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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B05D
管理番号 1386199
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-03-23 
確定日 2022-06-17 
異議申立件数
事件の表示 特許第6946139号発明「被膜形成方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6946139号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 理由
第1 手続の経緯
特許第6946139号の請求項1〜5に係る特許についての出願は、平成29年10月5日の出願であって、令和3年9月17日にその特許権の設定登録がされ、同年10月6日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和4年3月23日に特許異議申立人笹井栄治により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6946139号の請求項1〜5に係る発明(以下「本件発明1」〜「本件発明5」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
壁面に対し、下塗材及び上塗材を順に塗付する被膜形成方法であって、
上記下塗材は、アクリル樹脂エマルションの固形分100重量部に対し、着色顔料を3〜300重量部、粒径45μm以上の粉粒体を10〜500重量部含み、
上記アクリル樹脂エマルションは、炭素数3以上のアルキル主鎖を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを、樹脂構成成分中に20重量%以上含むものであり、
上記上塗材は、JIS K5667:2003に規定される液状またはゲル状の色粒が水性媒体に分散してなるものであり、
上記色粒の粒径は0.1〜10mmである
ことを特徴とする被膜形成方法。
【請求項2】
上記アクリル樹脂エマルションは、シリコーン樹脂を含むものであることを特徴とする請求項1記載の被膜形成方法。
【請求項3】
上記アクリル樹脂エマルションは、シリコーン樹脂を樹脂構成成分中に0.5〜30重量%含むことを特徴とする請求項1または2に記載の被膜形成方法。
【請求項4】
上記粒径45μm以上の粉粒体は、その総量中に、粒径106〜300μmの粉粒体を50重量%以上含むものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の被膜形
成方法。
【請求項5】
上記上塗材をローラー塗りすることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の被膜形成方法。」

第3 申立理由の概要
理由(進歩性)本件特許の請求項1〜5に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、上記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

甲第1号証:特開2000−167479号公報
甲第2号証:特開2008−253913号公報
甲第3号証:国際公開2007/077879号

第4 当審の判断
1 甲号証及び参考資料1について
甲第1号証:特開2000−167479号公報
甲第2号証:特開2008−253913号公報
甲第3号証:国際公開2007/077879号
参考資料1:JISの規格 JIS K5667:2003 多彩模様塗料 日本工業規格 一般財団法人日本規格協会 2003年[on line][令和4年2月16日検索]、インターネット<URL:https://jis.eomec.com/jisk56672003>、原本

2 甲号証及び参考資料1の記載について
(1)甲第1号証(以下、「甲1」という。)
1a「【請求項1】 被塗物に、粒径0.1〜5mmの骨材を樹脂固形分100重量部あたり10〜100重量部含有する下塗り塗料(A)をロ−ラで塗装し、その塗面に、少なくとも表層部を架橋硬化させた着色樹脂粒子を含有する水性多彩模様塗料(B)をロ−ラ−で塗装し、ついでこの塗面に含まれる着色樹脂粒子の分散状態を均一にしたのち、再び水性多彩模様塗料(B)をロ−ラで塗装することを特徴とする多彩模様塗膜形成法。」
1b「【0011】下塗り塗料(A):粒径0.1〜5mmの骨材を樹脂固形分100重量部あたり10〜100重量部含有する塗料である。
【0012】具体的には、骨材及び樹脂成分を必須成分とし、さらに必要に応じて着色顔料、メタリック顔料、光干渉顔料、可塑剤、有機溶剤などを水に混合、分散してなる水性組成物が好適である。
・・・
【0020】水性多彩模様塗料(B):色調が異なる2色以上の着色樹脂粒子が水性媒体中に分散してなり、この粒子は少なくとも表層部が架橋硬化している水性塗料であり、この模様塗料(B)は、上記の下塗り塗料(A)の塗面にロ−ラ−で塗装することができ、1回の塗装で2色以上着色樹脂粒子が斑点状に混在して多彩模様の塗膜を形成することができる。
【0021】着色樹脂粒子は、樹脂成分及び着色顔料を含有してなり、その粒径は0.1mm以上、特に0.5〜5mm、比重は0.90〜2.5の範囲内にあることが適している。具体的には、架橋性官能基含有樹脂、着色顔料などを有機溶剤に混合してエナメル(a)とし、これを水分散媒中に分散して粒子状とした後、架橋剤(b)及び/又は硬化触媒(c)を加えて、粒子状になった架橋性官能基含有樹脂の少なくとも表層部を架橋硬化せしめることにより着色樹脂粒子の水分散液が得られる。
・・・
【0035】具体的には、架橋性官能基が水酸基である場合には、架橋剤として脂肪族ジイソシアネ−ト、脂環族ジイソシアネ−ト、芳香族ジイソシアネ−トなどが使用できる。このイソシアネ−ト化合物の水分散性の向上のために乳化剤を併用したり、アルコキシポリアルキレングリコ−ルやアルコキシシランポリマ−などで変性することも可能である。」
1c「【0051】1.試 料
1)被塗物
a:一般住宅用軽量気泡コンクリ−ト(大きさ100×50×3cm)で、表面の汚れやゴミ、ホコリなどをあらかじめ取り除いてある。
【0052】2)下塗り塗料(A)
a:アクリル樹脂及び硬質で表面が鋭角的な形状を有しており、粒径0.5〜1mmのものを80重量%以上含有する破砕石を水に混合、分散せしめてなり、破砕石はアクリル樹脂100重量部(固形分)あたり50重量部を含有しており、塗装時における粘度を回転式粘度計で、20℃において300ポイズに調整した。
【0053】3)水性多彩模様塗料(B)の調製
ミネラスピリット45部を100℃に加熱し、これにスチレン10部、iso−ブチルメタクリレ−ト49部、n−ブチルアクリレ−ト31部、2−ヒドロキシエチルアクリレ−ト10部、t−ブチルパ−オキシ−2−エチルヘキサノエ−ト0.13部の混合物100.13部を3時間かけて一定速度で滴下し、その後同温度で2時間保ち撹拌を続けた。その後、追加の上記重合開始剤0.5部をミネラスピリット30部に溶解させたものを1時間かけて一定速度で滴下し、さらに同温度で1時間保ち反応を終了してから、ミネラスピリット48部で希釈して樹脂溶液(i)を得た。この樹脂溶液(i)の不揮発分は45%の均一な透明溶液であった。
【0054】また、スチレン20部、iso−ブチルメタクリレ−ト63部、n−ブチルアクリレ−ト17部を用い、上記樹脂溶液(i)と同様にして、不揮発分45%の均一な透明の樹脂溶液(ii)を得た。
【0055】樹脂溶液(i)と樹脂溶液(ii)とを固形分比で30/70になるように混合し、この混合樹脂溶液に着色顔料及び溶剤を配合し、容量2リットルのステンレス容器に仕込み、撹拌機で15分混合してから、ガラスビ−スを用いて卓上サンドミルで15分間分散して白、黄、赤、黒、青の各色エナメルを作成した。各色エナメルの組成は下記のとおりである。
【0056】エナメル(白):混合樹脂溶液210部にチタン白72部、タルク30部、ベントナイト24部及びミネラスピリット234部。
【0057】エナメル(黄):混合樹脂溶液210部にオキサイドエロ−72部、タルク30部、ベントナイト24部及びミネラスピリット234部。
【0058】エナメル(赤):混合樹脂溶液210部にベンガラ30部、タルク60部、ベントナイト24部及びミネラスピリット210部。
【0059】エナメル(黒):混合樹脂溶液210部にカ−ボンブラック12部、タルク72部、ベントナイト24部及びミネラスピリット144部。
【0060】エナメル(青):混合樹脂溶液210部にフタロシアニンブル−48部、タルク60部、ベントナイト24部及びミネラスピリット162部。
【0061】水性多彩模様塗料(B)a)
上水100部及びメチルセルロ−ス0.5部からなる水系分散液に、上記各色のエナメル80部を別々に混合し、低速で撹拌してエナメル粒子の大きさが1〜3mmになるように分散してから、ヘキサメチレンジイソシアネ−ト0.8部を加えさらに1時間撹拌して、白、黄、赤、黒、青の各色エナメルの水分散液をそれぞれ作成した。この5色の水分散液を固形分比で白/黄/赤/黒/青=60/10/10/10/10の配合比で混合し、水性多彩模様塗料(B)a)を得た。
【0062】4)クリヤ塗料(C)
a:アクリルウレタン樹脂を樹脂成分とする水性塗料。無色透明塗膜を形成する。
【0063】2.実施例及び比較例
実施例 1
被塗物に、下塗り塗料(A)aを、ブラシ部分が羊毛であるロ−ラ塗装器具で塗布量が塗料として300g/m2 になるように塗装し、その塗膜を室温で約10時間放置して乾燥させた。下塗り塗料(A)aの塗面は微細な凹凸と大きな凹凸が混在している。つぎに、この塗面に、固形分含有率を40重量%に調整した白、黄、赤、黒、青が混合してなる水性多彩模様塗料(B)a)を、上記と同じロ−ラ塗装器具を用いて、塗布量が1100g/m2 になるように塗装した。水性多彩模様塗料(B)aの塗膜は、膜厚や塗膜中の着色樹脂微粒子の分散状態が部分的に不均一になり、多彩模様の均一性が十分でなかった。
【0064】そこで、この水性多彩模様塗料(B)aをロ−ラ塗装してから、室温で約30分間放置し完全乾燥しないうちに、水で湿潤させた表面が平滑なゴムロ−ラを使用して模様塗面を押さえながらロ−ラを回転させて平滑な塗面にした。その後、室温で8時間放置してその模様塗膜を乾燥させた。
【0065】ついで、この乾燥させた模様塗膜面に、再度、水性多彩模様塗料(B)aを上記と同じロ−ラ塗装器具を用いて、塗布量が塗料を基準に900g/m2 になるように塗装し、室温で10時間放置し乾燥することにより、本発明の目的とする多彩模様塗膜を形成した。
【0066】この方法によると、塗装中に塗料ミストが発生しないので被塗物以外の周辺部に塗着することはなく、大気の環境を汚染することもなく、さらに一定でかつ均一な着色多彩模様に仕上げることができた。」

(2)甲第2号証(以下、「甲2」という。)
2a「【請求項1】
基材上に、
1.合成樹脂エマルション(A−1)、平均粒子径0.1〜1.0mmである粉粒体(A−2)を含み、粉粒体含有量が5〜80重量%である下塗材を塗付し、
2.合成樹脂エマルション(B−1)、平均粒子径5μm〜3.0mmの自然石、着色骨材、植物性粉体から選ばれる1種以上の粉粒体(B−2)を含み、合成樹脂エマルション(B−1)の固形分100重量部に対して粉粒体(B−2)が100〜1000重量部配合された仕上塗材を配り塗りし、
3.該仕上塗材が完全に硬化する前に、パターンローラーで該仕上塗材表面にパターンを付与する、
ことを特徴とする塗装方法。」
2b「【0019】
また、下塗材としては、必要に応じ、顔料、平均粒子径0.1mm未満の粉粒体、可塑剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、消泡剤、レベリング剤、顔料分散剤、沈降防止剤、たれ防
止剤、艶消し剤、紫外線吸収剤等が含まれていてもよい。
【0020】
顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック、酸化第二鉄(べんがら)、クロム酸鉛(モルブデートオレンジ)、黄鉛、黄色酸化鉄、オーカー、群青、コバルトグリーン、シリカ、アルミナ、黒鉛、黒色酸化鉄、銅クロムブラック、コバルトブラック、銅マンガン鉄ブラック、べんがら等の無機系顔料、アゾ系、ナフトール系、ピラゾロン系、アントラキノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジスアゾ系、イソインドリノン系、ベンヅイミダゾール系、フタロシアニン系、キノフタロン系等の有機顔料が挙げられる。」
2c「【実施例】
【0035】
以下に本発明の実施例を示す。
【0036】
<下塗材の作製>
〔下塗材A〕
合成樹脂エマルションA(アクリルスチレン共重合体エマルション、ガラス転移温度15℃、固形分50重量%)を30重量部に対して、平均粒子径0.3μmの酸化チタン5重量部、平均粒子径8.0μmの炭酸カルシウム52重量部と、塗料用添加剤(増粘剤、消泡剤等)3重量部を混合して下塗材用ペースト作製し、さらに平均粒子径0.5mmの寒水石を10重量部加え(寒水石の重量比率:10重量%)十分に混練し、下塗材Aを作製した。
【0037】
〔下塗材B〕
合成樹脂エマルションAを20重量部に対して、平均粒子径0.3μmの酸化チタン5重量部、塗料用添加剤(増粘剤、消泡剤等)3重量部を混合して下塗材用ペーストを作製し、さらに平均粒子径0.5mmの寒水石を72重量部加え(寒水石の重量比率:72重量%)十分に混練し、下塗材Bを作製した。
【0038】
〔下塗材C〕
合成樹脂エマルションAを30重量部に対して、平均粒子径0.3μmの酸化チタン5重量部、平均粒子径8.0μmの炭酸カルシウム32重量部と、塗料用添加剤(増粘剤、消泡剤等)3重量部を混合して下塗材用ペースト作製し、さらに平均粒子径0.5mmの寒水石を30重量部加え(寒水石の重量比率:30重量%)十分に混練し、下塗材Cを作製した。
【0039】
〔下塗材D〕
合成樹脂エマルションAを30重量部に対して、平均粒子径0.3μmの酸化チタン5重量部、平均粒子径8.0μmの炭酸カルシウム32重量部と、塗料用添加剤(増粘剤、消泡剤等)3重量部を混合して下塗材用ペースト作製し、さらに平均粒子径0.8mmの寒水石を30重量部加え(寒水石の重量比率:30重量%)十分に混練し、下塗材Dを作製した。
【0040】
〔下塗材E〕
合成樹脂エマルションAを30重量部に対して、平均粒子径0.3μmの酸化チタン5重量部、平均粒子径8.0μmの炭酸カルシウム60重量部と、塗料用添加剤(増粘剤、
消泡剤等)3重量部を混合して下塗材用ペースト作製し、さらに平均粒子径0.5mmの寒水石を2重量部加え(寒水石の重量比率:2重量%)十分に混練し、下塗材Eを作製した。
【0041】
〔下塗材F〕
合成樹脂エマルションAを8重量部に対して、平均粒子径0.3μmの酸化チタン4重量部、塗料用添加剤(増粘剤、消泡剤等)3重量部を混合して下塗材用ペースト作製し、さらに平均粒子径0.5mmの寒水石を85重量部加え(寒水石の重量比率:85重量%)十分に混練し、下塗材Fを作製した。
【0042】
〔下塗材G〕
合成樹脂エマルションAを30重量部に対して、平均粒子径0.3μmの酸化チタン5重量部、平均粒子径8.0μmの炭酸カルシウム32重量部と、塗料用添加剤(増粘剤、消泡剤等)3重量部を混合して下塗材用ペースト作製し、さらに平均粒子径0.08mmの炭酸カルシウムを30重量部加え十分に混練し、下塗材Gを作製した。
【0043】
〔下塗材H〕
合成樹脂エマルションAを30重量部に対して、平均粒子径0.3μmの酸化チタン5重量部、平均粒子径8.0μmの炭酸カルシウム32重量部と、塗料用添加剤(増粘剤、消泡剤等)3重量部を混合して下塗材用ペースト作製し、さらに平均粒子径2.0mmの寒水石を30重量部加え十分に混練し、下塗材Hを作製した。」

(3)甲第3号証(以下、「甲3」という。)
3a「[請求項1]
(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主単量体成分とするアクリル樹脂、及び環状シロキサン化合物を主単量体成分とするシリコーン樹脂が99:1〜30:70の重量比率でエマルション粒子内に混在する合成樹脂エマルション(A)、ならびに、
平均粒子径0.5〜500μm、吸油量60ml/100g以下の粉粒体(B)を必須成分とし、当該粉粒体(B)の顔料容積濃度が10〜90%であることを特徴とするコーティング剤。」
3b「[0001]
本発明は、新規なコーティング剤に関するものである。なお前記コーティング剤には、水性塗料組成物、水性インク組成物などが含まれる。」
3c「[0024]
(A)成分を構成するアクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とする重合体であり、必要に応じその他のモノマーを共重合したものである。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。このような(メタ)アクリル酸アルキルエステルの使用量は、(A)成分を構成する全モノマーに対し、通常30重量%以上、好ましくは40〜99.9重量%、より好ましくは50〜99.5重量%、さらに好ましくは70〜99.5重量%である。」

(4)参考資料1
4a「1.適用範囲
この規格は,1回塗りで多彩模様の仕上げをする多彩模様塗料について規定する。
参考 多彩模様塗料は,液状又はゲル状の2色以上の色の粒が懸濁したもので,1回の塗装で散らし
模様ができる塗料である。」第5ページ下から第3行〜第6ページ第2行)

3 甲1に記載された発明
甲1には、請求項1及び実施例1からみて、「一般住宅用軽量気泡コンクリ−ト(大きさ100×50×3cm)である被塗物に、
アクリル樹脂及び硬質で表面が鋭角的な形状を有しており、粒径0.5〜1mmのものを80重量%以上含有する破砕石を水に混合、分散せしめてなり、破砕石はアクリル樹脂100重量部(固形分)あたり50重量部を含有しており、塗装時における粘度を回転式粘度計で、20℃において300ポイズに調整した下塗り塗料(A)aを、
ブラシ部分が羊毛であるロ−ラ塗装器具で塗布量が塗料として300g/m2 になるように塗装し、その塗膜を室温で約10時間放置して乾燥させ、
つぎに、この塗面に、上水100部及びメチルセルロ−ス0.5部からなる水系分散液に、
ミネラスピリット45部を100℃に加熱し、これにスチレン10部、iso−ブチルメタクリレ−ト49部、n−ブチルアクリレ−ト31部、2−ヒドロキシエチルアクリレ−ト10部、t−ブチルパ−オキシ−2−エチルヘキサノエ−ト0.13部の混合物100.13部を3時間かけて一定速度で滴下し、その後同温度で2時間保ち撹拌を続け、その後、追加の上記重合開始剤0.5部をミネラスピリット30部に溶解させたものを1時間かけて一定速度で滴下し、さらに同温度で1時間保ち反応を終了してから、ミネラスピリット48部で希釈して得た、不揮発分は45%の均一な透明溶液である樹脂溶液(i)と、
スチレン20部、iso−ブチルメタクリレ−ト63部、n−ブチルアクリレ−ト17部を用い、上記樹脂溶液(i)と同様にして得た、不揮発分45%の均一な透明の樹脂溶液(ii)を、樹脂溶液(i)と樹脂溶液(ii)とを固形分比で30/70になるように混合した混合樹脂溶液を得た後、
混合樹脂溶液210部にチタン白72部、タルク30部、ベントナイト24部及びミネラスピリット234部からなるエナメル(白)80部、
混合樹脂溶液210部にオキサイドエロ−72部、タルク30部、ベントナイト24部及びミネラスピリット234部からなるエナメル(黄)80部、
混合樹脂溶液210部にベンガラ30部、タルク60部、ベントナイト24部及びミネラスピリット210部からなるエナメル(赤)80部、
混合樹脂溶液210部にカ−ボンブラック12部、タルク72部、ベントナイト24部及びミネラスピリット144部からなるエナメル(黒)80部、
及び、混合樹脂溶液210部にフタロシアニンブル−48部、タルク60部、ベントナイト24部及びミネラスピリット162部からなるエナメル(青)80部を、
それぞれ別々に混合し、低速で撹拌してエナメル粒子の大きさが1〜3mmになるように分散してから、ヘキサメチレンジイソシアネ−ト0.8部を加えさらに1時間撹拌して、白、黄、赤、黒、青の各色エナメルの水分散液をそれぞれ作成し、
この5色の水分散液を固形分比で白/黄/赤/黒/青=60/10/10/10/10の配合比で混合し、得た水性多彩模様塗料(B)a)をロ−ラ塗装してから、室温で約30分間放置し完全乾燥しないうちに、水で湿潤させた表面が平滑なゴムロ−ラを使用して模様塗面を押さえながらロ−ラを回転させて平滑な塗面にし、その後、室温で8時間放置してその模様塗膜を乾燥させ、ついで、この乾燥させた模様塗膜面に、再度、水性多彩模様塗料(B)aを上記と同じロ−ラ塗装器具を用いて、塗布量が塗料を基準に900g/m2 になるように塗装し、室温で10時間放置し乾燥することにより、多彩模様塗膜を形成する方法。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる(摘記1a、1c参照)。

4 対比・判断
(1)本件特許発明1
ア 引用発明との対比
本件特許発明1と引用発明を対比する。
引用発明の「一般住宅用軽量気泡コンクリ−ト(大きさ100×50×3cm)である被塗物」は本件特許発明1の「壁面」に相当する。
引用発明の「下塗り塗料(A)a」は、本件特許発明1の「下塗材」に相当し、引用発明の「水性多彩模様塗料(B)a」は、下塗り塗料(A)aの上に塗装するものであるから、本件特許発明1の「上塗材」に相当し、引用発明の「下塗り塗料(A)aを、ブラシ部分が羊毛であるロ−ラ塗装器具で塗布量が塗料として300g/m2 になるように塗装し、その塗膜を室温で約10時間放置して乾燥させ、つぎに」及び「水性多彩模様塗料(B)a)をロ−ラ塗装してから、室温で約30分間放置し完全乾燥しないうちに、水で湿潤させた表面が平滑なゴムロ−ラを使用して模様塗面を押さえながらロ−ラを回転させて平滑な塗面にし、その後、室温で8時間放置してその模様塗膜を乾燥させ、ついで、この乾燥させた模様塗膜面に、再度、水性多彩模様塗料(B)aを上記と同じロ−ラ塗装器具を用いて、塗布量が塗料を基準に900g/m2 になるように塗装し、室温で10時間放置し乾燥することにより、多彩模様塗膜を形成する方法。」は、本件特許発明1の「下塗材及び上塗材を順に塗付する被膜形成方法」に相当する。
引用発明の「粒径0.5〜1mmのものを80重量%以上含有する破砕石」は本件特許発明1の「粒径45μm以上の粉粒体」に相当するから、引用発明の「アクリル樹脂及び硬質で表面が鋭角的な形状を有しており、粒径0.5〜1mmのものを80重量%以上含有する破砕石を水に混合、分散せしめてなり」は、本件特許発明1の「アクリル樹脂エマルション」に相当し、引用発明の「破砕石はアクリル樹脂100重量部(固形分)あたり50重量部を含有しており」は本件特許発明1の「アクリル樹脂エマルションの固形分100重量部に対し」及び「粒径45μm以上の粉粒体を10〜500重量部含み」に相当する。
引用発明の「上水100部及びメチルセルロ−ス0.5部からなる水系分散液に、
ミネラスピリット45部を100℃に加熱し、これにスチレン10部、iso−ブチルメタクリレ−ト49部、n−ブチルアクリレ−ト31部、2−ヒドロキシエチルアクリレ−ト10部、t−ブチルパ−オキシ−2−エチルヘキサノエ−ト0.13部の混合物100.13部を3時間かけて一定速度で滴下し、その後同温度で2時間保ち撹拌を続けた。その後、追加の上記重合開始剤0.5部をミネラスピリット30部に溶解させたものを1時間かけて一定速度で滴下し、さらに同温度で1時間保ち反応を終了してから、ミネラスピリット48部で希釈して得た、不揮発分は45%の均一な透明溶液である樹脂溶液(i)と、
スチレン20部、iso−ブチルメタクリレ−ト63部、n−ブチルアクリレ−ト17部を用い、上記樹脂溶液(i)と同様にして得た、不揮発分45%の均一な透明の樹脂溶液(ii)を、樹脂溶液(i)と樹脂溶液(ii)とを固形分比で30/70になるように混合した混合樹脂溶液を得た後、
混合樹脂溶液210部にチタン白72部、タルク30部、ベントナイト24部及びミネラスピリット234部からなるエナメル(白)80部、
混合樹脂溶液210部にオキサイドエロ−72部、タルク30部、ベントナイト24部及びミネラスピリット234部からなるエナメル(黄)80部、
混合樹脂溶液210部にベンガラ30部、タルク60部、ベントナイト24部及びミネラスピリット210部からなるエナメル(赤)80部、
混合樹脂溶液210部にカ−ボンブラック12部、タルク72部、ベントナイト24部及びミネラスピリット144部からなるエナメル(黒)80部、
及び、混合樹脂溶液210部にフタロシアニンブル−48部、タルク60部、ベントナイト24部及びミネラスピリット162部からなるエナメル(青)80部を
それぞれ別々に混合し、低速で撹拌してエナメル粒子の大きさが1〜3mmになるように分散してから、ヘキサメチレンジイソシアネ−ト0.8部を加えさらに1時間撹拌して、白、黄、赤、黒、青の各色エナメルの水分散液をそれぞれ作成し、この5色の水分散液を固形分比で白/黄/赤/黒/青=60/10/10/10/10の配合比で混合し、得た水性多彩模様塗料(B)a)」は、
JIS K5667:2003によれば、多彩模様塗料は、液状又はゲル状の2色以上の色の粒が懸濁したものであるから(摘記4a参照)、本件特許発明1の「JIS K5667:2003に規定される液状またはゲル状の色粒」であるといえるから、本件特許発明1の「JIS K5667:2003に規定される液状またはゲル状の色粒が水性媒体に分散してなるものであり、
上記色粒の粒径は0.1〜10mmである」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と引用発明は、「壁面に対し、下塗材及び上塗材を順に塗付する被膜形成方法であって、
上記下塗材は、アクリル樹脂エマルションの固形分100重量部に対し、粒径45μm以上の粉粒体を10〜500重量部含み、
上記上塗材は、JIS K5667:2003に規定される液状またはゲル状の色粒が水性媒体に分散してなるものであり、
上記色粒の粒径は0.1〜10mmである
ことを特徴とする被膜形成方法。」である点で一致し、以下の点相違する。

<相違点1>
下塗材が、本件特許発明1では、アクリル樹脂エマルションの固形分100重量部に対し、着色顔料を3〜300重量部含むのに対し、引用発明は着色顔料を含まない点。

<相違点2>
アクリル樹脂エマルションが、本件特許発明1では炭素数3以上のアルキル主鎖を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを、樹脂構成成分中に20重量%以上含むものであるのに対し、引用発明はそのような特定がない点。

イ 相違点についての検討
事案に鑑み、まず、<相違点2>について検討する。
<相違点2>について
甲1にも甲2にも、引用発明のような多彩模様塗膜形成法に用いられる下塗り塗料に用いられるアクリル樹脂として、炭素数3以上のアルキル主鎖を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルは記載も示唆もないし、それを樹脂構成成分中に20重量%以上含むことについても記載も示唆もない。
特に、甲1には、甲1発明の「アクリル樹脂」について、その段落14にビニル樹脂やポリエステル樹脂などの熱可塑性樹脂が適していると記載されているので、このような記載に接した当業者は、アクリル樹脂をビニル樹脂などに変更することを着想しえるとはいえても、アクリル樹脂をさらに限定することを動機づけるような記載はない。
そうすると、甲1及び甲2の記載から、引用発明のアクリル樹脂エマルションにおいて、炭素数3以上のアルキル主鎖を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含むものとして、それを樹脂構成成分中に20重量%以上含むものとすることは当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。
一方、甲3には、水性塗料組成物のようなコーティング剤に含まれるアクリル樹脂エマルションにおけるアクリル樹脂が列記され、その中でn−ブチル(メタ)アクリレート、イソ−ブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート(以下「n−ブチル(メタ)アクリレート等」という。)が含まれ、その使用量は全モノマーに対して30重量%以上が好ましいことが、記載されており(摘記3a〜3c参照)、n−ブチル(メタ)アクリレート等は炭素数3以上のアルキル主鎖を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルである。
しかし、甲3の水性塗料組成物は、引用発明のような多彩模様塗膜形成法に用いられる下塗り塗料とは異なるから、引用発明のような多彩模様塗膜形成法に用いられる下塗り塗料のアクリル樹脂として、甲3に記載の水性塗料組成物に用いられるn−ブチル(メタ)アクリレート等のような炭素数3以上のアルキル主鎖を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを採用する動機付けはないし、仮に、引用発明において、甲3に列記される(メタ)アクリル酸アルキルエステルのうちn−ブチル(メタ)アクリレート等のような炭素数3以上のアルキル主鎖を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを採用する動機付けがあったとしても、それらを樹脂構成成分中に20重量%以上含むものとする動機付けもない。
そうすると、引用発明のアクリル樹脂エマルションにおいて、甲3の水性塗料組成物のようなコーティング剤に含まれるアクリル樹脂エマルションのように、炭素数3以上のアルキル主鎖を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含むものとして、それを樹脂構成成分中に20重量%以上含むものとすることは当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。

ウ 本件特許発明1の効果について
本件特許明細書【0060】の【表1】及び【表2】からみて、アクリル樹脂エマルションが、炭素数3以上のアルキル主鎖を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを、樹脂構成成分中に20重量%以上含むものである実施例1〜10のものが、それを20重量%以下含む実施例11のものと比較して、作業性に優れており、色粒の偏りが生じず、彩り豊かな美観性を呈しているから、本件特許発明1は、引用発明と比べて予測ができない格別顕著な効果を奏するといえる。

エ 小括
したがって、本件特許発明1は、<相違点1>について検討するまでもなく、甲1に記載された発明及び甲2〜甲3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。

(2)本件特許発明2〜5
本件特許発明2〜5は、本件特許発明1を引用してさらに限定するものであり、上記本件特許発明1と引用発明との<相違点2>と同じ相違点を有するものであって、<相違点2>については上記(1)イ及びウで検討したとおりであるから、本件特許発明2〜5は、1に記載された発明及び甲2〜甲3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1〜5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1〜5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-06-09 
出願番号 P2017-194819
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B05D)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 亀ヶ谷 明久
特許庁審判官 蔵野 雅昭
瀬下 浩一
登録日 2021-09-17 
登録番号 6946139
権利者 ベック株式会社
発明の名称 被膜形成方法  

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