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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08J
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08J
管理番号 1385219
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-06-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-01-13 
確定日 2022-05-16 
異議申立件数
事件の表示 特許第6904495号発明「熱収縮性フィルム、包装資材、成形品または容器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6904495号の請求項1〜20に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6904495号(請求項の数は20。以下、「本件特許」という。)は、令和2年9月30日を出願日とする特願2020−165958号(優先権主張 同年5月27日、以下、「優先日」という。)の一部を、特許法第44条第1項の規定に基づいて、令和3年3月2日に新たに出願した特許出願(特願2021−32360号)に係るものであって、同年6月28日にその特許権の設定登録がされ、同年7月14日に特許掲載公報が発行され、その後、令和4年1月13日に特許異議申立人 綾本寛美(以下、「申立人」という。)から本件特許の請求項1〜20に係る特許に対して特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜20に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明20」といい、これらをまとめて「本件発明」ということがある。)は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1〜20に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

【請求項1】
印刷層を有する包装資材(P)を出発原料として得られるフラフ(Pf)、およびリペレット(Pr)の少なくとも一方を含む樹脂組成物(Z1)からなる層(I)を少なくとも1層有する熱収縮性フィルムであって、前記熱収縮性フィルムが、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂を含み、JIS K0115(2004)に準拠した分光光度測定における光線透過率が、測定波長400〜800nmにおいて85%以上であり、JIS K7136(2000)に準拠して測定されたヘーズ値が13.8%以下である熱収縮性フィルム。
【請求項2】
前記包装資材(P)が、熱収縮性フィルムである請求項1記載の熱収縮性フィルム。
【請求項3】
前記包装資材(P)が、成形品または容器に装着されたものである請求項1または2記載の熱収縮性フィルム。
【請求項4】
前記包装資材(P)が、ポリエステル系樹脂(A)を主成分として含む請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルム。
【請求項5】
前記樹脂組成物(Z1)が、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂を0.6質量%以下含む請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルム。
【請求項6】
前記樹脂組成物(Z1)が、ポリエステル系樹脂(A)を主成分として含む請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルム。
【請求項7】
前記ポリエステル系樹脂(A)が、ジカルボン酸残基としてテレフタル酸残基を含む請求項4〜6のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルム。
【請求項8】
前記ポリエステル系樹脂(A)が、ジオール残基としてエチレングリコール残基を含む請求項4〜7のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルム。
【請求項9】
前記ポリエステル系樹脂(A)が、ジオール残基として1,4−シクロヘキサンジメタノール残基、ネオペンチルグリコール残基、1,4−ブタンジオール残基、ジエチレングリコール残基から選ばれる少なくとも1種を含む請求項4〜8のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルム。
【請求項10】
前記ポリエステル系樹脂(A)が、ジオール残基として1,4−シクロヘキサンジメタノール残基、およびネオペンチルグリコール残基の少なくとも一方を必須成分として含む請求項4〜8のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルム。
【請求項11】
前記熱収縮性フィルムの100℃の温水中に10秒間浸漬したときの主収縮方向の熱収縮率が30%以上である請求項1〜10のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルム。
【請求項12】
前記熱収縮性フィルムの主収縮方向の引張弾性率が5500MPa以下である請求項1〜11のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルム。
【請求項13】
前記熱収縮性フィルムが、前記包装資材(P)からなる原料を含まない樹脂組成物(Z2)からなる層(II)と、前記層(I)の少なくとも2層からなる請求項1〜12のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルム。
【請求項14】
前記樹脂組成物(Z2)が前記ポリエステル系樹脂(A)を主成分として含む請求項13に記載の熱収縮性フィルム。
【請求項15】
前記樹脂組成物(Z2)に含まれるポリエステル系樹脂(A)が、ジオール残基として1,4−シクロヘキサンジメタノール残基、およびネオペンチルグリコール残基の少なくとも一方を含む請求項14に記載の熱収縮性フィルム。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルムを用いてなる包装資材。
【請求項17】
請求項16記載の包装資材が装着された成形品または容器。
【請求項18】
印刷層を有する包装資材(P)を出発原料として得られるフラフ(Pf)、およびリペレット(Pr)の少なくとも一方を含む樹脂組成物(Z1)からなる層(I)を少なくとも1層有し、前記層(I)が、ポリエステル系樹脂(A)を主成分として含み、上記ポリエステル系樹脂(A)が、ジオール残基としてネオペンチルグリコール残基を含む熱収縮性フィルムであって、前記熱収縮性フィルムが、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂を含み、JIS K0115(2004)に準拠した分光光度測定における光線透過率が、測定波長400〜800nmにおいて85%以上であり、JIS K7136(2000)に準拠して測定されたヘーズ値が13.8%以下である熱収縮性フィルム。
【請求項19】
前記熱収縮性フィルムの主収縮方向の引張弾性率が4000MPa以下である請求項18に記載の熱収縮性フィルム。
【請求項20】
前記ポリエステル系樹脂(A)が、ジオール残基として1,4−シクロヘキサンジメタノール残基とネオペンチルグリコール残基を含む請求項18または19に記載の熱収縮性フィルム。

第3 申立人の主張に係る申立理由の概要
申立人は、甲第1〜18号証を提出し、本件特許は、以下の申立理由1〜5により、取り消されるべきものである旨主張している。

1 申立理由1(実施可能要件
本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1〜20について、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものであるから、本件発明1〜20に係る特許は、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

2 申立理由2(サポート要件)
本件特許に係る特許請求の範囲の請求項1〜20の記載は、本件特許の明細書の発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであるから、本件発明1〜20に係る特許は、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

3 申立理由3(明確性要件)
本件特許に係る特許請求の範囲の請求項1〜20の記載は、明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものであるから、本件発明1〜20に係る特許は、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

4 申立理由4(新規性
本件発明1〜11、18は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1〜3号証のいずれかに記載された発明であって特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件発明1〜11、18に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。

5 申立理由5(進歩性
本件発明1〜20は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1〜5号証のいずれかに記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、本件発明1〜20に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。

6 証拠方法
甲第1号証:特開平11−333952号公報
甲第2号証:特開2000−879号公報
甲第3号証:特開2001−58622号公報
甲第4号証:特開平11−235770号公報
甲第5号証:特開2002−32024号公報
甲第6号証:特開2006−15745号公報
甲第7号証:特開2009−161625号公報
甲第8号証:特表平6−500963号公報
甲第9号証:特開2007−2008号公報
甲第10号証:Web記事(下記URLのWebアーカイブ(Wayback Machine)(2019/11/1 13:01:59時点の内容をarchive.orgからダウンロードしたPDF)である。https://resource-recycling.com/plastics/2019/11/01/how-a-pet-shrink-sleeve-label-passed-recyclability-testing/)
甲第11号証:特開2003−103720号公報
甲第12号証:特開2007−160543号公報
甲第13号証:特開2002−132159号公報
甲第14号証:特開2002−196677号公報
甲第15号証:特開2002−210902号公報
甲第16号証:特開2004−66485号公報
甲第17号証:特開2006−240717号公報
甲第18号証:特開2008−6804号公報

表記については、おおむね特許異議申立書の記載に従った。以下、順に「甲1」ないし「甲18」という。

第4 当審の判断
当審は、以下述べるように、上記申立理由にはいずれも理由がないと判断する。

1 申立理由1(実施可能要件)について
(1)判断基準
本件発明1〜20は熱収縮性フィルムという物の発明である。
物の発明において、実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、かつ、使用することができる程度の記載があることを要する。
これを踏まえ、以下検討する。

(2)発明の詳細な説明の記載
本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、次のとおりの記載がある。なお、下線は当審で付した。以下同様。
・「【0009】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、包装資材を出発原料として用いた場合や、いかなる色の印刷が施された包装資材を出発原料として用いた場合においても、高い透明性や優れた外観を有する熱収縮性フィルムを提供することにある。また、該熱収縮性フィルムを用いてなる包装資材、包装資材が装着された成形品または容器を提供することにある。」
・「【0024】
ここで、出発原料となる包装資材(P)は、熱収縮性フィルムであることがサーキュラーエコノミーの観点から好ましい。
【0025】
前記包装資材(P)を構成する樹脂組成物は、特に限定されるものではない。前記包装資材(P)を、構成する樹脂としては、例えば、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等が挙げられる。なかでも、後述するポリエステル系樹脂(A)が好ましく、ポリエステル系樹脂(A)を主成分としてなる樹脂組成物から構成されていることがより好ましい。」
・「【0048】
一方で、包装資材(P)を出発原料として得られるフラフ(Pf)、リペレット(Pr)を用いる場合は、包装資材(P)の表面(容器と接しない面)に塗布されているオーバーコートを考慮しなければならない。このオーバーコートは通常、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂が塗布されていることが多いが、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂は、アルカリ水に対し耐性を有するため、上述した印刷インキの剥離処理(a)において除去されない場合がある。また、前記(メタ)アクリル酸エステル系樹脂は、包装資材(P)の主成分である樹脂と非相溶であることから、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の含有量によっては、得られる熱収縮性フィルムの透明性が低くなる傾向がある。そのため、前記樹脂組成物(Z1)においては、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の含有量を考慮しなければならない。
【0049】
したがって、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の含有量は、樹脂組成物(Z1)中、0.7質量%以下であることが好ましく、0.6質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。なお、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の含有量は、少なければ少ない方が好ましい。(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の含有量が前記数値以下であることにより熱収縮性フィルムの透明性を維持することができる傾向がある。また、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂が前記数値を超える場合は、得られる熱収縮性フィルムの透明性を低下させる傾向がある。
これは、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の平均屈折率が1.490〜1.500程度であること、および、樹脂組成物(Z1)の主成分である樹脂と(メタ)アクリル酸エステル系樹脂との溶融混錬において両者が非相溶であるため、両者の界面で散乱が生じるためである。」
・「【0052】
本発明の第1の態様において、前記樹脂組成物(Z1)を、主成分として構成する樹脂としては、例えば、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。なかでも、第1の態様においては前記樹脂組成物(Z1)が、ポリエステル系樹脂(A)を主成分としてなる樹脂組成物であることが好ましい。」
・「【0090】
[熱収縮性フィルムの層構成]
本発明の第1〜3の態様に係る熱収縮性フィルムは、包装資材(P)を出発原料として得られるフラフ(Pf)、およびリペレット(Pr)の少なくとも一方を含む樹脂組成物(Z1)からなる層(I)を少なくとも1層有すればよい。したがって、本発明の熱収縮性フィルムは、前記層(I)単層フィルムであってもよく、前記層(I)とその他の層が積層されたフィルムであってもよい。また、層構成は特に限定されるものではない。
なかでも、本発明の第1〜3の態様に係る熱収縮性フィルムは、前記包装資材(P)からなる原料を含まない樹脂組成物(Z2)からなる層(II)と、前記層(I)の少なくとも2層からなることが好ましい。
【0091】
前記樹脂組成物(Z2)を、主成分として構成する樹脂としては、例えば、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等が挙げられる。なかでも、本発明では、前記樹脂組成物(Z2)が、前記ポリエステル系樹脂(A)を主成分としてなる樹脂組成物であることが好ましい。
【0092】
また、前記樹脂組成物(Z2)に含まれるポリエステル系樹脂(A)は、手切れ性の点から、ジオール残基として1,4−シクロヘキサンジメタノール残基、およびネオペンチルグリコール残基の少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0093】
本発明の第1〜3の態様に係る熱収縮性フィルムが、前記層(I)と前記樹脂組成物(Z2)からなる層(II)の少なくとも2層からなる熱収縮性フィルムである場合、好適な積層構成としては、例えば、「層(I)/層(II)」からなる2層構成、「層(I)/層(II)/層(I)」や、「層(II)/層(I)/層(II)」からなる2種3層構成、他の層(III)をさらに積層させた「層(I)/層(II)/層(III)」、「層(II)/層(I)/層(III)」、「層(I)/層(III)/層(II)」からなる3種3層構成、「層(I)/層(III)/層(II)/層(III)」、「層(III)/層(I)/層(III)/層(II)」、「層(III)/層(I)/層(II)/層(III)」からなる3種4層構成、「層(I)/層(III)/層(II)/層(III)/層(I)」、「層(II)/層(III)/層(I)/層(III)/層(II)」、「層(III)/層(II)/層(I)/層(II)/層(III)」、「層(III)/層(I)/層(II)/層(I)/層(III)」からなる3種5層構成等の構成を採用することができ、層の数や上述した他の層(III)としては、特に種類の制限はない。さらに前記層(III)としてその他の層、例えば、不織布、紙、金属からなる層等を積層してもよい。
また、各層は、共押出によって積層としてもよいし、別工程で得たフィルムをプレスやラミネート等により積層してもよい。
【0094】
本発明の第1〜3の態様に係る熱収縮性フィルムが、前記層(I)と樹脂組成物(Z2)からなる層(II)の少なくとも2層からなる熱収縮性フィルムである場合、「層(II)/層(I)/層(II)」からなる2種3層構成であることが好ましい。層(II)には、前記包装資材(P)からなる原料を含まないため、「層(II)/層(I)/層(II)」からなる2種3層構成を採用することにより、光沢や滑り性、印刷特性等の表面特性を、従来の熱収縮性フィルムと同等に維持することができる。
【0095】
本発明の熱収縮性フィルムが、前記層(I)単層フィルムである場合においても、前記層(I)と層(II)の少なくとも2層からなる積層フィルムである場合においても、表面層を形成する層には、フィルムの滑り性の付与やブロッキング防止のために、アンチブロッキング剤を添加することが好ましい。
【0096】
前記アンチブロッキング剤としては、例えば、シリカ、タルク、炭酸カルシウム等の無機粒子、無機酸化物、炭酸塩、または、架橋アクリル系、架橋ポリエステル系、架橋ポリスチレン系、シリコーン系等の有機粒子等が挙げられる。また、多段階で重合せしめた多層構造を形成した有機粒子も用いることができる。これらは単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。なかでも、シリカや有機粒子が好ましい。
【0097】
前記アンチブロッキング剤はフィルム表面を荒らすことにより、滑り性や耐ブロッキング性を発現させるため、適切な添加量、および、種類を選択しなければ、透明性や、フィルムの光沢を阻害してしまう。そのため、アンチブロッキング剤の添加量は、表面層を形成する層を構成する樹脂組成物全体の質量を基準(100質量%)として、0.01質量%以上2質量%以下とすることが好ましく、0.015質量%以上1.5質量%以下がより好ましく、0.02質量%以上1質量%以下がさらに好ましい。前記アンチブロッキング剤の添加量が少なすぎる場合、フィルム表面へアンチブロッキング剤が析出しづらく、フィルム表面に凹凸を形成しづらいため、充分な滑り性や耐ブロッキング性を発現しづらい傾向がある。また、逆に多すぎる場合、フィルム表面の過剰な凹凸が生じやすく、表面荒れによる透明性の阻害や、過剰な滑り性の付与によるフィルムロールの巻きづれ等が生じやすい傾向がある。
【0098】
前記アンチブロッキング剤の形状は、特に限定されるものではないが、凝集抑制、均一分散の観点、透過する光の乱反射抑制、およびフィルム表面に形成される凹凸の観点から球状のものが好ましく用いられる。前記アンチブロッキング剤の粒径は、0.5μm以上10μm以下が好ましく、1μm以上8μm以下がより好ましく、1μm以上6μm以下がさらに好ましい。前記アンチブロッキング剤の粒径が小さすぎる場合、表面へ析出しづらく、また、表面に析出したアンチブロッキング剤においても、滑り性や耐ブロッキング性を発現するに充分な凹凸を付与しづらい傾向がある。一方、前記アンチブロッキング剤の粒径が大きすぎる場合、本発明の熱収縮性フィルムに印刷を施し、意匠性を高める場合において、インキ抜け等が生じやすく、印刷図柄の外観を損ねる傾向がある。前記アンチブロッキング剤の粒径分布は、特に制限されるものではないが、前記粒径の大小による弊害の関係より、粒径分布が狭いものの方が好ましい。粒径分布が広くなりすぎると、前述した好ましく用いられる粒径の範囲より逸脱するものが含まれる可能性がある。
【0099】
本発明の熱収縮性フィルムの総厚さは特に限定されないが、包装資材への適用の観点から、5μm以上200μm以下であることが好ましく、10μm以上150μm以下であることがより好ましく、15μm以上70μm以下であることがさらに好ましい。
【0100】
本発明の熱収縮性フィルムが、前記層(I)と樹脂組成物(Z2)からなる層(II)との少なくとも2層からなる熱収縮性フィルムである場合、各層厚さや積層比は特に限定されないが、サーキュラーエコノミーにおけるリサイクル性向上の観点から、全層厚さに対する、層(I)の層厚さの比率が50%以上99%以下であることが好ましく、55%以上95%以下であることがより好ましく、60%以上90%以下であることがさらに好ましい。ここで、層(I)の層厚さとは、前記層(I)が、「層(I)/層(II)/層(I)」構成のように、複数有する場合においては、層(I)の合計厚さを示す。
【0101】
また、本発明の熱収縮性フィルムが、前記層(I)と、前記層(II)の少なくとも2層からなる場合、前記層(I)と、前記層(II)が隣接する2層である連続層部を有し、かつ、前記層(I)を主成分として構成する樹脂と前記層(II)を主成分として構成する樹脂が同種であることが好ましい。さらには、前記層(I)と、前記層(II)が隣接する2層である連続層部を有し、かつ、前記樹脂組成物(Z1)が、前記ポリエステル系樹脂(A)を主成分としてなる樹脂組成物であり、かつ、前記樹脂組成物(Z2)が、前記ポリエステル系樹脂(A)を主成分としてなる樹脂組成物であることがより好ましい。
前記層(I)と、前記層(II)が隣接する2層である連続層部を有し、かつ、前記層(I)を主成分として構成する樹脂と前記層(II)を主成分として構成する樹脂が同種であることにより、層(I)と層(II)の界面における層間剥離が生じにくい傾向がある。
【0102】
一方で、未知の熱収縮性フィルムの分析において、層(I)と層(II)が隣接する2層である連続層部を有し、かつ、層(I)を主成分として構成する樹脂と層(II)を主成分として構成する樹脂が同種である場合、隣接する層(I)と層(II)との界面が明確に区分できない場合がある。ここで、隣接する層(I)と層(II)との界面が明確に区分できないとは、走査型電子顕微鏡(SEM)または、透過型電子顕微鏡(TEM)にて、熱収縮性フィルムの断面観察を行った際に、隣接する層(I)と層(II)においてコントラストが付かず、界面が判断できない状態を示す。
そのため、本発明の技術的範囲に包含されるものかを判断するための、未知の熱収縮性フィルムの分析において、層(I)と層(II)が隣接する2層である連続層部を有し、かつ、層(I)を主成分として構成する樹脂と層(II)を主成分として構成する樹脂が同種であり、かつ、隣接する層(I)と層(II)との界面が明確に区分できない場合、前記層(I)と前記層(II)とを、合わせて1つの層と判断することを許容する。
【0103】
また、本発明の熱収縮性フィルムは、必要に応じて、スリット、コロナ処理、印刷、粘着剤の塗布、コーティング、蒸着等の表面処理や表面加工、さらには、各種溶剤やヒートシールによる製袋加工やミシン目加工を施すことができる。」
・「【0160】


・「【0162】



(3)判断
本件特許の明細書【0025】、【0052】には、本件発明1〜20に係る樹脂組成物の主成分として用いられ得る樹脂材料について記載されており、【0049】には「(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の含有量は、少なければ少ない方が好ましい」という指針も示され、【0090】〜【0103】には熱収縮性フィルムの層構成についても記載されている。さらに、本件特許の明細書には実施例の記載もあるから、当業者であれば、これらの記載を参考にすれば、本件発明1〜20に係る発明をどのように生産するのか理解できる。また、本件特許の明細書【0009】には、「該熱収縮性フィルムを用いてなる包装資材、包装資材が装着された成形品または容器を提供する」とあり、本件発明1〜20に係る熱収縮性フィルムをどのように使用するのかについても記載されている。
してみると、当業者は、発明の詳細な説明の記載内容及び出願時の技術常識に基づき、その物を生産し、使用することができるということができるものであり、当業者がその実施にあたり、過度の試行錯誤を要するものともいえない。
よって、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件に適合するものといえる。

なお、特許異議申立書において申立人は、
・「比較例1」も「印刷層を有する包装資材(P)を出発原料として得られるフラフ(Pf)、およびリペレット(Pr)の少なくとも一方を含む樹脂組成物(Z1)からなる層(I)を少なくとも1層有する熱収縮性フィルムであって、」「前記熱収縮性フィルムが、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂を含み、」との発明特定事項を備えているところ、どのような樹脂組成物(Z1)であれば透過率、ヘーズ値が満たされるのかについて、明細書に記載されていないから、本件発明1〜20について、発明の詳細な説明に当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない、
・「樹脂組成物(Z1)からなる層(I)」以外の層に「(メタ)アクリル酸エステル系樹脂を含む」態様は明細書に開示されていないから、本件発明1〜20について、発明の詳細な説明に当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない、
・本件特許明細書の【実施例】の欄の表1に示された実施例1から実施例6、比較例、参考例1から参考例4の何れの樹脂組成物もポリエステル系樹脂であり、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂を材料とする樹脂組成物については記載されていないから、本件発明1〜3、5、11〜13について、発明の詳細な説明に当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない、
と主張するが、本件発明1〜20が実施可能要件を満たすのは上記検討のとおりであって、申立人の主張の当否はこのような判断を何ら左右しない。

(4)小括
したがって、申立理由1には理由がない。

2 申立理由2(サポート要件)について
(1)判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)発明の詳細な説明の記載
本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、上記1(2)のとおりの記載がある。

(3)判断
本件発明の課題は、「包装資材を出発原料として用いた場合や、いかなる色の印刷が施された包装資材を出発原料として用いた場合においても、高い透明性や優れた外観を有する熱収縮性フィルムを提供すること」(明細書【0009】)である。
そして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「包装資材(P)を出発原料として得られるフラフ(Pf)、リペレット(Pr)を用いる場合は、包装資材(P)の表面(容器と接しない面)に塗布されているオーバーコートを考慮しなければならない。このオーバーコートは通常、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂が塗布されていることが多いが、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂は、アルカリ水に対し耐性を有するため、上述した印刷インキの剥離処理(a)において除去されない場合がある。また、前記(メタ)アクリル酸エステル系樹脂は、包装資材(P)の主成分である樹脂と非相溶であることから、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の含有量によっては、得られる熱収縮性フィルムの透明性が低くなる傾向がある。」(同【0048】)ことが記載され、そのため、「(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の含有量は、樹脂組成物(Z1)中、0.7質量%以下であることが好ましく、0.6質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。なお、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の含有量は、少なければ少ない方が好ましい。(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の含有量が前記数値以下であることにより熱収縮性フィルムの透明性を維持することができる傾向がある。また、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂が前記数値を超える場合は、得られる熱収縮性フィルムの透明性を低下させる傾向がある。」点が記載され(同【0049】)、その原因についても、「(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の平均屈折率が1.490〜1.500程度であること、および、樹脂組成物(Z1)の主成分である樹脂と(メタ)アクリル酸エステル系樹脂との溶融混錬において両者が非相溶であるため、両者の界面で散乱が生じるためである。」(同【0049】)ことが記載されており、かつ、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、これらの要件を満たす実施例も記載されている。
これらの記載に接した当業者であれば、「印刷層を有する包装資材(P)を出発原料として得られるフラフ(Pf)、およびリペレット(Pr)の少なくとも一方を含む樹脂組成物(Z1)からなる層(I)を少なくとも1層有する熱収縮性フィルム」において、「JIS K0115(2004)に準拠した分光光度測定における光線透過率が、測定波長400〜800nmにおいて85%以上であり、JIS K7136(2000)に準拠して測定されたヘーズ値が13.8%以下」とするという特定事項を満たすことにより、本件発明の課題を解決するものと認識する。
そして、本件発明1及び本件発明18はいずれも、これら本件発明の課題を解決すると認識できる特定事項を全て有するものであるから、本件発明1及び本件発明18は、本件発明の課題を解決するものといえる。
本件発明1又は本件発明18の特定事項を全て有する本件発明2〜17及び19〜20についても同様である。

なお、特許異議申立書において申立人は、
・「比較例1」も「印刷層を有する包装資材(P)を出発原料として得られるフラフ(Pf)、およびリペレット(Pr)の少なくとも一方を含む樹脂組成物(Z1)からなる層(I)を少なくとも1層有する熱収縮性フィルムであって、」「前記熱収縮性フィルムが、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂を含み、」との発明特定事項を備えているところ、どのような樹脂組成物(Z1)であれば透過率、ヘーズ値が満たされるのかについて、明細書に記載されていないから、本件発明1〜20について、発明の詳細な説明に当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない、
・「樹脂組成物(Z1)からなる層(I)」以外の層に「(メタ)アクリル酸エステル系樹脂を含む」態様は明細書に開示されていないから、本件発明1〜20について、発明の詳細な説明に当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない、
・本件特許明細書の【実施例】の欄の表1に示された実施例1から実施例6、比較例、参考例1から参考例4の何れの樹脂組成物もポリエステル系樹脂であり、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂を材料とする樹脂組成物については記載されていないから、本件発明1〜3、5、11〜13の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない、
・本件特許明細書の【実施例】の欄の表1に示された「実施例1」、「実施例3」、「実施例4」の各樹脂組成物(Z1)に含まれる(メタ)アクリル酸エステル系樹脂は、其々0.2質量%、0.1質量%、0.3質量%であり、「0.6質量%」の根拠が実施例に示されていないから、本件発明5〜15は、発明の詳細な説明に記載された発明ではない、
と主張するが、本件発明1〜20がサポート要件を満たすのは上記検討のとおりであって、申立人の主張の当否はこのような判断を何ら左右しない。

(4)小括
したがって、申立理由2には理由がない。

3 申立理由3(明確性)について
(1)判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。

(2)判断
上記(1)の基準に照らすと、本件発明1、18はその材料や光学的性質が明確に定められており、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
したがって、本件特許の請求項1〜20の記載は、明確性要件に適合する。

なお、特許異議申立書において申立人は、以下の3点について主張している。
・「比較例1」も「印刷層を有する包装資材(P)を出発原料として得られるフラフ(Pf)、およびリペレット(Pr)の少なくとも一方を含む樹脂組成物(Z1)からなる層(I)を少なくとも1層有する熱収縮性フィルムであって、」「前記熱収縮性フィルムが、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂を含み、」との発明特定事項を備えているところ、どのような樹脂組成物(Z1)であれば透過率、ヘーズ値が満たされるのかについて、明細書に記載されていないから、本件発明1〜20は明確でない。
・本件特許明細書の【実施例】の欄の表1に示された実施例1から実施例6、比較例、参考例1から参考例4の何れの樹脂組成物もポリエステル系樹脂であり、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂を材料とする樹脂組成物については記載されていないから、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂を含むポリエステル系樹脂以外の樹脂が、本件発明1〜3、5、11〜13に含まれると明確に把握できない。
・本件特許明細書の【実施例】の欄の表1に示された「実施例1」、「実施例3」、「実施例4」の各樹脂組成物(Z1)に含まれる(メタ)アクリル酸エステル系樹脂は、其々0.2質量%、0.1質量%、0.3質量%であり、「0.6質量%」の根拠が実施例に示されていないから、本件発明5〜15は明確でない。
しかしながら、いずれの主張も、「特許請求の範囲」に記載された発明が明確か否かとは関係がないため、採用しない。

(3)小括
したがって、申立理由3には理由がない。

4 申立理由4(新規性)、5(進歩性)について
(1)甲1の検討
ア 甲1に記載された事項等
甲1には以下の記載がある。なお、下線は当審で付した。
・「【0007】本発明は、上記従来のラベル、そのラベルを装着したボトルの再生方法の有する問題点を解決し、インキ層を容易に除去することのできるラベル、そのラベルを装着したボトル、ラベル上のインキ層を除去する方法、前記ラベルを装着したボトルからラベル上のインキ層を除去する方法、インキを除去したラベルとボトルとを再生する方法及び再生ペレット、を提供することを目的とする。」
・「【0045】インキ層と基材層との間に存在する中間層に用いられる、アルカリ性温湯中で膨潤または溶解可能な樹脂としては、インク層を除去できる機能を持ったものであれば特に限定するものではないが、樹脂にはアルカリ性温湯中で膨潤又は溶解可能なように、親水基が導入されていることが必要である。親水基としては、ヒドロキシル基、ポリエチレングリコール基、カルボン酸基、カルボン酸塩基、スルホン酸基、スルホン酸塩基、ホスホン酸基、ホスホン酸塩基などが挙げられる。また、ボトル用ラベルとして用いるため、通常のボトルの使用状態ではインク層が剥がれないようにする必要がある。具体的には、試料ラベル1gを1cm角に切断し100ccのイオン交換水(25℃、pH6−8)中で30分攪拌した後、水洗・乾燥したときにインキの除去率が5%以下であることが好ましい。に、親水基の種類や量を調整することが必要である。そのためには、上記の親水基の種類や量を調整する。親水基がカルボン酸塩基、スルホン酸塩、ホスホン酸塩の場合は、沸点200℃以下のアミンを用いた中和物が好ましい。
【0046】これらの親水基が導入される樹脂の例としては、ポリエステル系樹脂、ポリアクリル系樹脂、アクリル変性ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン系樹脂がなど挙げられる。好ましくは、ポリエステル系樹脂、アクリル変性ポリエステル樹脂、アクリル変成ポリウレタン樹脂である。アクリル変性ポリエステル樹脂としては、片末端にのみヒドロキシル基を2個以上持ったアクリル系マクロモノマーをポリエステル合成時に用いる方法や、ポリエステルを合成後、このポリエステル樹脂存在下でアクリルモノマーを重合する方法、などによって得られるアクリルポリマーを枝部分としてグラフトさせたポリエステルが好ましい例として挙げられる。アクリル変成ポリウレタン樹脂としては、片末端にのみヒドロキシル基を2個以上持ったアクリル系マクロモノマーをポリウレタン合成時に用いる方法、ポリウレタンを合成後、このポリウレタン樹脂存在下でアクリルモノマーを重合する方法、などによって得られるアクリルポリマーを枝部分としてグラフトさせたポリウレタンが好ましい例として挙げられ、ここで用いられる、ポリオールとしてはポリエステルポリオールが好ましい。」
・「【0051】本発明のボトルは、常法によりラベルを少なくとも胴部をかこむようにして装着することができる。また、回収された、本発明のラベルが装着されたボトルは、典型的にはボトル洗浄を行った後粉砕を行い、次いでアルカリ温湯中でインキ層を除去し、そのまま水洗・乾燥してボトルとラベルの再生熱可塑性重合体フレークを得る。これを押出機により再生熱可塑性重合体ペレットに再生して利用することができる。」
・「【0052】
【実施例】以下、本発明の具体的な例を挙げる。
【0053】ポリエステル樹脂の製造例
撹拌機、温度計および部分環流式冷却器を具備したステンレススチール製オートクレーブにジメチルテレフタレート 460g、ジメチルイソフタレート 460g、フマル酸29g、エチレングリコール 341g、3メチルペンタンジオール 650gおよびテトラ−n−ブチルチタネート0.52gを仕込み、160〜220℃まで4時間かけてエステル交換反応を行った。次いで250℃まで昇温し、反応系を 徐々に減圧したのち0.2mmgの減圧下で1時間30分反応させ、ポリエステル樹脂を得た。得られたポリエステル樹脂Aは淡黄色透明であった。
【0054】アクリル変性ポリエステル樹脂の製造例
撹拌機、温度計および環流冷却管を具備したガラス製フラスコにポリエステル樹脂の製造例で示した方法により得られるポリエステル樹脂にフマル酸を酸成分中5モル%共重合したポリエステル樹脂75gとメチルエチルケトン56gとイソプロピルアルコール19gを仕込み加熱撹拌し樹脂を溶解した。溶解した樹脂にたいしてメタクリル酸17.5gとアクリル酸エチル7.5gとアゾビスジメチルバレロニトリル1.2gを10gのメチルエチルケトンに溶解した溶液とを一定の速度で滴下し、さらに3時間撹拌した。その後、水300gとトリエチルアミン25部を反応溶液に加えさらに1時間撹拌した。次に、溶液の温度を100℃まで昇温し、メチルエチルケトン、イソプロピルアルコール、過剰のトリエチルアミンを蒸留により溜去し、アクリル変性ポリエステル樹脂を得た。
(実施例1)厚さ50μmのポリエステル系フィルム(ラベル加工後に周方向となる方向の熱収縮率72%:東洋紡績社製S5630)に上記アクリル変性ポリエステル樹脂を塗布、60℃で乾燥、0.1μmの中間層を積層し、この中間層の上にインキとしてシュリンクEX(東洋インキ社製)の緑、金、白色を順にグラビア印刷でベタ印刷を行い、60℃のオーブンで乾燥を行った。インキ層の厚みは合計10μmであった。印刷フィルムを溶剤を用いて、ボトルの最大外周+20mmのチューブ状に接着加工を行い、カットして幅12cmのラベルを作製した。そのラベルを2リットルPETボトルの首下部から胴部にかけて装着し、80℃のスチームトンネルを用いて収縮させた。そのラベルをハサミを用いて外し、ラベルを95℃、3%水酸化ナトリウム水溶液に30分間撹拌しながら浸漬しておいた。ラベルを取り出して観察したところインキ層は完全に除去されていた。また、図1の工程に従って回収した再生ペレットは目視したところ着色は認められなかった。」

イ 甲1に記載された発明
アの摘記事項、特に実施例1について整理すると、甲1には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲1発明>
グラビア印刷で形成されたインキ層を有するラベルを材料とした再生ペレット。

ウ 本件発明1と甲1発明の対比・判断
甲1発明の「グラビア印刷で形成されたインキ層を有するラベル」、及び、当該ラベル「を材料とした再生ペレット」は、それぞれ、本件発明1の「印刷層を有する包装資材(P)」、及び、当該包装資材「を出発原料として得られる」「リペレット(Pr)」に相当する。また、甲1発明の再生ペレットは樹脂組成物であることは明らかである。

してみると、両者の一致点、相違点はそれぞれ次のとおりである。
・一致点
「印刷層を有する包装資材(P)を出発原料として得られるフラフ(Pf)、およびリペレット(Pr)の少なくとも一方を含む樹脂組成物(Z1)」

・相違点1−1
樹脂組成物(Z1)について、本件発明1が「樹脂組成物(Z1)からなる層(I)を少なくとも1層有する熱収縮性フィルム」と特定するように、樹脂組成物(Z1)は熱収縮性フィルムを構成する層の要素として特定されているのに対し、甲1発明はそのような特定を有しない点。

・相違点1−2
本件発明1が、相違点1−1に係る熱収縮性フィルムは「(メタ)アクリル酸エステル系樹脂を含む」と特定するのに対し、甲1発明はそのような特定を有しない点。

・相違点1−3
本件発明1が、相違点1−1に係る熱収縮性フィルムの光学的性質について「JIS K0115(2004)に準拠した分光光度測定における光線透過率が、測定波長400〜800nmにおいて85%以上であり、JIS K7136(2000)に準拠して測定されたヘーズ値が13.8%以下」と特定するのに対し、甲1発明はそのような特定を有しない点。

まず相違点1−1について検討すると、甲1発明は、再生ペレット(樹脂組成物(Z1))について、熱収縮性フィルムを構成する層の要素として特定するものではないから、相違点1−1は実質的な相違点である。
したがって、本件発明1は、甲1発明ではない。
そして、仮に相違点1−1に係る構成が当業者が容易に想到し得るものであったとしても、当該再生ペレットから作成された熱収縮性フィルムが、相違点1−2に係る構成である「(メタ)アクリル酸エステル系樹脂を含む」か否か明らかではないし、相違点1−3に係る構成である「分光光度測定における光線透過率」や「ヘーズ値」がどの程度の値となるのか一切不明であるから、当業者が容易になし得た発明であるとは到底いえない。
よって、本件発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 本件発明2〜20について
上記第2のとおり、本件発明2〜17は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1の特定事項を全て有するものである。また、本件発明18は、本件発明1の特定事項を全て有しており、さらに「前記層(I)が、ポリエステル系樹脂(A)を主成分として含み、上記ポリエステル系樹脂(A)が、ジオール残基としてネオペンチルグリコール残基を含む熱収縮性フィルムであって」と特定するものであり、本件発明19、20は本件発明18を直接又は間接的に引用するものである。
そして、上記ウのとおり、本件発明1が甲1発明ではなく、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上、本件発明2〜20も、甲1発明ではなく、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(2)甲2の検討
ア 甲2に記載された発明
甲2に記載された事項、特に【0080】、【0081】の記載を整理すると、甲2には以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲2発明>
グラビア印刷で形成されたインキ層を有するラベルを材料とした再生ペレット。

イ 本件発明1〜20と甲2発明との対比・判断
甲2発明は甲1発明と同じである。してみると、上記(1)ウ、エの検討と同様に判断されるから、本件発明1〜20は甲2発明ではないし、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)甲3の検討
ア 甲3に記載された発明
甲3に記載された事項、特に【0008】、【0084】、【0085】の記載を整理すると、甲3には以下の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲3発明>
グラビア印刷で形成されたインキ層を有するラベルを材料とした再生ペレットを用いて作成したフィルム。

イ 本件発明1と甲3発明との対比・判断
甲3発明の「グラビア印刷で形成されたインキ層を有するラベル」、及び、当該ラベル「を材料とした再生ペレット」は、それぞれ、本件発明1の「印刷層を有する包装資材(P)」、及び、当該包装資材「を出発原料として得られる」「リペレット(Pr)」に相当する。また、甲3発明の再生ペレットは樹脂組成物であることは明らかである。

してみると、両者の一致点、相違点はそれぞれ次のとおりである。
・一致点
「印刷層を有する包装資材(P)を出発原料として得られるフラフ(Pf)、およびリペレット(Pr)の少なくとも一方を含む樹脂組成物(Z1)からなる層(I)を少なくとも1層有するフィルム」

・相違点3−1
フィルムの性質について、本件発明1が「熱収縮性」と特定するのに対し、甲3発明はそのような特定を有しない点。

・相違点3−2
本件発明1が、相違点3−1に係る熱収縮性フィルムは「(メタ)アクリル酸エステル系樹脂を含む」と特定するのに対し、甲3発明はそのような特定を有しない点。

・相違点3−3
本件発明1が、相違点3−1に係る熱収縮性フィルムの光学的性質について「JIS K0115(2004)に準拠した分光光度測定における光線透過率が、測定波長400〜800nmにおいて85%以上であり、JIS K7136(2000)に準拠して測定されたヘーズ値が13.8%以下」と特定するのに対し、甲3発明はそのような特定を有しない点。

まず相違点3−1について検討すると、甲3の【0008】には再生ペレットを「繊維、フィルム、成型品に加工」する点が記載されているものの、「熱収縮性フィルム」であるか特定されていないから、相違点3−1は実質的な相違点である。
したがって、本件発明1は、甲3発明ではない。
そして、仮に相違点3−1に係る構成が当業者が容易に想到し得るものであったとしても、当該再生ペレットから作成された熱収縮性フィルムが、相違点3−2に係る構成である「(メタ)アクリル酸エステル系樹脂を含む」か否か明らかではないし、相違点3−3に係る構成である「分光光度測定における光線透過率」や「ヘーズ値」がどの程度の値となるのか一切不明であるから、当業者が容易になし得た発明であるとは到底いえない。
よって、本件発明1は、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件発明2〜20について
上記(1)エのとおり、本件発明2〜20は、本件発明1の特定事項を全て有するものである。
そして、上記イのとおり、本件発明1が甲3発明ではなく、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上、本件発明2〜20も、甲3発明ではなく、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(4)甲4の検討
ア 甲4に記載された発明
甲4に記載された事項、特に【0053】の記載を整理すると、甲4には以下の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲4発明>
グラビア印刷で形成されたインキ層を有するラベルを材料とした再生ペレット。

イ 本件発明1〜20と甲4発明との対比・判断
甲4発明は甲1発明と同じである。してみると、上記(1)ウ、エの検討と同様に判断されるから、本件発明1〜20は甲4発明ではないし、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)甲5の検討
ア 甲5に記載された発明
甲5に記載された事項、特に【0032】の記載を整理すると、甲5には以下の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲5発明>
印刷層を有するラベルを材料としたペレット。

イ 本件発明1〜20と甲5発明との対比・判断
甲5発明は実質的に甲1発明と同じである。してみると、上記(1)ウ、エの検討と同様に判断されるから、本件発明1〜20は甲5発明ではないし、甲5発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(6)小括
以上のとおりであるから、申立理由4、5には理由がない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載された申立ての理由によっては、請求項1〜20に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に当該特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。


 
異議決定日 2022-04-28 
出願番号 P2021-032360
審決分類 P 1 651・ 536- Y (C08J)
P 1 651・ 113- Y (C08J)
P 1 651・ 121- Y (C08J)
P 1 651・ 537- Y (C08J)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 植前 充司
奥田 雄介
登録日 2021-06-28 
登録番号 6904495
権利者 三菱ケミカル株式会社
発明の名称 熱収縮性フィルム、包装資材、成形品または容器  
代理人 井▲崎▼ 愛佳  
代理人 西藤 征彦  
代理人 西藤 優子  
代理人 寺尾 茂泰  

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