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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01L
管理番号 1386008
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-08-19 
確定日 2022-06-09 
事件の表示 特願2017−140766「生体情報計測装置」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 2月 7日出願公開、特開2019− 20318〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 本願の手続の経緯の概略
本願は、平成29年7月20日にされた特許出願であって、その出願後の手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和3年3月30日付け:拒絶理由通知書(最初)
令和3年5月 7日 :意見書、手続補正書の提出
令和3年6月18日付け:拒絶査定
(同年6月29日送達、以下「原査定」という。)
令和3年8月19日 :審判請求書、手続補正書の提出


第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年8月19日に提出された手続補正書による補正を却下する。

[補正の却下の決定の理由]
1 本件補正の概要
令和3年8月19日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)のうち、請求項1についての補正は、以下の(1)に示される本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載を、以下の(2)に示される本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載に補正することを含むものである。下線は、補正箇所を示す。

(1) 本件補正前
「 【請求項1】
空気圧で身体を支持する袋体に設けられた外部接続用の管路でポンプに接続するための前記管路に接続される分岐管と、前記分岐管に接続されて前記袋体の圧力変動を検知し電気信号に変換するセンサと、前記センサからの前記電気信号をフィルタリングするバンドパスフィルタと、前記バンドパスフィルタからの前記電気信号を生体情報としてデータ処理するコントローラを備え、前記センサは、筒状の圧力導入口が設けられたハウジングと、前記ハウジング内で弾性体を介して支持されたコンデンサマイクロフォンを有し、前記圧力導入口と前記分岐管とが接続されて前記コンデンサマイクロフォンが気密されており、前記分岐管と前記センサとは接続管を介して接続されており、前記圧力導入口の内径は前記接続管の内径よりも小さく設定されている構成であり、
前記コントローラは、前記バンドパスフィルタのうちの第1フィルタによって前記センサからの前記電気信号を所定周波数帯の第1信号波形として抽出して所定時間あたりの前記第1信号波形の数を前記生体情報のうちの心拍数としてデータ処理するとともに、前記バンドパスフィルタのうちの第2フィルタによって前記センサからの前記電気信号を前記所定周波数帯よりも低い周波数帯の第2信号波形として抽出して前記所定時間あたりの前記第2信号波形の数を前記生体情報のうちの呼吸数としてデータ処理する構成であることを特徴とする生体情報計測装置。」

(2) 本件補正後
「 【請求項1】
空気圧で身体を支持する複数の袋体と前記袋体に設けられてポンプに接続する管路を有する褥瘡予防用のエアマットレスに適用される生体情報計測装置であって、
前記ポンプと前記袋体とを接続する一つの分岐管と、前記分岐管におけるT字状に分岐した部分に接続されて前記袋体の圧力変動を検知し電気信号に変換する一つのセンサと、前記センサからの前記電気信号をフィルタリングするバンドパスフィルタと、前記バンドパスフィルタからの前記電気信号を生体情報としてデータ処理するコントローラを備え、前記センサは、筒状の圧力導入口が設けられたハウジングと、前記ハウジング内で弾性体を介して支持されたコンデンサマイクロフォンを有し、前記圧力導入口と前記分岐管とが接続されて前記コンデンサマイクロフォンが気密されており、前記分岐管と前記センサとは接続管を介して接続されており、前記圧力導入口の内径は前記接続管の内径よりも小さく設定されており、前記センサは前記身体から離れた位置で視界から外れた位置に設けられている構成であり、
前記コントローラは、前記ポンプが停止状態のときにデータ処理された前記生体情報に基づいて前記ポンプを駆動制御するとともに前記袋体への給気と前記袋体からの排気とを切り替える切替弁を制御して前記袋体の内圧を調整する構成であり、
前記コントローラは、前記バンドパスフィルタのうちの第1フィルタによって前記センサからの前記電気信号を所定周波数帯の第1信号波形として抽出して所定時間あたりの前記第1信号波形の数を前記生体情報のうちの心拍数としてデータ処理するとともに、前記バンドパスフィルタのうちの第2フィルタによって前記センサからの前記電気信号を前記所定周波数帯よりも低い周波数帯の第2信号波形として抽出して前記所定時間あたりの前記第2信号波形の数を前記生体情報のうちの呼吸数としてデータ処理する構成であることを特徴とする生体情報計測装置。」

2 本件補正についての当審の判断
(1) 本件補正の目的
本件補正による請求項1の補正は、
ア 本件補正前の「空気圧で身体を支持する袋体に設けられた外部接続用の管路でポンプに接続するための前記管路」を有する「生体情報計測装置」を「空気圧で身体を支持する複数の袋体と前記袋体に設けられてポンプに接続する管路を有する褥瘡予防用のエアマットレスに適用される生体情報計測装置」に限定し、
イ 本件補正前の「分岐管」と「センサ」が「空気圧で身体を支持する袋体に設けられた外部接続用の管路でポンプに接続するための前記管路に接続される分岐管」と「前記分岐管に接続されて前記袋体の圧力変動を検知し電気信号に変換するセンサ」であるのを「前記ポンプと前記袋体とを接続する一つの分岐管」と「前記分岐管におけるT字状に分岐した部分に接続されて前記袋体の圧力変動を検知し電気信号に変換する一つのセンサ」に限定し、
ウ 本件補正前の「センサ」を「前記センサは前記身体から離れた位置で視界から外れた位置に設けられ」ると限定し、
エ 補正前の「コントローラ」を「前記コントローラは、前記ポンプが停止状態のときにデータ処理された前記生体情報に基づいて前記ポンプを駆動制御するとともに前記袋体への給気と前記袋体からの排気とを切り替える切替弁を制御して前記袋体の内圧を調整する構成」に限定するものである。

したがって、上記ア〜エの補正事項は特許請求の範囲の減縮を目的とする補正であって、また、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。したがって、本件補正は、特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後における請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)が特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下検討を行う。

(2) 本件補正発明
本件補正発明は、本件補正後の請求項1に記載された事項(前記1(2)参照)により特定されるとおりのものである。

(3) 引用文献に記載された発明の認定等
ア 引用文献1に記載された事項と引用発明の認定
(ア) 引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された特開2000−197670号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。下線は当合議体において付したもので、以下同様である。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、高齢者や加療中の患者や幼児の就寝中に発生する無呼吸状態を監視して無呼吸状態の症状を把握するとともに、無呼吸状態に陥った患者に外部から刺激を与えて睡眠状態を変化させる振動手段を備える就寝監視装置に関する。」

「【0018】
【発明の実施の形態】図1は本発明の実施例の就寝モニタ装置の構成を示す説明図である。横臥している被験者の身体の下にエアマット1とエアセル2とが配置されている。エアマット1の内部には適当な量の空気を封入しておき、被験者の体重でエアマット1がつぶれない程度の圧力に保たれており、エアマット1内の空気室の一端に接続されたエアチューブ14を介して取り付けられている微差圧センサ15によってエアマット1の内部の圧力を検出する。被験者の身体に起因する振動がエアマット1に伝わるため、エアマット1の内部圧力の変化を測定することで被験者の生体信号を抽出することができる。すなわち、エアマット1、エアチューブ14および微差圧センサ15によって被験者の生体信号を検出する検出手段を形成している。図1ではエアマット1およびエアセル2を寝具6の間に配置しているが、被験者が不快感を持たないならば、被験者の身体の下に直接配置してもよい。
【0019】微差圧センサ15の出力信号は心拍フィルタ31、呼吸フィルタ32、鼾フィルタ33を通すことによって、心拍信号、呼吸信号、鼾信号及び寝返り信号等の被験者の生体信号が取り出される。上記信号出力はA/D変換器34を経由して就寝モニタ制御装置35において各種の処理が行われ、身体データとして記録される。例えば、心拍信号および呼吸信号は、心拍数および呼吸数の時間関数として整形される。また、寝返り信号や鼾信号からは、その強さおよぴ周期の時間関数として整形される。
【0020】微差圧センサ15は、コンデンサマイクロフォン型の差圧計センサであり、圧力の変化にともなって生じる受け圧面と対向電極との間の静電容量変化を検知し、差圧を検出するものであり、この微差圧センサ15によって被験者の就寝中の体動を測定するものである。
【0021】絶対圧力センサ4が微差圧センサ15と同様にエアチューブ14を介してエアマット1に接続される。前記微差圧センサ15が圧力の変動分を測定するものであるのに対し、絶対圧力センサ4は、文字通り、絶対圧力を測定するものであり、被験者がエアマット1上にいるのか否かを知るために設けられている。絶対圧力センサ4の出力信号によって、被験者が寝具6上に在るか確認される。
【0022】制御装置35には被験者の平常時の生体信号データが記録されており、刻々採録される被験者の生体信号と比較することにより、被験者の異常を検出する。異常が検出された時には警報等を発して介護者もしくは医師等に通報する。さらに、制御装置35には警報表示装置36が接続され、被験者の生体信号の整形されたデータをグラフまたはデジタル化した数値情報の形式で監視することができる。
【0023】図1はエアマット1とエアセル2が分離している実施例を示している(第1の実施例)。エアマット1とエアセル2はそれぞれ独立した要素であり、寝具6の間に両者を重ねて配置してある。エアセル2は振動手段であり、エアチューブ51を介して駆動装置5に接続されていて、制御装置35の指令に基づいて駆動装置5を作動させると、エアセル内に空気の流れが発生するように構成される。空気の流れを発生させるための駆動装置5の駆動方法は限定しないが、一例として、チューブ51の端部に空気室を設け、これを加圧する動作と圧力を解放する動作を繰り返すことによりエアセル2内に空気の流れを発生させ、もって振動を発生させる方法が考えられる。振動の大きさおよび周期等は駆動装置5によって適切に制御されるものとする。
【0024】制御装置35は就寝中の被験者の呼吸数データを継続的に収集して無呼吸状態の発生状況を記録し無呼吸症候群の判別を行うとともに、極度な無呼吸状態が発生した場合は被験者が危険な状態であると判定して、駆動装置5に作動する指令を発する。駆動装置5が作動を開始してエアセル2内に空気の流れを発生させてエアセル2を振動を発生させることで被験者は覚醒するか睡眠状態が変化するかして無呼吸状態が解消される。」

「【0026】図3はエアマット1にエアチューブ51を介して駆動手段5を接続した実施例を示す説明図である。エアマット1には同時に微差圧センサ15がエアチューブ14を介して接続されている。圧力センサを稼働させる場合は、エアチューブ14に設けられている弁16を開けて、エアチューブ51に設けられている弁52を閉じておく。駆動装置5を作動させる場合には、逆にエアチューブ14に設けられている弁16を閉じて、エアチューブ51に設けられている弁52を開ける。振動発生用のエアセルを必要としないため装置が簡略化されるとともに、身体の下に敷設する要素物の数を減らすことができるため被験者の就寝時の快適性を損なわない。」

「【図1】




「【図3】



(イ) 引用発明の認定
上記(ア)の記載内容を総合すれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

[引用発明]
「エアマット1の内部には適当な量の空気を封入しておき、被験者の体重でエアマット1がつぶれない程度の圧力に保たれており、エアマット1内の空気室の一端に接続されたエアチューブ14を介して取り付けられている微差圧センサ15によってエアマット1の内部の圧力を検出する就寝モニタ装置であって(【0018】)、
エアマット1にエアチューブ51を介して駆動装置5を接続し、エアマット1には同時に微差圧センサ15がエアチューブ14を介して接続し(【0026】、【図3】)、
微差圧センサ15の出力信号は心拍フィルタ31、呼吸フィルタ32を通すことによって、心拍信号、呼吸信号等の被験者の生体信号が取り出され、上記信号出力はA/D変換器34を経由して就寝モニタ制御装置35において各種の処理が行われ、身体データとして記録され(【0019】)、
微差圧センサ15は、コンデンサマイクロフォン型の差圧計センサであり(【0020】)、
制御装置35の指令に基づいて駆動装置5を作動させると、エアセル内に空気の流れが発生するように構成され、空気の流れを発生させるための駆動装置5の駆動方法として、チューブ51の端部に空気室を設け、これを加圧する動作と圧力を解放する動作を繰り返すことによりエアセル2内に空気の流れを発生させ、もって振動を発生させ(【0023】)、
圧力センサを稼働させる場合は、エアチューブ14に設けられている弁16を開けて、エアチューブ51に設けられている弁52を閉じ、駆動装置5を作動させる場合には、逆にエアチューブ14に設けられている弁16を閉じて、エアチューブ51に設けられている弁52を開け(【0026】、【図3】)、
制御装置35は就寝中の被験者の呼吸数データを継続的に収集して無呼吸状態の発生状況を記録し無呼吸症候群の判別を行うとともに、極度な無呼吸状態が発生した場合は被験者が危険な状態であると判定して、駆動装置5に作動する指令を発する(【0024】)、
就寝モニタ装置。」

イ 引用文献2に記載された事項の認定
(ア) 引用文献2に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された特開2003−24386号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。

「【0002】
【従来の技術】従来、緊急時及び災害時の救急システムにおける応急処置は、救急救命士等が、患者の意識、呼吸、心拍の確認を行い、119番通報し、その聞に気道確保や人工呼吸等を行い応急処置を行っていた。初期の応急処置により、救命率を向上させることができる。一方、救急隊員が現場にかけつけると、救急救命士等は、確認した情報を伝えたり、現在の状況を客観的に伝え、患者を担架やストレッチャーの上に乗せて救急車まで搬送している。
【0003】他方、従来より、人体の健康状態を測定する技術がある。例えば、特開平10−229973号公報(従来技術1)には、圧電センサをマットに内蔵して人体の振動を検知し脈拍、血圧等を計測する生体モニタ装置が開示されている。また、実開昭58−188008号公報(従来技術2)には、被検者の下に敷かれたエアマット内の圧力変化を電気信号として検出し、被検者の呼吸を計測する呼吸モニターが開示されている。しかしながら、これらの従来技術1、2は、救急システムにおいて用いられる点は開示されていない。」

「【0021】図1は、本発明にかかる患者搬送具の全体イメージ図である。図1において、(a)は、担架タイプの患者搬送具であり、(b)は、ストレッチャータイプの患者搬送具である。
【0022】患者を載置する荷台の一部には、エアマット1が装着されている。このエアマット1は、圧力の変動により、生体情報を得るものであり、流体封入体の一例として開示されている。この流体封入体は、袋に水又は空気等の流体が封入されている。流体封入体は、パッド状であっても、複数個のブロックに分離されたシート状のものであってもよい。
【0023】本発明にかかる患者搬送具には、生体情報表示装置2が設けられている。この生体情報表示装置2は、担架の担ぎ棒やストレッチャーの引き手に設けられた筐体中に収納されている。この生体情報表示装置2は、導圧管を介してエアマット1からの圧力変動を検出し、その生体情報を表示する機能等を有する。エアマット1に患者が載置され、患者の重量により圧力が加えられることにより、圧力変動の計測を開始するようにしてもよい。」

「【0032】ここで、図4及び図5を用いて、信号処理部25における信号の分離処理について詳述する。例えば、呼吸の場合、個人によって異なるが、呼吸周期を決めておき、その周波数帯の信号のみを取り出し呼吸信号とする。呼吸に関する通過域は、0.05〜1Hzである。心拍の場合、約1秒間隔のスパイク状信号であり、通過域は、2〜10Hz程度である。心拍数及び呼吸数を示すグラフを図4に示す。」

「【0038】導圧管11は、可撓性を有する合成樹脂製のチューブからなる。導圧管11の一端がエアマット1内部に連通するように固定され、荷台3の上布31と下布32との間を通して外部に導出されている。導圧管11の他端に着脱式継ぎ手の一方が設けられており、担ぎ棒4に固定された着脱式継ぎ手の他方に対して着脱自在となっている。
【0039】図8に示されるように、担ぎ棒4は、中空の金属管で形成されており、その内部には回路基板56、操作・表示器28、三叉導圧管52、空気ポンプ53および電動モータ54が固定されている。担ぎ棒4の一端にねじ蓋が形成されており、これを外すと担ぎ棒4内部の電池ボックスに収納された乾電池57を交換できる。回路基板56には、マイクロコンピュータ等が載置されている。操作・表示器28は、窓27を通じて外側に露出している。
【0040】一般に市販されている乾電池のうち、最も形状の大きい単一電池でも外径約35mm、長さ約60mmであり、乾電池の長手方向を担ぎ棒4の長手方向に一致させて直列に配置すれば、担ぎ棒4の外径を人手で握るのに適した太さに形成できる。
【0041】空気ポンプ53は、例えば特表2000−517232号公報の図3及びその説明に開示されているものと同様の非可逆低圧ダイアフラムポンプである。ダイアフラムを往復運動させることにより空気を送出する。この方式のポンプは小型化に適しており、本実施の形態のように直径40mm程度の担ぎ棒4の内部にも収容可能である。逆止弁を内蔵しているので空気がポンプヘ逆流して気圧低下を招くことは無い。ポンプに外気を供給するために担ぎ棒4に空気孔が形成されている。
【0042】尚、この特表2000−517232号公報の図3及びその説明に開示されている構造の空気ポンプでなくとも、本願明細書の図9に示す構造の空気ポンプであってもよい。図9に示す空気ポンプは、円筒カム62を用いてモータ61の回転を直線運動に変換し、ダイヤフラムユニット63を動作させている。これらのモータ61、円筒カム62及びダイヤフラムユニット63は、担ぎ棒4の内径に収まる大きさのものを選択している。尚、円筒カム62の具体的な構成例は、「新編機械の素」機械の素復刊委員会編(発行所理工学社)1969年7月10日第4版に開示されている。
【0043】その他、回転モータを用いずに、往復動型のソレノイドを用いて、空気ポンプを構成するようにしてもよい。
【0044】エアマット1の内圧は、無負荷状態で大気圧よりも若干高い程度(すなわちエアマットが膨らむ程度)でよい。エアマット1の内容積もきわめてわずか(膨らんだ状態で厚さ10mm程度)でよい。空気ポンプ53は、電力消費量が比較的に多いが、エアマット1の内容積が少なく稼動時間が短いので、電源として乾電池を用いても十分対応可能である。即ち、すぐに電池がなくなってしまうということはない。
【0045】また、担ぎ棒4の内部に合成樹脂性の三叉導圧管52が設けられて、着脱式継ぎ手51と圧力センサ55と空気ポンプ53とを接続している。
【0046】エアマット1、導圧管11、着脱式継ぎ手51、三叉導圧管52、圧力センサ55および空気ポンプ53が互いに連通すると共に気密に閉じた空間を形成しており、エアマット1に外力を加えたとき、内部の気圧変化が導圧管11、着脱式継ぎ手51および三叉導圧管52を介して圧力センサ55に伝わる。」

「【0053】図11において、まず、制御部21は、電源がオン状態にあるか否かを判定する(S1101)。判定の結果、電源がオン状態である場合には、電動モータ54が回転し空気ポンプ53からエアマット1ヘ空気が送られる(S1102)。続いて、制御部11は、圧力センサ55により検出された内圧が所定値以上かどうかを判定する(S1103)。判定の結果、所定値以上である場合には、電動モータ54を停止し、これに伴い、空気ポンプ53も停止する。
【0054】そして、圧力センサ55によるエアマット1の圧力変動を検出することによって、生体情報の測定を開始する(S1104)。そして、その計測結果を操作・表示部28に表示する(S1105)。」

「【図4】



「【図8】



「【図11】




(イ) 引用文献2に記載された技術事項について
前記(ア)の記載事項を総合すると、引用文献2には、次の2つの技術事項(以下「引用文献2技術事項1」、「引用文献2技術事項2」という。)が記載されているものと認められる。

<引用文献2技術事項1>
「導圧管11を介してエアマット1からの圧力変動を検出し、その生体情報を表示する機能等を有する生体情報表示装置2において(【0023】)、エアマット1、導圧管11、着脱式継ぎ手51、三叉導圧管52、圧力センサ55および空気ポンプ53が互いに連通すると共に気密に閉じた空間を形成し、エアマット1に外力を加えたとき、内部の気圧変化が導圧管11、着脱式継ぎ手51および三叉導圧管52を介して圧力センサ55に伝えること(【0046】)。」

<引用文献2技術事項2>
「導圧管11を介してエアマット1からの圧力変動を検出し、その生体情報を表示する機能等を有する生体情報表示装置2において(【0023】)、制御部11は、圧力センサ55により検出された内圧が所定値以上かどうかを判定し(S1103)、判定の結果、所定値以上である場合には、電動モータ54を停止し、これに伴い、空気ポンプ53も停止し(【0053】)、そして、
圧力センサ55によるエアマット1の圧力変動を検出することによって、生体情報の測定を開始すること(【0054】)。」

(ウ) 技術常識について
前記(ア)の摘記事項により、次の技術常識(以下「技術常識」という。)が認定できる。

<技術常識>
「生体情報の信号処理部における信号の分離処理において、呼吸の場合、呼吸周期を決めておき、その周波数帯の信号のみを取り出し呼吸信号とし、呼吸に関する通過域は、0.05〜1Hzであり、心拍の場合、通過域は、2〜10Hz程度であること。」


ウ 引用文献3に記載された事項の認定
(ア) 引用文献3に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された特開2011−247711号公報(以下「引用文献3」という。)には、次の事項が記載されている。

「【0019】
図2は、圧力検出装置14Aの断面図である。図2に示すように、圧力検出装置14Aのうち軸線Xの方向における片方の端部は検出用マット12の接続管124に連結される。接続管124は、検出用マット12の内部空間122に連通する。また、圧力検出装置14Aのうち軸線Xの方向における他方(接続管124とは反対側)の端部には、圧力検出装置14Aが生成した検出信号を指標算定装置16に伝送する配線18が接続される。以下の説明では便宜的に、圧力検出装置14A内の任意の位置からみて軸線Xの方向における検出用マット12側(接続管124側)を「入力側」と表記し、指標算定装置16側(配線18側)を「出力側」と表記する。
【0020】
図3は、圧力検出装置14Aの分解時(組立前)の断面図である。図2および図3に示すように、圧力検出装置14Aは、第1筐体部20と受圧膜30と中間部40と支持部50と圧力検出体60と第2筐体部70とを含んで構成される。受圧膜30と中間部40と支持部50とが第1筐体部20と第2筐体部70との間に設置される。すなわち、第1筐体部20と支持部50との間に受圧膜30と中間部40とが固定され、支持部50と第2筐体部70との間に圧力検出体60が固定される。第1筐体部20と中間部40と支持部50と第2筐体部70とは、例えばABS(Acrylonitrile-Butadiene-Styrene)樹脂等の樹脂材料の射出成形で作成される。
【0021】
図4は、第1筐体部20の断面図および平面図(図3の矢印IVからみた平面図)である。図4に示すように、第1筐体部20は、貫通孔222が形成された円盤状の底面部22と、底面部22の外周縁から出力側(第2筐体部70側)に突出する円筒状の側壁部24と、底面部22の内周縁(貫通孔222の縁部)から入力側に突出する円筒状の接続部25とを含んで構成される。図2に示すように、第1筐体部20の接続部25が検出用マット12の接続管124に連結される。」

「【0031】
図2および図3から理解されるように、支持部50と第1筐体部20とを固定した状態では、第1筐体部20の底面部22の保持部224と中間部40の保持部42とが受圧膜30を挟んで相互に係合する。したがって、受圧膜30が適度の張力を維持した状態で、受圧膜30の周縁の領域が全周にわたって中間部40と第1筐体部20とに挟持される。
【0032】
第1筐体部20の接続部25は検出用マット12の接続管124に接続されるから、図2に示すように、第1筐体部20の貫通孔222の内周面と受圧膜30の入力側の表面とで包囲された空間(以下「第1流体室」という)R1には、検出用マット12の内部空間122から接続管124を経由して供給される流体F1が充填される。他方、中間部40の内周面と支持部50の部分542の内周面と本体部52の入力側の表面と受圧膜30の出力側の表面とで包囲された空間(以下「第2流体室」という)R2には流体(空気)F2が充填される。すなわち、受圧膜30は、第1筐体部20が形成する第1流体室R1と支持部50が形成する第2流体室R2とを仕切るように第1筐体部20と支持部50との間に保持される。
【0033】
検出用マット12上の被験者の脈拍や呼吸や体動に応じて流体F1に付与された圧力変化は、第1流体室R1内に伝播して図2の破線のように受圧膜30を振動させる。そして、受圧膜30の振動に応じた圧力変化が第2流体室R2内の流体F2に付与される。すなわち、受圧膜30は、第1流体室R1内の圧力変化を第2流体室R2に伝達する要素(流体F1の圧力変化を流体F2の圧力変化に変換する要素)として機能する。
【0034】
図6に示すように、支持部50の本体部52には、第2流体室R2に連通する貫通孔522が形成される。貫通孔522の内径φは、第1筐体部20の貫通孔222の内径(すなわち第1流体室R1の内径)や支持部50の部分542の内径(すなわち第2流体室R2の内径)と比較して小さい寸法に設定される。図6に示すように、本体部52の出力側の表面には、貫通孔522を包囲する円形の溝部524が形成される。図2および図3に示すように、溝部524の内側にはOリング36が配置される。
【0035】
圧力検出体60は、第2流体室R2内の流体F2の圧力変化に応じた検出信号を生成する圧力センサである。圧力検出体60の構造は任意であるが、例えば、被験者の脈拍や呼吸の主要な周波数を含む1kHz以下の周波数帯域を検出域とする低周波マイクロホン(例えばコンデンサマイク)が好適に採用される。図7は、圧力検出体60の平面図(図3の矢印VIIからみた平面図)。図7に示すように、圧力検出体60の入力側の表面(以下「検出面」という)62には複数の検出孔64が形成される。
【0036】
図2および図3に示すように、圧力検出体60は、支持部50の本体部52の出力側の表面と部分544の内周面とで包囲された空間内に設置される。圧力検出体60が支持部50の内側に設置されると、図2および図7に示すように、支持部50の溝部524内に配置されたOリング36は、複数の検出孔64を包囲した状態で検出面62に接触する。以上の構成においては、圧力検出体60の内部が各検出孔64と支持部50の貫通孔522とを介して第2流体室R2に連通する。したがって、第2流体室R2内の圧力に応じた検出信号が圧力検出体60から配線18に出力される。圧力検出体60の検出面62にはOリング36が接触するから、圧力検出体60の検出面62と支持部50の本体部52の出力側の表面との隙間から流体F2が漏出する可能性が低減される(すなわち第2流体室R2の気密性が維持される)という利点がある。
【0037】
図3の第2筐体部70は、貫通孔722が形成された円盤状の底面部72と、底面部72の外周縁から入力側(第1筐体部20側)に突出する円筒状の側壁部74とを含んで構成される。図2に示すように、圧力検出体60に接続された配線18は貫通孔722を通過して指標算定装置16に接続される。
【0038】
図3に示すように、側壁部74の内周面には、軸線Xを螺旋軸とする螺旋状のネジ溝742が形成される。図2に示すように、支持部50のネジ溝58と第2筐体部70の側壁部74のネジ溝742との噛合を利用して支持部50と第2筐体部70とが相互に固定される。すなわち、ネジ溝58とネジ溝742とが係合した状態で第2筐体部70を支持部50に対して回転させる(支持部50を第2筐体部70に捩込む)ことで支持部50と第2筐体部70とが固定される。支持部50と第2筐体部70とが固定された状態では、圧力検出体60のうち検出面62とは反対側の表面が第2筐体部70の底面部72の入力側の表面で押圧されることでOリング36が軸線Xの方向に圧縮される。
【0039】
以上の形態においては、ネジ溝282とネジ溝56との噛合で第1筐体部20と支持部50とが相互に固定されるとともに両者間に受圧膜30および中間部40が固定される。したがって、第1筐体部81の突起部812と第2筐体部82の突起部822とをネジ86で接合して受圧膜83を固定する図18の構成と比較して、圧力検出装置14Aの組立(受圧膜30の固定)の作業を簡素化することが可能である。また、第1筐体部20や支持部50の寸法に誤差がある場合でも、受圧膜30の保持力の不足や超過を防止できるという利点もある。同様に、ネジ溝742とネジ溝58との噛合で第2筐体部70と支持部50とが相互に固定されるから、第1筐体部81の突起部812と第2筐体部82の突起部822とをネジ86で接合する図18の構成と比較して、圧力検出装置14Aの組立(第2筐体部70の固定)の作業を簡素化することが可能である。
【0040】
また、第2流体室R2内の流体F2の圧力変化が本体部52の貫通孔522を経由して圧力検出体60に伝播するから、圧力検出体60が検出する圧力を貫通孔522の内径φに応じて適宜に調整できるという利点がある。具体的には、貫通孔522の内径φは、第1流体室R1や第2流体室R2の内径と比較して小さい寸法に設定される。したがって、貫通孔522を通過して圧力検出体60に到達する流体F2の流速は第2流体室R2内と比較して速い。すなわち、貫通孔522を経由して圧力検出体60に伝播する圧力変化が第2流体室R2内と比較して増幅される。したがって、第2流体室R2内の流体F2の圧力変化を高い感度で検出できるという利点がある。」

「【図2】



「【図3】



図2から、次の事項が読み取れる。
「第1筐体部20の接続部25の内径は、接続管124の内径よりも小さいこと。」

(イ) 引用文献3に記載された技術事項について
前記アの記載事項を総合すると、引用文献3には、次の技術事項(以下「引用文献3技術事項」という。)が記載されているものと認められる。

<引用文献3技術事項>
「片方の端部は検出用マット12の接続管124に連結され、接続管124は、検出用マット12の内部空間122に連通する圧力検出装置14Aにおいて(【0019】)、
圧力検出装置14Aは、第1筐体部20と受圧膜30と中間部40と支持部50と圧力検出体60と第2筐体部70とを含んで構成され、第1筐体部20と支持部50との間に受圧膜30と中間部40とが固定され、支持部50と第2筐体部70との間に圧力検出体60が固定され(【0020】)、
第1筐体部20の接続部25が検出用マット12の接続管124に連結され(【0021】)、
第1筐体部20の接続部25の内径は、接続管124の内径よりも小さく(【図2】)、
圧力検出体60は、第2流体室R2内の流体F2の圧力変化に応じた検出信号を生成する圧力センサであって、被験者の脈拍や呼吸の主要な周波数を含む1kHz以下の周波数帯域を検出域とするコンデンサマイクであり(【0035】)、
圧力検出体60は、支持部50の本体部52の出力側の表面と部分544の内周面とで包囲された空間内に設置され、圧力検出体60が支持部50の内側に設置されると、支持部50の溝部524内に配置されたOリング36は、複数の検出孔64を包囲した状態で検出面62に接触し、圧力検出体60の検出面62にはOリング36が接触し、第2流体室R2の気密性が維持される(【0036】)こと。」


エ 引用文献5に記載された事項の認定
(ア) 引用文献5に記載された事項
当審において新たに引用した特開2017−42454号公報(以下「引用文献5」という。)には、次の事項が記載されている。

「【0002】
病院では看護師が、介護施設では介護福祉士が、交代で患者又は被介護者の対応を行うが、その対応の中でも、患者又は被介護者の寝返りを介助して褥瘡(床ずれ)が生じないようにすることが重要とされているものの、その前提として患者又は被介護者がどの程度の時間でどのような体位にあったかを的確に把握することが困難であった。
【0003】
この点、従来、例えば特許文献1は、支点の変換および体圧の分散を容易に行うことに汎用対応可能な床ずれ防止装置およびこれを組み込んだベッドを提供することを目的として、セル本体と、該セル本体内に、モータと、該モータの出力を減速する減速装置と、減速したモータの回転運動を直動運動に変換する回転・直動変換器と、該回転・直動変換器の出力軸に連結された荷重保持体と、および荷重保持体の高さ方向の位置を検出する荷重検出部を一体的にして設けてセル駆動体を構成し、複数のセル駆動体を格子状に配設し、かつ各荷重検出部からの荷重を入力し、組み込まれた予め定められた床ずれ防止モードに従って各モータの駆動制御を行う制御装置を設けてベッドに使用する床ずれ防止装置を構成する点を、開示している。
【0004】
しかし、特許文献1の床ずれ防止装置では、患者又は被介護者の寝返りなどの体位変化を重心位置の変化の軌跡として捉えており、どの程度の時間でどのような体位にあったかを把握して、看護師や介護福祉士などの介助者、又は体位変換装置によって、患者又は被介護者を適切なタイミングで適切な体位に変換させることが困難であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−176895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述のような課題に鑑み、褥瘡(床ずれ)の防止のため、ユーザの体動を的確に把握し、体位の変換を容易ならしめるマットレス装置を提供することを目的とする。
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために、以下の構成によって把握される。
(1)本発明の第1の観点は、マットレス装置であって、短手方向に延在し、互いに独立して給排気可能な複数の主エアセルを長手方向に並設して有するマットレス本体と、前記マットレス本体の上面にわたって敷設され、ユーザの体圧分布を検出するシート状の体圧センサと、前記体圧分布を表示する表示部、及び前記体圧分布から求められた前記ユーザの前記短手方向と前記長手方向の重心位置を記録する記憶部を有する操作部と、を備え、前記表示部が前記記憶部に記憶された前記重心位置を各々の方向毎に時系列に表示可能であることを特徴とする。
【0008】
(2)上記(1)の構成において、前記マットレス本体の下に配置され、互いに独立して給排気可能な左下肢用エアセル、右下肢用エアセル、左上体用エアセル及び右上体用エアセルを含む体位変換エアセルをさらに備え、前記重心位置の空間的及び時間的な変動に応じて、前記ユーザを体位変換するときは、前記体位変換エアセルに含まれる各エアセルのうち少なくとも1つを作動させるようにしてもよい。」

「【0012】
<マットレス装置1の全体構成>
図1は、本実施形態に係るマットレス装置1を模式的に示す図であって、マットレス装置1は、図1に示すように、マットレス本体2と、体位変換エアセル3と、給排気機構4と、体圧センサ5と、操作部6と、を備えている。マットレス本体2の下側には体位変換エアセル3が、マットレス本体2の上側にはシート状の体圧センサ5が、それぞれ敷設される。マットレス本体2及び体位変換エアセル3に対しては給排気機構4が接続されており、操作部6の操作によって、圧縮空気の給排気による与圧/徐圧を施す。マットレス装置1は、ベッド7上に配置され、ユーザ(患者、被介護者などの利用者)の利用に供される。」

「【図1】



(イ) 周知技術の認定
a 周知技術1
引用文献2の段落【0022】(上記イ(ア)参照)及び引用文献5の段落【0007】(上記(ア)参照)の記載から、次の技術事項は当業者にとって周知な技術であったと認められる(以下「周知技術1」という。)

<周知技術1>
「エアマットレスを複数のエアセル(袋体)により構成すること。」

b 周知技術2
引用文献5の段落【0006】、【0012】(上記イ(ア)参照)の記載から、次の技術事項は当業者にとって周知な技術であったと認められる(以下「周知技術2」という。)

<周知技術2>
「マットレス本体と、体位変換エアセルと、給排気機構と、体圧センサを備え、マットレス本体及び体位変換エアセルに対しては給排気機構が接続され、褥瘡(床ずれ)の防止のため、ユーザの体動を的確に把握し、体位の変換を容易ならしめるマットレス装置」


オ 引用文献6に記載された事項の認定
(ア) 引用文献6に記載された事項
当審において新たに引用した特開2002−248085号公報(以下「引用文献6」という。)には、次の事項が記載されている。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、呼吸と心拍のような周波数帯域が異なる周期信号が重畳された信号の検出技術に関し、例えば福祉や介護のための人体感知若しくは人体の着座感知などに適用して有効な検出技術に関する。」

「【0045】図6には前記信号検出装置の前記第1帯域フィルタ手段及び第2帯域フィルタ手段の入力に出力が接続される圧力センサの一例が軸断面で示される。圧力センサは、受圧部62と前記受圧部62に結合された感圧素子63とから成る。前記受圧部62は、例えば、先端部がプラスチック栓64で閉じられたポリウレタン製のパイプチューブ65によって構成される。前記パイプチューブ65の基端部に感圧素子63のボス部70Aが挿入固定されている。前記感圧素子63は、ボス部70Aを介して前記パイプチューブ65の中空部分に内部が連通する素子ケーシング70を有し、その内部に、ゴムホルダ72に嵌合されたエレクトレットコンデンサマイクロホン(以下単にマイクロホンとも称する)73が挿入固定され、その背面側に空室74が形成されている。前記マイクロホン73は、特に制限されないが、双指向性のマイクロホンであり、マイクロホンの正面及び背面に開口を持ち、正面感度が最も大きくされる。前記マイクロホン73はその正面側と背面側とをリークさせるリーク通路75を有する。マイクロホン73の出力リード線76は封止栓77を介して外部に導出される。望ましい形態として、特に制限されないが、素子ケーシング70及びこれに連通されたパイプチューブ65の内部はある程度の気密が保たれ、大気圧とは非導通にされている。」

「【図6】



(イ) 周知技術の認定
引用文献6の段落【0045】(上記(ア)参照)の記載から、次の技術事項は当業者にとって周知な技術であったと認められる(以下「周知技術3」という。)

<周知技術3>
「受圧部と前記受圧部に結合された感圧素子とから成る圧力センサにおいて、前記感圧素子は、素子ケーシングを有し、その内部に、ゴムホルダに嵌合されたエレクトレットコンデンサマイクロホンが挿入固定されること。」


(4) 対比
本件補正発明と引用発明を対比する。
ア 引用発明の「エアマット1」は、「内部には適当な量の空気を封入しておき、被験者の体重でエアマット1がつぶれない程度の圧力に保たれて」いるから、本件補正発明の「空気圧で身体を支持する複数の袋体」と「空気圧で身体を支持する袋体」という点で共通する。

イ 引用発明の「駆動手段5」は、「制御装置35の指令に基づいて駆動装置5を作動させると、エアセル内に空気の流れが発生するように構成され、空気の流れを発生させるための駆動装置5の駆動方法として、チューブ51の端部に空気室を設け、これを加圧する動作と圧力を解放する動作を繰り返すことによりエアセル2内に空気の流れを発生させ、もって振動を発生させ」るから、本件補正発明の「ポンプ」に相当する。

ウ 引用発明の「エアチューブ51」は、「エアマット1にエアチューブ51を介して駆動手段5を接続」するから、本件補正発明の「前記袋体に設けられてポンプに接続する管路」に相当する。

エ 引用発明の「微差圧センサ15」は、「エアマット1内の空気室の一端に接続されたエアチューブ14を介して取り付けられ」、「微差圧センサ15の出力信号は心拍フィルタ31、呼吸フィルタ32を通すことによって、心拍信号、呼吸信号等の被験者の生体信号が取り出され」るものであって、その出力が電気信号であることは明らかであるから、本件補正発明の「前記袋体の圧力変動を検知し電気信号に変換する一つのセンサ」に相当する。
また、引用発明の「微差圧センサ15」は、「コンデンサマイクロフォン型の差圧計センサであ」るから、本件補正発明の「センサ」と、「コンデンサマイクロフォンを有」する点で共通する。

オ 引用発明の「就寝モニタ装置」は、「微差圧センサ15の出力信号」が「心拍フィルタ31、呼吸フィルタ32を通すことによって、心拍信号、呼吸信号等の被験者の生体信号が取り出され、上記信号出力はA/D変換器34を経由して就寝モニタ制御装置35において各種の処理が行われ、身体データとして記録され」るものであるから、本件補正発明の「生体情報計測装置」に相当する。

カ 引用発明の「心拍フィルタ31、呼吸フィルタ32」は、「微差圧センサ15の出力信号」が通ることによって「心拍信号、呼吸信号等の被験者の生体信号が取り出され」るから、本件補正発明の「前記センサからの前記電気信号をフィルタリングするバンドパスフィルタ」と、「前記センサからの前記電気信号をフィルタリングするフィルタ」という点で共通する。
そして、引用発明の「心拍フィルタ31」、「呼吸フィルタ32」は、各々が「心拍信号」、「呼吸信号」を取り出すフィルタであるから、本件補正発明の「第1フィルタ」、「第2フィルタ」の各々と、「第1フィルタによって前記センサからの前記電気信号を所定周波数帯の第1信号波形として抽出」する点、「第2フィルタによって前記センサからの前記電気信号を第2信号波形として抽出」する点で共通する。

キ 引用発明の「制御装置35」は、「微差圧センサ15の出力信号は心拍フィルタ31、呼吸フィルタ32を通すことによって、心拍信号、呼吸信号等の被験者の生体信号が取り出され、上記信号出力はA/D変換器34を経由して就寝モニタ制御装置35において各種の処理が行われ」、「心拍信号」、「呼吸信号」の各々が「波形信号」であり、所定時間あたりの信号波形の数が処理されて心拍数、呼吸数が求められることは、自明である。
そして、上記カの検討結果を踏まえると、引用発明の「就寝モニタ制御装置35」は、本件補正発明の「コントローラ」と、「前記フィルタのうちの第1フィルタによって前記センサからの前記電気信号を第1信号波形として抽出して所定時間あたりの前記第1信号波形の数を前記生体情報のうちの心拍数としてデータ処理するとともに、前記フィルタのうちの第2フィルタによって前記センサからの前記電気信号を第2信号波形として抽出して前記所定時間あたりの前記第2信号波形の数を前記生体情報のうちの呼吸数としてデータ処理する構成である」という点で共通する。

ク 引用発明の「就寝モニタ制御装置35」は、「就寝中の被験者の呼吸数データを継続的に収集して無呼吸状態の発生状況を記録し無呼吸症候群の判別を行うとともに、極度な無呼吸状態が発生した場合は被験者が危険な状態であると判定して、駆動装置5に作動する指令を発」し、「空気の流れを発生させるための駆動装置5の駆動方法として、チューブ51の端部に空気室を設け、これを加圧する動作と圧力を解放する動作を繰り返すことによりエアセル2内に空気の流れを発生させ、もって振動を発生させ」るから、本件補正発明の「コントローラ」と、「データ処理された前記生体情報に基づいて前記ポンプを駆動制御するとともに前記袋体の内圧を調整する構成であ」る点で共通する。

ケ 上記アからクの検討結果を総合すると、本件補正発明と引用発明は、以下の一致点で一致し、以下の相違点において一応の相違があると認められる。

[一致点]
「 【請求項1】
空気圧で身体を支持する袋体と前記袋体に設けられてポンプに接続する管路を有する生体情報計測装置であって、
前記袋体の圧力変動を検知し電気信号に変換する一つのセンサと、前記センサからの前記電気信号をフィルタリングするフィルタと、前記フィルタからの前記電気信号を生体情報としてデータ処理するコントローラを備え、前記センサは、コンデンサマイクロフォンを有し、
前記コントローラは、データ処理された前記生体情報に基づいて前記ポンプを駆動制御するとともに前記袋体の内圧を調整する構成であり、
前記コントローラは、前記フィルタのうちの第1フィルタによって前記センサからの前記電気信号を第1信号波形として抽出して所定時間あたりの前記第1信号波形の数を前記生体情報のうちの心拍数としてデータ処理するとともに、前記フィルタのうちの第2フィルタによって前記センサからの前記電気信号を第2信号波形として抽出して前記所定時間あたりの前記第2信号波形の数を前記生体情報のうちの呼吸数としてデータ処理する構成であることを特徴とする生体情報計測装置。」

<相違点1>
本件補正発明の「エアマットレス」は、「空気圧で身体を支持する複数の袋体」を有し、「褥瘡予防用のエアマットレス」であるのに対し、引用発明の「エアマット1」は、複数の「袋体」からなるものか、また、「褥瘡予防用のエアマットレス」であるのかが不明である点。

<相違点2>
本件補正発明は、「前記ポンプと前記袋体とを接続する一つの分岐管」を有し、「前記分岐管におけるT字状に分岐した部分に」「センサ」が接続されているのに対し、引用発明の「駆動装置5」と「微差圧センサ15」は、「エアマット1にエアチューブ51を介して駆動装置5を接続し、エアマット1には同時に微差圧センサ15がエアチューブ14を介して接続」するものであって、分岐管により、1つの管路によりエアマット1と接続するものでない点。

<相違点3>
本件補正発明の「フィルタ」は「バンドパスフィルタ」であって、「前記バンドパスフィルタのうちの第1フィルタによって前記センサからの前記電気信号を所定周波数帯の第1信号波形として抽出し」、「前記バンドパスフィルタのうちの第2フィルタによって前記センサからの前記電気信号を前記所定周波数帯よりも低い周波数帯の第2信号波形として抽出」するものであるのに対し、引用発明の「心拍フィルタ31」、「呼吸フィルタ32」がそのようなフィルタであるかが不明である点。

<相違点4>
本件補正発明の「センサ」が「筒状の圧力導入口が設けられたハウジングと、前記ハウジング内で弾性体を介して支持されたコンデンサマイクロフォンを有し、前記圧力導入口と前記分岐管とが接続されて前記コンデンサマイクロフォンが気密されており、前記分岐管と前記センサとは接続管を介して接続されており、前記圧力導入口の内径は前記接続管の内径よりも小さく設定されて」いるのに対し、引用発明の「微差圧センサ」は「コンデンサマイクロフォン型の差圧計センサ」であるが、その他の具体的な構成が不明である点。

<相違点5>
本件補正発明の「センサ」が「前記身体から離れた位置で視界から外れた位置に設けられている」のに対し、引用発明の「微差圧センサ」が具体的にどのような位置に設けられているかが不明である点。

<相違点6>
本件補正発明の「コントローラ」が「前記ポンプが停止状態のときにデータ処理された前記生体情報に基づいて前記ポンプを駆動制御する」のに対し、引用発明の「就寝モニタ制御装置35」は、「就寝中の被験者の呼吸数データ」をもとに「極度な無呼吸状態が発生した場合は被験者が危険な状態であると判定して、駆動装置5に作動する指令を発する」(駆動制御する)が、「前記ポンプが停止状態のときにデータ処理」を行うものか不明である点。

<相違点7>
本件補正発明の「コントローラ」が「前記袋体への給気と前記袋体からの排気とを切り替える切替弁を制御して前記袋体の内圧を調整する構成」であるのに対し、引用発明の「就寝モニタ制御装置35」が「駆動装置5」に作動する指令を発し、「空気の流れを発生させるための駆動装置5の駆動方法として、チューブ51の端部に空気室を設け、これを加圧する動作と圧力を解放する動作を繰り返すことによりエアセル2内に空気の流れを発生させ、もって振動を発生させ」るが、「加圧する動作と圧力を解放する動作を繰り返す」ための具体的な構成が不明である点。

(5) 判断
ア 相違点1の判断
エアマットレスにおいて、袋体を複数で構成することが周知の技術(前記周知技術1参照)であり、吸排気機構とセンサを有する褥瘡予防用のエアマットレスも周知のもの(前記周知技術2参照)である。
そして、本件補正発明において「エアマットレス」を「褥瘡予防用」とすることが、他の構成との関係において格別の効果等を奏するものとはいえない。
よって、引用発明のエアマットレスとして、周知技術1、2をもとに、複数の袋体を有する、褥瘡予防用のエアマットレスを採用し、相違点1に係る構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

イ 相違点2の判断
引用発明と引用文献2技術事項1は、導圧管を介してエアマット1からの圧力変動を検出し、その生体情報を測定するという技術分野において一致する。
よって、引用発明の「駆動装置5」、「微差圧センサ15」、及び、「エアマット1」からの「エアチューブ51」を接続する構成として、引用文献2技術事項1の三叉導圧管により接続するものを適用し、相違点2に係る構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
また、三叉導圧管の外形形状として「T字状」のものは、引用文献2の【図8】(上記(3)イ(ア)参照。)に模式的にも記載されているように周知の構成であるから、三叉導圧管として「T字状」のものを選択し、引用文献2技術事項1の三叉導圧管の「T字状に分岐した部分」に「微差圧センサ15」を接続するようにすることは適宜設計し得る程度のことである。
そして、明細書の段落【0014】の「 本発明によれば、主流路となる外部接続用の管路に分岐管が接続され、前記分岐管にセンサが接続される構成であるので、前記袋体の固有振動や前記袋体が構成されるマットレス、ベッド、マット、ストレッチャー、枕、ソファ、椅子、座席等の固有振動からの振動を含む不要振動(ノイズ)は、前記分岐管にて減衰する。よって、感度を高めた構成となる。尚且つ、前記分岐管にセンサが接続される構成によってセンサを身体から離れた位置で視界から外れた位置に設ける設置の自由度が高くなる。」として、「分岐管」を接続することによる効果が記載されており、段落【0023】の「 分岐管7は、例えばPBT、PPS、PET、ポリウレタン、ナイロン、ポリオレフィン、フッ素樹脂等の樹脂材料、または、鉄鋼、ステンレス、アルミニウム、銅、黄銅等の金属材料、或いは樹脂材料と金属材料の複合材料からなり、その構成部品の一部にエラストマー、樹脂材料、金属材料を含む場合がある。図1の例では、分岐管7はT型となっている。なお、分岐管7はT型には限定されず、管路が分岐できれば分岐管7の形状や型式は問わない。例えば分岐管7はY型とする場合がある。」の記載を参酌すると、「分岐管」の形状によらない効果であることからみて、引用文献2技術事項の1の三叉導圧管により接続するものにおいても同様の効果を奏するものであり、格別のものといえない。

ウ 相違点3の判断
センサにより得た信号から心拍及び呼吸に関する信号を抽出する場合、呼吸に関する通過域は、0.05〜1Hzであり、心拍の場合、通過域は、2〜10Hz程度であり、即ち、呼吸に関する信号は心拍に関する信号より低い周波数帯であるという技術常識(前記技術常識参照)を踏まえると,引用発明の「心拍フィルタ31」及び「呼吸フィルタ32」は、上記のような周波数帯の信号を通過させるバンドパスフィルタであることが明らかである
そうすると、前記相違点は実質的な相違点ではない。
また、仮に前記相違点3が実質的な相違点であるとしても、当業者が適宜選択しうる設計事項の範囲内のものである。

エ 相違点4の判断
引用発明の「微差圧センサ」と引用文献3技術事項は、エアマットに接続する圧力検出装置という点で共通するものである。
また、引用文献3技術事項の「Oリング」が弾性体であることも明らかといえる。
よって、引用発明の「微差圧センサ」として引用文献3技術事項の第1筐体部20の接続部25の内径は、接続管124の内径よりも小さく、Oリングによりコンデンサマイクを支持し気密性を維持する構成を採用し、相違点4に係る構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
なお、本件補正発明では「コンデンサマイクロフォン」が「ハウジング内で弾性体を介して支持され」る方向について限定されていないが、コンデンサマイクロフォンの側面方向で指示されるものであるとしても、そのような構成は圧力センサにおいて周知の技術(上記周知技術3参照)にすぎない。

オ 相違点5の判断
引用発明の「微差圧センサ」は、エアチューブ14を介して「エアマット1」と接続するものであって、センサ類を被験者の視界内に配置する必要も通常ないから、引用発明の「微差圧センサ」を「エアマット1」から離れた適宜の位置に配置するように設計し、相違点5に係る構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

カ 相違点6の判断
引用文献2には、空気ポンプ53を停止してから、圧力センサ55によるエアマット1の圧力変動を検出することによって、生体情報の測定を開始することが記載されている(上記引用文献2技術事項2参照)。そうすると、「生体情報の測定」と「空気ポンプ53」の駆動を同時に行わないように設計することも、引用文献2技術事項2の技術範囲でなし得ることであって、その際に測定データの処理もポンプ停止時に行うか否かは設計事項にすぎない。
よって、上記イを踏まえ、引用発明の「駆動装置5」、「微差圧センサ15」、及び、「エアマット1」からの「エアチューブ51」を接続する構成として、引用文献2技術事項1の三叉導圧管により接続するものを適用した際に、引用文献2技術事項2をもとに、相違点6に係る構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

キ 相違点7の判断
駆動装置により空気室へ加圧する動作と圧力を解放する動作、いわゆるポンプによる動作を行う具体的な構成として、給気と排気とを切り替える切替弁を制御するような構成は、例示するまでもない周知の構成である。
よって、引用発明において「空気の流れを発生させるための駆動装置5の駆動方法として、チューブ51の端部に空気室を設け、これを加圧する動作と圧力を解放する動作を繰り返すことによりエアセル2内に空気の流れを発生させ、もって振動を発生させ」るための具体的構成として、該周知の構成を採用し、相違点7に係る構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

(6) 請求人の主張について
ア 主張の概要
請求人は審判請求書において次の主張をしている。
「引用文献1に記載の発明は、睡眠時の窒息状態を監視するための生体情報の計測を目的とした就寝監視装置であり、また、引用文献2に記載の発明は、搬送中の患者の応急処置を可能にするための生体情報の計測を目的とした患者救急搬送具であり、また、引用文献3に記載の発明は、コンデンサマイクロフォン型の圧力検出体の支持構造であり、そして、引用文献4に記載の発明は、圧力センサによって内圧チェックすることで姿勢を認識、ないし加圧または抜いたりして駆動する構成になりますので、引用文献1に引用文献2〜4を組み合わせたとしても、依然として、エアマットが複数の場合の構成は明らかではありません。つまり、本願発明の、空気圧で身体を支持する複数の袋体と前記袋体に設けられてポンプに接続する管路を有する褥瘡予防用のエアマットレスに適用される生体情報の計測とは課題および構成が相違します。したがって、本願のような「空気圧で身体を支持する複数の袋体からの不要振動(ノイズ)の影響をなくして感度を高めるとともに、センサを身体から離れた位置で視界から外れた位置に簡易に設けることで、被検者に拘束感や違和感を与えることなく、リラックスした状態で、安定して継続的に生体情報を計測することができる(段落0018)、ポンプからの給排気による圧力変動を予めキャンセルして、より高精度の計測ができる(0039)。さらに、一つのセンサによって複数種類の生体情報を、感度を高めて抽出することができる(段落0055)」という顕著な作用効果は想到し得ないと思料いたします。」

イ 検討
上記の主張について検討する。
(ア) エアマットの構成について
引用発明におけるエアマットの構成についての相違点は、上記(5)アで判断したとおりである。

(イ) 効果について
a 「センサを身体から離れた位置で視界から外れた位置に簡易に設けることで、被検者に拘束感や違和感を与えることなく、リラックスした状態で、安定して継続的に生体情報を計測することができる」効果について、上記(5)オで相違点5について判断したとおり、引用発明においても被験者の身体から離れ、視界から外れた適宜の位置に「微差圧センサ」を配置することは、当業者であれば適宜設計し得る程度のことであり、格別の効果を奏するともいえない。
(なお、そもそも引用発明の被験者はエアマット上に横臥している前提なのであるから、その視界は閉じられているか、もしくは上方に向けられており、通常の配置を行えばセンサは自然に視界から外れるものと考えられる。)

b 「空気圧で身体を支持する複数の袋体からの不要振動(ノイズ)の影響をなくして感度を高める」効果について、明細書の段落【0014】に記載された「本発明によれば、主流路となる外部接続用の管路に分岐管が接続され、前記分岐管にセンサが接続される構成であるので、前記袋体の固有振動や前記袋体が構成されるマットレス、ベッド、マット、ストレッチャー、枕、ソファ、椅子、座席等の固有振動からの振動を含む不要振動(ノイズ)は、前記分岐管にて減衰する。よって、感度を高めた構成となる。」を参酌するに、上記(5)イで相違点2について判断したとおりであり、格別の効果を奏するともいえない。

c 「ポンプからの給排気による圧力変動を予めキャンセルして、より高精度の計測ができる」効果について、明細書の段落【0039】に記載された「本実施形態では、ポンプ8が作動するとセンサ2の電源はオフとなるか、センサ2からの電気信号は回路途中で遮断されてコントローラ9が受信しない。ポンプ8からの給排気による圧力変動は、生体5の生体情報に係る微小圧力変動に対して過大であり、キャンセルする必要がある。そして、ポンプ8が停止してポンプ8からの給排気による圧力変動がなくなると、センサ2の電源はオンとなるか、センサ2からの電気信号はバンドパスフィルタ3を介してコントローラ9が受信する。この構成によって、ポンプ8からの給排気による圧力変動を予めキャンセルして、より高精度の計測を可能とする。」を参酌するに、上記(5)カで相違点6について判断したとおりであり、格別の効果を奏するともいえない。
(なお、本件補正発明は「ポンプが停止状態のときにデータ処理され」るものであって、ポンプが停止状態のときにセンサをオフする構成は備えていない。)

d 「一つのセンサによって複数種類の生体情報を、感度を高めて抽出することができる」効果については、引用発明も複数種類の生体情報を抽出するもであり、感度を高める点については上記B、Cで検討したとおりであるから、格別な効果を奏するともいえない。

よって、上記(1)の主張を検討しても上記(5)ア〜キで説示した判断を左右するものではないから、請求人の主張を採用することはできない。

(7) 小括
上記(5)ア〜キで検討のとおり、相違点1〜7はいずれも当業者であれば容易に想到し得たものであり、また、前記相違点1〜7を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する効果は引用発明、引用文献2技術事項1及び2、引用文献3技術事項、周知技術1〜3から予測し得る程度のことである。
よって、本件補正発明は、引用発明、引用文献2技術事項1及び2、引用文献3技術事項、周知技術1〜3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正は、同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するものであり、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記第2において説示したとおり却下されたので、本願の請求項1〜4に係る発明は、令和3年5月7日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2の1(1)に記載された事項により特定されるとおりのものである。

2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由のうち、本願発明についての理由は、次の理由2である

理由2(特許法29条2項) 本願の請求項1に係る発明は、本願出願前に日本国内において、頒布された下記の引用文献1〜3に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。


引用文献1.特開2000−197670号公報
引用文献2.特開2003−24386号公報
引用文献3.特開2011−247711号公報

3 引用文献に記載された事項
前記引用文献1〜3には、前記第2の2(3)において認定したとおりの「引用発明」、「引用文献2技術事項1」、「引用文献2技術事項2」、「技術常識」、「引用文献3技術事項」が記載されていると認められる。

4 対比・判断
本願発明は、本件補正発明(上記第2の2(2) 本件補正発明参照。)から、「生体情報計測装置」を「空気圧で身体を支持する複数の袋体と前記袋体に設けられてポンプに接続する管路を有する褥瘡予防用のエアマットレスに適用される生体情報計測装置」とする限定、
「分岐管」と「センサ」を「前記ポンプと前記袋体とを接続する一つの分岐管」と「前記分岐管におけるT字状に分岐した部分に接続されて前記袋体の圧力変動を検知し電気信号に変換する一つのセンサ」とする限定、
「センサ」を「前記センサは前記身体から離れた位置で視界から外れた位置に設けられ」とする限定、
「コントローラ」を「前記コントローラは、前記ポンプが停止状態のときにデータ処理された前記生体情報に基づいて前記ポンプを駆動制御するとともに前記袋体への給気と前記袋体からの排気とを切り替える切替弁を制御して前記袋体の内圧を調整する構成」とする限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに当該発明特定事項の一部を限定したものに相当する本件補正発明が、前記第2の2において説示したとおり、引用発明、引用文献2技術事項1及び2、引用文献3技術事項、周知技術1〜3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同様の理由により、本願発明も引用発明、引用文献2技術事項1及び2、引用文献3技術事項、周知技術1〜3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-03-31 
結審通知日 2022-04-05 
審決日 2022-04-18 
出願番号 P2017-140766
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01L)
P 1 8・ 121- Z (G01L)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 中塚 直樹
特許庁審判官 居島 一仁
濱本 禎広
発明の名称 生体情報計測装置  
代理人 特許業務法人綿貫国際特許・商標事務所  

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