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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B32B
管理番号 1386121
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-06-16 
確定日 2022-05-12 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6809110号発明「エンボス化粧シート及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6809110号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜8〕について訂正することを認める。 特許第6809110号の請求項1、3〜8に係る特許を維持する。 特許第6809110号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6809110号の請求項1〜8に係る特許についての出願は、平成28年10月11日の出願であって、令和2年12月14日にその特許権の設定登録がされ、令和3年1月6日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯の概要は、次のとおりである。

令和3年 6月16日 :特許異議申立人下河あい(以下「申立人」という。)による請求項1〜8に係る特許に対する特許異議の申立て
令和3年11月12日付け:取消理由通知書
令和4年 1月17日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出(以下、この訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)
令和4年 3月 9日 :申立人による意見書の提出

第2 本件訂正の適否
1 本件訂正の内容
本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。

(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項1に記載された
「引っ張り弾性率が2000〜10000kgf/cm2であり、
前記透明熱可塑性樹脂層の厚さが10μm以上100μm以下であり、
前記接着剤層は、ウレタン樹脂系接着剤であることを特徴とする」を、
「引っ張り弾性率が2000〜5000kgf/cm2であり、
前記透明熱可塑性樹脂層の厚さが10μm以上100μm以下であり、
前記接着剤層は、ウレタン樹脂系接着剤であり、
前記プライマー層が、プライマー樹脂100重量部に対しシリカを5〜30重量部の割合で含有することを特徴とする」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3〜8も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
本件訂正前の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
本件訂正前の請求項5に記載された
「ことを特徴とする請求項1〜2に記載のエンボス化粧シート。」を、
「ことを特徴とする請求項1に記載のエンボス化粧シート。」に訂正する(請求項5の記載を直接的又は間接的に引用する請求項6〜8も同様に訂正する)。

(4)訂正事項4
本件訂正前の請求項8に記載された
「請求項1から7のいずれか1項に記載のエンボス化粧シートの製造方法であって、」を、
「請求項1及び請求項3から7のいずれか1項に記載のエンボス化粧シートの製造方法であって、」に訂正する。

(5)訂正事項5
願書に添付した明細書の段落【0061】に記載された
「引っ張り弾性率が2000未満の場合」を、
「引っ張り弾性率が10000kgf/cm2を超える場合」に訂正する。

2 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1〜8は、請求項2〜8が、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正請求は、一群の請求項に対して請求されたものである。
また、明細書の訂正に係る訂正事項5は、一群の請求項〔1〜8〕の全てについて行うものである。

3 訂正の目的、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の適否について
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の「引っ張り弾性率」及び「プライマー層」について限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項1は、本件特許の明細書の【0097】、並びに訂正前の請求項2及び【0086】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項をさらに限定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3、4について
訂正事項3は、本件訂正前の請求項5が請求項1、2を引用していたところ、請求項2の削除に伴い請求項1のみを引用するものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項3は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
同様に、訂正事項4は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)訂正事項5について
願書に添付した明細書には、「引っ張り弾性率」と「折り曲げ部の白化現象」の関係に関して、次の記載がある。
「【0061】
また、引っ張り弾性率が2000未満の場合には、低温での折り曲げ試験において、折り曲げ部の白化現象が発生する場合がある。」
「【0106】
(比較例1)(引っ張り弾性率が高すぎる)
第2の樹脂に、引っ張り伸度120%且つ引っ張り弾性率12000kgf/cm2であるポリプロピレン樹脂を使用する以外は、実施例1と同様にしてエンボス化粧シート1を形成した。
【0107】
(比較例2)(引っ張り弾性率が低すぎる)
第2の樹脂に、引っ張り伸度200%且つ引っ張り弾性率1000kgf/cm2であるポリプロピレン樹脂を使用する以外は、実施例1と同様にしてエンボス化粧シート1を形成した。」
「【0114】
・・・
低温折り曲げ性評価:前記化粧板のMDF側からエンボス化粧シート1に達するV溝を刻んだ後、5℃の低温環境下に3時間放置した直後に折り曲げ加工を行い、曲げ部分のシートの白化の有無を確認した。
【0115】
○:白化は見られない ×:白化が見られた」
「【0123】
【表2】

【0124】
比較例1より、透明熱可塑性樹脂層5の引っ張り弾性率が10000kgf/m2を超えると、化粧板とした後の切削加工により、バリが発生し、且つ低温屈折試験において、折り曲げ部の白化が生じることが判った。
【0125】
また、比較例2より、透明熱可塑性樹脂層5の引っ張り弾性率が2000kgf/m2より小さいと、化粧板とした後の切削加工により、バリが発生することが判った。」

願書に添付した明細書の【0061】には、「引っ張り弾性率」が2000kgf/cm2未満の場合には、低温での折り曲げ試験において、折り曲げ部の白化現象が発生する場合があることが記載されている。
他方、明細書の【0106】、【0107】、【0114】、【0115】、【0123】〜【0125】には、「引張弾性率1000kgf/cm2」のように「引張弾性率が低すぎる」場合(比較例2)に、「低温屈曲性」が「白化は見られない」結果となっていること、及び「引っ張り弾性率12000kgf/cm2」のように「引っ張り弾性率が高すぎる」場合(比較例1)に、「低温屈曲性」が「白化が見られた」結果となっていることが記載されている。
そうすると、明細書の【0061】の記載と、明細書の【0106】、【0107】、【0114】、【0115】、【0123】〜【0125】の記載とが整合していなかった。
訂正事項5は、明細書の【0106】、【0107】、【0114】、【0115】、【0123】〜【0125】の記載との関係において不合理を生じていた明細書の【0061】の記載を正すものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項5は、本件特許の明細書【0124】の記載に基づくものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
訂正事項5は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

4 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第4〜6項の規定に適合する。
したがって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1〜8〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正が認められたことから、本件特許の請求項1、3〜8に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、3〜8に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
熱可塑性樹脂基材シート上に、絵柄模様層、接着剤層、透明熱可塑性樹脂層、及び表面保護層がこの順に積層されており、且つ、少なくとも前記透明熱可塑性樹脂層にエンボスが形成されており、且つ前記熱可塑性樹脂基材シートの裏面に表面活性化処理が施されており、該表面活性化処理された面にプライマー層を設けてあるエンボス化粧シートであって、
前記透明熱可塑性樹脂層は、前記熱可塑性樹脂基材シート側から、第1の樹脂を含んでなる層と、前記第1の樹脂とは異なる第2の樹脂を含んでなる層とがこの順に積層されており、
前記第1の樹脂を含んでなる層は透明マレイン酸変性ポリプロピレンを含んでおり、第2の樹脂を含んでなる層は、紫外線吸収剤と光安定剤のいずれか、又はその複合物と、透明ポリプロピレンとを含んでおり、且つ、引っ張り伸度が50〜700%で且つ引っ張り弾性率が2000〜5000kgf/cm2であり、
前記透明熱可塑性樹脂層の厚さが10μm以上100μm以下であり、
前記接着剤層は、ウレタン樹脂系接着剤であり、
前記プライマー層が、プライマー樹脂100重量部に対しシリカを5〜30重量部の割合で含有することを特徴とするエンボス化粧シート。」
「【請求項3】
前記第2の樹脂を含んでなる層に含まれる光安定剤がアミン型光安定剤であることを特徴とする請求項1に記載のエンボス化粧シート。
【請求項4】
前記第2の樹脂を含んでなる層に含まれる光安定剤がアミノエーテル型光安定剤であることを特徴とする請求項1に記載のエンボス化粧シート。
【請求項5】
前記表面保護層は熱硬化型樹脂又は電離放射線硬化型樹脂、又はその複合物からなり、更に紫外線吸収剤と光安定剤のいずれか、又はその複合物を含むことを特徴とする請求項1に記載のエンボス化粧シート。
【請求項6】
前記表面保護層に含まれる光安定剤がアミン型光安定剤であることを特徴とする請求項5に記載のエンボス化粧シート。
【請求項7】
前記表面保護層に含まれる光安定剤がアミノエーテル型光安定剤であることを特徴とする請求項5に記載のエンボス化粧シート。
【請求項8】
請求項1及び請求項3から7のいずれか1項に記載のエンボス化粧シートの製造方法であって、
熱可塑性樹脂基材シート上に、印刷によって絵柄模様層を形成した後、その絵柄模様層上に、溶融した透明熱可塑性樹脂を含んでなる複数層を多層押出機から押し出して積層することで、透明熱可塑性樹脂層を形成し、同時に前記透明熱可塑性樹脂層にエンボス加工を行うことを特徴とするエンボス化粧シートの製造方法。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1〜8に係る特許に対して、当審が令和3年11月12日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
なお、取消理由は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由のすべてを含んでいる。

(1)取消理由1(記載要件不備)
本件特許は、発明の詳細な説明及び特許請求の範囲の記載が次の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号、並びに同条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

ア 本件特許の課題を解決するための手段
請求項1に係る発明は、本件特許の課題を解決するための手段のうち、「プライマー層が、プライマー樹脂100重量部に対しシリカを5〜30重量部の割合で含有する」ことを発明特定事項としてないため、請求項1に係る発明、及び請求項2を引用しない請求項3〜8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。

イ 「引っ張り伸度」及び「引っ張り弾性率」について
請求項1に記載された「引っ張り伸度」及び「引っ張り弾性率」が不明であるから、請求項1〜8に係る発明は不明確であり、発明の詳細な説明には、請求項1〜8に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではなく、請求項1〜8に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものではない。

ウ 「引っ張り伸度」及び「引っ張り弾性率」の数値について
発明の詳細な説明の【0061】の記載と、比較例2(【0107】、【0123】)の記載が整合していないため、低温折り曲げ加工性を良くするために、引っ張り弾性率をどのように変更すればよいのか、当業者であっても理解できない。
また、発明の詳細な説明の【0061】の記載と、比較例1(【0106】、【0123】)の記載が整合していないため、「低温屈折性」が「白化が見られた」結果となった比較例1についても、引っ張り弾性率をどのように変更すればよいのか、当業者であっても理解できない。

(2)取消理由2(進歩性
本件特許の請求項1〜8に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

甲1:特開2016−168830号公報(甲第1号証)
甲2:特開2005−125582号公報(甲第2号証)
甲3:特開平10−296934号公報(甲第3号証)

2 当審の判断
(1)取消理由1(記載要件不備)について
ア 上記1(1)アについて
本件訂正の訂正事項1に係る訂正によって、本件発明1が「プライマー層が、プライマー樹脂100重量部に対しシリカを5〜30重量部の割合で含有する」ことを発明特定事項とするものとなったため、本件発明1、3〜8は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものではなくなった。

イ 上記1(1)イについて
「伸度」は「伸びる度合」を意味すると解されるところ、「伸び」の「度合」に関する用語として、「プラスチック−引張特性の試験方法 第1部:通則」(JIS K 7161−1994)には、「引張ひずみ」が定義されているから、請求項1に記載された「引っ張り伸度」は、同規格の「引張ひずみ」に準拠するものであることが理解できる。
また、「プラスチック−引張特性の試験方法 第1部:通則」(JIS K 7161−1994)には、「引張弾性率」が定義されており、請求項1に記載された「引っ張り弾性率」は「引張弾性率」と読みが同じであることから、同規格の「引張弾性率」に準拠するものであることが理解できる。

ウ 上記1(1)ウについて
本件訂正の訂正事項5に係る訂正によって、明細書の【0061】の記載と、明細書の【0106】、【0107】、【0114】、【0115】、【0123】〜【0125】の記載とが整合するものとなったため、エンボス化粧シートの低温折り曲げ加工性を良くするために、引っ張り弾性率をどのように変更すればよいのか、理解できるものとなった。

エ 小括
上記ア〜ウのとおりであるから、本件発明1、3〜8は明確であり、発明の詳細な説明は、本件発明1、3〜8について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、本件発明1、3〜8は発明の詳細な説明に記載したものである。

(2)取消理由2(進歩性)について
ア 引用文献
甲1には次の記載がある。
「【0006】
また、通常、ポリプロピレン樹脂の球晶サイズは可視光の波長(400〜750nm)よりも大きいため乳白色であるが、透明樹脂層においては、下層に設けられた絵柄層や原反シートを保護するとともに、それらに印刷された絵柄や模様等が化粧シートの最表面からクリアに見えることが必要であり、意匠性の観点から透明樹脂層に用いられる材料には特に高い透明性が求められている。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明においては、意匠性の観点から高い透明性と、表面の耐擦傷性およびV溝曲げ加工等の後加工の影響を受けない耐後加工性とに優れた透明樹脂層およびトップコート層を備える化粧シートを提供することを目的とする。」
「【0055】
本発明の化粧シートにおいては、透明樹脂層に対してナノサイズの造核剤、より好ましくは、造核剤ベシクルを含有させていることにより、結晶性ポリプロピレン樹脂の結晶部における球晶の平均粒径を極めて小径として、優れた耐擦傷性を実現している。特に、造核剤ベシクルを含有させることにより、結晶性ポリプロピレン樹脂中に造核剤を均一に分散させて、結晶性ポリプロピレンの結晶化度をコントロールして当該透明樹脂層の硬度および靭性が最適となるように調整し、引張弾性率が800MPa以上、2000MPa以下、かつ、引張破断伸度が200%以上の優れた耐擦傷性および耐後加工性を実現することができる。」
「【0068】
原反層としては、意匠性、耐擦傷性および耐後加工性に特化させた化粧シートとする場合には、薄葉紙、チタン紙、樹脂含浸紙などの紙、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリブチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアミド、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、アクリルなどの合成樹脂、あるいはこれら合成樹脂の発泡体、エチレン−プロピレン共重合ゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合ゴム、ポリウレタンなどのゴム、有機もしくは無機系の不織布、合成紙、アルミニウム、鉄、金、銀などの金属箔などから適宜選択して用いることができる。
【0069】
不燃材料からなる化粧シートとする場合には、前記ナノサイズの添加剤が含まれた樹脂層からなる原反層を採用することが好ましく、ナノサイズの添加剤としての分散剤と、無機フィラーとを含むことが重要である。特に、当該ナノサイズの分散剤がベシクルの状態(分散剤ベシクル)で含有されていることが好ましい。分散剤は、超臨界逆相蒸発法における外膜のその他の形態にて挙げた分散剤から適宜選択して用いることができるが、ベシクルに内包する物質と外膜に用いられる物質とは異なる物質を用いることが好ましい。無機フィラーは、原反層の主成分であるポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、50〜900重量部の割合で含まれていることが重要である。なお、本明細書においては、原反層を構成する樹脂組成物を調製する際の混合比によって形成後の原反層に対する無機フィラーの含有量を特定することとしているが、これは、前記配合量を添加して得られた樹脂組成物から形成された原反層は、完成した化粧シートに対して曲げ加工などの後加工がなされると、その加工の変形に伴って無機フィラーが移動する現象が生じるが、当該無機フィラーの移動は原反層の全体に亘って均一に生じるものではなく、例えば、表面付近は樹脂の変形が大きく、それに伴って無機フィラーの移動量も多くなるので、原反層内部の無機フィラーの密度と表面付近の無機フィラーの密度とに差異が生じるため、一概に、形成された後の原反層について単位体積当たりに含まれる無機フィラーの含有量を特定することは現実的に困難とされているためである。また、形成された後の原反層中の無機フィラーの含有量を特定する場合、当該原反層を構成する樹脂組成物を無機材料と有機材料とに分離し、当該無機材料中に含まれる無機フィラーの含有量を分析する必要があり、この分析を行うためには複数工程の前処理を要するため、形成された後の原反層中の無機フィラーの含有量の特定には膨大な時間を要し現実的ではない。」
「【0090】
化粧シートの表面の硬度をさらに向上させるためには、トップコート層4として紫外線や電子線照射で硬化する樹脂の使用も可能である。さらに耐候性を向上させるために紫外線吸収剤及び光安定剤を適宜添加してもよい。また各種機能を付与するために抗菌剤、防カビ剤等の機能性添加剤の添加も任意に行える。さらに、表面の意匠性から艶の調整のため、あるいはさらに耐磨耗性を付与するために、アルミナ、シリカ、窒化珪素、炭化珪素、ガラスビーズ等の添加も任意に行える。塗布厚みは通常2μm〜10μmが妥当である。」
「【0093】
図2に示す化粧シートは、紙面上部側から順に、トップコート層4、透明樹脂層1、接着剤層6(感熱接着剤層、アンカーコート層、ドライラミ接着剤層)、絵柄層2、原反層7、プライマー層5と積層されている。」
「【0095】
また原反層7としてオレフィン系の原反層のような表面が不活性な基材を用いる場合は、原反層7の表裏にコロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、電子線処理、紫外線処理、重クロム酸処理等を行うことが望ましい。さらには原反層7と絵柄層2との間にも密着を確保させるためにプライマー層を設けることもある。また、化粧シートに隠蔽性を付与したい場合には、原反層7として隠蔽性の着色シートを使用しても良いし、隠蔽層3を設けても良い。」
「【0098】
接着剤層6は接着方法として任意の材料選定が可能で、熱ラミネート、押出ラミネート、ドライラミネート等による積層方法があり、接着剤はアクリル系、ポリエステル系、ポリウレタン系等の材料から選定できる。通常はその凝集力から2液硬化タイプのものとして、特にイソシアネートを用いたポリオールとの反応で得られるウレタン系の材料を用いることが望ましい。」
「【0102】
図3には図2とは異なる積層タイプの構成の一例を示す。プライマー層5、原反層7、絵柄層2、透明樹脂層1、トップコート層4、接着剤層6等は図2と全く同様であるが、異なるところは接着剤層6と透明樹脂層1の間に接着性樹脂層8が設けられているところである。これは、特に押出ラミネート方法でさらなるラミネート強度を求める場合に行うが、透明樹脂層1と接着性樹脂層8との共押出法でラミネートを行う。
【0103】
上記接着性樹脂層8は、ポリプロピレン、ポリエチレン、アクリル系等の樹脂に酸変性を施したもので、厚みは接着力向上の目的から2μm以上、また厚すぎると、折角、高結晶性の透明樹脂層1で表面硬度を向上させたにも関わらず、接着性樹脂層8自体の柔らかさの影響を受けるため20μm以下が望ましい。」
「【0117】
<実施例3>
実施例3においては、図3の構成における実施形態1の化粧シートを作製した。具体的には、隠蔽性のある70μmの原反層7に2液硬化型ウレタンインキ(V180:東洋インキ製造(株)製)にて柄印刷を施して絵柄層2を施し、また、その原反層7の裏面にプライマーコートを施してプライマー層5を設けた。
【0118】
他方、アイソタクチックペンタッド分率が97.8%、MFR(メルトフローレート)が15g/10min(230℃)、分子量分布MWD(Mw/Mn)が2.3の高結晶性ホモポリプロピレン樹脂に、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(イルガノックス1010:チバスペシャリティケミカルズ社製)を500PPMと、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(チヌビン328:チバスペシャリティケミカルズ社製)を2000PPMと、ヒンダードアミン系光安定剤(キマソーブ944:チバスペシャリティケミカルズ社製)を2000PPMと、晶析法によりナノ化処理した2,2’−メチレンビス(4,6−ジ第三ブチルフェニル)ホスホン酸ナトリウムを1000PPMとを添加した樹脂を、ポリエチレン系の易接着性樹脂と共に溶融押出機を用いて共押出しして、透明樹脂層1として使用する厚さ80μmの高結晶性ポリプロピレン製の透明樹脂シートと接着性樹脂層8とを製膜し、前記接着性樹脂層8を介して前記原反層7の絵柄層2面と高結晶性ポリプロピレン製の前記透明樹脂シートによる透明樹脂層1とをエクストルージョンラミネート法により貼り合わせた。なお、共押出製膜時の冷却条件のコントロールにより、製膜された透明樹脂シートの結晶性ポリプロピレン樹脂のヘイズ値は8.3%となった。
【0119】
次に貼り合わせたシートの前記透明樹脂シートによる透明樹脂層1の面に、エンボス用の金型ロールを用いてプレスしてエンボス模様1aを施した後、そのエンボス模様1a面上に2液硬化型ウレタントップコート(W184:大日本インキ(株)製)を塗布量3g/m2にて塗布して、図3に示す総厚155μmの化粧シートを得た。」
「【0189】
<引張弾性率および引張破断伸度の測定方法>
得られた化粧シートについてJISK−7127−4に準じたスーパーダンベルカッター(ダンベル社製)を用いて引張試験用の試験片を作製する。得られた試験片を、引張試験機(テンシロン社製)にセットし、引張り速度50mm/分にて引張り、試験片が切れる直前の長さと、試験前の長さとの比から引張破断伸度を算出する。さらに、当該試験において得られた応力−歪曲線の応力と歪とが比例関係になる弾性領域における傾きから引張弾性率を算出した。」
「【図3】



以上の記載事項から、甲1の【図3】に記載された化粧シートは、「接着剤層6と透明樹脂層1の間に接着性樹脂層8が設けられている」(甲1の【0102】)ものであることを踏まえて、実施例3に着目すると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「順に、トップコート層4、透明樹脂層1、接着性樹脂層8、接着剤層6、絵柄層2、原反層7、プライマー層5と積層され、透明樹脂層1の面にエンボス模様1aが施されている化粧シートであって、
透明樹脂層1として使用する厚さ80μmの高結晶性ポリプロピレン製の透明樹脂シートは、高結晶性ホモポリプロピレン樹脂に、ヒンダードフェノール系酸化防止剤と、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤と、ヒンダードアミン系光安定剤と、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ第三ブチルフェニル)ホスホン酸ナトリウムとを添加した樹脂を、ポリエチレン系の易接着性樹脂と共に溶融押出機を用いて共押出ししてなり、接着性樹脂層8と製膜したものであり、
接着性樹脂層8は、ポリエチレン系の易接着性樹脂に酸変性を施したものであり、
化粧シートは、引張破断伸度が320%で、引張弾性率が1480MPaであり、
原反層7が70μm、化粧シートの総厚が155μmである化粧シート。」

イ 本件発明1について
(1)対比
化粧シートは、「印刷された絵柄や模様等が化粧シートの最表面からクリアに見えることが必要」(甲1の【0006】)であり、「絵柄層2」よりも表面側に設けられた層が透明であることは自明であるから、甲1発明において、「接着性樹脂層8」が透明であること、また、「透明樹脂層1」、「接着性樹脂層8」は、それぞれ熱可塑性樹脂である「ポリプロピレン」、「ポリエチレン」からなることから、甲1発明の「透明樹脂層1」及び「接着性樹脂層8」は、本件発明1の「透明熱可塑性樹脂層」に相当する。
甲1発明の「トップコート層4」は本件発明1の「表面保護層」に相当し、以下同様に「透明樹脂層1」は「第2の樹脂を含んでなる層」に、「接着性樹脂層8」は「第1の樹脂を含んでなる層」に、「接着剤層6」は「接着剤層」に、「絵柄層2」は「絵柄模様層」に、「プライマー層5」は「プライマー層」に、相当する。
甲1発明の「化粧シート」は、「エンボス模様1aが施されている」ものであるから、本件発明1の「エンボス化粧シート」に相当する。
甲1発明は、「透明樹脂層1」の「厚さ」が「80μm」で、「原反層7が70μm、化粧シートの総厚が155μmであ」るから、甲1発明の「透明樹脂層1」と「接着性樹脂層8」を合わせた厚さは、80〜85μm程度であるから、本件発明1の「前記透明熱可塑性樹脂層の厚さが10μm以上100μm以下」の数値範囲に含まれる。
甲1発明の「原反層7」と本件発明1の「熱可塑性樹脂基材シート」とは、「基材シート」の限りで一致し、甲1発明において、「順に」、「原反層7、プライマー層5」とが積層されることと本件発明1の「前記熱可塑性樹脂基材シートの裏面に表面活性化処理が施されており、該表面活性化処理された面にプライマー層を設けてある」こととは、「基材シートの裏面にプライマー層を設けてある」限りで一致する。
甲1発明の「接着性樹脂層8は、ポリエチレン系の易接着性樹脂に酸変性を施したものであ」ることと、本件発明1の「第1の樹脂を含んでなる層は透明マレイン酸変性ポリプロピレンを含んで」いることとは、「第1の樹脂を含んでなる層は変性ポリオレフィンを含んで」いる限りで一致する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、次の点で一致し、相違する。
[一致点]
「基材シート上に、絵柄模様層、接着剤層、透明熱可塑性樹脂層、及び表面保護層がこの順に積層されており、且つ、少なくとも前記透明熱可塑性樹脂層にエンボスが形成されており、基材シートの裏面にプライマー層を設けてあるエンボス化粧シートであって、
前記透明熱可塑性樹脂層は、前記基材シート側から、第1の樹脂を含んでなる層と、前記第1の樹脂とは異なる第2の樹脂を含んでなる層とがこの順に積層されており、
前記第1の樹脂を含んでなる層は変性ポリオレフィンを含んでおり、第2の樹脂を含んでなる層は、紫外線吸収剤と光安定剤のいずれか、又はその複合物と、透明ポリプロピレンとを含んでおり、
前記透明熱可塑性樹脂層の厚さが10μm以上100μm以下である、エンボス化粧シート。」
[相違点1]
「基材シート」に関して、本件発明1は「熱可塑性樹脂基材シート」であるのに対して、甲1発明は「原反層7」である点。
[相違点2]
「基材シートの裏面にプライマー層を設けてある」ことに関して、本件発明1は、「前記熱可塑性樹脂基材シートの裏面に表面活性化処理が施されており、該表面活性化処理された面にプライマー層を設けてある」のに対して、甲1発明は、「順に」、「原反層7、プライマー層5」とが積層される点。
[相違点3]
「第1の樹脂を含んでなる層は変性ポリオレフィンを含んで」いることに関して、本件発明1は、「第1の樹脂を含んでなる層は透明マレイン酸変性ポリプロピレンを含んで」いるのに対して、甲1発明は、「接着性樹脂層8は、ポリエチレン系の易接着性樹脂に酸変性を施したものであ」る点。
[相違点4]
本件発明1は、「第2の樹脂を含んでなる層」が「引っ張り伸度が50〜700%で且つ引っ張り弾性率が2000〜5000kgf/cm2であ」るのに対して、甲1発明は、「化粧シート」が「引張破断伸度が320%で、引張弾性率が1480MPaであ」る点。
[相違点5]
本件発明1は、「前記接着剤層は、ウレタン樹脂系接着剤である」のに対して、甲1発明は、その点が不明である点。
[相違点6]
本件発明1は、「前記プライマー層が、プライマー樹脂100重量部に対しシリカを5〜30重量部の割合で含有する」のに対して、甲1発明は、その点が不明である点。

(2)判断
事案に鑑み相違点4について検討する。
甲1の「当該透明樹脂層の硬度および靭性が最適となるように調整し、引張弾性率が800MPa以上、2000MPa以下、かつ、引張破断伸度が200%以上の優れた耐擦傷性および耐後加工性を実現することができる。」(甲1の【0055】)の記載から、甲1に記載された「透明樹脂層」の引っ張り弾性率の下限は、8158kgf/cm2(800MPa)程度であって、「引っ張り弾性率が2000〜5000kgf/cm2」とすることについては、記載も示唆もされておらず、相違点4に係る本件発明1の構成とする動機付けがない。

したがって、甲1発明において、相違点4に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、相違点1〜3、5、6を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件発明3〜8について
本件発明3〜8は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を加えて、本件発明1を限定するものであるから、上記イで検討したのと同じ理由により、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第5 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由、及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、請求項1、3〜8に係る特許を取り消すことはできない。また、他に請求項1、3〜8に係る特許を取り消すべき理由は発見しない。
また、本件特許の請求項2は、本件訂正により削除されたため、請求項2に係る特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】エンボス化粧シート及びその製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンボス化粧シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、木質系ボード類や、無機系ボード類、鋼鈑等の表面に接着剤で貼り合されて化粧板を形成するエンボス化粧シートがある。このようなエンボス化粧シートとしては、塩化ビニル樹脂を使用したものが一般的であったが、近年、焼却時の塩素発生等が問題とされ、塩化ビニル樹脂を使用しないものが要望されている(例えば、特許文献1および特許文献2)。
【0003】
塩化ビニル樹脂の代替としては、オレフィン系の熱可塑性樹脂シートの使用が一般的である。
しかし、通常使われているオレフィン系樹脂では、化粧板としてから更に後加工する時に、丸ノコなどによる切断加工やルーターなどによる切削加工をすると、切断・切削面の化粧シートにバリが発生してしまうといった問題がある。
【0004】
更には低温下での折り曲げ加工の際に折り曲げ部の白化や割れを生じるという問題が新たに生じた。
【0005】
また、オレフィン系シートは塩化ビニルと比較して化学的に反応性が低いため、化粧板用基材との接着強度を確保するためにシート裏面にプライマーを塗布してプライマー層を施すことが行われる。
【0006】
しかし、従来のプライマー層の樹脂では、塩化ビニルシートと同等程度の接着力を得られないといった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−278137号公報
【特許文献2】特開平6−328635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような点に着目したもので、切断・切削加工性や低温折り曲げ加工性が良く、接着強度も塩化ビニルシート同等であるオレフィン化粧シートを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の一態様のエンボス化粧シートは、熱可塑性樹脂基材シート上に、絵柄模様層、接着剤層、透明熱可塑性樹脂層、及び表面保護層がこの順に積層されており、且つ、少なくとも前記透明熱可塑性樹脂層にエンボスが形成されており、且つ前記熱可塑性樹脂基材シートの裏面に表面活性化処理が施されており、該表面活性化処理された面にプライマー層を設けてあるエンボス化粧シートであって、前記透明熱可塑性樹脂層は、前記熱可塑性樹脂基材シート側から、第1の樹脂を含んでなる層と、前記第1の樹脂とは異なる第2の樹脂を含んでなる層とがこの順に積層されており、前記第1の樹脂を含んでなる層は透明マレイン酸変性ポリプロピレンを含んでおり、第2の樹脂を含んでなる層は、紫外線吸収剤と光安定剤のいずれか、又はその複合物と、透明ポリプロピレンとを含んでおり、且つ、引っ張り伸度が50〜700%で且つ引っ張り弾性率が2000〜10000kgf/cm2であり、前記透明熱可塑性樹脂層の厚さが10μm以上100μm以下であり、前記接着剤層は、ウレタン樹脂系接着剤であることを特徴とするものである。
【0010】
引っ張り伸度と引っ張り弾性率がこの範囲に収まる樹脂の特性を利用することにより、切断・切削加工性および低温折り曲げ加工性を向上させることが可能である。
【0011】
また、請求項2においては、前記プライマー層が、プライマー樹脂100重量部に対しシリカを5〜30重量部の割合で含有することを特徴とするものである。
【0012】
シリカを含有させることにより、オレフィン系樹脂化粧シートと基材とを貼り合せるための接着剤が、プライマー層中にある程度吸収・浸透され、その結果オレフィン系化粧シートと基材の接着力を向上させることが可能である。
【0013】
また、請求項1においては、前記透明熱可塑性樹脂層は、前記熱可塑性樹脂基材シート側から、第1の樹脂を含んでなる層と、前記第1の樹脂とは異なる第2の樹脂を含んでなる層とがこの順に積層されており、前記第1の樹脂を含んでなる層は透明マレイン酸変性ポリプロピレンを含んでおり、第2の樹脂を含んでなる層は、紫外線吸収剤と光安定剤のいずれか、又はその複合物と、透明ポリプロピレンとを含んでおり、且つ、引っ張り伸度が50〜700%で且つ引っ張り弾性率が2000〜10000kgf/cm2であり、前記透明熱可塑性樹脂層の厚さが10μm以上100μm以下であり、前記接着剤層は、ウレタン樹脂系接着剤であることを特徴とするものである。
【0014】
第1の樹脂の層が基材シートとの接着性を担保し、第2の層が層の主要部分となって、その他の物性を担うなど、材料の設計の巾を広げることが可能となる。
【0015】
また、請求項5においては、前記表面保護層は熱硬化型樹脂又は電離放射線硬化型樹脂、又はその複合物からなり、更に紫外線吸収剤と光安定剤のいずれか、又はその複合物を含むことを特徴とするものである。
【0016】
表面保護層を上記の樹脂にすることで表面強度と後加工性のバランスを取ることが出来る。更に上記紫外線吸収剤・光安定剤を添加することにより、フィルムおよび樹脂の表面の耐脆化に効果を表し、実用上の耐候性を得ることが可能となる。
【0017】
また、請求項6においては、前記表面保護層に含まれる光安定剤がアミン型光安定剤であることを特徴とするものである。
【0018】
上記の光安定剤はニトロキシラジカルの酸化体がラジカルを補足することで効果を表し、ニトロキシラジカルがアルコキシアミン体を経由して再生されるため長期に渡り有効に作用するため、建築材として長期使用される化粧シートに使用するには好ましい。
【0019】
また、請求項7においては、前記表面保護層に含まれる光安定剤がアミノエーテル型光安定剤であることを特徴とするものである。
【0020】
アミノエーテル型光安定剤は酸による中和反応が起きないため、酸性洗剤や殺虫剤、酸性雨などの酸性物質に晒されても耐候性が劣化せず長期に効果を表すことが可能となる。
【0022】
第1の樹脂を含んでなる層を、透明マレイン酸変性ポリプロピレンを含んでなる層とすることで、熱可塑性樹脂基層との接着性を良くすることができる。
【0023】
また、第2の樹脂を含んでなる層を、透明ポリプロピレンと紫外線吸収剤と光安定剤のいずれか、又はその複合物を含んでなる層とすることで、樹脂内部の耐脆化に効果をあらわし、更なる耐候性を表すことが可能となる。
【0024】
また、請求項3においては、前記第2の樹脂を含んでなる層に含まれる光安定剤がアミン型光安定剤であることを特徴とするものである。
【0025】
上記の光安定剤はニトロキシラジカルの酸化体がラジカルを補足することで効果を表し、ニトロキシラジカルがアルコキシアミン体を経由して再生されるため長期に渡り有効に作用するため、建築材として長期使用される化粧シートに使用するには好ましい。
【0026】
また、請求項4においては、前記第2の樹脂を含んでなる層に含まれる光安定剤がアミノエーテル型光安定剤であることを特徴とするものである。
【0027】
アミノエーテル型光安定剤は酸による中和反応が起きないため、酸性洗剤や殺虫剤、酸性雨などの酸性物質に晒されても耐候性が劣化せず長期に効果を表すことが可能となる。
【0028】
また、請求項8においては、請求項1から7のいずれか1項に記載のエンボス化粧シートの製造方法であって、熱可塑性樹脂基材シート上に、印刷によって絵柄模様層を形成した後、その絵柄模様層上に、溶融した透明熱可塑性樹脂を含んでなる複数層を多層押出機から押し出して積層することで、透明熱可塑性樹脂層を形成し、同時に前記透明熱可塑性樹脂層にエンボス加工を行うことを特徴とするエンボス化粧シートの製造方法である。
【発明の効果】
【0029】
本発明のエンボス化粧シート、ならびに製造方法により、ポリ塩化ビニル樹脂を用いることなく、ポリ塩化ビニル樹脂で得ていたような柔軟性、耐汚染性、耐薬品性、耐候性、耐傷性、透明感を主体とする意匠性等の特性を得、再現性に優れたエンボスがかけられるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態に係わるエンボス化粧シートの構成例を示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係わるエンボス化粧シートの製造方法の一例を示す概念図である。
【図3】本発明の実施形態に係わるエンボス化粧シートの製造方法の別の一例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0032】
ここで、図面は模式的なものであり、厚さと平面寸法との関係、各層の厚さの比率等は現実のものとは異なる。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、及び構造等が下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0033】
(エンボス化粧シート1)
図1に示すように、本実施形態に係るエンボス化粧シート1は、熱可塑性樹脂基材シート2上に、絵柄模様層3、接着剤層4、及び透明熱可塑性樹脂層5がこの順に積層されて形成されている。また、少なくとも透明熱可塑性樹脂層5に、表面の艶の調整と立体感の付与とを行うために、エンボスが形成されている。更に、エンボスの上に表面保護層6が積層される。更に、熱可塑性樹脂基材シート2の裏面側に表面活性化処理が施されており、該表面活性化処理された面にプライマー層7を設けてある。エンボス化粧シート1の厚さは、耐候性能、及び折り曲げ加工による白化の抑制等を考慮すると、50μm以上200μm以下が好ましい。
【0034】
(熱可塑性樹脂基材シート2)
熱可塑性樹脂基材シート2は、熱可塑性樹脂を含んでなる基材シートである。熱可塑性樹脂としては、塩化ビニル樹脂以外の種々の樹脂を用いることができる。例えば、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エチレンビニルアセテート樹脂、ポリイミド樹脂等を用いることができる。特に、無公害性、価格、性能及び着色の容易さ等を考慮すると、ポリオレフィン系樹脂が好ましい。より具体的には、結晶性ポリオレフィン、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーが好ましい。
【0035】
また、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーによれば、ハードセグメントと言われているオレフィン系樹脂の中にソフトセグメントとして水素添加ブタジエン等のゴムが含まれているため、従来のポリオレフィン系樹脂に無い柔軟性を得ることができる。さらに、無公害性、価格性、顔料添加による着色の容易性でも優れたものを得ることができる。
【0036】
なお、熱可塑性エラストマーとしては、オレフィン系樹脂の他にスチレン系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂等があるが、スチレン系樹脂は構造からくる着色の困難さ、ウレタン系樹脂は耐候性の悪さ、ポリエステル系樹脂はフィルムの硬さからくる加工性の悪さから、熱可塑性樹脂基材シート2のポリオレフィン系樹脂としては適さない。
【0037】
上記以外では、例えば、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリスチレン、ABS、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸ブチル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリアミド、ナイロン6、ナイロン66、ポリ乳酸、紙等も用いてもよく、また、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0038】
上述の熱可塑性樹脂基材シート2は、先に記述したように、少なくとも片面(裏面)側には、プライマー層を設ける際の、表面活性化処理が施される。
【0039】
表面活性化処理の例としては、コロナ放電処理、フレーム処理、紫外線処理、高周波処理、グロー放電処理、活性プラズマ処理、レーザ処理、オゾン酸処理、機械的処理などの各種処理方法を挙げることができるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0040】
また、熱可塑性樹脂基材シート2は、着色が施されてあっても良い。
【0041】
着色方法としては、顔料を分散助剤や界面活性剤で処理した微粉末状の着色剤を使用するドライカラー法、樹脂と高濃度の顔料とを溶融混連して予備分散したマスターバッチペレットを作製し、押出しホッパー内で着色のされていない通常の樹脂とドライブレンドするマスターバッチ法等を用いることができ、特に限定されるものではない。顔料の種類も、特に限定されるものではないが、耐候性、耐熱性等を考慮すると、酸化チタン、群青、カドミウム顔料、酸化鉄等の無機顔料が望ましい。また、有機顔料でも、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料等は使用することができる。顔料の色や配合比率は、隠蔽の度合いや意匠性等を鑑みて、任意に決められるものであり、特に限定されるものではない。
【0042】
また、熱可塑性樹脂基材シート2の厚さは、汎用的に用いられることを考慮すると、10μm以上100μm以下が好ましい。
【0043】
(絵柄模様層3)
絵柄模様層3は、熱可塑性樹脂基材シート2上に印刷により形成され、意匠性を付与するための絵柄を付加する層である。絵柄としては、例えば、木目模様、コルク模様、石目模様、タイル模様、抽象柄等を用いることができる。印刷インキの顔料としては、例えば、イソインドリノンイエロー、ポリアゾレッド、フタロシアニンブルー、カーボンブラック、酸化鉄、酸化チタンのいずれか、或いはこれらの混合物を用いることができる。また、バインダーとしては、例えば、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂などの各種樹脂を任意に用いることができる。特に、熱可塑性樹脂基材シート2との接着性等を考慮すると、イソシアネート硬化剤と活性水素とを含んでいるバインダーが好ましい。
【0044】
また、印刷インキには、可塑剤、安定剤、ワックス、グリース、乾燥剤、硬化剤、増粘剤、分散剤、充填剤等を添加するようにしてもよい。さらに、印刷方法としては、例えば、グラビア印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、グラビアオフセット印刷、凹版印刷、静電印刷、インクジェット印刷、フレキソ印刷を用いることができる。
【0045】
(接着剤層4)
接着剤層4は、絵柄模様層3と透明熱可塑性樹脂層5とを接着する接着剤を含んでなる層である。接着剤としては、絵柄模様層3を構成する印刷インキと透明熱可塑性樹脂層5を構成する樹脂との組み合わせに応じて、ウレタン系、アクリル系、及びポリエステル系等から適宜選択する。
【0046】
(透明熱可塑性樹脂層5)
透明熱可塑性樹脂層5は、複数層からなるシート状の層である。各層は、絵柄模様層3の絵柄が透けて見える、透明な熱可塑性樹脂から形成される。熱可塑性樹脂としては、例えば、塩化ビニル樹脂以外の種々の樹脂が可能である。各層の樹脂の組み合わせは、目的とする特性により、様々な組合せが可能である。層の数としては、4層以上も可能だが、押出し機の構造が複雑化し、作業の煩雑さが大きくなるため、3層までが好ましい。
【0047】
図1の例では、透明熱可塑性樹脂層5は、熱可塑性樹脂基材シート2側から、予め定めた樹脂(以下、「第1の樹脂」とも呼ぶ)を含んでなる第1の樹脂層5−1、及び第1の樹脂とは異なる樹脂(以下、「第2の樹脂」とも呼ぶ)を含んでなる第2の樹脂層5−2の2層がこの順に積層されて形成されている。
【0048】
第1の樹脂及び第2の樹脂としては、例えば、エンボス化粧シート1の表面の耐傷性、耐候性、耐汚染性、耐光性、透明性、折り曲げ性、熱成形性等を考慮し、更に材料コスト等を考慮すれば、第1の樹脂層5−1は透明マレイン酸変性ポリプロピレンを含んでなる層であり、第2の樹脂層5−2は透明ポリプロピレンと紫外線吸収剤と光安定剤のいずれか・又はその複合を含んでなる層であることが好ましい。
【0049】
(ポリプロピレン樹脂)
本実施形態のポリプロピレン樹脂としては、例えば、自由末端長鎖分岐を付与したポリプロピレン樹脂(a)と、自由末端長鎖分岐を付与していないポリプロピレン樹脂(b)との混合物で、その混合物の質量平均分子量/数平均分子量として定義される分子量分布Mw/Mnが1以上5以下の範囲内にあり、かつ、その(a)と(b)の混合樹脂の、沸騰ヘプタン可溶残分率として規定されるアイソタクチック指数が、1%以上90%以下の範囲内にあるものを用いるようにしてもよい。これにより、エンボス化粧シート1を鋼板基材に貼り合わせた後の折り曲げ加工において、白化や割れを抑制することができる。
【0050】
ここで、分子量分布は、分子量Miの分子がNi個存在する場合に、数平均分子量Mn=Σ(Mi×Ni)/ΣNi、質量平均分子量Mw=Σ(Ni×Mi2)/Σ(Ni×Mi)の比、Mw/Mnとして定義される値である。1に近いほど分子量の分布が狭く、均一性が高くなる。この分子量分布が5以下になるようにすれば、分子量を必要十分な大きさに揃えることができ、白化や割れの抑制に寄与するようになる。一般的には、分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により測定することができる。
【0051】
また、沸騰ヘプタン可溶残分率として規定されるアイソタクチック指数は、ポリプロピレン樹脂中の結晶化度を調べる指標として有用である。具体的には、試料を沸騰n−ヘプタンで一定時間抽出を行い、抽出されない部分の質量(%)を求めてアイソタクチックインデックスを算出する。
【0052】
詳しくは、円筒濾紙を110±5℃で2時間乾燥し、恒温恒湿の室内で2時間以上放置してから、円筒濾紙中に試料(粉体またはフレーク状)8g以上10g以下を入れ、秤量カップ、ピンセットを用いて精秤する。これをヘプタン約80ccの入った抽出器の上部にセットし、抽出器と冷却器を組み立てる。
【0053】
これをオイルバスまたは電機ヒーターで加熱し、12時間抽出する。加熱は、冷却器からの滴下数が1分間130滴以上であるように調節する。続いて、抽出残分の入った円筒濾紙を取り出し、真空乾燥器にいれて80℃、100mmHg以下の真空度で5時間乾燥する。乾燥後、恒温恒湿中に2時間放置した後、精秤し、(P/Po)×100によりアイソタクチック指数を算出する。ただし、Poは抽出前の試料質量(g)、Pは抽出後の試料質量(g)である。
【0054】
アイソタクチック指数を90%以下にすることで、ポリプロピレン結晶起因によるシート剛性を抑制することができる。アイソタクチック指数を下げる方法としては、例えば、非晶質ポリプロピレン成分(シンジオタクチックポリプロピレンやアダクチックポリプロピレン等)を一部に使う方法や、エチレンやα−オレフィン等のオレフィンモノマーを1種類以上ランダム共重合させる方法、各種ゴム成分(例えばエチレン−プロピレンゴム(EPR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)等の成分)を添加する方法を用いることができる。
【0055】
また、ポリプロピレン樹脂(a)と(b)との混合樹脂の溶融張力(2.0mm径のノズルキャピラリーレオメーターを用い、温度条件230℃、60mm/分で押し出し、2mm/分で引き取るときの張力)は、100mN以上500mN以下の範囲内にあることが望ましい。500mNを超えると、溶融粘度が高くなりすぎて、安定した成膜ができなくなる。また100mN以下では、長鎖分岐成分が不十分となり、所望の性能を得難い。
【0056】
また、ポリプロピレン樹脂(a)と(b)との混合物の、JIS−K6760にて規定される230℃におけるメルトフローレートが5g/10min以上50g/10min以下の範囲内にすることで、分子量をある一定値以上で、かつ安定的な製膜状態を保持することができる。
【0057】
より好適なメルトフローレートの範囲は、10g/10min以上30g/10min以下であり、更に好ましくは10g/10min以上25g/10min以下である。メルトフローレートが50g/10minを超えると、Tダイによる溶融押出時に、Tダイから溶融押出された樹脂が、中央に集まろうとする効果(ネックイン)が大きくなり、Tダイから溶融押出された樹脂の端部厚みが増大してしまう。
【0058】
端部の厚み増大は冷却効率の低下と巾方向の厚み安定性に影響を与えるため、安定した製膜がしづらくなる。また、5g/10minよりも低いと、溶融樹脂のドローレゾナンスが悪くなり、Tダイから出た直後の溶融樹脂の速度(初速)と冷却ロールに触れた直後の樹脂の速度とのギャップに溶融樹脂が対応できなくなってしまい、安定した製膜がしづらくなる。
【0059】
上述のようにして得られる透明熱可塑性樹脂層5は、特に第2の樹脂層5−2の引っ張り伸度が50〜700%で、且つ引っ張り弾性率が2000〜10000kgf/cm2であることが望ましい。
【0060】
引っ張り弾性率において、その値が大きすぎてもまた小さすぎても、化粧板用基材と貼り合わせた後の切削加工等において、バリなどの不具合が発生する傾向にある。
【0061】
また、引っ張り弾性率が10000kgf/cm2を超える場合には、低温での折り曲げ試験において、折り曲げ部の白化現象が発生する場合がある。
【0062】
また、透明熱可塑性樹脂層5(特に第2の樹脂層5−2)に添加する紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、ベンゾフェノン系等から適宜選定する。 ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、2−(2−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール,2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3−t−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール,2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール等やこれらの混合物、変性物、重合物、誘導体を用いることができる。
【0063】
また、トリアジン系紫外線吸収剤としては、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−ドデシルオキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−トリデシルオキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−6−(2−ヒドロキシ−4−イソ−オクチルオキシフェニル)−s−トリアジン等やこれらの混合物、変性物、重合物、誘導体を用いることができる。
【0064】
さらに、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、オクタベンゾンや変性物、重合物、誘導体等を用いることができる。イソシアネート添加による架橋による樹脂成分との結合を望めるため、紫外線吸収剤としては、特に、水酸基を有するものが適している。添加部数は、所望の耐候性に応じて設定すればよいが、樹脂固形分に対して0.1%以上50%以下、好ましくは1%以上30%以下とする。
【0065】
また、透明熱可塑性樹脂層5に添加する光安定剤には、アミン型、あるいはアミノエーテル型の光安定剤を用いることが望ましく、具体的には、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドリキシフェニル]メチル]ブチルマロネート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケート、メチル(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケート、デカン二酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1(オクチルオキシ)−4−ピペリジニル)エステル等やこれらの混合物、変性物、重合物、誘導体等を用いることができる。
【0066】
添加部数は所望の耐候性に応じて添加すればよいが、樹脂固形分に対して0.1質量%以上50質量%以下、好ましくは1質量%以上30質量%以下とする。
【0067】
上記以外では、例えば、熱安定剤、難燃剤、ブロッキング防止剤等を添加してもよい。熱安定剤としては、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3、5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)]−プロピオネート、2、4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、1,3,5−トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌル酸等のヒンダードフェノール系酸化防止剤、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)等のフェノール系酸化防止剤、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイトに代表される燐系酸化防止剤等やこれらの混合物、つまり、1種、または2種以上を組み合わせたものを用いることができる。
【0068】
また、難燃剤としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の無機系化合物や燐酸エステル系の難燃剤等を用いることができる。
【0069】
さらに、ブロッキング防止剤としては、珪酸アルミニウム、酸化珪素、ハイドロタルサイト、炭酸カルシウム等の無機系ブロッキング防止剤、脂肪酸アミド等の有機系ブロッキング防止剤等を用いることができる。また、透明熱可塑性樹脂層5の厚さは、10μm以上100μm以下が好適である。
【0070】
(表面保護層6)
表面保護層6としては、表面の保護や艶の調整としての役割を果たす樹脂組成物であれば、いずれも用いることができるが、中でも熱硬化型樹脂あるいは電離放射線硬化型樹脂、またはその複合物からなることが望ましい。
【0071】
ここで、電離放射線硬化型樹脂とは、紫外線などの光照射によって硬化する樹脂や、電子線などの照射によって硬化する樹脂などを示している。
【0072】
そのような樹脂組成物の具体例としては、ポリウレタン系樹脂、アクリルシリコン系樹脂、フッ素系樹脂、エポキシ系樹脂、ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、メラミン系樹脂、アミノアルキド系樹脂、尿素系樹脂、ビニル基を有するモノマーやオリゴマーなどを挙げることができるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0073】
また、樹脂組成物の形態は、水性、エマルジョン、溶剤系など特に限定されるものではない。
【0074】
更には、樹脂組成物の硬化法についても、一液タイプ、二液タイプ、紫外線硬化法や電子線硬化法など適宜選択して用いることができる。
【0075】
中でも、イソシアネートを用いた熱硬化型のものは、作業性、価格、樹脂自体の凝集力などの観点から好ましいと言える。
【0076】
イソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、メタジイソシアネート(MDI)、リジンジイソシアネート(LDI)、イロホロジイソシアネート(IPDI)、メチルヘキサンジイソシアネート(HTDI)、メチルシクロヘキサノンジイソシアネート(HXDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)などから適宜選定して用いることができる。
【0077】
また、表面保護層6には、紫外線吸収剤と光安定剤のいずれか、またはその複合したものを含んでおり、紫外線吸収剤としては、先に示したベンゾトリアゾール系、トリアジン系、ベンゾフェノン系などの各種有機系紫外線吸収剤の他、酸化亜鉛などに代表される無機系紫外線吸収剤や、無機系または有機系紫外線吸収剤ベシクルなどが、用いられてあっても良い。
【0078】
光安定剤としては、先に示したアミン型光安定剤、またはアミノエーテル型光安定剤を用いることが好適である。
【0079】
また、表面保護層6に対して、各種機能を付与するために、抗菌剤、防カビ剤等の機能性添加剤を任意に添加することができる。更には、表面の艶調整といった意匠性向上目的や、耐摩擦性付与などの目的から、アルミナ、シリカ、窒化珪素、炭化珪素、ガラスビーズ等が添加されてあっても何ら問題ない。
【0080】
(プライマー層7)
プライマー層7は、前述の通り、熱可塑性樹脂基材シート2の裏面に、表面活性化処理を施された上から、設けられる。
【0081】
プライマー層7としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、これらの混合物等を使用することができる。
【0082】
更に、ポリオールとイソシアネートによる2液タイプにすることで、シートとプライマーの密着性およびプライマー自体の凝集力を向上することができる。ポリオールとしてはアクリルポリオール、ポリエステルポリオールなどが挙げられる。
【0083】
また、イソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、4,4‘ジフェニルメタンジイソシアネートといった芳香族系、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシレンジイソシアネートといった脂肪族系が挙げられる。反応性の早さの点、耐熱性の点で芳香族系が好ましい。
【0084】
プライマー層の厚みは1μm以上が好ましい。1μm未満となると、化粧板用基材との接着の際に、接着剤の溶剤種によっては溶解してしまい、プライマー層が消失することから密着性が向上しない。
【0085】
プライマーに含有するシリカは、粒径1〜4μm、細孔容積は0.4〜2.0ml/gであれば、接着剤の吸収が良くかつプライマーの凝集力に影響しない。
【0086】
シリカの含有量は、接着剤の吸収・浸透性、耐ブロッキング性を考慮して、プライマー樹脂100重量部に対して5重量部以上30重量部以下の割合とする。5重量部を下回ると接着力、耐ブロッキング性が悪く、30重量部を上回るとプライマーの層間剥離現象が見られる。
【0087】
(エンボス化粧シート1の製造方法)
次に、本実施形態のエンボス化粧シート1の製造方法について説明する。
【0088】
まず、熱可塑性樹脂基材シート2上に、印刷によって絵柄模様層3を形成する。続いて、この絵柄模様層3上に、接着剤を塗布して接着剤層4を形成した。続いて、この絵柄模様層3上に、溶融した透明熱可塑性樹脂を含んでなる複数層を多層押出機11から押し出して積層することで、透明熱可塑性樹脂層5(5−1、5−2)を形成する。
【0089】
同時に、エンボスロール12と加圧ロール13とによって、熱可塑性樹脂基材シート2、絵柄模様層3、接着剤層4及び透明熱可塑性樹脂層5の積層体をニップして、エンボス加工とラミネートとを同時に行う。
【0090】
エンボス加工とラミネートとで一体化したシートは、エンボスロール12の外周に沿って移動し、剥離ロール14によって剥離され、エンボス化粧シート1となる。
【0091】
図2の例では、熱可塑性樹脂基材シート2、絵柄模様層3、及び接着剤層4の積層体と、透明熱可塑性樹脂層5とをエンボスロール12と加圧ロール13との間に一緒に挿入している。
【0092】
エンボスロール12、加圧ロール13、及び剥離ロール14のそれぞれは、内部に冷却機構を備え、溶融した透明熱可塑性樹脂の温度を低下させて固化させる。
【0093】
本実施形態では、エンボスロール12を金属ロール、加圧ロール13及び剥離ロール14をゴムロールとする。そのため、冷却効果の大半は、エンボスロール12が担うため、エンボスロール12の直径によって生産速度が決定される。ここで、エンボスロール12の直径が大きいほど生産速度は上がるが、エンボスロール12の製造コストも増大するので、製造原価を最小にするためには、エンボスロール12の直径、生産能率、押出し機の能力を総合的に検討しなければならない。
【0094】
なお、熱可塑性樹脂基材シート2の挿入位置は、図3に示すように、エンボスロール12と剥離ロール14との間としてもよい。これにより、接着剤等で接着性を確保する必要があるが、熱可塑性樹脂基材シート2の厚さが薄くて、耐熱性に乏しい場合に、有効である。
【実施例】
【0095】
次に、本発明の実施例及び比較例について説明する。
【0096】
(実施例1)
ポリオレフィン系無機充填シート60μm(リケンテクノス(株)製)を熱可塑性樹脂基材シート2として用い、この熱可塑性樹脂基材シート2上に、グラビア印刷法によって木目模様を印刷して絵柄模様層3を形成した。続いて、この絵柄模様層3上に、ウレタン樹脂系接着剤を塗布し温風乾燥で接着剤層4を形成した。
【0097】
続いて、この接着剤層4上に、溶融した透明熱可塑性樹脂を含んでなる複数層を多軸エクストルーダーよりTダイで押し出して(多層押出機11から押し出して)積層することで、透明熱可塑性樹脂層5を形成した。第1の樹脂には、透明マレイン酸変性ポリプロピレン(理研ビタミン(株)製)を用い、第2の樹脂にはポリプロピレン樹脂にフェノール系酸化防止剤(BASF社製「IRGANOX1010」)を0.2重量部、ヒンダードアミン系光安定剤(BASF社製「TINUVIN622」)を0.3重量部、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(BASF社製「TINUVIN326」)を0.5重量部添加した樹脂(引っ張り伸度が200%であり、引っ張り弾性率が5000kgf/cm2である)を用いた。
【0098】
同時に、導管エンボス版(エンボスロール8)とゴムロール(加圧ロール9)とによって、熱可塑性樹脂基材シート2、絵柄模様層3、接着剤層4及び透明熱可塑性樹脂層5の積層体をニップして、エンボス加工とラミネートとを同時に行った。ここで、第1の樹脂層5−1の厚さは10μmとし、第2の樹脂層5−2の厚さは60μmとした。
【0099】
この化粧シートのエンボス面に表面処理を施した後、表面保護層樹脂としてウレタン系樹脂(東洋インキ(株)製「URV238ワニス」)に硬化剤(東洋インキ(株)製「UR150Bワニス」)を10重量部添加したものに、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(BASF社製「TINUVIN326」)0.5重量部、ヒンダードアミン系光安定剤(BASF社製「TINUVIN622」)を1重量部添加したものを、グラビアコートで乾燥後の塗布量が5g/m2となるようにコートし表面保護層6を得た。
【0100】
更に、熱可塑性樹脂基材シート2の裏面に表面活性化処理を施した後、この面にポリオール(東洋インキ(株)製「ラミスターEM」)100重量部に対して、シリカ10重量部を添加して含有させ、イソシアネート(東洋インキ(株)製「LPNYB硬化剤」)3重量部を加えたものをプライマー塗工液とし、グラビアコートで乾燥後の塗布量が3g/m2となるようにコートしプライマー層7を得た。
このような手順により、実施例1のエンボス化粧シート1を形成した。
【0101】
(実施例2)
光安定剤をアミノエーテル型(BASF社製「TINUVIN123」)とした以外は、実施例1と同様にしてエンボス化粧シート1を形成した。
【0102】
(実施例3)
光安定剤をアミノエーテル型とし、第2の樹脂中に紫外線吸収剤を使用しない以外は、実施例1と同様にしてエンボス化粧シート1を形成した。
【0103】
(実施例4)
第2の樹脂中に光安定剤を使用しない以外は、実施例1と同様にしてエンボス化粧シート1を形成した。
【0104】
(実施例5)
光安定剤をアミノエーテル型とし、表面保護層中に紫外線吸収剤を使用しない以外は、実施例1と同様にしてエンボス化粧シート1を形成した。
【0105】
(実施例6)
表面保護層中に光安定剤を使用しない以外は、実施例1と同様にしてエンボス化粧シート1を形成した。
【0106】
(比較例1)(引っ張り弾性率が高すぎる)
第2の樹脂に、引っ張り伸度120%且つ引っ張り弾性率12000kgf/cm2で あるポリプロピレン樹脂を使用する以外は、実施例1と同様にしてエンボス化粧シート1 を形成した。
【0107】
(比較例2)(引っ張り弾性率が低すぎる)
第2の樹脂に、引っ張り伸度200%且つ引っ張り弾性率1000kgf/cm2であるポリプロピレン樹脂を使用する以外は、実施例1と同様にしてエンボス化粧シート1を形成した。
【0108】
(比較例3)(プライマー中のシリカ量が少なすぎる)
プライマーに添加するシリカを3重量部とした以外は、実施例1と同様にしてエンボス化粧シート1を形成した。
【0109】
(比較例4)(プライマー中のシリカ量が多すぎる)
プライマーに添加するシリカを40重量部とした以外は、実施例1と同様にしてエンボス化粧シート1を形成した。
【0110】
(比較例5)(熱可塑性樹脂層に耐候剤未使用)
第2の樹脂中に光安定剤・紫外線吸収剤を使用しない以外は、実施例1と同様にしてエンボス化粧シート1を形成した。
【0111】
(比較例6)(表面保護層に耐候剤未使用)
表面保護層に光安定剤・紫外線吸収剤を使用しない以外は、実施例1と同様にしてエンボス化粧シート1を形成した。
【0112】
<評価方法>
切削性評価:12mm厚の中密度繊維板(MDF)基材にエチレン−酢酸ビニル共重合エマルジョン型接着剤を塗布し、エンボス化粧シート1のプライマー層7側と貼り合せ化粧板を得た。
【0113】
この化粧板を丸ノコで切断加工およびハンドルータにより表面がMDFに達する切削加工試験を行い、シートのバリの発生の有無を確認した。
【0114】
○:バリが発生しない ×:バリが発生した
低温折り曲げ性評価:前記化粧板のMDF側からエンボス化粧シート1に達するV溝を刻んだ後、5℃の低温環境下に3時間放置した直後に折り曲げ加工を行い、曲げ部分のシートの白化の有無を確認した。
【0115】
○:白化は見られない ×:白化が見られた
プライマーの密着性:プライマー層にニチバンテープを用いてセロテープ(登録商標)密着試験を行い、プライマーの密着性を確認した。
【0116】
○:プライマー剥離なし ×:プライマー剥離発生
化粧板用基材との接着力:前記化粧板のエンボス化粧シート側に、MDF基材に達するように1インチ巾の切り込みを入れた後、テンシロンを用いて20mm/minの速さで180°剥離試験を実施し密着強度を測定した。
【0117】
比較対象として、塩化ビニルシートとMDFを貼り合せたものを同様の手順で密着強度の測定をし、密着強度の比較を行った。
【0118】
○:塩化ビニルシートの密着強度と同等かそれ以上の密着強度が出た
×:塩化ビニルシートの密着強度より低い密着強度となった
耐候性評価(1):メタルウェザー試験機(ダイプラ・ウィンテス(株)製 ダイプラ・メタルウェザー KU−R5DC1−A)を用い、以下の試験条件を繰り返し、144時間の促進耐候性試験を行った。
試験条件:照度65mW/cm2、Light(53℃、50%RH)20時間の後に、Dew(30℃、95%RH)4時間で1サイクル終了。散水はDewの前後に30秒とした。
【0119】
評価項目は以下の通りとした。
【0120】
表面のひび割れ・クラック ○:発生せず
△:軽微なひびが見られる
×:ひび割れ・クラックが発生
絵柄印刷層の変退色 ○:変退色なし
△:軽微な変退色あり
×:変退色が見られる
耐候性評価(2):試験サンプルに市販の酸性殺虫剤を噴霧・乾燥させた後、耐候性評価(1)と同様の促進耐候試験を実施した。評価項目は耐候性評価(2)と同様とした。
【0121】
(評価結果)
評価結果を以下の表に示す
【0122】
【表1】

【0123】
【表2】

【0124】
比較例1より、透明熱可塑性樹脂層5の引っ張り弾性率が10000kgf/m2を超えると、化粧板とした後の切削加工により、バリが発生し、且つ低温屈折試験において、折り曲げ部の白化が生じることが判った。
【0125】
また、比較例2より、透明熱可塑性樹脂層5の引っ張り弾性率が2000kgf/m2より小さいと、化粧板とした後の切削加工により、バリが発生することが判った。
【0126】
比較例3および比較例4より、プライマー層のシリカ添加量が適性範囲外にあると、プライマーの密着性や、化粧板用基材との接着力が低下することが判った。
【0127】
更には、比較例5および比較例6より、透明熱可塑性樹脂層5や表面保護層6に、紫外線吸収剤や光安定剤を添加しないと、耐候性が低下することが判った。
【0128】
また、実施例1と実施例2より、酸性条件に晒された耐候性試験では、光安定剤としてアミノエーテル型の光安定剤を用いた方が、より効果的であることが判った。
【0129】
以上のように、実施例の範囲でエンボス化粧シートを作成することにより、切削性・低温折り曲げ性が良く、プライマーと基材の密着力が塩ビ化粧シートと同等かそれ以上で、実使用上に耐えうる耐候性を備えたエンボス化粧シートを提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0130】
1 ・・・ エンボス化粧シート
2 ・・・ 熱可塑性樹脂基材シート
3 ・・・ 絵柄印刷層
4 ・・・ 接着剤層
5 ・・・ 透明熱可塑性樹脂層
5−1 ・・・ 第1の樹脂層
5−2 ・・・ 第2の樹脂層
6 ・・・ 表面保護層
7 ・・・ プライマー層
11 ・・・ 多層押出機
12 ・・・ エンボスロール
13 ・・・ 加圧ロール
14 ・・・ 剥離ロール
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂基材シート上に、絵柄模様層、接着剤層、透明熱可塑性樹脂層、及び表面保護層がこの順に積層されており、且つ、少なくとも前記透明熱可塑性樹脂層にエンボスが形成されており、且つ前記熱可塑性樹脂基材シートの裏面に表面活性化処理が施されており、該表面活性化処理された面にプライマー層を設けてあるエンボス化粧シートであって、
前記透明熱可塑性樹脂層は、前記熱可塑性樹脂基材シート側から、第1の樹脂を含んでなる層と、前記第1の樹脂とは異なる第2の樹脂を含んでなる層とがこの順に積層されており、
前記第1の樹脂を含んでなる層は透明マレイン酸変性ポリプロピレンを含んでおり、第2の樹脂を含んでなる層は、紫外線吸収剤と光安定剤のいずれか、又はその複合物と、透明ポリプロピレンとを含んでおり、且つ、引っ張り伸度が50〜700%で且つ引っ張り弾性率が2000〜5000kgf/cm2であり、
前記透明熱可塑性樹脂層の厚さが10μm以上100μm以下であり、
前記接着剤層は、ウレタン樹脂系接着剤であり、
前記プライマー層が、プライマー樹脂100重量部に対しシリカを5〜30重量部の割合で含有することを特徴とするエンボス化粧シート。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記第2の樹脂を含んでなる層に含まれる光安定剤がアミン型光安定剤であることを特徴とする請求項1に記載のエンボス化粧シート。
【請求項4】
前記第2の樹脂を含んでなる層に含まれる光安定剤がアミノエーテル型光安定剤であることを特徴とする請求項1に記載のエンボス化粧シート。
【請求項5】
前記表面保護層は熱硬化型樹脂又は電離放射線硬化型樹脂、又はその複合物からなり、更に紫外線吸収剤と光安定剤のいずれか、又はその複合物を含むことを特徴とする請求項1に記載のエンボス化粧シート。
【請求項6】
前記表面保護層に含まれる光安定剤がアミン型光安定剤であることを特徴とする請求項5に記載のエンボス化粧シート。
【請求項7】
前記表面保護層に含まれる光安定剤がアミノエーテル型光安定剤であることを特徴とする請求項5に記載のエンボス化粧シート。
【請求項8】
請求項1及び請求項3から7のいずれか1項に記載のエンボス化粧シートの製造方法であって、
熱可塑性樹脂基材シート上に、印刷によって絵柄模様層を形成した後、その絵柄模様層上に、溶融した透明熱可塑性樹脂を含んでなる複数層を多層押出機から押し出して積層することで、透明熱可塑性樹脂層を形成し、同時に前記透明熱可塑性樹脂層にエンボス加工を行うことを特徴とするエンボス化粧シートの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-04-28 
出願番号 P2016-199880
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B32B)
P 1 651・ 536- YAA (B32B)
P 1 651・ 537- YAA (B32B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 藤原 直欣
特許庁審判官 柳本 幸雄
藤井 眞吾
登録日 2020-12-14 
登録番号 6809110
権利者 凸版印刷株式会社
発明の名称 エンボス化粧シート及びその製造方法  
代理人 田中 秀▲てつ▼  
代理人 宮坂 徹  
代理人 廣瀬 一  
代理人 田中 秀▲てつ▼  
代理人 宮坂 徹  
代理人 廣瀬 一  

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