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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1386741
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-02-04 
確定日 2022-07-20 
事件の表示 特願2019− 53138「集電体,それを有する電極シート及び電気化学デバイス」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年10月24日出願公開,特開2019−186202〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成31年3月20日(パリ条約による優先権主張2018年3月30日,中国)の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
令和2年2月14日付け:拒絶理由通知
令和2年4月27日 :意見書,手続補正書の提出
令和2年9月28日付け:拒絶査定
令和3年2月4日 :審判請求書,手続補正書の提出

第2 令和3年2月4日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年2月4日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は,特許請求の範囲についてするものであって,請求項1に係る発明については,
本件補正前に
「【請求項1】
絶縁層と導電層とを含む集電体であって,
前記導電層は前記絶縁層の少なくとも1つの表面に位置し,前記導電層の厚さをD2としたときに,500nm≦D2≦800nmを満たし,
前記集電体に,前記絶縁層と前記導電層とを貫通する孔が複数設けられることを特徴とする集電体。」
とあったところを(以下,「本願発明」という。),

「【請求項1】
集電体と,前記集電体の上面と下面に形成された電極活物質層とを含む電極シートであって,
前記集電体は,絶縁層と導電層とを含み,
前記導電層は,前記絶縁層の上面と下面に位置し,前記絶縁層の片面における導電層の厚さをD2としたときに,500nm≦D2≦800nmを満たし,
前記絶縁層の厚さをD1とした時に,8μm≦D1≦10μmを満たし,
前記集電体に,前記絶縁層と,前記絶縁層の上面と下面に位置する導電層とを貫通する孔が複数設けられ,前記孔の面積は,前記絶縁層の片面における導電層の表面全体の0.01〜10%を占め,
前記導電層は,複数の前記孔の孔壁の表面にも位置し,且つ前記孔壁の表面に導電層が設けられた各孔において,導電層が前記孔壁の表面の一部または全部に位置し,
前記絶縁層の上面と下面に位置する導電層と,前記孔壁の表面に位置する導電層とは部分的又は全体的に互いに接続され,
前記電極活物質層は,さらに複数の前記孔に充填され,
前記集電体の上面と下面に形成された電極活物質層と,複数の前記孔に充填された電極活物質層とは部分的又は全体的に互いに接続されることを特徴とする電極シート。」
とするものである(以下,「本件補正発明」という)。なお,下線は補正箇所を示す。

2 補正の適否
(1)本件補正の目的について
ア 本件補正は,本件補正前の請求項1について下記(ア)ないし(ケ)の補正をするものである。
(ア)本件補正前の請求項12に記載された発明を特定する事項である,「集電体と,前記集電体の少なくとも一つの表面に形成された電極活物質層とを含む電極シート」であることを付加するとともに,「少なくとも一つの表面」について「集電体の上面と下面」であるものに限定された。

(イ)本件補正前の請求項1の「導電層は少なくとも一つの表面に位置」することについて,「前記絶縁層の上面と下面」に位置することに限定された。

(ウ)本件補正前の請求項1の「導電層の厚さをD2とした」ことについて,「前記絶縁層の片面における導電層」の厚さをD2としたことに限定された。

(エ)本件補正前の請求項1の「前記絶縁層」について「厚さをD1としたときに,8μm≦D1≦10μmを満た」すという限定が付加された。

(オ)本件補正前の請求項1の「絶縁層と導電層とを貫通する孔」について,「前記絶縁層の上面と下面に位置する」導電層を貫通するという限定が付加された。

(カ)本件補正前の請求項1の「前記孔」について「面積は,前記絶縁層の片面における導電層の表面全体の0.01〜10%を占め」るという限定が付加された。

(キ)本件補正前の請求項2に記載された発明を特定する事項である「前記導電層は,複数の前記孔の孔壁の表面にも位置し,且つ前記孔壁の表面に導電層が設けられた各孔において,導電層が前記孔壁の表面の一部または全部に位置」するという限定が付加された。

(ク)本件補正前の請求項4に記載された発明を特定する事項である「前記絶縁層の上面と下面に位置する導電層と,前記孔壁の表面に位置する導電層とは部分的又は全体的に互いに接続され」るいう限定が付加された。

(ケ)本件補正前の請求項13に記載された発明を特定する事項である「前記電極活物質層は,さらに複数の前記孔に充填され,前記集電体の少なくとも一つの表面に形成された電極活物質層と,複数の前記孔に充填された電極活物質層とは部分的又は全体的に互いに接続される」という限定が付加されるとともに,「少なくとも一つの表面」について「集電体の上面と下面」であるものに限定された。

イ そして,本件補正前の請求項1と本件補正後の請求項1とは,産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。

ウ よって,本件補正は,特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正発明が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。

(2)本件補正発明
本件補正発明は,前記1に記載したとおりのものである。

(3)引用文献,引用発明
ア 原査定の拒絶の理由で引用された米国特許出願公開第2012/0315537号明細書(以下,「引用文献1」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。なお,仮訳および下線は当審で付与した。
(ア)「[0040] FIG. 1 is a schematic cross-section view of an embodiment of the composite current collector 1. FIG. 2 is a plan view of the composite current collector 1. In an embodiment, the composite current collector comprises a polymer film 10 comprising a first major surface 11, an opposite second major surface 12, and a plurality of openings 20 extending through a thickness T1 of the polymer film; a first layer 30 on the first major surface of the polymer film; a second layer 40 on the second major surface of the polymer film; and a third layer 50 on an inner surface of the openings of the plurality of openings, wherein the third layer contacts the first layer and the second layer. In an embodiment the third layer electrically connects the first and second layers. Also, the third layer 50 can fully or partially fill an opening of the plurality of openings of the polymer film 10. In an embodiment, a portion of the plurality of openings is open, and another portion of the plurality of openings is filled by the third layer. In addition, the third layer 50 can extend past the inner surface of the openings and towards an outer surface of the first layer 30 and the second layer 40. In an embodiment, the third layer 50 fills an entirety of the plurality of openings 20.
[0041] The polymer film 10 may have a thickness T1 of 1 to 100 micrometers (μm), specifically 2 to 50 μm, more specifically 3 to 25 μm, and may have a thickness in a narrower range lying within the aforesaid range, for example, 4 to 10 μm. The thickness of the polymer film T1 may be taken perpendicular to a major surface of the polymer film 10. The polymer film 10 may be a continuous layer.」
(訳)[0040] 図1は複合集電体1の実施形態の概略断面図である。図2は複合集電体1の平面図である。一実施形態では,複合集電体は,第1の主表面11,反対側の第2の主表面12,およびポリマーフィルムの厚さT1を通って延びる複数の開口部20を含むポリマーフィルム10を含む。第1の層30はポリマーフィルムの第1の主表面上にあり,第2の層40はポリマーフィルムの第2の主表面上にあり,第3の層50は複数の開口部の内面上にあり,第3の層は第1の層および第2の層と接触している。一実施形態では,第3の層は,第1の層および第2の層を電気的に接続する。また,第3の層50は,ポリマーフィルム10の複数の開口部を完全にまたは部分的に満たすことができる。一実施形態では,複数の開口部の一部が開いており,複数の開口部の別の部分が第3の層で満たされている。さらに,第3の層50は,開口部の内面を越えて,第1の層30および第2の層40の外面に向かって延びることができる。一実施形態では,第3の層50は複数の開口部20の全体を埋める。
[0041] ポリマーフィルム10は,1〜100μm,具体的には2〜50μm,より具体的には3〜25μmの厚さT1を有してもよく,前述の範囲内のより狭い範囲,例えば4〜10μmの厚さを有してもよい。ポリマーフィルムの厚さT1は,ポリマーフィルム10の主表面に対して垂直に取ることができる。ポリマーフィルム10は,連続層であり得る。

(イ)[0054] In an embodiment, poly(ethylene-co-tetrafluoroethylene) ("ETFE"), polyethylene terephthalate, or polyimide are specifically mentioned. The polyethylene terephthalate may be biaxially-oriented polyethylene terephthalate, and may be MYLAR. The poly(ethylene-co-tetrafluoroethylene) may be TEFZEL. The polyimide may be poly(4,4'-oxydiphenylene-pyromellitimide), and may be KAPTON. MYLAR, TEFZEL, and KAPTON are available from E.I. Du Pont de Nemours and Company of Wilmington, Del.」
(訳)[0054] 一実施形態では,ポリ(エチレン−コ−テトラフルオロエチレン)(“ETFE”),ポリエチレンテレフタレート,又はポリイミドが特に挙げられている。ポリエチレンテレフタレートは二軸延伸ポリエチレンテレフタレートであってもよく,例えばMYLARであってもよい。ポリ(エチレン−コ−テトラフルオロエチレン)はTEFZELであってもよい。ポリイミドは,ポリ(4,4’−オキシジフェニレン−ピロメリットイミド)であってもよく,KAPTONであってもよい。TEFZEL,KAPTONは,デラウェア州ウィルミントンのE.I. Du Pont de Nemours and Companyから入手可能である。

(ウ)「[0062] A thickness T2 of the first layer 30, a thickness T3 of the second layer 40, and a thickness T4 of the third layer 50 may each independently be 0.01 to 25 μm, specifically 0.1 to 20 μm, more specifically 1 to 15 μm, and may be a thickness in a narrower range lying within the aforesaid range, for example, 2 to 10 μm. The thickness T2 of the first layer and a thickness T3 of the second layer may be taken in a direction perpendicular to a major surface of the polymer film. The thickness T3 of the third layer may be taken in a direction perpendicular to the openings. The direction perpendicular to the openings may be parallel to a major surface of the polymer film. In an embodiment the thickness T2 of the first layer and a thickness T3 of the second layer are the same. In another embodiment, the thickness T2 of the first layer, the thickness T3 of the second layer, and the thickness T4 of the third layer are the same.」
(訳)[0062] 第1の層30の厚さT2,第2の層40の厚さT3,および第3の層50の厚さT4は,それぞれ独立して,0.01〜25μm,具体的には0.1〜20μm,より具体的には1〜15μmであってもよく,前述の範囲内より狭い範囲,例えば2〜10μmであってもよい。第1の層の厚さT2および第2の層の厚さT3は,ポリマーフィルムの主表面に垂直な方向に取られ得る。第3層の厚さT 3は,開口部に垂直な方向に取られてもよい。開口部に垂直な方向は,ポリマーフィルムの主表面に平行であり得る。一実施形態では,第1の層の厚さT2および第2の層の厚さT3は同じである。別の実施形態では,第1の層の厚さT2,第2の層の厚さT3,および第3の層の厚さT4は同じである。」

(エ)「Example 1
Composite Current Collector Manufacture
[0105] TEFZEL, KAPTON, and MYLAR films were used as received. The TEFZEL and KAPTON each had a thickness of 0.001 inch, and the MYLAR had a thickness of 0.0005 inch.
[0106] The TEFZEL and KAPTON films were perforated by a laser to have elliptical holes with the axial dimensions 30 by 100 micrometers (μm) and a hole density of 4 and 25 holes per square centimeter, respectively. The MYLAR film was perforated by a laser to have elliptical holes with the axial dimensions 30 by 100 μm and a hole density of 4 holes per square centimeter.
[0107] A 0.3 to 0.4 μm layer of copper was deposited on both sides of each perforated film by vacuum sputtering.」
(訳)実施例1
複合集電体の製造
[0105] TEFZEL,KAPTONおよびMYLARフィルムは,受け取ったままで使用した。TEFZELおよびKAPTONは0.001インチの厚さを有し,マイラーは0.0005インチの厚さを有していた。
[0106] TEFZELおよびKAPTONフィルムはそれぞれ,レーザにより穿孔され,軸方向の寸法が30×100μmであり,1平方センチメートルあたり4個および25個の密度である楕円形の孔を有する。MYLARフィルムは,レーザにより穿孔され,軸方向の寸法が30×100μmであり,1平方センチメートルあたり4個の密度である楕円形の孔を有する。
[0107] 真空スパッタリングによって,0.3〜0.4μmの銅層がそれぞれの穿孔されたフィルムの両面に堆積された。

(オ)「Exeample 2
Negative Electrode Manifacture
[0109] A 30 by 8 cm portion of the perforated and copper clad KAPTON film prepared in Example 1 was coated with an anode active material to prepare a lithium-ion negative electrode. A coating composition was prepared by combining 87 g of MCMB 6-28, 3 g of a carbon black, and 10 g of a PVDF binder dissolved in 100 g of N-methylpyrrolidone to provide a slurry having a viscosity of 6・103 centipoise (Cp). The coating composition was manually coated on both sides of the perforated KAPTON film of Example 1 and dried on a hot plate at 135 to 140℃. until visually dry, and then further dried in a vacuum over at 110℃. overnight. The negative electrode had an active area of 4.055 square inches, weighed about 120 milligrams, had a coating amount of about 75 milligrams per square inch (mg/in2) on a first side, and had about 110 mg/in2 on an opposite second side. The expected capacity of the first side was 80 mAh, and the expected capacity of the second side was 120 mAh.」
(訳)実施例2
負極の製造
[0109] リチウムイオン負極を準備するために,実施例1で準備された穿孔された銅被覆KAPTONフィルムの30×8cmの部分が負極活物質でコーティングされた。コーティングの組成物は,87gのMCMB6−28,3gのカーボンブラック,および100gのN−メチルピロリドンに溶解させた10gのPVDFバインダーとが混合され,粘度6×103センチポアズを有するスラリーを得た。コーティングの組成物は,手動で実施例1の有孔KAPTONフィルムの両面上にコーティングされ,視覚的に乾燥されるまでホットプレート上で135〜140℃で乾燥させ,次いで110℃の真空オーブンでさらに一晩乾燥させた。負極の活性領域は4.055平方インチであり,重量は約120グラムであり,コーティング量は第1面上に1平方インチあたり約75ミリグラム(mg/in2),反対側の第2面上に約110mg/in2のコーティングであった。第1面の予想容量は80mAhであり,第2面の予想容量は120mAhであった。

(ク)「Example 5
Slurry Retention
[0113] A KAPTON film was perforated to have elliptical perforations having a length of 300 μm and a width of 50 μm. Using the method of Example 2, the slurry of Example 2 was manually coated on a 30 by 8 cm portion of the perforated and copper clad KAPTON film prepared in Example 1. Surprisingly, the slurry was retained in the elliptical perforations.
Example 6
Perforation Size
[0114] A copper clad Mylar film having a thickness of 0.001" was prepared using the same method disclosed in Example 1. The copper clad Mylar film was perforated with four groups of holes, Groups I to IV, as shown in FIG. 15. Group I had a largest diameter of 300 to 400 μm, Group II had a largest diameter of 250 to 300 μm, Group III had a largest diameter of 500 to 600 μm, and Group IV had a largest diameter of more than 1000 to 1200 μm. The perforated copper clad Mylar film having the perforations of Groups I to IV is shown in FIG. 15.
[0115] The perforated copper clad Mylar film having the perforations of Groups I to IV shown in FIG. 15 was then manually coated with the negative electrode coating composition of Example 2 using the method described in Example 2 to provide a coated copper clad Mylar film.
[0116] The coated copper clad Mylar film is shown in FIG. 16. As shown in FIG. 16, the coating composition was not retained in the perforations of Group III and IV. Also, it was observed that the coating composition seeped through the perforations of Groups III and IV to the opposite side of the copper clad Mylar film and created a non-uniformity on the opposite side, and the perforations of Group II retained the slurry. These results show that use of perorations having a diameter of less than or equal to 300 μm substantially or effectively prevents formation of non-uniformities from the coating composition seeping through the perforations to the opposite side of the film.」
(訳)実施例5
スラリーの保持
[0113] KAPTONフィルムは穿孔され,長さ300μmおよび幅50μmの楕円形状の穿孔を有する。実施例2の方法を用いて,実施例2のスラリーが,実施例1で製造した有孔銅被覆KAPTONフィルムの30×8cmの部分の上に手動で塗布された。驚くべきことに,スラリーは楕円形の穿孔内に保持されている。
実施例6
穿孔の寸法
[0114] 実施例1と同じ方法を使用して,0.001インチの厚さを有する銅被覆Mylarフィルムが準備された。図15に示すように,銅被覆Mylarフィルムに,グループI〜IVの4グループの孔が穿孔された。グループIは最大径300〜400μmを有し,グループIIは最大径250〜300μmを有し,グループIIIは最大径500〜600μmを有し, グループIVは最大径1000〜1200μm以上を有していた。グループI〜IVの穿孔を有する穿孔銅被覆Mylarフィルムは,図15に示されている。
[0115] 図15に示すグループI〜IVの穿孔を有する有孔銅被覆Mylarフィルムは,次に,実施例2に記載した方法を用いて,実施例2の負極コーティング組成物が塗工され,コーティングされた銅被覆Mylarフィルムを得た。
[0116] 被覆された銅被覆Mylarフィルムは,図16に示されている。図16に示すように,コーティングの組成物はグループIII及びグループIVの孔に残っていない。また,コーティングの組成物は,グループIII及びIVの穿孔を通して銅被覆Mylarフィルムの反対側に漏れ,反対側の非均一性を生じることが観測されており,グループIIの穿孔はスラリーを保持した。これらの結果は,直径300μm以下の孔の使用は,コーティングの組成物が孔を通ってフィルムの反対側に漏れることに基づく非均一性の形成を実質的にまたは有効に阻止することを示している。



イ よって,前記記載事項から以下のことがいえる。
(ア)前記「ア(エ)」によれば,実施例1に係る「複合集電体の製造」の方法は,「KAPTONフィルム」が0.001インチの厚さを有し,「KAPTONフィルム」が穿孔されて,軸方向の寸法が30×100μmであり,1平方センチメートルあたり25個の密度である楕円形の孔を有し,真空スパッタリングによって,0.3〜0.4μmの銅層が穿孔されたフィルムの両面に堆積されるものである。
してみると,「複合集電体」は,0.001インチの厚さを有した「KAPTONフィルム」の両面に,真空スパッタリングによって,0.3〜0.4μmの銅層が堆積されたものである。
また,「KAPTONフィルム」は,軸方向の寸法が30×100μmであり,1平方センチメートルあたり25個の密度である楕円形の孔を有するものである。

(イ)前記「ア(イ)」によれば,「KAPTON」はポリイミドからなるものである。

(ウ)前記「ア(オ)」によれば,実施例2に係る「負極の製造」の方法は,実施例1で準備された穿孔された銅被覆KAPTONフィルムの30×8cmの部分が負極活物質でコーティングされ,コーティングの組成物は,粘度6×103センチポアズを有するスラリーであり,実施例1の穿孔されたKAPTONフィルムの両面上にコーティングされるものである。
ここで,「実施例1で準備された穿孔された銅被覆KAPTONフィルム」及び「実施例1の穿孔されたKAPTONフィルム」は,前記(ア)によれば,実施例1に係る「複合集電体」と認められる。
してみると,引用文献1には,複合集電体の30×8cmの部分が負極活物質でコーティングされた負極であって,コーティングの組成物は粘度6×103センチポアズを有するスラリーであり,複合集電体の両面上にコーティングされたものが記載されている。

ウ したがって,引用文献1には次の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されている。
「複合集電体の30×8cmの部分が負極活物質でコーティングされた負極であって,
複合集電体は,0.001インチの厚さを有したポリイミドからなるKAPTONフィルムの両面に,真空スパッタリングによって,0.3〜0.4μmの銅層が堆積されたものであり,
前記KAPTONフィルムは,軸方向の寸法が30×100μmであり,1平方センチメートルあたり25個の密度である楕円形の孔を有し,
コーティングの組成物は粘度6×103センチポアズを有するスラリーであり,複合集電体の両面上にコーティングされる,
負極。」

(4)対比・判断
ア 本件補正発明と引用発明1との対比
(ア)引用発明1の「複合集電体」は,本件補正発明の「集電体」に相当する。
また,引用発明1の「負極活物質」は,組成物が「複合集電体」の両面である上面と下面にコーティングされたものであり,かつ,コーティングされている点から「層」状と認められるから,本件補正発明の「集電体の上面と下面に形成された電極活物質層」に相当する。
してみると,引用発明1の「負極」は,「KAPTONフィルム」の両面に「銅層」が堆積された「複合集電体」の両面上に,「負極活物質」がコーティングされたものであるから,全体としてシート状(フィルム状)と認められる。
以上の点より,引用発明1の「複合集電体の30×8cmの部分が負極活物質でコーティングされた負極」は,本件補正発明の「集電体」及び「電極活物質層」と同様の構成を含むシート状の電極であるから,本件補正発明の「集電体と,前記集電体の上面と下面に形成された電極活物質層とを含む電極シート」に相当する。

(イ)引用発明1の「ポリイミドからなるKAPTONフィルム」は,ポリイミドが絶縁体であるという技術常識から,本件補正発明の「絶縁層」に相当する。
また,引用発明1の「銅層」は,銅が導電体であるという技術常識から,本件補正発明の「導電層」に相当する。
そして,引用発明1の「真空スパッタリング」によって堆積された「銅層」の「0.3〜0.4μm」とは,「KAPTONフィルム」の各表面に堆積された厚さと認められるから,本件補正発明の「絶縁層の片面における導電層の厚さ」「D2」に対応する。
してみると,引用発明1の「複合集電体は,0.001インチの厚さを有したポリイミドからなるKAPTONフィルムの両面に,真空スパッタリングによって,0.3〜0.4μmの銅層が堆積されたものであ」ることは,本件補正発明の「前記集電体は,絶縁層と導電層とを含み,前記導電層は,前記絶縁層の上面と下面に位置し,前記絶縁層の片面における厚さをD2とした」ことに相当する。
但し,本件補正発明は「前記絶縁層の片面における導電層の厚さをD2としたときに,500nm≦D2≦800nmを満た」すのに対して,引用発明1の「銅層」の厚さは0.3〜0.4μm,すなわち300〜400nmである点で相違する。

(ウ)本件補正発明は「前記絶縁層の厚さをD1とした時に,8μm≦D1≦10μmを満た」すのに対して,引用発明1の「KAPTONフィルム」の厚さは0.001インチ,すなわち25.4μmである点で相違する。

(エ)本件補正発明は「前記集電体に,前記絶縁層と,前記絶縁層の上面と下面に位置する導電層とを貫通する孔が複数設けられ,前記孔の面積は,前記絶縁層の片面における導電層の表面全体の0.01〜10%を占め,前記導電層は,複数の前記孔の孔壁の表面にも位置し,且つ前記孔壁の表面に導電層が設けられた各孔において,導電層が前記孔壁の表面の一部または全部に位置し,前記絶縁層の上面と下面に位置する導電層と,前記孔壁の表面に位置する導電層とは部分的又は全体的に互いに接続され」るのに対して,引用発明1は,「複合集電体」がそのようなものであることは特定されていない点で相違する。

(オ)本件補正発明は「前記電極活物質層は,さらに複数の前記孔に充填され,前記集電体の上面と下面に形成された電極活物質層と,複数の前記孔に充填された電極活物質層とは部分的又は全体的に互いに接続される」のに対して,引用発明1は,「負極活物質」がそのようなものであることは特定されていない点で相違する。

イ 一致点・相違点
したがって,本件補正発明と引用発明1とは,
「集電体と,前記集電体の上面と下面に形成された電極活物質層とを含む電極シートであって,
前記集電体は,絶縁層と導電層とを含み,
前記導電層は,前記絶縁層の上面と下面に位置し,
前記絶縁層の片面における厚さをD2とした電極シート。」
である点で一致し,以下の4点において相違する。

(相違点1)
本件補正発明は「前記絶縁層の片面における導電層の厚さをD2としたときに,500nm≦D2≦800nmを満た」すのに対して,引用発明1の「銅層」の厚さは0.3〜0.4μm,すなわち300〜400nmである点。

(相違点2)
本件補正発明は「前記絶縁層の厚さをD1とした時に,8μm≦D1≦10μmを満た」すのに対して,引用発明1の「KAPTONフィルム」の厚さは0.001インチ,すなわち25.4μmである点。

(相違点3)
本件補正発明は「前記集電体に,前記絶縁層と,前記絶縁層の上面と下面に位置する導電層とを貫通する孔が複数設けられ,前記孔の面積は,前記絶縁層の片面における導電層の表面全体の0.01〜10%を占め,前記導電層は,複数の前記孔の孔壁の表面にも位置し,且つ前記孔壁の表面に導電層が設けられた各孔において,導電層が前記孔壁の表面の一部または全部に位置し,前記絶縁層の上面と下面に位置する導電層と,前記孔壁の表面に位置する導電層とは部分的又は全体的に互いに接続され」るのに対して,引用発明1は,「複合集電体」がそのようなものであることは特定されていない点。

(相違点4)
本件補正発明は「前記電極活物質層は,さらに複数の前記孔に充填され,前記集電体の上面と下面に形成された電極活物質層と,複数の前記孔に充填された電極活物質層とは部分的又は全体的に互いに接続される」のに対して,引用発明の「負極活物質」がそのようなものであることは特定されていない点。

相違点の判断
(ア)相違点1について
a 本願明細書の段落【0066】ないし【0090】によれば,本件補正発明に係る「前記絶縁層の片面における導電層の厚さをD2としたときに,500nm≦D2≦800nmを満た」す「電極シート」は,実施例の電極シート4ないし5である。

b ここで,本願明細書の段落【0048】によれば,「導電層の厚さD2の範囲」が,「好ましくは,300nm≦D2≦2μmであり,より好ましくは,500nm≦D1≦1.5μm」である。なお,「500nm≦D1≦1.5μm」は「500nm≦D2≦1.5μm」の誤記と認められる。
また,本願明細書の段落【0088】によれば,「一般的な正極シート及び一般的な負極シートを用いた電池と比較して,本発明の複合集電体によれば,電池の安全性を大幅に改善することができ」るというものである。
さらに,段落【0089】によれば,「表4中の結果によれば,一般的な正極シート及び一般的な負極シートを用いた電池と比較して,本発明の実施例に係る集電体を用いた電池のサイクル寿命が良好であり,一般的な電池のサイクル性能に相当する。このように,本発明の実施例に係る集電体は,得られた電極シート及び電池に対して明らかな悪影響を全く与えていないことがわかった」というものである。
してみると,「本発明の実施例に係る集電体」ないし「本発明の複合集電体」を含む電極シートであって,「300nm≦D2≦2μm」である電極シートを用いた電池は全て,「電池のサイクル寿命が良好であり」かつ「電池の安全性を大幅に改善することができ」るものであって,差異がないものである。

c したがって,本件補正発明の「絶縁層の片面における導電層の厚さ」「D2」を満たす実施例の電極シート4ないし5は,他の実施例の電極シートより顕著に優れたものとはいえず,「300nm≦D2≦2μm」の範囲内であれば同様の効果を奏するから,前記相違点1に係る「500nm≦D2≦800nmを満た」すことに臨界的意義は認められない。なお,同様の理由により,「より好ましくは,500nm≦D2≦1.5μm」であることにも臨界的意義は認められない。

d それらの点に対して,引用発明1の「0.3〜0.4μmの銅層」は,前記「ア(イ)」と同様にして,「KAPTONフィルム」の片面における「銅層」の厚さが300〜400nmであるといえる。この厚さは,「300nm≦D2≦2μm」の範囲に含まれるものである。
よって,「300nm≦D2≦2μm」の範囲に含まれる引用発明1の「銅層」の厚さを前記相違点1に係る構成とすることは,格別の動機付けが必要なものではなく,当業者が容易に為し得たことである。

e なお,引用文献1の段落[0062]によれば,第1の層30(本件補正発明の「絶縁層の片面における導電層」に相当。以下同様)の厚さT2(D2)は,0.1〜20μmであってよいものである。この厚さT2は,本件補正発明に係る「500nm≦D2≦800nm」(0.5〜0.8μm)である範囲を含むものである。
よって,この点からも,前記相違点1に係る「500nm≦D2≦800nmを満た」すことは格別のものではない。

(イ)相違点2について
a 本願明細書の段落【0066】ないし【0090】によれば,実施例の電極シート1ないし8のうち,本件補正発明に係る「前記絶縁層の厚さをD1とした時に,8μm≦D1≦10μmを満た」す「電極シート」は,実施例の電極シート4ないし5である。

b しかしながら,前記「(ア)b」のとおり,本願明細書の段落【0088】ないし【0090】によれば,「本発明の実施例に係る集電体」ないし「本発明の複合集電体」を含む電極シートを用いた電池は全て,「電池のサイクル寿命が良好であり」かつ「電池の安全性を大幅に改善することができ」るものであって,差異がないものである。

c したがって,本件補正発明の「絶縁層の厚さ」「D1」を満たす実施例の電極シート4ないし5は,他の実施例の電極シートより顕著に優れたものとはいえないから,前記相違点2に係る「8μm≦D1≦10μmを満た」すことに臨界的意義は認められない。
よって,引用発明1の「KAPTONフィルム」において前記相違点2に係る構成とすることは,格別の動機付けが必要なものではなく,当業者が容易に為し得たことである。

b なお,引用文献1の段落[0041]によれば,ポリマーフィルム10(本件補正発明の「絶縁層」に相当。以下同様)のT1(D1)は,4〜10μmであってよいものである。この厚さT1は,本件補正発明に係る「8μm≦D1≦10μm」である範囲を含むものである。
よって,この点からも,前記相違点2に係る「8μm≦D1≦10μmを満た」すことは,格別のものではない。

(ウ)相違点3について
a 引用発明1の「複合集電体」は「30×8cmの部分」を含むものであり,「1平方センチメートルあたり25個の密度である楕円形の孔」を有するKAPTONフィルムを含むものであるから,25個/cm2×30cm×8cm=6000個の孔を有するものである。
そして,引用発明1の「複合集電体」は,「KAPTONフィルムの両面に,真空スパッタリングによって,0.3〜0.4μmの銅層が堆積されたもの」であって,「KAPTONフィルム」は「楕円形の孔」を有するところ,真空スパッタリングに係る技術常識を鑑みれば,「銅層」は「KAPTONフィルム」の両面のうち「楕円形の孔」を有する部分には堆積されず,「銅層」を貫通する孔が形成されることは自明である。
してみると,引用発明1は,前記相違点3に係る構成のうち「前記集電体に,前記絶縁層と,前記絶縁層の上面と下面に位置する導電層とを貫通する孔が複数設けられ」る構成を備えることは自明である。

b 引用発明1の「KAPTONフィルム」は,「軸方向の寸法が30×100μm」である「楕円形の孔を有する」ものである。そうすると,楕円の面積がπ×(短軸の半径)×(長軸の半径)であることから,引用発明1の「軸方向の寸法が30×100μm」である「楕円形の孔」の1個あたりの面積は,π×(30[μm]/2)×(100[μm]/2)=2.36×103[μm2]となる。
してみると,引用発明1の「1平方センチメートルあたり25個の密度」を有する「楕円形の孔」が,「KAPTONフィルム」1平方センチメートルあたりに占める面積は,2.36×103[μm2]×25=5.90×104[μm2]となる。
また,「KAPTONフィルム」の片面のうち「楕円形の孔」を有しない部分の面積が,「KAPTONフィルム」1平方センチメートルあたりに占める面積は,1平方センチメートル(cm2)=108μm2であることから,108[μm2]−5.90×104[μm2]=99.9×106[μm2]となる。
したがって,引用発明1の「KAPTONフィルム」が有する「楕円形の孔」の面積が,「KAPTONフィルム」の片面のうち「楕円形の孔」を有しない部分の面積に占める比率は,5.90×104[μm2]/99.9×106[μm2]×100[%]=0.059%となる。
ここで,前記aのとおり,引用発明1の「銅層」は「KAPTONフィルム」の両面のうち「楕円形の孔」を有する部分には堆積されないから,「KAPTONフィルム」「銅層」を貫通する孔の面積は,引用発明1の「KAPTONフィルム」が有する「楕円形の孔」の面積とほぼ同じであるといえる。また,同様の点から,「KAPTONフィルム」の片面における「銅層」の表面全体の面積は,「KAPTONフィルム」の片面のうち「楕円形の孔」を有しない部分の面積とほぼ同じといえる。
以上の点から,引用発明1の「楕円形の孔」の面積は,KAPTONフィルムの片面における銅層の表面全体のほぼ0.059%を占めるものであって,前記相違点3に係る構成のうち「前記孔の面積は,前記絶縁層の片面における導電層の表面全体の0.01〜10%を占め」る構成に含まれるものである。

c そして,引用発明1は,「真空スパッタリングによって,穿孔された前記KAPTONフィルムの両面に0.3〜0.4μmの銅層が堆積されたもの」であるところ,真空スパッタリングに係る技術常識を鑑みれば,「銅層」が「KAPTONフィルム」の孔壁の表面に堆積し,「KAPTONフィルム」の両面に堆積した「銅層」と,「KAPTONフィルム」の孔壁の表面に堆積した「銅層」とが接続されるから,前記相違点3に係る構成のうち「前記導電層は,複数の前記孔の孔壁の表面にも位置し,且つ前記孔壁の表面に導電層が設けられた各孔において,導電層が前記孔壁の表面の一部または全部に位置し,前記絶縁層の上面と下面に位置する導電層と,前記孔壁の表面に位置する導電層とは部分的又は全体的に互いに接続され」る構成を備えることは自明である。

d 以上の点より,引用発明1の集電体が前記相違点3に係る構成を備えることは自明であるから,前記相違点3は実質的な相違ではない。

(エ)相違点4について
引用発明1は,「複合集電体」が「負極活物質」でコーティングされるものであって,「軸方向の寸法が30×100μm」である「孔」を有し,「コーティングの組成物は,粘度6×103センチポアズを有するスラリーであり,複合集電体の両面上にコーティングされる」ものである。
ここで,引用文献1の段落[0109]によれば,実施例2に係る「負極の製造」の方法は,「複合集電体の30×8cmの部分が負極活物質でコーティングされ」,「コーティングの組成物は,粘度6×103センチポアズを有するスラリーであり,複合集電体の両面上にコーティングされる」ものである。
そして,引用文献1の段落[0113]ないし[0116]によれば,最大径が300μm以下の孔を使用した有孔銅被覆フィルムに,実施例2の方法を用いて,実施例2のスラリーを塗布したものは,スラリーが孔内に保持されるものである。このとき,複合集電体の両面上に塗布されたスラリーと,孔内に保持されるスラリーとは同一のものであるから,互いに接続されていることは自明である。
以上の点より,引用発明1が,前記相違点4に係る構成を備えることは自明であるから,前記相違点4は実質的な相違ではない。

3 審判請求人の主張について
(1)審判請求人は,令和3年2月4日の審判請求書において,以下の主張をしている。ここで,審判請求書の「引用文献2」は,前記「2(2)」で挙げた引用文献1である。
「引用文献2には,本願請求項1に特定された片面の導電層の厚さD2の範囲と,孔の面積が片面の導電層の表面を占める比(以下,『孔の面積』と略称します。)は開示されておりません。特に,引用文献2において,本願請求項1に記載の『絶縁層の厚さD1』,『片面の導電層の厚さD2』,及び『孔の面積』という3つの構造パラメータの特定範囲の組み合わせは,開示されていません。
これに対して,本願明細書の実施例(段落0066〜0090)では,本願発明の電極シートについて,含まれる集電体の異なる各構造パラメータの組み合わせによる,電池のサイクル特性,安全性(釘刺し実験)などへの影響を検証しています(特に,表1〜4を参照)。具体的には,電池3〜9の正極シートは,何れも本願発明の貫通孔を有する絶縁層−導電層複合構造の集電体を用いて製造されたものであり,本願請求項1に記載の電極シートにおける集電体の導電層と絶縁層,及び電極活物質層の位置関係を有します(明細書段落0066〜0071及び表1を参照)。表3のサイクル特性実験データにより,電池5〜9は電池3〜4より優れたサイクル特性を示しており,且つ,電池5〜9のサイクル特性は,一般的な正極シートを用いた電池1の優れたサイクル特性にほぼ匹敵すると認められます。また,表4の釘刺し実験結果では,導電層の厚さが小さいほど,安全性が高い傾向が示されています。特に,電池3〜6は,釘刺し後に,電池の昇温が電池7〜9より顕著に小さく,電池電圧の低下も明らかに少ないと認められます。
上記の実験結果により,特に電池5,6がサイクル特性と安全性とを両立させており,すなわち,二者の良好なバランスを実現しています。表1により,電池5,6に用いられた正極シート4,5は,導電層の厚さD2が,それぞれ500nm,800nmであり,絶縁層の厚さD1は,それぞれ10μm,8μmです。そして,本願明細書の段落0071の記載により,孔の面積は,片面の導電層全体の5%を占めます。よって,電池5,6の正極シート4,5は,本願請求項1に係る発明の技術的範囲に属すると認められます。
本願発明において,実施例に記載の電池と同等のサイクル特性と釘刺し実験での安全性とを獲得するために,電極シートにおける複合集電体の絶縁層の厚さ,導電層の厚さ及び貫通孔の面積は,比較的重要な構造パラメータです。しかし,引用文献2には,上記3つの構造パラメータと,サイクル特性および安全性との関係について全く開示されておらず,引用文献2の内容に基づき上記3つの構造パラメータを調整する動機付けはありません。そのため,当業者であっても,上記3つの構造パラメータを補正後の本願請求項1において特定された範囲とすることは容易ではないと思料いたします。」

(2)そこで,審判請求人の主張について検討する。
ア 前記「2(4)ウ(ア)」で判断したとおり,引用発明1の「銅層」の厚さを本件補正発明の「500nm≦D2≦800nm」の範囲内とすることは,当業者が容易に為し得たことである。
また,前記「2(4)ウ(イ)」で判断したとおり,引用発明1の「KAPTONフィルム」の厚さを本件補正発明の「8μm≦D1≦10μm」の範囲内とすることは,当業者が容易に為し得たことである。
また,前記「2(4)ウ(ウ)」で判断したとおり,本件補正発明の「孔の面積」は,引用発明1との実質的な相違ではない。

イ そして,前記「2(4)ウ」の「(ア)」及び「(イ)」で判断したとおり,「本発明の実施例に係る集電体」ないし「本発明の複合集電体」を含む電極シートを用いた電池は全て,「電池のサイクル寿命が良好であり」かつ「電池の安全性を大幅に改善することができ」るものであって,差異がないものであるから,本件補正発明の権利範囲に含まれる実施例の電極シート4ないし5は,その他の実施例の電極シートと比較して全ての点で有利なものではない。
したがって,本件補正発明の「絶縁層の厚さ」「D1」,「絶縁層の片面における導電層の厚さ」「D2」,及び「孔の面積」という3つの構造パラメータの特定範囲の組み合わせを満たす実施例の電極シート4ないし5が,その他の実施例の電極シートより顕著に優れたものとはいえない。

ウ 以上の点より,審判請求人の主張する,本件補正発明に係る「絶縁層の厚さD1」,「片面の導電層の厚さD2」,及び「孔の面積」という3つの構造パラメータの特定範囲の組み合わせとすることは,当業者が容易に為し得たことであるから,審判請求人の前記主張は採用できない。

4 本件補正についてのまとめ
以上の点より,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は前記「第2」のとおり却下されたので,本願の請求項1ないし14に係る発明は,令和2年4月27日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定されたものであるところ,請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,前記「第2」の[理由]の「1」において,本願発明として記載したとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,以下のとおりのものである。
1.(新規性)この出願の請求項1ないし14に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の引用文献2に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。
2.(進歩性)この出願の請求項1ないし14に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の引用文献2に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献2:米国特許出願公開2012/0315537号明細書

3 引用文献,引用発明
(1)原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2は,前記「第2」の[理由]の「2(5)」で挙げた引用文献1である。
そして,引用文献1に記載された事項は,前記「第2」の[理由]の「2(5)ア」に記載したとおりである。

(2)よって,前記記載事項から,以下のことがいえる。
ア 前記「ア(エ)」によれば,実施例1に係る「複合集電体の製造」の方法は,「KAPTONフィルム」が穿孔されて,1平方センチメートルあたり25個の密度である楕円形の孔を有し,真空スパッタリングによって,0.3〜0.4μmの銅層が穿孔されたフィルムの両面に堆積されるものである。
してみると,「複合集電体」は,「KAPTONフィルム」の両面に,真空スパッタリングによって,0.3〜0.4μmの銅層が堆積されたものである。
また,「KAPTONフィルム」は,1平方センチメートルあたり25個の密度である楕円形の孔を有するものである。

イ 前記「ア(イ)」によれば,「KAPTON」はポリイミドからなるものである。

ウ 前記「ア(オ)」によれば,実施例1で準備された穿孔された銅被覆KAPTONフィルムは,30×8cmの部分を含むものである。
ここで,「実施例1で準備された穿孔された銅被覆KAPTONフィルム」は,前記「ア(エ)」によれば,実施例1に係る「複合集電体」と認められる。
よって,引用文献1には,「複合集電体」が30×8cmの部分を含むことが記載されている。

(3)したがって,引用文献1には次の発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されている。
「KAPTONフィルムの両面に,真空スパッタリングによって,0.3〜0.4μmの銅層が堆積された複合集電体であって,
前記KAPTONフィルムは,1平方センチメートルあたり25個の密度である楕円形の孔を有し,
前記複合集電体は,30×8cmの部分を含む,
複合集電体。」

4 対比・判断
(1)本願発明と引用発明2との対比
ア 引用発明2の「ポリイミドからなるKAPTONフィルム」は,ポリイミドが絶縁体であるという技術常識から,本願発明の「絶縁層」に相当する。
また,引用発明2の「銅層」は,銅が導電体であるという技術常識から,本願発明の「導電層」に相当する。そして,引用発明2の「真空スパッタリング」によって堆積された「銅層」の「0.3〜0.4μm」とは,「KAPTONフィルム」の各表面に堆積された厚さと認められるから,本願発明の「導電層の厚さ」「D2」に対応する。
してみると,引用発明2の「KAPTONフィルムの両面に,真空スパッタリングによって,0.3〜0.4μmの銅層が堆積された複合集電体」は,本願発明の「絶縁層と導電層とを含む集電体であって,前記導電層は絶縁層の少なくとも1つの表面に位置し,前記導電層の厚さをD2とした」ものに相当する。
但し,本願発明は「前記絶縁層の片面における導電層の厚さをD2としたときに,500nm≦D2≦800nmを満た」すのに対して,引用発明2の「銅層」の厚さは0.3〜0.4μm,すなわち300〜400nmである点で相違する。

イ 本願発明は「前記集電体に,前記絶縁層と,前記絶縁層の上面と下面に位置する導電層とを貫通する孔が複数設けられ」るのに対して,引用発明2の「複合集電体」がそのようなものであることは特定されていない点で相違する。

(2)一致点・相違点
したがって,本願発明と引用発明2とは,
「絶縁層と導電層とを含む集電体であって,
前記導電層は,前記絶縁層の少なくとも1つの表面に位置し,前記導電層の厚さをD2とした,集電体。」
である点で一致し,以下の2点において相違する。

(相違点6)
本願発明は「前記絶縁層の片面における導電層の厚さをD2としたときに,500nm≦D2≦800nmを満た」すのに対して,引用発明2の「銅層」の厚さは0.3〜0.4μm,すなわち300〜400nmである点。

(相違点7)
本願発明は「前記集電体に,前記絶縁層と導電層とを貫通する孔が複数設けられ」るのに対して,引用発明2は,「複合集電体」がそのようなものであることは特定されていない点。

(3)相違点の判断
ア 相違点6について
前記「第2」の[理由]の「2(4)ウ(ア)」の「a」ないし「c」の判断と同様にして,本願発明の「絶縁層の片面における導電層の厚さ」「D2」を満たす実施例の電極シート4ないし5は,他の実施例の電極シートより顕著に優れたものとはいえず,「300nm≦D2≦2μm」の範囲内であれば同様の効果を奏するから,前記相違点6に係る「500nm≦D2≦800nmを満た」すことに臨界的意義は認められない。
それに対して,前記「第2」の[理由]の「2(4)ウ(ア)d」の判断と同様にして,引用発明2の「0.3〜0.4μmの銅層」は,「KAPTONフィルム」の片面における「銅層」の厚さが300〜400nmであるといえる。この厚さは,「300nm≦D2≦2μm」の範囲に含まれるものである。
よって,「300nm≦D2≦2μm」の範囲に含まれる引用発明1の「銅層」の厚さを前記相違点6に係る構成とすることは,格別の動機付けが必要なものではなく,当業者が容易に為し得たことである。

イ 相違点7について
前記「第2」の[理由]の「2(4)ウ(ウ)a」の判断と同様にして,引用発明2の「複合集電体」には「KAPTONフィルム」と「銅層」とを貫通する孔が複数設けられており,すなわち前記相違点7に係る構成を備えることは自明である。
よって,前記相違点7は実質的な相違ではない。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは,この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は,その日数を附加します。)以内に,特許庁長官を被告として,提起することができます。

審判長 酒井 朋広
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2022-02-08 
結審通知日 2022-02-15 
審決日 2022-03-01 
出願番号 P2019-053138
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01M)
P 1 8・ 575- Z (H01M)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 山本 章裕
木下 直哉
発明の名称 集電体、それを有する電極シート及び電気化学デバイス  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
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