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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
管理番号 1386178
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-02-14 
確定日 2022-06-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第6915946号発明「過剰な毛髪脱落の検出及び処置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6915946号の請求項1〜28に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6915946号の請求項1〜28に係る特許についての出願は、2015年10月29日(パリ条約に基づく優先権主張 2014年10月29日、オーストラリア)を国際出願日とする特許出願であって、令和3年7月19日にその特許権の設定登録がされ、同年8月11日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、令和4年2月14日に特許異議申立人 森田 弘潤(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。


第2 本件発明
特許第6915946号の請求項1〜28の特許に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1〜28に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明28」という。また、これらをまとめて「本件発明」ともいう。)。

「【請求項1】
1日約0.1mg〜0.49mg、若しくは約0.1mg〜0.4mg、若しくは約0.15mg〜0.3mg、若しくは約0.2mg〜0.28mgの範囲内の、または約0.25mgである、若しくは約0.24mgである、若しくは約0.1mgである経口用量のミノキシジルを含む、休止期脱毛症を処置または予防するための経口医薬。
【請求項2】
前記経口用量が、1日約0.25mgである、請求項1に記載の経口医薬。
【請求項3】
アルドステロンアンタゴニスト、5α−レダクターゼ阻害剤、非ステロイド性抗アンドロゲン薬、及び/またはステロイド性抗アンドロゲンをさらに含む、請求項1または2に記載の経口医薬。
【請求項4】
1日約10mg〜500mg、若しくは約10mg〜400mg、若しくは約10mg〜300mg、若しくは約15mg〜200mg、若しくは約15mg〜150mg、若しくは約18mg〜100mg、若しくは約20mg〜80mg、若しくは約20mg〜50mg、若しくは約22mg〜40mg、若しくは約23mg〜35mg、若しくは約23mg〜30mgの範囲内の、または約25mgであるスピロノラクトンをさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の経口医薬。
【請求項5】
1日約25mgのスピロノラクトンをさらに含む、請求項4に記載の経口医薬。
【請求項6】
1日約10mg〜200mg、約15mg〜150mg、約15mg〜125mg、約20mg〜100mg、約25mg〜80mg、約30mg〜70mg、約40mg〜60mg、約45mg〜55mgの範囲の、または約50mgである、若しくは約20mgである塩化ナトリウムをさらに含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の経口医薬。
【請求項7】
1日約20mgの塩化ナトリウムをさらに含む、請求項6に記載の経口医薬。
【請求項8】
(i)1日約0.1mg〜1mgの範囲内のフィナステリド;
(ii)1日約0.01mg〜1mgの範囲内のデュタステライド;
(iii)1日約10mg〜500mgの範囲内のフルタミド;
(iv)1日約1mg〜100mgの範囲内の酢酸シプロテロン;
(v)1日約1mg〜100mgの範囲内のビカルタミド;
(vi)1日約1mg〜100mgの範囲内のエンザルタミド;
(vii)1日約1mg〜100mgの範囲内のニルタミド;
(viii)1日約0.1mg〜10mgの範囲内のドロスペリドン;
(ix)1日約1mg〜100mgの範囲内のアパラタミド;及び/または、
(x)1日約0.1mg〜10mgの範囲内のブセラリン、のうちの1つ以上をさらに含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の経口医薬。
【請求項9】
経口組成物であって、
(i)1日約0.1mg〜0.49mgの範囲内のミノキシジル;
(ii)1日約0.1mgのミノキシジル;
(iii)1日約0.24mgのミノキシジル;
(iv)1日約0.25mgのミノキシジル;
(v)1日約0.1mg〜0.49mgの範囲内のミノキシジル及び1日約10mg〜500mgの範囲内のスピロノラクトン;または、
(vi)1日約0.25mgのミノキシジル及び1日約25mgのスピロノラクトンを含み、休止期脱毛症を処置するための前記経口組成物。
【請求項10】
(i)1日約10〜200mgの範囲内の塩化ナトリウム;
(ii)1日約50mgの塩化ナトリウム;
(iii)1日約0.1〜100mgの範囲内の亜鉛;
(iv)1日約8mgの亜鉛;
(v)1日20μg〜200μgの範囲内のセレン;
(vi)1日約50mg〜250mgの範囲内のカフェイン;
(vii)1日約50mg〜250mgの範囲内のカンゾウ;
(viii)少なくとも1つのビタミン;及び/または、
(ix)少なくとも1つのアミノ酸、のうちの1つ以上をさらに含む、請求項9に記載の経口組成物。
【請求項11】
(i)1日約0.1mg〜1mgの範囲内のフィナステリド;
(ii)1日約0.01mg〜1mgの範囲内のデュタステライド;
(iii)1日約10mg〜500mgの範囲内のフルタミド;
(iv)1日約10mg〜500mgの範囲内のスピロノラクトン;
(v)1日約1mg〜100mgの範囲内の酢酸シプロテロン;
(vi)1日約10mg〜500mgの範囲内のビカルタミド;
(vii)1日約1mg〜100mgの範囲内のエンザルタミド;
(viii)1日約1mg〜100mgの範囲内のニルタミド;
(ix)1日約0.1mg〜10mgの範囲内のドロスペリドン;
(x)1日約1mg〜100mgの範囲内のアパラタミド;及び/または、
(xi)1日約0.1mg〜10mgの範囲内のブセラリン、のうちの1つ以上をさらに含む、請求項9または10に記載の経口組成物。
【請求項12】
錠剤の形態の、請求項9〜11のいずれか1項に記載の経口組成物。
【請求項13】
対象の休止期脱毛症の処置用の経口薬品の調製のための、1日約0.1〜0.49mgのミノキシジルの使用。
【請求項14】
前記経口薬品が、
(i)1日約10mg〜500mgの範囲内のスピロノラクトン;
(ii)1日約0.1mg〜1mgの範囲内のフィナステリド;
(iii)1日約0.01mg〜1mgの範囲内のデュタステライド;
(iv)1日約10mg〜500mgの範囲内のフルタミド;
(v)1日約1mg〜100mgの範囲内の酢酸シプロテロン;
(vi)1日約1mg〜100mgの範囲内のビカルタミド;
(vii)1日約10mg〜200mgの範囲内の塩化ナトリウム;
(viii)1日約10mg〜500mgの範囲内のビカルタミド;
(iv)1日約1mg〜100mgの範囲内のエンザルタミド;
(x)1日約1mg〜100mgの範囲内のニルタミド;
(xi)1日約0.1mg〜10mgの範囲内のドロスペリドン;
(xii)1日約1mg〜100mgの範囲内のアパラタミド;及び/または、
(xiii)1日約0.1mg〜10mgの範囲内のブセラリン、のうちの1つ以上をさらに含む、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
1日約0.1mg〜20mg、または約0.1mg〜15mg、または約0.1mg〜10mg、または約0.1mg〜5mg、または約0.1mg〜3mg、または約0.1mg〜2.5mg、または約0.1mg〜2mg、または約0.1mg〜1.5mg、または約0.1mg〜1mg、または約0.1mg〜0.75mg、または0.1mg〜0.5mg、または約0.1mg〜0.25mgの範囲内の経口用量のミノキシジルを含む、休止期脱毛症を処置するための経口医薬。
【請求項16】
前記経口用量が、1日約20mgである、または約15mgである、または約10mgである、または約5mgである、または約3mgである、または約2.5mgである、または約2mgである、または約1.5mgである、または約1mgである、または約0.75mgである、または約0.5mgである、または約0.49mgである、または約0.48mgである、または約0.25mgである、または約0.24mgである、または約0.1mgである、請求項15に記載の経口医薬。
【請求項17】
前記経口用量が、約2.5mgである、または約1mgである、または約0.5mgである、請求項15または16に記載の経口医薬。
【請求項18】
アルドステロンアンタゴニスト、5α−レダクターゼ阻害剤、非ステロイド性抗アンドロゲン薬、及び/またはステロイド性抗アンドロゲンをさらに含む、請求項15〜17のいずれか1項に記載の経口医薬。
【請求項19】
1日約10mg〜500mg、若しくは約10mg〜400mg、若しくは約10mg〜300mg、若しくは約15mg〜200mg、若しくは約15mg〜150mg、若しくは約18mg〜100mg、若しくは約20mg〜80mg、若しくは約20mg〜50mg、若しくは約22mg〜40mg、若しくは約23mg〜35mg、若しくは約23mg〜30mgの範囲内の、または約25mgであるスピロノラクトンをさらに含む、請求項15〜18のいずれか1項に記載の経口医薬。
【請求項20】
1日約25mgのスピロノラクトンをさらに含む、請求項19に記載の経口医薬。
【請求項21】
1日約10mg〜200mg、約15mg〜150mg、約15mg〜125mg、約20mg〜100mg、約25mg〜80mg、約30mg〜70mg、約40mg〜60mg、約45mg〜55mgの範囲の塩化ナトリウムをさらに含む、請求項15〜20のいずれか1項に記載の経口医薬。
【請求項22】
1日約20mgの塩化ナトリウムをさらに含む、請求項21に記載の経口医薬。
【請求項23】
(i)1日約0.1mg〜1mgの範囲内のフィナステリド;
(ii)1日約0.01mg〜1mgの範囲内のデュタステライド;
(iii)1日約10mg〜500mgの範囲内のフルタミド;
(iv)1日約1mg〜100mgの範囲内の酢酸シプロテロン;
(v)1日約1mg〜100mgの範囲内のビカルタミド;
(vi)1日約1mg〜100mgの範囲内のエンザルタミド;
(vii)1日約1mg〜100mgの範囲内のニルタミド;
(viii)1日約0.1mg〜10mgの範囲内のドロスペリドン;
(ix)1日約1mg〜100mgの範囲内のアパラタミド;及び/または、
(x)1日約0.1mg〜10mgの範囲内のブセラリン、のうちの1つ以上をさらに含む、請求項15〜22のいずれか1項に記載の経口医薬。
【請求項24】
経口組成物であって、
(i)1日約0.1mg〜5mgの範囲内のミノキシジル;
(ii)1日約0.1mgのミノキシジル;
(iii)1日約0.24mgのミノキシジル;
(iv)1日約0.25mgのミノキシジル;
(v)1日約0.5mgのミノキシジル;
(vi)1日約0.1mg〜5mgの範囲内のミノキシジル及び1日約10mg〜500mgの範囲内のスピロノラクトン;または、
(vii)1日約0.25mgのミノキシジル及び1日約25mgのスピロノラクトンを含み、休止期脱毛症を処置するための前記経口組成物。
【請求項25】
(i)1日約10〜200mgの範囲内の塩化ナトリウム;
(ii)1日約50mgの塩化ナトリウム;
(iii)1日約0.1〜100mgの範囲内の亜鉛;
(iv)1日約8mgの亜鉛;
(v)1日20μg〜200μgの範囲内のセレン;
(vi)1日約50mg〜250mgの範囲内のカフェイン;
(vii)1日約50mg〜250mgの範囲内のカンゾウ;
(viii)少なくとも1つのビタミン;及び/または、
(ix)少なくとも1つのアミノ酸、のうちの1つ以上をさらに含む、請求項24に記載の経口組成物。
【請求項26】
(i)1日約0.1mg〜1mgの範囲内のフィナステリド;
(ii)1日約0.01mg〜1mgの範囲内のデュタステライド;
(iii)1日約10mg〜500mgの範囲内のフルタミド;
(iv)1日約10mg〜500mgの範囲内のスピロノラクトン;
(v)1日約1mg〜100mgの範囲内の酢酸シプロテロン;
(vi)1日約10mg〜500mgの範囲内のビカルタミド;
(vii)1日約1mg〜100mgの範囲内のエンザルタミド;
(viii)1日約1mg〜100mgの範囲内のニルタミド;
(ix)1日約0.1mg〜10mgの範囲内のドロスペリドン;
(x)1日約1mg〜100mgの範囲内のアパラタミド;及び/または、
(xi)1日約0.1mg〜10mgの範囲内のブセラリン、のうちの1つ以上をさらに含む、請求項24または25に記載の経口組成物。
【請求項27】
錠剤の形態の、請求項24〜26のいずれか1項に記載の経口組成物。
【請求項28】
対象の休止期脱毛症の処置用の経口薬品の調製のための1日約0.1〜20mgのミノキシジルの使用。」


第3 申立理由の概要及び提出した証拠
1 申立理由の概要
申立人は、甲第1〜13号証(以下、「甲1」などという。)を提出し、本件特許は、以下の理由1〜5により、取り消されるべきものである旨主張している。

(1)申立理由1(明確性要件違反)
本件発明1〜28は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、同法第113条第4号に該当する。

(2)申立理由2(実施可能要件違反)
本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が、本件発明1〜28を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、特許法36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第113条第4号に該当する。

(3)申立理由3(サポート要件違反)
本件発明1〜28は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないから、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第113条第4号に該当する。

(4)申立理由4(甲1を主引用例とする進歩性欠如)
本件発明1〜28は、甲1及び甲2〜13に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり、同法第113条第2号に該当する。

(5)申立理由5(甲2を主引用例とする進歩性欠如)
本件発明1〜28は、甲2並びに甲1及び甲3〜13に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり、同法第113条第2号に該当する。

2 証拠方法
(1)甲1:ARCH DERMATOL, 1999, Vol.135, p.1123-1124
(2)甲2:オーストラリア国登録新案特許第2011100917号明細書(AU 2011100917 A4)
(3)甲3:Experimental Dermatology, 2003, Vol.12, p.580-590
(4)甲4:国際公開第2008/026349号
(5)甲5:特開2010−6829号公報
(6)甲6:特表2013−513363号公報
(7)甲7:特開平5−202037号公報
(8)甲8:特開2011−136944号公報
(9)甲9:国際公開第2004/101610号
(10)甲10:特開平11−130776号公報
(11)甲11:日薬理誌, 2009, Vol.133, No.2, p.78-81
(12)甲12:FRIDAY, 2000.11.3, p.26-27
(13)甲13:「休止期脱毛症とは|症状や原因、治療方法について」、[online]、[2022/02/14検索]、インターネットURL:https://www.agaskin-woman.jp/lab/nukege/kyushiki-datsumo/(本件出願日後インターネットで公開された文献である。)


第4 甲号証の記載事項
甲1〜13には、それぞれ以下の記載がある(下線は、当審合議体による。)。なお、甲1〜3は、英文なので、翻訳文を摘記する。

1 甲1
(甲1−1)「患者と方法
1997年1月から1998年2月まで、慢性休止期脱毛症の123人の患者が私たちの毛髪学ユニットで検査された。病歴が得られ、ホルモンレベルの評価を含む生化学的分析及びトリコグラムが実施された。男性(n=27)には、5%ミノキシジル溶液を処方した。閉経前の女性(n=14)には、5%ミノキシジル溶液と酢酸シプロテロン(米国では入手不可)50 mgを、月経周期の5日目から15日目まで、常にエチニルエストラジオール0.035mg/dと一緒に処方した。閉経後の女性(n=82)には、5%ミノキシジル溶液と酢酸シプロテロン50mg/dを処方した。酢酸シプロテロン50mg/dの代わりに、スピロノラクトン50〜100mg/d又はフルタミド125〜250mg/dを用いても良い。」(第1123頁左欄最下段落〜右欄第1段落)

(甲1−2)「慢性休止期脱毛症は、治療により改善する可能性がある。上で概説したように、私たちの患者の55.2%(n=68)は治療に対して良好な反応を示した。これらの患者のうち56人(84%)は閉経後の女性だった。治療に対して中程度の反応を示し、美容的に許容できる結果を達成した31人の患者(25.2%)のうち、23人(74%)は閉経後の女性であった。24人の患者(19.5%)(男性11人、閉経前の女性10人、閉経後の女性3人)だけが、反応がなかった。70%以上の成功率で、この治療に対する反応は満足のいくものであると考えている。」(第1123頁右欄最下段〜第1124頁第1段落)

2 甲2
(甲2−1)「1 説明
経口ミノキシジルは強力な発毛刺激剤である。標準用量は、血管拡張、低血圧及び多毛症に関連している。低用量の経口ミノキシジルに配合をカプセルに配合し、単独で、又は経口抗アンドロゲン療法と組み合わせて使用して、男性型脱毛症及びその他の脱毛症における頭髪の再成長を促進することができる。男性では、フィナステリド、デュタステリド又は他の抗アンドロゲン治療と一緒に使用することができる。女性では、スピロノラクトン、酢酸シプロテロン、フルタミド、その他の抗アンドロゲン療法と併用することができる。脱毛症の男性と女性の両方で試みられた経口ミノキシジルの用量には、1日0.5mg、1日1mg、1日2mg、1日2.5mg、1日3mg、1日5mg及び1日10mgが含まれる。この範囲内の他の用量も効果的である可能性がある。
男性で試みられたフィナステリドの用量には、1日0.5mg、1日1mg、1日5mg及び1週間5mgが含まれる。男性で試みられたデュタステリドの用量には、1日0.5mgと1日1mg及び毎週0.5mgが含まれる。
試みられたスピロノラクトンの用量には、1日25mg、1日50mg、1日100mg、1日200mg、1日300mg及び1日400mgが含まれる。
試みられたフルタミドの用量には、1日25mg、1日50mg,1日62.5mg、1日100mg、1日125mg、1日250mg及び1日500mgが含まれる。
試みられた酢酸シプロテロンの用量には、1日2mg、1日25mg、1日50mg及び 1日100mgが含まれる。
これらを経口避妊薬と組み合わせて、この治療中の計画外妊娠のリスクを最小限に抑える こともできる。」(「Description」の第1行〜末行)

3 甲3
(甲3−1)「要約:説得力のある実験的証拠が入手できなかったとしても、ストレスはさまざまな種の脱毛の考えられる原因として長い間疑われてきた。最近、我々はネズミのモデルで、音波ストレスがインビボでの発毛と循環を変化させることを示し、「脳-毛包軸」(BHA)の存在を仮定した。臨床的に利用可能で広く使用されている局所的に活性な発毛刺激剤が、このストレスモデルにおけるストレス誘発性の発毛阻害を軽減するかどうかを研究するために、5%ミノキシジル溶液を適用した。雌のCBA/Jマウスを脱毛し、2つのグループにランダム化した:対照(n=20)と音波ストレス(n=20)。これらのグループはさらに分割され、5%ミノキシジル溶液又はビヒクルのみで毎日処理された。ストレスグループは、脱毛による成長期誘導の14日後から24時間音波ストレスにさらされた。脱毛の16日後に全てのマウスを犠牲にし、定量的組織形態計測によって評価した。音波ストレスは、アポトーシス細胞を伴う毛包の数を有意に増加させ、毛包内ケラチノサイト増殖を阻害した。さらに、毛包周囲のMHCクラスII+細胞と脱顆粒した毛包周囲の肥満細胞 のクラスターの数は、ストレスを受けたマウスで有意に増強された。以前の発見によれば、全てのストレスを受けたマウスは、退行期に向かって進行した毛周期の進行を示した。BHAに沿ったこれらのストレス誘発性の発毛抑制変化は全て、ミノキシジルの局所塗布によってダウンレギュレーションされた。これは、局所ミノキシジルがヒトのストレス関連休止期脱毛症の管理のための安全で効果的な薬理学的ツールであるかどうかを臨床的に調査することを奨励する。」(Abstract)

4 甲4
(甲4−1)「[0004] 現在では、このような休止期脱毛症の治療剤として、休止期脱毛症の一種である男性型脱毛症の治療のために、局所用ミノキシジル (ROGAINE (登録商標)としてPharmacia&Upjohnから市販されている)および経口用フィナステライド(PROPECIA(登録商標)として Merck & Co. , Inc.から市販されている)が知られている。」

5 甲5
(甲5−1)「【0052】
・・・円形脱毛症、成長期脱毛、そして休止期脱毛症のようなびまん性脱毛症は、脱毛の他の表示であり、男性ホルモン性脱毛症と区別し得る。これらの他の形態もしくは脱毛はまた、局所のミノキシジルで処置し得る。」

6 甲6
(甲6−1)「【0119】
休止期脱毛には多くのトリガー(生理学的ストレスおよび情動ストレス、医学的状態、鉄不足および亜鉛不足)が考えられ、重要なことに、アンドロゲン性脱毛症は、その初期段階において、休止期毛髪脱落を示す(Cleveland clinic journal of medicine 2009;76:361-367)。成長期脱毛は放射線療法または化学療法の結果であることが多い。
【0120】
ミノキシジルおよびフィナステリドはアンドロゲン性脱毛の処置に使用されており、一方、グルココルチコイドは円形脱毛症に使用されている。一般に、これらの処置は全て副作用を有し(フィナステリド:男性における性欲減退およびインポテンス、グルココルチコイド:糖尿病、体重増加、骨粗鬆症)、脱毛を処置するという課題は完全には解決されていない。」

7 甲7
(甲7−1)「【0003】これらの脱毛予防剤、発毛剤又は養毛剤としては、ヒノキチオオール若しくはメントールなどの血行促進剤;メチオニン等のアミノ酸類;ミノキシジル、アセチルコリン誘導体等の血管拡張剤;紫根エキス等の抗炎症剤;エストラジオール等の女性ホルモン剤;セファランチン等の皮膚機能亢進剤;5α−リダクターゼ阻害剤;ビタミンB6等のビタミン剤;抗男性ホルモン剤;あるいは4−ヒドロキシ−3−ヘプチルフタリド等のフタリド誘導体(特開平3−135907号公報)等が知られている。このうち、ミノキシジル(2,4−ジアミノ−6−ピペリジノピリミジン−3−オキサイド)は、もともと経口用血圧降下剤として使用されていたものであるが、副作用としての育毛効果に着目し、開発されたものであり、欧米では既に上市され、また我が国においてもその開発が現在進行中である(特開昭58−88307号公報)。」

(甲7−2)「【0016】試験例1
本発明品を用い、C3Hマウス背部毛における養毛・育毛効果について評価した。すなわち、実質的な休止期にある生後12週目のマウス(雄)の背部毛を皮膚を傷をつけない様に電気シェーバーを用いて剃毛した(4×4cm2)。これらのマウスを5匹ずつの群に分け、翌日から、本発明化合物、及び対照薬としてのミノキシジル、コントロール等の各試料を各々の群に、1匹当たり1日100μl(100μg/日、匹)毎日背後皮膚に塗布した。この後、経日的に発毛の割合を肉眼及び写真で評価した。その結果を第1図に示す。
【0017】上記試験結果によれば、例えば10日経過時点における本発明品の毛再生率(約48%)はミノキシジルのそれ(約20%)に比べ著しく高く、即ち初期発毛率の点で優れていることが分かる。」

(甲7−3)「

」(図1)

8 甲8
(甲8−1)「【0030】
(実施例2):ピラゾール−5−カルボキサミド誘導体の毛成長促進作用の評価
毛周期において休止期にある雄のC3H/HeNマウス(7週齢,日本チャールスリバー社製)を用い,小川らの方法(フレグランスジャーナル,Vol.17,No.5,p20-29,1989. 参照)を参考にして実験を行った。当評価系は、成長期毛の伸長を促進する効果を評価するものである。
【0031】
マウスの背部体毛を約2×4cmの大きさに電気バリカンで除毛し、背部皮膚が休止期を示すピンク色であることを目視により確認した。続いて、その部分をさらに電気シェーバーにて除毛することによって毛周期における成長期を誘導した。
除毛の翌日より1日1回100μLずつ週5回、20日間サンプル塗布を行い,除毛部分に対し毛再生が始まった部分の面積比の変化を求め,下記11段階の評価にて,毛再生の速さを比較した。なお、成長期に誘導されたか否かは、シェーバー後15日以降も毛再生が起こらないことにより確認されるので、そのような個体は評価より除外することになる。
【0032】
ピラゾール化合物サンプルとしては,ピラゾール−5−カルボキサミド誘導体を含む下記(表2)に示す3種のピラゾール化合物を50%エタノールに0.1質量%の濃度で溶解したものを使用した。
また、比較群1として、明らかに発毛促進作用を有することが知られているミノキシジル(1質量%)塗布群を設けた。対照群として、各種薬剤の溶媒である50%エタノール塗布群を設けた。さらに、GSK−3β阻害作用を有することで知られるリチウム化合物(塩化リチウム、4質量%)を比較群2として評価した。
各群ともに1群8匹として実験に供した。薬剤の初回塗布から10日後の平均発毛面積率スコアを下記評価基準により求めた。その結果を(表2)に示した。」

(甲8−2)「

」(表2)

9 甲9
(甲9−1)「実施例6 :本発明の環状オリゴペプチドとミノキシジルとの併用
製剤1:実施例4で製造した式(13)の環状オリゴペプチド(0.00001%) とミノキシジル(1%)との混合液
製剤2:ミノキシジル(1%)液(市販品であるリアップ(大正製薬株式会社) をそのまま使用)
製剤1と製剤2をそれぞれ実施例5と同様にして、 毛包が休止期にあるC57BLZ6マウスの背中に投与して毛包の成長期への移行が促進されるかどうかを評価した。結果を図12に示す。ミノキシジルのみを投与した場合と比較して、本発明の環状ペプチドとミノキシジルとを併用して投与した場合には、毛包の成長期への移行が飛躍的に促進された。両者の間で、ウィルコキソンの検定で棄却率5%未満のp値で有意差があった。」(第37頁第19行〜第38頁第3行)

(甲9−2)「

」(図12)

10 甲10
(甲10−1)「【0041】例2:試験例
7週齢の雄性C3Hマウスを用い、小川らの方法(Normal and Abnormal Epidermal Differrentiation, 東大出版会)に従い、単離された化合物について発毛促進作用を測定した。陽性対照化合物としてミノキシジルを用いた。試験開始3日前にマウスの全背部を電気バリカンで刈毛し、動物の背部毛が休止期にあることを確認した。無投薬対照群は10匹/群、陽性対照群(ミノキシジル;シグマより購入)は5匹/群、他は3匹/群とした。薬剤は、設定濃度(w/v) になるようにエタノール:プロピレングリコール=8:2の溶媒に溶解し、この溶液 150μlを1日2回ずつ、5日/週の割合で刈毛部に刷毛で均一に塗布した。試験期間中(40日間)毎日動物を観察し、以下の基準に従い目視により発毛程度を6段階評価し、平均値を求めた。また、試験最終日に動物を麻酔し、刈毛域と発毛域の面積を画像解析装置で測定し、発毛部の比率を求めた。表2に発毛度の推移を示し、表3には試験開始後40日目に求めた平均発毛面積を示す。
【0042】<評価基準>
0:全く生えていない
1:わずかに生えている
2:〜1/3 生えている
3:1/3 〜2/3 生えている
4:2/3 〜ほとんど生えている
5:全部生えている
【0043】
【表2】
───────────────────────────────
被検化合物 試験濃度(w/v) 0日 20日 30日 40日
───────────────────────────────
無投薬(対照) 0 0.1 0.3 0.5
ミノキシジル 1% 0 1.2 2.0 2.0
化合物1 0.1% 0 1.4 3.2 3.8
化合物3 0.3% 0 0 0 0.4
化合物4 0.1% 0.1 0.8 0.8 1.5
───────────────────────────────
【0044】
【表3】
─────────────────────
被検化合物 平均発毛面積率(%)
─────────────────────
無投薬(対照) 3
ミノキシジル(1%) 21
化合物1(0.1%) 70
化合物3(0.3%) 2
化合物4(0.1%) 15
─────────────────────
【0045】
【発明の効果】式(I) で表される本発明の化合物は優れた発毛促進作用を有しており、育毛剤の有効成分として有用である。」

11 甲11
(甲11−1)「4.外用療法
(1)ミノキシジル(4,9)(図3)(当審合議体注:「(1)」は1に丸
、図3は省略。)
ミノキシジル(minoxidil)は血管平滑筋細胞のカリウムチャネルを解放する作用のある血圧降下薬で、その副作用としての多毛から外用育毛剤に転用されたものである。その作用機序は30年間以上研究されているが、臨床における増毛効果が著明であるのに比較してin vitroの作用機序の解明は十分ではなく、毛包構成細胞の単なる増殖促進効果だけでないことは確かである。また、男性ホルモンに直接関連した作用もない(biologic response modifier, BRM)。・・・
ミノキシジルの適応は成人の男性型脱毛症(壮年性脱毛)だけであるが、その作用機序がBRMに基づいたものであるので、実際の臨床では男性型脱毛症に限らず、軽症の円形脱毛症やそのほかの脱毛症に、年齢を問わず広く使用されている」(第80頁左欄下から第6行〜第81頁左欄第8行)

12 甲12
(甲12−1)「まずは左の写真をご覧あれ。頭頂部にほとんど毛髪がなかったのに、12ヵ月後には見事なフサフサ。・・・
これは、今年9月に東京・有明で行われた「日本美容外科学会」でのひとコマだ。治療の成果を発表しているのは、石原秀一医師。・・・
今回の石原氏の発表によれば、治療の対処となった患者の70%以上が「満足している」と回答したという。しかし、問題はその治療方法にある。石原氏は、『ミノキシジル』なる成分を含む薬を内服させたうえ、同じ成分を含んだ外用薬を塗布したと報告した。『ミノキシジル』とは「降圧剤」、つまり心臓病の薬のこと。血管を拡張させて血圧を下げる効果がある薬だが、副作用で毛が生えるのだ。アメリカのFDA(米食品医薬品局)は内服、外用とも認可しているが、日本では“外用”としてのみ承認されている。しかし、当の石原氏は本誌にこう説明した。
「脱毛の状態が末期の患者には、ミノキシジルそのものを飲んでもらうこともあります。厚生省はミノキシジルを内服剤として使うことを認可していませんが、緊急性があるものは、医師の裁量権の範囲で投与できるのです」」(第26頁第1段第1行〜第3段第4行)

(甲12−2)「ちなみにこのミノキシジルは、発毛剤として爆発的なブームを呼んだ外用薬『リアップ』にも含まれている。まさに、発毛の“特効薬”なのだが、その一方で、使い方によっては死をも招く“劇薬”でもあるのだ。東京医科大学薬理学講座主任教授・松宮輝彦氏が警告する。
「この学会発表は明らかに危険です。ミノキシジルは強い薬のため、リアップはかなり薄めたものが配合されています。それでも心臓が悪く血管拡張剤を飲んでいる患者が、リアップを1日に何回も頭にふりかけ、血圧が下がりすぎて死亡するという事故がありました。・・・石原氏の発表では、ミノキシジルを飲用と外用を並行するという。(心臓病患者が血管拡張剤とミノキシジルを併用していた)リアップの事故と同じ状況になります」
石原氏は学会で自らの研究では重篤な副作用はみとめられないと報告した。
しかし、昨年の日本臨床毛髪外科学会で会長を務めた今川賢一郎・医療法人横美会理事長は、こう批判する。
「認可されていない薬を使っている医者自身が、『副作用はない』といっても信頼性に欠ける。・・・そもそもFDAがミノキシジルの内用を認可しているのは降圧剤としてのみ。発毛剤としては認めていない。一番大切なのは患者の安全のはず。いくら医者の裁量の範囲といっても認可されてない薬をむやみに処方するなど許されません」」(第26頁第3段第5行〜第27頁第2段第9行)

13 甲13
(甲13−1)「休止期脱毛症とは
薄毛は、「休止期脱毛」と「成長期脱毛」の大きく2つに分けられます。さらに、休止期脱毛は、急性休止期脱毛、慢性びまん性休止期脱毛、慢性休止期脱毛に細かく分類されます。・・・
急性休止期脱毛
・・・精神的なストレスや栄養不足、外科手術、出産などをきっかけに起こるといわれています。
慢性びまん性休止期脱毛
・・・原因は、貧血や甲状腺疾患のほか、無理なダイエットや栄養不足、肝機能障害や腎機能障害などとされています。また、発毛剤のミノキシジルを塗り始めたころや中止したときなどにも起こる可能性があります。
慢性休止期脱毛
慢性休止期脱毛は、6ヵ月以上続くことが特徴で、他の休止期脱毛とは違い原因がわかっていません。女性男性型脱毛症(FAGA)と似ているため、判別が困難です。FAGAは、頭頂部や前髪の生え際に脱毛がみられますが、慢性休止期脱毛は側頭部も脱毛します。また、FAGAでは軟毛が増える傾向がありますが、慢性休止期脱毛ではその変化はみられません。原因が特定できないため、適切な治療方針を立てることが難しいことも特徴です。髪の成長を促しつつ、成長期を引き延ばすための治療を行います。」(第1頁下から第4行〜第2頁第24行)


第5 判断
1 申立理由1(明確性要件違反)
(1)明確性要件に関し、発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。

(2)申立人は、本件特許請求の範囲における、ミノキシジルなどの薬剤の用量に関する「約」という記載について、具体的にどのような配合量を指しているか明らかでないと主張する。
しかしながら、医薬品などの技術分野において、測定量を数値で表した測定値には必ず誤差が含まれるところ、数量を「約」を付した数字によって表し、厳密な量ではなく、ある程度の幅を持った量を示すことがあることは一般的に知られている。本件特許請求の範囲中の「約」との記載によって表される数値範囲は、経口医薬中に含まれる活性成分の用量を規定したものであるところ、「約」との記載により、厳密な意味での量を表したものではなく、薬学的に許容されるある程度の幅を持った量を示すことは明らかであるから、本件発明における「約」との記載によって規定される数値範囲が第三者にとって不測の不利益を及ぼすほど不明確であるとはいえない。

(3)また、申立人は、「約」との記載について、以下の主張をする。
(i)「例えば、本件発明1では、ミノキシジルの用量に関し「1日約0.1mg〜0.49mg、若しくは約0.1mg〜0.4mg、若しくは約0.15mg〜0.3mg、若しくは約0.2mg〜0.28mgの範囲内の、または約0.25mgである、若しくは約0.24mgである、若しくは約0.1mgである経口用量のミノキシジルを含む」と並列的に複数の数値が規定されており、具体的にどのような配合量を指しているのか明らかでない。」
(ii)「例えば「約」の範囲が±0.01mgの幅を有しており、それゆえ「約0.1mg〜0.49mg」という規定が、実際には「0.09〜0.5mg」の範囲を示しているのであれば、単に「0.09〜0.5mg」と表記すれば足りるだけのことであり、わざわざ「約0.1mg〜0.49mg」などと、殊更その範囲を分かりにくく規定しなければならない合理的理由は全く存在しない」
しかしながら、(i)については、例えば、請求項1において、「1日約0.1mg〜0.49mg、若しくは約0.1mg〜0.4mg、若しくは約0.15mg〜0.3mg、若しくは約0.2mg〜0.28mgの範囲内の、または約0.25mgである、若しくは約0.24mgである、若しくは約0.1mgである経口用量のミノキシジルを含む」と並列的に複数の数値が規定されている記載は、複数の数値又は数値範囲の選択肢を示すものであり、この記載から具体的にどのような配合量を指しているかが明らかでないとはいえない。また、(ii)については、上記(2)で述べたように、「約0.1mg〜0.49mg」は、薬学的に許容されるある程度の幅を持った量を示すことは明らかであり、「約」との記載により、殊更その範囲を分かりにくく規定しているとはいえない。
それゆえ、申立人の主張(i)及び(ii)は採用できない。

(4)したがって、「約」との記載のある本件請求項に係る発明は明確であるし、それらの請求項を引用する請求項に係る発明についても、同様の理由で明確である。
よって、申立理由1には理由がない。

2 申立理由2(実施可能要件違反)
(1)発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があることを要する。ここで、物の発明については、発明の詳細な説明の記載が、当該記載及び出願時の技術常識に照らし、当業者が発明に係る物を、製造でき、かつ、使用できる程度の記載であれば、実施可能要件を満足するといえる。また、物の製造に使用する方法の発明については、発明の詳細な説明の記載が、当該記載及び出願時の技術常識に照らし、当業者が発明に係る方法を、使用できる程度、すなわち、当該物を製造できる程度に記載されていれば実施可能要件を満足するといえるので、以下検討する。

(2)本件明細書及び図面には、以下の記載がある(下線は、当審合議体による。)。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、脱毛または過剰な毛髪脱落の検出及び処置に関する。一態様では、本発明は、休止期脱毛症の処置に関する。本発明は、脱毛または過剰な毛髪脱落を判定するための視覚的アナログスケールにも関する。」

イ 「【背景技術】
・・・
【0005】
脱毛の増加または過剰な毛髪脱落を生ずるこのような1つの状態は、休止期脱毛症(TE)である。この状態は、男性及び女性の両方に生じ、女性において、より一般に起こる。TEは、頭皮から広く休止期の棍毛の過剰な脱落により特徴付けられる非瘢痕性脱毛症である。それは一般に、妊娠、主要な病気、または複雑な手術などの誘発事象の8〜12週間後に始まり、3〜6ヶ月以内に解消される。一度解消されると、自己制限休止期脱毛症は、急性休止期脱毛症と遡及的に診断することができる(Harrison S及びSinclair R、2002)。6ヶ月以上続く休止期の脱落は、慢性休止期脱毛症(CTE)と呼ばれる(Whiting,DA 1996)。CTEは、アンドロゲン性脱毛症(AGA)、栄養欠乏、内分泌障害、結合組織病、または薬物誘発性を含む幅広いトリガーに対して原発性または続発性であることがある(Messengerら、2010)。
・・・
【0007】
原発性CTEは最も一般に、30及び50歳の間の女性に突然起こる。原発性CTEに一般に見られるさらなる臨床的特徴としては、前方の生え際の両耳側の後退、ポニーテールの直径の厚みの低減(Whiting,DA 1996)、及び毛髪痛(Kivanc‐Altunay,Iら 2003)が挙げられる。中央の分け目の広がりは、AGAを示唆し、原発性CTEの特徴ではない。甲状腺機能低下症などの誘発事象の同定及び処置以外は、急性休止期脱毛症(ATE)またはCTEに対する既知の処置はない(Garcia−Hernandez MJら 1999)。フィナステリド、酢酸シプロテロン、スピロノラクトン、及びフルタミドなどのAGAに対して一般に使用される処置は、TEには効かない(Messenger Aら 2010)。現時点では、CTEの唯一の推奨処置は、局所用ミノキシジルであるが、結果は変わりやすく、しばしば期待外れである。男性に対し5%の局所用ミノキシジル、及び女性に対し50mgの酢酸シプロテロンを含む5%の局所用ミノキシジルを使用した1つの研究は、研究された患者の55.2%における改善を実証した(Garcia−Hernandezら 1999)。患者の25.2%のみが、処置に対する適度な応答を有した(Garcia−Hernandezら
1999)。現時点では、慢性休止期脱毛症に対し利用可能なFDAまたはTGA処置はない。
【0008】
休止期脱毛症を含む、男性及び女性の両方のための脱毛及び過剰な毛髪脱落の状態に対する新しい処置が必要である。過剰な毛髪脱落を監視するための迅速、安価、及び簡単なツールも必要である。」

ウ 「【発明の概要】
【0009】
本明細書に記載の研究は、脱毛または過剰な毛髪脱落が、毎日の低用量の経口ミノキシジルにより有効に処置することができるという予期せぬ発見に至っている。関連研究は、休止期(毛包の休息期)早期の毛髪から生じる毛髪の菲薄化または脱落により特徴付けられる頭皮障害である、休止期脱毛症は、経口ミノキシジルで処置することができるという発見にも至っている。さらに、経口ミノキシジルを含む薬学的塩濃度の投与は、血圧に有効な効果を有するということが見出されている。さらに、脱毛または毛髪脱落の評価のための新規の視覚的アナログスケールが開発されている。このスケールは、正常な毛髪脱落及び女性型脱毛症(FPHL)に見られる毛髪脱落の範囲を規定し、それにより、脱毛または過剰な毛髪脱落を有する女性の診断を可能にする。この視覚的アナログスケールは、正常な状態の毛髪脱落及び脱毛の状態の評価を容易にしている。」

エ 「【0077】
本明細書で使用される場合、用語、本明細書で使用される状態を「処置する」またはこれの「処置」は、(1)状況、障害、または状態に罹患するまたはこれの素因を持ち得るが、状況、障害、または状態の臨床または無症候性症状をまだ経験または表示していない哺乳動物において発症する状況、障害、または状態の臨床症状の出現を予防するまたは遅延させること、(2)状況、障害、または状態を阻害すること、すなわち、疾患またはそれらの少なくとも1つの臨床若しくは無症候性症状の発症を抑制するまたは低減させること、あるいは、(3)疾患を軽減すること、すなわち、状況、障害、若しくは状態またはその臨床若しくは無症候性症状のうちの少なくとも1つの退行を引き起こすこと、を意味する。」

オ 「【0079】
本明細書に記載されるように、組成物は、「経口」投与され、例えば、経口投与に適する形態、すなわち、固体または液体調製物、に製剤化される。好適な固体経口製剤としては、錠剤、カプセル剤、丸剤、顆粒剤、ペレット剤、散剤などが挙げられる。好適な液体経口製剤としては、液剤、懸濁剤、分散剤、乳剤、フォーム剤、ゲル剤、油剤などが挙げられる。好ましい実施形態では、本発明の組成物は、固体剤形である。」

カ 「【0085】
実施例1
方法
視覚的アナログスケール:FPHLを有する女性から脱落した長い、黒/茶の棍毛を計数し、10、50、100、200、400、または750の毛髪を含む6束に分けた。束を撮影し、図1に示される視覚的アナログスケールを開発するためにサイズ順に並べた。脱毛クリニックにおける脱毛評価ツールとしてのスケールを、有用性について試験的に行った。2週後に再度女性をスコアリングすることにより、試験−試験信頼性を規定した。毛髪脱落スコアは続いて、女性型脱毛症(FPHL)と新たに診断された女性から得た。正常の脱落は、思春期の女子学生間で規定した。
【0086】
毛髪脱落スケールの観測者の信頼性を評価するために、頭皮生検のために脱毛クリニックに通院する50人の女性に、毛髪束の6写真を含有するA4頁を見るように依頼した。女性に、洗浄日に脱落したであろう毛髪の量と最も関連性がある写真およびどの写真が非洗浄日に脱落した量と最も関連性があるかを指さすように依頼した。洗髪の頻度も記録した。結果を1〜6でスコア化した。彼らが縫合糸の除去から2週間後に戻った時、彼らに再度視覚的アナログスケールを示し、同じ質問をした。
・・・
【0097】
毛髪脱落の増加と関連した女性の脱毛を評価する視覚的アナログスケールを記載する。ショートヘアの試験的グループの女性が、スケールを使用することが困難と判明したので、このツールは、ロングヘア及びセミロングヘアの女性及び少女においてのみ研究された。
【0098】
試験的研究からのデータは、女性が毛髪脱落を確実に自己スコア化することができることを示した。
【0099】
アンドロゲン性脱毛症がまれとなる、平均年齢13.51歳の女子学生からのデータは、ロングヘアの少女に対しステージ1、2、3、または4として正常な毛髪脱落を規定するために使用された。ショートヘアの少女を、研究しなかった。ロングヘアは、オーストラリアの思春期の女子学生にとって非常に流行しており、現時点では、ショートヘアの少女を見つけるのが困難である。
【0100】
新しい可視的アナログ毛髪脱落スケールは、ロングヘアの女性における正常及び異常な毛髪脱落を正確に規定する(図1)。グレード1〜4は、ロングヘアの女性にとって正常とみなすことができる。グレード5及び6の脱落は、女性の過剰な毛髪脱落を示す。過剰な毛髪脱落は、ロングヘアのFPHLを有する女性の68%に見られる。」

キ 「

」 (図1)

ク 「【0122】
実施例4
慢性休止期脱毛症(CTE)は、薬物反応、栄養欠乏、及び女性型脱毛症(FPHL)を含む種々の原因に対して原発性または続発性であることがある。この研究の目的は、1日1回の経口ミノキシジルでのCTEの処置を評価することである。
【0123】
方法
この研究の目標は、毛髪脱落への応答に関してCTEにおける経口ミノキシジルの使用及び安全性をレビューすることであった。実施例1及び図1に記載されるように、視覚的アナログスケールを使用して、患者の自己報告の毛髪脱落スコア(HSS)により、毛髪脱落を評価した。毛髪脱落スコア(HSS)は、1〜6のスケールであった(6は毛髪脱落の最高レベルである)。この研究に含まれる患者は、頭皮生検上に、休止期毛髪脱落の増加、4〜6のHSS、目に見える中頭頭皮脱毛がない(Sinclairステージ1)、及び毛包の小型化がないことの6ヶ月超える病歴を基準にしてCTEと診断された女性であった。
【0124】
経口ミノキシジルの投薬量、局所用ミノキシジルの使用を含む、過去の処置、血圧、副作用、多毛症、及び毛髪痛に関するデータを各患者に対して収集した。各相談での患者報告の応答は、視覚的アナログスケールHSSに基づいていた。経口ミノキシジルを開始する前のHSSならびに6ヶ月及び12ヶ月のスコアを、解析のために抽出した。患者を1日1回の経口ミノキシジル(0.5〜2.5mg)で処置した。
【0125】
Matlab R2014b統計ソフトウエアを使用して、データを解析した。ペアワイズ比較のためのWilcoxonの順位和検定を使用して、ベースライン、6ヶ月、及び12ヶ月での毛髪脱落スコアを解析した。Wilcoxonの順位和検定を使用して、ベースライン及び6ヶ月での血圧の差も解析した。一般化された線形回帰モデルを使用して、結果(6ヶ月及び12ヶ月でのHSS)と、過去の使用年齢、局所用ミノキシジル、疾患の期間、投薬量、及びベースラインでのHSSを含む、個々の患者固有の変数との間の関係を解析した。
【0126】
結果
経口ミノキシジルを処方されたCTEを有する36人の患者は、この解析に含まれた。平均年齢は46.9歳(21〜83歳の範囲)であり、使用された経口ミノキシジルの投薬量は、0.5及び2.5mgの間を変動し、ほとんどの患者に1mgを投与した。平均ベースラインのHSSは、5.63であった。平均HSSは、6ヶ月及び12ヶ月で、それぞれ3.9及び3.05と改善した(図5)。1.7のベースラインから6ヶ月までの平均HSSの低減(p<0.001)及び2.58のベースラインから12ヶ月までの平均HSSの低減(p<0.001)があった。同様に、HSSの0.89の平均低減が、6ヶ月及び12ヶ月の間に認められた(p=0.003)。疾患の期間及び過去の局所用ミノキシジルと、6ヶ月(R2<0.22)及び12ヶ月(R2<0.11)でのHSSとの間の相関は弱かった。11人の患者は、5%の局所用ミノキシジルを過去に使用されていた。これらの患者のHSSの平均変化は、統計的に有意ではないが、局所用ミノキシジルを使用しなかった患者と比較してより高かった。局所用ミノキシジルが過去に使用されていた及び使用されていなかった患者に対するHSSの平均低減は、6ヶ月で2及び1.56(p=0.22)、12ヶ月で3.18及び2.32(p=0.11)であった。31人の患者では、HSSは6ヶ月後に改善され;4人の患者では、HSSは同じままであり;1人の患者では、スコアは6ヶ月の時点でベースラインと比較して増加し、12ヶ月時点で改善した。12ヶ月後に、HSSは、3人の患者を除く全員において、等しいままである、またはベースラインから改善した。
【0127】
ベースラインの血圧及び6ヶ月の血圧の間に有意な差はない(p>0.05)。記録された最低血圧は、90/70であった。研究における他の全ての患者は、100/70を超える血圧を有した。副作用の存在に基づいて患者グループの平均用量を、表3に提示する(p値は、対応する用量差の有意性を表す)。ベースラインの毛髪痛を記載した5人の女性は全て、3ヶ月以内の改善または解消を認めた。血圧の平均変化は、収縮期のマイナス0.5mmHg及び拡張期のプラス2.1mmHgであった。2人の患者は、継続的な処置で解消された一過性の体位性眩暈を発症した。1つの患者は、足首浮腫を発症した。13人の女性は、顔面多毛症を発症した。6人の女性の場合、これは軽度であり、処置を必要としていなかった。4人の患者は、上唇または額をワックス脱毛し、3人の患者は、レーザー脱毛を行った。患者は、任意の血液検査異常を発症しなかった。
【0128】
【表3】


【0129】
この研究の患者全ては、6ヶ月または12ヶ月のいずれかの時点で、改善を実証し、33人の患者は、12ヶ月時点でのベースラインから改善した。皮膚科学センターのみからの36人の患者のこの解析は、低用量の経口ミノキシジルが、CTEを有する女性における毛髪脱落を減少させることがあることを示す。局所用ミノキシジルに過去に反応しなかった患者は依然として、経口ミノキシジルから恩恵を受けることがある。患者コホートは、処置中に落ち着く最小の副作用(眩暈及び足首腫脹)を経験した。」

ケ 「

」(図5)

(3)ア 上記記載によれば、本件明細書の発明の詳細な説明中、実施例1には、脱毛又は過剰な毛髪脱落を判定するための視覚的アナログスケールを確立したことが示され(上記(2)カ)、実施例4には、当該視覚的アナログスケールによって評価された毛髪脱落の程度を示す毛髪脱落スコア(HSS)に基づいて、経口ミノキシジルを「0.5及び2.5mgの間を変動し、ほとんどの患者に1mgを投与した」場合に、慢性休止期脱毛症の患者の症状が改善されたことが示されている(上記(2)ク)。

イ これに対し、本件特許請求の範囲では、経口ミノキシジルの経口用量は、最も広い数値範囲で「1日約0.1mg〜20mg」と規定されており(本件発明15)、実施例4で実際に用いられた経口用量以外の範囲を規定しているので、以下に検討する。
本件明細書には、本件発明の技術背景として、「現時点では、CTEの唯一の推奨処置は、局所用ミノキシジルであるが、結果は変わりやすく、しばしば期待外れである。・・・現時点では、慢性休止期脱毛症に対し利用可能なFDAまたはTGA処置はない。」とされ、「休止期脱毛症を含む、男性及び女性の両方のための脱毛及び過剰な毛髪脱落の状態に対する新しい処置が必要である」ことが記載されている(上記(2)イ)。そして、そのような技術背景の下、本件発明は、「脱毛または過剰な毛髪脱落が、毎日の低用量の経口ミノキシジルにより有効に処置することができる」こと、「休止期(毛包の休息期)早期の毛髪から生じる毛髪の菲薄化または脱落により特徴付けられる頭皮障害である、休止期脱毛症は、経口ミノキシジルで処置することができる」こと及び「経口ミノキシジルを含む薬学的塩濃度の投与は、血圧に有効な効果を有する」ことといった発見に基づいてなされたものであることが記載され(上記(2)ウ)、実施例4において、具体的な実験結果によってそのことが示されている(上記(2)ク及びケ)。
以上のことから、本件発明の技術的な意義は、本件特許の出願時点では、局所ミノキシジルでしか処置する手段のなかった休止期脱毛症に対し、経口でのミノキシジルの投与によって処置することができることを具体的な実験結果によって示したことといえるところ、そのような技術的な意義を考慮すれば、実施例4の対象とした患者とは症状の程度の異なる患者や、体重などの個人差のある患者に対し、実施例4で実際に行われた経口での用量を変更しても、経口ミノキシジルの休止期脱毛症の改善効果の有用性があることは、当業者は認識し得るといえる。
また、上記(2)エの記載によれば、「休止期脱毛症の処置」の「処置」については、「臨床症状の出現を予防するまたは遅延させること」、「発症を抑制するまたは低減させること」、「疾患を軽減すること」などを意味し、実施例4における症状の改善(疾患の軽減)に比べて、処置の程度の軽い、予防などの処置も包含しているといえる。そして、そのような軽い程度の処置であれば、実施例4で実際に行われた経口用量よりも少ない用量であっても、「休止期脱毛症の処置」はなし得ると考えられるから、本件発明で規定された経口用量が実施例4で実際に行われた経口用量よりも少ない量を含んでいたとしても、本件発明が休止期脱毛症の処置又は予防に使用できることは、当業者は認識し得るといえる。
それゆえ、実施例4における経口ミノキシジルの用量を含む「1日約0.1mg〜20mg」程度の用量の経口ミノキシジルにより、休止期脱毛症の処置又は予防をすることができることを、当業者であれば認識できる。

ウ また、実施例4では、慢性休止期脱毛症の患者の症状が改善されたことが示され、その他の休止期脱毛症の治療に、経口ミノキシジルが有効であることは示されていないものの、本件出願時の技術水準を示す甲3、甲5等には、局所のミノキシジルの処置が休止期脱毛症の治療に効果を奏することが示されている。そのような本件出願時の技術水準を踏まえれば、実施例4で経口でのミノキシジルの処置で慢性休止期脱毛症の改善効果が示されれば、その他の休止期脱毛症においても経口でのミノキシジルの処置が有効であることを当業者は認識できる。

エ そして、特定の用量を含むミノキシジルを含む経口医薬、経口組成物又は経口薬品を製造することは、上記(2)オの記載や出願時の技術常識を参酌することにより、当業者が実施することができる。

オ したがって、本件明細書の発明の詳細な説明には、出願時の技術常識に照らし、本件発明1〜8の経口医薬、本件発明9〜12の経口組成物、本件発明15〜23の経口医薬及び本件発明24〜27の経口組成物が休止期脱毛症の処置又は予防に使用でき、かつ、それらを製造できる程度の記載があるといえる。また、休止期脱毛症の処置又は予防に使用できる本件発明13〜14及び28の経口薬品の製造をすることができる程度の記載があるといえるから、本件特許の発明の詳細な説明は、実施可能要件を満足する。

(4)実施可能要件違反に関して、申立人は、概略、以下の主張をする。
(i)「毛髪脱落スコア(HSS)」は客観性に欠ける指標であり、そのような指標に基づく本件図5からは経口ミノキシジルの処方による毛髪脱落の改善についての有用性が示せていない。
(ii)本件明細書の実施例4から、経口ミノキシジル1mgが投与された患者に改善傾向が見られたと推測されるところ、例えば、本件発明1で規定される「約0.1mg〜0.49mg」の用量は、実施例4で用いられた量の半分(0.49mg)や1/10(約0.1mg)の量であり、実施例4と同様の効果が得られると認識できない。
(iii)休止期脱毛症には、急性休止期脱毛、慢性びまん性休止期脱毛、慢性休止期脱毛などの種類があり、それらの種類によって原因やその治療方法も大きく異なるのが技術常識であるところ(甲13)、本件明細書の実施例4において、経口ミノキシジルによる改善効果が示されているのは、慢性休止期脱毛症(CTE)に対してだけであり、それ以外の休止期脱毛症への有用性を認識できない。

(5)ア しかしながら、(i)に関し、実施例1には、脱毛又は過剰な毛髪脱落を判定するための視覚的アナログスケールを確立したことが示され(上記(2)カ)、評価の方法は、図1(上記(2)キ)に示される視覚的アナログスケールの写真と見比べて、脱落した毛髪の量を1〜6でスコア化するものであること、及び「女性が毛髪脱落を確実に自己スコアすることができることを示した」(上記(2)カの【0098】)と記載されているから、「毛髪脱落スコア(HSS)」は、具体的に、だれが、どのような評価指標に従って、どのような試験や診断をするかを理解することができる。それゆえ、「毛髪脱落スコア(HSS)」は客観性に欠ける指標とはいえないし、図5から経口ミノキシジルの処方による毛髪脱落の改善についての有用性を理解できる。

イ (ii)に関し、上記(3)イで述べたように、実施例4における経口ミノキシジルの用量を含む「1日約0.1mg〜20mg」程度の用量の経口ミノキシジルにより、休止期脱毛症の処置又は予防をすることができることを、当業者であれば認識できる。また、(iii)に関し、上記(3)イで述べたように、慢性休止期脱毛症以外の休止期脱毛症においても経口でのミノキシジルの処置が有効であることを当業者は認識できる。

ウ 以上のとおり、申立人の主張(i)〜(iii)は採用できない。

(6)したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明について、当業者が実施可能な程度に、明確かつ十分に記載されている。
よって、申立理由2には、理由がない。

3 申立理由3(サポート要件違反)
(1)特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、その記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。以下、検討する。

(2)本件発明の課題は、上記2(5)イで述べた技術背景を踏まえて、「ミノキシジルを含む、休止期脱毛症を処置又は予防するための経口医薬、経口組成物又は経口薬品を提供すること」といえる。

(3)一方、上記2(3)で述べたように、本件明細書の発明の詳細な説明には、実施例1において、脱毛又は過剰な毛髪脱落を判定するための視覚的アナログスケールを確立したことが示され(上記2(2)カ)、実施例4には、当該視覚的アナログスケールによって評価された毛髪脱落の程度を示す毛髪脱落スコア(HSS)に基づいて、経口ミノキシジルを使用した慢性休止期脱毛症の患者の症状が改善されたことが示されており(上記2(2)ク)、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、当業者が本件発明の上記課題を解決できると認識できるといえる。
よって、本件発明は、サポート要件を満足する。

(4)サポート要件違反に関して、申立人は、概略、以下の主張をする。
(i)「毛髪脱落スコア(HSS)」は客観的に欠ける指標であり、そのような指標による結果に基づいて、本件発明の休止期脱毛症に対する治療効果は裏付けられない。
(ii)本件明細書の実施例4から、経口ミノキシジル1mgが投与された患者に改善傾向が見られたと推測されるところ、例えば、本件発明1で規定される「約0.1mg〜0.49mg」の用量は、実施例4で用いられた量の半分(0.49mg)や1/10(約0.1mg)の量であり、実施例4と同様の効果が得られると認識できない。
(iii)休止期脱毛症には、急性休止期脱毛、慢性びまん性休止期脱毛、慢性休止期脱毛などの種類があり、それらの種類によって原因やその治療方法も大きく異なるのが技術常識であるところ、本件明細書の実施例4において、経口ミノキシジルによる改善効果が示されているのは、慢性休止期脱毛症(CTE)に対してだけであり、それ以外の休止期脱毛症への有用性を認識できない。

(5)しかしながら、上記2(5)で述べたように、申立人の主張(i)〜(iii)は採用できない。

(6)したがって、本件発明は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されている。
よって、申立理由3には、理由がない。

4 申立理由4(甲1を主引用例とする進歩性欠如)
(1)甲1に記載された発明 上記第4の摘記事項(甲1−1)より、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる(以下、「甲1発明」という。)。

「慢性休止期脱毛症の治療のための5%ミノキシジル溶液。」

(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明とを対比すると、慢性休止期脱毛症は、休止期脱毛症の一種であるから(上記2(2)イ)、甲1発明の「慢性休止期脱毛症」は、本件発明1の「休止期脱毛症」に相当する。また、上記2(2)エに記載のごとく、本件発明1の「処置」は、症状の発症を抑制あるいは低減させること、又は疾患を軽減することを意味するから、甲1発明の「治療」は、本件発明1の「処置または予防」に相当する。さらに、甲1発明の「溶液」は、薬剤のミノキシジルを含み、治療のために用いられるものであるから、本件発明1の「医薬」に相当する。
一方、甲1発明は、外用薬と認められ、本件発明1の「経口医薬」とは相違する。

イ そうしてみると、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で、一致又は相違する。
<一致点1A>
「ミノキシジルを含む、休止期脱毛症を処置または予防するための医薬。」
<相違点1A>
本件発明1の医薬は、「経口」医薬であり、その経口用量を「1日約0.1mg〜0.49mg、若しくは約0.1mg〜0.4mg、若しくは約0.15mg〜0.3mg、若しくは約0.2mg〜0.28mgの範囲内の、または約0.25mgである、若しくは約0.24mgである、若しくは約0.1mgである」と特定しているのに対し、甲1発明は、5%溶液であって、経口で用いること及び経口での用量が特定されていない点。

ウ 上記相違点1Aについて検討する。
(ア)ミノキシジルの外用薬としての使用について
ミノキシジルは、経口用血圧降下剤として使用した場合の副作用としての育毛効果に着目されたことから開発が進み(摘記事項(甲7−1))、本件特許の優先日当時、男性型(アンドロゲン型)脱毛症等の脱毛症の治療のための外用薬として用いられていた(甲3〜甲11)。

(イ)ミノキシジルの経口薬としての使用について
本件特許の優先日当時の技術水準を示す甲12には、日本美容外科学会において、ミノキシジルを含む薬を患者に内服させた上、ミノキシジルを含む外用薬を塗布したところ、発毛治療効果があったことが石原秀一医師によって発表されたこと、ミノキシジルは降圧剤であり、アメリカのFDA(米食品医薬品局)は内服、外用とも認可していること、及び緊急性のある脱毛状態が末期の患者には、医師の裁量権の範囲でミノキシジルを内服剤として使用することができる旨、石原氏が述べていることが記載されている(摘記事項(甲12−1))。その一方で、甲12には、東京医科大学薬理学講座主任教授・松宮輝彦氏が上記学会発表は危険であると警告していること、ミノキシジルは強い薬であり、心臓が悪く血管拡張剤を飲んでいる患者が、ミノキシジルを含む発毛剤の外用薬である「リアップ」を1日に何回も頭にふりかけ、血圧が下がり過ぎて死亡するという事故があったこと、及びFDAがミノキシジルの内用を認可しているのは降圧剤としてのみであり、発毛剤としては認めていないことが記載されている(摘記事項(甲12−2))。
また、甲2には、「低用量の経口ミノキシジルに配合をカプセルに配合し、単独で、又は経口抗アンドロゲン療法と組み合わせて使用して、男性型脱毛症及びその他の脱毛症における頭髪の再成長を促進することができる。」との記載(摘記事項(甲2−1))はあるものの、実際に経口で投与した実験を行ったことも、その結果、脱毛症の処置ができたことも示されていない。
これらの文献によれば、本件特許の優先日当時、ミノキシジルを脱毛症の治療のために経口投与することは危険であると当業者は認識しており、ミノキシジルを脱毛症の治療のための経口製剤として用いることは行われていなかったと認められる。

(ウ)ミノキシジルの経口投与による休止期脱毛症に対する効果について
ミノキシジルを経口投与した場合に、休止期脱毛症に対して有効であることを示す文献は見いだせず、本件特許の優先日当時、ミノキシジルを経口投与した場合に、休止期脱毛症に対して有効であることは知られていなかったといえる。

(エ)一般に、既存の医薬品の用法・用量を変更するには、安全性を含めた作用が既存の医薬品と比べて同等程度のものであることが要求されるところ、ミノキシジルが経口で休止期脱毛症に対して治療効果があることは知られていない状況において(上記(ウ))、本件優先日当時、脱毛症の治療のために経口投与することは危険であると当業者が認識していた「ミノキシジル」を含み、局所投与する外用薬として機能する医薬品である甲1発明を、あえて当業者が危険であると認識していた経口の用法に変更しようとする動機付けがあるとはいえないし、ミノキシジルによる血圧降下の作用が予想されることから、阻害要因があるといえる。
したがって、外用薬として用いられている甲1発明を経口医薬として用い、さらにその用量を使用可能な範囲に設定し、相違点1Aに係る本件発明1の構成とすることは、当業者にとって容易に想到し得たとはいえない。
そして、本件明細書の実施例においては、慢性休止期脱毛症の患者に実際に経口投与したところ、血圧の有意な変化はなく、脱毛症の症状が改善されたことを示しており(上記2(2)ク、特に【0127】)、本件発明1は、甲1発明や甲2〜13に記載された事項から、当業者が予測し得ない効果を有する。

エ 申立人は、概略、以下の主張をする。
(i)甲2、甲12の記載から、安全性などの面において課題があるにせよ、ミノキシジルが経口で特に強い発毛効果を奏するため、低用量でも十分な発毛効果を有することは周知の事実であり、また、ミノキシジルが休止期脱毛症に対しても効果を奏することが周知であったことは、甲1の記載並びに甲3〜11の記載から明らかである。休止期脱毛症に対してのみ経口で効果がないなどと考える根拠は存在せず、ミノキシジルが経口で休止期脱毛症に対して治療効果を有することは当業者に知られていたか、少なくとも極めて容易に予測し得たことに他ならない。
(ii)本件明細書の実施例4で用いた評価手法である「毛髪脱落スコア(HSS)」は客観性に欠けるから、実施例4の実験結果(図5)に基づいて、本件発明1が顕著な作用効果があるとは認められない。また、「1日約0.1mg〜0.49mg」という用量での効果を奏することは示されていないこと、及び休止期脱毛症には、急性休止期脱毛、慢性びまん性休止期脱毛、慢性休止期脱毛などの種類があり、それらの種類によって原因やその治療方法も大きく異なるのが技術常識であるところ(甲13)、慢性休止期脱毛症以外の休止期脱毛症(急性休止期脱毛症、慢性びまん性休止期脱毛症)に対する用量や期間が読み取れないことから、本件明細書の実施例4と甲1発明の差が、本件発明1の効果とはいえない。
(iii)仮に本件発明1の方が外用と比較して高い効果が得られたとしても、経口の方が強い効果が得られる(ただし、安全性の関係であまり利用されてこなかったに過ぎない。)ことは周知であったから、本件発明1の作用効果は、予測できない顕著な作用効果ではない。

オ しかしながら、(i)に関し、甲1〜12のいずれにも、経口でのミノキシジルの処置が休止期脱毛症の治療に有効であったことは記載されていないから、申立人の「ミノキシジルが経口で休止期脱毛症に対して治療効果を有することは当業者に知られていた」との主張は根拠がないし、また、それが、自明であり極めて容易に予測できるとまではいえない。
(ii)に関し、上記2(3)〜(5)で述べたように、経口用量の数値範囲全体にわたって、本件発明1の効果を奏することは当業者が認識できる。また、慢性休止期脱毛症以外の休止期脱毛症に対しても、本件発明1の効果を奏することも当業者が認識できる。
(iii)に関し、ミノキシジルは、局所投与より経口の方が強い抗脱毛作用が得られることは、いずれの甲号証にも記載されていない(なお、甲12には、ミノキシジルを外用薬と内服薬で併用したことが記載されているだけであって、内服薬が外用薬よりも抗脱毛作用が強いことは記載されていない。)。
したがって、上記申立人の主張は受け入れられない。

カ よって、本許発明1は、甲1の記載及び甲2〜13の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明2〜8について
本件発明2〜8は、本件発明1を引用する発明であり、本件発明2は、本件発明1の経口用量を「1日約0.25mg」に限定したものであり、本件発明3〜8は、ミノキシジル以外の成分を含むこと及びその用量をさらに限定したものである。これらの発明と甲1発明とは、少なくとも以下の点を相違点とする。
<相違点1A’>
本件発明2〜8の医薬は、「経口」医薬であり、その経口用量を「1日約0.25mgである」と特定しているのに対し、甲1発明は、5%溶液であって、経口で用いること及び経口での用量が特定されていない点。

上記相違点1A’については、上記(2)ウで本件発明1と甲1発明との相違点について述べた理由と同様の理由で、当業者が容易に想到し得たものとはいえないから、本件発明2〜8は、甲1の記載及び甲2〜13の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件発明9について
ア 本件発明9と甲1発明とを対比すると、上記(2)アで本件発明1と甲1発明とを対比したのと同様に、甲1発明の「慢性休止期脱毛症」は、本件発明9の「休止期脱毛症」に相当し、甲1発明の「治療」は、本件発明9の「処置」に相当する。さらに、甲9発明の「溶液」は、ミノキシジル以外の成分を含むから、本件発明9の「組成物」に相当する。

イ そうしてみると、本件発明9と甲1発明とは、以下の点で、一致又は相違する。
<一致点1A’>
「ミノキシジルを含む、休止期脱毛症を処置するための組成物。」
<相違点1A’’>
本件発明9の組成物は、「経口」組成物であり、ミノキシジルの経口用量、並びに、ミノキシジル以外の成分とその用量を「(i)1日約0.1mg〜0.49mgの範囲内のミノキシジル;(ii)1日約0.1mgのミノキシジル;(iii)1日約0.24mgのミノキシジル;(iv)1日約0.25mgのミノキシジル;(v)1日約0.1mg〜0.49mgの範囲内のミノキシジル及び1日約10mg〜500mgの範囲内のスピロノラクトン;または、(vi)1日約0.25mgのミノキシジル及び1日約25mgのスピロノラクトン」を含むことを特定しているのに対し、甲1発明は、5%溶液であって、経口で用いること及び経口での用量が特定されていない点。

ウ 上記相違点1A’’については、上記(2)ウで本件発明1と甲1発明との相違点について述べた理由と同様の理由で、当業者が容易に想到し得たものとはいえないから、本件発明9は、甲1の記載及び甲2〜13の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)本件発明10〜12について
本件発明10〜12は、本件発明9を引用する発明であり、本件発明10〜11は、ミノキシジル以外の成分を含むこと及びその用量をさらに限定したものであり、本件発明12は、「錠剤形態」であることに限定したものであって、本件発明10〜12と甲1発明とは、少なくとも上記相違点1A’’で相違する。
そして、上記(4)で、本件発明9について述べたように、上記相違点1A’’については、当業者が容易に想到し得たものとはいえないから、本件発明10〜12は、甲1の記載及び甲2〜13の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(6)本件発明13について
ア 上記第4の摘記事項(甲1−1)より、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる(以下、「甲1’発明」という。)。

「慢性休止期脱毛症の治療のための5%ミノキシジル溶液の調製のための、ミノキシジルの使用。」

イ 本件発明13と甲1’発明とを対比すると、上記(2)アで本件発明1と甲1発明とを対比したのと同様に、甲1’発明の「慢性休止期脱毛症」は、本件発明13の「休止期脱毛症」に相当し、甲1’発明の「治療」は、本件発明13の「処置」に相当する。さらに、甲1’発明の「溶液」は、薬剤のミノキシジルを含み、治療のために用いられるものであるから、本件発明13の「薬品」に相当する。

ウ そうしてみると、本件発明13と甲1’発明とは、以下の点で、一致又は相違する。
<一致点1A’’>
「対象の休止期脱毛症の処置用の薬品の調製のための、ミノキシジルの使用。」
<相違点1A’’’>
本件発明13の薬品は、「経口」薬品であり、ミノキシジルの経口用量を「1日約0.1mg〜0.49mg」と特定しているのに対し、甲1’発明は、5%溶液であって、経口で用いること及び経口での用量が特定されていない点。

エ 上記相違点1A’’’については、上記(2)ウで本件発明1と甲1発明との相違点について述べた理由と同様の理由で、当業者が容易に想到し得たものとはいえないから、本件発明13は、甲1の記載及び甲2〜13の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(7)本件発明14について
本件発明14は、本件発明13について、ミノキシジル以外の成分を含むこと及びその用量をさらに限定したものであり、本件発明14と甲1’発明とは、少なくとも上記相違点1A’’’で相違する。
そして、上記(6)で、本件発明13について述べたように、上記相違点1A’’’については、当業者が容易に想到し得たものとはいえないから、本件発明14は、甲1の記載及び甲2〜13の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(8)本件発明15〜28について
本件発明15〜23の休止期脱毛症を処置するための経口医薬、本件発明24〜27の休止期脱毛症を処置するための経口組成物及び本件発明28の対象の休止期脱毛症の処置用の経口薬品調整のためのミノキシジルの使用については、経口用量の数値範囲の違いはあるが、それぞれ本件発明1〜8、本件発明9〜12及び本件発明13〜14に対応しており、甲1発明又は甲1’発明とは、相違点1A〜1A’’’で相違する。
そして、上記(2)〜(7)で述べたように、上記相違点1A〜1A’’’については、当業者が容易に想到し得たものとはいえないから、本件発明15〜28は、甲1の記載及び甲2〜13の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(9)小括
以上より、本件発明1〜28は、甲1の記載及び甲2〜13の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5 申立理由5(甲2を主引用例とする進歩性欠如)
(1)甲2に記載された発明
上記第4の摘記事項(甲2−1)より、甲2には、以下の発明が記載されていると認められる(以下、「甲2発明」という。)。ただし、上記4(2)ウでも述べたように、甲2については、「低用量の経口ミノキシジルに配合をカプセルに配合し、単独で、又は経口抗アンドロゲン療法と組み合わせて使用して、男性型脱毛症及びその他の脱毛症における頭髪の再成長を促進することができる。」との記載はあるものの、実際に経口で投与した実験を行ったことも、その結果、脱毛症の処置ができたことも示されておらず、経口でのミノキシジルの処置が休止期脱毛症の治療に有効であるかどうか不明であり、単に医薬として使用することができる可能性を述べたものに過ぎないと認められる。

「男性型脱毛症及びその他の脱毛症における頭髪の再成長を促進することができるとされた、1日0.5mg、1日1mg、1日2mg、1日2.5mg、1日3mg、1日5mg又は1日10mgの経口用量のミノキシジルを配合したカプセル。」

(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「男性型脱毛症及びその他の脱毛症」は、本件発明1の「休止期脱毛症」と「脱毛症」である点で一致する。また、甲2発明の「経口用量のミノキシジルを配合したカプセル」は、発毛剤であるミノキシジルを含み、経口で治療のために用いられるものであるから、本件発明1の「経口医薬」に相当する。
一方、上記2(2)エに記載のごとく、本件発明1の「処置」は、症状の発症を抑制あるいは低減させること、又は疾患を軽減することを意味するから、甲2発明の「(脱毛症における)頭髪の再成長を促進すること」は、本件発明1の「処置または予防」に相当するものの、上記(1)で述べたとおり、甲2には、脱毛症を経口ミノキシジルにより実際に治療できたことが示されていないから、本件発明1の経口医薬が「休止期脱毛症を処置または予防するための」ものである点は、甲2発明との相違点といえる。

イ そうしてみると、本件発明1と甲2発明とは、以下の点で、一致又は相違する。
<一致点1B>
「ミノキシジルを含む、経口医薬。」
<相違点1B>
本件発明1の経口医薬は、「休止期脱毛症を処置または予防するための」ものであるのに対し、甲2発明は、「男性型脱毛症及びその他の脱毛症における頭髪の再成長を促進することができるとされた」ものであるが、甲2には、脱毛症を経口ミノキシジルにより実際に治療できたことが示されておらず、実際に「男性型脱毛症及びその他の脱毛症」において頭髪の再成長を促進することができるものかは不明である点。
<相違点2B>
本件発明1の経口医薬の経口用量は、「1日約0.1mg〜0.49mg、若しくは約0.1mg〜0.4mg、若しくは約0.15mg〜0.3mg、若しくは約0.2mg〜0.28mgの範囲内の、または約0.25mgである、若しくは約0.24mgである、若しくは約0.1mgである」のに対し、甲2発明は、「1日0.5mg、1日1mg、1日2mg、1日2.5mg、1日3mg、1日5mg又は1日10mg」である点。

ウ 上記相違点1Bについて検討する。
上記4(2)ウで述べたように、本件特許の優先日当時、ミノキシジルは、男性型(アンドロゲン型)脱毛症等の脱毛症の治療のための外用薬として用いられていたが、ミノキシジルを脱毛症の治療のために経口投与することは危険であると当業者は認識しており、ミノキシジルを脱毛症の治療のための経口製剤として用いることは行われておらず、ミノキシジルを経口投与した場合に、休止期脱毛症に対して有効であることは知られていなかったことを考慮すると、甲2に具体的な実験がなくても、甲2発明における所定用量の経口ミノキシジルが、男性型脱毛症に安全に使用できるものであることは理解できない。
そうすると、甲2発明の経口ミノキシジルを、甲2に記載されていない「休止期脱毛症」に適用しようとする動機付けがあったとまではいえない。
そうしてみれば、ミノキシジルを経口で降圧剤として使用していることや、安全性の観点で危惧されるミノキシジルの脱毛症への経口投与といったことが知られていたから(上記4(2)ウ)といって、甲2発明を休止期脱毛症の治療又は予防するために用いることの動機付けはないから、本件特許優先日の技術常識を参酌しても、甲2発明を上記相違点1Bの構成を備えた本件発明1とすることは、当業者にとって容易に想到し得たとはいえない。
そして、本件明細書の実施例においては、慢性休止期脱毛症の患者に実際に経口投与したところ、血圧の有意な変化はなく、脱毛症の症状が改善されたことを示しており(上記2(2)ク、特に【0127】)、本件発明1が甲2発明や甲1及び3〜13に記載された事項から、当業者が予測し得ない効果を有しているといえる。

エ 申立人は、概略、以下の主張をする。
(i)ミノキシジルが休止期脱毛症に対しても効果を奏することが周知であったことは、甲1の記載並びに甲3〜11の記載から明らかであるから、甲2発明の「他の脱毛症の治療」に当然休止期脱毛症が含まれているのが自然であるし、当業者が容易に想到し得たものに過ぎない。

オ しかしながら、(i)に関し、局所投与のミノキシジルが休止期脱毛症に対して効果を有するとしても、直ちに、経口ミノキシジルに関する甲2における「その他の脱毛症」に、当然に、休止期脱毛症が含まれるとはいえない。
したがって、上記申立人の主張は受け入れられない。

カ よって、上記相違点2Bを検討するまでもなく、本許発明1は、甲2の記載並びに甲1及び3〜13の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明2〜8について
本件発明2は、本件発明1の経口用量を「1日約0.25mg」に限定したものであり、本件発明3〜8は、ミノキシジル以外の成分を含むこと及びその用量をさらに限定したものである。これらの発明と甲2発明とは、少なくとも以下の点を相違点とする。
<相違点1B>
本件発明2〜8の経口医薬は、「休止期脱毛症を処置または予防するための」ものであるのに対し、甲2発明は、「男性型脱毛症及びその他の脱毛症における頭髪の再成長を促進することができるとされた」ものであるが、甲2には、脱毛症を経口ミノキシジルにより実際に治療できたことが示されておらず、実際に「男性型脱毛症及びその他の脱毛症」において頭髪の再成長を促進することができるものか不明である点。
<相違点2B’>
本件発明2〜8のミノキシジルの経口用量は、「1日約0.1mg〜0.49mg、若しくは約0.1mg〜0.4mg、若しくは約0.15mg〜0.3mg、若しくは約0.2mg〜0.28mgの範囲内の、または約0.25mgである、若しくは約0.24mgである、若しくは約0.1mgである」又は「1日約0.25mg」であるのに対し、甲2発明は、「1日0.5mg、1日1mg、1日2mg、1日2.5mg、1日3mg、1日5mg又は1日10mg」である点。

上記相違点1Bについては、上記(2)ウで本件発明1と甲2発明との相違点について述べた理由と同様の理由で、当業者が容易に想到し得たものとはいえないから、上記相違点2B’を検討するまでもなく、本件発明2〜8は、本許発明1は、甲2の記載並びに甲1及び3〜13の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件発明9について
ア 本件発明9と甲2発明とを対比すると、上記(2)アで本件発明1と甲2発明とを対比したのと同様に、甲2発明の「男性型脱毛症及びその他の脱毛症」は、本件発明9の「休止期脱毛症」と「脱毛症」である点で一致し、甲2発明の「経口用量のミノキシジルを配合したカプセル」は、本件発明9の「経口組成物」に相当する。
一方、甲2発明の「(脱毛症における)頭髪の再成長を促進すること」は、本件発明9の「処置」に相当するものの、甲2には、脱毛症を経口ミノキシジルにより実際に治療できたことが示されていないから、本件発明9の経口組成物が「休止期脱毛症を処置するための」ものである点は、甲2発明との相違点といえる。

イ そうしてみると、本件発明9と甲2発明とは、以下の点で、一致又は相違する。
<一致点1B’>
「ミノキシジルを含む、経口組成物。」
<相違点1B’>
本件発明9の経口組成物は、「休止期脱毛症を処置するための」ものであるのに対し、甲2発明は、「男性型脱毛症及びその他の脱毛症における頭髪の再成長を促進することができるとされた」ものであるが、甲2には、脱毛症を経口ミノキシジルにより実際に治療できたことが示されておらず、実際に「男性型脱毛症及びその他の脱毛症」において頭髪の再成長を促進することができるものか不明である点。
<相違点2B’’>
本件発明9は、ミノキシジルの経口用量、並びに、ミノキシジル以外の成分とその用量を「(i)1日約0.1mg〜0.49mgの範囲内のミノキシジル;(ii)1日約0.1mgのミノキシジル;(iii)1日約0.24mgのミノキシジル;(iv)1日約0.25mgのミノキシジル;(v)1日約0.1mg〜0.49mgの範囲内のミノキシジル及び1日約10mg〜500mgの範囲内のスピロノラクトン;または、(vi)1日約0.25mgのミノキシジル及び1日約25mgのスピロノラクトン」を含むことを特定しているのに対し、甲2発明は、「1日0.5mg、1日1mg、1日2mg、1日2.5mg、1日3mg、1日5mg又は1日10mg」である点。

ウ 上記相違点1B’については、上記(2)ウで本件発明1と甲2発明との相違点について述べた理由と同様の理由で、当業者が容易に想到し得たものとはいえないから、上記相違点2B’’を検討するまでもなく、本件発明9は、甲2の記載並びに甲1及び3〜13の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)本件発明10〜12について
本件発明10〜11は、本件発明9を引用する発明であり、ミノキシジル以外の成分を含むこと及びその用量をさらに限定したものであり、本件発明12は、「錠剤形態」であることに限定したものであり、本件発明10〜12と甲1発明とは、少なくとも上記相違点1B’及び相違点2B’’で相違する。
そして、上記(4)で、本件発明9について述べたように、上記相違点1B’については、当業者が容易に想到し得たものとはいえないから、上記相違点2B’’を検討するまでもなく、本件発明10〜12は、甲2の記載並びに甲1及び3〜13の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(6)本件発明13について
ア 上記第4の摘記事項(甲2−1)より、甲2には、以下の発明が記載されていると認められる(以下、「甲2’発明」という。)。

「男性型脱毛症及びその他の脱毛症における頭髪の再成長を促進することができるとされた、経口のカプセルの調製のための、1日0.5mg、1日1mg、1日2mg、1日2.5mg、1日3mg、1日5mg又は1日10mgの経口用量のミノキシジルの使用。」

イ 本件発明13と甲2’発明とを対比すると、上記(2)アで本件発明1と甲2発明とを対比したのと同様に、甲2’発明の「男性型脱毛症及びその他の脱毛症」は、本件発明13の「休止期脱毛症」と「脱毛症」である点で一致し、甲2’発明の「経口のカプセル」は、本件発明13の「経口薬品」に相当する。
一方、甲2’発明の「(脱毛症における)頭髪の再成長を促進すること」は、本件発明13の「処置または予防」に相当するものの、甲2には、脱毛症を経口ミノキシジルにより実際に治療できたことが示されていないから、本件発明13の経口医薬が「休止期脱毛症を処置または予防するための」ものである点は、甲2’発明との相違点といえる。

ウ そうしてみると、本件発明13と甲2’発明とは、以下の点で、一致又は相違する。
<一致点1B’’>
「経口薬品の調製のための、ミノキシジルの使用。」
<相違点1B’’>
本件発明13の経口薬品は、「休止期脱毛症の処置用の」ものであるのに対し、甲2’発明は、「男性型脱毛症及びその他の脱毛症における頭髪の再成長を促進することができるとされた」ものであるが、甲2には、脱毛症を経口ミノキシジルにより実際に治療できたことが示されておらず、実際に「男性型脱毛症及びその他の脱毛症」において頭髪の再成長を促進することができるものか不明である点。
<相違点2B’’’>
本件発明13は、ミノキシジルの経口用量を「1日約0.1mg〜0.49mg」と特定しているのに対し、甲2’発明は、「1日0.5mg、1日1mg、1日2mg、1日2.5mg、1日3mg、1日5mg又は1日10mg」である点。

エ 上記相違点1B’’については、上記(2)ウで本件発明1と甲2発明との相違点について述べた理由と同様の理由で、当業者が容易に想到し得たものとはいえないから、上記相違点2B’’’を検討するまでもなく、本件発明13は、甲2の記載並びに甲1及び3〜13の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(7)本件発明14について
本件発明14は、本件発明13について、ミノキシジル以外の成分を含むこと及びその用量をさらに限定したものであり、本件発明14と甲2’発明とは、少なくとも上記相違点1B’’及び相違点2B’’’で相違する。
そして、上記(6)で、本件発明13について述べたように、上記相違点1B’’については、当業者が容易に想到し得たものとはいえないから、上記相違点2B’’’を検討するまでもなく、本件発明14は、甲2の記載並びに甲1及び3〜13の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(8)本件発明15〜28について
本件発明15〜23の休止期脱毛症を処置するための経口医薬、本件発明24〜27の休止期脱毛症を処置するための経口組成物及び本件発明28の対象の休止期脱毛症の処置用の経口薬品調整のためのミノキシジルの使用については、経口用量の数値範囲の違いはあるが、それぞれ本件発明1〜8、本件発明9〜12及び本件発明13〜14に対応しており、甲2発明又は甲2’発明とは、相違点1B〜1B’’で相違する(経口用量の数値範囲は、一致点になるため、相違点2B〜2B’’’は有しない。)。
そして、上記(1)〜(7)で述べたように、上記相違点1B〜1B’’については、当業者が容易に想到し得たものとはいえないから、本件発明15〜28は、甲2の記載並びに甲1及び3〜13の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(9)小括
以上より、本件発明1〜28は、甲2の記載並びに甲1及び3〜13の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜28に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに請求項1〜28に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2022-06-02 
出願番号 P2017-542212
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A61K)
P 1 651・ 537- Y (A61K)
P 1 651・ 536- Y (A61K)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 藤原 浩子
特許庁審判官 渕野 留香
阪野 誠司
登録日 2021-07-19 
登録番号 6915946
権利者 サムソン クリニカル プロプライエタリー リミテッド
発明の名称 過剰な毛髪脱落の検出及び処置  
代理人 丹羽 武司  
代理人 佐貫 伸一  

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