• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  E05F
審判 全部申し立て 2項進歩性  E05F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  E05F
管理番号 1386201
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-03-24 
確定日 2022-07-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第6950019号発明「ウインドレギュレータ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6950019号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6950019号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成27年4月21日に出願した特願2015−86653号の一部を、令和2年2月17日に新たな特許出願としたものであって、令和3年9月27日にその特許権の設定登録がされ、令和3年10月13日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1ないし3に係る特許に対し、令和4年3月24日に特許異議申立人中野圭二(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6950019号の請求項1ないし3の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」等といい、全体の発明を「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
A ガイドレール、キャリアプレート、上昇側ケーブルおよび下降側ケーブルを備えたウインドレギュレータであって、
B 前記キャリアプレートに、前記上昇側ケーブルのエンドを収容する上昇側エンドホルダと、前記下降側ケーブルのエンドを収容する下降側エンドホルダとを有し、
C 前記上昇側エンドホルダは前記上昇側ケーブルが前記ガイドレール外側となるように設けられ、
D 前記下降側エンドホルダは前記下降側ケーブルが前記ガイドレール上となるように設けられ、
E 前記ガイドレールは、底面部と、前記底面部の両端において長手方向に沿って設けられた第1側壁部および第2側壁部と、を有し、
F 前記上昇側エンドホルダと前記下降側エンドホルダは、正面視において前記第1側壁部を挟むように配置されており、
G 前記第1側壁部は、前記底面部から屈曲して立ち上がった第1部分と、前記第1部分に設けられ、前記底面部と平行且つ幅方向外側に伸びた第2部分と、を有し、
H 前記キャリアプレートは、前記第1側壁部に対応した第1ガイド溝と、前記第2側壁部に対応した第2ガイド溝を有し、
I 前記キャリアプレートの昇降時に、前記キャリアプレートが前記第1側壁部と前記第2側壁部に沿って昇降するようにされ、
J 前記キャリアプレートが前記ガイドレールの前記長手方向の中間部から上端位置付近の間にあるときに、前記下降側ケーブルは前記ガイドレールに当接している、
K ウインドレギュレータ。
【請求項2】
L 前記下降側ケーブルが掛けられている索掛け部材をさらに備え、
M 前記ガイドレールの幅が前記索掛け部材の外径よりも短い、
N 請求項1に記載のウインドレギュレータ。
【請求項3】
O 前記索掛け部材における前記下降側ケーブルの導出部は、前記ガイドレールの上に位置する、
P 請求項2に記載のウインドレギュレータ。」
(請求項1ないし3についての分説は、申立人の主張に基づく。)

第3 特許異議申立理由の概要及び証拠
1 特許異議申立理由の概要
申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、概ね以下の申立て理由を主張するとともに、証拠方法として以下に示す各甲号証を提出している。
(1)進歩性
ア 本件発明1ないし3は、甲1発明、甲第2号証及び甲第3号証に記載された構成又は周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきである。
イ 本件発明1ないし3は、甲4発明、甲第2号証及び甲第3号証に記載された構成又は周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきである。
ウ 本件発明1ないし3は、甲3発明、甲第1号証、甲第2号証及び甲第4号証に記載された構成又は周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきである。
(2)実施可能要件
本件発明1ないし3は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、その発明に係る特許は、取り消されるべきである。
(3)サポート要件
本件発明1ないし3は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、その発明に係る特許は、取り消されるべきである。
(4)新規事項
本件発明1ないし3は、特許法第17条の2第3項の規定に違反しているから、その発明に係る特許は、取り消されるべきである。
(5)明確性要件
本件発明1ないし3は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、その発明に係る特許は、取り消されるべきである。

2 証拠
甲第1号証:実願平2−78707号(実開平4−37787号)のマ イクロフィルム
甲第2号証:特開2014−88670号公報
甲第3号証:特開2015−48605号公報
甲第4号証:特開2010−116761号公報

第4 各甲号証の記載
1 甲第1号証
(1)甲第1号証の記載
甲第1号証には、以下の事項が記載されている。(下線は決定で付した。以下同様。)
ア「<産業上の利用分野>
本考案は、ドアウインドウを昇降動させるドアウインドウレギュレータに関する。」
(明細書2頁2−4行)

イ「<従来の技術>
・・・
ドア1にはドアウインドウ2の昇降を案内するガイドレール3が設けられ、ガイドレール3にはキャリアプレート4が摺動自在に支持されている。キャリアプレート4にはドアウインドウ2が固定され、キャリアプレート4がガイドレール3に沿って摺動することによりドアウインドウ2が昇降する。
ガイドレール3の上下にはガイドローラ5,6が回転自在に支持され、ガイドローラ5,6にはキャリアプレート4を昇降させるためのワイヤ7が巻回されている。一方、ドア1にはドアウインドウ2を昇降させるためのモータ8が設けられ、モータ8によりワイヤ7を駆動してドアウインドウ2を開閉するようになっている。」
(明細書2頁5行〜3頁11行)

ウ「<課題を解決するための手段>
上記課題を解決するための本考案の構成は、全開位置と全閉位置における中心位置が車幅方向に異なるドアウインドウを昇降させるドアウインドウレギュレータであって、ドアに設けられ上下方向に延びるガイドレールと、ガイドレールに移動自在に支持されドアウインドウを保持するキャリアプレートと、駆動源とキャリアプレートとをつなぎキャリアプレートの移動を行なわせるワイヤと、ガイドレールの上端部及び下端部にそれぞれ設けられワイヤを巻回するガイドローラと、ワイヤに設けられキャリアプレートが降下端移動してドアウインドウが全開となった際に上端部のガイドローラの近傍に位置しドアウインドウの上端部を押圧して車幅方向に拘束するダンパ部材とからなることを特徴とする。」
(明細書4頁10行〜5頁6行)

エ「駆動源を介してワイヤを駆動することでキャリアプレートがガイドレールに沿って移動しドアウインドウが昇降する。」
(明細書5頁8〜10行)

オ「<実 施 例>
第1図は本考案の一実施例に係るドアウインドウレギュレータの斜視、第2図には第1図のII−II線矢視、第3図(a)には第1図のIII−III線矢視、第3図(b)には第1図のIV−IV線矢視を示してある。尚、従来のドアウインドウレギュレータと同一部材には同一符号を付して重複する説明は省略する。
キャリアプレート4を移動させるためのワイヤ7にはダンパ部材21が取付けられ、ダンパ部材21が取付けられている側のワイヤ7に対応するガイドレール3には、ダンパ部材21がキャリアプレート4を退避するためのビード22が形成されている(第2図,第3図(a)参照)。
ワイヤ7の駆動によってキャリアプレート4が降下端に移動してドアウインドウ2が全開となった際、ダンパ部材21はガイドレール3の上端部がガイドローラ5の近傍に位置し、ドアウインドウ2の上端部がダンパ部材21に押圧されて車幅方向に拘束される(第2図中実線で示す)。
ワイヤ7の駆動によってキャリアプレート4が上昇端に移動してドアウインドウ2が全閉となった際、ダンパ部材21はガイドレール3の下端部のガイドローラ6の近傍に位置し、ダンパ部材21はビード22に案内されてドアウインドウ2の下端部を押圧することはない(第2図中破線で示す)。
キャリアプレート4の移動時にガイドレール3の略中央部でダンパ部材とすれ違うが、ダンパ部材21はビード22に案内されキャリアプレト4に干渉しない(第2図中一点鎖線で示す)。
従って、上記構成のドアウインドウレギュレータを用いることにより、ドアウインドウ2を全開した際に、ドアウインドウ2の上端部がダンパ部材21により車幅方向に拘束されて十分な支持力で支持される。」
(明細書5頁16行〜7頁14行)

カ 図面
(ア)第1図




第1図から、以下の点が看取できる。
・ワイヤが、ガイドレール7上となるように設けられた点。
・ガイドレール7が、底面部分と、底面部分の両側において立ち上がり長手方向に沿った壁とを有している点。

(イ)第2図




(ウ)第3図




上記第1図を参酌すると、第3図から、ガイドレール3の両側の壁のうち、一方の壁は、底面部分から屈曲して立ち上がったくの字状の第1の部分と、前記第1の部分に設けられ、前記底面部分と略平行且つ幅方向に伸びた第2の部分とを有している点を看取することができる。


(2)甲第1号証に記載された発明
上記(1)によれば、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
(甲1発明)
「ドアウインドウレギュレータであって、
ドアに設けられ上下方向に延びるガイドレールと、ガイドレールに移動自在に支持されドアウインドウを保持するキャリアプレートと、駆動源とキャリアプレートとをつなぎキャリアプレートの移動を行なわせるワイヤと、ガイドレールの上端部及び下端部にそれぞれ設けられワイヤを巻回するガイドローラと、ワイヤに設けられキャリアプレートが降下端移動してドアウインドウが全開となった際に上端部のガイドローラの近傍に位置しドアウインドウの上端部を押圧して車幅方向に拘束するダンパ部材とからなり、
ワイヤが、ガイドレール上となるように設けられ、
ガイドレールが、底面部分と、底面部分の両側において立ち上がり長手方向に沿った壁とを有していて、
ガイドレールの両側の壁のうち、一方の壁は、底面部分から屈曲して立ち上がったくの字状の第1の部分と、前記第1の部分に設けられ、前記底面部分と略平行且つ幅方向に伸びた第2の部分とを有し、
駆動源を介してワイヤを駆動することでキャリアプレートがガイドレールに沿って移動しドアウインドウが昇降する、
ドアウインドウレギュレータ。」

2 甲第2号証
(1)甲第2号証の記載
甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
ア「【0001】
本発明は、ウインドレギュレータに関し、特に、自動車等に装着される窓ガラスを昇降もしくは開閉するウインドレギュレータに関する。」

イ「【0022】
(2−1)キャリアプレート
図3は、ガイドレールに嵌合した状態のキャリアプレートの正面図、図4は、キャリアプレートの正面図、図5は、図3のV−V線断面図、図6は、キャリアプレートの正面図、図7は、図6のVIIーVII線断面図である。
図5に示すように、ガイドレール34は、キャリアプレート30を案内するX方向に延設され、窓ガラスの幅方向に幅を有する平板状の本体部341と、本体部341の幅方向両端から垂直に折曲された第1突条342,第2突条343を備えている。
【0023】
キャリアプレート30は、平板状の本体部301と、本体部301の一方の面に形成された案内嵌合部302とを有している。
案内嵌合部302は、ガイドレール34に嵌合され、キャリアプレート30がガイドレール34に沿って上昇・下降移動することができるようにキャリアプレート30を案内する部分であり、キャリアプレート30の一部に設けられている。
本実施形態においては、案内嵌合部302は、第1挿入溝303、第2挿入溝304、第1嵌合爪305、第2嵌合爪306、上昇用ワイヤ収納部307、下降用ワイヤ収納部308を有している。
第1挿入溝303、第2挿入溝304は、それぞれガイドレール34の第1突条342、第2突条343を受け入れることが可能な所定の深さの溝である。」

ウ「【0031】
(2−2)間隔抑制機構
間隔抑制機構330は、案内嵌合部302とガイドレール34との間の間隔をほぼない状態又は、ガタ等による異常な状態を引き起こさない程度の間隔とする機構である。
上昇用ワイヤ32の移動により作動する間隔抑制機構330は、上昇用ワイヤ収納部307が有する板バネ状部材313、及び抑制部317によって構成され、キャリアプレート30の案内嵌合部302とガイドレール34との間の間隔を抑制する。また、下降用ワイヤ33の移動により作動する間隔抑制機構330は下降用ワイヤ収納部308が有する板バネ状部材323、及び抑制部327によって構成され、キャリアプレート30の案内嵌合部302とガイドレール34との間の間隔を抑制する。間隔抑制機構330の構成及び動作を以下に説明する。
【0032】
上昇用ワイヤ32の端部は、上昇用ワイヤ収納部307内にて上下に移動可能なように収納され、ワイヤエンド部32Aを有する。ワイヤエンド部32Aは、端部の移動により、板バネ状部材313を押動するようにされている。本実施形態においてワイヤエンド部32Aは、上昇用ワイヤの末端部に設けられた円筒形の部材より形成されており、円筒形の部材が板バネ状部材313を押動する。
上昇用ワイヤ32のワイヤエンド部32Aは、上昇用ワイヤ収納部307の端部収納空間312内に収納されている。端部収納空間312は、第3側壁311C側では、ワイヤエンド部32Aの径よりも幅が大きく、第1側壁311A側では、板バネ状部材313が傾斜していることによって、ワイヤエンド部32Aの径よりも幅が小さくなっている。また、端部収納空間312は、上昇用ワイヤ32の延びる方向に対して、ワイヤエンド部32Aの長さより大きくなっている。
・・・
【0035】
同様に、下降用ワイヤ33の端部は、下降用ワイヤ収納部308内にて上下に移動可能なように収納され、ワイヤエンド部33Aを有する。ワイヤエンド部33Aは、端部の移動により、板バネ状部材323を押動するようにされている。本実施形態においてワイヤエンド部33Aは、下降用ワイヤ33の末端部に設けられた円筒形の部材より形成されており、円筒形の部材が板バネ状部材323を押動する。
下降用ワイヤ33のワイヤエンド部33Aは、下降用ワイヤ収納部308の端部収納空間322内に収納されている。端部収納空間322は、第3側壁321C側では、ワイヤエンド部33Aの径よりも幅が大きく、第1側壁321A側では、板バネ状部材323が傾斜していることによって、ワイヤエンド部33Aの径よりも幅が小さくなっている。また、端部収納空間322は、下降用ワイヤ33の延びる方向に対して、ワイヤエンド部33Aの長さより大きくなっている。
【0036】
また、ワイヤエンド部33Aは、下降用ワイヤ33のワイヤエンド部33Aからワイヤが延びる方向とは逆方向である上方向へワイヤエンド部33Aを付勢する付勢手段を有している。本実施形態においてワイヤエンド部材33Aは、コイルスプリングでなる付勢部材328によって、第3側壁321C側に付勢されている。したがって、駆動部31により下降用ワイヤ33を巻き取る方向への駆動力がかかっていない場合には、付勢部材328の付勢力によりワイヤエンド部33Aは、端部収納空間322内の第3側壁321C側に位置している(図4参照)。
駆動部31により下降用ワイヤ33を巻き取る方向への駆動力がかかった場合には、ワイヤエンド部33Aが付勢部材328の付勢力に抗して第1側壁321A側に移動する。
このとき、ワイヤエンド部33Aは、板バネ状部材323を第2挿入溝304側に押動する。このことにより、抑制部327が、第2挿入溝304に係合しているガイドレール34の第2突条343側に移動する。これにより、第1突条342と第1挿入溝303との間の間隙、及び第2突条343と抑制部327との間の間隙が、ガタツキ等を生じさせるような間隔から、間隔がほぼ無い状態又はガタ等による異常が生じない程度に抑制される。ガタツキが抑制されることによって、通常の開閉操作の耐久性において、磨耗や劣化によるガラスランの損傷を生じることが無い。」

エ「【0045】
駆動部31は、ガイドレール34の下端部に取り付けられている。駆動部31は、上昇用ワイヤ32及び下降用ワイヤ33の他端が連結されるドラム31aと、ドラム31aを回転駆動する減速機及びモータを含む駆動ユニット31bとを有している。ドラム31aは、ドラムハウジング31cに回動自在に支持されている。
駆動部31は、上昇用ワイヤ32をドラム31aに巻き取り、下降用ワイヤ33をドラム31aから繰り出すことにより窓ガラスを上昇させる。また、上昇用ワイヤ32をドラム31aから繰り出し、下降用ワイヤ33をドラム31aに巻き取ることにより窓ガラスを下降させる。なお、駆動部31は、クランクハンドルを有する手動操作のものでもよい。
また、駆動部31のドラムハウジング31cには、キャリアプレート30の下降方向への移動を規制するストッパ38が設けられている。ストッパ38は、キャリアプレート30の下端位置が窓ガラスの開放端位置に対応するように、ドラムハウジング31cから上方へ向延びるように形成されている。」

オ 図面
(ア)図4




(イ)図5




(ウ)図8




(2)甲第2号証に記載された発明
上記(1)によれば、甲第2号証には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。
(甲2発明)
「ウインドレギュレータにおいて、
ガイドレール34は、キャリアプレート30を案内する方向に延設され、窓ガラスの幅方向に幅を有する平板状の本体部341と、本体部341の幅方向両端から垂直に折曲された第1突条342,第2突条343を備えており、
キャリアプレート30は、平板状の本体部301と、本体部301の一方の面に形成された案内嵌合部302とを有していて、
案内嵌合部302は、ガイドレール34に嵌合され、キャリアプレート30がガイドレール34に沿って上昇・下降移動することができるようにキャリアプレート30を案内する部分であり、キャリアプレート30の一部に設けられており、
案内嵌合部302は、第1挿入溝303、第2挿入溝304、第1嵌合爪305、第2嵌合爪306、上昇用ワイヤ収納部307、下降用ワイヤ収納部308を有し、
上昇用ワイヤ32の端部は、上昇用ワイヤ収納部307内にて上下に移動可能なように収納され、ワイヤエンド部32Aを有し、上昇用ワイヤ32のワイヤエンド部32Aは、上昇用ワイヤ収納部307の端部収納空間312内に収納されており、
下降用ワイヤ33の端部は、下降用ワイヤ収納部308内にて上下に移動可能なように収納され、ワイヤエンド部33Aを有し、下降用ワイヤ33のワイヤエンド部33Aは、下降用ワイヤ収納部308の端部収納空間322内に収納されており、
駆動部31は、ガイドレール34の下端部に取り付けられ、上昇用ワイヤ32及び下降用ワイヤ33の他端が連結されるドラム31aと、ドラム31aを回転駆動する減速機及びモータを含む駆動ユニット31bとを有しているウインドレギュレータ。」

3 甲第3号証
(1)甲第3号証の記載
甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、車両の窓ガラスを昇降させるウインドレギュレータに関する。」

イ 「【0015】
以下、図面を参照しつつ、本発明のウインドレギュレータ1の実施形態について説明する。図1に示すように、ウインドレギュレータ1は、図示しない車両ドアの内部に収納されて、車両の窓ガラス2を昇降させる装置である。ウインドレギュレータ1は、車両の窓ガラス2を保持するキャリアプレート3と、キャリアプレート3を案内するガイドレール4と、ガイドレール4の下端に設けられる駆動装置5と、ガイドレール4の上端に設けられる方向転換部材6と、一端がキャリアプレート3に取り付けられ、他端が方向転換部材6を介して駆動装置5に取り付けられ、駆動装置5の駆動力をキャリアプレート3へ伝達する上昇用インナーケーブル7と、一端がキャリアプレート3に固定され、他端が駆動装置5に取付けられる下降用インナーケーブル8と、方向転換部材6と駆動装置5との間に配索された上昇用インナーケーブル7の外周を覆う保護チューブ9と、保護チューブ9を保持するブラケット15と、を備えている。なお、本願において保護チューブにより保護されるインナーケーブルは、本実施形態においては上昇用インナーケーブル7がこれに相当する。
【0016】
なお、本実施形態では駆動装置5はガイドレール4の下端に設けられるが、駆動装置5の位置はこれに限定されず、ガイドレール4の上端又はガイドレール4の上端から下端までの間の適宜位置に設けられるものであってもよい。
【0017】
また、図1において、下降用インナーケーブル8はガイドレール4の裏側に隠れて配索されているので視認できないが、説明の便宜上破線で示しており、同様にキャリアプレート3のガイドレール4の裏側に隠れる部分の一部についても破線で示している。また、図1において窓ガラス2は一部を省略して記載している。
【0018】
キャリアプレート3は、ガイドレール4へ摺動可能に取付けられている。キャリアプレート3がガイドレール4の上端付近まで上昇すると、キャリアプレート3に保持されている窓ガラス2も上昇し、車両に設けられた図示しない窓開口部が窓ガラス2によって完全に閉じられる。このように窓ガラス2が窓開口部を完全に閉じた場合におけるキャリアプレート3のガイドレール4上の相対位置をキャリアプレート3の上限位置とする。キャリアプレート3は上限位置と、ガイドレール4の下端付近の下限位置との間で摺動可能にガイドレール4に取り付けられており、キャリアプレート3が下限位置にあるとき、窓ガラス2は図示しない窓開口部が全開状態となる。
【0019】
キャリアプレート3には、上昇用インナーケーブル7および下降用インナーケーブル8のそれぞれの一端部に設けられた公知のケーブルエンド(図示なし)が固定されている。また、キャリアプレート3には窓ガラス2を固定する取付孔10が形成されている。そして、ガイドレール4は、キャリアプレート3が摺動可能な長手形状であって、略鉛直方向に向かって延びている。
【0020】
駆動装置5は、図示しない公知の減速機及びモータを備える駆動モータアッセンブリ11と、駆動モータアッセンブリ11の不図示の出力軸に連結される図示しない公知のドラムと、ドラムの上面部を覆うドラムハウジング12とを備えている。ドラムには、上昇用インナーケーブル7及び下降用インナーケーブル8のそれぞれの他端部に設けられた公知のケーブルエンド(図示なし)が、上昇用インナーケーブル7及び下降用インナーケーブル8がドラムに巻き取り可能なように係止されている。上昇用インナーケーブル7及び下降用インナーケーブル8はドラムに巻き取られ又は巻き出されることにより、駆動装置5の駆動力は、キャリアプレート3に伝達されることとなる。
【0021】
上昇用インナーケーブル7および下降用インナーケーブル8は、ウインドレギュレータに使用可能であれば特に限定されるものではなく、複数の金属素線を撚り合せた従来公知のものである。なお、前述の通り、本発明における保護チューブにより保護されるインナーケーブルは、本実施形態においては上昇用インナーケーブル7がこれに相当するが、これに限定されるものではなく、下降用インナーケーブル8に適用しても良い。」

ウ 図面
(ア)図1



上記図1から、上昇用インナーケーブル13は、ガイドレール4の幅方向外側に位置するように設けられいる点が看取できる。

(イ)図6




(2)甲第3号証に記載された発明
上記(1)によれば、甲第3号証には、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されているものと認められる。
(甲3発明)
「車両の窓ガラス2を保持するキャリアプレート3と、キャリアプレート3を案内するガイドレール4と、ガイドレール4の下端に設けられる駆動装置5と、ガイドレール4の上端に設けられる方向転換部材6と、一端がキャリアプレート3に取り付けられ、他端が方向転換部材6を介して駆動装置5に取り付けられ、駆動装置5の駆動力をキャリアプレート3へ伝達する上昇用インナーケーブル7と、一端がキャリアプレート3に固定され、他端が駆動装置5に取付けられる下降用インナーケーブル8と、方向転換部材6と駆動装置5との間に配索された上昇用インナーケーブル7の外周を覆う保護チューブ9と、保護チューブ9を保持するブラケット15と、を備えており、
キャリアプレート3には、上昇用インナーケーブル7および下降用インナーケーブル8のそれぞれの一端部に設けられた公知のケーブルエンドが固定され、窓ガラス2を固定する取付孔10が形成されていて、ガイドレール4は、キャリアプレート3が摺動可能な長手形状であって、略鉛直方向に向かって延びており、
駆動装置5は、公知の減速機及びモータを備える駆動モータアッセンブリ11と、駆動モータアッセンブリ11の出力軸に連結される公知のドラムと、ドラムの上面部を覆うドラムハウジング12とを備え、ドラムには、上昇用インナーケーブル7及び下降用インナーケーブル8のそれぞれの他端部に設けられた公知のケーブルエンドが、上昇用インナーケーブル7及び下降用インナーケーブル8がドラムに巻き取り可能なように係止されていて、
上昇用インナーケーブル13は、ガイドレール4の幅方向外側に位置するように設けられており、
下降用インナーケーブル8はガイドレール4の裏側に隠れて配索されており、
窓ガラス2が窓開口部を完全に閉じた場合におけるキャリアプレート3のガイドレール4上の相対位置をキャリアプレート3の上限位置とし、キャリアプレート3は上限位置と、ガイドレール4の下端付近の下限位置との間で摺動可能にガイドレール4に取り付けられており、キャリアプレート3が下限位置にあるとき、窓ガラス2は窓開口部が全開状態となる、
ウインドレギュレータ1。」

4 甲第4号証
(1)甲第4号証の記載
甲第4号証には、以下の事項が記載されている。
ア「【0001】
本発明はドアガラス昇降装置に関する。」

イ「【0006】
次に本発明の実施の形態について説明する。
図1は本実施の形態のドアガラス昇降装置20を車両の外側から見た正面図、図2は図1のA矢視図である。
車両のドア10は、ドア本体10Aと、インナパネル12と、アウタパネル14と、ドアガラス16と、ドアガラス昇降装置20などを含んで構成されている。
インナパネル12は、ドア本体10Aが車室内に臨む箇所を覆うようにドア本体10Aに取り付けられている。
アウタパネル14は、ドア本体10Aが車室外に臨む箇所を覆うようにドア本体10Aに取り付けられている。
ドアガラス16は、図1に示すように平面視略矩形板状を呈し、下辺の中央から取り付け部1602が膨出形成されている。
ドアガラス16は、ドア本体10Aに設けられた不図示のガイドフレームにより昇降可能に支持されている。
なお、図1、図2において符号10Bは、ドア本体10Aの下部に設けられたドア補強用のインパクトバーを示す。
【0007】
図3はキャリアプレート22の上方限界位置を示すドアガラス昇降装置20の正面図、図4はキャリアプレート22の下方限界位置を示すドアガラス昇降装置20の正面図、図5は図3のA矢視図、図6は図3のXX線断面図である。
【0008】
図3に示すように、ドア昇降装置20は、キャリアプレート22と、ガイドレール24と、プーリ26と、ワイヤドラム28と、駆動機構30と、上昇用ワイヤ32と、下降用ワイヤ34などを含んで構成されている。
【0009】
図3、図6に示すように、キャリアプレート22は、ドア10の幅方向に沿って延在する本体部2202と、本体部2202の幅方向の両側からインナパネル12側に起立された2つの側部2204と、各側部2204の先端から本体部2202の幅方向外方にそれぞれ屈曲形成された2つの取り付け片部2206とを備えている。
各取り付け片部2206にはねじ孔2208が形成され、それらねじ孔2208に、ドアガラス16の取り付け部1602を挿通したねじNが螺合されることでキャリアプレート22がドアガラス16に取り付けられている。
また、本体部2202には、2つのワイヤ取り付け部2220、2222が設けられ、2つの側部2204の内側にはシュー2210がそれぞれ取り付けられている。
【0010】
図5に示すように、ガイドレール24は、アウタパネル14と、ドアガラス16の昇降軌跡Lとの間に配置されている。
図3、図5に示すように、ガイドレール24の上端は、上側ブラケット36を介してアウタパネル14に取り付けられている。
ガイドレール24の下端は、下側ブラケット38を介してインナパネル12に取り付けられている。
図3、図6に示すように、ガイドレール24は、ドア10の幅方向に沿った幅を有して上下に延在する本体板部24Aと、本体板部24Aの幅方向の両側からアウタパネル14側に起立された2つの側板部24Bと、各側板部24Bの先端から本体板部24Aの幅方向外方にそれぞれ屈曲形成された2つのガイド板部24Cとを備えている。
本体板部24Aがアウタパネル14に臨む面は、ドア10の幅方向に沿った幅Wを有してアウタパネル14に臨みつつ上下に延在するガイド面2402として形成されている。
2つの側板部24Bと2つのガイド板部24Cは、本体板部24Aの略全長にわたり本体板部24Aと共に上下に延在している。
このような構成のガイド面2402、側板部24B、ガイド板部24Cを含むガイドレール24は、図5に示すように、車両前後方向視にてアウタパネル14側に凸の縦湾曲状を呈している。
ガイド板部24Cは、キャリアプレート22の各シュー2210に摺動可能に結合され、これにより、キャリアプレート22およびドアガラス16は上下に移動可能に案内される。
【0011】
図3、図5に示すように、プーリ26は上側ブラケット36に取り付けられ、したがって、プーリ26は上側ブラケット36を介してガイドレール24の上端に設けられている。
プーリ26は、上昇用ワイヤ32が巻回されて上昇ワイヤ32の向きを変えるものであり、ガイド面2402の仮想延長面上に位置している。
【0012】
ワイヤドラム28は下側ブラケット38に取り付けられ、したがって、ワイヤドラム28は下側ブラケット38を介してガイドレール24の下端に設けられている。
ワイヤドラム28は、上昇用ワイヤ32および下降用ワイヤ34を駆動するもので、車両側面視にて、上昇用ワイヤ32が巻回され始めるワイヤドラム28の箇所は、ガイド面2402の仮想延長面の幅内に位置しており、下降用ワイヤ34が巻回され始めるワイヤドラム28の箇所は、ガイド面2402の仮想延長面の幅の幅方向外側に位置している。
駆動機構30は下側ブラケット38に取り付けられ、モータ30Aと動力伝達機構30Bを含んで構成されている。
モータ30Aの動力が動力伝達機構30Bを介してワイヤドラム28に伝達されることにより、ワイヤドラム28は正逆転される。
【0013】
図3、図6に示すように、上昇用ワイヤ32は、一端32Aがプーリ26に巻回されてキャリアプレート22の一方のワイヤ取り付け部2220に取着され、他端がワイヤドラム28に巻回されている。言い換えると、上昇用ワイヤ32は、プーリ26を介してキャリアプレート22とワイヤドラム28とを連結しワイヤドラム28に巻き取られることによりキャリアプレート22を上昇させるように構成されている。
図3、図5、図6に示すように、上昇用ワイヤ32は、ガイド面2402に沿わせてガイド面2402の幅内に配置されている。
より詳細に説明すると、図3、図4に示すように、キャリアプレート22の上方限界位置と下方限界位置との間で、上昇用ワイヤ32がワイヤドラム28からプーリ26に至る部分32Bと、プーリ26からワイヤ取り付け部2220に至る部分32Cとが共にガイド面2402の幅W内に位置している。
【0014】
図3、図6に示すように、下降用ワイヤ34は、一端がキャリアプレート22の他方のワイヤ取り付け部2222に取着され、他端がワイヤドラム28に巻回されている。言い換えると、下降用ワイヤ34は、キャリアプレート22とワイヤドラム28とを連結しワイヤドラム28により巻き取られることによりキャリアプレート22を下降させるように構成されている。
図3、図5、図6に示すように、下降用ワイヤ34は、ガイド面2402の幅W方向の外側に配置されている。
より詳細に説明すると、下降用ワイヤ34は、車両側面視にて、ガイドレール24からドア10の幅方向に離れた箇所に配置されており、また、車両前後方向視にて、下降用ワイヤ34は、ガイドレール24よりもインナパネル12側に(ドア10の車幅方向内側に)変位した箇所に配置されている。
本実施の形態では、車両前後方向視にて、ドアガラス16の昇降軌跡Lと、下降用ワイヤ34の昇降軌跡とはそれらの一部が重なっている。
なお、上昇用ワイヤ32および下降用ワイヤ34として単一のワイヤを用いたり、別々のワイヤを用いるなど任意である。単一のワイヤを用いる場合には、ワイヤドラム28に単一のワイヤが巻回され、上昇用ワイヤ32は前記単一のワイヤの一方の端部で構成され、下降用ワイヤ34は単一のワイヤの他方の端部で構成されることになる。
【0015】
次にドアガラス昇降装置20の動作について説明する。
まず、ドアガラス16が上昇する場合の動作について説明する。
予め、キャリアプレート22が図4に示す下方限界位置に位置しているものとする。
駆動機構30によりワイヤドラム28が正転されると、上昇用ワイヤ32がワイヤドラム28に巻き取られると共に、下降用ワイヤ34がワイヤドラム28から繰り出される。
これにより、キャリアプレート22がガイドレール24に沿って上昇し、やがて図3に示す上方限界位置に到達すると、駆動機構30によるワイヤドラム28の正転が停止され、ドアガラス16が窓を閉じた全閉位置になる。
このようにキャリアプレート22が上昇する過程において、図5に示すように、上昇用ワイヤ32はガイド面2402の幅W内でガイド面2402に沿って移動するため、上昇用ワイヤ32は、ドアガラス16の昇降軌跡L上にはみ出してドアガラス16に接触することはない。
また、下降用ワイヤ34は、ガイドレール24よりもインナパネル12側に変位した箇所に位置し、ドアガラス16の昇降軌跡L上にはみ出しているものの、下降用ワイヤ34は常にドアガラス16よりも下方に位置していることから、下降用ワイヤ34はドアガラス16に接触することはない。
【0016】
次に、ドアガラス16が下降する場合の動作について説明する。
予め、キャリアプレート22が図3に示す上方限界位置に位置しているものとする。
駆動機構30によりワイヤドラム28が逆転されると、上昇用ワイヤ32がワイヤドラム28から繰り出されると共に、下降用ワイヤ34がワイヤドラム28に巻き取られる。
これにより、キャリアプレート22がガイドレール24に沿って下降し、やがて図4に示す下方限界位置に到達すると、駆動機構30によるワイヤドラム28の逆転が停止され、ドアガラス16が窓を開いた全開位置になる。
このようにキャリアプレート22が下降する過程においても、キャリアプレート22が上昇する場合と同様に、図5に示すように、上昇用ワイヤ32はガイド面2402の幅W内でガイド面2402に沿って移動するため、上昇用ワイヤ32は、ドアガラス16の昇降軌跡L上にはみ出してドアガラス16に接触することはない。
また、下降用ワイヤ34は、ガイドレール24よりもインナパネル12側に変位した箇所に位置し、ドアガラス16の昇降軌跡L上にはみ出しているものの、下降用ワイヤ34は常にドアガラス16よりも下方に位置していることから、下降用ワイヤ34はドアガラス16に接触することはない。」

ウ 図面
(ア)図3




上記図3から、ワイヤ取付け部2220は、上昇用ワイヤ32のうちプーリ26からワイヤ取付け部2220に至る部分32Cが、ガイドレール24の上となるように設けられ、ワイヤ取付け部2222は、下降用ワイヤ34が、ガイドレール24の幅方向外側に位置するように設けられた点が看取できる。
また、上記イの【0010】に示されているように、「ガイドレール24」が、その「本体板部24A」の両側において、「側板部24B」及び「ガイド板部24C」備えられていることを踏まえれば、上記図3から、ワイヤ取付け部2220及びワイヤ取付け部2222は、側板部24B及びガイド板部24Cを挟むように配置されているといえる。

(イ)図4




(ウ)図5




(エ)図6




(2)甲第4号証に記載された発明
上記(1)によれば、甲第4号証には、次の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されているものと認められる。
(甲4発明)
「キャリアプレート22と、ガイドレール24と、プーリ26と、ワイヤドラム28と、駆動機構30と、上昇用ワイヤ32と、下降用ワイヤ34などを含んで構成されているドア昇降装置20であり、
ガイドレール24は、ドア10の幅方向に沿った幅を有して上下に延在する本体板部24Aと、本体板部24Aの幅方向の両側からアウタパネル14側に起立された2つの側板部24Bと、各側板部24Bの先端から本体板部24Aの幅方向外方にそれぞれ屈曲形成された2つのガイド板部24Cとを備え、
2つの側板部24Bと2つのガイド板部24Cは、本体板部24Aの略全長にわたり本体板部24Aと共に上下に延在し、
キャリアプレート22がガイドレール24に沿って上昇し、やがて上方限界位置に到達すると、駆動機構30によるワイヤドラム28の正転が停止され、ドアガラス16が窓を閉じた全閉位置になり、
キャリアプレート22がガイドレール24に沿って下降し、やがて下方限界位置に到達すると、駆動機構30によるワイヤドラム28の逆転が停止され、ドアガラス16が窓を開いた全開位置になり、
本体部2202には、2つのワイヤ取り付け部2220、2222が設けられ、2つの側部2204の内側にはシュー2210がそれぞれ取り付けられていて、
ワイヤ取付け部2220は、上昇用ワイヤ32のうちプーリ26からワイヤ取付け部2220に至る部分32Cが、ガイドレール24の上となるように設けられ、ワイヤ取付け部2222は、下降用ワイヤ34が、ガイドレール24の幅方向外側に位置するように設けられ、
ワイヤ取付け部2220及びワイヤ取付け部2222は、側板部24B及びガイド板部24Cを挟むように配置されている、
ドア昇降装置20。」

第5 当審の判断
進歩性について(特許法29条2項
(1)甲第1号証を主引用例として
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
a 甲1発明の「ガイドレール」、「キャリアプレート」及び「ドアウインドレギュレータ」は、本件発明1の「ガイドレール」、「キャリアプレート」及び「ウインドレギュレータ」にそれぞれ相当する。
また、甲1発明の「キャリアプレートの移動を行わせるワイヤ」と、本件発明1の「上昇側ケーブルおよび下降側ケーブル」とは、「ケーブル」で共通する。

b 甲1発明の「ガイドレール」が有している「底面部分」は、本件発明1の「ガイドレール」の「底面部」に相当する。
甲1発明の「ガイドレール」が有している「底面部分の両側において立ち上がり長手方向に沿った壁」は、本件発明1の「前記底面部の両端において長手方向に沿って設けられた第1側壁部および第2側壁部」に相当する。

c 甲1発明の「ガイドレールの両側の壁」のうち、「一方の壁」が有する「底面部分から屈曲して立ち上がったくの字状の第1の部分と、前記第1の部分に設けられ、前記底面部分と略平行且つ幅方向に伸びた第2の部分」は、本件発明1の「第1側壁部」が有する「底面部から屈曲して立ち上がった第1部分と、前記第1部分に設けられ、前記底面部と平行且つ幅方向外側に伸びた第2部分」に相当する。

d 甲1発明の「キャリアプレート」は、「上下方向に延びるガイドレール」に沿って移動することから、「キャリアプレート」が昇降することは明らかであり、甲1発明の「ガイドレール」は、本件発明1の「第1側壁部」と「第2側壁部」に相当する構成を有している。
そうすると、キャリアプレートがガイドレールに沿って移動すれば、キャリアプレートは、ガイドレールを構成する本願発明1の「第1側壁部」及び「第2側壁部」に相当する部位にも沿って移動することは明らかである。
したがって、甲1発明の「キャリアプレートがガイドレールに沿って移動」するということは、本件発明1の「前記キャリアプレートの昇降時に、前記キャリアプレートが前記第1側壁部と前記第2側壁部に沿って昇降するようにされ」ることに相当する。

そうすると、本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
ガイドレール、キャリアプレート、ケーブルを備えたウインドレギュレータであって、
前記ガイドレールは、底面部と、前記底面部の両端において長手方向に沿って設けられた第1側壁部および第2側壁部と、を有し、
前記第1側壁部は、前記底面部から屈曲して立ち上がった第1部分と、前記第1部分に設けられ、前記底面部と平行且つ幅方向外側に伸びた第2部分と、を有し、
前記キャリアプレートの昇降時に、前記キャリアプレートが前記第1側壁部と前記第2側壁部に沿って昇降するようにされる、ウインドレギュレータ。

<相違点1−1>
「ケーブル」について、本件発明1では、上昇側ケーブルおよび下降側ケーブルであるのに対して、甲1発明では、そのような特定がなされていない点。

<相違点1−2>
本件発明1は、「前記キャリアプレートに、前記上昇側ケーブルのエンドを収容する上昇側エンドホルダと、前記下降側ケーブルのエンドを収容する下降側エンドホルダとを有し、前記上昇側エンドホルダは前記上昇側ケーブルが前記ガイドレール外側となるように設けられ、前記下降側エンドホルダは前記下降側ケーブルが前記ガイドレール上となるように設けられ、前記上昇側エンドホルダと前記下降側エンドホルダは、正面視において前記第1側壁部を挟むように配置されて」いるのに対して、甲1発明は、そのような特定がなされていない点。

<相違点1−3>
本件発明1は、「前記キャリアプレートは、前記第1側壁部に対応した第1ガイド溝と、前記第2側壁部に対応した第2ガイド溝を有し」ているのに対して、甲1発明は、そのような特定がなされていない点。

<相違点1−4>
本件発明1は、「前記キャリアプレートが前記ガイドレールの前記長手方向の中間部から上端位置付近の間にあるときに、前記下降側ケーブルは前記ガイドレールに当接している」のに対して、甲1発明は、そのような特定がなされていない点。

(イ)判断
事案に鑑みて、まず、相違点1−4について検討する。
甲2発明及び甲3発明は、相違点1−4に係る本件発明1の構成を有していない。また、申立人が提出したその余の証拠(甲第4号証)をみても、相違点4に係る本件発明1の構成は、記載も示唆もされていない。
よって、甲1発明に甲2発明及び甲3発明並びに申立人が提出したその余の証拠に記載の事項を適用し、相違点1−4に係る本件発明1の構成とすることは当業者が容易になし得たことではない。

(ウ)小括
したがって、本件発明1は、その他の相違点を検討するまでもなく、甲1発明、甲2発明及び甲3発明並びに申立人が提出したその余の証拠に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1の構成を全て含み更に限定したものであるから、本件発明1についての判断と同様の理由により、甲1発明、甲2発明及び甲3発明並びに申立人が提出したその余の証拠に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)甲第4号証を主引用例として
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲4発明とを対比する。
a 甲4発明の「ガイドレール24」、「キャリアプレート22」、「上昇用ワイヤ32」、「下降用ワイヤ34」及び「ドア昇降装置20」は、本件発明1の「ガイドレール」、「キャリアプレート」、「上昇側ケーブル」、「下降側ケーブル」及び「ウインドレギュレータ」にそれぞれ相当する。

b 甲4発明の「ワイヤ取付け部2220」及び「ワイヤ取付け部2222」は、本件発明1の「上昇側ケーブルのエンドを収容する上昇側エンドホルダ」及び「上昇側ケーブルのエンドを収容する上昇側エンドホルダ」にそれぞれ相当する。
そうすると、甲4発明の「本体部2202」に「ワイヤ取付け部2220」及び「ワイヤ取付け部2222」が設けられることは、本件発明1の「前記キャリアプレートに、前記上昇側ケーブルのエンドを収容する上昇側エンドホルダと、前記上昇側ケーブルのエンドを収容する上昇側エンドホルダとを有し、」に相当する。

c 甲4発明の「ガイドレール24」が備える「本体板部24A」は、本件発明1の「ガイドレール」の「底面部」に相当する。
甲4発明の「ガイドレール24」が備える「本体板部24Aの幅方向の両側からアウタパネル14側に起立」された、2つの「側板部24Bと、各側板部24Bの先端から本体板部24Aの幅方向外方にそれぞれ屈曲形成された2つのガイド板部24C」は、2つの「側板部24B」と「ガイド板部24C」とからなる部分をなすと認められるところ、当該2つの部分はそれぞれ、本件発明1の「前記底面部の両端において長手方向に沿って設けられた第1側壁部および第2側壁部」に相当する。

d 甲4発明の「ワイヤ取付け部2220及びワイヤ取付け部2222は、側板部24B及びガイド板部24Cを挟むように配置されている」ことは、本件発明1の「前記上昇側エンドホルダと前記下降側エンドホルダは、正面視において前記第1側壁部を挟むように配置されて」いることに相当する。

e 甲4発明の「ガイドレール24」が備える「側板部24B」及び「側板部24Bの先端から本体板部24Aの幅方向外方にそれぞれ屈曲形成」された「ガイド板部24C」は、本件発明1の「第1側壁部」が有する「底面部から屈曲して立ち上がった第1部分」及び「前記第1部分に設けられ、前記底面部と平行且つ幅方向外側に伸びた第2部分」に、それぞれ相当する。

f 甲4発明の「キャリアプレート22」は、「ガイドレール24に沿って上昇」及び「ガイドレール24に沿って下降」するものであり、また、上記eで説示したとおり、甲4発明の「ガイドレール24」は、本件発明1の「第1側壁部」と「第2側壁部」に相当する構成を備えている。
そうすると、甲4発明の「キャリアプレート22」が、「ガイドレール24に沿って上昇」及び「ガイドレール24に沿って下降」することは、本件発明1の「前記キャリアプレートの昇降時に、前記キャリアプレートが前記第1側壁部と前記第2側壁部に沿って昇降するようにされ」ることに相当する。

そうすると、本件発明1と甲4発明の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
ガイドレール、キャリアプレート、上昇側ケーブルおよび下降側ケーブルを備えたウインドレギュレータであって、
前記キャリアプレートに、前記上昇側ケーブルのエンドを収容する上昇側エンドホルダと、前記下降側ケーブルのエンドを収容する下降側エンドホルダとを有し、
前記ガイドレールは、底面部と、前記底面部の両端において長手方向に沿って設けられた第1側壁部および第2側壁部と、を有し、
前記上昇側エンドホルダと前記下降側エンドホルダは、正面視において前記第1側壁部を挟むように配置されており、
前記第1側壁部は、前記底面部から屈曲して立ち上がった第1部分と、前記第1部分に設けられ、前記底面部と平行且つ幅方向外側に伸びた第2部分と、を有し、
前記キャリアプレートの昇降時に、前記キャリアプレートが前記第1側壁部と前記第2側壁部に沿って昇降するようにされる、ウインドレギュレータ。

<相違点4−1>
本件発明1は、「前記上昇側エンドホルダは前記上昇側ケーブルが前記ガイドレール外側となるように設けられ、前記下降側エンドホルダは前記下降側ケーブルが前記ガイドレール上となるように設けられ」ているのに対して、甲4発明は、そのような特定がなされていない点。

<相違点4−2>
本件発明1は、「前記キャリアプレートは、前記第1側壁部に対応した第1ガイド溝と、前記第2側壁部に対応した第2ガイド溝を有し」ているのに対して、甲4発明は、そのような特定がなされていない点。

<相違点4−3>
本件発明1は、「前記キャリアプレートが前記ガイドレールの前記長手方向の中間部から上端位置付近の間にあるときに、前記下降側ケーブルは前記ガイドレールに当接している」のに対して、甲4発明は、そのような特定がなされていない点。

(イ)判断
事案に鑑みて、まず、相違点4−3について検討する。
甲2発明及び甲3発明は、相違点4−3に係る本件発明1の構成を有していない。また、申立人が提出したその余の証拠(甲第1号証)をみても、相違点4−3に係る本件発明1の構成は、記載も示唆もされていない。
よって、甲4発明に甲2発明及び甲3発明並びに申立人が提出したその余の証拠に記載の事項を適用し、相違点4−3に係る本件発明1の構成とすることは当業者が容易になし得たことではない。

(ウ)小括
したがって、本件発明1は、その他の相違点を検討するまでもなく、甲4発明、甲2発明及び甲3発明並びに申立人が提出したその余の証拠に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1の構成を全て含み更に限定したものであるから、本件発明1についての判断と同様の理由により、甲4発明、甲2発明及び甲3発明並びに申立人が提出したその余の証拠に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)甲第3号証を主引用例として
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲3発明とを対比する。
a 甲3発明の「ガイドレール4」、「キャリアプレート3」、「上昇用インナーケーブル7」、「下降用インナーケーブル8」及び「ウインドレギュレータ1」は、本件発明1の「ガイドレール」、「キャリアプレート」、「上昇側ケーブル」、「下降側ケーブル」及び「ウインドレギュレータ」にそれぞれ相当する。

b 甲3発明の「上昇用インナーケーブル13は、ガイドレール4の幅方向外側に位置するように設けられており、下降用インナーケーブル8はガイドレール4の裏側に隠れて配索されて」いることと、本件発明1の「前記上昇側エンドホルダは前記上昇側ケーブルが前記ガイドレール外側となるように設けられ、前記下降側エンドホルダは前記下降側ケーブルが前記ガイドレール上となるように設けられ」ていることとは、「前記上昇側ケーブルが前記ガイドレール外側とな」り、「前記下降側ケーブルが前記ガイドレール上とな」る点で共通する。

c 甲3発明は、「窓ガラス2が窓開口部を完全に閉じた場合におけるキャリアプレート3のガイドレール4上の相対位置をキャリアプレート3の上限位置」としていて、「キャリアプレート3」は、このような「上限位置と、ガイドレール4の下端付近の下限位置との間で摺動可能にガイドレール4に取り付けられて」いることから、「キャリアプレート3」は、「ガイドレール4」に沿って昇降することは明らかである。
また、甲3発明の「ガイドレール4」と、本件発明1の「前記第1側壁部と前記第2側壁部」とは、「ガイドレール」の部位で共通する。
そうすると、甲3発明の「窓ガラス2が窓開口部を完全に閉じた場合におけるキャリア、プレート3のガイドレール4上の相対位置をキャリアプレート3の上限位置」と「ガイドレール4の下端付近の下限位置との間で摺動可能にガイドレール4に取り付けられて」いることと、本件発明1の「前記キャリアプレートの昇降時に、前記キャリアプレートが前記第1側壁部と前記第2側壁部に沿って昇降するようにされ」ることとは、「前記キャリアプレートの昇降時に、前記キャリアプレートがガイドレールの部位に沿って昇降するようにされ」る点で共通する。

そうすると、本件発明1と甲3発明の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
ガイドレール、キャリアプレート、上昇側ケーブルおよび下降側ケーブルを備えたウインドレギュレータであって、
前記上昇側ケーブルが前記ガイドレール外側となり、
前記下降側ケーブルが前記ガイドレール上となり、
前記キャリアプレートの昇降時に、前記キャリアプレートがガイドレール部位に沿って昇降するようにされる、ウインドレギュレータ。

<相違点3−1>
本件発明1は、「前記キャリアプレートに、前記上昇側ケーブルのエンドを収容する上昇側エンドホルダと、前記下降側ケーブルのエンドを収容する下降側エンドホルダとを有し、前記上昇側エンドホルダは前記上昇側ケーブルが前記ガイドレール外側となるように設けられ、前記下降側エンドホルダは前記下降側ケーブルが前記ガイドレール上となるように設けられ、前記上昇側エンドホルダと前記下降側エンドホルダは、正面視において前記第1側壁部を挟むように配置されて」いるのに対して、甲3発明は、上昇用インナーケーブル13は、ガイドレール4の外側となり、下降用インナーケーブル8はガイドレール4の裏側に隠れて配索されている(ガイドレール上となる)ものの、これ以外の特定がなされていない点。

<相違点3−2>
「ガイドレール」について、本件発明1では、「底面部と、前記底面部の両端において長手方向に沿って設けられた第1側壁部および第2側壁部と、を有し、上昇側エンドホルダと下降側エンドホルダは、正面視において前記第1側壁部を挟むように配置されており、前記第1側壁部は、前記底面部から屈曲して立ち上がった第1部分と、前記第1部分に設けられ、前記底面部と平行且つ幅方向外側に伸びた第2部分と、を有し」ているのに対して、甲3発明では、そのような特定がなされていない点。

<相違点3−3>
本件発明1は、「前記キャリアプレートは、前記第1側壁部に対応した第1ガイド溝と、前記第2側壁部に対応した第2ガイド溝を有し」ているのに対して、甲3発明は、そのような特定がなされていない点。

<相違点3−4>
本件発明1は、「キャリアプレートが前記第1側壁部と前記第2側壁部に沿って昇降する」のに対して、甲3発明では、ガイドレールに沿って昇降する点。

<相違点3−5>
本件発明1は、「前記キャリアプレートが前記ガイドレールの前記長手方向の中間部から上端位置付近の間にあるときに、前記下降側ケーブルは前記ガイドレールに当接している」のに対して、甲3発明は、そのような特定がなされていない点。

(イ)判断
事案に鑑みて、まず、相違点3−5について検討する。
甲1発明、甲2発明及び甲4発明は、相違点3−5に係る本件発明1の構成を有していない。
よって、甲3発明に、甲1発明、甲2発明及び甲4発明を適用し、相違点3−5に係る本件発明1の構成とすることは当業者が容易になし得たことではない。

(ウ)小括
したがって、本件発明1は、その他の相違点を検討するまでもなく、甲3発明、甲1発明、甲2発明及び甲4発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1の構成を全て含み更に限定したものであるから、本件発明1についての判断と同様の理由により、甲3発明、甲1発明、甲2発明及び甲4発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

実施可能要件について(特許法第36条第4項第1号
発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があることを要する。

(1)申立人は、本件の発明の詳細な説明には、「前記キャリアプレートが前記ガイドレールの前記長手方向の中間部から上端位置付近の間にあるときに、前記下降側ケーブルは前記ガイドレールに当接している」構成を、どのように実現するのかについて、一切記載されておらず、また、「前記キャリアプレートが前記ガイドレールの前記長手方向の中間部にあるときに、前記下降側ケーブルは前記ガイドレールに当接している」態様自体が、一切開示されていない。したがって、本件の発明の詳細な説明には、構成要件Jを含むウインドレギュレータを当業者が製造するのに必要な明確かつ十分な記載があるとは言えない旨主張する。
(申立書49頁7〜34行)

しかしながら、発明の詳細な説明の段落【0032】には、「下降側ケーブル34が配索される位置の方向に向かってガイドレール31が凸となるように湾曲している」と記載されている。
ここで、ガイドレールを曲げれば下降側ケーブルはガイドレールに近づき、また当接するに至ること、また、曲げる程度を大きくすれば当接する範囲も大きくなること、さらにガイドレールを曲げる箇所を変えれば下降側ケーブルがガイドレールに当接する位置を変えることができることは、当業者にとって技術常識であって、上記技術常識を踏まえれば当業者は、本件発明1のようにキャリアプレートがガイドレールの長手方向の中間部から上端位置付近の間にあるときに、下降側ケーブルをガイドレールに当接する構成とすることができるから、当業者は本件発明1を過度の試行錯誤を要することなく実施することができるといえる。

(2)申立人は、下降側ケーブルとガイドレールとの摺動による摺動音が異音として生じるため、「キャリアプレートの上昇時の異音発生を抑制する」という課題を解決しうるものではないことを指摘したうえで、「キャリアプレートの上昇時の異音発生を抑制する」という課題を解決するには、どのような構成にする必要があるのかが、本件明細書に開示されておらず、「キャリアプレートの上昇時の異音発生を抑制する」ことができる態様を導き出すには、ガイドレールに対する下降側ケーブルの当接度合い等の構成を変更して過度な実験が必要である旨主張する。
(申立書50頁下から2行〜51頁7行)

しかしながら、本件明細書の段落【0007】(【課題を解決するための手段】の項)には、「下降側ケーブルの振動に起因する異音発生を効果的に抑制できる」との記載や、段落【0032】には、「下降側ケーブル34の振動を抑制することが、異音防止に効果的」との記載をみれば、本件発明の課題は、キャリアプレートの上昇時の下降側ケーブルの振動に起因する異音発生の抑制であることは明らかである。
そして、本件明細書の段落【0007】、【0031】、【0032】等において、本件発明の課題を解決するための手段として、下降側ケーブルがガイドレールに当接するとの構成が示されており、当該構成により、振動を抑制し、異音の発生を抑制できることは明らかである。

(3)申立人は、構成要件Jの構成、作用及び効果が実施できる程度に発明の詳細な説明が記載されていない旨主張する。
(申立書51頁8行〜52頁12行)

しかしながら、上記(1)及び(2)で説示したとおり、構成要件Jの構成、作用及び効果が実施できる程度に発明の詳細な説明が記載されているといえる。

(4)以上のとおり、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たしているから、申立人の主張は採用できない。

3 サポート要件について(特許法第36条第6項第1号
(1)申立人は、本件発明1ないし3は、「キャリアプレートの上昇時の異音発生を抑制する」旨の課題を解決し得るものではないから、サポート要件を満たさない旨主張する。
(申立書52頁24〜31行)

しかしながら、上記2(2)で説示したとおり、発明の詳細な説明には、本願の課題を解決する具体的手段、すなわち、下降側ケーブルがガイドレールに当接するとの構成が記載されており、さらに、本件発明1ないし3は、「前記キャリアプレートが前記ガイドレールの前記長手方向の中間部から上端位置付近の間にあるときに、前記下降側ケーブルは前記ガイドレールに当接している」との構成を有していることから、サポート要件を満たしている。

(2)申立人は、本件発明1の「前記キャリアプレートが前記ガイドレールの前記長手方向の中間部から上端位置付近の間にあるときに、前記下降側ケーブルは前記ガイドレールに当接している」構成が、本件明細書等には、一切記載されておらず、また、当該記載及び技術常識から自明であるとも言えないから、サポート要件を満たさない旨主張する。
(申立書53頁1〜24行)

まず、「中間」とは、「二つの物事・地点の間。特に、そのまんなか」を意味するものである(広辞苑第7版)から一般には、「二つの物事・地点の間。」を意味し、特別な場合には、「まんなか」を意味すると解される。そして、本件明細書において「中間」を特別な意味に解すべき事情がないから「二つの物事・地点の間」を意味すると解するのが自然である。そうすると、請求項1の「中間部」との記載は、ガイドレールの長手方向の端と端の間の部分であると理解することができる。
一方、発明の詳細な説明の段落【0013】には、「キャリアプレート32は、窓ガラス20の下端部を保持するとともに、ガイドレール31に係合して窓ガラス20の昇降方向に摺動案内される部材である。」と記載されており、「キャリアプレート32」は、「窓ガラス20」の下端部を保持している、つまり、「キャリアプレート32」と「窓ガラス20」は一体的になって「ガイドレール31」に摺動案内されるものである。
そして、発明の詳細な説明の段落【0032】には、「窓ガラス20が長手方向中間部に達した時点で、下降側ケーブル34がガイドレール31の面に当接を開始する。」と記載されていることから、当接を開始する時点の「窓ガラス」の位置、そして「窓ガラス」に一体となっている「キャリアプレート」の位置が中間部に該当するといえる。
上記のとおり「キャリアプレート32」と「窓ガラス20」は一体的になって「ガイドレール31」に摺動案内されることを踏まえれば、「窓ガラス20が長手方向中間部に達した時点」は、キャリアプレート32がガイドレール31の長手方向の中間部にある時点と同様のことであると理解することができる。
そうすると、上記段落【0032】の「窓ガラス20が長手方向中間部に達した時点で、下降側ケーブル34がガイドレール31の面に当接を開始する。」とは、キャリアプレート32がガイドレール31の長手方向の中間部にある時点で、下降側ケーブル34がガイドレール31の面に当接を開始することと同様のことであると理解することができる。
また、発明の詳細な説明の段落【0032】には、「キャリアプレート32がガイドレール31に対して上端位置付近・・・に到達したときに、下降側ケーブル34はガイドレール31に当接を開始するようにしてもよい。」との記載があることから、「キャリアプレート32」が「ガイドレール31」の長手方向の上端位置付近にあるときに、下降側ケーブルがガイドレールに当接していることが記載されている。
さらに、上記段落【0032】の記載をみると、キャリアプレートがガイドレールの長手方向の中間部にある時点及び上端位置付近にあるときの、下降側ケーブルのガイドレールへの「当接」は、「下降側ケーブル34が配索される位置の方向に向かってガイドレール31が凸となるように湾曲している」ことにより実現されると解され、このような状況下において技術常識をふまえれば、「キャリアプレート」が「ガイドレール」の長手方向の中間部から上端位置付近の間にあるときにおいても、下降側ケーブルがガイドレールに当接していると解するのが自然である。
よって、本件発明1の「前記キャリアプレートが前記ガイドレールの前記長手方向の中間部から上端位置付近の間にあるときに、前記下降側ケーブルは前記ガイドレールに当接している」構成は、発明の詳細な説明に記載されているといえるから、サポート要件を満たしている。

(3)以上のとおりであるから、申立人の主張は採用できない。

新規事項の追加について(特許法第17条の2第3項
申立人は、特許権者が、2021年3月12日付けの手続補正書による補正により、請求項1において追加した「前記キャリアプレートが前記ガイドレールの前記長手方向の中間部から上端位置付近の間にあるときに、前記下降側ケーブルは前記ガイドレールに当接している」構成は、本件明細書等には、記載及び示唆されていないから、当該補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものではない旨主張する。
(申立書53頁31行〜54頁12行)

しかしながら、上記補正により、請求項1において追加した点は、上記3で説示したとおり、本件明細書等に記載されている。
よって、上記補正は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
したがって、申立人の主張は採用できない。

明確性要件について(特許法第36条第6項第2号
(1)申立人は、構成要件Jで記載されている「前記ガイドレールの前記長手方向の中間部」の「中間部」とは、どのような部分、どの範囲を示すものであるのか、不明確である旨主張する。
(申立書54頁23行〜55頁5行)

しかしながら、上記3(2)で説示したとおり、本件明細書において、「中間」とは、「二つの物事・地点の間」を意味すると解するのが自然であり、そして、請求項1の「中間部」との記載は、ガイドレールの長手方向の端と端の間の部分であると理解することができるから、明確である。

(2)申立人は、構成要件Jで記載されている「前記ガイドレールの前記長手方向の中間部から上端位置付近」の「上端位置付近」とは、どのような範囲を示すものであるのか、不明確である旨主張する。
(申立書55頁6〜16行)

しかしながら、本願明細書の段落【0032】には、「キャリアプレート32がガイドレール31に対して上端位置付近(つまり、窓ガラス20の拘束などによるキャリアプレート32が実際に移動することができる位置の上限位置及びその近傍の位置)に到達したときに、下降側ケーブル34はガイドレール31に当接を開始するようにしてもよい。」と記載されている。
上記記載を参酌すれば、請求項1の「上端位置付近」との記載は、ガイドレールの上端位置及びその近傍の位置であると理解することができるから、明確である。

(3)申立人は、構成要件Jにおける「中間部」及び「上端位置付近」を示す範囲が不明であるため、「前記キャリアプレートが前記ガイドレールの前記長手方向の中間部から上端位置付近の間にあるとき」とは、前記キャリアプレートが、具体的に、前記ガイドレールのどの位置にあるときを示すものであるか不明である旨主張する。
(申立書55頁17〜25行)

しかしながら、上記(1)及び(2)で説示したとおり、「中間部」及び「上端位置付近」の意味が明確であり、請求項1の「前記キャリアプレートが前記ガイドレールの前記長手方向の中間部から上端位置付近の間にあるとき」との記載は、「前記キャリアプレート」が、「前記ガイドレール」の長手方向の上記(1)で説示した「中間部」から、上記(2)で説示した「上端位置付近」の間にあるときと理解することができるから、明確である。

(4)申立人は、構成要件Jが、「前記キャリアプレートが前記ガイドレールの前記長手方向の中間部から上端位置付近の間にあるときに、常に前記下降側ケーブルは前記ガイドレールに当接し続けている」構成であるか、「前記キャリアプレートが前記ガイドレールの前記長手方向の中間部から上端位置付近の間のいずれかの位置にあるときに、前記下降側ケーブルは前記ガイドレールに当接している」構成なのかが不明である旨主張する。
(申立書55頁26行〜56頁9行)

しかしながら、構成要件Jの「間にあるときに」は、「前記キャリアプレート」が「前記ガイドレールの前記長手方向」の「中間部」から「上端位置付近」の間にあるときに、を意味し、「当接している」は、「前記下降側ケーブル」が「前記ガイドレールに当接している」ことを意味していると理解できる。
そして、構成要件Jは、「前記キャリアプレート」が「前記ガイドレールの前記長手方向」の「中間部」から「上端位置付近」の間にあるときに、「当接している」のであるから、キャリアプレートが、上記の間のいずれの位置にあっても、下降側ケーブルはガイドレールに当接する(常に当接している)ことを、用語を補うことなく理解できる。
したがって、構成要件Jの記載は明確である。

(5)以上のとおりであるから、申立人の主張は、いずれも採用することはできない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-06-27 
出願番号 P2020-023950
審決分類 P 1 651・ 536- Y (E05F)
P 1 651・ 121- Y (E05F)
P 1 651・ 537- Y (E05F)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 森次 顕
特許庁審判官 西田 秀彦
佐藤 美紗子
登録日 2021-09-27 
登録番号 6950019
権利者 株式会社ハイレックスコーポレーション
発明の名称 ウインドレギュレータ  
代理人 山下 託嗣  
代理人 古賀 稔久  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ