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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 G03G 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 G03G 審判 全部申し立て 特29条の2 G03G 審判 全部申し立て 2項進歩性 G03G 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 G03G |
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管理番号 | 1385230 |
総通号数 | 6 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-06-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2022-02-21 |
確定日 | 2022-05-20 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6924885号発明「キャリア芯材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6924885号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続等の経緯 特許第6924885号の請求項1〜9に係る特許についての出願(特願2020−181055号、以下「本件出願」という。)は、令和2年10月29日を出願日とする特許出願であって、令和3年8月4日に特許権の設定の登録がされたものである。 本件特許について、令和3年8月25日に特許掲載公報が発行されたところ、発行の日から6月以内である令和4年2月21日に、請求項1〜9に係る特許に対し、特許異議申立人 ▲桑▼原 裕二(以下「特許異議申立人」という。)から、特許異議の申立てがされた。 第2 本件特許発明 特許第6924885号の請求項1〜9に係る発明(以下「本件特許発明1」〜「本件特許発明9」という。また、それらを総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜9に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 組成式(MnO)x(MgO)y(Fe2O3)z(但し、x:30mol%以上55mol%以下,y:20mol%以下,z:40mol%以上60mol%以下,x+y+z=100mol%)で表されるフェライト粒子から構成されるキャリア芯材であって、 Caが0.1mol%以上1.0mol%以下の範囲、 Zrが0.1mol%以上1.0mol%以下の範囲、 含有されていることを特徴とするキャリア芯材。 【請求項2】 前記フェライト粒子の表面の最大山谷深さRzが1.7μm以上2.5μm以下である請求項1記載のキャリア芯材。 【請求項3】 前記フェライト粒子の残留磁化σrが1.0(A・m2/kg)以下である請求項1又は2に記載のキャリア芯材。 【請求項4】 前記フェライト粒子の保持力Hcが10(A/m×103/(4π))以下である請求項1〜3のいずれかに記載のキャリア芯材。 【請求項5】 水銀圧入法で測定される細孔容積が0.003cm3/g以上0.02cm3/g以下である請求項1〜4のいずれかに記載のキャリア芯材。 【請求項6】 磁場79.58×103A/m(1000エルステッド)を印加した際の前記フェライト粒子の磁化σ1kが45Am2/kg以上75Am2/kg以下である請求項1〜5のいずれかに記載のキャリア芯材。 【請求項7】 前記フェライト粒子の体積平均粒子径D50が20μm以上75μm以下である請求項1〜6のいずれかに記載のキャリア芯材。 【請求項8】 請求項1〜7のいずれかに記載のキャリア芯材の表面が樹脂で被覆されていることを特徴とする電子写真現像用キャリア。 【請求項9】 請求項8記載の電子写真現像用キャリアとトナーとを含むことを特徴とする電子写真用現像剤。」 第3 特許異議の申立ての理由の概要 1 特許異議申立人が提出した証拠は以下のとおりである。 甲第1号証:特許第6757872号公報 甲第2号証:特許第6766310号公報 甲第3号証:国際公開第2021/200171号 甲第4号証:国際公開第2021/200172号 甲第5号証:特開2006−17828号公報 甲第6号証:平賀貞太郎 他著、「電子材料シリーズ フェライト」、丸善株式会社、平成4年6月15日、p.44-p.47, p.58-p.61 なお、甲第1号証〜甲第4号証がそれぞれ、主引用文献である(以下、甲第1号証〜甲第6号証をそれぞれ、甲1〜甲6という。)。 2 特許異議申立人が主張する理由は、概略、以下のとおりである。 理由(1)新規性及び進歩性 本件特許発明は、甲1又は甲2に記載された発明であるか、又は、甲1又は甲2に記載された発明及び周知技術に基づいて、その発明が属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものである。 したがって、本件出願の請求項1〜9に係る特許は、特許法29条1項3号の規定、又は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから、特許法113条2号の規定により取り消されるべきものである(特許異議申立書の34頁〜44頁)。 理由(2)拡大先願 本件特許発明は、甲3又は甲4に記載された発明と同一である。 したがって、本件出願の請求項1〜9に係る特許は、特許法29条の2の規定に違反してされたものであるから、特許法113条2号の規定により取り消されるべきものである(特許異議申立書の44頁〜51頁)。 理由(3)サポート要件 本件出願の特許請求の範囲の請求項1〜9に係る特許は、発明の詳細な説明に記載したものでない。 したがって、本件出願の請求項1〜9に係る特許は、特許法36条6項1号の規定に違反してされたものであるから、特許法113条4号の規定により取り消されるべきものである(特許異議申立書の51頁〜58頁)。 理由(4)実施可能要件 本件出願の明細書の発明の詳細な説明は、本件出願の請求項1〜9に係る特許を、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものでない。 したがって、本件出願の請求項1〜9に係る特許は、特許法36条4項1号の規定に違反してされたものであるから、特許法113条4号の規定により取り消されるべきものである(特許異議申立書の60頁〜61頁)。 第4 甲号証の記載及び甲号証に記載された発明 1 甲1の記載及び甲1に記載された発明 (1)甲1の記載 甲1(特許第6757872号公報)は、本件出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであるところ、そこには、以下の記載がある。なお、下線は当合議体において付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す(以下の下線部について同様である)。 ア 「【請求項1】 RZrO3の組成式(但し、Rはアルカリ土類金属元素)で表されるペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分を含むフェライト粒子。 【請求項2】 前記RがSr、Ca及びBaからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素である請求項1に記載のフェライト粒子。 ・・・中略・・・ 【請求項7】 当該フェライト粒子は、(MnO)x(MgO)y(Fe2O3)z(但し、15≦x≦50、2≦y≦35、45≦z≦60、x+y+z=100(mol%))の組成式で表されるスピネル型結晶からなる結晶相成分を主成分とする請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載のフェライト粒子。 【請求項8】 請求項1〜7のいずれか一項に記載のフェライト粒子を含む電子写真現像剤用キャリア芯材。」 イ 「【技術分野】 【0001】 本発明は、フェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア及び電子写真現像剤に関する。 ・・・中略・・・ 【0005】 近年、静電潜像を高精細に現像するためトナーの小粒径化が進められている。トナーの小粒径化に伴いキャリアも小粒径化されている。キャリアを小粒径化することで、キャリアとトナーとが撹拌・混合される際の機械的ストレスが軽減し、トナースペント等の発生を抑制することができるため、従来と比較すると現像剤は長寿命化している。しかしながら、キャリアを小粒径化するとキャリア飛散が生じやすくなり、白斑等の画像欠陥が生じやすくなる。 【0006】 このような課題に対処するため、高磁化又は高抵抗なキャリアが種々提案されてきた。例えば、特許文献1には、(MnO)x(MgO)y(Fe2O3)zの組成式で表され、MnO、MgO及びFe2O3の一部がSrOで置換されたフェライト粒子において、x、y、zの量をそれぞれ所定の範囲内にすると共に、SrOの置換量を所定の量とすることにより、磁化が高く、磁化のバラツキを抑制したキャリアが提案されている。 ・・・中略・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0011】 しかしながら、上記従来(特許文献1〜特許文献5に開示)のキャリア芯材等を用いたキャリアでは、依然として高温高湿環境下においてキャリア飛散を十分に抑制することは困難であった。キャリア飛散が生じると、上記画像欠陥が生じるだけではなく、飛散したキャリアが感光体や定着ローラに付着し、これらの損傷を招く。 【0012】 そこで、本件発明の課題は、高温高湿環境下においてもキャリア飛散の発生を抑制することできるフェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア及び電子写真現像剤を提供することにある。」 ウ 「【発明を実施するための形態】 ・・・中略・・・ 【0037】 RZrO3の組成式(但し、Rはアルカリ土類金属元素)で表されるペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分を含むことで、上記課題が解決できる理由は定かではないが、本件発明者らは以下のように推察する。 【0038】 フェライト粒子の粒界には、未反応原料や不可避不純物などのフェライトと固溶しない成分が存在する。また、結晶粒の成長に伴い粒界に押し出されたこれらの成分はフェライト粒子の表面にも存在する。フェライト粒子を構成する結晶粒が大きいと、粒界は、フェライト粒子の表面における一点と他の点とを結ぶ流路のようにフェライト粒子内部に連続的に形成される。フェライト粒子の表面や粒界に存在する不可避不純物は容易にイオン化する。そのため、フェライト粒子内において連続的に形成された粒界に、Na等の不可避不純物が連続的に分布すると、水分がフェライト粒子の表面に付着すると粒界が導通路のようになり、フェライト粒子の抵抗は低下する。また、このような構造を有するフェライト粒子では、雰囲気湿度の変化によって、抵抗の変動も大きくなると考えられる。また、上述したとおり、フェライト粒子中の未反応原料や不可避不純物を完全に除去することは困難である。 【0039】 一方、RZrO3の組成式(但し、Rはアルカリ土類金属元素)で表されるペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分はフェライトと固溶しないため、当該結晶相成分はフェライト粒子の粒界に分散する。従って、当該結晶相成分を含むフェライト粒子は、当該結晶相成分を含まない場合と比較すると、フェライト粒子における粒界体積が相対的に増加する。フェライト粒子に含まれる不可避不純物量が同じであれば、フェライト粒子の粒界体積が相対的に増加すると、粒界における不可避不純物の分布密度は相対的に低下する。粒界には、不可避不純物の他、絶縁性物質である当該結晶相成分が存在する。本件発明に係るフェライト粒子では、粒子内に粒界が複雑に分布すると共に、粒界内に不可避性不純物や当該結晶相成分などの絶縁性物質が不連続に分布するため、粒界が導通路のように機能することを抑制することができる。そのため、本件発明に係るフェライト粒子によれば、抵抗の環境依存性を小さくすることができると考えられる。 ・・・中略・・・ 【0044】 (1)R(アルカリ土類金属元素) 本件発明において、Rは、Ca、Sr、Ba及びRaからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素、すなわちアルカリ土類金属元素である。アルカリ土類金属元素はジルコニウムよりもイオン半径が十分大きく、ジルコニウムとペロブスカイト型の結晶構造を形成する。本件発明において、Rは、Sr、Ca及びBaからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素であることがより好ましい。これらの元素は所定の温度条件でジルコニウムと固相反応し、ペロブスカイト型の結晶構造を形成する。そのため、フェライト粒子の製造工程において焼成温度を当該範囲内において制御することにより、本件発明に係るフェライト粒子を得ることができる。 ・・・中略・・・ 【0047】 (3)ジルコニウム含有割合 当該フェライト粒子はジルコニウムを0.1mol%以上3.0mol%以下含むことが好ましい。当該範囲内でジルコニウムを含むことにより、上記RZrO3の組成式で表されるペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分の含有割合が概ね上記範囲内となり、高磁化及び高抵抗であり、抵抗の環境依存性の小さいフェライト粒子を得ることができる。当該フェライト粒子におけるジルコニウムの含有割合は0.2mol%以上であることがより好ましい。また、当該フェライト粒子におけるジルコニウムの含有割合は2.0mol%以下であることがより好ましく、1.5mol%以下であることがさらに好ましい。 【0048】 (4)アルカリ土類金属元素含有割合 アルカリ土類金属元素(R)の含有割合は0.1mol%以上3.0mol%以下であることがより好ましい。当該範囲内でアルカリ土類金属元素(R)を含むことにより、上記RZrO3の組成式で表されるペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分の含有割合が概ね上記範囲内となり、高磁化及び高抵抗であり、抵抗の環境依存性の小さいフェライト粒子を得ることができる。当該フェライト粒子におけるアルカリ土類金属元素(R)の含有割合は0.2mol%以上であることがより好ましい。また、当該フェライト粒子におけるアルカリ土類金属元素(R)の含有割合は2.0mol%以下であることがより好ましく、1.5mol%以下であることがさらに好ましい。 ・・・中略・・・ 【0050】 さらに、当該フェライト粒子は、(MnO)x(MgO)y(Fe2O3)z(但し、15≦x≦50、2≦y≦35、45≦z≦60、x+y+z=100(mol%))の組成式で表されるスピネル型結晶からなる結晶相成分を主成分とすることがさらに好ましい。なお、主成分とは上述の通りである。 ・・・中略・・・ 【0085】 例えば、(MnO)x(MgO)y(Fe2O3)z(但し、15≦x≦50、2≦y≦35、45≦z≦60、x+y+z=100(mol%))の組成式で表されるスピネル型結晶からなる結晶相成分を主成分とするフェライト粒子を製造するには、スピネル型結晶からなるフェライト成分を十分に生成させつつ、粒界にジルコニウム成分を分散させるためにスピネル型結晶からなるフェライト成分の生成に適した温度(850℃以上1150℃以下)で3時間以上保持し、その後、例えば、ジルコン酸ストロンチウムなどのRZrO3の組成式で表されるペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分を生成させるために適した温度で1時間以上保持することにより本焼成を行うことがより好ましい。 【0086】 例えば、ジルコン酸ストロンチウム(SrZrO3)の場合、ペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分を十分に生成させるためには、1150℃以上1500℃以下、好ましくは1150℃以上1350℃以下の温度で1時間以上保持することが好ましい。ジルコン酸カルシウム(CaZrO3)やジルコン酸バリウム(BaZrO3)の場合、原料を微粉砕すると共に反応促進剤を添加した上で所定の温度下で焼成することが好ましい。ジルコン酸カルシウム(CaZrO3)やジルコン酸バリウム(BaZrO3)のペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分を生成させるには、反応促進剤を添加しない場合には、2000℃以上の高温で焼成する必要がある。一方、原料を数十ナノメートル程度の一次粒径まで微粉砕し、反応促進剤としてアルミニウム化合物(例えば、アルミナ(Al2O3)等)等を添加することで、1500℃以下の温度でもこれらのペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分を生成させることができる。このように目的とする組成に応じて、ペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分を生成する上で適した温度で保持すると共に、必要に応じてその他の条件を調整することで本件発明に係るフェライト粒子を得ることができる。」 エ 「【0097】 [実施例1] (1)フェライト粒子 実施例1では、(MnO)x(MgO)y(Fe2O3)zの組成式で表されるスピネル型結晶からなる結晶相成分を主成分とし、SrZrO3の組成式(R=Sr)で表されるペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分を含むフェライト粒子を次のようにして製造した。まず、主成分原料として、モル比でMnO換算:38.3、MgO換算:10.4、Fe2O3:51.3となるように、MnO原料、MgO原料及びFe2O3原料をそれぞれ秤量した。また、モル比で主成分原料:100に対してSrO:0.8になるようにSrO原料を秤量した。ここで、MnO原料としては四酸化三マンガン、MgO原料としては酸化マグネシウム、Fe2O3原料として酸化第二鉄、SrO原料としては炭酸ストロンチウムをそれぞれ用いた。 なお、本明細書において、「モル比で主成分原料:100に対して」における主成分原料は、「主成分原料の合計」を意味する。 【0098】 次いで、秤量した原料を乾式のメディアミル(振動ミル、1/8インチ径のステンレスビーズ)で5時間粉砕し、得られた粉砕物をローラーコンパクターにより約1mm角のペレットにした。得られたペレットを目開き3mmの振動篩にり粗粉を除去し、次いで、目開き0.5mmの振動篩により微粉を除去した後、連続式電気炉で800℃で3時間加熱し、仮焼成を行った。次いで、乾式のメディアミル(振動ミル、1/8インチ径のステンレスビーズ)を用いて、平均粒径が約5μmになるまで粉砕した。このとき粉砕時間は6時間とした。 【0099】 得られた粉砕物に、水と、ZrO2原料としての二酸化ジルコニウムを加え、湿式のメディアミル(横型ビーズミル、1mm径のジルコニアビーズ)を用いて6時間粉砕した。このとき、モル比で上記主成分原料:100に対してZrO2:1.0になるように、粉砕物に二酸化ジルコニウムを加えた。得られたスラリーの粒径(粉砕の一次粒子径)をレーザー回折式粒度分布測定装置(LA−950、株式会社堀場製作所)で測定したところ、D50は約2μm、D90は3.2μmであった。 【0100】 さらに、上記のようにして調製したスラリーに分散剤を適量添加し、バインダーとしてPVA(ポリビニルアルコール)を固形分(スラリー中の仮焼成物量)に対して0.4質量%添加し、次いでスプレードライヤーにより造粒、乾燥した。得られた造粒物の粒度調整を行い、その後、ロータリー式電気炉を用い、大気雰囲気下で800℃、2時間加熱し、分散剤やバインダーといった有機成分の除去を行った。 【0101】 その後、トンネル式電気炉により、焼成温度(保持温度)1250℃、酸素濃度0体積%雰囲気下で3時間保持することにより造粒物の本焼成を行った。このとき、昇温速度を100℃/時、冷却速度を110℃/時とした。得られた焼成物をハンマークラッシャーにより解砕し、さらにジャイロシフター(振動篩機)及びターボクラシファイア(気流分級機)により分級して粒度調整を行い、磁力選鉱により低磁力品を分別し、フェライト粒子を得た。 【0102】 得られたフェライト粒子を、熱間部と、当該熱間部に後続する冷却部とを備えるロータリー式の電気炉により表面酸化処理を行い、続いて冷却することにより、表面酸化処理が施されたフェライト粒子を得た。表面酸化処理では、熱間部では大気雰囲気下、540℃でフェライト粒子の表面に酸化被膜を形成した。実施例1のフェライト粒子の主たる製造条件を表1に示す。 ・・・中略・・・ 【0144】 そして、実施例1〜実施例7のフェライト粒子いずれも上記ペロブスカイト型結晶相成分を含むことで、抵抗の環境変動比(logL/logH)が1.06〜1.14の範囲内にあり、抵抗の環境依存性を小さく抑えることができている。そのため、実施例1〜実施例7のフェライト粒子を用いて製造した電子写真現像剤ではキャリア飛散量が2個〜7個と少なく、高温高湿環境下においてもキャリア飛散を良好に抑制することができていることが確認された。一方、当該ペロブスカイト型結晶相成分を含まない比較例1〜比較例7のフェライト粒子を用いて製造した電子写真現像剤は抵抗の環境変動比が算出不能又は1.20〜1.36と大きく、抵抗の環境依存性がみられた。その結果、比較例1〜比較例7のフェライト粒子を用いて製造した電子写真現像剤ではキャリア飛散量が11個〜19個であり、高温高湿環境下においてキャリア飛散が生じやすくなることが確認された。 【0145】 【表1】 」 (2)甲1に記載された発明 甲1の【請求項8】には、【請求項1】及び【請求項2】を引用する【請求項7】に係るフェライト粒子を含む「キャリア芯材」の発明(以下「甲1発明」という。)として、以下のものが記載されている。 「(MnO)x(MgO)y(Fe2O3)z(但し、15≦x≦50、2≦y≦35、45≦z≦60、x+y+z=100(mol%))の組成式で表されるスピネル型結晶からなる結晶相成分を主成分とするフェライト粒子であって、 RZrO3の組成式(但し、Rはアルカリ土類金属元素)で表されるペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分を含み、 前記RがSr、Ca及びBaからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素である、 フェライト粒子を含む電子写真現像剤用キャリア芯材。」 2 甲2の記載及び甲2に記載された発明 (1)甲2の記載 甲2(特許第6766310号公報)は、本件出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであるところ、そこには、以下の記載がある。 ア 「【請求項1】 RZrO3の組成式(但し、Rはアルカリ土類金属元素)で表されるペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分を含み、見掛密度が以下の式で表わされる範囲内であることを特徴とするフェライト粒子。 1.90≦ Y ≦ 2.45 但し、上記式においてYは当該フェライト粒子の見掛密度(g/cm3)である。 ・・・中略・・・ 【請求項4】 前記RがSr、Ca及びBaからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素である請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のフェライト粒子。 ・・・中略・・・ 【請求項7】 当該フェライト粒子は、(MnO)x(MgO)y(Fe2O3)z(但し、15≦x≦50、2≦y≦35、45≦z≦60、x+y+z=100(mol%))の組成式で表されるスピネル型結晶からなる結晶相成分を主組成とする請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載のフェライト粒子。 【請求項8】 請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載のフェライト粒子を含むことを特徴とする電子写真現像剤用キャリア芯材。」 イ 「【0001】 本発明は、フェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア及び電子写真現像剤に関する。 ・・・中略・・・ 【0005】 近年、静電潜像を高精細に現像するためトナーの小粒径化が進められている。トナーの小粒径化に伴いキャリアも小粒径化されている。キャリアを小粒径化することで、キャリアとトナーとが撹拌・混合される際の機械的ストレスが軽減し、トナースペント等の発生を抑制することができるため、従来と比較すると現像剤は長寿命化している。しかしながら、キャリアを小粒径化するとキャリア飛散が生じやすくなり、白斑等の画像欠陥が生じやすくなる。 【0006】 このような課題に対処するため、高磁化又は高抵抗なキャリアが種々提案されてきた。例えば、特許文献1には、(MnO)x(MgO)y(Fe2O3)zの組成式で表され、MnO、MgO及びFe2O3の一部がSrOで置換されたフェライト粒子において、x、y、zの量をそれぞれ所定の範囲内にすると共に、SrOの置換量を所定の量とすることにより、磁化が高く、磁化のバラツキを抑制したキャリアが提案されている。 ・・・中略・・・ 【発明が解決しようとする課題】 ・・・中略・・・ 【0013】 そこで、本件発明の課題は、高強度であり、高温高湿環境下においてもキャリア飛散の発生を抑制することできるフェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア及び電子写真現像剤を提供することにある。」 ウ 「【発明を実施するための形態】 ・・・中略・・・ 【0051】 (3)ジルコニウム含有割合 当該フェライト粒子はジルコニウムを0.1mol%以上3.0mol%以下含むことが好ましい。当該範囲内でジルコニウムを含むことにより、上記RZrO3の組成式で表されるペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分の含有割合が概ね上記範囲内となり、高磁化及び高抵抗であり、抵抗の環境依存性の小さいフェライト粒子を得ることができる。当該フェライト粒子におけるジルコニウムの含有割合は0.2mol%以上であることがより好ましい。また、当該フェライト粒子におけるジルコニウムの含有割合は2.0mol%以下であることがより好ましく、1.5mol%以下であることがさらに好ましい。 【0052】 (4)アルカリ土類金属元素含有割合 アルカリ土類金属元素(R)の含有割合は0.1mol%以上3.0mol%以下であることがより好ましい。当該範囲内でアルカリ土類金属元素(R)を含むことにより、上記RZrO3の組成式で表されるペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分の含有割合が概ね上記範囲内となり、高磁化及び高抵抗であり、抵抗の環境依存性の小さいフェライト粒子を得ることができる。当該フェライト粒子におけるアルカリ土類金属元素(R)の含有割合は0.2mol%以上であることがより好ましい。また、当該フェライト粒子におけるアルカリ土類金属元素(R)の含有割合は2.0mol%以下であることがより好ましく、1.5mol%以下であることがさらに好ましい。 ・・・中略・・・ 【0104】 例えば、(MnO)x(MgO)y(Fe2O3)z(但し、15≦x≦50、2≦y≦35、45≦z≦60、x+y+z=100(mol%))の組成式で表されるスピネル型結晶からなる結晶相成分を主組成とするフェライト粒子を製造するには、スピネル型結晶からなるフェライト成分を十分に生成させつつ、粒界にジルコニウム成分を分散させるためにスピネル型結晶からなるフェライト成分の生成に適した温度(850℃以上1150℃以下)で3時間以上保持し、その後、例えば、ジルコン酸ストロンチウムなどのRZrO3の組成式で表されるペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分を生成させるために適した温度(例えば、1150℃以上1500℃以下)で1時間以上保持することにより本焼成を行うことがより好ましい。また、その際、アルカリ土類金属元素(R)の種類と、ZrO2の配合量に応じて、焼成温度、焼成時間、焼成時の雰囲気酸素濃度を適宜制御することで、BET比表面積を本件発明の範囲内にすることができる。 【0105】 例えば、ジルコン酸ストロンチウム(SrZrO3)の場合、ペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分を十分に生成させつつ、見掛密度を本件発明の範囲内とするには、焼成温度を好ましくは1170℃以上1400℃以下、より好ましくは1180℃以上1350℃以下、さらに好ましくは1200℃以上1330℃以下の温度で1時間以上保持することが好ましい。この場合、酸化ジルコニウム(ZrO2)の配合量を0.05mol〜3.00molとすることが好ましい。 【0106】 また、例えば、ジルコン酸カルシウム(CaZrO3)やジルコン酸バリウム(BaZrO3)の場合、原料を微粉砕すると共に反応促進剤を添加した上で所定の温度下で焼成することが好ましい。ジルコン酸カルシウム(CaZrO3)やジルコン酸バリウム(BaZrO3)のペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分を生成させるには、反応促進剤を添加しない場合には、2000℃以上の高温で焼成する必要がある。一方、原料を数十ナノメートル程度の一次粒径まで微粉砕し、反応促進剤としてアルミニウム化合物(例えば、アルミナ(Al2O3)等)等を添加することで、1500℃以下の温度でもこれらのペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分を生成させることができる。このように目的とする組成に応じて、ペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分を生成する上で適した温度で保持すると共に、必要に応じてその他の条件を調整することで本件発明に係るフェライト粒子を得ることができる。」 エ 「【実施例1】 【0118】 (1)フェライト粒子 実施例1では、(MnO)x(MgO)y(Fe2O3)zの組成式で表されるスピネル型結晶からなる結晶相成分を主成分とし、SrZrO3の組成式(R=Sr)で表されるペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分を含むフェライト粒子を次のようにして製造した。まず、主成分原料として、モル比でMnO換算:38.3、MgO換算:10.4、Fe2O3:51.3となるように、MnO原料、MgO原料及びFe2O3原料をそれぞれ秤量した。また、モル比で主成分原料:100に対してSrO:0.8になるようにSrO原料を秤量した。ここで、MnO原料としては四酸化三マンガン、MgO原料としては酸化マグネシウム、Fe2O3原料として酸化第二鉄、SrO原料としては炭酸ストロンチウムをそれぞれ用いた。 【0119】 次いで、秤量した原料を乾式のメディアミル(振動ミル、1/8インチ径のステンレスビーズ)で5時間粉砕し、得られた粉砕物をローラーコンパクターにより約1mm角のペレットにした。得られたペレットを目開き3mmの振動篩により粗粉を除去し、次いで、目開き0.5mmの振動篩により微粉を除去した後、連続式電気炉で800℃で3時間加熱し、仮焼成を行った。次いで、乾式のメディアミル(振動ミル、1/8インチ径のステンレスビーズ)を用いて、平均粒径が約5μmになるまで粉砕した。このとき粉砕時間は6時間とした。 【0120】 得られた粉砕物に、水と、ZrO2原料としてのBET比表面積が30m2/g、平均粒径が2μmの二酸化ジルコニウムを加え、湿式のメディアミル(横型ビーズミル、1mm径のジルコニアビーズ)を用いて6時間粉砕した。このとき、モル比で上記主成分原料:100に対してZrO2:1.0になるように、粉砕物に二酸化ジルコニウムを加えた。得られたスラリーの粒径(粉砕の一次粒子径)をレーザ回折式粒度分布測定装置(LA−950、株式会社堀場製作所)で測定したところ、D50は約2μm、D90は3.2μmであった。 【0121】 さらに、上記のようにして調製したスラリーに分散剤を適量添加し、バインダーとしてPVA(ポリビニルアルコール)を固形分(スラリー中の仮焼成物量)に対して0.4質量%添加し、次いでスプレードライヤーにより造粒、乾燥した。得られた造粒物の粒度調整を行い、その後、ロータリー式電気炉を用い、大気雰囲気下で800℃、2時間加熱し、分散剤やバインダーといった有機成分の除去を行った。 【0122】 その後、トンネル式電気炉により、焼成温度(保持温度)1250℃、酸素濃度0体積%雰囲気下で3時間保持することにより造粒物の本焼成を行った。このとき、昇温速度を100℃/時、冷却速度を110℃/時とした。得られた焼成物をハンマークラッシャーにより解砕し、さらにジャイロシフター(振動篩機)及びターボクラシファイア(気流分級機)により分級して粒度調整を行い、磁力選鉱により低磁力品を分別し、フェライト粒子を得た。 【0123】 得られたフェライト粒子を、熱間部と、当該熱間部に後続する冷却部とを備えるロータリー式の電気炉により表面酸化処理を行い、続いて冷却することにより、表面酸化処理が施されたフェライト粒子を得た。表面酸化処理では、熱間部では大気雰囲気下、540℃でフェライト粒子の表面に酸化被膜を形成した。実施例1のフェライト粒子の主たる製造条件を表1に示す。 ・・・中略・・・ 【0181】 そして、実施例1〜実施例11のフェライト粒子いずれも上記ペロブスカイト型結晶相成分を含むことで、抵抗の環境変動比(logL/logH)が1.04〜1.14の範囲内にあり、抵抗の環境依存性を小さく抑えることができている。さらに、実施例1〜実施例11のフェライト粒子は高強度であり、機械的ストレスを受けたときに割れや欠けが生じにくいため、微粉発生に伴うキャリア飛散を抑制することができる。そのため、実施例1〜実施例11のフェライト粒子を用いて製造した電子写真現像剤ではキャリア飛散量が2個〜9個と少なく、高温高湿環境下においてもキャリア飛散を良好に抑制することができていることが確認された。一方、当該ペロブスカイト型結晶相成分を含まない比較例1〜比較例9のフェライト粒子を用いて製造した電子写真現像剤は抵抗の環境変動比が算出不能又は1.20〜1.36と大きく、抵抗の環境依存性がみられた。その結果、比較例1〜比較例9のフェライト粒子を用いて製造した電子写真現像剤ではキャリア飛散量が11個〜21個であり、高温高湿環境下においてキャリア飛散が生じやすくなることが確認された。 【0182】 【表1】 」 (2)甲2に記載された発明 甲2の【請求項8】には、【請求項1】及び【請求項4】を引用する【請求項7】に係るフェライト粒子を含む「キャリア芯材」の発明(以下「甲2発明」という。)として、以下のものが記載されている。 「(MnO)x(MgO)y(Fe2O3)z(但し、15≦x≦50、2≦y≦35、45≦z≦60、x+y+z=100(mol%))の組成式で表されるスピネル型結晶からなる結晶相成分を主組成とするフェライト粒子であって、 RZrO3の組成式(但し、Rはアルカリ土類金属元素)で表されるペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分を含み、 前記RがSr、Ca及びBaからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素である、 フェライト粒子を含む電子写真現像剤用キャリア芯材。」 3 甲3の記載及び甲3に記載された発明 (1)甲3の記載 甲3(国際公開第2021/200171号)は、本件出願の日前の他の国際出願であって、本願出願後に国際公開がされたものであるところ、そこには、以下の記載がある。 ア 「[請求項1] RZrO3の組成式(但し、Rはアルカリ土類金属元素)で表されるペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分を含み、表面粗さRzが0.8μm以上3.5μm以下であり、表面粗さRzの標準偏差Rzσが以下の式で表される範囲内であることを特徴とするフェライト粒子。 0.15×Rz≦ Rzσ ≦ 0.60×Rz ・・・(1) ・・・中略・・・ [請求項4] 前記RがSr、Ca及びBaからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素である請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のフェライト粒子。 ・・・中略・・・ [請求項8] 当該フェライト粒子は、(MnO)x(MgO)y(Fe2O3)z(但し、15≦x≦50、2≦y≦35、45≦z≦60、x+y+z=100(mol%))の組成式で表されるスピネル型結晶からなる結晶相成分を主組成とするスピネル型フェライト粒子である請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載のフェライト粒子。 [請求項9] 請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載のフェライト粒子を含むことを特徴とする電子写真現像剤用キャリア芯材。」 イ 「技術分野 [0001] 本発明は、フェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア及び電子写真現像剤に関する。 ・・・中略・・・ [0005] 近年、静電潜像を高精細に現像するためトナーの小粒径化が進められている。トナーの小粒径化に伴いキャリアも小粒径化されている。キャリアを小粒径化することで、キャリアとトナーとが撹拌・混合される際の機械的ストレスが軽減し、トナースペント等の発生を抑制することができるため、従来と比較すると現像剤は長寿命化している。しかしながら、キャリアを小粒径化するとキャリア飛散が生じやすくなり、白斑等の画像欠陥が生じやすくなる。 [0006] このようにして用いられる二成分系現像剤においては、現像時の画像濃度、カブリ、白斑、階調性、解像力等の画像特性が、初期の段階から所定の値を示し、しかもこれらの特性が耐刷期間中に変動せず、安定に維持されることが必要である。これらの特性を安定に維持するためには、雰囲気温度や雰囲気湿度等の異なる種々の環境下においても、キャリアの特性が安定していることが必要になる。 [0007] 特にキャリアの帯電特性は画像特性に与える影響が大きいため、環境安定性の高いキャリアについて様々な検討が行われてきた。例えば特許文献1及び特許文献2では、TiやSrを添加し、表面の凹凸を適度に制御したフェライト粒子をキャリア芯材とすることでトナーへの帯電付与能力が高く、環境安定性の高いキャリアが得られるとされている。 ・・・中略・・・ [0009] しかしながら、上記従来のフェライト粒子(特許文献1及び特許文献2)をキャリア芯材としたキャリアでは環境安定性が不十分である。また、どのような環境下においても高速で高精細な印刷等を実現するには、印刷開始直後からトナーへ速やかに帯電を付与する能力、すなわち帯電立ち上がり性を一層向上することが求められる。 [0010] そこで、本件発明の課題は、帯電特性の環境安定性が高く、帯電立ち上がり性の良好なフェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア及び電子写真現像剤を提供することにある。」 ウ 「発明を実施するための形態 ・・・中略・・・ [0050] (1)ジルコニウム含有割合 当該フェライト粒子はジルコニウムを0.1mol%以上4.0mol%以下含むことが好ましい。当該範囲内でジルコニウムを含むことにより、上記RZrO3の組成式で表されるペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分の含有割合が概ね上記範囲内となり、帯電特性の環境安定性が高く、帯電量の立ち上がりが良好なフェライト粒子を得ることができる。当該フェライト粒子におけるジルコニウムの含有割合は0.2mol%以上であることがより好ましい。また、当該フェライト粒子におけるジルコニウムの含有割合は3.5mol%以下であることがより好ましく、3.0mol%以下であることがさらに好ましい。 [0051] (2)R(アルカリ土類金属元素) 本件発明において、Rは、Ca、Sr、Ba及びRaからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素、すなわちアルカリ土類金属元素である。アルカリ土類金属元素はジルコニウムよりもイオン半径が十分大きく、ペロブスカイト型の結晶構造を有するジルコン酸ペロブスカイト化合物を形成する。本件発明において、Rは、Sr、Ca及びBaからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素であることがより好ましい。これらの元素は所定の温度条件でジルコニウムと固相反応し、上記ジルコン酸ペロブスカイト化合物を形成する。そのため、フェライト粒子の製造工程において焼成温度を所定の温度範囲内において制御することにより、本件発明に係るフェライト粒子を得ることができる。 [0052] アルカリ土類金属元素(R)の含有割合は0.1mol%以上4.0mol%以下であることがより好ましい。当該範囲内でアルカリ土類金属元素(R)を含むことにより、上記RZrO3の組成式で表されるペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分の含有割合が概ね上記範囲内となり、帯電特性の環境安定性が高く、帯電量の立ち上がりが良好なフェライト粒子を得ることができる。当該フェライト粒子におけるアルカリ土類金属元素(R)の含有割合は0.2mol%以上であることがより好ましい。また、当該フェライト粒子におけるアルカリ土類金属元素(R)の含有割合は3.5mol%以下であることがより好ましく、3.0mol%以下であることがさらに好ましい。 ・・・中略・・・ [0110] 例えば、ジルコン酸ストロンチウム(SrZrO3)の場合、ペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分を十分に生成させつつ、見掛密度を本件発明の範囲内とするには、焼成温度を好ましくは1170℃以上1400℃以下、より好ましくは1180℃以上1350℃以下、さらに好ましくは1200℃以上1330℃以下の温度で1時間以上保持することが好ましい。この場合、酸化ジルコニウム(ZrO2)の配合量を0.2mol〜3.00molとすることが好ましい。 [0111] また、例えば、ジルコン酸カルシウム(CaZrO3)やジルコン酸バリウム(BaZrO3)の場合、原料を微粉砕すると共に反応促進剤を添加した上で所定の温度下で焼成することが好ましい。ジルコン酸カルシウム(CaZrO3)やジルコン酸バリウム(BaZrO3)のペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分を生成させるには、反応促進剤を添加しない場合には、2000℃以上の高温で焼成する必要がある。一方、原料を数十ナノメートル程度の一次粒径まで微粉砕し、反応促進剤としてアルミニウム化合物(例えば、アルミナ(Al2O3)等)等を添加することで、1500℃以下の温度でもこれらのペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分を生成させることができる。このように目的とする組成に応じて、ペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分を生成する上で適した温度で保持すると共に、必要に応じてその他の条件を調整することで本件発明に係るフェライト粒子を得ることができる。」 エ 「実施例1 [0123] (1)フェライト粒子 実施例1では、(MnO)x(MgO)y(Fe2O3)zの組成式で表されるスピネル型結晶からなる結晶相成分を主成分とし、SrZrO3の組成式(R=Sr)で表されるペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分を含むフェライト粒子を次のようにして製造した。まず、主成分原料として、モル比でMnO換算:40.0、MgO換算:10.0、Fe2O3:50.0となるように、MnO原料、MgO原料及びFe2O3原料をそれぞれ秤量した。また、モル比で主成分原料:100に対してSrO:0.8になるようにSrO原料を秤量した。ここで、MnO原料としては四酸化三マンガン、MgO原料としては酸化マグネシウム、Fe2O3原料として酸化第二鉄、SrO原料としては炭酸ストロンチウムをそれぞれ用いた。 [0124] 次いで、秤量した原料を乾式のメディアミル(振動ミル、1/8インチ径のステンレスビーズ)で5時間粉砕し、得られた粉砕物をローラーコンパクターにより約1mm角のペレットにした。得られたペレットを目開き3mmの振動篩により粗粉を除去し、次いで、目開き0.5mmの振動篩により微粉を除去した後、連続式電気炉で800℃で3時間加熱し、仮焼成を行った。次いで、乾式のメディアミル(振動ミル、1/8インチ径のステンレスビーズ)を用いて、平均粒径が約5μmになるまで粉砕した。このとき粉砕時間は6時間とした。 [0125] 得られた粉砕物に、水と、ZrO2原料としてのBET比表面積が30m2/g、平均粒径が2μmの二酸化ジルコニウムを加え、湿式のメディアミル(横型ビーズミル、1mm径のジルコニアビーズ)を用いて6時間粉砕した。このとき、モル比で上記主成分原料:100に対してZrO2:1.00になるように、粉砕物に二酸化ジルコニウムを加えた。得られたスラリーの粒径(粉砕の一次粒子径)をレーザ回折式粒度分布測定装置(LA−950、株式会社堀場製作所)で測定したところ、D50は約1.9μm、D90は3.3μmであった。 [0126] さらに、上記のようにして調製したスラリーに分散剤を適量添加し、バインダーとしてPVA(ポリビニルアルコール)を固形分(スラリー中の仮焼成物量)に対して0.4質量%添加し、次いでスプレードライヤーにより造粒、乾燥した。得られた造粒物の粒度調整を行い、その後、ロータリー式電気炉を用い、大気雰囲気下で950℃、2時間加熱し、一次焼成を行った。 [0127] その後、トンネル式電気炉により、焼成温度(保持温度)1235℃、酸素濃度0体積%雰囲気下で3時間保持することにより造粒物の本焼成を行った。このとき、昇温速度を100℃/時、冷却速度を110℃/時とした。得られた焼成物をハンマークラッシャーにより解砕し、さらにジャイロシフター(振動篩機)及びターボクラシファイア(気流分級機)により分級して粒度調整を行い、磁力選鉱により低磁力品を分別し、フェライト粒子を得た。 [0128] 得られたフェライト粒子を、熱間部と、当該熱間部に後続する冷却部とを備えるロータリー式の電気炉により表面酸化処理を行い、続いて冷却することにより、表面酸化処理が施されたフェライト粒子を得た。表面酸化処理では、熱間部では大気雰囲気下、540℃でフェライト粒子の表面に酸化被膜を形成した。実施例1のフェライト粒子の主たる製造条件を表1に示す。 ・・・中略・・・ [0188] [表1] 」 (2)甲3に記載された発明 甲3の[請求項9]には、[請求項1]及び[請求項4]を引用する[請求項8]に係るフェライト粒子を含む「キャリア芯材」の発明(以下「甲3発明」という。)として、以下のものが記載されている。 「(MnO)x(MgO)y(Fe2O3)z(但し、15≦x≦50、2≦y≦35、45≦z≦60、x+y+z=100(mol%))の組成式で表されるスピネル型結晶からなる結晶相成分を主組成とするスピネル型フェライト粒子であって、 RZrO3の組成式(但し、Rはアルカリ土類金属元素)で表されるペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分を含み、 前記RがSr、Ca及びBaからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素である、 フェライト粒子を含む電子写真現像剤用キャリア芯材。」 4 甲4の記載及び甲4に記載された発明 (1)甲4の記載 甲4(国際公開第2001/200172号)は、本件出願の日前の他の国際出願であって、本願出願後に国際公開がされたものであるところ、そこには、以下の記載がある。 ア 「[請求項1] RZrO3の組成式(但し、Rはアルカリ土類金属元素)で表されるペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分を含み、表面粗さRzが2.0μm以上4.5μm以下であり、以下の式を満たすことを特徴とするフェライト粒子。 6.5 ≦ logH1000 ≦ 8.5 0.80 ≦ logH1000/logH100 ≦1.00 logH1000:高温高湿環境(30℃相対湿度80%)下において電極間距離2mmで印加電圧1000Vとしたときの当該フェライト粒子の抵抗値H1000(Ω)の対数値(logΩ) logH100:高温高湿環境(30℃相対湿度80%)下において電極間距離2mmで印加電圧100Vとしたときの当該フェライト粒子の抵抗値H100(Ω)の対数値(logΩ) ・・・中略・・・ [請求項4] 前記RがSr、Ca及びBaからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素である請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のフェライト粒子。 ・・・中略・・・ [請求項6] 当該フェライト粒子は、(MnO)x(MgO)y(Fe2O3)z(但し、15≦x≦50、2≦y≦35、45≦z≦60、x+y+z=100(mol%))の組成式で表されるスピネル型結晶からなる結晶相成分を主組成とするスピネル型フェライト粒子である請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載のフェライト粒子。 [請求項7] 請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載されたフェライト粒子を含むことを特徴とする電子写真現像剤用キャリア芯材。」 イ 「技術分野 [0001] 本発明は、フェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア及び電子写真現像剤に関する。 ・・・中略・・・ [0005] 近年、静電潜像を高精細に現像するためトナーの小粒径化が進められている。トナーの小粒径化に伴いキャリアも小粒径化されている。キャリアを小粒径化することで、キャリアとトナーとが撹拌・混合される際の機械的ストレスが軽減し、トナースペント等の発生を抑制することができるため、従来と比較すると現像剤は長寿命化している。キャリアは一般にフェライト粒子などの磁性を有する芯材の表面に樹脂被覆層を設けたものが使用されている。現像剤を長期間使用すると、キャリア表面の樹脂被覆層が剥離して芯材の表面が露出することがある。芯材の抵抗は低いため、芯材の表面が露出するとキャリアの表面抵抗が低下し、電荷注入によるキャリア飛散が生じ、画像欠陥が生じやすくなる。 [0006] このような課題に対処するため、例えば、芯材として抵抗の高いフェライト粒子を用いることが種々提案されている。そのような抵抗の高いフェライト粒子として、特許文献1には、(MnO)x(MgO)y(Fe2O3)zの組成式で表され、x,y,zの量が所定の範囲内であるフェライト成分と、このフェライト成分に固溶されていない所定量のZrO2とを含むフェライト粒子が提案されている。特許文献1に記載のフェライト粒子を芯材とすることで、高抵抗なキャリアを得ることができ、キャリア飛散を抑制することができる。さらに、樹脂被覆層が剥離したときも、芯材自体の抵抗が高いため、電荷注入によるキャリア飛散を抑制することができる。これらのことから、長期間にわたってキャリア飛散を抑制し、キャリア飛散に伴う画像欠陥を抑制することが可能になる。 ・・・中略・・・ [0008] しかしながら、上記従来のフェライト粒子を芯材とするキャリアでは、高温高湿下では抵抗値が低くなる傾向にあり、そのため高温高湿環境下では十分にキャリア飛散を抑制することが困難であった。さらに、現像後にカウンターチャージのリークが起こりにくくなり、特に高速画像印刷時や高印字濃度印刷時に良好な画像濃度が得られないという課題がある。 [0009] そこで、本件発明の課題は、高温高湿下におけるキャリア飛散の発生を抑制することでき、かつ良好な現像性を有するフェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア及び電子写真現像剤を提供することにある。」 ウ 「発明を実施するための形態 ・・・中略・・・ [0052] (1)ジルコニウム含有割合 当該フェライト粒子はジルコニウムを0.1mol%以上3.0mol%以下含むことが好ましい。当該範囲内でジルコニウムを含むことにより、上記RZrO3の組成式で表されるペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分の含有割合が概ね上記範囲内となり、高磁化及び高抵抗であり、抵抗の環境依存性の小さいフェライト粒子を得ることができる。当該フェライト粒子におけるジルコニウムの含有割合は1.0mol%以下であることがより好ましく、0.5mol%以下であることがさらに好ましい。 [0053] (2)R(アルカリ土類金属元素)含有割合 本件発明において、Rは、Ca、Sr、Ba及びRaからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素、すなわちアルカリ土類金属元素である。アルカリ土類金属元素はジルコニウムよりもイオン半径が十分大きく、ペロブスカイト型の結晶構造を有するジルコン酸ペロブスカイト化合物を形成する。本件発明において、Rは、Sr、Ca及びBaからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素であることがより好ましい。これらの元素は所定の温度条件でジルコニウムと固相反応し、上記ジルコン酸ペロブスカイト化合物を形成する。そのため、フェライト粒子の製造工程において焼成温度を所定の温度範囲内において制御することにより、本件発明に係るフェライト粒子を得ることができる。 [0054] アルカリ土類金属元素(R)の含有割合は0.1mol%以上3.0mol%以下であることがより好ましい。当該範囲内でアルカリ土類金属元素(R)を含むことにより、上記RZrO3の組成式で表されるペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分の含有割合が概ね上記範囲内となり、高磁化及び高抵抗であり、抵抗の環境依存性の小さいフェライト粒子を得ることができる。当該フェライト粒子におけるアルカリ土類金属元素(R)の含有割合は1.0mol%以下であることがより好ましく、1.5mol%以下であることがさらに好ましい。 ・・・中略・・・ [0102] 例えば、ジルコン酸ストロンチウム(SrZrO3)の場合、ペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分を十分に生成させつつ、見掛密度を本件発明の範囲内とするには、本焼成温度を好ましくは1170℃以上1400℃以下、より好ましくは1180℃以上1350℃以下、さらに好ましくは1200℃以上1330℃以下とし、このような本焼成温度で1時間以上保持することが好ましい。この場合、酸化ジルコニウム(ZrO2)の配合量を0.2mol〜3.00molとすることが好ましい。 [0103] また、例えば、ジルコン酸カルシウム(CaZrO3)やジルコン酸バリウム(BaZrO3)の場合、原料を微粉砕すると共に反応促進剤を添加した上で所定の温度下で焼成することが好ましい。ジルコン酸カルシウム(CaZrO3)やジルコン酸バリウム(BaZrO3)のペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分を生成させるには、反応促進剤を添加しない場合には、2000℃以上の高温で焼成する必要がある。一方、原料を数十ナノメートル程度の一次粒径まで微粉砕し、反応促進剤としてアルミニウム化合物(例えば、アルミナ(Al2O3)等)等を添加することで、本焼成温度が1500℃以下の温度でもこれらのペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分を生成させることができる。このように目的とする組成に応じて、ペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分を生成する上で適した温度で保持すると共に、必要に応じてその他の条件を調整することで本件発明に係るフェライト粒子を得ることができる。」 エ 「実施例1 [0114] (1)フェライト粒子 実施例1では、(MnO)x(MgO)y(Fe2O3)zの組成式で表されるスピネル型結晶からなる結晶相成分を主成分とし、SrZrO3の組成式(R=Sr)で表されるペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分を含むフェライト粒子を次のようにして製造した。まず、主成分原料として、モル比でMnO換算:46.0、MgO換算:3.0、Fe2O3:51.0となるように、MnO原料、MgO原料及びFe2O3原料をそれぞれ秤量した。また、モル比で主成分原料:100に対してSrO:0.30になるようにSrO原料を秤量した。ここで、MnO原料としては四酸化三マンガン、MgO原料としては酸化マグネシウム、Fe2O3原料として酸化第二鉄、SrO原料としては炭酸ストロンチウムをそれぞれ用いた。 [0115] 次いで、秤量した原料を乾式のメディアミル(振動ミル、1/8インチ径のステンレスビーズ)で5時間粉砕し、得られた粉砕物をローラーコンパクターにより約1mm角のペレットにした。得られたペレットを目開き3mmの振動篩により粗粉を除去し、次いで、目開き0.5mmの振動篩により微粉を除去した後、連続式電気炉で800℃で3時間加熱し、仮焼成を行った。次いで、乾式のメディアミル(振動ミル、1/8インチ径のステンレスビーズ)を用いて、平均粒径が約5μmになるまで粉砕した。このとき粉砕時間は6時間とした。 [0116] 得られた粉砕物に、水と、ZrO2原料としてのBET比表面積が30m2/g、平均粒径が2μmの二酸化ジルコニウムを加え、湿式のメディアミル(横型ビーズミル、1mm径のジルコニアビーズ)を用いて6時間粉砕した。このとき、モル比で上記主成分原料:100に対してZrO2:0.25になるように、粉砕物に二酸化ジルコニウムを加えた。得られたスラリーの粒径(粉砕の一次粒子径)をレーザ回折式粒度分布測定装置(LA−950、株式会社堀場製作所)で測定したところ、D50は約1.9μm、D90は3.4μmであった。 [0117] さらに、上記のようにして調製したスラリーに分散剤を適量添加し、バインダーとしてPVA(ポリビニルアルコール)を固形分(スラリー中の仮焼成物量)に対して0.4質量%添加し、次いでスプレードライヤーにより造粒、乾燥した。得られた造粒物の粒度調整を行い、その後、ロータリー式電気炉を用い、大気雰囲気下で900℃、2時間加熱し、一次焼成を行い、分散剤やバインダーといった有機成分の除去を行った。 [0118] その後、トンネル式電気炉により、本焼成温度(保持温度)1215℃、酸素濃度1.2体積%雰囲気下で3時間保持することにより造粒物の本焼成を行った。このとき、850℃までの昇温速度を100℃/時とし、850℃から本焼成温度である1215℃までの昇温速度を50℃/時、冷却速度を110℃/時とした。得られた焼成物をハンマークラッシャーにより解砕し、さらにジャイロシフター(振動篩機)及びターボクラシファイア(気流分級機)により分級して粒度調整を行い、磁力選鉱により低磁力品を分別し、フェライト粒子を得た。実施例1のフェライト粒子の主たる製造条件を表1に示す。 ・・・中略・・・ [0168] [表1] 」 (2)甲4に記載された発明 甲4の[請求項7]には、[請求項1]及び[請求項4]を引用する[請求項6]に係るフェライト粒子を含む「キャリア芯材」の発明(以下「甲4発明」という。)として、以下のものが記載されている。 「(MnO)x(MgO)y(Fe2O3)z(但し、15≦x≦50、2≦y≦35、45≦z≦60、x+y+z=100(mol%))の組成式で表されるスピネル型結晶からなる結晶相成分を主組成とするスピネル型フェライト粒子であって、 RZrO3の組成式(但し、Rはアルカリ土類金属元素)で表されるペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分を含み、 前記RがSr、Ca及びBaからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素である、 フェライト粒子を含む電子写真現像剤用キャリア芯材」 5 甲5の記載 甲5(特開2006−17828号公報)は、本件出願前に頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。 (1) 「【請求項1】 ジルコニウムを40〜500ppm含有することを特徴とする電子写真現像剤用フェライトキャリア。 【請求項2】 フェライト組成が、下記式(1)で示される請求項1記載の電子写真現像剤用フェライトキャリア。(MnO)x(MgO)y(Fe2O3)z …(1)(式中、x+y+z=100mol%、x=35〜45mol%、y=5〜15mol%、z=40〜60mol%) 【請求項3】 上記(1)式中の(MnO)及び/又は(MgO)の一部が、SrO、Li2O、CaO、TiO、CuO、ZnO、NiOから選ばれる1種以上の酸化物で置換されている請求項2記載の電子写真現像剤用フェライトキャリア。」 (2) 「【発明が解決しようとする課題】 【0008】 従って、本発明の目的は、絶縁破壊電圧が高いため、電荷リークの発生を抑制でき、その結果として高画質が得られる電子写真現像剤用フェライトキャリア及びその製造方法、並びに該フェライトキャリアを用いた電子写真現像剤を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0009】 本発明者らは、鋭意検討の結果、高絶縁破壊電圧を得るためには、電気的な抵抗を上げることと表面の凹凸を低減させることが望ましいことを見出した。そして、電気的抵抗を上げるためには、ジルコニウムを一定量含有させ、かつ均一に分散させることが望ましいことを知見し、また表面の凹凸を低減するためには、ジルコニウム含有量の上限を規定すること、及び製造工程においてスラリー粒径を制御することが有効であることを知見したものである。本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。 ・・・中略・・・ 【0021】 <本発明に係る電子写真現像剤用フェライトキャリア> 本発明に係る電子写真現像剤用フェライトキャリアは、ジルコニウムを含有する。その含有量は40〜500ppm、好ましくは50〜150ppmである。このようにジルコニウムを微量含有することによって、高い絶縁破壊電圧が得られ、電荷リークの発生が抑制される。ジルコニウムの含有量が40ppm未満では含有効果がなく、500ppmを超えると、粒界の成長が抑制され過ぎるため表面の凹凸が激しくなり、結果として凸部からの電荷リークが発生しやすくなる。なお、フェライトは、原料又はその製造工程においてジルコニウムを随伴不純物として含むが、その含有量は通常40ppm未満である。 【0022】 本発明に係る電子写真現像剤用フェライトキャリアは、ジルコニウムを上記範囲で含有していればその組成は特に限定されないが、好ましくは下記式(1)の組成を有するものである。 (MnO)x(MgO)y(Fe2O3)z …(1) (式中、x+y+z=100mol%、x=35〜45mol%、y=5〜15mol%、z=40〜60mol%) 【0023】 また、上記(1)式中の(MnO)及び/又は(MgO)の一部を、SrO、Li2O、CaO、TiO、CuO、ZnO、NiOから選ばれる1種類以上の酸化物で置換してもよい。 ・・・中略・・・ 【実施例1】 【0081】 MnO:35mol%、MgO:14mol%、Fe2O3:50mol%、SrO:1mol%になるように各フェライト原料を秤量、混合したもの100重量部に対して、焼成後にジルコニウム含有量が400ppm程度になるように酸化ジルコニウムを適量添加し、乾式振動ミルで3時間粉砕、混合し、加圧成型機にてペレット化する。その後、950℃で1時間保持し仮焼成を行った。これを湿式ボールミルで5時間粉砕した。湿式ボールミルのメディアは、約3mm(1/8インチ)径のステンレスビーズを用いた。得られたスラリーのスラリー粒径は表1に示す通りであった。 【0082】 このスラリーに分散剤及びバインダーを適量添加し、次いでスプレードライヤーにより造粒、乾燥し、電気炉にて、温度1250℃、酸素濃度1.5%で4時間保持し、本焼成を行なった。その後、解砕し、さらに分級して粒度調整し、その後磁力選鉱により低磁力品を分別し、フェライト粒子の芯材を得た。 【0083】 これらフェライト粒子を芯材とし、シリコーン系樹脂(商品名:SR−2411、固形分20重量%、東レ・ダウコーニング社製)とγ−アミノプロピルトリエトキシシランを樹脂固形分に対して2重量%を秤量しトルエンに溶解させ、流動床コート装置を用いてキャリア芯材に対して0.5重量%をコーティングし、さらに250℃で3時間焼き付けを行い、上記樹脂によって被覆されたフェライトキャリアを得た。 ・・・中略・・・ 【0094】 (比較例2) MnO:48mol%、MgO:2mol%、Fe2O3:50mol% 100重量部に対してZrO2:0.5重量部を乾式振動ミルで3時間粉砕、混合し、加圧成型機にてペレット化する。その後、950℃で1時間保持し仮焼成を行った。これを湿式ボールミルで2時間粉砕した。湿式ボールミルのメディアは、約3mm(1/8インチ)径のステンレスビーズを用いた。得られたスラリーの粒径は表1に示す通りであった。 ・・・中略・・・ 【0099】 【表1】 」 6 甲6の記載 甲6(平賀貞太郎 他著、「電子材料シリーズ フェライト」、丸善株式会社、平成4年6月15日、p.44-47,58-61)は、本件出願前に頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。 (1)「取り扱うフェライトの種類や製造条件によって微量成分の効果は異なるが、Mn−Zn系フェライトの場合を表3・2に示す。第1群は複合酸化物として粒界に高濃度に偏析する傾向がある。粒界への偏析によって、粒界を高抵抗化するので、フェライトの高周波磁気特性を改善する。また焼結(3・2・4cで述べる)を促進させる効果もあるので、ほとんどのフェライトに添加されている。」(第46頁第7行〜第48頁第1行) (2)「 」(第47頁) (3)「原料粒子がほぼ同一の大きさと形状であって、しかも単一粒子として分散しているものと仮定すると、原料粒子2個の接触点数は使用原料の重量比によって定まる。ここで取り上げている組成については、Fe2O3が最も多くZnOが最も少ない。したがって、Fe2O3粒子とFe2O3粒子の接触点が最も多く、Fe2O3−Mn2O3、Fe2O3−ZnO、Mn2O3−Mn2O3、Mn2O3−ZnO、ZnO−ZnOの順に減少する。」(第59頁) 第5 当合議体の判断 1 甲1発明に基づく新規性及び進歩性について (1)本件特許発明1と甲1発明との対比 ア キャリア芯材 甲1発明の「キャリア芯材」は、その構成からみて、本件特許発明1の「キャリア芯材」に相当する。 イ フェライト粒子 甲1発明は、「(MnO)x(MgO)y(Fe2O3)z(但し、15≦x≦50、2≦y≦35、45≦z≦60、x+y+z=100(mol%))の組成式で表される」フェライト粒子を含んで構成されるものである。 その組成式及び組成比から、甲1発明は、本件特許発明1の「組成式(MnO)x(MgO)y(Fe2O3)z(但し、x:30mol%以上55mol%以下,y:20mol%以下,z:40mol%以上60mol%以下,x+y+z=100mol%)で表されるフェライト粒子から構成される」という要件を満たす。 ウ Zr 甲1発明に含まれる「フェライト粒子」は、「RZrO3の組成式(但し、Rはアルカリ土類金属元素)で表されるペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分を含」むものであるから、Zrが含有されていることは明らかである。 そうすると、甲1発明は、本件特許発明1の「Zrが含有されている」という要件を満たす。 (2)一致点及び相違点 ア 一致点 本件特許発明1と甲1発明とは、以下の点で一致する。 「組成式(MnO)x(MgO)y(Fe2O3)z(但し、x:30mol%以上55mol%以下,y:20mol%以下,z:40mol%以上60mol%以下,x+y+z=100mol%)で表されるフェライト粒子から構成されるキャリア芯材であって、 Zrが含有されていることを特徴とするキャリア芯材。」 イ 相違点 本件特許発明1と甲1発明とは、以下の点で相違もしくは一応相違する。 (相違点) 本件特許発明1が「Caが0.1mol%以上1.0mol%以下の範囲、Zrが0.1mol%以上1.0mol%以下の範囲、含有されている」のに対し、甲1発明は「RがSr、Ca及びBaからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素である」点及びZr含有量が「0.1mol%〜1.0mol%」に限定されていない点。 (3)判断 ア 新規性について 甲1には、フェライト粒子がZrと共に含有するR(アルカリ土類金属元素)がCaであり、かつ、0.1mol%以上1.0mol%以下の含有量であるフェライト粒子の記載はなく、当該フェライト粒子が甲1に記載されているに等しいものということもできない。 したがって、上記相違点は実質的な相違点であるから、本件特許発明1は甲1発明であるということはできない。 イ 進歩性について 甲1発明は、「RがSr、Ca及びBaからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素」であり、その選択肢にCaが含まれている。 そこで、Caを選択する意味について検討するに、本件出願の明細書の発明の詳細な説明には、「キャリア芯材にCaを単独で含有させるとCa−Fe−O化合物の結晶相が生成しキャリア芯材の表面凹凸化はある程度は図れるものの現像メモリの十分な発生抑制に至らない。一方、キャリア芯材にCaと共にZrを含有させると、焼成時にCa−Zr−O化合物の結晶相が優先的に生成されてフェライト粒子の結晶粒界に留まってフェライト粒子の結晶の面内方向の成長が抑制されてフェライト粒子の表面凹凸化が促進される。加えて、Ca−Zr−O化合物は、従来使用されていたSrとFeの酸化物に比べてキャリア芯材の残留磁化及び保持力の上昇は招きにくい。」(【0026】)との記載、「Ca及びZrの各々の含有割合はいずれも0.1mol%以上1.0mol%以下の範囲である。Ca及びZrの含有割合が0.1mol%未満であると本発明の所期の効果が得られない。一方、Ca及びZrの含有割合が1.0mol%を超えるとキャリア芯材の保持力Hcの上昇を招き濃度ムラが発生するおそれがある。」(【0027】)との記載及び【0095】【表1】の各実施例及び比較例の記載があり、これらの記載から、本件特許発明1は、組成式(MnO)x(MgO)y(Fe2O3)zで表されるフェライト粒子において、Zr及びCaを共に所定範囲内の量で含有させることで、「現像メモリ」及び「濃度ムラ」の発生を抑制できるという効果(【0008】)を見出したものであると理解できる。 そして、上記効果は、フェライト粒子において、Zrと共に含有するアルカリ土類金属元素として、CaとSrとは等価なものではなく、特にZr及びCaを共に所定範囲内の量含有することによって奏される効果であることが、実施例と比較例との対比、例えば実施例12と比較例7との評価結果から理解することができる。 一方、甲1は、「RがSr、Ca及びBaからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素」(【請求項2】)との記載、「例えば、ジルコン酸ストロンチウム(SrZrO3)の場合、・・・例えば、ジルコン酸カルシウム(CaZrO3)やジルコン酸バリウム(BaZrO3)の場合、・・・」(【0085】〜【0086】)との記載から、フェライト粒子がZrと共に含有するR(アルカリ土類金属元素)として、CaはSr及びBaと同等な選択肢の1つとして記載されているにとどまる。さらに、甲1は、実施例として代表的にRがSrの場合が記載されるにとどまることに鑑みれば、甲1発明から予測し得る効果は、アルカリ土類金属元素がSr、Ca及びBaのそれぞれの場合において大差がないと理解するのが自然である。さらに、甲1は、Zr及びアルカリ土類金属元素の含有量が、本件特許発明1が規定する範囲外のものまで含む記載となっている。 そうすると、本件特許発明1において見出された、フェライト粒子がZr及びCaを共に含有するものであって、かつ、その添加量について所定範囲内のものとする場合に奏される上記効果は、甲1の記載及び本件出願時の技術常識に基づいて、当業者が予測することができたとはいえない顕著なものといえる。そして、その点については、甲5及び甲6の記載を参照しても同様である。 したがって、上記相違点に係る構成は、甲1発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に想到できたものであるということはできない。 ウ 特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、特許異議申立書の35頁において、「本件特許発明1における発明特定要素Bにおける数値範囲は、甲1−1発明における発明特定要素1Bにおける数値範囲に含まれる」ことにより、本件特許発明1と甲1−1発明とは、発明特定事項が共通する旨主張する。 しかしながら、上記包含関係では、甲1−1発明は、本件特許発明から外れた範囲の発明も包含しているので、発明特定事項において相違しないということはできない。 したがって、上記主張は採用することはできない。 また、特許異議申立人は、特許異議申立書の36頁〜39頁において、「甲第1号証にはCaを所定量含むフェライト粒子についての実施例が記載されていないこと」を仮に相違点であるとしたとしても、「本件特許明細書の記載事項及び本件特許の出願時における当業者の技術常識に鑑みれば、現像メモリを抑制するという課題に対して、Caと共にZrを所定量添加するという課題解決手段により得られる効果は・・中略・・予測可能な範囲内の効果に過ぎず、格別顕著な効果を示すものではない」旨主張する。 しかしながら、「本件特許明細書の記載事項」から導かれる効果を参酌して本件特許発明の効果を予測し得るという主張は後知恵というほかない。 さらに、上記主張は「現像メモリを抑制するという課題」及びその効果についての主張となっているが、本件出願の課題は「現像メモリが抑制でき、しかも画像の濃度ムラも抑制できるキャリア芯材を提供すること」(【0008】)であり、その効果は「現像メモリ」及び「画像の濃度ムラ」の抑制である。しかしながら、上記主張並びに甲5及び甲6の記載を参照しても、上記課題及び効果が本件出願時の技術常識であって、当業者が予測し得たとする根拠を見出すことはできない。 したがって、上記主張は採用することはできない。 エ 小括 以上アないしウのとおりであるから、本件特許発明1は、甲1に記載された発明であるということはできない。また、本件特許発明1は、甲1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。 (4)本件特許発明2〜9について 請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2〜9についても、上記(1)〜(3)と同様である。 よって、本件特許発明2〜9も、甲1に記載された発明ではなく、又は、甲1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。 2 甲2に基づく新規性及び進歩性について 本件特許発明1と甲2発明とを対比すると、上記1(1)と同様の相当関係が成立し、上記1(2)と同じ一致点及び相違点となり、上記1(3)と同様に判断される。また、本件特許発明2〜9についても上記1(4)と同様である。 したがって、本件特許発明は、甲2に記載された発明ではなく、又は、甲2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。 なお、特許異議申立人の主張については、上記1(3)ウと同様に判断される。 4 甲3及び甲4に基づく拡大先願について 本件特許発明1と甲3発明とを対比すると、上記1(1)と同様の相当関係が成立し、上記1(2)と同じ一致点及び相違点となる。すると、本件特許発明1と甲3発明とは、実質的な相違点を有するので、両発明が同一であるとはいえない。 請求項1を直接又は間接的に引用している本件特許発明2〜9についても同様である。 なお、特許異議申立人の主張については、上記1(3)ウと同様に判断される。 甲4発明についても、甲3発明の場合と同様である。 5 サポート要件について (1)判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かについては、特許請求の範囲と本願明細書の発明の詳細な説明を対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により、当業者が、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断されるところ、当該判断基準に基づいて、以下、検討する。 (2)本件出願の明細書に記載された課題 本件出願の明細書に記載された課題は、「現像メモリが抑制でき、しかも画像の濃度ムラも抑制できるキャリア芯材を提供すること」(【0008】)であると認められる。 (3)課題が解決できると認識できる範囲 本件出願の明細書の発明の詳細な説明の【0026】、【0027】及び【0095】【表1】の記載から、組成式(MnO)x(MgO)y(Fe2O3)zで表されるフェライト粒子において、実施例1〜12の実機評価によって現像メモリ及び濃度ムラの抑制効果の検証がなされている、Zr及びCaの含有量の範囲は、0.3mol%〜0.9mol%であるから、少なくとも当該範囲内のZr及びCaを含有させることで、上記(2)の課題を解決できると当業者は認識することができる。 さらに、本件出願の実施例9に注目すると、当該実施例9は、Zr及びCaの含有量が0.3mol%であり、「現像メモリ」及び「濃度ムラ」の抑制の評価は実施例の中で最も良い評価が得られている。 そして、Ca及びZrの含有量が、0.3mol%未満になると同時に、「現像メモリ」又は「濃度ムラ」が実使用上問題となるレベルで発生するとは理解し難く、Ca及びZrの含有量が「0.1mol%以上」程度であれば、他の実施例と同様に実使用上問題のない程度のレベルには抑えられていると解するのが自然であり、下限を当該範囲にまで拡張ないし一般化できないといえるほどの合理的な理由を見出すことはできない。 また、Zr及びCaの含有量の上限についても、実施例において「0.9mol%」で実使用上問題ないレベルの評価が得られているところ、「1.0mol%以下」程度まで拡張ないし一般化できないといえるほどの合理的な理由を見出すことはできない。 以上総合すると、本件出願の明細書の発明の詳細な説明の記載から、組成式(MnO)x(MgO)y(Fe2O3)zで表されるフェライト粒子において、含有されるZr及びCaが0.1mol%〜1.0mol%程度の範囲であれば、上記(1)の課題を解決できると当業者は認識することができる。 (4)本件特許発明1のサポート要件適合性について 本件出願の特許請求の範囲の請求項1には、「組成式(MnO)x(MgO)y(Fe2O3)zで表されるフェライト粒子から構成されるキャリア芯材であって、Caが0.1mol%以上1.0mol%以下の範囲、Zrが0.1mol%以上1.0mol%以下の範囲、含有されていること」が記載されている。そうすると、本件特許発明1は、上記(1)の課題が解決できると当業者が認識できる範囲、すなわち、上記(3)の下線部の構成を包含しているから、本件特許発明1が、本件出願の明細書の発明の詳細な説明から当業者が課題を解決できると認識できる範囲を超えたものであるということはできない。 したがって、本件出願の発明の詳細な説明の記載を、本件特許発明1に係る記載にまで拡張ないし一般化できないということはできない。 (5)請求項2〜9について 請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2〜9についても同様である。 (6)特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、特許異議申立書の57頁〜58頁において、「実際にどの程度まで「Ca−Zr−O化合物の結晶相」を含めば本件特許発明1が解決されるのか明らかでない。」旨主張する。 しかしながら、上記(1)〜(4)で説示したとおり、本件出願の実施例等の記載を参照すれば、本件特許発明1に記載されたZr及びCaの添加量によって決まる程度の「Ca−Zr−O化合物の結晶相」が形成されることで、本件出願の課題が解決できることが当業者であれば認識することができる。 したがって、上記主張は採用できない。 6 実施可能要件について (1)判断基準 本件出願の明細書の記載が実施可能要件を満たすか否かは、「物の発明」について明確に説明されていること、「その物を作れる」ように記載されていること及び「その物を使用できる」ように記載されていること、が満たされているか否かで判断されるところ、当該判断基準に基づいて、以下、検討する。 (2)本件出願の発明の詳細な説明の記載 本件出願の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。 「【0060】 (実施例1) 原料として、Fe2O3(平均粒径:0.6μm)12.3kg、Mn3O4(平均粒径:3.4μm)4.6kg、MgFe2O4(平均粒径:3.2μm)3.1kg、CaCO3(平均粒径:0.6μm)0.100kg、ZrO2(平均粒径:1.8μm)0.122kgのみを純水6.6kg中に分散し、還元剤としてカーボンブラックを37g、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム系分散剤を144g、アンモニア水(25wt%水溶液)を10g添加して混合物とした。この混合物を湿式ボールミル(メディア径2mm)により粉砕処理し、混合スラリーを得た。 この混合スラリーをスプレードライヤーにて約140℃の熱風中に噴霧し、粒径10μm〜75μmの乾燥造粒物を得た。この造粒物から粒径25μm以下の微小な粒子は篩を用いて除去した。 この造粒物を、電気炉に投入し1200℃まで4.5時間かけて昇温した。その後1200℃で3時間保持することにより焼成を行った。電気炉内の酸素濃度は昇温の段階では100000ppm、冷却の段階では15000ppmとなるよう、炉内の酸素濃度を調整した。 得られた焼成物をハンマーミルで解粒した後に振動篩を用いて分級し、平均粒子径35.1μmのキャリア芯材を得た。 【0061】 得られたキャリア芯材の組成、粉体特性、形状特性、磁気特性などを後述の方法で測定した。測定結果を表1に示す。 【0062】 次に、このようにして得られたキャリア芯材の表面を樹脂で被覆してキャリアを作製した。具体的には、シリコーン樹脂450質量部と、(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン9質量部とを、溶媒としてのトルエン450質量部に溶解してコート溶液を作製した。このコート溶液を、流動床型コーティング装置を用いてキャリア芯材50000質量部に塗布し、温度300℃の電気炉で加熱してキャリアを得た。以下の実施例及び比較例についても同様にしてキャリアを得た。 【0063】 得られたキャリアと平均粒子径5.0μm程度のトナーとを、ポットミルを用いて所定時間混合し、二成分系の電子写真現像剤を得た。この場合、キャリアとトナーとをトナーの質量/(トナーおよびキャリアの質量)=5/100となるように調整した。以下、全ての実施例、比較例についても同様にして現像剤を得た。得られた現像剤について後述の実機評価を行った。評価結果を表1に合わせて示す。」 (3)本件出願の実施可能要件適合性について 本件出願の請求項1の記載から、当業者は「キャリア芯材」という物の発明が把握でき、本件出願の明細書の記載、特に上記実施例1の記載から具体的に「キャリア芯材」を読み取ることができる。 そして、明細書の段落【0035】ないし【0043】には、キャリア芯材の製造方法についての記載があり、また、上記実施例1には、「キャリア芯材」の作り方が具体的に記載されている。 さらに、上記実施例1には、「キャリア芯材」の使用について、「キャリア芯材の表面を樹脂で被覆してキャリアを作製し」、「二成分系の電子写真現像剤」として使用できることが具体的に記載されている。 してみると、当業者が「キャリア芯材」を作ることができない、すなわち、本件特許発明1を実施することができない、ということはできない。 請求項2〜9についても同様である。 そうすると、上記(1)の判断基準に照らして、本件出願の発明の詳細な説明は、本件特許発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものでないということはできない。 (4)特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、特許異議申立書の61頁において、「Ca−Zr−O化合物がCa−Fe−O化合物よりも生じやすいとするその他の製造条件についての具体的な記載がない限り、Ca−Zr−O化合物がCa−Fe−O化合物よりも優先的に生成するにはどのようにすればよいかが不明である。また、本件特許明細書には、「Ca−Zr−O化合物」の結晶相が生成されているのか否かを確認する方法についての記載もない。」旨主張する。 しかしながら、上記5(3)で既に検討したとおり、本件出願の明細書(特に、実施例1〜12に関する記載を参照。)は、「組成式(MnO)x(MgO)y(Fe2O3)zで表されるフェライト粒子において、含有されるZr及びCaが0.1mol%〜1.0mol%程度の範囲であれば、当該フェライト粒子が上記5(1)の課題を解決できることが当業者に十分に認識できるように記載(実施例1〜12に関する記載)されているのであるから、実施可能要件を満足するために、それ以上の詳細な開示(例えば、請求人が主張するような「Ca−Zr−O化合物」の結晶相」が生成するための条件や結晶相の生成の有無を確認する方法等の開示」が必要とはいえない。 したがって、上記主張は採用できない。 7 その他の特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、特許異議申立書の58頁に「付記」として、甲5に基づく主張をしている。 しかしながら、甲1〜4の記載に照らしても、一見して、甲5の記載から本件特許を取り消すべき理由を形成し得ないことは明らかである。 第6 むすび 以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件出願の請求項1〜9に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件出願の請求項1〜9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2022-05-09 |
出願番号 | P2020-181055 |
審決分類 |
P
1
651・
16-
Y
(G03G)
P 1 651・ 537- Y (G03G) P 1 651・ 536- Y (G03G) P 1 651・ 121- Y (G03G) P 1 651・ 113- Y (G03G) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
里村 利光 |
特許庁審判官 |
小濱 健太 植前 充司 |
登録日 | 2021-08-04 |
登録番号 | 6924885 |
権利者 | DOWA IPクリエイション株式会社 DOWAエレクトロニクス株式会社 |
発明の名称 | キャリア芯材 |
代理人 | 山田 茂樹 |
代理人 | 山田 茂樹 |