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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 G10K 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 G10K 審判 全部申し立て 2項進歩性 G10K |
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管理番号 | 1386183 |
総通号数 | 7 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-07-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2022-02-25 |
確定日 | 2022-06-13 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6925082号発明「自動車用吸音材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6925082号の請求項1〜6に係る特許を維持する。 |
理由 |
1 手続の経緯 特許第6925082号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜6に係る特許についての出願は、平成30年9月14日を国際出願日とする出願であって、令和3年8月5日にその特許権の設定登録(特許公報発行日 令和3年8月25日)がされた。 その後、令和4年2月25日に特許異議申立人鈴木久代により請求項1〜6に対して特許異議の申立てがされた。 2 本件発明 本件特許の請求項1〜6に係る発明(以下「本件発明1」〜「本件発明6」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 〔本件発明1〕【請求項1】 筒状のセルが複数の列をなして配置されているコア層と、前記コア層の一方の面に接着された第1の非通気性の樹脂フィルム層とを備える複層構造の自動車用吸音材であって、前記第1の非通気性の樹脂フィルム層のヤング率E1(MPa)と、前記コア層よりも前記第1の非通気性の樹脂フィルム層側の層構造の面密度M1(g/m2)との関係が、0.5<E1/M1<21である自動車用吸音材。 〔本件発明2〕【請求項2】 前記第1の非通気性の樹脂フィルム層が、複数の異なるヤング率を有する材料で積層された構造を有する請求項1に記載の自動車用吸音材。 〔本件発明3〕【請求項3】 前記コア層の前記第1の非通気性の樹脂フィルム層が接着された面とは反対側の面に接着された第2の非通気性の樹脂フィルム層を更に備える請求項1又は2に記載の自動車用吸音材。 〔本件発明4〕【請求項4】 前記第2の非通気性の樹脂フィルム層のヤング率E2(MPa)と、前記コア層よりも前記第2の非通気性の樹脂フィルム層側の層構造の面密度M2(g/m2)との関係が、0.5<E2/M2<21であり、且つ、E1/M1とE2/M2との差の絶対値が0.8以上である請求項3に記載の自動車用吸音材。 〔本件発明5〕【請求項5】 前記コア層の前記第1の非通気性の樹脂フィルム層が接着された面とは反対側の面に接着された複数の開孔を有する樹脂フィルム層を更に備える請求項1又は2に記載の自動車用吸音材。 〔本件発明6〕【請求項6】 前記コア層の前記セルの各々が、一方の端に閉鎖面、他方の端に開放端を有し、前記セルの前記開放端によって前記セルの内部空間が外部と連通しており、前記セルの前記開放端が、前記コア層の両面において、隣接したセルの列が一列おきに配置されている請求項1〜5のいずれか一項に記載の自動車用吸音材。 3 特許異議申立理由 特許異議申立理由の概要は、以下のとおりである。 (理由1:進歩性) 本件発明1〜本件発明6は、甲第1号証〜甲第6号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。 よって、本件発明1〜本件発明6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 甲第1号証:特開平4−303637号公報 甲第2号証:特開昭62−225641号公報 甲第3号証:特開2014−80359号公報 甲第4号証:特開平10−156985号公報 甲第5号証:特開2000−136581号公報 甲第6号証:特許第4368399号公報 (理由2:実施可能要件) 本件明細書の発明の詳細な説明の記載には不備があるから、請求項1に係る特許は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消すべきものである。 (理由3:サポート要件) 本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものではないから、請求項1に係る特許は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消すべきものである。 (理由4:明確性) 本件発明1は明確ではないから、請求項1に係る特許は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消すべきものである。 4 甲号証について (1)甲第1号証について ア 甲第1号証の記載事項 甲第1号証には、次の記載がある。なお、以降の下線は当審が関連箇所に付したものである。 「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、成形天井材に関し、詳細には車室内外からの騒音に対する低周波数領域での吸音性に優れ、且つ成形天井材の表面表皮材が埃等により汚れるのを防止し得た成形天井材に関する。 【0002】 【従来の技術】従来より、例えば、自動車用の天井材としては、フェルトを単独でもしくは不織布表皮材と一体化して加圧成形した成形天井材が使用されている。また近時、ハニカム板をフェルトによって挾置し、不織布表皮材と一体化して加熱加圧成形してなる成形天井材が製造されている。 【0003】しかしながら、これら成形天井材では、騒音に対する低周波数領域での吸音性の一層の向上が望まれ、且つ成形天井材の表面表皮材が車室内の埃によって汚れることが問題となっていた。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、低周波数領域での吸音性に優れ、且つ成形天井材の表面表皮材の主として埃に起因する汚れをも防止した成形天井材を実現する点にある。 【0005】 【課題を解決するための手段】かかる課題を解決せんとして、本発明者らは鋭意研究の結果、2枚のハニカム板で通気性のない層を挾置したものであり、しかして本発明の要旨は、以下の諸項目に存する。」 「【0009】本発明の必須構成成分である2枚のハニカム板2により挾置される通気性のない層1とは、通気性のないフィルム1’単独の単層のものや、不織布1”を2枚のフィルム1’で挾置した複層のものが使用できる。この場合、ハニカム板2との接着性を向上させるために、ハニカム板と接する面を接着性を有する層とすることが好ましい。」 イ 甲1発明 上記アから、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。 〔甲1発明〕 車室内外からの騒音に対する低周波数領域での吸音性に優れ、且つ成形天井材の表面表皮材が埃等により汚れるのを防止し得た自動車用の成形天井材であって、 2枚のハニカム板で通気性のない層を挾置したものであり、 2枚のハニカム板2により挾置される通気性のない層1とは、通気性のないフィルム1’単独の単層のものや、不織布1”を2枚のフィルム1’で挾置した複層のものが使用できる 自動車用の成形天井材。 (2)甲第2号証について ア 甲第2号証の記載事項 甲第2号証には、次の記載がある。 「〔技術分野〕 この発明は、リスニングルームや楽器練習室などの残響制御を必要とする部屋の表面材(壁、床、窓、天井、家具など)に取付けて、その表面を吸音面にするための吸音装置に関するものである。」(1頁左欄14〜18行) 「〔発明の目的〕 この発明の目的は、部屋の各部材(壁、床、窓、天井、家具等)の表面に取付けることによって、反射面を吸音面にし、好みの残響特性を得ることができる吸音装置を提供することである。」(2頁右上欄13〜17行) 「実施例 この発明の一実施例を第1図ないし第4図に基づいて説明する。すなわち、この吸音装置は、取付面5に対して対向並設した振動板1と、この振動板1の外周に取付けたエッジ2と、このエッジ2を介して前記振動板1に取付けられかつ背面を前記取付面5に取付けて取付面5と振動板1との間に密閉した空気層6を形成したフレーム3とを備えたものである。 前記振動板1としては、アルミニウム、紙等のハニカムや金属、高分子材料などのうちで、E/ρ(E:ヤング率、ρ:密度)が大きい厚さ数mm程度のものを用いている。また、エッジ2はヤング率の小さい発泡ポリウレタン等の低発泡材や高分子材料で厚さ数mm程度のものを用いている。このエッジ2は振動板1の周囲に密接して取付けられる。 前記フレーム3はヤング率の大きな金属、高分子材料等からなり、エッジ2の外周端面に密接して取付けられる。また、フレーム3の背面にはスポンジ等からなる密接部4を配置してフレーム2を取付面5に密接して取付け可能にする。 第3図はこの実施例の吸音装置を取付面5に密接して取付けた状態を示している。この状態では、振動板1,エッジ2,フレーム3,密接部4および取付面5によって囲設された空気層6が形成される。 このように構成したため、振動板1の質量と空気層6のばね効果によって共振系が形成され、到来した音波に対して、振動板1は特定の周波数で共振状態となり、その振動エネルギが熱エネルギに変換され、吸音する。その振動数を共振周波数(fr)といい、振動板1の面積S,空気層6の容積V,エッジ2のスティフネスρ0,さらに振動板1と空気の実効質量mによって、次式で表される。 ρ: 空気密度 C: 音速 このパラメータにより、吸音力や吸音周波数帯域幅を変えることができる。」(2頁左下欄12行〜3頁左上欄12行) 「 」 「 」 「 」 イ 甲2技術 上記アから、甲第2号証には、次の技術(以下、「甲2技術」という。)が記載されている。 〔甲2技術〕 取付面5に対して対向並設した振動板1と、この振動板1の外周に取付けたエッジ2と、このエッジ2を介して前記振動板1に取付けられかつ背面を前記取付面5に取付けて取付面5と振動板1との間に密閉した空気層6を形成したフレーム3とを備えた吸音装置であって、 前記振動板1としては、アルミニウム、紙等のハニカムや金属、高分子材料などのうちで、E/ρ(E:ヤング率、ρ:密度)が大きい厚さ数mm程度のものを用いており、 振動板1の質量と振動板1,エッジ2,フレーム3,密接部4および取付面5によって囲設された空気層6のばね効果によって共振系が形成され、到来した音波に対して、振動板1は特定の周波数で共振状態となり、その振動エネルギが熱エネルギに変換され、吸音するものであり、 その振動数を共振周波数(fr)といい、振動板1の面積S,空気層6の容積V,エッジ2のスティフネスρ0,さらに振動板1と空気の実効質量mによって、次式で表され、 ρ: 空気密度 C: 音速 このパラメータにより、吸音力や吸音周波数帯域幅を変えることができる 吸音装置。 (3)甲第3号証について ア 甲第3号証の記載事項 甲第3号証には、次の記載がある。 「【背景技術】 【0002】 従来、熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂膜が、様々な用途で用いられている。 【0003】 また、上記熱可塑性樹脂膜の一例として、合わせガラスに用いられる中間膜がある。上記合わせガラスは、一対のガラス板の間に上記中間膜を挟み込むことにより、製造されている。上記合わせガラスは、外部衝撃を受けて破損してもガラスの破片の飛散量が少なく、安全性に優れている。このため、上記合わせガラスは、自動車、鉄道車両、航空機、船舶及び建築物等に広く使用されている。 【0004】 上記中間膜の一例として、下記の特許文献1には、アセタール化度が60〜85モル%のポリビニルアセタール100重量部と、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩の内の少なくとも一種の金属塩0.001〜1.0重量部と、30重量部を超える可塑剤とを含む遮音層が開示されている。さらに、下記の特許文献1には、上記遮音層が他の層に積層されており、他の層/遮音層/他の層の積層構造を有する多層中間膜も記載されている。 【0005】 下記の特許文献2には、音響透過損失(TL値)が異なる2種以上の層が交互に4層以上積層されている中間膜が開示されている。特許文献2の実施例2では、2つの層A,BがA/B/A/B/A/Bの積層構造で積層された多層中間膜が記載されている。 【0006】 下記の特許文献3では、ヤング率が異なる2種類以上の層を積層した中間膜が開示されている。特許文献3の実施例1,2では、2つの層A,BがA/B/Aの積層構造で積層された多層中間膜が記載されている。」 イ 甲3技術 上記アから、甲第3号証には、次の技術(以下、「甲3技術」という。)が記載されている 〔甲3技術〕 合わせガラスに用いられる中間膜として、ヤング率が異なる2種類以上の層を積層した中間膜が用いられる従来技術。 (4)甲第4号証について ア 甲第4号証の記載事項 甲第4号証には、次の記載がある。 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、複合プラスチック構造板に関し、更に詳しくはプラスチック構造板の片面あるいは両面に鋼板などの層を貼合した軽量性、耐水性、断熱性、耐薬品性、緩衝性、防音性等の特性を有する高強度、高剛性の複合プラスチック構造板および、これらの特性を有する上にさらに難燃性を付与した複合プラスチック構造板に関するものである。」 「【0017】図7(a)は、多数の凹凸(円柱状突起t)を有する熱可塑性樹脂シート1の両面に平坦な熱可塑性樹脂シート2、2を融着貼合する状態を示し、(b)は、独立空気室dを形成したプラスチック構造板3Cの斜視図である。このプラスチック構造板3Cは、多数の凹凸を有する熱可塑性樹脂シート1の両面に平坦シート2、2を貼合してなる独立空気室dを形成した3層構造からなる。」 「【図7】 」 イ 甲4技術 上記アから、甲第4号証には、次の技術(以下、「甲4技術」という。)が記載されている 〔甲4技術〕 プラスチック構造板の片面あるいは両面に鋼板などの層を貼合した軽量性、耐水性、断熱性、耐薬品性、緩衝性、防音性等の特性を有する高強度、高剛性の複合プラスチック構造板であって、 多数の凹凸(円柱状突起t)を有する熱可塑性樹脂シート1の両面に平坦な熱可塑性樹脂シート2、2を融着貼合する 複合プラスチック構造板。 (5)甲第5号証について ア 甲第5号証の記載事項 甲第5号証には、次の記載がある。 「【0015】この吸音パネルは、ペーパーハニカムコア10の表面及び裏面に酢酸ビニル系の接着剤40を塗布後、裏面ライナー紙20及び表面ライナー紙30を接着することにより構成される。この構造により、吸音パネルは、圧縮強度、曲げ強度といった機械的強度が高まり、建築の内装材として適するものになる。ペーパーハニカムコア10の高さは吸音率に影響を与える(詳細は後述)。 【0016】また、表面ライナー紙30には、通気性を確保するために、細孔が設けられている。この表面ライナー紙30に設けられる細孔の大きさや数は吸音率に影響を与える(詳細は後述)。また、この表面ライナー紙30の代わりに、通気性を有する他の部材、例えばガラス不織布を用いることができる。 【0017】裏面ライナー紙20は、例えば壁や天井といった下地材に取り付けられる部分となる。この裏面ライナー紙20には、上記表面ライナー紙30のような細孔を設けてなくてもよいし、表面ライナー紙30と同様の細孔を設けてもよい。」 イ 甲5技術 上記アから、甲第5号証には、次の技術(以下、「甲5技術」という。)が記載されている。 〔甲5技術〕 ペーパーハニカムコア10の表面及び裏面に裏面ライナー紙20及び表面ライナー紙30を接着することにより構成される吸音パネルであって、 表面ライナー紙30には、通気性を確保するために、細孔が設けられており、 裏面ライナー紙20には、上記表面ライナー紙30のような細孔を設けてない 吸音パネル。 (6)甲第6号証について ア 甲6技術 甲第6号証の特許請求の範囲の請求項1には、次の技術(以下、「甲6技術」という。)が記載されている。 〔甲6技術〕 列をなして配置される複数のセルから形成され、前記セルは、相互に接続されたセル壁を有し、折り畳まれたハニカム体が実質的に切られていない平面体から形成されており、折り畳まれたハニカム体が、塑性変形により形成される複数の三次元構造と、塑性変形により作成される接続領域とを有し、接続領域が、折り畳まれたハニカム体の前記セル壁を形成する、折り畳まれたハニカム体。 5 当審の判断 (1)理由1(進歩性)について ア 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明の「成形天井材」に含まれる「2枚のハニカム板2」及び「2枚のハニカム板2により挾置される通気性のない層1」は、本件発明1の「筒状のセルが複数の列をなして配置されているコア層」及び「前記コア層の一方の面に接着された第1の非通気性の樹脂フィルム層」にそれぞれ相当する。 甲1発明の「自動車用の成形天井材」は、「2枚のハニカム板で通気性のない層を挾置したもの」であり、「車室内外からの騒音に対する低周波数領域での吸音性に優れ」たものであるから、本件発明1の「複層構造の自動車用吸音材」に相当する。 以上から、本件発明1と甲1発明との間の一致点及び相違点は次のとおりである。 〔一致点〕 筒状のセルが複数の列をなして配置されているコア層と、前記コア層の一方の面に接着された第1の非通気性の樹脂フィルム層とを備える複層構造の自動車用吸音材。 〔相違点〕 自動車用吸音材が、本件発明1では「前記第1の非通気性の樹脂フィルム層のヤング率E1(MPa)と、前記コア層よりも前記第1の非通気性の樹脂フィルム層側の層構造の面密度M1(g/m2)との関係が、0.5<E1/M1<21である」との構成を備えるのに対し、甲1発明では当該構成を備えることが特定されていない点。 (イ)判断 上記相違点について検討する。 甲1発明の自動車用の成形天井材は、2枚のハニカム板で「通気性のないフィルム1’単独の単層のものや、不織布1”を2枚のフィルム1’で挾置した複層のもの」を挾置したものであるから、本件発明1の「前記コア層よりも前記第1の非通気性の樹脂フィルム層側の層構造」に相当するものは、2枚のハニカム板のうちの一方のハニカム板に対する、通気性のないフィルム1’及び他方のハニカム板からなる層構造や、不織布1”を2枚のフィルム1’で挾置した複層のもの及び他方のハニカム板からなる層構造である。 一方、甲2技術の「取付面5に対して対向並設した振動板1と、この振動板1の外周に取付けたエッジ2と、このエッジ2を介して前記振動板1に取付けられかつ背面を前記取付面5に取付けて取付面5と振動板1との間に密閉した空気層6を形成したフレーム3とを備えた吸音装置」は、甲1発明の上記層構造とは異なる構造を用いるものであって、甲1発明の上記層構造を備えるものではないから、甲1発明に甲2技術を適用する動機付けは存在しない。 また、甲2技術は、「振動板1」を「アルミニウム、紙等のハニカムや金属、高分子材料などのうちで、E/ρ(E:ヤング率、ρ:密度)が大きい厚さ数mm程度のもの」とするものであるが、甲1発明のような上記通気性のないフィルム1’及びハニカム板からなる層構造や、不織布1”を2枚のフィルム1’で挾置した複層のもの及びハニカム板からなる層構造の「面密度M1(g/m2)」と通気性のないフィルムの「ヤング率E1(MPa)」で構成される「E1/M1」を調整することは、甲第2号証に記載も示唆もされていない。 さらに、甲第3〜6号証にも当該調整について記載も示唆もされていない。 以上から、上記相違点に係る本件発明1の構成は、当業者であっても容易に想到しうるものとはいえない。 したがって、本件発明1は、当業者であっても甲1発明及び甲2技術〜甲6技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明2〜本件発明6について 本件発明2〜本件発明6も、上記相違点に係る構成と同等の構成を備えるものであるから、上記アと同じ理由により、当業者であっても甲1発明及び甲2技術〜甲6技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。 (2)記載不備について 特許異議申立人は、特許異議申立書(11〜12頁)において、記載不備の理由として 「 本件特許発明1は「前記第1の非通気性の樹脂フィルム層のヤング率E1(MPa)と、前記コア層よりも前記第1の非通気層の樹脂フィルム層側の層構造の面密度M1(g/m2)との関係が、0.5<E1/M1<21である自動車用吸音材。」と記載されている。 ここで、物の発明に係る請求項に「0.5<E1/M1<21」は、特許法第36条第4項第1号のは発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たさなく、特許法第36条第6項第1号の発明の詳細な説明では、具体的な数値については何ら記載も示唆もされていなく、特許法第36条第6項第2号不明確である。数値に対しての実験データもなく、「0.5」・「21」の根拠は見当たらない。 しかしながら、不可能・非実際的事情が存在することについて、本特許明細書に記載がなく、また、特許権者から主張・立証がされていないため、その存在を認める理由は見いだせない。」 と主張しているので、請求項1の「前記第1の非通気性の樹脂フィルム層のヤング率E1(MPa)と、前記コア層よりも前記第1の非通気性の樹脂フィルム層側の層構造の面密度M1(g/m2)との関係が、0.5<E1/M1<21である自動車用吸音材。」(以下、「記載A」という。)の実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)、サポート要件(特許法第36条第6項第1号)、明確性(特許法第36条第6項第2号)について、以下検討する。 ア 理由2(実施可能要件)について 本件特許の明細書の発明の詳細な説明における段落0056〜0059(表1)の実施例1〜6によれば、「前記第1の非通気性の樹脂フィルム層のヤング率E1(MPa)」及び「前記コア層よりも前記第1の非通気性の樹脂フィルム層側の層構造の面密度M1(g/m2)」は、様々な値をとりうるものであり、さらに、材料や寸法等を変更することで値を幅広く調整できることは技術常識であるから、当該E1及びM1を適宜調整することによって記載Aの発明の構成(「0.5<E1/M1<21」)を実施できることは、発明の詳細な説明から理解可能なものといえる。 よって、発明の詳細な説明は、記載Aの発明の構成について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものである。 イ 理由3(サポート要件)について 本件特許の明細書の発明の詳細な説明における段落0060には「図8に示すように、実施例1〜6の結果から、E/Mの値を0.5から21の範囲にすれば、自動車で耳障りな騒音となる周波数500Hzから8000Hzの帯域に吸音率のピークを有する望ましい吸音性能の自動車用吸音材を作成できることがわかる。」と記載されており、段落0056〜0059(表1)における実施例1〜6の結果をプロットして近似曲線を引いたものと認められる図8の記載によれば、自動車用吸音材の吸音率のピークの周波数の500〜8000Hz(自動車で耳障りな騒音となる周波数)の範囲がE/Mの値の0.5〜21の範囲に対応することが看取できる。 よって、E/Mの値を「0.5」や「21」とした実施例が存在しなくても、記載Aの発明の構成(「0.5<E1/M1<21」とすること)は、発明の詳細な説明に記載されているといえる。 ウ 理由4(明確性)について 記載Aは、コア層と第1の非通気性の樹脂フィルム層とを備える複層構造の自動車用吸音材において、「前記第1の非通気性の樹脂フィルム層」及び「前記コア層よりも前記第1の非通気性の樹脂フィルム層側の層構造」が、明確に特定可能なものであり、「前記第1の非通気性の樹脂フィルム層のヤング率E1(MPa)」及び「前記コア層よりも前記第1の非通気性の樹脂フィルム層側の層構造の面密度M1(g/m2)」も明確に特定可能な特性値であり、「0.5<E1/M1<21」という式も範囲を明確に特定可能なものであるから、記載Aは特許を受けようとする発明が明確なものである。 6 むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件発明1〜6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1〜6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2022-05-31 |
出願番号 | P2020-546649 |
審決分類 |
P
1
651・
536-
Y
(G10K)
P 1 651・ 121- Y (G10K) P 1 651・ 537- Y (G10K) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
五十嵐 努 |
特許庁審判官 |
樫本 剛 新井 寛 |
登録日 | 2021-08-05 |
登録番号 | 6925082 |
権利者 | MT−Tec合同会社 |
発明の名称 | 自動車用吸音材 |
代理人 | 奥山 尚一 |
代理人 | 森本 聡二 |
代理人 | 中村 綾子 |