ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08L 審判 一部申し立て 2項進歩性 C08L |
---|---|
管理番号 | 1385185 |
総通号数 | 6 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-06-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-06-22 |
確定日 | 2022-03-11 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6805338号発明「樹脂材料、積層構造体及び多層プリント配線板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6805338号の特許請求の範囲を令和3年11月4日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜16〕について訂正することを認める。 特許第6805338号の請求項1〜7に係る特許を維持する |
理由 |
第1 手続の経緯及び証拠方法 1.手続の経緯 特許第6805338号(請求項の数16。以下、「本件特許」という。)は、平成31年3月27日を出願日(優先日:平成30年3月28日、日本国、平成30年8月27日、日本国)とする特許出願(特願2019−518013号)であって、令和2年12月7日に特許権の設定登録がされたものである(特許掲載公報の発行日は、令和2年12月23日である。)。その後、令和3年6月22日に、本件特許の請求項1〜7に係る特許に対して、特許異議申立人である長屋雅人(以下、「申立人」という。)から特許異議の申立てがなされた。 よって、本件特許異議申立てに係る審理対象は、請求項1〜7に係る特許についてであり、請求項8〜16に係る特許は、審理対象外である。 手続の経緯は以下のとおりである。 令和3年 6月22日提出 特許異議申立書 同年 9月 2日付け 取消理由通知書 同年11月 4日提出 訂正請求書、意見書(特許権者) 同年11月11日付け 通知書(申立人宛て) 令和3年11月11日付け通知書(申立人宛て)に対して申立人からの応答はなかった。 2.証拠方法 申立人が、特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に添付した証拠方法は、以下のとおりである。 甲第1号証:国際公開第2015/048575号及び抄訳文 甲第2号証:国際公開第2018/008643号 甲第3号証:国際公開第2017/027482号 (以下、上記の甲第1号証〜甲第3号証を、「甲1」〜「甲3」という。) 第2 訂正の適否 1.訂正事項 令和3年11月4日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求は、本件訂正前の特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおりに訂正することを求めるものであり、その内容は、以下のとおりのものである。下線は、訂正箇所を示す。 (1)訂正事項1 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1において、 「無機充填材(但し、導電性無機充填材を除く)とを含み」を、 「無機充填材(但し、導電性無機充填材を除く)と、エポキシ化合物とを含み」に訂正する。 (2)訂正事項2 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項9において、 「エポキシ化合物と、フェノール化合物、シアネートエステル化合物、酸無水物、活性エステル化合物、カルボジイミド化合物、及びダイマージアミンに由来する骨格を有さないベンゾオキサジン化合物の内の少なくとも1種の成分を含む硬化剤とを含む」を、 「 フェノール化合物、シアネートエステル化合物、酸無水物、活性エステル化合物、カルボジイミド化合物、及びダイマージアミンに由来する骨格を有さないベンゾオキサジン化合物の内の少なくとも1種の成分を含む硬化剤を含む」に訂正する。 2.一群の請求項について 本件訂正前の請求項2〜16は、本件訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用する関係にあり、訂正事項1により、訂正前の請求項2〜16は、訂正前の請求項1に連動して訂正されることになるから、訂正前の請求項1〜16は、一群の請求項に該当するものである。 したがって、本件訂正は、請求項〔1〜16〕の一群の請求項についてなされたものといえる。 3.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・ 変更の存否 訂正事項1は、本件訂正前の請求項1を引用する請求項9に記載されていた、「エポキシ化合物」について、本件訂正前の請求項1の樹脂材料が当該化合物を含むことを限定するものである。 したがって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。 一方、訂正事項2は、訂正事項1により、本件訂正前の請求項1に「エポキシ化合物」を含むという限定がなされたことに伴い、本件訂正前の請求項1を引用する請求項9の「エポキシ化合物」を削除するものである。 訂正事項2による訂正の前後で、請求項9の内容は実質的に変更しないので、訂正事項2は、明瞭でない記載の釈明を目的としたものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。 4.独立特許要件 上記の「第1 手続の経緯」で述べたように、本件の特許異議の申立ては、本件訂正前の請求項1〜16に係る特許のうち請求項1〜7に係る特許に対して申立てられたものであり、請求項8〜16に係る特許に対しては申立てられていない。 ここで、訂正事項1は、本件の特許異議の申立てがなされている、本件訂正前の請求項1に対するものであるから、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する「特許出願の際独立して特許を受けることができるもの」であるか(独立特許要件)についての検討は要しない。 また、訂正事項2は、本件の特許異議の申立てがなされていない、本件訂正前の請求項9に対するものであるが、3.で示したとおり、明瞭でない記載の釈明を目的としたものであるから、同じく、独立特許要件についての検討は要しない。 5.小括 以上のとおり、本件訂正の請求による訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とし、同訂正事項2は、同法同条同項ただし書第3号に掲げる事項(明瞭でない記載の釈明)を目的とするものであり、かつ、いずれも同法同条第9項で準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合しているものである。 したがって、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおりに訂正することを認める。 第3 特許異議の申立てがなされた訂正後の本件発明 上記のとおり本件訂正は適法なので、特許異議の申立てがなされた、訂正後の本件の請求項1〜7に係る発明(以下、項番に従い「本件発明1」〜「本件発明7」などといい、これらを総称して、「本件発明」ということがある。また、本件特許の設定登録時の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)は、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された、以下の事項によって特定されるとおりのものである(下線部は訂正箇所である。)。 「【請求項1】 ダイマージアミンに由来する骨格を有し、かつ、ダイマージアミン以外のジアミン化合物に由来する骨格を有するビスマレイミド化合物及びダイマージアミンに由来する骨格を有し、かつ、ダイマージアミン以外のジアミン化合物に由来する骨格を有するベンゾオキサジン化合物の内の少なくとも一方の化合物Aと、 無機充填材(但し、導電性無機充填材を除く)と、エポキシ化合物とを含み、 前記ダイマージアミン以外のジアミン化合物に由来する骨格におけるアミノ基間の距離が、前記ダイマージアミンに由来する骨格におけるアミノ基間の距離よりも短く、 樹脂材料中の溶剤を除く成分100重量%中、前記無機充填材の含有量が50重量%以上90重量%以下である、樹脂材料。 【請求項2】 前記化合物Aが、主鎖の両末端に前記ダイマージアミンに由来する骨格を有する、請求項1に記載の樹脂材料。 【請求項3】 前記化合物Aが、主鎖の両末端にのみ前記ダイマージアミンに由来する骨格を有する、請求項1又は2に記載の樹脂材料。 【請求項4】 前記化合物Aの分子量が20000未満である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂材料。 【請求項5】 前記無機充填材の平均粒径が1μm以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂材料。 【請求項6】 前記無機充填材がシリカである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂材料。 【請求項7】 ダイマージアミンに由来する骨格を有さないマレイミド化合物を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の樹脂材料。」 第4 取消理由通知で示した取消理由及び特許異議申立理由の概要 1.令和3年9月2日付け取消理由通知書で示した取消理由の概要 (1)取消理由1(サポート要件) 本件明細書には、化合物Aのみ、又は、化合物Aと樹脂材料中の50重量%以上90重量%以下の無機充填材のみで、課題1)〜5)を解決できることを推認し得るに足りる、本件特許の出願日当時の技術常識は、本件明細書に示されていない。 一方、本件明細書の表2〜4(【0257】〜【0260】)に記載された実施例1〜17は、本件訂正前の本件発明1の発明特定事項である化合物A(ビスマレイミド化合物又はベンゾオキサジン化合物)、無機充填材(シリカ)以外に、エポキシ化合物、硬化剤、硬化促進剤、熱可塑性樹脂の全てを含むものである。 ここで、同表4(【0260】)の比較例1と比較例2の実験結果の比較からすると、エポキシ化合物、硬化剤、熱可塑性樹脂の有無は、熱寸法安定性、エッチング後の表面粗度(表面粗さ)、メッキピール強度に与える影響が大きいことが窺える。 また、本件明細書の【0056】の記載によれば、ダイマージアミンに由来する骨格以外の骨格は、他の熱硬化性樹脂(エポキシ化合物や硬化剤等)と併用した場合において、一定の機能、役割を担っているものと解される。 そうすると、「エポキシ化合物」、「硬化剤」、「熱可塑性樹脂」は、上記課題を解決するうえにおいて、樹脂材料に少なからず影響を与えるものと推認できるので、「エポキシ化合物」、「硬化剤」、「熱可塑性樹脂」について規定のない本件訂正前の本件発明1〜7は、発明の詳細な説明の記載又は本件特許の出願日の技術常識を参酌しても、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲を超えるものと認められる。 したがって、本件訂正前の本件発明1〜7に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 (2)取消理由2(進歩性) 本件訂正前の本件発明1、2、4〜7は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された甲1に記載された発明と甲1、2に記載された事項を組み合わせることで、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の本件発明1、2、4〜7は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、本件訂正前の本件発明1、2、4〜7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 2.特許異議申立理由の概要 申立人が、特許異議申立書で主張する特許を取り消すべき理由(以下、「申立理由」という。)は、以下のとおりである。 (1)申立理由1(進歩性) 本件訂正前の本件発明1、4〜7は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明と甲2に記載された事項を組み合わせること、また、同本件発明2〜3は、甲1に記載された発明と甲2、3に記載された事項を組み合わせることで、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の本件発明1〜7は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、本件訂正前の本件発明1〜7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (2)申立理由2(明確性要件) 本件明細書のすべての実施例で、化合物A、無機充填材、ダイマージアミンに由来する骨格を有さないマレイミド化合物、エポキシ化合物、硬化剤、硬化促進剤及び熱可塑性樹脂が含まれており、課題を解決できることが確認された態様は、これらの全てを含む態様のみに留まる。 また、一般的に、硬化性樹脂組成物においては、硬化剤成分の種類や配合が物性に影響するものであるから、出願時の技術常識を考慮すると、本件訂正前の本件発明1〜7は発明特定事項が不足していることが明らかであるといえ、明確ではない。 したがって、本件訂正前の本件発明1〜7は、明確性要件を満たさないから、本件訂正前の本件発明1〜7に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 第5 当審の判断 当審は、請求項1〜7に係る特許は、令和3年9月2日付け取消理由通知書に記載した取消理由1〜2、及び、申立人による申立理由1〜2によっては取り消すことができないと判断する。 1.取消理由1(サポート要件) (1)サポート要件の考え方 特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。 (2)本件明細書に記載された事項 本件明細書の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。 本a. 「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 硬化物(絶縁層)の電気特性を高めるために、樹脂材料(樹脂組成物)に極性の小さい化合物を配合することがある。しかしながら、極性の小さい化合物を配合した樹脂材料を用いて硬化物(絶縁層)を形成した場合には、絶縁層と金属層との密着性が十分に高くならなかったり、硬化物の熱寸法安定性が十分に高くならなかったりする。このため、配線(金属層)が絶縁層から剥離することがある。 【0007】 また、特許文献1,2に記載のような従来の樹脂材料を用いて絶縁層を形成した場合に、熱寸法安定性が十分に高くならなかったり、エッチング後の表面粗度が十分に小さくならなかったりすることがある。エッチング後の表面粗度が十分に小さくならない場合には、アンカー効果に寄与する樹脂が部分的に細くなるために絶縁層の強度が十分に高くならず、エッチング後の硬化物(絶縁層)と、該絶縁層の表面上にめっき処理により積層した金属層とのメッキピール強度が十分に高くならないことがある。 【0008】 さらに、従来のエポキシ樹脂を含む樹脂材料では、絶縁層と金属層との密着性(特に高温時の密着性)が十分に高くならないことがある。その結果、リフロー耐性が低下することがある。 … 【0010】 本発明の目的は、1)硬化物の誘電正接を低くし、2)硬化物の熱寸法安定性を高め、3)絶縁層と金属層との密着性を高め、4)エッチング後の表面粗度を小さくし、5)メッキピール強度を高めることができる樹脂材料を提供することである。また、本発明は、上記樹脂材料を用いた積層構造体及び多層プリント配線板を提供することも目的とする。」 「【発明の効果】 【0029】 本発明に係る樹脂材料は、ダイマージアミンに由来する骨格を有し、かつ、ダイマージアミン以外のジアミン化合物に由来する骨格を有するビスマレイミド化合物及びダイマージアミンに由来する骨格を有し、かつ、ダイマージアミン以外のジアミン化合物に由来する骨格を有するベンゾオキサジン化合物の内の少なくとも一方の化合物Aを含む。本発明に係る樹脂材料は、無機充填材を含む。本発明に係る樹脂材料では、上記の構成が備えられているので、1)硬化物の誘電正接を低くし、2)硬化物の熱寸法安定性を高め、3)絶縁層と金属層との密着性を高め、4)エッチング後の表面粗度を小さくし、5)メッキピール強度を高めることができるという、1)−5)の効果を全て発揮することができる。」 本b. 「【0038】 [ダイマージアミンに由来する骨格を有し、かつ、ダイマージアミン以外のジアミン化合物に由来する骨格を有する化合物A] 本発明に係る樹脂材料は、ダイマージアミンに由来する骨格を有し、かつ、ダイマージアミン以外のジアミン化合物に由来する骨格を有するビスマレイミド化合物及びダイマージアミンに由来する骨格を有し、かつ、ダイマージアミン以外のジアミン化合物に由来する骨格を有するベンゾオキサジン化合物の内の少なくとも一方の化合物Aを含む。本発明に係る樹脂材料は、上記化合物Aとして、上記ビスマレイミド化合物のみを含んでいてもよく、上記ベンゾオキサジン化合物のみを含んでいてもよく、上記ビスマレイミド化合物と上記ベンゾオキサジン化合物との双方を含んでいてもよい。 【0039】 上記化合物Aを用いることによって、上述した1)−5)の本発明の効果を発揮することができる。上記化合物Aを用いることによって、硬化物の表面粗度(表面粗さ)を適度に小さくでき、かつ、メッキピール強度を高めることができる。上記表面粗度は、エッチングされる樹脂量に依存する。エッチングは樹脂材料に含まれる化合物の二重結合部位で起こりやすい。このため、イミド結合及びダイマージアミンに由来する骨格を有する化合物はエッチングされやすい。上記化合物Aでは、ダイマージアミン以外のジアミン化合物の分子量を制御することにより、上記イミド結合及びダイマージアミンに由来する骨格の含有率を制御することができるため、エッチング後の表面粗度を小さくし、かつ、メッキピール強度を高めることができる。 … 【0045】 上述した1)−5)の本発明の効果を効果的に発揮する観点からは、上記化合物Aでは、上記ダイマージアミン以外のジアミン化合物に由来する骨格におけるアミノ基間の距離が、上記ダイマージアミンに由来する骨格におけるアミノ基間の距離よりも短いことが好ましい。すなわち、下記に示すB1とB2とB3との合計が、下記に示すA1とA2との合計よりも小さいことが好ましい。 【0046】 上記ダイマージアミン骨格が有する脂肪族環の数をA1とする。A1は0以上の整数を表す。なお、上記脂肪族環とは、芳香族環以外の環を意味する。上記脂肪族環は、環の一部に二重結合を有していてもよい。 【0047】 上記ダイマージアミンに由来する骨格において一方のアミノ基を構成している窒素原子と他方のアミノ基を構成している窒素原子との間に存在する炭素原子のうち、芳香族環及び脂肪族環を構成していない炭素原子の数をA2とする。A2は1以上の整数を表す。 【0048】 なお、ダイマージアミンは天然物(混合物)であるため、該ダイマージアミンの構造を一構造に定義することは困難である。そのため、上記A1及びA2を算出するために、ダイマージアミンの代表骨格(ダイマージアミン骨格)として、後述する実施例の項目で用いた式(3)の骨格を用いてもよい。上記A1及びA2を算出するために、ダイマージアミン骨格として式(3)の骨格を用いる場合、A1とA2との合計は17である。A1とA2との合計を17としても、本発明の効果は損なわれない。なお、ダイマージアミン骨格は不飽和結合を有していてもよく、有していなくてもよい。 【0049】 上記ダイマージアミン以外のジアミン化合物に由来する骨格が有する芳香族環の数をB1とし、上記ダイマージアミン以外のジアミン化合物に由来する骨格が有する脂肪族環の数をB2とする。B1及びB2はそれぞれ0以上の整数を表す。なお、上記脂肪族環とは、芳香族環以外の環を意味する。上記脂肪族環は、環の一部に二重結合を有していてもよい。また、縮合環は、1つの芳香族環としてカウントする。 【0050】 上記ダイマージアミン以外のジアミン化合物に由来する骨格において一方のアミノ基を構成している窒素原子と他方のアミノ基を構成している窒素原子との間に存在する炭素原子、窒素原子及び酸素原子のうち、芳香族環及び脂肪族環を構成していない炭素原子、窒素原子及び酸素原子の数をB3とする。B3は1以上の整数を表す。B3を求める際における、上記一方のアミノ基及び上記他方のアミノ基はそれぞれ、第1級アミノ基であることが好ましい。上記ダイマージアミン以外のジアミン化合物に由来する骨格において3個以上の第1級アミノ基が存在する場合、B3の値は大きい方の数値を採用する。 【0051】 上述した1)−5)の本発明の効果を効果的に発揮する観点からは、B1とB2とB3との合計が、A1とA2との合計よりも小さいことが好ましい。上述したように、A1とA2との合計を17とする場合には、B1とB2とB3との合計が17未満であることが好ましい。 … 【0053】 <ダイマージアミンに由来する骨格を有し、かつ、ダイマージアミン以外のジアミン化合物に由来する骨格を有するビスマレイミド化合物(ビスマレイミド化合物A)> 本発明に係る樹脂材料は、上記化合物Aとして、ダイマージアミンに由来する骨格を有し、かつ、ダイマージアミン以外のジアミン化合物に由来する骨格を有するビスマレイミド化合物(以下、「ビスマレイミド化合物A」と記載することがある)を含むことが好ましい。上記ビスマレイミド化合物Aは、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。 … 【0055】 上記ビスマレイミド化合物Aは、主鎖の両末端に上記ダイマージアミンに由来する骨格を有することが好ましい。この場合、上記ビスマレイミド化合物Aは、主鎖の両末端及び主鎖の両末端以外の骨格内に上記ダイマージアミンに由来する骨格を有していてもよく、主鎖の両末端にのみ上記ダイマージアミンに由来する骨格を有していてもよい。ダイマージアミンに由来する骨格は、柔軟性を有する骨格である。そのため、上記ビスマレイミド化合物Aが、上記主鎖の両末端に上記ダイマージアミンに由来する骨格を有する場合には、マレイミド基の反応性を高めることができ、硬化反応を十分に進行させることができる。その結果、硬化物の熱寸法安定性をより一層高めることができ、また、絶縁層と金属層との密着性をより一層高めることができる。 【0056】 上記ビスマレイミド化合物Aは、主鎖の両末端にのみ上記ダイマージアミンに由来する骨格を有することがより好ましい。上記ビスマレイミド化合物Aが、上記主鎖の両末端にのみ上記ダイマージアミンに由来する骨格を有する場合には、ビスマレイミド化合物Aの軟化点をより高くすることができるので、樹脂材料の硬化物のガラス転移温度をより一層効果的に高くすることができる。このため、硬化物の熱寸法安定性を更により一層高めることができ、また、絶縁層と金属層との密着性を更により一層高めることができる。また、上記ビスマレイミド化合物Aが、上記主鎖の両末端にのみ上記ダイマージアミンに由来する骨格を有する場合には、ビスマレイミド化合物Aの主鎖のダイマージアミンに由来する骨格以外の骨格は他の熱硬化性樹脂(エポキシ化合物や硬化剤等)との相溶性を高めることができ、特に低温における裁断でのフィルムの粘度を下げることができる。 … 【0059】 主鎖の両末端にのみ上記ダイマージアミンに由来する骨格を有するビスマレイミド化合物Aは、例えば、以下のようにして得ることができる。テトラカルボン酸二無水物と、ダイマージアミン以外のジアミン化合物とを反応させて第1の反応物を得る。得られた第1の反応物とダイマージアミンとを反応させて両末端がアミノ基である第2の反応物を得る。得られた第2の反応物と無水マレイン酸とを反応させる。 … 【0061】 上記ダイマージアミンの市販品としては、例えば、バーサミン551(商品名、BASFジャパン社製、3,4−ビス(1−アミノヘプチル)−6−ヘキシル−5−(1−オクテニル)シクロヘキセン)、バーサミン552(商品名、コグニクスジャパン社製、バーサミン551の水添物)、並びにPRIAMINE1075、及びPRIAMINE1074(商品名、いずれもクローダジャパン社製)等が挙げられる。 【0062】 上記ダイマージアミン以外のジアミン化合物としては、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(アミノメチル)ノルボルナン、3(4),8(9)−ビス(アミノメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)シクロヘキサン、1,3−シクロヘキサンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン、2,7−ジアミノフルオレン、4,4’−エチレンジアニリン、イソホロンジアミン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジエチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2−エチル−6−メチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2−メチルシクロヘキシルアミン)、1,4−ジアミノブタン、1,10−ジアミノデカン、1,12−ジアミノドデカン、1,7−ジアミノヘプタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,5−ジアミノペンタン、1,8−ジアミノオクタン、1,3−ジアミノプロパン、1,11−ジアミノウンデカン、及び2−メチル−1,5−ジアミノペンタン等が挙げられる。 … 【0074】 主鎖の両末端にのみ上記ダイマージアミンに由来する骨格を有するベンゾオキサジン化合物Aは、例えば、以下のようにして得ることができる。テトラカルボン酸二無水物と、ダイマージアミン以外のジアミン化合物とを反応させて第1の反応物を得る。得られた第1の反応物とダイマージアミンとを反応させて両末端がアミノ基である第2の反応物を得る。得られた第2の反応物とフェノールとパラホルムアルデヒドとを反応させる。 … 【0084】 [エポキシ化合物] 上記樹脂材料は、エポキシ化合物を含むことが好ましい。上記エポキシ化合物として、従来公知のエポキシ化合物を使用可能である。 … 【0095】 [無機充填材] 上記樹脂材料は、無機充填材を含む。上記無機充填材の使用により、硬化物の誘電正接をより一層低くすることができる。また、上記無機充填材の使用により、硬化物の熱による寸法変化がより一層小さくなる。上記無機充填材は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。 【0096】 上記無機充填材としては、シリカ、タルク、クレイ、マイカ、ハイドロタルサイト、アルミナ、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、及び窒化ホウ素等が挙げられる。 【0097】 硬化物の表面の表面粗さを小さくし、硬化物と金属層との接着強度をより一層高くし、かつ硬化物の表面により一層微細な配線を形成し、かつ硬化物により良好な絶縁信頼性を付与する観点・からは、上記無機充填材は、シリカ又はアルミナであることが好ましく、シリカであることがより好ましく、溶融シリカであることが更に好ましい。シリカの使用により、硬化物の熱膨張率がより一層低くなり、また、硬化物の誘電正接がより一層低くなる。また、シリカの使用により、硬化物の表面の表面粗さが効果的に小さくなり、硬化物と金属層との接着強度が効果的に高くなる。シリカの形状は球状であることが好ましい。 … 【0099】 上記無機充填材の平均粒径は、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上、更に好ましくは500nm以上、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下、更に好ましくは1μm以下である。上記無機充填材の平均粒径が上記下限以上及び上記上限以下であると、エッチング後の表面粗度を小さくし、かつメッキピール強度を高くすることができ、また、絶縁層と金属層との密着性をより一層高めることができる。 … 【0104】 樹脂材料中の溶剤を除く成分100重量%中、上記無機充填材の含有量は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上、更に好ましくは65重量%以上、特に好ましくは68重量%以上、好ましくは90重量%以下、より好ましくは85重量%以下、更に好ましくは80重量%以下、特に好ましくは75重量%以下である。上記無機充填材の含有量が上記下限以上であると、誘電正接が効果的に低くなる。上記無機充填材の含有量が上記上限以下であると、熱寸法安定性を高め、硬化物の反りを効果的に抑えることができる。上記無機充填材の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、硬化物の表面の表面粗さをより一層小さくすることができ、かつ硬化物の表面により一層微細な配線を形成することができる。さらに、この無機充填材量であれば、硬化物の熱膨張率を低くすることと同時に、スミア除去性を良好にすることも可能である。… 【0105】 [ダイマージアミンに由来する骨格を有さないマレイミド化合物] 上記樹脂材料は、ダイマージアミンに由来する骨格を有さないマレイミド化合物を含むことが好ましい。…上記ビスマレイミド化合物Aと、上記ダイマージアミンに由来する骨格を有さないマレイミド化合物とを併用することにより、本発明の効果をより一層発揮することができ、特に、硬化物の熱寸法安定性を高めることができる。 … 【0112】 [硬化剤] 上記樹脂材料は、硬化剤を含むことが好ましい。上記硬化剤は特に限定されない。上記硬化剤として、従来公知の硬化剤を使用可能である。 … 【0138】 [硬化促進剤] 上記樹脂材料は、硬化促進剤を含むことが好ましい。上記硬化促進剤の使用により、硬化速度がより一層速くなる。 … 【0148】 [熱可塑性樹脂] 上記樹脂材料は、熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。上記熱可塑性樹脂としては、ポリビニルアセタール樹脂、ポリイミド樹脂及びフェノキシ樹脂等が挙げられる。 … 【0153】 ハンドリング性、低粗度でのメッキピール強度及び絶縁層と金属層との密着性を高める観点から、上記熱可塑性樹脂は、ポリイミド樹脂(ポリイミド化合物)であることが好ましい。 【0154】 溶解性を良好にする観点からは、上記ポリイミド化合物は、テトラカルボン酸二無水物とダイマージアミンとを反応させる方法によって得られたポリイミド化合物であることが好ましい。 … 【0165】 [他の成分] 耐衝撃性、耐熱性、樹脂の相溶性及び作業性等の改善を目的として、上記樹脂材料は、レベリング剤、難燃剤、カップリング剤、着色剤、酸化防止剤、紫外線劣化防止剤、消泡剤、増粘剤、揺変性付与剤及びエポキシ化合物以外の他の熱硬化性樹脂等を含んでいてもよい。」 本c. 「【0208】 以下、実施例及び比較例を挙げることにより、本発明を具体的に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されない。 … 【0210】 (化合物A) ビスマレイミド化合物A1(下記の合成例1に従って合成) ビスマレイミド化合物A2(下記の合成例2に従って合成) ビスマレイミド化合物A3(下記の合成例3に従って合成) ベンゾオキサジン化合物A1(下記の合成例4に従って合成) 【0211】 (合成例1) 撹拌機、分水器、温度計及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、テトラカルボン酸二無水物(SABICジャパン合同会社製「BisDA−1000」)135.0gと、シクロヘキサノン400gとを入れ、反応容器中の溶液を60℃まで加熱した。次いで、反応容器中に、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン(三菱ガス化学社製、分子量142.25)17.5gを滴下して、反応させて、両末端が酸無水物である反応生成物を得た。次いで、反応容器中に、ダイマージアミン(クローダジャパン社製「PRIAMINE1075」)148gをゆっくり添加した後、メチルシクロヘキサン60.0gを反応容器中に添加した。ディーンスタークトラップとコンデンサーとをフラスコに取り付け、混合物を2時間還流に熱し、両末端にアミン構造を有するイミド化合物を得た。次いで、無水マレイン酸28gを添加し、得られた混合物をさらに12時間還流して、マレイミド化を行った。反応終了後、イソプロパノールを添加し、再沈殿させた後、沈殿物を回収し、乾燥させた。このようにして、ダイマージアミンに由来する骨格を有し、かつ、ダイマージアミン以外のジアミン化合物に由来する骨格を有するN−アルキルビスマレイミド化合物(重量平均分子量10000)を得た。得られたN−アルキルビスマレイミド化合物の回収率は83%であった。 【0212】 (合成例2) 撹拌機、分水器、温度計及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、ピロメリット酸二無水物(東京化成社製、分子量254.15)55gと、シクロヘキサノン300gとを入れ、反応容器中の溶液を60℃まで加熱した。次いで、反応容器中に、ビス(アミノメチル)ノルボルナン(東京化成工業社製、分子量154.26)26.7gをシクロヘキサノンに溶解させた溶液を滴下して、反応させて、両末端が酸無水物である反応生成物を得た。その後、イソプロパノールを入れ、両末端が酸無水物のイミド化合物を回収した。次いで、沈殿物を再度シクロヘキサノンに溶解させ、反応容器中に、ダイマージアミン(クローダジャパン社製「PRIAMINE1075」)46.0gをゆっくり添加した後、メチルシクロヘキサン45.0gを反応容器中に添加した。ディーンスタークトラップとコンデンサーとをフラスコに取り付け、混合物を2時間還流して熱し、両末端にダイマージアミン構造を有するイミド化合物を得た。次いで、無水マレイン酸8.7gを添加し、得られた混合物をさらに12時間還流して、マレイミド化を行った。次いで、反応終了後、イソプロパノールを添加し、再沈殿させた後、沈殿物を回収し、乾燥させた。このようにして、ダイマージアミンに由来する骨格を有し、かつ、ダイマージアミン以外のジアミン化合物に由来する骨格を有するビスマレイミド化合物(重量平均分子量8700)を得た。得られたビスマレイミド化合物は、主鎖の両末端にのみダイマージアミンに由来する骨格を有する。得られたビスマレイミド化合物の収率は70%であった。 【0213】 (合成例3) 撹拌機、分水器、温度計及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、ピロメリット酸二無水物(東京化成社製、分子量254.15)55gと、シクロヘキサノン300gとを入れ、反応容器中の溶液を60℃まで加熱した。次いで、反応容器中に、4,4’−メチレンビス(2−メチルシクロヘキシルアミン)(東京化成工業社製、分子量238.42)39.1gをシクロヘキサノンに溶解させた溶液を滴下して、反応させて、両末端が酸無水物である反応生成物を得た。その後、イソプロパノールを入れ、両末端が酸無水物のイミド化合物を回収した。次いで、沈殿物を再度シクロヘキサノンに溶解させ、反応容器中に、ダイマージアミン(クローダジャパン社製「PRIAMINE1075」)46.0gをゆっくり添加した後、メチルシクロヘキサン45.0gを反応容器中に添加した。ディーンスタークトラップとコンデンサーとをフラスコに取り付け、混合物を2時間還流に熱し、両末端にダイマージアミン構造を有するイミド化合物を得た。次いで、無水マレイン酸8.9gを添加し、得られた混合物をさらに12時間還流して、マレイミド化を行った。次いで、反応終了後、イソプロパノールを添加し、再沈殿させた後、沈殿物を回収し、乾燥させた。このようにして、ダイマージアミンに由来する骨格を有し、かつ、ダイマージアミン以外のジアミン化合物に由来する骨格を有するビスマレイミド化合物(重量平均分子量9800)を得た。得られたビスマレイミド化合物は、主鎖の両末端にのみダイマージアミンに由来する骨格を有する。得られたビスマレイミド化合物の収率は65%であった。 【0214】 (合成例4) 撹拌機、分水器、温度計及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、テトラカルボン酸二無水物(SABICジャパン合同会社製「BisDA−1000」)135.0gと、シクロヘキサノン400gとを入れ、反応容器中の溶液を60℃まで加熱した。次いで、反応容器中に、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン(三菱ガス化学社製、分子量142.25)17.5gを滴下して、反応させて、両末端が酸無水物である反応生成物を得た。次いで、反応容器中に、ダイマージアミン(クローダジャパン社製「PRIAMINE1075」)148gをゆっくり添加した後、メチルシクロヘキサン60.0gを反応容器中に添加した。ディーンスタークトラップとコンデンサーとをフラスコに取り付け、混合物を2時間還流に熱し、両末端にアミン構造を有するイミド化合物を得た。次いで、フェノールとパラホルムアルデヒドを添加し、得られた混合物をさらに12時間還流して、ベンゾオキサジン化を行った。反応終了後、イソプロパノールを添加し、再沈殿させた後、沈殿物を回収し、乾燥させた。このようにして、ダイマージアミンに由来する骨格を有し、かつ、ダイマージアミン以外のジアミン化合物に由来する骨格を有するベンゾオキサジン化合物(重量平均分子量11000)を得た。得られたベンゾオキサジン化合物の収率は83%であった。 … 【0217】 得られたビスマレイミド化合物A1,A2,A3及びベンゾオキサジン化合 物A1において、ダイマージアミン骨格が有する脂肪族環の数A1は1であった。得られたビスマレイミド化合物A1,A2,A3及びベンゾオキサジン化合物A1におけるダイマージアミン骨格において、一方のアミノ基を構成している窒素原子と他方のアミノ基を構成している窒素原子との間に存在する炭素原子のうち、芳香族環及び脂肪族環を構成していない炭素原子の数A2は16であった。下記式(3)にダイマージアミンに由来する骨格におけるマレイミドの構造の一例を示す。なお、ダイマージアミンは天然物(混合物)であるため、用いたダイマージアミンの全てが下記式(3)の構造を有するとは限らないが、A1とA2との合計である17と、後述するB1とB2とB3との合計とを比較しても、ビスマレイミド化合物の性状上、本発明の効果に影響を及ぼさない。 … 【0219】 【化3】 【0220】 【化4】 … 【0224】 得られたビスマレイミド化合物A1,A2,A3及びベンゾオキサジン化合物A1の詳細を表1に示す。 【0225】 【表1】 【0226】 (その他) N−アルキルビスマレイミド化合物1(Designer Molecules Inc.社製「BMI−1700」、軟化点60℃) N−アルキルビスマレイミド化合物2(Designer Molecules Inc.社製「BMI−1500」) N−フェニルマレイミド化合物(大和化成工業社製「BMI−4000」) … 【0231】 (熱可塑性樹脂) ポリイミド化合物(ポリイミド樹脂): テトラカルボン酸二無水物とダイマージアミンとの反応物であるポリイミド化合物含有溶液(不揮発分26.8重量%)を以下の合成例5に従って合成した。 【0232】 (合成例5) 撹拌機、分水器、温度計及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、テトラカルボン酸二無水物(SABICジャパン合同会社製「BisDA−1000」)300.0gと、シクロヘキサノン665.5gとを入れ、反応容器中の溶液を60℃まで加熱した。次いで、反応容器中に、ダイマージアミン(クローダジャパン社製「PRIAMINE1075」)89.0gと、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン(三菱ガス化学社製)54.7gとを滴下した。次いで、反応容器中に、メチルシクロヘキサン121.0gと、エチレングリコールジメチルエーテル423.5gとを添加し、140℃で10時間かけてイミド化反応を行った。このようにして、ポリイミド化合物含有溶液(不揮発分26.8重量%)を得た。得られたポリイミド化合物の分子量(重量平均分子量)は20000であった。なお、酸成分/アミン成分のモル比は1.04であった。 … 【0235】 (実施例1〜17及び比較例1〜3) 下記の表2〜4に示す成分を下記の表2〜4に示す配合量(単位は固形分重量部)で配合し、均一な溶液となるまで常温で攪拌し、樹脂材料を得た。 … 【0258】 【表2】 【0259】 【表3】 【0260】 【表4】 」 (3)本件発明が解決しようとする課題 本件明細書の【0010】によると、本件発明が解決しようとする課題は、「1)硬化物の誘電正接を低くし、2)硬化物の熱寸法安定性を高め、3)絶縁層と金属層との密着性を高め、4)エッチング後の表面粗度を小さくし、5)メッキピール強度を高めることができる樹脂材料を提供すること」にあると認められる。 (4)サポート要件の判断 本件明細書の【0039】には、「上記化合物Aを用いることによって、上述した1)〜5)の本発明の効果を発揮することができる。…イミド結合及びダイマージアミンに由来する骨格を有する化合物はエッチングされやすい。上記化合物Aでは、ダイマージアミン以外のジアミン化合物の分子量を制御することにより、上記イミド結合及びダイマージアミンに由来する骨格の含有率を制御することができるため、エッチング後の表面粗度を小さくし、かつ、メッキピール強度を高めることができる。」、同【0095】には、「無機充填材の使用により、硬化物の誘電正接をより一層低くすることができる。また、上記無機充填材の使用により、硬化物の熱による寸法変化がより一層小さくなる。」、同【0092】には、「硬化物の熱寸法安定性をより一層高める観点からは、樹脂材料中の溶剤を除く成分100重量%中、上記エポキシ化合物の含有量は、好ましくは15重量%以上、より好ましくは25重量%以上、好ましくは50重量%以下、より好ましくは40重量%以下である。」との記載があり(いずれも本b)、これらの記載を裏付けるものとして、本件明細書の【0257】〜【0260】の表2〜4には、実施例1〜17として、本件発明1の発明特定事項である化合物A(ビスマレイミド化合物又はベンゾオキサジン化合物)、無機充填材(シリカ)、エポキシ化合物を含む樹脂材料が、1)誘電正接、2)硬化物の熱寸法安定性、3)絶縁層と金属層との密着性、4)エッチング後の表面粗度、5)メッキピール強度の全てにおいて、優れた効果を示すことが開示されている(本c)。 これに対し、同【0260】の表4には、比較例1〜3として、化合物Aに代えてN−アルキルビスマレイミド化合物やN−フェニルマレイミド化合物を含有させた樹脂材料又はこれらのマレイミド化合物を含有しない樹脂材料は、無機充填材やエポキシ化合物を含む場合であっても、1)〜5)の効果のいずれかが劣ることが記載されている。 そうすると、化合物Aに加え一定量の無機充填材及びエポキシ化合物を、樹脂材料の発明特定事項として採用している本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載より、当業者が上記1)〜5)の課題を解決できると認識できる範囲のものと認められる。 したがって、本件発明1は、サポート要件を満たすものである。 また、本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2〜7も、本件発明1と同様の理由により、サポート要件を満たすものである。 (5)小括 以上のとおり、本件発明1〜7に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由1(サポート要件)により取り消すことはできない。 2.取消理由2(進歩性) (1)甲1に記載された事項及び甲1に記載された発明 ア.甲1に記載された事項 甲1(国際公開第2015/048575号)には、以下の事項が記載されている。 なお、甲1は英文であるため、以下では、申立人が提出した抄訳文を用いて引用箇所を摘記した。 甲1a 「特許請求の範囲 【請求項1】 a)少なくとも1つの低誘電率、低誘電正接の樹脂、及び b)接着促進剤、硬化触媒、阻害剤、充填剤、難燃剤及び反応性希釈剤からなる群から選択される少なくとも1つの化合物 を含む硬化性組成物。 【請求項2】 少なくとも1つの低誘電率、低誘電正接樹脂が、マレイミド末端ポリイミドを含む、請求項1に記載の組成物。 【請求項3】 マレイミド末端ポリイミドが、以下からなる群から選択される、請求項2に記載の組成物。 …」 甲1b 「[0024] 本発明のマレイミド末端ポリイミドを単独で、又は他の記載された添加剤と組み合わせて使用すると、多種多様な電子パッケージ用途に理想的な非常に優れた性能のフィルムが得られる。これらの電子機器の用途には、フレキシブル銅張積層板、複合パッケージ、リチウムイオン電池構造、燃料電池とその構造、絶縁保護コーティング用途、ダイアタッチペースト及びフィルム用途が含まれるが、これらに限定されない。」 「[0037] 本発明はまた、本発明による組成物を含むフィルムを提供し、これは、典型的には、低誘電率及び低誘電正接を有し、マイクロエレクトロニクスフィルムであり得る。 [0038] 典型的には低誘電率及び低誘電正接を有し、マイクロエレクトロニクスコーティングであり得る本発明の組成物を含むコーティングも提供される。…」 甲1c 「[0171]… 実施例1:化合物I(BMI−3000)の合成 テフロンコーティングされた撹拌棒を備えた1Lの反応フラスコに、164.7g(300mmol)のプリアミン−1075(ダイマージアミン…)を入れた。反応フラスコに、200gのN−メチルピロリドン(NMP)及び500gのトルエンを加え、続いて25gのメタンスルホン酸を加えた。混合物を激しく撹拌しながら、ピロメリット酸二無水物43.6(200mmol)をフラスコに加えた。ポリアミック酸溶液を加熱還流し、反応で生成した水を、ディーン・スターク・トラップを使用して6時間かけて除去した。溶液を冷却し、23.5g(240mmol)の無水マレイン酸をフラスコに加えた。溶液を一晩加熱還流した。18時間後、ディーン・スターク・トラップに残りの水が回収され、反応の終了を示した。溶液をさらに500g のトルエンで希釈し、分液漏斗に入れた。溶液を200gの水で洗浄し、続いて100gの塩水で2回洗浄してNMPと酸を除去した。トルエンの大部分を真空下で除去して、約50重量%の固形分溶液を得た。生成物は、撹拌されたメタノール中に沈殿させることにより収集した。プフナー漏斗で濾過することにより、固形の樹脂を回収し、続いてオーブンで乾燥させた。 実施例2:化合物 II(BMI−2192)の合成 [0172] テフロンコーティングされた撹拌棒を備えた1Lの反応フラスコに、109.8g(200mmol)のプリアミン−1075及び38.8g(200mmol) のビス(アミノメチル)トリシクロデカンを入れた。反応フラスコに、200gのNMP及び500gのトルエンを加え、続いて25gのメタンスルホン酸を加えた。混合物を激しく撹拌しながら、ピロメリット酸二無水物65.4g(300mmol)をフラスコに加えた。ポリアミック酸溶液を加熱還流し、反応で生成した水を、ディーン・スターク・トラップを使用して6時間かけて除去した。溶液を冷却し、23.5g(240mmol)の無水マレイン酸をフラスコに加えた。溶液を一晩加熱還流した。18時間後、ディーン・スターク・トラップに残りの水が回収され、反応の終了を示した。溶液をさらに500gのトルエンで希釈し、分液淵斗に入れた。溶液を200gの水で洗浄し、続いて100gの塩水で2回洗浄してNMPと酸を除去した。トルエンの大部分を真空下で除去して、約50重葦%の固形分溶液を得た。生成物は、撹拌したアセトン中に物質を沈澱させることにより集められた。ブフナー漏斗で濾過することにより、固形の樹脂を回収し、続いてオーブンで乾燥させた。」 「[0177] 誘電率と誘電正接はヒューレット・パッカード社のインピーダンスマテリアルアナライザを使用して決定した。誘電率と誘電正接は1GHzの周波数で測定され、結果は下記表1に記載した。 」 イ.甲1に記載された発明 甲1の特許請求の範囲には、 「a)少なくとも1つの低誘電率、低誘電正接の樹脂、及び b)接着促進剤、硬化触媒、阻害剤、充填剤、難燃剤及び反応性希釈剤からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含む硬化性組成物。」(請求項1)、 「低誘電率、低誘電正接樹脂が、マレイミド末端ポリイミドを含む」こと(請求項2)、 「マレイミド末端ポリイミドが、以下からなる群から選択される」こと(請求項3) が、それぞれ記載されており、請求項3には、実施例1に記載されている「BMI−3000」の化学構造を有する化合物の他に、実施例2に記載されている「BMI−2192」の化学構造を有する化合物が挙げられている。 そうすると、甲1には、 「a)少なくとも1つのBMI−2192であるマレイミド末端ポリイミドを含む低誘電率、低誘電正接の樹脂、及び b)接着促進剤、硬化触媒、阻害剤、充填剤、難燃剤及び反応性希釈剤からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含む硬化性組成物。」(以下、「甲1発明」という。) が記載されていると認められる。 (2)甲2に記載された事項 甲2(国際公開第2018/008643号)には、以下の事項が記載されている。 甲2a 「[請求項1] 飽和又は不飽和の2価の炭化水素基及び少なくとも2つのイミド結合を有する2価の基を有するマレイミド化合物と、 イミダゾール化合物、リン化合物、アゾ化合物及び有機過酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む触媒と、 を含有する、樹脂組成物。 … [請求項7] 請求項1〜5のいずれか一項に記載の樹脂組成物の硬化物を含む樹脂層と、導体層とを有する、積層板。 [請求項8] 請求項1〜5のいずれか一項に記載の樹脂組成物の硬化物を含む樹脂層と、回路層とを備える、多層プリント配線板。 …」 甲2b 「[0009] 本発明は、このような現状に鑑み、優れた高周波特性(低比誘電率、低誘電正接)を備え、かつ、耐熱性及び導体との接着性をも高い水準で備える樹脂組成物、該樹脂組成物を用いて製造される樹脂フィルム、積層板及び多層プリント配線板を提供することを目的とする。また、本発明は、上記樹脂フィルムを用いた多層プリント配線板の製造方法を提供することを目的とする。 [0010] 本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定のマレイミド化合物と特定の触媒とを含有する樹脂組成物により上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。 … [0017] <(A)飽和又は不飽和の2価の炭化水素基及び少なくとも2つのイミド結合を有する2価の基を有するマレイミド化合物> 本実施形態に係る飽和又は不飽和の2価の炭化水素基及び少なくとも2つのイミド結合を有する2価の基を有するマレイミド化合物を(A)成分ということがある。…(A)成分を用いることで、高周波特性及び導体との高い接着性を有する樹脂組成物を得ることができる。 … [0040] (A)成分の分子量は特に限定されない。取扱性、流動性及び回路埋め込み性の観点より(A)成分の重量平均分子量(Mw)は、500〜10000であることが好ましく、1000〜9000であることがより好ましく、1500〜9000であることが更に好ましく、1500〜7000であることがより一層好ましく、1700〜5000であることが特に好ましい。 … [0043] (A)成分を製造する方法は限定されない。(A)成分は、例えば、酸無水物とジアミンとを反応させてアミン末端化合物を合成した後、該アミン末端化合物を過剰の無水マレイン酸と反応させることで作製してもよい。 [0044] 酸無水物としては、例えば、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。…より良好な誘電特性の観点から、酸無水物は、無水ピロメリット酸であることが好ましい。 [0045] ジアミンとしては、例えば、ダイマージアミン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニル、1,3−ビス[2−(4−アミノフェニル)−2−プロピル]ベンゼン、1,4−ビス[2−(4−アミノフェニル)−2−プロピル]ベンゼン、ポリオキシアルキレンジアミン、[3,4−ビス(1−アミノヘプチル)−6−ヘキシル−5−(1−オクテニル)]シクロヘキセン等が挙げられる。これらは目的、用途等に合わせて、1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。 [0046] (A)成分としては、例えば、下記式(XIII)で表される化合物であってもよい。 … [0048] (A)成分としては、市販されている化合物を使用することもできる。市販されている化合物としては、例えば、Designer Molecules Inc.製の製品が挙げられ、具体的には、BMI−1500、BMI−1700、BMI−3000、BMI−5000、BMI−9000(いずれも商品名)等が挙げられる。より良好な高周波特性を得る観点から、(A)成分としてBMI−3000を使用することがより好ましい。 … [0058] <(C)芳香族マレイミド化合物> 本実施形態に係る樹脂組成物には、(A)成分とは異なる(C)芳香族マレイミド化合物を含有してもよい。…(C)成分を用いることで、樹脂組成物は、特に低熱膨張特性に優れるものとなる。すなわち、本実施形態の樹脂組成物は、(A)成分と(C)成分とを併用することにより、良好な誘電特性を維持しつつ、低熱膨張特性等を更に向上させることができる。この理由として、(A)成分と(C)成分とを含有する樹脂組成物から得られる硬化物は、低誘電特性を備える(A)成分からなる構造単位と、低熱膨張である(C)成分からなる構造単位とを備えるポリマーを含有するためだと推測される。 … [0083] (C)成分は、有機溶媒への溶解性、高周波特性、導体との高接着性、プリプレグの成形性等の観点から、ポリアミノビスマレイミド化合物を用いることが好ましい。ポリアミノビスマレイミド化合物は、例えば、末端に2個のマレイミド基を有する化合物と、分子中に2個の一級アミノ基を有する芳香族ジアミン化合物とを有機溶媒中でマイケル付加反応させることにより得られる。 … [0085] また、有機溶媒への溶解性が高く、合成時の反応率が高く、かつ、耐熱性を高くできる観点からは、4,4’−ジアミノジフェニルメタン及び4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチル−ジフェニルメタンが好ましい。これらは目的、用途等に合わせて、1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。 … [0089] <(D)熱硬化性樹脂> 本実施形態の樹脂組成物は、(A)成分及び(C)成分とは異なる(D)熱硬化性樹脂を更に含有することができる。なお、(A)成分又は(C)成分に該当し得る化合物は、(D)熱硬化性樹脂に帰属しないものとする。(D)熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、シアネートエステル樹脂等が挙げられる。(D)熱硬化性樹脂を含むことで、樹脂組成物の低熱膨張特性等を更に向上させることができる。 … [0092] (硬化剤) 本実施形態の樹脂組成物が(D)熱硬化性樹脂を含有する場合、(D)熱硬化性樹脂の硬化剤を更に含有してもよい。これにより、樹脂組成物の硬化物を得る際の反応を円滑に進めることができるとともに、得られる樹脂組成物の硬化物の物性を適度に調節することが可能となる。 … [0095](無機充填剤) 本実施形態の樹脂組成物は、無機充填剤を更に含有してもよい。任意に適切な無機充填剤を含有させることで、樹脂組成物の低熱膨張特性、高弾性率性、耐熱性、難燃性等を向上させることができる。無機充填剤としては特に限定されないが、例えば、シリカ、アルミナ、酸化チタン、マイカ、ベリリア、チタン酸バリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、炭酸アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、焼成クレー、タルク、ホウ酸アルミニウム、炭化ケイ素等が挙げられる。これらは1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。 … [0098] 無機充填剤を用いる場合、その使用量は特に制限されないが、例えば、樹脂組成物中の固形分を全量として無機充填剤の含有比率が5〜90質量%であることが好ましく、10〜80質量%であることがより好ましい。樹脂組成物中の無機充填剤の含有量が上記の範囲である場合、より良好な硬化性、成形性及び耐薬品性が得られ易くなる。 … [0101] (熱可塑性樹脂) 本実施形態の樹脂組成物は、樹脂フィルムの取扱性を高める観点から、熱可塑性樹脂を更に含有してもよい。熱可塑性樹脂の種類は特に限定されず、分子量も限定されないが、(A)成分との相溶性をより高める点から、数平均分子量(Mn)が200〜60000であることが好ましい。」 甲2c 「実施例 [0147]以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明を更に詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。 [0148] [樹脂組成物の調製] 下記手順に従って、各種の樹脂組成物を調製した。実施例1〜12及び比較例1〜5の樹脂組成物の調製に用いた各原材料の使用量(質量部)は、表1及び2にまとめて示す。 [0149] 温度計、還流冷却管及び攪拌装置を備えた300mLの4つ口フラスコに、表1又は表2に示す各成分を投入し、25℃で1時間攪拌した後、#200ナイロンメッシュ(開口75μm)によりろ過して樹脂組成物を得た。 [0150] なお、表1及び2における各材料の略号等は、以下の通りである。 (1)(A)成分 BMI−3000[Mw:約3000、Designer Molecules Inc.製、商品名] BMI−5000[Mw:約5000、Designer Molecules Inc.製、商品名] (2)(B)成分 パーブチルP[ジ(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1分間半減期温度:175℃、1時間半減期温度:138℃、日油株式会社製、商品名] パークミルD[ジクミルパーオキシド、1分間半減期温度:175℃、1時間半減期温度:136℃、日油株式会社製、商品名] パーヘキシン25B[2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン−3、1分間半減期温度:180℃、1時間半減期温度:138℃、日油株式会社製、商品名] パーブチルA[t−ブチルパーオキシアセテート、1分間半減期温度:160℃、1時間半減期温度:121℃、日油株式会社製、商品名] パーブチルI[t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、1分間半減期温度:159℃、1時間半減期温度:118℃、日油株式会社製、商品名] G−8009L[イソシアネートマスクイミダゾール(ヘキサメチレンジイソシアネート樹脂と2−エチル−4−メチルイミダゾールの付加反応物)、第一工業製薬株式会社製、商品名] TPP−MK[テトタフェニルホスホニウム、北興産業株式会社製、商品名] (3)(B)’成分((B)成分とは異なる触媒) ナフテン酸亜鉛[東京化成工業株式会社製] (4)(C)成分 BMI−1000[ビス(4−マレイミドフェニル)メタン、大和化成工業株式会社製、商品名] BMI−4000[2,2−ビス(4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル)プロパン、大和化成工業株式会社製、商品名] (5)ジアミン ビスアニリンM[1,3−ビス[2−(4−アミノフェニル)−2−プロピル]ベンゼン、三井化学ファイン株式会社製、商品名] (6)無機充填剤 シリカスラリー[球状溶融シリカ、表面処理:フェニルアミノシランカップリング剤(1質量%/スラリー中の全固形分)、分散媒:メチルイソブチルケトン(MIBK)、固形分濃度:70質量%、平均粒子径:0.5μm、密度:2.2g/cm3、株式会社アドマテックス製、商品名「SC−2050KNK」] … [0151][表1] … [0153] なお、上記(A)成分として用いた化合物(BMI−3000及びBMI−5000)の推定される構造は下記式(XII−3)のとおりである。 」 (3)本件発明1と甲1発明の対比、判断 ア.本件発明1と甲1発明の対比 本件発明1と甲1発明((1)イ)を対比する。 甲1の[0171]実施例2によると、甲1発明の「BMI−2192」は、プリアミン−1075とビス(アミノメチル)トリシクロデカンの混合物に、ピロメリット酸二無水物を加えて反応させ、更に、無水マレイン酸を加えて反応させることで調製されるものであるところ(甲1c)、甲1の[0171]実施例1には、「プリアミン−1075」が「ダイマージアミン」の商品名であることが記載されるから(甲1c)、下記の構造式を有する、甲1発明の「BMI−2191」は、「プリアミン−1075」、すなわち「ダイマージアミン」に由来する「C36H72」の骨格と「ビス(アミノメチル)トリシクロデカン」に由来する「ビス(メチル)トリシクロデカン」の骨格を含む「マレイミド末端ポリイミド」であると認められる。 そして、上記の「ビス(アミノメチル)トリシクロデカン」は、「ダイマージアミン」とは異なるアミンであり、当該アミンに由来する骨格「ビス(メチル)トリシクロデカン」は、本件明細書の【0049】〜【0050】で説明されている(本b)、B1(芳香族環の数)が0、B2(脂肪族環の数)が1、B3(一方のアミノ基を構成している窒素原子と他方のアミノ基を構成している窒素原子との間に存在する芳香族環及び脂肪族環を構成していない炭素原子、窒素原子及び酸素原子の数)が2であり、同【0046】〜【0048】で説明されている(本b)、B1+B2+B3の合計が3であり、ダイマージアミンのA1(脂肪族環の数)が1、A2(一方のアミノ基を構成している窒素原子と他方のアミノ基を構成している窒素原子との間に存在する炭素原子のうち、芳香族環及び脂肪族環を構成していない炭素原子の数)が16で、A1+A2の合計17より小さい。 してみれば、甲1発明の「BMI−2191」は、「ダイマージアミンに由来する骨格」と「ダイマージアミン以外のジアミン化合物に由来する骨格」を共に有し、且つ「ダイマージアミン以外のジアミン化合物に由来する骨格におけるアミノ基間の距離が、前記ダイマージアミンに由来する骨格におけるアミノ基間の距離よりも短」いという本件発明1の要件を満たしているといえる。 また、甲1発明の「充填剤」は、「無機充填材」に限られないから、本件発明1の「無機充填材」とは、「充填材」の限りにおいて一致している。 更に、甲1発明の「硬化性組成物」は樹脂を含む組成物であるから、本件発明1の「樹脂材料」に相当する。 以上からすると、本件発明1と甲1発明は、 「ダイマージアミンに由来する骨格を有し、かつ、ダイマージアミン以外のジアミン化合物に由来する骨格を有するビスマレイミド化合物と、 充填材とを含み、 前記ダイマージアミン以外のジアミン化合物に由来する骨格におけるアミノ基間の距離が、前記ダイマージアミンに由来する骨格におけるアミノ基間の距離よりも短い、樹脂材料。」で一致し、以下の点で相違している。 <相違点1> 本件発明1では、充填材について、「樹脂材料中の溶剤を除く成分100重量%中、50重量%以上90重量%以下の無機充填材(但し、導電性無機充填材を除く)を含有」しているのに対して、 甲1発明では、無機充填材(但し、導電性無機充填材を除く)を用いることや上記充填材の含有量について規定がない点 <相違点2> 本件発明1では、樹脂材料にエポキシ化合物を含むのに対して、 甲1発明では、硬化性組成物にエポキシ化合物を含むことが記載されていない点 イ.相違点2の判断 事案に鑑み、相違点2の検討を優先する。 甲1の[0024]によると、甲1発明の「硬化性組成物」は、「フレキシブル銅張積層板」等の各種用途に使用できるものであるが(甲1b)、甲1には、充填剤等を配合した具体的な処方組成物についての開示はなく、甲1発明の「BMI−2191」をエポキシ化合物と組み合わせることについては示唆すらされていない。 一方、甲2の請求項7、8には、「積層板」、「多層プリント配線板」に使用される樹脂組成物が記載され(甲2a)、[0089]には、エポキシ樹脂等の(D)熱硬化性樹脂を樹脂組成物に配合することにより、「樹脂組成物の低熱膨張特性等を更に向上させることができる」ことが記載されている(甲2b) しかし、甲1には、甲1発明の「硬化性組成物」が熱膨張特性において課題があることは記載されてないし、甲2の[0149]〜[0151]に示された実施例1〜12の樹脂組成物は、いずれも(D)熱硬化性樹脂を含むものではないから(甲2c)、甲2の[0089]の記載が、甲1発明の「硬化性組成物」に、(D)熱硬化性樹脂のうちエポキシ樹脂(エポキシ化合物)を選択して配合することを当業者に動機づけるものとはいえない。 加えて、甲1の[0037]には、甲1発明の「硬化性組成物」が「低誘電率及び低誘電正接」を示すこと、甲2の[0009]には、甲2の「樹脂組成物」が「高周波特性(低比誘電率、低誘電正接)」及び「耐熱性及び導体との接着性」を示すことが記載されるところ、本件明細書の【0029】(本a)及び【0257】〜【0260】の表2〜4(本c)によると、本件発明1は、化合物A、一定量の無機充填材及びエポキシ化合物を樹脂材料で用いることにより、1)誘電正接、2)硬化物の熱寸法安定性、3)絶縁層と金属層との密着性、4)エッチング後の表面粗度、5)メッキピール強度の全てにおいて優れた効果を示すという、甲1、2に記載のない効果を奏するものである。 そうすると、相違点2として挙げた本件発明1の発明特定事項は、甲1〜2の記載事項を参酌しても、当業者が容易に想到し得たものとは認められない。 したがって、本件発明1は、相違点1について検討するまでもなく、甲1発明、すなわち、甲1に記載された発明と甲1、2に記載された事項を組み合わせても当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 また、本件発明2、4〜7は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲1に記載された発明と甲1、2に記載された事項を組み合わせても当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (4)小括 以上のとおり、本件発明1〜2、4〜7に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由2(進歩性)により取り消すことはできない。 3.取消理由通知書で採用しなかった申立理由の検討 申立人による申立理由1(進歩性)は、当審が取消理由通知書で通知した取消理由2(進歩性)に対応するものであり、本件発明2〜3に係る特許に対する判断以外は、上記2(3)〜(4)において、実質的な検討がなされている。 なお、申立人は、甲1、2に加え、甲3を副引用例に提示して、本件発明2〜3が進歩性を有しない旨を主張する。 しかし、甲3の[0161]等には、1行記載として、主鎖の両末端に前記ダイマージアミンに由来する骨格を有し、かつ、ダイマージアミン以外のジアミン化合物に由来する骨格を有するビスマレイミド化合物が開示されているに過ぎず、甲1、2と同様に、甲3にも、相違点1として挙げた本件発明1の発明特定事項は、記載も示唆されていない。 そうすると、本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2〜3についても、本件発明1と同様の理由により、甲1に記載された発明と甲1〜3に記載された事項を組み合わせても当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 申立人による申立理由2(明確性)は、本件明細書のすべての実施例で、化合物A、無機充填材、ダイマージアミンに由来する骨格を有さないマレイミド化合物、エポキシ化合物、硬化剤、硬化促進剤及び熱可塑性樹脂が含まれ、課題を解決できることが確認された態様は、上記成分の全てを含む態様のみに留まるから、請求項1において上記成分の全てを含むことの特定を求めるものである。 しかし、本件明細書を参照しても、化合物A、無機充填材、エポキシ化合物以外の成分が、上記1)〜5)の課題の解決に欠くことのできないものであることを示す記載は存しないし、化合物A、無機充填材、エポキシ化合物以外の成分を欠いた場合に、樹脂材料が、上記1)〜5)の課題を当業者が解決できないことを窺わせる客観的資料(本件特許の出願時の技術常識等)も申立人より提出されていない。 そうすると、申立人が述べる、硬化性樹脂組成物においては硬化剤成分の種類や配合が物性に影響するという一般的な理由だけで、請求項1において上記成分の全てを含むことの特定が必要であるとはいえない。 また、請求項1〜7の樹脂材料の配合成分は、適切な技術用語を用いて特定されており、請求項1〜7の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとも認められないから、本件発明1〜7が、明確性要件に違反しているとはいえない。 したがって、申立人による申立理由1(進歩性)及び申立理由2(明確性)は、いずれも理由がない。 第6 むすび 以上のとおり、本件訂正については、適法であるから、これを認める。 本件の請求項1〜7に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできない。 また、他に本件の請求項1〜7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 ダイマージアミンに由来する骨格を有し、かつ、ダイマージアミン以外のジアミン化合物に由来する骨格を有するビスマレイミド化合物及びダイマージアミンに由来する骨格を有し、かつ、ダイマージアミン以外のジアミン化合物に由来する骨格を有するベンゾオキサジン化合物の内の少なくとも一方の化合物Aと、 無機充填材(但し、導電性無機充填材を除く)と、 エポキシ化合物とを含み、 前記ダイマージアミン以外のジアミン化合物に由来する骨格におけるアミノ基間の距離が、前記ダイマージアミンに由来する骨格におけるアミノ基間の距離よりも短く、 樹脂材料中の溶剤を除く成分100重量%中、前記無機充填材の含有量が50重量%以上90重量%以下である、樹脂材料。 【請求項2】 前記化合物Aが、主鎖の両末端に前記ダイマージアミンに由来する骨格を有する、請求項1に記載の樹脂材料。 【請求項3】 前記化合物Aが、主鎖の両末端にのみ前記ダイマージアミンに由来する骨格を有する、請求項1又は2に記載の樹脂材料。 【請求項4】 前記化合物Aの分子量が20000未満である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂材料。 【請求項5】 前記無機充填材の平均粒径が1μm以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂材料。 【請求項6】 前記無機充填材がシリカである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂材料。 【請求項7】 ダイマージアミンに由来する骨格を有さないマレイミド化合物を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の樹脂材料。 【請求項8】 前記化合物Aが、前記ダイマージアミンに由来する骨格を有し、かつ、ダイマージアミン以外のジアミン化合物に由来する骨格を有するビスマレイミド化合物を含み、 前記ダイマージアミンに由来する骨格を有し、かつ、ダイマージアミン以外のジアミン化合物に由来する骨格を有するビスマレイミド化合物が、主鎖の両末端にのみダイマージアミンに由来する骨格を有する第1のビスマレイミド化合物と、主鎖の両末端以外の骨格内にダイマージアミンに由来する骨格を有し、かつイミド骨格を2個以上有する第2のビスマレイミド化合物とを含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の樹脂材料。 【請求項9】 フェノール化合物、シアネートエステル化合物、酸無水物、活性エステル化合物、カルボジイミド化合物、及びダイマージアミンに由来する骨格を有さないベンゾオキサジン化合物の内の少なくとも1種の成分を含む硬化剤を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の樹脂材料。 【請求項10】 硬化促進剤を含み、 前記硬化促進剤がアニオン性硬化促進剤を含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の樹脂材料。 【請求項11】 前記アニオン性硬化促進剤が、イミダゾール化合物である、請求項10に記載の樹脂材料。 【請求項12】 前記硬化促進剤100重量%中、前記アニオン性硬化促進剤の含有量が20重量%以上である、請求項10又は11に記載の樹脂材料。 【請求項13】 樹脂フィルムである、請求項1〜12のいずれか1項に記載の樹脂材料。 【請求項14】 金属層を表面に有する積層対象部材と、前記金属層の表面上に積層された樹脂フィルムとを備え、 前記樹脂フィルムが、請求項1〜13のいずれか1項に記載の樹脂材料である、積層構造体。 【請求項15】 前記金属層の材料が銅である、請求項14に記載の積層構造体。 【請求項16】 回路基板と、 前記回路基板の表面上に配置された複数の絶縁層と、 複数の前記絶縁層間に配置された金属層とを備え、 複数の前記絶縁層の内の少なくとも1層が、請求項1〜13のいずれか1項に記載の樹脂材料の硬化物である、多層プリント配線板。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2022-03-03 |
出願番号 | P2019-518013 |
審決分類 |
P
1
652・
537-
YAA
(C08L)
P 1 652・ 121- YAA (C08L) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
近野 光知 |
特許庁審判官 |
土橋 敬介 福井 悟 |
登録日 | 2020-12-07 |
登録番号 | 6805338 |
権利者 | 積水化学工業株式会社 |
発明の名称 | 樹脂材料、積層構造体及び多層プリント配線板 |
代理人 | 特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所 |