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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09K
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09K
管理番号 1386179
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-02-16 
確定日 2022-07-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第6924215号発明「シール材及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6924215号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許に係る出願は、平成29年9月14日に出願された特願2017−176309号の一部を平成31年1月23日に新たな特許出願としたものであって、令和3年8月3日に特許権の設定登録(請求項の数、8)がされ、同年同月25日に特許掲載公報が発行され、その後、令和4年2月16日付けで特許異議申立人 山川 隆久(以下「申立人」という。)により、請求項1−8に係る特許について特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許など
1 本件特許
本件特許の請求項1〜8に係る発明(以下「本件発明1」〜「本件発明8」といい、まとめて「本件発明」ということもある。)は、以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
水素含有フッ素ゴムと、所定の温度に加熱されたときに前記水素含有フッ素ゴムを架橋させる熱架橋剤と、放射線が照射されたときに前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する水素サイト保護剤と、前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋するときに、前記水素含有フッ素ゴムの分子間に介在するように前記水素含有フッ素ゴムと結合する架橋助剤と含有し、前記架橋助剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が2.0以上3.0以下である未架橋ゴム組成物を用いて製造されるシール材であって、
前記水素サイト保護剤が、分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を有するパーフルオロ骨格の化合物を含み、
前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋するとともに、前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断された後の炭素に前記水素サイト保護剤が結合したゴム組成物で形成されているシール材。
【請求項2】
請求項1に記載されたシール材において、
前記水素サイト保護剤が、分子内にアルケニル基を2個以上有するシール材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載されたシール材において、
前記水素サイト保護剤の含有量が、前記水素含有フッ素ゴム100質量部に対して1質量部以上20質量部以下であるシール材。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載されたシール材において、
無機充填剤の含有量が、前記水素含有フッ素ゴム100質量部に対して5質量部以下であるシール材。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載されたシール材において、
プラズマを使用する装置に使用されるシール材。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載されたシール材において、
前記水素サイト保護剤の前記パーフルオロ骨格の化合物が、パーフルオロポリエーテル構造の化合物であるシール材。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載されたシール材において、
前記水素サイト保護剤の前記パーフルオロ骨格の化合物が、23℃における粘度が30Pa・s以上100Pa・s以下の一液型の液状材料であるシール材。
【請求項8】
水素含有フッ素ゴムと、所定の温度に加熱されたときに前記水素含有フッ素ゴムを架橋させる熱架橋剤と、放射線が照射されたときに前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する水素サイト保護剤と、前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋するときに、前記水素含有フッ素ゴムの分子間に介在するように前記水素含有フッ素ゴムと結合する架橋助剤と含有し、前記架橋助剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が2.0以上3.0以下である未架橋ゴム組成物を、所定の温度に加熱して前記水素含有フッ素ゴムを前記熱架橋剤により架橋させた後、放射線を照射して前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合を切断して生じる炭素のラジカルに前記水素サイト保護剤を結合させるシール材の製造方法であって、
前記水素サイト保護剤は、分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を有するパーフルオロ骨格の化合物を含むシール材の製造方法。」
2 本件特許明細書には次の記載がある。
(1)「【0010】
実施形態に係る未架橋ゴム組成物は、ゴム製品、特に、例えば半導体のエッチング装置やプラズマCVD装置のようなプラズマを使用する装置に使用される耐プラズマ性の優れるOリング等のシール材の製造に好適に用いられるものであって、ゴム成分の水素含有フッ素ゴムと熱架橋剤と水素サイト保護剤とを含有する。
【0011】
本出願における「水素含有フッ素ゴム」とは、高分子の主鎖に水素が結合した炭素が含まれたフッ素ゴムである。水素含有フッ素ゴムは、単量体として、例えば、ビニリデンフルオライド(VDF)、プロピレン(Pr)、エチレン(E)等を含むことが好ましい。」
(2)「【0014】
水素サイト保護剤は、放射線が照射されたときに水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する化合物である。ここで、本出願における「水素サイト」とは、水素含有フッ素ゴムを構成する高分子の主鎖における水素が結合した炭素の部位をいう。具体的には、例えばVDF成分におけるC−H結合部位である。水素サイト保護剤は、分子内に水素含有フッ素ゴムの炭素のラジカルに結合するアルケニル基を有するパーフルオロ骨格の化合物、及び/又は、分子内に水素含有フッ素ゴムの炭素のラジカルに結合するアルケニル基を有するシロキサン骨格の化合物を含むことが好ましい。
・・・
【0018】
これらのパーフルオロ骨格の化合物やシロキサン骨格の化合物は、分子内にアルケニル基を2個以上有することが好ましい。2個以上のアルケニル基は、同一であってもよく、また、異なっていてもよい。水素サイト保護剤が分子内にアルケニル基を2個以上有せば、水素サイトの保護に加え、水素含有フッ素ゴム間を架橋する架橋助剤としても機能することができる。
【0019】
水素サイト保護剤は、これらのうちの1種又は2種以上を用いることが好ましく、分子内にアルケニル基を有するパーフルオロポリエーテル構造の化合物を用いることがより好ましく、分子内にアルケニル基を2個以上有するパーフルオロポリエーテル構造の化合物を用いることが更に好ましい。
【0020】
水素サイト保護剤は、一液型の液状材料であることが好ましい。その場合、水素サイト保護剤の23℃における粘度は、パーフルオロ骨格の化合物の場合、好ましくは30Pa・s以上100Pa・s以下、より好ましくは40Pa・s以上70Pa・s以下であり、シロキサン骨格の化合物の場合、好ましくは100Pa・s以上150Pa・s以下、より好ましくは120Pa・s以上140Pa・s以下である。
【0021】
水素サイト保護剤の含有量(B)は、耐プラズマ性を高める観点から、水素含有フッ素ゴム100質量部に対して、好ましくは1質量部以上20質量部以下、より好ましくは5質量部以上15質量部以下である。水素サイト保護剤の含有量(B)は、耐プラズマ性を高める観点から、熱架橋剤の含有量(A)よりも多いことが好ましい。水素サイト保護剤の含有量(B)の熱架橋剤の含有量(A)に対する比(B/A)は、耐プラズマ性を高める観点から、好ましくは2.5以上30以下、より好ましくは5.0以上10以下である。」
(3)「【0024】
架橋助剤の含有量(C)は、水素含有フッ素ゴム100質量部に対して、シール材として良好な物性を得る観点から好ましくは1質量部以上10質量部以下、より好ましくは2質量部以上5質量部以下である。架橋助剤の含有量(C)は、耐プラズマ性を高める観点から、熱架橋剤の含有量(A)よりも多いことが好ましい。架橋助剤の含有量(C)の熱架橋剤の含有量(A)に対する比(C/A)は、架橋助剤を過不足なく反応させ、シール材として良好な物性を得るという観点から、好ましくは1.0以上4.0よりも小さく、より好ましくは2.0以上3.0以下である。」
(4)「【実施例】
【0032】
(ゴム組成物)
以下の実施例1〜2及び比較例1〜3のゴム組成物を調製した。それぞれの構成については表1にも示す。
【0033】
<実施例1>
ビニリデンフルオライドとヘキサフルオロプロピレンとテトラフルオロエチレンとの共重合体からなる水素含有フッ素ゴム(ダイエルG912 ダイキン工業社製)に、この水素含有フッ素ゴム100質量部に対して、熱架橋剤のパーオキサイドである2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン(パーヘキサ25B 日本油脂社製)1.5質量部、水素サイト保護剤の一液型の液状材料である分子内にビニル基を有するパーフルオロ骨格の化合物(SIFEL3590−N 信越化学工業社製、粘度(23℃):50Pa・s)10質量部、及び架橋助剤のトリアリルイソシアヌレート(タイク 日本化成社製)4質量部を配合して混練した未架橋ゴム組成物を調製した。続いて、この未架橋ゴム組成物を、成形温度165℃、成形圧力5MPa、及び成形時間15分としてプレス成形した後、加熱温度200℃及び加熱時間4時間で熱処理してシート状のゴム組成物を得た。そして、このシート状のゴム組成物に対して、照射線量30kGyのγ線を照射した。このγ線を照射したシート状のゴム組成物を実施例1とした。
【0034】
<実施例2>
水素サイト保護剤として、一液型の液状材料である分子内にビニル基を有するシロキサン骨格の化合物(KE−1830 信越化学工業社製、粘度(23℃):130Pa・s)を配合したことを除いて実施例1と同様にして作製したシート状のゴム組成物を実施例2とした。
【0035】
<比較例1>
水素サイト保護剤を配合していないことを除いて実施例1と同様にして作製したシート状のゴム組成物を比較例1とした。
【0036】
<比較例2>
水素サイト保護剤を配合せず、水素含有フッ素ゴム100質量部に対して、シリコーンゴム(KE−941−U 信越化学工業社製)を20質量部配合したことを除いて実施例1と同様にして作製したシート状のゴム組成物を比較例2とした。
【0037】
<比較例3>
水素サイト保護剤を配合せず、水素含有フッ素ゴム100質量部に対して、テトラフルオロエチレンとパーフルオロビニルエーテルとの共重合体(FFKM:AFLASPremiumPM1100 旭硝子社製)を20質量部配合したことを除いて実施例1と同様にして作製したシート状のゴム組成物を比較例3とした。
【0038】
【表1】

【0039】
(試験方法)
<耐プラズマ性>
実施例1〜2及び比較例1〜3のそれぞれについて、マイクロ波プラズマ発生機を用いて、伸張率10%として、O2プラズマ照射試験及びCF4プラズマ照射試験を行い、質量減量、クラックの有無、及びパーティクルの発生の有無を調べた。試験では、反応ガスとしてO2及びCF4を用い、O2プラズマ照射試験では、それらの流量比を50:1とし、CF4プラズマ照射試験では、それらの流量比を1:50とした。また、反応圧力を100Pa及びプラズマ照射時間を60分とした。
【0040】
<引張特性>
実施例1〜2及び比較例1〜3のそれぞれについて、JIS K6251に基づいて引張試験を行い、100%モジュラス(M100:100%伸び時における引張応力)、引張強さ(TB)、及び切断時伸び(EB)を測定した。
【0041】
<圧縮永久ひずみ>
実施例1〜2及び比較例1〜3のそれぞれについて、JIS K6262:2013に基づき、試験時間72時間及び試験温度200℃として圧縮永久ひずみの測定を行った。
【0042】
(試験結果)
試験結果を表1に示す。
【0043】
表1によれば、水素サイト保護剤を用いた実施例1及び2は、O2プラズマ及びCF4プラズマのいずれに対しても、優れた耐プラズマ性を有することが分かる。一方、水素サイト保護剤を用いていない比較例1〜3は、O2プラズマに対して、パーティクルの発生は無いものの、質量減量が大きく(特に比較例1)、クラックが発生していることが分かる。また、CF4プラズマに対しては、比較例1及び3は優れた耐プラズマ性を有するものの、比較例2は、パーティクルの発生は無いとしても、質量減量が大きく、クラックが発生していることが分かる。なお、引張特性及び圧縮永久ひずみについては、実施例1〜2と比較例1〜3との間での優劣は認められなかった。」

第3 特許異議の申立ての概要
新規性進歩性欠如
(1)引用文献
以下、申立人の提示した甲第1号証を「甲1」などという。
甲1:国際公開第2006/068099号
甲2:特開2006−342241号公報
甲3:特開2002−173543号公報
甲4:特開2001−348462号公報
甲5:ダイキン工業株式会社、「高機能フッ化ゴム ダイエル」と題する資料、平成28年(2016年)9月
甲6:ダイキン工業株式会社、「ダイエルTMG−912」と題する資料、平成15年(2003年)5月
甲7:国際公開第2009/116451号
甲8:特開2000−119468号公報
甲9:特開2004−51834号公報
甲10:国際公開第2019/009250号
甲11:特開2003−183493号公報
甲12:信越化学工業株式会社、「SHIN−ETSU SIFEL(R) 液状フッ素エラストマー」と題する資料、2019年3月
(2)新規性欠如
本件発明1〜6は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の発明に該当するから、本件発明1〜6に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
(3)進歩性欠如
ア 本件発明1〜6は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、本件発明1〜6に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
イ 本件発明1〜6は、甲7に記載された発明及び甲1、2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、本件発明1〜6に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
ウ 本件発明7は、甲1に記載された発明及び甲9に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、本件発明7に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
エ 本件発明7は、甲7に記載された発明及び甲1、2、9に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、本件発明7に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
オ 本件発明8は、甲1に記載された発明及び甲2、3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、本件発明8に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
カ 本件発明8は、甲7に記載された発明及び甲2、3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、本件発明8に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
2 記載要件違背
申立人の主張は次のとおりと解される。
(1)サポート要件違背
本件特許明細書に記載された実施例を、本件特許1〜8の範囲まで拡張・一般化することができないから、本件特許の請求項1〜8の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさない。
(2)明確性要件違背
ア 本件発明1〜7は、「シール材」という物の発明であるにも関わらず、物の製造方法で特定されているから、特許法第36条第6項第2号に規定された明確性要件を欠く。
イ 本件発明1における特定は、実際に起こっている反応であるのか明らかでなく、また、起こっている反応を確認していないから、本件発明1の記載は、明確でない。
ウ 本件発明1〜8における「水素含有フッ素ゴム」がどのような化合物か明確でない。
エ 本件発明1〜5、7〜8における「アルケニル基を有するパーフルオロ骨格の化合物」がどのような化合物か明確でない。
オ 本件発明1〜8における「水素サイト保護剤」が明確でない。

第4 引用文献の記載事項
1 甲1には次の記載がある。なお、文章中の英字は半角を全角にしたところがある。
(1a)「[1] (a)架橋性フッ素ゴムと、
該架橋性フッ素ゴム100重量部に対して、
(b)2価パーフロロポリエーテル構造または2価パーフロロアルキレン構造を有し、末端あるいは側鎖に少なくとも有機珪素化合物(c)中のヒドロシリル基と付加反応可能なアルケニル基を2個以上有する反応性フッ素系化合物(架橋性フッ素ゴム(a)を除く)と、
(c)分子中に2個以上のヒドロシリル基を有し少なくとも前記反応性フッ素系化合物(b)中のアルケニル基と付加反応可能な反応性有機珪素化合物とを合計[(b)+(c)]で1〜10重量部の量で含有し、さらに、
(d)加硫剤(d−1)と、必要により共架橋剤(d−2)とを含むゴム組成物。
[2] 上記反応性フッ素系化合物(b)と、上記反応性有機珪素化合物(c)とが液状であり、触媒の存在下に反応してゲル化し得るものであることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
[3] 上記架橋性フッ素ゴム(a)が、
(イ)フッ化ビニリデン系の架橋性フッ素ゴム(FKM)単独、または
(ロ)上記架橋性FKMに加えて、架橋性パーフルオロフッ素ゴム(FFKM)を含むものであることを特徴とする請求項1〜2の何れかに記載のゴム組成物。
[4] 上記架橋性フッ素ゴム(a)100重量部に対して、反応性フッ素系化合物(b)と反応性有機珪素化合物(c)とを合計で1〜10重量部の量で、加硫剤(d−1)を0.5〜2.5重量部の量で、共架橋剤(d−2)を3〜6重量部の量で含む請求項1〜3の何れかに記載のゴム組成物。
[5] 請求項1〜4の何れかに記載のゴム組成物を一次加硫成形後、150℃〜300℃の温度で、常圧〜減圧下に二次加硫してなるプラズマ処理装置用シール材。」
(1b)「[0001] 本発明は、反応性を有する硬化前のゴム組成物、及びプラズマ処理装置用シール材に関し、さらに詳しくは、特に半導体製造プロセスなどで、高温下で長時間継続的に使用しても相手部材とのベタツキ・固着が発生し難く、パーティクル発生の問題がなく、低コストで製造可能であるプラズマ処理装置用シール材を得ることができ、反応性を有する硬化前の未加硫ゴム組成物、及び該組成物を加硫成形してなるプラズマ処理装置用シール材等に関する。
・・・
[0011] 本発明は、上記のような従来技術に伴う問題点を解決しようとするものであって、半導体製造プロセス等で高温下に長時間継続的に使用しても相手部材とのベタツキ・固着が発生し難く、パーティクル発生の問題が生じないプラズマ処理装置用シール材が低コストで得られるような、加硫可能で反応性を有する硬化前のゴム組成物、及び該組成物を加硫成形してなるプラズマ処理装置用シール材を提供することを目的としている。」
(1c)「[0015] 本発明によれば、従来のフッ素ゴム(FKM)よりも耐プラズマ性に優れ、半導体製造プロセス等で高温下に長時間継続的に使用しても相手部材とのベタツキ・固着が発生し難く、パーティクル発生の問題が生じないプラズマ処理装置用シール材が低コストで得られるような、加硫可能なゴム組成物が提供される。
また本発明によれば、該組成物を一次加硫成形後、150〜300℃、好ましくは200℃〜280℃の温度で常圧〜減圧下に、好ましくは真空オーブン中で二次加硫してなる、上記諸特性を具備したプラズマ処理装置用シール材が提供される。」
(1c)「[0021] 本発明では、上記架橋性フッ素ゴム(a)としては、
(イ)フッ化ビニリデン系の架橋性フッ素ゴム(FKM)単独で用いてもよく、また
(ロ)上記架橋性FKMに加えて、架橋性パーフルオロフッ素ゴム(FFKM)を含んでいてもよい。
架橋性フッ素ゴム(a)としては、例えば、「フッ素系材料の開発」(1997年、シーエムシー社刊、山辺、松尾編、64pの表1)に挙げられているようなものを使用でき、具体的には、
(1)2元系のビニリデンフルオライド(VDF)/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体ゴム(FKM)、四フッ化エチレン(TFE)/プロピレンゴム、3元系のビニリデンフルオライド(VDF)/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)/テトラフルオロエチレン(TFE)共重合体ゴム、四フッ化エチレン(TFE)/プロピレン/ビニリデンフルオライド(VDF)共重合体ゴム、ビニリデンフルオライド(VDF)/四フッ化エチレン(TFE)/パーフルオロメチルビニルエーテル共重合体ゴムに代表されるように、主鎖炭素(C)−炭素(C)結合を構成している炭素(C)の一部に直接結合する水素が存在し、主鎖炭素(C)−水素(H)結合が存在する通常のフッ化ビニリデン系のフッ素ゴム(FKM);
(2)四フッ化エチレン(TFE)/パーフルオロアルキル(アルキル基:好ましくはC1〜C3、特にC1)ビニルエーテル共重合体ゴム(FFKM)、四フッ化エチレン(TFE)/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体ゴム、に代表されるように、主鎖炭素(C)−炭素(C)結合を構成している炭素(C)に直接結合する水素原子(H)が全てフッ素原子(F)などで置換されており、主鎖炭素(C)-水素(H)結合を持たないFFKM;
(3)押出成形等が可能なフッ素系熱可塑性エラストマー;
などが挙げられる。」
(1e)「[0025] 具体的には、反応性フッ素系化合物(b)は、前記特開2003−183402号公報(特許文献2)にも記載されているように、下記式(1)で表される。
CH2=CH-(X)p-(Rf-Q)a-Rf-(X)p-CH=CH2・・・・・(1)
式(1)において、Xは独立に-CH2-、-CH2O-、CH2OCH2-、-Y-NR1SO2-または-Y-NR1-CO-(但し、Yは-CH2-または-Si(CH3)2-Ph-(Ph:フェニレン基)であり、R1は水素原子又は置換あるいは非置換の1価炭化水素基)を示し、Rfは2価パーフロロアルキレン基又は2価パーフロロポリエーテル基を示し、pは独立に0又は1であり、aは0以上の整数である。また、Qは下記一般式(2)、(3)または(4)で表される。
・・・
[0029] このような反応性フッ素系化合物(b)として、上市されているものとしては、例えば、「SIFEL」(信越化学工業(株)製)が挙げられる。・・・」
(1f)「[0038] 本発明において、上記成分「(b)+(c)」として好ましく用いられる上記「SIFEL POTTING GEL (SIFEL8070A/B)」(信越化学工業(株)製)には、上記反応性フッ素系化合物(b)と、反応性有機珪素化合物(c)と、(b)と(c)とのゲル化反応用触媒とが含まれている。・・・」
(1g)「[0041] まず、加硫剤(d−1)として使用される上記過酸化物架橋剤としては、具体的には、例えば、具体的には、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン(日本油脂社製「パーヘキサ 25B」)、ジクミルパーオキサイド(日本油脂社製「パークミル D」)、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルジクミルパーオキサイド(日本油脂社製「パークミル D」)、ベンゾイルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5ジ(t−ブチルパーオキサイド)ヘキシン−3(日本油脂社製「パーヘキシン25B」)、2,5−ジメチル−2,5ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン(日本油脂製「パーブチル P」)、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、パラクロルベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーベンゾエート等を挙げることができる。
・・・
[0043]・・・
共架橋剤(d−2)としては、例えば、トリアリルイソシアヌレート(日本化成社製「タイク、TAIC」)、トリアリルシアヌレート(TAC)、トリアリルトリメリテート、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、ジプロパギルテレフタレート、ジアリルフタレート、テトラアリルテレフタルアミド、エチレングリコール・ジメタクリレート(三新化学社製「サンエステル EG」)、トリメチロールプロパントリメタクリレート(三新化学社製「サンエステル TMP」)、多官能性メタクリレートモノマー(精工化学社製「ハイクロス M」)、多価アルコールメタクリレートおよびアクリレート、メタクリル酸の金属塩などのラジカルによる共架橋可能な化合物が挙げられる。・・・」
(1h)「[0044]・・・
<配合組成>
本発明に係るゴム組成物には、上記架橋性フッ素ゴム(固形分)(a)100重量部に対して、反応性フッ素系化合物(b)と反応性有機珪素化合物(c)とを合計で通常1〜10重量部、好ましくは2〜6重量部の量で、
加硫剤(架橋剤)(d−1)を通常0.5〜2.5重量部、好ましくは0.5〜2.0重量部の量で、
必要により共架橋剤(d−2)を含む場合には、共架橋剤(d−2)を通常3〜6重量部、好ましくは4〜6重量部の量で含むことが望ましい。
[0045] 上記反応性フッ素系化合物(b)と反応性有機珪素化合物(c)との合計((b)+(c))が上記範囲より少ないと、得られるシール材の耐プラズマ性の向上が認められない傾向があり、また上記範囲より多いと製造工程上、混練り作業がきわめて困難となる傾向がある。
また、上記加硫剤(架橋剤)(d−1)が上記範囲より少ないと架橋反応が不十分となる傾向があり、また上記範囲より多いと反応が早すぎて、完全な所望の成型物を得るのが困難となる傾向がある。
[0046] また、上記共架橋剤(d−2)が上記範囲より少ないと架橋不足となる傾向があり、また上記範囲より多いと得られるシール材を、特にプラズマ処理装置用シール材として用いる上で、その架橋密度が高くなりすぎて、伸び等の物性面に悪影響を及ぼし、シール材に高温、圧縮時に割れが発生するなどの傾向がある。
なお、反応性フッ素系化合物(b)と反応性有機珪素化合物(c)とは、通常、ほぼ等量(重量比)で用いられるが、必要により例えば、(b)>(c)の量で用いてもよい。」
(1j)「[0047]・・・
<充填材>
本発明では、充填材は可能な限り使用しないのが望ましいが、本発明の目的・効果を逸脱しない範囲で必要に応じて(例えば、物性の改善などを目的として)、有機、無機系の各種充填材を配合することもできる。」
(1k)「[0054] このように、本発明の硬化性組成物の加硫物は、耐プラズマ性、非粘着性及び低パーティクル性(低発塵性)に優れるシール材等の加硫成形体を製造できる。
本発明では、成分(b)、(c)を含むものとして、この「SIFEL8070A/B」(信越化学社製)およびLIM成形用の「SIFEL3701A/B」などを挙げることができ、これらの流動性のある液状を呈する材料を用いることが必要である。成分(b)、(c)を液状の形で、上記ゴム成分(a)にブレンドしたゴム組成物を調製し、これを加硫成形によりゴム弾性体(シール材)に成形する。
・・・
[0056] これに対して、本発明に使用する液状を示す成分(b)(c)とフッ素ゴム(a)とのブレンドでは混錬中によく行き渡りやすいため、成分(b)中の耐プラズマ性を示すパーフルオロポリエーテルまたはパーフルオロアルキレン部分により、フッ素ゴムの弱い領域がよく保護されている構造を形成しているためではないかと発明者は推察している。
なお、前記特許文献2に記載の発明も「SIFEL」(信越化学社製)製品を使用している点で本発明と共通するが、同文献中で使用されている「SIFEL」製品は金型成形用の材料(固形状のコンパウンドタイプ)である「SIFEL5701」とLIM成形用の材料である「SIFEL3701」であり、いずれもゴム弾性体成形用の材料として市販されているものであり、そのまま単独で用いてシール材を得ている点で本発明とは大きく相違するものである。
・・・
[0060] このように本発明に係るプラズマ処理装置用シール材に代表される加硫成形体は、従来品と比較し、飛躍的に耐プラズマ性、非粘着性が向上しており、充填材の配合が全く不要(組成物あるいは加硫成形体中の充填材含有量:0重量%)〜含有するとしても極微量(例:1.0〜10.0重量%程度)に抑制可能であるため、プラズマ処理装置用シール材として用いてもパーティクルが発生しないという優れた効果がある。加えて真空オーブンを用いた二次加硫でゲル化反応を完遂させ未反応成分を実質上揮散させているため、半導体製造装置系内の放出ガスによる汚染も軽減できる。また、該シール材は、その価格がフッ素ゴム(FKM)と同等であり安価である。・・・」
(1m)「[0060]・・・
[実施例]
以下、本発明の好適態様について実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はかかる実施例により何ら限定されるものではない。
・・・
<固着試験(N)>
サイズAS568A−330のO−リングを成形可能な金型にて成形したO−リングを図1に示すようにフランジに装着し、フランジをメタルタッチ状態までボルト圧締めした後、所定の試験温度(180℃)で72時間電気炉で加熱する。72時間経過後、フランジを速やかに電気炉から取り出し、室温(25℃)まで放冷した後、ボルトを取り外したフランジを300mm/minの速度で引きはがすときの力の最大値からフランジの自重による力を差引いたものを固着力とした。
・・・
[0062]・・・
[実施例1]
架橋性フッ素ゴムとして「ダイエルG912」{パーオキサイド加硫可能な3元系含フッ素共重合体=ビニリデンフルオライド(CF2=CH2)/ヘキサフルオロプロピレン(CF3-CF=CF2)/テトラフルオロエチレン(CF2=CF2)、フッ素含量71質量%、ムニー粘度ML1+10(100℃)76、ダイキン工業(株)製。}に、
2価パーフロロポリエーテル構造または2価パーフロロアルキレン構造を有し、末端あるいは側鎖にヒドロシリル基と付加反応可能なアルケニル基を2個以上有する反応性フッ素系化合物(b)、及び、分子中に2個以上のヒドロシリル基を有しアルケニル基と付加反応可能な反応性有機珪素化合物(c)、及び、(b)と(c)との付加反応用の白金族化合物触媒を含み、(b)と(c)との反応によりゲル化可能な成分である「SIFEL8070A/B」{信越化学工業(株)製}および、
架橋剤{「パーヘキサ25B」、日本油脂社製、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン}、並びに共架橋剤{「TAIC」、日本化成社製、トリアリルイソシアヌレート}を添加(配合)し、
オープンロールを用いて60℃の温度で1.0時間混練し、ゴムコンパウンドを得た。
[0063] このゴムコンパウンドを金型に充填し、圧力50kgf/cm2をかけて、165℃の温度で15分間加熱し、架橋成形を行った(一次加硫成形)。
次いで、上記金型から一次加硫された成形体を取り出し、真空オーブン(真空度:30Pa)での減圧下に、200℃で12時間加熱した(二次加硫)。
得られた成形体について、表1に示す常態物性、圧縮永久歪(%)、固着試験(N)、耐プラズマ性(重量減少率(%)、条件3時間遮蔽)を上記試験条件下で測定した。
[0064] その結果を表1に示す。
・・・
[0068]


2 甲2には次の記載がある。
(2a)「【請求項1】
(a) 架橋性フッ素ゴムと、
該架橋性フッ素ゴム100重量部に対して、
(b) 2価パーフロロポリエーテル構造または2価パーフロロアルキレン構造を有し、末端あるいは側鎖に少なくとも有機珪素化合物(c)中のヒドロシリル基と付加反応可能なアルケニル基を2個以上有する反応性フッ素系化合物[架橋性フッ素ゴム(a)を除く。]と、
(c) 分子中に2個以上のヒドロシリル基を有し少なくとも前記反応性フッ素系化合物(b)中のアルケニル基と付加反応可能な反応性有機珪素化合物とを合計[(b)+(c)]で1〜10重量部の量で含有し、さらに、
(d)共架橋剤とを含むゴム組成物に、放射線処理してなるフッ素ゴムシール材。
【請求項2】
上記反応性フッ素系化合物(b)と、上記反応性有機珪素化合物(c)とが液状であり、触媒の存在下に反応してゲル化し得るものであることを特徴とする請求項1に記載のフッ素ゴムシール材。
【請求項3】
上記架橋性フッ素ゴム(a)100重量部に対して、反応性フッ素系化合物(b)と反応性有機珪素化合物(c)とを合計で1〜10重量部の量で、共架橋剤(d)を3〜15重量部の量で含む請求項1〜2の何れかに記載のフッ素ゴムシール材。
【請求項4】
(a) 架橋性フッ素ゴムと、
該架橋性フッ素ゴム100重量部に対して、
(b) 2価パーフロロポリエーテル構造または2価パーフロロアルキレン構造を有し、末端あるいは側鎖に少なくとも有機珪素化合物(c)中のヒドロシリル基と付加反応可能なアルケニル基を2個以上有する反応性フッ素系化合物[架橋性フッ素ゴム(a)を除く。]と、
(c) 分子中に2個以上のヒドロシリル基を有し少なくとも前記反応性フッ素系化合物(b)中のアルケニル基と付加反応可能な反応性有機珪素化合物とを合計[(b)+(c)]で1〜10重量部の量で含有し、さらに、
(d)共架橋剤とを含むゴム組成物を加熱下に加圧して予備成形し、得られた予備成形体に、放射線処理することを特徴とするフッ素ゴムシール材の製造方法。」
(2b)「【0001】
本発明は、フッ素ゴムシール材に関し、さらに詳しくは、特に半導体製造プロセスなどで、長時間継続的に使用してもクラックの発生がなく耐クラック性に優れ、またプラズマ環境下に長時間置かれても重量変化(低減)が少なく耐プラズマ性(耐ラジカル性)に優れ、プラズマ処理装置用シール材などとして好適に使用することができる、プラズマ処理装置用シール材等のフッ素ゴムシール材に関する。」
(2c)「【0010】
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題点を解決しようとするものであって、特に半導体製造プロセスなどで、長時間継続的に使用してもクラックの発生がなく耐クラック性に優れ、またプラズマ環境下に長時間置かれても重量変化(低減)が少なく耐プラズマ性(耐ラジカル性)に優れ、プラズマ処理装置用シール材として好適に使用することができる、プラズマ処理装置用シール材等のフッ素ゴムシール材を提供することを目的としている。
・・・
【0015】
本発明によれば、特に半導体製造プロセスなどで、長時間継続的に使用してもクラックの発生がなく耐クラック性に優れ、またプラズマ環境下に長時間置かれても重量変化(低減)が少なく耐プラズマ性(耐ラジカル性)に優れ、プラズマ処理装置用シール材として好適に使用することができる、プラズマ処理装置用シール材等のフッ素ゴムシール材が提供される。
【0016】
また本発明に係るフッ素ゴムシール材の製造方法によれば、耐プラズマ性、耐クラック性等に優れたフッ素ゴム成形体が容易に得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係るフッ素ゴムシール材並びにその製造方法について具体的に説明する。
[フッ素ゴムシール材用のゴム組成物とフッ素ゴムシール材]
本発明に係るフッ素ゴムシール材は、下記に詳述する特定のゴム組成物を放射線照射(処理)してなる。この放射線照射により、成分(a)相互間、成分(a)と(b)、(c)との間などに、架橋反応などが起きて、化学結合が形成されて、優れた耐クラック性、耐プラズマ性等が付与されているものと推察される。
・・・」
(2c)「【0048】・・・
<配合組成>
本発明に係るゴム組成物には、上記架橋性フッ素ゴム(固形分)(a)100重量部に対して、反応性フッ素系化合物(b)と反応性有機珪素化合物(c)とを合計で通常1〜10重量部、好ましくは2〜6重量部の量で、
共架橋剤(d)を通常3〜15重量部、好ましくは4〜10重量部の量で含むことが望ましい。
【0049】
上記反応性フッ素系化合物(b)と反応性有機珪素化合物(c)との合計((b)+(c))が上記範囲より少ないと、得られるシール材の耐プラズマ性の向上が認められない傾向があり、また上記範囲より多いと製造工程上、混練り作業がきわめて困難となる傾向がある。
【0050】
また、上記共架橋剤(d)が上記範囲より少ないと架橋不足となる傾向があり、また上記範囲より多いと得られるシール材を、特にプラズマ処理装置用シール材として用いる上で、その架橋密度が高くなりすぎて、伸び等の物性面に悪影響を及ぼし、シール材に高温、圧縮時に割れが発生するなどの傾向がある。
【0051】
なお、反応性フッ素系化合物(b)と反応性有機珪素化合物(c)とは、通常、ほぼ等量(重量比)で用いられるが、必要により例えば、(b)>(c)の量で用いてもよい。
上記(未加硫)ゴム組成物には、必要により、さらに受酸剤、充填材、架橋剤などが含まれていてもよい。・・・」
(2d)「【0059】
次いで、上記予備成形物を、真空中又は不活性ガス雰囲気下に、減圧〜常圧下に放射線照射して所望の物性の成形体が得られる。
このように放射線照射すると、「(b)と(c)」(例えば、「SIFEL A/B」)が反応する以外に、「(b)と(c)」(=SIFEL A/B)とフッ素ゴム(a)との反応、フッ素ゴム(a)と成分(b)、(c)、(d)との間での何らかの化学結合などが生じて、その結果、主に「(b)と(c)」の作用によるフッ素ゴム(a)の改質が行われて、耐クラック性、耐プラズマ性が向上するのであろうと考えられる。
・・・
【0064】
本発明では、成分(b)、(c)を含むものとして、この「SIFEL8070A/B」(信越化学社製)およびLIM成形用の「SIFEL3701A/B」などの流動性のある液状を呈する材料を用いることが必要である。成分(b)、(c)を液状の形で、上記ゴム成分(a)にブレンドしたゴム組成物を調製し、これを型内で加熱、加圧した後、放射線架橋によりゴム弾性体(シール材)に成形する。」
(2e)「【0074】
・・・
[実施例1]
架橋性フッ素ゴムとして熱可塑性フッ素ゴム「ダイエルサーモプラスチックT550」{ダイキン工業(株)製。}に、
2価パーフロロポリエーテル構造または2価パーフロロアルキレン構造を有し、末端あるいは側鎖にヒドロシリル基と付加反応可能なアルケニル基を2個以上有する反応性フッ素系化合物(b)、及び、分子中に2個以上のヒドロシリル基を有しアルケニル基と付加反応可能な反応性有機珪素化合物(c)、及び、(b)と(c)との付加反応用の白金族化合物触媒を含み、(b)と(c)との反応によりゲル化可能な成分である「SIFEL8070A/B」{信越化学工業(株)製}および、共架橋剤(「TAIC」、日本化成社製)を添加(配合)し、ラボプラストミルを用いて220℃の温度で10分混練し、ゴムコンパウンドを得た。
【0075】
このゴムコンパウンドを金型に充填し、圧力20kgf/cm2をかけて、220℃の温度で10分間加熱し予備成形を行った。
次いで、上記金型から予備成形された成形体を取り出し、不活性ガス置換された袋(材質:ポリプロピレン(PP))に入れ、80kGyで放射線処理(架橋)を行った。
【0076】
得られた成形体について、表1に示すクラック発生までの所要時間(h)、耐プラズマ性{重量減少率(%)、条件:ダウンフロー環境、6時間遮蔽、O2:CF4=180:20、O−リング10%伸張。比較例1を基準値:1.0。}を上記試験条件下で測定した。
【0077】
その結果を表1に示す。
・・・
【0083】
【表1】


3 甲3には次の記載がある。
(3a)「【請求項1】 ふっ素系エラストマーを、電離性放射線によって架橋してなることを特徴とする耐プラズマ性ふっ素系エラストマー成形体。
【請求項2】 前記ふっ素系エラストマーを、架橋剤により成形した後、電離性放射線によって更に架橋してなることを特徴とする請求項1に記載の耐プラズマ性ふっ素系エラストマー成形体。
【請求項3】 前記ふっ素系エラストマーが、ふっ素系熱可塑性エラストマーであることを特徴とする請求項1または2に記載の耐プラズマ性ふっ素系エラストマー成形体。」
(3b)「【0010】
【発明が解決しようとする課題】上述したように、高度集積化や生産性向上等の目的によりプラズマエッチング装置の使用条件は過酷になってきており、シール材には従来以上のシール性や耐プラズマ性が重要な課題となってきている。
【0011】本発明の目的は、上記課題を解決するために、高い耐プラズマ性およびシール性を有し、プラズマエッチング装置等の各種プラズマ処理装置に使用されるシール材等に好適なふっ素系エラストマー成形体を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため、本発明者らはプラズマエッチング装置等に用いるシール材の耐プラズマ性およびシール性を上げるために検討を行った結果、ふっ素系エラストマーを電離性放射線照射により架橋することが効果的であることを見出し、本発明を完成するに至った。
・・・
【0016】通常、ふっ素系エラストマーはポリオール、ポリアミン、過酸化物といった架橋剤で架橋反応を起こさせている。このうち、ポリオール架橋系は圧縮永久ひずみが良好で耐久性に優れており、ポリアミン架橋系は耐プラズマ性が優れていると言われているが、これらの架橋系は受酸剤といわれる金属酸化物が必要であり、これがパーティクルの発生要因となる。一方、過酸化物架橋系では受酸剤は不要であるが、共架橋剤が必要であり、これが主鎖同士の橋掛けの役割を果たしているが、圧縮永久ひずみや耐プラズマ性が低下する原因にもなっている。
【0017】このような知見に加えて、本発明者らは、ふっ素系エラストマーの耐プラズマ性について、さらに鋭意検討を行った結果、架橋形態と耐プラズマ性の間に関係があることを見出した。すなわち、電離性放射線によって架橋させたものが、耐プラズマ性が著しく良好になることを見出し、これは放射線照射によって出現する架橋構造が、架橋剤による架橋構造に比べて結合エネルギーが高く、プラズマによる分子の切断がし難くなったためと推察している。」
(3c)「【0039】[実施例2]表1に示すように、ふっ素系エラストマー(ダイキン工業(株)製ダイエルG912)100重量部に、過酸化物系架橋剤(日本油脂製パーヘキサ25B)2重量部、共架橋剤(日本化成製TAIC)2重量部をオープンロールで混練し、コンパウンドを得た。このコンパウンドを金型に充填し、160℃で5分間架橋成形を行った後、オーブン中で200℃で4時間二次架橋を行い、加速電圧3MeV、線量80KGyの電子線を照射して成形体を得た。
・・・
【0053】[比較例1]表1に示すように、ふっ素系エラストマー(ダイキン工業(株)製ダイエルG912)100重量部に、過酸化物系架橋剤(日本油脂製パーヘキサ25B)2重量部、共架橋剤(日本化成製TAIC)2重量部をオープンロールで混練し、コンパウンドを得た。このコンパウンドを金型に充填し、160℃で5分間架橋成形を行った後、オーブン中で200℃で4時間二次架橋を行い成形体を得た。
・・・
【0057】そして、実施例1〜15、比較例1〜4のOリングをJIS B2401に準ずる方法で圧縮永久歪みを測定した。また、プラズマ試験装置に入れ、O2ガス流量20SCCM、高周波電力150W、電源周波数13.56MHzの条件で4時間プラズマ照射し、照射後の試料の重量減少量を測定したのち、内圧1.0MPaのヘリウムガスを用いてのシール試験を行った。試験結果を表2に示す。」
(3d)「【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】なお、表中、パーティクル発生状況については、「◎:なし」、「○:ほとんど出ない」、「△:多少出る」、「×:多い」を示し、シール性については、「◎:漏れなし」、「○:微量漏れ有り」、「△:カビ泡発生」、「×:カニ泡発生」を示す。
【0061】表2より判るように、実施例は、圧縮永久ひずみ、耐プラズマ性、シール性がいずれも良好である。
【0062】
【発明の効果】以上、説明したように、本発明によれば、圧縮永久ひずみ、耐プラズマ性、シール性が従来よりも格段に優れたふっ素系エラストマー成形体が提供される。」
4 甲4には次の記載がある。
(4a)「【請求項1】 フッ素ゴムとフロロシリコーンゴムとの混合物をゴム成分とし、かつ過酸化物架橋剤を含有することを特徴とする耐プラズマ性ゴム組成物。
【請求項2】 請求項1に記載の耐プラズマ性ゴム組成物を所定形状に成型し、架橋してなることを特徴とするプラズマ処理装置用ゴム材料。」
(4b)「【0014】過酸化物架橋が可能なフッ素ゴムとしては、公知のものを広く用いることができる。例えば、ビニリデンフロライド/ヘキサフロロプロピレン系共重合体(例えばダイキン工業製ダイエルG−801、ダイニオン製フローレルFC−2260)、ビニリデンフロライド/ヘキサフロロプロピレン/テトラフロロエチレン系共重合体(例えばデュポン製バイトンGF、ダイキン工業製ダイエルG−901、ダイニオン製フローレルFLS−2650、アウジモント製テクノフロンP959)、テトラフロロエチレン/プロピレン系共重合体(例えば旭硝子製アフラス)、エチレン/テトラフロロエチレン/パーフロロアルキルビニルエーテル系共重合体(例えばデュポン製バイトンETP)等が挙げられる。中でも、テトラフロロエチレン/プロピレン系共重合体、ビニリデンフロライド/ヘキサフロロプロピレン/テトラフロロエチレン系共重合体、エチレン/テトラフロロエチレン/パーフロロアルキルビニルエーテル系共重合体が特に好ましい。また、複数のフッ素ゴムを併用することもできる。
・・・
【0016】過酸化物架橋剤としては、公知のものを用いることができ、例えば、ジクミルパーオキサイド(例えば日本油脂製パークミルD)、ジ−t−ブチルパーオキシジイソプロピルベンゼン(例えば日本油脂製パーブチルP)、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン(例えば日本油脂製パーヘキサ25B)などが挙げられる。中でも2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンが特に好ましい。」
(4c)「【0027】・サンプルの調製は、特記しない限り、以下の方法で行った:表1に記載の配合に従い、ゴムをロールで混練りし、次いで共架橋剤、過酸化物架橋剤の順に添加して更に混練りした後、熱プレスで所定の温度にて所定時間架橋させ、さらにギアーオーブンで所定温度にて所定時間二次架橋を施してサンプルを調製した。」
5 甲5には次の記載がある。
(5a)13頁下方



(5b)14頁下方



6 甲6には次の記載がある。
(6a)1頁
「1. まえがき
ダイエルG-912はパーオキサイド加硫系フッ素ゴム、ダイエルG-900系の耐薬品性を生かしながら耐熱性、耐圧縮永久ひずみ性を改良した品種です。」
(6b)2頁



7 甲7には次の記載がある。
(7a)「請求の範囲
[1] パーオキサイド架橋性フッ素ポリマーと、ポリオール化合物と、パーオキサイド架橋剤と、共架橋剤とを含有し、
パーオキサイド架橋性フッ素ポリマー100重量部に対して、ポリオール化合物0.1〜3重量部、パーオキサイド架橋剤0.1〜4重量部、共架橋剤1〜9重量部を含有するフッ素ゴム組成物。
・・・
[4] 請求項1〜3のいずれかに記載のフッ素ゴム組成物を架橋して得られる耐クラック性シール材。・・・」
(7b)「[0001] 本発明は、フッ素ゴム組成物および該組成物から得られるシール材に関する。
[0002] さらに詳しくは、本発明は、耐クラック性シール材を形成可能なフッ素ゴム組成物および該組成物から得られる耐クラック性シール材に関する。」
(7c)「[0025] 本発明の目的は、上記のような従来技術に伴う問題点を解決することにある。
[0026] より詳しくは、シール材としての性能を損なうことなく、プラズマ環境下における耐クラック性に優れた耐クラック性シール材を形成可能なフッ素ゴム組成物および該ゴム組成物から得られる耐クラック性シール材を提供することにある。
[0027] より具体的には、本発明の目的は、耐プラズマ性のみならず、耐クラック性に優れ、かつ圧縮永久歪み率にも優れ、パーティクルを発生せず、かつより安価で長寿命の耐クラック性シール材を形成可能なフッ素ゴム組成物および該ゴム組成物から得られる耐クラック性シール材を提供することにある。」
(7d)「[0037] フッ素ゴム組成物
本発明に係るフッ素ゴム組成物は、パーオキサイド架橋性フッ素ポリマー100重量部に対して、ポリオール化合物0.1〜3重量部、パーオキサイド架橋剤0.1〜4重量部、共架橋剤1〜9重量部を含有し、耐クラック性シール材を形成可能なものである。
[架橋性フッ素ポリマー]
本発明で用いられる架橋性フッ素ポリマーはパーオキサイド架橋性のものであって、係る架橋性フッ素ポリマーとしては、従来公知のものが使用できる。それらの中でも、主鎖C−C結合に結合する側鎖中の水素原子(H)が不完全にフッ素原子(F)で置換され、一部水素原子(H)を含むフッ素ポリマー(FKM)が、製造コストの面から好ましい。
[0038] 具体的には、例えば、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/ビニリデンフロライド共重合体(例:ダイキン工業(株)製の「ダイエルG912」)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル/ビニリデンフロライド共重合体(例:ダイキン工業(株)製の「ダイエルLT302」)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体などが挙げられる。
・・・
[0040] これらのうち、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/ビニリデンフロライド共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル/ビニリデンフロライド共重合体が、本発明のフッ素ゴム組成物から得られるシール材の耐プラズマ性が良好であることから好ましい。これらの共重合体は単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。・・・」
(7e)「[0040]・・・
[パーオキサイド架橋剤]
本発明のフッ素ゴム組成物に配合されるパーオキサイド架橋剤は、ポリオール架橋、ポリアミン架橋で用いられる酸化マグネシウム、酸化カルシウムのような架橋助剤(受酸剤)を使用せずに架橋させることが可能である。それゆえ、上記パーオキサイド架橋剤を用いると、前記架橋助剤(受酸剤)に由来するパーティクルの発生を生じないという利点を得ることができる。
[0041] パーオキサイド系加硫の架橋剤としては、従来公知のものが広く使用できる。
[0042] 具体的には、例えば、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン(日本油脂製、商品名「パーヘキサ25B」)、ジクミルペルオキシド(日本油脂社製、商品名「パークミルD」)、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルジクミルパーオキサイド、ベンゾイルペルオキシド(日本油脂社製、商品名「ナイパーB」)、2,5−ジメチル−2,5−(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3(日本油脂社製、商品名「パーヘキシン25B」)、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、α,α'−ビス(t−ブチルペルオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン(日本油脂社製、商品名「パーブチル P」)、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、パラクロロベンゾイルパーオキサイド等が挙げられる。
[0043] これらのなかでも、良好な常態物性、圧縮永久歪率を示すシール材が得られる観点から、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサンおよびα,α'−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼンが好ましく、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサンが特に好ましい。
[0044] これらの架橋剤は、1種または2種以上組み合わせて用いてもよい。
[0045] 上記架橋剤は、架橋性フッ素ポリマー100重量部に対して、通常0.1〜4.0重量部、好ましくは0.3〜2.0重量部、より好ましくは0.5〜1.5重量部の割合で配合される。
[0046] このような範囲で上記架橋剤を配合すると、良好な常態物性、圧縮永久歪率を示すシール材が得られる点で好ましい。・・・」
(7f)「[0046]・・・
[共架橋剤]
パーオキサイド加硫では、通常パーオキサイド架橋剤と共架橋剤とが併用して用いられる。共架橋剤(加硫助剤)としては、従来公知のものを広く用いることができる。
[0047] 具体的には、例えば、トリアリルイソシアヌレート(日本化成社製、商品名「TAIC」)、トリアリルシアヌレート、トリアリルホルマール、トリアリルトリメリテート、N,N'−m−フェニレンビスマレイミド、ジプロパギルテレフタレート、ジアリルフタレート、テトラアリルテレフタルアミド、などのラジカルによる共架橋可能な化合物が挙げられる。
[0048] これらのうちでは、トリアリルイソシアヌレートが、反応性に優れ、かつ、良好な耐熱性、圧縮永久歪を示すシール材が得られるなどの点で好ましい。
[0049] これらの共架橋剤は、1種または2種以上組み合わせて用いてもよい。
[0050] 上記共架橋剤は、架橋性フッ素ポリマー100重量部に対して、通常1〜9重量部、好ましくは2〜7重量部、より好ましくは3〜6重量部の割合で配合される。
[0051] このような範囲で上記架橋剤を配合すると、良好な常態物性、圧縮永久歪率を示すシール材が得られる点で好ましい。」
(7g)「[0065]・・・
[フッ素ゴム組成物および該組成物から得られるシール材の製造方法]
本発明に係る上記ゴム組成物及びシール材は、従来公知の方法で製造することができる。
[0066] 具体的には、例えば、オープンロール、バンバリーミキサー、加圧式ニーダー、二軸ロール等の混練装置にて架橋性フッ素ポリマーを素練りし、必要であれば、加工助剤、充填剤、可塑剤、受酸剤を添加して混錬りする。その後、ポリオール化合物、共架橋剤を添加して混錬りし、最後にパーオキサイド加硫剤を添加し混錬りしてゴムコンパウンド(フッ素ゴム組成物)を調製する。
[0067] 次いで、所定形状の金型にゴムコンパウンド(すなわち本発明のフッ素ゴム組成物)を充填し、100〜200℃の加熱温度で、約0.5〜120分程度、熱プレス成形することにより、シール材などの所定のゴム成形体を得ることができる。
[0068] 本発明においては、好ましくは、ゴム成形体をオーブン中などに所定時間おき(例:150〜250℃程度の温度および常圧下にて4〜48時間程度保持することにより)二次加硫することが望ましい。
[0069] さらに好ましくは、真空中で二次加硫を実施することが、半導体製造において問題となるゴム成形体からの放出ガスやパーティクルを低減する上で望ましい。」
(7h)「[0076] 下記の実施例と比較例とを対比すれば明らかなように、本発明のフッ素ゴム組成物から得られるシール材は、耐プラズマ性、特にこれまで問題となっていた、プラズマによるクラック発生が低減されている(優れた耐クラック性)。それゆえ、該シール材は、プラズマエッチング、プラズマアッシング、CVDなど半導体製造において多用されるプラズマ処理工程おいて使用される半導体処理装置用のシール材をはじめとする各種ゴム部材として優れるという効果を奏する。
(3−1)試料の成形方法
表1に示す条件で試料を配合し、その配合物をオープンロールにて混練りして得たゴムコンパウンド(フッ素ゴム組成物)を金型にセットした。次いで、金属にセットしたゴムパウンドを、50t圧縮真空プレスを用いて50kgf/cm2の圧力にて160℃の温度で30分間加熱し成形を行い、次いで、真空電気炉(真空度14Pa)での減圧下にて180〜230℃の温度で16時間二次加硫を行いOリング成形体(シール材)を得た。
Oリングの寸法:AS568B−214、内径24.99mm、線径3.53mm。
・・・
[0086] なお、各実施例、比較例等で使用した各成分(表1参照)は以下の通りである。
[0087] (イ)FKMポリマー1:「ダイエルG912」ダイキン工業社製、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/ビニリデンフロライド共重合体、ムーニー粘度(ML1+10、100℃):76、比重:1.90、フッ素含量:71w%。
[0088] (ロ)FKMポリマー2:「ダイエルLT302」ダイキン工業社製、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル/ビニリデンフロライド共重合体、ムーニー粘度ML1+10、100℃):65、比重:1.79、フッ素含量:62wt%。
[0089] (ハ)FKMポリマー3:「ダイエルG701M BP」ダイキン工業社製、ヘキサフルオロプロピレン/ビニリデンフロライド共重合体、ムーニー粘度(ML1+10、100℃):55、比重:1.81、フッ素含量:66wt%。
[0090] FKMポリマー4:「ダイエルG621」ダイキン工業社製、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/ビニリデンフロライド共重合体(4級アンモニウム塩、ビスフェノールAF含有のマスターバッチ)、ムーニー粘度(ML1+10、100℃):88、比重:1.90、フッ素含量71%。
[0091] FKMポリマー5:「ダイエルG801」ダイキン工業社製、ヘキサフルオロプロピレン/ビニリデンフロライド共重合体、ムーニー粘度(ML1+10、100℃):66、比重:1.81、フッ素含量66%。
[0092] (ニ)ビスフェノールAF:2、2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン、東京化成社製。
[0093] (ホ)ビスフェノールS:ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、東京化成社製。
[0094] (ヘ)キュラティブVC20:トリフェニルベンジルホスホニウムクロライド(有効成分33%のマスターバッチ)デュポンエラストマー社製。
[0095] (ト)キョーワマグ#150:酸化マグネシウム、協和化学社製。
[0096] (チ)カルディック#2000:水酸化カルシウム、近江化学社製。
[0097] (リ)TAIC:トリアリルイソシアヌレート、日本化成社製。
[0098] (ヌ)パーヘキサ25B:2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、日本油脂社製。
[0099] (ル)パーブチルP :α,α'−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、日本油脂社製。
[0100] 以下、各実施例、比較例において、試料の配合条件を表1に示し、各種試験の結果を表2に示す。
[0101][表1]

[0102][表2]


8 甲8には次の記載がある。
(8a)「【請求項1】架橋可能な含フッ素エラストマー(A)と、該含フッ素エラストマーとの相溶性に優れた共架橋剤(B)と、重合開始剤(C)とを含有し、粒状充填剤を含有していないことを特徴とする含フッ素エラストマー組成物。
・・・
【請求項9】請求項1〜8の何れかに記載の含フッ素エラストマー組成物を架橋してなる含フッ素エラストマー架橋体。」
(8b)「【0040】・・・
<含フッ素エラストマー組成物の調製と架橋>本発明に係る含フッ素エラストマー組成物を調製するには、含フッ素エラストマー(A)と、共架橋剤(B)(例:多官能反応性モノマー)と、重合開始剤(C)と、必要により用いられる液状フッ素ゴム等の加工助剤(D)とを任意の順序で配合して混合・混練すればよい。混練の際には、ロールミル、バンバリーミキサー、インターミックス、加圧型ニーダーなどの密閉型混練機、各種押出し機等を用いることができる。
【0041】上記のようにして得られた含フッ素エラストマー組成物から、架橋された所望形状の成形体を得るには、例えば、該含フッ素エラストマー組成物を所望形状に成形した後、通常10〜250℃で1分〜100時間、好ましくは100〜200℃の温度で1分〜30分加熱すればよい。
【0042】また、異なった温度で多段階に加硫してもよく、例えば、140〜200℃の温度で1〜30分間1次加硫した後、150〜230℃の範囲の1次加硫温度より高温で2〜8時間2次加硫してもよい。
【0043】このような加熱成形中には、重合開始剤(C)例えば、ラジカル重合開始剤の分解によりラジカルが発生し、そのラジカルの作用で多官能反応性モノマーと架橋可能な含フッ素エラストマー分子(フッ素ゴム分子)鎖間で反応が生じ、多官能性モノマーの一部はグラフト重合し、一部は含フッ素エラストマー分子鎖間に架橋を形成して耐熱性向上に寄与するのであろうと考えられる。そして、得られた架橋体は透明性に優れるが、この透明性は、上記加熱成形温度での多官能性モノマーに代表される共架橋剤(B)と該含フッ素エラストマー(A)との相溶性が良好なことに起因しているものと考えられる。」
(8c)「【0059】
【実施例1〜4、比較例1〜7】表1に示す配合処方に従い、含フッ素エラストマー組成物(ゴム組成物)を調製した後、架橋体を作製した。
【0060】含フッ素エラストマー組成物の調製方法は、以下の通り。すなわち、含フッ素エラストマーを8インチロールミルを用いて、25〜50℃の温度で4分間素練を行い、次いで1〜2時間をかけて表1の成分を加えて混練りした。ロール回転数は前・後のロールがそれぞれ20/16rpmであった。
【0061】次いで、該含フッ素エラストマー組成物を1次加硫170℃×10分、2次加硫200℃×4時間の条件で加硫して含フッ素エラストマー架橋体(加硫物)を得た。
【0062】この架橋体を用いて各種物性を評価した。結果を表1に示す。なお、比較例で用いたエラストマーは以下の通り。
・・・
【0073】
【表1】

【0074】(注1)各成分単位の配合量は重量部表示
(注2)(A)主鎖及び側鎖末端にキュアサイト部位があるもの
(注3)(B)主鎖末端のみキュアサイト部位があるもの
(注4)2次加硫200℃×4h実施
表1から明らかなように、実施例1〜4は、圧縮永久歪性に優れており、かつ含有金属成分量、耐プラズマ試験におけるパーティクルの有無、放出ガス量の少なさのすべての項目で優れている。」
9 甲9には次の記載がある。
(9a)「【請求項1】
(A)アルケニル基を有するフルオロポリエーテル化合物であって、アルケニル基の濃度が3×10−5〜5×10−3mol/gであり、フッ素の含有率が40重量%以上であるフルオロポリエーテル化合物
(B)下記平均組成式(1)
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜3のアルキル基、Rfは炭素数3〜16の部分的にフッ素置換されたアルキル基又は部分的にフッ素置換されかつエーテル結合を含む1価の飽和基、nは平均値として1.5〜6.0を示す。)
で表される有機ケイ素化合物
(C)ヒドロシリル化反応触媒
(B),(C)成分は(A)成分を硬化させる有効量を含有してなることを特徴とする硬化性フルオロポリエーテル組成物。
【請求項2】
請求項1記載の硬化性フルオロポリエーテル組成物の硬化物を含むことを特徴とするゴム製品。」
(9b)「【0020】
(A)成分のフルオロポリエーテル化合物の代表例としては、下記一般式(4)
【化6】

[式中、Xは独立に−CH2−、−CH2O−又は−Y−NR1−CO−(但し、Yは−CH2−又は下記構造式(Z)
【化7】

(o,m又はp位)
であり、R1は水素原子、メチル基、フェニル基又はアリル基、X’は、−CH2−、−OCH2−又は、−CO−NR2−Y’−(Y’は−CH2又は下記構造式(Z’)
【化8】

(o,m又はp位)
で表される基であり、R2は水素原子、メチル基、フェニル基又はアリル基である。pは独立に0又は1、Lは2〜6の整数、m及びnはそれぞれ0〜200、好ましくは5〜100の整数である。]
で表される分子量400〜100,000、好ましくは1,000〜50,000のフルオロポリエーテル化合物が挙げられる。」
(9c)「【0037】
本発明の組成物は常温で放置するか、加熱することにより容易に硬化させることができるが、通常、室温(例えば10〜30℃)〜180℃、5分間〜24時間の範囲で硬化させるのが好ましい。」
10 甲10には次の記載がある。
(10a)「[0040] (有機ケイ素化合物)
本発明における有機ケイ素化合物は、ペルフルオロポリエーテル鎖および2個以上の重合性不飽和結合を有する有機ケイ素化合物である。
有機ケイ素化合物としては、入手しやすく、かつ架橋ゴム物品としたときの硬度に優れる点から、2価のペルフルオロポリエーテル鎖の両末端に連結基を介してビニルシリル基(CH2=CHSi)を有する化合物が好ましく、化合物(7)が特に好ましい。
[0041][化2]

[0042] ただし、R1は、1価の炭化水素基であり、R2は、水素原子または1価の炭化水素基であり、Rf7は、2価のペルフルオロポリエーテル鎖である。
R1としては、アルキル基またはアリール基が好ましく、アルキル基がより好ましい。R1の炭素数は、1〜10が好ましく、1〜8がより好ましい。
R2としては、水素原子、アルキル基またはアリール基が好ましく、水素原子またはアルキル基がより好ましい。R2の炭素数は1〜10が好ましく、1〜8がより好ましい。
[0043] Rf7としては、たとえば、下記の基が挙げられる。
−(CF(CF3)OCF2)n1(CF2OCF(CF3))m1−、
−CF2CF2OCF2(CF2)2CF2OCF2CF2−、
−CF2CF2OCF2CF(CF3)OCF2(CF2)2CF2OCF(CF3)CF2OCF2CF2−、
−CF2(OCF2CF2)n2(OCF2)m2OCF2−、
−CF(CF3)(OCF(CF3)CF2)n3(OCF2)m3OCF(CF3)−、
−CF2CF2(OCF2CF2CF2)n4OCF2CF2−
ただし、n1+m1は、2〜200の整数であり、n2は、5〜50の整数であり、m2は、1〜10の整数であり、n3は、5〜50の整数であり、m3は、1〜10の整数であり、n4は、5〜100の整数である。
・・・
[0046] 有機ケイ素化合物は、特許第3239717号公報に記載の方法によって製造できる。
市販品としては、SIFEL(信越化学工業社商品名)2610、3590N、3790N、3405A/B、3505A/B、3705A/B、2618、2614、2617、2661、2662等が挙げられる。」
11 甲11には次の記載がある。
(11a)「【請求項1】 反応可能基を少なくとも1個有し、主鎖がパーフルオロポリエーテル構造のパーフルオロポリエーテルポリマーと、これを架橋する架橋剤と、平均粒径が0.001〜10μmであるシリカ充填材とを含む硬化性組成物の硬化物からなることを特徴とする航空機用ゴム部品。
【請求項2】 硬化性組成物が、
(A)一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有し、かつ主鎖中にパーフルオロポリエーテル構造を有する直鎖状フルオロポリエーテル化合物
(B)一分子中にケイ素原子に結合した水素原子(Si−H基)を少なくとも2個有する有機ケイ素化合物
(C)ヒドロシリル化反応触媒
(D)シリカ充填材
を含有する硬化性フルオロポリエーテルゴム組成物である請求項1記載の航空機用ゴム部品。
【請求項3】 前記主鎖のパーフルオロポリエーテル構造が−CdF2dO−(式中、各単位のdは独立に1〜6の整数である)の繰り返し単位を含むものである請求項1又は2記載の航空機用ゴム部品。・・・」
(11b)「【0075】[実施例1]パーフルオロポリエーテル構造を有する液状フッ素ゴムSIFEL3701(信越化学製)のA剤62g及びB剤60gを混合し、減圧脱泡した。脱泡した材料を170×130×2mmの型枠に注入し、50トンプレス成形機を用い、150℃、80kgf/cm2、10分間の条件で圧縮成形し、170×130×2mmのシート状テストピースを成形した。このテストピースを200℃/4時間ポストキュアーし、試験用サンプルを作製した。
【0076】[実施例2]パーフルオロポリエーテル構造を有する液状フッ素ゴムSIFEL4750(信越化学製)を用い、実施例1と同様な操作で試験用テストピースを作製した。
【0077】[実施例3]パーフルオロポリエーテル構造を有する液状フッ素ゴムSIFEL4755(信越化学製)を用い、実施例1と同様な操作で試験用テストピースを作製した。なお、上記実施例の液状フッ素ゴムSIFEL3701,4750,4755はいずれも(A)〜(D)成分を含むものである。」
12 甲12には次の記載がある。
(12a)「


(12b)「



第5 当審の判断
1 記載要件についての判断
(1)サポート要件
前記第3、2(1)における申立人の主張は、課題を解決できない恐れがあるということを主張するにとどまり、本件発明1〜8の範囲内に現実に課題を解決できない部分があることを具体的に主張・立証するものではない。そうすると、当審が、本件発明1〜8の範囲内に課題が解決できない部分があると認定することはできないから、申立人の主張は理由がない。
(2)明確性要件
ア 前記第3、2(2)アの主張について
本件発明1の「未架橋ゴム組成物を用いて製造」「前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋するとともに、前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断された後の炭素に前記水素サイト保護剤が結合したゴム組成物」という記載において、「架橋する」や「水素サイト保護剤が結合」は、経時的要素を含んでいる。しかしながら、本願発明1は架橋や結合の後の構造を特定しており、シール材の最終的な化学構造に反映されるものであるから、いわゆる「PBP」クレームとして不明確なものいうことはできない。
イ 前記第3、2(2)イの主張について
特許請求の範囲の記載が明確か否かという要件と、実際に反応が起こっているかということとは、本来関係がないし、反応が起こっていない態様は本件発明に該当しないことも明らかであるから、申立人の主張は理由がない。仮に関係があったとしても、第2、2(4)に摘記した本件特許明細書の段落【0032】〜【0043】に記載された実施例1及び比較例1の引張特性から、本件発明1に係るゴム組成物が熱架橋剤により架橋されていることは理解できる。また、実施例1と比較例1と引張特性の対比から実施例1においては、アルケニル基を2個もつ水素サイト保護剤により水素サイトの保護がされ、かつ、前記第2、2(2)に摘記した本件明細書の段落【0018】に記載された「架橋助剤」としても機能していることが読み取れる。したがって、現実に反応が起きていることを理解できる。
ウ 前記第3、2(3)の主張について
「水素含有フッ素ゴム」は、前記第2、2(1)に摘記した本件特許明細書の段落【0011】に「「水素含有フッ素ゴム」とは、高分子の主鎖に水素が結合した炭素が含まれたフッ素ゴムである。」と定義されている。ここでいう水素は、水素原子であることは技術常識である。したがって、申立人の主張は理由がない。
エ 前記第3、2(4)の主張について
「アルケニル基を有するパーフルオロ骨格の化合物」とは、前記第4、9(9b)に摘記した甲9の段落【0020】に記載されたような化合物であることは、当業者であれば理解できる。申立人の主張は理由がない。
オ 前記第3、2(5)の主張について
前記第2、2(2)に摘記した本件特許明細書の段落【0014】において、「水素サイト保護剤は、放射線が照射されたときに水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する化合物である。」と定義されており、不明確とはいえない。申立人の主張は理由がない。
2 甲1を主引用例とした本件発明8の進歩性についての判断
事案に鑑み本件発明8から検討する。
(1)甲1製法発明の認定
前記第4、1(1m)に摘記した甲1段落[0062]に記載の実施例1及び段落[0060]の固着試験の記載から、次の発明(以下「甲1製法発明」という。)が認定できる。
「架橋性フッ素ゴムとして「ダイエルG912」{パーオキサイド加硫可能な3元系含フッ素共重合体=ビニリデンフルオライド(CF2=CH2)/ヘキサフルオロプロピレン(CF3-CF=CF2)/テトラフルオロエチレン(CF2=CF2)、フッ素含量71質量%、ムニー粘度ML1+10(100℃)76、ダイキン工業(株)製。}に、
2価パーフロロポリエーテル構造または2価パーフロロアルキレン構造を有し、末端あるいは側鎖にヒドロシリル基と付加反応可能なアルケニル基を2個以上有する反応性フッ素系化合物(b)、及び、分子中に2個以上のヒドロシリル基を有しアルケニル基と付加反応可能な反応性有機珪素化合物(c)、及び、(b)と(c)との付加反応用の白金族化合物触媒を含み、
(b)と(c)との反応によりゲル化可能な成分である「SIFEL8070A/B」{信越化学工業(株)製}および、
架橋剤{「パーヘキサ25B」、日本油脂社製、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン}、並びに共架橋剤{「TAIC」、日本化成社製、トリアリルイソシアヌレート}を添加(配合)し、
オープンロールを用いて60℃の温度で1.0時間混練し、ゴムコンパウンドを得、
このゴムコンパウンドを金型に充填し、圧力50kgf/cm2をかけて、165℃の温度で15分間加熱し、架橋成形(一次加硫成形)を行い、
次いで、上記金型から一次加硫された成形体を取り出し、真空オーブン(真空度:30Pa)での減圧下に、200℃で12時間加熱(二次加硫)したゴムを
金型により成形するO−リングの製造方法。」
(2)本件発明8との対比
ア 甲1製法発明の「架橋性フッ素ゴムとして「ダイエルG912」{パーオキサイド加硫可能な3元系含フッ素共重合体=ビニリデンフルオライド(CF2=CH2)/ヘキサフルオロプロピレン(CF3-CF=CF2)/テトラフルオロエチレン(CF2=CF2)、フッ素含量71質量%、ムニー粘度ML1+10(100℃)76、ダイキン工業(株)製。}」は、ビニリデンフルオライドを含むことにより、水素原子を含むから、本件発明8の「水素含有フッ素ゴム」に相当する。
イ 甲1製法発明の「架橋剤{「パーヘキサ25B」、日本油脂社製、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン}」及び「共架橋剤{「TAIC」、日本化成社製、トリアリルイソシアヌレート}」は、本件発明8における「熱架橋剤」及び「架橋助剤」に相当する。
ウ 甲1製法発明の「このゴムコンパウンドを金型に充填し、圧力50kgf/cm2をかけて、165℃の温度で15分間加熱し、架橋成形(一次加硫成形)を行い、次いで、上記金型から一次加硫された成形体を取り出し、真空オーブン(真空度:30Pa)での減圧下に、200℃で12時間加熱(二次加硫)する」工程は、本件発明8の「未架橋ゴム組成物を、所定の温度に加熱して前記水素含有フッ素ゴムを前記熱架橋剤により架橋させ」る工程に相当する。
エ 甲1製法発明の「O−リング」は、本件発明8の「シール材」に相当する。
(3)一致点・相違点
本件発明8と甲1製法発明を対比すると、次の一致点・相違点がある。
ア 両者は次の点で一致する。
「水素含有フッ素ゴムと、所定の温度に加熱されたときに前記水素含有フッ素ゴムを架橋させる熱架橋剤と、前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋するときに、前記水素含有フッ素ゴムの分子間に介在するように前記水素含有フッ素ゴムと結合する架橋助剤と含有し、所定の温度に加熱して前記水素含有フッ素ゴムを前記熱架橋剤により架橋させるシール材の製造方法」である点。
イ 相違点8−1
本件発明8においては、水素含有フッ素ゴムを前記熱架橋剤により架橋させた後、「放射線を照射」するのに対し、甲1製法発明においては、放射線を照射しない点。
ウ 相違点8−2
本件発明8においては、「放射線が照射されたときに前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する」「分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を有するパーフルオロ骨格の化合物を含む水素サイト保護剤」を含有し、「放射線を照射して前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合を切断して生じる炭素のラジカルに前記水素サイト保護剤を結合させる」のに対して、甲1製法発明においてはそのような特定がない点。
なお、甲1製法発明における「2価パーフロロポリエーテル構造または2価パーフロロアルキレン構造を有し、末端あるいは側鎖にヒドロシリル基と付加反応可能なアルケニル基を2個以上有する反応性フッ素系化合物(b)」は、本件発明8における「分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を有するパーフルオロ骨格の化合物」であるが、甲1製法発明における「(b)と(c)との反応によりゲル化」させるための成分であり、また、甲1製法発明において放射線を照射しないことから、水素サイトを保護する必要はないから、水素サイト保護剤には相当しない。
エ 相違点8−3
本件発明8においては、「前記架橋助剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が2.0以上3.0以下である」のに対して、甲1製法発明においては、「共架橋剤」の含有量の「架橋剤」の含有量に対する比が、甲1の段落[0069][表1]の記載から、1:4である点。
(4)相違点についての判断
ア 相違点8−1及び8−2について
(ア)相違点8−1について、前記第4、2(2e)に摘記した甲2の段落【0074】などには、放射線照射により、フッ素ゴムを強化する技術が記載されているが、水素サイト保護剤については記載も示唆もないから、前記(3)ウの相違点8−2を満たすものとすることは容易想到とはいえない。
(イ)相違点8−1について、前記第4、3(3c)に摘記した甲3の段落【0039】には、熱架橋後に電子線を照射することが記載されており、この照射により架橋が起こることが記載されているものの、水素サイト保護剤については記載も示唆もされていないから、前記(3)ウの相違点8−2を満たすものとすることは容易想到とはいえない。
イ 判断
そうすると相違点8−3について検討するまでもなく、本件発明8は、甲1製法発明及び甲2、甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到しうるものではない。
3 甲1を主引用例とした本件発明1〜7の新規性進歩性についての判断
(1)甲1物発明の認定
前記第4、1(1m)に摘記した甲1段落[0062]に記載の実施例1及び段落[0060]の固着試験の記載から、次の発明(以下「甲1物発明」という。)が認定できる。
「架橋性フッ素ゴムとして「ダイエルG912」{パーオキサイド加硫可能な3元系含フッ素共重合体=ビニリデンフルオライド(CF2=CH2)/ヘキサフルオロプロピレン(CF3-CF=CF2)/テトラフルオロエチレン(CF2=CF2)、フッ素含量71質量%、ムニー粘度ML1+10(100℃)76、ダイキン工業(株)製。}に、
2価パーフロロポリエーテル構造または2価パーフロロアルキレン構造を有し、末端あるいは側鎖にヒドロシリル基と付加反応可能なアルケニル基を2個以上有する反応性フッ素系化合物(b)、及び、分子中に2個以上のヒドロシリル基を有しアルケニル基と付加反応可能な反応性有機珪素化合物(c)、及び、(b)と(c)との付加反応用の白金族化合物触媒を含み、
(b)と(c)との反応によりゲル化可能な成分である「SIFEL8070A/B」{信越化学工業(株)製}および、
架橋剤{「パーヘキサ25B」、日本油脂社製、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン}、並びに共架橋剤{「TAIC」、日本化成社製、トリアリルイソシアヌレート}を添加(配合)し、
オープンロールを用いて60℃の温度で1.0時間混練し、ゴムコンパウンドを得、
このゴムコンパウンドを金型に充填し、圧力50kgf/cm2をかけて、165℃の温度で15分間加熱し、架橋成形(一次加硫成形)を行い、
次いで、上記金型から一次加硫された成形体を取り出し、真空オーブン(真空度:30Pa)での減圧下に、200℃で12時間加熱(二次加硫)したゴムを
金型により成形されたO−リング。」
(2)本件発明1との対比
ア 甲1物発明の「架橋性フッ素ゴムとして「ダイエルG912」{パーオキサイド加硫可能な3元系含フッ素共重合体=ビニリデンフルオライド(CF2=CH2)/ヘキサフルオロプロピレン(CF3-CF=CF2)/テトラフルオロエチレン(CF2=CF2)、フッ素含量71質量%、ムニー粘度ML1+10(100℃)76、ダイキン工業(株)製。}」は、ビニリデンフルオライドを含むことにより、水素原子を含むから、本件発明1の「水素含有フッ素ゴム」に相当する。
イ 甲1物発明の「架橋剤{「パーヘキサ25B」、日本油脂社製、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン}」及び「共架橋剤{「TAIC」、日本化成社製、トリアリルイソシアヌレート}」は、本件発明1における「熱架橋剤」及び「架橋助剤」に相当する。
ウ 甲1物発明の「このゴムコンパウンドを金型に充填し、圧力50kgf/cm2をかけて、165℃の温度で15分間加熱し、架橋成形(一次加硫成形)を行い、次いで、上記金型から一次加硫された成形体を取り出し、真空オーブン(真空度:30Pa)での減圧下に、200℃で12時間加熱(二次加硫)する」工程は、本件発明8の「未架橋ゴム組成物を、所定の温度に加熱して前記水素含有フッ素ゴムを前記熱架橋剤により架橋させ」る工程に相当する。
エ 甲1物発明の「2価パーフロロポリエーテル構造または2価パーフロロアルキレン構造を有し、末端あるいは側鎖にヒドロシリル基と付加反応可能なアルケニル基を2個以上有する反応性フッ素系化合物」は、本件発明1の「アルケニル基を有するパーフルオロ骨格の化合物」に相当する。
オ 甲1物発明の「O−リング」は、本件発明8の「シール材」に相当する。
(3)一致点及び相違点
以上から、本件発明1と甲1物発明とを対比すると次の一致点及び相違点がある。
ア 一致点
「水素含有フッ素ゴムと、所定の温度に加熱されたときに前記水素含有フッ素ゴムを架橋させる熱架橋剤と、前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋するときに、前記水素含有フッ素ゴムの分子間に介在するように前記水素含有フッ素ゴムと結合する架橋助剤と含有し、未架橋ゴム組成物を用いて製造されるシール材であって、アルケニル基を有するパーフルオロ骨格の化合物を含み、
前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋するゴム組成物で形成されているシール材。」
イ 相違点1−1
アルケニル基を有するパーフルオロ骨格の化合物に関して、本件発明1においては、「放射線が照射されたときに前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する水素サイト保護剤」に含まれるものであり、かつ、ゴム組成物が「前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断された後の炭素に前記水素サイト保護剤が結合した」ものであるのに対し、甲1物発明においては、いずれも、そのような特定がない点。
ウ 相違点1−2
本件発明1においては、「前記架橋助剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が2.0以上3.0以下である」のに対して、甲1物発明においては、「共架橋剤」の含有量の「架橋剤」の含有量に対する比が、甲1の段落[0069][表1]の記載から、1:4である点。
(4)相違点についての判断
ア 相違点1−1について
甲1物発明において、「2価パーフロロポリエーテル構造または2価パーフロロアルキレン構造を有し、末端あるいは側鎖にヒドロシリル基と付加反応可能なアルケニル基を2個以上有する反応性フッ素系化合物(b)」は、「(b)と(c)との反応によりゲル化」させるための成分であり、また、甲1物発明においては、水素サイトを保護する必要性はないから、アルケニル基を有するパーフルオロ骨格の化合物を「放射線が照射されたときに前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する水素サイト保護剤」として用いることは当業者にとって容易ということはできない。
イ そうすると、相違点1−2について判断するまでもなく、本件発明1は、甲1物発明に基づいて当業者が容易に発明できたものということはできない。
(5)本件発明2〜7について
本件発明2〜7は、本件発明1を包含し、さらに特定事項を付加したものであるから、本件発明1と同様に甲1物発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。
4 甲7を主引用例とした本件発明8の進歩性についての判断
事案に鑑み本件発明8から検討する。
(1)甲7製法発明の認定
前記第4、7(7h)に摘記した甲7の[0101][表1]の実施例2の列及び[0076]の記載から、次の発明(以下「甲7製法発明」という。)が認定できる。
「FKMポリマー2:「ダイエルLT302」ダイキン工業社製、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル/ビニリデンフロライド共重合体、ムーニー粘度ML1+10、100℃):65、比重:1.79、フッ素含量:62wt%を100重量部、
ビスフェノールAF:2、2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン、東京化成社製を0.5重量部、
パーヘキサ25B:2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、日本油脂社製を1.5重量部、
TAIC:トリアリルイソシアヌレート、日本化成社製を4重量部、
からなる106重量部の試料を配合し、その配合物をオープンロールにて混練りして得たゴムコンパウンド(フッ素ゴム組成物)を金型にセットし、次いで、金属にセットしたゴムパウンドを、50t圧縮真空プレスを用いて50kgf/cm2の圧力にて160℃の温度で30分間加熱し成形を行い、次いで、真空電気炉(真空度14Pa)での減圧下にて180〜230℃の温度で16時間二次加硫を行うO−リングの製造方法」
(2)対比
ア 甲7製法発明における「FKMポリマー2:「ダイエルLT302」ダイキン工業社製、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル/ビニリデンフロライド共重合体」は、ビニリデンフロライドを含有するから、本件発明8の「水素含有フッ素ゴム」に相当する。
イ 甲7製法発明における「パーヘキサ25B:2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン」は、前記第4、7(7e)に摘記した甲7の[0040]の記載からみて、本件発明8における「所定の温度に加熱されたときに前記水素含有フッ素ゴムを架橋させる熱架橋剤」に相当する。
ウ 甲7製法発明における「TAIC:トリアリルイソシアヌレート」は、前記第4、7(7f)に摘記した甲7の[0046]の記載からみて、本件発明8における「前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋するときに、前記水素含有フッ素ゴムの分子間に介在するように前記水素含有フッ素ゴムと結合する架橋助剤」に相当する。
エ 甲7製法発明における「パーヘキサ25B:2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン」の含有量に対する「パーヘキサ25B:2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン」の含有量の比は、4:1.5=2.67であるから、本件発明8の「前記架橋助剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が2.0以上3.0以下」を充足する。
オ 甲7製法発明における「ゴムコンパウンド(フッ素ゴム組成物)を金型にセットし、次いで、金属にセットしたゴムパウンドを、50t圧縮真空プレスを用いて50kgf/cm2の圧力にて160℃の温度で30分間加熱し成形を行い、次いで、真空電気炉(真空度14Pa)での減圧下にて180〜230℃の温度で16時間二次加硫を行う」工程及び「O−リング」は、本件発明8の「未架橋ゴム組成物を、所定の温度に加熱して前記水素含有フッ素ゴムを前記熱架橋剤により架橋させ」る工程及び「シール材」にそれぞれ相当する。
(3)一致点・相違点
本件発明8と甲7製法発明を対比すると、次の一致点・相違点がある。
ア 一致点
「水素含有フッ素ゴムと、所定の温度に加熱されたときに前記水素含有フッ素ゴムを架橋させる熱架橋剤と、前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋するときに、前記水素含有フッ素ゴムの分子間に介在するように前記水素含有フッ素ゴムと結合する架橋助剤と含有し、前記架橋助剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が2.0以上3.0以下である未架橋ゴム組成物を、所定の温度に加熱して前記水素含有フッ素ゴムを前記熱架橋剤により架橋させるシール材の製造方法」
イ 相違点8−4
本件発明8においては、放射線を照射する工程を有するのに対して、甲7製法発明においては、放射線を照射する工程がない点。
ウ 相違点8−5
本件発明8においては、未硬化時の組成物に「放射線が照射されたときに前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する水素サイト保護剤」であって「前記水素サイト保護剤は、分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を有するパーフルオロ骨格の化合物を含む」水素サイト保護剤を含有し、熱架橋剤の架橋後に「放射線を照射して前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合を切断して生じる炭素のラジカルに前記水素サイト保護剤を結合させる」のに対して、甲7製法発明においてその特定がない点。
(4)相違点についての判断
ア 相違点8−4及び相違点8−5
前記第4、2に摘記した甲2及び前記第4、3に摘記した甲3には、相違点8−4すなわち放射線を照射して架橋することは記載されているものの、水素サイトの保護について記載も示唆もない。したがって、相違点8−5は当業者が容易に想到できるものといえない。
イ 本件発明8は、甲7製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと言うことはできない。
5 甲7を主引用例とした本件発明1〜7の新規性進歩性についての判断
(1)甲7物発明の認定
前記第4、7(7h)に摘記した甲7の[0101][表1]の実施例2の列及び[0076]の記載から、次の発明(以下「甲7物発明」という。)が認定できる。
「FKMポリマー2:「ダイエルLT302」ダイキン工業社製、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル/ビニリデンフロライド共重合体、ムーニー粘度ML1+10、100℃):65、比重:1.79、フッ素含量:62wt%を100重量部、
ビスフェノールAF:2、2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン、東京化成社製を0.5重量部、
パーヘキサ25B:2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、日本油脂社製を1.5重量部、
TAIC:トリアリルイソシアヌレート、日本化成社製を4重量部、
からなる106重量部の試料を配合し、その配合物をオープンロールにて混練りして得たゴムコンパウンド(フッ素ゴム組成物)を金型にセットし、次いで、金属にセットしたゴムパウンドを、50t圧縮真空プレスを用いて50kgf/cm2の圧力にて160℃の温度で30分間加熱し成形を行い、次いで、真空電気炉(真空度14Pa)での減圧下にて180〜230℃の温度で16時間二次加硫を行ったO−リング」
(2)本件発明1との対比
ア 甲7物発明における「FKMポリマー2:「ダイエルLT302」ダイキン工業社製、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル/ビニリデンフロライド共重合体」は、ビニリデンフロライドを含有するから、本件発明1の「水素含有フッ素ゴム」に相当する。
イ 甲7物発明における「パーヘキサ25B:2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン」は、前記第4、7(7e)に摘記した甲7の[0040]の記載からみて、本件発明8における「所定の温度に加熱されたときに前記水素含有フッ素ゴムを架橋させる熱架橋剤」に相当する。
ウ 甲7物発明における「TAIC:トリアリルイソシアヌレート」は、前記第4、7(7f)に摘記した甲7の[0046]の記載からみて、本件発明1における「前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋するときに、前記水素含有フッ素ゴムの分子間に介在するように前記水素含有フッ素ゴムと結合する架橋助剤」に相当する。
エ 甲7物発明における「パーヘキサ25B:2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン」の含有量に対する「パーヘキサ25B:2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン」の含有量の比は、4:1.5=2.67であるから、本件発明1の「前記架橋助剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が2.0以上3.0以下」を充足する。
オ 甲7物発明における「ゴムコンパウンド(フッ素ゴム組成物)を金型にセットし、次いで、金属にセットしたゴムパウンドを、50t圧縮真空プレスを用いて50kgf/cm2の圧力にて160℃の温度で30分間加熱し成形を行い、次いで、真空電気炉(真空度14Pa)での減圧下にて180〜230℃の温度で16時間二次加硫を行う」及び「O−リング」は、本件発明1の「前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋する」及び「シール材」に相当する。
(3)一致点及び相違点
本件発明1と甲7物発明を対比すると、次の一致点・相違点がある。
ア 一致点
「水素含有フッ素ゴムと、所定の温度に加熱されたときに前記水素含有フッ素ゴムを架橋させる熱架橋剤と、前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋するときに、前記水素含有フッ素ゴムの分子間に介在するように前記水素含有フッ素ゴムと結合する架橋助剤と含有し、前記架橋助剤の含有量の前記熱架橋剤の含有量に対する比が2.0以上3.0以下である未架橋ゴム組成物を用いて製造されるシール材であって、
前記水素含有フッ素ゴムが前記熱架橋剤により架橋するシール材」
イ 相違点1−3
本件発明1においては、「分子内に前記炭素のラジカルに結合するアルケニル基を有するパーフルオロ骨格の化合物を含」む「放射線が照射されたときに前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する水素サイト保護剤」を含み、「前記水素含有フッ素ゴムの炭素−水素間の結合が切断された後の炭素に前記水素サイト保護剤が結合し」ているのに対して、甲7物発明においてその特定がない点。
(4)相違点についての判断
前記第4、2に摘記した甲2及び前記第4、3に摘記した甲3には、放射線を照射して架橋することは記載されているものの、その際、炭素のラジカルが発生することは記載も示唆もされていない。すなわち、水素サイトの保護について記載も示唆もない。したがって、相違点1−3は、当業者が容易に想到しうるものといえないから、本件発明1が甲7物発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
(5)本件発明2〜7について
本件発明2〜7は、本件発明1を包含し、さらに特定事項を付加したものであるから、本件発明1と同様に甲1物発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

第6 むすび
以上のとおり、申立人の主張する理由によっては、本件発明1〜8に係る特許を取り消すべきものということはできない。また、他に本件発明1〜8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-07-06 
出願番号 P2019-009327
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C09K)
P 1 651・ 537- Y (C09K)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 門前 浩一
関根 裕
登録日 2021-08-03 
登録番号 6924215
権利者 三菱電線工業株式会社
発明の名称 シール材及びその製造方法  
代理人 特許業務法人前田特許事務所  

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