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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F24F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  F24F
管理番号 1385202
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-06-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-08-23 
確定日 2022-04-04 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6832985号発明「空調装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6832985号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1ないし4〕について訂正することを認める。 特許第6832985号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6832985号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、2018年8月15日を国際出願日とする特願2019−525934号の一部を、令和1年6月17日に新たな特許出願としたものであって、令和3年2月4日にその特許権の設定登録がされ、令和3年2月24日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和3年8月23日:特許異議申立人 吉田 真理奈(以下、「特許異議申立人」という。)による請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立て
令和3年11月4日付け:取消理由通知書
令和3年12月28日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和4年1月12日付け:訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項
令和4年2月17日:特許異議申立人による意見書の提出

第2 訂正の請求
1 訂正の内容
令和3年12月28日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、次の訂正事項よりなる(なお、下線を付した箇所は訂正箇所である。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「【請求項1】
室内空間を空調する空調部と、
前記室内空間の温度及び湿度を取得する取得部と、
前記取得部により取得された前記温度及び前記湿度に応じて、前記空調部に前記室内空間を除湿させる第1の除湿運転と、前記空調部に前記室内空間を除湿させる、前記第1の除湿運転より冷房能力が低い第2の除湿運転と、を行う空調制御部と、を備え、
前記空調制御部は、前記取得部により取得された前記湿度と前記室内空間の設定湿度との湿度差が第1の湿度閾値より大きく、且つ、前記取得部により取得された前記温度と前記室内空間の設定温度との温度差が第1の温度閾値より小さいとき、前記第1の除湿運転を行い、前記取得部により取得された前記温度と前記室内空間の設定温度との温度差が第2の温度閾値より小さくなると、前記第1の除湿運転から前記第2の除湿運転に切り替える、
空調装置。」とあるのを、

「【請求項1】
室内空間を空調する空調部と、
前記室内空間の温度及び湿度を取得する取得部と、
前記取得部により取得された前記温度及び前記湿度に応じて、前記空調部に前記室内空間を冷房させる冷房運転と、前記空調部に前記室内空間を除湿させる、前記冷房運転より冷房能力が低い第1の除湿運転と、前記空調部に前記室内空間を除湿させる、前記第1の除湿運転より冷房能力が低い第2の除湿運転と、を行う空調制御部と、を備え、
前記空調制御部は、前記取得部により取得された前記湿度と前記室内空間の設定湿度との湿度差が第1の湿度閾値より大きく、且つ、前記取得部により取得された前記温度と前記室内空間の設定温度との温度差が第1の温度閾値より小さいとき、前記第1の除湿運転を行い、前記取得部により取得された前記温度と前記室内空間の設定温度との温度差が第2の温度閾値より小さくなると、前記第1の除湿運転から前記第2の除湿運転に切り替え、前記取得部により取得された前記温度と前記室内空間の設定温度との温度差が前記第1の温度閾値より大きくなると、前記第1の除湿運転から前記冷房運転に切り替え、
前記空調制御部は、前記取得部により取得された前記湿度と前記室内空間の設定湿度との湿度差が前記第1の湿度閾値より小さく、且つ、前記取得部により取得された前記温度と前記室内空間の設定温度との温度差が前記第1の温度閾値より小さいとき、前記冷房運転を行う、
空調装置。」と訂正する。

2 訂正の目的の存否、新規事項の追加の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
ア 訂正事項1は、訂正前の「空調制御部」に対して、「前記空調部に前記室内空間を冷房させる冷房運転」を行なうこと、及び「前記取得部により取得された前記温度と前記室内空間の設定温度との温度差が前記第1の温度閾値より大きくなると、前記第1の除湿運転から前記冷房運転に切り替え、前記空調制御部は、前記取得部により取得された前記湿度と前記室内空間の設定湿度との湿度差が前記第1の湿度閾値より小さく、且つ、前記取得部により取得された前記温度と前記室内空間の設定温度との温度差が前記第1の温度閾値より小さいとき、前記冷房運転を行う」ことを限定し、訂正前の「第1の除湿運転」に対して、「前記冷房運転より冷房能力が低い」ことを限定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること。
訂正事項1は、願書に添付した明細書の段落【0042】、【0049】、【0052】、【0053】、【0164】、及び願書に添付した図面の図3、図15の記載に基づく訂正であるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、上記アのように訂正前の請求項1に記載された事項をさらに限定するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

3 一群の請求項について
訂正事項1に係る訂正前の請求項1ないし4について、請求項2ないし4はそれぞれ請求項1を直接あるいは間接的に引用して記載したものであるから、請求項2ないし4は請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、本件訂正の請求は、訂正前の請求項〔1ないし4〕の一群の請求項について請求されたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。

4 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1ないし4〕について訂正することを認める。

第3 本件訂正発明
本件訂正により訂正された請求項1ないし4に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明4」という。また、これらを総称して「本件訂正発明」という。は、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載した事項により特定される次のとおりのものである。)

「【請求項1】
室内空間を空調する空調部と、
前記室内空間の温度及び湿度を取得する取得部と、
前記取得部により取得された前記温度及び前記湿度に応じて、前記空調部に前記室内空間を冷房させる冷房運転と、前記空調部に前記室内空間を除湿させる、前記冷房運転より冷房能力が低い第1の除湿運転と、前記空調部に前記室内空間を除湿させる、前記第1の除湿運転より冷房能力が低い第2の除湿運転と、を行う空調制御部と、を備え、
前記空調制御部は、前記取得部により取得された前記湿度と前記室内空間の設定湿度との湿度差が第1の湿度閾値より大きく、且つ、前記取得部により取得された前記温度と前記室内空間の設定温度との温度差が第1の温度閾値より小さいとき、前記第1の除湿運転を行い、前記取得部により取得された前記温度と前記室内空間の設定温度との温度差が第2の温度閾値より小さくなると、前記第1の除湿運転から前記第2の除湿運転に切り替え、前記取得部により取得された前記温度と前記室内空間の設定温度との温度差が前記第1の温度閾値より大きくなると、前記第1の除湿運転から前記冷房運転に切り替え、
前記空調制御部は、前記取得部により取得された前記湿度と前記室内空間の設定湿度との湿度差が前記第1の湿度閾値より小さく、且つ、前記取得部により取得された前記温度と前記室内空間の設定温度との温度差が前記第1の温度閾値より小さいとき、前記冷房運転を行う、
空調装置。

【請求項2】
前記空調制御部は、前記取得部により取得された前記温度と前記室内空間の設定温度との温度差が前記第2の温度閾値より大きくなると、前記第2の除湿運転から前記第1の除湿運転に切り替える、
請求項1に記載の空調装置。

【請求項3】
前記第2の除湿運転は、再熱除湿運転である、
請求項2に記載の空調装置。

【請求項4】
前記第1の除湿運転は、弱冷房除湿運転である、
請求項3に記載の空調装置。」

第4 特許異議申立理由の概要及び証拠方法
特許異議申立書における特許異議申立理由の概要及び証拠方法は以下のとおりである。
1 特許異議申立理由の概要
(1)特許法第29条第1項第3号(同法第113条第2号)について
ア 本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1、2、5、6、7又は8号証に記載された発明と同一である。

イ 本件特許の請求項2に係る発明は、甲第1、2、5、6又は8号証に記載された発明と同一である。

ウ 本件特許の請求項3に係る発明は、甲第1、2、5又は8号証に記載された発明と同一である。

エ 本件特許の請求項4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と同一である。

(2)特許法第29条第2項(同法第113条第2号)について
ア 本件特許の請求項2に係る発明は、甲第7号証に記載された発明に、甲第1、2、5、6及び8号証に記載された事項を適用することにより当業者が容易になし得ることである。

イ 本件特許の請求項3に係る発明は、
(ア)甲第6号証に記載された発明に、甲第1、2、3及び4号証に記載された事項を適用することにより当業者が容易になし得ることである。

(イ)甲第7号証に記載された発明に、甲1、2、5、6及び8号証に記載された事項を適用することにより当業者が容易になし得ることである。

ウ 本件特許の請求項4に係る発明は、
(ア)甲第2号証に記載された発明に、甲3、4及び1号証に記載された事項を適用することにより当業者が容易になし得ることである。

(イ)甲第5号証に記載された発明に、甲3、4及び1号証に記載された事項を適用することにより当業者が容易になし得ることである。

(ウ)甲第6号証に記載された発明に、甲3、4及び1号証に記載された事項を適用することにより当業者が容易になし得ることである。

(エ)甲第7号証に記載された発明に、甲3、4及び1号証に記載された事項を適用することにより当業者が容易になし得ることである。

(オ)甲第8号証に記載された発明に、甲3、4及び1号証に記載された事項を適用することにより当業者が容易になし得ることである。

2 証拠方法
(1)甲第1号証:特開平7−35389号公報
(2)甲第2号証:特開2012−211709号公報
(3)甲第3号証:特開平10−185351号公報
(4)甲第4号証:特開2007−155302号公報
(5)甲第5号証:特開平6−180140号公報
(6)甲第6号証:国際公開第2018/037545号
(7)甲第7号証:特開2004−108618号公報
(8)甲第8号証:特開2002−54833号公報
(以下「甲第1号証」ないし「甲第8号証」を、「甲1」ないし「甲8」と略していう。)

第5 取消理由について
1 取消理由の概要
請求項1ないし4に係る特許に対して当審が特許権者に通知した取消理由の概要は以下のとおりである。

[理由1](新規性
本件特許の請求項1、2に係る発明は、甲2に記載された発明あるいは甲6に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

[理由2](進歩性
・請求項1、2
本件特許の請求項1、2に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された甲2に記載された発明、又は甲6に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
・請求項3、4
本件特許の請求項3及び4に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された甲2に記載された発明及び甲3、甲4の記載に例示されるような周知技術に基いて、又は甲6に記載された発明及び甲3、甲4の記載に例示されるような周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

第6 当審の判断
1 取消理由通知に記載した取消理由の理由1(新規性)及び理由2(進歩性)について
(1)甲号証の記載等
ア 甲2
(ア)甲2の記載
「【0011】
実施の形態.
本実施の形態の空気調和機の概要について説明する。本実施の形態の空気調和機は、冷凍サイクルをそれぞれ独立に備えた、室外に設置する二台の室外機と、室内の空気を吸込み室内へ吹出す送風機を風路中に設けた室内に設置する一台の室内機とで構成されている。二つの冷凍サイクルはそれぞれ独立していて、室外に置かれる(すなわち室外機内の))熱交換器、圧縮機および四方弁と、室内機の風路中に設けられた熱交換器と、絞り弁とで構成された閉ループの冷媒回路である。絞り弁は室外機に設けられている。各冷凍サイクルの冷媒は、詳しくは後述するが、冷却運転時と加熱運転時では逆向きに冷媒が流れる。各冷凍サイクルにおいて、室内機に設けられた熱交換器は、送風機の吸込側の風路に設けられている。また、空気調和機は、室内機に吸い込まれる空気の湿度を検知する湿度検知手段、およびコントローラ等に内蔵され室温を検知する温度検知手段を備えており、これらの検知手段は室内機の制御回路に接続されている。制御回路により各冷凍サイクルは個別に冷却・加熱運転され、また、湿度検知手段および温度検知手段の出力値に基づいて各冷凍サイクルの運転状態を自動で切替えるように構成している。
【0012】
各冷凍サイクルにおいて、圧縮機から出た高温高圧の冷媒は、四方弁を介して冷却(冷房)運転時と加熱(暖房)運転時とでは流れ方向が切替えられる。加熱運転時には四方弁を通過した冷媒は、室内機に設けられた熱交換器に向かい、熱交換器において送風機による室内空気の流れに放熱した後、絞り弁で減圧され、低温低圧の冷媒となって、室外機に設けられた熱交換器において外気と熱交換し、四方弁を経て圧縮機へ戻る。冷却運転時には、四方弁を通過した冷媒は、まず室外機に設けられた熱交換器において外気と熱交換した後、絞り弁で減圧され低温低圧の冷媒となって室内機に設けられた熱交換器に流れる。そして、熱交換器において送風機による室内空気の流れから吸熱し、四方弁を経て圧縮機へ戻る。
【0013】
このような構成の空気調和機においては、湿度検知手段と温度検知手段の出力値に応じて、複数の運転モードを自動で切替える。具体的には、より室温が低く、多湿な状態では、一つの冷凍サイクルを冷却運転、もう一つの冷凍サイクルを加熱運転するモード(再熱除湿モード)とし、室温が若干高く、多湿な状態では、一つの冷凍サイクルを冷却運転、もう一つの冷凍サイクルを停止状態とするモード(Eco除湿モード)とする。また、室温が高い状態では、二つの冷凍サイクルを冷却運転するモード(冷房除湿モード)とする。これにより、無駄なエネルギーを使用することなく快適環境を実現できる。」
「【0020】
また、本実施の形態の空気調和機は、除湿運転を行う場合、湿度検知手段14によって検知された湿度と、温度検知手段13によって検知された温度とに基づいて、上述した各冷凍サイクル1を個別に制御する。具体的には、低温多湿時に除湿運転を行う場合、一方の冷凍サイクル1を冷却運転させ、他方の冷凍サイクル1を加熱運転させる再熱除湿モードで運転する。中温多湿時に除湿運転を行う場合、一方の冷凍サイクル1を冷却運転させ、他方の冷凍サイクル1を停止状態とするEco除湿モードで運転する。また、高温多湿時に除湿運転を行う場合、両方の冷凍サイクル1を冷却運転させる冷房除湿モードで運転する。このように運転モードを制御することにより、確実に除湿ができ室温の変化にも対応した快適環境を実現できる。
【0021】
除湿運転時の各モードの判定方法について図5を参照しながら説明する。例えば、制御回路7が備えている設定手段15(図4参照)により目標湿度のみが設定された場合(除湿運転時の目標室温が設定できない構成の場合、または利用者が目標室温を設定しなかった場合)、運転状態切替手段17は、除湿運転を開始した時の温度検知手段13により検知された温度を目安として、例えば検知温度より1℃低い温度を目標室温と定める。そして、室温と目標室温の差ΔTが、目標室温より室温の方が高いΔT1(例えば目標室温+1℃)より低く(ΔT<ΔT1)、湿度検知手段14によって検知された湿度Rが目標湿度R0より高い(R>R0)場合は、一方の冷凍サイクル1を冷却運転させ、他方の冷凍サイクル1を加熱運転させる再熱除湿モードにより室温を低下させることなく確実に除湿をする。室温と目標室温の差ΔTが、目標室温より室温の方が高いΔT1より低く(ΔT<ΔT1)、湿度検知手段14によって検知された湿度Rが目標湿度R0より低い(R<R0)場合は、除湿運転および室内の冷却は不要と判断し各冷凍サイクルを停止させる。
【0022】
除湿運転を継続している状態において、家電機器の発熱や調理による発熱などにより室温が上昇し、室温と目標室温の差ΔTが、上記ΔT1よりも高くかつΔT2(例えば目標室温+2℃)より低く(ΔT1<ΔT<ΔT2)、なおかつ湿度検知手段14によって検知された湿度Rが目標湿度R0より高い(R>R0)場合は、一方の冷凍サイクル1を冷却運転させ、他方の冷凍サイクル1を停止状態とするEco除湿モードにより、無駄に加熱して室温を更に上昇させることなく確実に除湿をする。また、室温と目標室温の差ΔTが、上記ΔT1より高くかつ上記ΔT2より低く(ΔT1<ΔT<ΔT2)、なおかつ湿度検知手段14によって検知された湿度Rが目標湿度R0より低い(R<R0)場合は、除湿運転不要、室内を冷却するまで室温は上昇していないと判断し各冷凍サイクルを停止させる。
【0023】
また、除湿運転を継続している状態において、外気負荷等の上昇の影響によりさらに室温が上昇し、室温と目標室温の差ΔTが、上記ΔT2より高い(ΔT>ΔT2)場合は、湿度検知手段14によって検知された湿度Rに関係なく、二つの冷凍サイクルを冷却運転させる冷房除湿モードにより除湿をするとともに室温も低下させる。室温が低下し、室温と目標室温の差ΔTが、ΔT1<ΔT<ΔT2となった場合はEco除湿モードへ、さらに室温が低下してΔT<ΔT1となった場合は再熱除湿モードへ移行する。」


(イ)甲2発明
上記(ア)から、甲2には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。
「室内機と、
室内機に吸い込まれる空気の湿度を検知する湿度検知手段14、およびコントローラ等に内蔵され室温を検知する温度検知手段13と、
湿度検出手段14及び温度検出手段13によって検知された湿度及び温度に応じて、2つの冷凍サイクル1を冷却運転させる冷房除湿モードと、一つの冷凍サイクルを冷却運転、もう一つの冷凍サイクルを停止状態とするEco除湿モードと、一つの冷凍サイクルを冷却運転、もう一つの冷凍サイクルを加熱運転する再熱除湿モードと、を行う制御回路7と、を備え、
制御回路7は、室温と目標室温の差ΔTが、目標室温より室温の方が高いΔT1よりも高くかつΔT2より低く(ΔT1<ΔT<ΔT2)、なおかつ湿度検知手段14によって検知された湿度Rが目標湿度R0より高い(R>R0)場合は、前記Eco除湿モードによる除湿運転を行い、さらに室温が低下して、室温と目標室温の差ΔTが、上記ΔT1より低く(ΔT<ΔT1)なった場合は、再熱除湿モードによる除湿運転を行い、室温と目標室温の差ΔTが、上記ΔT2より高い(ΔT>ΔT2)場合は、湿度検知手段14によって検知された湿度Rに関係なく、二つの冷凍サイクルを冷却運転させる冷房除湿モードにより除湿を行い、
室温と目標室温の差ΔTが、上記ΔT1より低く(ΔT<ΔT1)、湿度検知手段14によって検知された湿度Rが目標湿度R0より低い(R<R0)場合、あるいは、上記ΔT1より高くかつ上記ΔT2より低く(ΔT1<ΔT<ΔT2)、なおかつ湿度検知手段14によって検知された湿度Rが目標湿度R0より低い(R<R0)場合は、各冷凍サイクルを停止させる、
空気調和機。」

イ 甲6
(ア)甲6の記載
「[0030] センサ125a,126aは、室内機120の空気の吸込み口の近傍に配置される。センサ125a,126aはそれぞれ、室内機120に吸い込まれた空気の温度及び湿度を、室内空間における空気の温度及び湿度として計測し、計測結果を示す温度情報及び湿度情報を取得部128へ送信する。
[0031] センサ127aは、サーモパイルやボロメータのような赤外線を検出する素子で構成される。センサ127aは、室内空間の温度分布を計測するために用いられる。
[0032] 取得部128は、各センサから計測結果等の情報を取得するためのインタフェース回路を含んで構成される。取得部128は、センサ121a,122aから第1室内熱交換器121及び第2室内熱交換器122の冷媒蒸発温度を示す温度情報を取得し、センサ125a,126aから室内空間における空気の温度及び湿度を示す温度情報及び湿度情報を取得し、端末140から送信されたデータを取得する。そして、取得部128は、取得した情報を制御部129に送信する。
[0033] 制御部129は、マイクロプロセッサ、RAM(Random Access Memory)及びEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)を含んで構成される。制御部129を構成するマイクロプロセッサが、EEPROMに記憶されるプログラムP1を実行することにより、制御部129は、種々の機能を発揮する。すなわち、制御部129は、取得部128から受信した情報に基づいて、圧縮機111の動作周波数、四方弁112の流路、室外送風機114の風量、第1膨張弁115の開度、第2膨張弁123の開度、室内送風機124の風量を適宜制御する。制御部129が空気調和装置100の各構成要素を制御することにより、空気調和装置100の冷房運転、除湿運転及び暖房運転が実行される。」

「[0039] 図2には、顕熱負荷と、制御部129によって制御される第1膨張弁115及び第2膨張弁123の開度との関係が示されている。図2中の線L1は、第1膨張弁の開度を示し、線L2は、第2膨張弁の開度を示す。
[0040] 図2に示されるように膨張弁の開度が制御される結果、第1室内熱交換器121及び第2室内熱交換器122の冷媒蒸発温度は、顕熱負荷に応じて図3に示されるように推移する。図3中の線L11は、第1室内熱交換器121の冷媒蒸発温度を示し、線L12は、第2室内熱交換器122の冷媒蒸発温度を示す。ここで、第1冷房モード、第2冷房モード、第3冷房モード、及び除湿モードが、冷媒蒸発温度と取得部128によって取得された温度情報により示される現在の室温Trとの関係から以下のように規定される。
[0041] 第1冷房モードは、第1室内熱交換器121の冷媒蒸発温度が第2室内熱交換器122の冷媒蒸発温度に等しくなる運転モードである。第1冷房モードは、制御部129が、第1膨張弁115及び第2膨張弁123の開度を予め定められた開度にすることで実現される。具体的には、図2に示されるように制御部129が第1膨張弁115の開度を絞り、第2膨張弁123の開度を全開とすることで、第1冷房モードの運転が実行される。第1冷房モードでは、第1膨張弁115から吐出された低温低圧の冷媒が第1室内熱交換器121及び第2室内熱交換器122で蒸発し、室内機120が空気を冷却して室内空間に送風する。
[0042] 第2冷房モードは、第1室内熱交換器121の冷媒蒸発温度が第2室内熱交換器122の冷媒蒸発温度以上であって室温Tr以下になる運転モードである。第2冷房モードは、制御部129が、図2に示されるように、第1膨張弁115の開度を第1冷房モードにおける開度より開くとともに、第2膨張弁123の開度を第1冷房モードにおける開度より絞ることで実現される。第2冷房モードでは、第1膨張弁115によって減圧された中温中圧の冷媒が、第1室内熱交換器121で蒸発し、第2膨張弁123で再度減圧される。第2膨張弁123から吐出された低温低圧の冷媒は、第2室内熱交換器122で蒸発する。そして、室内機120は、第1冷房モードよりも弱く冷却した空気を室内空間に送風する。
[0043] 第3冷房モードは、第1室内熱交換器121の冷媒蒸発温度が室温Trに等しくなる運転モードである。第3冷房モードは、制御部129が、図2に示されるように、第1膨張弁115及び第2膨張弁123の開度を調節することで実現される。具体的には、制御部129が第1膨張弁115の開度を第2冷房モードにおける最大の開度として、第2膨張弁123の開度を第2冷房モードにおける最小の開度とすることで、第3冷房モードの運転が実行される。第3冷房モードにおいて、第1膨張弁115によって減圧された冷媒は、その温度が室温Trに等しいため、第1室内熱交換器121で熱交換をすることがない。凝縮又は蒸発することなく第1室内熱交換器121を通過した冷媒は、第2膨張弁123で再び減圧され、低温低圧の冷媒が第2室内熱交換器122で蒸発する。そして、室内機120は、第1室内熱交換器121によって冷却されることなく、第2室内熱交換器122のみによって冷却された空気を、室内空間に送風する。
[0044] なお、第3冷房モードは、第2冷房モードに含まれる。ただし、第2冷房モードを、第1室内熱交換器121の冷媒蒸発温度が第2室内熱交換器122の冷媒蒸発温度より高く、室温Trより低くなる運転モードとして、第3冷房モードとは異なる運転モードとしてもよい。
[0045] 除湿モードは、第1室内熱交換器121の冷媒蒸発温度が室温Trより高くなる運転モードである。除湿モードは、制御部129が、図2に示されるように、第1膨張弁115の開度を第3冷房モードにおける開度より開くとともに、第2膨張弁123の開度を第3冷房モードにおける開度より絞ることで実現される。除湿モードでは、第1膨張弁115でわずかに減圧された冷媒、又は減圧されずに第1膨張弁115を通過した冷媒が、第1室内熱交換器121で凝縮し、第2膨張弁123で減圧される。第2膨張弁123から吐出された低温低圧の冷媒は、第2室内熱交換器122で蒸発する。そして、室内機120は、第1室内熱交換器121によって加熱され、第2室内熱交換器122によって露点温度以下に冷却されて除湿された空気を室内空間に送風する。」

「[0059] 例えば、運転モードが第1冷房モードから第2冷房モードに移行する条件は、現在の室温が第1閾値より低く、現在の室内空間の湿度が第2閾値より高く、圧縮機111の動作周波数が第3閾値より低く、かつ、第1冷房モードに従った運転が1分間以上継続していることである。また、第3冷房モードを含む第2冷房モードから除湿モードに運転モードが移行する条件は、現在の室温が第4閾値より低く、現在の室内空間の湿度が第5閾値より高く、圧縮機111の動作周波数が第6閾値より低く、かつ、第2冷房モードに従った運転が1分間以上継続していることである。
[0060] 第1閾値及び第4閾値は、26℃、28℃等の予め定められてEEPROMに記録された値であってもよいし、予め定められたマージンを設定温度に加算した値であってもよい。第2閾値及び第5閾値は、例えば、予め定められてEEPROMに記録された値、設定温度、又は、設定湿度に応じて定められる値である。第3閾値及び第6閾値は、例えば、予め定められてEEPROMに記録された値、又は、圧縮機111が稼働する際の最低動作周波数に、予め定められたマージンを加算した値である。第1閾値と第4閾値を異なる値として、第2閾値と第5閾値を異なる値として、第3閾値と第6閾値を異なる値としてもよい。
[0061] ただし、運転モードは、第1冷房モード、第2冷房モード、第3冷房モード及び除湿モードの順で、又は逆順に移行する。すなわち、制御部129は、移行条件が成立すると運転モードを一のモードから他のモードに移行させる。この際に、第1冷房モードから移行する運転モードは第2冷房モードであって、運転モードが第1冷房モードから第3冷房モード又は除湿モードに移行することはない。また、第2冷房モードから移行する運転モードは第1冷房モード又は除湿モードである。なお、第2冷房モードにおいて特定の条件が成立すると運転モードが第3冷房モードに移行する。第3冷房モードから移行する運転モードは、第2冷房モード又は除湿モードであって、運転モードが第3冷房モードから第1冷房モードに移行することはない。また、除湿モードから移行する運転モードは第2冷房モード又は第3冷房モードであって、運転モードが除湿モードから第1冷房モードに移行することはない。」

「[0068] 深夜になり外気温がさらに低下すると、顕熱負荷もさらに減少する。室温が設定温度近傍まで低下すると、制御部129は、圧縮機111の動作周波数を低くするが、室温が設定温度以下に低下する。ここで、第2冷房モードから除湿モードに運転モードを移行させるための条件が成立すると、制御部129は、運転モードを除湿モードに切り替える。空気調和装置100の顕熱能力は、第2冷房モードより除湿モードの方が小さいため、運転モードが切り替わると室温がわずかに上昇する。これにより、室温を設定温度の近傍に維持することができる。また、空気調和装置100の潜熱能力は増加するため、空気調和装置100は、除湿も行うことができる。」

「[0078] 本実施の形態に係る運転モードは、第1冷房モード、第2冷房モード、第3冷房モード、第1除湿モード及び第2除湿モードの順で、又は逆順に移行する。すなわち、第2冷房モードから移行する運転モードは、第1冷房モード又は第1除湿モードであって、運転モードが第2冷房モードから第2除湿モードに移行することはない。また、第3冷房モードから移行する運転モードは、第2冷房モード又は第1除湿モードであって、運転モードが第3冷房モードから第2除湿モードに移行することはない。また、第1除湿モードから移行する運転モードは、第2冷房モード、第3冷房モード又は第2除湿モードであって、運転モードが第1除湿モードから第1冷房モードに移行することはない。また、第2除湿モードから移行する運転モードは、第1除湿モードであって、運転モードが第2除湿モードから第1冷房モード、第2冷房モード又は第3冷房モードに移行することはない。
[0079] 図7には、夏の1日に冷房運転及び除湿運転が実行される場合の外気温、室温、及び室外送風機114の風量の推移が、共通の時間軸で示されている。図7に示されるように、深夜から早朝になり外気温が室温以下に低下すると冷房負荷がゼロになったり、暖房負荷が生じたりする。しかしながら、第1除湿モードで運転を継続しても、圧縮機111の動作周波数の制約により室温が設定温度以下に低下してしまう。
[0080] ここで、特定の条件が成立すると、制御部129は、運転モードを第1除湿モードから第2除湿モードに変更して、室外送風機114の風量を小さくする。この条件は、取得部128によって取得された室温が閾値以下であり、取得部128によって取得された室内空間の湿度が閾値以上であり、圧縮機の動作周波数が閾値以下であり、かつ、第1除湿モードに従った運転が1分間以上継続していることである。なお、条件の成立有無を判定するための閾値は、予め定められる値であってもよいし、設定温度に応じて定められてもよい。
[0081] 空気調和装置100の顕熱能力は、第1除湿モードより第2除湿モードの方が小さいため、運転モードが切り替わると室温はわずかに上昇する。これにより、室温を設定温度の近傍に維持することができる。また、運転モードが切り替わっても潜熱能力は維持されるため、空気調和装置100は、除湿を行うこともできる。」



(イ)上記(ア)から分かること
上記(ア)[0059]には、第3冷房モードを含む第2冷房モードから除湿モードに運転モードが移行する条件は、少なくとも現在の室温が第4閾値より低い場合であることが記載されており、[0078]には、第1冷房モード、第2冷房モード、第3冷房モード、第1除湿モード及び第2除湿モードの順で、又は逆順に移行することが記載されていることから、「温度が第4閾値よりも高い場合は、第1除湿モードから第3冷房モードを含む第2冷房モードに変更する」ことが分かる。

(ウ)甲6発明
上記(ア)及び(イ)から、甲6には次の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されている。
「室内機120と、
室内機120に吸い込まれた空気の温度、湿度を計測するセンサ125a、126aの計測結果による温度情報、湿度情報を取得する取得部128と、
取得部128により取得された温度情報、湿度情報に基づいて、第1冷房モード、第2冷房モード、第3冷房モード、第1除湿モードと、第1除湿モードよりも顕熱能力の小さい第2除湿モードによる運転を行う、制御部129と、を備え、
制御部129は、前記取得部128により取得された湿度が第5閾値より高く、温度が第4閾値より低い場合は、第1除湿モードを行い、さらに温度が閾値以下となった場合は、第1除湿モードから第2除湿モードに変更し、温度が第4閾値よりも高い場合は、第1除湿モードから第3冷房モードを含む第2冷房モードに変更する、
空気調和装置100。」

ウ 甲3
(ア)甲3の記載
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 圧縮機、四方切換弁、第1の室内熱交換器、第1の電動膨張弁、第2の室内熱交換器、第2の電動膨張弁、及び室外熱交換器をこの順に接続し、冷房、暖房、及び再熱除湿を可能とした空気調和機であって、冷房又は弱冷房を利用した除湿運転から、上記第1の室内熱交換器を凝縮器、前記第2の室内熱交換器を蒸発器として機能させる再熱除湿運転への切換え時において、同切換え指令を受けて上記第1、第2の室内熱交換器に空気を送る室内側送風機の風量を増加させる風量制御手段と、所定時間経過後に上記四方切換弁、第1の電動膨張弁、及び第2の電動膨張弁を再熱除湿運転状態に切換える切換手段とを有する再熱除湿制御手段を備えてなることを特徴とする空気調和機。
【請求項2】 能力可変型の圧縮機、四方切換弁、第1の室内熱交換器、第1の電動膨張弁、第2の室内熱交換器、第2の電動膨張弁、及び室外熱交換器をこの順に接続し、冷房、暖房、及び再熱除湿を可能とした空気調和機であって、冷房又は弱冷房を利用した除湿運転から、上記第1の室内熱交換器を凝縮器、前記第2の室内熱交換器を蒸発器として機能させる再熱除湿運転への切換え時において、同切換え指令を受けて上記圧縮機の能力を低下させる圧縮能力制御手段と、上記第1、第2の室内熱交換器に空気を送る室内側送風機の風量を増加させる風量制御手段と、所定時間経過後に上記四方切換弁、第1の電動膨張弁、第2の電動膨張弁を再熱除湿運転状態に切換える切換手段とを有する再熱除湿制御手段を備えてなることを特徴とする空気調和機。」

「【0012】本発明の目的は、冷房または弱冷房を利用した除湿運転後に再熱除湿運転に移行する際において、再熱器となる熱交換器での除湿水分の再蒸発及びこれによる結露の発生を防止して、上記結露の除去のための運転停止を不要とした、信頼性の高い空気調和機を提供することにある。」

エ 甲4
(ア)甲4の記載
「【請求項1】
除湿モードが選択された場合の運転開始に当たり、冷房除湿モード運転が開始され、その後、標準除湿モード運転に移行する再熱除湿可能な空気調和機の制御方法において、
当該移行の際に、圧縮機の回転数を増加させると共に、冷暖房絞り装置の開度を減少させ、
前記標準除湿モードへ移行後は、前記圧縮機の回転数を減少させて除湿運転の回転数に制御すると共に、前記除湿絞り装置の開度を除湿運転の絞り開度へ増加させる空気調和機の制御方法。」

「【0004】
この再熱除湿運転を開始するに当たっては、外気温が高いときには室温を下げる要求もあると考えられるため、再熱除湿運転開始後、先ず冷房除湿運転で室温を下げ、しかる後に標準除湿運転に切り換えて湿度だけを下げるようにすると効率が良い。再熱除湿運転の中で、冷房除湿運転を行った場合、室内機内部の熱交換器は冷凍サイクルの冷却器として作用し、室内機に吸い込まれた空気はここで冷やされる。このとき冷却器は、室内空気に含まれている水分を凝縮させるので、冷却器である熱交換器の表面には凝縮水が付着する。
【0005】
また、再熱除湿運転モード内で冷房除湿運転から標準除湿運転に切り換えるに当たり、冷房除湿運転時に冷却器として使用されていた室内熱交換器は、標準除湿運転時には2つに分割して使用されることになる。このとき、一方の熱交換器は除湿冷却器33cとして、他方の熱交換器は除湿加熱器33a,33bとして使用される。」

(2)判断
ア 請求項1
[1]甲2を主引用例とする場合 [理由1]及び[理由2]
本件訂正発明1と甲2発明とを対比する。
(ア)甲2発明における「室内機」は、本件訂正発明1における「室内空間を空調する空調部」に相当し、甲2発明における「湿度検知手段14」、及び「温度検知手段13」は、それぞれ「室内機に吸い込まれる空気の湿度を検知する」ものであり、「コントローラ等に内蔵され室温を検知する」ものであるから、本件訂正発明1における「前記室内空間の温度及び湿度を取得する取得部」に相当する。
(イ)甲2発明における「湿度検出手段14及び温度検出手段13によって検知された湿度及び温度」は、本件訂正発明1における「前記取得部により取得された前記温度及び前記湿度」に相当する。
(ウ)甲2発明における「2つの冷凍サイクル1を冷却運転させる冷房除湿モード」は、室内機に吸い込まれる空気を冷却して冷房を行うためのものであることは技術常識から明らかであるから、本件訂正発明1における「前記空調部に前記室内空間を冷房させる冷房運転」に相当する。
(エ)甲2発明における「一つの冷凍サイクルを冷却運転、もう一つの冷凍サイクルを停止状態とする」「Eco除湿モード」は、室内機に吸い込まれる空気の除湿を行うためのものであって、「一つの冷凍サイクルを冷却運転、もう一つの冷凍サイクルを停止状態とする」のであるから、「2つの冷凍サイクル1を冷却運転させる」「冷房除湿モード」と比較すると、冷房能力は低いことは技術常識から明らかであるから、本件訂正発明1における「前記空調部に前記室内空間を除湿させる、前記冷房運転より冷房能力が低い」「第1の除湿運転」に相当する。
(オ)甲2発明における「一つの冷凍サイクルを冷却運転、もう一つの冷凍サイクルを加熱運転する」「再熱除湿モード」は、顕熱能力(冷房能力)が、「Eco除湿モード」よりも低いことは技術常識からみて明らかであるから、本件訂正発明1における「第1の除湿運転よりも冷房能力が低い」「第2の除湿運転」に相当し、甲2発明における「制御回路7」は、本件訂正発明1における「空調制御部」に相当する。
(カ)甲2発明における「室温と目標室温の差ΔTが、目標室温より室温の方が高いΔT1よりも高くかつΔT2より低」いことは、室温と目標室温の差ΔTが、ΔT2よりも低いことに変わりないから、本件訂正発明1における「取得部により取得された前記温度と前記室内空間の設定温度との温度差が第1の温度閾値より小さい」ことに、相当する。
ここで、甲2発明における「ΔT2」は、本件訂正発明1における「第1の温度閾値」に相当する。
(キ)甲2発明における「湿度R」は、本件訂正発明1における「第1の湿度閾値」に相当し、甲2発明における「湿度Rが目標湿度R0より高い(R>R0)」ことは、目標湿度R0=閾値とした場合、本件訂正発明1における「前記湿度と前記室内空間の設定湿度との湿度差」が「第1の湿度閾値より大きい」ことに相当する。
(ク)甲2発明における「室温と目標室温の差ΔTが、上記ΔT1より低(い)(ΔT<ΔT1)」ことは、本件訂正発明1における「前記取得部により取得された前記温度と前記室内空間の設定温度との温度差が第2の温度閾値より小さくなる」ことに相当する。
ここで、甲2発明における「ΔT1」は、本件訂正発明1における「第2の温度閾値」に相当する。
(ケ)甲2発明における「さらに室温が低下して、室温と目標室温の差ΔTが、上記ΔT1より低く(ΔT<ΔT1)なった場合は、前記再熱除湿モードによる除湿運転を行う」ことは、本件訂正発明1における「前記取得部により取得された前記温度と前記室内空間の設定温度との温度差が第2の温度閾値より小さくなると」、「前記第1の除湿運転から前記第2の除湿運転に切り替える」ことに相当する。
(コ)甲2発明における「室温と目標室温の差ΔTが、上記ΔT2より高い(ΔT>ΔT2)場合は、湿度検知手段14によって検知された湿度Rに関係なく、二つの冷凍サイクルを冷却運転させる冷房除湿モードにより除湿を行」うことは、「冷房除湿モード」について、一つの冷凍サイクルを冷却運転、もう一つの冷凍サイクルを停止状態とする「Eco除湿モード」よりも冷房能力が高いことは技術常識から明らかであって、2つの冷凍サイクル1を冷却運転させることにより高い冷房能力を得て冷房運転を行っているともいえるから、本件訂正発明1における「前記取得部により取得された前記温度と前記室内空間の設定温度との温度差が前記第1の温度閾値より大きくなると、前記第1の除湿運転から前記冷房運転に切り替え」ることに相当する。

よって、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。

[一致点]
「室内空間を空調する空調部と、
前記室内空間の温度及び湿度を取得する取得部と、
前記取得部により取得された前記温度及び前記湿度に応じて、前記空調部に前記室内空間を冷房させる冷房運転と、前記空調部に前記室内空間を除湿させる、前記冷房運転より冷房能力が低い第1の除湿運転と、前記空調部に前記室内空間を除湿させる、前記第1の除湿運転より冷房能力が低い第2の除湿運転と、を行う空調制御部と、を備え、
前記空調制御部は、前記取得部により取得された前記湿度と前記室内空間の設定湿度との湿度差が第1の湿度閾値より大きく、且つ、前記取得部により取得された前記温度と前記室内空間の設定温度との温度差が第1の温度閾値より小さいとき、前記第1の除湿運転を行い、前記取得部により取得された前記温度と前記室内空間の設定温度との温度差が第2の温度閾値より小さくなると、前記第1の除湿運転から前記第2の除湿運転に切り替え、前記取得部により取得された前記温度と前記室内空間の設定温度との温度差が前記第1の温度閾値より大きくなると、前記第1の除湿運転から前記冷房運転に切り替える、
空調装置。」

[相違点1]
本件訂正発明1においては、「前記空調制御部は、前記取得部により取得された前記湿度と前記室内空間の設定湿度との湿度差が前記第1の湿度閾値より小さく、且つ、前記取得部により取得された前記温度と前記室内空間の設定温度との温度差が前記第1の温度閾値より小さいとき、前記冷房運転を行う」のに対して、
甲2発明においては、室温と目標室温の差ΔTが、上記ΔT1より低く(ΔT<ΔT1)、湿度検知手段14によって検知された湿度Rが目標湿度R0より低い(R<R0)場合、あるいは、上記ΔT1より高くかつ上記ΔT2より低く(ΔT1<ΔT<ΔT2)、なおかつ湿度検知手段14によって検知された湿度Rが目標湿度R0より低い(R<R0)場合は、各冷凍サイクルを停止させる点。

上記相違点1について検討する。

[相違点1について]
甲2発明における、「室温と目標室温の差ΔTが、上記ΔT1より低く(ΔT<ΔT1)、湿度検知手段14によって検知された湿度Rが目標湿度R0より低い(R<R0)場合、あるいは、上記ΔT1より高くかつ上記ΔT2より低く(ΔT1<ΔT<ΔT2)、なおかつ湿度検知手段14によって検知された湿度Rが目標湿度R0より低い(R<R0)場合」は、総じてみると、「室温と目標室温の差ΔTが、上記ΔT2より低く(ΔT<ΔT2)かつ湿度Rが目標湿度R0より低い(R<R0)場合」であって、本件訂正発明1における「前記取得部により取得された前記湿度と前記室内空間の設定湿度との湿度差が前記第1の湿度閾値より小さく、且つ、前記取得部により取得された前記温度と前記室内空間の設定温度との温度差が前記第1の温度閾値より小さいとき」(以下「当該条件」という。)に相当する。
しかし、当該条件下において、甲2発明においては、「各冷凍サイクルを停止させる」のであって、本件訂正発明1のように「冷房運転を行う」ものではない。また、甲2において、当該条件下において「冷房運転を行う」こと、さらに、当該条件下における冷房運転が、室内空間における快適性を向上させるという効果を奏することについての記載や示唆もない。
そうすると、本件訂正発明1は、甲2発明であるとはいえず、また、甲2発明に基いて当業者が容易に発明し得たものとはいえない。

[2]甲6を主引用例とする場合 [理由1]及び[理由2]
本件訂正発明1と甲6発明とを対比する。
(ア)甲6発明における「室内機120」は、本件訂正発明1における「室内空間を空調する空調部」に相当し、以下同様に、「室内機120に吸い込まれた空気の温度、湿度を計測するセンサ125a、126aの計測結果による温度情報、湿度情報」は「前記室内空間の温度及び湿度」に、「取得部128」は「取得部」に、「取得部128により取得された温度情報、湿度情報に基づいて」は「前記取得部により取得された前記温度及び前記湿度に応じて」に、それぞれ相当する。
(イ)甲6発明における「第1冷房モード」、「第2冷房モード」、及び「第3冷房モード」「による運転」は、室内機120により室内を冷房するためのモードであるから、本件訂正発明1における「前記空調部に前記室内空間を冷房させる冷房運転」に相当する。
(ウ)甲6発明における「第1除湿モード」は、室内機120により室内を除湿するためのモードであって、甲6における段落[0068]及び図2(上記(1)イ(ア)参照。)には、「第1冷房モード」、「第2冷房モード」、及び「第3冷房モード」より顕熱能力が小さいことが記載されているから、本件訂正発明1における「前記空調部に前記室内空間を除湿させる、前記冷房運転より冷房能力が低い」「第1の除湿運転」に相当し、甲6発明における「第1除湿モードよりも顕熱能力の小さい第2除湿モード」は、本件訂正発明1における「前記第1の除湿運転より冷房能力が低い」「第2の除湿運転」に相当し、甲6発明における「制御部129」は、本件訂正発明1における「空調制御部」に相当する。

よって、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。

[一致点]
「室内空間を空調する空調部と、
前記室内空間の温度及び湿度を取得する取得部と、
前記取得部により取得された前記温度及び前記湿度に応じて、前記空調部に前記室内空間を冷房させる冷房運転と、前記空調部に前記室内空間を除湿させる、前記冷房運転より冷房能力が低い第1の除湿運転と、前記空調部に前記室内空間を除湿させる、前記第1の除湿運転より冷房能力が低い第2の除湿運転と、を行う空調制御部と、を備える
空調装置。」

[相違点2]
本件訂正発明1においては、「前記空調制御部は、前記取得部により取得された前記湿度と前記室内空間の設定湿度との湿度差が第1の湿度閾値より大きく、且つ、前記取得部により取得された前記温度と前記室内空間の設定温度との温度差が第1の温度閾値より小さいとき、前記第1の除湿運転を行い、前記取得部により取得された前記温度と前記室内空間の設定温度との温度差が第2の温度閾値より小さくなると、前記第1の除湿運転から前記第2の除湿運転に切り替え、前記取得部により取得された前記温度と前記室内空間の設定温度との温度差が前記第1の温度閾値より大きくなると、前記第1の除湿運転から前記冷房運転に切り替え」るのに対して、
甲6発明においては、「制御部129は、前記取得部128により取得された湿度が第5閾値より高く、温度が第4閾値より低い場合は、第1除湿モードを行い、さらに温度が閾値以下となった場合は、第1除湿モードから第2除湿モードに変更し、温度が第4閾値よりも高い場合は、第1除湿モードから第3冷房モードを含む第2冷房モードに変更する」点。

[相違点3]
本件訂正発明1においては、「前記空調制御部は、前記取得部により取得された前記湿度と前記室内空間の設定湿度との湿度差が前記第1の湿度閾値より小さく、且つ、前記取得部により取得された前記温度と前記室内空間の設定温度との温度差が前記第1の温度閾値より小さいとき、前記冷房運転を行う」のに対して、
甲6発明においては、「制御部129は、前記取得部128により取得された湿度が第5閾値より小さく、かつ、前記取得部128により取得された温度が第4閾値より低い場合」、どのようなモードで運転を行うのか不明である点。

事案に鑑み、まず上記相違点3について検討する。

[相違点3について]
上記甲6における段落[0060]の記載(上記(1)イ(ア)参照。)「第1閾値及び第4閾値は、26℃、28℃等の予め定められてEEPROMに記録された値であってもよいし、予め定められたマージンを設定温度に加算した値であってもよい。第2閾値及び第5閾値は、例えば、予め定められてEEPROMに記録された値、設定温度、又は、設定湿度に応じて定められる値である。」によると、設定温度等の閾値は、「設定温度に加算した値」や、「設定温度、又は、設定湿度に応じて定められる値」であることが記載されているから、第1除湿モードを行う温度に関して設けられた第4閾値や、第1除湿モードを行う湿度に関して設けられた第5閾値、及び第1除湿モードから第2除湿モードに切り換える際の温度の閾値を、室内空間の設定温度や設定湿度との温度差に基づいて定めること、すなわち、温度と設定温度との温度差や、湿度と設定湿度との湿度差に基づく閾値を設けることについて、甲6に記載されているといえる。
そうすると、甲6発明における「第5閾値」、「第4閾値」は、本件訂正発明1における「第1の湿度閾値」、「第1の温度閾値」にそれぞれ相当するといえるものの、甲6発明においては、「前記取得部128により取得された湿度が第5閾値より小さく、かつ、前記取得部128により取得された温度が第4閾値より低い場合」において、「冷房運転」を行うこと、及び、当該冷房運転が室内空間における快適性を向上させるという効果を奏することについての記載や示唆がない。
したがって、上記相違点2について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲6発明であるとはいえず、また、甲6発明に基いて当業者が容易に発明し得たものとはいえない。

イ 請求項2ないし4
本件訂正発明2ないし4は、本件訂正発明1の発明特定事項を置き換えることなく直接あるいは間接的に引用するものであるから、本件訂正発明2ないし4と甲2発明とを対比すると、少なくとも上記相違点1において相違するとともに、本件訂正発明2ないし4と甲6発明とを対比すると、少なくとも上記相違点3において相違する。
また、甲3及び甲4の記載は、空気調和機における除湿運転において、冷房除湿運転と再熱除湿運転とを切り替えて行うことが周知技術であることを例示するものであるが、甲3及び甲4のいずれも上記相違点1又は相違点3に係る本件訂正発明1の発明特定事項についての示唆をするものではない。
したがって、本件訂正発明2ないし4は、甲2発明及び甲3、甲4の記載に例示されるような周知技術に基いて、又は甲6発明及び甲3、甲4の記載に例示されるような周知技術に基いて当業者が容易に発明し得たものとはいえない。

第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議理由について
1 特許法第29条第1項第3号(同法第113条第2号)について
ア 本件特許の請求項1に係る発明は、甲1、甲5、甲7又は甲8に記載された発明と同一である。

[判断]
甲1には、「第1の発明の空気調和機」であって、「ドライ運転時、吹出空気温度の異なる冷房ドライモード、冷気味ドライモード、等温ドライモード、暖気味ドライモードのいずれかのモードを室内温度センサの検知温度Taと設定温度Tsとの差に応じて選択する。さらに、室内湿度センサの検知湿度Haが設定湿度Hsを基準とする低湿度領域、適湿度領域、高湿度領域のどこに存するかに応じて除湿能力を制御する。ただし、室内湿度センサの検知湿度Haが低湿度領域に存したまま所定時間にわたり変化しないとき除湿能力を低減し、高湿度領域に存したまま所定時間にわたり変化しないとき除湿能力を増大する。また、選択したモードに変化がないまま所定時間が経過すると、設定温度Tsを補正する」こと、及び「第2の発明の空気調和機」であって、「ドライ運転時、室内温度センサの検知温度Taが設定温度Tsより低くその差が設定値T2以上のとき、かつ外気温度センサの検知温度Toが設定温度Tsより低くその差が所定値以上のとき、ドライ運転を中断して暖房運転を実行する。この暖房運転の実行に際し、室内温度センサの検知温度Taと設定温度Tsとの差が設定値T1(<T2)内に収まると、その暖房運転を終了してドライ運転に復帰する」ことについて記載(段落【0011】及び【0012】の記載を参照。)されている。

甲5には、「ドライ運転時、上記室内温度センサの検知温度および検知湿度に応じて上記室外ファンの回転数を制御し、ドライ空気の温度が異なる冷気味ドライ、等温ドライ、暖気味ドライを選択的に実行する手段とを備える」空気調和機において、「リモコン31で自動モードが設定されたとする。この場合、室内温度センサ22で検知される室内温度Taが高めの冷房・ドライ領域にあれば、冷房・ドライモードが設定される。冷房・ドライモードが設定されると、室内温度Taおよび室内湿度センサ23で検知される室内湿度Haとあらかじめ制御部20の内部メモリに定められた運転モード選択条件とから、冷房運転の実行、ドライ運転の実行、または送風運転の実行が選択される。つまり、室内温度Taがリモコン21での設定温度Tsよりも十分に高ければ冷房運転が実行され、室内温度Taが設定温度Tsを中心とする所定範囲内に収まっていればドライ運転が実行され、室内温度Taが設定温度Tsを下回って上記所定範囲から外れると送風運転が実行される」ことについて記載(段落【0005】、【0043】ないし【0045】の記載を参照。)されている。

甲7には、「2つの熱交換器により形成される室内熱交換器を備え、再熱ドライモードを含む複数の運転モードを実行する運転制御回路を有し、前記運転制御回路は、少なくとも、冷房運転モードとして、通常冷房モード、過絞り冷房モード、冷房時再熱ドライモードを有し、暖房運転モードとして、通常暖房モード、暖房時再熱ドライモードを有する」空気調和機において、運転制御回路11は、室内湿度Ha1を目標湿度Hs1へ移行させるのに必要な潜熱負荷として両者の差(Ha1ーHs1)を演算する。そして、この差(Ha1ーHs1)が大きな場合は「次の運転モード」として冷房時再熱ドライモードを選択し(但し、未だ選択だけで実行はしない。以下、同様)、この差(Ha1ーHs1)が中程度の場合は「次の運転モード」として過絞り冷房モードを選択し、この差(Ha1ーHs1)が小さな場合は「次の運転モード」として通常冷房モードを選択することについて記載(請求項1、段落【0042】の記載を参照。)されている。

甲8には、空気調和機の除湿運転を行うものにおいて、第1ないし第3の室内熱交換器と、室内熱交換器の間に第1、第2の減圧器を設け、室温Trと設定温度Tsとの差に応じて第1ないし第3の室内熱交換器のうち、凝縮器とするものと蒸発器とするものの割合を決めること、及び設定湿度Rhsと室内湿度Rhrとの差に応じて空気調和機の空気吸入口を開閉するパネルの開度を制御することについて記載(段落【0019】ないし【0043】、図1ないし3の記載を参照。)されている。

しかし、上記甲1、甲5、甲7又は甲8は、いずれも本件訂正発明1における空調装置における、「前記空調制御部は、前記取得部により取得された前記湿度と前記室内空間の設定湿度との湿度差が前記第1の湿度閾値より小さく、且つ、前記取得部により取得された前記温度と前記室内空間の設定温度との温度差が前記第1の温度閾値より小さいとき、前記冷房運転を行う」ことについて記載したものではなく、また、示唆をするものではないから、本件訂正発明1は、甲1、甲5、甲7又は甲8に記載された発明と同一であるということはできない。

イ 請求項2ないし4
本件訂正発明2ないし4は、本件訂正発明1の発明特定事項を置き換えることなく直接あるいは間接的に引用するものであって、上記アのとおり、いずれも上記甲1、甲5、甲7又は甲8に記載も示唆もされていない、本件訂正発明1における「前記空調制御部は、前記取得部により取得された前記湿度と前記室内空間の設定湿度との湿度差が前記第1の湿度閾値より小さく、且つ、前記取得部により取得された前記温度と前記室内空間の設定温度との温度差が前記第1の温度閾値より小さいとき、前記冷房運転を行う」という発明特定事項を含むものであるから、本件訂正発明2ないし4は、甲1、甲5、甲7又は甲8と同一であるということはできない。

2 特許法第29条第2項(同法第113条第2号)について
ア 請求項2
本件特許の請求項2に係る発明は、甲第7号証に記載された発明に、甲第1、2、5、6及び8号証に記載された事項を適用することにより当業者が容易になし得ることである。

イ 請求項3
本件特許の請求項3に係る発明は、甲第7号証に記載された発明に、甲第1、2、5、6及び8号証に記載された事項を適用することにより当業者が容易になし得ることである。

ウ 請求項4
(ア)本件特許の請求項4に係る発明は、甲第5号証に記載された発明に、甲3、4及び1号証に記載された事項を適用することにより当業者が容易になし得ることである。
(イ)本件特許の請求項4に係る発明は、甲第7号証に記載された発明に、甲3、4及び1号証に記載された事項を適用することにより当業者が容易になし得ることである。
(ウ)本件特許の請求項4に係る発明は、甲第8号証に記載された発明に、甲3、4及び1号証に記載された事項を適用することにより当業者が容易になし得ることである。

[判断]
本件訂正発明2ないし4は、本件訂正発明1の発明特定事項を置き換えることなく直接あるいは間接的に引用するものであるから、いずれも本件訂正発明1の発明特定事項を全て含むものである。
そうすると、甲1ないし甲8のいずれにおいても、本件訂正発明1における「前記空調制御部は、前記取得部により取得された前記湿度と前記室内空間の設定湿度との湿度差が前記第1の湿度閾値より小さく、且つ、前記取得部により取得された前記温度と前記室内空間の設定温度との温度差が前記第1の温度閾値より小さいとき、前記冷房運転を行う」という発明特定事項について記載したものではなく、また、示唆をするものではないから、本件訂正発明2ないし4は、甲1ないし甲8に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第8 令和4年2月17日に特許異議申立人が提出した意見書について
令和4年2月17日に特許異議申立人が提出した意見書において。特許異議申立人は、令和3年12月28日に提出の訂正請求書による特許請求の範囲の訂正に対して、本件訂正後の請求項1における「前記空調制御部は、前記取得部により取得された前記湿度と前記室内空間の設定湿度との湿度差が前記第1の湿度閾値より小さく、且つ、前記取得部により取得された前記温度と前記室内空間の設定温度との温度差が前記第1の温度閾値より小さいとき、前記冷房運転を行う」ことについて、当初明細書等に記載されておらず、当該訂正は新規事項を追加するものであるから本件訂正は認められるものではなく、また、本件訂正後の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから特許法第36条6項1号に規定する要件(サポート要件)を満たしていない旨主張している。
そこで、上記主張について検討すると、本件特許図面の図15において、湿度差ΔRHがΔRH1(第1の湿度閾値)より小さく、かつ温度差ΔT1(第1の温度閾値)より小さい領域(以下「当該領域」という。)において冷房を行うことが図示されている。ただし、当該領域において、ΔT4より小さく、かつΔRH2よりより小さい領域においては送風を行い、ΔT3より小さく、かつΔRH2よりは大きい領域において圧縮機の停止を行うことが図示されている。
しかし、本件訂正後の請求項1における「空調制御部」が冷房運転を行う領域について、「前記取得部により取得された前記湿度と前記室内空間の設定湿度との湿度差が前記第1の湿度閾値より小さく、且つ、前記取得部により取得された前記温度と前記室内空間の設定温度との温度差が前記第1の温度閾値より小さい」領域における全ての領域について冷房を行うとまでは特定されておらず、技術常識からみて、前記取得部により取得された前記温度と前記室内空間の設定温度との温度差が低い領域(例えば、−20℃)において圧縮機を停止する、あるいは送風に切り替えるなどして冷房運転を止めることは空調装置において快適性を求めるという観点において任意に行うことである。
そうすると、当該領域において冷房を行うとした本件訂正による請求項1の記載は、新規事項を追加するものとまではいえず、特許法第36条6項1号に規定する要件(サポート要件)を満たしていないとまではいえない。
よって、特許異議申立人の上記意見書における主張は採用できない。

【図15】(本件特許図面)



第9 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、本件請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
室内空間を空調する空調部と、
前記室内空間の温度及び湿度を取得する取得部と、
前記取得部により取得された前記温度及び前記湿度に応じて、前記空調部に前記室内空間を冷房させる冷房運転と、前記空調部に前記室内空間を除湿させる、前記冷房運転より冷房能力が低い第1の除湿運転と、前記空調部に前記室内空間を除湿させる、前記第1の除湿運転より冷房能力が低い第2の除湿運転と、を行う空調制御部と、を備え、
前記空調制御部は、前記取得部により取得された前記湿度と前記室内空間の設定湿度との湿度差が第1の湿度閾値より大きく、且つ、前記取得部により取得された前記温度と前記室内空間の設定温度との温度差が第1の温度閾値より小さいとき、前記第1の除湿運転を行い、前記取得部により取得された前記温度と前記室内空間の設定温度との温度差が第2の温度閾値より小さくなると、前記第1の除湿運転から前記第2の除湿運転に切り替え、前記取得部により取得された前記温度と前記室内空間の設定温度との温度差が前記第1の温度閾値より大きくなると、前記第1の除湿運転から前記冷房運転に切り替え、
前記空調制御部は、前記取得部により取得された前記湿度と前記室内空間の設定湿度との湿度差が前記第1の湿度閾値より小さく、且つ、前記取得部により取得された前記温度と前記室内空間の設定温度との温度差が前記第1の温度閾値より小さいとき、前記冷房運転を行う、
空調装置。
【請求項2】
前記空調制御部は、前記取得部により取得された前記温度と前記室内空間の設定温度との温度差が前記第2の温度閾値より大きくなると、前記第2の除湿運転から前記第1の除湿運転に切り替える、
請求項1に記載の空調装置。
【請求項3】
前記第2の除湿運転は、再熱除湿運転である、
請求項2に記載の空調装置。
【請求項4】
前記第1の除湿運転は、弱冷房除湿運転である、
請求項3に記載の空調装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-03-23 
出願番号 P2019-112365
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (F24F)
P 1 651・ 121- YAA (F24F)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 平城 俊雅
特許庁審判官 槙原 進
松下 聡
登録日 2021-02-04 
登録番号 6832985
権利者 三菱電機株式会社
発明の名称 空調装置  
代理人 八島 耕司  
代理人 美恵 英樹  
代理人 木村 満  
代理人 八島 耕司  
代理人 木村 満  
代理人 美恵 英樹  

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