−5−3>
本件発明3は、第2の領域の厚さが「0.5nm以上50nm以下であ」るのに対して、甲5活物質発明は、リチウム遷移金属複合酸化物の表面近傍のマグネシウムとフッ素を有する領域の厚さが不明な点。

b 相違点についての判断
(a)事案に鑑みて、上記相違点3−5−2についてまず検討する。
(a−1)上記(ア)aに摘記した甲5の記載事項を参照しても、甲5活物質発明におけるリチウム遷移金属複合酸化物の表面近傍のマグネシウムとフッ素を有する領域、すなわち、本件発明3の「第2の領域」に相当する領域の結晶構造を「岩塩型」とすることを示唆する記載は見当たらない。

(a−2)また、上記イ(ア)cに摘記した甲3の記載事項、同じく上記イ(ア)dに摘記した甲4の記載事項、及び本願出願時の技術常識を考慮しても、甲5活物質発明におけるリチウム遷移金属複合酸化物の表面近傍のマグネシウムとフッ素を有する領域の結晶構造が当然に「岩塩型」となっているとは認められない。

(a−3)したがって、上記相違点3−5−2は、実質的な相違点である。

(a−4)よって、上記相違点3−5−1、3−5−2について検討するまでもなく、本件発明3は、甲5に記載された発明であるとはいえない。

(a−5)次に、上記相違点3−5−2の容易想到性について検討するに、甲5、甲3、甲4の記載事項を参照しても、甲5活物質発明におけるリチウム遷移金属複合酸化物の表面近傍のマグネシウムとフッ素を有する領域の結晶構造を「岩塩型」とすることを動機付けるような記載を見いだせない。

(a−6)さらに、本件明細書等の【0054】の「第2の領域102は、岩塩型の結晶構造を有すると、第1の領域101との結晶の配向が一致しやすく、安定した被覆層として機能しやすいため好ましい。」との記載を考慮すると、本件発明3が上記相違点3−5−2に係る特定事項を備えることにより、層状岩塩型の結晶構造を備えた「第1の領域」との結晶の配向が一致しやすく、安定した被覆層として機能しやすいとの効果が奏されると認められるところ、甲5活物質発明や甲5、甲3、甲4の記載事項からこのような効果を予測することは困難であるといえる。

(a−7)したがって、甲5活物質発明において、上記相違点3−5−2に係る発明特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(b)そうすると、上記相違点3−5−1、3−5−3について検討するまでもなく、本件発明3は、甲5に記載された発明、及び甲3、甲4の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)本件発明9、13について
a 上記第3のとおり、本件発明9、13は、いずれも「第2の領域」が「岩塩型の結晶構造を有」する点を発明特定事項として備えたものであるから、本件発明9、13と、甲5電池発明とを対比すると、両者は、少なくとも上記相違点3−5−2と同様の点で相違する。

b そして、上記aの相違点については、上記(イ)で検討したのと同様であるから、上記aの相違点は実質的な相違点であり、また、甲5電池発明において、上記aの相違点に係る発明特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

c そうすると、その余の点について検討するまでもなく、本件発明9、13は、甲5に記載された発明であるとはいえず、また、甲5に記載された発明、及び甲3、甲4の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(エ)小括
以上のとおりであるから、本件発明3、9、13は、甲5に記載された発明であるとはいえず、また、甲5に記載された発明、及び甲3、甲4の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
なお、取消理由3、4の対象であった本件訂正前の請求項1、5、7、11、15は、本件訂正により削除された。

(2)取消理由として採用しなかった異議申立理由について
ア 申立理由1について
(ア)上記第3のとおり、本件発明2〜4、6、8〜10、12〜14、16は、「層状岩塩型の結晶構造を有し、コバルトとアルミニウムを有する第1の領域」と「岩塩型の結晶構造を有し、前記第1の領域の少なくとも一部を被覆したマグネシウムとフッ素を有する第2の領域」とを有し、「前記コバルト、アルミニウム、フッ素の少なくとも一は、前記第1の領域と前記第2の領域とにわたって濃度勾配を有」するか、又は「前記コバルト、アルミニウム、マグネシウム、フッ素の少なくとも一は、前記第1の領域と前記第2の領域とにわたって濃度勾配を有」する正極活物質に係るものである。

(イ)ここで、マグネシウム又はフッ素が第1の領域と第2の領域とにわたって濃度勾配を有している場合、上記第1の領域及び上記第2の領域はいずれもマグネシウム又はフッ素を含むこととなるが、マグネシウム又はフッ素が上記濃度勾配を有する領域に上記第1の領域と第2の領域との境界を設定すれば、それぞれの領域を画定することは可能であり、本件発明2〜4、6、8〜10、12〜14、16を明確に把握することができるといえる。

(ウ)したがって、申立理由1によっては、本件発明2〜4、6、8〜10、12〜14、16に係る特許が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。

イ 申立理由2、3について
(ア)特許異議申立書の第19頁下から1行〜第20頁第24行の記載によれば、上記申立理由2、3は、本願(分割出願)の明細書等に記載された事項が原出願の出願当初明細書等に記載された事項の範囲内でなければならないとの要件を満たさないことを根拠として、本願が分割要件を満たさず、原出願の時にされたものとはみなされないことを前提としたものであるから、まず、この点について検討する。

(イ)特許異議申立書の第20頁第7〜24行において、申立人は以下のとおり主張している。
a 「分割要件について検討すると、本件特許発明1の『コバルトとアルミニウムを有する第1の領域、及び前記第1の領域の少なくとも一部を被覆したフッ素を有する第2の領域を有し、』との事項では、第1の領域がリチウム及び酸素を有しない態様や、第2の領域が酸素を有しない態様が包含される。」

b 「一方、本件特許発明1は、原出願の出願当初明細書には形式的に記載されていない。
さらに、原出願の出願当初明細書には、『第1の領域101は、リチウムと、元素Mと、酸素と、を有する。』、『第2の領域は、元素Mと、酸素と、を有する。』ことの記載があり(原出願の出願当初明細書等の段落[0043]及び[0048])、第1の領域がリチウム及び酸素を有しない態様や、第2の領域が酸素を有しない態様が開示されていない。」

c 「そのため、本件特許発明1は、出願当初の明細書又は図面には何ら記載されておらず、しかも同明細書又は図面の記載からみて自明な事項であるとも認められない。
本件特許発明2〜16についても同様である。」

d 「このため、本件特許に係る出願の出願日は原出願の出願日に遡及するものではなく、本件特許発明の新規性及び進歩性等の判断は本件特許の現実の出願日(令和1年12月2日)でなされるべきである。」

(ウ)ここで、上記第3のとおり、本件発明2〜4、6、8〜10、12〜14、16に係る「正極活物質」は、「層状岩塩型の結晶構造を有し、コバルトとアルミニウムを有する第1の領域」、及び「岩塩型の結晶構造を有し、前記第1の領域の少なくとも一部を被覆したマグネシウムとフッ素を有する第2の領域」を有するものであるから、一見、上記第1の領域がリチウム及び酸素を有しない態様や、上記第2の領域が酸素を有しない態様が包含されるとも解される。

(エ)しかしながら、上記第3のとおり、本件発明2〜4、6、8〜10、12〜14、16に係る「正極活物質」は、「コバルト酸リチウムを用いた」ものであるから、明記されていなくても、上記第1の領域及び上記第2の領域がリチウム及び酸素を有する領域であることは、明らかであり、本件発明2〜4、6、8〜10、12〜14、16に係る「正極活物質」に、上記第1の領域がリチウム及び酸素を有しない態様や、上記第2の領域が酸素を有しない態様が包含されるとはいえない。

(オ)そうすると、上記(イ)の主張は、その前提部分である上記(イ)aの点で採用できないものであるから、全体として採用できない。

(カ)また、他に、本願が分割要件を満たしていないといえる理由を発見できない。

(キ)したがって、本願は適法に分割されたものであって、原出願の時にされたものとみなされるものであるから、本件発明2〜4、6、8〜10、12〜14、16について、その新規性及び進歩性等の判断の基準日は、原出願の優先日である平成28年11月24日である。

(ク)一方、甲1は、平成28年11月24日より後の平成30年6月7日に公開されたものであるから、甲1に記載された発明は、特許法第29条第1項第3号にいう「特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明」には該当しない。

(ケ)よって、申立理由2、3によっては、本件発明2〜4、6、8〜10、12〜14、16に係る特許が、特許法第29条第1項第3号又は同法同条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。

ウ 申立理由4−1について
(ア)上記申立理由4−1は、本件訂正前の請求項1〜16に係る発明には、第1の領域がリチウム及び酸素を有しない態様、並びに第2の領域が酸素を有しない態様が含まれ得ることを前提とした主張であるところ、本件訂正後の本件発明2〜4、6、8〜10、12〜14、16に係る「正極活物質」に、上記第1の領域がリチウム及び酸素を有しない態様や、上記第2の領域が酸素を有しない態様が包含されるとはいえないことは、上記イ(エ)で検討したとおりである。

(イ)そうすると、申立理由4−1は、前提を欠くものであるから、この理由によっては、本件発明2〜4、6、8〜10、12〜14、16に係る特許が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。

エ 申立理由4−2について
(ア)上記第3のとおり、本件発明2〜4、6、8〜10、12〜14、16は、「コバルトとアルミニウムを有する第1の領域」を有する「正極活物質」を有するものであるところ、本件明細書等の記載、特に【0284】〜【0314】の実施例に係る記載を参照しても、確かに、本件発明の実施例として、第1の領域がアルミニウムを有する例は記載されていない。

(イ)一方で、本件明細書等の【0043】〜【0045】には、以下の記載がある。
「【0043】
<第1の領域101>
第1の領域101は、リチウムと、元素Mと、酸素と、を有する。元素Mは複数の元素であってもよい。元素Mは例えば遷移金属より選ばれる一以上の元素である。例えば、第1の領域101はリチウムと遷移金属を含む複合酸化物を有する。
【0044】
元素Mとしては、リチウムとともに層状岩塩型の複合酸化物を形成しうる遷移金属を用いることが好ましい。たとえばマンガン、コバルト、ニッケルのうち一つもしくは複数を用いることができる。つまり第1の領域101が有する遷移金属としてコバルトのみを用いてもよいし、コバルトとマンガンの2種を用いてもよいし、コバルト、マンガン、ニッケルの3種を用いてもよい。また例えば元素Mとして遷移金属に加えて、アルミニウムをはじめとする遷移金属以外の金属を用いてもよい。
【0045】
つまり第1の領域101は、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、コバルトの一部がマンガンで置換されたコバルト酸リチウム、ニッケル−マンガン−コバルト酸リチウム、ニッケル−コバルト−アルミニウム酸リチウム等の、リチウムと遷移金属を含む複合酸化物を有することができる。」

(ウ)ここで、上記2(1)ア〜ウのとおり、本件発明が解決しようとする課題は、エネルギー密度の維持率を向上する正極活物質粒子、又は二次電池を提供することにあると認められる。

(エ)そうすると、上記(ア)のとおり、本件明細書等には、第1の領域がアルミニウムを有する実施例が記載されていないとしても、上記(イ)に摘記した本件明細書等の記載を参酌すれば、「コバルトとアルミニウムを有する第1の領域」を有する「正極活物質」を有するものである本件発明2〜4、6、8〜10、12〜14、16においても、上記(ウ)の課題が解決されることを十分推定できるといえ、その推定を覆すに足る根拠も見いだせない。

(オ)したがって、申立理由4−2によっては、本件発明2〜4、6、8〜10、12〜14、16に係る特許が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。

オ 申立理由5−1について
(ア)上記申立理由5−1は、本件訂正前の請求項1〜16に係る発明には、第1の領域がリチウム及び酸素を有しない態様、並びに第2の領域が酸素を有しない態様が含まれ得ることを前提とした主張であるところ、本件訂正後の本件発明2〜4、6、8〜10、12〜14、16に係る「正極活物質」に、上記第1の領域がリチウム及び酸素を有しない態様や、上記第2の領域が酸素を有しない態様が包含されるとはいえないことは、上記イ(エ)で検討したとおりである。

(イ)そうすると、申立理由5−1は、前提を欠くものであるから、この理由によっては、本件発明2〜4、6、8〜10、12〜14、16に係る特許が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。

カ 申立理由5−2について
(ア)上記申立理由5−2は、本件訂正前の請求項1、2、5〜8、11、12、15、16に係る発明には、第2の領域にマグネシウムを含まない態様が含まれ得るところ、本件明細書等の【0087】の記載を考慮すれば、どのようにして、第2の領域がマグネシウムを含まない正極活物質が得られるのか、当業者にとっても理解することができないことを根拠とするものである。

(イ)確かに、本件明細書等の【0087】には、「発明者らはコバルトを余剰状態にすることにより、第1の領域101としてコバルト酸リチウムを有する領域を形成し、第2の領域102としてコバルトを骨格とした領域を形成した後、あるいは形成するのと同時に、マグネシウムを第2の領域102に偏析させることにより、マグネシウムを有し、かつ、岩塩型構造を有する第2の領域102が形成されることを発見した。」とは記載されているものの、同じく【0081】には、「例えば元素Mがコバルトであり、第1の領域101がコバルト酸リチウムを有する場合を考える。コバルト酸リチウムのLi/Mは1近傍の値となる。正極活物質粒子全体のLi/Mを1より小さくすることにより、第1の領域101の外側に、元素Mおよび酸素を有する第2の領域102が形成される。」とも記載されており、この記載を参照すれば、第2の領域がマグネシウムを含まない正極活物質についても、当業者であれば作ることができるといえる。

(ウ)また、本件訂正により、本件発明2〜4、6、8〜10、12〜14、16は、いずれも、第2の領域がマグネシウムを有するものとなったから、上記申立理由5−2は、前提を欠いている。

(エ)したがって、申立理由5−2によっては、本件発明2〜4、6、8〜10、12〜14、16に係る特許が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。

4 むすび
以上のとおりであるから、当審の取消理由及び異議申立理由によっては、本件請求項2〜4、6、8〜10、12〜14、16に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項2〜4、6、8〜10、12〜14、16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正によって特許異議の申立てがされた請求項1、5、7、11、15は削除され、特許異議の申立ての対象となる請求項1、5、7、11、15は存在しないものとなったから、請求項1、5、7、11、15に係る特許異議の申立ては、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定によって却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
コバルト酸リチウムを用いたリチウムイオン二次電池の正極活物質であって、
層状岩塩型の結晶構造を有し、コバルトとアルミニウムを有する第1の領域、及び岩塩型の結晶構造を有し、前記第1の領域の少なくとも一部を被覆したマグネシウムとフッ素を有する第2の領域を有し、
前記コバルト、アルミニウム、フッ素の少なくとも一は、前記第1の領域と前記第2の領域とにわたって濃度勾配を有し、
前記第2の領域の厚さは、0.5nm以上50nm以下であり、
X線光電子分光測定により得られたフッ素/コバルトの原子数比は、0.05より大きく0.15より小さい、リチウムイオン二次電池の正極活物質。
【請求項3】
コバルト酸リチウムを用いたリチウムイオン二次電池の正極活物質であって、
層状岩塩型の結晶構造を有し、コバルトとアルミニウムを有する第1の領域、及び岩塩型の結晶構造を有し、前記第1の領域の少なくとも一部を被覆したマグネシウムとフッ素を有する第2の領域を有し、
前記コバルト、アルミニウム、マグネシウム、フッ素の少なくとも一は、前記第1の領域と前記第2の領域とにわたって濃度勾配を有し、
前記第2の領域の厚さは、0.5nm以上50nm以下である、リチウムイオン二次電池の正極活物質。
【請求項4】
コバルト酸リチウムを用いたリチウムイオン二次電池の正極活物質であって、
層状岩塩型の結晶構造を有し、コバルトとアルミニウムを有する第1の領域、及び岩塩型の結晶構造を有し、前記第1の領域の少なくとも一部を被覆したマグネシウムとフッ素を有する第2の領域を有し、
前記コバルト、アルミニウム、マグネシウム、フッ素の少なくとも一は、前記第1の領域と前記第2の領域とにわたって濃度勾配を有し、
X線光電子分光測定により得られたマグネシウム/コバルトの原子数比は、0.25より大きく0.3より小さく、
前記第2の領域の厚さは、0.5nm以上50nm以下である、リチウムイオン二次電池の正極活物質。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
請求項2乃至4のいずれか一において、
X線光電子分光測定により得られた、リチウム/コバルトの原子数比は0.5より大きく、0.85より小さい、リチウムイオン二次電池の正極活物質。
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
正極及び負極を備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、コバルト酸リチウムを用いた正極活物質を有し、
前記正極活物質は、層状岩塩型の結晶構造を有し、コバルトとアルミニウムを有する第1の領域、及び岩塩型の結晶構造を有し、前記第1の領域の少なくとも一部を被覆したマグネシウムとフッ素を有する第2の領域を有し、
前記コバルト、アルミニウム、フッ素の少なくとも一は、前記第1の領域と前記第2の領域とにわたって濃度勾配を有し、
前記第2の領域の厚さは、0.5nm以上50nm以下であり、
X線光電子分光測定により得られたフッ素/コバルトの原子数比は、0.05より大きく0.15より小さい、リチウムイオン二次電池。
【請求項9】
正極及び負極を備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、コバルト酸リチウムを用いた正極活物質を有し、
前記正極活物質は、層状岩塩型の結晶構造を有し、コバルトとアルミニウムを有する第1の領域、及び岩塩型の結晶構造を有し、前記第1の領域の少なくとも一部を被覆したマグネシウムとフッ素を有する第2の領域を有し、
前記コバルト、アルミニウム、マグネシウム、フッ素の少なくとも一は、前記第1の領域と前記第2の領域とにわたって濃度勾配を有し、
前記第2の領域の厚さは、0.5nm以上50nm以下である、リチウムイオン二次電池。
【請求項10】
正極及び負極を備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、コバルト酸リチウムを用いた正極活物質を有し、
前記正極活物質は、層状岩塩型の結晶構造を有し、コバルトとアルミニウムを有する第1の領域、及び岩塩型の結晶構造を有し、前記第1の領域の少なくとも一部を被覆したマグネシウムとフッ素を有する第2の領域を有し、
前記コバルト、アルミニウム、マグネシウム、フッ素の少なくとも一は、前記第1の領域と前記第2の領域とにわたって濃度勾配を有し、
X線光電子分光測定により得られたマグネシウム/コバルトの原子数比は、0.25より大きく0.3より小さく、
前記第2の領域の厚さは、0.5nm以上50nm以下である、リチウムイオン二次電池。
【請求項11】
(削除)
【請求項12】
正極及び負極を備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、コバルト酸リチウムを用いた正極活物質と、バインダ又は導電助剤と、を有し、
前記正極活物質は、層状岩塩型の結晶構造を有し、コバルトとアルミニウムを有する第1の領域、及び岩塩型の結晶構造を有し、前記第1の領域の少なくとも一部を被覆したマグネシウムとフッ素を有する第2の領域を有し、
前記第2の領域は、前記第1の領域と前記バインダ又は前記導電助剤を有する第3の領域との間に位置し、
前記コバルト、アルミニウム、フッ素の少なくとも一は、前記第1の領域と前記第2の領域とにわたって濃度勾配を有し、
前記第2の領域の厚さは、0.5nm以上50nm以下であり、
X線光電子分光測定により得られたフッ素/コバルトの原子数比は、0.05より大きく0.15より小さい、リチウムイオン二次電池。
【請求項13】
正極及び負極を備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、コバルト酸リチウムを用いた正極活物質と、バインダ又は導電助剤と、を有し、
前記正極活物質は、層状岩塩型の結晶構造を有し、コバルトとアルミニウムを有する第1の領域、及び岩塩型の結晶構造を有し、前記第1の領域の少なくとも一部を被覆したマグネシウムとフッ素を有する第2の領域を有し、
前記第2の領域は、前記第1の領域と前記バインダ又は前記導電助剤を有する第3の領域との間に位置し、
前記コバルト、アルミニウム、マグネシウム、フッ素の少なくとも一は、前記第1の領域と前記第2の領域とにわたって濃度勾配を有し、
前記第2の領域の厚さは、0.5nm以上50nm以下である、リチウムイオン二次電池。
【請求項14】
正極及び負極を備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、コバルト酸リチウムを用いた正極活物質と、バインダ又は導電助剤と、を有し、
前記正極活物質は、層状岩塩型の結晶構造を有し、コバルトとアルミニウムを有する第1の領域、及び岩塩型の結晶構造を有し、前記第1の領域の少なくとも一部を被覆したマグネシウムとフッ素を有する第2の領域を有し、
前記第2の領域は、前記第1の領域と前記バインダ又は前記導電助剤を有する第3の領域との間に位置し、
前記コバルト、アルミニウム、マグネシウム、フッ素の少なくとも一は、前記第1の領域と前記第2の領域とにわたって濃度勾配を有し、
X線光電子分光測定により得られたマグネシウム/コバルトの原子数比は、0.25より大きく0.3より小さく、
前記第2の領域の厚さは、0.5nm以上50nm以下である、リチウムイオン二次電池。
【請求項15】
(削除)
【請求項16】
請求項8、9、10、12、13、及び14のいずれか一において、
X線光電子分光測定により得られた、リチウム/コバルトの原子数比は0.5より大きく、0.85より小さい、リチウムイオン二次電池。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-03-07 
出願番号 P2019-218359
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H01M)
P 1 651・ 537- YAA (H01M)
P 1 651・ 536- YAA (H01M)
P 1 651・ 113- YAA (H01M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 平塚 政宏
特許庁審判官 粟野 正明
境 周一
登録日 2020-10-16 
登録番号 6779589
権利者 株式会社半導体エネルギー研究所
発明の名称 リチウムイオン二次電池の正極活物質、及びリチウムイオン二次電池  
代理人 蟹田 昌之  
代理人 蟹田 昌之  
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