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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01M 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01M |
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管理番号 | 1386926 |
総通号数 | 8 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-08-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2021-05-14 |
確定日 | 2022-05-10 |
事件の表示 | 特願2017−548635「蓄電装置用電極板及び蓄電装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 5月11日国際公開、WO2017/077698、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成28年10月27日(優先権主張 平成27年11月6日)の出願であって、その手続きの経緯は以下のとおりである。 令和 2年11月17日付け:拒絶理由通知 令和 2年12月24日 :意見書、手続補正書の提出 令和 3年 2月26日付け:拒絶査定 令和 3年 5月14日 :審判請求書の提出 第2 原査定の概要 原査定(令和3年2月26日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 1.(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 ●理由1(特許法第29条第1項第3号)、2(特許法第29条第2項)について ・請求項 :1〜4、6〜10 ・引用文献等:1 <引用文献等一覧> 1.特開平11−233107号公報 第3 本願発明 本願の請求項1ないし10に係る発明(以下、「本願発明1」及び「本願発明10」という。)は、令和2年12月24日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 帯状の芯体と、 前記芯体の少なくとも一方の面上に設けられた活物質層と、 を備えた巻回型の電極体を構成する蓄電装置用電極板であって、 前記芯体の幅方向一端部には、前記電極体の巻外側に配置された前記芯体の長手方向一端部から離れた位置に、リードが接続される芯体表面が露出した無地部が形成され、 前記活物質層は、前記芯体の長手方向に前記無地部と並んだ第1領域の少なくとも一部に、前記第1領域以外の領域である第2領域よりも層厚みが薄くなった薄肉部を有する、 蓄電装置用電極板。 【請求項2】 前記薄肉部は、前記活物質層の前記第1領域において、少なくとも前記無地部よりも巻外側に形成されている、請求項1に記載の蓄電装置用電極板。 【請求項3】 前記薄肉部は、前記第1領域の略全域に形成されている、請求項2に記載の蓄電装置用電極板。 【請求項4】 前記薄肉部の平均厚みは、前記第2領域の平均厚みの0.80倍〜0.99倍である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の蓄電装置用電極板。 【請求項5】 前記薄肉部の単位面積当たりの質量は、前記第2領域の単位面積当たりの質量よりも軽い、請求項1〜4のいずれか1項に記載の蓄電装置用電極板。 【請求項6】 前記無地部は、前記芯体の長手方向中央部に形成されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の蓄電装置用電極板。 【請求項7】 正極板及び負極板の少なくとも一方として、請求項1〜6のいずれか1項に記載の蓄電装置用電極板を用いた、蓄電装置。 【請求項8】 請求項1〜6のいずれか1項に記載の蓄電装置用電極板からなる正極板と、 前記正極板の前記無地部に接合された前記リードと、 負極板と、 を備え、前記リードの厚みは前記活物質層の厚みよりも厚い、蓄電装置。 【請求項9】 請求項1〜6のいずれか1項に記載の蓄電装置用電極板からなる正極板と、 前記正極の前記無地部に接合された前記リードと、 前記リードを覆って貼着された絶縁テープと、 負極板と、 を備え、前記リードの厚み、又は前記リードの厚みと前記絶縁テープの厚みとを足した厚みが、前記第2領域の厚みよりも厚い、蓄電装置。 【請求項10】 前記薄肉部の厚みと前記絶縁テープの厚みとを足した厚みが、前記第2領域の厚みよりも薄い、請求項9に記載の蓄電装置。」 第4 引用文献、引用発明等 1 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(また、下線は当審で付与した(以下同様)。) 「【0011】また、特開昭62−136756号公報あるいは特開昭63−4553号公報において提案された電極にあっては、電極支持体に活物質を充填する前に電極支持体の上端部に帯状の金属板を溶着しているため、帯状の金属板の溶着部分には活物質が充填されないこととなって、電池容量が低下するという問題を生じる。」 「【0026】このようにして作製した活物質スラリーを、基体目付が600g/m2で厚みが約2mmのニッケル発泡体(ニッケルスポンジ)からなる金属多孔体(活物質保持体)11に充填する。なお、圧延後の活物質充填密度が約2.9g/cc−voidとなるように活物質スラリーを充填する。ついで、活物質スラリーを充填した活物質保持体11を乾燥させた後、厚みが約0.69mmになるまで圧延した後、所定寸法(例えば、H(高さ)=34.5mm,W(幅)=213mm)に切断してニッケル正極板10を作成する。 【0027】ついで、このように活物質スラリーを充填したニッケル正極板10の長辺側上辺部12に図示しない超音波ホーンを所定間隔毎に押し当てて、この上辺部12に垂直方向に超音波振動を加えて、ニッケル正極板10の長辺側上辺部12に充填された活物質を活物質保持体11より所定間隔毎に脱落させて複数の活物質除去部分13(図1参照)を不連続に形成する。なお、超音波ホーンを押し当てて超音波振動を与えることにより、上辺部12は若干圧縮されて若干の薄肉部となる。このようにして複数の活物質除去部分13を不連続に形成したニッケル正極板10の各活物質除去部分13に帯状ニッケル板(例えば、厚みが0.15mmで、幅が2mmで、長さが213mmのもの)14を押し当てて抵抗溶接により溶着して、溶着部15と非溶着部16(図2参照)とを交互に形成する。」 「【0029】また、溶着時に帯状ニッケル板14に緩み(遊び)を生じることとなるので、活物質保持体11と帯状ニッケル板14の長さ(例えば213mm)を等しくしていると、帯状ニッケル板14を活物質保持体11の一方の端部に揃えて溶接するようにすると、活物質保持体11の他方の端部には帯状ニッケル板14が存在しないこととなる。これにより、次工程において、渦巻状に巻回して電極体を形成すると、この電極体の巻き終わり端部には帯状ニッケル板14が存在しないようになり、この電極体を負極端子を兼ねる円筒状金属製外装缶60(図3参照)に収納しても、帯状ニッケル板14が円筒状金属製外装缶に接触することが防止できるようになって、内部短絡を生じることが防止できるようになる。」 「【0034】3.ニッケル−水素電池の作製 ついで、上述のように作製した各実施例のニッケル正極板a,b,c,dおよび各比較例のニッケル正極板e,f,gと、上述のように作製した水素吸蔵合金負極板を用いてニッケル−水素電池を作製する例を図3および図4に基づいて説明する。」 「【0051】上述したように、本発明のニッケル正極板10においては、長辺側上辺部12に複数の不連続な活物質未充填部分(活物質除去部分)13を備え、この活物質除去部分13に帯状金属板14が溶着された溶着部15と活物質が充填された部分に帯状金属板14が溶着されない非溶着部16とを備えるようにしている。このため、活物質の充填量が減少することが防止でき、高容量の非焼結式電極が得られるようになる。」 2 上記記載事項より、引用文献1には「ニッケル正極板10」について次の事項が記載されている。 ・ニッケル正極板10は、活物質スラリーを、ニッケル発泡体からなる活物質保持体11に充填、乾燥して作成したものである(【0026】)。 ・ニッケル正極板10は、長辺側上辺部12に複数の不連続な活物質除去部分13を備え、この活物質除去部分13に帯状金属板14が溶着された溶着部15と、活物質が充填された部分に帯状金属板14が溶着されない非溶着部16とを備えている(【0051】)。 ・複数の活物質除去部分13は、ニッケル正極板10の長手方向の両端部から離れている(図1)。 ・活物質除去部分13は、ニッケル正極板10の長辺側上辺部12に超音波ホーンを押し当てて、超音波振動を加えて、長辺側上辺部12に充填された活物質を活物質保持体11より脱落させて形成したものである(【0027】)。 ・長辺側上辺部12は、超音波ホーンを押し当てて超音波振動を与えることにより、若干圧縮されて若干の薄肉部となっている(【0027】)。 ・ニッケル正極板10はニッケル−水素電池を作製するために(【0034】)、渦巻状に巻回して電極体を形成するものである(【0029】)。 3 以上によれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「活物質スラリーを、ニッケル発泡体からなる活物質保持体11に充填、乾燥したニッケル正極板10であって、 ニッケル正極板10は、長辺側上辺部12に複数の不連続な活物質除去部分13を備え、 活物質除去部分13に帯状金属板14が溶着された溶着部15と、活物質が充填された部分に帯状金属板14が溶着されない非溶着部16とを備え、 複数の活物質除去部分13は、ニッケル正極板10の長手方向の両端部から離れており、 活物質除去部分13は、ニッケル正極板10の長辺側上辺部12に超音波ホーンを押し当てて、超音波振動を加えて、長辺側上辺部12に充填された活物質を活物質保持体11より脱落させて形成したものであり、 長辺側上辺部12は、超音波ホーンを押し当てて超音波振動を与えることにより、若干圧縮されて若干の薄肉部となっており、 ニッケル正極板10はニッケル−水素電池を作製するために、渦巻状に巻回して電極体を形成するものである、 ニッケル正極板10。」 第5 対比、判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。 ア 引用発明の「ニッケル発泡体からなる活物質保持体11」は「活物質スラリー」が「充填、乾燥」されていることから、活物質が設けられた芯体であるといえる。そうすると、引用発明の「活物質保持体11」は、本願発明1の「帯状の芯体」に相当する。 そして、引用発明の「ニッケル正極板10」は、「ニッケル−水素電池を作製するために、渦巻状に巻回して電極体を形成する」ものである。 よって、引用発明の「活物質スラリーを、」「活物質保持体11に充填、乾燥したニッケル正極板10」と本願発明1とは、「帯状の芯体と、活物質と、を備えた巻回型の電極体を構成する蓄電装置用電極板」である点で共通する。 但し、蓄電装置用電極板が、本願発明1は「前記芯体の少なくとも一方の面上に設けられた活物質層と、を備えた」「蓄電装置用電極板」であるのに対して、引用発明は「活物質スラリーを、ニッケル発泡体からなる活物質保持体11に充填、乾燥したニッケル正極板10」である点で相違する。 イ 引用発明の「帯状金属板14が溶着され」る「ニッケル正極板10」の「活物質除去部分13」は、活物質がないので、本願発明1の「リードが接続される芯体表面が露出した無地部」に相当する。 また、引用発明の「ニッケル正極板10」の「長辺側上辺部12」は、「活物質保持体11」の幅方向一端部である。 そして、引用発明の「複数の活物質除去部分13」は「ニッケル正極板10の長手方向の両端部から離れて」いるので、巻外側に配置される「活物質保持体11」の長手方向一端部から離れた位置にあるといえる。 よって、引用発明の「ニッケル正極板10」の「長辺側上辺部12」で「ニッケル正極板10の長手方向の両端部から離れて」形成された「活物質除去部分13」は、本願発明1の「前記芯体の幅方向一端部には、前記電極体の巻外側に配置された前記芯体の長手方向一端部から離れた位置に、リードが接続される芯体表面が露出した無地部」に相当する。 ウ 引用発明の「長辺側上辺部12」は、超音波ホーンを押し当てて超音波振動を与えることにより、若干圧縮されて若干の薄肉部となる。ここで、引用発明において「超音波ホーン」を押し当てた場所に形成されるのは活物質除去部分13であるから、「活物質除去部分13」が若干の薄肉部になる。 そうすると、引用発明において、活物質除去部分13の活物質保持体11が若干の薄肉部になるといえるが、活物質除去部分13以外の活物質が充填された部分である非溶着部16に薄肉部が形成されるとはいえない。 したがって、活物質が、本願発明1は「前記芯体の長手方向に前記無地部と並んだ第1領域の少なくとも一部に、前記第1領域以外の領域である第2領域よりも層厚みが薄くなった薄肉部を有する」「活物質層」であるのに対して、引用発明はそのような特定がない点で相違する。 エ したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点及び相違点があるといえる。 (一致点) 「帯状の芯体と、 活物質と、 を備えた巻回型の電極体を構成する蓄電装置用電極板であって、 前記芯体の幅方向一端部には、前記電極体の巻外側に配置された前記芯体の長手方向一端部から離れた位置に、リードが接続される芯体表面が露出した無地部が形成された、 蓄電装置用電極板。」 (相違点1) 蓄電装置用電極板が、本願発明1は「前記芯体の少なくとも一方の面上に設けられた活物質層と、を備えた」「蓄電装置用電極板」であるのに対して、引用発明は「活物質スラリーを、ニッケル発泡体からなる活物質保持体11に充填、乾燥したニッケル正極板10」である点。 (相違点2) 活物質が、本願発明1は「前記芯体の長手方向に前記無地部と並んだ第1領域の少なくとも一部に、前記第1領域以外の領域である第2領域よりも層厚みが薄くなった薄肉部を有する」「活物質層」であるのに対して、引用発明はそのような特定がない点。 (2)判断 ア 理由1(新規性)について 本願発明1と引用発明は、上記のように相違点がある。 よって、本願発明1は、引用文献1に記載された発明でない。 イ 理由2(進歩性)について 事案に鑑み、まず、相違点2について検討する。 引用発明は、帯状の金属板の溶着部分には活物質が充填されないこととなって、電池容量が低下するという課題を解決するために(【0011】)、長辺側上辺部12に活物質が充填された部分である非溶着部16を設けたのであるから、非溶着部16の一部にさらに活物質の量を減らすような薄肉部を形成することには阻害要因があるといえる。 また、引用発明の「帯状金属板14」は「活物質保持体11」と等しい長さであるから(【0029】)、本願明細書の【0004】に記載されたような、リードの厚みの影響で電極体の軸方向一端部が局所的に膨出するため、リードの接続部よりも巻外側で安定した巻回構造を形成することが難しく、電極体の巻きズレが発生し易いという課題は存在せず、長辺側上辺部12の非溶着部16の一部を薄肉部にするような動機は存在しない。 したがって、上記相違点2に係る構成は、引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 よって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 2 本願発明2ないし10について 本願発明2ないし10は、本願発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、本願発明1と同じ理由により、引用文献1に記載された発明でない。同様に、本願発明2ないし10は、当業者であっても、引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明1ないし10は、引用文献1に記載された発明でない。また、本願発明1ないし10は、当業者が引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2022-04-14 |
出願番号 | P2017-548635 |
審決分類 |
P
1
8・
113-
WY
(H01M)
P 1 8・ 121- WY (H01M) |
最終処分 | 01 成立 |
特許庁審判長 |
清水 稔 |
特許庁審判官 |
棚田 一也 須原 宏光 |
発明の名称 | 蓄電装置用電極板及び蓄電装置 |
代理人 | 特許業務法人YKI国際特許事務所 |