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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D21H
審判 全部申し立て 2項進歩性  D21H
管理番号 1386204
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-03-28 
確定日 2022-06-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第6943351号発明「紙積層体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6943351号の請求項1〜17に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6943351号の請求項1〜17に係る特許についての出願は、2020年(令和2年)11月25日(優先権主張2019年(令和元年)11月27日、日本国)を国際出願日とする出願であって、令和3年9月13日にその特許権の設定登録(特許掲載公報発行日:令和3年9月29日)がされ、その後、その特許に対し、令和4年3月28日に特許異議申立人飯田進(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許6943351号の請求項1〜17に係る発明(以下「本件発明1」等という。まとめて、「本件発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜17に、それぞれ記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
紙基材と、前記紙基材の一方の面の第1樹脂層および保護層と、前記紙基材の他方の面の第2樹脂層およびOPニス層の少なくともいずれかとを有する紙積層体であって、
前記第1樹脂層が、水懸濁性高分子1、アスペクト比50以上の板状無機化合物、およびカチオン性樹脂を含有し、
前記第1樹脂層に含有される前記カチオン性樹脂の含有量が、前記第1樹脂層に含まれる板状無機化合物100質量部に対して、50質量部以上300質量部以下であり、
前記第1樹脂層の塗工量が、固形分として、10g/m2以下であり、
前記保護層が水溶性高分子および水懸濁性高分子2の少なくともいずれかを含有し、
前記第2樹脂層が水懸濁性高分子1を含有し、
前記第2樹脂層及びOPニス層の塗工量が、固形分として、3g/m2以下である、紙積層体。
【請求項2】
前記第2樹脂層が、アスペクト比50以上の板状無機化合物、およびカチオン性樹脂をさらに含有する、請求項1に記載の紙積層体。
【請求項3】
前記紙基材の一方の面に、前記紙基材に近い側から前記第1樹脂層と前記保護層とをこの順に有する、請求項1または2に記載の紙積層体。
【請求項4】
前記紙基材の一方の面に、前記紙基材に近い側から前記保護層と前記第1樹脂層とをこの順に有する、請求項1または2に記載の紙積層体。
【請求項5】
前記第1樹脂層の塗工量が、前記第2樹脂層および前記OPニス層の塗工量の合計値以上である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の紙積層体。
【請求項6】
前記水懸濁性高分子1が、オレフィン・不飽和カルボン酸系共重合体、スチレン・ブタジエン系共重合体、およびスチレン・不飽和カルボン酸系共重体よりなる群から選ばれる1種以上である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の紙積層体。
【請求項7】
前記水懸濁性高分子1が、オレフィン・不飽和カルボン酸系共重合体である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の紙積層体。
【請求項8】
前記板状無機化合物が、合成マイカ、ベントナイトおよびカオリンよりなる群から選ばれる1種以上である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の紙積層体。
【請求項9】
前記第1樹脂層中に含まれる前記板状無機化合物の含有量が、前記第1樹脂層中に含まれる前記水懸濁性高分子1を100質量部に対して0.1質量部以上800質量部以下である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の紙積層体。
【請求項10】
前記板状無機化合物の厚さが200nm以下である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の紙積層体。
【請求項11】
前記第1樹脂層に含有される前記板状無機化合物の割合は、前記第1樹脂層の全固形分中、0.1質量%以上80質量%以下である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の紙積層体。
【請求項12】
前記第1樹脂層中に含有されるカチオン性樹脂の含有量は、前記第1樹脂層に含有される水懸濁性高分子1を100質量部に対して、0.1質量部以上20質量部以下である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の紙積層体。
【請求項13】
前記水溶性高分子がポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールよりなる群から選ばれる1種以上である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の紙積層体。
【請求項14】
前記第1樹脂層の全固形分中、前記水懸濁性高分子1の含有量が75質量%以上95質量%以下である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の紙積層体。
【請求項15】
水蒸気透過度が3.0g/(m2・day)以下である、請求項1〜14のいずれか一項に記載の紙積層体。
【請求項16】
少なくとも一方の最外層にシーラント層をさらに有する、請求項1〜15のいずれか一項に記載の紙積層体。
【請求項17】
前記紙積層体が包装用材料である、請求項1〜16のいずれか一項に記載の紙積層体。

第3 申立理由の概要
申立人は、以下の証拠を提出し、概略、次の取消理由を主張している(なお、甲第1号証等を、以下「甲1」等という。)。
1.(進歩性) 本件発明1〜17は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29第2項の規定に違反して特許されたものであるから、同法第113条第2号の規定に基づき取り消されるべきものである。
2.(サポート要件) 本件発明1〜17は、第1樹脂層に含有されるカチオン性樹脂の含有量が第1樹脂層に含まれる板状無機化合物100質量部に対して、100質量部以上300質量部以下の場合、甲2を参酌すると、本件発明の課題を解決することができるとはいえず、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定に基づき取り消されるべきものである。

<引用文献等一覧>
甲1:国際公開第2019/189229号公報
甲2:特開2011−213111号公報

第4 当審の判断
1. 申立理由1(進歩性)について
(1) 刊行物の記載
ア. 甲1について
(ア) 甲1に記載された事項
甲1には、次の記載がある(「・・・」は、文の省略を意味する。下線は、当審で参考のため付与したものである。)。
「[請求項1] 紙基材上に少なくとも1層のバリア塗工層を有する紙製バリア材料であって、下記条件(1)〜(3)のいずれか1以上を満足することを特徴とする紙製バリア材料。
(1)前記バリア塗工層が顔料を含有し、該バリア塗工層が少なくとも2種類の扁平無機顔料A及び扁平無機顔料Bを該バリア塗工層の全顔料に対し50重量%以上含有する。
(2)前記バリア塗工層が水蒸気バリア塗工層であり、該水蒸気バリア塗工層が水蒸気バリア性樹脂を含有し、前記紙基材の点滴吸油度が50秒以上である。
(3)前記バリア塗工層が水蒸気バリア塗工層であり、該水蒸気バリア塗工層が少なくとも、融点が110℃以上である水蒸気バリア性樹脂A及び融点が110℃未満である水蒸気バリア性樹脂Bを含有する。
・・・
[請求項8] 前記バリア塗工層が水蒸気バリア塗工層であり、該水蒸気バリア塗工層が水蒸気バリア性樹脂を含有し、該紙基材の点滴吸油度が50秒以上であることを特徴とする請求項1に記載の紙製バリア材料。
[請求項9] 前記水蒸気バリア塗工層が更に顔料を含有し、該顔料100重量部に対する前記水蒸気バリア性樹脂の含有量が、絶乾で30重量部以上350重量部以下であることを特徴とする請求項8に記載の紙製バリア材料。
[請求項10] 前記紙基材上に更にガスバリア塗工層を有することを特徴とする請求項8または9に記載の紙製バリア材料。
・・・
[請求項15] 請求項1〜14のいずれかに記載の紙製バリア材料の少なくとも一方の面上に、さらに保護層を有することを特徴とする紙製バリア材料。
[請求項16] 請求項1〜15のいずれかに記載の紙製バリア材料を使用した包装材料。」(請求の範囲)
「・第二発明
第二発明によれば、紙基材にバリア性を有する塗工液が有効にかつ均一に塗工層された、優れた水蒸気バリア性を有する紙製バリア材料を提供することができる。更に、紙基材上に更にガスバリア塗工層を設けることにより、優れたガスバリア性と水蒸気バリア性を併せ持つ紙製バリア材料を提供することができる。」([0010])
「・第二発明
第二発明は、紙基材(以下、「原紙」ということがある。)上に少なくとも水蒸気バリア塗工層が設けられた紙製バリア材料である。第二発明の紙製バリア材料は、紙基材上に更にガスバリア塗工層を設けてもよい。その場合、各層の構成順については特に限定されないが、紙基材、水蒸気バリア塗工層、ガスバリア塗工層の順に積層されている方が好ましい。これらの塗工層は、主として水を媒体とする塗工液を各種の塗工装置で塗工し、乾燥することにより形成することができる。」([0044])
「(点滴吸油度)
第二発明の紙基材は、点滴吸油度が50秒以上であり、好ましくは100秒以上である。第二発明の紙製バリア材料の水蒸気バリア性を向上させるためには、ある程度の量の水蒸気バリア性樹脂を含有させる必要があり、そのため、水蒸気バリア塗工層は顔料成分と樹脂成分を比べると樹脂成分が多くなる傾向にある。水蒸気バリア性樹脂は親油性を持つ樹脂が多く、紙基材への浸透を抑えるために、紙基材の点滴吸油度が50秒以上とする。紙基材の点滴吸油度が50秒以上であると、それら水蒸気バリア性樹脂成分が紙の表面上にとどまりやすくなり、水蒸気バリア性を有効に発揮する均一な皮膜を生成しやすい。その結果、良好な水蒸気バリア性が得られる。第二発明において、紙基材の点滴吸油度は、上記した表面処理の条件や内添填料、内添助剤の量等により調整することができる。」([0050])
「(水蒸気バリア塗工層)
第二発明において、水蒸気バリア塗工層に含有させる水蒸気バリア性樹脂としては、水蒸気バリア性を有している、水溶性または水分散性の水系樹脂であり、スチレン・ブタジエン系、スチレン・アクリル系、エチレン・酢酸ビニル系、パラフィン(WAX)系、ポリエステル樹脂、ブタジエン・メチルメタクリレート系、酢酸ビニル・ブチルアクリレート系等の各種共重合体、無水マレイン酸共重合体、アクリル酸・メチルメタクリレート系共重合体等の合成接着剤、またはそれらのパラフィン(WAX)配合合成接着剤等を単独あるいは2種類以上混合して使用することができる。第二発明においては、2種類以上混合して使用することが好ましい。
また、水蒸気バリア塗工層と紙基材の接着性を向上させるため、水分散性樹脂と水溶性樹脂の双方を含んでいることが好ましい。」([0054])
「第二発明において、水蒸気バリア塗工層に顔料を含有させることは、水蒸気バリア塗工層とガスバリア塗工層を有する構成において、水蒸気バリア塗工層とガスバリア塗工層の密着性の点から好ましい。
顔料としてはカオリン、クレー、エンジニアードカオリン、デラミネーテッドクレー、マイカ、タルク、二酸化チタン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、珪酸、珪酸塩、コロイダルシリカ、サチンホワイトなどの無機顔料および密実型、中空型、またはコアーシェル型などの有機顔料などを単独または2種類以上混合して使用することができる。
これらの顔料の中でも、水蒸気バリア性の向上と、ガスバリア塗工層の浸透抑制の両方の観点から、形状が扁平なカオリン、タルク、クレー、マイカなどの無機顔料が好ましく、カオリン、マイカがより好ましい。また、体積50%平均粒子径(D50)(以下、「平均粒子径」とも言う。)が5μm以上且つアスペクト比が10以上の無機顔料を単独または2種類以上混合して使用することが好ましい。使用する無機顔料の平均粒子径またはアスペクト比が上記範囲より小さいと、水蒸気バリア塗工層中を水蒸気が迂回する回数が減少し、移動する距離が短くなるため、結果として水蒸気バリア性の改善効果が小さくなることがある。」([0056]〜[0057])
「第二発明において、水蒸気バリア塗工層の塗工量は、乾燥重量で3g/m2以上50g/m2以下とすることが好ましく、5g/m2以上40g/m2以下とすることがより好ましく、7g/m2以上20g/m2以下とすることがさらに好ましい。水蒸気バリア塗工層の塗工量が3g/m2未満であると、紙基材を塗工液が完全に被覆することが困難となり、十分な水蒸気バリア性が得られなくなることや、ガスバリア塗工層が紙基材にまで浸透して、十分なガスバリア性が得られなくなることがある。一方、50g/m2より多いと、塗工時の乾燥負荷が大きくなる。」([0080])
「(保護層)
第二発明の紙製バリア材料の少なくとも一方の面上に、さらに保護層を有してもよい。保護層は、空気中の水分や、バリア塗工層の擦過、割れなどによる紙製バリア材料の水蒸気バリア塗工層、ガスバリア塗工層への影響(劣化)を防ぐと共に、紙製バリア材料に更なる水蒸気バリア性、ガスバリア性を付与する、あるいは耐油性、耐溶剤性、耐熱性、耐摩耗性、耐衝撃性、耐光性、耐水性などを付与することができる。また、保護層が樹脂層である場合は、ヒートシール性を付与することもできる。」([0082])
「(樹脂層)
樹脂層の樹脂としては、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン、アクリロニトリル・スチレン、ポリメチルメタアクリル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド(ナイロン)、ポリアセタール、ポリカーボネート等の化石資源由来樹脂、ポリ乳酸(PLA)、エステル化澱粉、酢酸セルロース、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、バイオポリエチレン、バイオポリエチレンテレフタレート、バイオポリウレタン等の生物由来樹脂を含むことができる。」([0084])
「・第二発明の実施例
[実施例8]
(紙基材2の作製)
カナダ式標準ろ水度(CSF)320mlの広葉樹クラフトパルプ(LBKP)100重量部を原料パルプとした。原料パルプを長網抄紙機で抄紙し、坪量63.0g/m2の紙を得た。次いで、得られた紙に固形分濃度3%に調製した澱粉(サナス社製、ローコンス)を、両面合計で1.0g/m2塗工、乾燥し、チルドカレンダーを用いて、速度300min/m、線圧50kgf/cm 1パスにて平滑処理を行い、坪量64.0g/m2の紙基材2を得た。紙基材2の点滴吸油度は100秒であった。
(水蒸気バリア塗工層用塗工液A3の調製)
エンジニアードカオリン(イメリス社製、バリサーフHX 粒子径9.0μm アスペクト比80〜100)に分散剤としてポリアクリル酸ソーダを添加し(対顔料0.2部)、セリエミキサーで分散して固形分濃度60%のカオリンスラリーを調製した。得られたカオリンスラリー中に、顔料100部(固形分)に対し水蒸気バリア性樹脂としてスチレン・アクリル系共重合体エマルジョン(サイデン化学社製、X−511−374E)を100部(固形分)、パラフィン系撥水剤(丸芳化学社製、MYE−35G、ワックス含有ポリエチレンエマルジョン)を100部(固形分)となるように配合し、固形分濃度45%の水蒸気バリア塗工層用塗工液A3を得た。
(ガスバリア塗工層用塗工液B2の調製)
ポリビニルアルコール(クラレ社製、PVA117)水溶液を固形分濃度10%となるよう調製した。得られたポリビニルアルコール水溶液中に、ポリビニルアルコール100部(固形分)に対しシリコーン系界面活性剤(サンノプコ社製、SNウェット125)を1部(固形分)となるように配合し、ガスバリア塗工層用塗工液B2を得た。
(紙製バリア材料の作製)
得られた紙基材2上に、水蒸気バリア塗工層用塗工液A3を乾燥重量で塗工量15g/m2となるよう塗工速度300m/minでブレードコーターを用いて片面塗工、乾燥した後、その上にガスバリア塗工層用塗工液B2を乾燥重量で塗工量5.0g/m2となるよう塗工速度300m/minでロールコーターを用いて片面塗工し、紙製バリア材料を得た。」([0147]、[0148])
「[実施例12]
実施例8で得られた紙製バリア材料の両面に、共押出しラミネートにより低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製、製品名:LC602A)をそれぞれ厚み30μm積層した以外は実施例8と同様にして紙製バリア材料を得た。」([0152])


」([0157])
(イ) 上記(ア)の記載事項からわかることは、以下の事項である。
(水蒸気バリア塗工層用塗工液A3の調製)から、カオリンとして、粒子径9.0μmでアスペクト比80〜100のものが用いられている。
(ウ) 甲1発明
上記(ア)及び(イ)に示した事項を総合し、甲1の実施例8で得られた紙製バリア材料の両面に、低密度ポリエチレンをそれぞれ厚み30μm積層した実施例12に着目すると、甲1には、以下の「甲1発明」が記載されている。

「紙基材と、前記紙基材の一方の面に、前記紙基材に近い側から水蒸気バリア塗工層とガスバリア塗工層とをこの順に有する紙製バリア材料であって、
前記紙製バリア材料はその両面に低密度ポリエチレンの層を厚み30μm積層し、
前記水蒸気バリア塗工層がスチレン・アクリル系共重合体及び粒子径が9.0μmでアスペクト比が80〜100のカオリンを含有し、
前記ガスバリア塗工層がポリビニルアルコールを含有し、
前記水蒸気バリア塗工層の塗工量が乾燥重量で15g/m2である、紙製バリア材料。」

イ.甲2について
甲2には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
ガスバリア層を有するガスバリアシートであって、
該ガスバリア層が、スメクタイト族及び雲母族からなる群より選ばれる1種以上の層状無機化合物のへき開物であるナノシートと、アミンとを含み、
該ガスバリア層において、該ナノシートの面方向が該ガスバリア層の面方向と略平行であるように該ナノシートが積層されている、ガスバリアシート。」
「【0001】
本発明は、水蒸気ガスバリア性に優れた、層状無機化合物のナノシートを含有するガスバリアシート及びその製造方法、並びにガスバリア用塗工液の製造方法に関する。」
「【0003】
一方、スメクタイト族粘土及び雲母族粘土に代表される粘土鉱物等である層状無機化合物をガスバリアシートに用いることで、ガスバリアシート自体の材料の寸法安定性、耐熱性及びガスバリア性を向上させる検討が行われてきた。
【0004】
ところで、層状無機化合物は、単位構造としてのナノシートと呼ばれる板状の無機結晶と、ナノシートが電荷を有する場合にはその電荷を補償する層間イオンとから成る。層状無機化合物を構成するナノシートの多くは負の永久電荷を有し、その負の永久電荷を補償するために、ナトリウムイオン及びリチウムイオンに代表される無機イオンがナノシートの層の間に層間イオン(特に層間カチオン)として存在し、電気的中性を保持している(例えば非特許文献1を参照)。
【0005】
上記のような粘土鉱物をはじめとする層状無機化合物を樹脂に添加した材料について幅広い研究がなされ、ガスバリアフィルムが一部実用化されている(例えば非特許文献2を参照)。
【0006】
しかしながら、従来の層状無機化合物を樹脂に添加した材料を用いたガスバリアフィルムは、層状無機化合物の疎水性樹脂中及び有機溶媒中での分散性を向上させるために、ナノシートの表面を多量の有機イオンで有機修飾する工程を必要とする。その結果、ナノシート同士が積み重なってできた層の間隔(以下、層間距離という)が有機修飾に用いられる有機イオンによって広がってしまい、ガスバリア性が不十分であるという問題があった。」
「【0009】
又、層間イオンとしてナトリウムイオン又はリチウムイオンを用いた層状無機化合物は、通常、水膨潤性が高く水を主体とする溶媒にしか高度に分散しないため、水に難溶な疎水性樹脂と複合化することが困難である。そのため、水膨潤性の高い層状無機化合物を用いて得られた材料は、それ自体が水に溶けてしまうか、又は水を吸収して膨潤してしまうため水蒸気ガスバリア性に劣るものが多かった。」
「【0011】
上記のような問題により、従来の層状無機化合物を用いたガスバリア膜の多くは、水蒸気をほとんど含まないドライのガスに対しては高いガスバリア性が発現しても、水蒸気濃度の高い雰囲気下でのガスバリア性及び水蒸気そのもののバリア性に関しては劣るという問題が生じていた(例えば非特許文献3を参照)。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、優れた水蒸気ガスバリア性(すなわち、水蒸気を含むガス及び水蒸気自体に対するバリア性)を有する、層状無機化合物のナノシートを含有するガスバリアシート及びその製造方法、並びに該ガスバリアシートを製造するための塗工液の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の粘土鉱物のへき開物であるナノシートをアミンの存在下で用いることによって、水蒸気ガスバリア性に優れるガスバリアシートが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は以下の通りである。」
「【0018】
<ガスバリアシート>
本発明は、ガスバリア層を有するガスバリアシートであって、該ガスバリア層が、スメクタイト族及び雲母族からなる群より選ばれる1種以上の層状無機化合物のへき開物であるナノシートと、アミンとを含み、該ガスバリア層において、該ナノシートの面方向が該ガスバリア層の面方向と略平行であるように該ナノシートが積層されている、ガスバリアシートを提供する。ナノシートを含む本発明のガスバリアシートは、上記のような構成により、優れた水蒸気ガスバリア性を有することができる。なお、本明細書において用いる用語「ガスバリア層」は、水蒸気ガスバリア性(すなわち、水蒸気を含むガス及び水蒸気自体に対するバリア性)を発現する層を指し、「ガスバリアシート」は、該ガスバリア層を少なくとも1層有するシートを指す。すなわち、ガスバリアシートは、ガスバリア層のみから成るもの、及びガスバリア層と他の層とから成るものの両者を包含する。
【0019】
[ナノシート]
本発明において用いる、スメクタイト族及び雲母族からなる群より選ばれる1種以上の層状無機化合物(以下、単に層状無機化合物ということもある)のへき開物であるナノシートについて説明する。スメクタイト族及び雲母族は粘土鉱物に属する。粘土鉱物は層の形により1:1タイプと2:1タイプとに分類され、1:1タイプには例えばカオリナイト族が分類され、2:1タイプには例えばパイロフィライト族、スメクタイト族、バーミキュライト族、雲母族、脆雲母族、及び緑泥石族が分類される。これら粘土鉱物は層状無機化合物の構造を有し、最小基本単位としてのナノシートと、層間イオンとから成っている。
【0020】
なお用語「ナノシート」に関し、本明細書では、特記がない限り、層状無機化合物が単位層(すなわち1層)〜数十層(特に10層)までへき開されたものを包含してナノシートと称する。ナノシートは、できる限り単位層に近くなるようにへき開されていることが好ましい。ナノシートは、例えば後述するような方法により、層状無機化合物を水分散液中又は有機溶媒分散液中で単位層(すなわち1層)〜数十層まで、好ましくはできる限り単位層に近くなるように、へき開(剥離)することにより形成できる。スメクタイト族、バーミキュライト族、及び雲母族は、有機溶媒中でへき開(剥離)しやすいという特性を有する。本発明においては、ガスバリアシートの透明性の観点から、上記の中でも特に、スメクタイト族及び雲母族からなる群より選ばれる1種以上を用いる。なお、分散液中で、層状無機化合物がへき開物であるナノシートとして存在していることの確認は、小角X線散乱測定によって行うことができる。本発明において、上記のスメクタイト族には、モンモリロナイト、ヘクトライト、サポナイトといった粘土鉱物が含まれており、中でもヘクトライトが好ましい。」
「【0023】
水蒸気ガスバリア性の観点からは、平均アスペクト比が大きいナノシートが好ましい。後述の方法で算出される、ナノシートの平均アスペクト比は、好ましくは40以上、より好ましくは150以上、さらに好ましくは500以上、最も好ましくは1000以上である。」
「【0032】
[アミン]
本発明において用いる、アミンについて説明する。本発明においては、スメクタイト族及び雲母族からなる群より選ばれる1種以上の層状無機化合物のへき開物であるナノシートとアミンとを組合せて用いる。アミンは、典型的には、ナノシートが有機溶媒中に分散している有機溶媒分散液中にアミンを添加し、その後有機溶媒を除去することによって、ナノシートと組合される。これによりアミンの少なくとも一部がナノシートに吸着する。アミンがナノシートに吸着することによりナノシート表面を疎水化できるため、本発明のガスバリアシートは優れた水蒸気ガスバリア性を発現する。また、本発明の好ましい態様においては、アミンの少なくとも一部がイオン化(特にカチオン化)してナノシートとイオン結合した状態で存在することによって、ナノシートとより強く吸着する。この場合、水蒸気ガスバリア性は特に良好である。アミンがカチオン化してナノシートとイオン結合している状態の存在は、例えば、硝酸等でナノシートを浸漬処理し、得られた処理液中の陽イオン種を定量してアミンイオンの存在を検出する方法により確認される。
【0033】
アミンとしては、ナノシートを良好に疎水化できるという観点から有機アミンが好ましい。また、第一級アミン、第二級アミン及び第三級アミンのいずれも使用でき、そしてアリールアミン、複素環式アミン、脂肪族ポリアミン、芳香族アミン等のいずれも使用できる。・・・」
「【0036】
アミンのカチオン化は、例えばナノシートの層間イオンとして存在しているカチオンがアミンと反応することによって生じることができる。・・・」
「【0039】
ガスバリア層中のアミンの含有量(ガスバリア層が添加剤を含有しない場合には、ナノシートとアミンとの合計質量に占めるアミンの割合)が50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは50質量%未満、さらに好ましくは30質量%以下である。この場合、ナノシートのカチオン交換容量にもよるが、ナノシートの層間距離が5.0nm以上に広がることがないと考えられる点で有利である。なお、ナノシートとアミンとの合計質量に占めるナノシートの割合は50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは50質量%超、さらに好ましくは70質量%以上である。一方、ガスバリア層中のアミンの含有量(ガスバリア層が添加剤を含有しない場合には、ナノシートとアミンとの合計質量に占めるナノシートの割合)は、アミンがナノシートに良好に吸着する点で、1質量%以上であることが好ましく、さらに好ましくは3質量%以上である。」
「【0041】
本発明に係るガスバリアシートは、ガスバリア層において、ナノシートの面方向がガスバリア層の面方向と略平行であるようにナノシートが積層されていることによって、優れた水蒸気ガスバリア性を有する。・・・」
「【0045】
ただし、アミンのナノシートに対する割合が多くなり、かつインターカレーションが進んであまりにもナノシート層間距離が拡大しすぎると、水蒸気ガスバリア性も含めて、一般にガスバリア性が低下する。従って、ガスバリア性の観点からは、001面の一次回折によるピークトップの位置は、2θで1.75度以上(層間距離に換算して5.0nm以下)が好ましく、1.75度超(層間距離に換算して5.0nm未満)がより好ましく、2.21度以上(層間距離に換算して4.0nm以下)がより好ましく、2.94度以上(層間距離に換算して3.0nm以下)がさらに好ましく、4.41度以上(層間距離に換算して2.0nm以下)がさらに好ましく、5.51度以上(層間距離に換算して1.6nm以下)が特に好ましい。」
「【0112】
水に難溶な疎水性の添加剤を用いることで、ガスバリア層の疎水性を向上させることができ、水蒸気ガスバリア性が向上する。添加剤としては、低分子化合物、モノマー、オリゴマー、高分子化合物及び高分子前駆体等を挙げることができ、・・・」
(2) 判断
ア.本件発明1について
(ア) 本件発明1と甲1発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
・後者の「紙基材」、「一方の面」、「水蒸気バリア塗工層」、「ガスバリア塗工層」、「スチレン・アクリル系共重合体」、「カオリン」及び「ポリビニルアルコール」は、それぞれ、前者の「紙基材」、「一方の面」、「第1樹脂層」、「保護層」、「水懸濁性高分子1」、「板状無機化合物」及び「水溶性高分子」に相当する。
・後者の「前記紙基材に近い側から水蒸気バリア塗工層とガスバリア塗工層とをこの順に有する紙製バリア材料」は、積層体をなすものであり、紙を基材とするものであるから、前者の「紙積層体」に相当する。
・後者の「前記紙製バリア材料はその両面に低密度ポリエチレンの層を厚み30μm積層し」ていることは、水蒸気バリア塗工層及びガスバリア塗工層が設けられている紙製バリア材料の面と反対側が、「一方」に対する「他方」といえ、ポリエチレンの層は、樹脂層であるから、前者の「前記紙基材の他方の面の第2樹脂層およびOPニス層の少なくともいずれかとを有する」ことに相当する。
・後者の「前記水蒸気バリア塗工層がスチレン・アクリル系共重合体及び粒子径が9.0μmでアスペクト比が80〜100のカオリンを含有し」ていることと、前者の「前記第1樹脂層が、水懸濁性高分子1、アスペクト比50以上の板状無機化合物、およびカチオン性樹脂を含有し」ていることとは、「前記第1樹脂層が、水懸濁性高分子1、アスペクト比50以上の板状無機化合物、を含有し」ている限りで一致する。
・後者の「前記ガスバリア塗工層がポリビニルアルコールを含有し」ていることは、前者の「前記保護層が水溶性高分子および水懸濁性高分子2の少なくともいずれかを含有し」ていることに相当する。
・後者の「前記水蒸気バリア塗工層の塗工量が乾燥重量で15g/m2である」ことと、前者の「前記第1樹脂層の塗工量が、固形分として、10g/m2以下であ」ることとは、乾燥重量を有することが固形分を所定量以下含むことを踏まえると、「前記第1樹脂層の塗工量が、固形分として、所定量以下である」限りで一致する。
したがって、両者は、
「紙基材と、前記紙基材の一方の面の第1樹脂層および保護層と、前記紙基材の他方の面の第2樹脂層およびOPニス層の少なくともいずれかとを有する紙積層体であって、
前記第1樹脂層が、水懸濁性高分子1、アスペクト比50以上の板状無機化合物、を含有し、
前記第1樹脂層の塗工量が、固形分として、所定量以下であり、
前記保護層が水溶性高分子および水懸濁性高分子2の少なくともいずれかを含有する、紙積層体。」の点で一致し、次の点で相違している。

[相違点1]
第1樹脂層について、本件発明1は、「カチオン性樹脂」を含有し、「前記第1樹脂層に含有される前記カチオン性樹脂の含有量が、前記第1樹脂層に含まれる板状無機化合物100質量部に対して、50質量部以上300質量部以下であ」るのに対して、甲1発明は、カチオン性樹脂を含んでいない点。

[相違点2]
第1樹脂層の塗工量が、固形分として、所定量以下であることについて、本件発明1は、「10g/m2以下であ」るのに対して、甲1発明は、「15g/m2である」点。

[相違点3]
第2樹脂層について、本件発明1は、「前記第2樹脂層が水懸濁性高分子1を含有し、前記第2樹脂層及びOPニス層の塗工量が、固形分として、3g/m2以下である」のに対して、甲1発明は、「低密度ポリエチレンを厚み30μm積層し」たものであるが、低密度ポリエチレンの層が水懸濁性高分子を含有しているか否か及び低密度ポリエチレン層の塗工量(g/m2)については、特定していない点。

(イ) 相違点の判断
事案に鑑み、相違点3について、先ず検討する。
甲1には、低密度ポリエチレンの塗工量(g/m2)は、記載されていないが、甲1発明が低密度ポリエチレンを厚み30μmに積層していることから、一般的な低密度ポリエチレンの密度0.91g/cm3〜0.93g/cm3を用いて計算すると、27.3〜27.9g/m2となり、甲1発明の塗工量は、本件発明1の「3g/m2以下」と比較して、大きな値となっている。
本件発明1は、「前記第2樹脂層が水懸濁性高分子1を含有し、前記第2樹脂層及びOPニス層の塗工量が、固形分として、3g/m2以下」とし、紙基材の両面に水懸濁性高分子1を含有した樹脂層を設けることにより、全体として樹脂層の塗工量が同じであっても、水蒸気透過度を比較的に小さくすることができるものである(本件特許明細書【0091】〜【0093】)。
具体的には、本件特許明細書の実施例1〜11の、第1樹脂層と、第2樹脂層又OPニス層との塗工量の合計が6g/m2で、そのうち、第2樹脂層及びOPニス層の塗工量が3g/m2以下としたものは、水蒸気透過度が1.6〜2.9g/(m2・day)であるのに対して、同じく比較例1及び2の、第1樹脂層の塗工量の合計が6g/m2で、第2樹脂層又はOPニス層を有さないものは、水蒸気透過度が4.5g/(m2・day)、3.5(m2・day)となっている。
また、水蒸気透過度を比較的に小さくすることができる作用機序については、「第1樹脂層が、水懸濁性高分子1、アスペクト比50以上の板状無機化合物、およびカチオン性樹脂を含有し、前記保護層が水溶性高分子および水懸濁性高分子2の少なくともいずれかを含有し、前記第2樹脂層が水懸濁性高分子1を含有する」(本件特許明細書【0007】)と、「紙のように水やビヒクルが浸透する性質を持つ基材では、水懸濁性高分子1またはワニスが紙基材上に適度に留まり、紙基材中の水蒸気の移動を効果的に阻むことが考えられ」、「一方の面に第1樹脂層を形成することにより水蒸気バリア性が発現されるが、その水蒸気バリア性は一方の面に第1樹脂層を形成するだけでは十分なものではなく、他方の面に第2樹脂層およびOPニス層の少なくともいずれかを形成することではじめて十分で余りある水蒸気バリア性が発現される」(本件特許明細書【0009】)というものである。
以上のとおり、本件発明1は、相違点3に係る本件発明1の特定事項を有することにより、第2樹脂層及びOPニス層の塗工量が3g/m2以下という、少ない塗工量としながら、比較的に小さい水蒸気透過度である紙積層体を得ることができるという顕著な効果を奏するものであり、相違点3に係る本件発明1の特定事項並びに作用機序及び効果について、甲1及び甲2には、記載も示唆もなされていない。
したがって、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明1及び甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

なお、申立人は、上記相違点3に関して、「甲1の段落[0082]には、甲1発明の紙製バリア材料の少なくとも一方の面上に、さらに保護層を有してもよく、当該保護層は、紙製バリア材料に更なる水蒸気バリア性を付与することができるものであってもよいことが記載されている。そうしてみると、甲1発明の紙製バリア材料において、紙基材の水蒸気バリア塗工層及びガスバリア塗工層を有していない面に、更に水蒸気バリア性を付与する層を設けることは、当業者であれば格別の創意を要する事項ではない。そして、甲1発明では、水蒸気バリア性を付与する層として、本件発明1における水懸濁性高分子1に相当するスチレン・アクリル系共重合体とアスペクト比が80〜100のカオリンを含有する水蒸気バリア塗工層が既に使用されていることから、甲1発明において、追加する水蒸気バリア性を付与する層として、この水蒸気バリア塗工層を使用すること、その際の塗工量を決定することも、当業者であれば格別の創意を要する事項ではない。」と主張している(特許異議申立書第17ページ第22〜35行)。
しかしながら、水蒸気バリア性を付与する層を追加して設けた場合には、使用する樹脂の量は追加されることとなるから、上記した本件発明1の効果を予測させるものではないので、申立人の係る主張は採用できない。
イ.本件発明2〜17について
本件発明2〜17は、直接的あるいは間接的に本件発明1を引用するものである。そうすると、本件発明1に特定事項を付加し、限定した本件発明2〜17は、上記ア.に示したように、甲1発明及び甲2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3) 以上のとおりであるから、本件発明1〜17は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでなく、特許法第29第2項の規定に違反して特許されたものでないから、同法第113条第2号の規定に基づき取り消すことはできない。

2.申立理由2(サポート要件)について
(1) 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。そこで、以下に検討する。
(2) 本件発明の課題について
ア.本件特許明細書の記載
本件特許明細書には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で参考のため付与したものである)。
「【0006】
特許文献1および2のように、紙基材の酸素バリア性、水蒸気バリア性等のバリア性を向上させる試みはなされているものの、十分なバリア性能が得られていない。たとえば、紙基材の厚さを増加する試みもなされているが、紙のように水が浸透する性質を持つ基材上に積層することから、バリア性、特に水蒸気バリア性には、必ずしも満足すべき結果が得られていないのが現状である。
そこで、本発明は、高いバリア性を有する紙積層体を提供することを主な目的とする。」
「【0007】
本発明者等は、鋭意検討の結果、紙基材の一方の面に第1樹脂層と保護層とを有し、紙基材の他方の面に第2樹脂層およびOPニス層の少なくともいずれかを有する紙積層体が、前記課題を解決することを見出した。
すなわち、本発明は以下の(1)〜(15)を提供するものである。
(1)紙基材と、前記紙基材の一方の面の第1樹脂層および保護層と、前記紙基材の他方の面の第2樹脂層およびOPニス層の少なくともいずれかとを有する紙積層体であって、前記第1樹脂層が、水懸濁性高分子1、アスペクト比50以上の板状無機化合物、およびカチオン性樹脂を含有し、前記保護層が水溶性高分子および水懸濁性高分子2の少なくともいずれかを含有し、前記第2樹脂層が水懸濁性高分子1を含有する、紙積層体。・・・」
「【0008】
[紙積層体]
本実施形態の紙積層体は、紙基材と、前記紙基材の一方の面の第1樹脂層および保護層と、前記紙基材の他方の面の第2樹脂層およびOPニス層の少なくともいずれかとを有する紙積層体であって、前記第1樹脂層が、水懸濁性高分子1、アスペクト比50以上の板状無機化合物、およびカチオン性樹脂を含有し、前記保護層が水溶性高分子および水懸濁性高分子2の少なくともいずれかを含有し、前記第2樹脂層が水懸濁性高分子1を含有する。本実施形態の紙積層体は、高いバリア性能を有する。
本実施形態では、主に第1樹脂層および第2樹脂層もしくはOPニス層によって、バリア性、特に水蒸気バリア性を発現し、保護層によってガスバリア性、特に酸素バリア性を発現していると考えられる。
【0009】
本実施形態では、紙基材の他方の面に形成された第2樹脂層およびOPニス層の少なくともいずれかを有することによって、特段に優れた水蒸気バリア性を発現することができる。理由については明らかではないが、紙のように水やビヒクルが浸透する性質を持つ基材では、水懸濁性高分子1またはワニスが紙基材上に適度に留まり、紙基材中の水蒸気の移動を効果的に阻むことが考えられる。なお、一方の面に第1樹脂層を形成することにより水蒸気バリア性が発現されるが、その水蒸気バリア性は一方の面に第1樹脂層を形成するだけでは十分なものではなく、他方の面に第2樹脂層およびOPニス層の少なくともいずれかを形成することではじめて十分で余りある水蒸気バリア性が発現される。・・・」
「【0020】
<第1樹脂層>
本実施形態における第1樹脂層は、紙基材の一方の面に形成されている。かかる第1樹脂層は、水懸濁性高分子1、アスペクト比50以上の板状無機化合物、およびカチオン性樹脂を含有する。これにより、第1樹脂層の顕微鏡拡大写真を撮ったときに、従来とは明らかに異なり、空隙のない稠密な膜が形成される。この第1樹脂層の空隙のない稠密な膜構造が、優れた水蒸気バリア性を発揮していると考えられる。また、第1樹脂層を紙基材上に形成し、保護層を第1樹脂層上に直接形成する場合、均一な保護層の形成にも寄与して、より一層優れたガスバリア性、水蒸気バリア性を発現することができると考えられる。
【0021】
<<水懸濁性高分子1>>
水懸濁性高分子1は、水に懸濁することが可能な高分子であり、第1樹脂層を形成する際に、水を分散媒とした塗料を調製することを容易にする。水懸濁性高分子1は、第1樹脂層の形成においてバインダーとして機能するため、板状無機化合物等を含有する第1樹脂層を均一に形成することができる。・・・」
「【0029】
<<板状無機化合物>>
板状無機化合物のアスペクト比は、50以上であり、好ましくは80以上であり、より好ましくは200以上であり、さらに好ましくは300以上であり、特に好ましくは500以上である。アスペクト比が大きいほど、水蒸気およびガスの移動距離が長くなる迷路効果により、水蒸気バリア性およびガスバリア性を向上させることができる。また、アスペクト比が大きいほど、少ない含有量で高い水蒸気バリア性を発揮することができる。アスペクト比の上限は、特に限定されないが、入手容易性、第1樹脂層を形成する際の粘度等の観点から、好ましくは10000以下である。
板状無機化合物のアスペクト比は、第1樹脂層を付与した方向に対して平行な厚さ方向(第1樹脂層の垂直方向)の断面について、電子顕微鏡を用いて拡大写真を撮影し、少なくとも30個の板状無機化合物の長さおよび厚さを測定し、算術平均することにより平均長さおよび平均厚さを求める。そして、板状無機化合物の平均長さを平均厚さで除した値を板状無機化合物のアスペクト比とする。
【0030】
板状無機化合物は、上記のアスペクト比を有していれば、特に限定されないが、合成マイカ、ベントナイト、およびカオリンよりなる群から選ばれる1種以上であることが好ましく、合成マイカ、およびカオリンよりなる群から選ばれる1種以上であることがより好ましい。
【0031】
板状無機化合物の厚さ(平均厚さ)は、好ましくは200nm以下、より好ましくは120nm以下、さらに好ましくは80nm以下、さらにより好ましくは50nm以下、特に好ましくは20nm以下である。厚さの下限は、特に限定されないが、入手容易性、第1樹脂層を形成する際の粘度等の観点から、好ましくは1nm以上である。板状無機化合物の平均厚さが小さい方が、第1樹脂層中における板状無機化合物の積層数が多くなるため、少ない含有量で高い水蒸気バリア性を発揮することができる。
【0032】
板状無機化合物の長さ(平均長さ)は、1μm以上であることが好ましく、100μm以下であることが好ましい。長さが1μm以上であると、板状無機化合物が紙基材に対して平行に配列し易い。また、長さが100μm以下であると、板状無機化合物の一部が第1樹脂層から突出する懸念が少ない。なお、板状無機化合物の長さは、粒子径という表現で記載されることもある。」
「【0034】
第1樹脂層中に含有される板状無機化合物の割合は、特に限定されず、水蒸気バリア性およびガスバリア性を向上する観点から、第1樹脂層の全固形量中0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、2質量%以上が特に好ましい。一方、第1樹脂層中に含有される板状無機化合物の割合は、保護層表面の平滑性を向上する観点から、第1樹脂層の全固形量中、80質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることがさらに好ましく、20質量%以下であることがさらにより好ましく、15質量%以下であることが特に好ましい。より少ない含有量で効果的であるといった観点から、板状無機化合物の中でもアスペクト比が大きく、厚さの小さい合成マイカが好適に使用できる。
【0035】
<<カチオン性樹脂>>
第1樹脂層は、カチオン性樹脂を含有する。これにより、板状無機化合物の分散性が向上し、水蒸気バリア性が大きく向上する。板状無機化合物は、板状の平面部分がアニオン性に帯電しやすく、エッジ部分がカチオン性に帯電しやすいため、板状無機化合物が相互に立体的に連結した、いわゆるカードハウス構造をとることが知られている。このカードハウス構造のために、板状無機化合物の水分散液の粘度は非常に高くなる。一方、カードハウス構造は撹拌などにより力を加えると簡単に壊れるため、板状無機化合物の水分散液はチキソトロピー性を示す。板状無機化合物の水分散液に、適切なカチオン性樹脂を添加すると、板状無機化合物のアニオン性に帯電した平面部分にカチオン性樹脂が吸着することによって、カードハウス構造が破壊されると考えられる。その結果、板状無機化合物が立体的に連結することが抑制され、板状無機化合物が紙基材平面に対して平行に積層しやすくなり、水蒸気バリア性の向上につながると推定される。さらに、ガスバリア性も向上すると推定される。」
「【0037】
第1樹脂層中に含有されるカチオン性樹脂の含有量は、水蒸気バリア性を向上させる観点から、第1樹脂層に含有される板状無機化合物100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、20質量部以上がさらに好ましく、50質量部以上が特に好ましく、そして、300質量部以下が好ましく、250質量部以下がより好ましく、150質量部以下がさらに好ましく、100質量部以下が特に好ましい。」
「【0042】
<保護層>
本実施形態における保護層は、紙基材の一方の面に形成されている。かかる保護層は、水溶性高分子および水懸濁性高分子2の少なくともいずれかを含有する。保護層は、第1樹脂層上に形成されていてもよく、紙基材上に形成されていてもよい。第1樹脂層上に形成される場合、ガスバリア性、特に酸素バリア性に優れるとともに、第1樹脂層を保護してバリア性を向上できる。一方、保護層を紙基材上に形成することによって、均一な第1樹脂層を形成し、バリア性を向上することができる。これらの中でも、前記紙基材の一方の面に、紙基材に近い側から前記第1樹脂層と前記保護層とをこの順に有することが、ガスバリア性、特に酸素バリア性にも優れる紙積層体を得る観点から好ましい。なお、本実施形態の紙積層体は、前記紙基材の一方の面に、紙基材に近い側から前記保護層と前記第1樹脂層とをこの順に有していてもよい。なお、第1樹脂層が含有する水懸濁性高分子1と、保護層が含有する水懸濁性樹脂2とは、非同一であることが好ましい。
【0043】
<<水溶性高分子>>
水溶性高分子とは、水に溶解可能な高分子をいう。水に溶解可能な高分子とは、25℃の水100gに1g以上溶解するものをいう。
水溶性高分子としては、たとえば、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、デンプンおよびその誘導体、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸およびその塩、カゼイン、ポリエチレンイミンなどが挙げられる。」
「【0051】
<第2樹脂層>
本実施形態における第2樹脂層は、紙基材の他方の面に形成されている。かかる第2樹脂層は、水懸濁性高分子1を含有している。水懸濁性高分子1としては、特に限定されず、前述した第1樹脂層に使用できるものの中から適宜選択することができる。第2樹脂層に含有させる水懸濁性高分子1は、第1樹脂層に含有させる水懸濁性高分子1と同一の種類であってもよいし、異なる種類であってもよいが、同一の種類であることが好ましい。これらの中でも、第2樹脂層に含有させる水懸濁性高分子1としては、水蒸気バリア性を向上する観点から、オレフィン・不飽和カルボン酸系共重合体が好ましい。水懸濁性高分子1の内容は、前述したとおりである。」
「【0055】
<OPニス層>
本実施形態におけるOPニス層は、紙基材の他方の面に形成されている。かかるOPニス層は、オーバープリントニス層とも呼称され、一般に印刷インキ面を保護するために使用されているワニス(OPニス)を含有している。また、印刷インキの色を薄くするために使用する無色透明のインキであるメジウムをOPニスとして用いることもできる。」
「【0064】
<紙積層体の物性>
本実施形態の紙積層体は、水蒸気透過度が低いことが好ましく、具体的には、好ましくは5.0g/(m2・day)以下、より好ましくは3.0g/(m2・day)以下、さらに好ましくは2.5g/(m2・day)以下、よりさらに好ましくは2.0g/m2以下であり、そして、好ましくは0.1g/(m2・day)以上、より好ましくは0.5g/(m2・day)以上、さらに好ましくは1.0g/(m2・day)以上である。
紙積層体の水蒸気透過度は、実施例に記載の方法により測定される。」
「【0064】
<紙積層体の物性>
本実施形態の紙積層体は、水蒸気透過度が低いことが好ましく、具体的には、好ましくは5.0g/(m2・day)以下、より好ましくは3.0g/(m2・day)以下、さらに好ましくは2.5g/(m2・day)以下、よりさらに好ましくは2.0g/m2以下であり、そして、好ましくは0.1g/(m2・day)以上、より好ましくは0.5g/(m2・day)以上、さらに好ましくは1.0g/(m2・day)以上である。」
「【0074】
[実施例1]
・保護層塗料の調製
水溶性高分子としてのエチレン変性ポリビニルアルコール(完全ケン化型、商品名:エクセバールAQ−4104、株式会社クラレ製)の固形分濃度15%水溶液100部、板状無機化合物の水分散液(合成マイカ、粒子径6.3μm、アスペクト比約1000、厚さ約5nm、固形分6%、商品名:NTO−05、トピー工業株式会社製)25部、および板状無機化合物(エンジニアードカオリン、粒子径10μm、アスペクト比約100、厚さ約100nm、製品名:バリサーフHX、イメリス社製)を水に分散した固形分55%の水分散液15部からなる組成物を混合撹拌して保護層塗料を得た。
【0075】
・第1樹脂層塗料の調製
水懸濁性高分子1としてのオレフィン・不飽和カルボン酸系共重合体として自己乳化型ポリオレフィン分散液(固形分29.2%、不飽和カルボン酸系単量体の含有量20mol%、商品名:ザイクセンAC、住友精化株式会社製)35部、板状無機化合物の水分散液(合成マイカ、粒子径6.3μm、アスペクト比約1000、厚さ約5nm、固形分6%、商品名:NTO−05、トピー工業株式会社製)20部、カチオン性樹脂としての変性ポリアミド系樹脂(固形分53%、商品名:SPI203(50)H、田岡化学工業株式会社製)2部、25%アンモニア水溶液0.1部、および水からなる組成物を混合撹拌して固形分濃度20%の第1樹脂層塗料を得た。
【0076】
・紙積層体の作製
紙基材として晒クラフト紙(坪量50g/m2、厚さ60μm、JIS P 8121−2:2012に準じて測定した離解フリーネス(濾水度)400ml、JIS P 8122:2004に準ずるステキヒトサイズ度9秒、王子マテリア株式会社製)を用いた。この紙基材の一方の面(表面)上に第1樹脂層を形成し、この第1樹脂層上に保護層を形成した。すなわち、第1樹脂層は、上記で得られた第1樹脂層塗料を用いて、乾燥後の塗工量が3g/m2(乾燥後の厚さが3μm)となるように、メイヤーバーで塗工した後、熱風乾燥機内で120℃、1分間乾燥して形成した。保護層は、上記で得られた保護層塗料を用いて、乾燥後の塗工量が3g/m2(乾燥後の厚さが3μm)となるように、メイヤーバーで塗工した後、熱風乾燥機内で120℃、1分間乾燥して形成した。さらに第2樹脂層塗料として上記で得られた第1樹脂層塗料を用いて、紙基材の他方の面(裏面)上に塗工量が3g/m2(乾燥後の厚さが3μm)となるようにメイヤーバーで塗工した後、熱風乾燥器内で120℃、1分間乾燥して第2樹脂層を形成し、紙積層体を得た。
【0077】
[実施例2]
実施例1の紙積層体の作製において、第2樹脂層塗料として、上記で得られた第1樹脂層塗料に代えて、水懸濁性高分子1としてのオレフィン・不飽和カルボン酸系共重合体として自己乳化型ポリオレフィン分散液(固形分29.2%、不飽和カルボン酸系単量体の含有量20mol%、商品名:ザイクセンAC、住友精化株式会社製)を水で希釈して固形分18%としたものを第2樹脂層塗料として用いたこと以外は、実施例1と同様にして紙積層体を得た。」
「【0087】
[比較例1]
実施例1の紙積層体の作製において、紙基材の一方の面(表面)上に第1樹脂層を形成し、この第1樹脂層上に保護層を形成したことに代えて、紙基材の一方の面(表面)上に第1樹脂層を形成し、この第1樹脂層上にさらに第1樹脂層を形成し、この二層目となる第1樹脂層上に保護層を形成した。すなわち、乾燥後の塗工量が3g/m2ずつの二層構造を有する第1樹脂層を形成した。さらに、紙基材の他方の面(裏面)上に第2樹脂層を形成しなかった。これら以外は、実施例1と同様にして紙積層体を得た。
【0088】
[比較例2]
実施例1の紙積層体の作製において、第1樹脂層の乾燥後の塗工量を3g/m2代えて6g/m2とした。さらに、紙基材の他方の面上に第2樹脂層を形成しなかった。これら以外は、実施例1と同様にして紙積層体を得た。」



「【0093】
表1−1及び表1−2から明らかなように、実施例1〜11の紙積層体は、水蒸気透過度が低く、水蒸気バリア性に優れていた。一方、比較例1および2の紙積層体は、紙基材の他方の面に第2樹脂層およびOPニス層のいずれも形成されていないので、水蒸気透過度が高く、水蒸気バリア性に劣っていた。
また、表1−1から明らかなように、第2樹脂層がアスペクト比50以上の板状無機化合物およびカチオン性樹脂を含有する実施例1の紙積層体は、第2樹脂層が板状無機化合物およびカチオン性樹脂を含有しない実施例2および3の紙積層体よりも、水蒸気透過度がより低く、水蒸気バリア性により優れていた。
また、表1−1から明らかなように、紙基材の一方の面に紙基材に近い側から第1樹脂層と保護層とをこの順に有する実施例1の紙積層体は、紙基材の一方の面に紙基材に近い側から保護層と第1樹脂層とをこの順に有する実施例4の紙積層体よりも、水蒸気透過度がより低く、水蒸気バリア性により優れていた。
また、表1−1から明らかなように、第1樹脂層の形成量が第2樹脂層の形成量より大きい実施例5の紙積層体は、第1樹脂層の形成量が第2樹脂層の形成量と同じである実施例1の紙積層体よりも、水蒸気透過度がより低く、水蒸気バリア性により優れていた。
さらに、表1−1及び表1−2から明らかなように、紙積層体の保護層の上に、シーラント層としての低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン株式会社製)を押出ラミネートした実施例6及び9の紙積層体は、それぞれ、シーラント層が形成されていない実施例1及び8よりも、水蒸気透過度がより低く、水蒸気バリア性により優れていた。」
イ.以上によれば、当業者は、本件発明の課題は、「高いバリア性を有する紙積層体を提供すること」(【0006】)であると認識することができる。
(3) 上記発明の課題を解決する手段に関して、その作用機序として、以下の事項が理解できる。
ア. 「紙基材の一方の面に第1樹脂層と保護層とを有し、紙基材の他方の面に第2樹脂層およびOPニス層の少なくともいずれかを有する紙積層」(【0007】)において、「第1樹脂層が、水懸濁性高分子1、アスペクト比50以上の板状無機化合物、およびカチオン性樹脂を含有し、前記保護層が水溶性高分子および水懸濁性高分子2の少なくともいずれかを含有し、前記第2樹脂層が水懸濁性高分子1を含有する」(【0007】)と、「紙のように水やビヒクルが浸透する性質を持つ基材では、水懸濁性高分子1またはワニスが紙基材上に適度に留まり、紙基材中の水蒸気の移動を効果的に阻むことが考えられ」、「一方の面に第1樹脂層を形成することにより水蒸気バリア性が発現されるが、その水蒸気バリア性は一方の面に第1樹脂層を形成するだけでは十分なものではなく、他方の面に第2樹脂層およびOPニス層の少なくともいずれかを形成することではじめて十分で余りある水蒸気バリア性が発現される」(【0009】)。
イ. 「板状無機化合物のアスペクト比は、50以上であり、好ましくは80以上であり、より好ましくは200以上であり、さらに好ましくは300以上であり、特に好ましくは500以上であ」り、「アスペクト比が大きいほど、水蒸気およびガスの移動距離が長くなる迷路効果により、水蒸気バリア性およびガスバリア性を向上させることができる」(【0029】)。
また、「より少ない含有量で効果的であるといった観点から、板状無機化合物の中でもアスペクト比が大きく、厚さの小さい」(【0034】)ものが好適であり、板状無機化合物の長さ(【0032】)や、厚さ(【0031】)の選択により、アスペクト比は上記範囲を参考に、適宜なものを採用することができる。
ウ. 第1樹脂層は、カチオン性樹脂を含有することで、板状無機化合物の分散性が向上し、水蒸気バリア性が向上する(【0035】)。また、板状無機化合物が相互に立体的に連結したカードハウス構造を、カチオン性樹脂を添加すると、破壊されると考えられ、その結果、板状無機化合物が紙基材平面に対して平行に積層しやすくなり、水蒸気バリア性の向上につながると推定される(【0035】)。
その添加量も、カードハウス構造を破壊できる量を添加すればよく、第1樹脂層に含有される板状無機化合物100質量部に対して、記載された1質量部以上300質量部以下でカーハウス構造を破壊できる量以上を目安として、板状無機化合物の性状に応じて、適宜添加すればよいことが理解できる。
(4) 請求項1について
ア. 本件発明1は、
「紙基材と、前記紙基材の一方の面の第1樹脂層および保護層と、前記紙基材の他方の面の第2樹脂層およびOPニス層の少なくともいずれかとを有する紙積層体」であること、
「前記第1樹脂層が、水懸濁性高分子1、アスペクト比50以上の板状無機化合物、およびカチオン性樹脂を含有し、
前記第1樹脂層に含有される前記カチオン性樹脂の含有量が、前記第1樹脂層に含まれる板状無機化合物100質量部に対して、50質量部以上300質量部以下であり、
前記第1樹脂層の塗工量が、固形分として、10g/m2以下であ」ること、
「前記保護層が水溶性高分子および水懸濁性高分子2の少なくともいずれかを含有」すること、
「前記第2樹脂層が水懸濁性高分子1を含有し、
前記第2樹脂層及びOPニス層の塗工量が、固形分として、3g/m2以下である」ことを特定している。
イ. そして、上記(3)の作用機序を踏まえると、本件発明1が「前記紙基材の他方の面の第2樹脂層およびOPニス層」を備えないものと比較して、高いバリア性を有する紙積層体となることが理解でき、本件発明1が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
(5) 本件発明2〜17について
本件発明2〜17は、直接的あるいは間接的に本件発明1を引用するものである。そうすると、本件発明1に特定事項を付加し、限定した本件発明2〜17が、上記(4)に示したように、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
(6) 申立人の主張について
申立人は、甲2を参酌し、ナノシートの層間距離が広がることによる、ガスバリアシートの水蒸気ガスバリア性が低下するのを防ぐため、ガスバリア層に含まれるナノシートと少なくとも一部がカチオン化したアミンとの合計質量に占める上記アミンの割合は、50質量%未満であることが好ましいとし、本件発明1が、第1樹脂層に含有されるカチオン性樹脂の含有量が板状無機化合物100質量部に対して100質量部以上となった場合には、板状無機化合物の層間距離が広がることによって水蒸気バリア性が低下して、得られた紙積層体は、本件発明の課題が解決できない旨主張している。
しかしながら、甲2には、「アミンは、典型的には、ナノシートが有機溶媒中に分散している有機溶媒分散液中にアミンを添加し、その後有機溶媒を除去することによって、ナノシートと組合される。これによりアミンの少なくとも一部がナノシートに吸着する。アミンがナノシートに吸着することによりナノシート表面を疎水化できるため、本発明のガスバリアシートは優れた水蒸気ガスバリア性を発現する。」(【0032】)と記載され、本件発明1の「アスペクト比が大きいほど、水蒸気およびガスの移動距離が長くなる迷路効果により、水蒸気バリア性およびガスバリア性を向上させることができる」(本件特許明細書【0027】)との作用機序とは異なるものであり、甲2に記載された事項を、そのまま採用することができず、申立人の主張は採用できない。
(7) 以上のことより、請求項1〜17に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、同法第113条第4号の規定に基づき取り消すことはできない。

第5 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜17に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜17に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-06-03 
出願番号 P2021-512470
審決分類 P 1 651・ 121- Y (D21H)
P 1 651・ 537- Y (D21H)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 藤原 直欣
特許庁審判官 山崎 勝司
藤井 眞吾
登録日 2021-09-13 
登録番号 6943351
権利者 王子ホールディングス株式会社
発明の名称 紙積層体  
代理人 特許業務法人大谷特許事務所  
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