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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C12G 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C12G 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C12G 審判 全部申し立て 2項進歩性 C12G |
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管理番号 | 1386186 |
総通号数 | 7 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-07-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2022-02-28 |
確定日 | 2022-07-12 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6931272号発明「蒸留酒類」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6931272号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6931272号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成28年7月7日を出願日とする特願2016−135293号に係るものであって、令和3年8月17日にその特許権の設定登録(請求項の数6)がされ、同年9月1日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和4年2月28日に特許異議申立人 日本酒造組合中央会(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし6)がされたものである。 第2 本件発明 本件特許の請求項1ないし6に係る発明(以下、順に「本件発明1」のようにいう。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 酢酸エチル濃度が8mg/L以上125mg/L以下であり、アセトアルデヒド濃度が0mg/L超12mg/L以下の濃度であり、かつ、バニリン濃度が0.5μg/L以上5μg/L以下である、蒸留酒類。 【請求項2】 原料の少なくとも一部に麦を用いたものである、請求項1に記載の蒸留酒類。 【請求項3】 焼酎である、請求項1又は2に記載の蒸留酒類。 【請求項4】 麦焼酎である、請求項3に記載の蒸留酒類。 【請求項5】 請求項3又は4に記載の蒸留酒類を含む、混和焼酎。 【請求項6】 甲乙混和焼酎である、請求項5に記載の混和焼酎。」 第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要 令和4年2月28日に申立人が提出した特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要及び証拠方法は次のとおりである。 1 申立理由1−1(甲第2号証に基づく新規性) 本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 2 申立理由1−2(甲第3号証に基づく新規性) 本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 3 申立理由2−1(甲第2号証に基づく進歩性) 本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、出願前に当業者が、下記の甲第2号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 4 申立理由2−2(甲第3号証に基づく進歩性) 本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、出願前に当業者が、下記の甲第3号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 5 申立理由3(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ・官能評価の評価基準や評価方法が瞬味であるから、当業者といえども課題が解決されているかどうか認識できない。 ・本件発明5及び6は、本件発明4の麦焼酎と他の焼酎をいかなる割合で混和するものも包含しているが、本件発明4の麦焼酎がわずかな場合には、本件発明の課題が解決できないことは明らかである。 6 申立理由2(実施可能要件) 本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ・各成分を混合したものは作れても、発酵させて得られるものを作るには当業者といえども過度の試行錯誤を要する。 7 証拠方法 甲第1号証:日本醸造協会誌,2016年12月,Vol.111, No.12,p.841-873 甲第2号証:酒類総合研究所報告,2013年,No.185, p.17-26 甲第3号証:日本醸造協会誌,2013年2月,Vol.108, No.2,p.113-121 甲第4号証:特開2015−139399号公報 甲第5号証:特開2012−249587号公報 甲第6号証:浜田知久馬著,新版 学会・論文発表のための統計学,2016年6月15日第1版第3刷発行,真興交易(株)医書出版部、表紙、58−61頁、奥付 なお、証拠の表記は、申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。 第4 当審の判断について 1 申立理由1−1及び2−1について (1)甲2に記載された事項及び甲2に記載された発明 ア 甲2に記載された事項 甲2には、「第35回本格焼酎鑑評会について」という表題で、以下の記載がある。(下線については当審において付与した。以下同じ。) ・「単式蒸留しょうちゅうの品質を全国的に調査研究することにより、製造技術と酒質の現状及び動向を把握するとともに製造業者の参考とするため、第35回本格焼酎鑑評会を日本酒造組合中央会と共催で開催した。出品資格として、単式蒸留しょうちゅう製造免許を有する製造者で、日本酒造組合中央会の組合員に限定した。官能審査は平成24年5月31日(木)及び6月1日(金)に行い、製造技術研究会は6月22日(金)に当所で開催し、出品関係者の参考に供した。 出品酒の官能審査と成分分析を行ったので、以下、その結果の概要について報告する。」(17頁左欄2〜13行) ・「1.出品酒 出品酒は市販酒を対象とし、また、官能審査に当たっては市販酒及び市販酒をアルコール分20%に調製(割水)したものをきき酒した。なお、製造技術研究会には市販酒を用いた。 出品酒は、使用原料等により、米、麦、甘藷、そば、酒粕、泡盛、及びその他の7区分に分類した。また、各原料区分毎に各々蒸留条件及び貯蔵条件などから、製造区分として減圧蒸留製品、常圧蒸留製品及び特殊製品(長期貯蔵、樽貯蔵、かめ貯蔵等)の3区分に分類した」(17頁左欄15〜25行) ・「 」 (25頁) イ 甲2に記載された発明 上記アの記載から、甲2には、第35回本格焼酎鑑評会に出品された市販酒であって、各原料区分毎に各々蒸留条件及び貯蔵条件から区分された麦区分の減圧蒸留である35点のまとまりのものとして、以下の発明が記載されていると認める。 <甲2発明> 「アセトアルデビドが平均値9.2mg/l(標準偏差10.2)、酢酸エチルの平均値91.2mg/l(標準偏差55.4)である、原料区分が麦である減圧蒸留で製造された35点の市販酒の群。」 (2)甲1に記載された事項 甲1には、「米焼酎・麦焼酎の揮発性成分組成と成分間の相関解析」として、以下の記載がある。 ・「本報告では米焼酎及び麦焼酎の84種類の揮発性成分を分析し、判別分析を検討するとともに成分間の相関性を調べ、今後の研究の基盤的情報に資することとした。 実験方法 1.試料 試料は、第35回本格焼酎鑑評会に出品された米焼酎24点、麦焼酎57点、甘藷焼酎58点、泡盛16点、酒粕焼酎11点、そば焼酎2点、その他を原料とする焼酎13点の計181点を用いた。」(841頁右欄5行〜842頁左欄3行) ・「 結果及び考察 1.米焼酎・麦焼酎及びそれらの焼酎以外の焼酎の成分比較 米焼酎(n=24)・麦焼酎(n=57)及びそれらの焼酎以外の焼酎(n=100)の低沸点香気成分及び中高沸点香気成分の平均値及び標準偏差をTable2に示す。」(843頁左欄4行〜10行) ・「 」(844頁〜845頁) 上記844頁〜845頁のTable2には、57点の麦焼酎(Barley shochu)が、14点の常圧蒸留製品(Atmospheric distillation)、35点の減圧蒸留製品(Vacuum distillation)、7点の樽貯蔵製品(Barrel storage)の3種に分類され、それぞれの分類毎に各香気成分の濃度の平均値及び標準偏差が記載されている。 35点の麦焼酎の減圧蒸留製品における香気成分のうち、酢酸エチル濃度は91.2±56.2mg/L、アセトアルデヒド濃度は9.2±10.4mg/L、バニリン濃度は10.2±10.3μg/Lであることが記載されている。(フルフラール濃度は、0.08±0.29mg/Lである。) (3)本件発明1について 本件発明1と甲2発明とを対比する。 甲2発明の「原料区分が麦である減圧蒸留で製造された35点の市販酒の群」は、本件発明1における「蒸留酒類」に相当する。 そうすると、両者は、 「蒸留酒類。」 である点で一致し、以下の点で一応相違する。 <相違点2−1> 「蒸留酒類」に関して、本件発明1は「酢酸エチル濃度が8mg/L以上125mg/L以下であり、アセトアルデヒド濃度が0mg/L超12mg/L以下の濃度であり、かつ、バニリン濃度が0.5μg/L以上5μg/L以下である」と特定するのに対し、甲2発明は、酢酸エチルの濃度が平均値91.2mg/L(標準偏差55.4)であり、アセトアルデビドの濃度が平均値9.2mg/l(標準偏差10.2)である点 相違点2−1について まず、新規性について検討する。 甲2発明のそれぞれの濃度は、統計的な数値であって、個別の麦焼酎の濃度を示すものではないから、対比を行うことができない。また、それぞれの平均値で仮に対比したとしても、甲2発明のバニリンの濃度は、甲1によると10.2μg/L(標準偏差10.3)であり、本件発明1と相違する。 さらに、甲2の35のデータが正規分布していると仮定し68%のデータが包含される値範囲(平均値±標準偏差)に全てのデータが存在するとしても、その算出される範囲は、酢酸エチルの濃度が35.8〜146.6mg/L、アセトアルデビドが−1.0〜19.4mg/Lで、バニリン濃度が0.1〜20.5μg/Lであり、この数値範囲は本件発明1の数値範囲より広く、相違点2−1は実質的な相違点となるから、本件発明1は、甲2発明であるとはいえない。 次に、進歩性について検討する。 蒸留酒類において、酢酸エチル、アセトアルデビド及びバニリンの濃度を相違点2−1に係る範囲としている証拠は申立人から提示されていないし、酢酸エチル、アセトアルデビド及びバニリンの濃度として当然満たすべき範囲であるとする技術常識もない。 そして、甲2発明において、それぞれの濃度を所定範囲に調整しようとする動機もないことから、相違点2−1に係る発明特定事項とすることは当業者においても想到容易とはいえない。 よって、本件発明1は、甲2発明、すなわち甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 なお、申立人は、甲2発明の35点の市販酒のデータが正規分布するとして、これを、本件発明1の範囲を斜線とし、甲2発明の平均値と標準偏差との関係を示すグラフで表示して同一である旨主張するが、あくまで統計的な推論にすぎず、かつ、自ずと本件発明1の特定事項を満たすものと結論付けられるものでもないから採用できない。 (4)本件発明2ないし6について 本件発明2ないし6は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明1と同様に、甲2発明、すなわち、甲2に記載された発明でないし、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (5)まとめ 以上のとおりであるから、申立理由1−1及び2−1には理由がない。 2 申立理由1−2及び2−2について (1)甲3に記載された事項及び甲3に記載された発明 ア 甲3に記載された事項 甲3には、「大麦焼酎に含まれる香気成分の官能特性とその分類について」との表題で、以下の記載がある。 ・「溶媒として適切な大麦焼酎を選抜するため、製造方法の異なる当社の25度大麦焼酎2点および市販の25度大麦焼酎5点の計7点を溶媒の候補として検討した。」(115頁右欄3〜5行) ・「 結果及び考察 1.溶媒の選抜 当社製造(試料A、B)および市販品(試料C〜G)の25度大麦焼酎7点における22成分の定量分析結果をTable3に示した。」(116頁右欄3〜7行) ・「 」(116頁) そして、116頁のTable3には、試料A〜Gの7点の大麦焼酎のそれぞれの香気成分の濃度(mg/L)が記載されており、そのうち試料AとGの酢酸エチル濃度は22.3と12.4、アセトアルデヒド濃度は3.8と2.2、バニリン濃度は、Aは0.01(mg/L)であり、Gは定量限界未満であることが記載されている。 イ 甲3に記載された発明 甲3に試料Gとして記載されている大麦焼酎として、以下の発明が記載されていると認める。 <甲3発明> 「酢酸エチル濃度は12.4mg/L、アセトアルデヒド濃度は2.2mg/L、バニリン濃度は定量限界未満である大麦焼酎。」 (2)本件発明1について 本件発明1と甲3発明とを対比する。 甲3発明の「大麦焼酎」は、本件発明1における「蒸留酒類」に相当する。 そうすると、両者は、 「酢酸エチル濃度が8mg/L以上125mg/L以下であり、アセトアルデヒド濃度が0mg/L超12mg/L以下の濃度である、蒸留酒類。」 である点で一致し、以下の点で一応相違する。 <相違点3−1> 蒸留酒類のバニリン濃度に関して、本件発明1は「0.5μg/L以上5μg/L以下である」と特定するのに対し、甲3発明は、定量限界未満である点 相違点3−1について まず、新規性について検討する。 甲3発明においてのバニリン濃度の定量限界未満には、実際にバニリンが全く含まれていない場合を包含しており、また、バニリンの定量は「既報11)の液体クロマトグラフ法により分析」(115頁左欄16〜18行)でおこなわれているが、その定量限界値がどの程度であるかを示す証拠もない。 そうすると、相違点3−1は、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲3発明であるとはいえない。 次いで、進歩性について検討する。 申立人が提出した証拠には、蒸留酒類においてのバニリン濃度を0.5μg/L以上5μg/L以下に調整するものは提示されていない。 そして、甲3発明において、バニリン濃度を相違点3−1に係る範囲に調整する動機もなく、相違点3−1の発明特定事項を有するようにすることは当業者といえども容易に想到し得たこととはいえない。 よって、本件発明1は、甲3発明、すなわち甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 なお、試料Aのバニリン濃度は0.01mg/L(10μg/L)であることから、試料Aを引用発明として検討したとしても、上記と同様に判断される。 (3)本件発明2ないし6について 本件発明2ないし6は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明1と同様に、甲3発明、すなわち、甲3に記載された発明でないし、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (4)まとめ 以上のとおりであるから、申立理由1−2及び2−2には理由がない。 3 申立理由3(サポート要件)について (1)判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 そこで、検討する。 (2)サポート要件の判断 本件特許の発明の詳細な説明の【0002】ないし【0005】によると、本件発明1ないし6が解決しようとする課題は、「香味の中でも特にフルーティーさ、発酵感及び麦焼酎らしさが優れた蒸留酒類を提供すること」である。 他方、本件特許の発明の詳細な説明の【0029】〜【0033】には、「酢酸エチルは、エステル成分であり、フルーティーな香気に寄与するとされる香気成分である。また、アセトアルデヒドは、刺激臭を有する香気成分である。そして、バニリンは、ウイスキー様の香味特徴を有する香気成分である。本実施形態に係る蒸留酒類は、これら3成分を特定濃度で含むことにより、フルーティーさ、発酵感及び麦焼酎らしさが優れるという予想外の効果が得られる。」(【0030】)と記載されるとともに、「蒸留酒類は、酢酸エチル濃度が8mg/L以上125mg/L以下であればよく」(【0031】、「蒸留酒類は、アセトアルデヒド濃度が0mg/L超12mg/L以下であればよく」(【0032】)、「蒸留酒類は、バニリン濃度が0.5μg/L以上40μg/L以下であればよく」(【0033】)と記載されている。 そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0051】〜【0063】の【表1】〜【表3】において、蒸留酒類の酢酸エチル濃度が8mg/L以上125mg/L以下、アセトアルデヒド濃度が0mg/L超12mg/L以下、バニリン濃度が0.5μg/L以上40μg/L以下であるものが、そうでないものに比べて、フルーティーさ、発酵感及び麦焼酎らしさが優れていることを確認している。 そうすると、当業者は、蒸留酒類の酢酸エチル濃度が8mg/L以上125mg/L以下、アセトアルデヒド濃度が0mg/L超12mg/L以下、バニリン濃度が0.5μg/L以上40μg/L以下であるものは発明の課題を解決できると認識できる。 そして、本件発明1は、前記条件を満足しているものである。 したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。 また、本件発明2ないし6についても、本件発明1と同様である。 申立人は、評価基準や混和量について縷々主張しているが、上記サポート要件の判断を左右するものではない。 よって、申立理由3は理由がない。 4 申立理由4(実施可能要件)について (1)判断基準 上記第2のとおり、本件発明1ないし6は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。 そこで、検討する。 (2)実施可能要件の判断 本件特許の発明の詳細な説明には、本件発明1の各発明特定事項及びその製造方法について具体的に記載されており、また、本件発明1の実施例である実施例1ないし4についても、その製造方法を含め具体的に記載されている。 したがって、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1を生産し、使用することができる程度の記載があるといえる。 なお、申立人は、本件発明1ないし6は、その技術的意義が実質的に記載されておらず、発明が把握できないから実施可能要件を満たさない旨主張するが、本件発明1ないし6が明確であることは明らかであり、上述のとおり、実施可能要件も満足している。 また、申立人は、本件発明1は、発酵により製造された製品にも権利が及ぶ以上、発酵によりどのように製造できるかを記載する必要があり、発酵により本件発明1を得るには当業者は過度の試行錯誤を要する旨主張するが、発明の詳細な説明における実施例6は発酵により本件発明1が得られた例であるし、実施可能要件は、上記(1)の判断基準により判断されるものであるから、申立人の主張は失当であり採用できない。 また、本件発明2ないし6についても、本件発明1と同様である。 よって、申立理由4は理由がない。 第5 結語 上記第4のとおり、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2022-06-30 |
出願番号 | P2016-135293 |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(C12G)
P 1 651・ 121- Y (C12G) P 1 651・ 113- Y (C12G) P 1 651・ 536- Y (C12G) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
加藤 友也 |
特許庁審判官 |
植前 充司 大島 祥吾 |
登録日 | 2021-08-17 |
登録番号 | 6931272 |
権利者 | サッポロビール株式会社 |
発明の名称 | 蒸留酒類 |
代理人 | 高橋 昌義 |
代理人 | 坂西 俊明 |
代理人 | 清水 義憲 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 福島 直樹 |