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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C25D |
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管理番号 | 1386208 |
総通号数 | 7 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-07-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2022-04-05 |
確定日 | 2022-07-05 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6946576号発明「めっき液精製用フィルターおよびめっき液精製用吸着剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6946576号の請求項1〜7に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6946576号(請求項の数7。以下,「本件特許」という。)は,2019年(令和1年)12月24日(優先権主張:平成30年12月27日)を国際出願日とする出願(特願2020−563292号)に係るものであって,令和3年9月17日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は,令和3年10月6日である。)。 その後,令和4年4月5日に,本件特許の請求項1〜7に係る特許に対して,特許異議申立人である後藤奈美(以下,「申立人」という。)により,特許異議の申立てがされた。 第2 本件発明 本件特許の請求項1〜7に係る発明は,本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下,それぞれ「本件発明1」等という。また,本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。 【請求項1】 めっき液精製用フィルターであって, 活性炭からなる吸着剤を含有し,単位質量当たりのヨウ素吸着量が930〜1300mg/gである成型体を備え, 塩化物イオン濃度が6.0〜9.0mg/L,pHが6.9〜7.5,電気伝導度が90〜130μS/cmである原水を1分間濾過した後採取された濾過水の塩化物イオン濃度が,前記原水の塩化物イオン濃度以下であり, MP法で測定した前記活性炭の平均細孔径が1.70nm以上1.92nm以下である,めっき液精製用フィルター。 【請求項2】 前記濾過水の電気伝導度が,前記原水の電気伝導度に5μS/cmを加算した値以下である,請求項1に記載のめっき液精製用フィルター。 【請求項3】 前記成型体は繊維状バインダーを含有する,請求項1または請求項2に記載のめっき液精製用フィルター。 【請求項4】 前記活性炭はヤシ殻を原料とする,請求項1〜3のいずれか1項に記載のめっき液精製用フィルター。 【請求項5】 メチレンブルー循環吸着回数が4回以上12回以下である,請求項1〜4のいずれか1項に記載のめっき液精製用フィルター。 【請求項6】 細孔容積算出相対圧を0.990として測定した前記活性炭の全細孔容積に対する,MP法で測定した前記活性炭の直径1.0nm以上1.5nm以下の細孔の容積の割合が,2.3%以上である,請求項1〜5のいずれか1項に記載のめっき液精製用フィルター。 【請求項7】 活性炭からなるめっき液精製用吸着剤であって, 単位質量当たりのヨウ素吸着量が1000〜1400mg/gであり, 前記活性炭の灰分含有量が0.5質量%以下,前記活性炭の塩化物含有量が0.0030質量%以下であり, MP法で測定した前記活性炭の平均細孔径が1.70nm以上1.92nm以下である,めっき液精製用吸着剤。 第3 特許異議の申立ての理由の概要 本件特許の請求項1〜7に係る特許は,下記1のとおり,特許法113条2号に該当する。証拠方法は,甲第1号証〜甲第10号証(以下,単に「甲1」等という。下記2を参照。)である。 1 申立理由1(進歩性) 本件発明1〜7は,甲1に記載された発明及び甲2〜10に記載された事項に基いて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1〜7に係る特許は,同法113条2号に該当する。 2 証拠方法 ・甲1 特開2011−255310号公報 ・甲2 特開2017−75355号公報 ・甲3 特開2013−220413号公報 ・甲4 国際公開第2018/116859号 ・甲5 「リノベスAシリーズ」のカタログ,大阪ガス株式会社,発行日不明 ・甲6 安部郁夫,ほか6名,「アルキルフェノールの活性炭吸着特性」,平成11年5月26〜28日に宮崎で開催された第50回全国水道研究発表会における講演集 ・甲7 特開2012−61390号公報 ・甲8 特表2018−528327号公報 ・甲9 特開昭62−52113号公報 ・甲10 特開2008−7387号公報 第4 当審の判断 以下に述べるように,特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1〜7に係る特許を取り消すことはできない。 1 申立理由1(進歩性) (1)甲1に記載された発明 甲1の記載(請求項1〜10,【0008】,【0010】,【0016】〜【0022】,【0037】〜【0075】,表1,図1,2)によれば,特に,微粒子状活性炭である活性炭Wを用いた参考例1の成形吸着体(【0040】,【0042】,【0054】,【0055】,表1)に着目すると,甲1には,以下の発明が記載されていると認められる。 「微粒子状活性炭である活性炭Wからなる成形吸着体用濾材であって, 活性炭Wは,日本エンバイロケミカルズ社製WHA60/140N(粒状活性炭)であり,体積基準モード径が225μm,ヨウ素吸着量が1100〜1300mg/gである,成形吸着体用濾材。」(以下,「甲1発明1」という。) 「瀘材としての微粒子状活性炭である活性炭W(日本エンバイロケミカルズ社製WHA60/140N(粒状活性炭),体積基準モード径;225μm,ヨウ素吸着量;1100〜1300mg/g)90質量%に,繊維状バインダーとしてアクリル繊維A(東洋紡社製ビィパル(商品名),平均繊維長;1.03mm,濾水度;47〜70mL)を10質量%含有させた材料を,質量比で50倍の水に分散させたスラリーを調製し, このスラリーに,吸引ポンプに連通接続された吸引成形型(型枠内径80mmΦ,100mLの筒状金網)を浸漬し,前記吸引ポンプを駆動して,前記吸引成形型に前記スラリーを流動吸引することにより,前記吸引成形型の表面に,瀘材と繊維状バインダーとの混合物が堆積した層状体を得て, この層状体を乾燥硬化させて得られた,外径Dが80mmΦ,長さ(高さ)Lが10mmの円柱状体で,密度が0.36g/mL,通水圧力損失が0.014MPa,曲げ破断強力が27.1Nの成形吸着体。」(以下,「甲1発明2」という。) (2)本件発明7について ア 対比 本件発明7と甲1発明1とを対比する。 甲1発明1における「微粒子状活性炭である活性炭W」,「濾材」は,それぞれ,本件発明7における「活性炭」,「吸着剤」に相当する。 甲1発明1において,微粒子状活性炭である活性炭Wからなる濾材の「ヨウ素吸着量が1100〜1300mg/g」であることは,本件発明7において,活性炭からなる吸着剤の「単位質量当たりのヨウ素吸着量が1000〜1400mg/g」であることに相当する。 以上によれば,本件発明7と甲1発明1とは, 「活性炭からなる吸着剤であって, 単位質量当たりのヨウ素吸着量が1000〜1400mg/gである,吸着剤。」 の点で一致し,以下の点で相違する。 ・相違点1 本件発明7では,「MP法で測定した前記活性炭の平均細孔径が1.70nm以上1.92nm以下である」のに対して,甲1発明1では,「MP法で測定した」微粒子状活性炭である活性炭Wの「平均細孔径」が不明である点。 ・相違点2 本件発明7では,「前記活性炭の灰分含有量が0.5質量%以下,前記活性炭の塩化物含有量が0.0030質量%以下」であるのに対して,甲1発明1では,微粒子状活性炭である活性炭Wの「灰分含有量」,「塩化物含有量」が不明である点。 ・相違点3 本件発明7では,活性炭からなる吸着剤の用途が「めっき液精製用」であるのに対して,甲1発明1では,微粒子状活性炭である活性炭Wからなる濾材の用途が「成形吸着体用」であるものの,「めっき液精製用」ではない点。 イ 相違点1の検討 (ア)甲1には,瀘材としての活性炭に関し,「MP法で測定した」「平均細孔径」を具体的にどの程度とするかについては,何ら記載されていない。 また,甲1発明1における微粒子状活性炭である活性炭Wは,市販品である日本エンバイロケミカルズ社製WHA60/140N(粒状活性炭)であるところ,甲1のほか,甲2〜10にも,上記市販品である活性炭Wに関し,「MP法で測定した」「平均細孔径」が具体的にどの程度であるかについては記載されておらず,不明である。 (イ)a 甲2には,繊維状活性炭を含む無電解パラジウムめっき液の銅除去剤について記載されている。 甲2には,上記繊維状活性炭の平均細孔直径について,無電解パラジウムめっき液中の銅除去効果に優れつつ,めっき液中における繰り返し使用に対する強度に優れるという観点から,1.5〜5.0nm程度が好ましく,1.5〜2.0nm程度が特に好ましいことが記載されている(【0022】)。そして,実施例1〜6,比較例1,2においては,それぞれ,1.9nm,3.3nm,2.3nm,1.7nm,2.2nm,1.9nm,2.4nm,1.7nmのものが記載されており(表1),本件発明7における「1.70nm以上1.92nm以下」を満たすものも記載されている。 しかしながら,甲2には,上記繊維状活性炭の平均細孔直径について,特に「1.70nm以上1.92nm以下」を満たすものが好ましいことは記載されていない。 b 甲3には,浄水器用活性炭について記載されている。 甲3には,上記活性炭の平均細孔直径について,実施例1〜4,比較例1〜4において,それぞれ,1.92nm,1.88nm,1.84nm,1.89nm,1.90nm,1.95nm,1.95nm,1.84nmのものが記載されており(表1,2),実施例1〜4は,いずれも,本件発明7における「1.70nm以上1.92nm以下」を満たすものである。 しかしながら,甲3には,「実施例と比較例の浄水器用活性炭を比較した場合,全細孔容積と平均細孔直径の計測値については大きな差異は生じなかった。よう素吸着性能,充填密度,及びベンゼン吸着力は,実施例,比較例ともに浄水器用活性炭として必要な性能を概ね具備する。これらの点から実施例並びに比較例は通常の浄水器用活性炭としては申し分ない。」(【0052】)との記載があり,実施例と比較例では,平均細孔直径に大きな差異はなく,いずれも,浄水器用活性炭として必要な性能を概ね具備するとされていること,また,比較例(比較例1,4)にも,本件発明7における「1.70nm以上1.92nm以下」を満たすものが存在することを踏まえると,当業者は,上記活性炭の平均細孔直径について,特に「1.70nm以上1.92nm以下」を満たすものが好ましいと理解するとはいえない。 c 甲4には,高空塔速度下におけるトリハロメタンのろ過能力に優れた活性炭について記載されている。 甲4には,実施例1〜5,比較例1〜7において,上記活性炭の全細孔容積(cc/g),比表面積(m2/g)が記載されている(表1)ことから,本件明細書【0093】,【0094】に記載される式(2)に基づいて,平均細孔径(nm)=全細孔容積(cc/g)/比表面積(m2/g)×4×1000として平均細孔径を計算すると,それぞれ,1.66nm,1.71nm,1.76nm,1.76nm,1.84nm,2.34nm,1.53nm,1.57nm,1.68nm,1.71nm,1.62nm,2.13nmとなり,本件発明7における「1.70nm以上1.92nm以下」を満たすものも記載されているといえる。 しかしながら,甲4には,上記活性炭の平均細孔径について,特に「1.70nm以上1.92nm以下」を満たすものが好ましいことは記載されていない。 d 甲5には,繊維状活性炭であるアドール繊維の特性(基礎物性)として,「A−15」について,比表面積1600m2/g,平均細孔半径0.95nm(平均細孔直径1.90nm)であること,また,「A−20」について,比表面積2000m2/g,平均細孔半径1.05nm(平均細孔直径2.10nm)であることが記載されており,本件発明7における「1.70nm以上1.92nm以下」を満たすものも記載されている。 しかしながら,甲5には,上記繊維状活性炭の平均細孔直径について,特に「1.70nm以上1.92nm以下」を満たすものが好ましいことは記載されていない。 e 甲6には,水処理用市販活性炭(4種類)について記載されている。 甲6には,上記活性炭の平均細孔直径について,1.77nm,1.83nm,1.97nm,1.94nmのものが記載されており(表−1),本件発明7における「1.70nm以上1.92nm以下」を満たすものも記載されている。 しかしながら,甲6には,上記活性炭の平均細孔直径について,特に「1.70nm以上1.92nm以下」を満たすものが好ましいことは記載されていない。 f 甲9には,粗タール酸の蒸留残渣を樹脂化したものを原料とする活性炭について記載されている。 甲9には,上記活性炭の平均細孔半径(平均細孔直径)について,No.1〜7として,それぞれ,0.95nm(1.90nm),1.04nm(2.08nm),1.06nm(2.12nm),1.05nm(2.10nm),0.95nm(1.90nm),0.96nm(1.92nm),1.10nm(2.20nm)のものが記載されており(第5表),本件発明7における「1.70nm以上1.92nm以下」を満たすものも記載されている。 しかしながら,甲9には,上記活性炭の平均細孔直径について,特に「1.70nm以上1.92nm以下」を満たすものが好ましいことは記載されていない。 g 甲10には, 活性炭の高純度化方法について記載されている。 甲10には,高純度化の対象となる活性炭について,平均細孔径が2.0nm以下であることが記載されている(【0017】)ものの,特に「1.70nm以上1.92nm以下」を満たすものが好ましいことは記載されていない。 h 甲7,8には,活性炭の平均細孔径については,何ら記載されていない。 i 以上のとおり,甲2〜10のいずれにも,甲1発明1における上記市販品である活性炭Wについて,「MP法で測定した」「平均細孔径」を「1.70nm以上1.92nm以下」とすることを動機付ける記載は見当たらない。 (ウ)この点,申立人は,甲2〜6には,「MP法で測定した」活性炭の「平均細孔径」が「1.70nm以上1.92nm以下」を満たすものが記載されており,甲2〜6から理解されるように,「MP法で測定した前記活性炭の平均細孔径が1.70nm以上1.92nm以下である」ことは,当該技術分野で通常使用される活性炭の平均細孔径と一致するものであって,何ら新たな技術を開示するものではないと主張する。 しかしながら,「MP法で測定した」活性炭の「平均細孔径」が「1.70nm以上1.92nm以下」を満たすものが知られているからといって,そのことのみで直ちに,甲1発明1における上記市販品である活性炭Wについて,「MP法で測定した」「平均細孔径」を「1.70nm以上1.92nm以下」とすることが動機付けられるとはいえない。 (エ)そして,本件発明7は,請求項7に記載されるとおり,「MP法で測定した前記活性炭の平均細孔径が1.70nm以上1.92nm以下」であることを含む,所定の活性炭からなる吸着剤をめっき液精製用とすることにより,添加剤の除去を抑制しつつ添加剤から生成した分解生成物を効率よくめっき液から除去することができるとともに,めっき液への塩素の溶出を抑制することができる,めっき液精製用フィルターを得るためのめっき液精製用吸着剤を提供できるという,当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである(本件明細書【0027】,【0029】〜【0031】,【0069】,【0070】〜【0117】,表1〜3,図1〜3)。 (オ)以上によれば,甲1発明1において,「MP法で測定した」微粒子状活性炭である活性炭Wの「平均細孔径」を「1.70nm以上1.92nm以下」とすることは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。 ウ 小括 したがって,相違点2及び3について検討するまでもなく,本件発明7は,甲1に記載された発明及び甲2〜10に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3)本件発明1について 本件発明1と甲1発明2とを対比すると,上記(2)アと同様に,両者は,少なくとも,相違点1と同様の点で相違するところ,この相違点については,上記(2)イで述べたのと同様の理由により,当業者が容易に想到することができたとはいえない。 したがって,本件発明1は,甲1に記載された発明及び甲2〜10に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (4)本件発明2〜6について 本件発明2〜6は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記(3)で述べたとおり,本件発明1が,甲1に記載された発明及び甲2〜10に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2〜6についても同様に,甲1に記載された発明及び甲2〜10に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (5)まとめ 以上のとおり,本件発明1〜7は,甲1に記載された発明及び甲2〜10に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 したがって,申立理由1(進歩性)によっては,本件特許の請求項1〜7に係る特許を取り消すことはできない。 第5 むすび 以上のとおり,特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1〜7に係る特許を取り消すことはできない。 また,他に本件特許の請求項1〜7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2022-06-20 |
出願番号 | P2020-563292 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C25D)
|
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
池渕 立 |
特許庁審判官 |
井上 猛 宮部 裕一 |
登録日 | 2021-09-17 |
登録番号 | 6946576 |
権利者 | 株式会社クラレ |
発明の名称 | めっき液精製用フィルターおよびめっき液精製用吸着剤 |
代理人 | 小谷 昌崇 |
代理人 | 小谷 悦司 |
代理人 | 宇佐美 綾 |