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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
管理番号 1386155
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-10-21 
確定日 2022-04-09 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6860751号発明「繊維状炭素を含む全固体リチウム二次電池用の活物質層、及び全固体リチウム二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6860751号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔2−7〕について訂正することを認める。 特許第6860751号の請求項1に係る特許を維持する。 特許第6860751号の請求項2ないし7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6860751号の請求項1ないし7に係る発明についての出願は、令和2年6月26日(優先権主張 令和1年6月28日、令和1年8月21日)に出願され、令和3年3月30日にその特許権が設定登録され、令和3年4月21日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立での経緯は、次のとおりである。
令和3年10月21日 :特許異議申立人林尚子による請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議の申立て
令和3年12月17日付け:取消理由通知書
令和4年 2月18日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和4年2月18日の訂正請求の趣旨は、特許第6860751号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6を削除する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7を削除する。
(7)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2ないし7は、請求項7が、訂正の対象となる請求項2ないし6を引用しているものであるから、請求項2ないし7は一群の請求項を構成する。
本件訂正請求は、一群の請求項〔2−7〕に対して請求されたものである。

2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
(ア)訂正の目的
訂正事項1は、請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、請求項2を削除するものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

イ 訂正事項2について
(ア)訂正の目的
訂正事項2は、請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2は、請求項3を削除するものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

ウ 訂正事項3について
(ア)訂正の目的
訂正事項3は、請求項4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3は、請求項4を削除するものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

エ 訂正事項4について
(ア)訂正の目的
訂正事項4は、請求項5を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項4は、請求項5を削除するものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

オ 訂正事項5について
(ア)訂正の目的
訂正事項5は、請求項6を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項5は、請求項6を削除するものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

カ 訂正事項6について
(ア)訂正の目的
訂正事項6は、請求項7を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項6は、請求項7を削除するものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)小活
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項および第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔2−7〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし7に係る発明(以下「本件発明1ないし7」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
活物質と、導電助剤と、固体電解質とを少なくとも含む全固体リチウム二次電池用の活物質層であって、
前記活物質層は空隙を有し、
前記活物質層における前記導電助剤の割合が0.1質量%以上5.0質量%未満であり、
前記導電助剤が平均繊維径10〜900nmの繊維状炭素を含有するとともに、前記導電助剤における前記繊維状炭素の割合が20質量%以上であり、
前記活物質層の膜厚方向における電気伝導度が1.0×10−3S/cm以上であることを特徴とする全固体リチウム二次電池用の活物質層。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
(削除)」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項2ないし7に係る特許に対して、当審が令和3年12月17日に特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
進歩性)下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項2
・引用文献等 甲第1号証、甲第3号証

・請求項3ないし6
・引用文献等 甲第1号証、甲第2号証

・請求項7
・引用文献等 甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証

<引用文献一覧>
甲第1号証:特開2018−181706号公報
甲第2号証:国際公開2017/135406号
甲第3号証:特開2016−39146号公報

2 当審の判断
令和4年2月18日の訂正請求により請求項2ないし7は削除されたので、当審が令和3年12月17日に特許権者に通知した取消理由は存在しないことになった。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許法第29条第2項について
(1)特許異議申立人の主張
特許異議申立人は特許異議申立書において、請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張している。

(2)当審の判断
ア 甲各号証の記載
(ア)甲第1号証の記載事項、引用発明
甲第1号証には、次の事項が記載されている。
「【請求項1】
正極、負極、及びこれらの間に配置される固体電解質層を備える全固体リチウムイオン二次電池の製造方法であって、
負極活物質、固体電解質、及び導電材を含有する負極合材用原料を乾燥させることにより負極合材を得る負極合材形成工程、並びに、
正極合材、負極合材、及びこれらの電極合材間に配置される固体電解質材料部を備える積層体に通電することにより、正極合材を正極へ、負極合材を負極へ、固体電解質材料部を固体電解質層へそれぞれ変換する通電工程を有し、
前記負極活物質は、Liと合金を形成可能な金属、及び当該金属の酸化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の活物質を含み、
前記負極合材形成工程における乾燥後の負極合材について、当該負極合材の体積を100体積%としたときの前記導電材の体積割合(%)を、下記式(1)により算出される当該負極合材内の空隙率V(%)により除して得られる値が、2.3以上16.2以下であることを特徴とする、全固体リチウムイオン二次電池の製造方法。
式(1) V=100−(D1/D0)
(上記式(1)中、Vは乾燥後の負極合材内の空隙率(%)を、D1は当該負極合材の絶対密度(g/cm3)を、D0は当該負極合材の真密度(g/cm3)を、それぞれ示す。)」
「【0018】
負極合材中の負極活物質の割合は、特に限定されるものではないが、例えば40質量%以上であり、50質量%〜90質量%の範囲内であってもよく、50質量%〜70質量%の範囲内であってもよい。
前記Liと合金を形成可能な金属、及び当該金属の酸化物の形状には特に制限はなく、例えば、粒子状、膜状の形状等が挙げられる。」
「【0019】
・・・
負極合材中の固体電解質の割合は、特に限定されるものではないが、例えば10質量%以上であり、20質量%〜50質量%の範囲内であってもよく、25質量%〜45質量%の範囲内であってもよい。」
「【0021】
(導電材)
前記導電材は、負極中で、全固体リチウムイオン二次電池に使用できるものであれば、特に制限はない。例えば、前記導電材の原料は、アセチレンブラックやファーネスブラック等のカーボンブラック、カーボンナノチューブ、及び、カーボンナノファイバーからなる群より選ばれる少なくとも一種の炭素系素材であってもよい。
電子伝導性の観点から、カーボンナノチューブ、及び、カーボンナノファイバーからなる群より選ばれる少なくとも一種の炭素系素材であってもよく、当該カーボンナノチューブ、及び、カーボンナノファイバーはVGCF(気相法炭素繊維)であってもよい。
なお本開示において、負極合材中の各材料の体積割合は、各材料の真密度から算出される値である。この体積割合の算出に際し、負極合材中の空隙は考慮に入れないものとする。」
「【0022】
・・・
負極合材の体積を100体積%としたとき、結着剤の体積割合は、好適には0.3体積%以上9.0体積%以下であり、より好適には1.0体積%以上4.0体積%以下である。」
「【0044】
(2)負極合材形成工程
容器に下記負極用原料を加えた。
・負極活物質:Si粒子(平均粒径:5μm)
・硫化物系固体電解質:上記負極用固体電解質粒子
・導電材:VGCF
・結着剤:PVdF系バインダーの5質量%酪酸ブチル溶液
得られる負極合材の総体積を100%としたときに導電材の体積割合が9.2体積%となるように、上記負極用原料の混合物中の導電材の含有量を調整した。
容器中の混合物を、超音波分散装置により30秒間攪拌した。次に、容器を振とう器で30分間振とうさせ、負極合材用原料を調製した。
アプリケーターを用いてブレード法により負極合材用原料を銅箔(負極集電体)の片面上に塗工した。この負極合材用原料を、100℃のホットプレート上で30分間乾燥させ、負極合材を形成した。」
「【0052】
[実施例2−実施例3]
実施例1の「(2)負極合材形成工程」において、得られる負極合材の総体積を100%としたときに導電材の体積割合が4.8体積%又は2.5体積%となるように、負極用原料の混合物中の導電材の含有量を調整したこと以外は、実施例1と同様に全固体リチウムイオン二次電池(実施例2、実施例3)を製造した。」
「【0058】
[実施例11]
実施例10の「(2)負極合材形成工程」(実施例1参照)において、得られる負極合材の総体積を100%としたときに導電材の体積割合が1.2体積%となるように、負極用原料の混合物中の導電材の含有量を調整したこと以外は、実施例10と同様に全固体リチウムイオン二次電池(実施例11)を製造した。」
「【0061】
2.負極合材の空隙率の測定
実施例1−12及び比較例1中の、負極合材形成工程における乾燥後の負極合材について、空隙率を測定した。
まず、負極合材の厚みをマイクロメーターで測定し、体積を算出した。負極合材の体積及び質量より、当該負極合材の絶対密度D1を求めた。また、負極合材中に含まれる各物質の真密度と含有割合より、当該負極合材の真密度D0を求めた。負極合材中の各物質の真密度は以下の通りである。
Si粒子 2.33g/cm3
負極用固体電解質粒子 2.21g/cm3
VGCF 2.0g/cm3
PVdF系バインダー 1.82g/cm3
下記式(1)により、当該負極合材内の空隙率Vを求めた。
式(1) V=100−(D1/D0)
(上記式(1)中、Vは乾燥後の負極合材内の空隙率(%)を、D1は当該負極合材の絶対密度(g/cm3)を、D0は当該負極合材の真密度(g/cm3)を、それぞれ示す。)」
「【表1】


表1より、実施例2、3、11において、負極合材の空隙率が、54、53又は52%であることが読み取れる。

上記記載より、全固体リチウムイオン二次電池の製造方法により製造された負極合材に着目すると、実施例2、3、11に関して、甲第1号証には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている(括弧内は、甲第1号証の記載箇所を示す。)。
「正極合材、負極合材、及びこれらの電極合材間に配置される固体電解質材料部を備える全固体リチウムイオン二次電池の負極合材であって(請求項1)、
負極合材は、負極活物質、硫化物系固体電解質、導電材及び結着剤を含有する負極合材用原料を負極集電体に塗工、乾燥させて形成し、
負極活物質は平均粒径5μmのSi粒子、硫化物系固体電解質は負極用固体電解質粒子、導電材はVGCF、結着剤はPVdF系バインダーであり(【0044】)、
負極合材中の負極活物質の割合は、50質量%〜70質量%の範囲内であり(【0018】)、
負極合材中の固体電解質の割合は、25質量%〜45質量%の範囲内であり(【0019】)、
負極合材の総体積を100%としたときに導電材の体積割合が4.8体積%、2.5体積%又は1.2体積%であり(【0052】、【0058】)、
負極合材の体積を100体積%としたとき、結着剤の体積割合は0.3体積%以上9.0体積%以下であり(【0022】)、
負極合材の空隙率が、54、53又は52%である(表1)、
全固体リチウムイオン二次電池の負極合材。」

(イ)甲第2号証の記載
甲第2号証には、次の事項が記載されている。
「[0001]
本発明は、炭素繊維集合体及びその製造方法、該炭素繊維を用いる非水電解質二次電池用電極合剤層、該電極合剤層が形成される非水電解質二次電池用電極、該電極を含んで構成される非水電解質二次電池に関する。」
「[0107]
4.非水電解質二次電池
第4の本発明は、本発明の電極を含んで構成される非水電解質二次電池である。
本発明の非水電解質二次電池は、正極及び/又は負極に本発明の電極を用いるとともに、公知のセパレータや電解液を用いて構成される。非水電解質二次電池としては、リチウムイオン二次電池が例示される。」
「[0120]
実施例1で得られた炭素繊維集合体(CNF)を1質量部、正極活物質(TATUNG FINE CHEMICALS CO.製 P13F)を92質量部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製、W#7200)を7質量部、溶媒としてN−メチルピロリドンを用いてスラリーを作製した。作製したスラリーを集電体(厚さ15μmのアルミニウム箔)に塗布後、120℃で3h乾燥させ、プレスすることで電極を作製した。電極合剤層の厚みは123μm、密度は2.32g/cm3であった。ポテンショスタット/ガルバノスタット(北斗電工株式会社製HA−151)を用いて、作製した電極の膜厚方向の電極抵抗を測定し、その抵抗値から算出される電気伝導度を表1に示す。
[0121]
実施例1で得られた炭素繊維集合体(CNF)を2質量部、正極活物質(TATUNG FINE CHEMICALS CO.製 P13F)を91質量部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製、W#7200)を7質量部、溶媒としてN−メチルピロリドンを用いてスラリーを作製した。作製したスラリーを集電体(厚さ15μmのアルミニウム箔)に塗布後、120℃で3h乾燥させ、プレスすることで電極を作製した。電極合剤層の厚みは120μm、密度は2.29g/cm3であった。ポテンショスタット/ガルバノスタット(北斗電工株式会社製HA−151)を用いて、作製した電極の膜厚方向の電極抵抗を測定し、その抵抗値から算出される電気伝導度を表1に示す。」
「[0130]



以上の記載より、甲第2号証には「電解液を用いる非水電解質二次電池用の電極であって、炭素繊維集合体、正極活物質、バインダー及び溶媒からなるスラリーを、集電体に塗布後、乾燥、プレスすることで作製した電極の電気伝導度が、3.05〜8.93mS/cmである」ことが記載されている。

イ 対比
本件発明1と引用発明を対比すると、次のことがいえる。
a 引用発明の「負極活物質」、「導電材」、「硫化物系固体電解質」は、それぞれ、本件発明1の「活物質」、「導電助剤」、「固体電解質」に相当する。
したがって、引用発明の「負極活物質、硫化物系固体電解質、導電材及び結着剤を含有する負極合材用原料を負極集電体に塗工、乾燥させて形成し」た「全固体リチウムイオン二次電池の負極合材」は、本件発明1の「活物質と、導電助剤と、固体電解質とを少なくとも含む全固体リチウム二次電池用の活物質層」に相当する。

b 引用発明の「負極合材の空隙率が、54、53又は52%である」ことは、本件発明1の「前記活物質層は空隙を有」することに相当する。

c 引用発明において、負極合材における導電材の割合(質量%)を見積もると以下のようになる。
(a)「負極合材」の総体積を100%としたときに「導電材」の体積割合が4.8体積%の場合
「負極合材」の体積を100体積%としたときの「結着剤」の体積割合を上限値の9.0体積%と仮定すると、「負極合材」の残部である「負極活物質」及び「硫化物系固体電解質」の体積割合は86.2体積%となる。
ここで、「負極合材中の負極活物質」の割合は、50質量%〜70質量%の範囲内であり、「負極合材中の固体電解質」の割合は、25質量%〜45質量%の範囲内であり、「負極活物質(Si粒子)」の真密度は2.33g/cm3、「硫化物系固体電解質(負極用固体電解質粒子)」の真密度は2.21g/cm3であるから(【0061】)、「負極活物質」及び「硫化物系固体電解質」からなる86.2体積%の部分の真密度は、2.21〜2.33g/cm3の範囲内である。
そして、「導電材(VGCF)」の真密度は2.0g/cm3、「結着剤(PVdF系バインダー)」の真密度は1.82g/cm3である(【0061】)。
そうすると、「負極合材」における「導電材(VGCF)」の割合は、下記の式より約4.2〜4.4質量%である。
式 2.0×0.048/(2.0×0.048+1.82×0.09+2.33×0.862)×100〜2.0×0.048/(2.0×0.048+1.82×0.09+2.21×0.862)×100=約4.2〜4.4
(b)「負極合材」の総体積を100%としたときに「導電材」の体積割合が2.5体積%の場合
上記と同様に計算すると、「負極合材」における「導電材(VGCF)」の割合は、約2.2〜2.4質量%である。
(c)「負極合材」の総体積を100%としたときに「導電材」の体積割合が1.2体積%の場合
上記と同様に計算すると、「負極合材」における「導電材(VGCF)」の割合は、約1.1質量%である。
(d)したがって、引用発明における「負極合材」における「導電材」の割合は、約1.1質量%以上4.4質量%以下である。
そうすると、引用発明における「負極合材」における「導電材」の割合は、本件発明1の「前記活物質層における前記導電助剤の割合が0.1質量%以上5.0質量%未満であ」ることに含まれる。

d 引用発明の「VGCF」は炭素繊維である(【0021】)。
そうすると、引用発明の「導電材はVGCF」であることと本件発明1とは、「前記導電助剤が」「繊維状炭素を含有するとともに、前記導電助剤における前記繊維状炭素の割合が20質量%以上であ」ることで共通する。
但し、繊維状炭素が、本件発明1は「平均繊維径10〜900nm」であるのに対して、引用発明は平均繊維径が特定されていない点で相違する。

e 活物質層について、本件発明1は「前記活物質層の膜厚方向における電気伝導度が1.0×10−3S/cm以上である」のに対して、引用発明はそのような特定がない点で相違する。

したがって、本件発明1と引用発明とは、次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「活物質と、導電助剤と、固体電解質とを少なくとも含む全固体リチウム二次電池用の活物質層であって、
前記活物質層は空隙を有し、
前記活物質層における前記導電助剤の割合が0.1質量%以上5.0質量%未満であり、
前記導電助剤が繊維状炭素を含有するとともに、前記導電助剤における前記繊維状炭素の割合が20質量%以上である、
全固体リチウム二次電池用の活物質層。」

(相違点1)
繊維状炭素が、本件発明1は「平均繊維径10〜900nm」であるのに対して、引用発明は平均繊維径が特定されていない点。
(相違点2)
活物質層について、本件発明1は「前記活物質層の膜厚方向における電気伝導度が1.0×10−3S/cm以上である」のに対して、引用発明はそのような特定がない点。

ウ 判断
事案に鑑み、上記相違点2について検討する。
甲第2号証には、電解液を用いる非水電解質二次電池用の電極であって、炭素繊維集合体、正極活物質、バインダー及び溶媒からなるスラリーを、集電体に塗布後、乾燥、プレスすることで作製した電極の電気伝導度が、3.05〜8.93mS/cmであることが記載されている(上記「ア (イ)」)。
しかしながら、引用発明は「全固体リチウムイオン二次電池の負極合材」に関する発明であるのに対し、甲第2号証に示された電気伝導度は、非水電解質二次電池の正極用電極に関するものであり、引用発明の負極合材に必要な電気伝導度として参考にならない値である。そうすると、甲第2号証に記載された電気伝導度の値に基づいて、引用発明において「負極合材」の電気伝導度を特定の値に限定する動機はない。
したがって、上記相違点2に係る構成は、引用発明及び甲第2号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たものでない。

よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

エ まとめ
したがって、特許異議申立人の主張は、採用することができない。

2 特許法第36条第6項1号について
(1)特許異議申立人の主張
特許異議申立人の主張の概要は、次のとおりである。
発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲は「全固体リチウム二次電池用の電解液を含まない活物質」である。
一方、請求項1−6には「空隙を有する」ことが記載されている。ここで、段落【0005】の記載から明らかなように、電解液を用いる電池では、活物質層に空隙が形成されていると共に、その空隙に電解液が浸入しているので、「空隙を有する」ことが「電解液を含まない」ことを直ちに意味するとはいえない。
そうしてみると、請求項1−6に係る発明は、発明の詳細な節説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものである。
よって、請求項1−7の記載はサポート要件を満たさない。(申立書第29頁第18〜28行)

(2)当審の判断
本件発明の課題は、全固体リチウム二次電池は、高圧力で電極をプレスすることで体積エネルギー密度を上げることができるが(【0005】)、高圧力でプレスされた電極は、充放電時の活物質の膨張収縮による体積変化により、活物質層にクラックが生じ、イオン伝導性や電子伝導性が低下し易いことである(【0008】)。
そして、上記課題を解決する手段として、活物質層が空隙を有するとともに、活物質層に所定形状の繊維状炭素を含む導電助剤を配合することが記載されている(【0009】)。
一方、本件発明1には「全固体リチウム二次電池用の活物質層」において、活物質層が空隙を有し、活物質層における導電助剤の割合が0.1質量%以上5.0質量%未満で、導電助剤が平均繊維径10〜900nmの繊維状炭素であることが特定されている。
そうすると、本件発明1には、発明の詳細な説明に記載された課題を解決する手段が反映されており、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものでなく、サポート要件を満たすものである。

なお、特許異議申立人は、上述のように請求項1−6には「空隙を有する」ことが記載されているが「空隙を有する」ことが「電解液を含まない」ことを直ちに意味するとはいえないと主張しているが、本件発明1は「全固体リチウム二次電池用の活物質層」と特定しており、本件発明1の「活物質層」は、電解液を含まない全固体リチウム二次電池用の活物質層であることは明らかである。

したがって、特許異議申立人の主張は、採用することができない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した異議申立理由によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項2ないし7は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項2ないし7に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質と、導電助剤と、固体電解質とを少なくとも含む全固体リチウム二次電池用の活物質層であって、
前記活物質層は空隙を有し、
前記活物質層における前記導電助剤の割合が0.1質量%以上5.0質量%未満であり、
前記導電助剤が平均繊維径10〜900nmの繊維状炭素を含有するとともに、前記導電助剤における前記繊維状炭素の割合が20質量%以上であり、
前記活物質層の膜厚方向における電気伝導度が1.0×10−3 S/cm以上であることを特徴とする全固体リチウム二次電池用の活物質層。
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照
異議決定日 2022-03-31 
出願番号 P2020-552418
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (H01M)
P 1 651・ 121- YAA (H01M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 山田 正文
特許庁審判官 須原 宏光
畑中 博幸
登録日 2021-03-30 
登録番号 6860751
権利者 帝人株式会社
発明の名称 繊維状炭素を含む全固体リチウム二次電池用の活物質層、及び全固体リチウム二次電池  
代理人 木村 嘉弘  
代理人 木村 嘉弘  
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