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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
管理番号 1387482
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-08-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-07-02 
確定日 2022-07-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第6809622号発明「ガスバリア性フィルム及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6809622号の請求項1〜12に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6809622号の請求項1〜12に係る特許についての出願は、令和2年3月5日の出願であって、令和2年12月14日にその特許権の設定登録がされ、令和3年1月6日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯の概要は、次のとおりである。

令和3年7月 2日 :特許異議申立人栗暢行(以下「申立人1」という。)による請求項1〜12に係る特許に対する特許異議の申立て
令和3年7月 2日 :特許異議申立人特許業務法人朝日奈特許事務所(以下「申立人2」という。)による請求項1〜10、12に係る特許に対する特許異議の申立て
令和3年7月 6日 :特許異議申立人千野肇(以下「申立人3」という。)による請求項1〜12に係る特許に対する特許異議の申立て
令和3年7月 6日 :特許異議申立人早川いづみ(以下「申立人4」という。)による請求項1〜12に係る特許に対する特許異議の申立て
令和4年1月28日付け:取消理由通知書
令和4年4月 1日 :特許権者による意見書の提出
令和4年5月26日 :申立人1による上申書の提出

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜12に係る発明(以下「本件発明1」等という。また、「本件発明」と総称することもある。)は、特許請求の範囲の請求項1〜12に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
樹脂基材と、
前記樹脂基材の少なくとも一方の面側に設けられる酸素バリア性皮膜と、
前記樹脂基材と前記酸素バリア性皮膜の間に設けられる、下地層および無機酸化物層のいずれか一方または両方とを備え、
前記樹脂基材の一方の面は、下記測定方法で測定される黒色面積率が0.15%以下である、ガスバリア性フィルム。
<測定方法>
樹脂基材の一方の面の1281μm四方の任意の領域を光学顕微鏡で撮影して、1024×1024pixelの撮影画像を取得し、画像解析ソフトを用いて、前記撮影画像を256階調のモノクロ画像に変換し、前記モノクロ画像における輝度の最頻値から30を減じた値を閾値とし、前記閾値未満を黒、前記閾値以上を白として前記輝度を2値化し、前記1281μm四方の領域における100μm2以上のサイズの黒色領域の総面積の割合を黒色面積率とする。
【請求項2】
前記樹脂基材がアンチブロッキング剤を含有する、請求項1に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項3】
前記樹脂基材は、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、及びナイロンから選択される1種である、請求項1または2に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項4】
前記下地層の厚みが0.01〜1μmである、請求項1〜3のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項5】
前記下地層は、主成分として有機高分子を含み、
前記有機高分子は、ポリアクリル系樹脂、ポリオール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、及び、これらの樹脂の反応生成物の少なくとも1つを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項6】
前記無機酸化物層の厚みが1〜200nmである、請求項1〜5のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項7】
前記無機酸化物層が、酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項8】
前記酸素バリア性皮膜の厚みが0.05〜1μmである、請求項1〜7のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項9】
前記酸素バリア性皮膜が、金属アルコキシド、金属アルコキシドの加水分解物、及び、金属アルコキシド或いは金属アルコキシドの加水分解物の反応生成物の少なくとも1つと、水溶性高分子とを含む皮膜である、請求項1〜8のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項10】
前記酸素バリア性皮膜が、シランカップリング剤、シランカップリング剤の加水分解物、及び、シランカップリング剤或いはシランカップリング剤の加水分解物の反応生成物の少なくとも1つを含む、請求項9に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項11】
前記酸素バリア性皮膜が、ポリカルボン酸系重合体(A)のカルボキシ基と多価金属化合物(B)との反応生成物であるカルボン酸の多価金属塩を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルムの製造方法であって、
樹脂基材原反の表面の黒色面積率を下記測定方法で測定し、少なくとも一方の面の前記黒色面積率が0.15%以下である樹脂基材原反を前記樹脂基材して用意する工程と、
前記樹脂基材の少なくとも一方の面側にコーティング剤を塗布して、少なくとも前記酸素バリア性皮膜を形成する工程を有する、ガスバリア性フィルムの製造方法。
<測定方法>
樹脂基材の一方の面の1281μm四方の任意の領域を光学顕微鏡で撮影して、1024×1024pixelの撮影画像を取得し、画像解析ソフトを用いて、前記撮影画像を256階調のモノクロ画像に変換し、前記モノクロ画像における輝度の最頻値から30を減じた値を閾値とし、前記閾値未満を黒、前記閾値以上を白として前記輝度を2値化し、前記1281μm四方の領域における100μm2以上のサイズの黒色領域の総面積の割合を黒色面積率とする。」

第3 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
当審において、請求項1〜11に係る特許に対して通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

取消理由1(新規性
請求項1〜4、6〜10に係る発明は、引用文献1に記載された発明であり、請求項1〜4、6〜9に係る発明は、引用文献3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

取消理由2(進歩性
請求項1〜11は、引用文献1〜3に記載された発明、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
(以下、申立人〇が提出した甲第△号証を「甲〇−△」等という。)
1.特開2012−240222号公報(甲1−1、甲4−2)
2.特開2019−195936号公報(甲1−5)
3.特開2019−127027号公報(甲4−1)
4.再公表特許WO2009/081715号(甲1−2)

2 引用文献等の記載
(1)引用文献1
ア 引用文献1の記載事項
引用文献1には、次の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、水蒸気(水分)や酸素の進入を遮断するガスバリアフィルムおよびそれを用いた太陽電池裏面保護シートに関するものである。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、長期間にわたる過酷な自然環境に耐え得る、耐熱性、耐候性、耐加水分解性、防湿性、軽量性等の諸特性に優れ、水蒸気(水分)や酸素等の侵入を防止するガスバリア性を著しく向上させ、高温・高湿環境下にも耐えうるガスバリアフィルムであり、およびこのガスバリアフィルムを用いて電力出力特性を長期にわたり維持することが可能な太陽電池モジュール用裏面保護シートである。」
「【0031】
前記複合被膜層の厚さは、コーティング剤の種類や加工機や加工条件によって最適条件が異なり特に限定しない。但し、乾燥後の厚さが、0.01μm以下の場合は、均一な塗膜が得られなく十分なガスバリア性を得られない場合があるので好ましくない。また厚さが50μmを超える場合は膜にクラックが生じ易くなるため問題となる場合がある。好ましくは0.01〜50μmの範囲にあり、より好ましくは0.1〜10μmの範囲にあることである。」
「【0045】
<実施例1>
<ガスバリアフィルムの作製>
厚さ12μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製 ルミラーP60、片面コロナ放電処理グレード)を基材として、その片面上に、アンカーコート層として液1をグラビアコート法により厚さ0.2μm(乾燥状態)形成した。次いで、電子線加熱方式による真空蒸着装置により、酸化ケイ素からなる膜厚30nmの蒸着層を形成した。次に、上記蒸着面上に液2をグラビアコーターで塗布し、乾燥機で100℃、1分間乾燥させ、厚さ0.3μm(乾燥状態)の複合被膜層を形成した。さらに、前記複合被膜層の上面に、耐湿層として液3をグラビアコート法により厚さ0.2μm(乾燥状態)で形成してガスバリアフィルムを作製した。」

イ 引用文献1に記載された発明
上記アから、実施例1に着目すると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。
「厚さ12μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製 ルミラーP60、片面コロナ放電処理グレード)を基材として、その片面上に、厚さ0.2μm(乾燥状態)のアンカーコート層を形成し、酸化ケイ素からなる膜厚30nmの蒸着層を形成し、蒸着面上に厚さ0.3μm(乾燥状態)の、水蒸気(水分)や酸素の進入を遮断するための複合被膜層を形成し、複合被膜層の上面に、耐湿層を形成したガスバリアフィルム。」

(2)引用文献2
ア 引用文献2の記載事項
引用文献2には、次の事項が記載されている。
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、高湿度雰囲気下でも優れたガスバリア性を示し、また包装用材料として十分な他材への密着強度や膜凝集強度を有するガスバリア性フィルムを提供することを目的とする。」
「【0017】
オリンパス社製顕微鏡:OLS−4000にて取得した光学顕微鏡画像を画像解析ソフトImageJにて解析し、白色面積を求める。より具体的な画像取得条件、画像解析条件を以下に説明する。
<画像取得条件>
サンプル準備として、白色面積を求めたい樹脂基材(A)のコーティング剤を塗工する側の面を上にして、スライドガラス上に透明な両面テープ(ノンキャリアフィルムTD06A巴川製紙所)を使用して貼り付ける。その後、オリンパス社製顕微鏡:OLS−4000を使用して、対物レンズとしてMPFLN10(倍率10倍)を使用し、樹脂基材(A)の3箇所から範囲1281μm×1281μmの画像を取得する。取得時の設定光量は35である。
<画像解析条件>
カラー情報破棄→8bit
白黒反転→有り
二値化→Treshold値0−30
面積測定→Analyze Particle Size0−Infinity Include Holesにチェック
このようにして3箇所から取得した画像についてそれぞれ%Area値を導き出し、これらの%Area値の平均値を白色面積率とする。」
「【0036】
水性ポリウレタン樹脂(B)において、ポリアミン化合物の含有量は、酸基含有ポリウレタン樹脂の酸基と、ポリアミン化合物の塩基性窒素原子とのモル比(酸基/塩基性窒素原子)が10/1〜0.1/1となる量が好ましく、5/1〜0.2/1となる量がより好ましい。酸基/塩基性窒素原子が10/1〜0.1/1であれば酸基含有ポリウレタンの酸基とポリアミン化合物との架橋反応が適切におこり、コーティング剤から形成される皮膜が、高湿度雰囲気下でも優れた酸素バリア性を発現させる。」
「【0065】
<実施例>
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。以下の各例で用いた材料を以下に示す。
【0066】
<使用材料>
「樹脂基材(A)」
(A1):二軸延伸ポリプロピレンフィルム(商品名:VPH2011、厚さ20μm、A.J.Plast社製)
・・・
【0067】
「水性ポリウレタン樹脂(B)」
(B1):酸基を有するポリウレタン樹脂とポリアミン化合物とを含有する水性ポリウレタン樹脂、三井化学社製の水性ポリウレタンディスパージョン「タケラック(登録商標)WPB−341」。
【0068】
「水溶性高分子(C)」
(C1):鹸化度98〜99%、重合度500のポリビニルアルコール(商品名:ポバールPVA−105、クラレ社製)。
(C2):カルボキシメチルセルロース(CMC)。
【0069】
「無機層状鉱物(D)」
(D1):水膨潤性合成雲母(商品名:ソマシフ(登録商標)MEB−3、コープケミカル社製)。
(D2):精製モンモリロナイト(商品名:クニピア−F、クニミネ工業社製)。
(D3):ナトリウムヘクトライト(商品名:NHT−ゾルB2、トピー工業社製)。
【0070】
「硬化剤(E)」
(E1):3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(商品名:KBE−403、信越シリコーン社製)。
【0071】
<実施例1〜11>
まず、表1に示す種類と固形分配合比率(質量%)になるよう、水性ポリウレタン樹脂(B)と水溶性高分子(C)の8%水溶液とを配合し、次いで、無機層状鉱物(D)の8%水分散液を添加し、その後、全水性媒体中の10質量%がイソプロパノールであり、固形分濃度が8.2質量%となるように、イオン交換水とイソプロパノールで希釈した。得られた希釈物に、表1に示す種類と配合比率(質量%)で硬化剤(E)を添加して、実施例1〜11のコーティング剤をそれぞれ調製した。ここで、配合比率は、全固形分に対する各成分の固形分の比率であり、以下においても同様である。
【0072】
【表1】

【0073】
次に、グラビア印刷機を用いて、表1に示す種類の樹脂基材(A)のコロナ処理面に、調製した実施例1〜11に係るコーティング剤を塗工し、塗膜を形成した。次に、この塗膜を乾燥させて皮膜を形成し、実施例1〜11に係るガスバリア性フィルムを得た。形成された皮膜の厚さは、電子顕微鏡によって確認測定したところ、いずれの例においても0.6μmであった。」

イ 引用文献2に記載された発明
上記アから、実施例1、2、6、8、10、11に着目すると、引用文献2には次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。
「二軸延伸ポリプロピレンフィルム(商品名:VPH2011、厚さ20μm、A.J.Plast社製)の樹脂基材のコロナ処理面に、0.6μmの厚さの、高湿度雰囲気下でも優れた酸素バリア性を発現させる皮膜を形成したガスバリアフィルム。」

(3)引用文献3
ア 引用文献3の記載事項
引用文献3には、次の事項が記載されている。
「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、含硫アミノ酸成分が多く存在する内容物に対して、加熱処理(レトルト殺菌処理あるいはボイル処理)を施しても、不快なレトルト臭を抑制し、且つガスバリア性が劣化しにくく、優れたガスバリア性を有するガスバリア積層体および包装体の提供を目的とする。」
「【0060】
層(A)の厚さは、ガスバリア性の観点から、好ましくは0.01〜5μmの範囲であり、より好ましくは0.02〜3μmの範囲であり、さらに好ましくは0.04〜1.2μmの範囲である。なお、被覆層が層(A)を複数含む場合でも、被覆層中の層(A)の合計の好ましい厚さは上記と同じである。」
「【0088】
本発明のガスバリア積層体5は、無機蒸着層3と被覆層4を備えることで、優れたガスバリア性とレトルト臭抑制効果を有する。本発明のガスバリア性積層体は、温度30℃、相対湿度70%RHにおける酸素透過度が、好ましくは30cc/m2・day・MPa以下であり、より好ましくは15cc/m2・day・MPa以下であり、特に好ましくは1.5cc/m2・day・MPa以下である。該酸素透過度は低いほど好ましく、その下限としては特に限定はないが通常は0.01cc/m2・day・MPa以上である。」
「【0096】
[実施例1]
2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET:東レ製、ルミラー(登録商標)P60、厚さ12μm)のコロナ処理側に、グラビアコート機を用いてグラビアコート法によって厚み0.1μmとなるように密着層2を作成し、電子線加熱方式による真空蒸着装置により、金属アルミニウムを蒸発させ、そこに酸素ガスを導入し、酸化アルミニウムを蒸着して厚さ20nmの無機蒸着層3を形成した。この無機蒸着層3上に、被覆層4を形成するため、コーティング溶液(a)を、乾燥後の厚さが1μmとなるようにバーコーターを用いて塗工した後、80℃で5分間乾燥し、層(A)を形成した。この層(A)上に、コーティング液(b)を、乾燥後の厚さが1μm、吸光光度法により測定される波長350nmにおける吸光度から波長500nmの吸光度を差し引いた値とする紫外線吸光度が0.30を目標値としてバーコーターを用いて塗工した後、90℃で2分間乾燥させた後に50℃で3日間熟成処理して、層(B1)を形成した。なお実際の紫外線吸光度は、下記の測定方法に従い実測し、下記表1に記載した。また他の実施例・比較例も同様に実測した。
これにより[PET(12μm)/密着層2(0.1μm)/無機蒸着層3(20nm)/被覆層4:層(A)(1μm)/層(B1)(1μm)]の構成を有するガスバリア積層体を得た。なおここで()内の値は各層の厚さを表し、以下の例も同様である。」

イ 引用文献3に記載された発明
引用文献3には、実施例1に着目すると、次の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されている。
「2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET:東レ製、ルミラー(登録商標)P60、厚さ12μm)のコロナ処理側に、厚み0.1μmとなるように密着層2を作成し、酸化アルミニウムを蒸着して厚さ20nmの無機蒸着層3を形成し、この無機蒸着層3上に、酸素ガスバリア性の観点から厚さが1μmの被覆層4:層(A)を形成し、この層(A)上に、層(B1)を形成した、ガスバリア積層体。」

3 当審の判断
(1)本件発明1について
ア 引用発明1を主引例とした理由
(ア)対比
本件発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「基材」は本件発明1の「樹脂基材」に相当し、以下同様に、「アンカーコート層」は「下地層」に、「蒸着層」は「無機酸化物層」に、「複合被膜層」は「酸素バリア性皮膜」に、「ガスバリアフィルム」は「ガスバリア性フィルム」に相当する。
そうすると、本件発明1と引用発明1とは、次の点で一致し、相違する。
[一致点1]
「樹脂基材と、
前記樹脂基材の少なくとも一方の面側に設けられる酸素バリア性皮膜と、
前記樹脂基材と前記酸素バリア性皮膜の間に設けられる、下地層および無機酸化物層のいずれか一方または両方とを備える、ガスバリア性フィルム。」
[相違点1]
本件発明1は、「前記樹脂基材の一方の面は、下記測定方法で測定される黒色面積率が0.15%以下である」「<測定方法>樹脂基材の一方の面の1281μm四方の任意の領域を光学顕微鏡で撮影して、1024×1024pixelの撮影画像を取得し、画像解析ソフトを用いて、前記撮影画像を256階調のモノクロ画像に変換し、前記モノクロ画像における輝度の最頻値から30を減じた値を閾値とし、前記閾値未満を黒、前記閾値以上を白として前記輝度を2値化し、前記1281μm四方の領域における100μm2以上のサイズの黒色領域の総面積の割合を黒色面積率とする。」のに対して、引用発明1はその点が不明である点。

(イ)新規性についての判断
本件特許の明細書には、樹脂基材の表面状態について、次の記載がある。
「【0006】しかし、樹脂基材の表面にウェットコート法や蒸着法やスパッタリング法による皮膜を設けたガスバリア性フィルムは、製造ロットにより、酸素バリア性が安定しないことがあった。・・・」
「【0010】樹脂基材の表面にはAB剤による様々な大きさの凸部が存在する。樹脂基材の製造ロットによってAB剤の突出高さや突出密度にばらつきがあり、該樹脂基材表面にガスバリア性皮膜をコーティングしたときに、大きな凸部の位置で局所的に皮膜が形成されず、欠陥が生じ、酸素バリア性が不安定になっていたと考えられる。」
「【0012】そこで本発明者らは、ガスバリア性フィルムの酸素バリア性と印刷適性に影響する樹脂基材の広範囲の表面状態を、短時間で正確に把握する方法を考案し、樹脂基材の表面の光学顕微鏡画像を2値化処理して100μm2以上の黒色領域の総面積率(以下、黒色面積率と呼ぶ)が0.15%以下であると、酸素バリア性能に優れ、かつ、ガスバリア性フィルム上の印刷適性が良好になることを見出し、本発明に至ったものである。」
これら記載から、本件特許の明細書には、同じ製品であっても製造ロットによって、樹脂基材の表面の光学顕微鏡画像を2値化処理して測定される黒色面積率にばらつきがあることが記載されている。
また、特許権者が令和4年4月1日に提出した意見書では、「実験成績証明書」(乙第1号証)を提出して、「本件発明1にて規定される黒色面積率は、実際には、樹脂基材の種類毎に固有の値ではなく、同じ種類の樹脂基材であっても、製造ロットによってバラつく値であり、樹脂基材の種類が同一であるからといって必ず本件発明1で規定される黒色面積率に関する条件を満たす、というわけではない」(同意見書5ページ5〜8行)としており、本件特許の明細書の上記記載が裏付けられている。
引用発明1の基材には、本件特許の明細書に記載された実施例1−7、2−5、3−6、4−4で用いられている「ポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名:P60、厚さ12μm、片面コロナ処理、東レ株式会社製)」と同じ商品名のフィルムが用いられている。
しかしながら、上述のとおり、同じ製品であっても製造ロットによって、樹脂基材の表面の光学顕微鏡画像を2値化処理して測定される黒色面積率にばらつきがあることから、引用発明1の基材が、本件特許の明細書に記載された、黒色面積率が0.06%の「ポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名:P60、厚さ12μm、片面コロナ処理、東レ株式会社製)」と同じ製品であったとしても、必ずしも本件発明1で規定される黒色面積率に関する条件を満たすとはいえない。
したがって、本件発明1は引用発明1ではない。

(ウ)進歩性についての判断
相違点1に係る本件発明1の構成について、引用文献1には何ら記載されておらず、申立人1〜4が提出した各甲号証にも記載されておらず、また、本件特許に係る出願前における周知技術でもない。
したがって、引用発明1において、相違点1に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、本件発明1は、引用発明1に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 引用発明2を主引例とした理由
(ア)対比
本件発明1と引用発明2とを対比する。
引用発明2の「樹脂基材」は本件発明1の「樹脂基材」に相当し、以下同様に、「皮膜」は「酸素バリア性皮膜」に、「ガスバリアフィルム」は「ガスバリア性フィルム」に相当する。
そうすると、本件発明1と引用発明2とは、次の点で一致し、相違する。
[一致点2]
「樹脂基材と、
前記樹脂基材の少なくとも一方の面側に設けられる酸素バリア性皮膜とを備える、ガスバリア性フィルム。」
[相違点2−1]
本件発明1は、「前記樹脂基材と前記酸素バリア性皮膜の間に設けられる、下地層および無機酸化物層のいずれか一方または両方とを備え」るのに対して、引用発明2は、そのような下地層や無機酸化物層を備えていない点。
[相違点2−2]
本件発明1は、「前記樹脂基材の一方の面は、下記測定方法で測定される黒色面積率が0.15%以下である」「<測定方法>樹脂基材の一方の面の1281μm四方の任意の領域を光学顕微鏡で撮影して、1024×1024pixelの撮影画像を取得し、画像解析ソフトを用いて、前記撮影画像を256階調のモノクロ画像に変換し、前記モノクロ画像における輝度の最頻値から30を減じた値を閾値とし、前記閾値未満を黒、前記閾値以上を白として前記輝度を2値化し、前記1281μm四方の領域における100μm2以上のサイズの黒色領域の総面積の割合を黒色面積率とする。」のに対して、引用発明2はその点が不明である点。

(イ)判断
まず、相違点2−2について検討する。
引用発明2の基材には、本件特許の明細書に記載された実施例1−5、2−3、2−7、3−4、3−8、4−2、4−6で用いられている「二軸延伸ポリプロピレンフィルム(商品名:VPH2011、厚さ20μm、片面コロナ処理、コロナ処理面側のAB剤平均粒径2μm、A.J.Plast社製)」と同じ商品名のフィルムが用いられている。
しかしながら、上記ア(イ)で示したのと同じ理由により、引用発明2の樹脂基材が、本件特許の明細書に記載された、黒色面積率が0.11%の「二軸延伸ポリプロピレンフィルム(商品名:VPH2011、厚さ20μm、片面コロナ処理、コロナ処理面側のAB剤平均粒径2μm、A.J.Plast社製)」と同じ製品であったとしても、必ずしも本件発明1で規定される黒色面積率に関する条件を満たすとはいえない。
また、相違点2−2に係る本件発明1の構成について、引用文献2には何ら記載されておらず、申立人1〜4が提出した各甲号証にも記載されておらず、また、本件特許に係る出願前における周知技術でもない。
したがって、引用発明2において、相違点2−2に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、本件発明1は、引用発明2に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 引用発明3を主引例とした理由
(ア)対比
本件発明1と引用発明3とを対比する。
引用発明3の「2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」は本件発明1の「樹脂基材」に相当し、以下同様に、「密着層2」は「下地層」に、「無機蒸着層3」は「無機酸化物層」に、「被覆層4」は「酸素バリア性皮膜」に、「ガスバリア積層体」は「ガスバリア性フィルム」に相当する。
そうすると、本件発明1と引用発明3とは、次の点で一致し、相違する。
[一致点3]
「樹脂基材と、
前記樹脂基材の少なくとも一方の面側に設けられる酸素バリア性皮膜と、
前記樹脂基材と前記酸素バリア性皮膜の間に設けられる、下地層および無機酸化物層のいずれか一方または両方とを備える、ガスバリア性フィルム。」
[相違点3]
本件発明1は、「前記樹脂基材の一方の面は、下記測定方法で測定される黒色面積率が0.15%以下である」「<測定方法>樹脂基材の一方の面の1281μm四方の任意の領域を光学顕微鏡で撮影して、1024×1024pixelの撮影画像を取得し、画像解析ソフトを用いて、前記撮影画像を256階調のモノクロ画像に変換し、前記モノクロ画像における輝度の最頻値から30を減じた値を閾値とし、前記閾値未満を黒、前記閾値以上を白として前記輝度を2値化し、前記1281μm四方の領域における100μm2以上のサイズの黒色領域の総面積の割合を黒色面積率とする。」のに対して、引用発明3はその点が不明である点。

(イ)新規性についての判断
引用発明3の基材には、本件特許の明細書に記載された実施例1−7、2−5、3−6、4−4で用いられている「ポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名:P60、厚さ12μm、片面コロナ処理、東レ株式会社製)」と同じ商品名のフィルムが用いられている。
しかしながら、上記ア(イ)で示したのと同じ理由により、引用発明3の「2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET:東レ製、ルミラー(登録商標)P60、厚さ12μm)」が、本件特許の明細書に記載された、黒色面積率が0.06%の「ポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名:P60、厚さ12μm、片面コロナ処理、東レ株式会社製)」と同じ製品であったとしても、必ずしも本件発明1で規定される黒色面積率に関する条件を満たすとはいえない。
したがって、本件発明1は引用発明3ではない。

(ウ)進歩性についての判断
相違点3に係る本件発明1の構成について、引用文献3には何ら記載されておらず、申立人1〜4が提出した各甲号証にも記載されておらず、また、本件特許に係る出願前における周知技術でもない。
したがって、引用発明3において、相違点1に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、本件発明1は、引用発明3に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件発明2〜11について
新規性について
本件発明2〜4、6〜10は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(1)ア(イ)、ウ(イ)で検討したのと同じ理由により、本件発明2〜4、6〜10は、引用文献1に記載された発明ではなく、本件発明2〜4、6〜9は、引用文献3に記載された発明ではない。

進歩性について
本件発明2〜11は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(1)ア(ウ)、イ(イ)、ウ(ウ)で検討したのと同じ理由により、本件発明2〜11は、引用文献1〜3に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第4 取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由について
新規性進歩性について
(1)取消理由通知に採用しなかった新規性進歩性についての特許異議申立理由の概要
取消理由通知に採用しなかった新規性進歩性についての特許異議申立理由の概要は次のとおり。

ア 甲1−1(引用文献1)を主引例とした理由
請求項5に係る発明は、甲1−1(引用文献1)に記載された発明であり、請求項12に係る発明は、甲1−1(引用文献1)に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものである。

イ 甲1−3を主引例とした理由
請求項1〜10に係る発明は、甲1−3に記載された発明であり、請求項1〜12に係る発明は、甲1−3に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものである。

ウ 甲1−4を主引例とした理由
請求項1〜10に係る発明は、甲1−3に記載された発明であり、請求項1〜12に係る発明は、甲1−3に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものである。

エ 甲1−5(引用文献2)を主引例とした理由
請求項12に係る発明は、甲1−5(引用文献2)に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものである。

オ 甲2−1を主引例とした理由
請求項1〜10、12に係る発明は、甲2−1に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものである。

カ 甲2−10を主引例とした理由
請求項1〜4、6〜8、12に係る発明は、甲2−10に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものである。

キ 甲3−1を主引例とした理由
請求項1〜11に係る発明は、甲3−1に記載された発明であり、請求項1〜12に係る発明は、甲3−1に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものである。

ク 甲3−2を主引例とした理由
請求項1〜11に係る発明は、甲3−2に記載された発明であり、請求項1〜12に係る発明は、甲3−2に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものである。

ケ 甲3−3を主引例とした理由
請求項1〜11に係る発明は、甲3−3に記載された発明であり、請求項1〜12に係る発明は、甲3−3に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものである。

コ 甲3−4を主引例とした理由
請求項1〜11に係る発明は、甲3−4に記載された発明であり、請求項1〜12に係る発明は、甲3−4に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものである。

サ 甲3−5を主引例とした理由
請求項1〜12に係る発明は、甲3−5に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものである。

シ 甲4−1(引用文献3)を主引例とした理由
請求項5、11、12に係る発明は、甲4−1(引用文献3)に記載された発明であり、請求項12に係る発明は、甲4−1(引用文献3)に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものである。

ス 甲4−2(引用文献1)を主引例とした理由
請求項5、11、12に係る発明は、甲4−2(引用文献1)に記載された発明であり、請求項12に係る発明は、甲4−2(引用文献1)に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものである。

セ 甲4−3を主引例とした理由
請求項1〜12に係る発明は、甲4−3に記載された発明であり、請求項1〜12に係る発明は、甲4−3に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものである。

<引用文献等一覧>
甲1−3:特開平10−264292号公報
甲1−4:再公表特許WO2016/158794号
甲1−6:特開2017−13473号公報
甲2−1:特開2010−18302号公報
甲2−2:特開2014−218090号公報
甲2−3:特開2005−255761号公報
甲2−4:特開2002−370277号公報
甲2−5:特開2001−316489号公報
甲2−6:特開2001−48994号公報
甲2−7:特開2002−52670号公報
甲2−8:特開2016−196159号公報
甲2−9:特開2013−64060号公報
甲2−10:特開2019−151004号公報
甲3−1:特開2012−250470号公報
甲3−2:特開2008−23927号公報
甲3−3:特開2003−154596号公報
甲3−4:特開2011−148139号公報
甲3−5:特開2004−261987号公報
甲3−6:特開2005−261987号公報
甲3−7:国際公開第2017/169952号
甲4−3:特開2019−150994号公報

(2)当審の判断
ア 上記(1)ア、エ、シ、スについて
本件発明5、11、12は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記第3の3(1)ア(イ)、ウ(イ)で検討したのと同じ理由により、引用文献1(甲1−1、甲4−2)に記載された発明、引用文献3(甲4−1)に記載された発明ではなく、また、本件発明12は、上記第3の3(1)ア(ウ)、イ(イ)、ウ(ウ)で検討したのと同じ理由により、引用文献1(甲1−1、甲4−2)に記載された発明、引用文献2(甲1−5)に記載された発明、引用文献3(甲4−1)に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 上記(1)イ、ウ、オ、カ、キ、ク、ケ、コ、サ、セについて
甲1−3に記載された発明、甲1−4に記載された発明、甲2−1に記載された発明、甲2−10に記載された発明、甲3−1に記載された発明、甲3−2に記載された発明、甲3−3に記載された発明、甲3−4に記載された発明、甲3−5に記載された発明、甲4−3に記載された発明は、少なくとも次の点を備えないことで、本件発明1と相違する。
[相違点4]
「前記樹脂基材の一方の面は、下記測定方法で測定される黒色面積率が0.15%以下である」「<測定方法>樹脂基材の一方の面の1281μm四方の任意の領域を光学顕微鏡で撮影して、1024×1024pixelの撮影画像を取得し、画像解析ソフトを用いて、前記撮影画像を256階調のモノクロ画像に変換し、前記モノクロ画像における輝度の最頻値から30を減じた値を閾値とし、前記閾値未満を黒、前記閾値以上を白として前記輝度を2値化し、前記1281μm四方の領域における100μm2以上のサイズの黒色領域の総面積の割合を黒色面積率とする。」

相違点4について検討する。
甲1−3に記載された発明、甲2−10に記載された発明、甲3−1に記載された発明、甲3−2に記載された発明の基材には、本件特許の明細書に記載された実施例1−7、2−5、3−6、4−4で用いられている「ポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名:P60、厚さ12μm、片面コロナ処理、東レ株式会社製)」と同じ商品名のフィルムが用いられており、
甲1−4に記載された発明の基材には、本件特許の明細書に記載された実施例1−5、2−3、2−7、3−4、3−8、4−2、4−6で用いられている「二軸延伸ポリプロピレンフィルム(商品名:VPH2011、厚さ20μm、片面コロナ処理、コロナ処理面側のAB剤平均粒径2μm、A.J.Plast社製)」と同じ商品名のフィルムが用いられており、
甲4−3に記載された発明の基材には、本件特許の明細書に記載された実施例1−8、2−6、3−7、4−5で用いられている「ポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名:E5102、厚さ12μm、片面コロナ処理、東洋紡株式会社製)」と同じ商品名のフィルムが用いられている。
これらのフィルムが、上記相違点4に係る条件を満たすとは限らないことは、上記第3の3(1)ア(イ)で述べたとおりである。
よって、上記(1)イ、ウ、オ、カ、キ、ク、ケ、コ、サ、セの理由はいずれも採用できない。

ウ 申立人の主張
(ア)特許異議申立書における申立人2の主張について
申立人2は、プラスチックフィルム表面の凹凸が少ないと良好なガスバリア性を発現することができることは、甲2−1〜甲2−6に示されるとおり周知であったから、当業者は、甲2−1に記載された発明において、所定のガスバリア性を発現させることを目的として、凹凸の少なさの指標として黒色面積率を採用する場合において、そのような黒色面積率の値が低くなるよう調整し、構成要件1D(相違点5に係る本件発明1の構成)を具備させることについて、何ら困難ではなく、凹凸の調整された甲1発明は、構成要件1Dを具備している蓋然性が高い旨を主張している(申立人2の特許異議申立書の40ページ下から8行〜41ページ1行)。

しかしながら、申立人1〜4が提出した各甲号証によっては、所定のガスバリア性を発現させることを目的として、凹凸の少なさの指標として黒色面積率を採用することが周知技術であったとはいえず、甲2−1に記載された発明において、所定のガスバリア性を発現させることを目的として、凹凸の少なさの指標として黒色面積率を採用することは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(イ)特許異議申立書における申立人3の主張について
a 申立人3の主張
申立人3は、甲3−3に記載された発明、甲3−4に記載された発明、甲3−5に記載された発明は、表面凹凸を可及的になくして平坦化されているから、結果として構成要件1B(本件発明1の「前記樹脂基材の一方の面は、下記測定方法で測定される黒色面積率が0.15%以下である」との発明特定事項)と同一のものであり(以下「主張1」という。)、構成要件1Bと同一と認められる甲3−3に記載された発明、甲3−4に記載された発明が、測定方法に関する相違点3の有無により、構成要件1Bへの当否を左右されるものではなく(以下「主張2」という。)、甲3−6、甲3−7に示されるように、フィルムの表面凸部を光学顕微鏡で撮影した撮影画像をPCにおいて2値化画像処理して、当該凸部を黒点として検出し、一定領域における一定面積を超える黒点が占める割合で、フィルムの表面を評価することは周知技術であるから、甲3−5に記載された発明の表面凹凸測定において、凸部の評価を黒色面積率とすることは、当業者が適宜なし得た設計的事項である(以下「主張3」という。)旨を主張している(申立人3の特許異議申立書の29ページ18行〜30ページ10行)。

b 主張1について
甲3−3には、「表面平滑層の500μm四方以上の範囲における算術平均表面粗さ(Sa)が2nmであること」(甲3−3の【請求項1】)が記載され、甲3−4には、「酸化珪素膜表面性状を制御することにより、高温高湿環境下で試験を行ってもバリア性が劣化しないガスバリア積層体を提供することを目的」(甲3−4の【0009】)として、「酸化珪素膜表面の単位面積あたりの突起数および突起高さを好適化することにより上記の目的が達成できることを見出した」(甲3−4の【0010】)ことが記載され、甲3−5には、「表面凹凸の測定データに対してフーリエ変換を行って波数分離し、これを逆フーリエ変換して得た自己相関係数を用いて表面凹凸を評価した際に、実質的に周期構造が見られないプラスチックフィルム製基材層面上に無機化合物層を積層してなるフィルム積層体」(甲3−5の【請求項1】)が記載されているが、申立人1〜4が提出した各甲号証によっては、甲3−3〜甲3−5の記載によって示される程度に表面凹凸が調整されているものが、本件発明1の黒色面積率に係る構成を満たしているとはいえない。

c 主張2について
上記bのとおり、そもそも、甲3−3に記載された発明、甲3−4に記載された発明が本件発明1の黒色面積率に係る構成を満たしているとまではいえない。

d 主張3について
甲3−6に開示された表面検査方法は、斜光照明により欠陥で形成された影により、凸状欠陥の高さ、凹状欠陥の深さを算出するものであり(甲3−6の【0027】、【0028】)、直径50〜100μmの欠陥が検出できる(甲3−6の【0038】)ものである。
また、甲3−7に開示された表面の外観の評価方法は、フィルムの欠点により光が遮断された部分を黒点として観察し、面積が25mm2を超える欠点の総数を測定するものである(甲3−7の[0073])。
すなわち、甲3−6、甲3−7のいずれも、黒色面積率を測定するものではないだけでなく、黒色領域の検出方法も検出する領域のサイズも、本件発明1のものとは異なる。
したがって、甲3−6、甲3−7によっては、甲3−5に記載された発明の表面凹凸測定において、凸部の評価を黒色面積率とすることが、当業者が適宜なし得た設計的事項であるとはいえない。

実施可能要件について
(1)発明の詳細な説明の記載について
本件特許の発明の詳細な説明には、本件発明が解決しようとする課題(【0006】〜【0008】)、当該課題を解決するための手段(【0009】〜【0025】)、本件発明の効果(【0026】)、本件発明を実施するための形態(【0028】〜【0124】)、実施例(【0125】〜【0181】)が記載されており、これら記載を参照することで、本件発明を実施することが可能である。
よって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1〜12の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。

(2)申立人の主張について
ア 所定の黒色面積率の樹脂基材(申立人1の特許異議申立書の73ページ8〜16行、申立人3の特許異議申立書の10ページ14〜末行)
申立人1、3は、発明の詳細な説明には、黒色面積率が所定の樹脂基材を製造するための具体的構成が記載されておらず、本件発明を実施できない旨を主張している。
この点について、発明の詳細な説明の【0126】、【0138】【表1】、【0151】【表2】、【0164】【表3】、【0177】【表4】には、樹脂基材として用いられる材料、及びその黒色面積率の測定結果が記載されており、本件発明1の黒色面積率の数値範囲に含まれるもの、含まれないものが示されているから、本件発明1の「前記樹脂基材の一方の面は、下記測定方法で測定される黒色面積率が0.15%以下である」「<測定方法>樹脂基材の一方の面の1281μm四方の任意の領域を光学顕微鏡で撮影して、1024×1024pixelの撮影画像を取得し、画像解析ソフトを用いて、前記撮影画像を256階調のモノクロ画像に変換し、前記モノクロ画像における輝度の最頻値から30を減じた値を閾値とし、前記閾値未満を黒、前記閾値以上を白として前記輝度を2値化し、前記1281μm四方の領域における100μm2以上のサイズの黒色領域の総面積の割合を黒色面積率とする。」ような樹脂基材を備えるガスバリア性フィルムを実施することができる。

イ 黒色面積率のバラツキ(申立人1の特許異議申立書の73ページ17〜23行、申立人4の特許異議申立書の47ページ17行〜48ページ16行)
申立人1、4は、発明の詳細な説明には、樹脂材料についてどのようなバラツキが存在するのかが記載されておらず、本件発明を実施できない旨を主張している。
この点について、上記第3の3(1)ア(イ)で示したように、発明の詳細な説明には、同じ製品であっても製造ロットによって、樹脂基材の表面の光学顕微鏡画像を2値化処理して測定される黒色面積率にばらつきがあることが記載されており、樹脂材料における製造ロットによる黒色面積率のばらつきは理解できる。

ウ 黒色面積率の評価指標としての妥当性(申立人1の特許異議申立書の73ページ24〜74ページ下から2行)
申立人1は、発明の詳細な説明には、「黒色面積率」という評価パラメータによって、酸素透過度が評価し得るのか、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない旨を主張している。
この点について、発明の詳細な説明には、次の記載がある。
「【0009】
本発明者らは、前記の問題の原因調査のため、酸素バリア性に劣るガスバリア性フィルムの表面及び断面を光学顕微鏡や電子顕微鏡で詳細に観察した。樹脂基材のブロッキング防止のために添加されているアンチブロッキング剤(以下、「AB剤」とも記す。)の存在箇所において、集束イオン/電子ビーム加工観察装置で断面電子顕微鏡観察を行った結果、AB剤が高く突出した箇所において皮膜に幅数μmの欠陥が発生していることを確認した。この欠陥が、ガス透過の経路となり、酸素バリア性が充分に発現しなかったと考えられる。
【0010】
樹脂基材の表面にはAB剤による様々な大きさの凸部が存在する。樹脂基材の製造ロットによってAB剤の突出高さや突出密度にばらつきがあり、該樹脂基材表面にガスバリア性皮膜をコーティングしたときに、大きな凸部の位置で局所的に皮膜が形成されず、欠陥が生じ、酸素バリア性が不安定になっていたと考えられる。
・・・
【0012】
そこで本発明者らは、ガスバリア性フィルムの酸素バリア性と印刷適性に影響する樹脂基材の広範囲の表面状態を、短時間で正確に把握する方法を考案し、樹脂基材の表面の光学顕微鏡画像を2値化処理して100μm2以上の黒色領域の総面積率(以下、黒色面積率と呼ぶ)が0.15%以下であると、酸素バリア性能に優れ、かつ、ガスバリア性フィルム上の印刷適性が良好になることを見出し、本発明に至ったものである。」
このように、発明の詳細な説明には、「黒色面積率」と「酸素透過度」との関係が示されている。

エ 黒色面積率の測定(申立人3の特許異議申立書の9ページ29行〜10ページ13行)
申立人3は、樹脂基材は、下地層、無機酸化物層、酸素バリア性皮膜で覆われているため、黒色面積率を測定することができない旨を主張している。
この点について、本件発明1の「樹脂基材」の「黒色面積率」に係る発明特定事項は、本件発明1の「ガスバリア性フィルム」が備える「樹脂基材」を特定するものである。
このことは、発明の詳細な説明には、黒色面積率の測定方法について、「樹脂基材10の表面の輝度を2値化処理して黒色に見える箇所(黒点)を電子顕微鏡で観察すると、突起物が存在する。」(【0045】)と記載され、実施例における黒色面積率の測定についても、「樹脂基材α1〜12のコロナ処理面側の表面について、前記した画像取得条件、画像解析条件に従い、黒色面積率を求めた。」(【0131】)と記載されていることとも整合している。

3 サポート要件について
(1)発明の詳細な説明の記載
本件発明が解決しようとする課題は、「酸素バリア性を付与するための皮膜の厚みが薄くても、本来の酸素バリア性を充分に発現して優れたガスバリア性を示し、かつ、印刷適性が良好なガスバリア性フィルム及びその製造方法を提供すること」(【0008】)である。

当該課題を解決する手段に関して、発明の詳細な説明には次の記載がある。
「【0030】
ガスバリア性フィルム1は、樹脂基材10と下地層30と無機酸化物層40と酸素バリア性皮膜20とを有する。なお、下地層30および無機酸化物層40のいずれか一方は無くても構わない。
【0031】
下地層30は、樹脂基材10の一方の面12に接して積層され、下地層30の樹脂基材10と接している面の反対の面に無機酸化物層40が積層されている。無機酸化物層40は、下地層30に接して積層され、無機酸化物層40の下地層30と接している面の反対面に酸素バリア性皮膜20が接して位置している。なお、下地層30が設けられない場合、無機酸化物層40が樹脂基材10の一方の面12上に積層される。また、無機酸化物層40が設けられない場合、酸素バリア性被膜20が下地層30上に積層される。」
「【0042】
樹脂基材10の一方の面12の黒色面積率は0.15%以下であり、0.12%以下がより好ましく、0.10%以下がさらに好ましい。黒色面積率が上記上限値以下であると、ガスバリア性フィルム1の酸素バリア性をより向上しやすい。加えて、黒色面積率が上記上限値以下であると、ガスバリア性フィルム1の印刷適性を良好にしやすい。黒色面積率の下限値は特に限定されず0%以上である。」
「【0045】
本明細書における黒色面積率は、下記測定方法により測定できる。
<測定方法>
樹脂基材10の一方の面12の1281μm四方の任意の領域を光学顕微鏡で撮影して、1024×1024pixelの撮影画像を取得する。撮影画像の一例を図2に示す。
・・・
【0047】
次に、画像解析ソフトを用いて、取得した1024×1024pixelの撮影画像を256階調のモノクロ画像に変換する。変換したモノクロ画像における輝度の分布をプロットして、ヒストグラムを作成する。ヒストグラムの一例を図3に示す。
・・・
【0049】
次に、輝度の最頻値から30を減じた値を閾値とし、閾値未満を黒、閾値以上を白としてモノクロ画像における輝度を2値化する。図3のモノクロ画像において、白と黒の境となる閾値は、輝度の最頻値から30を減じた値(P−30)である。図3では、閾値は、130である。すなわち、図3では、輝度が130未満を「黒」、輝度が130以上を「白」として、2値化処理する。
・・・
【0051】
前記の2値化した1281×1281μm(1024×1024pixel)の画像から、100μm2以上のサイズの黒色領域の総面積の割合を黒色面積率とする。また、黒色面積率は、任意の3箇所の領域において求められる値の算術平均値とする。」

(2)判断
本件発明は、「樹脂基材と、前記樹脂基材の少なくとも一方の面側に設けられる酸素バリア性皮膜と、前記樹脂基材と前記酸素バリア性皮膜の間に設けられる、下地層および無機酸化物層のいずれか一方または両方とを備え、前記樹脂基材の一方の面は、下記測定方法で測定される黒色面積率が0.15%以下である」「<測定方法> 樹脂基材の一方の面の1281μm四方の任意の領域を光学顕微鏡で撮影して、1024×1024pixelの撮影画像を取得し、画像解析ソフトを用いて、前記撮影画像を256階調のモノクロ画像に変換し、前記モノクロ画像における輝度の最頻値から30を減じた値を閾値とし、前記閾値未満を黒、前記閾値以上を白として前記輝度を2値化し、前記1281μm四方の領域における100μm2以上のサイズの黒色領域の総面積の割合を黒色面積率とする」ことを発明特定事項としており、上記(1)に示した発明の詳細な説明の記載を総合すると、当該発明特定事項により、本件発明の課題を解決するものであるといえる。
よって、本件発明1〜12は、発明の詳細な説明に記載したものである。

(3)申立人の主張について
ア 拡張又は一般化(申立人1の特許異議申立書の69ページ3行〜72ページ1行)
申立人1は、ガスバリア性が、バリア層が片面か両面か、他の層が存在するか等の層構造、各層の材料、厚さ、製造工程の相違等によって大きく変化することは技術常識であるから、発明の詳細な説明の実施例に記載された以外のものについて、発明の課題を解決するとは考えられない旨を主張している。
この点について、上記(2)で示したとおり、本件発明の発明特定事項により、本件発明の課題を解決するものであるから、申立人1が主張するような層構造等を特定することまで要しない。

イ 所定の黒色面積率の樹脂基材(申立人3の特許異議申立書の10ページ14〜末行、申立人4の特許異議申立書の48ページ18〜22行)
申立人3、4は、発明の詳細な説明には、黒色面積率を0.15%以下にする方法が記載されていないから、本件特許の特許請求の範囲は、発明の詳細な説明に記載された範囲を超える旨を主張している。
この点について、発明の詳細な説明の【0126】、【0138】【表1】、【0151】【表2】、【0164】【表3】、【0177】【表4】には、樹脂基材として用いられる材料、及びその黒色面積率の測定結果が記載されており、本件発明1の黒色面積率の数値範囲に含まれるものが記載されている。

ウ 酸素バリア性皮膜を積層する面(申立人4の特許異議申立書の48ページ23行〜49ページ2行)
申立人4は、本件発明1は、酸素バリア性皮膜を積層する面の反対面側のみ黒色面積率を満たす場合も含まれる旨を主張している。
この点について、本件発明1は、「前記樹脂基材の少なくとも一方の面側に設けられる酸素バリア性皮膜」を備え、「前記樹脂基材の一方の面は、下記測定方法で測定される黒色面積率が0.15%以下」であり、すなわち、酸素バリア性皮膜は、黒色面積率が測定される一方の面側に設けられているから、申立人4の上記主張は当たらない。

明確性について
(1)請求項1における黒色面積率に関する記載について
請求項1の「前記樹脂基材の一方の面は、下記測定方法で測定される黒色面積率が0.15%以下である」「<測定方法>樹脂基材の一方の面の1281μm四方の任意の領域を光学顕微鏡で撮影して、1024×1024pixelの撮影画像を取得し、画像解析ソフトを用いて、前記撮影画像を256階調のモノクロ画像に変換し、前記モノクロ画像における輝度の最頻値から30を減じた値を閾値とし、前記閾値未満を黒、前記閾値以上を白として前記輝度を2値化し、前記1281μm四方の領域における100μm2以上のサイズの黒色領域の総面積の割合を黒色面積率とする。」の記載について、申立人1は、物の発明として何を特定しているのか不明確である旨を主張し(申立人1の特許異議申立書の72ページ4〜下から5行)、申立人3は、黒色面積率を測定できない態様を含んでいる旨を主張し(申立人3の特許異議申立書の9ページ29行〜10ページ13行)、申立人4は、実施例に記載の樹脂基材における黒色面積率の値について、どのようなロットサイズであり、どのように測定サンプルを選別してどのような統計処理がなされた統計量なのかが記載されておらず、権利範囲が明確でない旨を主張している(申立人4の特許異議申立書の49ページ4〜12行)。
この点について、請求項1の上記記載は、本件発明1に係る「ガスバリア性フィルム」が備える「樹脂基材」を特定するものであって、当該記載自体は明確であり、技術的な不備もないから、本件発明1は明確である。

(2)請求項1における各層の区別について
申立人3は、請求項1において、樹脂基材と下地層との区別、酸素バリア性皮膜と無機酸化物層との区別が明確にされておらず、不明確であり、請求項4における下地層の厚みや、請求項6における無機酸化物層の厚みを特定することができない旨を主張している(申立人3の特許異議申立書の11ページ1〜7行)。
この点について、「樹脂基材」、「下地層」、「酸素バリア性皮膜」、「無機酸化物層」のそれぞれの用語は明らかである。

(3)請求項5、9における反応生成物について
申立人3は、請求項5、9における「反応生成物」の範囲が不明確である旨を主張している(申立人3の特許異議申立書の11ページ8〜9行)。
この点について、請求項5には、「前記有機高分子は、ポリアクリル系樹脂、ポリオール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、及び、これらの樹脂の反応生成物の少なくとも1つを含む」と記載されており、「反応生成物」は、「ポリアクリル系樹脂、ポリオール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂」の反応により生成した物を意味することは明らかである。
このことは、発明の詳細な説明の【0062】、【0063】の記載とも整合している。
また、請求項9には、「金属アルコキシド、金属アルコキシドの加水分解物、及び、金属アルコキシド或いは金属アルコキシドの加水分解物の反応生成物の少なくとも1つ」と記載されており、「反応生成物」は、「金属アルコキシド、金属アルコキシドの加水分解物、及び、金属アルコキシド或いは金属アルコキシドの加水分解物」の反応により生成した物を意味することは明らかである。
このことは、発明の詳細な説明の【0074】、【0086】の記載とも整合している。

(4)請求項12におけるガスバリア層の形成について
申立人1は、請求項12の「前記樹脂基材の少なくとも一方の面側にコーティング剤を塗布して、少なくとも前記酸素バリア性皮膜を形成する工程」の記載について、コーティング剤が特定されておらず、また、下地層および無機酸化物層の形成工程が特定されていないため、発明の構成要素が欠如している旨を主張している(申立人1の特許異議申立書の72ページ下から4行〜73ページ6行)。
この点について、請求項12の上記記載は、少なくとも酸素バリア性皮膜を、コーティング剤を塗布することによって形成する工程であることを特定するものであって、当該記載自体は明確であり、技術的な不備もないから、本件発明12は明確である。

(5)小括
よって、本件発明1〜12は明確である。

第5 むすび
したがって、取消理由通知に記載した取消理由、及び特許異議の申立ての理由によっては、請求項1〜12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-06-29 
出願番号 P2020-038062
審決分類 P 1 651・ 537- Y (B32B)
P 1 651・ 536- Y (B32B)
P 1 651・ 113- Y (B32B)
P 1 651・ 121- Y (B32B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 稲葉 大紀
藤井 眞吾
登録日 2020-12-14 
登録番号 6809622
権利者 凸版印刷株式会社
発明の名称 ガスバリア性フィルム及びその製造方法  
代理人 青木 博昭  
代理人 吉住 和之  
代理人 黒木 義樹  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 鈴木 洋平  

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