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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09K
管理番号 1386091
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-11-20 
確定日 2022-03-25 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6699785号発明「摩擦材及び摩擦部材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6699785号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の〔1−5〕について訂正することを認める。 特許第6699785号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
1 本件特許に係る出願は、平成23年6月7日に出願された特願2011−127572号(以下「原出願」という。)の一部を平成28年6月22日に新たな特許出願とした特願2016−123632号の一部を平成29年10月25日に新たな特許出願とした特願2017−206611号の一部を更に令和元年5月23日に新たな特許出願としたものであって、令和2年5月7日に特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、同年同月27日に特許掲載公報が発行された。
2 その後、本件の請求項1〜5に係る特許に対して、令和2年11月20日に特許異議申立人 金島 雅生(以下「申立人A」という。)が特許異議の申立てを行った。
3 また、本件の請求項1〜5に係る特許に対して、令和2年11月27日に特許異議申立人 亀卦川 巧(以下「申立人B」という。)が特許異議の申立てを行った。
4 令和3年4月5日に特許原簿上の特許権者の名義を、日立化成株式会社から、昭和電工マテリアルズ株式会社に変更する申請がされ、同年6月4日に名義変更の完了が特許庁から、特許権者に通知された。
5 令和3年10月27日付で当審が取消理由を通知したところ、令和3年12月14日に特許権者は意見書の提出とともに、訂正請求(以下「本件訂正請求」といい、その内容を「本件訂正」という。)を行った。
6 令和4年1月6日付で当審が申立人A及び申立人Bに対して、本件訂正について意見を求める通知を送付したところ、同年2月10日に申立人Bから意見書が提出されたが、申立人Aからは意見書が提出されなかった。

第2 本件訂正についての判断
1 訂正の趣旨
特許権者が行った本件訂正の趣旨は、特許第6699785号の特許請求の範囲を本件訂正書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜5について訂正することを求める。」というものである。
2 訂正事項
本件訂正は、次の訂正事項からなるものである。当審が、訂正箇所に下線を付した。
訂正事項1
本件の特許請求の範囲の請求項1に、
「結合材、有機充填材、無機充填材及び繊維基材を含む摩擦材組成物を成形してなる摩擦材であって、
該摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として5質量%以下であり、銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量が0.5質量%以下であり、チタン酸塩の含有量が13〜24質量%であり、酸化ジルコニウムの含有量が5〜30質量%かつ粒子径が30μmを超える酸化ジルコニウムの含有量が1.0質量%以下であり、下記試験方法に従った試験の完了後、摩擦材摺動面にメタルキャッチが生成しない、摩擦材。
(試験方法)
制動前速度60km/h、制動条件1.96m/s2、2.94m/s2、3.92m/s2でそれぞれ2回ずつ、制動前温度を50℃から300℃まで50℃間隔で昇温する計36回の制動を行った後、250℃から50℃まで50℃間隔で降温し、かつ上記同様の制動条件による計30回の制動を行う。」と記載されているのを、
「結合材、有機充填材、無機充填材及び繊維基材を含む摩擦材組成物を成形してなる摩擦材であって、
該摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として5質量%以下(但し、0質量%を除く。)であり、銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量が0.5質量%以下であり、チタン酸塩の含有量が13〜24質量%であり、酸化ジルコニウムの含有量が5〜30質量%かつ粒子径が30μmを超える酸化ジルコニウムの含有量が1.0質量%以下であり、下記試験方法に従った試験の完了後、摩擦材摺動面にメタルキャッチが生成しない、摩擦材。
(試験方法)
制動前速度60km/h、制動条件1.96m/s2、2.94m/s2、3.92m/s2でそれぞれ2回ずつ、制動前温度を50℃から300℃まで50℃間隔で昇温する計36回の制動を行った後、250℃から50℃まで50℃間隔で降温し、かつ上記同様の制動条件による計30回の制動を行う。」と訂正する。(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2〜5も同様に訂正する。)
3 当審の判断
(1)一群の請求項について
訂正前の請求項1〜5について、請求項2〜5は、いずれも請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1〜5に対応する訂正後の請求項1〜5は、特許法第120条の5第4項に規定する関係を有する一群の請求項である。
(2)訂正事項1についての判断
ア 訂正の目的要件
(ア)訂正前の請求項1に係る発明では、「該摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として5質量%以下であり、」として、摩擦材組成物中の銅の含有量を特定していたが、前記銅の含有量について、銅元素として0質量%である場合が含まれるのか否かが明記されていない。
(イ)これに対して、訂正後の請求項1に係る発明では、「該摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として5質量%以下(但し、0質量%を除く。)であり、」という記載によって、摩擦材組成物中の銅の含有量について、銅元素として0質量%であることが含まれないことを明確にしたものといえるから、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的としたものと認められる。
イ 実質上の拡張・変更の有無
訂正事項1は、前記アの理由から理解できるように、摩擦材組成物中の銅の含有量が0質量%である場合を含まないことを明記したものといえ、カテゴリーや対象、目的を変更するものでないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものといえる。
新規事項の追加の有無
訂正事項1は、本件特許明細書の段落【0044】の【表1】に記載された「銅元素としての銅の含有量(質量%)」として記載されたデータから導き出せる構成であるから、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものといえる。
4 小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号の規定を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するから、本件訂正を認める。

第3 本件発明等 1 本件発明
前記第2で検討したように、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1〜5に係る発明(以下「本件発明1」〜「本件発明5」といい、まとめて「本件発明」ということもある。)は、以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
結合材、有機充填材、無機充填材及び繊維基材を含む摩擦材組成物を成形してなる摩擦材であって、
該摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として5質量%以下(但し、0質量%を除く。)であり、銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量が0.5質量%以下であり、チタン酸塩の含有量が13〜24質量%であり、酸化ジルコニウムの含有量が5〜30質量%かつ粒子径が30μmを超える酸化ジルコニウムの含有量が1.0質量%以下であり、下記試験方法に従った試験の完了後、摩擦材摺動面にメタルキャッチが生成しない、摩擦材。
(試験方法)
制動前速度60km/h、制動条件1.96m/s2、2.94m/s2、3.92m/s2でそれぞれ2回ずつ、制動前温度を50℃から300℃まで50℃間隔で昇温する計36回の制動を行った後、250℃から50℃まで50℃間隔で降温し、かつ上記同様の制動条件による計30回の制動を行う。
【請求項2】
前記繊維基材が、無機繊維、金属繊維、有機繊維及び炭素系繊維からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の摩擦材。
【請求項3】
前記繊維基材の含有量が5〜40質量%である、請求項1又は2に記載の摩擦材。
【請求項4】
前記チタン酸塩の比表面積が0.5〜2.5m2/gである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の摩擦材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の摩擦材と裏金とを用いて形成される摩擦部材。」
2 本件特許明細書の記載事項
(1)「【背景技術】
【0002】
自動車等には、その制動のためにディスクブレーキパッドやブレーキライニング等の摩擦材が使用されている。摩擦材は、ディスクローターやブレーキドラム等の対面材と摩擦することにより、制動の役割を果たしている。そのため、摩擦材には、高い摩擦係数と摩擦係数の安定性が求められるだけでなく、低温から高温にかかる広いブレーキ使用温度域において、パッド寿命が長いこと(耐摩耗性)が要求される。
【0003】
また、高温のブレーキ使用温度域では、摩擦材表面にメタルキャッチと呼ばれる金属摩耗粉の塊が生成し、ディスクローター及び摩擦材の摩耗量の増大、並びにブレーキの鳴きが発生することがある。そこで、高温での耐摩耗性向上及びメタルキャッチの抑制のために、金属硫化物を配合することが提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
一方、摩擦材には、結合材、繊維基材、無機充填材及び有機充填材等が含まれ、前記特性を発現させるために、一般的に、それぞれ1種もしくは2種以上を組み合わせたものが含まれる。繊維基材としては、有機繊維、金属繊維、無機繊維等が用いられ、耐摩耗性を向上させるために、金属繊維として銅及び銅合金の繊維が用いられている。また、摩擦材として、ノンアスベスト摩擦材が主流となっており、このノンアスベスト摩擦材には銅や銅合金等が多量に使用されている。
【0005】
しかし、銅や銅合金を含有する摩擦材は、制動時に生成する摩耗粉に銅を含み、河川、湖や海洋汚染等の原因となる可能性が示唆されているため、使用を制限する動きが高まっている。そこで、銅や銅合金等の金属を含有せず、酸化マグネシウムと黒鉛を摩擦材中に45〜80体積%含有し、酸化マグネシウムと黒鉛の比を1/1〜4/1とする方法が提案されている(特許文献2参照)。」
(2)「【0009】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、ノンアスベスト摩擦材組成物において、元素としての銅の含有量を一定以下とし、銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量を一定以下とし、チタン酸塩を特定量含有し、さらに特定粒子径の酸化ジルコニウムを含有することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
・・・
【発明の効果】
【0011】
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物は、自動車用ディスクブレーキパッドやブレーキライニング等の摩擦材に用いた際に、制動時に生成する摩耗粉中の銅が少ないことから環境に優しく、高温での耐摩耗性に優れ、かつメタルキャッチを抑制することができる。また、本発明のノンアスベスト摩擦材組成物を用いることにより、上記特性を有する摩擦材及び摩擦部材を提供できる。」
(3)「【0025】
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物は、上記チタン酸塩及び酸化ジルコニウム以外の無機充填材をさらに含有することができる。含有することができる無機充填剤としては、通常摩擦材に用いられるものであれば特に制限はない。
上記無機充填材としては、例えば、硫化錫、二硫化モリブデン、硫化鉄、三硫化アンチモン、硫化ビスマス、硫化亜鉛、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、ドロマイト、コークス、黒鉛、マイカ、酸化鉄、バーミキュライト、硫酸カルシウム、タルク、クレー、ゼオライト、ケイ酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、ムライト、クロマイト、酸化チタン、酸化マグネシウム、シリカ、酸化鉄、γ−アルミナ等の活性アルミナ等を用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、対面材への攻撃性低下の観点から、黒鉛、硫酸バリウムを含有することが好ましく、摩擦係数向上の観点から、三硫化アンチモンを含有することが好ましい。
【0026】
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物における無機充填材の含有量は、30〜80質量%であることが好ましく、40〜80質量%であることがより好ましく、60〜80質量%であることがさらに好ましい。無機充填材の含有量を30〜80質量%の範囲とすることで、耐熱性の悪化を避けることができる。なお、上記無機充填材の含有量には、前記チタン酸塩及び特定粒径の酸化ジルコニウムの含有量が含まれる。」
(4)「【0027】
(繊維基材)
繊維基材は、摩擦材において補強作用を示すものである。
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物に含まれる繊維基材としては、通常、繊維基材として用いられる、無機繊維、金属繊維、有機繊維、炭素系繊維等を用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。なお、ここでいう繊維基材には上述したチタン酸塩の繊維状のものは含まれない。
・・・
【0030】
上記金属繊維としては、耐クラック性や耐摩耗性の向上のため、銅又は銅合金の繊維を用いることができる。ただし、銅又は銅合金の繊維を含有させる場合、環境への優しさを考慮すると、該摩擦材組成物中における銅全体の含有量は、銅元素として5質量%以下の範囲であることを要する。
銅又は銅合金の繊維としては、銅繊維、黄銅繊維、青銅繊維等を用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0031】
また、上記金属繊維として、摩擦係数向上、耐クラック性の観点から銅及び銅合金以外の金属繊維を用いてもよいが、耐摩耗性の向上及びメタルキャッチ抑制の観点から含有量が0.5質量%以下であることを要する。好ましくは、摩擦係数の向上の割には耐摩耗性の悪化及びメタルキャッチの発生がしやすいため、銅及び銅合金以外の金属繊維を含有しないこと(含有量0質量%)である。
銅及び銅合金以外の金属繊維としては、例えば、アルミニウム、鉄、亜鉛、錫、チタン、ニッケル、マグネシウム、シリコン等の金属単体又は合金形態の繊維や、鋳鉄繊維等の金属を主成分とする繊維が挙げられ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。」
(5)「【実施例】
【0039】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明によって何ら制限を受けるものではない。
なお、実施例(参考例を含む)及び比較例に示す評価は次のように行った。
【0040】
(1)高温での耐摩耗性の評価
耐摩耗性は、制動前ブレーキ温度500℃、制動前速度60km/h、減速度0.3Gで1000回制動を行い、試験前後の摩擦材厚みから、摩擦材の摩耗量を算出した。
(2)メタルキャッチ生成の評価
メタルキャッチ生成の評価では、制動前速度60km/h、制動条件1.96m/s2、2.94m/s2、3.92m/s2でそれぞれ2回ずつ、制動前温度を50℃から300℃まで50℃間隔で昇温する計36回の制動を行った後、250℃から50℃まで50℃間隔で降温し、かつ上記同様の制動条件による計30回の制動を行った。試験完了後、摩擦材摺動面に生成したメタルキャッチの大きさと数を、以下の基準で評価した。
A:メタルキャッチの生成無し
B:長径2mm未満のメタルキャッチが1個〜2個生成
C:長径2mm未満のメタルキャッチが3個以上生成
D:長径2mm以上のメタルキャッチが1個以上生成
(3)摩擦係数の評価
摩擦係数は、自動車技術会規格JASO C406に基づき測定し、第2効力試験における摩擦係数の平均値を算出した。
【0041】
なお、上記耐摩耗性の評価、メタルキャッチ生成及び摩擦係数の評価は、ダイナモメータを用い、イナーシャ7kgf・m・s2で評価を行った。また、ベンチレーテッドディスクロータ(株式会社キリウ製、材質FC190)、一般的なピンスライド式のコレットタイプのキャリパを用いて実施した。」
(6)「【0042】
[実施例(参考例を含む)1〜13及び比較例1〜5]
ディスクブレーキパッドの作製
表1に示す配合比率に従って材料を配合し、実施例(参考例を含む)及び比較例の摩擦材組成物を得た。なお、表1の各成分の配合量の単位は、摩擦材組成物中の質量%である。
この摩擦材組成物をレディーゲミキサー(株式会社マツボー社製、商品名:レディーゲミキサーM20)で混合し、この混合物を成形プレス(王子機械工業株式会社製)で予備成形し、得られた予備成形物を成形温度145℃、成形圧力30MPaの条件で5分間成形プレス(三起精工株式会社製)を用いて日立オートモティブシステムズ株式会社製の裏金と共に加熱加圧成形し、得られた成形品を200℃で4.5時間熱処理し、ロータリー研磨機を用いて研磨し、500℃のスコーチ処理を行って、ディスクブレーキパッド(摩擦材の厚さ11mm、摩擦材投影面積52cm2)を得た。
作製したディスクブレーキパッドについて、前記の評価を行った結果を表1に示す。
【0043】
なお、実施例(参考例を含む)及び比較例において使用した各種材料は次のとおりであ
る。
(結合材)
・フェノール樹脂:日立化成工業株式会社製(商品名:HP491UP)
(有機充填剤)
・カシューダスト:東北化工株式会社製(商品名:FF−1056)
(無機充填剤)
・チタン酸塩1:大塚化学株式会社製 (商品名:テラセスL)
成分:チタン酸リチウムカリウム、形状:燐片状
メジアン径:25μm、比表面積:0.6m2/g
・チタン酸塩2:大塚化学株式会社製 (商品名:テラセスPS)
成分:チタン酸マグネシウムカリウム、形状:燐片状
メジアン径:4μm、比表面積:2.5m2/g
・チタン酸塩3:大塚化学株式会社製 (商品名:テラセスTF−S)
成分:チタン酸カリウム、形状:燐片状
メジアン径:7μm、比表面積:3.5m2/g
・チタン酸塩4:株式会社クボタ製 (商品名:TXAX−MA)
成分:チタン酸カリウム、形状:板状
比表面積:1.5m2/g
・チタン酸塩5:東邦マテリアル株式会社製 (商品名:TOFIX−S)
成分:チタン酸カリウム、形状:柱状
メジアン径:6μm、比表面積:0.9m2/g
・チタン酸塩6:大塚化学株式会社製 (商品名:ティスモD)
成分:チタン酸カリウム、形状:繊維状
比表面積:7.0m2/g
・酸化ジルコニウム1:第一稀元素化学工業株式会社製
(商品名:BR−3QZ、平均粒子径2.0μm、最大粒子径15μm)
・酸化ジルコニウム2:第一稀元素化学工業株式会社製
(商品名:BR−QZ、平均粒子径6.5μm、最大粒子径26μm)
・酸化ジルコニウム3:第一稀元素化学工業株式会社製
(商品名:BR−12QZ、平均粒子径8.5μm、最大粒子径45μm)
・黒鉛:TIMCAL社製(商品名:KS75)
(繊維基材)
・アラミド繊維(有機繊維):東レ・デュポン株式会社製(商品名:1F538)
・鉄繊維(金属繊維):GMT社製(商品名:#0)
・銅繊維(金属繊維):Sunny Metal社製(商品名:SCA−1070)
・鉱物繊維(無機繊維):LAPINUS FIBERS B.V製(商品名:RB240 Roxul 1000、平均繊維長300μm)
【0044】
【表1】

【0045】
実施例では500℃での摩擦材摩耗量が少なく、優れた耐摩耗性を示し、メタルキャッチを抑制することができ、かつ高い摩擦係数を発現した。酸化ジルコニウムを含有しない比較例2、最大粒子径が30μmを超える酸化ジルコニウムを含有する比較例1、チタン酸塩の含有量が10質量%より少ない比較例3、チタン酸塩の含有量が35質量%より多い比較例4、並びに鉄繊維を1質量%含有する比較例5では、十分な耐摩耗性が得られず、またメタルキャッチの抑制をすることができなかった。」

第4 令和3年10月27日付の取消理由について
1 取消理由の概要
本件訂正前に通知された令和3年10月27日付けの取消理由の概要は、前記第3、1で摘記した本件発明の記載及び前記第3、2で摘記した本件特許明細書の記載を総合しても、本件発明1における「該摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として5質量%以下」という範囲に0質量%が含まれるかどうかが判然とせず、その記載が特許法第36条第6項第2号に規定される要件を満たさず、また、仮に0質量%を包含すると仮定すると、実施例による裏付けを欠いているから、本件発明1は特許法第36条第6項第1項に規定される要件も満たさないというものである。
2 当審の判断
前記1の取消理由に対して、本件訂正によって、本件発明1は「該摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として5質量%以下(但し、0質量%を除く。)」と訂正され、その範囲に0質量%が含まれないことが明らかになったため、前記1の取消理由は解消した。

第5 取消理由に採用しなかった申した理由について
1 申立人Aによる特許異議の申立理由
(1)証拠の一覧
申立人Aが提示した証拠は、次のとおりである。以下、甲第1号証を甲1などという。
甲1:特開2007−277418号公報
甲2:特開2010−24429号公報
甲3:特開平10−195420号公報
甲4:特開平5−247441号公報
甲5:特開2004−182870号公報
(2)主張の概要
申立人Aの主張の概要は次のとおりである。
ア 本件発明1〜5は、甲1に記載された発明及び甲1〜5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明であって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であり、特許法第113条第2号に該当し、本件発明1〜5に係る特許は取り消されるべきものである。
イ 本件発明1〜5は、甲2に記載された発明及び甲1〜5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明であって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であり、特許法第113条第2号に該当し、本件発明1〜5に係る特許は取り消されるべきものである。
2 申立人Bによる特許異議の申立理由
取消理由に採用しなかった申立人Bの主張は、概ね次のとおりである。
(1)硝酸バリウム、黒鉛、三硫化アンチモンについて
前記第2、2(5)に摘記した本件特許明細書に記載された各
実施例においては、無機充填剤として、チタン酸塩、硝酸バリウム、黒鉛、三流化アンチモン(当審注:三硫化アンチモンの誤記と認められる。以下では誤記をただして記載する。)、水酸化カルシウム、酸化ジルコニウムが用いられている。本件発明1においては、そのうち、チタン酸塩及び酸化ジルコニウムのみが特定されている。
そして、前記第2、2(5)に摘記した本件特許明細書に記載された各実施例においては、チタン酸塩及び酸化ジルコニウム以外の無機充填物のうち、硝酸バリウムが最も多く用いられており、また、本件明細書の表1に記載された実施例において、メタルキャッチ生成が評価Aとされている実施例においては、いずれも硝酸バリウムを研磨剤組成物中に31質量%含有しており、硝酸バリウムの含有量も発明の課題を解決するために必須なものである。
そうすると、本来は含有量が特定されていなければならないチタン酸塩及び酸化ジルコニウム以外の硝酸バリウム、黒鉛、三硫化アンチモン、水酸化カルシウムについて何ら特定されていない本件発明1の記載は実施可能要件、サポート要件及び明確性要件を満たさない。
(2)チタン酸カリウムについて
ア 特許異議申立書における主張
前記第3、2(6)に摘記した本件特許明細書の【0044】〜【0046】に記載された実施例1を基準として参考例4及び参考例7を見ると、チタン酸塩の比表面積が異なっているため、実施例1ではメタルキャッチ生成が「A」であるのに対して、参考例及び参考例7ではメタルキャッチ生成が「B」となっていることが読み取れる。そうすると、メタルキャッチが「A]となるか「B」となるかはチタン酸塩の比表面積が要因となっているが、本件特許明細書の段落【0009】では考察が不足している。
イ 令和4年2月10日付け意見書における主張
メタルキャッチが「A」となるためには、チタン酸塩の特定が必要であるため、チタン酸塩の特定を欠く本件発明は、課題を解決できない部分を含んでおり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を満たさないものである。
3 前記2の申立理由についての当審の判断
事案に鑑み、まず、前記2における申立人Bの主張について検討する。
(1)前記2(1)の申立理由について
ア 申立人Bの主張は、要するに実施例において用いられている一部の成分が、本件発明の成分として記載されていないから、本件発明が実施可能でなく、サポート要件を欠き、不明確というものである。
実施可能要件
前記第3、2に摘記した本件特許明細書を参照することにより、本件発明は実施できるから、実施例に用いられた成分を全て特許請求の範囲に記載しなければ実施可能要件を欠くという主張は、理由がない。
ウ サポート要件
実施例に用いられた成分を全て特許請求の範囲に記載しなければサポート要件を欠くという主張について、「硝酸バリウム」及び「チタン酸塩」については、後記するが、他の成分を欠くことにより本件発明の課題が解決できない理由についての具体的な立証がされていないから、この主張を採用することができない。
明確性要件
実施例に用いられた成分を全て特許請求の範囲に記載しなければ不明確となるという主張は、そもそも成り立たない。また、本件発明においては、チタン酸塩及び酸化ジルコニウム以外の硝酸バリウム、黒鉛、三硫化アンチモン、水酸化カルシウムは、任意成分とされていることは本件発明及び本件特許明細書から把握できるから、本件発明の記載が明確性要件を欠くということはできない。
(2)前記2(2)の申立理由について
実施可能要件
前記(1)イにおける検討と同様、前記第3、2に摘記した本件特許明細書を参照することにより、本件発明は実施できるから、実施例に用いられた成分である硝酸バリウムを本件発明の特定事項とするか否かにかかわらず、本件発明は実施可能である。
イ サポート要件
申立人Bの主張するように、前記第3、2(6)に摘記した本件特許明細書の実施例がいずれも硝酸バリウムの含有量が31質量%であると認められる。しかしながら、硝酸バリウムの含有量が31質量%でなければ、本件明細書に記載された課題が解決できないということはできない。したがって、本件発明が硝酸バリウムの含有量を規定するものでないからといって、サポート要件を満たさないということはできない。
明確性要件
前記(1)ウの検討と同様に、本件明細書から任意成分であると把握できる硝酸バリウムを発明特定事項とするか否かにかかわらず、本件発明が不明確であるということはできない。
(3)前記2(3)の申立理由について
ア チタン酸塩に関して、本件発明1においては、「チタン酸塩の含有量が13〜24質量%」と規定し、その比表面積を規定するものではない。(本件発明4において規定されている。)
イ しかしながら、本件発明1において規定された試験方法(以下「本件試験方法」という。)による「試験の完了後、摩擦材摺動面にメタルキャッチが生成しない、摩擦材」という特定もなされている。
ウ したがって、申立人Bの主張するように、チタン酸塩の比表面積がメタルキャッチの生成に影響を及ぼすとしても、本件発明1は、前記イにおける本件試験方法によりメタルキャッチが発生しない摩擦材組成物に限定されているのであるから、チタン酸塩もこの範囲内から選択する必要があるから、チタン酸塩の比表面積が本件発明1の特定事項となっていないことによって、本件発明1がサポート要件を満たさないということはできない。
(4)小括
以上のとおり、前記2の申立理由はいずれも成り立たない。
4 前記1の申立理由(進歩性)についての当審の判断
(1)甲1には次の記載がある。
(1a)「【請求項1】
繊維基材と充填材を結合剤によって結着させた摩擦材であって、
非ウィスカー状のチタン酸化合物塩と、生体溶解性の無機繊維を有しており、
前記非ウィスカー状のチタン酸化合物塩は、非ウィスカー状のチタン酸アルカリ金属塩と、非ウィスカー状のチタン酸アルカリ金属・アルカリ土類金属塩の少なくとも一つを含んでおり、
前記無機繊維は、生体溶解性であるとともに、平均繊維径が2〜7μm、アスペクト比が3以上であることを特徴とする摩擦材。」
(1b)「【0011】
本発明にかかる摩擦材は、繊維基材と充填材(摩擦調整剤)と結合剤を主体に有している。
充填材(摩擦調整剤)は、摩擦係数の調整、異音調整、錆防止などのために含まれるものであって、本形態では、非ウィスカー状のチタン酸化合物塩と、生体溶解性の無機繊維が含まれている。
【0012】
チタン酸化合物塩は、非ウィスカー状チタン酸アルカリ金属塩と非ウィスカー状チタン酸アルカリ金属・アルカリ土類金属塩の少なくとも一つ、すなわちいずれか一つまたは両方を含んでいる。
チタン酸化合物塩の添加量は、摩擦材全体の6〜38重量%であることが好ましく、10重量%以上、20重量%以上、30重量%以下、24重量%以下であることがより好ましい。」
(1c)「【0019】
他の充填材としては、その他の無機充填材,有機充填材,潤滑剤、金属粉が適宜含まれる。
その他の無機充填材としては、硫酸バリウム,水酸化カルシウム,酸化ジルコニウム,珪酸ジルコニウム,炭酸カルシウム,アルミナ,シリカ,マグネシア,雲母(マイカ),カオリン,タルク、硫化物などが含まれる。有機充填材としては、ゴム,カシューダストなどが含まれる。潤滑剤としては、黒鉛(グラファイト),三硫化アンチモン,二硫化モリブデン,二硫化亜鉛などが含まれる。
【0020】
繊維基材としては、金属繊維、有機繊維を適宜選択して含まれる。金属繊維としては、銅繊維,鉄繊維などを使用することができる。有機繊維としては、アラミド繊維(芳香族ポリアミド繊維)、耐炎性アクリル繊維などを使用することができる。これら繊維基材は、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合せて使用することもできる。
繊維基材の添加量は、摩擦材全体の5〜30重量%であることが好ましく、10重量%以上、20重量%以下であることがより好ましい。」
(1d)「【0023】
以下に、本発明に係る実施例1〜18と比較例1,2を具体的な数字を用いて説明する。
実施例1〜18に係る摩擦材と比較例1,2に係る摩擦材は、図1,2に示す原料成分と配合量を有する原料混合物から得た。
実施例1〜18に係る摩擦材は、図1,2に示すように板状6チタン酸カリウムと、生体溶解性の無機繊維を有している。板状6チタン酸カリウムとしては、メルト法によって生成した板状の6チタン酸カリウム(K2Ti6O13)(株式会社クボタ製のTXAX−A)を使用した。生体溶解性の無機繊維としては、シリカ・カルシア・マグネシア系のウィスカー状の生体溶解性セラミックスファイバー(新日化サーマルセラミックス製のSW607MAX)を使用した。
【0024】
比較例1に係る摩擦材は、図1に示すように板状6チタン酸カリウムと生体溶解性の無機繊維に代えて、ウィスカー状の8チタン酸カリウムを有している点において実施例と相違している。
比較例2に係る摩擦材は、生体溶解性の無機繊維に代えて、ゼオライトを有している点において実施例と相違している。
【0025】
実施例1〜5に係る摩擦材は、生体溶解性の無機繊維の平均繊維長さが異なっており、実施例1〜5の順に平均繊維長さが長くなっている。
実施例6〜11に係る摩擦材は、生体溶解性の無機繊維の添加量が異なっており、実施例6〜11の順に生体溶解性の無機繊維の添加量が多くなっている。
実施例12〜18に係る摩擦材は、板状6チタン酸カリウムの添加量が異なっており、実施例12〜18の順に板状6チタン酸カリウムの添加量が多くなっている。
【0026】
実施例1〜18と比較例1,2に係る摩擦材の製造方法は、先ず、図1,2に示す原料をアイリッヒミキサーによって5分間乾式にて混合することで原料混合物を得た。次に、原料混合物を成形温度160℃、成形圧力20MPa、成形時間10分の条件において加圧加熱成形し、成形物を230℃、3時間の条件において硬化させた。」
(1e)「【0027】
次に、摩擦材の特性を測定するための実験を行い、その実験結果を図3,4にまとめた。各特性は、以下のように測定した。
<摩擦性能> 「第1フェードμ」:JASO C406に準拠して、第1フェードにおける最低摩擦係数を測定し、0.2以上であれば○、0.2未満であれば△として判定した。
「高速効力μ」:JASO C406に準拠して、初速度130km/h、減速度0.6Gでの第2効力における平均摩擦係数を測定し、0.3以上であれば○、0.3未満であれば△として判定した。
【0028】
<環境試験> 温度と湿度の異なる複数の環境下において摩擦性能試験を行い、環境の違いによる摩擦係数の差を測定して、その差が小さいものを○、大きいものを×として判定した。
<耐摩耗性> L.A.市街地の実車走行試験を台上試験機に落とし込んだ試験(通称LACT試験、LACTシミュレーション試験)を行い、摩擦材の推定寿命を測定し、2.1万km以上であれば○、2.1万km未満であれば△として判定した。
<気孔率> JIS D4418に準拠して、オイル含浸気孔率を測定した。」
(1f)「【0029】
図3に示すように比較例1に係る摩擦材は、摩擦性能、環境試験、及び磨耗試験の各試験において良好な結果を得ることができた。しかし比較例1に係る摩擦材は、ウィスカー状のチタン酸カリウムを含んでいるために、環境衛生上好ましくないという問題があった。
【0030】
比較例2に係る摩擦材は、摩擦性能と磨耗試験において良好な結果を得ることができたが、環境試験において良好な結果を得られなかった。詳しくは、低温多湿時において摩擦係数が特に高くなることがわかった。このことからゼオライトを含むことによって、多湿時において摩擦材の摩擦係数が高くなり、摩擦係数が湿度によって不安定になることがわかった。
【0031】
実施例1〜5に係る摩擦材は、摩擦性能、環境試験及び磨耗試験の各試験において良好な結果が得られた。そして実施例1〜5の間で大きな差は、現れなかった。しかし実施例5に係る摩擦材は、実施例1〜4に係る摩擦材に比べて、混合分散が不均一になることがわかった。このことから生体溶解性の無機繊維の長さが1500μm以上になることによって、混合が不十分になることがわかった。したがって分散性の観点から、平均繊維長さが1000μm以下であることが好ましいことがわかった。」
(1g)「【0032】
実施例6〜11の実験結果から、実施例6〜11の順に気孔率が高くなることがわかった。そして気孔率が高くなることに連動して、フェード特性と高速効力が向上することがわかった。このことから生体溶解性の無機繊維の混合量を多くすることで気孔率が高くなり、フェード特性と高速効力が向上することがわかった。
【0033】
実施例6では、十分に高い気孔率が得られず、十分なフェード特性と高速効力を得ることができなかった。したがって生体溶解性の無機繊維の混合量が1重量%以上であることが好ましいことがわかった。
実施例11では、摩擦材の強度低下が生じることがわかった。その理由は、生体溶解性の無機繊維の混合量が多すぎて、気孔率が高くなりすぎるためである。したがって生体溶解性の無機繊維の混合量は、摩擦材の強度の観点から、8重量%以下、7重量%以下であることが好ましいことがわかった。
【0034】
実施例12〜18に係る摩擦材は、実施例12〜18の順に耐磨耗性が高くなることがわかった。したがって板状6チタン酸カリウムの混合量が多くなることで耐磨耗性が高くなることがわかった。そして耐磨耗性の観点から、その混合量が5重量%以上、6重量%以上であることが好ましいことがわかった。
【0035】
実施例では、上記特性の他に、相手材に生じるトランスファーフィルムの観察した。その結果、板状6チタン酸カリウムの効果によって生じるトランスファーフィルムの生成が生体溶解性の無機繊維によって阻害されないことがわかった。
また高温域(300℃以上)における摩擦係数も測定した。その結果、板状6チタン酸カリウムによって高い摩擦係数を得ることができ、生体溶解性の無機繊維による影響がほとんどないこともわかった。」
(1h)「【図1】


(1i)「【図2】


(1j)「【図3】


(1k)「【図4】


(2)甲2には次の記載がある。
(2a)「【請求項1】
繊維基質、無機充填材、結合材、有機充填材及び研削材を含む摩擦材組成物において、
前記研削材として50%粒径が0.1〜5.0μmの範囲の酸化ジルコニウムを15〜35質量%含有し、かつ酸化ジルコニウム以外のモース硬度が7以上の研削材を2.0質量%以下含有した摩擦材組成物。
【請求項2】
前記酸化ジルコニウム以外のモース硬度7以上の研削材が、珪酸ジルコニウムである請求項1記載の摩擦材組成物。
【請求項3】
前記珪酸ジルコニウムの50%粒径が、10μm以下である請求項2記載の摩擦材組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の摩擦材組成物を加熱加圧成形した摩擦材。
【請求項5】
請求項4記載の摩擦材と裏金とを一体化した摩擦部材。」
(2b)「【0010】
本発明者等は、上記目標を達成するため、微粒の酸化ジルコニウムを15〜35質量%含有し、かつ酸化ジルコニウム以外のモース硬度7以上の研削材の含有量を2.0質量%以下とすることで、相手材とのすり合わせ後の摩擦材摺動面が平滑となり、低温、高湿放置後、即ち−5℃〜5℃の条件で数時間放置した状態で一制動中の摩擦材表面と対面材の真実接触面積の増大が抑制され、その結果、低温、高湿放置後のμ−V負勾配が低減されることで低温、高湿放置後のブレーキ鳴きが低減することを見出した。
【0011】
また、前述の酸化ジルコニウム以外のモース硬度7以上の研削材として珪酸ジルコニウムを用いることで、摩擦係数が抑えられ、さらにブレーキ鳴きの発生が抑制されることを見出した。
また、前述の珪酸ジルコニウムの50%粒径が10μm以下であることで摩擦係数がより抑えられ、さらにブレーキ鳴きの発生が抑制されることを見出した。」
(2c)「【0021】
本発明に用いられる繊維基材としては、金属繊維、無機繊維、有機繊維等が挙げられる。
このうち、金属繊維としては、銅繊維、黄銅繊維、青銅繊維、鉄繊維、チタン繊維、亜鉛繊維、アルミ繊維等を用いることができ、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
無機繊維としては、セラミック繊維、生分解性セラミック繊維、鉱物繊維、炭素繊維、ガラス繊維、チタン酸カリウム繊維、シリケート繊維等を用いることができ、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができるが、環境物質低減の観点で吸引性のチタン酸カリウム繊維やセラミック繊維を含有しないことが好ましい。
【0023】
有機繊維としては、アラミド繊維、アクリル繊維、セルロース繊維、フェノール樹脂繊維等を用いることができ、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、繊維基材は、組成物中に5〜30質量%含有することが好ましく、10〜20質量%含有することがより好ましい。」
(2d)「【0024】
本発明に用いられる無機充填材としては、例えば、三硫化アンチモン、硫化スズ、二硫化モリブデン、硫化鉄、硫化ビスマス、硫化亜鉛、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、ドロマイト、コークス、黒鉛、マイカ、酸化鉄、バーミキュライト、粒状チタン酸カリウム、硫酸カルシウム、板状チタン酸カリウム、タルク、クレー、ゼオライト等を用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
前記無機充填材の含有量は、摩擦材用組成物において20〜80質量%であることが好ましく、30〜60質量%であることがより好ましい。」
(2e)「【0028】
また、本発明の摩擦材組成物は、前記の材料以外に、必要に応じてその他の材料を配合することができ、例えば、銅粉、亜鉛粉、黄銅粉等の金属粉末等を配合することができる。」
(2f)「【0031】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。本発明は何らこれらに限定されるものではない。
<実施例1〜4及び比較例1〜4>
(ディスクブレーキパッドの作製)
表1に示す配合比率に従って材料を配合し、実施例1〜4及び比較例1〜4の摩擦材組成物を得た。
【0032】
この摩擦材組成物をレディーゲミキサー〔(株)マツボー社製、商品名:レディーゲミキサーM20〕で混合し、この混合物を成形プレス〔王子機械工業(株)製)で予備成形し、得られた予備成形物を成形温度145℃、成形圧力30MPaの条件で5分間成形プレス(三起精工社製)を用いて加熱加圧成形した。
【0033】
得られた成形品を200℃で4.5時間熱処理し、ロータリー研磨機を用いて研磨し、500℃のスコーチ処理を行ってディスクブレーキパッドを得た。なお、本実施例では、摩擦材投影面積52cm2のディスクブレーキパッドを作製した。
【0034】
なお、表1中の酸化ジルコニウム(1)〜(3)、珪酸ジルコニウム(1)、(2)の詳細は以下の通りである。
酸化ジルコニウム(1):第一稀元素化学工業(株)製、商品名:BR−3QZ、D50%粒度=2.0μm
酸化ジルコニウム(2):第一稀元素化学工業(株)製、商品名:BR−QZ、D50%粒度=6.5μm
酸化ジルコニウム(3):第一稀元素化学工業(株)製、商品名:BR−12QZ、D50%粒度=8.5μm
珪酸ジルコニウム(1):第一稀元素化学工業(株)製、商品名:MZ−1000B、D50%粒度=1.5μm
珪酸ジルコニウム(2):第一稀元素化学工業(株)製、商品名:MZ−50B、D50%粒度=17.0μm
【0035】
(低温放置後ブレーキ鳴き及びμ−V負勾配の評価)
前記の方法で作製した実施例1〜4及び比較例1〜4のディスクブレーキパッドを、ブレーキダイナモ試験機を用いて低温放置後ブレーキ鳴きの評価を行った。実験には、一般的なピンスライド式のコレット型キャリパー及びキリウ社製ベンチレーテッドディスクローター(FC250)を用い、日産自動車製スカイラインV35の慣性モーメントで評価を行った。
また、低温放置後の鳴きを顕著に発生させるために、ディスクブレーキパッドには、一般的に鳴き防止のために装着される減衰シムを用いずに試験を行った。
【0036】
JASO C427に準拠したすり合わせ(初速度50km/h、減速度0.3G、制動前ブレーキ温度100℃、制動回数200回)を行ったあと、温度5℃、湿度40%RHの環境で4時間放置し、120秒のインターバルで車速10km/h、ブレーキ液圧0.5MPaの制動を50回繰り返した。
【0037】
その後、温度−5℃の環境で4時間放置し、120秒のインターバルで車速10km/h,ブレーキ液圧0.5MPaの制動を50回繰り返した。この試験において、5℃及び−5℃の環境で放置した後の低速低減速度の制動における75dB以上の音圧で計測されたブレーキ鳴きの発生率を実施例1〜4及び比較例1〜4のディスクブレーキパッドについて評価した。
【0038】
また、制動後半の車速に対する摩擦係数の変化を一次近似し、その傾きをμ−V勾配とした。このμ−V勾配の値は、負に大きいほうが制動後半の摩擦係数の増加が大きくブレーキ鳴きに対して不利なことを示す。このμ−V勾配は、5℃及び−5℃各々の環境で放置した後の制動50回の平均値を算出した。
【0039】
【表1】

※ 表1の配合量は、摩擦材組成物全体に対する質量%である。
【0040】
表1に示されるように、本発明の乗用車用ブレーキパッド向け摩擦材組成物は、摩擦材としたときに、比較例の摩擦材組成物に比較して低温放置後、特に、極低温放置後のブレーキ鳴きを低減することが明らかである。」
(3)甲3には次の記載がある。
(3a)「【0002】
【従来の技術】自動車のディスクブレーキパッド、ドラムブレーキシュー等として使用される摩擦材は、制動のために、その相手材であるディスクロータ、ブレーキドラムと摩擦係合し、運動エネルギーを熱エネルギーに変える重要な役割を担っている。そのため、摩擦材は十分な摩擦係数を有するだけでなく、高負荷にも耐えることができる高い強度と、優れた耐熱性と耐摩耗性を有することが必要である。また、その摩擦係数は、制動時に発生する熱による温度変化に対しても変化が少なく安定したものであることも必要である。更には、相手材に対する攻撃性が少ないこと、ノイズ(ブレーキ鳴き)やジャダーの発生が少ないこと等も重要であり、摩擦材に求められる特性は多項目に亘っている。
【0003】そこで、従来から、これらの各種の特性を満足するために、摩擦材は多くの材料からなる複合材として構成されている。即ち、摩擦材は、繊維状の材料からなる成分であって骨格を形成する繊維基材と、この繊維基材を結合保持する樹脂成分からなる樹脂結合剤と、粉末状の材料からなる成分であって、これらの繊維と結合剤とのマトリックス中に分散し充填される各種の充填剤とから形成されている。そして、この充填剤としては、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等の体質充填剤、グラファイト、二硫化モリブデン等の固体潤滑剤、カシューダスト、及び、アブレッシブ剤等が使用されている。
【0004】ここで、このアブレッシブ剤は、一般にモース硬さが5以上の硬度の高い無機質の微粉末からなり、その研磨または研削効果によって摩擦材の摩擦係数を高める作用を有している。ただし、それと同時にディスクロータ等の相手材を攻撃し、それを摩耗させる作用も有している。そのため、アブレッシブ剤は、主に、繊維基材としてアラミド繊維等を主材とする、所謂、非スチール系摩擦材の場合のように、繊維基材によって摩擦係数を確保し難い場合に使用されている。
【0005】具体的には、このようなアブレッシブ剤としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ケイ酸ジルコニウム等の微粉末が一般に知られ、また用いられている。また、アブレッシブ剤としては、これらの他に酸化ジルコニウムも知られている。そして、この酸化ジルコニウムによれば、比較的硬度も高いため、これを摩擦材中に配合することによってその摩擦係数を大幅に向上し、十分な摩擦係数を確保することができる。なお、このアブレッシブ剤としての酸化ジルコニウムは、一般に、天然に産するバッデリ石(バデライト)を微粉末状に粉砕することによって得られる。
【0006】なお、このような酸化ジルコニウムを使用した摩擦材に関する技術については、特に、特開平3−185030号公報、及び特開平5−247441号公報に開示のものがある。そして、その特開平3−185030号公報では、石綿及びスチール繊維を含まない非スチール系摩擦材において、その耐フェード性を向上し、フェード時の十分な摩擦係数を確保するために、30μm以上の比較的大きな平均粒子径を有する酸化ジルコニウムの使用を開示している。また、これに対して、本出願人等の先の出願にかかる特開平5−247441号公報においては、研磨性または研削性が高く、そのため、摩擦係数の向上効果が優れている反面、相手材攻撃性も高く、一般に鋳鉄からなる相手材の摩耗量を増大させる酸化ジルコニウムについて、その相手材の摩耗量を低減するために、粒子径が十分に小さい、平均粒子径で0.5〜20μmの酸化ジルコニウムの使用を提案している。なお、これらにおいて、酸化ジルコニウムの配合割合については、それぞれ0.1〜15.0体積%、1〜25重量%の広い範囲を開示している。」
(3b)「【0029】図1は本発明の実施例の摩擦材の配合組成(体積%)と評価試験結果を示す表図である。また、図2は比較例の摩擦材の配合組成(体積%)と評価試験結果を示す表図である。
【0030】〔摩擦材(パッド)の作製〕図1に示す配合組成(体積%)で、本発明の実施例1乃至実施例6の摩擦材を作製した。また、これらの実施例との対比のために、図2に示す配合組成(体積%)で、比較例1乃至比較例5の摩擦材も合わせて作製した。なお、これらの実施例及び比較例の摩擦材は、具体的には、自動車のディスクブレーキ用パッドとして具体化したものである。
【0031】図1のように、これらの実施例及び比較例の摩擦材(ディスクブレーキパッド)は、いずれも、繊維基材と、この繊維基材を結合保持する樹脂結合剤と、これらの繊維基材と樹脂結合剤とのマトリックス中に分散して充填されるアブレッシブ剤等の充填剤とから形成され、そのアブレッシブ剤として、酸化ジルコニウムを含むものである。そして、これらの各実施例及び比較例において、その酸化ジルコニウムの種類、及びその配合割合が種々に変えられている。なお、ここでは、次の各材料を使用した。
【0032】摩擦材の骨格を形成する繊維状の成分である繊維基材としては、主材としてのアラミド繊維と、主に耐熱強度と耐摩耗性を確保するためのチタン酸カリウムウィスカと、主に耐熱強度を確保すると共に摩擦係数をより向上するためのセラミックウール(アルミナ−シリカ系繊維)と、主に熱伝導性を確保するための銅繊維とを組合わせて使用した。そして、各実施例及び比較例において、アラミド繊維15体積%、チタン酸カリウムウィスカ10体積%、セラミックウール5体積%、及び銅繊維3体積%となるように配合した。したがって、ここでは、各摩擦材はスチール繊維を含まない非スチール系摩擦材として形成されている。
【0033】これらの繊維基材を結合保持する樹脂結合剤としては、フェノール樹脂(ノボラック型)を使用し、各実施例及び比較例において、17体積%の割合で配合した。
【0034】また、充填剤としては、アブレッシブ剤としての酸化ジルコニウムの他に、摩擦係数を調整し、また安定化するためのカシューダストと、耐摩耗性を向上するための固体潤滑剤であるグラファイトと、摩擦材のアルカリ性を保持し裏金の防錆性を高めるための消石灰と、体質充填剤としての硫酸バリウムとを使用した。そして、各実施例及び比較例において、カシューダスト17体積%、グラファイト5体積%、消石灰3体積%の割合で配合し、また硫酸バリウムの配合割合を酸化ジルコニウムの配合割合に応じて変えて全体で100体積%となるように調節した。つまり、各実施例及び比較例において、酸化ジルコニウム以外の成分とその配合割合は、実質的に同じである。」
(3c)「【図1】


(4)甲4には次の記載がある。
(4a)「【0002】
【従来の技術】従来、自動車のドラムブレーキ、ディスクブレーキ等に使用されているブレーキライニングなどの摩擦材はブレーキドラム、ディスクロータの回転を止め、運動エネルギーを熱エネルギーに変えるために高温となる。したがって、耐熱性、耐摩耗性が要求されるとともに、摩擦係数の変化の少ない安定した摩擦特性が要求される。そこで、これらの各種の特性を満足するために、摩擦材は複合材料によって構成されている。即ち、摩擦材としては、ガラス繊維、アラミド繊維等の基材繊維、グラファイト、二硫化モリブデン等の充填剤、フェノール樹脂等の結合剤などを複合化した材料より構成されている。
【0003】また、充填剤は、前記グラファイト、二硫化モリブデン等の潤滑剤の他、有機ダスト、金属粉末、無機配合剤などが使用されている。
【0004】更に、摩擦材の摩擦係数を確保するために、添加剤としてアルミナ等のモース硬さが7以上のアブレッシブ剤を使用したり、モース硬さが5〜8程度のアブレッシブ剤の添加量を多くし、或いは、粒子径の大きいものを使用することがある。」
(4b)「【0023】これらの結果より、酸化ジルコニウムの平均粒子径が0.5μm以下、或いは、添加量が1重量%以下では摩擦係数μに対する効果を発揮できず、また、粒子径が20μmを越え、或いは、添加量が25重量%を越えると、相手材の摩耗が著しくなると考えられる。このため、酸化ジルコニウムは平均粒子径を0.5〜20μmとし、かつ、その添加量を1〜25重量%とした場合が良好であると判断される。
【0024】このように、上記実施例の摩擦材は、基材繊維と、結合剤と、充填剤とからなる摩擦材において、前記充填剤の中に、平均粒子径が0.5〜20μmの酸化ジルコニウムを全体に対して1〜25重量%添加したものである。」
(5)甲5には次の記載がある。
(5a)「【0021】
(1)アブレシブ粒子
本発明に係る非石綿系摩擦材組成物において、アブレシブ粒子は、例えば、炭化ケイ素(SiC)などの金属炭化物や、アルミナ(Al2O3)、シリカ(二酸化ケイ素)(SiO2)、ジルコニア(酸化ジルコニウム)(ZrO2)、マグネシア(酸化マグネシウム)(MgO)、珪酸ジルコニウム、アルミナ−シリカ系のセラミック粒子などのセラミック材の粒子が挙げられ、一種のアブレシブと働くものである。これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。アブレシブとは、一般に摩擦面の硬い突起や硬い異物粒子により摩擦面が削りとられることを意味し、本発明では、アブレシブ粒子とは、摩擦材又は相手面(対面)を研削する作用を有する粒子を意味する。
【0022】
アブレシブ粒子の大きさとしては、平均粒子径が0.5〜10μm程度である。平均粒子径が0.5μm未満では、摩擦係数の安定性が悪くなり、一方、平均粒子径が10μmを超えると、対面攻撃性が悪くなる。
また、アブレシブ粒子の硬度としては、好ましくはモース硬度が6以上のものであり、特に好ましくはモース硬度が8以上のものである。これは、アルミニウム合金製のローターやドラム等に含まれる補強材としての硬質無機粒子素材の硬度が、一般的にモース硬度が6以上のものが多く、摩擦材の成分として、それ以上の硬度をもつ材料を使用することが望ましいからである。
【0023】
本発明においては、アブレシブ粒子の含有量は、非石綿系摩擦材組成物全量基準で、1〜10体積%程度である。含有量が1体積%未満では、摩擦係数の安定性が悪くなり、一方、含有量が10体積%を超えると、対面攻撃性が悪くなる。」
(5b)「【0037】
[実施例1〜8、比較例1〜6]
表1に示した繊維基材、結合材及び充填材の組成(成分)を配合した摩擦材組成物について、レディゲミキサーを用いて均一に混合し、加圧型内で100kg/cm2で1分間加圧して予備成形した。この予備成形物を成形温度160℃、成形圧力250kg/cm2の条件下で任意の時間成形し、その後、200℃で5時間熱処理(後硬化)を行い、実施例1〜8、比較例1〜6の非石綿系摩擦材のテストピースを作製した。得られたテストピースについて、1/10スケールテストピース試験機にて評価した。その結果を表1に示す。
【0038】
【表1】


(6)甲1を主引用例とする本件発明1の進歩性検討
ア 甲1発明
前記2(1i)に摘記した甲1の実施例15から、次の発明(以下「甲1発明」という。)が認定できる。
「銅繊維を12重量%、アラミド繊維を4重量%、板状6チタン酸カリウムを18重量%、平均繊維長300μmの生体溶解性無機繊維を3重量%、珪酸ジルコニウムを6重量%、マイカを5重量%、カシューダストを6重量%、硫酸バリウムを31重量%、水酸化カルシウムを2重量%、黒鉛を4重量%及び結合剤として粉末フェノール樹脂を9重量%含有する摩擦材。」
イ 対比
(ア)甲1発明の「銅繊維」及び「アラミド繊維」は、本件発明1の「繊維基材」に相当し、甲1発明の「結合剤として粉末フェノール樹脂」は、本件発明1の「結合材」に相当する。
(イ)甲1発明の「板状6チタン酸カリウム」、「平均繊維長300μmの生体溶解性無機繊維」、「珪酸ジルコニウム」、「マイカ」、「硫酸バリウム」、「水酸化カルシウム」、「黒鉛」はいずれも、本件発明1の「無機充填材」に相当し、甲1発明の「カシューダスト」が本件発明1における「有機充填材」に相当する。
(ウ)甲1発明において銅繊維以外の金属繊維は含まれていないから、本件発明1の「銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量が0.5質量%以下」を充足する。
(エ)甲1発明における「板状6チタン酸カリウムを18重量%」は、本件発明1の「チタン酸塩の含有量が13〜24質量%」を充足する。
ウ 一致点及び相違点
(ア)一致点
本件発明1と甲1発明とは、次の点で一致する。
「結合材、有機充填材、無機充填材及び繊維基材を含む摩擦材組成物を成形してなる摩擦材であって、
銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量が0.5質量%以下であり、チタン酸塩の含有量が13〜24質量%である
摩擦材」である点。
(イ)相違点
本件発明1と甲1発明とは、次の点で相違する。
<相違点1−1>
本件発明1は、本件特許の請求項1に規定された試験方法(以下「本件試験方法」という。)に従った試験の完了後、摩擦材摺動面にメタルキャッチが生成しない」と特定されているのに対して、甲1発明においてはそのように特定されていない点。
<相違点1−2>
本件発明1においては、「該摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として5質量%以下(但し、0質量%を除く。)」であるのに対して、甲1発明においては、「銅繊維を12重量%」含有する点。
<相違点1−3>
本件発明1においては、「酸化ジルコニウムの含有量が5〜30質量%かつ粒子径が30μmを超える酸化ジルコニウムの含有量が1.0質量%以下」と特定されているのに対して、甲1発明においては、「珪酸ジルコニウムを6重量%」と特定されている点。
エ 当審の判断
相違点1−1について検討する。
甲1発明において、本件試験方法に従って試験を行った場合に、メタルキャッチが生成するか否かは、明らかでない。したがって、相違点1−1は実質的な相違点である。
前記2(1)で摘記した甲1においては、制動性能や摩擦性については試験が行われているが、「メタルキャッチの生成」については何ら言及されていない。また、前記2(2)〜(4)に摘記した甲2〜甲4についても同様である。
そうすると、相違点1−2及び相違点1−3について検討するまでもなく、相違点1−1に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到しうるものということができない。
オ 申立人Aの主張に対して
甲1に開示されているチタン酸塩と本件特許明細書の実施例1〜3、5、6、11に用いられているチタン酸とが同じであるから、甲1発明においても、メタルキャッチが発生しないと主張する。
しかしながら、本件特許明細書の参考例10、12、13においても、同じチタン酸塩が用いられており、しかもメタルキャッチが「B」となっているのであるから、申立人Aの主張は採用できない。
(7)甲2を主引用例とする本件発明1の進歩性検討
ア 甲2発明
前記2(2f)に摘記した甲2の実施例2から、次の発明(以下「甲2発明」という。)が把握できる。
「繊維基質として、鉱物繊維を2質量%、銅繊維を10質量%、アラミド繊維を2質量%含有し、
無機充填剤として、硫酸バリウムを30質量%、ゼオライトを1質量%、粒状チタン酸カリウムを11質量%、黒鉛を3質量%、コークスを2質量%、マイカを4重量%、硫化錫を3質量%、水酸化カルシウムを2質量%含有し、
結合材として、フェノール樹脂を7質量%含有し、
有機充填剤として、カシューダストを4質量%、ゴム粉を1質量%含有し、
研削材として酸化ジルコニウムD50=2.0μmを18質量%含有する
摩擦材組成物」
イ 対比
(ア)甲2発明における「繊維基質」、「結合材」、「有機充填剤」、「摩擦材組成物」は、本件発明1の「繊維基材」、「結合材」、「有機充填材」、「摩擦材」にそれぞれ相当する。
(イ)甲2発明における研削材である「酸化ジルコニウムD50=2.0μm」は、無機化合物であるから、甲2発明の「無機充填剤」と合わせて、本件発明1の「無機充填材」に相当する。
(ウ)甲2発明においては、銅繊維以外の金属繊維は含まれないから、本件発明1の「銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量が0.5質量%以下」に相当する。
(エ)甲2発明の「粒状チタン酸カリウム」、「酸化ジルコニウムD50=2.0μm」は、本件発明の「チタン酸塩」、「酸化ジルコニウム」にそれぞれ相当し、甲2発明の酸化ジルコニウム含有量「18質量%」は、本件発明1の「酸化ジルコニウムの含有量が5〜30質量%。」を充足する。
ウ 一致点及び相違点
(ア)一致点
本件発明と1と甲2発明との一致点は次のとおりである。
「結合材、有機充填材、無機充填材及び繊維基材を含む摩擦材組成物を成形してなる摩擦材であって、
銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量が0.5質量%以下であり、
チタン酸塩を含有し、酸化ジルコニウムを含有する摩擦材」
(イ)相違点
<相違点2−1>
本件発明1は、本件試験方法に従った試験の完了後、摩擦材摺動面にメタルキャッチが生成しない」と特定されているのに対して、甲2発明においてはそのように特定されていない点。
<相違点2−2>
本件発明1においては、「該摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として5質量%以下」であるのに対して、甲2発明においては、「銅繊維を10質量%」含有する点。
<相違点2−3>
チタン酸塩について、本件発明1においては、「含有量が13〜24質量%」であるのに対して、甲2発明においては、「11重量%含有する」点。
<相違点2−4>
酸化ジルコニウムについて、本件発明1においては、「粒子径が30μmを超える酸化ジルコニウムの含有量が1.0質量%以下」であるのに対して、甲2発明においては、そのように特定されない点。
エ 当審の判断
相違点2−1について検討する。
前記(1)エと同様に相違点2−2ないし相違点2−4について検討するまでもなく、相違点2−1に係る本件発明の構成は、甲2発明に基づいて当業者が容易に想到しうるものではない。
(8)本件発明2〜5について
本件発明2〜5は、本件発明1を包含し、さらに発明特定事項を追加したものであるから、前記(6)、(7)と同様に、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
以上のとおり、当審からの取消理由は、本件訂正により解消され、その他の理由(申立人Aによる特許異議申立の理由及び申立人Bによる特許異議申立の理由)は成り立たないから、本件特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明に係る特許を取消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合材、有機充填材、無機充填材及び繊維基材を含む摩擦材組成物を成形してなる摩擦材であって、
該摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として5質量%以下(但し、0質量%を除く。)であり、銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量が0.5質量%以下であり、チタン酸塩の含有量が13〜24質量%であり、酸化ジルコニウムの含有量が5〜30質量%かつ粒子径が30μmを超える酸化ジルコニウムの含有量が1.0質量%以下であり、下記試験方法に従った試験の完了後、摩擦材摺動面にメタルキャッチが生成しない、摩擦材。
(試験方法)
制動前速度60km/h、制動条件1.96m/s2、2.94m/s2、3.92m/s2でそれぞれ2回ずつ、制動前温度を50℃から300℃まで50℃間隔で昇温する計36回の制動を行った後、250℃から50℃まで50℃間隔で降温し、かつ上記同様の制動条件による計30回の制動を行う。
【請求項2】
前記繊維基材が、無機繊維、金属繊維、有機繊維及び炭素系繊維からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の摩擦材。
【請求項3】
前記繊維基材の含有量が5〜40質量%である、請求項1又は2に記載の摩擦材。
【請求項4】
前記チタン酸塩の比表面積が0.5〜2.5m2/gである、請求項1〜3のいずれか 1項に記載の摩擦材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の摩擦材と裏金とを用いて形成される摩擦部材。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-03-17 
出願番号 P2019-096751
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C09K)
P 1 651・ 536- YAA (C09K)
P 1 651・ 537- YAA (C09K)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 亀ヶ谷 明久
特許庁審判官 瀬下 浩一
門前 浩一
登録日 2020-05-07 
登録番号 6699785
権利者 昭和電工マテリアルズ株式会社
発明の名称 摩擦材及び摩擦部材  
代理人 特許業務法人大谷特許事務所  
代理人 澤山 要介  
代理人 澤山 要介  
代理人 特許業務法人大谷特許事務所  

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