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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09D
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09D
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09D
管理番号 1387475
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-08-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-04-30 
確定日 2022-06-10 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6780915号発明「溶剤系インクジェットインク組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6780915号の明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 特許第6780915号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6780915号の請求項1〜7に係る特許についての出願は、平成27年3月10日になされたものであって、令和2年10月19日にその特許権の設定登録がなされ、同年11月4日にその特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その請求項1〜7に係る発明の特許に対し、令和3年4月30日に特許異議申立人加藤浩志(以下、「特許異議申立人」ともいう。)は、特許異議の申立てを行った。
その後、その特許についての異議申立ての経緯は、以下のとおりである。

令和3年9月1付け 取消理由通知
同年11月5日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
同年11月17日付け 手続補正指令書
同年12月10日 手続補正書の提出(特許権者)
同年12月16日付け 訂正請求があった旨の通知
令和4年2月3日付け 意見書の提出(特許異議申立人)

第2 訂正の適否についての判断
1 請求の趣旨及び内容について
令和3年11月5日に提出され、同年12月10日に手続補正された訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の請求の趣旨は、「特許第6780915号の明細書を、本訂正請求書に添付した訂正明細書のとおり、訂正することを求める。」というものであり、その内容は、明細書の訂正に係る以下の訂正事項からなるものである。

訂正事項1
本件訂正前の明細書の段落【0040】に
「引火点が70℃以下である化合物b1としては、特に限定されないが、例えば、グリコールジエチルエーテル(35℃)、エチレングリコールジメチルエーテル(−6℃)、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル(63℃)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(56℃)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(56℃)、プロピレングリコールジメチルエーテル(6.5℃)が挙げられる(カッコ内は引火点)。」
と記載されているのを、
「引火点が70℃以下である化合物b1としては、特に限定されないが、例えば、グリコールジエチルエーテル(35℃)、エチレングリコールジメチルエーテル(−6℃)、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル(63℃)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(56℃)、プロピレングリコールジメチルエーテル(6.5℃)が挙げられる(カッコ内は引火点)。」
に訂正する。

訂正事項2
本件訂正前の明細書の段落【0044】に
「引火点が70℃超過である化合物b2としては、特に限定されないが、例えば、ジエチレングリコールジエチルエーテル(70.8℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(78℃)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(79℃)、エチレングリコールジブチルエーテル(85℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(86℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(93℃)、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル(94℃)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(111℃)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(118℃)、トリエチレングリコールモノエチルエーテル(135℃)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(138℃)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(141℃)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(143℃)、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル(161℃)、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル(177℃)が挙げられる(カッコ内は引火点)。」
と記載されているのを、
「引火点が70℃超過である化合物b2としては、特に限定されないが、例えば、ジエチレングリコールジエチルエーテル(70.8℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(78℃)、エチレングリコールジブチルエーテル(85℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(86℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(93℃)、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル(94℃)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(111℃)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(118℃)、トリエチレングリコールモノエチルエーテル(135℃)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(138℃)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(141℃)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(143℃)、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル(161℃)、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル(177℃)が挙げられる(カッコ内は引火点)。」
に訂正する。

2 訂正の適否
(1) 一群の請求項について
上記1のとおり、訂正事項1、2はいずれも、明細書の訂正に係るものであるが、本件請求項1に記載の「溶剤b」に関するものである。また、本件特許の請求項2〜7は、いずれも請求項1を直接または間接的に引用するものである。
したがって、本件訂正請求は、本件特許の請求項1〜7の一群の請求項に対してされたものといえるから、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合する。

(2) 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
ア 訂正事項1について
(ア) 訂正事項1の概要
訂正事項1は、要するに、本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」ともいう。)の発明の詳細な説明の段落【0040】に「引火点が70℃以下である化合物b1」の具体例が複数記載されている中から「ジエチレングリコールジメチルエーテル(56℃)」を削除する訂正である。
(イ) 本件特許明細書の記載
本件特許明細書には、「引火点が70℃以下である化合物b1」について、以下の記載がある。なお、下線は、当審による。
「【0026】
〔溶剤a〕
溶剤aは、環状エステルである。環状エステルとしては、特に限定されないが、例えば、エステル結合による環状構造を持つ化合物であり、5員環構造のγ−ラクトンや6員環構造のδ−ラクトン、7員環構造のε−ラクトン等が挙げられる。具体的には、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−ヘキサラクトン、γ−ヘプタラクトン、γ−オクタラクトン、γ−ノナラクトン、γ−デカラクトン、γ−ウンデカラクトン、δ−バレロラクトン、δ−ヘキサラクトン、δ−ヘプタラクトン、δ−オクタラクトン、δ−ノナラクトン、δ−デカラクトン、δ−ウンデカラクトン、ε−カプロラクタムが挙げられる。このなかでも、5員環構造のラクトンが好ましく、γ−ブチロラクトンがより好ましい。」
「【0028】
〔溶剤b〕
溶剤bは、溶剤aよりもポリ塩化ビニルの溶解力が低い溶剤である。本実施形態において、「ポリ塩化ビニルの溶解力」とは、下記PVC溶解性試験で定義される。
【0029】
(PVC溶解性試験)
ポリ塩化ビニル(PVCストレートポリマーTK?800、信越化学工業社製)0.5gと、溶剤50gとを、ガラス瓶内で混合し、25℃で5分間撹拌する。その後、静置し、静置してから25秒時点の、ガラス瓶底からの溶剤液面高さXと、膨潤又は溶解したポリ塩化ビニル粉末が分布するガラス瓶底からの高さYを測定する。得られたX及びYにより、比Y/Xを求め、これをポリ塩化ビニルの溶解力の指標とする。」
「【0032】
以上の方法で、環状エステルであるγ−ブチロラクトンを試験すると、Y/X=0.8となる。γ−ブチロラクトンのPVC溶解性指標を0.7≦Y/X≦0.9の値域とした場合、各種溶剤類の溶解性は以下のようになる。
・・・
【0034】
Y/Xが0.7以上0.9以下であり、γ−ブチロラクトンとポリ塩化ビニルの溶解力が同等である溶剤:ジエチレングリコールモノメチルエーテル、コハク酸ジメチル、コハク酸ジエチル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル」
「【0036】
このように、本実施形態では、溶剤aのY/Xを測定し、Y/X+0.1超過である溶剤を、溶剤aよりもポリ塩化ビニルの溶解力が高い溶剤dとし、Y/X−0.1〜/X+0.1の値域における溶剤を、溶剤aとポリ塩化ビニルの溶解力が同等である溶剤cとし、Y/X−0.1未満である溶剤を、溶剤aよりもポリ塩化ビニルの溶解力が低い溶剤bとする。なお、上記のYの測定が困難な溶剤も、溶剤aよりもポリ塩化ビニルの溶解力が高い溶剤dとする。さらに、溶剤aを2種以上使用する場合には、各々の溶剤aについてY/Xを測定し、測定されたY/Xと各溶剤aの含有量の平均値を溶解力とする。例えば、Y/XがAである溶剤a1と、Y/XがBである溶剤a2を用いる場合には、溶剤aの溶解力は下記式で求めることができる。
溶解力=(A×溶剤a1の含有量+B×溶剤a2の含有量)/(溶剤a1の含有量+溶剤a2の含有量)
・・・
【0040】
また、溶剤bとしては、引火点が70℃以下である化合物b1を用いることが好ましい。引火点が70℃以下である化合物b1としては、特に限定されないが、例えば、・・・ジエチレングリコールジメチルエーテル(56℃)」
「【実施例】
【0074】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0075】
[インク組成物用の材料]
下記の実施例及び比較例において使用したインク組成物用の主な材料は、以下の通りである。
〔顔料〕
JR−806(酸化チタン、テイカ社製)
JR−301(酸化チタン、テイカ社製)
〔分散剤〕
ソルスパース3000(ポリエステルポリアミド樹脂、ルーブリゾール社製)
〔溶剤a〕
GBL(γ−ブチロラクトン)
〔溶剤b〕
DEGMEE(ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、引火点64℃)
DEGBME(ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、引火点94℃)
DEGdEE(ジエチレングリコールジエチルエーテル、引火点70.8℃)
TetraEGmBE(テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、引火点177℃)
〔溶剤c〕
DPGmME(ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、引火点79℃)
DEGdME(ジエチレングリコールジメチルエーテル、引火点57℃)
〔溶剤d〕
エクアミドM100(アミド系溶剤、出光興産社製)
〔界面活性剤〕
BYK340(シリコーン系界面活性剤、ビックケミージャパン社製)
〔樹脂〕
G−1000P(メタクリル樹脂「パラペット」、株式会社クラレ社製)」
「【0077】
(PVC溶解性試験)
ポリ塩化ビニル(PVCストレートポリマーTK−800、信越化学工業社製)0.5gと、溶剤50gとを、ガラス瓶内で混合し、25℃で5分間撹拌した。その後、静置し、静置してから25秒時点の、ガラス瓶底からの溶剤液面高さXと、膨潤又は溶解したポリ塩化ビニル粉末が分布するガラス瓶底からの高さYを測定した。得られたX及びYにより、比Y/Xを求め、これを各溶剤のポリ塩化ビニルの溶解力の指標とした。なお、本願実施例のγ−ブチロラクトンのY/Xは、0.8であったため、各溶剤は以下のように定義した。
溶剤b: Y/X<0.7
溶剤c:0.7≦Y/X≦0.9
溶剤d:0.9<Y/X
【0078】
【表1】





(ウ) 検討
本件特許の特許請求の範囲の請求項1には、「ポリ塩化ビニル粉末0.5gと、溶剤50gとを、ガラス瓶内で混合し、25℃で5分間撹拌し、静置し、静置してから25秒時点の、前記ガラス瓶底からの溶剤液面高さXと、膨潤又は溶解した前記ポリ塩化ビニル粉末が分布する前記ガラス瓶底からの高さYを測定して求められる比Y/Xを指標とするポリ塩化ビニルの溶解力について、
所定の溶剤の比Y/Xを基準に、ポリ塩化ビニルの溶解力が比Y/X−0.1未満である溶剤を前記所定の溶剤よりもポリ塩化ビニルの溶解力が低い溶剤とし、
所定の溶剤の比Y/Xを基準に、ポリ塩化ビニルの溶解力がY/X−0.1〜Y/X+0.1である溶剤を前記所定の溶剤とポリ塩化ビニルの溶解力が同等である溶剤とするときに、
白色顔料10〜25質量%と、γ−ブチロラクトンと、前記γ−ブチロラクトンよりもポリ塩化ビニルの溶解力が低い溶剤bと、を含有し、
前記γ−ブチロラクトンの含有量が、1.0〜7.0質量%であり、
前記溶剤bの含有量が、前記γ−ブチロラクトンの含有量1質量部に対して、10質量部以上であり、
前記溶剤bが、引火点が70℃以下である化合物b1と、引火点が70℃超過である化合物b2とを含み、
前記γ−ブチロラクトンとポリ塩化ビニルの溶解力が同等である溶剤cと、をさらに含む、
溶剤系インクジェットインク組成物。」と記載されている。

以上によれば、溶剤b1、及び、溶剤b2は、いずれも、γ−ブチロラクトンよりもポリ塩化ビニルの溶解力が低い溶剤であり、また、溶剤cは、γ−ブチロラクトンとポリ塩化ビニルの溶解力が同等である溶剤であるから、その具体的な化合物が重複している(例えば、ある化合物が溶剤b1であり、かつ、溶剤cでもある)ということはありえないと理解することが合理的である。

次に、上記(イ)のとおり、本件特許明細書には、「ポリ塩化ビニルの溶解力」とは、段落【0029】に記載のPVC溶解性試験で定義されるものであり、当該試験で求めた比Y/Xをポリ塩化ビニルの溶解力の指標とするものであること(段落【0028】、【0029】)、及び、溶剤aのY/Xを測定し、Y/X−0.1〜Y/X+0.1の値域における溶剤を、溶剤aとポリ塩化ビニルの溶解力が同等である溶剤cとし、Y/X−0.1未満である溶剤を、溶剤aよりもポリ塩化ビニルの溶解力が低い溶剤bとすること(段落【0036】)、及び、溶剤aの具体例として、γ−ブチロラクトンを含む複数の環状エステル(段落【0026】)、が記載されている。
これらの記載も、溶剤aに対して溶剤bであり、かつ、溶剤cでもあるような溶剤は、存在し得ないと理解することが合理的であり、かつ、この理解は、上記請求項1の記載に基づく理解とも整合するものであるが、本件特許明細書には、溶剤aの具体例がγ−ブチロラクトン以外にも複数記載されている。
そこで、事案に鑑み、溶剤aがγ−ブチロラクトンである場合(請求項1)とそうではない場合とに関する本件特許明細書の記載についてさらに検討する。
Y/Xの値(ポリ塩化ビニルの溶解力)は、溶剤ごとに異なっていると解することが合理的であるから、γ−ブチロラクトン以外の溶剤を溶剤aとして選択すると、そのY/Xの値がγ−ブチロラクトン(0.8。段落【0032】の記載を参照。)とは異なることに応じて、当該溶剤に対応する溶剤c(溶剤b等についても同様)の値域がγ−ブチロラクトンの場合(0.7〜0.9)とは異なるものになり、当該値域に含まれる溶剤の種類も異なるものとなるといえる。
したがって、γ−ブチロラクトンに対しては溶剤cに該当する溶剤が、別の溶剤(溶剤a)に対しては溶剤cに該当しない(例えば、溶剤bに該当する)という場合が存在すると理解できる。

次に、本件特許明細書には、γ−ブチロラクトンのPVC溶解性指標が、Y/X=0.8であること(段落【0032】)、及び、Y/Xが0.7以上0.9以下であり、γ−ブチロラクトンとポリ塩化ビニルの溶解力が同等である溶剤の具体例としてジエチレングリコールジメチルエーテル(段落【0034】)が記載されている。そして、これらの記載は、ジエチレングリコールジメチルエーテルのY/Xの値が明記されていないもののその値が0.7以上0.9以下であり、溶剤aとして、γ−ブチロラクトン(Y/X=0.8)を選択した場合には、ジエチレングリコールジメチルエーテルが溶剤cに該当する溶剤であることを説明しているものであると理解できる。
また、本件特許明細書には、実施例(段落【0078】の【表1】)において、γ−ブチロラクトンを溶剤aとして用いたこと、及び、ジエチレングリコールジメチルエーテルを溶剤cとして用いたことも記載されており、この記載も、溶剤aがγ−ブチロラクトンである場合には、ジエチレングリコールジメチルエーテルが溶剤cに該当することを意味するものであると理解できる。

一方、本件特許明細書には、溶剤bのうち、引火点が70℃以下である化合物を、化合物b1ということ、及び、化合物b1の具体例としてジエチレングリコールジメチルエーテル(56℃)(段落【0040】)が記載されており、この記載は、ジエチレングリコールジメチルエーテルが溶剤bに該当することを意味するものであるから、一見、特許請求の範囲の記載に基づく理解と整合していない。
しかしながら、この記載には、溶剤aに関する記載が含まれていないから、この記載は、溶剤aを特に限定することなく、溶剤bに関して一般的な説明をしているものであると認められる。また、上述のとおり、γ−ブチロラクトンに対しては溶剤cに該当する溶剤が、別の溶剤に対しては溶剤cに該当しないという場合が存在するから、溶剤aがγ−ブチロラクトンでない場合には、ジエチレングリコールジメチルエーテルが溶剤cではなく溶剤bに該当する場合があり得る。
結局、段落【0040】にジエチレングリコールジメチルエーテルが溶剤cではなく溶剤bに該当する旨の記載がされていても、そのことが直ちに、特許請求の範囲の記載に基づく理解と矛盾するものではないが、実施例において溶剤cとして使用しているジエチレングリコールジメチルエーテルが溶剤cではなく溶剤bに該当する旨の記載が本件特許明細書に存在することは、溶剤bでありかつ溶剤cでもある溶剤が存在するかのような誤解を生じ、特許請求の範囲の記載を不明確にするものであるといえる。

したがって、訂正事項1による訂正は、当該記載がある場合には、溶剤bでありかつ溶剤cでもある溶剤が存在するかのような誤解を生じ、もって特許請求の範囲の記載を不明確にする記載を削除するものであるといえることから、明瞭でない記載を釈明することを目的とするものであるといえる。
また、以上のとおりであるから、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないことは明らかである。

(エ) 訂正事項1についてのまとめ
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項第3号に掲げる事項を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5、6項の規定に適合する。

イ 訂正事項2について
(ア) 訂正事項2の概要
訂正事項2は、要するに、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0044】に「引火点が70℃超過である化合物b2」の具体例が複数記載されている中から「ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(79℃)」を削除する訂正である。
(イ) 本件特許明細書の記載
本件特許明細書には、上記ア(イ)に摘記したものに加え、以下の記載がある。
「引火点が70℃超過である化合物b2としては、特に限定されないが、例えば・・・ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(79℃)」

(ウ) 検討
上記ア(ウ)のとおり、本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載によれば、溶剤b1、及び、溶剤b2は、いずれも、γ−ブチロラクトンよりもポリ塩化ビニルの溶解力が低い溶剤であり、また、溶剤cは、γ−ブチロラクトンとポリ塩化ビニルの溶解力が同等である溶剤であるから、その具体的な化合物が重複している(例えば、ある化合物が溶剤b2であり、かつ、溶剤cでもある)ということはありえないと理解することが合理的である認められる。
また、本件特許明細書の記載によれば、溶剤aに対して溶剤bであり、かつ、溶剤cでもあるような溶剤は、存在し得ないと理解することが合理的であるが、本件特許明細書には、溶剤aの具体例がγ−ブチロラクトン以外にも複数記載されており、γ−ブチロラクトンに対しては溶剤cに該当する溶剤が、別の溶剤(溶剤a)に対しては溶剤cに該当しない(例えば、溶剤bに該当する)という場合が存在することも理解できる。
さらに、本件特許明細書には、γ−ブチロラクトンのPVC溶解性指標が、Y/X=0.8であること(段落【0032】)、及び、Y/Xが0.7以上0.9以下であり、γ−ブチロラクトンとポリ塩化ビニルの溶解力が同等である溶剤の具体例としてジプロピレングリコールモノメチルエーテル(段落【0034】)が記載されていることから、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルのY/Xの値が明記されていないもののその値が0.7以上0.9以下であり、溶剤aとして、γ−ブチロラクトン(Y/X=0.8)を選択した場合には、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルが溶剤cに該当する溶剤であることが理解できる。
また、本件特許明細書には、実施例(段落【0078】の【表1】)において、γ−ブチロラクトンを溶剤aとして用いたこと、及び、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルを溶剤cとして用いたことも記載されており、この記載も、溶剤aがγ−ブチロラクトンである場合には、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルが溶剤cに該当することを意味するものであると理解できる。

一方、本件特許明細書の段落【0044】には、溶剤bのうち、引火点が70℃超過である化合物b2の具体例としてジプロピレングリコールモノメチルエーテル(79℃)が記載されており、この記載は、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルが溶剤bに該当することを意味するものであるから、一見、特許請求の範囲の記載に基づく理解と整合していない。
しかしながら、この記載には、溶剤aに関する記載が含まれていないから、この記載は、溶剤aを特に限定することなく、溶剤bに関して一般的な説明をしているものであると認められる。また、上述のとおり、γ−ブチロラクトンに対しては溶剤cに該当する溶剤が、別の溶剤に対しては溶剤cに該当しないという場合が存在するから、溶剤aがγ−ブチロラクトンでない場合には、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルが溶剤cではなく溶剤bに該当する場合があり得る。
そうすると、段落【0044】にジプロピレングリコールモノメチルエーテルが溶剤cではなく溶剤bに該当する旨の記載がされていても、そのことが直ちに、特許請求の範囲の記載に基づく理解と矛盾するものではないが、実施例において溶剤cとして使用しているジプロピレングリコールモノメチルエーテルが溶剤cではなく溶剤bに該当する旨の記載が本件特許明細書に存在することは、溶剤bでありかつ溶剤cでもある溶剤が存在するかのような誤解を生じ、特許請求の範囲の記載を不明確にするものであるといえる。

したがって、訂正事項2による訂正は、当該記載がある場合には、溶剤bでありかつ溶剤cでもある溶剤が存在するかのような誤解を生じ、もって特許請求の範囲の記載を不明確にする記載を削除するものであるといえることから、明瞭でない記載を釈明することを目的とするものであるといえる。
また、以上のとおりであるから、訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないことは明らかである。

(エ) 訂正事項2についてのまとめ
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項第3号に掲げる事項を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5、6項の規定に適合する。

(3) 独立特許要件について
本件特許異議申立てについては、全ての請求項が特許異議申立ての対象とされているので、訂正事項1〜訂正事項2のいずれについても、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項(独立特許要件)は適用されない。

(4) 小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項第3号に掲げる事項を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5、6項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許の明細書を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書のとおり、訂正することを認める。

第3 本件発明
特許第6780915号の請求項1〜7の特許に係る発明(以下、「本件発明1」、「本件発明2」などといい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
なお、上記第2のとおり、本件訂正は、本件特許の明細書のみを訂正するものである。

「【請求項1】
ポリ塩化ビニル粉末0.5gと、溶剤50gとを、ガラス瓶内で混合し、25℃で5分間撹拌し、静置し、静置してから25秒時点の、前記ガラス瓶底からの溶剤液面高さXと、膨潤又は溶解した前記ポリ塩化ビニル粉末が分布する前記ガラス瓶底からの高さYを測定して求められる比Y/Xを指標とするポリ塩化ビニルの溶解力について、
所定の溶剤の比Y/Xを基準に、ポリ塩化ビニルの溶解力が比Y/X−0.1未満である溶剤を前記所定の溶剤よりもポリ塩化ビニルの溶解力が低い溶剤とし、
所定の溶剤の比Y/Xを基準に、ポリ塩化ビニルの溶解力がY/X?0.1〜Y/X+0.1である溶剤を前記所定の溶剤とポリ塩化ビニルの溶解力が同等である溶剤とするときに、
白色顔料10〜25質量%と、γ−ブチロラクトンと、前記γ−ブチロラクトンよりもポリ塩化ビニルの溶解力が低い溶剤bと、を含有し、
前記γ−ブチロラクトンの含有量が、1.0〜7.0質量%であり、
前記溶剤bの含有量が、前記γ−ブチロラクトンの含有量1質量部に対して、10質量部以上であり、
前記溶剤bが、引火点が70℃以下である化合物b1と、引火点が70℃超過である化合物b2とを含み、
前記γ−ブチロラクトンとポリ塩化ビニルの溶解力が同等である溶剤cと、をさらに含む、
溶剤系インクジェットインク組成物。
【請求項2】
グリコールモノエーテル溶剤を含み、
該グリコールモノエーテル溶剤の含有量が、4.0〜20質量%である、請求項1に記載の溶剤系インクジェットインク組成物。
【請求項3】
前記溶剤bが、下記式(1)で表される化合物を含む、請求項1又は2に記載の溶剤系インクジェットインク組成物。
式(1) R1O−(R2O)m−R3
(式中、R1は、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、R2は、炭素数2〜3のアルキレン基であり、R3は、炭素数1〜4のアルキル基であり、mは、2〜4の整数である。)
【請求項4】
前記化合物b1の含有量が、前記溶剤bの総量に対して、50質量%以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の溶剤系インクジェットインク組成物。
【請求項5】
前記化合物b1の含有量が、前記γ−ブチロラクトンの含有量1質量部に対して、10質量部以上である、請求項4に記載の溶剤系インクジェットインク組成物。
【請求項6】
被記録媒体に対して前記溶剤系インクジェットインク組成物を付着させる付着工程を有するインクジェット記録方法に用いるものであり、前記インクジェット記録方法が、前記被記録媒体の付着領域における付着量が10〜70mg/inch2である付着工程を含むものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の溶剤系インクジェットインク組成物。
【請求項7】
水をさらに含有し、
該水の含有量が、3.0質量%以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の溶剤系インクジェットインク組成物。」

第4 取消理由通知書に記載した取消理由について
当審が令和3年9月1日付けで通知した取消理由は、解消したと判断する。その理由は、以下のとおりである。

1 取消理由の概要
当審が令和3年9月1日付けで通知した取消理由は、要するに、本件特許の特許請求の範囲の請求項1の溶剤b、溶剤b1、溶剤b2、溶剤cの関係について、特許請求の範囲の記載に基づく理解と、本件明細書の記載に基づく理解が整合しないので、本件発明1は明確ではない。また、本件発明2〜7は、本件発明1を直接または間接的に引用する発明であるから、本件発明1と同様の理由により明確ではないというものである。

2 判断
上記第2のとおり、本件訂正が認められたので、本件明細書において、請求項1の溶剤b、溶剤b1、溶剤b2、溶剤cの関係を不明確にしていた可能性がある記載は削除された。また、他に、本件特許明細書の記載で、当該関係について、特許請求の範囲の記載に基づく理解と整合しない記載はない。
したがって、この取消理由によって、本件請求項1、及び、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2〜7に係る特許を取り消すべきものとすることはできない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立ての理由について
1 特許異議申立ての理由
特許異議申立人加藤浩志が申し立てた取消理由のうち、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立ての理由及び証拠方法は以下のとおりである。

<取消理由>
理由1、3、5(新規性
本件特許の特許請求の範囲の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
理由2、4、6、7(進歩性
本件特許の特許請求の範囲の下記の請求項に係る発明は、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
理由8(サポート要件)
本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
理由9(実施可能要件
本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

<証拠方法>
特開2013−104009号公報(甲第1号証。以下、「甲1」ともいう。)
特開2014−237803号公報(甲第2号証。以下、「甲2」ともいう。)
特開2013−249463号公報(甲第4号証。以下、「甲3」ともいう。)
特開2008−248008号公報(甲第5号証。以下、「甲4」ともいう。)

2 理由1、2(新規性進歩性)について
(1) 特許異議申立人が主張する理由1、2の概要
理由1、2は、要するに、主たる証拠方法として、甲1を引用するものである。
そして、特許異議申立人(以下、「申立人」ともいう。)は、本件発明1を特定する事項を構成要件A〜Iに分節するとともに(特許異議申立書40頁21行〜41頁10行)、概ね、構成要件A〜Cは、実質的に溶剤系インクジェットインク組成物を特定する構成要件ではない。また、構成要件D−1は、【請求項1】、段落【0007】、【0066】〜【0067】、【0072】〜【0073】、【0110】に記載されているに等しく、段落【0110】に構成要件D−2、D−3、E、F、Gが記載されており、段落【0038】、【0041】〜【0044】、【0051】、【0055】、【0057】を勘案すれば段落【0110】に構成要件Hが記載されており、【請求項1】、段落【0103】を勘案すれば段落【0110】に構成要件Iが記載されているから、本件特許発明1は、甲1により新規性がないか、少なくとも甲1により進歩性がないと主張する(同69頁6行〜74頁21行)。

(2) 検討
上記(1)のとおり、申立人の主張は、構成要件A〜Iに対応する事項であると申立人が主張する記載が、甲1の別々の箇所に個別に記載されていることを指摘するにとどまるものであって、そもそも、甲1の記載全体の中から特にそれらの記載に過不足なく着目することができるといえる理由や、それらの記載を過不足なく相互に組み合わせた発明(いわゆる引用発明)を認定することができるといえる理由に関する説明を欠くものである。
そして、それらの記載のいずれについても、それらの記載を相互に組み合わせる事項が含まれていないし、そもそも、甲1の記載全体の中から特にそれらの記載に過不足なく着目することができるといえる理由も見いだせない。
そうすると、構成要件A〜Iを備えた発明が甲1に記載されているとはいえない。
また、甲1には、単に構成要件A〜Iに対応する事項であると申立人が主張する記載が、甲1の別々の箇所に個別に記載されているというだけであって、甲1の記載全体の中から特にそれらの記載に着目し、かつ、組み合わせて1つの発明にすることに関する記載や示唆があるわけではないから、当業者といえども、構成要件A〜Iを備えた発明を容易に想到し得るとはいえない。

(3) 更なる検討
上述のとおり、理由1、2は採用できるものではないが、仮に、申立人が主として指摘している段落【0110】に記載されている【表1】に記載されている実施例1に基づいて、当審において甲1発明を下記イのとおり認定したとしても、以下に示すとおり、理由1、2は採用できるものではない。

ア 甲1に記載されている事項
甲1には、以下の事項が記載されている。

「【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物と、
ラクトン類と、
を含有する、インクジェット記録用非水系インク組成物。
【化1】


(式(1)中、R1は、炭素数1以上4以下のアルキル基を示し、R2およびR3は、メチル基またはエチル基を示す。)」
「【0066】
1.2.3.顔料
本実施形態に係る非水系インク組成物には、色材として、従来の非水系インク組成物に通常用いられている有色無機顔料または有色有機顔料等の顔料を用いることができる。これらの顔料は、1種単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0067】
顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料;フタロシアニン顔料、ペリレンおよびペリレン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサンジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロニ顔料等の多環式顔料;塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ等の染料レーキ;ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料等の有機顔料;カーボンブラック等の無機顔料等が挙げられる。顔料粒子の平均一次粒径は、特に限定されるものではないが、好ましくは50nm以上500nm以下である。
【0068】
本実施形態に係る非水系インク組成物をマゼンタまたはレッドインクとする場合の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド2・・・等が挙げられる。
【0069】
本実施形態に係る非水系インク組成物をオレンジまたはイエローインクとする場合の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントオレンジ31・・・等が挙げられる。
【0070】
本実施形態に係る非水系インク組成物をグリーンまたはシアンインクとする場合の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー15・・・等が挙げられる。
【0071】
本実施形態に係る非水系インク組成物をブラックインクとする場合の顔料としては、例えば、カーボンブラック等が挙げられる。
【0072】
本実施形態に係る非水系インク組成物をホワイトインクとする場合の顔料としては、例えば、Pigment White 6、18、21等が挙げられる。
【0073】
本実施形態に係る非水系インク組成物中における顔料の含有量は、用途や印刷特性によって適宜選択することができるが、好ましくは0.5質量%以上25質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上15質量%以下、特に好ましくは1質量%以上10質量%以下である。」
「【0083】
2.インクジェット記録方法
本実施形態に係るインクジェット記録方法は、前述した非水系インク組成物の液滴を吐出し、低吸収性記録媒体に該液滴を付着させて画像を記録する。」
「【0099】
3.2.非水系インク組成物の調製
容器に、表1〜2に記載の濃度に相当する量の有機溶剤をそれぞれのインク毎に投入し、マグネティックスターラーを用いて30分間混合撹拌して混合溶剤を得た。
【0100】
得られた混合溶剤の一部を取り分けて、そこにSolsperse37500(LUBRIZOL社製、商品名)およびC.I.ピグメントブラック7(三菱化学株式会社製、商品名「CARBON BLACK #970」)を所定量添加して、ホモジナイザーを用いて粉砕処理した。その後、直径0.3mmのジルコニアビーズを充填したビーズミルで分散処理を行うことにより、顔料分散液(顔料の平均粒子径:150nm)を得た。
【0101】
得られた顔料分散液に、有機溶剤の残部およびBYK−340(ビックケミー・ジャパン株式会社製、フッ素系界面活性剤)、パラロイドB60(ローム・アンド・ハース社製、アクリル樹脂)を添加してさらに1時間混合撹拌してから、5μmのPTFE製メンブランフィルターを用いて濾過することで、表1〜2に記載のブラックインク組成物を得た。なお、表中の数値は、質量%を表す。
【0102】
なお、表中で使用した材料は、下記の通りである。
・C.I.ピグメントブラック7(三菱化学株式会社製、商品名「CARBON BLACK #970」、ブラック顔料)
・Solsperse37500(商品名、LUBRIZOL社製、分散剤)
・γ−ブチロラクトン(関東化学株式会社製、有機溶剤)
・γ−バレロラクトン(関東化学株式会社製、有機溶剤)
・σ−バレロラクトン(関東化学株式会社製、有機溶剤)
・ジエチレングリコールジエチルエーテル(日本乳化剤株式会社製、有機溶剤)
・ジエチレングリコールエチルメチルエーテル(商品名「ハイソルブEDM」、東邦化学工業株式会社製、有機溶剤)
・テトラエチレングリコールジメチルエーテル(商品名「ハイソルブMETM」、東邦化学工業株式会社製、有機溶剤)
・BYK−340(商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製、フッ素系界面活性剤)
【0103】
3.3.評価試験
3.3.1.摩擦堅牢性試験
JローランドDG社製プリンター「SP−300V」を用いて、「3.2.非水系インク組成物の調製」で得られた各インク組成物を光沢ポリ塩化ビニルシート(ローランドDG社製、「SV−G−1270G」)上にDuty100%の条件で印刷した。その後、常温にて1日間乾燥させることで、評価用サンプルを得た。」
「【0110】
【表1】




イ 甲1に記載された発明
<甲1発明>
「C.I.ピグメントブラック7(顔料)を4.00質量%
Solsperse37500(分散剤)を4.00質量%
有機溶剤Aを3.00質量%
γ−ブチロラクトンを3.00質量%
ジエチレングリコールジエチルエーテルを51.00質量%
ジエチレングリコールエチルメチルエーテルを30.00質量%
BYK−340(界面活性剤)を1.00質量%
パラロイドB60(バインダー樹脂)を4.00質量%
からなるブラックインク組成物」

ウ 本件発明1と甲1発明の対比
甲1発明の「ジエチレングリコールエチルメチルエーテル」は、本件明細書の段落【0078】の【表1】に記載の本件発明の実施例において「溶剤b1」として使用されていることから、本件発明1の「γ−ブチロラクトンよりもポリ塩化ビニルの溶解力が低い溶剤b」及び「引火点が70℃以下である化合物b1」に相当する。
甲1発明の「ジエチレングリコールジエチルエーテル」は、本件明細書の段落【0078】の【表1】に記載の本件発明の実施例において「溶剤b2」として使用されていることから、本件発明1の「γ−ブチロラクトンよりもポリ塩化ビニルの溶解力が低い溶剤b」及び「引火点が70℃超過である化合物b2」に相当する。
したがって、甲1発明は、本件発明1の「ポリ塩化ビニル粉末0.5gと、溶剤50gとを、ガラス瓶内で混合し、25℃で5分間撹拌し、静置し、静置してから25秒時点の、前記ガラス瓶底からの溶剤液面高さXと、膨潤又は溶解した前記ポリ塩化ビニル粉末が分布する前記ガラス瓶底からの高さYを測定して求められる比Y/Xを指標とするポリ塩化ビニルの溶解力について、
所定の溶剤の比Y/Xを基準に、ポリ塩化ビニルの溶解力が比Y/X−0.1未満である溶剤を前記所定の溶剤よりもポリ塩化ビニルの溶解力が低い溶剤とし、
所定の溶剤の比Y/Xを基準に、ポリ塩化ビニルの溶解力がY/X−0.1〜Y/X+0.1である溶剤を前記所定の溶剤とポリ塩化ビニルの溶解力が同等である溶剤とするときに」、「前記γ−ブチロラクトンよりもポリ塩化ビニルの溶解力が低い溶剤bと、を含有し」、及び、「前記溶剤bが、引火点が70℃以下である化合物b1と、引火点が70℃超過である化合物b2とを含み」を充足する。
甲1発明は、「γ−ブチロラクトン」を3.00質量%、及び、「ジエチレングリコールジエチルエーテル」と「ジエチレングリコールエチルメチルエーテル」を合わせて81.00質量%含むことから、本件発明1の「前記γ−ブチロラクトンの含有量が、1.0〜7.0質量%であり」、及び、「前記溶剤bの含有量が、前記γ−ブチロラクトンの含有量1質量部に対して、10質量部以上であり」を充足する。
甲1発明の「ブラックインク組成物」は、甲1の「インクジェット記録用非水系インク組成物」(【請求項1】)の具体的な態様に該当するものであるから、本件発明1の「溶剤系インクジェットインク組成物」を充足する。

そうすると、本件発明1と甲1発明の一致点、相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「ポリ塩化ビニル粉末0.5gと、溶剤50gとを、ガラス瓶内で混合し、25℃で5分間撹拌し、静置し、静置してから25秒時点の、前記ガラス瓶底からの溶剤液面高さXと、膨潤又は溶解した前記ポリ塩化ビニル粉末が分布する前記ガラス瓶底からの高さYを測定して求められる比Y/Xを指標とするポリ塩化ビニルの溶解力について、
所定の溶剤の比Y/Xを基準に、ポリ塩化ビニルの溶解力が比Y/X−0.1未満である溶剤を前記所定の溶剤よりもポリ塩化ビニルの溶解力が低い溶剤とし、
所定の溶剤の比Y/Xを基準に、ポリ塩化ビニルの溶解力がY/X−0.1〜Y/X+0.1である溶剤を前記所定の溶剤とポリ塩化ビニルの溶解力が同等である溶剤とするときに、
γ−ブチロラクトンと、前記γ−ブチロラクトンよりもポリ塩化ビニルの溶解力が低い溶剤bと、を含有し、
前記γ−ブチロラクトンの含有量が、1.0〜7.0質量%であり、
前記溶剤bの含有量が、前記γ−ブチロラクトンの含有量1質量部に対して、10質量部以上であり、
前記溶剤bが、引火点が70℃以下である化合物b1と、引火点が70℃超過である化合物b2とを含む、
溶剤系インクジェットインク組成物。」

<相違点>
相違点1
顔料について、本件発明1は、「白色顔料10〜25質量%」を含有すると特定されているのに対し、甲1発明は、「C.I.ピグメントブラック7(顔料)を4.00質量%」含有すると特定されている点

相違点2
本件発明1は、「前記γ−ブチロラクトンとポリ塩化ビニルの溶解力が同等である溶剤cと、をさらに含む」と特定されているのに対し、甲1発明は、このような特定を備えていない点

エ 相違点の検討
(ア) 相違点1について
甲1には顔料について「従来の非水系インク組成物に通常用いられている有色無機顔料または有色有機顔料等の顔料を用いることができる。これらの顔料は、1種単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい」(段落【0066】)とした上で、「マゼンタまたはレッドインクとする場合の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド2・・・等が挙げられる。」(段落【0068】)、「オレンジまたはイエローインクとする場合の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントオレンジ31・・・等が挙げられる。」(段落【0069】)、「グリーンまたはシアンインクとする場合の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー15・・・等が挙げられる。」(段落【0070】)、「ブラックインクとする場合の顔料としては、例えば、カーボンブラック等が挙げられる。」(段落【0071】)、「ホワイトインクとする場合の顔料としては、例えば、Pigment White 6・・・等が挙げられる。」(段落【0072】)と記載されている。
そうすると、仮にこれらの記載に基づき、甲1発明の「C.I.ピグメントブラック7(顔料)」を他の色の顔料に変更することを着想し得たとしても、甲1には、その候補となる色(顔料)として、「ホワイト」(例えば、Pigment White 6)以外にも、「マゼンタまたはレッド」(例えば、C.I.ピグメントレッド2)、「オレンジまたはイエロー」(例えば、C.I.ピグメントオレンジ31)、「グリーンまたはシアン」(例えば、C.I.ピグメントブルー15)、が具体的に例示されており、かつ、これらを「2種以上混合して用いてもよい」とされている。また、これらの候補中から特に白色顔料に着目し、甲1発明の「C.I.ピグメントブラック7(顔料)」を白色顔料に変更することを動機付けるような記載ないし示唆はない。
また、甲1には顔料の含有割合について、「本実施形態に係る非水系インク組成物中における顔料の含有量は、用途や印刷特性によって適宜選択することができるが、好ましくは0.5質量%以上25質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上15質量%以下、特に好ましくは1質量%以上10質量%以下である。」(段落【0073】)と記載されているから、仮に当業者が甲1発明の「4.00質量%」という含有量を変更することを着想した場合には、甲1の記載に基づき、その特に好ましい範囲とされている「1質量%以上10質量%以下」で最適化を行うことをまず動機付けられるのであって、10〜25質量%に変更することを動機づけるような記載や示唆は甲1には見いだせない。
したがって、当業者といえども、甲1発明において相違点1に係る事項を備えるものとするような変更をおこなうことを容易になし得たとは認められない。

(イ) 相違点2について
甲1には、溶剤について、「ポリ塩化ビニル粉末0.5gと、溶剤50gとを、ガラス瓶内で混合し、25℃で5分間撹拌し、静置し、静置してから25秒時点の、前記ガラス瓶底からの溶剤液面高さXと、膨潤又は溶解した前記ポリ塩化ビニル粉末が分布する前記ガラス瓶底からの高さYを測定して求められる比Y/Xを指標とするポリ塩化ビニルの溶解力について、
所定の溶剤の比Y/Xを基準に、ポリ塩化ビニルの溶解力がY/X−0.1〜Y/X+0.1である溶剤を前記所定の溶剤とポリ塩化ビニルの溶解力が同等である溶剤とするときに、
γ−ブチロラクトンとポリ塩化ビニルの溶解力が同等である溶剤c」について記載も示唆も無い。
そうすると、仮に、甲1発明の溶剤について何らかの変更をすることを着想し得たとしても、溶剤として特に「γ−ブチロラクトンとポリ塩化ビニルの溶解力が同等である溶剤」に着目し、これを含有するものとすることを当業者が容易になし得たとは認められない。

オ 効果について
本件特許発明1は、相違点1、2に係る事項を備えることにより、印刷ムラ、光沢、ドットサイズ、摩擦堅牢性、表面乾燥性、及び、印刷物ミストに優れているという効果を奏するものであると認められる(段落【0078】の【表1】)。

カ 本件発明1についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも認められない。

キ 本件発明2〜7について
本件発明2〜7は、本件発明1を直接又は間接的に引用し、さらに限定したものに該当するところ、上記カのとおり、本件発明1は、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも認められないものである。
そうすると、さらに検討するまでもなく、本件発明2〜7も、本件発明1と同様の理由により、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも認められないものである。

3 理由3、4(新規性進歩性)について
(1) 特許異議申立人が主張する理由3、4の概要
理由3、4は、要するに、主たる証拠方法として、甲2を引用するものである。
そして、申立人は、本件発明1を特定する事項を構成要件A〜Iに分説するとともに(特許異議申立書40頁21行〜41頁10行)、概ね、構成要件A〜Cは、実質的に溶剤系インクジェットインク組成物を特定する構成要件ではない。また、構成要件D−1は、【請求項1】、段落【0008】、【0028】〜【0029】、【0032】〜【0033】、【0123】に記載されているに等しく、段落【0123】に構成要件D−2、D−3、E、F、Gが記載されており、【請求項1】、段落【0045】を勘案すれば段落【0123】に構成要件Hが記載されており、【請求項1】、段落【0117】を勘案すれば段落【0123】に構成要件Iが記載されているから、本件特許発明1は、甲2により新規性がないか、少なくとも甲2により進歩性がないと主張する(同79頁5行〜84頁18行)。

(2) 検討
上記(1)のとおり、申立人の主張は、構成要件A〜Iに対応する事項であると申立人が主張する記載が、甲2の別々の箇所に個別に記載されていることを指摘するにとどまるものであって、そもそも、甲2の記載全体の中から特にそれらの記載に過不足なく着目することができるといえる理由や、それらの記載を過不足なく相互に組み合わせた発明(いわゆる引用発明)を認定することができるといえる理由に関する説明を欠くものである。
そして、それらの記載のいずれについても、それらの記載を相互に組み合わせる事項が含まれていないし、そもそも、甲2の記載全体の中から特にそれらの記載に過不足なく着目することができるといえる理由も見いだせない。
そうすると、構成要件A〜Iを備えた発明が甲2に記載されているとはいえない。
また、甲2には、単に構成要件A〜Iに対応する事項であると申立人が主張する記載が、甲2の別々の箇所に個別に記載されているというだけであって、甲2の記載全体の中から特にそれらの記載に着目し、かつ、組み合わせて1つの発明にすることに関する記載や示唆があるわけではないから、当業者といえども、構成要件A〜Iを備えた発明を容易に想到し得るとはいえない。

(3) 更なる検討
上述のとおり、理由3、4は採用できるものではないが、仮に、申立人が主として指摘している段落【0123】に記載されている【表1】に記載されている実施例5に基づいて、当審において甲2発明を下記イのとおり認定したとしても、以下に示すとおり、理由3、4は採用できるものではない。

ア 甲2に記載されている事項
「【請求項1】
色材と、環状エステルと、引火点が70℃以下であって下記一般式(I)で表される第1有機溶剤と、引火点が90℃以上の第2有機溶剤と、を含有し、
前記環状エステルの含有量a(質量%)が、6質量%以上30質量%以下であり、
前記環状エステルの含有量a(質量%)と、前記第1有機溶剤の含有量b(質量%)と、前記第2有機溶剤の含有量c(質量%)とが、下記式(1)および(2)の関係を満たす、インクジェット記録用インク組成物。
R1−O−(R2−O)2−R3・・・(I)
(上記一般式(I)において、R1は炭素数1以上4以下のアルキル基を表し、R2はエチレン基またはプロピレン基を表し、R3は水素原子または炭素数1以上4以下のアルキル基を表す。)
a<b ・・・(1)
c<(a+b)/2 ・・・(2)」
「【0028】
1.1.色材
本実施形態のインク組成物は、色材を含有する。係る色材としては、従来公知の染料、有機あるいは無機顔料を用いることができる。このうち顔料を用いることが耐光性の点から好ましい。本実施形態のインク組成物に使用可能な顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレンおよびペリレン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサンジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロニ顔料等の多環式顔料、塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ等の染料レーキ、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料等の有機顔料、並びにカーボンブラック等の無機顔料からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0029】
本実施形態のインク組成物は、ブラック、ホワイト、シアン、ブルー、グリーン、マゼンダ、レッド、イエロー、オレンジ、若しくはこれらの淡色若しくは濃色、若しくはこれらの混色、または光輝色のインクとすることができる。
【0030】
本実施形態のインク組成物を、マゼンタまたはレッドのインクとする場合には、配合される色材、特に顔料として、例えば、C.I.ピグメントレッド2・・・等を例示することができ、これらは単独または組み合わせて用いることができる。
【0031】
本実施形態のインク組成物を、オレンジまたはイエローのインクとする場合には、配合される色材、特に顔料として、例えば、C.I.ピグメントオレンジ31・・・等を例示することができ、これらは単独または組み合わせて用いることができる。
【0032】
本実施形態のインク組成物を、グリーンまたはシアンのインクとする場合には、配合される色材、特に顔料として、例えば、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー60、C.I.ピグメントグリーン7、およびC.I.ピグメントグリーン36等を例示することができ、これらは単独または組み合わせて用いることができる。また、本実施形態のインク組成物を、ブラックのインクとする場合には、配合される色材として、例えば、カーボンブラック等を挙げることができ、ホワイトのインクとする場合の色材としては、例えば、Pigment White 6、18、21等を例示することができる。さらに、本実施形態のインク組成物には、色材として、金属粒子、金属薄片、無機塩等の光輝性の顔料を用いてもよい。
【0033】
本実施形態のインク組成物における色材の含有量については、特に制限はないが、インク組成物全量に対して、好ましくは0.01質量%以上25質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以上10質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以上15質量%以下、特に好ましくは1質量%以上10質量%以下である。」
「【0106】
3.実施例
以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに説明するが、本発明は以下の例によってなんら限定されるものではない。
【0107】
3.1.インク組成物の調製
各実施例および各比較例のインク組成物を、表1に示す配合で調製した。
【0108】
表1に記載された成分において、顔料は、ピグメントブルー15:3(銅フタロシアニン顔料:クラリアント社製)を用いた。
【0109】
表1に記載の化合物のうち、環状エステルとしては、γ−ブチロラクトン(関東化学株式会社製)を用いた。
【0110】
表1に記載の化合物のうち、第1有機溶剤としては、DEGMEE(ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、商品名「ハイソルブEDM」、東邦化学工業株式会社製)、DEGdME(ジエチレングリコールジメチルエーテル、商品名「ジエチレングリコールジメチルエーテル」、東京化成工業株式会社製)を用いた。
【0111】
表1に記載の化合物のうち、第2有機溶剤としては、DEGBME(ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、商品名「ハイソルブBDM」、東邦化学工業株式会社製)、TetraEGmBE(テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、商品名「ブチセノール40」、KHネオケム株式会社製)を用いた。
【0112】
表1に記載の化合物のうち、その他の溶剤としては、DEGDEE(ジエチレングリコールジエチルエーテル、商品名「ジエチレングリコールジエチルエーテル」、東京化成工業株式会社製、引火点71℃)を用いた。
【0113】
表1中、ソルスパース37500(商品名、LUBRIZOL社製)は、分散剤である。パラペットG−1000P(株式会社クラレ製)は、アクリル樹脂(定着樹脂)である。表1中、BYK340(ビックケミー・ジャパン株式会社製)は、フッ素系界面活性剤(滑剤)である。
【0114】
表1に記載した配合で、各溶剤を各例のインク組成物毎に攪拌して混合溶剤を得た。次に、混合溶剤の一部を取り分け、ソルスパース37500を混合し、その後ピグメントブルー15:3を加えて、ホモジナイザーを用いて予備分散した後に、ビーズミルにて分散をし、顔料の平均粒径130nmの分散体を得た。別途、混合溶剤の一部を取り分け、パラペットG?1000Pを加えて撹拌し、完全に溶解させて樹脂溶液を得た。そして上記分散体に、残っていた混合溶剤と、BYK340と、上記樹脂溶液とを混ぜいれ各実施例および各比較例のインク組成物とした。」
「【0123】
【表1】



イ 甲2に記載された発明
<甲2発明>
「ピグメントブルー15:3(顔料)を4.0質量%
ソルスパース37500(分散剤)を4.00質量%
γ−ブチロラクトン(環状エステル)を6.0質量%
ジエチレングリコールメチルエチルエーテル(第1有機溶剤)を59.0質量%
テトラエチレングリコールモノブチルエーテル(第2有機溶剤)を24.0質量%
BYK340(界面活性剤)を1.5質量%
パラペットG−1000P(定着樹脂)を1.5質量%
からなるインク組成物」

ウ 本件発明1と甲2発明の対比
甲2発明の「ジエチレングリコールメチルエチルエーテル」は、本件明細書の段落【0078】の【表1】に記載の本件発明の実施例において「溶剤b1」として使用されていることから、本件発明1の「γ−ブチロラクトンよりもポリ塩化ビニルの溶解力が低い溶剤b」及び「引火点が70℃以下である化合物b1」に相当する。
甲2発明の「テトラエチレングリコールモノブチルエーテル」は、本件明細書の段落【0078】の【表1】に記載の本件発明の実施例において「溶剤b2」として使用されていることから、本件発明1の「γ−ブチロラクトンよりもポリ塩化ビニルの溶解力が低い溶剤b」及び「引火点が70℃超過である化合物b2」に相当する。
したがって、甲2発明は、本件発明1の「ポリ塩化ビニル粉末0.5gと、溶剤50gとを、ガラス瓶内で混合し、25℃で5分間撹拌し、静置し、静置してから25秒時点の、前記ガラス瓶底からの溶剤液面高さXと、膨潤又は溶解した前記ポリ塩化ビニル粉末が分布する前記ガラス瓶底からの高さYを測定して求められる比Y/Xを指標とするポリ塩化ビニルの溶解力について、
所定の溶剤の比Y/Xを基準に、ポリ塩化ビニルの溶解力が比Y/X−0.1未満である溶剤を前記所定の溶剤よりもポリ塩化ビニルの溶解力が低い溶剤とし、
所定の溶剤の比Y/Xを基準に、ポリ塩化ビニルの溶解力がY/X?0.1〜Y/X+0.1である溶剤を前記所定の溶剤とポリ塩化ビニルの溶解力が同等である溶剤とするときに」、「前記γ−ブチロラクトンよりもポリ塩化ビニルの溶解力が低い溶剤bと、を含有し」、及び、「前記溶剤bが、引火点が70℃以下である化合物b1と、引火点が70℃超過である化合物b2とを含み」を充足する。
甲2発明は、「γ−ブチロラクトン」を6.0質量%、及び、「ジエチレングリコールメチルエチルエーテル」と「テトラエチレングリコールモノブチルエーテル」を合わせて83.0質量%含むことから、本件発明1の「前記γ−ブチロラクトンの含有量が、1.0〜7.0質量%であり」、及び、「前記溶剤bの含有量が、前記γ−ブチロラクトンの含有量1質量部に対して、10質量部以上であり」を充足する。
甲2発明の「インク組成物」は、甲2の「インクジェット記録用インク組成物」(【請求項1】)の具体的な態様に該当するものであるから、本件発明1の「溶剤系インクジェットインク組成物」を充足する。

そうすると、本件発明1と甲2発明の一致点、相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「ポリ塩化ビニル粉末0.5gと、溶剤50gとを、ガラス瓶内で混合し、25℃で5分間撹拌し、静置し、静置してから25秒時点の、前記ガラス瓶底からの溶剤液面高さXと、膨潤又は溶解した前記ポリ塩化ビニル粉末が分布する前記ガラス瓶底からの高さYを測定して求められる比Y/Xを指標とするポリ塩化ビニルの溶解力について、
所定の溶剤の比Y/Xを基準に、ポリ塩化ビニルの溶解力が比Y/X−0.1未満である溶剤を前記所定の溶剤よりもポリ塩化ビニルの溶解力が低い溶剤とし、
所定の溶剤の比Y/Xを基準に、ポリ塩化ビニルの溶解力がY/X?0.1〜Y/X+0.1である溶剤を前記所定の溶剤とポリ塩化ビニルの溶解力が同等である溶剤とするときに、
γ−ブチロラクトンと、前記γ−ブチロラクトンよりもポリ塩化ビニルの溶解力が低い溶剤bと、を含有し、
前記γ−ブチロラクトンの含有量が、1.0〜7.0質量%であり、
前記溶剤bの含有量が、前記γ−ブチロラクトンの含有量1質量部に対して、10質量部以上であり、
前記溶剤bが、引火点が70℃以下である化合物b1と、引火点が70℃超過である化合物b2とを含む、
溶剤系インクジェットインク組成物。」

<相違点>
相違点3
顔料について、本件発明1は、「白色顔料10〜25質量%」を含有すると特定されているのに対し、甲2発明は、「ピグメントブルー15:3(顔料)を4.0質量%」含有すると特定されている点

相違点4
本件発明1は、「前記γ−ブチロラクトンとポリ塩化ビニルの溶解力が同等である溶剤cと、をさらに含む」と特定されているのに対し、甲2発明は、このような特定を備えていない点

エ 相違点の検討
(ア) 相違点3について
甲2には色材について「色材としては、従来公知の染料、有機あるいは無機顔料を用いることができる。」(段落【0028】)、「ブラック、ホワイト、シアン、ブルー、グリーン、マゼンダ、レッド、イエロー、オレンジ、若しくはこれらの淡色若しくは濃色、若しくはこれらの混色、または光輝色のインクとすることができる。」(段落【0029】)とした上で、「マゼンタまたはレッドのインクとする場合には、配合される色材、特に顔料として、例えば、C.I.ピグメントレッド2・・・等を例示することができ、これらは単独または組み合わせて用いることができる。」(段落【0030】)、「オレンジまたはイエローのインクとする場合には、配合される色材、特に顔料として、例えば、C.I.ピグメントオレンジ31・・・等を例示することができ、これらは単独または組み合わせて用いることができる。」(段落【0031】)、「グリーンまたはシアンのインクとする場合には、配合される色材、特に顔料として、例えば、C.I.ピグメントブルー15・・・等を例示することができ、これらは単独または組み合わせて用いることができる。」、「ブラックのインクとする場合には、配合される色材として、例えば、カーボンブラック等を挙げることができ」、「ホワイトのインクとする場合の色材としては、例えば、Pigment White 6、18、21等を例示することができる。」、「色材として、金属粒子、金属薄片、無機塩等の光輝性の顔料を用いてもよい。」(段落【0032】)と記載されている。

そうすると、仮にこれらの記載に基づき、甲2発明の「ピグメントブルー15:3(顔料)」を他の色材に変更することを着想し得たとしても、甲2には、その候補となる色(顔料)として、「ホワイト」(例えば、Pigment White 6)以外にも、「マゼンタまたはレッド」(例えば、C.I.ピグメントレッド2)、「オレンジまたはイエロー」(例えば、C.I.ピグメントオレンジ31)、「グリーンまたはシアン」(例えば、C.I.ピグメントブルー15)、「ブラック」(例えば、カーボンブラック)、「光輝性の顔料」(金属粒子等)が具体的に例示されており、かつ、これらを「単独または組み合わせて用いることができる」とされている。また、これらの候補中から特に白色顔料に着目し、甲2発明の「ピグメントブルー15:3(顔料)」を白色顔料に変更することを動機付けるような記載ないし示唆はない。
また、甲2には色材の含有割合について、「本実施形態のインク組成物における色材の含有量については、特に制限はないが、インク組成物全量に対して、好ましくは0.01質量%以上25質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以上10質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以上15質量%以下、特に好ましくは1質量%以上10質量%以下である。」(段落【0033】)と記載されているから、仮に当業者が甲2発明の「4.0質量%」という含有量を変更することを着想した場合には、甲2の記載に基づき、その特に好ましい範囲とされている「1質量%以上10質量%以下」で最適化を行うことをまず動機付けられるのであって、10〜25質量%に変更することを動機づけるような記載や示唆は甲1には見いだせない。
したがって、当業者といえども、甲1発明において相違点3に係る事項を備えるものとするような変更をおこなうことを容易になし得たとは認められない。

(イ) 相違点4について
甲2には、溶剤について、「ポリ塩化ビニル粉末0.5gと、溶剤50gとを、ガラス瓶内で混合し、25℃で5分間撹拌し、静置し、静置してから25秒時点の、前記ガラス瓶底からの溶剤液面高さXと、膨潤又は溶解した前記ポリ塩化ビニル粉末が分布する前記ガラス瓶底からの高さYを測定して求められる比Y/Xを指標とするポリ塩化ビニルの溶解力について、
所定の溶剤の比Y/Xを基準に、ポリ塩化ビニルの溶解力がY/X−0.1〜Y/X+0.1である溶剤を前記所定の溶剤とポリ塩化ビニルの溶解力が同等である溶剤とするときに、
γ−ブチロラクトンとポリ塩化ビニルの溶解力が同等である溶剤c」について記載も示唆も無い。
そうすると、仮に、甲2発明の溶剤について何らかの変更をすることを着想し得たとしても、溶剤として特に「γ−ブチロラクトンとポリ塩化ビニルの溶解力が同等である溶剤」に着目し、これを含有するものとすることを当業者が容易になし得たとは認められない。

オ 効果について
本件特許発明1は、相違点3、4に係る事項を備えることにより、印刷ムラ、光沢、ドットサイズ、摩擦堅牢性、表面乾燥性、及び、印刷物ミストに優れているという効果を奏するものであると認められる(段落【0078】の【表1】)。

カ 本件発明1についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲2に記載された発明ではないし、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも認められない。

キ 本件発明2〜7について
本件発明2〜7は、本件発明1を直接又は間接的に引用し、さらに限定したものに該当するところ、上記カのとおり、本件発明1は、甲2に記載された発明ではないし、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも認められないものである。
そうすると、さらに検討するまでもなく、本件発明2〜7も、本件発明1と同様の理由により、甲2に記載された発明ではないし、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも認められないものである。

4 理由5、6(新規性進歩性)について
(1) 特許異議申立人が主張する理由5、6の概要
理由5、6は、要するに、主たる証拠方法として、甲3を引用するものである。
そして、申立人は、本件発明1を特定する事項を構成要件A〜Iに分節するとともに(特許異議申立書40頁21行〜41頁10行)、概ね、構成要件A〜Cは、実質的に溶剤系インクジェットインク組成物を特定する構成要件ではない。また、構成要件D−1は、【請求項1】、段落【0002】、【0004】、【0038】〜【0039】、【0043】、【0076】(実施例4)に記載されているに等しく、段落【0076】(実施例4)に構成要件D−2、D−3、E、F、Hが記載されており、段落【0027】、【0030】を勘案すれば段落【0076】(実施例4)に構成要件Gが記載されており、段落【0002】、【0053】を勘案すれば段落【0076】(実施例4)に構成要件Iが記載されているから、本件特許発明1は、甲3により新規性がないか、少なくとも甲3により進歩性がないと主張する(同88頁16行〜93頁12行)。

(2) 検討
上記(1)のとおり、申立人の主張は、構成要件A〜Iに対応する事項であると申立人が主張する記載が、甲3の別々の箇所に個別に記載されていることを指摘するにとどまるものであって、そもそも、甲3の記載全体の中から特にそれらの記載に過不足なく着目することができるといえる理由や、それらの記載を過不足なく相互に組み合わせた発明(いわゆる引用発明)を認定することができるといえる理由に関する説明を欠くものである。
そして、それらの記載のいずれについても、それらの記載を相互に組み合わせる事項が含まれていないし、そもそも、甲3の記載全体の中から特にそれらの記載に過不足なく着目することができるといえる理由も見いだせない。
そうすると、構成要件A〜Iを備えた発明が甲3に記載されているとはいえない。
また、甲3には、単に構成要件A〜Iに対応する事項であると申立人が主張する記載が、甲3の別々の箇所に個別に記載されているというだけであって、甲3の記載全体の中から特にそれらの記載に着目し、かつ、組み合わせて1つの発明にすることに関する記載や示唆があるわけではないから、当業者といえども、構成要件A〜Iを備えた発明を容易に想到し得るとはいえない。

(3) 更なる検討
上述のとおり、理由5、6は採用できるものではないが、仮に、申立人が主として指摘している段落【0076】に記載されている【表1】に記載されている実施例4に基づいて、当審において甲3発明を下記イのとおり認定したとしても、以下に示すとおり、理由5、6は採用できるものではない。

ア 甲3に記載されている事項
甲3には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
開閉動作をする事で記録ヘッド内の圧力を調整し、弾性部材によって被覆された圧力調整弁を有する記録装置に用いられるインク組成物であって、
スリップ剤と、ラクトン系溶剤とを含むことを特徴とするインク組成物。」
「【0002】
従来から、インクジェット記録装置等の記録装置からインク組成物を紙等の記録媒体に対して付与することにより、画像を記録することが知られている。
インク組成物は、一般に、着色剤が溶剤に溶解または分散したものであり、さらには、各種添加剤が添加されたものである。
インク組成物に添加する添加剤として、スリップ剤が知られている(例えば、特許文献1参照)。スリップ剤を添加することで、印刷面の耐擦性が向上し、印刷面の擦り傷等を防止することができる。
しかしながら、このようなスリップ剤は、記録装置内のゴム等の弾性部材(特に、インク組成物が接触する圧力調整弁)に対するスリップ剤の影響を低減し、圧力調整弁の開閉動作阻害をさせてしまうといった問題があった。より具体的には、圧力調整弁のシール部(弾性部材)が外れてしまい、流路の開閉動作が出来なくなるという問題があった。」
「【0038】
[着色剤]
本発明のインク組成物は、着色剤を含んでいてもよい。
着色剤としては、従来のインク組成物に通常用いられている有色無機顔料または有色有機顔料等の顔料を用いることができる。これらの顔料は、1種単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0039】
顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料;フタロシアニン顔料、ペリレンおよびペリレン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサンジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロニ顔料等の多環式顔料;塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ等の染料レーキ;ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料等の有機顔料;カーボンブラック等の無機顔料等が挙げられる。顔料粒子の平均一次粒径は、特に限定されるものではないが、好ましくは50nm以上500nm以下である。
【0040】
インク組成物をマゼンタまたはレッドインクとする場合の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド2・・・等が挙げられる。
【0041】
インク組成物をオレンジまたはイエローインクとする場合の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントオレンジ31・・・等が挙げられる。
【0042】
インク組成物をグリーンまたはシアンインクとする場合の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー15・・・等が挙げられる。
インク組成物をブラックインクとする場合の顔料としては、例えば、カーボンブラック等が挙げられる。
【0043】
インク組成物をホワイトインクとする場合の顔料としては、例えば、Pigment White 6、18、21等が挙げられる。
インク組成物中における着色剤の含有量は、用途や印刷特性によって適宜選択することができるが、0.5質量%以上25質量%以下であるのが好ましく、0.5質量%以上15質量%以下であるのがより好ましく、1質量%以上10質量%以下であるのがさらに好ましい。」
「【0072】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
[1]インク組成物
(実施例1)
容器に、表1に記載の濃度に相当する量のジエチレングリコールジエチルエーテル(日本乳化剤株式会社製)、γ−ブチロラクトン(関東化学株式会社製)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(商品名「ハイソルブMETM」、東邦化学工業株式会社製)、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル(商品名「BTG−H」、東邦化学工業株式会社製)、エクアミドM100(出光リテール販売社製、アミドエーテル類溶媒)を投入し、マグネティックスターラーを用いて30分間混合撹拌して混合溶剤を得た。
【0073】
得られた混合溶剤の一部を取り分けて、そこにSolsperse37500(LUBRIZOL社製、商品名)およびC.I.ピグメントブラック7(三菱化学株式会社製、商品名「CARBON BLACK #970」)を所定量添加して、ホモジナイザーを用いて粉砕処理した。その後、直径0.3mmのジルコニアビーズを充填したビーズミルで分散処理を行うことにより、顔料分散液(顔料の平均粒子径:150nm)を得た。
【0074】
得られた顔料分散液に、混合溶剤の残部およびBYK−375(ビックケミー・ジャパン株式会社製、ポリエーテルエステル変性ジメチルシロキサン)、パラロイドB60(ローム・アンド・ハース社製、アクリル樹脂)を添加してさらに1時間混合撹拌してから、5μmのPTFE製メンブランフィルターを用いて濾過し、イソプロピルアルコールで濃度調整することで、ブラックのインク組成物を得た。
【0075】
(実施例2〜8、比較例1、2)
表1に示す各成分を用い、表1に示す濃度で調製した以外は、前記実施例1と同様にしてインク組成物を製造した。
なお、BYK−315(ポリメチルアルキルシロキサン)は、式(1)中のnが100〜200、BYK−375(ポリエーテルエステル変性ジメチルシロキサン)は、式(1)中のnが45〜180、BYK−378(ポリジメチルシロキサン)は、式(1)中のnが80〜230のものである。また、表中、ピグメントブラック7は、C.I.ピグメントブラック7を、ソルスパース37500は、Solsperse37500を示す。
なお、各インク組成物は、吐出安定性に優れるものであった。
【0076】
【表1】



イ 甲3に記載された発明

<甲3発明>
「C.I.ピグメントブラック7を4%
Solsperse37500を4%
ジエチレングリコールジエチルエーテルを40%
γ−ブチロラクトンを4%
テトラエチレングリコールジメチルエーテルを10%
テトラエチレングリコールモノブチルエーテルを3%
パラロイドB60を2%
エクアミドM100を9%
BYK−375(ポリエーテルエステル変性ジメチルシロキサン)を0.6%
イソプロピルアルコールを全体で100%になる残分
からなるインク組成物」

ウ 本件発明1と甲3発明の対比
甲3発明の「テトラエチレングリコールジメチルエーテル」は、本件明細書の段落【0034】において「Y/Xが0.7以上0.9以下であり、γ−ブチロラクトンとポリ塩化ビニルの溶解力が同等である溶剤」として例示されていることから、本件発明1の「γ−ブチロラクトンとポリ塩化ビニルの溶解力が同等である溶剤c」に相当する。
甲3発明の「ジエチレングリコールジエチルエーテル」、及び、「テトラエチレングリコールモノブチルエーテル」は、本件明細書の段落【0078】の【表1】に記載の本件発明の実施例において「溶剤b2」として使用されていることから、本件発明1の「γ−ブチロラクトンよりもポリ塩化ビニルの溶解力が低い溶剤b」及び「引火点が70℃超過である化合物b2」に相当する。
したがって、甲3発明は、本件発明1の「ポリ塩化ビニル粉末0.5gと、溶剤50gとを、ガラス瓶内で混合し、25℃で5分間撹拌し、静置し、静置してから25秒時点の、前記ガラス瓶底からの溶剤液面高さXと、膨潤又は溶解した前記ポリ塩化ビニル粉末が分布する前記ガラス瓶底からの高さYを測定して求められる比Y/Xを指標とするポリ塩化ビニルの溶解力について、
所定の溶剤の比Y/Xを基準に、ポリ塩化ビニルの溶解力が比Y/X−0.1未満である溶剤を前記所定の溶剤よりもポリ塩化ビニルの溶解力が低い溶剤とし、
所定の溶剤の比Y/Xを基準に、ポリ塩化ビニルの溶解力がY/X−0.1〜Y/X+0.1である溶剤を前記所定の溶剤とポリ塩化ビニルの溶解力が同等である溶剤とするときに」、「前記γ−ブチロラクトンよりもポリ塩化ビニルの溶解力が低い溶剤bと、を含有し」、及び、「前記溶剤bが、引火点が70℃超過である化合物b2とを含み」を充足する。
甲3発明は、「γ−ブチロラクトン」を4%、及び、「ジエチレングリコールジエチルエーテル」と「テトラエチレングリコールモノブチルエーテル」を合わせて43%含むことから、本件発明1の「前記γ−ブチロラクトンの含有量が、1.0〜7.0質量%であり」、及び、「前記溶剤bの含有量が、前記γ−ブチロラクトンの含有量1質量部に対して、10質量部以上であり」を充足する。
甲3発明の「インク組成物」は、甲3の「インクジェット記録装置」(【0002】)で用いるものであって、その具体的な態様に該当するものであるから、本件発明1の「溶剤系インクジェットインク組成物」を充足する。

そうすると、本件発明1と甲3発明の一致点、相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「ポリ塩化ビニル粉末0.5gと、溶剤50gとを、ガラス瓶内で混合し、25℃で5分間撹拌し、静置し、静置してから25秒時点の、前記ガラス瓶底からの溶剤液面高さXと、膨潤又は溶解した前記ポリ塩化ビニル粉末が分布する前記ガラス瓶底からの高さYを測定して求められる比Y/Xを指標とするポリ塩化ビニルの溶解力について、
所定の溶剤の比Y/Xを基準に、ポリ塩化ビニルの溶解力が比Y/X−0.1未満である溶剤を前記所定の溶剤よりもポリ塩化ビニルの溶解力が低い溶剤とし、
所定の溶剤の比Y/Xを基準に、ポリ塩化ビニルの溶解力がY/X−0.1〜Y/X+0.1である溶剤を前記所定の溶剤とポリ塩化ビニルの溶解力が同等である溶剤とするときに、
γ−ブチロラクトンと、前記γ−ブチロラクトンよりもポリ塩化ビニルの溶解力が低い溶剤bと、を含有し、
前記γ−ブチロラクトンの含有量が、1.0〜7.0質量%であり、
前記溶剤bの含有量が、前記γ−ブチロラクトンの含有量1質量部に対して、10質量部以上であり、
前記溶剤bが、引火点が70℃超過である化合物b2とを含み、
前記γ−ブチロラクトンとポリ塩化ビニルの溶解力が同等である溶剤cと、をさらに含む、
溶剤系インクジェットインク組成物。」

<相違点>
相違点5
顔料について、本件発明1は、「白色顔料10〜25質量%」を含有すると特定されているのに対し、甲3発明は、「C.I.ピグメントブラック7を4%」含有すると特定されている点

相違点6
本件発明1は、「前記溶剤bが、引火点が70℃以下である化合物b1と、を含み」と特定されているのに対し、甲3発明は、このような特定を備えていない点

エ 相違点の検討
(ア) 相違点5について
甲3には着色剤について「着色剤としては、従来のインク組成物に通常用いられている有色無機顔料または有色有機顔料等の顔料を用いることができる。これらの顔料は、1種単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。」(段落【0038】)とした上で、「マゼンタまたはレッドインクとする場合の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド2・・・等が挙げられる。」(段落【0040】)、「オレンジまたはイエローインクとする場合の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントオレンジ31・・・等が挙げられる。」(段落【0041】)、「グリーンまたはシアンインクとする場合の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー15・・・等が挙げられる。」、「インク組成物をブラックインクとする場合の顔料としては、例えば、カーボンブラック等が挙げられる。」(段落【0042】)、「ホワイトインクとする場合の顔料としては、例えば、Pigment White 6、18、21等が挙げられる。」(段落【0043】)と記載されている。
そうすると、仮にこれらの記載に基づき、甲3発明の「C.I.ピグメントブラック7」を他の色の顔料に変更することを着想し得たとしても、甲3には、その候補となる色(顔料)として、「ホワイト」(例えば、Pigment White 6)以外にも、「マゼンタまたはレッド」(例えば、C.I.ピグメントレッド2)、「オレンジまたはイエローイ」(例えば、C.I.ピグメントオレンジ31)、「グリーンまたはシアン」(例えば、C.I.ピグメントブルー15)、が具体的に例示されており、かつ、これらを「1種単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい」とされている。また、これらの候補中から特に白色顔料に着目し、甲3発明の「C.I.ピグメントブラック7」を白色顔料に変更することを動機付けるような記載ないし示唆はない。
また、甲3には顔料の含有割合について、「インク組成物中における着色剤の含有量は、用途や印刷特性によって適宜選択することができるが、0.5質量%以上25質量%以下であるのが好ましく、0.5質量%以上15質量%以下であるのがより好ましく、1質量%以上10質量%以下であるのがさらに好ましい。」(段落【0043】)と記載されているから、仮に当業者が甲3発明の「4%」という含有量を変更することを着想した場合には、甲3の記載に基づき、その特に好ましい範囲とされている「1質量%以上10質量%以下」で最適化を行うことをまず動機付けられるのであって、10〜25質量%に変更することを動機づけるような記載や示唆は甲3には見いだせない。
したがって、当業者といえども、甲3発明において相違点5に係る事項を備えるものとするような変更をおこなうことを容易になし得たとは認められない。

(イ) 相違点6について
甲3には、溶剤について、「ポリ塩化ビニル粉末0.5gと、溶剤50gとを、ガラス瓶内で混合し、25℃で5分間撹拌し、静置し、静置してから25秒時点の、前記ガラス瓶底からの溶剤液面高さXと、膨潤又は溶解した前記ポリ塩化ビニル粉末が分布する前記ガラス瓶底からの高さYを測定して求められる比Y/Xを指標とするポリ塩化ビニルの溶解力について、
所定の溶剤の比Y/Xを基準に、ポリ塩化ビニルの溶解力が比Y/X−0.1未満である溶剤を前記所定の溶剤よりもポリ塩化ビニルの溶解力が低い溶剤とするときに、
γ−ブチロラクトンよりもポリ塩化ビニルの溶解力が低い溶剤b、
前記溶剤bが、引火点が70℃以下である化合物b1を含み」について記載も示唆も無い。
そうすると、仮に、甲1発明の溶剤について何らかの変更をすることを着想し得たとしても、溶剤として特に「γ−ブチロラクトンよりもポリ塩化ビニルの溶解力が低い溶剤であって、引火点が70℃以下である化合物b1」に着目し、これを含有するものとすることを当業者が容易になし得たとは認められない。

オ 効果について
本件特許発明1は、相違点5、6に係る事項を備えることにより、印刷ムラ、光沢、ドットサイズ、摩擦堅牢性、表面乾燥性、及び、印刷物ミストに優れているという効果を奏するものであると認められる(段落【0078】の【表1】)。

カ 本件発明1についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲3に記載された発明ではないし、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも認められない。

キ 本件発明2〜7について
本件発明2〜7は、本件発明1を直接又は間接的に引用し、さらに限定したものに該当するところ、上記カのとおり、本件発明1は、甲3に記載された発明ではないし、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも認められないものである。
そうすると、さらに検討するまでもなく、本件発明2〜7も、本件発明1と同様の理由により、甲3に記載された発明ではないし、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも認められないものである。

5 理由7(進歩性)について
(1) 特許異議申立人が主張する理由7の概要
理由7は、要するに、主たる証拠方法として、甲4を引用し、従たる証拠方法として甲2を引用するものである。
そして、申立人は、本件発明1を特定する事項を構成要件A〜Iに分節するとともに(特許異議申立書40頁21行〜41頁10行)、概ね、構成要件A〜Cは、実質的に溶剤系インクジェットインク組成物を特定する構成要件ではない。また、甲4の段落【0048】(実施例1)に構成要件D−1、D−2、D−3が記載されており、甲4の段落【0009】、【0029】、【0048】、及び、甲2の【請求項1】、段落【0007】、【0036】、【0040】、【0105】、【0119】を勘案すれば構成要件Eは、当業者が容易に想到し得たものであり、甲4の段落【0020】、【0048】、及び、甲2の【請求項1】、段落【0036】、【0040】、【0041】、【0049】、【0056】、【0065】〜【0066】、【0068】、【0105】を勘案すれば構成要件Fは、当業者が容易に想到し得たものであり、甲4の段落【0020】を勘案すれば構成要件G、Hは、甲4の段落【0048】(実施例1)に記載されているに等しく、甲4の段落【0048】(実施例1)、【0061】には構成要件Iが記載されているから、本件特許発明1は、甲4、甲2により進歩性がないと主張する(同97頁29行〜105頁16行)。

(2) 検討
上記(1)のとおり、申立人の主張は、構成要件A〜Iを個別に検討すると、構成要件A〜Iのそれぞれに対応する事項であると申立人が主張する記載が、甲4の別々の箇所に個別に記載されている(構成要件E、F以外)、あるいは、当該記載について甲2に記載されている事項を勘案すれば当業者が容易に想到し得たものである(構成要件E、F)、と指摘するにとどまるものであって、そもそも、甲4の記載全体の中から特にそれらの記載に過不足なく着目することができるといえる理由や、それらの記載を過不足なく相互に組み合わせた発明(いわゆる引用発明)を認定することができるといえる理由に関する説明を欠くものである。
また、それらの記載のいずれについても、それらの記載を相互に組み合わせる事項が含まれていないし、そもそも、甲4の記載全体の中から特にそれらの記載に過不足なく着目することができるといえる理由も見いだせない。
そうすると、そもそも、それらの記載を組み合わせた発明が甲4に記載されているとはいえないから、それらの記載が、それぞれ、構成要件A〜Iに対応する事項であるといえるものであるか否かを検討するまでもなく、あるいは、甲2に記載されている事項を勘案すれば当業者が容易に想到し得たものであるといえるか否かを検討するまでもなく、当業者といえども、構成要件A〜Iを備えた発明を容易に想到し得るとはいえない。

(3) 更なる検討
上述のとおり、理由7は採用できるものではないが、仮に、申立人が主として指摘している甲4の段落【0110】に記載されている【表1】に記載されている実施例1に基づいて、当審において甲4発明を下記イのとおり認定したとしても、以下に示すとおり、理由7は採用できるものではない。

ア 甲4に記載されている事項
甲4には、以下の事項が記載されている。
なお、甲2には、上記3(3)アに摘記した事項が記載されている。
「【請求項1】
インクジェット記録用油性白色インク組成物であって、
白色顔料と、
該白色顔料が、アルミニウムおよび/または珪素の酸化物で被覆された、平均粒子径が0.15μm以上0.25μm以下である酸化チタン微粒子を、0.01質量%以上0.50質量%以下のSiH含有ポリシロキサンおよび/またはジメチルポリシロキサンでさらに被覆したものであり、
グリコールエーテルジアルキルエーテル類溶剤と、
アクリル系共重合物を含有する分散剤と、及び
グリコールエーテルジアルキルエーテル類溶剤又は環状エステル類溶剤中において、ラジカル重合開始剤を用いて溶液重合により得られたアクリル系樹脂とを含んでなる、インク組成物。
【請求項2】
前記白色顔料における酸化チタン微粒子が、前記インク組成物全量に対して、5質量%以上30質量%以下で添加されてなる、請求項1記載のインク組成物。
【請求項3】
前記グリコールエーテルジアルキルエーテル類が、下記一般式(I)で示されるポリオキシエチレングリコールジメチルエーテル、ポリオキシエチレングリコールジエチルエーテルまたはポリオキシエチレングリコールエチルメチルエーテルである、請求項1又は2に記載のインク組成物。
R1−(OC2H4)n−O−R2(I)
(上記式中、
R1およびR2は、それぞれ独立して、メチル基またはエチル基を示し、
nは2〜4の整数を示す)」
「【0007】
従って、現在、インク組成物の成分同士の溶解性(分散性)、インク組成物の長期保存安定性及び吐出安定性に優れ、かつ、印刷乾燥性を達成しうる、インクジェット記録用油性白色インク組成物の開発が急務とされている。」
「【0009】
本発明者等は、本発明時において、白色顔料として、特定の無機金属酸化物で被覆し、かつ、シロキサン系物質にて表面被覆した特定の平均粒子径を有する酸化チタンを採用し、かつ、グリコールエーテルジアルキルエーテル類溶剤等の有機溶剤により分散させることにより、長期保存安定性、吐出安定性、印刷物の下地に対する隠蔽性、印刷物の速乾性に極めて優れた、インクジェット記録用油性白色インク組成物が得られるとの知見を得た。本発明は、係る知見に基づいてなされたものである。」
「【0013】
I.インクジェット記録用油性白色インク組成物
<白色顔料>
本発明における白色顔料は、酸化チタン微粒子に下記の処理を施したものを主成分として使用する。本発明によるインク組成物における白色顔料の添加量は、該インク組成物全量に対して、5質量%以上30質量%以下であり、好ましくは下限値が10質量%以上であり上限値が25質量%以下である。」
「【0020】
<グリコールエーテルジアルキルエーテル類>
本発明で使用されるグリコールエーテルジアルキルエーテル類としては、好ましくは、下記一般式(I):
R1−(OC2H4)n−O−R2(I)
[上記式中、
R1およびR2は、それぞれ独立して、メチル基またはエチル基を示し、
nは2〜4の整数を示す]
で表されるポリオキシエチレングリコールジメチルエーテル、ポリオキシエチレングリコールジエチルエーテルまたはポリオキシエチレングリコールエチルメチルエーテルが挙げられる。これらのグリコールエーテルジアルキルエーテルは、一種又は二種以上の組み合わせで用いることもできる。このようなグリコールエーテルジアルキルエーテルは、高沸点、低蒸気圧のものであることから、作業環境に優れるものである。グリコールエーテルジアルキルエーテル類の添加量は、インク組成物中における全溶剤量100質量%に対して、5質量%以上100質量%以下であり、好ましくは下限値が10質量%以上であり、上限値が100質量%以下である。」
「【0029】
<環状エステル類溶剤>
本発明で使用する環状エステル類溶剤の具体例としては、五員環構造のγ−ラクトンや、六員環構造のδ‐ラクトン、七員環構造のε‐ラクトン等があり、例えばγ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、γ−カプリロラクトン、γ−ラウロラクトン、δ−バレロラクトン、δ−ヘキサラクトン、δ−ヘプタラクトン、ε−カプロラクトンの単独、またはそれらの混合物を用いることができる。環状エステル類溶剤は、本発明の好ましい態様においては、5員環のγ−ラクトン類であり、さらに好ましい態様においては、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトンである。環状エステル類溶剤を用いることによって、ポリ塩化ビニル基材に対する印刷品質をさらに改善することができる。」
「【0048】
[実施例1]
下記組成成分を、均一に混合分散して、粘度が4.0〜4.5mPa・sである実施例1のインクを調製した。
白色顔料 12質量部
(アルミナにて表面処理された平均一次粒子径0.21μmの二酸化チタンをさらにメチルハイドロジェンポリシロキサン(信越化学工業(株)製、メチルハイドロジェンポリシロキサンKF?99)にて0.12質量%処理したもの)
混合溶剤
ジエチレングリコールジエチルエーテル 51.3質量部
γ−ブチロラクトン 30.0質量部
重合体1 4.6質量部
アクリル系共重合物を含有する分散剤 2.1質量部
(ビックケミー・ジャパン社製、Disperbyk 2020、重量平均分子量12,000)」
「【0061】
評価試験
上記で調製した実施例1〜比較例7の各インクを使用して、下記評価を行った。印刷物の評価においては、各インクをインクジェットプリンタ(商品名:MJ−8000C:セイコーエプソン社製)に充填し印刷を行った上で下記評価試験を行った。評価結果は、下記表1に記載した通りであった。
評価1:隠蔽性評価試験
上記プリンターにて透明塩化ビニルフィルムにベタ印刷を実施し、該印刷物をマクベス濃度計(マクベス社製、TD−904)を使用して光の透過濃度を測定し、下記評価基準により評価した。
評価基準
評価A:印刷物の光の透過濃度が0.24以上であり、隠蔽性が優れていた。
評価B:印刷物の光の透過濃度が0.24未満であり、隠蔽性が劣っていた。」

イ 甲4に記載された発明

<甲4発明>
「白色顔料を12質量部
ジエチレングリコールジエチルエーテルを51.3質量部
γ−ブチロラクトンを30.0質量部
重合体1を4.6質量部
アクリル系共重合物を含有する分散剤2.1質量部
からなるインク組成物」

ウ 本件発明1と甲4発明の対比
甲4発明の「インク組成物」は、全成分の合計が100質量部であるから、甲4発明の「白色顔料を12質量部」は、本件発明1の「白色顔料10〜25質量%を含有し」を充足する。
甲4発明の「ジエチレングリコールジエチルエーテル」は、本件明細書の段落【0078】の【表1】に記載の本件発明の実施例において「溶剤b2」として使用されていることから、本件発明1の「γ−ブチロラクトンよりもポリ塩化ビニルの溶解力が低い溶剤b」及び「引火点が70℃超過である化合物b2」に相当する。
したがって、甲4発明は、本件発明1の「ポリ塩化ビニル粉末0.5gと、溶剤50gとを、ガラス瓶内で混合し、25℃で5分間撹拌し、静置し、静置してから25秒時点の、前記ガラス瓶底からの溶剤液面高さXと、膨潤又は溶解した前記ポリ塩化ビニル粉末が分布する前記ガラス瓶底からの高さYを測定して求められる比Y/Xを指標とするポリ塩化ビニルの溶解力について、
所定の溶剤の比Y/Xを基準に、ポリ塩化ビニルの溶解力が比Y/X−0.1未満である溶剤を前記所定の溶剤よりもポリ塩化ビニルの溶解力が低い溶剤とし、
所定の溶剤の比Y/Xを基準に、ポリ塩化ビニルの溶解力がY/X−0.1〜Y/X+0.1である溶剤を前記所定の溶剤とポリ塩化ビニルの溶解力が同等である溶剤とするときに」、「前記γ−ブチロラクトンよりもポリ塩化ビニルの溶解力が低い溶剤bと、を含有し」、及び、「前記溶剤bが、引火点が70℃超過である化合物b2とを含み」を充足する。
甲4発明の「インク組成物」は、甲4の「インクジェット記録用油性白色インク組成物」(【請求項1】)の具体的な態様に該当するものであるから、本件発明1の「溶剤系インクジェットインク組成物」を充足する。

そうすると、本件発明1と甲4発明の一致点、相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「ポリ塩化ビニル粉末0.5gと、溶剤50gとを、ガラス瓶内で混合し、25℃で5分間撹拌し、静置し、静置してから25秒時点の、前記ガラス瓶底からの溶剤液面高さXと、膨潤又は溶解した前記ポリ塩化ビニル粉末が分布する前記ガラス瓶底からの高さYを測定して求められる比Y/Xを指標とするポリ塩化ビニルの溶解力について、
所定の溶剤の比Y/Xを基準に、ポリ塩化ビニルの溶解力が比Y/X−0.1未満である溶剤を前記所定の溶剤よりもポリ塩化ビニルの溶解力が低い溶剤とし、
所定の溶剤の比Y/Xを基準に、ポリ塩化ビニルの溶解力がY/X−0.1〜Y/X+0.1である溶剤を前記所定の溶剤とポリ塩化ビニルの溶解力が同等である溶剤とするときに、
白色顔料10〜25質量%と、γ−ブチロラクトンと、前記γ−ブチロラクトンよりもポリ塩化ビニルの溶解力が低い溶剤bと、を含有し、
前記溶剤bが、引火点が70℃超過である化合物b2とを含む、
溶剤系インクジェットインク組成物。」

<相違点>
相違点7
γ−ブチロラクトンの含有量について、本件発明1は、「1.0〜7.0質量%」と特定されているのに対し、甲4発明は、「30.0」質量%である点

相違点8
溶剤bの含有量について、本件発明1は、「γ−ブチロラクトンの含有量1質量部に対して、10質量部以上」と特定されているのに対し、甲4発明は、γ−ブチロラクトンの含有量30.0質量部に対して、ジエチレングリコールジエチルエーテルを51.3質量部である(γ−ブチロラクトンの含有量1質量部に対して溶剤bが1.71質量部)である点

相違点9
溶剤bの種類について、本件発明1は、「前記溶剤bが、引火点が70℃以下である化合物b1を含み」と特定されているのに対し、甲4発明は、そのような特定を備えていない点

相違点10
本件発明1は、「γ−ブチロラクトンとポリ塩化ビニルの溶解力が同等である溶剤cと、をさらに含む」と特定されているのに対し、甲4発明は、そのような特定を備えていない点

エ 相違点の検討
(ア) 相違点7について
甲4発明の「インク組成物」は、甲4の「インクジェット記録用油性白色インク組成物」(【請求項1】)の具体的な態様に該当するものであり、当該インク組成物に含まれる溶剤について、【請求項1】には「グリコールエーテルジアルキルエーテル類溶剤」のみが記載されている。そして、甲4には、当該「グリコールエーテルジアルキルエーテル類溶剤」について、「本発明で使用されるグリコールエーテルジアルキルエーテル類としては、好ましくは、下記一般式(I)・・で表されるポリオキシエチレングリコールジメチルエーテル、ポリオキシエチレングリコールジエチルエーテル・・が挙げられる。これらのグリコールエーテルジアルキルエーテルは、一種又は二種以上の組み合わせで用いることもできる。このようなグリコールエーテルジアルキルエーテルは、高沸点、低蒸気圧のものであることから、作業環境に優れるものである。グリコールエーテルジアルキルエーテル類の添加量は、インク組成物中における全溶剤量100質量%に対して、5質量%以上100質量%以下であり、好ましくは下限値が10質量%以上であり、上限値が100質量%以下である。」(段落【0020】)と記載されており、また、甲4発明の「γ−ブチロラクトン」について、「本発明で使用する環状エステル類溶剤の具体例としては、五員環構造のγ−ラクトン・・等があり、例えばγ−ブチロラクトン・・の単独、またはそれらの混合物を用いることができる。環状エステル類溶剤は、本発明の好ましい態様においては、5員環のγ−ラクトン類であり、さらに好ましい態様においては、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトンである。環状エステル類溶剤を用いることによって、ポリ塩化ビニル基材に対する印刷品質をさらに改善することができる。」(【0029】)と記載されている(下線は当審による。)。
これらの記載によると、甲4発明の「γ−ブチロラクトン」は、ポリ塩化ビニル基材に対する印刷品質をさらに改善するために30.0質量部(30.0質量%)という含有量で用いられていることが理解できる。また、その含有量を、本件発明1の「1.0〜7.0質量%」という少量(30質量%の約4分の1〜30分の1に当たる量)に減らすとポリ塩化ビニル基材に対する印刷品質が損なわれる蓋然性が高いとも理解できる。
そうすると、甲4発明において、γ−ブチロラクトンの含有量を本件発明1の「1.0〜7.0質量%」に減らして相違点7に係る事項を充足するものとすることには強い阻害要因があると認められるから、甲2にどのような事項が記載されているとしても、当業者が容易になしえた事項であるとは認められない。

(イ) 相違点9、10について
甲4には、溶剤として、グリコールエーテルジアルキルエーテル類溶剤、及び、環状エステル類溶剤のみが記載されているのであって、これら以外の溶剤を使用することに関する記載はない。また、グリコールエーテルジアルキルエーテル類溶剤は、高沸点、低蒸気圧のものを選択することによって、作業環境に優れたものとするという観点で選択されているものであり、環状エステル類溶剤は、ポリ塩化ビニル基材に対する印刷品質をさらに改善するという観点で選択されているものであって、甲4には、溶剤の選択について、本件発明1の「ポリ塩化ビニル粉末0.5gと、溶剤50gとを、ガラス瓶内で混合し、25℃で5分間撹拌し、静置し、静置してから25秒時点の、前記ガラス瓶底からの溶剤液面高さXと、膨潤又は溶解した前記ポリ塩化ビニル粉末が分布する前記ガラス瓶底からの高さYを測定して求められる比Y/Xを指標とするポリ塩化ビニルの溶解力について、
所定の溶剤の比Y/Xを基準に、ポリ塩化ビニルの溶解力が比Y/X−0.1未満である溶剤を前記所定の溶剤よりもポリ塩化ビニルの溶解力が低い溶剤とし、
所定の溶剤の比Y/Xを基準に、ポリ塩化ビニルの溶解力がY/X−0.1〜Y/X+0.1である溶剤を前記所定の溶剤とポリ塩化ビニルの溶解力が同等である溶剤とするときに、
γ−ブチロラクトンと、前記γ−ブチロラクトンよりもポリ塩化ビニルの溶解力が低い溶剤bと、を含有し、
前記溶剤bが、引火点が70℃以下である化合物b1と、引火点が70℃超過である化合物b2とを含み、
前記γ−ブチロラクトンとポリ塩化ビニルの溶解力が同等である溶剤cと、をさらに含む」ものとすることについて記載も示唆もない。
そうすると、甲4発明において、さらに、本件発明1の「γ−ブチロラクトンよりもポリ塩化ビニルの溶解力が低い溶剤bと、を含有し」、「前記溶剤bが、引火点が70℃以下である化合物b1を含み」、及び、「γ−ブチロラクトンとポリ塩化ビニルの溶解力が同等である溶剤cと、をさらに含む」ものとすることを着想し、相違点9、及び、10に係る事項を充足するものとすることは、当業者が容易になしえた事項であるとは認められない。

オ 効果について
本件特許発明1は、相違点7〜10に係る事項を備えることにより、印刷ムラ、光沢、ドットサイズ、摩擦堅牢性、表面乾燥性、及び、印刷物ミストに優れているという効果を奏するものであると認められる(段落【0078】の【表1】)。

カ 本件発明1についてのまとめ
以上のとおりであるから、相違点8についてさらに検討するまでもなく、本件発明1は、甲4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

キ 本件発明2〜7について
本件発明2〜7は、本件発明1を直接又は間接的に引用し、さらに限定したものに該当するところ、上記カのとおり、本件発明1は、甲4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも認められないものである。
そうすると、さらに検討するまでもなく、本件発明2〜7も、本件発明1と同様の理由により、甲4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも認められないものである。

6 取消理由8、9について
(1) 特許異議申立人が主張する理由8、9の概要
取消理由8、9は、要するに、本件発明1の実施例に該当するものは、本件明細書の【0078】の記載を参照すると、実施例1、6、7に限られるところ、本件発明1は、白色顔料とγ−ブチロラクトンと溶剤b以外の成分を最大で79質量%も含みうるものであり、また、溶剤cの含有量が極端に少ない場合を含みうるものであり、また、ジエチレングリコールジメチルエーテル以外の物質を化合物b1として使用する場合や、ジエチレングリコールジエチルグリコール以外の物質を化合物b2として使用する場合を含むものである。そして、このような態様においても実施例と同様に課題を解決できるといえる蓋然性はないし技術常識もない。そうすると、本件発明1の全範囲にまで拡張ないし一般化することはできないし、したがって実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえないというものである。

(2) 検討
本件発明が解決しようとする課題は、本件明細書の【0004】、【0005】の記載を参照すると、「乾燥性に優れ、摩擦堅牢性、及び、光沢やドットサイズなどの埋まり性に優れる記録物を得ることのできる溶剤系インクジェットインク組成物及びインクジェット記録方法を提供すること」であると認められる。
また、本件明細書には実施例1、6、7が記載されているなど、本件明細書の記載に基づいて、本件発明が、「乾燥性に優れ、摩擦堅牢性や光沢、ドットサイズなどの埋まり性に優れた記録物を得ることができる溶剤系インクジェットインク組成物を得ることができる」という効果を奏するものであることが裏付けられていると認められる。
これに対し、申立人の主張は、要するに、本件発明の範囲が広いので課題を解決することができない態様を含んでいる可能性があると指摘するにとどまるものであって、具体的に課題を解決することができない態様が包含されていることを立証したり、立証するまでもないといえるような理論的な根拠(証拠)を提出しているわけではない。
そうすると、本件の特許請求の範囲の記載にいわゆるサポート要件違反があるとまではいえない。
また、サポート要件違反は、特許請求の範囲の記載に係るものであり、実施可能要件違反は明細書の発明の詳細な説明の記載に関するものであって、その対象や判断手法が異なるものであり、それぞれ、峻別して判断されるべきものであり、サポート要件違反であるから実施可能要件違反であるなどという主張は、検討するまでもなく採用できない。

第6 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項1〜7に係る発明の特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由のいずれによっても、取り消すべきものとすることはできない。また、他に本件請求項1〜7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】溶剤系インクジェットインク組成物
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶剤系インクジェットインク組成物及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、比較的単純な装置で、高精細な画像の記録が可能であり、各方面で急速な発展を遂げている。その中で、吐出安定性等について種々の検討がなされている。例えば、特許文献1には、浸透乾燥性に優れ、印刷物のローラー転写汚れを抑制することが可能であって、吐出安定性および貯蔵安定性にも優れた油性インクジェットインクを提供することを目的として、少なくとも顔料、顔料分散剤、溶剤を含む油性インクジェットインクにおいて、前記溶剤に、炭化水素系溶剤(A)、1分子内に少なくともエステル基とエーテル基とを有する溶剤(B)、炭化水素系溶剤および1分子内に少なくともエステル基とエーテル基とを有する溶剤に溶解する溶剤(C)を含む油性インクジェットインクが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−12432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のように浸透性が低い(樹脂溶解力が小さい)溶剤を用いる場合、例えばサイン用被記録媒体に広く適用されている塩化ビニルメディアでは、インク組成物が定着しにくく、記録物の摩擦堅牢性が低下する。これは、上記溶剤が塩化ビニルを溶解しにくく、インク組成物の被記録媒体への定着力が小さいことに起因する。また摩擦堅牢性向上の目的で、インク組成物に定着樹脂を溶解して配合する場合、溶解力が不足して十分な量の定着樹脂を配合できないことがある。更には、樹脂溶解力が小さい溶剤を多く配合すると、インク組成物が被記録媒体の深さ方向に浸透せず、表面を濡れ広がるため、記録物の埋まり性は向上するものの、印刷物のにじみや印刷ムラが悪化する。一方、樹脂溶解力が大きい溶剤を多く配合すると、インク組成物が被記録媒体の深さ方向に浸透するため、表面を広がりにくくなり記録物の埋まり性やレベリング性(光沢性)が低下する。
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、乾燥性に優れ、摩擦堅牢性、及び、光沢やドットサイズなどの埋まり性に優れる記録物を得ることのできる溶剤系インクジェットインク組成物及びインクジェット記録方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、所定の溶剤組成を用いることにより上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕
顔料と、環状エステルである溶剤aと、前記溶剤aよりもポリ塩化ビニルの溶解力が低い溶剤bと、を含有し、
前記溶剤aの含有量が、1.0〜7.0質量%であり、
前記溶剤bの含有量が、前記溶剤aの含有量1質量部に対して、10質量部以上である、
溶剤系インクジェットインク組成物。
〔2〕
前記顔料が、白色顔料を含む、前項〔1〕に記載の溶剤系インクジェットインク組成物。
〔3〕
グリコールモノエーテル溶剤を含み、
該グリコールモノエーテル溶剤の含有量が、4.0〜20質量%である、前項〔1〕又は〔2〕に記載の溶剤系インクジェットインク組成物。
〔4〕
前記溶剤bが、下記式(1)で表される化合物を含む、前項〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載の溶剤系インクジェットインク組成物。
式(1) R1O−(R2O)m−R3
(式中、R1は、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、R2は、炭素数2〜3のアルキレン基であり、R3は、炭素数1〜4のアルキル基であり、mは、2〜4の整数である。)
〔5〕
前記溶剤bが、引火点が70℃以下である化合物b1を含み、
該化合物b1の含有量が、前記溶剤bの総量に対して、50質量%以上である、前項〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載の溶剤系インクジェットインク組成物。
〔6〕
前記化合物b1の含有量が、前記溶剤aの含有量1質量部に対して、10質量部以上である、前項〔5〕に記載の溶剤系インクジェットインク組成物
〔7〕
被記録媒体に対して前記溶剤インクジェットインク組成物を付着させる付着工程を有するインクジェット記録方法に用いるものであり、前記インクジェット記録方法が、前記被記録媒体の付着領域における付着量が10〜70mg/inch2である付着工程を含むものである、前項〔1〕〜〔6〕のいずれか1項に記載の溶剤系インクジェットインク組成物。
〔8〕
水をさらに含有し、
該水の含有量が、3.0質量%以下である、前項〔1〕〜〔7〕のいずれか1項に記載の溶剤系インクジェットインク組成物。
〔9〕
被記録媒体に対して、前項〔1〕〜〔8〕のいずれか1項に記載の溶剤系インクジェットインク組成物を付着させる付着工程を有する、インクジェット記録方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、本明細書において「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びそれに対応するメタクリレートの両方を意味する。
【0009】
〔溶剤系インクジェットインク組成物〕
本実施形態の溶剤系インクジェットインク組成物(以下、単に「インク組成物」ともいう。)は、顔料と、環状エステルである溶剤aと、前記溶剤aよりもポリ塩化ビニルの溶解力が低い溶剤bと、を含有し、前記溶剤aの含有量が、1.0〜7.0質量%であり、前記溶剤bの含有量が、前記溶剤aの含有量1質量部に対して、10質量部以上である。
【0010】
溶剤系インク組成物は、水を主要な溶媒成分とするものではなく、インクの機能や性能を奏するための機能成分としては水を含有しないインク組成物である。インク組成物に対する水の含有量は5質量%以下であり、好ましくは3質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以下であり、特に好ましくは0.5質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以下であり、さらには水を含有しないとしてもよい。溶剤系インク組成物の溶剤の含有量は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70〜98質量%である。また、被記録媒体上に付着させた後、加熱あるいは常温により溶剤を乾燥させて固形分を定着させて記録を行う非光硬化型インクとすることが好ましい。放射線(光)を照射して硬化させる光硬化型インクとしてもよいが、放射線照射を不要とする点で非光硬化型インクが好ましい。
【0011】
溶剤系インクジェットインク組成物に含まれる溶剤は、多様な機能を有する。例えば、沸点の低い溶剤は乾燥性がよく印刷ムラが良好であり、沸点の高い溶剤は乾燥が緩やかで得られる記録物の埋まり性や光沢性を向上させる。また、被記録媒体を溶解しやすい溶剤は、得られる記録物の摩擦堅牢性を向上させるし、被記録媒体を溶解しにくい溶剤は、濡れ広がりに優れ、得られる記録物の埋まり性や光沢性を向上させる。
【0012】
このような観点において、環状エステル溶剤は、ポリ塩化ビニル等の非吸収性記録媒体を相対的に溶解しやすい溶剤であり、摩擦堅牢性に優れる記録物を得ることができるという利点を有する。また、乾燥性も良好である。一方で、この環状エステル溶剤の被記録媒体に対する挙動を観察したところ、被記録媒体を厚さ方向に溶解しやすいことから、面方向へのインクの広がりが十分でないという問題がある。
【0013】
これに対して、本実施形態のインク組成物は、所定の溶剤組成を有することにより、摩擦堅牢性及び埋まり性の両方に優れる記録物を得ることができる。以下、各成分について説明する。
【0014】
〔顔料〕
顔料としては、特に限定されないが、例えば、以下のものが挙げられる。
【0015】
ブラック顔料としては、特に限定されないが、例えば、No.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No.2200B等(以上、三菱化学社(Mitsubishi Chemical Corporation)製)、Raven 5750、Raven 5250、Raven 5000、Raven 3500、Raven 1255、Raven 700等(以上、コロンビアカーボン(Carbon Columbia)社製)、Regal 400R、Regal 330R、Regal 660R、Mogul L、Monarch 700、Monarch 800、Monarch 880、Monarch 900、Monarch 1000、Monarch 1100、Monarch 1300、Monarch 1400等(キャボット社(CABOT JAPAN K. K.)製)、Color Black FW1、Color Black FW2、Color Black FW2V、Color Black FW18、Color Black FW200、Color Black S150、Color Black S160、Color Black S170、Printex 35、Printex U、Printex V、Printex 140U、Special Black 6、Special Black 5、Special Black 4A、Special Black 4(以上、デグッサ(Degussa)社製)が挙げられる。
【0016】
ホワイト顔料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.ピグメントホワイト 6、18、21、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化アンチモン、及び酸化ジルコニウムの白色無機顔料が挙げられる。当該白色無機顔料以外に、白色の中空樹脂粒子及び高分子粒子などの白色有機顔料を使用することもできる。
【0017】
イエローインクに使用される顔料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.ピグメントイエロー 1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、16、17、24、34、35、37、53、55、65、73、74、75、81、83、93、94、95、97、98、99、108、109、110、113、114、117、120、124、128、129、133、138、139、147、151、153、154、167、172、180が挙げられる。
【0018】
マゼンタ顔料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.ピグメントレッド 1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、40、41、42、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、88、112、114、122、123、144、146、149、150、166、168、170、171、175、176、177、178、179、184、185、187、202、209、219、224、245、又はC.I.ピグメントヴァイオレット 19、23、32、33、36、38、43、50が挙げられる。
【0019】
シアン顔料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.ピグメントブルー 1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:34、15:4、16、18、22、25、60、65、66、C.I.バットブルー 4、60が挙げられる。
【0020】
また、マゼンタ、シアン、及びイエロー以外のカラーインクに使用される顔料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.ピグメントグリーン 7,10、C.I.ピグメントブラウン 3,5,25,26、C.I.ピグメントオレンジ 1,2,5,7,13,14,15,16,24,34,36,38,40,43,63が挙げられる。
【0021】
パール顔料としては、特に限定されないが、例えば、二酸化チタン被覆雲母、魚鱗箔、酸塩化ビスマス等の真珠光沢や干渉光沢を有する顔料が挙げられる。
【0022】
メタリック顔料としては、特に限定されないが、例えば、アルミニウム、銀、金、白金、ニッケル、クロム、錫、亜鉛、インジウム、チタン、銅などの単体又は合金からなる粒子が挙げられる。
【0023】
このなかでも、白色顔料が好ましい。埋まり性の低下に由来する記録物の画質の低下の問題は、下地として記録され得ることに加え、高い隠蔽性が要求される白色顔料を含むインク組成物においてより顕著となる。例えば、白色顔料を含むインク組成物は、下地として利用される際には、埋まり性をよくすることを目的として多量に被記録媒体に付与される。しかしながら、インク組成物の被記録媒体上の濡れ広がりが不十分である場合には、埋まり性の良い下地を得ることが困難である。しかも、もともと下地として付与されるインク組成物の量は多量であるため、さらにインク組成物の付与量を増やすことにより、埋まり性を確保しようとすれば、印刷速度や乾燥性の低下が問題となる。また、例えば、白色顔料を含むインク組成物を、透明フィルムに対して、雪などを表現するために用いるような場合にも、上記同様埋まり性のよい画像が求められる。このような観点から、白色顔料を含むインク組成物においては、本実施形態のインク組成物が特に好ましい。
【0024】
また、カラー顔料を含むインク組成物においても、インク組成物の被記録媒体上の濡れ広がりが不十分となり埋まり性が低下する場合には、描画された線幅が低くなったりするため、本実施形態のインク組成物が好ましい。
【0025】
顔料の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは10〜25質量%であり、より好ましくは12.5〜20質量%であり、さらに好ましくは15〜17.5質量%である。
【0026】
〔溶剤a〕
溶剤aは、環状エステルである。環状エステルとしては、特に限定されないが、例えば、エステル結合による環状構造を持つ化合物であり、5員環構造のγ−ラクトンや6員環構造のδ−ラクトン、7員環構造のε−ラクトン等が挙げられる。具体的には、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−ヘキサラクトン、γ−ヘプタラクトン、γ−オクタラクトン、γ−ノナラクトン、γ−デカラクトン、γ−ウンデカラクトン、δ−バレロラクトン、δ−ヘキサラクトン、δ−ヘプタラクトン、δ−オクタラクトン、δ−ノナラクトン、δ−デカラクトン、δ−ウンデカラクトン、ε−カプロラクタムが挙げられる。このなかでも、5員環構造のラクトンが好ましく、γ−ブチロラクトンがより好ましい。
【0027】
溶剤aの含有量は、インク組成物の総量に対して、1.0〜7.0質量%であり、好ましくは2.0〜6.0質量%であり、より好ましくは2.0〜5.0質量%である。溶剤aの含有量が1.0質量%以上であることにより、得られる記録物の耐擦性がより向上する。また、溶剤aの含有量が7.0質量%以下であることにより、得られる記録物の埋まり性がより向上する。
【0028】
〔溶剤b〕
溶剤bは、溶剤aよりもポリ塩化ビニルの溶解力が低い溶剤である。本実施形態において、「ポリ塩化ビニルの溶解力」とは、下記PVC溶解性試験で定義される。
【0029】
(PVC溶解性試験)
ポリ塩化ビニル(PVCストレートポリマーTK−800、信越化学工業社製)0.5gと、溶剤50gとを、ガラス瓶内で混合し、25℃で5分間撹拌する。その後、静置し、静置してから25秒時点の、ガラス瓶底からの溶剤液面高さXと、膨潤又は溶解したポリ塩化ビニル粉末が分布するガラス瓶底からの高さYを測定する。得られたX及びYにより、比Y/Xを求め、これをポリ塩化ビニルの溶解力の指標とする。
【0030】
ポリマーの溶解は、溶剤がポリマー鎖間などに入り込むことによる膨潤から始まり、目視にて、観察しえない程度に分散する状態(溶解)へとすすむ。本試験においては、溶剤のポリ塩化ビニルの溶解力が高いほど、ポリ塩化ビニル粉末は膨潤し、体積当たりの比重が軽くなる。そして、膨潤したポリ塩化ビニル粉末ほど、静置時にゆっくり沈降する。したがって、静置してから25秒時点の比Y/Xを求めることによりポリ塩化ビニルの溶解力を相対的に規定することが可能となる。なお、ポリ塩化ビニル粉末が撹拌段階ですべて溶解してしまった場合には、Yを測定することができないため、比Y/Xを求めることはできないが、この場合は、明らかにポリ塩化ビニルの溶解力の高い溶剤とみなすことができる。
【0031】
溶剤のポリ塩化ビニルの溶解力が低い場合、ポリ塩化ビニルの不溶分の存在割合が高くなるため、ポリ塩化ビニルは底付近に集まる。すなわち、比Y/Xは小さくなる。一方、溶剤のポリ塩化ビニルの溶解力が高い場合、ポリ塩化ビニルの膨潤分の存在割合が高くなるため、Yが高くなる。すなわち、比Y/Xは大きくなる。溶剤のポリ塩化ビニルの溶解力がさらに高い場合、ポリ塩化ビニルが完全溶解すると、底部に集まるPVCは消失する。
【0032】
以上の方法で、環状エステルであるγ−ブチロラクトンを試験すると、Y/X=0.8となる。γ−ブチロラクトンのPVC溶解性指標を0.7≦Y/X≦0.9の値域とした場合、各種溶剤類の溶解性は以下のようになる。
【0033】
Y/Xが0.9超過であり、γ−ブチロラクトンよりもポリ塩化ビニルの溶解力が高い溶剤:1,3−ジオキソラン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、N,N−ジメチル−β−メトキシプロピオンアミド(出光社製製品名:エクアミドM100)
【0034】
Y/Xが0.7以上0.9以下であり、γ−ブチロラクトンとポリ塩化ビニルの溶解力が同等である溶剤:ジエチレングリコールモノメチルエーテル、コハク酸ジメチル、コハク酸ジエチル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル
【0035】
Y/Xが0.7未満であり、γ−ブチロラクトンよりもポリ塩化ビニルの溶解力が低い溶剤:1,4−ジオキサン、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジメチルスルホキシド、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、ペンタエチレングリコールモノブチルエーテル
【0036】
このように、本実施形態では、溶剤aのY/Xを測定し、Y/X+0.1超過である溶剤を、溶剤aよりもポリ塩化ビニルの溶解力が高い溶剤dとし、Y/X−0.1〜Y/X+0.1の値域における溶剤を、溶剤aとポリ塩化ビニルの溶解力が同等である溶剤cとし、Y/X−0.1未満である溶剤を、溶剤aよりもポリ塩化ビニルの溶解力が低い溶剤bとする。なお、上記のYの測定が困難な溶剤も、溶剤aよりもポリ塩化ビニルの溶解力が高い溶剤dとする。さらに、溶剤aを2種以上使用する場合には、各々の溶剤aについてY/Xを測定し、測定されたY/Xと各溶剤aの含有量の平均値を溶解力とする。例えば、Y/XがAである溶剤a1と、Y/XがBである溶剤a2を用いる場合には、溶剤aの溶解力は下記式で求めることができる。
溶解力=(A×溶剤a1の含有量+B×溶剤a2の含有量)/(溶剤a1の含有量+溶剤a2の含有量)
【0037】
なお、γ−ブチロラクトン以外の環状エステルのY/Xも上記同様の方法により求めることができる。
【0038】
溶剤bとしては、特に限定されないが、例えば、グリコールモノエーテル溶剤、グリコールジエーテル溶剤、環状エーテル溶剤が挙げられる。このなかでも、グリコールモノエーテル溶剤、グリコールジエーテル溶剤が好ましい。このような溶剤を用いることにより、得られる記録物の埋まり性がより向上する傾向にある。
【0039】
グリコールモノエーテル溶剤又はグリコールジエーテル溶剤としては、特に限定されないが、例えば、下記式(1)で表される化合物が挙げられる。このような溶剤を用いることにより、得られる記録物の埋まり性がより向上する傾向にある。
式(1) R1O−(R2O)m−R3
(式中、R1は、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、R2は、炭素数2〜3のアルキレン基であり、R3は、炭素数1〜4のアルキル基であり、mは、2〜4の整数である。)
【0040】
また、溶剤bとしては、引火点が70℃以下である化合物b1を用いることが好ましい。引火点が70℃以下である化合物b1としては、特に限定されないが、例えば、グリコールジエチルエーテル(35℃)、エチレングリコールジメチルエーテル(−6℃)、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル(63℃)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(56℃)、プロピレングリコールジメチルエーテル(6.5℃)が挙げられる(カッコ内は引火点)。
【0041】
ここで、「引火点」とは、タグ密閉式引火点試験器による引火点が80℃以下では無い場合はクリーブランド開放式引火点試験器による引火点とし、タグ密閉式引火点試験器による引火点が80℃以下の場合は、当該引火点における溶剤の動粘度が10cSt未満の場合はタグ密閉式引火点試験器による引火点とし、当該引火点における溶剤の動粘度が10cSt以上の場合はセタ密閉式引火点試験器による引火点とする。
【0042】
化合物b1の含有量は、溶剤bの総量に対して、好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは40質量%以上であり、さらに好ましくは50質量%以上である。また、化合物b1の含有量は、溶剤bの総量に対して、好ましくは70質量%以下である。化合物b1の含有量が30質量%以上であることにより、乾燥性が向上し、得られる記録物の印刷ムラが抑制され、ドットサイズも大きくなる傾向にある。また、化合物b1の含有量が70質量%以下であることにより、得られる記録物の光沢性がより向上する傾向にある。
【0043】
また、化合物b1の含有量は、溶剤aの含有量1質量部に対して、好ましくは5.0質量部以上であり、より好ましくは10質量部以上であり、さらに好ましくは15質量部以上である。また、化合物b1の含有量は、溶剤aの含有量1質量部に対して、好ましくは20質量部以下である。化合物b1の含有量が5.0質量部以上であることにより、乾燥性が向上し、ドットサイズが大きくなる傾向にある。また、化合物b1の含有量が20質量部以下であることにより、摩擦堅牢性がより向上する傾向にある。
【0044】
さらに、溶剤bとしては、引火点が70℃超過である化合物b2を用いることが好ましい。引火点が70℃超過である化合物b2としては、特に限定されないが、例えば、ジエチレングリコールジエチルエーテル(70.8℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(78℃)、エチレングリコールジブチルエーテル(85℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(86℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(93℃)、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル(94℃)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(111℃)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(118℃)、トリエチレングリコールモノエチルエーテル(135℃)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(138℃)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(141℃)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(143℃)、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル(161℃)、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル(177℃)が挙げられる(カッコ内は引火点)。
【0045】
化合物b2の含有量は、溶剤bの総量に対して、好ましくは15質量%以上であり、より好ましくは20質量%以上であり、さらに好ましくは25質量%以上である。また、化合物b2の含有量は、溶剤bの総量に対して、好ましくは70質量%以下であり、より好ましくは50質量%以下であり、さらに好ましくは35質量%以下である。化合物b2の含有量が15質量%以上であることにより、得られる記録物の摩擦堅牢性傾向にある。また、化合物b2の含有量が35質量%以下であることにより、乾燥性が向上し、得られる記録物の印刷ムラが抑制され、ドットサイズも大きくなるがより向上する傾向にある。
【0046】
溶剤bの含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは40〜75質量%であり、より好ましくは45〜70質量%であり、さらに好ましくは50〜70質量%である。溶剤bの含有量が40質量%以上であることにより、得られる記録物の光沢性がより向上する傾向にある。また、溶剤bの含有量が75質量%以下であることにより、得られる記録物の摩擦堅牢性がより向上する傾向にある。
【0047】
また、溶剤bの含有量は、溶剤aの含有量1質量部に対して、10質量部以上であり、好ましくは12.5質量部以上であり、より好ましくは15質量部以上である。また、溶剤bの含有量は、溶剤aの含有量1質量部に対して、好ましくは35質量部以下であり、より好ましくは30質量部以下であり、さらに好ましくは25質量部以下である。溶剤bの含有量が10質量部以上であることにより、得られる記録物の光沢がより向上する。また、溶剤bの含有量が35質量部以下であることにより、得られる記録物の印刷ムラが抑制され、ドットサイズがより向上する傾向にある。
【0048】
〔溶剤c〕
本実施形態のインク組成物は、溶剤aとポリ塩化ビニルの溶解力が同等である溶剤cをさらに含有してもよい。溶剤cとしては、特に限定されないが、例えば、グリコールモノエーテル溶剤、グリコールジエーテル溶剤、エステル溶剤が挙げられる。
【0049】
溶剤cの含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは5.0〜35質量%であり、より好ましくは7.5〜32.5質量%であり、さらに好ましくは10〜30質量%である。溶剤cの含有量が5.0質量%以上であることにより、得られる記録物の摩擦堅牢性がより向上する傾向にある。また、溶剤cの含有量が35質量%以下であることにより、得られる記録物の光沢がより向上する傾向にある。
【0050】
また、溶剤cの含有量は、溶剤aの含有量1質量部に対して、好ましくは1.0〜12.5質量部であり、より好ましくは2.5〜10質量部であり、さらに好ましくは5.0〜7.5質量部である。溶剤cの含有量が1.0質量部以上であることにより、得られる記録物の摩擦堅牢性がより向上する傾向にある。また、溶剤cの含有量が12.5質量部以下であることにより、得られる記録物の光沢がより向上する傾向にある。
【0051】
〔溶剤d〕
本実施形態のインク組成物は、溶剤aよりポリ塩化ビニルの溶解力が高い溶剤dをさらに含有してもよい。溶剤dとしては、特に限定されないが、例えば、グリコールモノエーテル溶剤、グリコールジエーテル溶剤、環状エーテル溶剤、アミド系溶剤が挙げられる。
【0052】
溶剤dの含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは1.0〜12.5質量%であり、より好ましくは1.5〜10質量%であり、さらに好ましくは2.5〜7.5質量%である。溶剤dの含有量が1.0質量%以上であることにより、得られる記録物の摩擦堅牢性がより向上する傾向にある。また、溶剤dの含有量が12.5質量%以下であることにより、乾燥性が向上し、ドットサイズがより大きくなる傾向にある。
【0053】
また、溶剤dの含有量は、溶剤aの含有量1質量部に対して、好ましくは0.25〜1.75質量部であり、より好ましくは0.50〜1.5質量部であり、さらに好ましくは0.75〜1.25質量部である。溶剤dの含有量が0.25質量部以上であることにより、得られる記録物の摩擦堅牢性がより向上する傾向にある。また、溶剤dの含有量が1.75質量部以下であることにより、乾燥性が向上し、ドットサイズがより大きくなる傾向にある。
【0054】
〔グリコールモノエーテル溶剤〕
本実施形態のインク組成物は、グリコールモノエーテル溶剤を含んでもよい。グリコールモノエーテル溶剤を含むことにより、乾燥性が向上し、ドットサイズがより大きくなる傾向にある。なお、グリコールモノエーテル溶剤は、溶剤b〜dに該当するものであってもよい。すなわち、グリコールモノエーテル溶剤は、溶剤aよりもポリ塩化ビニルの溶解力が高い溶剤であっても、溶剤aとポリ塩化ビニルの溶解力が同等の溶剤であっても、溶剤aよりもポリ塩化ビニルの溶解力が低い溶剤であってもよい。
【0055】
グリコールモノエーテル溶剤としては、特に限定されないが、例えば、下記式(2)で表される化合物が挙げられる。
式(2) R1O−(R2O)m−H
(式中、R1は、炭素数1〜4のアルキル基であり、R2は、炭素数2〜3のアルキレン基であり、mは、2〜4の整数である。)
【0056】
このようなグリコールモノエーテルとしては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル(44℃)、エチレングリコールモノエチルエーテル(43℃)、エチレングリコールモノブチルエーテル(60℃)、エチレングリコールモノメチルエーテル(41℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(86℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(78℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(93℃)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(79℃)、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル(96℃)、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル(161℃)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(138℃)、トリエチレングリコールモノエチルエーテル(135℃)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(143℃)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(38.5℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(36℃)が挙げられる(カッコ内は引火点)。グリコールモノエーテルは、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0057】
グリコールモノエーテルの引火点は、好ましくは70〜200℃であり、より好ましくは75〜190℃であり、さらに好ましくは75〜180℃である。グリコールモノエーテルの引火点が上記範囲内であることにより、乾燥性がより向上する傾向にある。
【0058】
グリコールモノエーテル溶剤の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは4.0〜20質量%であり、より好ましくは5.0〜15質量%であり、さらに好ましくは5.0〜10質量%である。グリコールモノエーテル溶剤の含有量が4.0質量%以上であることにより、得られる記録物の印刷ムラが抑制され、ドットサイズがより大きくなり、乾燥性がより向上する傾向にある。また、グリコールモノエーテル溶剤の含有量が20質量%以下であることにより、得られる記録物の光沢及び摩擦堅牢性がより向上する傾向にある。
【0059】
〔水〕
本実施形態のインク組成物は、水をさらに含有してもよい。水としては、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、及び蒸留水等の純水、並びに超純水のような、イオン性不純物を極力除去したものが挙げられる。
【0060】
水の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは3.0質量%以下であり、より好ましくは2.0質量%以下であり、さらに好ましくは1.0質量%以下である。また、水の含有量の下限は、特に限定されないが、0質量%が好ましい。水の含有量が上記範囲内であることにより、インク組成物の保存安定性がより向上する傾向にある。
【0061】
〔樹脂〕
インク組成物は、樹脂をさらに含んでもよい。樹脂を含むことにより、耐擦性がより向上する傾向にある。樹脂としては、特に限定されないが、例えば、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂、セルロースアセテートブチレート等の繊維系樹脂、(メタ)アクリル樹脂、スチレン(メタ)アクリル樹脂、ロジン変性樹脂、フェノール樹脂、テルペン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ビニルトルエン−α−メチルスチレン共重合体樹脂等が挙げられる。このなかでも(メタ)アクリル樹脂が好ましい。このような樹脂を用いることにより、耐擦性がより向上する傾向にある。
【0062】
樹脂の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは0.10〜7.5質量%であり、より好ましくは0.50〜5.0質量%であり、さらに好ましくは1.0〜2.5質量%である。樹脂の含有量が上記範囲内であることにより、インク組成物の粘度を低く抑えた上で耐擦性がより向上する傾向にある。
【0063】
〔界面活性剤〕
インク組成物は、界面活性剤をさらに含んでもよい。界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、及びシリコーン系界面活性剤が挙げられる。これらの中でも、記録物の摩擦堅牢性向上の観点から、シリコーン系界面活性剤が好ましい。
【0064】
界面活性剤の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは0.10〜7.5質量%であり、より好ましくは0.50〜5.0質量%であり、さらに好ましくは1.0〜2.5質量%である。
【0065】
〔分散剤〕
インク組成物は、顔料を分散させる分散剤をさらに含んでもよい。分散剤としては、特に限定されないが、例えば、アニオン系分散剤、ノニオン系分散剤、高分子分散剤が挙げられる。
【0066】
アニオン系分散剤としては、特に限定されないが、例えば、芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物、β−ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、及び、クレオソート油スルホン酸のホルマリン縮合物が挙げられる。
【0067】
上記芳香族スルホン酸としては、特に限定されないが、例えば、クレオソート油スルホン酸、クレゾールスルホン酸、フェノールスルホン酸、β−ナフトールスルホン酸、メチルナフタレンスルホン酸、ブチルナフタレンスルホン酸等のアルキルナフタレンスルホン酸、β−ナフタレンスルホン酸とβ−ナフトールスルホン酸との混合物、クレゾールスルホン酸と2−ナフトール−6−スルホン酸との混合物、リグニンスルホン酸等が挙げられる。
【0068】
ノニオン系分散剤としては、特に限定されないが、例えば、フィトステロールのエチレンオキサイド付加物、コレスタノールのエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0069】
高分子分散剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリアクリル酸部分アルキルエステル、ポリアルキレンポリアミン、ポリアクリル酸塩、スチレン−アクリル酸共重合物、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合物等が挙げられる。
【0070】
分散剤の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは0.10〜7.5質量%であり、より好ましくは0.50〜5.0質量%であり、さらに好ましくは1.0〜2.5質量%である。
【0071】
〔その他の成分〕
本実施形態で用いるインク組成物は、その保存安定性及びヘッドからの吐出安定性を良好に維持するため、目詰まり改善のため、又はインク組成物の劣化を防止するため、溶解助剤、粘度調整剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、腐食防止剤、及び分散に影響を与える金属イオンを捕獲するためのキレート化剤などの、種々の添加剤を適宜添加することもできる。
【0072】
〔インクジェット記録方法〕
本実施形態のインクジェット記録方法は、被記録媒体に対して、上記溶剤系インクジェットインク組成物を付着させる付着工程を有する。
【0073】
付着工程において、インク組成物の被記録媒体のインク組成物の付着領域に対する付着量が、10〜70mg/inch2であり、より好ましくは15〜60mg/inch2であり、さらに好ましくは20〜50mg/inch2である付着工程を含むことが好ましい。付着量が、上記範囲内であっても、本実施形態のインク組成物は、乾燥性に優れ、かつ、摩擦堅牢性及び埋まり性に優れる記録物を得ることができる。付着工程が所定の付着量の付着工程を含むとは、少なくとも当該付着量の付着工程を含むの意味である。より好ましくは付着工程のなかでも付着量が最大の付着工程として付着量が上記範囲の付着量である付着工程を含むことが好ましい。
【実施例】
【0074】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0075】
[インク組成物用の材料]
下記の実施例及び比較例において使用したインク組成物用の主な材料は、以下の通りである。
〔顔料〕
JR−806(酸化チタン、テイカ社製)
JR−301(酸化チタン、テイカ社製)
〔分散剤〕
ソルスパース3000(ポリエステルポリアミド樹脂、ルーブリゾール社製)
〔溶剤a〕
GBL(γ−ブチロラクトン)
〔溶剤b〕
DEGMEE(ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、引火点64℃)
DEGBME(ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、引火点94℃)
DEGdEE(ジエチレングリコールジエチルエーテル、引火点70.8℃)
TetraEGmBE(テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、引火点177℃)
〔溶剤c〕
DPGmME(ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、引火点79℃)
DEGdME(ジエチレングリコールジメチルエーテル、引火点57℃)
〔溶剤d〕
エクアミドM100(アミド系溶剤、出光興産社製)
〔界面活性剤〕
BYK340(シリコーン系界面活性剤、ビックケミージャパン社製)
〔樹脂〕
G−1000P(メタクリル樹脂「パラペット」、株式会社クラレ社製)
【0076】
[インク組成物の調製]
各材料を下記の表1に示す組成で混合し、十分に撹拌し、各インク組成物を得た。具体的には、まず、各材料の溶剤を混合し、混合溶剤を得た。得られた混合溶剤の一部と、ソルスパース3000(日本ルーブリゾール社)を混合し、その後酸化チタンJR−806(テイカ製)を加えて、ホモジナイザーを用いて予備分散した。その後、ビーズミルにて分散をさせ、酸化チタン分散体を得た。次いで、混合溶剤の一部と、パラペットG−1000P(クラレ製)とを混合し樹脂溶液を得た。最後に、酸化チタン分散体と、樹脂溶液と、混合溶液の残部と、BYK340(ビックケミー製)と、を混合し、インク組成物を作製した。また、実施例6においては、JR−806(テイカ製)に代えて、JR−301(テイカ製)を用いたこと以外は上記と同様にして、インク組成物を得た。なお、下記の表1中、数値の単位は質量%であり、合計は100.0質量%である。
【0077】
(PVC溶解性試験)
ポリ塩化ビニル(PVCストレートポリマーTK−800、信越化学工業社製)0.5gと、溶剤50gとを、ガラス瓶内で混合し、25℃で5分間撹拌した。その後、静置し、静置してから25秒時点の、ガラス瓶底からの溶剤液面高さXと、膨潤又は溶解したポリ塩化ビニル粉末が分布するガラス瓶底からの高さYを測定した。得られたX及びYにより、比Y/Xを求め、これを各溶剤のポリ塩化ビニルの溶解力の指標とした。なお、本願実施例のγ−ブチロラクトンのY/Xは、0.8であったため、各溶剤は以下のように定義した。
溶剤b: Y/X<0.7
溶剤c:0.7≦Y/X≦0.9
溶剤d:0.9<Y/X
【0078】
【表1】

【0079】
〔印刷ムラ〕
以上のようにして得られた各インク組成物をセイコーエプソン製プリンターSC−S50650に充填し、塩化ビニルバナーシート(3M社製、製品名IJ51)上に、記録解像度1440×1440dpi、付着量22mg/inch2でベタ印刷し、得られた記録物を60分間乾燥させた。その後、目視および光学顕微鏡を用いて印刷面を観察し、印刷ムラの少ないものを6点として、1点まで6水準で評価した。
【0080】
〔光沢〕
以上のようにして得られた各インク組成物をセイコーエプソン製プリンターSC−S50650に充填し、光沢ポリ塩化ビニルシート(ローランドDG社製、製品名SV−G−1270G)上に、記録解像度1440×1440dpi、付着量22mg/inch2でベタ印刷し、得られた記録物を常温にて1日乾燥させた。ベタ印刷部の20°光沢をMULTI GLOSS 268(コニカミノルタ社)にて測定し、下記評価基準で評価した。なお、光沢性が高いほどインク組成物が被記録媒体上に広がり、埋まり性のよい記録物が得られていることを意味する。
(評価基準)
1:光沢度が26未満
2:光沢度が26以上28未満
3:光沢度が28以上30未満
4:光沢度が30以上32未満
5:光沢度が32以上34未満
6:光沢度が34以上
【0081】
〔ドットサイズ〕
以上のようにして得られた各インク組成物をセイコーエプソン製プリンターSC−S50650に充填し、塩化ビニルバナーシート(3M社製、製品名IJ51)上にノズルチェックパターンを印刷させた。得られた記録物を60分間乾燥させた。その後、光学顕微鏡を用いてドットサイズを観察して、下記評価基準で評価した。なお、ドットサイズが大きいほどインク組成物が被記録媒体上に広がり、埋まり性のよい記録物が得られていることを意味する。
(評価基準)
1:ドットサイズが20μm以下
2:ドットサイズが20μm超過30μm以下
3:ドットサイズが30μm超過40μm以下
4:ドットサイズが40μm超過50μm以下
5:ドットサイズが50μm超過60μm以下
6:ドットサイズが60μm超過
【0082】
〔摩擦堅牢性〕
以上のようにして得られた各インク組成物をセイコーエプソン製プリンターSC−S30650に充填し、光沢ポリ塩化ビニルシート(ローランドDG社製、製品名SV−G−1270G)上に、記録解像度1440×1440dpi、付着量22mg/inch2でベタ印刷し、得られた記録物を常温にて1日乾燥させた。次に、JIS L 0849に基づいて、I型試験機にて乾式試験を行った。その後、試験綿布の色移りのODをスペクトロリーノ(グレタグマクベス社製)にて測定し、下記評価基準により評価した。
(評価基準)
1:色移りのODが0.40以上
2:色移りのODが0.35以上0.40未満
3:色移りのODが0.30以上0.35未満
4:色移りのODが0.25以上0.30未満
5:色移りのODが0.20以上0.25未満
6:色移りのODが0.20未満
【0083】
〔表面乾燥性〕
以上のようにして得られた各インク組成物をセイコーエプソン製プリンターSC−S30650に充填し、光沢ポリ塩化ビニルシート(ローランドDG社製、製品名SV−G−1270G)上に記録解像度1440×1440dpi、付着量22mg/inch2でベタ印刷し、得られた記録物を常温にて5分間乾燥させた。次に、巻き取り装置を用いて巻き取った後の印刷面のスリ痕を観察した。観察はレーザー顕微鏡(キーエンス社VK−8700 Generation2)にて表面粗さを測定することで、スリ痕のある面積の割合を算出し、下記評価基準により評価した。
(評価基準)
1:スリ痕面積が40%超過
2:スリ痕面積が30%超過40%以下
3:スリ痕面積が20%超過30%以下
4:スリ痕面積が10%超過20%以下
5:スリ痕面積が10%以下
6:スリ痕なし
【0084】
〔印刷物ミスト評価〕
以上のようにして得られた各インク組成物をセイコーエプソン製プリンターSC−S50650に充填し、透明PETフィルム(ローランドDG社製、製品名SP−CL−515T)に、30cm幅、記録解像度1440×1440dpi、付着量22mg/inch2で10分間連続でベタ印刷し、得られた記録物を常温にて1日乾燥させて印刷サンプルを得た。次に、ベタ印刷部のキャリッジ走査方向端部付近の非印刷部を、目視および虫眼鏡で観察し、飛散して付着したミストの汚れ具合を確認し、下記評価基準により評価した。
(評価基準)
1:ミスト付着が酷く目立つ
2:ミスト付着があり目視でも容易に認められる
3:ミスト付着は認められるがごく僅か
4:ミスト付着が皆無
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-05-31 
出願番号 P2015-047608
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (C09D)
P 1 651・ 537- YAA (C09D)
P 1 651・ 121- YAA (C09D)
P 1 651・ 113- YAA (C09D)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 門前 浩一
特許庁審判官 蔵野 雅昭
木村 敏康
登録日 2020-10-19 
登録番号 6780915
権利者 セイコーエプソン株式会社
発明の名称 溶剤系インクジェットインク組成物  
代理人 稲葉 良幸  
復代理人 竹内 工  
代理人 田中 克郎  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 田中 克郎  
復代理人 竹内 工  
復代理人 赤堀 龍吾  
復代理人 赤堀 龍吾  

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