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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C04B
管理番号 1386188
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-03-04 
確定日 2022-06-22 
異議申立件数
事件の表示 特許第6939973号発明「銅/セラミックス接合体、及び、絶縁回路基板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6939973号の請求項1〜4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6939973号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜4に係る特許についての出願は、令和2年11月26日(優先権主張 令和1年12月19日)の出願であって、令和3年9月6日にその特許権の設定登録がされ、同年同月22日に特許掲載公報が発行され、その後、全請求項に係る特許に対して、令和4年3月4日に、特許異議申立人 青木 眞理(以下、「申立人」という。)により、甲第1〜3号証を証拠方法として特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明4」といい、これらを総称して「本件発明」ということがある。)は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
銅又は銅合金からなる銅部材と、ケイ素含有セラミックスからなるセラミックス部材とが接合されてなる銅/セラミックス接合体であって、
前記銅部材と前記セラミックス部材との接合界面から前記銅部材側へ10μmから50μmまでの領域においてバーコビッチ圧子を用いて測定された最大押し込み硬さが110mgf/μm2以上150mgf/μm2以下の範囲内とされ、
前記セラミックス部材と前記銅部材との接合界面においては、前記セラミックス部材側に、Ti,Zr,Nb,Hfから選択される1種又は2種以上の活性金属の化合物を含む活性金属化合物層が形成されており、
前記活性金属化合物層における前記活性金属化合物粒子の最大粒子径が180nm以下であることを特徴とする銅/セラミックス接合体。
【請求項2】
前記活性金属化合物層内に、Si,Cu,Agが存在していることを特徴とする請求項1に記載の銅/セラミックス接合体。
【請求項3】
ケイ素含有セラミックスからなるセラミックス基板の表面に、銅又は銅合金からなる銅板が接合されてなる絶縁回路基板であって、
前記銅板と前記セラミックス基板との接合界面から前記銅板側へ10μmから50μmまでの領域においてバーコビッチ圧子を用いて測定された最大押し込み硬さが110mgf/μm2以上150mgf/μm2以下の範囲内とされ、
前記銅板と前記セラミックス基板との接合界面においては、前記セラミックス基板側に、Ti,Zr,Nb,Hfから選択される1種又は2種以上の活性金属の化合物を含む活性金属化合物層が形成されており、
前記活性金属化合物層における前記活性金属化合物粒子の最大粒子径が180nm以下であることを特徴とする絶縁回路基板。
【請求項4】
前記活性金属化合物層内に、Si,Cu,Agが存在していることを特徴とする請求項3に記載の絶縁回路基板。」

第3 特許異議申立理由の概要
1 特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)について
(1)冷却速度について
本件特許明細書の段落【0036】には、本件発明に係る「銅/セラミックス接合体」及び「絶縁回路基板」の製造方法における冷却速度について、「なお、この冷却工程S03における冷却速度は、2℃/min以上10℃/min以下の範囲内とすることが好ましい。」と記載されているものの、段落【0060】の【表2】の本発明例11〜18には冷却速度の記載がなく、本発明例11〜18がそれぞれどのような冷却速度で製造されたものであるのかが不明であるので、当業者は、本件発明に係る「銅/セラミックス接合体」及び「絶縁回路基板」を生産することができない。
そのため、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。

(2)「加熱温度における温度積分値」について
本件特許明細書の段落【0035】には、本件発明に係る「銅/セラミックス接合体」及び「絶縁回路基板」の製造方法における温度積分値について、「また、この加熱工程S02において、上述の加熱温度における温度積分値は、1℃・h以上110℃・h以下の範囲内とする。」と記載されているが、「加熱温度における温度積分値」は、一般的に使用される用語ではなく、加熱温度の最高到達温度における保持時間(℃・h)や、一定の温度範囲内における保持時間(℃・h)などと理解することができるが、いずれの意味であるのかが不明である。
これについて、甲第1号証の段落【0031】には、「ここで、銅板接合工程S02においては、Cu−Si共晶温度(804℃)以上における温度と時間とを掛け合わして積算した温度積分値が180℃・min以上3500℃・min以下の範囲内となるように、昇温速度、保持温度、保持時間、降温速度等が規定される。」と記載され、また、本件特許明細書の段落【0060】【表2】の本発明例11では、加熱温度825℃における温度積分値が1(℃・h)となっている。
そして、温度積分値が、甲第1号証に記載されたように、温度と時間とを掛け合わして積算したものとすると、本発明例11の加熱時間は0.001時間(0.06分)となるが、このような時間が加熱温度の最高到達温度における保持時間であるのか、一定の温度範囲内の保持時間であるのかが不明であり、更に本発明例11では、加熱時間が0.06分(=3.6秒)という極めて短い時間で接合できていることになる。
また、特許権者は、本件特許出願の審査の過程で令和3年6月17日に提出した意見書において、温度積分値について何ら主張していないから、当業者は、「加熱温度における温度積分値」の定義を理解することができないので、本件発明に係る「銅/セラミックス接合体」及び「絶縁回路基板」を生産することができない。
このため、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。

2 特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)について
本件発明1〜4は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて、または、甲第1号証に記載された発明及び甲第2〜3号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1〜4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

3 証拠方法
甲第1号証:特開2018−8869号公報
甲第2号証:国際公開第2018/021472号
甲第3号証:特開平6−24854号公報

第4 特許異議申立理由についての当審の判断
1 特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)について
(1)実施可能要件の判断手法
物の発明における実施とは、物の生産、使用等の行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について、実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、その物を生産し、かつ、その物を使用できる程度の記載があれば、実施可能要件を満たすということができるので、以下、この観点に立って検討する。

(2)冷却速度について
ア 本件特許明細書には、以下の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
(ア)「【0033】
以下に、本実施形態に係る絶縁回路基板10の製造方法について、図5及び図6を参照して説明する。
・・・
【0036】
(冷却工程S03)
そして、加熱工程S02の後、冷却を行うことにより、溶融したAg−Ti系ろう材(Ag−Cu−Ti系ろう材)24を凝固させる。
なお、この冷却工程S03における冷却速度は、2℃/min以上10℃/min以下の範囲内とすることが好ましい。」

(イ)「【0059】
・・・評価結果を表2に示す。
【0060】
【表2】



イ 前記ア(ア)の記載からみれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明に係る「銅/セラミックス接合体」及び「絶縁回路基板」の製造方法における冷却速度を2℃/min以上10℃/min以下の範囲内とすればよいことを理解できる。
すると、前記ア(イ)の本発明例11〜18に冷却速度の記載がなくても、当業者は、前記ア(イ)の【表2】に記載されている製造条件に加えて、冷却速度を2℃/min以上10℃/min以下の範囲で選択することで、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明に係る「銅/セラミックス接合体」及び「絶縁回路基板」を製造できるものといえる。

(3)「加熱温度における温度積分値」について
ア 本件特許明細書には、更に以下の記載がある。
(ア)「【0035】
(加熱工程S02)
次に、銅板22とセラミックス基板11とを加圧した状態で、真空雰囲気の加熱炉内で加熱し、Ag−Ti系ろう材(Ag−Cu−Ti系ろう材)24を溶融する。
ここで、加熱工程S02における加熱温度は、CuとSiの共晶点温度以上850℃以下の範囲内とされている。また、この加熱工程S02において、上述の加熱温度における温度積分値は、1℃・h以上110℃・h以下の範囲内とする。
また、この加熱工程S02における加圧荷重は、0.029MPa以上2.94MPa以下の範囲内とする。」

(イ)「【0055】
(実施例2)
窒化ケイ素(Si3N4)からなるセラミックス基板(40mm×40mm×0.32mm)を準備した。
このセラミックス基板の両面に、無酸素銅からなる銅板(37mm×37mm×厚さ0.2mm)を、表2に示す活性金属を含むAg−Cu系ろう材を用いて、表2に示す条件で銅板とセラミックス基板とを接合し、絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)を得た。なお、接合時の真空炉の真空度は5×10−3Paとした。
【0056】
得られた絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)について、接合界面近傍の最大押し込み硬さを、実施例1と同様の方法で評価した。
また、活性金属化合物層における活性金属化合物粒子の最大粒子径、活性金属化合物層中のSi,Ag,Cuの有無、超音波接合について、以下に示す方法で評価した。」

イ 前記ア(ア)の記載からみれば、本件発明における「加熱温度における温度積分値」は、CuとSiの共晶点温度以上850℃以下の範囲内にある加熱温度における「温度積分値」である。
そして、前記(2)ア(イ)の本発明例11〜18によれば、前記加熱温度は、「銅/セラミックス接合体」ないし「絶縁回路基板」を製造する度ごとに一義的に決定されるものであるから、本件発明における「加熱温度における温度積分値」は、「銅/セラミックス接合体」ないし「絶縁回路基板」を製造する度ごとに一義的に決定される加熱温度における「温度積分値」をいうものといえる。

ウ 更に、「温度積分値」という用語及びその「℃・h」という単位からみれば、当業者は、当該「温度積分値」が、温度と時間を掛け合わして積算したものと理解できるのであり、このことは、甲第1号証の、
「【0031】
ここで、銅板接合工程S02においては、Cu−Si共晶温度(804℃)以上における温度と時間とを掛け合わして積算した温度積分値が180℃・min以上3500℃・min以下の範囲内となるように、昇温速度、保持温度、保持時間、降温速度等が規定される。・・・」との記載とも整合するものである。

エ 前記イ及びウを併せてみれば、当業者は、本件発明における「加熱温度における温度積分値」が、「銅/セラミックス接合体」ないし「絶縁回路基板」を製造する度ごとに一義的に決定される加熱温度と時間とを掛け合わして積算したものを意味することを理解でき、その定義を理解することができるものである。
また、本発明例11において加熱時間が0.06分(=3.6秒)という極めて短い時間で接合できることにより、「加熱温度における温度積分値」の定義が理解できなくなるものではないし、本件特許出願の審査の過程で、特許権者が「加熱温度における温度積分値」について特段の主張をしていなくても、当業者が「加熱温度における温度積分値」の定義を前記のとおりに理解できることに変わりはないから、これらの事情にかかわらず、当業者は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて、本件発明における「加熱温度における温度積分値」の定義を理解できるものである。

(4)まとめ
そうすると、本件特許明細書の記載、及び、前記イの事項並びに前記エの事項について、前記(1)の判断手法に照らせば、当業者は、本件発明に係る「銅/セラミックス接合体」及び「絶縁回路基板」を生産し、かつ使用することができるといえるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件に適合する。

(5)小括
したがって、前記第3の1(1)及び(2)の特許異議申立理由はいずれも理由がない。

2 特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)について
(1)甲各号証の記載事項等
ア 甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
(ア)甲第1号証には以下(1a)〜(1b)の記載がある。
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅又は銅合金からなる銅部材と窒化ケイ素からなるセラミックス部材とが接合されてなる銅/セラミックス接合体であって、
前記銅部材と前記セラミックス部材との接合界面には、前記セラミックス部材側から順に、Ti,Nb,Hf,Zrから選択される一種又は二種以上の窒化物形成元素を含む窒化化合物層と、Ag−Cu共晶層と、が形成されており、
前記窒化化合物層の厚さは0.15μm以上1.0μm以下であり、
前記銅部材と前記セラミックス部材との間には、前記窒化物形成元素とSiを含む金属間化合物からなる金属間化合物相が存在しており、
前記窒化化合物層の粒界にはCu及びSiが存在していることを特徴とする銅/セラミックス接合体。」

(1b)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されているように、DBC法によってセラミックス基板と銅板とを接合する場合には、接合温度を1065℃以上(銅と銅酸化物との共晶点温度以上)にする必要があることから、接合時にセラミックス基板が劣化してしまうおそれがあった。
また、特許文献2に開示されているように、例えばAg−Cu−Tiろう材等を用いた活性金属ろう付け法によってセラミックス基板と銅板とを接合する場合には、接合温度が900℃と比較的高温とされていることから、やはり、セラミックス基板が劣化してしまうといった問題があった。ここで、単に接合温度を低下させた場合には、ろう材がセラミックス基板と十分に反応せず、セラミックス基板と銅板の界面での接合率が低下してしまい、信頼性の高い絶縁回路基板を提供することができない。
さらに、Ag−Cu−Tiろう材を用いて接合する際の接合温度が高い場合、接合界面に形成される窒化化合物層(窒化チタン層)が厚く成長し、この窒化化合物層(窒化チタン層)においてクラックが発生し易くなるといった問題があった。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、窒化化合物層におけるクラックの発生を抑制でき、銅部材と窒化ケイ素からなるセラミックス部材とが確実に接合された信頼性の高い銅/セラミックス接合体、及び、この銅/セラミックス接合体からなる絶縁回路基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明の銅/セラミックス接合体は、銅又は銅合金からなる銅部材と窒化ケイ素からなるセラミックス部材とが接合されてなる銅/セラミックス接合体であって、前記銅部材と前記セラミックス部材との接合界面には、前記セラミックス部材側から順に、Ti,Nb,Hf,Zrから選択される一種又は二種以上の窒化物形成元素を含む窒化化合物層と、Ag−Cu共晶層と、が形成されており、前記窒化化合物層の厚さは0.15μm以上1.0μm以下であり、前記銅部材と前記セラミックス部材との間には、前記窒化物形成元素とSiを含む金属間化合物からなる金属間化合物相が存在しており、前記窒化化合物層の粒界にはCu及びSiが存在していることを特徴としている。
【0009】
この構成の銅/セラミックス接合体においては、前記銅部材と前記セラミックス部材との接合界面にAg−Cu共晶層が形成されているとともに、前記銅部材と前記セラミックス部材との間に前記窒化物形成元素とSiを含む金属間化合物からなる金属間化合物相が存在していることから、窒化ケイ素からなるセラミックス基板の接合面において十分に分解反応が生じており、銅部材とセラミックス部材とが確実に接合された銅/セラミックス接合体を得ることができる。・・・
さらに、前記Ag−Cu共晶層とセラミックス部材との間に厚さ0.15μm以上1.0μm以下の前記窒化化合物層が形成されており、前記窒化化合物層の粒界においてCu及びSiが存在しているので、この窒化化合物層におけるクラックの発生を抑制することができるとともに、前記銅部材と前記セラミックス部材との接合界面に未反応部が生じることが無く、接合強度の高い銅/セラミックス接合体を得ることができる。」

(イ)前記(ア)(1a)によれば、甲第1号証には、
「銅又は銅合金からなる銅部材と窒化ケイ素からなるセラミックス部材とが接合されてなる銅/セラミックス接合体であって、
前記銅部材と前記セラミックス部材との接合界面には、前記セラミックス部材側から順に、Ti,Nb,Hf,Zrから選択される一種又は二種以上の窒化物形成元素を含む窒化化合物層と、Ag−Cu共晶層と、が形成されており、
前記窒化化合物層の厚さは0.15μm以上1.0μm以下であり、
前記銅部材と前記セラミックス部材との間には、前記窒化物形成元素とSiを含む金属間化合物からなる金属間化合物相が存在しており、
前記窒化化合物層の粒界にはCu及びSiが存在していることを特徴とする銅/セラミックス接合体。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

イ 甲第2号証の記載事項
甲第2号証には以下(2a)〜(2d)の記載がある。
(2a)「請求の範囲
[請求項1] セラミックス部材と、
接合層を介して前記セラミックス部材と接合された銅部材と、を具備し、
前記接合層のナノインデンテーション硬さHITは、1.0GPa以上2.5GPa以下である、接合体。
・・・
[請求項11] 前記銅部材は、前記銅部材と前記接合層との界面から前記銅部材の厚さ方向に100μm離れた領域を有し、
前記接合層のナノインデンテーション硬さHITと前記領域のナノインデンテーション硬さHITとの差は、0.5GPa以下である、請求項1に記載の接合体。」

(2b)「[0010] 図1、図2は、セラミックス−銅接合体の一例を示す図である。図1、図2は、接合体1と、セラミックス基板2と、銅板3(表銅板31、裏銅板32)と、接合層4(表面側接合層41、裏面側接合層42)と、接合層4の中心部5と、銅板3と接合層4との界面から銅板3の厚さ方向に100μmの位置の領域6と、を図示している。」

(2c)「[0049](実施例1〜6、比較例1)
セラミックス基板として、表1に示す窒化珪素基板を用意した。
・・・
[0051] 接合ろう材として表2に示すろう材を用意した。
・・・
[0053] 窒化珪素基板上に接合ろう材ペーストを塗布して、銅板を配置した。なお、接合ろう材ペーストの塗布厚さは20〜30μmの範囲内とした。
[0054] 次に、接合工程として、780〜850℃、非酸化性雰囲気、1×10−3Pa以下の条件銅板を窒化珪素板に接合した。・・・
[0055] 次にエッチング工程を行い、表銅板をパターン形状に加工した。・・・
[0056] エッチング加工により銅板側面形状、接合層はみ出し部の長さを調整した。その結果を表3に示す。これにより実施例および比較例に係るセラミックス−銅接合体を作製した。銅板のビッカース硬さHVは40〜80の範囲内であった。
・・・
[0058] 実施例および比較例にかかるセラミックス回路基板は接合層が15〜25μmの範囲内であった。接合ろう材中のAgが銅部材に拡散していることが確認された。実施例および比較例にセラミックス回路基板に対し、接合層のナノインデンテーション硬さHITを測定した。・・・接合層のナノインデンテーション硬さHITをHIT(A)と表記する。
[0059] 銅板における銅板と接合層の接合界面から銅板の厚さ方向に100μm離れた箇所のナノインデンテーション硬さHITについても測定した。・・・銅板における銅板と接合層の接合界面から銅板の厚さ方向に100μm離れた箇所のナノインデンテーション硬さHITをHIT(B)と表記する。
[0060] ナノインデンタとしてHysitron社製「TI950トライボンデンタ」を用いた。圧子としてバーコビッチ型ダイヤモンドの三角錐圧子を用いた。・・・このときの押込み深さを測定し、ナノインデンテーション硬さHITを求めた。
[0061]・・・その結果を表4に示す。
[0062][表4]



(2d)「【図1】



ウ 甲第3号証の記載事項
甲第3号証には以下(3a)〜(3c)の記載がある。
(3a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 窒化物系セラミック部材と、Ti、Zr、HfおよびNbから選ばれた少なくとも 1種の活性金属を含む Ag−Cu系ろう材層を介して、前記窒化物系セラミックス部材に接合された金属部材とを具備するセラミックス−金属接合体において、
前記窒化物系セラミック部材側の接合界面には、前記活性金属を含む化合物の直径 100nm以下の球状粒子が層状に存在することを特徴とするセラミックス−金属接合体。」

(3b)「【0010】また、金属部材は、用途に応じて各種の金属材料から適宜選択すればよく、例えば構造材料としては、鋼材、耐熱合金、超硬合金等が例示され、また電子部品材料としては、Cu、Cu合金、Ni、Ni合金、W 、Mo等が例示される。」

(3c)「【図1】



(2)対比・判断
ア 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「銅又は銅合金からなる銅部材と窒化ケイ素からなるセラミックス部材とが接合されてなる銅/セラミックス接合体」は、本件発明1における「銅又は銅合金からなる銅部材と、ケイ素含有セラミックスからなるセラミックス部材とが接合されてなる銅/セラミックス接合体」に相当し、甲1発明における「Ti,Nb,Hf,Zrから選択される一種又は二種以上の窒化物形成元素を含む窒化化合物層」は、本件発明1における「Ti,Zr,Nb,Hfから選択される1種又は2種以上の活性金属の化合物を含む活性金属化合物層」に相当し、甲1発明において、「前記銅部材と前記セラミックス部材との接合界面には、前記セラミックス部材側から順に、Ti,Nb,Hf,Zrから選択される一種又は二種以上の窒化物形成元素を含む窒化化合物層と、Ag−Cu共晶層と、が形成されて」いることは、本件発明1において、「前記セラミックス部材と前記銅部材との接合界面においては、前記セラミックス部材側に、Ti,Zr,Nb,Hfから選択される1種又は2種以上の活性金属の化合物を含む活性金属化合物層が形成されて」いることに相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「銅又は銅合金からなる銅部材と、ケイ素含有セラミックスからなるセラミックス部材とが接合されてなる銅/セラミックス接合体であって、
前記セラミックス部材と前記銅部材との接合界面においては、前記セラミックス部材側に、Ti,Zr,Nb,Hfから選択される1種又は2種以上の活性金属の化合物を含む活性金属化合物層が形成されている、銅/セラミックス接合体。」の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点1:本件発明1は、「銅/セラミックス接合体」が、「前記銅部材と前記セラミックス部材との接合界面から前記銅部材側へ10μmから50μmまでの領域においてバーコビッチ圧子を用いて測定された最大押し込み硬さが110mgf/μm2以上150mgf/μm2以下の範囲内とされ」る、との発明特定事項を有するのに対して、甲1発明は、前記発明特定事項を有しない点。
・相違点2:本件発明1は、「銅/セラミックス接合体」が、「前記活性金属化合物層における前記活性金属化合物粒子の最大粒子径が180nm以下である」、との発明特定事項を有するのに対して、甲1発明は、前記発明特定事項を有しない点。

イ 始めに、前記アの相違点1の容易想到性について検討すると、前記(1)ア(ア)(1b)によれば、甲1発明は、従来の「銅/セラミックス接合体」における、接合時にセラミックス基板が劣化してしまうおそれがあった、という課題、信頼性の高い絶縁回路基板を提供することができない、という課題、窒化化合物層(窒化チタン層)においてクラックが発生し易くなる、という課題を解決しようとするものであって、「銅部材」と「セラミックス部材」との接合界面にAg−Cu共晶層が形成されているとともに、前記「銅部材」と前記「セラミックス部材」との間に前記窒化物形成元素とSiを含む金属間化合物からなる金属間化合物相が存在していることから、「銅部材」と「セラミックス部材」とが確実に接合された「銅/セラミックス接合体」を得ることができ、さらに、前記Ag−Cu共晶層と「セラミックス部材」との間に厚さ0.15μm以上1.0μm以下の前記窒化化合物層が形成されており、前記窒化化合物層の粒界においてCu及びSiが存在しているので、この窒化化合物層におけるクラックの発生を抑制することができるとともに、前記「銅部材」と前記「セラミックス部材」との接合界面に未反応部が生じることが無く、接合強度の高い「銅/セラミックス接合体」を得ることができるものである。
すると、甲1発明は、そもそも、「銅部材」と「セラミックス部材」との「接合界面から前記銅部材側へ10μmから50μmまでの領域においてバーコビッチ圧子を用いて測定された最大押し込み硬さ」(以下、単に「最大押し込み硬さ」ということがある。)が記載も示唆もされるものではないから、甲1発明において、前記「最大押し込み硬さ」を「110mgf/μm2以上150mgf/μm2以下」とする動機づけは存在しない。

ウ また、前記(1)イ(2a)〜(2d)によれば、甲第2号証には、「セラミックス部材」と、接合層を介して前記「セラミックス部材」と接合された「銅部材」と、を具備し、前記接合層のナノインデンテーション硬さHITは、1.0GPa以上2.5GPa以下である「接合体」であって、前記「銅部材」は、前記「銅部材」と前記接合層との界面から前記「銅部材」の厚さ方向に100μm離れた領域を有し、前記接合層のナノインデンテーション硬さHITと前記領域のナノインデンテーション硬さHITとの差が0.5GPa以下である、「接合体」が記載されている。
具体的には、前記「接合体」は、実施例2に注目すると、接合層のナノインデンテーション硬さHIT(A)が1.5GPaであり、銅板における銅板と接合層の接合界面から銅板の厚さ方向に100μm離れた箇所のナノインデンテーション硬さHIT(B)が1.2GPaであるものである。
ここで、甲第2号証に記載された「接合体」は、「銅/セラミックス接合体」といえるが、前記「銅/セラミックス接合体」は、「銅部材」と「セラミックス部材」とが、それらの間の接合層を介して接合されたものであって、前記「銅部材」と「セラミックス部材」との接合界面を有するものではないから、前記ナノインデンテーション硬さHIT(A)及びナノインデンテーション硬さHIT(B)は、いずれも、「銅部材」と「セラミックス部材」との「接合界面から前記銅部材側へ10μmから50μmまでの領域におけるバーコビッチ圧子を用いて測定された最大押し込み硬さ」といえるものではないので、甲第2号証にも、前記「最大押し込み硬さ」が記載も示唆もされるものではない。

エ 更に、前記(1)ウ(3a)〜(3c)によれば、甲第3号証には、「窒化物系セラミック部材」と、Ti、Zr、HfおよびNbから選ばれた少なくとも 1種の活性金属を含む Ag−Cu系ろう材層を介して、前記「窒化物系セラミックス部材」に接合された「金属部材」とを具備する「セラミックス−金属接合体」において、前記「窒化物系セラミック部材」側の接合界面には、前記活性金属を含む化合物の直径 100nm以下の球状粒子が層状に存在する「セラミックス−金属接合体」が記載されており、甲第3号証に記載された「金属部材」は、電子部品材料として、Cu、Cu合金が例示されるものであるから、「銅部材」といえ、甲第3号証に記載された「窒化物系セラミック部材」及び「セラミックス−金属接合体」は、それぞれ、「セラミックス部材」及び「銅/セラミックス接合体」といえるが、前記「銅/セラミックス接合体」も、甲第2号証の「銅/セラミックス接合体」と同様に、「銅部材」と「セラミックス部材」とが、それらの間のAg−Cu系ろう材層を介して接合されたものであって、前記「銅部材」と「セラミックス部材」との接合界面を有するものではないから、甲第3号証にも、前記「最大押し込み硬さ」が記載も示唆もされるものではない。

オ 前記イ〜エによれば、そもそも、甲1発明において、前記「最大押し込み硬さ」を「110mgf/μm2以上150mgf/μm2以下」とする動機づけは存在しない上に、甲第1〜3号証のいずれにも、前記「最大押し込み硬さ」が記載も示唆もされていないのであるから、当業者は、甲1発明に甲第2〜3号証に記載された事項を適用しても、前記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものには至らない。
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基づいて、甲1発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて、又は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2〜3号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
そして、本件発明2〜4について検討しても事情は同じであるから、本件発明1〜4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

カ 申立人は、本件発明1と甲1発明は、「銅/セラミックス接合体」の製造方法が同一といえ、本件発明1は、公知材料の中から数値範囲の最適化または好適化を行っているにすぎない旨、甲第1号証には、「銅/セラミックス接合体」を製造する際の冷却速度が記載されていないが、本件発明において冷却速度に技術的特徴があり、「銅部材」と「セラミックス部材」との「接合界面から前記銅部材側へ10μmから50μmまでの領域におけるバーコビッチ圧子を用いて測定された最大押し込み硬さ」の発明特定事項を満たすということはできないから、本件発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた旨(特許異議申立書10頁15行〜11頁下から2行)、甲1発明及び甲2発明は属する技術分野が共通しているので、甲2発明を甲1発明に適用することは当業者の通常の創作能力の発揮であり、当業者が容易になし得ることであるから、本件発明1は、甲1発明及び甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨(特許異議申立書14頁11行〜16行)、甲1発明〜甲3発明が属する技術分野が共通しているので、甲3発明を甲1発明又は甲2発明に適用することは、当業者の通常の創作能力の発揮であり、当業者が容易になし得ることであるから、本件発明1は、甲1発明及び甲3発明(又は甲1発明〜甲3発明)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張する(特許異議申立書15頁下から6行〜最終行)。
しかし、本件発明1は、甲1発明に基づいて、甲1発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて、又は、甲1発明及び甲第2〜3号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないことは、前記オに記載のとおりである。
また、前記主張は、甲第1号証以外の、甲第2号証及び甲第3号証のいずれかを主引用例として、本件発明1が容易想到であることを主張するものとも解されるが、甲第1〜3号証のいずれにも、前記「最大押し込み硬さ」が記載も示唆もされていないのであるから、仮に、甲第2号証及び甲第3号証のいずれかを主引用例としたとしても、当業者は、「銅/セラミックス接合体」を、前記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものには至らないことに変わりはないので、申立人の前記主張はいずれも採用できない。

(3)小括
したがって、前記第3の2の特許異議申立理由は理由がない。

第5 むすび
以上のとおりであるので、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1〜4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-06-10 
出願番号 P2020-196300
審決分類 P 1 651・ 536- Y (C04B)
P 1 651・ 121- Y (C04B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 河本 充雄
特許庁審判官 関根 崇
金 公彦
登録日 2021-09-06 
登録番号 6939973
権利者 三菱マテリアル株式会社
発明の名称 銅/セラミックス接合体、及び、絶縁回路基板  
代理人 寺本 光生  
代理人 細川 文広  
代理人 大浪 一徳  
代理人 松沼 泰史  

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