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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B29C
管理番号 1387065
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-07-16 
確定日 2022-08-09 
事件の表示 特願2016−155164「ポリアミドフィルムおよびこれを用いた積層体、包装材」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 2月15日出願公開、特開2018− 24102、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2016−155164号(以下「本件出願」という。)は、平成28年8月8日の出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和 2年 7月14日付け:拒絶理由通知書
令和 2年11月18日付け:意見書
令和 2年11月18日付け:手続補正書
令和 3年 4月19日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 3年 7月16日付け:手続補正書
令和 3年 7月16日付け:審判請求書
令和 3年 8月12日付け:前置報告書


第2 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、概略、以下のとおりである。
理由1(進歩性
本件出願の(令和2年11月18日にした手続補正後の)請求項1〜4、6及び7に係る発明は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
引用文献1:国際公開第2015/147121号
引用文献2:特開2009−90587号公報
(引用文献1及び引用文献2はそれぞれが主引例である。)


第3 本件発明
本件出願の請求項1〜6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明6」という。)は、令和3年7月16日にした手続補正後の特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1〜6の記載は以下のとおりである。
「【請求項1】
100℃の沸騰水中で5分間処理した際に測定される沸水収縮率が、フィルムの製膜時の縦方向、横方向、縦方向に対して時計回りに45度の方向、および135度の方向の4方向において、いずれも5.0%以下であり、これらの沸水収縮率の最大値と最小値の差が2.0%未満であり、
下記式で求められる厚み精度が1.5%以下であることを特徴とする冷間成型用ポリアミドフィルム。
厚み精度(%)=〔(フィルムの最大厚み−フィルムの最小厚み)/2/フィルムの平均厚み〕×100
【請求項2】
沸水収縮率の最大値と最小値の差が1.9%以下であることを特徴とする請求項1記載の冷間成型用ポリアミドフィルム。
【請求項3】
平均厚みが20μm以上であることを特徴とする請求項1または2記載の冷間成型用ポリアミドフィルム。
【請求項4】
請求項1記載の冷間成型用ポリアミドフィルムを製造するための方法であって、ポリアミド樹脂を含む溶融混練物をシート状に成形して未延伸フィルムを得た後、未延伸フィルムを水分率が2.0〜5.0質量%になるように吸水させ、次いで180〜197℃で予熱した後、縦方向および横方向にそれぞれ2.5〜4.0倍の延伸倍率で、テンター法により二軸延伸し、二軸延伸後に、180〜230℃で、縦方向および横方向にそれぞれ1〜10%のリラックス率で、リラックス処理することを特徴とする冷間成型用ポリアミドフィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の冷間成型用ポリアミドフィルムと、その上に積層された金属箔とを含む積層体。
【請求項6】
請求項5記載の積層体を含む包装材。」


第4 引用文献の記載及び引用文献に記載された発明
1 引用文献1の記載及び引用文献1に記載された発明
(1)引用文献1の記載
引用文献1には、以下の記載がある。(なお、下線は当審において付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。以下、同様である。)
ア 「技術分野
[0001]
本発明は、収縮率のバランスに優れた二軸延伸ポリアミドフィルムに関する。
背景技術
[0002]
合成樹脂容器または複合容器に包装された飲料、デザート、調理済食品などの容器包装品は、容器に内容物を充填後、積層フィルムからなる蓋材を用いて密封シールされて販売されている。このような容器包装品は、チルド状態で流通するものもあるが、通常、常温で流通するものも含めて、密封後にボイル処理やレトルト処理などの加熱殺菌処理が行われる。
[0003]
容器包装品の加熱殺菌処理においては、容器内の内容物や空気等が膨張し、容器本体よりも薄くて強度が低い蓋材に内圧がかかり、蓋材が引き伸ばされるため、常温に戻したときに蓋材にたるみやしわが残ってしまうことが避けられない。
[0004]
一方、空気の膨張による蓋材の変形を抑制するため、容器包装品は、容器内に内容物を満たした状態で密封シールされることがある。この場合でも美麗性の観点から、蓋材は張りがあるものが好まれる。さらに蓋材タブはカールしないことが好まれ、例えカールしたとしても、下向きにカールすることが美観上好ましいとされている。
・・・中略・・・
発明が解決しようとする課題
[0007]
しかしながら、特許文献1、2に記載された特定の熱収縮率を有するフィルムは、熱収縮率があらゆる方向に均等ではないので、たとえば縦方向と横方向にアンバランスのまま収縮することがあった。このようなフィルムに印刷を施して蓋材として使用すると、加熱殺菌処理後に、蓋材の印刷図柄が歪んでしまい、特に開口部が円形である容器においては、この問題は顕著であり、円形の蓋材の印刷図柄が、加熱殺菌処理後には楕円形になることがあった。
本発明は、収縮率のバランスに優れた二軸延伸ポリアミドフィルムを提供することを目的とする。」

イ 「発明を実施するための形態
[0011]
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムを構成するポリアミド樹脂としては、たとえば、ε−カプロラクタムを主原料としたナイロン6を挙げることができる。また、その他のポリアミド樹脂としては、3員環以上のラクタム、ω−アミノ酸、二塩基酸とジアミン等の重縮合によって得られるポリアミド樹脂を挙げることができる。
・・・中略・・・
[0015]
本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムは、上記ポリアミド樹脂からなるフィルムであり、二軸延伸されたものである。
本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムは、100℃の沸騰水中で5分間のボイル処理した後に測定される収縮率が、製膜時の縦方向(MD)および横方向(TD)のいずれも2.0〜5.0%であることが必要であり、3.0〜4.0%であることが好ましい。二軸延伸ポリアミドフィルムにおけるボイル処理後のMDおよび/またはTDの収縮率が2.0%未満であると、得られる蓋材は、加熱殺菌処理後に張りがなくなる。一方、ボイル処理後のMDおよび/またはTDの収縮率が5.0%を超えると、得られる蓋材の収縮により、容器が変形したり、蓋材タブが上向きにカールしたりしてしまう。
[0016]
また、本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムは、100℃の沸騰水中で5分間のボイル処理した後に測定されるMDの収縮率とTDの収縮率の差、およびTDに対して45°方向の収縮率と135°方向の収縮率の差が、いずれも0.5%以下であることが必要であり、0.4%以下であることが好ましく、0.3%以下であることがより好ましく、0.1%以下であることがさらに好ましい。二軸延伸ポリアミドフィルムにおけるボイル処理後のこれらの収縮率の差が0.5%を超えると、得られる蓋材は、加熱殺菌処理後に一方向のみに収縮することで、しわが発生したり、蓋材の印刷図柄が歪んでしまい、美麗性を損ねる。
上記収縮率を満足するとともに、上記収縮率の差を満足して収縮率のバランスが向上した二軸延伸ポリアミドフィルムを容器蓋材等の用途で用いると、加熱殺菌処理後に、蓋材は、十分に張りを持ちたるみやしわ等がなく、かつ印刷図柄の歪みがなく、また容器は変形することがなく、また蓋材タブは上向きにカールすることがなく、外観に優れた容器包装を得ることができる。
・・・中略・・・
実施例
[0027]
本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
[0028]
1.測定方法
(1)収縮率
実施例、比較例で得られた二軸延伸ポリアミドフィルムのロールについて、ロールの表層部を除去して、ロールの内部よりサンプリングし、試料を23℃×50%RHの雰囲気下で、2時間調湿した。
次に、前記試料より、MD、TD、TDに対して45°方向、およびTDに対して135°方向の短冊状試験片(各方向に150mm×幅10mm)をそれぞれ切り出した。短冊状試験片の長さ方向に沿って約100mmの間隔をおいて一対の標点をつけ、標点間距離(L0(mm))を測定した。
短冊状試験片をボイル処理(100℃の沸騰水で5分間)し、処理後再度23℃×50%RHの雰囲気下で2時間以上調湿した後、標点間距離(L(mm))を測定し、下記式により収縮率を算出した。なお、測定は各方向それぞれについて3試験片で行ない、平均値を収縮率とした。
収縮率(%)={(L0−L)/L0}×100
[0029]
(2)印刷歪みのモデル試験
実際に印刷が施された蓋材を加熱殺菌処理した場合の蓋材の歪みを想定して、以下のモデル的な評価試験を行った。
厚み600μmの押出成形シートから作られたフランジ付き丸型ポリプロピレン製容器(110mmφ)に水を充填し、各実施例もしくは比較例で得た積層フィルムを蓋材として用いカップシーラーにて密封シールをして、密封包装容器を作製した。
密封包装容器を20℃×65%RHの雰囲気下にて24時間放置、調湿した後、この蓋材に、任意の1方向を0°方向として、15°毎に12方向に沿って、それぞれ100mmの間隔をおいて一対の標点をつけた。
密封包装容器を、加熱殺菌処理(100℃×30分間)し、20℃×65%RHの雰囲気下にて24時間放置、調湿した後、各標点間の距離X(mm)を測定し、下記式により収縮率(%)の算出を行った。
収縮率(%)=(処理前標点間距離−処理後標点間距離)/(処理前標点間距離)×100={(100−X)/100}×100
12方向の収縮率から、収縮率の最大値と最小値の差を求め、この差が1.0%以下であれば、蓋材は、実際の印刷を行った場合においても実用上問題のない程度に印刷歪みが小さいと判断して、「○」と評価し、1.0%を超えた場合、蓋材は、印刷歪みが大きく実用上問題があると判断して、「×」と評価した。
[0030]
(3)蓋材の張り
上記(2)で得られた加熱殺菌後の密封包装容器を冷却乾燥した後、蓋材の張りを、しわの状態や弾力性、容器の変形から目視により評価した。たるみ・容器変形がないものを「○」、たるみ・容器変形が著しいものを「×」と評価した。
・・・中略・・・
[0032]
実施例1
(二軸延伸ポリアミドフィルムの製造)
ポリアミド樹脂として、相対粘度が3.0であるポリアミド6樹脂(ユニチカ社製A1030BRF)を用いて、温度260℃でTダイより溶融押出しし、15℃のドラム上で冷却して、厚さ150μmの実質的に無配向の未延伸フィルムを得た。
得られた未延伸フィルムを40℃の温水槽に10秒間浸漬、その後60℃の温水槽に100秒間浸漬して吸水処理を行ない、未延伸フィルムの水分率を4.0%とした。
吸水処理された未延伸フィルムを、リニアモーター駆動のテンター式同時二軸延伸機に導き、212℃で予熱した後、延伸温度196℃、MD延伸倍率3.3倍、TD延伸倍率3.3倍の条件で同時二軸延伸した。
次に、同時二軸延伸後のフィルムを、前半部の温度が190℃、後半部の温度が185℃に設定された熱処理ゾーンで4秒間熱処理し、フィルムのMD、TDにそれぞれ6.0%のリラックス処理を施し、厚さ15μmの同時二軸延伸ポリアミドフィルム得て、ロール状に採取した。
製膜、延伸における各製造条件および収縮率を表1にまとめて示す。
・・・中略・・・
[0034]
(密封包装容器の作製)
厚み600μmの押出成形シートからフランジ付き丸型ポリプロピレン製容器(110mmφ)を作製し、これに水を充填した。前記積層体を蓋材として用い、カップシーラーにて、シール温度160℃、シール圧力2.5kg/mm2、シール時間2秒の条件で、前記水を充填した丸型ポリプロピレン製容器を密封シールした。得られた密封包装容器に加熱殺菌処理し、密封包装容器の蓋材について、印刷歪みのモデル試験、張りやタブのカールの評価を行った。その結果を表1に示す。
[0035]
実施例2〜9、比較例1〜10
延伸倍率、熱処理温度、リラックス率を表1、2のように変更した以外は実施例1と同様にして二軸延伸ポリアミドフィルムを得た。フィルムの製造条件、収縮率、および蓋材としての評価結果を表1、2に示す。
[0036]
[表1]



(2)引用文献1に記載された発明
ア 引用文献1の[0032]及び[0036][表1]の実施例1には、[0028]に記載の方法で測定された収縮率を備えた、以下の「ポリアミドフィルム」の発明(以下、「引用発明1−1」という。)が記載されている。
「ポリアミド樹脂として、ポリアミド6樹脂(ユニチカ社製A1030BRF)を用いて、温度260℃でTダイより溶融押出しし、15℃のドラム上で冷却して、厚さ150μmの実質的に無配向の未延伸フィルムとし、
得られた未延伸フィルムを40℃の温水槽に10秒間浸漬、その後60℃の温水槽に100秒間浸漬して吸水処理を行ない、未延伸フィルムの水分率を4.0%とし、
吸水処理された未延伸フィルムを、リニアモーター駆動のテンター式同時二軸延伸機に導き、212℃で予熱した後、延伸温度196℃、MD延伸倍率3.3倍、TD延伸倍率3.3倍の条件で同時二軸延伸し、
同時二軸延伸後のフィルムを、前半部の温度が190℃、後半部の温度が185℃に設定された熱処理ゾーンで4秒間熱処理し、フィルムのMD、TDにそれぞれ6.0%のリラックス処理を施し、厚さ15μmとした同時二軸延伸ポリアミドフィルムであって、
標点間距離(L0(mm))と、ボイル処理(100℃の沸騰水で5分間)し、処理後再度23℃×50%RHの雰囲気下で2時間以上調湿した後の標点間距離(L(mm))とを用いて、下記式により算出した、MD、TD、TDに対して45°方向、およびTDに対して135°方向のそれぞれの収縮率が、3.4%、3.4%、3.4%及び3.5%である、ポリアミドフィルム。
収縮率(%)={(L0−L)/L0}×100」

イ 同様に、引用文献1の実施例2〜実施例9に記載されている「ポリアミドフィルム」の発明を、以下、「引用発明1−2」〜「引用発明1−9」という。

2 引用文献2の記載及び引用文献2に記載された発明
(1)引用文献2の記載
引用文献2には、以下の記載がある。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は蒸着ポリアミド系樹脂フィルムおよびそれを用いたフィルムロールに関し、特にポリオレフィン系樹脂フィルムとラミネートしてレトルト食品等の包装に使用可能な蒸着ポリアミド系樹脂フィルムおよびそれを用いたフィルムロールに関する。
【背景技術】
【0002】
ナイロンを主成分とする二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムは、強靭で、ガスバリア性、耐ピンホール性、透明性、印刷性等に優れていることから、各種液状食品、含水食品、冷凍食品、レトルト食品、ペースト状食品、畜肉・水産食品等の各種の食品の包装材料として広く実用化されている。しかし、ポリアミド系樹脂フィルム単体では、ガスバリア性に限界があり、生鮮食料品等の包装用途に必ずしも適しているとは言えない。ポリアミド系樹脂フィルムのガスバリア性を向上させるための手段として、ポリアミド系樹脂フィルムの表面に金属等を蒸着する方法が知られている。しかし、ポリアミド系樹脂フィルムの物性が不均一であると、金属蒸着層の厚みや金属蒸着層との接着強度にバラツキが生じてしまい、ガスバリア性も不均一なものとなってしまう。
・・・中略・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
かかる技術では、ポリアミドフィルムの長さ方向の熱収縮率のばらつきと厚みに着目しており、これにより、S字カール現象は解決できる。しかし、特許文献1及び2では、フィルムの強伸度の異方性については言及されていない。一般にポリアミド樹脂フィルムには、フィルムの横方向(幅方向、以下「TD」と略称することがある)と縦方向(長さ方向、以下「MD」と略称することがある)とで強伸度などの機械特性の値に差がある。そのため、フィルムを包装材料などの製品に加工した際に、製品強度に異方性がでて、全体として強度不足となったりするなど、使い勝手が悪くなる問題がある。」

イ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。 本発明は、ポリアミド樹脂由来の微結晶という一つの変数に着目することにより、フィルムの平面性すなわち巻き姿の良好性、厚み斑、強度、物性バランス(ばらつき)の制御を行うことを目的としたものである。
・・・中略・・・
【0028】
次に、フィルムの縦方向および横方向についてのフィルムの引裂伝播抵抗力の比について説明する。本発明においては、蒸着前のポリアミド系樹脂フィルムの縦方向および横方向についての引裂伝播抵抗力の比が、(縦方向の引裂伝播抵抗力)/(横方向の引裂伝播抵抗力)=0.7〜1.3であることが必要である。好ましくは、0.85〜1.1である。この範囲内であることで、フィルムの縦方向/横方向の物性バランスがよく、寸法安定性に優れたフィルムとなる。その結果、印刷製袋時の印刷ズレや製袋品のひねりなどが発生せず、良好な製品が得られる。
【0029】
上記の範囲を外れた場合は、縦方向/横方向の物性バランスが悪く、寸法安定性に劣ったフィルムとなる。このようなフィルムでは印刷製袋時の印刷ズレや製袋品のひねりなどが発生し、製袋加工の不良率が高くなる。
・・・中略・・・
【0070】
本発明の蒸着ポリアミド系樹脂フィルムは、ポリオレフィン系樹脂フィルムと積層されて、蒸着ポリアミド系積層樹脂フィルムを構成することができる。このような積層樹脂フィルムは、ラミネート加工性がよく、かつ、袋加工性が良好である。このような積層樹脂フィルムから得られた袋は、ガスバリア性に優れ、製品強度に異方性が少なく、S字カール現象を示さない。したがって、食品のレトルト加工用途に好適に用いることができる。
・・・中略・・・
【0081】
[沸水収縮率方向差]
試験片は、フィルムの幅方向に平行に、210×210mmの正方形を5枚切り出し、それぞれサンプルの中央を中心として、直径約200mmの円を描くことにより作製した。この試験片において、フィルムの横方向を0°とし、時計回りに45°の位置と中心とを通る直線をひき、直線と円との二つの交点どうしの間の距離L045を、45°における処理前の長さとした。次に、同様に時計回りに135°の位置と中心とを通る直線をひき、直線と円との二つの交点どうしの間の距離L0135を135°における処理前の長さとした。
【0082】
5枚の試験片についてL045とL0135とを測定し、次いで、沸水中で5分間処理し、軽く水分をふき取ってから風乾し、さらに20℃×65%RHの環境で2時間以上放置した。
【0083】
沸水処理後に再度、上述の45°の位置における二つの交点どうしの間の距離L145を、45°における処理後の長さとした。同様に、135°の位置における二つの交点どうしの間の距離L1135を、135°における処理後の長さとした。そして、以下の式から、45°の位置の沸水収縮率と135°の位置の沸水収縮率を求め、その差の絶対値を沸水収縮率の差とした。
【0084】
沸水収縮率=(処理前の長さ−処理後の長さ)×100/処理前の長さ(%)
フィルム幅が2500mm以上の場合はフィルム横方向の中心部からそれぞれ右と左に1000mmの位置について、またフィルム幅が2500mm未満の場合は両端縁より150mmの位置について、それぞれ沸水収縮率の差を求め、右端と左端の平均値を沸水収縮率方向差とした。
・・・中略・・・
【0095】
実施例1
乾燥したナイロン6樹脂(ユニチカ社製、A1030−BRF)と上記マスターチップとをブレンドし、シリカの配合割合が0.05質量%となるようにして、押出機に投入し、温度270℃に加熱したシリンダー内で溶融し、Tダイオリフィスよりシート状に押出し、40℃に設定されたキャストロールに対しノズルから噴き出した空気により押し付けて冷却し、厚さ180μmの未延伸フィルムを得た。キャストロールと未延伸シートとの間の距離(空気層厚み)をレーザーフォーカス変位計(キーエンス社製)を用いて測定したところ、最小値が92μm、最大値が157μmであった。
【0096】
さらに、この未延伸フィルムを、±5℃で管理された水温45℃の第1吸水槽の水中に浸漬させ、次いで水温60℃の第2吸水槽にて含水させて水分率を6質量%に調節した。次に、これを同時二軸延伸機に導いて、175℃で予熱したあとに、延伸温度190℃で、縦方向に3.5倍、横方向に3.3倍の倍率で延伸した。続いて、温度220℃でフィルム走行工程3mの間熱処理し、3%の弛緩処理を行って、厚み15μmのナイロン6フィルムを得た。得られたフィルムを、巻取り速度130m/分でロール状に巻取り、フィルムロールを得た。フィルムの製造条件、得られたナイロンフィルムの微結晶の状態(所定範囲内の存在個数、平均粒径、粒径が平均粒径の0.5〜1.5倍の範囲内にある微結晶の比率、結晶完全性)、得られたナイロンフィルムの厚み斑、最大引張弾性率方向差、沸水収縮率方向差、引裂伝播抵抗力の比、巻き姿、S字カール現象の測定結果を、表1〜表3に示す。
・・・中略・・・
【0100】
【表3】



(2)引用文献2に記載された発明
ア 引用文献2の【0095】及び【0100】【表3】の実施例1には、【0081】〜【0084】に記載された方法により測定された沸水収縮率を備えた、以下の「ナイロンフィルム」の発明(以下、「引用発明2−1」という。)が記載されている。
「ナイロン6樹脂(ユニチカ社製、A1030−BRF)を含む樹脂を、押出機に投入し、温度270℃に加熱したシリンダー内で溶融し、Tダイオリフィスよりシート状に押出し、40℃に設定されたキャストロールに対しノズルから噴き出した空気により押し付けて冷却し、厚さ180μmの未延伸フィルムとし、
この未延伸フィルムを、±5℃で管理された水温45℃の第1吸水槽の水中に浸漬させ、次いで水温60℃の第2吸水槽にて含水させて水分率を6質量%に調節し、
これを同時二軸延伸機に導いて、175℃で予熱したあとに、延伸温度190℃で、縦方向に3.5倍、横方向に3.3倍の倍率で延伸し、
温度220℃でフィルム走行工程3mの間熱処理し、3%の弛緩処理を行って、厚み15μmとしたナイロンフィルムであって、
沸水中で5分間処理し、軽く水分をふき取ってから風乾し、さらに20℃×65%RHの環境で2時間以上放置し、
フィルムの横方向(幅方向、以下「TD」と略称することがある)と縦方向(長さ方向、以下「MD」と略称することがある)として、フィルムの横方向を0°とし、時計回りに45°の位置における二つの交点どうしの間の距離L145を、45°における処理後の長さとし、同様に、時計回りに135°の位置における二つの交点どうしの間の距離L1135を、135°における処理後の長さとし、以下の式から、45°の位置の沸水収縮率と135°の位置の沸水収縮率を求め、その差の絶対値を沸水収縮率の差としたとき、フィルムの右端部分と左端部分における沸水収縮率の差がそれぞれ、1.19%及び1.24%である、ナイロンフィルム。
沸水収縮率=(処理前の長さ−処理後の長さ)×100/処理前の長さ(%)」

イ 同様に、引用文献2の実施例2〜実施例7に記載された「ナイロンフィルム」の発明を、以下、「引用発明2−2」〜「引用発明2−7」という。

3 前置報告書において周知技術を示す文献として引用された引用文献3〜引用文献5の記載
(1)引用文献3(国際公開第2010/131457号)には、以下の記載がある。
「[0002]
従来から、飲料容器、ヨーグルト容器、ポーション容器、カップ麺等の食品用容器としては、引張り強さ、耐熱性、耐光性、成形性、表面光沢性に優れたスチレンホモポリマー等のいわゆる一般用ポリスチレン系樹脂(GPPS;General Purpose Polystyrene)や、GPPSにSBR、BR等のゴムを配合し、その脆さを改善した耐衝撃性ポリスチレン(HIPS;High Impact Polystyrene)が多用されている。このようなポリスチレン系樹脂容器の開口部に貼り合わせ密閉するための蓋材として、アルミニウム箔を基材とし、その表面に容器との接着のためのシーラント層等を設けたアルミニウム積層体が使用されている。このようなアルミニウム積層体から蓋の展開形に打ち抜かれた小片のアルミニウム蓋材が、端部が折り返されスカートが付いた形状に成形され、容器の開口部にシールされていた。このようなアルミニウム製蓋は、封かん性に優れ、ピール時の安定性に優れ、容器の開口部に供給されるとき、静電気による付着が少なく枚葉供給性が良好であるため、常用されている。また、アルミニウム製蓋は、周縁部を折り曲げて成形されるスカートが設けられたとき、折り曲げられて変形された形態を維持する性質、いわゆる保形性に優れている。このため、充填された飲料を直接容器から飲用する場合に、容器の開口近傍の口に接触する部分が蓋の端部で被覆された状態が良好に保持され、容器の開口近傍の汚染を防止することができ、衛生上優れている上に、外観上も優れているため、従来から好適に用いられている。」

(2)引用文献4(特開2009−45257号公報)には、以下の記載がある。
「【0004】
一方、厚さ9〜30μmの耐熱性熱可塑性樹脂フィルムと厚さ30〜60μmの金属箔がラミネートされ、金属箔の他の面に厚さ50〜100μmの耐熱性熱可塑性樹脂フィルムがラミネートされてなる積層材が冷間成形されて得られるレトルト用食品容器が検討された(例えば、特許文献2)。」

(3)引用文献5(実開昭60−28582号公報)には、以下の記載がある。
「実用新案登録請求の範囲
厚さ9〜30μの耐熱性可塑性樹脂フイルムと厚さ30〜60μの金属箔をラミネートしさらに金属箔の他の面に50〜100μの熱融着可能な耐熱性熱可塑性樹脂フイルムをラミネートしてなる積層剤を冷間成形した成形体を容器本体とするレトルト用食品容器。」


第5 当合議体の判断
1 引用文献1を主引例とした場合
(1)対比
本件発明1と引用発明1−1とを対比する。
ア ポリアミドフィルム
引用発明1−1の「ナイロンフィルム」は、「ポリアミド樹脂として、ポリアミド6樹脂(ユニチカ社製A1030BRF)を用いて」製造されるものであるから、ポリアミドフィルムであることは明らかである。
そうすると、引用発明1−1の「ナイロンフィルム」は、本件発明1の「ポリアミドフィルム」に相当する。

イ 沸水収縮率
引用発明1−1の「収縮率」は、「ボイル処理(100℃の沸騰水で5分間)」前後の、標点間距離L0(mm)及びL(mm)を用いて「収縮率(%)={(L0−L)/L0}×100」により算出される値である。
そうすると、本件出願の明細書における沸水収縮率の記載(特に【0038】)に照らすと、引用発明1−1の「収縮率」は、本件発明1の「沸水収縮率」に相当し、「100℃の沸騰水中で5分間処理した際に測定される」値であるという要件を満たす。

また、引用発明1−1の「MD」及び「TD」はそれぞれ、「製膜時の縦方向(MD)」および「横方向(TD)」([0015])であるから、引用発明1−1の「MD」、「TD」、「TDに対して45°方向」及び「TDに対して135°方向」はそれぞれ、本件発明1の「フィルム製膜時」の「縦方向」、「横方向」、「縦方向に対して時計回りに135度の方向」及び「縦方向に対して時計回りに45度の方向」に相当する。
そして、引用発明1−1の「収縮率」の上記4方向の値はそれぞれ、「3.4%」、「3.4%」、「3.4%」及び「3.5%」であり、その最大値と最小値の差は0.1%であるから、本件発明1の「沸水収縮率」が「縦方向、横方向、縦方向に対して時計回りに45度方向、および135度の方向の4方向において、いずれも5.0%以下であり、これらの沸水収縮率の最大値と最小値の差が2.0%未満」であるという要件を満たす。

(2)一致点及び相違点
ア 一致点
本件発明1と引用発明1−1とは、以下の点で一致する。
「100℃の沸騰水中で5分間処理した際に測定される沸水収縮率が、フィルムの製膜時の縦方向、横方向、縦方向に対して時計回りに45度の方向、および135度の方向の4方向において、いずれも5.0%以下であり、これらの沸水収縮率の最大値と最小値の差が2.0%未満である、ポリアミドフィルム。」

イ 相違点
本件発明1と引用発明1−1とは、以下の点で相違もしくは一応相違する。
(相違点1−1)
本件発明1が、「厚み精度(%)=〔(フィルムの最大厚み−フィルムの最小厚み)/2/フィルムの平 均厚み〕×100」で「求められる厚み精度が1.5%以下である」のに対し、引用発明1−1は、フィルムの厚み精度が不明である点。

(相違点1−2)
本件発明1が、「冷間成型用」であるのに対し、引用発明1−1は「冷間成型用」であることが特定されていない点。

(3)判断
技術的関連性に鑑み、相違点1−1と相違点1−2をまとめて検討する。
本件発明1は、【0006】に示されるとおり、「金属箔と積層して冷間成型にて深絞り成型を行っても、金属箔の破断や剥離、ピンホールの発生がなく、成型性よく製品を得ることが可能となるポリアミドフィルムを提供する」ために、「厚みの精度が1.5%を超えると、成型の際に厚みの薄い箇所に局所的に力がかかり破断の原因となる」(【0016】)ことに着目し、厚み精度を1.5%以下として、「エリクセン値が高く、冷間成型したときに全方向へ均一な延展性を有するもの」(【0045】)とした点に、技術的意義を有するものである。
他方、引用発明1−1は、引用文献1に、「容器包装品の加熱殺菌処理においては、容器内の内容物や空気等が膨張し、容器本体よりも薄くて強度が低い蓋材に内圧がかかり、蓋材が引き伸ばされるため、常温に戻したときに蓋材にたるみやしわが残ってしまうことが避けられない。」([0003])、「美麗性の観点から、蓋材は張りがあるものが好まれる。さらに蓋材タブはカールしないことが好まれ、例えカールしたとしても、下向きにカールすることが美観上好ましいとされている。」([0004])、「蓋材の印刷図柄が歪んでしまい、特に開口部が円形である容器においては、この問題は顕著であり、円形の蓋材の印刷図柄が、加熱殺菌処理後には楕円形になることがあった。」([0007])、「本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムは、100℃の沸騰水中で5分間のボイル処理した後に測定されるMDの収縮率とTDの収縮率の差、およびTDに対して45°方向の収縮率と135°方向の収縮率の差が、いずれも0.5%以下であることが必要であり、0.4%以下であることが好ましく、0.3%以下であることがより好ましく、0.1%以下であることがさらに好ましい。二軸延伸ポリアミドフィルムにおけるボイル処理後のこれらの収縮率の差が0.5%を超えると、得られる蓋材は、加熱殺菌処理後に一方向のみに収縮することで、しわが発生したり、蓋材の印刷図柄が歪んでしまい、美麗性を損ねる。
上記収縮率を満足するとともに、上記収縮率の差を満足して収縮率のバランスが向上した二軸延伸ポリアミドフィルムを容器蓋材等の用途で用いると、加熱殺菌処理後に、蓋材は、十分に張りを持ちたるみやしわ等がなく、かつ印刷図柄の歪みがなく、また容器は変形することがなく、また蓋材タブは上向きにカールすることがなく、外観に優れた容器包装を得ることができる。」([0016])等記載されているように、「蓋材」として使用するにあたり、「加熱殺菌処理時」に生じるたるみやしわといった課題を解決することを目的とし、収縮率のバランスに優れ、各方向に均等に収縮することができるよう、ボイル処理時の収縮率を特定の範囲としたものである。
この点は、引用文献1に、「各実施例もしくは比較例で得た積層フィルムを蓋材として用いカップシーラーにて密封シールをして、密封包装容器を作製した。」([0029])、「加熱殺菌後の密封包装容器を冷却乾燥した後、蓋材の張りを、しわの状態や弾力性、容器の変形から目視により評価した。」([0030])、「蓋材として用い、カップシーラーにて、シール温度160℃、シール圧力2.5kg/mm2、シール時間2秒の条件で、前記水を充填した丸型ポリプロピレン製容器を密封シールした。」([0034])等の記載があるように、実施例において具体的に製造し、評価したものは、「蓋材」として使用される態様についてのみであることとも符合する。
そして、引用文献1には、引用発明1−1を「冷間成型用」として用いることについての開示も示唆もなく、まして、冷間成型用という用途に適用する際に求められる、全方向への均一な延展性を備えるための構成、すなわち、厚み精度を所定の値以下とする動機づけとなり得る記載ないし示唆を見出すことはできない。
また、引用文献3〜5には、「アルミニウム蓋材」の成形(引用文献3)や「容器」の「冷間成形」(引用文献4及び5)という技術的事項は記載されているものの、たとえ「冷間成型」が成型方法自体として周知であったとしても、「張り」のある「蓋材」として用いる「ナイロンフィルム」である引用発明1−1を「冷間成型用」とするための動機づけたりえないし、これらの周知文献には、全方向への均一な延展性を備えるものとするため、厚み精度を所定の範囲内とする点についての開示も示唆もない。
以上のとおりであるから、引用発明1−1において、上記相違点1−1及び1−2に係る構成を採用することは、当業者が容易に想到できるとはいえない。
そして、本件発明1は、上記相違点に係る構成を備えることにより、「冷間成型にて深絞り成型や張り出し成型加工を行う際に、金属箔が破断し、剥離やピンホールが発生することなく、成形性よく、品位の高い製品を得ることが可能となる」という従来技術からは予測し難い顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、引用発明1−1及び引用文献3〜5に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件発明2〜6について
請求項1を直接又は間接的に引用している本件発明2〜6は、上記(1)〜(3)と同様の理由で、引用発明1−1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)引用発明1−2〜引用発明1−9に基づく場合
引用発明1−2〜引用発明1−9のいずれに基づいても、上記(1)〜(4)と同様である。

2 引用文献2を主引例とした場合
(1)対比
本件発明1と引用発明2−1とを対比する。
ア ポリアミドフィルム
引用発明2−1の「ナイロンフィルム」は、「ナイロン6樹脂(ユニチカ社製、A1030−BRF)を含む樹脂」により形成されたフィルムである。
ここで、「ナイロン6樹脂(ユニチカ社製、A1030−BRF)」は、ポリアミド樹脂であるから、引用発明2−1の「ナイロンフィルム」は、本件発明1の「ポリアミドフィルム」に相当する。

イ 沸水収縮率
引用発明2−1の「沸水収縮率」は、「沸水中で5分間処理し、軽く水分をふき取ってから風乾し、さらに20℃×65%RHの環境で2時間以上放置し、フィルムの横方向(幅方向、以下「TD」と略称することがある)と縦方向(長さ方向、以下「MD」と略称することがある)として、フィルムの横方向を0°とし、時計回りに45°の位置における二つの交点どうしの間の距離L145を、45°における処理後の長さとし、同様に、時計回りに135°の位置における二つの交点どうしの間の距離L1135を、135°における処理後の長さとし」、式「沸水収縮率=(処理前の長さ−処理後の長さ)×100/処理前の長さ(%)」により算出されたものである。
そうすると、本件出願の明細書における沸水収縮率の記載(特に【0038】)に照らすと、引用発明2−1の「沸水収縮率」は、本件発明1の「沸水収縮率」に相当し、「100℃の沸騰水中で5分間処理した際に測定される」値であるという要件を満たす。

また、引用発明2−1における、「フィルムの横方向」、「フィルムの縦方向」、時計回りに「45°の位置」及び「135°の位置」はそれぞれ、その構成からみて、本件発明1の「フィルム製膜時」の「横方向」、「縦方向」、「縦方向に対して時計回りに135度の方向」及び「縦方向に対して時計回りに45度の方向」に相当する。
そして、引用発明2−1の「沸水収縮率」は、「フィルムの横方向を0°とし」、時計回りに「45°の位置の沸水収縮率」と「135°の位置の沸水収縮率」との差が、フィルムの右端部分及び左端部分でそれぞれ、「1.19%」及び「1.24%」となっている。
そうすると、引用発明2−1の「沸水収縮率」は、本件発明1の「沸水収縮率」が「縦方向に対して時計回りに45度方向、および135度の方向において、これらの沸水収縮率の最大値と最小値の差が2.0%未満」であるという要件を満たす。

(2)一致点及び相違点
ア 一致点
本件発明1と引用発明2−1とは、以下の点で一致する。
「100℃の沸騰水中で5分間処理した際に測定される沸水収縮率が、フィルムの製膜時の縦方向に対して時計回りに45度の方向、および135度の方向の方向において、これらの沸水収縮率の最大値と最小値の差が2.0%未満である、ポリアミドフィルム。」

イ 相違点
本件発明1と引用発明2−1とは、以下の点で相違もしくは一応相違する。
(相違点2−1)
本件発明1における「沸水収縮率」が、「縦方向、横方向、縦方向に対して時計回りに45度方向、および135度の方向の4方向において、いずれも5.0%以下であり、これらの沸水収縮率の最大値と最小値の差が2.0%未満」であるのに対し、引用発明2−1の「沸水収縮率」は、フィルムの横方向を0°として、時計回りに「45度の位置」の沸水収縮率と「135度の位置」の沸水収縮率との差しか特定されていない点。

(相違点2−2)
本件発明1が、「厚み精度(%)=〔(フィルムの最大厚み−フィルムの最小厚み)/2/フィルムの平 均厚み〕×100」で求められる「厚み精度が1.5%以下である」のに対し、引用発明2−1は、フィルムの厚み精度が不明である点。

(相違点2−3)
本件発明1が、「冷間成型用」であるのに対し、引用発明2−1は「冷間成型用」であることが特定されていない点。

(3)判断
事案に鑑み、まず、上記相違点2−3について検討する。
引用発明2−1は、引用文献2に、「本発明は蒸着ポリアミド系樹脂フィルムおよびそれを用いたフィルムロールに関し、特にポリオレフィン系樹脂フィルムとラミネートしてレトルト食品等の包装に使用可能な蒸着ポリアミド系樹脂フィルムおよびそれを用いたフィルムロールに関する。」(【0001】)、「フィルムの縦方向/横方向の物性バランスがよく、寸法安定性に優れたフィルムとなる。その結果、印刷製袋時の印刷ズレや製袋品のひねりなどが発生せず、良好な製品が得られる。」(【0028】)、「上記の範囲を外れた場合は、縦方向/横方向の物性バランスが悪く、寸法安定性に劣ったフィルムとなる。このようなフィルムでは印刷製袋時の印刷ズレや製袋品のひねりなどが発生し、製袋加工の不良率が高くなる。」(【0029】)、「本発明の蒸着ポリアミド系樹脂フィルムは、ポリオレフィン系樹脂フィルムと積層されて、蒸着ポリアミド系積層樹脂フィルムを構成することができる。このような積層樹脂フィルムは、ラミネート加工性がよく、かつ、袋加工性が良好である。このような積層樹脂フィルムから得られた袋は、ガスバリア性に優れ、製品強度に異方性が少なく、S字カール現象を示さない。したがって、食品のレトルト加工用途に好適に用いることができる。」(【0070】)と記載されるように、レトルト食品等の包装に使用可能な蒸着ポリアミド系樹脂フィルムに係る発明であって、ポリアミド系樹脂フィルムの表面に金属等を蒸着する際に、ポリアミド系樹脂フィルムの物性が不均一であると、金属蒸着膜の厚みや金属蒸着層との接着強度にバラツキが生じてしまい、ガスバリア性も不均一なものとなってしまうという課題を解決するために、ポリアミド樹脂由来の特定の微結晶構造を発現、制御することにより、種々物性のバランスの取れたポリアミド系樹脂フィルムとしたものである。
そして、本件発明と、引用発明2−1が、その組成がポリアミド系樹脂であるフィルムである点で共通するにしても、ポリアミド系樹脂上に金属蒸着層を有する食品の包装のための製袋加工において望まれる特性・物性と、ポリアミド樹脂フィルルム自体の「冷間成型」において求められる特性・物性は異なることは技術常識であって、引用文献2には、引用発明2−1を「冷間成型用」の用途に適用するための動機付けとなり得る特性・物性、その他の記載ないし示唆を見出すことはできない。また、「冷間成型」に関し、引用文献3〜5には、「アルミニウム蓋材」の成形(引用文献3)や「容器」の「冷間成形」(引用文献4及び5)という技術的事項は記載されているものの、たとえ「冷間成型」が成型方法自体として周知であったとしても、そのことが「製袋品」として用いる「ナイロンフィルム」である引用発明2−1を、「冷間成型用」とする動機とはならない。
以上のとおりであるから、引用発明2−1において、上記相違点2−3に係る構成を採用することは、当業者が容易に想到できるとはいえない。
そして、本件発明1は、上記相違点2−3に係る構成を備えることにより、「冷間成型にて深絞り成型や張り出し成型加工を行う際に、金属箔が破断し、剥離やピンホールが発生することなく、成形性よく、品位の高い製品を得ることが可能となる」という従来技術からは予測し難い顕著な効果を奏するものである。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明2−1及び引用文献3〜5に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件発明2〜6について
請求項1を直接又は間接的に引用している本件発明2〜6は、上記(1)〜(3)と同様の理由で、引用発明2−1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)引用発明2−2〜引用発明2−7に基づく場合
引用発明2−2〜引用発明2−7のいずれに基づいても、上記(1)〜(4)と同様である。


第6 原査定について
上記「第5」のとおりであるから、上記「第2」で述べた原査定の理由によっては、本件出願を拒絶することはできない。


第7 むすび
以上のとおり、本件出願は原査定の理由によって拒絶することはできない。
また、他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2022-07-26 
出願番号 P2016-155164
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B29C)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 松波 由美子
特許庁審判官 加々美 一恵
小濱 健太
発明の名称 ポリアミドフィルムおよびこれを用いた積層体、包装材  
代理人 特許業務法人森本国際特許事務所  

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