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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A01G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A01G
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A01G
管理番号 1385181
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-06-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-06-11 
確定日 2022-03-28 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6800739号発明「農業用フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6800739号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−9〕について訂正することを認める。 特許第6800739号の請求項1及び4ないし9に係る特許を維持する。 特許第6800739号の請求項2及び3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6800739号(以下「本件特許」という。)に係る特許出願は、平成28年12月26日に特許出願され、令和2年11月27日にその特許権の設定登録がされ、同年12月16日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後の特許異議の申立ての経緯は以下のとおりである。

令和 3年 6月11日 特許異議申立人藤下 万実(以下「申立人
」という。)による請求項1ないし9に係
る発明の特許に対する特許異議の申立て
同年 9月27日付け 取消理由通知
同年11月19日 意見書及び訂正請求書の提出(特許権者)

なお、特許権者から提出された訂正の請求について、令和3年11月26日付け通知書により申立人に対し期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、申立人からは何らの応答もなかった。

第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
令和3年11月19日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「少なくともA層を有する農業用フィルムであって、
前記A層は、JIS B0601:2013に準拠して測定した表面の算術平均粗さRaが0.1〜3.0μmであり、且つ、界面活性剤を含有し、
前記A層は、無機粒子を含有しない、
ことを特徴とする農業用フィルム。」
とあるのを、
「少なくともA層を有する農業用フィルムであって、
前記A層は、JIS B0601:2013に準拠して測定した表面の算術平均粗さRaが0.1〜3.0μmであり、且つ、界面活性剤を含有し、
前記A層は、ポリオレフィン系樹脂を含有し、
前記ポリオレフィン系樹脂は、メルトフローレートが異なる2種のエチレン−酢酸ビニル共重合体、又はメルトフローレートが異なる2種の直鎖状低密度ポリエチレンであり、
前記ポリオレフィン系樹脂が、メルトフローレートが異なる2種のエチレン−酢酸ビニル共重合体である場合、一方は、メルトフローレートが5.0g/10分以上50g/l0分以下のエチレン−酢酸ビニル共重合体であり、他方は、メルトフローレートが0.01g/10分以上5.0g/10分未満のエチレン−酢酸ビニル共重合体であり、
前記ポリオレフィン系樹脂が、メルトフローレートが異なる2種の直鎖状低密度ポリエチレンである場合、一方は、メルトフローレートが1.7g/10分以上50g/10分以下の直鎖状低密度ポリエチレンであり、他方は、メルトフローレートが0.01g/10分以上1.7g/10分未満の直鎖状低密度ポリエチレンであり、
前記A層は、無機粒子を含有しない、
ことを特徴とする農業用フィルム。」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2〜9についても同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に、
「請求項1〜3のいずれかに記載の」
とあるのを、
「請求項1に記載の」
に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に、
「請求項1〜4のいずれかに記載の」
とあるのを、
「請求項1又は4に記載の」
に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項8に、
「請求項1〜7のいずれかに記載の」
とあるのを、
「請求項1及び4〜7のいずれかに記載の」
に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項9に、
「請求項1〜8のいずれかに記載の」
とあるのを、
「請求項1及び4〜8のいずれかに記載の」
に訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
ア.訂正の目的について
訂正事項1に係る訂正は、訂正前の「A層」について「ポリオレフィン系樹脂を含有し、前記ポリオレフィン系樹脂は、メルトフローレートが異なる2種のエチレン−酢酸ビニル共重合体、又はメルトフローレートが異なる2種の直鎖状低密度ポリエチレンであり、前記ポリオレフィン系樹脂が、メルトフローレートが異なる2種のエチレン−酢酸ビニル共重合体である場合、一方は、メルトフローレートが5.0g/10分以上50g/l0分以下のエチレン−酢酸ビニル共重合体であり、他方は、メルトフローレートが0.01g/10分以上5.0g/10分未満のエチレン−酢酸ビニル共重合体であり、前記ポリオレフィン系樹脂が、メルトフローレートが異なる2種の直鎖状低密度ポリエチレンである場合、一方は、メルトフローレートが1.7g/10分以上50g/10分以下の直鎖状低密度ポリエチレンであり、他方は、メルトフローレートが0.01g/10分以上1.7g/10分未満の直鎖状低密度ポリエチレンであ」ることを限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ.新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
本願の願書に添付した明細書には、
「【0037】
A層は、JIS−K7210により測定されるメルトフローレートが異なる2種以上のポリオレフィン系樹脂を含有することが好ましい。当該構成とすることにより、A層の表面の算術平均粗さRaを調整し易くなる。
【0038】
A層が、JIS−K7210により測定されるメルトフローレートが異なる2種以上のポリオレフィン系樹脂を含有する場合、上記ポリオレフィン系樹脂は、エチレン−酢酸ビニル共重合体、低密度ポリエチレン及び直鎖状低密度ポリエチレンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、エチレン−酢酸ビニル共重合体及び直鎖状低密度ポリエチレンから選択される少なくとも1種であることがより好ましい。当該構成とすることにより、A層の表面の算術平均粗さRaをより一層調整し易くなる。
【0039】
上記ポリオレフィン系樹脂が直鎖状低密度ポリエチレンである場合、当該直鎖状低密度ポリエチレンは、JIS−K7210により測定されるメルトフローレートが1.7g/10分以上の直鎖状低密度ポリエチレン(i)と、メルトフローレートが1.7g/10分未満の直鎖状低密度ポリエチレン(ii)とを含むことが好ましい。当該構成とすることにより、A層の表面の算術平均粗さRaをより一層調整し易くなる。
【0040】
上記直鎖状低密度ポリエチレン(i)のメルトフローレートの上限は特に限定されず、50g/10分が好ましく、40g/10分がより好ましく、30g/10分が更に好ましく、20g/10分が特に好ましい。また、上記直鎖状低密度ポリエチレン(ii)のメルトフローレートの下限は特に限定されず、0.01g/10分が好ましく、0.5g/10分がより好ましく、1.0g/10分が更に好ましい。
【0041】
上記ポリオレフィン系樹脂がエチレン−酢酸ビニル共重合体である場合、当該エチレン−酢酸ビニル共重合体は、JIS−K7210により測定されるメルトフローレートが5.0g/10分以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体(i)と、メルトフローレートが5.0g/10分未満のエチレン−酢酸ビニル共重合体(ii)とを含むことが好ましい。当該構成とすることにより、A層の表面の算術平均粗さRaをより一層調整し易くなる。
【0042】
上記エチレン−酢酸ビニル共重合体(i)のメルトフローレートの上限は特に限定されず、50g/10分が好ましく、40g/10分がより好ましく、30g/10分が更に好ましく、20g/10分が特に好ましい。また、上記エチレン−酢酸ビニル共重合体(ii)のメルトフローレートの下限は特に限定されず、0.01g/10分が好ましく、0.5g/10分がより好ましく、1.0g/10分が更に好ましい。」(下線は当審で付した。以下同様。)
との記載があるから、訂正事項1に係る訂正は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2及び3
ア.訂正の目的について
訂正事項2及び3に係る訂正は、それぞれ訂正前の請求項2及び3を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ.新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2及び3に係る訂正は、請求項を削除するものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項4ないし7
ア.訂正の目的について
訂正事項4ないし7に係る訂正は、訂正事項2及び3に係る訂正によって訂正前の請求項2及び3が削除されたことに伴い、引用する請求項から訂正によって削除された請求項を除くものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮、及び、同第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ.新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項4ないし7に係る訂正は、引用する請求項の一部を削除するものであって、発明特定事項の実質的な変更を伴うものではないから、本件特許明細書等に記載した事項の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2ないし9は直接または間接的に請求項1を引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1ないし9に対応する本件訂正後の請求項1ないし9は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(5)小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するから、訂正後の請求項[1−9]について訂正することを認める。

第3 本件発明について

上記「第2」のとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1ないし9に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明9」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

【請求項1】
少なくともA層を有する農業用フィルムであって、
前記A層は、JIS B0601:2013に準拠して測定した表面の算術平均粗さRaが0.1〜3.0μmであり、且つ、界面活性剤を含有し、
前記A層は、ポリオレフィン系樹脂を含有し、
前記ポリオレフィン系樹脂は、メルトフローレートが異なる2種のエチレン−酢酸ビニル共重合体、又はメルトフローレートが異なる2種の直鎖状低密度ポリエチレンであり、
前記ポリオレフィン系樹脂が、メルトフローレートが異なる2種のエチレン−酢酸ビニル共重合体である場合、一方は、メルトフローレートが5.0g/10分以上50g/l0分以下のエチレン−酢酸ビニル共重合体であり、他方は、メルトフローレートが0.01g/10分以上5.0g/10分未満のエチレン−酢酸ビニル共重合体であり、
前記ポリオレフィン系樹脂が、メルトフローレートが異なる2種の直鎖状低密度ポリエチレンである場合、一方は、メルトフローレートが1.7g/10分以上50g/10分以下の直鎖状低密度ポリエチレンであり、他方は、メルトフローレートが0.01g/10分以上1.7g/10分未満の直鎖状低密度ポリエチレンであり、
前記A層は、無機粒子を含有しない、
ことを特徴とする農業用フィルム。

【請求項2】 (削除)

【請求項3】 (削除)

【請求項4】
前記界面活性剤は、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びソルビタン脂肪酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の農業用フィルム。

【請求項5】
乾燥時のヘイズ値(Hzd)と結露時のヘイズ値(Hzw)との差(Hzd−Hzw)が10%以上である、請求項1又は4に記載の農業用フィルム。

【請求項6】
前記乾燥時のヘイズ値(Hzd)が20〜50%である、請求項5に記載の農業用フィルム。

【請求項7】
前記結露時のヘイズ値(Hzw)が20%未満である、請求項5又は6に記載の農業用フィルム。

【請求項8】
少なくとも前記A層、B層及びC層をこの順に有し、
前記B層は、ポリオレフィン系樹脂を含む単層又は複数の層からなり、少なくとも1層に無機保温剤を含有し、
前記C層は、ポリオレフィン系樹脂を含む、
請求項1及び4〜7のいずれかに記載の農業用フィルム。

【請求項9】
請求項1及び4〜8のいずれかに記載の農業用フィルムを有する農業用ハウス、農業用カーテン又は農業用トンネル。

第4 特許異議申立理由及び取消理由通知で通知した取消理由の概要

1.特許異議申立理由の概要
申立人は、本件訂正前の本件特許の請求項1ないし9に係る発明に対して、証拠として甲第1号証ないし甲第8号証を提出し、次の特許異議申立理由を申し立てている。

(1)(新規性)本件請求項1、5〜7、9の各発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(2)(進歩性)本件請求項1〜9の各発明は、甲第1号証と甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明であり、また、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明であるから、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(3)(実施可能要件)本件請求項1〜9の各発明は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

(証拠一覧)
甲第1号証 特開2016−54702号公報
甲第2号証 特開2000−139244号公報
甲第3号証 特開2001−334612号公報
甲第4号証 国際公開2010/047338号
甲第5号証 特開2011−109991号公報
甲第6号証 特開平6−143509号公報
甲第7号証 特開平11−60838号公報
甲第8号証 特開平10−119213号公報

2.取消理由通知で通知した取消理由の概要
本件訂正前の請求項1ないし9に係る特許に対して、当審が令和3年9月27日付けの取消理由通知において特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

(1)(実施可能要件)本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消すべきものである。

(2)(進歩性)本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(引用文献等一覧)
甲第2号証 特開2000−139244号公報
甲第1号証 特開2016−54702号公報
甲第4号証 国際公開2010/047338号
引用文献1 特開昭59−145146号公報

第5 取消理由通知で通知した取消理由についての当審の判断

1.実施可能要件
(1)実施可能要件に係る取消理由
取消理由通知で通知した実施可能要件に係る取消理由は、概略、訂正前の本件特許発明1ないし9の「界面活性剤を含有し、無機粒子を含有しない層を含む農業用フィルム」には、様々な材料を含有するものや種々の製造方法によって製造されるものが含まれる上、本件特許明細書を参照しても、どのような技術手段を採用すれば請求項1ないし9で特定された数値範囲の算術平均粗さRaを付与することができるのかも明らかでないから、当業者は、算術平均粗さRaを請求項1ないし9で特定された数値範囲とした農業用フィルムを生産ないし使用するために過度の試行錯誤を要するものである、というものである。

(2)当審の判断
ア.本件訂正により、訂正後の請求項1及び4ないし9の「農業用フィルム」は、その「A層」が「ポリオレフィン系樹脂を含有し、
前記ポリオレフィン系樹脂は、メルトフローレートが異なる2種のエチレン−酢酸ビニル共重合体、又はメルトフローレートが異なる2種の直鎖状低密度ポリエチレンであり、
前記ポリオレフィン系樹脂が、メルトフローレートが異なる2種のエチレン−酢酸ビニル共重合体である場合、一方は、メルトフローレートが5.0g/10分以上50g/l0分以下のエチレン−酢酸ビニル共重合体であり、他方は、メルトフローレートが0.01g/10分以上5.0g/10分未満のエチレン−酢酸ビニル共重合体であり、
前記ポリオレフィン系樹脂が、メルトフローレートが異なる2種の直鎖状低密度ポリエチレンである場合、一方は、メルトフローレートが1.7g/10分以上50g/10分以下の直鎖状低密度ポリエチレンであり、他方は、メルトフローレートが0.01g/10分以上1.7g/10分未満の直鎖状低密度ポリエチレンであ」ることが特定された。

イ.そうすると、本件特許発明1及び4ないし9は、2種のエチレン−酢酸ビニル共重合体又は直鎖状低密度ポリエチレンという特定の種類のポリオレフィン系樹脂の組み合わせであり、かつ、それぞれが特定の範囲のメルトフローレートを有するという条件を満たすものから、請求項1及び4ないし9で特定された数値範囲の算術平均粗さRaを有するものとなるよう調整することによって実施することができるから、当業者が過度の試行錯誤を要することなく実施することができるものとなった。

ウ.以上のとおりであるから、本件特許発明1及び4ないし9に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。
なお、請求項2及び3は本件訂正により削除された。

2.進歩性
(1)各甲号証等の記載
ア.甲第2号証
本件特許の出願前に頒布された甲第2号証には次の記載がある。

(ア)「【0020】
【発明の実施の形態】本発明の作物栽培に用いられる被覆フィルム1は、図1に示されるように透明フィルム層2に無機粉体が配合された無機粉体含有フィルム層3が積層されている。
【0021】透明フィルム層2および無機粉体含有フィルム層3に使用される透明樹脂としてはエチレン系重合体、プロピレン系重合体等のポリオレフィンおよび塩化ビニル等を用いることができる。中でも防汚性、耐久性、価格等の面から低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体が好ましい。」

(イ)「【0032】透明フィルム層2と無機粉体含有フィルム層3を積層することによって透明フィルム層2側の表面は平滑面となり、無機粉体含有フィルム層3側の表面は微小な凹凸のある梨地面が形成される。
【0033】本発明において、梨地面は、平均表面粗さRa(JIS B−0601−82準拠)が0.1〜5.0μmの範囲であり、好ましくは0.1〜3.0μm、より好ましくは0.1〜1.0μmの範囲である。平均表面粗さRaが0.1μmより小さいときは夏場においても不透明ないし半透明とすることができなくなり、また、5.0μmより大きい時は、冬場においても透明性が悪くなる。」

(ウ)「【0036】無機粉体含有フィルム層3に混練する場合の防曇性付与剤としては、非イオン系、アニオン系あるいはカチオン系の界面活性剤が使用できる。これらの化合物としては、ポリオキシアルキレンエーテル、多価アルコールの部分エステル、多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物の部分エステル、高級アルコール硫酸エステルアルカリ金属塩、アルキルアリールスルホネート、四級アンモニウム、脂肪酸アミン誘導体が挙げられる。
【0037】中でも炭素数14〜22の脂肪酸とソルビタン、ソルビトール、グリセリン、プロピレングリコール等の多価アルコールとのエステルあるいはそのアルキレンオキサイド付加物を主成分とする非イオン系界面活性剤等が好ましい。」

(エ)「【0043】なお、本発明被覆フィルム1においては、透明フィルム層2は単層であってもよく、また、積層フィルム層であってもよい。従って、本発明被覆フイルム1は、3層以上の構造とすることもできる。そして各層には各種の紫外線吸収剤、光安定剤(耐候性改良)、保温剤、赤外線吸収剤等を適宜添加し、各種機能を付与することもできる。
【0044】本発明被覆フイルム1を使用するときは、無機粉体含有フィルム層3面がトンネルあるいはハウスの内側となるように張設する他は従来と同様に使用され、構築されたトンネルあるいはハウスの骨組みに張設され、その内部で作物が栽培される。」

(オ)上記「(ア)ないし(エ)」においては「フィルム」及び「フイルム」との表記があるが、これらがいずれも「フィルム」を指すことは明らかである。

以上を総合すると、甲第2号証には次の2の発明(以下、それぞれ「甲2発明」及び「甲2ハウス発明」という。)が記載されている。

(甲2発明)
「透明フィルム層に無機粉体が配合された無機粉体含有フィルム層が積層され、
透明フィルム層および無機粉体含有フィルム層に使用される透明樹脂としては低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体が好ましく、
無機粉体含有フィルム層側の表面は微小な凹凸のある梨地面が形成され、
梨地面は、平均表面粗さRa(JIS B−0601−82準拠)が0.1〜3.0μmの範囲であり、
無機粉体含有フィルム層に混練する場合の防曇性付与剤としては、非イオン系界面活性剤が使用でき、脂肪酸とソルビタン、グリセリンとのエステルを主成分とする非イオン系界面活性剤が好ましく、
透明フィルム層は積層フィルム層であってもよく、被覆フィルムは、3層以上の構造とすることもでき、
各層には保温剤を適宜添加することもできる
作物栽培に用いられる被覆フィルム。」

(甲2ハウス発明)
「甲2発明の被覆フィルムが張設されたトンネルあるいはハウス。」

イ.甲第1号証
本件特許の出願前に頒布された甲第1号証には次の記載がある。

(ア)「【請求項1】
少なくとも、ポリフッ化ビニリデン系樹脂60〜95質量部とポリメタクリル酸エステル系樹脂40〜5質量部とからなる保護層(A)、紫外線吸収剤を含有しポリフッ化ビニリデン系樹脂0〜40質量部とポリメタクリル酸エステル系樹脂100〜60質量部とからなる紫外線吸収層(B)、接着層(C)、及びポリオレフィン系樹脂からなる基材層(D)を、この順序で含んでなり、算術平均粗さRaで表される表面粗度が0.8〜3.2μmの前記基材層(D)側の表面に、シリカを主成分とする防滴層(E)が形成されている農業用フッ素含有多層フィルム。」

(イ)「【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、従来のフッ素フィルムと同等レベルの耐候性及び長期展張性を有し、特に防滴性に優れ、かつ低コストな農業用フッ素含有多層フィルム及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、グリーンハウスでの使用において、展張初期の良好な防滴性能を維持しつつ長期使用可能な農業用多層フィルムの開発を鋭意検討し、本発明に至った。」

(ウ)「【0026】
<基材層(D)>
基材層(D)にはポリオレフィン系樹脂が好適に使用できるが、ポリオレフィン系樹脂としては、α−オレフィン系の単独重合体、α−オレフィンを主成分とする異種単量体との共重合体、α−オレフィンを主成分とする共役ジエンまたは非共役ジエン等の多不飽和化合物との共重合体などがあげられ、例えば高密度、低密度または直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体等が挙げられる。これらのうち、密度が0.890〜0.935の低密度ポリエチレンが、透明性や耐候性および価格の点から好ましい。また基材層(D)の厚みは、十分な強度及び柔軟性を与えるという観点から、30〜120μmが好ましく、より好ましくは50〜120μmである。
【0027】
基材層(D)には、必要に応じて安定化剤、分散剤、酸化防止剤、艶消し剤、界面活性剤、帯電防止剤、フッ素系表面改質剤、加工助剤及び紫外線吸収剤等の各種添加剤をそれらの分散性が損なわれない範囲で添加することも可能である。
【0028】
本発明の農業用フッ素含有多層フィルムは、以上説明してきた保護層(A)、紫外線吸収層(B)、接着層(C)及び基材層(D)を、この順序で配置した積層構成を有するが、本発明の目的を阻害しない限りにおいて、この積層構成には他の層を含んでもよい。例えば、保護層(A)の表面に他の層を積層して、二層構成の保護層とすることもできるし、基材層(D)の表面に他の層を積層して、二層構成の基材層とすることもできる。また、例えば、層間接着性の向上を目的として、各層の間に他の層を挿入することもできる。なお、基材層(D)の表面に他の層を積層する場合には、後述する算術平均粗さRaで表される表面粗度=0.8〜3.2μmが、他の層の表面に付与されることは言うまでもない。」

(エ)「【0035】
<製造方法>
次に本発明の農業用フッ素含有多層フィルムの製造方法について説明する。
少なくとも、保護層(A)、紫外線吸収層(B)、接着層(C)及び基材層(D)を、この順序で含む多層フィルムは、特にその製造方法が限定されるものではなく、各層を構成する原料樹脂もしくは樹脂組成物を、それぞれ別個の押出機に供給し溶融混練してフィードブロックに供給した後Tダイを通す一般的な多層フィルムの製造方法によって製造することができる。この方法では、製造工程が少なく効率的に製造できる。また、溶融混練された樹脂もしくは樹脂組成物を、少なくとも4層構成のマルチマニホールドダイに供給して多層フィルムを製造する方法でも製造することができる。この方法は、各層の厚み分布が小さい多層フィルムが得られる点で好ましい。
【0036】
基材層(D)側の表面に、算術平均粗さRaで表される表面粗度=0.8〜3.2μmを付与する方法としては、特に限定されず、例えば、上述した多層フィルムの製造方法において、ダイリップの吐出部から加熱溶融した多層樹脂を引き取り、冷却固化してフィルムを製膜する際、所定の表面粗度を付与できるように予め凹凸加工を施した金属冷却ロールで引き取る方法が一般的である。また、このときの金属冷却ロールの設定温度を50℃以上とすることで、保護層(A)において、下記(1)式によって定まるポリフッ化ビニリデン系樹脂のβ晶比率が40%以下とすることができる。
・・・」

(オ)「【0042】
<評価方法>
(表面粗度)
表面処理を施し、防滴層(E)を形成する前の基材層(D)側の表面について、超深度形状測定顕微鏡「VK−8510」(キーエンス株式会社製)を用いて、対物レンズ×20倍及び測定の間隔0.5μmの測定条件にて、多層フィルムの長手方向に沿って基準長さ(L)=900μmの粗さ曲線Y=f(X)を測定し、その曲線からJIS B 0601に規定された計算式(前記(2)式)に基づき算術平均粗さRaを測定した。なお、測定は基材層(D)側表面上の任意箇所10点について行い、算術平均粗さRaはその平均値で表示した。」

(カ)「【0050】
<実施例1>
前記のポリフッ化ビニリデン系樹脂(PVDF)80質量部及びポリメタクリル酸エステル系樹脂(PMMA)20質量部をタンブラーにてブレンドして混合物とし、φ30mmの2軸押出機によって混練して、保護層(A)用のコンパウンドを得た。
また、前記のポリフッ化ビニリデン系樹脂20質量部及びポリメタクリル酸エステル系樹脂80質量部をトリアジン系紫外線吸収剤4質量部と共にタンブラーにてブレンドして混合物とし、φ30mmの2軸押出機によって混練して、保護層(B)用のコンパウンドを得た。
次に、それぞれ保護層(A)、紫外線吸収層(B)として前記のコンパウンド、接着層(C)として前記熱可塑性エラストマー(SEBS)、及び基材層(D)として前記ポリエチレン(PE)を用い、保護層(A)、紫外線吸収層(B)及び接着層(C)についてはそれぞれφ40mmの単軸押出機を、基材層(D)についてはφ65mmの単軸押出機を用いて、フィードブロック法により押出し、予め凹凸加工を施し、冷却温度を65℃に設定した金属冷却ロールで引き取ることにより保護層(A)、紫外線吸収層(B)、接着層(C)及び基材層(D)の順序で積層され、各層の厚み及び基材層(D)側の表面の表面粗度が表1に示す多層フィルムを得た。
次に基材層(D)の表面にコロナ処理を施した後、防滴層(E)として前記の防滴剤を塗布し、乾燥後の防滴層(E)の厚みが0.1μmの農業用フッ素含有多層フィルムを作製した。
作製した農業用フッ素含有多層フィルムの光学物性、耐候性、防滴性および防塵性を測定した結果を表1に示す。
【0051】
<実施例2>
凹凸加工の度合が異なる金属冷却ロールに変更し、表面粗度を表1に示すとおりとした以外は、実施例1と同様に多層フィルムを作製した。結果を表1に示す。
【0052】
<実施例3>
表面処理方法を表1に示す条件に変更した以外は、実施例1と同様に多層フィルムを作製した。結果を表1に示す。
【0053】
<実施例4〜7>
保護層(A)あるいは紫外線吸収層(B)の樹脂組成を表1に示す条件に変更した以外は、実施例1と同様に多層フィルムを作製した。結果を表1及び表2に示す。
【0054】
<実施例8、9>
各層の膜厚を表1に示す条件に変更した以外は、実施例1と同様に多層フィルムを作製した。結果を表2に示す。
【0055】
<実施例10>
紫外線吸収剤種をトリアジン系紫外線吸収剤に代えて、酸化亜鉛を3質量部添加した以外は、実施例1と同様に多層フィルムを作製した。結果を表2に示す。
【0056】
<実施例11>
冷却温度を45℃に設定した金属冷却ロールを用いた以外は、実施例1と同様に多層フィルムを作製した。結果を表2に示す。」

以上を総合すると、甲第1号証には次の2の発明(以下、それぞれ「甲1発明」及び「甲1グリーンハウス発明」という。)が記載されている

(甲1発明)
「ポリオレフィン系樹脂からなり、JIS B 0601に基づき測定した算術平均粗さRaで表される表面粗度が0.8〜3.2μmの基材層を含んでなり、
基材層には、界面活性剤を添加する
農業用フッ素含有多層フィルム。」

(甲1グリーンハウス発明)
「甲1発明の農業用フッ素含有多層フィルムを使用したグリーンハウス。」

また、甲第1号証には次の技術的事項(以下「甲1技術的事項」という。)が記載されている。

(甲1技術的事項)
「基材層を含む多層フィルムにおいて、
基材層側の表面に、所定の表面粗度を付与できるように予め凹凸加工を施した金属冷却ロールで引き取る点。」

ウ.甲第4号証
本件特許の出願前に頒布された甲第4号証には次の記載がある。

(ア)「[0011][農業用光散乱フッ素樹脂フィルム]
本発明の農業用光散乱フッ素樹脂フィルム(以下、単に「フッ素樹脂フィルム」ということがある。)は、農業用ハウスの被覆材等として用いることができるフィルムであって、フッ素樹脂を基材とする。」

(イ)「[0034] 本発明において、フッ素樹脂フィルムの表面を凹凸粗面化する方法としては、例えば、単軸押出機または多軸押出機を用いてダイスよりフッ素樹脂を押し出して、凹凸エンボス加工が施されたキャスティングロール上にフィルムをキャストする、または押し出したフィルムを、鏡面キャスティングロールと凹凸エンボス加工が施されたバックロールとで挟持して冷却・固化する方法が挙げられる。フッ素樹脂の押し出しの温度は、200〜350℃であることが好ましい。
このように、フィルム成型時に表面を凹凸粗面化する方法は、樹脂の押し出しからエンボス加工まで連続して実施することができるため生産性に優れる。」

以上を総合すると、甲第4号証には次の技術的事項(以下「甲4技術的事項」という。)が記載されている。

「農業用光散乱フッ素樹脂フィルムにおいて、
単軸押出機または多軸押出機を用いてダイスよりフッ素樹脂を押し出して、凹凸エンボス加工が施されたキャスティングロール上にフィルムをキャストし、または押し出したフィルムを、鏡面キャスティングロールと凹凸エンボス加工が施されたバックロールとで挟持して冷却・固化して、
フッ素樹脂フィルムの表面を凹凸粗面化する点。」

エ.引用文献1
甲第6号証の【従来の技術】の項の段落【0003】に記載された文献であって、本件特許の出願前に頒布された特開昭59−145146号公報(以下「引用文献1」という。)には次の記載がある。

(ア)「本発明者らは上述のようなオレフィン系樹脂における農薬用梨地フィルムとしての問題点を除去し、防塵性、散乱光線透過性、保温性にすぐれた農業用フィルムを安価に提供するため、鋭意研究を重ねた結果最外層の少なくとも一層(A)に密度が0.940g/cm3以上でメルトインデックスが0.01g/10分以上20g/10分以下で、かつメルトフローレシオが40以上の線状ポリエチレンもしくはエチレン−αオレフィン共重合体5重量%以上50重量%以下と密度が0.940g/cm3未満のポリエチレンもしくはエチレン−αオレフィン共重合体、酢酸ビニル含有量が30重量%以下のエチレン−酢酸ビニル共重合体、アルキル(メタ)アクリレート含有量が0.5モル%以上15モル%以下のエチレン−アルキル(メタ)アクリレート共重合体から成る群から選ばれる少なくとも一種の樹脂50重量%以上95重量%以下とをブレンドして成る樹脂組成物から成る樹脂層を設けることにより、さらには最外層の少なくとも1層を除く、他樹脂層(B)の少なくとも一層に該樹脂の屈折率nBと無機フィラーの屈折率nCの比nB/nCが0.90以上1.05以下の範囲にある、シリカ、ガラス粉末、ケイ酸塩、金属酸化物、炭酸塩化合物、硫酸塩化合物、水酸化化合物、リン酸化合物類から選ばれる1種以上の無機フィラーを該多層フィルム全体に対して0.5wt%以上、25wt%以下になるように添加した樹脂層を設けることにより従来技術に比べ極めてすぐれた防塵性、散乱光線透過性、保温性を兼ね備えたフィルムが得られることを見い出し本発明を完成した。」(第2ページ右下欄第13行〜第3ページ右上欄第5行)

(イ)「本発明の第1の特徴は最外樹脂層の少なくとも一層に密度が0.940以上でMIが001以上20以下でMFRが40以上のポリエチレンもしくはエチレン−α−オレフィン共重合体を含む樹脂層を配することにより、フィルム加工時にタイ吐出直後のフィルムが、表面マット化されると同時に結晶化収縮に伴うごく微細な表面凹凸が付与されるので従来技術の表面エンボス加工や、無機フィラー添加による表面の凹凸付与で梨地状にしたフィルムの欠点であったフィルム外表面の凹部への塵挨付着が著しく改良された防塵性の高いフィルムが得られる点にある。」(第3ページ左下欄第7行〜下から2行)

(ウ)「樹脂のメルトインデックス(MI)はASTM−D1238条件Eに規定された方法により測定した。またメルトフローレシオ(MFR)はASTM−D1238条件Fで、まずMI21.6(荷重21.6Kg下;190℃で10分当りのg数で表示)を求め次式により求めた。
メルトフローレシオ=MI21.6/MI(MFR)」(第7ページ右下欄第9〜17行)

以上を総合すると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。

「外層の少なくとも一層にメルトインデックスが0.01g/10分以上20g/10分以下の線状ポリエチレンと、樹脂とをブレンドして成る樹脂組成物から成る樹脂層を設け、
フィルム加工時にタイ吐出直後のフィルムが、表面マット化されると同時に結晶化収縮に伴うごく微細な表面凹凸が付与される
農業用フィルム。」

(2)判断
ア.本件特許発明1
(ア)対比
本件特許発明1と甲2発明とを対比する。

a.甲2発明の「無機粉体含有フィルム層」及び「作物栽培に用いられる被覆フィルム」は、本件特許発明1の「A層」及び「農業用フィルム」にそれぞれ相当する。

b.甲2発明の「梨地面」は「無機粉体含有フィルム層側の表面」に「形成され」るから、甲2発明の「梨地面は、平均表面粗さRa(JIS B−0601−82準拠)が0.1〜3.0μmの範囲であり」は、本件特許発明1の「前記A層は、JIS B0601:2013に準拠して測定した表面の算術平均粗さRaが0.1〜3.0μmであり」に相当する。

c.甲2発明の「無機粉体含有フィルム層に混練する場合の防曇性付与剤としては、非イオン系界面活性剤が使用でき」は、本件特許発明1の「(前記A層は)界面活性剤を含有し」に相当する。

d.甲2発明の「無機粉体含有フィルム層に使用される透明樹脂としては低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体が好ましく」は、本件特許発明1の「前記A層は、ポリオレフィン系樹脂を含有し」に相当する。

以上を総合すると、本件特許発明1と甲2発明とは、
「少なくともA層を有する農業用フィルムであって、
前記A層は、JIS B0601:2013に準拠して測定した表面の算術平均粗さRaが0.1〜3.0μmであり、且つ、界面活性剤を含有し、
前記A層は、ポリオレフィン系樹脂を含有した
農業用フィルム。」
の点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
ポリオレフィン系樹脂が、本件特許発明1においては「メルトフローレートが異なる2種のエチレン−酢酸ビニル共重合体、又はメルトフローレートが異なる2種の直鎖状低密度ポリエチレンであり、
前記ポリオレフィン系樹脂が、メルトフローレートが異なる2種のエチレン−酢酸ビニル共重合体である場合、一方は、メルトフローレートが5.0g/10分以上50g/l0分以下のエチレン−酢酸ビニル共重合体であり、他方は、メルトフローレートが0.01g/10分以上5.0g/10分未満のエチレン−酢酸ビニル共重合体であり、
前記ポリオレフィン系樹脂が、メルトフローレートが異なる2種の直鎖状低密度ポリエチレンである場合、一方は、メルトフローレートが1.7g/10分以上50g/10分以下の直鎖状低密度ポリエチレンであり、他方は、メルトフローレートが0.01g/10分以上1.7g/10分未満の直鎖状低密度ポリエチレンであ」るのに対して、甲2発明においてはそのようなものでない点。

(相違点2)
A層が、本件特許発明1においては「無機粒子を含有しない」のに対して、甲2発明においては「無機粉体が配合された」点。

(イ)検討
まず相違点1について検討する。

a.引用発明1は「外層の少なくとも一層にメルトインデックスが0.01g/10分以上20g/10分以下の線状ポリエチレンと、樹脂とをブレンドして成る樹脂組成物から成る樹脂層を設け」るものであって、上記「(1)エ.(ウ)」の記載を踏まえると、引用発明1でいう「メルトインデックス」は本件特許発明1の「メルトフローレート」に相当するといえる。そして、引用発明1の「メルトインデックスが0.01g/10分以上20g/10分以下の線状ポリエチレン」と他の「樹脂」の「メルトフローレート」が異なることは自明である。
しかしながら、引用発明1の「線状ポリエチレン」と他の「樹脂」とは、「2種のエチレン−酢酸ビニル共重合体」でも「2種の直鎖状低密度ポリエチレン」でもなく、また、引用発明1においては他の「樹脂」の「メルトインデックス」の範囲も特定されていないから、引用発明1は相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を開示するものではない。

b.また、甲第1号証及び甲第4号証にも、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項は記載も示唆もされていない。

c.そうすると、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲2発明並びに甲第1号証、甲第4号証及び引用文献1の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ.本件特許発明4ないし9
本件特許発明4ないし8は、本件特許発明1に係る請求項1を引用し、さらに限定したものであるから、甲2発明とは少なくとも上記相違点1及び2において相違する。
また、本件特許発明9は、本件特許発明1の農業用フィルムを有する農業用ハウス、農業用カーテン又は農業用トンネルの発明であって、上記「ア.(ア)」を踏まえて本件特許発明9と甲2ハウス発明とを対比すると、両者は上記相違点1及び2と同様の点で相違し、その余の点で一致する。
そうすると、本件特許発明4ないし9は、上記「ア.(イ)」と同様の理由により、甲2発明並びに甲第1号証、甲第4号証及び引用文献1の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ.小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1及び4ないし9は、甲2発明並びに甲第1号証、甲第4号証及び引用文献1に示される周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
なお、請求項2及び3は本件訂正により削除された。

第6 取消理由通知で採用しなかった異議申立理由についての当審の判断

1.各甲号証の記載
取消理由通知で引用しなかった各甲号証には次の記載がある。

(1)甲第3号証
本件特許の出願前に頒布された甲第3号証には次の記載がある。

ア.「【請求項1】下記第一層、第三層および第一層と第三層との間にある第二層からなり、少なくとも第三層に1種類以上の界面活性剤を含有してなることを特徴とする多層フィルム。
第一層: エチレン/炭素数4〜12のα−オレフィン共重合体を主成分とする層
第二層: エチレン/酢酸ビニル共重合体および該エチレン/酢酸ビニル共重合体100重量部あたり25〜100重量部のエチレン/炭素数4〜12のα−オレフィン共重合体からなる樹脂組成物からなる層
第三層: エチレン/酢酸ビニル共重合体および該エチレン/酢酸ビニル共重合体100重量部あたり0〜50重量部のエチレン/炭素数4〜12のα−オレフィン共重合体からなる樹脂組成物からなる層」

イ.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、農園芸用施設の被覆フィルムとして好適に用いることができる樹脂フィルムに関する。」

ウ.「【0014】本発明の多層フィルムは、少なくとも第三層が界面活性剤を含有し、これにより優れた防曇性を発揮することができる。また、より優れた防曇性持続性を達成するために、本発明の多層フィルムは更に第二層が界面活性剤を含有することができる。本発明の多層フィルムは、更に第一層が界面活性剤を含有することもできる。
・・・
【0016】常温で液状の界面活性剤としては、例えば、グリセリンモノオレエート、ジグリセリンモノオレエート、ジグリセリンセスキオレエート、テトラグリセリンモノオレエート、ヘキサグリセリンモノオレエート、テトラグリセリントリオレエート、ヘキサグリセリンペンタオレエート、テトラグリセリンモノラウレート、ヘキサグリセリンモノラウレート等のグリセリン系脂肪酸エステルが、また、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンジオレエート、ソルビタンモノラウレートなどのソルビタン脂肪酸エステルが挙げられる。常温で液状の界面活性剤を配合する場合、その配合量は、それが含まれる層の重量の0.2〜3%が好ましく、0.5〜2%がより好ましい。」

(2)甲第5号証
本件特許の出願前に頒布された甲第5号証には次の記載がある。

ア.「【請求項1】
外層、中間層および内層の少なくとも3層からなる梨地状農業用ポリオレフィン系多層フィルムにおいて、
該内層が、メルトフローレート1.2〜10g/10分のエチレン−酢酸ビニル共重合体からなるポリオレフィン(A)75〜95質量部と、該ポリオレフィン(A)よりメルトフローレートが0.2g/10分以上小さい高圧法低密度ポリエチレンおよび線状低密度ポリエチレンから選ばれる少なくとも一種からなるポリオレフィン(B)5〜25質量部とからなり、
前記内層の表面に、熱可塑性樹脂からなるバインダーと無機質コロイドゾルとからなる防曇性塗膜を有することを特徴とする梨地状農業用ポリオレフィン系多層フィルム。」

イ.「【0007】
本発明者らは、少なくとも3層からなる多層フィルムにおいて、内層に用いられる樹脂、すなわちエチレン−酢酸ビニル共重合体、ならびに高圧法低密度ポリエチレンおよび/または線状低密度ポリエチレンの組成物において、そのメルトフローレート値に一定の差をつけることにより、無機充填剤の添加も微細なエンボス加工を施すこともなく良好なヘイズを示し、かつ、上記課題を解決することを発見し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。」

ウ.「【0017】
本発明の梨地状農業用ポリオレフィン系多層フィルムの構成は、前記内層、中間層、外層の3層とすることができる。また、中間層を2ないし3層とし、全体として4層または5層とすることも可能である。
・・・
【0019】
前記中間層は、1層ないし3層で構成される。この中間層は、フィルムの強度や柔軟性を出すために、線状低密度ポリエチレンやエチレン−酢酸ビニル共重合体の層で構成することが好ましい。また、製造工程中に発生する端材等の、いわゆるレタンを、中間層の少なくとも1層に、30質量%を超えない範囲で配合することができる。
【0020】
さらに、中間層には、フィルムの保温性を向上させる無機系保温剤を配合することも可能である。たとえば、一般式[Al2Li(OH)6]nX・mH2O(I)(式中のXは無機又は有機アニオン、nはアニオンXの価数、mは3以下の数である)で表わされるリチウムアルミニウム化合物及び一般式M2+1−xAlx(OH)2(Ap−)x/p・qH2O(II)(M2+はMg2+、Ca2+及びZn2+の中から選ばれた1種以上の二価金属イオンを示し、Ap−はp価のアニオン、x及びqは、それぞれ0<x<0.5、0≦q≦2を満たす数である)で表わされるハイドロタルサイト類の中から選ばれた少なくとも1種であることが重要である。これらの保温剤は、中間層の樹脂成分100質量部に対し、1〜20質量部、好ましくは3〜10質量部の割合で配合することができる。この配合量が1質量部未満では保温性の向上効果が十分に発揮されないし、20質量部を超えるとフィルムの引張強度や引裂強度などの機械物性が低下する。また、中間層において、上記保温剤は上記樹脂成分と相容性よく均一にブレンドされ、特にリチウムアルミニウム化合物は透明性がよく好ましい。」

(3)甲第6号証
本件特許の出願前に頒布された甲第6号証には次の記載がある。

ア.「【請求項1】 最外層の少なくとも一層が、酢酸ビニル含有量が20〜35重量%、メルトフローレート(MFR)が4〜50g/10分のエチレン・酢酸ビニル共重合体(A)及びMFRが0.04〜2.0g/10分の低密度ポリエチレン(B)の混合物からなり、且つ(A)と(B)の混合割合が(A)/(B)=35〜90/65〜10(重量比)、該混合物の平均酢酸ビニル含有量が12〜22重量%、及びそのMFR比((A)のMFR/(B)のMFR)=10〜100である混合物層と、他のオレフィン系樹脂層とからなる多層構造をなし、全光線透過率が80%以上、トランスが10%以下である農業用フィルム。」

イ.「【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明者らは廃棄物処理や耐汚れ性に問題のあるポリ塩化ビニルフィルムに代わる材料として注目されているエチレン・酢酸ビニル共重合体をベースとする多層農業用フィルムにおいて、塵埃付着の恐れのあるエンボス加工のような機械的加工手段を採用することなく、また光線透過率を非常に高い水準に保ちつつ直達光を低減させる手法について検討を行った。その結果、農業用フィルムの最外層の少なくとも一層に下記するようなエチレン・酢酸ビニル共重合体層を設けることによりその目的が達成できることを知った。」

ウ.「【0012】本発明においては、前記樹脂混合物層のほかに他のオレフィン樹脂層を設けた多層構造のフィルムとする。樹脂混合物を単層のフィルムとして使用するよりは、他のオレフィン樹脂層との積層体とすることにより、農業用フィルムにあった機械的強度、耐久性、保温性等の必要特性を得やすい。一般には2層又は3層の構成であり、樹脂混合物層を比較的薄肉層で形成し、オレフィン樹脂層を厚肉層に形成するのが一般的である。
【0013】オレフィン樹脂としては、酢酸ビニル含有量が20重量%以下、好ましくは15重量%以下のエチレン・酢酸ビニル共重合体、低密度ポリエチレン、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アイオノマーあるいはこれらの混合物などが好適例としてあげられる。これらはMFRが0.5〜20g/10分、とくに1〜10g/10分程度のものを用いるのが好ましい。これらの中では、中間層として用いる場合には、保温剤との親和性、経済性、樹脂混合物層との層間接着性などを考慮すると、エチレン・酢酸ビニル共重合体の使用が最も好ましい。また該樹脂層を最外層の一つとして使用するときには、エチレン・酢酸ビニル共重合体又は低密度ポリエチレンから選ぶことが望ましい。
【0014】樹脂混合物層の厚みは、3〜100μm程度、とくに10〜100μm程度であり、オレフィン樹脂層の厚みは、20〜200μm程度、とくに30〜150μm程度(2層以上有するときはその合計厚み)とするのが好ましい。各層には保温剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤、防曇剤、防霧剤等が適宜配合される。保温剤として樹脂層の屈折率と近似した屈折率を有する公知のものが使用できるが、とくに保温性が良く、光線透過性に悪影響を及ぼさないハイドロタルサイトの使用が最も好ましい。保温剤の使用量は、樹脂成分100重量部当たり、0.1〜10重量部、とくに0.2〜7重量部の割合とするのが望ましいが、3層フィルムにおいては展張した場合の外層と中間層に、2層フィルムにおいては展張した場合の外層に樹脂成分100重量部当り、30重量部以下、好ましくは20重量部以下で重点配合することが望ましい。」

(4)甲第7号証
本件特許の出願前に頒布された甲第7号証には次の記載がある。

ア.「【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明はこのような状況に鑑みてなされたものである。すなわち、とりわけ夏期におけるフィルムの損傷やフィルム同士の融着防止効果に優れるとともに、全光線透過率が高く、しかも拡散透過率が大きいという性質を有しているために、直射光による作物への障害が防止でき、さらに廃棄処理も容易な農業用被覆フィルムを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは鋭意研究を行った。この結果、ポリプロピレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物、変性ポリオレフィンを所定量含む組成物から成形されたフィルムによって、上記した課題が解決されることを見出し本発明に至った。すなわち本発明によれば、ポリプロピレン樹脂100重量部、エチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物5〜100重量部、変性ポリオレフィン樹脂10〜150重量部を含む組成物から成形されるフィルムであって、JIS K−7105で測定した拡散透過率が50%以上、全光線透過率が80%以上であることを特徴とする農業用梨地フィルムが提供される。」

(5)甲第8号証
本件特許の出願前に頒布された甲第8号証には次の記載がある。

ア.「【0005】したがって、本願発明者らは、鋭意研究し、特定の密度とメルトフローレートを有するエチレン・α−オレフィン共重合体またはこの共重合体と40重量%以下の高圧法低密度ポリエチレンとの混合物からなる樹脂を用いてフィルム成形することにより、従来より使用されているポリオレフィン系樹脂製フィルムの性能が改良されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
【発明の目的】本発明は、上記のような従来技術に伴う問題を解決しようとするものであって、従来のポリオレフィン系樹脂製フィルムからなる農業用フィルムと比べ、特に展張初期の光学特性および展張作業性に優れた農業用フィルムおよびその製造方法を提供することを目的としている。」

2.新規性
(1)請求項1
ア.対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。

a.甲1発明の「基材層」は、本件特許発明1の「A層」に相当する。また、甲1発明の「農業用フッ素含有多層フィルム」は「基材層を含んでな」るから、本件特許発明1の「少なくともA層を有する農業用フィルム」に相当する。

b.甲1発明の「基材層には、界面活性剤を添加する」は、本件特許発明1の「(A層は)界面活性剤を含有し」に相当する。

c.甲1発明の「(基材層が)ポリオレフィン系樹脂からなり」は、本件特許発明1の「前記A層は、ポリオレフィン系樹脂を含有し」に相当する。

以上を総合すると、本件特許発明1と甲1発明とは、
「少なくともA層を有する農業用フィルムであって、
前記A層は、界面活性剤を含有し、
前記A層は、ポリオレフィン系樹脂を含有し、
農業用フィルム。」
の点で一致し、次の点で相違する。

(相違点A)
A層のJIS B0601:2013に準拠して測定した表面の算術平均粗さRaが、本件特許発明1においては「0.1〜3.0μm」であるのに対して、甲1発明においては「0.8〜3.2μm」である点。

(相違点B)
ポリオレフィン系樹脂が、本件特許発明1においては「メルトフローレートが異なる2種のエチレン−酢酸ビニル共重合体、又はメルトフローレートが異なる2種の直鎖状低密度ポリエチレンであり、前記ポリオレフィン系樹脂が、メルトフローレートが異なる2種のエチレン−酢酸ビニル共重合体である場合、一方は、メルトフローレートが5.0g/10分以上50g/l0分以下のエチレン−酢酸ビニル共重合体であり、他方は、メルトフローレートが0.01g/10分以上5.0g/10分未満のエチレン−酢酸ビニル共重合体であり、前記ポリオレフィン系樹脂が、メルトフローレートが異なる2種の直鎖状低密度ポリエチレンである場合、一方は、メルトフローレートが1.7g/10分以上50g/10分以下の直鎖状低密度ポリエチレンであり、他方は、メルトフローレートが0.01g/10分以上1.7g/10分未満の直鎖状低密度ポリエチレンであ」るのに対して、甲1発明においてはそのようなものでない点。

(相違点C)
A層が、本件特許発明1においては「無機粒子を含有しない」のに対して、甲1発明においてはその点につき明らかでない点。

イ.検討
本件特許発明1と甲1発明とは、上記相違点AないしCにおいて相違するから、本件特許発明1は甲第1号証に記載された発明ではない。

(2)本件特許発明5ないし7及び9
本件特許発明5ないし7は、本件特許発明1に係る請求項1を引用し、さらに限定したものであるから、甲1発明とは少なくとも上記相違点AないしCにおいて相違する。
また、本件特許発明9は、本件特許発明1の農業用フィルムを有する農業用ハウス、農業用カーテン又は農業用トンネルの発明であって、上記「(1)ア.」を踏まえて本件特許発明9と甲2グリーンハウス発明とを対比すると、両者は上記相違点AないしCで相違し、その余の点で一致する。
そうすると、本件特許発明5ないし7及び9は、上記「(1)イ.」と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明ではない。

3.進歩性
(1)甲第1号証に記載された発明を主引用発明とする場合
ア.本件特許発明1
(ア)対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、両者は上記「2.(1)ア.」の相違点AないしCで相違し、その余の点で一致する。

(イ)検討
事案に鑑み、まず相違点Bについて検討する。
甲第2号証及び甲第4号証については、上記「第5 2.」で検討したとおりであって、相違点Bに係る本件特許発明1の発明特定事項については、記載も示唆もない。
甲第3号証(上記「1.(1)」参照。)は、界面活性剤に係る周知技術を示す文献として提示されたものであって(申立書第25ページ下から5行〜最下行、第27ページ第15〜16行)、相違点Bに係る本件特許発明1の発明特定事項については、記載も示唆もない。
甲第5号証(上記「1.(2)」参照。)及び甲第6号証(上記「1.(3)」参照。)には、メルトフローレートが異なる樹脂からなる層を有する農業用フィルムがそれぞれ記載されているが、ポリオレフィン系樹脂を相違点Bに係る2種類の樹脂とし、かつ、相違点Bに係るメルトフローレートの数値範囲内とすることについては、記載も示唆もない。
甲第7号証(上記「1.(4)」参照。)及び甲第8号証(上記「1.(5)」参照。)は、農業用フィルムにおいて2種以上のポリオレフィン系樹脂を混合して機能性を向上させることが周知技術であることを示す文献として提示されたものであって(申立書第27ページ第10〜13行)、2種以上のポリオレフィン系樹脂を混合したものが、全光線透過率が高く、拡散透過率が大きいことや(甲第7号証)、展張初期の光学特性および展張作業性に優れたこと(甲第8号証)がそれぞれ記載されているが、ポリオレフィン系樹脂を相違点Bに係る2種類の樹脂とし、かつ、相違点Bに係るメルトフローレートの数値範囲内とすることについては、記載も示唆もない。
そうすると、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第3号証ないし甲第8号証に記載された事項を考慮しても、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ.本件特許発明4ないし9
本件特許発明4ないし8は、本件特許発明1に係る請求項1を引用し、さらに限定したものであるから、甲1発明とは少なくとも上記相違点AないしCにおいて相違する。
また、本件特許発明9は、本件特許発明1の農業用フィルムを有する農業用ハウス、農業用カーテン又は農業用トンネルの発明であって、上記「ア.(ア)」を踏まえて本件特許発明9と甲1グリーンハウス発明とを対比すると、両者は上記相違点AないしCで相違し、その余の点で一致する。
そうすると、本件特許発明4ないし9は、上記「ア.(イ)」と同様の理由により、甲第3号証ないし甲第8号証に記載された事項を考慮しても、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ.小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1及び4ないし9は、甲第3号証ないし甲第8号証に記載された事項を考慮しても、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
なお、請求項2及び3は本件訂正により削除された。

(2)甲第2号証に記載された発明を主引用発明とする場合
甲第2号証に記載された発明を主引用発明とする場合については、上記「第5 2.」で検討したとおりのことがいえる。
また、上記「(1)」での検討を踏まえると、甲第1号証及び甲第3号証ないし甲第8号証にも、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項が記載も示唆もされていないことは明らかである。
そうすると、本件特許発明1及び4ないし9は、甲第1号証及び甲第3号証ないし甲第8号証に記載された事項を考慮しても、甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
なお、請求項2及び3は本件訂正により削除された。

第7 むすび

以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許発明1及び4ないし9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1及び4ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件特許の請求項2及び3は本件訂正により削除されたため、本件特許の請求項2及び3に対して申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しないものとなった。そうすると、請求項2及び3についての特許異議の申立ては不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8の規定により準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともA層を有する農業用フィルムであって、
前記A層は、JIS B0601:2013に準拠して測定した表面の算術平均粗さRaが0.1〜3.0μmであり、且つ、界面活性剤を含有し、
前記A層は、ポリオレフィン系樹脂を含有し、
前記ポリオレフィン系樹脂は、メルトフローレートが異なる2種のエチレン−酢酸ビニル共重合体、又はメルトフローレートが異なる2種の直鎖状低密度ポリエチレンであり、
前記ポリオレフィン系樹脂が、メルトフローレートが異なる2種のエチレン−酢酸ビニル共重合体である場合、一方は、メルトフローレートが5.0g/10分以上50g/10分以下のエチレン−酢酸ビニル共重合体であり、他方は、メルトフローレートが0.01/10分以上5.0g/10分未満のエチレン−酢酸ビニル共重合体であり、
前記ポリオレフィン系樹脂が、メルトフローレートが異なる2種の直鎖状低密度ポリエチレンである場合、一方は、メルトフローレートが1.7g/10分以上50g/10分以下の直鎖状低密度ポリエチレンであり、他方は、メルトフローレートが0.01g/10分以上1.7g/10分未満の直鎖状低密度ポリエチレンであり、
前記A層は、無機粒子を含有しない、
ことを特徴とする農業用フィルム。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記界面活性剤は、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びソルビタン脂肪酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の農業用フィルム。
【請求項5】
乾燥時のヘイズ値(Hzd)と結露時のヘイズ値(Hzw)との差(Hzd−Hzw)が10%以上である、請求項1又は4に記載の農業用フィルム
【請求項6】
前記乾燥時のヘイズ値(Hzd)が20〜50%である、請求項5に記載の農業用フィルム。
【請求項7】
前記結露時のヘイズ値(Hzw)が20%未満である、請求項5又は6に記載の農業用フィルム。
【請求項8】
少なくとも前記A層、B層及びC層をこの順に有し、
前記B層は、ポリオレフィン系樹脂を含む単層又は複数の層からなり、少なくとも1層に無機保温剤を含有し、
前記C層は、ポリオレフィン系樹脂を含む、
請求項1及び4〜7のいずれかに記載の農業用フィルム。
【請求項9】
請求項1及び4〜8のいずれかに記載の農業用フィルムを有する農業用ハウス、農業用カーテン又は農業用トンネル。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-03-17 
出願番号 P2016-251604
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (A01G)
P 1 651・ 113- YAA (A01G)
P 1 651・ 121- YAA (A01G)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 長井 真一
特許庁審判官 森次 顕
奈良田 新一
登録日 2020-11-27 
登録番号 6800739
権利者 住化積水フィルム株式会社
発明の名称 農業用フィルム  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

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