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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1385201
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-06-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-08-23 
確定日 2022-03-29 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6833211号発明「インプリント成型用光硬化性樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6833211号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜4〕について訂正することを認める。 特許第6833211号の請求項1、3及び4に係る特許を維持する。 特許第6833211号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6833211号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜4に係る特許についての出願は、平成30年1月26日に出願され、令和3年2月5日にその特許権の設定登録がされ、令和3年2月24日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和3年 8月23日 特許異議申立人松井伸一(以下「申立人」と いう。)による請求項1〜4に係る特許に対 する本件特許異議の申立て
令和3年11月12日付け 取消理由通知書
令和3年12月20日 特許権者による訂正請求書(以下、この訂正 請求書による訂正を「本件訂正」という。) 及び意見書の提出
令和4年 1月21日付け:特許法第120条の5第5項の規定に基づく 通知書

なお、令和4年1月21日付け通知書に対して、申立人からの応答はなかった。

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正は、令和3年12月20日に提出された訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、本件特許の特許請求の範囲を、訂正後の請求項1〜4について訂正することを求めるものであって、その内容は以下のとおりである(下線は、訂正箇所として特許権者が付したものである。)。
なお、本件訂正は、一群の請求項である訂正後の請求項〔1〜4〕について請求されている。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を
「ラジカル重合反応性モノマー及び/又はオリゴマー(成分A)と、イオン性化合物(成分B)と、光ラジカル重合開始剤(成分C)とを含むインプリント成型用光硬化性樹脂組成物であって、
前記成分Aは、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー及びエポキシ(メタ)アクリレートオリゴマーからなる群より選択される少なくとも1種のオリゴマー(成分A1)と、環構造を有する(メタ)アクリレートモノマー(成分A2)とを含み、
前記成分A1は、重量平均分子量が500〜50,000であり、
前記成分A中、前記成分A2が20〜90重量%であり、
前記成分A100重量部に対して前記成分Bが1〜20重量部であり、
粘度が1,000mPa・s以下であり、
前記成分A1が、ポリエン骨格を有するウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー又はその水素添加物であり、
前記成分A2が、脂環式(メタ)アクリレートモノマー及び芳香族(メタ)アクリレートモノマーからなる群より選択される少なくとも1種である
インプリント成型用光硬化性樹脂組成物。」に訂正する。
請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3及び4も同様に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「請求項1又は2に記載の」とあるのを、「請求項1に記載の」に改める。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1〜3のいずれか1項に記載の」とあるのを、「請求項1又は3に記載の」に改める。

2 訂正要件の判断
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的
訂正事項1は、「成分A1」について、「ポリエン骨格を有するウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー又はその水素添加物であ」ると限定するとともに、「成分A2」について、「脂環式(メタ)アクリレートモノマー及び芳香族(メタ)アクリレートモノマーからなる群より選択される少なくとも1種である」と限定するものである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
訂正事項1に関し、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)には、以下の記載がある(下線は当審で付した。以下同様。)。
「【0010】
[インプリント成型用光硬化性樹脂組成物]
インプリント成型用光硬化性樹脂組成物(以下、単に「光硬化性樹脂組成物」又は「組成物」ともいう)は、ラジカル重合反応性モノマー及び/又はオリゴマー(成分A)と、イオン性化合物(成分B)と、光ラジカル重合開始剤(成分C)とを含むインプリント成型用光硬化性樹脂組成物であって、
前記成分Aは、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー及びエポキシ(メタ)アクリレートオリゴマーからなる群より選択される少なくとも1種のオリゴマー(成分A1)と、環構造を有する(メタ)アクリレートモノマー(成分A2)とを含み、前記成分A1は、重量平均分子量が500〜50,000であり、前記成分A中、前記成分A2が20〜90重量%であり、前記成分A100重量部に対して前記成分Bが1〜20重量部であり、粘度が1,000mPa・s以下である
【0011】
(成分A)
成分Aは、ラジカル重合反応性モノマー及び/又はオリゴマーである。ラジカル重合反応性モノマー及び/又はオリゴマーは、ラジカル重合反応性の官能基を有する。ラジカル重合反応性の官能基は、不飽和二重結合含有基であれば特に限定されないが、アルケニル基(例えば、ビニル基、アリル基等)又は(メタ)アクリロイル基が好ましく、(メタ)アクリロイル基が特に好ましい。
【0012】
成分Aは、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー及びエポキシ(メタ)アクリレートオリゴマーからなる群より選択される少なくとも1種のオリゴマー(成分A1)と、環構造を有する(メタ)アクリレートモノマー(成分A2)とを含む。
【0013】
<ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー及びエポキシ(メタ)アクリレートオリゴマーからなる群より選択される1以上のオリゴマー(成分A1)>
成分A1は、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー及びエポキシ(メタ)アクリレートオリゴマーからなる群より選択される1以上のオリゴマーである。成分A1は、インプリント成型硬化体を製造する過程において、基材密着性及び型剥離性を付与する成分であり、インプリント成型硬化体が付着した基材の反りを抑える成分である。
【0014】
<<ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー>>
ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーは、脂肪族系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系、ポリエステル系又はこれらの組合せのポリウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーが挙げられる。これらは、1種でも、2種以上の組合せでもよい。これらの中でも脂肪族系が好ましく、脂肪族系の中でもポリエン骨格を有するもの又はポリエン骨格を有するものの水素添加物(水添物)が好ましい。ポリエン骨格としては、ポリブタジエン及びポリイソプレンの骨格が挙げられる。
・・・
【0022】
<成分A2:環構造を有する(メタ)アクリレートモノマー>
成分A2は、環構造を有する(メタ)アクリレートモノマーである。成分A2は、各成分の相溶化に寄与する成分である。さらに成分A2は、環構造を有することにより組成物の硬化物のガラス転移温度を上昇させる。環構造は、脂肪族の環構造及び芳香族の環構造が挙げられる。よって、成分A2は、脂環式(メタ)アクリレートモノマー及び芳香族(メタ)アクリレートモノマーからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。これらは2官能(メタ)アクリレートモノマーであることも好ましい。」

上記記載のとおり、願書に添付した明細書には、訂正事項1に係る「前記成分A1が、ポリエン骨格を有するウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー又はその水素添加物であり、前記成分A2が、脂環式(メタ)アクリレートモノマー及び芳香族(メタ)アクリレートモノマーからなる群より選択される少なくとも1種である」ことが記載されている。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質拡張・変更の有無
上記ア及びイに照らせば、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項2
ア 訂正の目的
訂正事項2は、本件訂正前の請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
請求項の削除により、新たな技術的事項が導入されることはないから、訂正事項2は、新規事項を追加するものではない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質拡張・変更の有無
上記ア及びイに照らせば、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(3)訂正事項3、4
ア 訂正の目的
訂正事項3は、訂正事項2による請求項の削除に伴い、請求項3において選択的に引用する請求項のうち一部を削除するものであり、訂正事項4は、訂正事項2による請求項の削除に伴い、請求項4において選択的に引用する請求項のうち一部を削除するものであるから、訂正事項3、4は、いずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
引用する請求項のうち一部を削除することにより、新たな技術的事項が導入されることはないから、訂正事項3、4は、新規事項を追加するものではない。
したがって、訂正事項3、4は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質拡張・変更の有無
上記ア及びイに照らせば、訂正事項3、4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項3、4は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜4について訂正を認める。

第3 本件訂正後の請求項に係る発明
本件訂正は上記第2のとおり認められたので、本件訂正により訂正された請求項1〜4に係る発明(以下それぞれ「本件発明1」〜「本件発明4」といい、本件発明2を除いた発明を総称して「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
ラジカル重合反応性モノマー及び/又はオリゴマー(成分A)と、イオン性化合物(成分B)と、光ラジカル重合開始剤(成分C)とを含むインプリント成型用光硬化性樹脂組成物であって、
前記成分Aは、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー及びエポキシ(メタ)アクリレートオリゴマーからなる群より選択される少なくとも1種のオリゴマー(成分A1)と、環構造を有する(メタ)アクリレートモノマー(成分A2)とを含み、
前記成分A1は、重量平均分子量が500〜50,000であり、
前記成分A中、前記成分A2が20〜90重量%であり、
前記成分A100重量部に対して前記成分Bが1〜20重量部であり、
粘度が1,000mPa・s以下であり、
前記成分A1が、ポリエン骨格を有するウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー又はその水素添加物であり、
前記成分A2が、脂環式(メタ)アクリレートモノマー及び芳香族(メタ)アクリレートモノマーからなる群より選択される少なくとも1種である
インプリント成型用光硬化性樹脂組成物。」

「【請求項2】
(削除)」

「【請求項3】
硬化物のガラス転移温度(Tg)が85℃以上である請求項1に記載のインプリント成型用光硬化性樹脂組成物。」

「【請求項4】
前記成分Bがイオン液体である請求項1又は3に記載のインプリント成型用光硬化性樹脂組成物。」

第4 令和3年11月12日付け取消理由通知書で通知した取消理由の概要
本件訂正前の請求項1〜4に係る特許に対して、当審が令和3年11月12日付け取消理由通知書により特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

理由1(新規性)下記の請求項に係る発明は、本件特許に係る出願前に日本国内又は外国において、下記の頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

理由2(進歩性)下記の請求項に係る発明は、本件特許に係る出願前に日本国内又は外国において、下記の頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件特許に係る出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

理由3(サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、下記の請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

理由4(実施可能要件)本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、下記の請求項に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定に違反してされたものである。

[理由1、2について]
(1)本件訂正前の請求項1、3に係る発明は、引用文献1に記載された発明であるか、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本件訂正前の請求項4に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)本件訂正前の請求項1、3、4に係る発明は、引用文献2に記載された発明であるか、引用文献2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)本件訂正前の請求項1、3に係る発明は、引用文献3又は引用文献4に記載された発明、及び引用文献1、2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)本件訂正前の請求項4に係る発明は、引用文献3又は引用文献4に記載された発明、及び引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

引用文献一覧
引用文献1:特開2013−64127号公報(甲第1号証)
引用文献2:国際公開第2014/189035号(甲第2号証)
引用文献3:特開2012−214716号公報(甲第3号証)
引用文献4:特開2018−9102号公報(甲第4号証)

[理由3、4について]
(1)本件訂正前の請求項1〜4に係る発明の「環構造を有する(メタ)アクリレートモノマー(成分A2)」との特定事項に関して、「環構造」とは、環をなす分子構造を有しているものであれば、あらゆるものを包含する(例えば、複素環をも含む)と解される。
一方、発明の詳細な説明を参酌すると、特に【0022】〜【0025】、実施例1〜10の記載から、相溶化及びガラス転移温度の上昇に寄与する成分として、脂環式又は芳香族の(メタ)アクリレートモノマーを含ませることが把握されるが、脂環式にも芳香族にも該当しない環構造を有する(メタ)アクリレートモノマーについては、発明の詳細な説明の記載から具体的に把握することができない。
ここで、環の分子構造が大きく異なれば、当該環構造を有する(メタ)アクリレートモノマーの製造方法、ひいては、相溶性、ガラス転移温度等の性質も大きく異なることが出願時の技術常識であることに照らせば、(メタ)アクリレートモノマーであって、環構造を有するもののすべてが、相溶化及びガラス転移温度の上昇に寄与するとはいえず、上記のような脂環式や芳香族の(メタ)アクリレートモノマーと化学構造が大きく異なる化合物をも包含する請求項1〜4に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化するための根拠を見いだせない。
したがって、本件訂正前の請求項1〜4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

(2)上記(1)のような発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識を考慮すると、任意の環構造を有する(メタ)アクリレートモノマーであって、相溶化及びガラス転移温度の上昇の作用を奏するものを製造するためには、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤が必要であるといえる。
したがって、発明の詳細な説明は、本件訂正前の請求項1〜4に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

第5 当審の判断
1 理由1(新規性)、理由2(進歩性)について
新規性進歩性に係る取消理由は、本件訂正前の請求項1、3、4に係る特許を対象とするものであって、本件訂正前の請求項2に係る特許を対象としないものであるところ、上記第3に示したとおり、本件訂正により、本件発明1、3、4は、当該請求項2の「前記成分A1が、ポリエン骨格を有するウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー又はその水素添加物であり、」との発明特定事項を含むものとなった結果、新規性進歩性に係る取消理由の対象とされていない当該請求項2に係る発明の発明特定事項をすべて含むものとなった。
よって、本件訂正により、理由1及び理由2は、解消した。

2 理由3(サポート要件)、理由4(実施可能要件)について
本件訂正により、本件発明1、3、4には、「環構造を有する(メタ)アクリレートモノマー(成分A2)」につき、「前記成分A2が、脂環式(メタ)アクリレートモノマー及び芳香族(メタ)アクリレートモノマーからなる群より選択される少なくとも1種である」と限定された。
これにより、本件発明1、3、4は、相溶化及びガラス転移温度の上昇に寄与する成分A2として、発明の詳細な説明に具体的に記載されたものを特定することとなったから、本件発明1、3、4は、発明の詳細な説明に記載したものであり、かつ、発明の詳細な説明は、本件発明1、3、4を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものである。
よって、本件訂正により、理由3及び理由4は、解消した。

3 取消理由通知書において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許法第36条第6項第2号明確性
申立人は、特許異議申立書(57頁2行〜19行)において、請求項1〜4に記載された「環構造を有する(メタ)アクリレートモノマー」に関し、本件訂正後の願書に添付した明細書(以下「本件訂正明細書」という。)には、脂肪族の環構造及び芳香族の環構造を有する化合物が記載されているが、「環構造」の概念には、例えば、モルホリン環及びテトラヒドロフルフリル環等の複素環も含まれるところ、請求項1〜4にいう「環構造」がどのような構造を意味しているのかが不明確である旨、主張している。
しかしながら、請求項1〜4に記載の「環構造」とは、環をなす分子構造を有しているものであれば、あらゆるものを包含する(例えば、複素環をも含む)と解することができるから、「環構造」の意味が不明確であるということはできない。
なお、本件訂正により、本件発明1、3、4には、「環構造を有する(メタ)アクリレートモノマー」に関し、「脂環式(メタ)アクリレートモノマー及び芳香族(メタ)アクリレートモノマーからなる群より選択される少なくとも1種である」旨、限定された結果、本件発明1、3、4の「環構造を有する(メタ)アクリレートモノマー」から、脂環式、芳香族以外の環構造を有するものは排除されている。
してみると、本件発明1、3、4は明確であり、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たすものである。

(2)特許法第36条第4項第1号実施可能要件
申立人は、特許異議申立書(58頁20行〜59頁2行)において、本件訂正明細書の実施例においては、粘度が1,000mPa・sを超過する比較例がないことから、本件訂正前の請求項1〜4に係る「粘度が1,000mPa・s以下である」との要件の臨界的な意義が不明であり、発明の詳細な説明の記載は、請求項1〜4に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではない旨、主張している。
しかしながら、本件訂正明細書の【0006】によれば、本件発明は、硬化物において、帯電防止能と高いガラス転移温度による耐久性との両立が困難であったという課題を解決するものである一方、同【0039】によれば、本件発明における「粘度が1,000mPa・s以下である」との事項は、基材への密着性や製造時の不具合防止といった観点からみて、望ましい数値範囲を示したものである。このように、当該事項の技術的意味は、本件訂正明細書に説明されているとともに、当該事項は、本件発明の課題の解決には直接関係のないものであると解される。
そして、発明の詳細な説明には、1,000mPa・s以下の粘度を有する組成物の実施例が具体的に相当数示されている。
してみると、発明の詳細な説明の記載は、本件発明1、3、4を当業者が実施できる程度に明確かつ十分になされたものであり、特許法第36条第4項第1号の要件を満たす。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、3及び4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、3及び4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件請求項2に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項2に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合反応性モノマー及び/又はオリゴマー(成分A)と、イオン性化合物(成分B)と、光ラジカル重合開始剤(成分C)とを含むインプリント成型用光硬化性樹脂組成物であって、
前記成分Aは、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー及びエポキシ(メタ)アクリレートオリゴマーからなる群より選択される少なくとも1種のオリゴマー(成分A1)と、環構造を有する(メタ)アクリレートモノマー(成分A2)とを含み、
前記成分A1は、重量平均分子量が500〜50,000であり、
前記成分A中、前記成分A2が20〜90重量%であり、
前記成分A100重量部に対して前記成分Bが1〜20重量部であり、
粘度が1,000mPa・s以下であり、
前記成分A1が、ポリエン骨格を有するウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー又はその水素添加物であり、
前記成分A2が、脂環式(メタ)アクリレートモノマー及び芳香族(メタ)アクリレートモノマーからなる群より選択される少なくとも1種である
インプリント成型用光硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
硬化物のガラス転移温度(Tg)が85℃以上である請求項1に記載のインプリント成型用光硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記成分Bがイオン液体である請求項1又は3に記載のインプリント成型用光硬化性樹脂組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照
異議決定日 2022-03-18 
出願番号 P2018-011390
審決分類 P 1 651・ 851- YAA (H01L)
P 1 651・ 113- YAA (H01L)
P 1 651・ 536- YAA (H01L)
P 1 651・ 537- YAA (H01L)
P 1 651・ 121- YAA (H01L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 山村 浩
特許庁審判官 野村 伸雄
清水 督史
登録日 2021-02-05 
登録番号 6833211
権利者 協立化学産業株式会社
発明の名称 インプリント成型用光硬化性樹脂組成物  
代理人 特許業務法人 津国  
代理人 弁理士法人 津国  

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