• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H02M
管理番号 1387156
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-09-06 
確定日 2022-08-16 
事件の表示 特願2018−565756「熱システムのための電力コンバータ」拒絶査定不服審判事件〔平成29年12月21日国際公開、WO2017/218791、令和 1年 8月29日国内公表、特表2019−524047、請求項の数(21)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2017年(平成29年)6月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2016年6月15日(以下、「優先日」という。) 米国)を国際出願日とする出願であって、令和2年11月26日付けで拒絶理由通知がされ、令和3年2月25日に意見書が提出されると同時に手続補正がされたが、令和3年5月6日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、令和3年9月6日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。


第2 原査定の概要
原査定(令和3年5月6日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

進歩性)この出願の請求項1−21に係る発明は、以下の引用文献1、2に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引 用 文 献 等 一 覧
1.米国特許出願公開第2013/0287377号明細書
2.特開2002−215246号公報

さらに、<付記>として、概ね、以下A,Bの点に関しても拒絶の理由が存在するとしている。

●理由A(特許法第36条第6項第1号)、理由B(特許法第36条第6項第2号)について
請求項1には、「熱を発するように動作可能でありセンサとして動作可能な抵抗発熱体を具備するヒータ」と記載されているが、「抵抗発熱体」が「センサとして動作」した場合にどのような情報を測定するのか、不明である。
また、「抵抗発熱体」が「センサとして動作」した場合に測定された情報が、どのように用いられるのか不明である。(例えば、請求項1に記載される「センサ回路」が測定する「抵抗発熱体の電圧と電流」と、上記「抵抗発熱体」が「センサとして動作」した場合に測定される情報との関係が不明である。)
よって、請求項1に係る発明は明確でない。
さらに、発明の詳細な説明には、抵抗発熱体がセンサとして動作可能であることは、記載も示唆もされていない。
また、請求項19の「前記抵抗発熱体のそれぞれが熱を発するように動作可能でありセンサとして動作可能である」との記載についても、同様の記載不備が存在する。

●理由B(特許法第36条第6項第2号)について
請求項20には、「前記複数の抵抗発熱体の前記抵抗に基づいて前記ヒータの温度を決定し、」と記載されているが、請求項20が引用する請求項19には、「抵抗」は「前記」されていないため、上記「前記抵抗」が何を指しているのか、日本語として不明瞭である。
よって、請求項20に係る発明は明確でない。
また、請求項21に記載される「前記抵抗」についても、同様の記載不備が存在する。


第3 本願発明
本願請求項1ないし21に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明21」という。)は、令和3年9月6日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし21に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
抵抗発熱体を具備するヒータと、
ステップダウン電圧コンバータであり電力スイッチを含み、前記ヒータと電気的に結合されており前記抵抗発熱体に対して調整可能な出力電圧を印加するように動作可能な電力コンバータと、
前記抵抗発熱体の電圧と電流とのうちの少なくとも一方を測定するように構成されるセンサ回路と、
前記電力コンバータおよび前記センサ回路と接続され、入力パラメータと所望の設定値とに基づいて前記抵抗発熱体に印加される前記出力電圧を決定するように構成されるコントローラと、
を具備し、
前記コントローラは、前記抵抗発熱体に前記出力電圧を印加するために前記電力コンバータの前記電力スイッチを動作するように構成され、
前記入力パラメータは、前記電圧と前記電流とのうちの少なくとも一方に基づいて決定される前記抵抗発熱体の温度を含み、
前記所望の設定値は、前記ヒータの動作状態に基づいている、
熱システム。
【請求項2】
前記電力コンバータは、前記電力スイッチを含むバックコンバータを含む、請求項1の熱システム。
【請求項3】
前記コントローラは、マイクロプロセッサを持つ電子機器をさらに含む、請求項1の熱システム。
【請求項4】
前記電力スイッチは、電界効果トランジスタ(FET)である、請求項1の熱システム。
【請求項5】
前記コントローラは、1つまたは複数の制限に基づいて、前記ヒータへの入力電圧をスケールするように構成される、請求項1の熱システム。
【請求項6】
前記1つまたは複数の制限は、電圧、電流、ワット値のうちの少なくとも1つを含む検出されたパラメータ値を含む、請求項5の熱システム。
【請求項7】
前記コントローラは、フルライン電圧よりも小さい値に、前記ヒータへの入力電圧をスケールするように構成される、請求項1の熱システム。
【請求項8】
前記コントローラは、設定された最小値と設定された最大値との間に前記ヒータへの入力電圧をスケールするように構成される、請求項1の熱システム。
【請求項9】
前記コントローラは、制御アルゴリズムに基づいて前記ヒータへの入力電圧をスケールするように構成される、請求項1の熱システム。
【請求項10】
前記コントローラは、前記電圧と前記電流とのうちの少なくとも一方に基づいて前記抵抗発熱体の抵抗を決定し、前記抵抗に基づいて前記入力電圧をスケールするように構成される、請求項9の熱システム。
【請求項11】
前記コントローラは、前記ヒータに印加される電圧の量を制限するために、前記ヒータへの入力電圧をスケールするように構成される、請求項1の熱システム。
【請求項12】
複数の前記ヒータと複数の前記電力コンバータとをさらに具備し、前記複数のヒータのそれぞれは、前記複数の電力コンバータのうちの1つまたは複数の電力コンバータによって制御される、請求項1の熱システム。
【請求項13】
前記コントローラは、前記電圧と前記電流とのうちの少なくとも一方に基づいて前記抵抗発熱体の抵抗を決定し、前記抵抗に基づいて前記ヒータの診断を実行するように構成される、請求項1の熱システム。
【請求項14】
前記コントローラは、前記電力コンバータからの電力が前記ヒータの抵抗の変化に比例するように、前記ヒータの前記抵抗に基づいて前記出力電圧を調整するために前記電力コンバータを動作するように構成される、請求項1の熱システム。
【請求項15】
前記コントローラは、選択されたデューティサイクルで前記電力スイッチを切り替えるように構成され、前記デューティサイクルは、スケーリングファクタに正比例する、請求項1の熱システム。
【請求項16】
前記コントローラは、前記電圧と前記電流とのうちの少なくとも一方に基づいて前記ヒータの温度を決定し、前記ヒータの前記温度に基づく選択されたデューティサイクルで前記電力スイッチを切り替えるように構成される、請求項1の熱システム。
【請求項17】
前記所望の設定値は、前記ヒータに印加させるための所望の電力を含む、請求項1の熱システム。
【請求項18】
前記センサ回路は、前記抵抗発熱体の前記電圧と前記電流とを測定するように構成され、前記コントローラは、前記電圧と前記電流とに基づいて前記ヒータの抵抗を計算し、前記抵抗に基づいて前記ヒータの温度を決定するように構成され、さらに、前記コントローラは、前記ヒータの前記温度に基づいて前記出力電圧を決定するように構成される、請求項1の熱システム。
【請求項19】
複数の抵抗発熱体を持つヒータと、
制御システムと、
を具備し、
前記制御システムは、
複数の電力コンバータと、
複数のセンサ回路と、
前記複数の電力コンバータと前記複数のセンサ回路とに接続されるコントローラと、
を具備し、
前記複数の電力コンバータのそれぞれは、電力スイッチを含むステップダウン電圧コンバータであり、前記複数の電力コンバータのうちの所与の電力コンバータは、前記複数の抵抗発熱体のうちの1つまたは複数の抵抗発熱体と電気的に結合されており、前記所与の電力コンバータは、前記1つまたは複数の抵抗発熱体に対して調整可能な出力電圧を印加するように動作可能であり、
前記複数のセンサ回路のそれぞれは、電流検出抵抗器を含み、前記複数のセンサ回路のうちの所与のセンサ回路は、前記所与の電力コンバータと前記複数の抵抗発熱体のうちの前記1つまたは複数の抵抗発熱体との間に電気的に結合され、前記所与のセンサ回路は、前記複数の抵抗発熱体のうちの前記1つまたは複数の抵抗発熱体の電圧と電流とのうちの少なくとも一方を測定するように構成され、
前記所与の電力コンバータに対して、前記コントローラは、入力パラメータと所望の設定値とに基づいて前記1つまたは複数の抵抗発熱体に印加される前記出力電圧を決定し、前記1つまたは複数の抵抗発熱体に前記出力電圧を印加するために前記所与の電力コンバータの前記電力スイッチを動作するように構成され、前記入力パラメータは、前記所与のセンサ回路によって測定される前記電圧と前記電流とのうちの少なくとも一方に基づいて決定される前記1つまたは複数の抵抗発熱体の温度を含み、前記所望の設定値は、前記ヒータの動作状態に基づいている、
熱システム。
【請求項20】
前記コントローラは、前記複数の抵抗発熱体の抵抗に基づいて前記ヒータの温度を決定し、前記電力スイッチからの漏れ電流を補償するように前記温度を調整するように構成される、請求項19の熱システム。
【請求項21】
前記コントローラは、前記複数の抵抗発熱体の抵抗に基づいて前記ヒータの温度を決定するように構成され、前記コントローラは、前記ヒータの前記温度に基づいて、前記複数の電力コンバータのうちの1つまたは複数の前記電力コンバータの前記出力電圧を制御するように構成される、請求項19の熱システム。」


第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1)本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された米国特許出願公開第2013/0287377号明細書(以下、これを「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審により付与。以下同じ。)

A「[0003] Rapid Thermal Processing (RTP) is a semiconductor manufacturing process for heating silicon wafers at high temperatures, often 1200 degrees Celsius or greater, in a relatively short period of time, for example, in several seconds or less.During cooling in an RTP tool, wafer temperatures must be brought down evenly so as not to subject the wafer to thermal shock. This heating is often achieved using high intensity lamps, or lasers. Controlling the wafer temperature is a key challenge in rapid thermal processing. Often, this is achieved by monitoring the temperature of the wafer and using pyrometry to control, in real-time, the power and intensity of the lamps. An array of pyrometers may be used to measure the temperature of a wafer and based on that temperature, output voltage of a driver for the lamps is determined. Thus, an RTP tool for rapid thermal processing of wafers often comprises an array of lamps for heating a wafer, a chamber containing the wafer, a support for the wafer, and an array of pyrometers for measuring wafer temperature coupled to the wafer or the support for the wafer.」
[当審訳]
「[0003] Rapid Thermal Processing(RTP)は、シリコンウェーハを1200℃以上の高温に、比較的短時間、例えば数秒以下、で加熱する半導体製造プロセスである。RTP装置で冷却する際、ウェーハに熱衝撃を与えないよう、ウェーハの温度を均一に下げる必要がある。この加熱には、高輝度ランプやレーザーを使用することが多い。ウェーハの温度をコントロールすることは、高速熱処理における重要な課題である。多くの場合、ランプのパワーと強度をリアルタイムに制御するために高温測定を用いてウェーハの温度をモニターし実現されます。高温計のアレイを使用してウェーハの温度を測定し、その温度に基づいてランプ用ドライバーの出力電圧を決定することがでる。このように、ウェーハの迅速な熱処理を行うRTPツールは、ウェーハを加熱するランプのアレイ、ウェーハを収容するチャンバ、ウェーハの支持体、及びウェーハまたはウェーハの支持体に結合されたウェーハ温度測定用高温計のアレイからなることが多い。」

B 「[0016] Embodiments of the present invention are directed to methods and apparatus for powering an array of lamps to heat a substrate in various thermal processes, such as rapid thermal processing (RTP), chemical vapor deposition (e.g., epitaxial deposition), or other substrate processes that use lamps for heating. The substrate processing tool used for the thermal processing is powered by an AC power source, which is, in some embodiments, 480V. A rectifier is used to convert the AC power source to a direct current (DC) power source. A DC to DC converter is used to step down the voltage to power an array of lamps and lamp groups.」
[当審訳]
「[0016] 本発明の実施形態は、急速熱処理(RTP)、化学気相成長(例えば、エピタキシャル成長)、または加熱のためにランプを使用する他の基板処理などの様々な熱処理において基板を加熱するためのランプのアレイに電力を供給する方法及び装置に関する。熱処理に使用される基板処理ツールは、いくつかの実施形態では480Vである交流電源によって給電される。整流器は、交流電源を直流電源に変換するために使用される。DC−DCコンバータは、ランプのアレイとランプ群に電力を供給するために電圧を降圧するために使用される。」

C 「[0023] FIG. 3 depicts a circuit diagram of a substrate processing apparatus 300 using a Buck Converter in accordance with embodiments of the present invention. The substrate processing apparatus 300 comprises an AC voltage source 301, a rectifier 302, a controller 303, a Buck converter 306, a capacitor 307 and lamps 312 and 313. The rectifier 302 converts the AC voltage from the AC power source 202 to DC voltage, i.e., it “rectifies” the AC voltage to DC voltage. The rectifier 302 produces a DC signal According to some embodiments, the capacitor 311 acts as a filter capacitor for filtering the rectified voltage from the AC voltage source 301. In this embodiment, the DC to DC converter 208 is a buck converter, which is a step-down DC to DC converter. Buck converters have high efficiency and efficiently convert the 700V DC to 200V DC required by the lamps 210 and 212.
[0024] The Buck converter 306 consists of a switch 308, an inductor 310, a diode 309, and a capacitor 311. The controller 303 receives a set point signal 304 which the controller 303 compares with an actual output voltage 305 to form the control signal to the Buck converter 306. By changing the ratio between Ton and Toff time according to the timing diagram 314, the controller 303 controls the output voltage on the output of the Buck converter 306. When the switch 308 is closed (on state), the voltage across the inductor 310 is equal to the difference between the voltage from 301 and the voltage across lams 312 and 313. The current through the inductor 310 rises linearly. As the diode 309 is reverse-biased by the voltage source 301, no current flows through it. When the switch 308 is opened (off state), the diode 309 is forward biased. The voltage across the inductor is equal to the negative of the voltage across the lamps 312 and 313 (neglecting diode drop). The current across the inductor 310 decreases.」
[当審訳]
「[0023] 図3は、本発明の実施形態に係るバックコンバータを使用した基板処理装置300の回路図を示す。基板処理装置300は、交流電源301、整流器302、制御部303、バックコンバータ306、コンデンサ307、ランプ312、313を含む。整流器302は、交流電源202からの交流電圧を直流電圧に変換し、すなわち、交流電圧を直流電圧に「整流」する。いくつかの実施形態によれば、整流器302は、直流信号を生成し、コンデンサ311は、交流電源301からの整流された電圧をフィルタリングするためのフィルタコンデンサとして機能する。この実施形態では、DC−DCコンバータ208は、ステップダウンDC−DCコンバータであるバックコンバータである。バックコンバータは、高効率であって、700Vの直流をランプ210及び212に必要とされる200Vの直流に高効率に変換する。
[0024] バックコンバータ306は、スイッチ308、インダクタ310、ダイオード309、及びコンデンサ311から構成される。制御部303は、バックコンバータ306への制御信号を形成するために制御部303が実際の出力電圧305と比較する設定値信号304を受信する。タイミング図314によるTonとToffの時間の比を変化させることによって、制御部303は、バックコンバータ306の出力における出力電圧を制御する。スイッチ308が閉じている(オン状態)とき、インダクタ310の両端の電圧は、電圧301と、ランプ312とランプ313の両端間の電圧差に等しい。インダクタ310を通る電流は直線的に上昇する。ダイオード309は電圧源301によって逆バイアスされ、電流は流れない。スイッチ308が開いている場合(オフ状態)、ダイオード309は順方向にバイアスされる。インダクタの両端間の電圧は、ランプ312及び313の両端間の電圧の負の値に等しい(ダイオードでの降下は無視した)。インダクタ312を流れる電流は減少する。」

D 「【図2】



E 「【図3】



F 上記Cの段落[0023]には図3の実施形態として、“交流電源301、整流器302、制御部303、バックコンバータ306、コンデンサ307、ランプ312、313を含む基板処理装置300”が記載されている。

G 上記Cの段落[0023]には図3の実施形態に関して「整流器302は、交流電源202からの交流電圧を直流電圧に変換」すると記載されている。
ここで、この記載における「交流電源202」は、上記Dの図2の実施例における交流電源であって、図3の実施形態における交流電源は、図3(上記E)、及び上記Fの点を踏まえると、「交流電源301」であるから、この段落[0023]における「交流電源202」は、「交流電源301」の誤記と認められる。
してみると、引用文献1には、“整流器302は、交流電源301からの交流電圧を直流電圧に変換”することが記載されているといえる。

H 上記Cの段落[0023]には図3の実施形態に関して、「この実施形態では、DC−DCコンバータ208は、ステップダウンDC−DCコンバータであるバックコンバータである」と記載されており、“バックコンバータ306は、ステップダウンDC−DCコンバータである”ことが記載されているといえる。
また、上記Cの段落[0024]には、「バックコンバータ306は、スイッチ308、インダクタ310、ダイオード309、及びコンデンサ311から構成される」ことが記載されている。
さらに、図3(上記E)によれば、“バックコンバータ306は、入力側に整流器302が接続され、出力側にランプ312、313が接続されて”いることが看取できる。
してみると、引用文献1には、“バックコンバータ306は、ステップダウンDC−DCコンバータであって、スイッチ308、インダクタ310、ダイオード309、及びコンデンサ311から構成され、また、入力側に整流器302が接続され、出力側にランプ312、313が接続されて”いることが記載されているといえる。

I 上記Bには引用文献1に記載される各実施形態に関して、「本発明の実施形態は、急速熱処理(RTP)、化学気相成長(例えば、エピタキシャル成長)、または加熱のためにランプを使用する他の基板処理などの様々な熱処理において基板を加熱するためのランプのアレイに電力を供給する方法及び装置に関する」と記載されており、図3の実施形態に関しても、“ランプ312、313は、様々な熱処理において基板を加熱するためのものであ”ることが記載されているといえる。

J 上記Cの段落[0024]には、「制御部303は、バックコンバータ306への制御信号を形成するために制御部303が実際の出力電圧305と比較する設定値信号304を受信する。タイミング図314によるTonとToffの時間の比を変化させることによって、制御部303は、バックコンバータ306の出力における出力電圧を制御する」ことが記載され、また、図3(上記D)によれば、“タイミング図314は、スイッチ308の制御における、オン時間であるTonとオフ時間であるToffの関係を示した図である”ことが看取できる。
さらに、図3(上記E)によれば、“制御部303は、バックコンバータ306のスイッチ308に接続され、また、バックコンバータ306から出力電圧305がフィードバックされ”ることが看取できる。
してみると、引用文献1には、“制御部303は、バックコンバータ306のスイッチ308に接続され、また、バックコンバータ306から出力電圧305がフィードバックされ、さらに、バックコンバータ306への制御信号を形成するためにフィードバックされた実際の出力電圧305と比較する設定値信号304を受信し、スイッチ308のオン時間であるTonとオフ時間であるToffの時間の比を変化させることによって、バックコンバータ306の出力における出力電圧を制御するものである”ことが記載されているといえる。

(2)特に図3の実施形態のものに着目し、上記AないしJの記載内容(特に、下線部を参照)によると、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「交流電源301、整流器302、制御部303、バックコンバータ306、コンデンサ307、ランプ312、313を含む基板処理装置300であって、
整流器302は、交流電源301からの交流電圧を直流電圧に変換し、
バックコンバータ306は、ステップダウンDC−DCコンバータであって、スイッチ308、インダクタ310、ダイオード309、及びコンデンサ311から構成され、また、入力側に整流器302が接続され、出力側にランプ312、313が接続されており、
ランプ312、313は、様々な熱処理において基板を加熱するためのものであって、
制御部303は、バックコンバータ306のスイッチ308に接続され、また、バックコンバータ306から出力電圧305がフィードバックされ、さらに、バックコンバータ306への制御信号を形成するためにフィードバックされた実際の出力電圧305と比較する設定値信号304を受信し、スイッチ308のオン時間であるTonとオフ時間であるToffの時間の比を変化させることによって、バックコンバータ306の出力における出力電圧を制御するものである、
基板処理装置300。」

2 引用文献2について
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された特開2002−215246号公報(以下、これを「引用文献2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

A 「【0023】
【発明の実施の形態】図1は、本発明の一実施形態に係る自動車等の車両に搭載されたヒータの温度制御方法が適用される温度制御装置の回路構成図である。この図において、温度制御装置10は、一端がバッテリの+B端子に接続されたヒータ12と、ヒータ12の他端と接地間に接続された半導体スイッチ素子であるエンハンスメント型のNチャネルMOSFET14と、ヒータ12に印加された電圧値を計測する電圧計測部16と、電圧計測部16で計測された電圧値をアナログ値からデジタル値に変換するA/D変換部18と、ヒータ12に流れる電流値を計測する電流計測部20と、電流計測部20で計測された電流値をアナログ値からデジタル値に変換するA/D変換部22と、電圧計測部16及び電流計測部20で計測された電圧値及び電流値に基づいてMOSFET14に供給される制御信号を制御する制御部24とを備えている。なお、MOSFET14及び制御部24によりヒータ12に供給される電力を調節する電力調節部(電力調節手段)を構成する。
【0024】ヒータ12は、リアウィンドガラスの略全域に抵抗線を張り巡らしてなるデフォッガを構成するものである。なお、抵抗線として、合わせガラスの中間部にタングステン等の抵抗線材を埋め込んだものや、ガラス面に電導性金属粉を主体とするペーストを細線状に塗布して焼き付けてなるもの等を用いることができる。

・・・中略・・・

【0035】ヒータ抵抗導出部242は、ヒータ12の両端に印加される電圧値とヒータ12に流れる電流値とからヒータ12の温度に関するパラメータ値であるヒータ12の抵抗値を算出するものである。すなわち、ヒータ12の抵抗値をR、ヒータ12両端の電圧値をV、ヒータ12に流れる電流値をIとすると、R=V/Iの式からヒータ12の抵抗値を算出するものである。なお、この算出式はマイコンのROM(記憶手段)に予め記憶されている。
【0036】デューティ比調節部243は、パルス発生器241から出力される制御信号のデューティ比(パルス幅)を変更することにより、ヒータ12の抵抗値に応じてヒータ12に供給される電力(すなわち、ヒータ12に流れる電流)を調節することでヒータ12が所定の温度になるようにするものである。すなわち、ヒータ12が正の抵抗温度特性(抵抗温度係数)を有している場合、その抵抗値が低いときはリアウィンドガラスが凍結していてヒータ12の温度が低いときで解露や解氷等に時間がかかる場合であるため、デューティ比を大きくしてMOSFET14の導通時間を長くすることで供給する電力を大きくし、ヒータ12の温度を速やかに上昇させて短時間で解露や解氷等が行われるようにする。
【0037】また、ヒータ12が正の抵抗温度特性を有している場合、その抵抗値が高いときはヒータ12の温度が高いときで解露や解氷等にあまり時間がかからない場合であり、しかも供給する電力を大きくするとヒータ12が過熱して焼損する虞がある場合であるため、デューティ比を小さくしてMOSFET14の導通時間を短くすることで供給する電力を小さくし、ヒータ12が過熱により焼損しないようにする。」

B 「【0049】(2)上記実施形態では、ヒータ12の抵抗値に応じてヒータ12に供給される電力を調節するようにしているが、これに限るものではない。例えば、ヒータ12の抵抗値からヒータ12の温度に換算し、この換算した温度に応じてヒータ12に供給される電力を調節するようにすることもできる。この場合、ヒータ抵抗導出部242をヒータ温度導出部とし、次のようにしてヒータ12の温度を求めることができる。
【0050】すなわち、抵抗線からなるヒータ12は所定の抵抗温度特性(一般的には正の抵抗温度特性)を有しているため、予めヒータ12の抵抗値と温度との対応関係を確認して抵抗値から温度を算出する算出式を求めておき、この算出式に基づいてヒータ12の温度を導出するようにすればよい。また、ヒータ12の抵抗値と温度との対応関係をテーブル形式でROM(記憶手段)に記憶させておき、ヒータ12の抵抗値から対応する温度を読み出すようにすることもできる。」

C 「【図1】




第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「ランプ312」及び「ランプ313」は、「様々な熱処理において基板を加熱するためのもの」であり、ヒータといえ、そして、抵抗発熱体を具備していることは明らかであるから、本願発明1の「抵抗発熱体を具備するヒータ」に相当する。

イ 引用発明の「バックコンバータ306」は、「ステップダウンDC−DCコンバータであって」、「スイッチ308」を含むものである。
また、引用発明の「バックコンバータ306」は、「出力側」に「ランプ312、313」が接続され、さらに、「出力電圧」は「制御部303」によって「制御」されるものであるから、引用発明の「バックコンバータ306」は、「ランプ312、313」に対して調整可能な出力電圧を印加するように動作可能といえる。
してみると、引用発明の「スイッチ308」は、本願発明1の「電力スイッチ」に相当し、そして、引用発明の「バックコンバータ306」は、本願発明1の「ステップダウン電圧コンバータであり電力スイッチを含み、前記ヒータと電気的に結合されており前記抵抗発熱体に対して調整可能な出力電圧を印加するように動作可能な電力コンバータ」に相当する。

ウ 引用発明は、「制御部303」に「実際の出力電圧305」を「フィードバック」し「設定値信号304」と比較するものであって、「実際の出力電圧305」の値がフィードバックされているものと認められることから、引用発明においては、「制御部303」に接続される何らかの回路で「実際の出力電圧305」の値の測定を行っているものと認められる。また、引用発明の「実際の出力電圧305」は、「ランプ312、313」に出力されるものであり、「ランプ312、313」の電圧といえる。
したがって、引用発明は、本願発明1の「前記抵抗発熱体の電圧を測定するように構成されるセンサ回路」に相当する構成を具備しているものと認められる。

エ 引用発明の「制御部303」は、「バックコンバータ306への制御信号を形成するためにフィードバックされた実際の出力電圧305と比較する設定値信号304を受信し、スイッチ308のオン時間であるTonとオフ時間であるToffの時間の比を変化させることによって、バックコンバータ306の出力における出力電圧305を制御するものであ」って、「出力電圧305」と「設定値信号304」とに基づいて「ランプ312、313」に印加される「出力電圧305」を決定しているといえる。
また、引用発明の「制御部303」は、「バックコンバータ306のスイッチ308に接続され、また、バックコンバータ306から出力電圧305がフィードバックされ」るものであって、上記ウの検討も踏まえると、引用発明の「制御部303」は、「バックコンバータ306」および「実際の出力電圧305」の測定を行っている回路に接続されているものと認められる。
してみると、引用発明の「出力電圧305」、「設定値信号304」は、各々、本願発明1の「入力パラメータ」、「所望の設定値」に相当し、そして、引用発明の「制御部303」は、本願発明1の「前記電力コンバータおよび前記センサ回路と接続され、入力パラメータと所望の設定値とに基づいて前記抵抗発熱体に印加される前記出力電圧を決定するように構成されるコントローラ」に相当する。

オ そして、引用発明の「制御部303は」「スイッチ308のオン時間であるTonとオフ時間であるToffの時間の比を変化させることによって、バックコンバータ306の出力における出力電圧305を制御するものである」ことは、本願発明1の「前記コントローラは、前記抵抗発熱体に前記出力電圧を印加するために前記電力コンバータの前記電力スイッチを動作するように構成され」ることに相当する。

カ 引用発明の「基板処理装置300」は、「基板を加熱する」「ランプ312、313」、「バックコンバータ306」、「制御部303」を具備するものであるから、引用発明の「基板処理装置300」は、本願発明1と同様に、「熱システム」であるといえる。

したがって,本願発明1と引用発明との間には,以下の一致点と相違点とがある。

〈一致点〉
「抵抗発熱体を具備するヒータと、
ステップダウン電圧コンバータであり電力スイッチを含み、前記ヒータと電気的に結合されており前記抵抗発熱体に対して調整可能な出力電圧を印加するように動作可能な電力コンバータと、
前記抵抗発熱体の電圧を測定するように構成されるセンサ回路と、
前記電力コンバータおよび前記センサ回路と接続され、入力パラメータと所望の設定値とに基づいて前記抵抗発熱体に印加される前記出力電圧を決定するように構成されるコントローラと、
を具備し、
前記コントローラは、前記抵抗発熱体に前記出力電圧を印加するために前記電力コンバータの前記電力スイッチを動作するように構成されている、
熱システム。」

〈相違点1〉
本願発明1では、「前記入力パラメータは、前記電圧と前記電流とのうちの少なくとも一方に基づいて決定される前記抵抗発熱体の温度を含」むものであるのに対して、引用発明では、「出力電圧305」である点。

〈相違点2〉
本願発明1では、「前記所望の設定値は、前記ヒータの動作状態に基づいている」のに対して、引用発明では、「設定値信号304」にその旨の特定がされていない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み、上記相違点1について先に検討する。
引用文献2には、解露や解氷のためにガラスに埋め込まれるヒータを所定の温度にする制御に関して、電流計測部と電圧計測部を設け、両計測部で計測される電流値と電圧値から抵抗値を求め、さらに、抵抗値を温度に換算し、温度が低いときにはヒータに電力を多く供給することで短時間での解露や解氷を行い、また、温度が高い時にはヒータに電力を少なく供給することでヒータの焼損等を防止する技術が記載(以下、「引用文献2に記載された技術」という。)されている。
ここで、引用文献1の段落[0003]に「Rapid Thermal Processing(RTP)は、シリコンウェーハを1200℃以上の高温に、比較的短時間、例えば数秒以下、で加熱する半導体製造プロセスである。RTP装置で冷却する際、ウェーハに熱衝撃を与えないよう、ウェーハの温度を均一に下げる必要がある。この加熱には、高輝度ランプやレーザーを使用することが多い。ウェーハの温度をコントロールすることは、高速熱処理における重要な課題である。」(下線は、当審により付与した。)と記載されるように、引用発明は、1200℃以上の高温になっているウェーハに熱衝撃を与えないように、ウェーハの温度を均一に下げるように温度をコントロールすることを課題とするものである。
しかしながら、引用文献2に記載された技術は、温度が高い時には、単に、ヒータに電力を少なく供給することでヒータの焼損等を防止するものであって、温度制御の対象物に熱衝撃を与えないように温度を均一に下げるようにするためのものではない。さらに、引用文献2のヒータは解露や解氷のためにガラスに埋め込まれるヒータであって、制御を行う温度の範囲も、引用発明のものとは大きく異なっていることから、引用発明に引用文献2に記載された技術を適用する理由が存在しない。
さらに、上記相違点1に係る構成が、本願の優先日前において周知であったともいえない。
したがって、上記相違点1に係る構成が、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づき当業者が容易に構成し得たものであるとはいえない。
以上のとおりであるから、相違点2について判断するまでもなく、本願発明1が引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 本願発明2ないし18について
本願発明2ないし18は、本願発明1を更に限定したものであるので、本願発明1と同様に、当業者であっても引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3 本願発明19について
本願発明19は、概ね、本願発明1の「抵抗発熱体」、「電力コンバータ」、「センサ回路」が複数であるとし、さらに、「センサ回路」が「電流検出抵抗器」を含む、として更に限定したものであって、相違点1に係る発明特定事項に対応する「前記入力パラメータは、前記所与のセンサ回路によって測定される前記電圧と前記電流とのうちの少なくとも一方に基づいて決定される前記1つまたは複数の抵抗発熱体の温度を含み」を備えるものであるから、本願発明1と同様に、当業者であっても引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

4 本願発明20、21について
本願発明20、21は、本願発明19を更に限定したものであるので、本願発明19と同様に、当業者であっても引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


第6 原査定について
<特許法29条2項について>
審判請求時の補正により、本願発明1ないし21は上記第3に示したとおりのものとなっており、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用発明(上記第4の引用文献1に記載された発明)及び引用文献2に記載された技術に基づいて、容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。

なお、原査定において<付記>された拒絶の理由に関しても、審判請求時の補正により、請求項1の「熱を発するように動作可能でありセンサとして動作可能な抵抗発熱体を具備するヒータ」は、「抵抗発熱体を具備するヒータ」と、請求項19の「複数の抵抗発熱体を持ち、前記抵抗発熱体のそれぞれが熱を発するように動作可能でありセンサとして動作可能である、ヒータ」は、「複数の抵抗発熱体を持つヒータ」と補正され、さらに、請求項20の「前記複数の抵抗発熱体の前記抵抗」は、「前記複数の抵抗発熱体の抵抗」と、請求項21の「前記抵抗」は、「前記複数の抵抗発熱体の抵抗」と補正され、明確、または、発明の詳細な説明に記載されたものとなった。


第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2022-08-03 
出願番号 P2018-565756
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H02M)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 林 毅
特許庁審判官 山澤 宏
篠原 功一
発明の名称 熱システムのための電力コンバータ  
代理人 特許業務法人スズエ国際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ