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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G01N
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01N
管理番号 1385206
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-06-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-09-09 
確定日 2022-03-31 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6840873号発明「センサ素子及びガスセンサ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6840873号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−9〕について訂正することを認める。 特許第6840873号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6840873号の請求項1〜9に係る特許についての出願は、2019年(平成31年)1月22日(優先権主張 平成30年2月6日)を国際出願とする出願であって、令和3年2月19日にその特許権の設定登録がされ、同年3月10日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、同年9月9日に特許異議申立人 大行 尚哉(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、同年11月8日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和4年1月6日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、当該訂正の請求を「本件訂正請求」という。)を行い、その訂正の請求に対して、申立人は、同年2月8日に意見書を提出した。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容(下線は、訂正箇所を示す。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記多孔質層を前記長手方向に沿って分割するか又は前記多孔質層よりも前記後端側に位置するように前記側面に配設され、」と記載されているのを、「前記多孔質層を前記長手方向に沿って分割するように前記側面に配設され、」に訂正する。
そして、請求項1の記載を引用する請求項2〜7、9も同様に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項8に「前記素子本体は、直方体形状をしており、前記長手方向に沿った表面である4つの前記側面を有しており、前記コネクタ電極は、前記4つの側面のうち互いに対向する第1側面及び第2側面にそれぞれ1以上配設されており、前記多孔質層は、前記第1側面及び前記第2側面をそれぞれ被覆しており、前記水侵入抑制部は、前記第1側面及び前記第2側面にそれぞれ配設されている、請求項1〜7のいずれか1項に記載のセンサ素子。」と記載されているのを、「長手方向に沿った両端である前端及び後端と、該長手方向に沿った表面である1以上の側面と、を有する長尺な素子本体と、前記素子本体の前記前端側に配設された複数の電極を有し、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するための検出部と、前記1以上の側面のいずれかの前記後端側に1以上配設され、外部と電気的に導通するためのコネクタ電極と、前記コネクタ電極が配設された前記側面のうち少なくとも前記前端側を被覆し且つ気孔率が10%以上の多孔質層と、前記多孔質層を前記長手方向に沿って分割するか又は前記多孔質層よりも前記後端側に位置するように前記側面に配設され、前記コネクタ電極よりも前記前端側に位置し、前記長手方向の長さLが0.5mm以上であり、前記側面を被覆し且つ気孔率が10%未満の緻密層と該緻密層に隣接し且つ前記多孔質層が存在しない隙間領域とのうち少なくとも前記緻密層を有し、前記長手方向に沿った水の毛細管現象を抑制する水侵入抑制部と、を備え、前記素子本体は、直方体形状をしており、前記長手方向に沿った表面である4つの前記側面を有しており、前記コネクタ電極は、前記4つの側面のうち互いに対向する第1側面及び第2側面にそれぞれ1以上配設されており、前記多孔質層は、前記第1側面及び前記第2側面をそれぞれ被覆しており、前記水侵入抑制部は、前記第1側面及び前記第2側面にそれぞれ配設されている、センサ素子。」に訂正する。
そして、請求項8の記載を引用する請求項9も同様に訂正する。

なお、訂正前の請求項1〜9について、請求項2〜9はそれぞれ請求項1を直接又は間接的に引用しているから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。
したがって、上記訂正の請求は、一群の請求項ごとにされたものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項1の「多孔質層」が、「前記長手方向に沿って分割するか又は前記多孔質層よりも前記後端側に位置するように前記側面に配設され」と択一的に特定されていたものを、「前記長手方向に沿って分割するように前記側面に配設され」る特定のみに限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、択一的に特定されていた選択肢のうちの一つに特定しているものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項8に係る発明が、訂正前の請求項1〜7に係る発明を引用したものであったところ、訂正前の請求項1に係る発明を引用するものについて、請求項間の引用関係を解消し、請求項に係る発明を引用しないものとして、独立形式請求項へ改めたものであるから、特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正である。
そして、訂正前の請求項1〜7に係る発明を引用した請求項8に係る発明を、訂正前の請求項1に係る発明を引用した請求項8に係る発明として、独立形式の請求項へ改めたものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−9〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1〜9に係る発明(以下「本件特許発明1〜9」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
長手方向に沿った両端である前端及び後端と、該長手方向に沿った表面である1以上の側面と、を有する長尺な素子本体と、
前記素子本体の前記前端側に配設された複数の電極を有し、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するための検出部と、
前記1以上の側面のいずれかの前記後端側に1以上配設され、外部と電気的に導通するためのコネクタ電極と、
前記コネクタ電極が配設された前記側面のうち少なくとも前記前端側を被覆し且つ気孔率が10%以上の多孔質層と、
前記多孔質層を前記長手方向に沿って分割するように前記側面に配設され、前記コネクタ電極よりも前記前端側に位置し、前記長手方向の長さLが0.5mm以上であり、前記側面を被覆し且つ気孔率が10%未満の緻密層と該緻密層に隣接し且つ前記多孔質層が存在しない隙間領域とのうち少なくとも前記緻密層を有し、前記長手方向に沿った水の毛細管現象を抑制する水侵入抑制部と、
を備えたセンサ素子。
【請求項2】
前記緻密層は、前記長手方向の長さLeが0.5mm以上である、
請求項1に記載のセンサ素子。
【請求項3】
前記緻密層は、前記長手方向の長さLeが20mm以下である、
請求項1又は2に記載のセンサ素子。
【請求項4】
前記隙間領域は、前記長手方向の長さLgが1mm以下である、
請求項1〜3のいずれか1項に記載のセンサ素子。
【請求項5】
前記水侵入抑制部は、前記隙間領域を備えない、
請求項4に記載のセンサ素子。
【請求項6】
前記コネクタ電極が配設された前記側面に配設され、前記複数の電極のいずれかと前記コネクタ電極とを導通する外側リード部、
を備え、
前記多孔質層は前記外側リード部の少なくとも一部を被覆している、
請求項1〜5のいずれか1項に記載のセンサ素子。
【請求項7】
前記多孔質層は、前記水侵入抑制部が存在する領域を除いて、前記コネクタ電極が配設された前記側面のうち該側面の前記前端から前記コネクタ電極の前記前端側の端部までの領域を少なくとも覆っており、
前記水侵入抑制部は、前記多孔質層を前記長手方向に沿って分割するように前記側面に配設されている、
請求項1〜6のいずれか1項に記載のセンサ素子。
【請求項8】
長手方向に沿った両端である前端及び後端と、該長手方向に沿った表面である1以上の側面と、を有する長尺な素子本体と、
前記素子本体の前記前端側に配設された複数の電極を有し、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するための検出部と、
前記1以上の側面のいずれかの前記後端側に1以上配設され、外部と電気的に導通するためのコネクタ電極と、
前記コネクタ電極が配設された前記側面のうち少なくとも前記前端側を被覆し且つ気孔率が10%以上の多孔質層と、
前記多孔質層を前記長手方向に沿って分割するか又は前記多孔質層よりも前記後端側に位置するように前記側面に配設され、前記コネクタ電極よりも前記前端側に位置し、前記長手方向の長さLが0.5mm以上であり、前記側面を被覆し且つ気孔率が10%未満の緻密層と該緻密層に隣接し且つ前記多孔質層が存在しない隙間領域とのうち少なくとも前記緻密層を有し、前記長手方向に沿った水の毛細管現象を抑制する水侵入抑制部と、
を備え、
前記素子本体は、直方体形状をしており、前記長手方向に沿った表面である4つの前記側面を有しており、
前記コネクタ電極は、前記4つの側面のうち互いに対向する第1側面及び第2側面にそれぞれ1以上配設されており、
前記多孔質層は、前記第1側面及び前記第2側面をそれぞれ被覆しており、
前記水侵入抑制部は、前記第1側面及び前記第2側面にそれぞれ配設されている、
センサ素子。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のセンサ素子を備えたガスセンサ。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1〜6及び9に係る特許に対して、当審が令和3年11月8日に特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

訂正前の請求項1〜6及び9に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に想到することができたものである。よって、請求項1〜6及び9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

引用文献1:特開2007−285961号公報(甲2号証)
引用文献2:特開2016−14659号公報(甲4号証)

2 引用文献及び甲号証の記載
(1)引用文献1に記載された事項
引用文献1には、以下の事項が記載されている。

(引1a)「【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するガスセンサ素子及びその製造方法に関する。」

(引1b)「【0024】
(実施例1)
本発明の実施例にかかるガスセンサ素子及びその製造方法につき、図1〜図10を用いて説明する。
本例のガスセンサ素子1は、図1〜図3に示すごとく、酸素イオン伝導性の固体電解質体11と、該固体電解質体11の一方の面に形成された被測定ガス側電極121及びその基端側に連続形成された被測定ガス側リード部122と、固体電解質体11の他方の面に形成された基準ガス側電極131及びその基端側に連続形成された基準ガス側リード部132とを有する。また、ガスセンサ素子1は、被測定ガス側リード部122を覆うように固体電解質体11に配置された緻密保護層14と、被測定ガス側電極121を覆うように緻密保護層14に積層された多孔質保護層15とを有する。
【0025】
図1、図4に示すごとく、緻密保護層14の基端部141は、被測定ガス側リード部122上に配されている。
被測定ガス側リード部122は、緻密保護層14の基端部141よりも基端側の部分(領域A)の空隙率をQA、緻密保護層の基端部から0.5mm先端側までの間の部分(領域B)の空隙率をQBとしたとき、QB≧0.8QAを満たす。」

(引1c)「【0029】
また、基準ガス側電極131の基端側には、基準ガス側リード部132が連続形成されており、ガスセンサ素子1の基端部の電極端子133に接続されている。一方、被測定ガス側リード部122は、ガスセンサ素子1の基端部の電極端子123に接続されている。
また、図1、図4に示すごとく、緻密保護層14の基端部141は、電極端子123、133よりも先端側に配されており、緻密保護層14の基端部と電極端子123との間の領域が、上記領域Aとなる。
【0030】
上記固体電解質体11はジルコニアからなり、緻密保護層14、多孔質保護層15、接着層152、171、ダクト形成層17は、アルミナからなる。
また、緻密保護層14はガス透過性を有さず、多孔質保護層15(及び接着層152)はガス透過性を有する。
また、被測定ガス側電極121、被測定ガス側リード部122、基準ガス側電極131、基準ガス側リード部132、電極端子123、133は、白金等の金属とセラミックとを混合したサーメット材料からなる。
【0031】
また、ガスセンサ素子1は、図10に示すごとく、ガスセンサ2に内蔵される。即ち、ガスセンサ2は、ガスセンサ素子1と、該ガスセンサ素子1を挿通保持する素子側絶縁碍子3と、該素子側絶縁碍子3を内側に保持するハウジング4とを有する。ここで、ガスセンサ素子1の多孔質保護層15は、基端部を素子側絶縁碍子3の先端部31よりも基端側に配置している。
【0032】
上記素子側絶縁碍子3の基端部には、該素子側絶縁碍子3とガスセンサ素子1との間の隙間を封止するガラスからなる封止材21が配置されている。
また、ハウジング4の先端側には、ガスセンサ素子1の先端部をカバーする素子カバー26が固定されている。該素子カバー26は二重構造となっており、各素子カバー26には、被測定ガスを通過させる通気孔261が形成されている。
また、素子側絶縁碍子3の基端側には、大気側絶縁碍子22が配されており、該大気側絶縁碍子22の内側に、ガスセンサ素子1の電極端子123、133に接触する金属端子221が配設されている。」

(引1d)「【図1】



(引1e)「【図2】



(引1f)「【図9】




(引1g)「【図10】



(2)引用文献1に記載された発明
ア 上記(引1a)に「被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するガスセンサ素子」と記載されていることから、(引1b)の「ガスセンサ素子1」は、「被測定ガス中の特定ガス濃度を検出する」ものであるといえる。

イ 上記(引1f)より、「固体電解質体11」は、長手方向に沿った両端である先端及び基端とを有する長尺なものである点が、上記(引1d)より、「被測定ガス側電極121」が「固体電解質体11」の先端側に配設されている点が見て取れる。そして、上記(引1e)より、「基準ガス側電極131」が、「固体電解質体11」に対して「被測定ガス側電極121」と対向する位置に形成されている点が見て取れるから、「基準ガス側電極131」は、「被測定ガス側電極121」と同様に、「固体電解質体11」の先端側に形成されているといえる。
また、(引1d)より、「緻密保護層14」は、「多孔質保護層15」よりも基端側に位置し、「電極端子123、133」よりも先端側に位置する点及び「領域A」には、「緻密保護層14」及び「多孔質保護層15」の何れも形成していない点が見て取れる。

ウ 上記ア及びイを踏まえると、上記(引1a)〜(引1g)より、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「長手方向に沿った両端である先端及び基端とを有する長尺な酸素イオン伝導性の固体電解質体11と、
該固体電解質体11の一方の面の先端側に形成された被測定ガス側電極121及びその基端側に連続形成された被測定ガス側リード部122と、
固体電解質体11の他方の面の先端側に形成された基準ガス側電極131及びその基端側に連続形成された基準ガス側リード部132と、
被測定ガス側リード部122を覆うように固体電解質体11に配置された緻密保護層14と、
被測定ガス側電極121を覆うように緻密保護層14に積層された多孔質保護層15とを有する被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するガスセンサ素子1において、

緻密保護層14の基端部141は、被測定ガス側リード部122上に配され、

被測定ガス側リード部122は、
緻密保護層14の基端部141よりも基端側の部分(領域A)の空隙率をQA、緻密保護層の基端部から0.5mm先端側までの間の部分(領域B)の空隙率をQBとしたとき、QB≧0.8QAを満たし、

基準ガス側電極131の基端側には、基準ガス側リード部132が連続形成されており、ガスセンサ素子1の基端部の電極端子133に接続され、
被測定ガス側リード部122は、ガスセンサ素子1の基端部の電極端子123に接続され、

緻密保護層14の基端部141は、
電極端子123、133よりも先端側に配されており、緻密保護層14の基端部と電極端子123との間の領域が、上記領域Aとなり、上記領域Aには、緻密保護層14及び多孔質保護層15の何れも形成されておらず、

緻密保護層14、多孔質保護層15、接着層152、171は、アルミナからなり、
緻密保護層14はガス透過性を有さず、多孔質保護層15(及び接着層152)はガス透過性を有し、

電極端子123、133に接触する金属端子221が配設され、

緻密保護層14は、多孔質保護層15よりも基端側に位置し、電極端子123、133よりも先端側に位置する
ガスセンサ2に内蔵されるガスセンサ素子1。」

(3)引用文献2に記載された事項
引用文献2には、以下の事項が記載されている。

(引2a)「【0025】
次に、本発明の実施の形態の一例であるセンサ素子101を備えたガスセンサ100の概略構成について説明する。図1は、ガスセンサ100の構成の一例を概略的に示した断面模式図である。図1(a)は、ガスセンサ100の断面模式図であり、図1(b)は、図1(a)のうち第3内部空所61周辺の拡大図である。図2は、図1(a)のA−A断面図である。図3は、図2のB視図である。このガスセンサ100は、被測定ガス中の特定ガス(本実施形態ではNOx)の濃度を検出するセンサ素子101を備えている。センサ素子101は長尺な直方体形状をしており、このセンサ素子101の長手方向(図1の左右方向)を前後方向とし、センサ素子101の厚み方向(図1の上下方向)を上下方向とする。また、センサ素子101の幅方向(前後方向及び上下方向に垂直な方向)を左右方向(図2の左右方向)とする。なお、図1(a)のセンサ素子101の断面は、図3のC−C断面図に相当する。」

(引2b)「【0070】
また、センサ素子101の積層体の上面には、少なくとも外側ポンプ電極23を覆う多孔質保護層24が配設されている。本実施形態では、多孔質保護層24は、センサ素子101の上面の前端側から後端側までのうち、上部コネクタパッド91が形成された部分を含む後端側の一部を除いた領域を、全て覆っているものとした(図1(a),図3)。これにより、多孔質保護層24は、外側ポンプ電極23の全てと、外側阻止層67及び外側ポンプ電極用リード線93のほとんどを覆っている。また、多孔質保護層24は上部コネクタパッド91を覆っていないため、上部コネクタパッド91は外部に露出している。そのため、上部コネクタパッド91と外部との接続を多孔質保護層24が妨げないようになっている。多孔質保護層24は、被測定ガスに含まれるオイル成分等が外側ポンプ電極23等に付着するのを抑制する役割を果たす。多孔質保護層24は、例えばアルミナ多孔質体、ジルコニア多孔質体、スピネル多孔質体、コージェライト多孔質体,チタニア多孔質体、マグネシア多孔質体などの多孔質体からなる。特にこれに限定するものではないが、多孔質保護層24の気孔率は、例えば10〜50%である。また、多孔質保護層24の厚みは、例えば5〜40μmである。多孔質保護層24は、例えばプラズマ溶射,スクリーン印刷,ディッピングなどにより形成することができる。なお、本実施形態では、多孔質保護層24はセンサ素子101の上面を覆うものとしたが、下面,左側面,右側面,前端面のうち1以上をさらに覆っていてももよい。」

(4)甲1号証について
申立人が特許異議申立理由において引用した甲1号証(特開2012−108104号公報)には、以下の事項が記載されている。

(甲1a)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のガスセンサ素子では、その製造工程において、焼成時に使用する焼成用セッタからアルミナ、ムライト等の脱粒屑が発生することがある。この場合、ガスセンサ素子の積層方向の両側端部に設けられた、未焼成の絶縁層や未焼成のヒータ絶縁層(以下、未焼成の絶縁基体といい、絶縁層やヒータ絶縁層を絶縁基体という)の表面に付着する場合がある。そして、この未焼成の絶縁基体の表面に付着した脱粒屑が、焼成段階で絶縁基体の主成分であるアルミナと反応してアルミナが異常粒成長することにより、絶縁基体の抗折強度の低下を引き起こすという問題があった。また、このような抗折強度の低下によって、ガスセンサ素子を主体金具に組み込んで固定する際に、素子と主体金具(ハウジング)との間に配置され、素子が挿入されるホルダ、スリーブといったセラミック部材や滑石等の素子挿通部材にガスセンサ素子が接触し、組み付け時の圧力がその接触部に影響を及ぼすことによってガスセンサ素子が破損する場合があった。また、ガスセンサの測定時においても、内燃機関等からの振動により、素子挿通部材にガスセンサ素子が接触してガスセンサ素子が破損する場合があった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものである。本発明は、製造工程において焼成用セッタから発生した脱粒屑等が未焼成のガスセンサ素子の表面に付着した場合であっても、必要な抗折強度を確保することができ、ガスセンサ素子の破損の発生を抑制することのできるガスセンサを提供することを目的とする。」

(甲1b)「【0016】
以下、本発明の実施形態に係る積層型のガスセンサ素子100を、図面を参照して説明する。図1は、全体形状が板状とされたガスセンサ素子100の構造を示す分解斜視図であり、ガスセンサ素子100は、ガスセンサ素子本体3と、ヒータ2を積層させて構成されている。
【0017】
ガスセンサ素子本体3は、酸素濃度検出セル130と酸素ポンプセル140とを備えている。酸素濃度検出セル130と酸素ポンプセル140との間には、ガス検出室形成層160が設けられ、酸素ポンプセル140の外側(図中上側)に、保護層12が設けられている。
【0018】
酸素濃度検出セル130は、固体電解質体11と、その固体電解質体11の両面に形成された基準電極13及び検知電極14とを具備している。固体電解質体11は、例えば、
安定化剤としてイットリア(Y2O3)あるいはカルシア(CaO)を添加したジルコニア(ZrO2)系焼結体やLaGaO3系焼結体等から構成された酸素濃淡電池用の、酸素イオン導電性を有するものである。本実施形態では、イットリアを安定化剤として添加したジルコニアにアルミナが10〜80質量%含有された固体電解質体11を用いている。」

(甲1c)「【0028】
また、保護層12は、第4電極部192の表面上に形成され第4電極部192自身を被毒から防護するための多孔質状の電極保護層122と、第4リード部191の表面上に形成され第2固体電解質体181を保護するための強化保護層(特許請求の範囲の「絶縁基体」に相当)121とを具備している。この強化保護層121はアルミナからなるセラミック焼結体から構成されている。
【0029】
上記のガスセンサ素子本体3とヒータ2を積層して構成されるガスセンサ素子100において、その積層方向の両側端部(図1中上側端部と下側端部)には、アルミナからなる強化保護層121と、アルミナからなる第2絶縁基体23が位置している。そして、強化保護層121と第2絶縁基体23の積層方向の両側端面(図中強化保護層121の上側面と第2絶縁基体23の下側面)のうち、少なくとも後述するガスセンサ素子100が挿通される素子挿通部材(具体的には、金属ホルダ34、セラミックホルダ35、滑石36及びスリーブ39)に対向する部位には、塗布層151,152が形成されている。本実施形態では、ガスセンサ素子100の先端から約12mmの位置から約30mmの位置まで、塗布層151,152が形成されている。また、積層体の積層方向と平行な強化保護層121の側面153及び第2絶縁基体23の側面154には、このような塗布層が形成されていない。また、第2固体電解質体181の側面、ガス検出室形成層160の側面、固体電解質体11の側面、第1絶縁基体22の側面にも、同様に上記のような塗布層は形成されていない。」

(甲1d)「【0031】
このようにガスセンサ素子本体3とヒータ2を積層して構成されるガスセンサ素子100のうちで測定対象ガスに晒される先端側の部分には、周囲の全周に亘って、多孔質保護層(図示せず)が形成される。
【0032】
以上のように、酸素ポンプセル140と酸素濃度検出セル130とを備えたガスセンサ素子100では、酸素ポンプセル140の酸素ポンプ作用により、ガス検出室162内の被測定ガス中に含まれる酸素を導入及び導出でき、酸素濃度検出セル130の濃淡電池作用により酸素濃度を測定できるようになっており、空燃比センサ等として用いることができる。」

(5)甲3号証
申立人が特許異議申立理由において引用した甲3号証(特開2007−278945号公報)には、以下の事項が記載されている。

(甲3a)「【0023】 ガスセンサ素子2は、図3、図6に示すごとく、酸素イオン伝導性の固体電解質体21を有する。該固体電解質体21の一方の面には、図5に示すごとく、被測定ガス側電極221が形成され、その基端側に被測定ガス側リード部222が連続形成されている。固体電解質体21の他方の面には、図6に示すごとく、基準ガス側電極231が形成されている。 また、図2、図6、図7、図10に示すごとく、被測定ガス側リード部222を覆うように、緻密保護層24が固体電解質体21に積層され、被測定ガス側電極221を覆うように、多孔質保護層25が緻密保護層24に積層されている。」

(甲3b)「【図2】



(6)甲5号証
申立人が特許異議申立理由において引用した甲5号証(特開2018−119901号公報)には、以下の事項が記載されている。

(甲5a)「【0012】 以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。 図1は、本発明の実施形態のガスセンサ(酸素センサ)100の軸線O方向に沿う断面図である。なお、図1において、下側が軸線方向先端側(以下、単に先端側ともいう)であり、上側が軸線方向後端側(以下、単に後端側ともいう)である。 酸素センサ100は、図示しない自動車の排気系に取り付けられ、内部に保持するセンサ素子120の検出部121が排気ガス(被検出ガス)中に晒されて、排気ガス中の酸素(特定ガス成分)の濃度を測定する。」

(甲5b)「【図1】



3 当審の判断
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と引用発明とを対比する。

(ア)引用発明の「ガスセンサ素子1」及び「固体電解質体11」は、それぞれ、本件特許発明1の「センサ素子」及び「素子本体」に相当する。そして、引用発明の「固体電解質体11」は、「長手方向に沿った両端である先端及び基端とを有する長尺な」ものであって、該「先端及び基端」は、本件特許発明1の「前端及び後端」に相当する。
そうすると、引用発明の「該固体電解質体11の一方の面」及び「他方の面」は、本件特許発明1の「該長手方向に沿った表面である1以上の側面」に相当し、引用発明の「長手方向に沿った両端である先端及び基端とを有する長尺な」ものであって、「一方の面」及び「他方の面」を有する「該固体電解質体11」は、本件特許発明1の「長手方向に沿った両端である前端及び後端と、該長手方向に沿った表面である1以上の側面と、を有する長尺な素子本体」に相当する。

(イ)引用発明の「該固体電解質体11の一方の面の先端側に形成された被測定ガス側電極121」及び「固体電解質体11の他方の面の先端側に形成された基準ガス側電極131」は、本件特許発明1の「前記素子本体の前記前端側に配設された複数の電極」に相当する。そして、引用発明の「ガスセンサ素子1」は、「該固体電解質体11の一方の面の先端側に形成された被測定ガス側電極121」及び「固体電解質体11の他方の面の先端側に形成された基準ガス側電極131」により被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するから、引用発明の「該固体電解質体11の一方の面の先端側に形成された被測定ガス側電極121」及び「固体電解質体11の他方の面の先端側に形成された基準ガス側電極131」により被測定ガス中の特定ガス濃度を検出する手段は、本件特許発明1の「前記素子本体の前記前端側に配設された複数の電極を有し、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するための検出部」に相当する。

(ウ)引用発明の「ガスセンサ素子1の基端部の電極端子133」及び「ガスセンサ素子1の基端部の電極端子123」は、「金属端子221」に「接触」することにより、外部と電気的に導通するから、引用発明の「金属端子221」に「接触」する「ガスセンサ素子1の基端部の電極端子133」及び「ガスセンサ素子1の基端部の電極端子123」は、本件特許発明1の「前記1以上の側面のいずれかの前記後端側に1以上配設され、外部と電気的に導通するためのコネクタ電極」に相当する。

(エ)引用発明の「多孔質保護層15」は、本件特許発明1の「多孔質層」に相当する。そして、引用発明の「多孔質保護層15」は、「該固体電解質体11の一方の面の先端側に形成された被測定ガス側電極121」「を覆うように緻密保護層14に積層され」ているから、引用発明の「該固体電解質体11の一方の面の先端側に形成された被測定ガス側電極121」「を覆うように緻密保護層14に積層された多孔質保護層15」と、本件特許発明1の「前記コネクタ電極が配設された前記側面のうち少なくとも前記前端側を被覆し且つ気孔率が10%以上の多孔質層」とは、「前記コネクタ電極が配設された前記側面のうち少なくとも前記前端側を被覆した多孔質層」である点で共通する。

(オ)引用発明の「緻密保護層14は、多孔質保護層15よりも基端側に位置し、電極端子123、133よりも先端側に位置する」ものであり、「該固体電解質体11の一方の面の」「基端側に連続形成された被測定ガス側リード部122」「を覆うように固体電解質体11に配置された」ものである。また、引用発明の「緻密保護層14」は、「緻密保護層の基端部から0.5mm先端側までの間の部分(領域B)」よりも大きいことから、引用発明の「緻密保護層14」の長手方向の長さは、0.5mm以上であるといえる。
そして、引用発明の「緻密保護層14はガス透過性を有さず」、また、「電極端子123、133よりも先端側に配されており、緻密保護層14の基端部と電極端子123との間の領域」である「上記領域Aには、緻密保護層14及び多孔質保護層15の何れも形成され」ていないから、引用発明の「緻密保護層14」及び「領域A」により長手方向に沿った水の毛細管現象を抑制する水侵入抑制部を形成しているといえる。
そうすると、引用発明の「緻密保護層14」及び「領域A」は、それぞれ、本件特許発明1の「緻密層」及び「隙間領域」に相当し、引用発明の「多孔質保護層15よりも基端側に位置し、電極端子123、133よりも先端側に位置する」「該固体電解質体11の一方の面の」「基端側に連続形成された被測定ガス側リード部122」「を覆うように固体電解質体11に配置され」た水侵入抑制部と、本件特許発明1の「前記多孔質層を前記長手方向に沿って分割するように前記側面に配設され」た「水侵入抑制部」とは、「前記多孔質層を前記長手方向に沿って前記側面に配設され」た「水侵入抑制部」である点で共通するから、引用発明の「多孔質保護層15よりも基端側に位置し、電極端子123、133よりも先端側に位置する」ものであり、「該固体電解質体11の一方の面の」「基端側に連続形成された被測定ガス側リード部122」「を覆うように固体電解質体11に配置され」、長手方向の長さは、0.5mm以上である「緻密保護層14」及び「電極端子123、133よりも先端側に配されており、緻密保護層14の基端部と電極端子123との間の領域」であり「緻密保護層14及び多孔質保護層15の何れも形成され」ていない「上記領域A」を有する長手方向に沿った水の毛細管現象を抑制する水侵入抑制部と、本件特許発明1の「前記多孔質層を前記長手方向に沿って分割するように前記側面に配設され、前記コネクタ電極よりも前記前端側に位置し、前記長手方向の長さLが0.5mm以上であり、前記側面を被覆し且つ気孔率が10%未満の緻密層と該緻密層に隣接し且つ前記多孔質層が存在しない隙間領域とのうち少なくとも前記緻密層を有し、前記長手方向に沿った水の毛細管現象を抑制する水侵入抑制部」とは、「前記多孔質層を前記長手方向に沿って前記側面に配設され、前記コネクタ電極よりも前記前端側に位置し、前記長手方向の長さLが0.5mm以上であり、前記側面を被覆する緻密層と該緻密層に隣接し且つ前記多孔質層が存在しない隙間領域とのうち少なくとも前記緻密層を有し、前記長手方向に沿った水の毛細管現象を抑制する水侵入抑制部」である点で共通する。

(カ)以上(ア)〜(オ)より、本件特許発明1と引用発明との間には、以下の一致点及び相違点がある。

(一致点)「長手方向に沿った両端である前端及び後端と、該長手方向に沿った表面である1以上の側面と、を有する長尺な素子本体と、
前記素子本体の前記前端側に配設された複数の電極を有し、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するための検出部と、
前記1以上の側面のいずれかの前記後端側に1以上配設され、外部と電気的に導通するためのコネクタ電極と、
前記コネクタ電極が配設された前記側面のうち少なくとも前記前端側を被覆する多孔質層と、
前記多孔質層を前記長手方向に沿って前記側面に配設され、前記コネクタ電極よりも前記前端側に位置し、前記長手方向の長さLが0.5mm以上であり、前記側面を被覆する緻密層と該緻密層に隣接し且つ前記多孔質層が存在しない隙間領域とのうち少 なくとも前記緻密層を有し、前記長手方向に沿った水の毛細管現象を抑制する水侵入抑制部と、
を備えたセンサ素子。」

(相違点1)水侵入抑制部が、本件特許発明1は、前記多孔質層を前記長手方向に沿って「分割するように」配設されているのに対し、引用発明は、「多孔質保護層15よりも基端側に位置し、電極端子123、133よりも先端側に位置する」ものである点。

(相違点2)多孔質層及び緻密層が、本件特許発明1は、多孔質層の「気孔率が10%以上」であり、緻密層の「気孔率が10%未満」であるのに対し、引用発明はそのような特定がない点。

イ 判断
上記相違点1について検討する。
緻密層や隙間領域からなる水侵入抑制部を、多孔質層を長手方向に沿って分割するように配設する構成は、引用文献2に記載も示唆もない。そして、該構成は、申立人が特許異議申立理由において引用した甲1、3及び5号証においても記載も示唆もされておらず、また周知の構成であるともいえないから、上記相違点1にかかる構成は、引用文献2、甲1、3及び5号証を参酌したとしても、引用発明に基づいて、当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。
そうすると、上記相違点2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

(2)本件特許発明2〜6について
本件特許発明2〜6は、本件特許発明1を引用するものであって、引用発明と対比すると上記相違点1で少なくとも相違するものであるから、上記(1)と同様の理由により、引用発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

(3)本件特許発明8について
ア 対比
本件特許発明8は、訂正前の請求項1に係る発明を引用した訂正前の請求項8に係る発明を、請求項間の引用関係を解消し、請求項に係る発明を引用しないものとして、独立形式請求項へ改めたものであるから、本件特許発明8の「水侵入抑制部」は、「前記多孔質層を前記長手方向に沿って分割するか又は前記多孔質層よりも前記後端側に位置するように前記側面に配設され」たものであって、「前記素子本体は、直方体形状をしており、前記長手方向に沿った表面である4つの前記側面を有しており、前記コネクタ電極は、前記4つの側面のうち互いに対向する第1側面及び第2側面にそれぞれ1以上配設されており、前記多孔質層は、前記第1側面及び前記第2側面をそれぞれ被覆しており、前記水侵入抑制部は、前記第1側面及び前記第2側面にそれぞれ配設されている」以外の特定事項は、本件特許発明1と同様の発明である。
そうすると、本件特許発明8と引用発明とを対比すると、引用発明の「緻密保護層14は、多孔質保護層15よりも基端側に位置し、電極端子123、133よりも先端側に位置する」ものであって、上記(引1e)より、「ガスセンサ素子1」は、直方体形状をしており、前記長手方向に沿った表面である4つの前記側面を有している点が見て取れるから、両者は、以下の一致点で一致し、上記(1)における相違点2と以下の相違点3で相違する。

(一致点)「長手方向に沿った両端である前端及び後端と、該長手方向に沿った表面である1以上の側面と、を有する長尺な素子本体と、
前記素子本体の前記前端側に配設された複数の電極を有し、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するための検出部と、
前記1以上の側面のいずれかの前記後端側に1以上配設され、外部と電気的に導通するためのコネクタ電極と、
前記コネクタ電極が配設された前記側面のうち少なくとも前記前端側を被覆した多孔質層と、
前記多孔質層を前記長手方向に沿って分割するか又は前記多孔質層よりも前記後端側に位置するように前記側面に配設され、前記コネクタ電極よりも前記前端側に位置し、前記長手方向の長さLが0.5mm以上であり、前記側面を被覆した緻密層と該緻密層に隣接し且つ前記多孔質層が存在しない隙間領域とのうち少なくとも前記緻密層を有し、前記長手方向に沿った水の毛細管現象を抑制する水侵入抑制部と、
を備え、
前記素子本体は、直方体形状をしており、前記長手方向に沿った表面である4つの前記側面を有しているセンサ素子。」

(相違点3)前記コネクタ電極、前記多孔質層及び前記水侵入抑制部が、本件特許発明8は、前記コネクタ電極は、「前記4つの側面のうち互いに対向する第1側面及び第2側面にそれぞれ1以上配設されており」、前記多孔質層は、「前記第1側面及び前記第2側面をそれぞれ被覆しており」、前記水侵入抑制部は、「前記第1側面及び前記第2側面にそれぞれ配設されている」のに対し、引用発明は、いずれも一方の側面のみに配設されている点。

イ 判断
事案に鑑み相違点3について検討する。
引用発明の「電極端子123、133」、「多孔質保護層15」、「緻密保護層14」及び「領域A」が配設された側面と対向する側面には、「基準ガス側電極131」及び「基準ガス側リード部132」が配設されているものの「被測定ガス側電極121」が形成されておらず、また、上記(引1e)より「ダクト形成層17」が配設されていることが見て取れることから、該側面には多孔質層を配設する必要はないから、排ガス中の水分が毛細管現象によって多孔質層内を移動することはない。
そうすると、「基準ガス側電極131」及び「基準ガス側リード部132」が配設されている側面に、水侵入抑制部として機能する「緻密保護層14」及び「領域A」を配設する動機付けはないから、上記相違点3は、引用発明に基づいて、当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。
よって、本件特許発明8は、相違点2について検討するまでもなく、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

ウ 申立人の主張について
申立人は、令和4年2月8日に提出した意見書において、
「取消理由通知書に記載されているとおり、引用発明1の「ガスセンサ素子1」と「固体電解質体11」は、それぞれ、本件特許発明8の「センサ素子」と「素子本体」に相当し、「電極端子123、133」は「コネクタ電極」に相当し、「多孔質保護層15」は「多孔質層」に相当し、「緻密保護層14」と「領域A」は「水侵入抑制部」に相当します。
本件特許発明8と引用発明1とを対比すると、
(1)コネクタ電極が第1側面だけに配設されており、第2側面に配設されていない点、
(2)多孔質層が第1側面のみを被覆しており、第2側面を被覆していない点、および
(3)水侵入抑制部が第2側面に配設されていない点、
の3点で相違しています。
相違点(1)について、引用文献1には第1側面(図2の図示上側の面)に電極端子123、133が形成されていますが、第2側面(図2の図示下側の面であり、ピーク18が形成されている側の面)に電極端子が形成されているか否かは不明です。
しかし、引用文献2の図1に示すように、ピーク用リード線76に下部コネクタパッド92が接続されており、下部コネクタパッド92は上部コネクタパッド91と反対側の面に形成されています。引用文献2の下部コネクタパッド92は外部より給電されることによりピーク72を発熱させるから、本件特許発明8のコネクタ電極に相当します。
同様に甲第1号証の図1に示すように、ピークリード部213に接続されたピーク通電端子232が信号取出し用端子126と反対側の側面に形成されています。甲第1号証のピーク通電端子232は、外部回路接続用の外部端子と接続されるから、本件特許発明8のコネクタ電極に相当します。
したがって、引用文献1において、ピーク18に通電するための電極端子を第2側面に配設することは周知慣用の技術であり、第2側面に電極端子を配設することに何の技術的困難性もありません。よって、コネクタ電極を第2側面にも配設することは当業者にとって容易といえます。
相違点(2)について、引用文献1には第1側面にのみ多孔質保護層15が形成されていますが、甲第1号証の段落【0031】や甲第5号証の図1等にも開示されているとおり、第2側面を含む全周に多孔質保護層を形成することは周知慣用の技術であり、第2側面に多孔質保護層を形成することに何の技術的困難性もありません。甲第1号証の多孔質保護層と甲第5号証の保護層125が本件特許発明8の多孔質層に相当することは自明です。したがって、多孔質層が第1側面のみならず第2側面も被覆するようにすることは当業者にとって容易といえます。
相違点(3)について、引用文献1には第1側面にのみ緻密保護層14が形成されています。しかし、甲第1号証の図1、図2に示すように、ガスセンサ素子100を構成する積層体の外側に位置する強化保護層121と第2絶縁基体23の積層方向の両側端面(図1の強化保護層121の上側面と第2絶縁基体23の下側面)に一対の塗布層151、152が形成されています。塗布層151、152はジルコニアを主成分とし、塗布層151、152が設けられている部分の抗折強度を高めるものでありますので、本件特許発明8の多孔質層に相当しないことは明らかです。また、塗布層151、152はアルミナよりも高靭性なセラミック材料であることから、本件特許発明8の緻密層に相当すると考えるのが妥当です。
したがって、引用文献1において、第2側面にも緻密保護層14を配設することは周知慣用の技術であり、第2側面に緻密保護層14を配設することに何の技術的困難性もありません。よって、緻密保護層14と領域Aから構成される水侵入抑制部が第2側面に配設されるようにすることは当業者にとって容易といえます。」
旨主張しているが、上記イで判断したとおり、そもそも引用文献1には、「基準ガス側電極131」及び「基準ガス側リード部132」が配設されている側面に、水侵入抑制部として機能する「緻密保護層14」及び「領域A」を配設する動機付けがないことから、上記主張を踏まえても、当業者が容易になしえたことであるとはいえない。

(4)本件特許発明9について
本件特許発明1〜7を引用する本件特許発明9は、上記相違点1を、本件特許発明8を引用する本件特許発明9は、上記相違点3を、少なくとも有しているから、本件特許発明9は、上記(1)〜(3)と同様の理由により、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 サポート要件について
申立人は、特許異議申立書において、本件特許発明の課題は「多孔質層がセンサ素子の表面に存在する場合、排ガス中の水分が毛細管現象によって多孔質層内を移動することがあった。その結果、水分がコネクタ電極まで到達してしまい、水や水に溶けた硫酸などの成分によってコネクタ電極の錆や屈食が発生したりコネクタ電極間の短絡が生じたりする場合があった。」ことである。この課題は、多孔質層がセンサ素子の先端からコネクタ電極まで到達していなければ生じないものであって、訂正前の特許請求の範囲について請求項1に係る発明が「多孔質層は、コネクタ電極が配設された側面のうち、該側面の前端からコネクタ電極の前端側の端部までの領域を少なくとも覆っている」という構成を備えていなければ、上記本件特許発明の課題が発生しないが、請求項1に係る発明は、この課題を解決するための「多孔質層は、コネクタ電極が配設された側面のうち、該側面の前端からコネクタ電極の前端側の端部までの領域を少なくとも覆いつつ、該多孔質層を分割するようにして、緻密層や隙間領域からなる水侵入抑制部を形成する」という構成を備えているものの、「多孔質層」が、「コネクタ電極が配設された側面のうち、該側面の前端からコネクタ電極の前端側の端部までの領域を覆っていない」構成を含んでいるといえるから、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えて特許を請求するものである旨主張する。
しかしながら、本件特許発明の課題は、水や水に溶けた硫酸などの成分による、コネクタ電極の錆や腐食及びコネクタ電極間の短絡の防止であって、該課題は、本件特許発明1において、「多孔質層」が、「コネクタ電極が配設された側面のうち、該側面の前端からコネクタ電極の前端側の端部までの領域を覆っていない」構成においても生じることは、当業者であれば容易に予測できるものであって、「前記側面に配設された緻密層」を、「前記多孔質層を前記長手方向に沿って分割するように」「配設」する構成により解決できるものであるから、訂正後の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えて特許を請求するものであるとはいえない。

明確性について
申立人は、特許異議申立書において、訂正前の請求項1には「該緻密層に隣接し且つ前記多孔質層が存在しない隙間領域」と記載されているが、広辞苑第四版によると、「隙間」とは、物と物との間のすいた所のことであって、隙間という文言には、隙間領域を中心として緻密層と対をなす他方の物が存在することが示唆されているにもかかわらず、訂正前の請求項1には他方の物が何ら記載されていないから、訂正前の請求項1に係る発明は明確に把握することができないものである旨主張している。
訂正後の請求項1においても「隙間領域」は、「該緻密層に隣接し且つ前記多孔質層が存在しない隙間領域」と特定されており、確かに、「隙間」とは、物と物との間のすいた所のことを指すものであるが、隙間領域を中心として緻密層と対をなす他方の物が特定されていなくとも、他方の物として何らかの物が有れば隙間領域を形成できることは自明であって、他方の物が何ら特定されていなくとも隙間領域が形成されていることを容易に把握できることであるから、訂正後の請求項1に係る発明は明確に把握することができないものであるとまではいえない。
さらに、本件訂正請求により訂正後の請求項1の「水侵入抑制部」は、「前記多孔質層を前記長手方向に沿って分割するように前記側面に配設され」たものとなったことから、隙間領域を中心として緻密層と対をなす他方の物が「多孔質層」で有ることが特定されたことからも訂正後の請求項1に係る発明は明確に把握することができないものであるとはいえない。

進歩性について
(1)進歩性に関する取消理由について
申立人は、本件特許発明1〜9は、甲1号証に記載された発明に甲2号証(引用文献1)に記載された事項、さらには、甲3、4(引用文献2)及び5号証に記載された事項を適用することで、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法113条2号に該当し、本件特許は取り消されるべきものである旨主張している。

(3)当審の判断
上記第4の2(4)(甲1b)〜(甲1d)より、甲1号証には、「多孔質保護層」及び「塗布層151,152」等を有する「ガスセンサ素子100」が記載され、本件特許発明1と甲1号証に記載された発明とを対比すると、少なくとも本件特許発明1は長手方向に沿った水の毛細管現象を抑制するための水侵入抑制部を有しているのに対して、甲1号証に記載された発明はそのような層を有している旨の特定がない点で両者は相違するが、(甲1a)より、甲1号証に記載の発明は、ガスセンサの測定時においても、内燃機関等からの振動により、素子挿通部材にガスセンサ素子が接触してガスセンサ素子が破損することの防止を課題とするものであって、排ガス中の水分が毛細管現象によって多孔質層内を移動することによって発生する、水や水に溶けた硫酸などの成分によるコネクタ電極の錆や腐食及びコネクタ電極間の短絡の防止等の課題は何ら記載されていないから、該課題は甲1号証において何ら想定されているものではなく、また、当該技術分野において周知の課題であるともいえない。
そうすると、甲1号証に記載された発明には、長手方向に沿った水の毛細管現象を抑制するための水侵入抑制部を適用する動機付けがないといえるから、本件特許発明1は、甲1号証に記載された発明から当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。
そして、本件特許発明1を引用する、本件特許発明2〜7及び9、本件特許発明1と同様に長手方向に沿った水の毛細管現象を抑制するための水侵入抑制部を有する本件特許発明8も、本件特許発明1と同様の理由により、甲1号証に記載された発明から、当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。
したがって、本件特許発明1〜9は、甲1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明でたものであるとはいえない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1〜9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1〜9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に沿った両端である前端及び後端と、該長手方向に沿った表面である1以上の側面と、を有する長尺な素子本体と、
前記素子本体の前記前端側に配設された複数の電極を有し、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するための検出部と、
前記1以上の側面のいずれかの前記後端側に1以上配設され、外部と電気的に導通するためのコネクタ電極と、
前記コネクタ電極が配設された前記側面のうち少なくとも前記前端側を被覆し且つ気孔率が10%以上の多孔質層と、
前記多孔質層を前記長手方向に沿って分割するように前記側面に配設され、前記コネクタ電極よりも前記前端側に位置し、前記長手方向の長さLが0.5mm以上であり、前記側面を被覆し且つ気孔率が10%未満の緻密層と該緻密層に隣接し且つ前記多孔質層が存在しない隙間領域とのうち少なくとも前記緻密層を有し、前記長手方向に沿った水の毛細管現象を抑制する水侵入抑制部と、
を備えたセンサ素子。
【請求項2】
前記緻密層は、前記長手方向の長さLeが0.5mm以上である、
請求項1に記載のセンサ素子。
【請求項3】
前記緻密層は、前記長手方向の長さLeが20mm以下である、
請求項1又は2に記載のセンサ素子。
【請求項4】
前記隙間領域は、前記長手方向の長さLgが1mm以下である、
請求項1〜3のいずれか1項に記載のセンサ素子。
【請求項5】
前記水侵入抑制部は、前記隙間領域を備えない、
請求項4に記載のセンサ素子。
【請求項6】
前記コネクタ電極が配設された前記側面に配設され、前記複数の電極のいずれかと前記コネクタ電極とを導通する外側リード部、
を備え、
前記多孔質層は前記外側リード部の少なくとも一部を被覆している、
請求項1〜5のいずれか1項に記載のセンサ素子。
【請求項7】
前記多孔質層は、前記水侵入抑制部が存在する領域を除いて、前記コネクタ電極が配設された前記側面のうち該側面の前記前端から前記コネクタ電極の前記前端側の端部までの領域を少なくとも覆っており、
前記水侵入抑制部は、前記多孔質層を前記長手方向に沿って分割するように前記側面に配設されている、
請求項1〜6のいずれか1項に記載のセンサ素子。
【請求項8】
長手方向に沿った両端である前端及び後端と、該長手方向に沿った表面である1以上の側面と、を有する長尺な素子本体と、
前記素子本体の前記前端側に配設された複数の電極を有し、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するための検出部と、
前記1以上の側面のいずれかの前記後端側に1以上配設され、外部と電気的に導通するためのコネクタ電極と、
前記コネクタ電極が配設された前記側面のうち少なくとも前記前端側を被覆し且つ気孔率が10%以上の多孔質層と、
前記多孔質層を前記長手方向に沿って分割するか又は前記多孔質層よりも前記後端側に位置するように前記側面に配設され、前記コネクタ電極よりも前記前端側に位置し、前記長手方向の長さLが0.5mm以上であり、前記側面を被覆し且つ気孔率が10%未満の緻密層と該緻密層に隣接し且つ前記多孔質層が存在しない隙間領域とのうち少なくとも前記緻密層を有し、前記長手方向に沿った水の毛細管現象を抑制する水侵入抑制部と、
を備え、
前記素子本体は、直方体形状をしており、前記長手方向に沿った表面である4つの前記側面を有しており、
前記コネクタ電極は、前記4つの側面のうち互いに対向する第1側面及び第2側面にそれぞれ1以上配設されており、
前記多孔質層は、前記第1側面及び前記第2側面をそれぞれ被覆しており、
前記水侵入抑制部は、前記第1側面及び前記第2側面にそれぞれ配設されている、
センサ素子。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のセンサ素子を備えたガスセンサ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-03-18 
出願番号 P2019-570654
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (G01N)
P 1 651・ 537- YAA (G01N)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 伊藤 幸仙
福島 浩司
登録日 2021-02-19 
登録番号 6840873
権利者 日本碍子株式会社
発明の名称 センサ素子及びガスセンサ  
代理人 特許業務法人アイテック国際特許事務所  
代理人 特許業務法人アイテック国際特許事務所  
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