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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C02F
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C02F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C02F
管理番号 1386105
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-03-03 
確定日 2022-03-25 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6753543号発明「冷却水用スケール防止剤及び冷却水用スケール防止方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6753543号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜7〕、〔8〜15〕について訂正することを認める。 特許第6753543号の請求項1〜3、5〜10、12〜15に係る特許を維持する。 特許第6753543号の請求項4、11に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6753543号の請求項1〜15に係る特許についての出願は、2019年(令和1年)12月12日(優先権主張 2018年(平成30年)12月13日 日本国)を国際出願日とする出願であり、令和2年8月24日にその特許権の設定登録がされ、同年9月9日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、令和3年3月3日に特許異議申立人竹口美穂(以下、「申立人A」という。)により、同年同月5日に特許異議申立人伊藤賢一(以下、「申立人B」という。)により、それぞれ特許異議の申立てがなされ、同年6月1日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年7月26日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求があり、これに対し、同年10月25日に申立人Bより意見書の提出がなされ、申立人Aからは、期間内に何らの応答もなされなかったものである。

第2 訂正の適否
1 訂正事項
令和3年7月26日にされた訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項[1〜7]、[8〜15]を訂正の単位として訂正することを求めるものであり、その内容(訂正事項)は、次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1について、
「アクリル酸に由来する構造単位と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸に由来する構造単位を含む共重合体及びその塩」
とあるのを、
「アクリル酸と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸との共重合体及びその塩」
に、
「エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩、並びに1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B)」
とあるのを、
「エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B)」
にそれぞれ訂正する(請求項1を引用する請求項3、5〜7も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2について、
「アクリル酸に由来する構造単位と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸に由来する構造単位を含む共重合体及びその塩」
とあるのを、
「アクリル酸と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸との共重合体及びその塩」
に、
「エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩、並びに1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B)」
とあるのを、
「エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B)」
にそれぞれ訂正する(請求項2を引用する請求項3、5〜7も同様に訂正する。)。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に
「請求項1〜4のいずれかに記載の冷却水用スケール防止剤。」
とあるのを、
「請求項1〜3のいずれかに記載の冷却水用スケール防止剤。」
に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に
「請求項1〜5のいずれかに記載の冷却水用スケール防止剤。」
とあるのを、
「請求項1〜3、及び5のいずれかに記載の冷却水用スケール防止剤。」
に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7に
「[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩、並びに1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B2)」
とあるのを、
「[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B2)」
に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項8について、
「アクリル酸に由来する構造単位と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸に由来する構造単位を含む共重合体及びその塩」
とあるのを、
「並びにアクリル酸と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸との共重合体及びその塩」
に、
「エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩、並びに1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B)」
とあるのを、
「エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B)」
にそれぞれ訂正する(請求項8を引用する請求項10、12〜15も同様に訂正する。)。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項9について、
「アクリル酸に由来する構造単位と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸に由来する構造単位を含む共重合体及びその塩」
とあるのを、
「並びにアクリル酸と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸との共重合体及びその塩」
に、
「エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩、並びに1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B)」
とあるのを、
「エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B)」
にそれぞれ訂正する(請求項9を引用する請求項10、12〜15も同様に訂正する。)。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項11を削除する。

(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項12に
「請求項8〜11のいずれかに記載の冷却水用スケール防止方法。」
とあるのを、
「請求項8〜10のいずれかに記載の冷却水用スケール防止方法。」
に訂正する。

(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項13に
「請求項8〜12のいずれかに記載の冷却水用スケール防止方法。」
とあるのを、
「請求項8〜10、及び12のいずれかに記載の冷却水用スケール防止方法。」
に訂正する。

(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項14に
「請求項8〜13のいずれかに記載の冷却水用スケール防止方法。」
とあるのを、
「請求項8〜10、12、及び13のいずれかに記載の冷却水用スケール防止方法。」
に訂正する。

(13)訂正事項13
特許請求の範囲の請求項15について、
「[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6、1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩、並びに1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B2)」
とあるのを、
「[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6、1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B2)」
に、
「請求項8〜13のいずれかに記載の冷却水用スケール防止方法。」
とあるのを、
「請求項8〜10、12、及び13のいずれかに記載の冷却水用スケール防止方法。」
にそれぞれ訂正する。

2 訂正要件(訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について)の判断
(1)訂正事項1、2、7、8について
訂正事項1、2、7、8は、訂正前の請求項4の記載などに基づいて、「アクリル酸に由来する構造単位と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸に由来する構造単位を含む共重合体及びその塩」を、下位概念である「アクリル酸と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸との共重合体及びその塩」に限定し、さらに、訂正前の請求項1、2、8、9に択一的に記載されていた「1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸及びその塩」を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項3、9について
訂正事項3、9は、請求項を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項4、5、10〜13について
訂正事項4、5、10〜13は、いずれも、訂正事項3、9による請求項の削除に伴い選択的引用請求項の一部を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項6について
訂正事項6は、訂正前の請求項7に択一的に記載されていた「1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸及びその塩」を削除し、さらに、訂正事項3による請求項の削除に伴い選択的引用請求項の一部を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)独立特許要件について
本件特許異議の申立てにおいては、訂正前の全ての請求項1〜15について特許異議の申立てがされているので、前記請求項1〜15に対応する本件訂正後の請求項1〜15に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の規定(独立特許要件)は適用されない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜7〕、〔8〜15〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認容し得るものであるので、本件訂正後の請求項1〜3、5〜10、12〜15に係る発明(以下、各請求項に係る発明及び特許を項番に対応させて「本件発明1」、「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜3、5〜10、12〜15に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
マンガン、及びアルミニウムから選ばれる1種以上を含有する冷却水系の冷却水用スケール防止剤であって、
アクリル酸に由来する構造単位と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸に由来する構造単位を含む共重合体及びその塩、並びにアクリル酸と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸との共重合体及びその塩、から選ばれる1種以上の化合物である成分(A)と、
エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B)とを含む、冷却水用スケール防止剤。
【請求項2】
鉄を2mg/L以上含有する冷却水系の冷却水用スケール防止剤であって、
アクリル酸に由来する構造単位と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸に由来する構造単位を含む共重合体及びその塩、並びにアクリル酸と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸との共重合体及びその塩、から選ばれる1種以上の化合物である成分(A)と、
エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B)とを含む、冷却水用スケール防止剤。
【請求項3】
前記アクリル酸に由来する構造単位と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸に由来する構造単位を含む共重合体及びその塩が、アクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸との共重合体及びその塩、並びにアクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とtert-ブチルアクリルアミドとの共重合体及びその塩、から選ばれる1種以上の化合物である、請求項1又は2に記載の冷却水用スケール防止剤。
【請求項5】
前記冷却水系が、マンガン、及びアルミニウムから選ばれる1種以上を0.5mg/L以上5.0mg/L以下含有する、請求項1〜3のいずれかに記載の冷却水用スケール防止剤。
【請求項6】
前記成分(A)とエチレンジアミン四酢酸及びその塩、並びに3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B1)の質量比が、98:2〜13:87である、請求項1〜3、及び5のいずれかに記載の冷却水用スケール防止剤。
【請求項7】
前記成分(A)と[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B2)の質量比が、98:2〜38:62である、請求項1〜3、及び5のいずれかに記載の冷却水用スケール防止剤。
【請求項8】
マンガン、及びアルミニウムから選ばれる1種以上を含有する冷却水系の冷却水用スケール防止方法であって、
アクリル酸に由来する構造単位と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸に由来する構造単位を含む共重合体及びその塩、並びにアクリル酸と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸との共重合体及びその塩、から選ばれる1種以上の化合物である成分(A)と、
エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B)とを含む、冷却水用スケール防止剤を用いる、冷却水用スケール防止方法。
【請求項9】
鉄を2mg/L以上含有する冷却水系の冷却水用スケール防止方法であって、
アクリル酸に由来する構造単位と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸に由来する構造単位を含む共重合体及びその塩、並びにアクリル酸と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸との共重合体及びその塩、から選ばれる1種以上の化合物である成分(A)と、
エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B)とを含む、冷却水用スケール防止剤を用いる、冷却水用スケール防止方法。
【請求項10】
前記アクリル酸に由来する構造単位と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸に由来する構造単位を含む共重合体及びその塩が、アクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸との共重合体及びその塩、並びにアクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とtert-ブチルアクリルアミドとの共重合体及びその塩、から選ばれる1種以上の化合物である、請求項8又は9に記載の冷却水用スケール防止方法。
【請求項12】
前記冷却水系が、マンガン、及びアルミニウムから選ばれる1種以上を0.5mg/L以上5.0mg/L以下含有する、請求項8〜10のいずれかに記載の冷却水用スケール防止方法。
【請求項13】
前記冷却水系における前記成分(A)の濃度が、3.0mg/L以上20.0mg/L以下となるように前記成分(A)を添加する、請求項8〜10、及び12のいずれかに記載の冷却水用スケール防止方法。
【請求項14】
前記冷却水系におけるエチレンジアミン四酢酸及びその塩、並びに3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B1)の濃度が、0.5mg/L以上20.0mg/L以下となるように前記成分(B1)を添加する、請求項8〜10、12、及び13のいずれかに記載の冷却水用スケール防止方法。
【請求項15】
前記冷却水系における[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6、1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B2)の濃度が、0.5mg/L以上5.0mg/L以下となるように前記成分(B2)を添加する、請求項8〜10、12、及び13のいずれかに記載の冷却水用スケール防止方法。」

第4 令和3年6月1日付けで通知した取消理由及びこの取消理由において採用しなかった異議申立人による特許異議の申立理由の概要
1 令和3年6月1日付けで通知した取消理由の概要
(1)特許法第29条第1項第3号所定の規定違反(新規性欠如)(以下、「取消理由1」という。)
本件訂正前の請求項1〜15に係る発明は、後記2(3)B−甲1、B−甲2又はB−甲3に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

(2)特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)(以下、「取消理由2」という。)
本件訂正前の請求項1〜15に係る発明は、後記2(3)B−甲1、B−甲2又はB−甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

2 取消理由において採用しなかった異議申立人による特許異議の申立理由の概要
(1)申立人Aによる特許異議申立理由について
ア 特許法第29条第1項第3号新規性欠如)(以下、「申立理由A1」という。)
(ア)本件訂正前の請求項1〜5、8〜12に係る発明は、後記(3)A−甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

(イ)本件訂正前の請求項1〜5、7〜13、15に係る発明は、後記(3)A−甲3に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

イ 特許法第29条第2項進歩性欠如)(以下、「申立理由A2」という。)
(ア)本件訂正前の請求項7、13、15に係る発明は、後記(3)A−甲1に記載された発明及びA−甲2に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(イ)本件訂正前の請求項1〜5、7〜13、15に係る発明は、後記(3)A−甲2に記載された発明及びA−甲4〜A−甲7に記載の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

ウ 特許法第36条第4項第1号実施可能要件違反)(以下、「申立理由3」という。)
発明の詳細な説明において「アルミニウムを含有する冷却水系の冷却水用スケール防止剤」については、その具体的効果が何ら記載されておらず、当業者がその実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないため、サポート要件違反(当審注:申立人Aの特許異議申立書の記載のまま)に該当する。
よって、本件訂正前の請求項1、3〜8、10〜15に係る発明は、特許法第36条第4項第1号の規定に違反したものである。

(2)申立人Bによる特許異議申立理由について
ア 特許法第29条第1項第3号新規性欠如)(以下、「申立理由B1」という。)
(ア)本件訂正前の請求項1〜4、7〜11、13、15に係る発明は、後記(3)B−甲4に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

(イ)本件訂正前の請求項1、3〜5、8、10〜13、15に係る発明は、後記(3)B−甲5に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

(ウ)本件訂正前の請求項1、3、4、6、8、10、11に係る発明は、後記(3)B−甲6に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

(エ)本件訂正前の請求項1〜5、8〜12に係る発明は、後記(3)B−甲7に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

(オ)本件訂正前の請求項1、3、5、8、10、12に係る発明は、後記(3)B−甲8に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

(カ)本件訂正前の請求項2〜4、9〜11に係る発明は、後記(3)B−甲9に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

イ 特許法第29条第2項進歩性欠如)(以下、「申立理由B2」という。)
(ア)本件訂正前の請求項1〜4、7〜11、13、15に係る発明は、後記(3)B−甲4に記載された発明及びB−甲3、B−甲5、B−甲6、B−甲8、B−甲9に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(イ)本件訂正前の請求項1、3〜5、8、10〜13、15に係る発明は、後記(3)B−甲5に記載された発明及びB−甲1〜B−甲4、B−甲6、B−甲8に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(ウ)本件訂正前の請求項1、3、4、6、8、10、11に係る発明は、後記(3)B−甲6に記載された発明及びB−甲4、B−甲7に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(エ)本件訂正前の請求項1〜5、8〜12に係る発明は、後記(3)B−甲7に記載された発明及びB−甲1、B−甲3〜B−甲6、B−甲8に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(オ)本件訂正前の請求項1、3、5、8、10、12に係る発明は、後記(3)B−甲8に記載された発明及びB−甲1〜B−甲7に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(カ)本件訂正前の請求項2〜4、9〜11に係る発明は、後記(3)B−甲9に記載された発明及びB−甲4、B−甲7、B−甲8に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(3)証拠一覧
A−甲1:特開2009−240904号公報(申立人Aの甲第1号証)
A−甲2:特開昭62−95200号公報(申立人Aの甲第2号証)
A−甲3(B−甲5):特表2004−528439号公報(申立人Aの甲第3号証、申立人Bの甲第5号証)
A−甲4:全国工業用水道の水質に関するウェブサイト(http://www.jiwa-web.jp/kasen/15/)全国工業用水道の水質 配水(直近)エクセル資料(水質データ・配水地点・直近1年間(平成25年度)の水質)(申立人Aの甲第4号証)
A−甲5:佐賀県東部工業用水道事業に関するウェブサイト(https://www.pref.saga.lg.jp/kiji00346704/index.html) 佐賀県東部工業用水道事業の水質状況のPDF資料(申立人Aの甲第5号証)
A−甲6:特開平3−288586号公報(申立人Aの甲第6号証)
A−甲7:鈴木, “冷却水による腐食事例と対策”, 材料, 昭和62年4月, 第36巻, 第403号, p. 98-104(申立人Aの甲第7号証)
B−甲1:米国特許第4552665号明細書(申立人Bの甲第1号証)
B−甲2:米国特許第4900451号明細書(申立人Bの甲第2号証)
B−甲3:米国特許第8025840号明細書(申立人Bの甲第3号証)
B−甲4:特開平1−130794号公報(申立人Bの甲第4号証)
B−甲6:特開2014−70108号公報(申立人Bの甲第6号証)
B−甲7:特開2010−202893号公報(申立人Bの甲第7号証)
B−甲8:特開昭63−242399号公報(申立人Bの甲第8号証)
B−甲9:特開2016−155941号公報(申立人Bの甲第9号証)
なお、従たる証拠として提出されている、A−甲4は、全国工業用水道の水質に関し、特定の地域において、鉄濃度が1.9mg/L、マンガン濃度が0.34mg/Lであることが、A−甲5は、佐賀県東部工業用水道事業の水質状況に関し、佐賀県東部工業用水道事業の給水(処理水)水質状況(H29.6.5)のアルミニウム濃度が0.50mg/Lであることが、A−甲6は、開放循環冷却水系では、主に工業用水が循環使用されていることが、A−甲7は、一般的な開放循環式冷却水系の運転条件が開示されており、濃縮倍数が2〜5であることが、それぞれ記載された証拠である。

第5 当審の判断
1 取消理由1、申立理由A1及び申立理由B1(特許法第29条第1号第3号(新規性欠如))、並びに、取消理由2、申立理由A2及び申立理由B2(特許法第29条第2項進歩性欠如))について
ここでは事案に鑑み、新規性欠如及び進歩性欠如に関する理由(取消理由1及び2、申立理由A1、A2、B1、B2)について併せて検討することとする。
はじめに、取消理由で採用したB−甲1〜B−甲3を主引用例とした場合について検討し、次に、取消理由で採用しなかったA−甲1〜A−甲3、B−甲4〜B−甲9を主引用例とした場合について検討をする。
(1)B−甲1〜B−甲3を主たる証拠とした場合
ア B−甲1〜B−甲3に記載された発明
(ア)B−甲1に記載された発明
B−甲1の第1欄第5行〜第36行、第1欄第46行〜第2欄第6行、第2欄第14行〜第23行、第2欄第34行〜第36行の記載を、実施例であるExample 8の「co-polymer」、「phosphonate」、「manganese」に注目して整理すると、B−甲1には、以下の発明(以下、「B−甲1発明1」、「B−甲1発明2」という。)が記載されているといえる。

<B−甲1発明1>
「2 ppmのMn+2を含有する冷却水系の冷却水用スケール防止剤であって、1.0 ppmのAA/AMPSと、1.0 ppmのHEDPとを含む、冷却水系スケール防止剤。」

<B−甲1発明2>
「2 ppmのMn+2を含有する冷却水系の冷却水用スケール防止方法であって、1.0 ppmのAA/AMPSと、1.0 ppmのHEDPとを含む冷却水系スケール防止剤を使用する、冷却水系スケール防止方法。」

(イ)B−甲2に記載された発明
B−甲2のFIELD OF THE INVENTION、第2欄第15行〜第67行、Formula II、第3欄第1行〜第20行、第4欄第2行〜第47行、第9欄第5行〜第15行、Claims 1〜3の記載を、実施例である第7欄第44行〜第54行、第8欄第25行〜第35行、第8欄第40行〜第57行、TABLE 3、FIG.1, 3-5に注目して整理すると、「3.6 ppmのMn(II)」、「8 ppmのFe(II)」を含有する冷却水系と、「COP1」と「HEDP」を含有する「冷却水用スケール防止剤」が記載されているといえる。
また、B−甲2の第8欄第25行〜第35行、第8欄第40行〜第57行、FIG.4の実施例に着目すると、「COP1」、「HEDP」の含有比が2:1であり、全活性濃度が5、7、10 ppmであることから、「COP1」の濃度は、それぞれ10/3、14/3、20/3 ppmと解することができ、また同様に、「HEDP」の濃度は、5/3、7/3、10/3 ppmと解することができる。
以上を整理すると、B−甲2には、以下の発明(以下、「B−甲2発明1」、「B−甲2発明2」、「B−甲2発明3」、「B−甲2発明4」という。)が記載されている。

<B−甲2発明1>
「3.6 ppmのMn(II)を含有する冷却水系の冷却水用スケール防止剤であって、COP1とHEDPを質量比2:1で含有し、COP1を10/3、14/3、20/3 ppmで含有し、HEDPを5/3、7/3、10/3 ppmで含有する、冷却水系の冷却水用スケール防止剤。」

<B−甲2発明2>
「8 ppmのFe(II)を含有する冷却水系の冷却水用スケール防止剤であって、COP1とHEDPを質量比2:1で含有し、COP1を10/3、14/3、20/3 ppmで含有し、HEDPを5/3、7/3、10/3 ppmで含有する、冷却水系の冷却水用スケール防止剤。」

<B−甲2発明3>
「3.6 ppmのMn(II)を含有する冷却水系の冷却水用スケール防止方法であって、COP1とHEDPを質量比2:1で含有し、COP1を10/3、14/3、20/3 ppmで含有し、HEDPを5/3、7/3、10/3 ppmで含有する冷却水用スケール防止剤を使用する、冷却水系の冷却水用スケール防止方法。」

<B−甲2発明4>
「8 ppmのFe(II)を含有する冷却水系の冷却水用スケール防止方法であって、COP1とHEDPを質量比2:1で含有し、COP1を10/3、14/3、20/3 ppmで含有し、HEDPを5/3、7/3、10/3 ppmで含有する冷却水用スケール防止剤を使用する、冷却水系の冷却水用スケール防止方法。」

(ウ)B−甲3に記載された発明
B−甲3の第1欄第56行〜第2欄第7行、第2欄第18行〜第42行、第4欄第52行〜第67行、第10欄第16行〜第28行の記載を、実施例である第7欄第15行〜第8欄第12行の記載や、TABLE3の「3-13」〜「3-15」に注目して整理すると、B−甲3には、以下の発明(以下、「B−甲3発明1」、「B−甲3発明2」という。)が記載されているといえる。

<B−甲3発明1>
「0.5 ppmのAlを含有する冷却水系の腐食抑制処理のための組成物であって、4-8 ppmのAA/AHPSE/APESと10、20、40 ppmのAmmonia-HSAを含有する、冷却水系の腐食抑制処理のための組成物。」

<B−甲3発明2>
「0.5 ppmのAlを含有する冷却水系の腐食抑制処理のための方法であって、4-8 ppmのAA/AHPSE/APESと10、20、40 ppmのAmmonia-HSAを含有する組成物を使用する、冷却水系の腐食抑制処理のための方法。」

イ B−甲1を主引用例とした場合
(ア)本件発明1について
a B−甲1発明1との対比
本件発明1とB−甲1発明1とを対比すると、B−甲1発明1の「Mn+2」、「AA/AMPS」は、それぞれ本件発明1における「マンガン」、「アクリル酸に由来する構造単位と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸に由来する構造単位を含む共重合体及びその塩」に相当する。
そうすると両者は、「マンガン、及びアルミニウムから選ばれる1種以上を含有する冷却水系の冷却水用スケール防止剤であって、アクリル酸に由来する構造単位と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸に由来する構造単位を含む共重合体及びその塩である成分(A)を含む、冷却水用スケール防止剤。」である点で一致するものの、以下の点で相違している。

<相違点1>
本件発明1の冷却水用スケール防止剤は、成分(B)として、「エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物」を含むものであるのに対し、B−甲1発明1では、そのような特定事項を有していない点。

b 判断
相違点1について検討する。
B−甲1発明1は、B−甲1のBACKGROUND OF THE INVENTION(第1欄)をみると、井戸水や冷却水中にマンガンイオンやマンガン種が存在するが、水中での鉄、マンガン、アルミニウムの酸素反応生成物が金属方面に集まり、腐食等を引き起こすとの問題に対し、望ましくない反応種の粒径減少剤及び防止剤を提供することを発明の課題とするものと理解できる。そして、B−甲1の請求項1及び2によると、B−甲1発明1は、発明の課題を解決するために、「AA/AMPS」(アクリルアミドと2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)等の共重合体を、水中に添加するものであり、前記共重合体はホスホン酸塩等と組み合わせて添加するものであると理解できる。
しかしながら、B−甲1には、ホスホン酸塩として、HEDP(ヒドロキシエチリデンジホスホン酸)等が記載されているものの、本件発明1の相違点1に係る構成である、「エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物」は記載されていない。そうすると、上記相違点は実質的な相違点である。
さらに、B―甲1の実施例をみると、B−甲1発明1は、「AA/AMPS」(アクリルアミドと2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)等の共重合体と、HEDP(ヒドロキシエチリデンジホスホン酸)等のホスホン酸塩との組み合わせにより効果を発揮するものであると理解される一方、B−甲1には、B−甲1に記載された特定のホスホン酸塩を、記載のない他の化合物に置き換えることを動機付ける記載も示唆もない。
そうすると、上記相違点1に係る本件発明1の構成を、B−甲1発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。さらに、このような進歩性についての判断は、他の証拠をみても変わりはない。

c 小括
以上のとおり、上記相違点1は実質的な相違点であるし、また、上記相違点1に係る本件発明1の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明1は、B−甲1発明1ではないし、B−甲1発明1及びB−甲2〜B−甲9に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(イ)本件発明2について
a B−甲1発明1との対比
本件発明2とB−甲1発明1とを対比すると、両者は「冷却水系の冷却水用スケール防止剤であって、アクリル酸に由来する構造単位と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸に由来する構造単位を含む共重合体及びその塩である成分(A)含む、冷却水用スケール防止剤。」である点で一致するものの、少なくとも以下の点で相違している。

<相違点2>
本件発明2の冷却水用スケール防止剤は、成分(B)として、「エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物」を含むものであるのに対し、B−甲1発明1では、そのような特定事項を有していない点。

b 判断
上記相違点2について検討すると、上記(ア)bで検討した相違点1と同じであるから、上記(ア)bで説示したのと同じ理由により、相違点2は実質的な相違点であるし、また、上記相違点2に係る本件発明2の事項は、当業者が容易に想到し得るものあるとはいえない。
よって、本件発明2は、B−甲1発明1ではないし、B−甲1発明1及びB−甲2〜B−甲9に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(ウ)本件発明3、5〜7について
本件発明3、5〜7は、「冷却水用スケール防止剤」に係る発明であるが、いずれの発明も、発明特定事項に、少なくとも本件発明1又は本件発明2の「冷却水用スケール防止剤」に係る事項を含むため、本件発明1又は本件発明2が、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明3、5〜7も、B−甲1発明1ではないし、B−甲1発明1及びB−甲2〜B−甲9に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(エ)本件発明8〜10、12〜15
本件発明8及び9は、本件発明1及び2を方法の発明として規定したものであるが、表現上の形式的差異を除き、発明特定事項に実質的な差異はない。したがって、本件発明8及び9と、B−甲1発明1を方法として規定したB−甲1発明2との対比関係においては、少なくとも上記相違点1及び2が存在するが、上記(ア)b及び(イ)bで説示したのと同じ理由により、相違点1及び2は実質的な相違点であるし、また、上記相違点1及び2に係る本件発明8及び9の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。
また、本件発明10、12〜15は、「冷却水用スケール防止方法」に係る発明であるが、いずれの発明も、発明特定事項に、少なくとも本件発明8又は本件発明9の「冷却水用スケール防止方法」に係る事項を含むため、本件発明8又は本件発明9が、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明10、12〜15も、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、本件発明8〜10、12〜15は、B−甲1発明2ではないし、B−甲1発明2及びB−甲2〜B−甲9に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(オ)まとめ
以上のとおり、B−甲1を主引用例とする理由には、理由がない。

ウ B−甲2を主引用例とした場合
(ア)本件発明1について
a B−甲2発明1との対比
本件発明1とB−甲2発明1とを対比すると、B−甲2発明1の「Mn(II)」、「COP1」は、それぞれ本件発明1における「マンガン」、「アクリル酸と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸との共重合体及びその塩」に相当する。そうすると、両者は「マンガン、及びアルミニウムから選ばれる1種以上を含有する冷却水系の冷却水用スケール防止剤であって、アクリル酸と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸との共重合体及びその塩である成分(A)含む、冷却水用スケール防止剤。」である点で一致するものの、少なくとも以下の点で相違している。

<相違点3>
本件発明1の冷却水用スケール防止剤は、成分(B)として、「エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物」を含むものであるのに対し、B−甲2発明1では、そのような特定事項を有していない点。

b 判断
B−甲2発明1は、B−甲2のBACKGROUND OF THE INVENTION(第1欄)の記載によると、冷却水システムのような水系の内壁にデポジットが形成され、例えば、水中に数ppmの濃度で存在するマンガンがマンガンデポジットを形成するという問題に対し、冷却等における開放循環水系におけるマンガンの生成及びデポジットを抑制することを発明の課題とし、この発明の課題を、B−甲2の請求項1〜3によると、COP1(アクリル酸と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸との共重合体)等の重合体と、HEDP(ヒドロキシエチリデンジホスホン酸)等の有機ホスホン酸塩を含有する、冷却水用スケール防止剤の使用により解決するものであると理解できる。そして、B−甲2の第4欄第11〜24行によると、COP1等の重合体は、有機ホスホン酸塩と併用することで、デポジットの析出抑制性を高めることが好ましく、当該有機ホスホン酸塩としてヒドロキシエチリデンジホスホン酸等が例示されており、これらの記載からB−甲2発明1は、特定の重合体と特定の有機ホスホン酸塩の組み合わせによってデポジットが効果的に抑制されるという効果を発揮するものと理解できる。
しかしながら、B−甲2には、有機ホスホン酸塩の例として、相違点3に係る「エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物」は記載されていない。したがって、上記相違点は実質的な相違点である。
さらに、B−甲2発明1は、「COP1」(アクリル酸と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸との共重合体)と、HEDP(ヒドロキシエチリデンジホスホン酸)の組み合わせにより効果を発揮するものであるところ、B−甲2発明1において、HEDPに換えて、B−甲2に記載のない「エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物」を採用しようとする動機付けは存在しない。
そうすると、上記相違点3に係る本件発明1の構成を、B−甲2発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。さらに、このような進歩性についての判断は、他の証拠をみても変わりはない。

c 小括
以上のとおり、上記相違点3は実質的な相違点であるし、また、上記相違点3に係る本件発明1の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明1は、B−甲2発明1ではないし、B−甲2発明1及びB−甲1、B−甲3〜B−甲9に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(イ)本件発明2について
a B−甲2発明2との対比
本件発明2とB−甲2発明2とを対比すると、両者は「冷却水系の冷却水用スケール防止剤であって、アクリル酸と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸との共重合体及びその塩である成分(A)含む、冷却水用スケール防止剤。」である点で一致するものの、少なくとも以下の点で相違している。

<相違点4>
本件発明2の冷却水用スケール防止剤は、成分(B)として、「エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物」を含むものであるのに対し、B−甲2発明2では、そのような特定事項を有していない点。

b 判断
上記相違点4について検討すると、上記(ア)bで検討した相違点3と同じであるから、上記(ア)bで説示したのと同じ理由により、相違点4は実質的な相違点であるし、また、上記相違点4に係る本件発明2の事項は、当業者が容易に想到し得るものあるとはいえない。
よって、本件発明2は、B−甲2発明2ではないし、B−甲2発明2及びB−甲1、B−甲3〜B−甲9に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(ウ)本件発明3、5〜7について
本件発明3、5〜7は、「冷却水用スケール防止剤」に係る発明であるが、いずれの発明も、発明特定事項に、少なくとも本件発明1又は本件発明2の「冷却水用スケール防止剤」に係る事項を含むため、本件発明1又は本件発明2が、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明3、5〜7も、B−甲2発明1又はB−甲2発明2ではないし、B−甲2発明1及びB−甲1、B−甲3〜B−甲9に記載の事項、又は、B−甲2発明2及びB−甲1、B−甲3〜B−甲9に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(エ)本件発明8〜10、12〜15
本件発明8及び9は、本件発明1及び2を方法の発明として規定したものであるが、表現上の形式的差異を除き、発明特定事項に実質的な差異はない。したがって、本件発明8及び9とB−甲2発明1及びB−甲2発明2を方法として規定したB−甲2発明3及びB−甲2発明4との対比関係においては、少なくとも上記相違点3及び4が存在するが、上記(ア)b及び(イ)bで説示したのと同じ理由により、相違点3及び4は実質的な相違点であるし、また、上記相違点3及び4に係る本件発明8及び9の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。
また、本件発明10、12〜15は、「冷却水用スケール防止方法」に係る発明であるが、いずれの発明も、発明特定事項に、少なくとも本件発明8又は本件発明9の「冷却水用スケール防止方法」に係る事項を含むため、本件発明8又は本件発明9が、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明10、12〜15も、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、本件発明8〜10、12〜15は、B−甲2発明3又はB−甲2発明4ではないし、B−甲2発明3及びB−甲1、B−甲3〜B−甲9に記載の事項、又は、B−甲2発明4及びB−甲1、B−甲3〜B−甲9に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(オ)まとめ
以上のとおり、B−甲2を主引用例とする理由には、理由がない。

エ B−甲3を主引用例とした場合
(ア)本件発明1について
a B−甲3発明1との対比
本件発明1とB−甲3発明1とを対比すると、B−甲3発明1の「Al」、「Ammonia-HSA」は、それぞれ、本件発明1における「アルミニウム」、「3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩」に相当する。そうすると、両者は「マンガン、及びアルミニウムから選ばれる1種以上を含有する冷却水系の冷却水用スケール防止剤であって、エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B)を含む、冷却水用スケール防止剤。」である点で一致するものの、少なくとも以下の点で相違している。

<相違点5>
本件発明1の冷却水用スケール防止剤は、成分(A)として、「アクリル酸に由来する構造単位と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸に由来する構造単位を含む共重合体及びその塩、並びにアクリル酸と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸との共重合体及びその塩、から選ばれる1種以上の化合物」を含むものであるのに対し、B−甲3発明1では、そのような特定事項を有していない点。

b 判断
B−甲3発明1は、B−甲3のBACKGROUND OF THE INVENTION(第1欄)の記載によると、水システムにおけるスケールの堆積、金属の孔食を伴う腐食によるシステム効率への悪影響という問題に対し、冷却水系等の水系と接触する金属の腐食を抑制する方法を提供することを発明の課題とし、B−甲3のSUMMARY OF THE INVENTION(第1〜2欄)の記載によると、この発明の課題を、多価金属イオン及びポリヒドロキシコハク酸等の有機腐食防止剤又はデポジットコントロール剤化合物を水に添加することにより解決するものと理解できる。そして、B−甲3のTABLE3の「3-13」〜「3-15」によると、上記ポリヒドロキシコハク酸として、アンモニアヒドロキシコハク酸(Ammonia-HSA)を用いた場合に、px-HSAと同等の優れた性能を発揮するものと理解できる。
しかしながら、B−甲3発明1では、アンモニアヒドロキシコハク酸(Ammonia-HSA)と併用する成分が、「アクリル酸に由来する構造単位と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸に由来する構造単位を含む共重合体及びその塩、並びにアクリル酸と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸との共重合体及びその塩、から選ばれる1種以上の化合物」ではない。したがって、上記相違点は実質的な相違点である。
ここでB−甲3の他の記載を検討すると、B−甲3の第10欄第16〜28行には、ポリマー分散剤の例示的な記載があり、acrylic acid/allyl hydroxy propyl sulfonate ether等のポリマーが列挙されている。しかしながら、B−甲3には、アンモニアヒドロキシコハク酸(Ammonia-HSA)等の有機腐食防止剤又はデポジットコントロール剤化合物と、特定のポリマー分散剤との組み合わせ自体に着目した記載はなく、両者の最適な組み合わせを見いだすことにより金属の腐食を抑制することを直接的に教示する記載はない。したがって、B−甲3は、アンモニアヒドロキシコハク酸(Ammonia-HSA)と組み合わせて使用する分散剤として、多数例示されたポリマー分散剤から、相違点5に係る成分(A)を採用することを教示するものとは言い難い。
他方、本件発明1は、本件明細書の表2においてまとめられた実施例等に示されるように、特定の成分(A)と成分(B)との特定の組み合わせを見いだすことで、スケールの発生を抑制する冷却水用スケール防止剤を具現化したものである。
以上を考え合わせると、上記相違点5に係る本件発明1の構成を、B−甲3発明1に基づいて当業者が容易に想到し得たものということはできない。さらに、このような進歩性についての判断は、他の証拠をみても変わりはない。


c 小括
以上のとおり、少なくとも上記相違点5は実質的な相違点であるし、また、上記相違点5に係る本件発明1の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、他の相違点について判断するまでもなく、本件発明1は、B−甲3発明1ではないし、B−甲3発明1及びB−甲1、B−甲2、B−甲4〜B−甲9に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(イ)本件発明2について
a B−甲3発明1との対比
本件発明2とB−甲3発明1とを対比すると、両者は「マンガン、及びアルミニウムから選ばれる1種以上を含有する冷却水系の冷却水用スケール防止剤であって、エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B)を含む、冷却水用スケール防止剤。」である点で一致するものの、少なくとも以下の点で相違している。

<相違点6>
本件発明2の冷却水用スケール防止剤は、成分(A)として、「アクリル酸に由来する構造単位と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸に由来する構造単位を含む共重合体及びその塩、並びにアクリル酸と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸との共重合体及びその塩、から選ばれる1種以上の化合物」を含むものであるのに対し、B−甲3発明1では、そのような特定事項を有していない点。

b 判断
上記相違点6について検討すると、上記(ア)bで検討した相違点5と同じであるから、上記(ア)bで説示したのと同じ理由により、相違点6は実質的な相違点であるし、また、上記相違点6に係る本件発明2の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。
よって、本件発明2は、B−甲3発明1ではないし、B−甲3発明1及びB−甲1、B−甲2、B−甲4〜B−甲9に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(ウ)本件発明3、5〜7について
本件発明3、5〜7は、「冷却水用スケール防止剤」に係る発明であるが、いずれの発明も、発明特定事項に、少なくとも本件発明1又は本件発明2の「冷却水用スケール防止剤」に係る事項を含むため、本件発明1又は本件発明2が、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明3、5〜7も、B−甲3発明1及びB−甲1、B−甲2、B−甲4〜B−甲9に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(エ)本件発明8〜10、12〜15
本件発明8及び9は、本件発明1及び2を方法の発明として規定したものであるが、表現上の形式的差異を除き、発明特定事項に実質的な差異はない。したがって、本件発明8及び9と、B−甲3発明1を方法として規定したB−甲3発明2との対比関係においては、少なくとも上記相違点5及び6が存在するが、上記(ア)b及び(イ)bで説示したのと同じ理由により、相違点5及び6は実質的な相違点であるし、また、上記相違点5及び6に係る本件発明8及び9の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。
また、本件発明10、12〜15は、「冷却水用スケール防止方法」に係る発明であるが、いずれの発明も、発明特定事項に、少なくとも本件発明8又は本件発明9の「冷却水用スケール防止方法」に係る事項を含むため、本件発明8又は本件発明9が、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明10、12〜15も、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、本件発明8〜10、12〜15は、B−甲3発明2ではないし、B−甲3発明2及びB−甲1、B−甲2、B−甲4〜B−甲9に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(オ)まとめ
以上のとおり、B−甲3を主引用例とする理由には、理由がない。

(2)A−甲1〜A−甲3、B−甲4〜B−甲9を主引用例とした場合
ア A−甲1〜A−甲3、B−甲4〜B−甲9に記載された発明
(ア)A−甲1に記載された発明
A−甲1の請求項1及び4の記載によれば、A−甲1には、鉄鋼製造工程における循環冷却水系用スケール防止剤及びスケール防止方法として、以下の発明(以下、「A−甲1発明1」、「A−甲1発明2」という。)が記載されているといえる。

<A−甲1発明1>
「鉄鋼製造工程における循環冷却水系のマンガンと亜鉛のスケール析出防止剤であって、ホスホン酸又はその塩を含んでなる鉄鋼製造工程における循環冷却水系用スケール防止剤。」

<A−甲1発明2>
「鉄鋼製造工程における循環冷却水系のマンガンと亜鉛のスケール防止方法であって、該循環水系にホスホン酸又はその塩を含む鉄鋼製造工程の循環水系用スケール防止剤を添加することを特徴とする鉄鋼製造工程における循環水系用スケール防止方法。」

(イ)A−甲2に記載された発明
A−甲2の特許請求の範囲の請求項1及び4の記載によれば、A−甲2には、水系における金属類の腐食及びスケール防止剤及び当該スケール防止剤を使用する方法として、以下の発明(以下、「A−甲2発明1」及び「A−甲2発明2」という。)が記載されているといえる。

<A−甲2発明1>
(1)ホスホン酸および/またはその水溶性塩と、(2)アゾール類および/またはその水溶性塩と、(3)次式で示す単量体(A)


(ここで、X1、X2はそれぞれ独立に水素またはメチル基を、Mは水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、亜鉛、アンモニウム基又は有機アミン基を表す。)からなる群から選ばれる少なくとも1種の単量体と;
次式で示す別の単量体(B)

(ここでY1、Y2はそれぞれ独立に水素又はメチル基を、又はZは




または

を、
Mは水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、亜鉛、アンモニウム基又は有機アミン基を、R1、R2は水素又はメチル基を、nは1〜3の整数を表す。)からなる群から選ばれる少なくとも1種の単量体とを;必須単量体としてなる二元ないし四元共重合体とを、有効成分として含んでなることを特徴とする、水系における金属類の腐食およびスケールを同時に防止する防止剤において、
共重合体がアクリル酸および/またはメタクリル酸とスチレンスルホン酸の共重合体、アクリル酸および/またはメタクリル酸とトルエンスルホン酸の共重合体、アクリル酸および/またはメタクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の共重合体からなる群から選択される防止剤。」

<A−甲2発明2>
A−甲2発明1を使用する方法。

(ウ)A−甲3(B−甲5)に記載された発明
A−甲3の請求項1及び2の記載によれば、A−甲3には、水性系に暴露される表面でのスケール形成化学種の生成及び堆積を阻害する方法に使用する組成物及び当該阻害する方法として、以下の発明(以下、「A−甲3発明1」及び「A−甲3発明2」という。)が記載されているといえる。

<A−甲3発明1>
「水性系に暴露される表面でのスケール形成化学種の生成及び堆積を阻害する方法に用いられる、次式の水溶性又は水分散性ポリマーを含んでなる組成物。
【化1】

式中、Eはエチレン性不飽和化合物の重合後に残る繰返し単位であり、R1はH又は低級(C1〜C4)アルキルであり、Gは−CH2−又は−CHCH3−であり、R2は−(−CH2−CH2−O−)n−又は−(−CH2−CHCH3−O−)m−(ただし、n及びmは約1〜100である。)であり、XはSO3、PO3又はCOOであり、ZはH、複数の水素又は水溶性陽イオン部分であり、Fは次式の繰返し単位であり、c及びdは正の整数であり、eは負以外の整数である。
【化2】

式中、R4はH又は低級(C1〜C4)アルキルであり、R5は炭素原子数1〜6のヒドロキシ置換アルキル又はアルキレンである。」

<A−甲3発明2>
「水性系に暴露される表面でのスケール形成化学種の生成及び堆積を阻害する方法であって、当該目的に有効な量の次式の水溶性又は水分散性ポリマーを水性系に添加することを含んでなる方法。
【化3】

式中、Eはエチレン性不飽和化合物の重合後に残る繰返し単位であり、R1はH又は低級(C1〜C4)アルキルであり、Gは−CH2−又は−CHCH3−であり、R2は−(−CH2−CH2−O−)n−又は−(−CH2−CHCH3−O−)m−(ただし、n及びmは約1〜100である。)であり、XはSO3、PO3又はCOOであり、ZはH、複数の水素又は水溶性陽イオン部分であり、Fは次式の繰返し単位であり、c及びdは正の整数であり、eは負以外の整数である。
【化4】

式中、R4はH又は低級(C1〜C4)アルキルであり、R5は炭素原子数1〜6のヒドロキシ置換アルキル又はアルキレンである。」

(エ)B−甲4に記載された発明
B−甲4の請求項1の記載によれば、B−甲4には、水性システム中の金属イオンの安定化方法に使用する添加物及び当該水性システム中の金属イオンの安定化方法として、以下の発明(以下、「B−甲4発明1」及び「B−甲4発明2」という。)が記載されているといえる。

<B−甲4発明1>
「水性システム中の金属イオンの安定化法に使用される添加物であって、前記水性システムに水溶性コポリマーおよび水溶性燐化合物を重量比10:1〜1:10で加えることを含んでなり;前記コポリマーが3〜5個の炭素原子を有する不飽和モノカルボン酸あるいはジカルボン酸またはそれらの水溶性塩より選ばれる少なくとも1種のカルボン酸を少なくとも30重量%含み;前記コポリマーが1,000〜50,000の重量平均分子量を有し;および前記燐化合物がホスホネート、ホスフェート、およびそれらの混合物より選ばれる添加物。」

<B−甲4発明2>
B−甲4発明1を使用する水性システム中の金属イオンの安定化方法。

(オ)B−甲6に記載された発明
B−甲6の請求項1、【0001】の記載によれば、B−甲6にはスケール防止剤として用いられるキレート化合物含有組成物及び当該組成物を使用する方法として、以下の発明(以下、「B−甲6発明1」及び「B−甲6発明2」という。)が記載されているといえる。

<B−甲6発明1>
「下記一般式(1)【化1】

(式中、X1〜X4は、同一若しくは異なって、水素原子、アルカリ金属原子又はアンモニウム基を表す。)で表される化合物と、ポリ(メタ)アクリル酸系重合体と、水とを必須成分とし、該キレート化合物の含有量は、組成物の水を除いた部分に対し10〜90質量%であり、該ポリ(メタ)アクリル酸メタアクリル酸系重合体の含有量は、組成物の水を除いた部分に対し10〜90質量%であり、水の含有量が30〜80質量%である、キレート化合物含有組成物。」

<B−甲6発明2>
B−甲6発明1を使用する方法。

(カ)B−甲7に記載された発明
B−甲7の請求項1の記載によれば、B−甲7には腐食及びスケール防止用液体組成物及び当該組成物を使用する方法として、以下の発明(以下、「B−甲7発明1」及び「B−甲7発明2」という。)が記載されているといえる。

<B−甲7発明1>
「(1)亜鉛、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、リン酸亜鉛から選択される一種以上、(2)ベンゾトリアゾール類、(3)有機ホスホン酸、ホスフィノポリカルボン酸、ホスホノカルボン酸、リン酸、マレイン酸系重合体、イタコン酸系重合体、スルホン酸基含有ポリマーから選択される一種以上を含有する水性混合物に硫酸を加えてpHを0.5から2.5に調整することを特徴とする腐食及びスケール防止用液体組成物。」

<B−甲7発明2>
B−甲7発明1を使用する方法。

(キ)B−甲8に記載された発明
B−甲8の特許請求の範囲の請求項1の記載によれば、B−甲8には水系のマンガンによるスケール形成と腐食の防止法に使用する組成物及び当該組成物を使用する方法として、以下の発明(以下、「B−甲8発明1」及び「B−甲8発明2」という。)が記載されているといえる。

<B−甲8発明1>
「マンガンが不溶性化合物として沈殿しがちであるような濃度および条件下でマンガンを含有する水路系における好ましくないマンガン沈積を防止する方法に使用される組成物において、
式:

〔式中A、B、C、D、EおよびFは独立に水素、−CH2PO3H2、または

またはホスホン酸ラジカルの塩を表し、XとYは独立に水素、メチルまたはエチルラジカルである;nは2または3である;mとm′はそれぞれ0〜10の数である、但しアミンの水素の50%以上はリン含有基によって置換されている;Rは直鎖、分枝鎖、環式、複素環式または置換した複素環式構造を有する炭化水素残基である;但しm≧1またはm′≧1であるときにEおよびF置換基は他の窒素原子の他の置換基と同一または異なる基であり、各Rは他のRと同一または異なる基である〕で示され、窒素とリンがアルキレンまたは置換アルキレンラジカルによって相互連絡している有機アミノホスホン酸を前記水に加えることから成る改良を施す方法に使用される組成物。」

<B−甲8発明2>
B−甲8発明1を使用する方法。

(ク)B−甲9に記載された発明
B−甲9の【請求項1】、【産業上の利用可能性】【0104】の記載によれば、B−甲9には、スケール防止剤の用途に用いられる(メタ)アクリル酸系重合体組成物及び当該組成物を使用する方法として、以下の発明(以下、「B−甲9発明1」及び「B−甲9発明2」という。)が記載されているといえる。

<B−甲9発明1>
「スケール防止剤の用途に用いられる、(メタ)アクリル酸(塩)由来の構造単位とスルホン酸基含有モノマー由来の構造単位とを有する(メタ)アクリル酸系重合体と鉄を含む組成物であって、該鉄1モルに対して0.01モル以上のキレート剤を含む、(メタ)アクリル酸系重合体組成物。」

<B−甲9発明2>
B−甲9発明1を使用する方法。

イ A−甲1を主引用例とした場合
(ア)本件発明1について
a 対比
本件発明1とA−甲1発明1とを対比すると、両者は、少なくとも以下の相違点を有するものと認められる。

<相違点7>
本件発明1の冷却水用スケール防止剤は、「アクリル酸に由来する構造単位と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸に由来する構造単位を含む共重合体及びその塩、並びにアクリル酸と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸との共重合体及びその塩、から選ばれる1種以上の化合物である成分(A)と、エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B)」を、両者含むものであるのに対し、A−甲1発明1では、そのような特定事項を有していない点。

b 判断
上記相違点7について検討すると、A−甲1発明1の循環冷却水系用スケール防止剤には、「ホスホン酸又はその塩」を含むものの、「エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物」を含むものであるかは明らかではない。A−甲1の【請求項2】には、循環冷却水系用スケール防止剤には、「ホスホン酸又はその塩」が「1−ヒドロキシエチリデンー1,1−ジホスホン酸、2−ホスホノブタンー1,2,4−トリカルボン酸、及びそれらの塩から選ばれる少なくとも1種である」と記載されているが、本件発明1において特定される成分(B)とは異なる化合物である。さらに、A−甲1の【0012】には、「ホスホン酸又はその塩」の例として、多数の化合物が記載されているが、相違点7に係る成分(B)は記載されていない。したがって、上記相違点は実質的な相違点である。
次に、当該相違点に係る本件発明1の構成の容易想到性について検討する。
A−甲1の【0007】には、【発明が解決しようとする課題】として、鉄鋼製造工程における循環冷却水系で発生するマンガンと亜鉛を含むスケールの発生を防止し、かつ、一旦析出したスケール成分中のマンガンを効率的に溶解して、前記循環冷却水系におけるスケール問題を解決することを発明の課題とすることが記載され当該発明の課題を解決するために、同【0008】の【課題を解決するための手段】によれば、ホスホン酸又はその塩を含んだ循環冷却水系用スケール防止剤を提供するものと理解できる。
さらに、A−甲1の【実施例】として、同【0017】〜【0019】には、「ホスホン酸又はその塩」として、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、2−ホスホノブタンー1,2,4−トリカルボン酸を採用したもののみが記載されている。そうすると、A−甲1に触れた当業者は、A−甲1からは、「ホスホン酸又はその塩」として、実施例に記載された「ヒドロキシエチリデンーデンー1,1−ジホスホン酸、2−ホスホノブタンー1,2,4−トリカルボン酸」または同【0012】に例示された化合物を、具体的なスケール防止効果を発揮する「ホスホン酸又はその塩」として認識するのであって、それ以外のホスホン酸又はその塩を、A−甲1発明1の「ホスホン酸又はその塩」として用いることを何ら想起し得ないというべきである。
他方、本件発明1においては、本件明細書の【実施例】であり【表2】としてまとめられた記載から、冷却水用スケール防止剤の成分(A)及び成分(B)として、特定の組み合わせを用いた場合において、スケールの発生が抑制されたことが確認されている。
以上を考え合わせると、上記相違点に係る本件発明1の構成を容易想到の事項ということはできない。さらに、このような進歩性についての判断は、他の証拠をみても変わりはない。

c 小括
以上のとおり、上記相違点7は実質的な相違点であるし、また、上記相違点7に係る本件発明1の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明1は、A−甲1発明1ではないし、A−甲1発明1及びA−甲4〜A−甲7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(イ)本件発明2について
a 対比
本件発明2とA−甲1発明1とを対比すると、両者は、少なくとも以下の相違点を有するものと認められる。

<相違点7’>
本件発明2の冷却水用スケール防止剤は、「アクリル酸に由来する構造単位と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸に由来する構造単位を含む共重合体及びその塩、並びにアクリル酸と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸との共重合体及びその塩、から選ばれる1種以上の化合物である成分(A)と、エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B)」を、両者含むものであるのに対し、A−甲1発明1では、そのような特定事項を有していない点。

b 判断
上記相違点7’について検討すると、上記(ア)bで検討したのと同じ相違点であるから、上記(ア)bで説示したのと同じ理由により、相違点7’は実質的な相違点であるし、また、上記相違点7’に係る本件発明2の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。
よって、本件発明2は、A−甲1発明1ではないし、A−甲1発明1及びA−甲4〜A−甲7に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(ウ)本件発明3、5〜7について
本件発明3、5〜7は、「冷却水用スケール防止剤」に係る発明であるが、いずれの発明も、発明特定事項に、少なくとも本件発明1又は本件発明2の「冷却水用スケール防止剤」に係る事項を含むため、本件発明1又は本件発明2が、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明3、5〜7も、A−甲1発明1及びA−甲4〜A−甲7に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(エ)本件発明8〜10、12〜15について
本件発明8及び9は、本件発明1及び2を方法の発明として規定したものであるが、表現上の形式的差異を除き、発明特定事項に実質的な差異はない。したがって、本件発明8及び9と、A−甲1発明1を方法として規定したA−甲1発明2との対比関係においては、少なくとも上記相違点7及び7’が存在するが、上記(ア)b及び(イ)bで説示したのと同じ理由により、相違点7及び7’は実質的な相違点であるし、また、上記相違点7及び7’に係る本件発明8及び9の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。
また、本件発明10、12〜15は、「冷却水用スケール防止方法」に係る発明であるが、いずれの発明も、発明特定事項に、少なくとも本件発明8又は本件発明9の「冷却水用スケール防止方法」に係る事項を含むため、本件発明8又は本件発明9が、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明10、12〜15も、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、本件発明8〜10、12〜15は、A−甲1発明2ではないし、A−甲1発明2及びA−甲4〜A−甲7に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(オ)まとめ
以上のとおり、A−甲1を主引用例とする理由には、理由がない。

ウ A−甲2を主引用例とした場合
(ア)本件発明1について
a 対比
本件発明1とA−甲2発明1とを対比すると、両者は、少なくとも以下の相違点を有するものと認められる。

<相違点8>
本件発明1の冷却水用スケール防止剤は、「アクリル酸に由来する構造単位と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸に由来する構造単位を含む共重合体及びその塩、並びにアクリル酸と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸との共重合体及びその塩、から選ばれる1種以上の化合物である成分(A)と、エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B)」を、両者含むものであるのに対し、A−甲2発明1では、そのような特定事項を有していない点。

b 判断
上記相違点8について検討すると、A−甲2発明1のスケール防止剤には、「ホスホン酸および/またはその水溶性塩」を含むものの、「エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物」を含むものであるかは明らかではない。A−甲2の特許請求の範囲の請求項2には、「ホスホン酸および/またはその水溶性塩」が、「2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリメチレンホスホン酸およびそれらの水溶性塩からなる群から選択される」ものであることが記載されているが、相違点8に係る成分(B)とは異なる化合物である。さらに、A−甲2の4頁右上欄12行〜左下欄15行には、「ホスホン酸および/またはその水溶性塩」の例として、多数の化合物が記載されているが、相違点8に係る成分(B)は記載されていない。したがって、上記相違点は実質的な相違点である。
次に、当該相違点に係る本件発明1の構成の容易想到性について検討する。
A−甲2の3頁左下欄の「C.発明が解決しようとする問題点」の記載によれば、A−甲2発明1は、重合リン酸類の代わりにホスホン酸類を使用することにより重合リン酸類による二次障害を解消し、かつ防食効果が優れており、さらにホスホンさらには水中のカルシウムや亜鉛と反応して生ずるスケール堆積およびその他の水中の難溶性塩の析出および堆積を防止できる、水系における金属類の腐食及びスケール堆積を同時に防止できる相乗効果的な水処理用組成物であって、かつ従来の重合リン酸類を使用している冷却水処理のような、リン酸系スケールを防止するための酸の添加によるpHコントロールを全く必要としない組成物を提供することを発明の課題とするものであると理解できる。
そして、A−甲2の3頁右下欄の「D.問題点を解決するための手段」の記載によれば、A−甲2発明1は、(1)ホスホン酸および/またはその水溶性塩と、(2)アゾール類および/またはその水溶性塩と、(3)次式で示す単量体(A)から選ばれる単量体と、別の単量体(B)とを必須単量体としてなる二元ないし四元共重合体とを有効成分として含むことで、腐食およびスケール防止の効果を発揮するものと理解できる。さらに、A−甲2の6〜8頁に記載される実施例によると、(1)ホスホン酸および/またはその水溶性塩と、(2)アゾール類および/またはその水溶性塩と、(3)重合体との特定の化合物の組み合わせにより、腐食およびスケール防止の効果を発揮していることがより一層理解できる。
そうすると、A−甲2に触れた当業者は、スケール防止効果を発現するためには、A−甲2に具体的に記載された化合物がスケール防止効果を発揮するものと認識する一方、A−甲2に記載されていない相違点8に係る成分(B)が同様の効果を発揮するとまで認識するとはいえない。
したがって、上記相違点に係る本件発明1の構成を容易想到の事項ということはできない。さらに、このような進歩性についての判断は、他の証拠をみても変わりはない。

c 小括
以上のとおり、上記相違点8は実質的な相違点であるし、また、上記相違点8に係る本件発明1の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、A−甲2発明1及びA−甲4〜A−甲7に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(イ)本件発明2について
a 対比
本件発明2とA−甲2発明1とを対比すると、両者は、少なくとも以下の相違点を有するものと認められる。
<相違点8’>
本件発明2の冷却水用スケール防止剤は、「アクリル酸に由来する構造単位と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸に由来する構造単位を含む共重合体及びその塩、並びにアクリル酸と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸との共重合体及びその塩、から選ばれる1種以上の化合物である成分(A)と、エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B)」を、両者含むものであるのに対し、A−甲2発明1では、そのような特定事項を有していない点。

b 判断
上記相違点8’について検討すると、上記(ア)bで検討したのと同じ相違点であるから、上記(ア)bで説示したのと同じ理由により、相違点8’は実質的な相違点であるし、また、上記相違点8’に係る本件発明2の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。
よって、本件発明2は、A−甲2発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(ウ)本件発明3、5〜7について
本件発明3、5〜7は、「冷却水用スケール防止剤」に係る発明であるが、いずれの発明も、発明特定事項に、少なくとも本件発明1又は本件発明2の「冷却水用スケール防止剤」に係る事項を含むため、本件発明1又は本件発明2が、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明3、5〜7も、A−甲2発明1及びA−甲4〜A−甲7に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(エ)本件発明8〜10、12〜15について
本件発明8及び9は、本件発明1及び2を方法の発明として規定したものであるが、表現上の形式的差異を除き、発明特定事項に実質的な差異はない。したがって、本件発明8及び9と、A−甲2発明1を方法として規定したA−甲2発明2との対比関係においては、少なくとも上記相違点8及び8’が存在するが、上記(ア)b及び(イ)bで説示したのと同じ理由により、相違点8及び8’は実質的な相違点であるし、また、上記相違点8及び8’に係る本件発明8及び9の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。
また、本件発明10、12〜15は、「冷却水用スケール防止方法」に係る発明であるが、いずれの発明も、発明特定事項に、少なくとも本件発明8又は本件発明9の「冷却水用スケール防止方法」に係る事項を含むため、本件発明8又は本件発明9が、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明10、12〜15も、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、本件発明8〜10、12〜15は、A−甲2発明2ではないし、A−甲2発明2及びA−甲4〜A−甲7に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(オ)まとめ
以上のとおり、A−甲2を主引用例とする理由には、理由がない。

エ A−甲3(B−甲5)を主引用例とした場合
(ア)本件発明1について
a 対比
本件発明1とA−甲3発明1とを対比すると、両者は、少なくとも以下の相違点を有するものと認められる。
<相違点9>
本件発明1の冷却水用スケール防止剤は、「アクリル酸に由来する構造単位と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸に由来する構造単位を含む共重合体及びその塩、並びにアクリル酸と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸との共重合体及びその塩、から選ばれる1種以上の化合物である成分(A)と、エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B)」を、両者含むものであるのに対し、A−甲3発明1では、そのような特定事項を有していない点。

b 判断
上記相違点9について検討すると、A−甲3発明1の組成物には、「エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物」は含まれていないから、当該相違点は実質的な相違点である。
次に、当該相違点に係る本件発明1の構成の容易想到性について検討する。
A−甲3の【0001】、【0016】には、冷却系、ボイラー系及びガス洗浄系のような水性系での腐食を阻害しスケール形成化合物の生成及び堆積を制御するため、ペンダント官能基を有する新規水溶性又は水分散性ポリマー、及び各種水性系での無機堆積物の生成及び堆積の制御並びに腐食の阻害におけるその使用に関することが記載されており、特に、A−甲3発明1において特定される構造式を有する水分散性ポリマーが、腐食やスケール防止の効果を発現するものと理解できる。
しかしながら、A−甲3発明1において特定される構造式を有する水分散性ポリマーは、相違点9に係る成分(A)、成分(B)のいずれにも該当しないものであり、組成物として、全く異なるものであると認められる。ここでA−甲3の記載をみると、A−甲3の【0038】には、「金属イオン封鎖剤」の例として「エチレンジアミン四酢酸」が、「その他のスケール及び汚染阻害剤」の例として「アクリル酸/2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体及びアクリル酸/アリルオキシ−2−ヒドロキシプロパン−3−スルホン酸共重合体)」が、」それぞれ記載されているが、これら例示された成分は、A−甲3発明1において特定される構造式を有する水分散性ポリマーと併用することができる任意成分として例示されたものにすぎず、これら例示された任意成分の考えられ得る組み合わせが極めて多いことから、A−甲3が、本件発明1の相違点9に係る特定の成分(A)と成分(B)とを組み合わせることを教示するとは言い難い。
したがって、上記相違点に係る本件発明1の構成を容易想到の事項ということはできない。さらに、このような進歩性についての判断は、他の証拠をみても変わりはない。

c 小括
以上のとおり、上記相違点9は実質的な相違点であるし、また、上記相違点9に係る本件発明1の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明1は、A−甲3発明1ではないし、A−甲3発明1及びA−甲4〜A−甲7に記載の事項に基づいて、又は、A−甲3発明1及びB−甲1〜B−甲4、B−甲6〜B−甲9に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(イ)本件発明2について
a 対比
本件発明2とA−甲3発明1とを対比すると、両者は、少なくとも以下の相違点を有するものと認められる。

<相違点9’>
本件発明2の冷却水用スケール防止剤は、「アクリル酸に由来する構造単位と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸に由来する構造単位を含む共重合体及びその塩、並びにアクリル酸と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸との共重合体及びその塩、から選ばれる1種以上の化合物である成分(A)と、エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B)」を、両者含むものであるのに対し、A−甲3発明1では、そのような特定事項を有していない点。

b 判断
上記相違点9’について検討すると、上記(ア)bで検討したのと同じ相違点であるから、上記(ア)bで説示したのと同じ理由により、相違点9’は実質的な相違点であるし、また、上記相違点9’に係る本件発明2の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。
よって、本件発明2は、A−甲3発明1ではないし、A−甲3発明1及びA−甲4〜A−甲7に記載の事項に基づいて、又は、A−甲3発明1及びB−甲1〜B−甲4、B−甲6〜B−甲9に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(ウ)本件発明3、5〜7について
本件発明3、5〜7は、「冷却水用スケール防止剤」に係る発明であるが、いずれの発明も、発明特定事項に、少なくとも本件発明1又は本件発明2の「冷却水用スケール防止剤」に係る事項を含むため、本件発明1又は本件発明2が、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明3、5〜7も、A−甲3発明1及びA−甲4〜A−甲7に記載の事項に基づいて、又は、A−甲3発明1及びB−甲1〜B−甲4、B−甲6〜B−甲9に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(エ)本件発明8〜10、12〜15について
本件発明8及び9は、本件発明1及び2を方法の発明として規定したものであるが、表現上の形式的差異を除き、発明特定事項に実質的な差異はない。したがって、本件発明8及び9と、A−甲3発明1を方法として規定したA−甲3発明2との対比関係においては、少なくとも上記相違点9及び9’が存在するが、上記(ア)b及び(イ)bで説示したのと同じ理由により、相違点9及び9’は実質的な相違点であるし、また、上記相違点9及び9’に係る本件発明8及び9の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。
また、本件発明10、12〜15は、「冷却水用スケール防止方法」に係る発明であるが、いずれの発明も、発明特定事項に、少なくとも本件発明8又は本件発明9の「冷却水用スケール防止方法」に係る事項を含むため、本件発明8又は本件発明9が、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明10、12〜15も、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、本件発明8〜10、12〜15は、A−甲3発明2ではないし、A−甲3発明2及びA−甲4〜A−甲7に記載の事項に基づいて、又は、A−甲3発明2及びB−甲1〜B−甲4、B−甲6〜B−甲9に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(オ)まとめ
以上のとおり、A−甲3を主引用例とする理由には、理由がない。

オ B−甲4を主引用例とした場合
(ア)本件発明1について
a 対比
本件発明1とB−甲4発明1とを対比すると、両者は、少なくとも以下の相違点を有するものと認められる。

<相違点10>
本件発明1の冷却水用スケール防止剤は、「アクリル酸に由来する構造単位と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸に由来する構造単位を含む共重合体及びその塩、並びにアクリル酸と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸との共重合体及びその塩、から選ばれる1種以上の化合物である成分(A)と、エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B)」を、両者含むものであるのに対し、B−甲4発明1では、そのような特定事項を有していない点。

b 判断
B−甲4発明1は、B−甲4の5頁左上欄20行〜右下欄14行をみると、クエン酸及び同族物質が溶液中の鉄の可溶化剤として有効であるが、抗スケール剤ではなく、例えば炭酸カルシウム、燐酸カルシウム、硫酸カルシウム、水酸化マグネシウム等のようなスケールに対し効果がないとの問題に対し、重量比10:1〜1:10のコポリマーと燐化合物の添加物の使用により、金属イオンの存在下あるいは非存在下での水性システム中の粒状物質の分散体および/または水性システム中の金属イオンを安定化させるものである。そして、B−甲4の特許請求の範囲の請求項19によると、B−甲4には、上記「燐化合物」として、「ポリへキシレンポリアミンポリメチレンホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−二燐酸」等が用いられることが記載されている。
しかしながら、B−甲4には、本件発明1における「エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物」は記載されていない。したがって、上記相違点は実質的な相違点である。
さらに、B−甲4発明1は、「コポリマー」と「燐化合物」との特定の組み合わせにより効果を発揮するものであるところ、B−甲4には、B−甲4に記載の特定の「燐化合物」に換えて、他の「燐化合物」を含有しようとする動機付けは存在しない。
したがって、上記相違点に係る本件発明1の構成を容易想到の事項ということはできない。さらに、このような進歩性についての判断は、他の証拠をみても変わりはない。

c 小括
以上のとおり、上記相違点10は実質的な相違点であるし、また、上記相違点10に係る本件発明1の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明1は、B−甲4発明1ではないし、B−甲4発明1及びB−甲1〜B−甲3、B−甲5〜B−甲9に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(イ)本件発明2について
a 対比
本件発明2とB−甲4発明1とを対比すると、両者は、少なくとも以下の相違点を有するものと認められる。

<相違点10’>
本件発明2の冷却水用スケール防止剤は、「アクリル酸に由来する構造単位と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸に由来する構造単位を含む共重合体及びその塩、並びにアクリル酸と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸との共重合体及びその塩、から選ばれる1種以上の化合物である成分(A)と、エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B)」を、両者含むものであるのに対し、B−甲4発明1では、そのような特定事項を有していない点。

b 判断
上記相違点10’について検討すると、上記(ア)bで検討したのと同じ相違点であるから、上記(ア)bで説示したのと同じ理由により、相違点10’は実質的な相違点であるし、また、上記相違点10’に係る本件発明2の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。
よって、本件発明2は、B−甲4発明1ではないし、B−甲4発明1及びB−甲1〜B−甲3、B−甲5〜B−甲9に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(ウ)本件発明3、5〜7について
本件発明3、5〜7は、「冷却水用スケール防止剤」に係る発明であるが、いずれの発明も、発明特定事項に、少なくとも本件発明1又は本件発明2の「冷却水用スケール防止剤」に係る事項を含むため、本件発明1又は本件発明2が、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明3、5〜7も、B−甲4発明1及びB−甲1〜B−甲3、B−甲5〜B−甲9に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(エ)本件発明8〜10、12〜15について
本件発明8及び9は、本件発明1及び2を方法の発明として規定したものであるが、表現上の形式的差異を除き、発明特定事項に実質的な差異はない。したがって、本件発明8及び9とB−甲4発明1を方法として規定したB−甲4発明2との対比関係においては、少なくとも上記相違点10及び10’が存在するが、上記(ア)b及び(イ)bで説示したのと同じ理由により、相違点10及び10’は実質的な相違点であるし、また、上記相違点10及び10’に係る本件発明8及び9の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。
また、本件発明10、12〜15は、「冷却水用スケール防止方法」に係る発明であるが、いずれの発明も、発明特定事項に、少なくとも本件発明8又は本件発明9の「冷却水用スケール防止方法」に係る事項を含むため、本件発明8又は本件発明9が、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明10、12〜15も、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、本件発明8〜10、12〜15は、B−甲4発明2ではないし、B−甲4発明2及びB−甲1〜B−甲3、B−甲5〜B−甲9に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(オ)まとめ
以上のとおり、B−甲4を主引用例とする理由には、理由がない。

カ B−甲6を主引用例とした場合
(ア)本件発明1について
a 対比
本件発明1とB−甲6発明1とを対比すると、両者は、少なくとも以下の相違点を有するものと認められる。

<相違点11>
本件発明1の冷却水用スケール防止剤は、「アクリル酸に由来する構造単位と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸に由来する構造単位を含む共重合体及びその塩、並びにアクリル酸と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸との共重合体及びその塩、から選ばれる1種以上の化合物である成分(A)と、エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B)」を、両者含むものであるのに対し、B−甲6発明1では、そのような特定事項を有していない点。

b 判断
B−甲6発明1は、B−甲6の【0001】をみると、近年の洗剤組成物の高性能化、コンパクト化に伴い、少ない添加量で従来より高いカルシウムイオン補足能を有する化合物が求められてきているとの問題に対し、良好なカルシウム補足能を有するキレート剤含有組成物を提供することを発明の課題とするものであると認められる。そして、B−甲6の【請求項1】によると、発明の課題を解決するために、特定の一般式(1)を備える化合物とポリ(メタ)アクリル酸系重合体と、水とを必須成分とするキレート化合物含有組成物として提供するものと理解できる。
しかしながら、B−甲6には、本件発明1において成分(B)として特定される「エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物」に関する記載はない。したがって、上記相違点は実質的な相違点である。
さらに、B−甲6は、キレート化合物である一般式(1)で表される化合物と、ポリ(メタ)アクリル酸系重合体との組み合わせに着目するものであって、他の含有成分に関して教示するものではない。
したがって、上記相違点に係る本件発明1の構成を容易想到の事項ということはできない。さらに、このような進歩性についての判断は、他の証拠をみても変わりはない。

c 小括
以上のとおり、上記相違点11は実質的な相違点であるし、また、上記相違点11に係る本件発明1の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明1は、B−甲6発明1ではないし、B−甲6発明1及びB−甲1〜B−甲5、B−甲7〜B−甲9に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(イ)本件発明2について
a 対比
本件発明2とB−甲6発明1とを対比すると、両者は、少なくとも以下の相違点を有するものと認められる。

<相違点11’>
本件発明2の冷却水用スケール防止剤は、「アクリル酸に由来する構造単位と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸に由来する構造単位を含む共重合体及びその塩、並びにアクリル酸と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸との共重合体及びその塩、から選ばれる1種以上の化合物である成分(A)と、エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B)」を、両者含むものであるのに対し、B−甲6発明1では、そのような特定事項を有していない点。

b 判断
上記相違点11’について検討すると、上記(ア)bで検討したのと同じ相違点であるから、上記(ア)bで説示したのと同じ理由により、相違点11’は実質的な相違点であるし、また、上記相違点11’に係る本件発明2の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。
よって、本件発明2は、B−甲6発明1ではないし、B−甲6発明1及びB−甲1〜B−甲5、B−甲7〜B−甲9に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(ウ)本件発明3、5〜7について
本件発明3、5〜7は、「冷却水用スケール防止剤」に係る発明であるが、いずれの発明も、発明特定事項に、少なくとも本件発明1又は本件発明2の「冷却水用スケール防止剤」に係る事項を含むため、本件発明1が、B−甲6発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明3、5〜7も、B−甲6発明1及びB−甲1〜B−甲5、B−甲7〜B−甲9に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(エ)本件発明8〜10、12〜15について
本件発明8及び9は、本件発明1及び2を方法の発明として規定したものであるが、表現上の形式的差異を除き、発明特定事項に実質的な差異はない。したがって、本件発明8及び9と、B−甲6発明1を方法として規定したB−甲6発明2との対比関係においては、少なくとも上記相違点11及び11’が存在するが、上記(ア)b及び(イ)bで説示したのと同じ理由により、相違点11及び11’は実質的な相違点であるし、また、上記相違点11及び11’に係る本件発明8及び9の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。
また、本件発明10、12〜15は、「冷却水用スケール防止方法」に係る発明であるが、いずれの発明も、発明特定事項に、少なくとも本件発明8又は本件発明9の「冷却水用スケール防止方法」に係る事項を含むため、本件発明8又は本件発明9が、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明10、12〜15も、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、本件発明8〜10、12〜15は、B−甲6発明2ではないし、B−甲6発明2及びB−甲1〜B−甲5、B−甲7〜B−甲9に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(オ)まとめ
以上のとおり、B−甲6を主引用例とする理由には、理由がない。

キ B−甲7を主引用例とした場合
(ア)本件発明1について
a 対比
本件発明1とB−甲7発明1とを対比すると、両者は、少なくとも以下の相違点を有するものと認められる。

<相違点12>
本件発明1の冷却水用スケール防止剤は、「アクリル酸に由来する構造単位と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸に由来する構造単位を含む共重合体及びその塩、並びにアクリル酸と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸との共重合体及びその塩、から選ばれる1種以上の化合物である成分(A)と、エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B)」を、両者含むものであるのに対し、B−甲7発明1では、そのような特定事項を有していない点。

b 判断
B−甲7発明1は、B−甲7の【0016】をみると、鉄系金属と銅系金属が共存する水循環システムにおいて、環境や人体に対する影響が大きい硝酸性窒素を含有せず、かつ亜鉛塩とベンゾトリアゾール類を同時に含有できる、安全かつ安定な、鉄系金属と銅系金属の両方の金属の腐食及びスケールを同時に防止できる液体組成物を提供することを発明の課題とするものであると認められる。そして、B−甲7の【0018】によると、発明の課題を解決するために、(1)亜鉛、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、リン酸亜鉛から選択される一種以上、(2)ベンゾトリアゾール類、(3)有機ホスホン酸、ホスフィノポリカルボン酸、ホスホノカルボン酸、リン酸、マレイン酸系重合体、イタコン酸系重合体、スルホン酸基含有ポリマーから選択される一種以上を含有する水性混合物に硫酸を加えてpHを0.5から2.5に調整することを特徴とする腐食及びスケール防止用液体組成物を、水系に添加することで、水系における鉄系金属と銅系金属の腐食及びスケールを防止するものである。
しかしながら、B−甲7には、上記「有機ホスホン酸」の具体例として、「1−ヒドロキシエチリデンー1,1ージホスホン酸」(【0031】)等が記載されているものの、本件発明1における成分(B)である「エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物」は記載されていない。したがって、上記相違点は実質的な相違点である。
そして、B−甲7発明1は、(1)亜鉛、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、リン酸亜鉛から選択される一種以上、(2)ベンゾトリアゾール類、(3)有機ホスホン酸、ホスフィノポリカルボン酸、ホスホノカルボン酸、リン酸、マレイン酸系重合体、イタコン酸系重合体、スルホン酸基含有ポリマーから選択される一種以上の、特定の組み合わせにより水系における鉄系金属と銅系金属の腐食及びスケールを防止の効果を発揮するものであるところ、B−甲7に記載された特定の組み合わせに換えて、他の化合物を含有しようとする動機付けは存在しない。
したがって、上記相違点に係る本件発明1の構成を容易想到の事項ということはできない。さらに、このような進歩性についての判断は、他の証拠をみても変わりはない。

c 小括
以上のとおり、上記相違点12は実質的な相違点であるし、また、上記相違点12に係る本件発明1の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明1は、B−甲7発明1ではないし、B−甲7発明1及びB−甲1〜B−甲5、B−甲6、B−甲8、B−甲9に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(イ)本件発明2について
a 対比
本件発明2とB−甲7発明1とを対比すると、両者は、少なくとも以下の相違点を有するものと認められる。

<相違点12’>
本件発明2の冷却水用スケール防止剤は、「アクリル酸に由来する構造単位と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸に由来する構造単位を含む共重合体及びその塩、並びにアクリル酸と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸との共重合体及びその塩、から選ばれる1種以上の化合物である成分(A)と、エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B)」を、両者含むものであるのに対し、B−甲7発明1では、そのような特定事項を有していない点。

b 判断
上記相違点12’について検討すると、上記(ア)bで検討したのと同じ相違点であるから、上記(ア)bで説示したのと同じ理由により、相違点12’は実質的な相違点であるし、また、上記相違点12’に係る本件発明2の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。
よって、本件発明2は、B−甲7発明1ではないし、B−甲7発明1及びB−甲1〜B−甲6、B−甲8、B−甲9に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(ウ)本件発明3、5〜7について
本件発明3、5〜7は、「冷却水用スケール防止剤」に係る発明であるが、いずれの発明も、発明特定事項に、少なくとも本件発明1又は本件発明2の「冷却水用スケール防止剤」に係る事項を含むため、本件発明1が、B−甲7発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明3、5〜7も、B−甲7発明1及びB−甲1〜B−甲6、B−甲8、B−甲9に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(エ)本件発明8〜10、12〜15について
本件発明8及び9は、本件発明1及び2を方法の発明として規定したものであるが、表現上の形式的差異を除き、発明特定事項に実質的な差異はない。したがって、本件発明8及び9と、B−甲7発明1を方法として規定したB−甲7発明2との対比関係においては、少なくとも上記相違点12及び12’が存在するが、上記(ア)b及び(イ)bで説示したのと同じ理由により、相違点12及び12’は実質的な相違点であるし、また、上記相違点12及び12’に係る本件発明8及び9の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。
また、本件発明10、12〜15は、「冷却水用スケール防止方法」に係る発明であるが、いずれの発明も、発明特定事項に、少なくとも本件発明8又は本件発明9の「冷却水用スケール防止方法」に係る事項を含むため、本件発明8又は本件発明9が、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明10、12〜15も、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、本件発明8〜10、12〜15は、B−甲7発明2ではないし、B−甲7発明2及びB−甲1〜B−甲6、B−甲8、B−甲9に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(オ)まとめ
以上のとおり、B−甲7を主引用例とする理由には、理由がない。

ク B−甲8を主引用例とした場合
(ア)本件発明1について
a 対比
本件発明1とB−甲8発明1とを対比すると、両者は、少なくとも以下の相違点を有するものと認められる。

<相違点13>
本件発明1の冷却水用スケール防止剤は、「アクリル酸に由来する構造単位と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸に由来する構造単位を含む共重合体及びその塩、並びにアクリル酸と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸との共重合体及びその塩、から選ばれる1種以上の化合物である成分(A)と、エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B)」を、両者含むものであるのに対し、B−甲8発明1では、そのような特定事項を有していない点。

b 判断
B−甲8発明1は、B−甲8の2頁右上欄13〜19行によると、水系においてマンガンによって生ずるスケール形成と腐食をアミノホスホン酸の使用によって防止する方法に関するものであり、甲8の特許請求の範囲の請求項1によると、特定の化学式(1)を備える有機アミノホスホン酸を水に加えることで、水系のマンガンによるスケール形成と腐食を防止するものである。
しかしながら、B−甲8発明1は、本件発明1における成分(B)である「エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物」を含有するものではない。B−甲8には従来例として、B−甲8の3頁左上欄8〜17行に、エチレンジアミン四酢酸がキレート化の作用をすることや、同右下欄15〜19行に、イオン抑制剤として1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸が記載されているものの、これらは一般的な背景技術を示したものにすぎない。したがって、上記相違点は実質的な相違点である。
さらに、B−甲8発明1は、特定の化学式(1)を備える有機アミノホスホン酸の添加によりスケール防止等の効果を発揮するものであるところ、B−甲8には、当該特定の有機アミノホスホン酸に換えて、他の化合物を含有しようとする動機付けは存在しない。
したがって、上記相違点に係る本件発明1の構成を容易想到の事項ということはできない。さらに、このような進歩性についての判断は、他の証拠をみても変わりはない。

c 小括
以上のとおり、上記相違点13は実質的な相違点であるし、また、上記相違点13に係る本件発明1の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明1は、B−甲8発明1ではないし、B−甲8発明1及びB−甲1〜B−甲7、B−甲9に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(イ)本件発明2について
a 対比
本件発明2とB−甲8発明1とを対比すると、両者は、少なくとも以下の相違点を有するものと認められる。

<相違点13’>
本件発明2の冷却水用スケール防止剤は、「アクリル酸に由来する構造単位と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸に由来する構造単位を含む共重合体及びその塩、並びにアクリル酸と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸との共重合体及びその塩、から選ばれる1種以上の化合物である成分(A)と、エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B)」を、両者含むものであるのに対し、B−甲8発明1では、そのような特定事項を有していない点。

b 判断
上記相違点13’について検討すると、上記(ア)bで検討したのと同じ相違点であるから、上記(ア)bで説示したのと同じ理由により、相違点13’は実質的な相違点であるし、また、上記相違点13’に係る本件発明2の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。
よって、本件発明2は、B−甲8発明1ではないし、B−甲8発明1及びB−甲1〜B−甲7、B−甲9に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(ウ)本件発明3、5〜7について
本件発明3、5〜7は、「冷却水用スケール防止剤」に係る発明であるが、いずれの発明も、発明特定事項に、少なくとも本件発明1又は本件発明2の「冷却水用スケール防止剤」に係る事項を含むため、本件発明1が、B−甲8発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明3、5〜7も、B−甲8発明1及びB−甲1〜B−甲7、B−甲9に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(エ)本件発明8〜10、12〜15について
本件発明8及び9は、本件発明1及び2を方法の発明として規定したものであるが、表現上の形式的差異を除き、発明特定事項に実質的な差異はない。したがって、本件発明8及び9と、B−甲8発明1を方法として規定したB−甲8発明2との対比関係においては、少なくとも上記相違点13及び13’が存在するが、上記(ア)b及び(イ)bで説示したのと同じ理由により、相違点13及び13’は実質的な相違点であるし、また、上記相違点13及び13’に係る本件発明8及び9の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。
また、本件発明10、12〜15は、「冷却水用スケール防止方法」に係る発明であるが、いずれの発明も、発明特定事項に、少なくとも本件発明8又は本件発明9の「冷却水用スケール防止方法」に係る事項を含むため、本件発明8又は本件発明9が、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明10、12〜15も、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、本件発明8〜10、12〜15は、B−甲8発明2ではないし、B−甲8発明2及びB−甲1〜B−甲7、B−甲9に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(オ)まとめ
以上のとおり、B−甲8を主引用例とする理由には、理由がない。

ケ B−甲9を主引用例とした場合
(ア)本件発明1について
a 対比
本件発明1とB−甲9発明1とを対比すると、両者は、少なくとも以下の相違点を有するものと認められる。

<相違点14>
本件発明1の冷却水用スケール防止剤は、「アクリル酸に由来する構造単位と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸に由来する構造単位を含む共重合体及びその塩、並びにアクリル酸と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸との共重合体及びその塩、から選ばれる1種以上の化合物である成分(A)と、エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B)」を、両者含むものであるのに対し、B−甲9発明1では、そのような特定事項を有していない点。

b 判断
B−甲9発明1は、B−甲9の【0003】〜【0008】によれば、(メタ)アクリル酸(塩)とスルホン酸基含有モノマーとを含む単量体組成物の共重合の重合触媒として鉄が用いられる際に、共重合体水溶液の色調が変化するとの問題に対し、色調の変化が抑制された(メタ)アクリル酸系重合体組成物を提供することを発明の課題とするものと認められる。そして、B−甲9の【0009】によると、課題を解決するための手段として、(メタ)アクリル酸(塩)由来の構造単位とスルホン酸基含有モノマー由来の構造単位とを有する(メタ)アクリル酸系重合体と鉄を含む組成物であって、該鉄1モルに対して0.01モル以上のキレート剤を含む、(メタ)アクリル酸系重合体組成物とすることで、色調の変化が抑制された(メタ)アクリル酸系重合体組成物を提供するものである。
しかしながら、B−甲9には、本件発明1における成分(B)に対応する成分を含有することに関する記載はなく、当然、本件発明1における成分(B)として特定される「エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物」は一切記載されていない。B−甲9の【0066】には、「キレート剤」として用いられる化合物が列挙されており、その中に「エチレンジアミン四酢酸」が記載されているが、B−甲9発明1のキレート剤は、「(メタ)メタアクリル酸系重合体」の色調変化を抑制するためのものであって、本件発明1のようなスケール防止効果を発揮するために添加するものではない。したがって、上記相違点は実質的な相違点である。
さらに、B−甲9発明1は、「(メタ)メタアクリル酸系重合体」の色調変化を抑制することを主眼とするものであるから、B−甲9に触れた当業者が、B−甲9発明1において、スケール防止を発明の課題とする本件発明1の上記相違点に係る構成を想起するということはできない。
したがって、上記相違点に係る本件発明1の構成を容易想到の事項ということはできない。さらに、このような進歩性についての判断は、他の証拠をみても変わりはない。

c 小括
以上のとおり、上記相違点14は実質的な相違点であるし、また、上記相違点14に係る本件発明1の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明1は、B−甲9発明1ではないし、B−甲9発明1及びB−甲1〜B−甲8に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(イ)本件発明2について
a 対比
本件発明2とB−甲9発明1とを対比すると、両者は、少なくとも以下の相違点を有するものと認められる。

<相違点14’>
本件発明2の冷却水用スケール防止剤は、「アクリル酸に由来する構造単位と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸に由来する構造単位を含む共重合体及びその塩、並びにアクリル酸と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸との共重合体及びその塩、から選ばれる1種以上の化合物である成分(A)と、エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B)」を、両者含むものであるのに対し、B−甲9発明1では、そのような特定事項を有していない点。

b 判断
上記相違点14’について検討すると、上記(ア)bで検討したのと同じ相違点であるから、上記(ア)bで説示したのと同じ理由により、相違点14’は実質的な相違点であるし、また、上記相違点14’に係る本件発明2の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。

c 小括
以上のとおり、上記相違点14’は実質的な相違点であるし、また、上記相違点14’に係る本件発明2の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明2は、B−甲9発明1ではないし、B−甲9発明1及びB−甲1〜B−甲8に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(ウ)本件発明3、5〜7について
本件発明3、5〜7は、「冷却水用スケール防止剤」に係る発明であるが、いずれの発明も、発明特定事項に、少なくとも本件発明1又は本件発明2の「冷却水用スケール防止剤」に係る事項を含むため、本件発明1が、B−甲9発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明3、5〜7も、B−甲9発明1及びB−甲1〜B−甲8に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(エ)本件発明8〜10、12〜15について
本件発明8及び9は、本件発明1及び2を方法の発明として規定したものであるが、表現上の形式的差異を除き、発明特定事項に実質的な差異はない。したがって、本件発明8及び9と、B−甲9発明1を方法として規定したB−甲9発明2との対比関係においては、少なくとも上記相違点14及び14’が存在するが、上記(ア)b及び(イ)bで説示したのと同じ理由により、相違点14及び14’は実質的な相違点であるし、また、上記相違点14及び14’に係る本件発明8及び9の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。
また、本件発明10、12〜15は、「冷却水用スケール防止方法」に係る発明であるが、いずれの発明も、発明特定事項に、少なくとも本件発明8又は本件発明9の「冷却水用スケール防止方法」に係る事項を含むため、本件発明8又は本件発明9が、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明10、12〜15も当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、本件発明8〜10、12〜15は、B−甲9発明2ではないし、B−甲9発明2及びB−甲1〜B−甲8に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(オ)まとめ
以上のとおり、B−甲9を主引用例とする理由には、理由がない。

(3)取消理由1、申立理由A1及び申立理由B1(特許法第29条第1号第3号(新規性欠如))、並びに、取消理由2、申立理由A2及び申立理由B2(特許法第29条第2項進歩性欠如))に関するまとめ
以上のとおり、本件特許1〜3、5〜10、12〜15は、特許法第29条第1項第3号及び同条第2項の規定に違反してされたものではない。
したがって、取消理由1、2及び申立理由A1、A2、B1、B2には理由がない。

2 申立理由3(特許法第36条第4項第1号実施可能要件違反))について
(1)実施可能要件の判断基準
実施可能要件の判断基準は、以下のとおりである。
発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するか否かは、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)実施可能要件に関する判断
ア 本件発明1の冷却水用スケール防止剤及び本件発明8の冷却水用スケール防止方法は、特定の化合物からなる成分(A)と、特定の化合物からなる成分(B)とを含むことにより特定されるものである。
そして、上記(1)の「発明を実施することができる」とは、本件発明1についていえば、その冷却水用スケール防止剤を製造することができるということであり、本件発明8についていえば、その冷却水用スケール防止方法を使用することができるということであると解されるから、以下では、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1の冷却水用スケール防止剤を製造することができるか否か、及び本件発明8の冷却水用スケール防止方法を使用することができるか否か、といった観点に立って検討をする。

イ 冷却水用スケール防止剤について、本件明細書の発明の詳細な説明の【0011】には、「本発明の冷却水用スケール防止剤は、前記成分(A)及び成分(B)の2成分を必須成分とするものであり、冷却水系において、優れたスケール防止効果を発揮し得るものである。」と記載され、さらに、成分(A)及び成分(B)について、同【0017】には、成分(A)は、アクリル酸(AA)と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)との共重合体(以下、「AA/AMPS共重合体」ともいう。)及びその塩であることが好ましい旨、同【0024】には、成分(A)は、アクリル酸(AA)と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸(HAPS)との共重合体(以下、「AA/HAPS共重合体」ともいう。)及びその塩であることが好ましい旨、同【0028】には、成分(B)は、エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる化合物である旨、同【0028】には、冷却水用スケール防止剤が成分(A)に加えて成分(B)を含むことにより、優れたスケール防止効果を発揮する旨が記載されている。また、同【0034】には、スケール防止剤を添加する方法について、成分(A)及び成分(B)を予め調製混合されたものを添加してもよく、各成分をそれぞれ別に添加してもよいことが、同【0035】には、冷却水用スケール防止方法は、鉄、マンガン、及びアルミニウムから選ばれる1種以上を含有する冷却水系に適用されることが、それぞれ記載されている。
このように、本件明細書の発明の詳細な説明には、成分(A)の化合物を特定する記載、成分(B)の化合物を特定する記載、スケール防止剤の添加方法に関する記載、及び、冷却水用スケール防止方法の適用箇所に関する記載を認めることができるから、これらの記載に照らせば、当業者において、通常期待される以上の過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1に係るスケール防止剤を製造することができ、また、本件発明8に係る冷却水用スケール防止方法を使用することができるということができる。

ウ さらに、申立人Aが上記第4の2(1)ウにおいて指摘する点、すなわち、発明の詳細な説明に「アルミニウムを含有する冷却水系の冷却水用スケール防止剤」についての具体的効果の記載がない点についてみると、当該具体的効果の有無は、当業者が本件発明を実施することができるか否かとは直接関係する事項ではないから、上述の実施可能要件の判断に影響しない。さらにいうと、本件発明は、鉄、マンガン、及びアルミニウムから選ばれる1種以上を含有する冷却水系に適用されるものであるといっても、その実施に際しては、本件発明1及び8において特定される成分(A)及び成分(B)を含むスケール防止剤を製造することができれば事足り、鉄、マンガン、及びアルミニウムから選ばれる1種以上を含有する冷却水系に適用すること自体にさほど困難なところは見当たらないから、上記の主張の点をもって、実施可能要件違反とすることはできない。この点は、アルミニウムを含有する冷却水系の冷却水用スケール防止剤の実施例がないことや、A−甲3のアルミニウムの溶解性に関する記載に照らしても変わりはない。

エ 以上の検討によれば、本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、本件発明の実施に際し、当業者において特に過度の試行錯誤が必要であるということはできないから、同記載が実施可能要件に違反しているとすることはできない。

(3)申立理由3に関するまとめ
以上のとおり、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。
したがって、申立理由3には理由がない。

第6 むすび
上記第5で検討したとおり、本件特許1〜3、5〜10、12〜15は、特許法第29条第1項第3号及び同法同条第2項の規定に違反してされたものであるということはできないし、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということもできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記取消理由1、2及び上記申立理由A1、A2、B1、B2、3では、本件特許1〜3、5〜10、12〜15を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1〜3、5〜10、12〜15を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正により請求項4、11は削除されたため、これらの請求項に係る特許異議の申し立てについては対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンガン、及びアルミニウムから選ばれる1種以上を含有する冷却水系の冷却水用スケール防止剤であって、
アクリル酸に由来する構造単位と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸に由来する構造単位を含む共重合体及びその塩、並びにアクリル酸と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸との共重合体及びその塩、から選ばれる1種以上の化合物である成分(A)と、
エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B)とを含む、冷却水用スケール防止剤。
【請求項2】
鉄を2mg/L以上含有する冷却水系の冷却水用スケール防止剤であって、
アクリル酸に由来する構造単位と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸に由来する構造単位を含む共重合体及びその塩、並びにアクリル酸と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸との共重合体及びその塩、から選ばれる1種以上の化合物である成分(A)と、
エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B)とを含む、冷却水用スケール防止剤。
【請求項3】
前記アクリル酸に由来する構造単位と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸に由来する構造単位を含む共重合体及びその塩が、アクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸との共重合体及びその塩、並びにアクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とtert−ブチルアクリルアミドとの共重合体及びその塩、から選ばれる1種以上の化合物である、請求項1又は2に記載の冷却水用スケール防止剤。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
前記冷却水系が、マンガン、及びアルミニウムから選ばれる1種以上を0.5mg/L以上5.0mg/L以下含有する、請求項1〜3のいずれかに記載の冷却水用スケール防止剤。
【請求項6】
前記成分(A)とエチレンジアミン四酢酸及びその塩、並びに3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B1)の質量比が、98:2〜13:87である、請求項1〜3、及び5のいずれかに記載の冷却水用スケール防止剤。
【請求項7】
前記成分(A)と[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B2)の質量比が、98:2〜38:62である、請求項1〜3、及び5のいずれかに記載の冷却水用スケール防止剤。
【請求項8】
マンガン、及びアルミニウムから選ばれる1種以上を含有する冷却水系の冷却水用スケール防止方法であって、
アクリル酸に由来する構造単位と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸に由来する構造単位を含む共重合体及びその塩、並びにアクリル酸と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸との共重合体及びその塩、から選ばれる1種以上の化合物である成分(A)と、
エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B)とを含む、冷却水用スケール防止剤を用いる、冷却水用スケール防止方法。
【請求項9】
鉄を2mg/L以上含有する冷却水系の冷却水用スケール防止剤であって、
アクリル酸に由来する構造単位と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸に由来する構造単位を含む共重合体及びその塩、並びにアクリル酸と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸との共重合体及びその塩、から選ばれる1種以上の化合物である成分(A)と
エチレンジアミン四酢酸及びその塩、3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩、並びに[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6,1―ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B)とを含む、冷却水用スケール防止剤を用いる、冷却水用スケール防止方法。
【請求項10】
前記アクリル酸に由来する構造単位と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸に由来する構造単位を含む共重合体及びその塩が、アクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸との共重合体及びその塩、並びにアクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とtert−ブチルアクリルアミドとの共重合体及びその塩、から選ばれる1種以上の化合物である、請求項8又は9に記載の冷却水用スケール防止方法。
【請求項11】(削除)
【請求項12】
前記冷却水系が、マンガン、及びアルミニウムから選ばれる1種以上を0.5mg/L以上5.0mg/L以下含有する、請求項8〜10のいずれかに記載の冷却水用スケール防止方法。
【請求項13】
前記冷却水系における前記成分(A)の濃度が、3.0mg/L以上20.0mg/L以下となるように前記成分(A)を添加する、請求項8〜10、及び12のいずれかに記載の冷却水用スケール防止方法。
【請求項14】
前記冷却水系におけるエチレンジアミン四酢酸及びその塩、並びに3−ヒドロキシ−2,2−イミノジコハク酸4ナトリウム及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B1)の濃度が、0.5mg/L以上20.0mg/L以下となるように前記成分(B1)を添加する、請求項8〜10、12、及び13のいずれかに記載の冷却水用スケール防止方法。
【請求項15】
前記冷却水系における[(ホスホノメチル)イミノ]ビス(6、1−ヘキサンジイルニトリロビスメチレン)テトラキスホスホン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物である成分(B2)の濃度が、0.5mg/L以上5.0mg/L以下となるように前記成分(B2)を添加する、請求項8〜10、12、及び13のいずれかに記載の冷却水用スケール防止方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-03-15 
出願番号 P2019-569508
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C02F)
P 1 651・ 121- YAA (C02F)
P 1 651・ 536- YAA (C02F)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 金 公彦
大光 太朗
登録日 2020-08-24 
登録番号 6753543
権利者 栗田工業株式会社
発明の名称 冷却水用スケール防止剤及び冷却水用スケール防止方法  
代理人 特許業務法人大谷特許事務所  
代理人 特許業務法人大谷特許事務所  

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