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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
管理番号 1387507
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-08-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-10-20 
確定日 2022-05-13 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6863870号発明「粘着シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6863870号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜4〕、5、6について訂正することを認める。 特許第6863870号の請求項1及び3〜6に係る特許を維持する。 特許第6863870号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6863870号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜6に係る特許についての出願は、
平成29年10月10日を出願日とするものであって、令和3年4月5日に特許権の設定登録がされ、令和3年4月21日に特許掲載公報が発行され、その請求項1〜6に係る発明の特許に対し、令和3年10月20日に石田祥子(以下「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。
特許異議の申立て以後の手続の経緯は次のとおりである。
令和3年12月21日付け 取消理由通知
令和4年 2月16日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年 2月22日付け 訂正請求があった旨の通知

なお、申立人は、令和4年2月22日付けの訂正請求があった旨の通知に対して、指定した期間内に応答しなかった。

第2 訂正の適否
1.訂正の内容
令和4年2月16日付けの訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の「請求の趣旨」は『特許第6863870号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜6について訂正することを求める。』というものであり、その内容は、以下の訂正事項1〜6からなるものである(なお、訂正箇所に下線を付す。)。

(1)訂正事項1
訂正前の請求項1の「前記粘着剤層のガソリンおよびエタノールの混合溶媒(ガソリン:エタノール=90:10、体積比)に20分浸漬した際のゾル分の重量平均分子量が25万以上である」との記載部分を、
訂正後の請求項1の「前記粘着剤層のガソリンおよびエタノールの混合溶媒(ガソリン:エタノール=90:10、体積比)に20分浸漬した際のゾル分の重量平均分子量が26万〜40万であり、
前記粘着剤層のガソリンおよびエタノールの混合溶媒(ガソリン:エタノール=90:10、体積比)に対するゲル分率が83〜91%である」との記載に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3、4も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
訂正前の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
訂正前の請求項3の「請求項1または2に記載の粘着シート。」との記載部分を、
訂正後の請求項3の「請求項1に記載の粘着シート。」との記載に訂正する。

(4)訂正事項4
訂正前の請求項4の「請求項1〜3のいずれか1項に記載の粘着シート。」との記載部分を、
訂正後の請求項4の「請求項1または3に記載の粘着シート。」との記載に訂正する。

(5)訂正事項5
訂正前の請求項5の「前記粘着剤層のガソリンおよびエタノールの混合溶媒(ガソリン:エタノール=90:10、体積比)に20分浸漬した際のゾル分の重量平均分子量が25万以上である」との記載部分を、
訂正後の請求項5の「前記粘着剤層のガソリンおよびエタノールの混合溶媒(ガソリン:エタノール=90:10、体積比)に20分浸漬した際のゾル分の重量平均分子量が26万〜40万であり、
前記粘着剤層のガソリンおよびエタノールの混合溶媒(ガソリン:エタノール=90:10、体積比)に対するゲル分率が83〜91%である」との記載に訂正する。

(6)訂正事項6
訂正前の請求項6の「前記粘着剤層のガソリンおよびエタノールの混合溶媒(ガソリン:エタノール=90:10、体積比)に20分浸漬した際のゾル分の重量平均分子量が25万以上である」との記載部分を、
訂正後の請求項6の「前記粘着剤層のガソリンおよびエタノールの混合溶媒(ガソリン:エタノール=90:10、体積比)に20分浸漬した際のゾル分の重量平均分子量が26万〜40万であり、
前記粘着剤層のガソリンおよびエタノールの混合溶媒(ガソリン:エタノール=90:10、体積比)に対するゲル分率が83〜91%である」との記載に訂正する。

2.本件訂正による訂正の適否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「前記粘着剤層のガソリンおよびエタノールの混合溶媒(ガソリン:エタノール=90:10、体積比)に20分浸漬した際のゾル分の重量平均分子量」の「25万以上」という範囲を、本件特許明細書の段落0024の「ゾル分は…25万〜40万であることがより好ましく、…26万〜33万であることが特に好ましい。」との記載、及び同段落0136の【表1】から読み取れる「実施例3…26…実施例7…40」等の記載を根拠に、訂正後の「26万〜40万」という範囲に減縮するとともに、訂正前の請求項2の「前記粘着剤層のガソリンおよびエタノールの混合溶媒(ガソリン:エタノール=90:10、体積比)に対するゲル分率」の「80%以上」という範囲を、本件特許明細書の段落0030の「ゲル分率は、83〜…であることが好ましく、…〜91%であることがより好ましい。」との記載、及び同段落0136の【表1】から読み取れる「実施例4…83…実施例5…91」等の記載を根拠に、訂正後の「83〜91%」という範囲に減縮して、訂正後の請求項1の発明特定事項として導入するものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内において「特許請求の範囲の減縮」を目的として訂正するものに該当する。
そして、訂正事項1は「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、なおかつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2〜4について
訂正事項2は、訂正前の請求項2を削除する訂正であり、訂正事項3及び4は、それぞれ訂正前の請求項3及び4の択一的引用記載から請求項2を削除するものであるから、訂正事項2〜4は、いずれも願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内において「特許請求の範囲の減縮」を目的として訂正するものに該当する。
そして、訂正事項2〜4は「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2〜4は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、なおかつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項5〜6について
訂正事項5〜6は、訂正前の請求項5〜6の「前記粘着剤層のガソリンおよびエタノールの混合溶媒(ガソリン:エタノール=90:10、体積比)に20分浸漬した際のゾル分の重量平均分子量」の「25万以上」という範囲を、本件特許明細書の段落0024の「ゾル分は…〜40万…26万〜」等の記載を根拠に、訂正後の「26万〜40万」という範囲に減縮するとともに、訂正前の請求項2の「前記粘着剤層のガソリンおよびエタノールの混合溶媒(ガソリン:エタノール=90:10、体積比)に対するゲル分率が80%以上」との記載、及び本件特許明細書の段落0030の「ゲル分率は、83〜…〜91%」等の記載を根拠に、訂正後の請求項5〜6に「前記粘着剤層のガソリンおよびエタノールの混合溶媒(ガソリン:エタノール=90:10、体積比)に対するゲル分率が83〜91%」という発明特定事項を追加して減縮するものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内において「特許請求の範囲の減縮」を目的として訂正するものに該当する。
そして、訂正事項5〜6は「特許請求の範囲の減縮」のみを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
したがって、訂正事項5〜6は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、なおかつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(4)一群の請求項について
訂正事項1〜4に係る訂正前の請求項1〜4について、その請求項2〜4はいずれも直接又は間接的に請求項1を引用するものであるから、訂正前の請求項1〜4に対応する訂正後の請求項1〜4は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

3.まとめ
以上総括するに、訂正事項1〜6による本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、なおかつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1〜4〕、5、6について訂正を認める。

第3 本件発明
本件訂正により訂正された請求項1〜6に係る発明(以下「本1発明」〜「本6発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
塩化ビニル系樹脂を含む基材と、アクリル系共重合体および架橋剤を含む粘着剤組成物から形成される粘着剤層と、を含み、
前記アクリル系共重合体は、アルキル(メタ)アクリレートと、カルボキシ基含有不飽和単量体と、を含む単量体混合物を共重合して得られ、
前記カルボキシ基含有不飽和単量体の含有量は、単量体混合物に対して5質量%を超え20質量%以下であり、
前記粘着剤層のガソリンおよびエタノールの混合溶媒(ガソリン:エタノール=90:10、体積比)に20分浸漬した際のゾル分の重量平均分子量が26万〜40万であり、
前記粘着剤層のガソリンおよびエタノールの混合溶媒(ガソリン:エタノール=90:10、体積比)に対するゲル分率が83〜91%である、粘着シート。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記アクリル系共重合体の重量平均分子量が50万以上である、請求項1に記載の粘着シート。
【請求項4】
前記塩化ビニル系樹脂を含む基材がカレンダー成形で製膜されてなる、請求項1または3に記載の粘着シート。
【請求項5】
カレンダー成形で塩化ビニル系樹脂を含む基材を得、
該基材上にアクリル系共重合体および架橋剤を含む粘着剤組成物から形成される粘着剤層を形成することを有する粘着シートの製造方法であって、
前記アクリル系共重合体は、アルキル(メタ)アクリレートおよびカルボキシ基含有不飽和単量体を含む単量体混合物を共重合して得られ、
前記カルボキシ基含有不飽和単量体の含有量は、単量体混合物に対して5質量%を超え20質量%以下であり、
前記粘着剤層のガソリンおよびエタノールの混合溶媒(ガソリン:エタノール=90:10、体積比)に20分浸漬した際のゾル分の重量平均分子量が26万〜40万であり、
前記粘着剤層のガソリンおよびエタノールの混合溶媒(ガソリン:エタノール=90:10、体積比)に対するゲル分率が83〜91%である、粘着シートの製造方法。
【請求項6】
塩化ビニル系樹脂を含む基材と、アクリル系共重合体および架橋剤を含む粘着剤組成物から形成される粘着剤層と、を含む、粘着シートの耐溶媒性向上方法であって、
前記溶媒が、ガソリンおよびエタノールの混合溶媒(ガソリン:エタノール=90:10、体積比)であり、
前記アクリル系共重合体は、アルキル(メタ)アクリレートおよびカルボキシ基含有不飽和単量体を含む単量体混合物を共重合して得られ、
前記カルボキシ基含有不飽和単量体の含有量は、単量体混合物に対して5質量%を超え20質量%以下であり、
前記粘着剤層のガソリンおよびエタノールの混合溶媒(ガソリン:エタノール=90:10、体積比)に20分浸漬した際のゾル分の重量平均分子量が26万〜40万であり、
前記粘着剤層のガソリンおよびエタノールの混合溶媒(ガソリン:エタノール=90:10、体積比)に対するゲル分率が83〜91%である、方法。」

第4 取消理由通知の概要
令和3年12月21日付けの取消理由通知で通知された取消理由は、次の理由1及び2の取消理由からなるものである。

〔理由1〕本件特許の請求項1及び3〜6に係る発明は、本件出願日前に日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
甲第1号証:特開平10−36782号公報
甲第2号証:特開2011−231218号公報
よって、本件特許の請求項1及び3〜6に係る発明に係る特許は、同法第29条の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

〔理由2〕本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
2.(3)ゾル分の重量平均分子量の数値範囲の点:ゾル分の重量平均分子量が40万を超える場合や25万程度の場合については、課題を解決できると認識できる範囲のものとは認められない。
2.(4)粘着剤層のゲル分率の数値範囲の点:粘着剤層のエタノール混合ガソリン(E10)に対するゲル分率が「83〜91%」の範囲に限定されなければ、課題を解決できると認識できない。
よって、本件特許の請求項1〜6に係る発明に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

第5 当審の判断
1.理由1(新規性)について
本件訂正により、独立形式で記載された訂正前の請求項1、5及び6の記載に、訂正前の請求項2の要件が盛り込まれた。そして、理由1は訂正前の請求項2に対して新規性の取消理由を通知するものではない。
したがって、訂正後の請求項1及び3〜6に係る発明について、理由1の取消理由は該当しない。

2.理由2(サポート要件)について
理由2の2.(3)の「ゾル分の重量平均分子量の数値範囲の点」について、本件訂正による訂正後の請求項1、5及び6の範囲は「粘着剤層のガソリンおよびエタノールの混合溶媒(ガソリン+:エタノール=90:10、体積比)に20分浸漬した際のゾル分の重量平均分子量が26万〜40万」のものに限定されたので、理由2の2.(3)に指摘した取消理由は解消した。
また、理由2の2.(4)の「粘着剤層のゲル分率の数値範囲の点」について、本件訂正による訂正後の請求項1、5及び6の範囲は「粘着剤層のガソリンおよびエタノールの混合溶媒(ガソリン+:エタノール=90:10、体積比)に対するゲル分率が83〜91%」のものに限定されたので、理由2の2.(4)に指摘した取消理由は解消した。
したがって、訂正後の請求項1及び3〜6に係る発明について、理由2の取消理由は解消した。

3.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由1(新規性)について
特許異議申立人が主張する申立理由1(新規性)は、本件特許発明1,3〜6に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定を満たしていないというものであるところ、甲第1号証及び甲第2号証を主引用例とした新規性の検討は、上記第4〔理由1〕において採用されているから、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由に該当しない。

(2)申立理由2(進歩性)について
ア.申立理由2(進歩性)の概要
特許異議申立人が主張する申立理由2(進歩性)は、本件特許発明1〜6に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明から当業者が容易に想到できる発明であり、特許法第29条第2項の規定を満たしていないというものである。

イ.甲第1〜5号証及びその記載事項
(ア)特許異議申立人が提示した甲第1〜5号証は、次のとおりのものである。
甲第1号証:特開平10−36782号公報
甲第2号証:特開2011−231218号公報
甲第3号証:分析結果報告書 ゲル分率と分子量測定、株式会社日東分析センター、2021年10月7日
甲第4号証:特開2008−213387号公報
甲第5号証:特開2017−165864号公報

(イ)甲第1号証には、次の記載がある。
摘記1a:請求項1
「【請求項1】塩化ビニル系樹脂及び可塑剤からなる塩化ビニル系樹脂シートの一面に、重量平均分子量(Mw)が80万〜100万であり、重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)が4.0以下であり、かつ重量平均分子量10,000以下の低分子量物の比率が0.1重量%以下であるアクリル系共重合体が架橋剤により架橋されたアクリル系粘着剤層が設けられ、該アクリル系粘着剤のゲル分率が50〜60重量%であることを特徴とする装飾用粘着シート。」

摘記1b:段落0006、0018、0023〜0024及び0036
「【0006】本発明は上記従来の問題点を解消し、曲面を主体とする被着体(特に車両などのフリートマーキング分野で凹部分を有するもの)に貼付しても、浮き上がりや剥がれが生じることのない接着力の良好な装飾用粘着シートを提供することを目的とする。…
【0018】本発明で用いられる塩化ビニル系樹脂シートの製造方法は、従来公知の任意の方法が採用されてもよく、例えば、上記構成成分を有機溶剤に分散させることにより塩化ビニル系樹脂ゾルを得、工程紙上に塗布乾燥後、加熱キュアーさせるゾルキャスティング法や、上記構成成分を加熱溶融させてシート状に成形するカレンダー法が挙げられる。…
【0023】上記極性基含有ビニルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、(無水)マレイン酸、フマル酸、カルボキシエチル(メタ)アクリレート等のカルボキシル基含有ビニルモノマー…が挙げられ、これらは単独で使用されてもよいし、また2種類以上併用されてもよい。
【0024】上記極性基含有ビニルモノマーの含有量は、少なくなると凝集力が低下し剪断強度が得られにくくなり、また多くなると凝集力が高くなり感圧接着性が得られにくくなるため、混合モノマー中、好ましくは2〜50重量%、より好ましくは5〜30重量%である。…
【0036】上記架橋剤の添加量は、少なくなると充分な架橋度が得られにくくなり、このため凝集力の低下に伴い充分な剪断強度が得られにくくなり、また多くなると架橋密度が高くなり柔軟性が損なわれ、充分な感圧接着性が得られにくくなる。このため、添加量は上記アクリル系共重合体の固形分100重量部に対して0.01〜5重量部であり、好ましくは0.05〜3重量部である。」

摘記1c:段落0045〜0048及び0052
「【0045】
【発明の実施の形態】
(塩化ビニル系樹脂シートの作製)塩化ビニル樹脂(鐘淵化学社製,商品名「PSH−10」)100重量部、アジピン酸系可塑剤(アデカアーガス社製、商品名「P−300」)30重量部、金属石鹸系熱安定剤(アデカアーガス社製、商品名「MARK AP551」)7重量部、酸化チタン(大日精化社製、商品名「VT−771」)35重量部、溶剤(三菱化学社製、商品名「ソルベッソ」)60重量部を均一に混合した後、工程紙上に塗工し、乾燥後、加熱キュアーして厚み50μmの塩化ビニル系樹脂シートを得た。
【0046】(実施例1〜3及び比較例1〜2)還流冷却管、温度計、攪拌機を備えたセパラブルフラスコ中に、表1記載の配合組成に従い、所定量のn−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、アクリル酸、2−ヒドロキシエチルメタクリレートおよびn−ドデシルメルカプタンを酢酸エチル100重量部とともに添加し、窒素ガスパージを行いながら還流するまで昇温し保持した。次いでベンゾイルパーオキサイドの5重量%酢酸エチル溶液を、最初に0.1重量部、30分後に0.1重量部、1時間30分後に0.2重量部、3時間後に0.8重量部の順でそれぞれ30分かけて添加し、全量添加後更に5時間かけて重合しアクリル系共重合体の溶液を得た。この時の重量平均分子量(Mw)、重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)および重量平均分子量10,000以下の低分子量物の比率をゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法により求めた。その結果を表1に示した。
【0047】更に表1記載の配合組成に従い、上記アクリル系共重合体の固形分100重量部に対して、イソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン社製、商品名「コロネートL−55E」、固形分55重量%の溶液)1.0重量部を均一に混合し、上記塩化ビニル系樹脂シートに乾燥後の厚みが30μmとなるように塗工し、乾燥することにより装飾用粘着シートを得た。…
【0052】【表1】



甲第2号証には、次の記載がある。
摘記2a:段落0001
「【0001】本発明は、看板等の物品、建築物および車輌等の宣伝広告や装飾を目的として用いられる装飾粘着シート用の粘着剤に関する。」

摘記2b:段落0056〜0057、0074及び0088
「【0056】(製造例1)
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下装置、窒素導入管を備えた反応容器(以下、単に「反応容器」と記載する。)にn−ブチルアクリレート70部、メチルアクリレート20部、2−エチルへキシルアクリレート4部、アクリル酸6部、酢酸エチル72部、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)0.13部を仕込み、この反応容器内の空気を窒素ガスで置換した後、攪拌しながら窒素雰囲気下中で、この反応溶液を還流温度で8時間反応させた。反応終了後、酢酸エチルで希釈し、不揮発分濃度約30%、重量平均分子量Mw91万のアクリル系共重合体の溶液を得た。
【0057】(製造例2〜5)
酢酸エチル量を調整した他は製造例1と同様の方法により、重量平均分子量Mw105万、148万、186万、58万のアクリル系共重合体の溶液を得た。

【0074】(実施例1)
製造例1で得られた共重合体溶液75重量部と製造例9で得られた共重合体溶液25重量部、エポキシ架橋剤としてN,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン0.021部を添加して均一に撹拌し、粘着剤を得た。
得られた粘着剤を市販の剥離性シート上に乾燥塗膜厚さが30μmになるように塗布し、100℃−2分間で乾燥させ、この粘着剤層面と塩化ビニル系樹脂シート(厚み50μm)を貼り合わせて粘着シートを作製した。…
【0088】(比較例2)
製造例2で得られた共重合体溶液100重量部を用いた、以外は、実施例1と同様にして粘着シートを作製した。」

甲第3号証には、次の記載がある。
摘記3a:表1




なお、特許異議申立書の第14頁の「イ−3 甲第3号証」の欄には「甲第3号証には、甲第1号証の実施例1および比較例3に従って作製した粘着剤層をそれぞれサンプルまる3(当審注:○の中に3、以下同様に示す)、サンプルまる1とし、甲第2号証の比較例2に従って作製した粘着剤層をサンプルまる2として、本件特許に記載された評価方法に倣って測定した、エタノール混合ガソリンにおけるゾル分の重量平均分子量の結果を示した。」との注釈がなされている。

甲第4号証には、次の記載がある。
摘記4a:請求項1
「【請求項1】基材層、金属薄膜層及び粘着剤層がこの順に積層一体化されてなる装飾用粘着シートであって、上記基材層が、塩化ビニル樹脂100重量部、アジピン酸ポリエステル系可塑剤5〜100重量部、下記式(1)で示されるアルキル錫メルカプト化合物0.01〜10重量部、有機亜リン酸エステル0.01〜5重量部及びベンゾフェノン系紫外線吸収剤1〜10重量部を含有してなる塩化ビニル樹脂フィルムであることを特徴とする装飾用粘着シート。
(R1)n−Sn−(SCH2CH2COORr)4−n ・・・式(1)
(式中、nは1又は2、R1は炭素数1〜8のアルキル基、R2は炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数1〜8のアルキル基の誘導体)」

甲第5号証には、次の記載がある。
摘記5a:請求項1
「【請求項1】塩化ビニル樹脂と、ポリエステル系可塑剤と、水素化ニトリルゴムとを含有し、
前記ポリエステル系可塑剤の数平均分子量は、2000以上であり、
前記ポリエステル系可塑剤の含有量は、前記塩化ビニル樹脂100重量部に対して、30重量部以下であり、
前記水素化ニトリルゴムの含有量は、前記塩化ビニル樹脂100重量部に対して、1重量部以上、30重量部以下であることを特徴とするポリ塩化ビニル基材。」

ウ.甲第1〜2号証に記載された発明
(ア)甲1発明
摘記1aの「塩化ビニル系樹脂シートの一面に、重量平均分子量(Mw)が80万〜100万であ…るアクリル系共重合体が架橋剤により架橋されたアクリル系粘着剤層が設けられ…る装飾用粘着シート。」との記載、
摘記1bの「本発明は…曲面を主体とする被着体(特に車両などのフリートマーキング分野で凹部分を有するもの)に貼付しても、浮き上がりや剥がれが生じることのない接着力の良好な装飾用粘着シートを提供することを目的とする。」との記載、及び、
摘記1cの「表1」の「実施例1」の記載からみて、甲第1号証には、
『n−ブチルアクリレート80重量部、2−エチルヘキシルアクリレート10重量部、アクリル酸9.9重量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート0.1重量部を重合して得られた、重量平均分子量(Mw)87万のアクリル系共重合体の固形分100重量部に対して、イソシアネート系架橋剤(55%酢酸エチル溶液)1.0重量部を混合し、塩化ビニル系樹脂シートに乾燥後の厚みが30μmとなるように塗工して得られた、車両などの被着体に貼付しても浮き上がりや剥がれが生じない接着力の良好な装飾用粘着シート。』についての発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

(イ)甲2発明
摘記2aの「本発明は、看板等の物品、建築物および車輌等の宣伝広告や装飾を目的として用いられる装飾粘着シート用の粘着剤に関する。」との記載、及び 摘記2bの「(製造例1)…n−ブチルアクリレート70部、メチルアクリレート20部、2−エチルへキシルアクリレート4部、アクリル酸6部、酢酸エチル72部、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)0.13部を仕込み、…反応溶液を還流温度で8時間反応させた。…(製造例2〜5)酢酸エチル量を調整した他は製造例1と同様の方法により、重量平均分子量Mw105万、148万、186万、58万のアクリル系共重合体の溶液を得た。…(実施例1)製造例1で得られた共重合体溶液75重量部と製造例9で得られた共重合体溶液25重量部、エポキシ架橋剤としてN,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン0.021部を添加して均一に撹拌し、粘着剤を得た。得られた粘着剤を市販の剥離性シート上に乾燥塗膜厚さが30μmになるように塗布し、100℃−2分間で乾燥させ、この粘着剤層面と塩化ビニル系樹脂シート(厚み50μm)を貼り合わせて粘着シートを作製した。…(比較例2)製造例2で得られた共重合体溶液100重量部を用いた、以外は、実施例1と同様にして粘着シートを作製した。」との記載からみて、甲第2号証には、
『n−ブチルアクリレート70部、メチルアクリレート20部、2−エチルへキシルアクリレート4部、アクリル酸6部を反応させて得られた重量平均分子量Mw105万のアクリル系共重合体(製造例2)の共重合体溶液100重量部に、エポキシ架橋剤としてN,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン0.021部を添加・撹拌して得られた粘着剤を塗布・乾燥させた粘着剤層面と塩化ビニル系樹脂シートを貼り合わせて作製した、車輌等の宣伝広告や装飾を目的として用いられる装飾粘着シート。』についての発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているといえる。

エ.甲第1号証を主引用例とした場合の検討
(ア)対比
本1発明と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「n−ブチルアクリレート80重量部、2−エチルヘキシルアクリレート10重量部、アクリル酸9.9重量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート0.1重量部を重合して得られた、重量平均分子量(Mw)87万のアクリル系共重合体」について、
その「n−ブチルアクリレート」及び「2−エチルヘキシルアクリレート」が、本1発明の「アルキル(メタ)アクリレート」に相当し、
その「アクリル酸9.9重量部」が、本1発明の「カルボキシ基含有不飽和単量体」及び「前記カルボキシ基含有不飽和単量体の含有量は、単量体混合物に対して5質量%を超え20質量%以下であり」に相当し、
その「重合して得られた…アクリル系共重合体」が、本1発明の「アルキル(メタ)アクリレートと、カルボキシ基含有不飽和単量体と、を含む単量体混合物を共重合」して得られた「前記アクリル系共重合体」に相当する。
甲1発明の「アクリル系共重合体」と「イソシアネート系架橋剤」を混合したものは、本1発明の「アクリル系共重合体および架橋剤を含む粘着剤組成物」に相当し、
甲1発明の「塩化ビニル系樹脂シート」は、本1発明の「塩化ビニル系樹脂を含む基材」に相当し、
甲1発明の「アクリル系共重合体…に対して、イソシアネート系架橋剤…を混合し、塩化ビニル系樹脂シートに…塗工して得られた…装飾用粘着シート」は、本1発明の「塩化ビニル系樹脂を含む基材と、アクリル系共重合体および架橋剤を含む粘着剤組成物から形成される粘着剤層」を含む「粘着シート」に相当する。

してみると、本1発明と甲1発明は『塩化ビニル系樹脂を含む基材と、アクリル系共重合体および架橋剤を含む粘着剤組成物から形成される粘着剤層と、を含み、前記アクリル系共重合体は、アルキル(メタ)アクリレートと、カルボキシ基含有不飽和単量体と、を含む単量体混合物を共重合して得られ、前記カルボキシ基含有不飽和単量体の含有量は、単量体混合物に対して5質量%を超え20質量%以下である、粘着シート。』という点において一致し、次の(α)及び(β)の2つの点で相違する。

(α)粘着剤層のガソリンおよびエタノールの混合溶媒(ガソリン:エタノール=90:10、体積比)に20分浸漬した際のゾル分の重量平均分子量が、本1発明は「26万〜40万」であるのに対して、甲1発明は当該「ゾル分の重量平均分子量」の値が不明な点

(β)粘着剤層のガソリンおよびエタノールの混合溶媒(ガソリン:エタノール=90:10、体積比)に対するゲル分率が、本1発明は「83〜91%」であるのに対して、甲1発明は当該「ゲル分率」の値が不明な点

(イ)判断
先ず、上記(α)の相違点について、甲第3号証の分析結果報告書(摘記3a)には、甲第1号証の実施例1(甲1発明)に従って作製した粘着剤層(サンプルまる3)のエタノール混合ガソリンにおけるゾル分の重量平均分子量(Mw)が4.20×105=42万であったことが示されているので、上記(α)の点は実質的な相違点である。
そして、甲第1〜5号証に記載の技術事項を精査しても、粘着剤層のガソリンおよびエタノールの混合溶媒(ガソリン:エタノール=90:10、体積比)に20分浸漬した際のゾル分の重量平均分子量を「26万〜40万」の範囲にすることについては、示唆を含めて記載がないので、上記(α)の相違点に係る構成を甲1発明に具備させることが当業者にとって容易であるとはいえない。

次に、上記(β)の相違点について、甲第3号証の分析結果報告書(摘記3a)には、甲第1号証の実施例1(甲1発明)に従って作製した粘着剤層(サンプルまる3)のエタノール混合ガソリンにおけるゲル分率(wt%)が59%であったことが示されているので、上記(β)の点は実質的な相違点である。
そして、甲第1〜5号証に記載の技術事項を精査しても、粘着剤層のガソリンおよびエタノールの混合溶媒(ガソリン:エタノール=90:10、体積比)に対するゲル分率を「83〜91%」の範囲にすることについては、示唆を含めて記載がないので、上記(β)の相違点に係る構成を甲1発明に具備させることが当業者にとって容易であるとはいえない。

更に、本件特許明細書の段落0136の表1には、上記(α)及び(β)の相違点に係る構成を具備した実施例1〜7のものが「耐E10性」の評価において「○:変化なし」又は「△:浸漬終了直後、塩ビフィルムにしわが発生するも、1時間放置後、元の状態に戻る」の評価になり、当該「ゾル分 Mw(万)」及び「ゲル分率(%)」の値が、本1、本5及び本6発明の要件を満たさない比較例1〜8のものが「耐E10性」の評価において「×:塩ビフィルムに、しわ、膨れ、収縮等の変形が生じた。1時間放置後も元に戻らない」の評価になることが示されている。

したがって、本1発明は、甲第1号証の刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当するとはいえない。

オ.甲第2号証を主引用例とした場合の検討
(ア)対比
本1発明と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「n−ブチルアクリレート70部、メチルアクリレート20部、2−エチルへキシルアクリレート4部、アクリル酸6部を反応させて得られた重量平均分子量Mw105万のアクリル系共重合体」について、
その「n−ブチルアクリレート」と「メチルアクリレート」と「2−エチルへキシルアクリレート」が、本1発明の「アルキル(メタ)アクリレート」に相当し、
その「アクリル酸6部」が、本1発明の「カルボキシ基含有不飽和単量体」及び「前記カルボキシ基含有不飽和単量体の含有量は、単量体混合物に対して5質量%を超え20質量%以下であり」に相当し、
その「反応させて得られた…アクリル系共重合体」が、本1発明の「アルキル(メタ)アクリレートと、カルボキシ基含有不飽和単量体と、を含む単量体混合物を共重合」して得られた「前記アクリル系共重合体」に相当する。
甲2発明の「アクリル系共重合体」に「エポキシ架橋剤」を「添加・撹拌して得られた粘着剤」は、本1発明の「アクリル系共重合体および架橋剤を含む粘着剤組成物」に相当し、
甲2発明の「塩化ビニル系樹脂シート」は、本1発明の「塩化ビニル系樹脂を含む基材」に相当し、
甲2発明の「アクリル系共重合体…に、エポキシ架橋剤…を添加・撹拌して得られた粘着剤を塗布・乾燥させた粘着剤層面と塩化ビニル系樹脂シートを貼り合わせて作製した…装飾粘着シート」は、本1発明の「塩化ビニル系樹脂を含む基材と、アクリル系共重合体および架橋剤を含む粘着剤組成物から形成される粘着剤層」を含む「粘着シート」に相当する。

してみると、本1発明と甲2発明は『塩化ビニル系樹脂を含む基材と、アクリル系共重合体および架橋剤を含む粘着剤組成物から形成される粘着剤層と、を含み、前記アクリル系共重合体は、アルキル(メタ)アクリレートと、カルボキシ基含有不飽和単量体と、を含む単量体混合物を共重合して得られ、前記カルボキシ基含有不飽和単量体の含有量は、単量体混合物に対して5質量%を超え20質量%以下である、粘着シート。』という点において一致し、次の(γ)及び(δ)の2つの点で相違する。

(γ)粘着剤層のガソリンおよびエタノールの混合溶媒(ガソリン:エタノール=90:10、体積比)に20分浸漬した際のゾル分の重量平均分子量が、本1発明は「26万〜40万」であるのに対して、甲2発明は当該「ゾル分の重量平均分子量」の値が不明な点

(δ)粘着剤層のガソリンおよびエタノールの混合溶媒(ガソリン:エタノール=90:10、体積比)に対するゲル分率が、本1発明は「83〜91%」であるのに対して、甲2発明は当該「ゲル分率」の値が不明な点

(イ)判断
上記(γ)及び(δ)の相違点について検討するに、甲第1〜5号証に記載の技術事項を精査しても、粘着剤層のガソリンおよびエタノールの混合溶媒(ガソリン:エタノール=90:10、体積比)に20分浸漬した際のゾル分の重量平均分子量を「26万〜40万」の範囲にすること、及び粘着剤層のガソリンおよびエタノールの混合溶媒(ガソリン:エタノール=90:10、体積比)に対するゲル分率を「83〜91%」の範囲にすることについては、示唆を含めて記載がない。
してみると、上記(γ)及び(δ)相違点に係る構成を甲2発明に具備させることが当業者にとって容易であるとはいえない。
また、本1発明は、上記(γ)及び(δ)の相違点に係る構成を具備することによって「耐E10性」の性能において格別顕著な効果を奏するに至ったものと認められる。
したがって、本1発明は、甲第2号証の刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当するとはいえない。

カ.本件特許の請求項3〜6に係る発明について
本3及び本4発明は、本1発明を直接又は間接的に引用し、さらに限定したものであるから、本1発明の進歩性が甲第1〜2号証によって否定できない以上、本3及び本4発明が、甲第1〜2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本5及び本6発明は、本1発明と一致する構成からなる「粘着シート」を、その構成要件とした「製造方法」及び「耐溶媒性向上方法」に関するものであるから、上記エ.及びオ.に示した理由と同様の理由により、本3及び本4発明が、甲第1〜2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、本3〜本6発明が、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当するとはいえない。

(3)申立理由3(サポート要件)について
ア.申立理由3(サポート要件)の概要
特許異議申立人が主張する申立理由3(サポート要件)は、本件特許発明1〜6は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に下記の点(申立書の第5頁、第18頁、第19頁)で不備があるものであり、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていないというものである。
「基材の組成・厚さや、粘着剤層の厚さに関する事項が規定されていないことから、請求項において、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになり、特許法第36条第6項第1号(同法第113条第4号)に違反するものである。」
「本件特許の明細書には、「エタノール混合ガソリンが塩化ビニル系基材に接触すると、塩化ビニル系基材が大きく膨潤することで、粘着剤層とともに厚さ方向に引っ張られる力が加わる。厚さ方向の力がかかることで、粘着剤層が被着体から部分的に浮いたり、剥がれたりする。」(本件特許段落【0016】),「基材の製膜方法としては、・・・カレンダー成形で製膜すると、製造過程で薄く引き伸ばされるため、エタノール混合ガソリンに対する基材の収縮が著しいものとなる。」(本件特許段落【0080】)、と記載されていること、また、塩化ビニル樹脂へ添加剤が添加されることによって耐ガソリン性が変化することは周知技術であることから(例えば、甲第4号証段落【0080】、【0081】【表1】)、甲第5号証段落【0074】【表1】【0075】【表2】)、耐E10性の評価結果を左右するのは、要件まる6(当審注;請求項1の下4行)以外にも、要件まる1(当審注:請求項1の上2行)で規定される基材の組成や厚さ等にも依存すると思料できる。」
「本件特許の明細書の実施例においては、アクリル系共重合体の組成・重量平均分子量、架橋剤の種類・添加量を振り分けて、E10浸漬後のゾル分の重量平均分子最や耐E10性を評価しているが、すべての実施例・比較例において、ただ1種の組成からなるPVCフィルムしか用いておらず、かつ、粘着剤層の厚さを20mmとした条件での評価結果しか開示されていない。つまり、前述の通り、耐E10性は、基材の組成?厚さや粘着剤層の厚さによっては、その効果を奏し得ないところ、実施例においてアクリル系共重合体の組成?重量平均分子量、架橋剤の種類・配合量による影饗のみの評価結果を開示したことのみをもって、基材の組成・厚さや粘着剤層の厚さに関する事項が何一つ規定されていない本件特許発明1〜6に係る発明が、耐E10性を奏するとは言い得ない。」

イ.検討
(ア)本件発明に係る特許請求の範囲は、上記第3に示したとおりであり、本件特許明細書の段落0008の記載を含む発明の詳細な説明の記載からみて、本1及び本3〜本6発明の解決しようとする課題は『エタノール混合ガソリンに対する耐性の高い粘着シートの提供』にあるものと認められる。

(イ)そして、本件特許明細書の段落0136には「

」という実施例1〜7及び比較例1〜8の試験結果が示され、
その「E10浸漬」における「ゾル分 Mw(万)」が26万(実施例3及び5)〜40万(実施例7)であり、その「E10」における「ゲル分率(%)」が83%(実施例4)〜91%(実施例5)である実施例1〜7のものが、その「耐E10性」の評価において「○:変化なし」又は「△:浸漬終了直後、塩ビフィルムにしわが発生するも、1時間放置後、元の状態に戻る」の評価になり、
当該「ゾル分 Mw(万)」及び「ゲル分率(%)」の値が、本1、本5及び本6発明の要件を満たさない比較例1〜8のものが「耐E10性」の評価において「×:塩ビフィルムに、しわ、膨れ、収縮等の変形が生じた。1時間放置後も元に戻らない」の評価になることが示されている。

(ウ)してみると、本1、本5及び本6発明の発明特定事項の「前記粘着剤層のガソリンおよびエタノールの混合溶媒(ガソリン:エタノール=90:10、体積比)に20分浸漬した際のゾル分の重量平均分子量が26万〜40万であり、前記粘着剤層のガソリンおよびエタノールの混合溶媒(ガソリン:エタノール=90:10、体積比)に対するゲル分率が83〜91%である」という範囲のものが、上記「エタノール混合ガソリンに対する耐性の高い粘着シートの提供」という課題を解決できると認識できる範囲にあることが、発明の詳細な説明の実施例1〜7と比較例1〜8の試験結果によって裏付けられているといえるから、本件特許に係る特許請求の範囲の記載が、発明の詳細な説明において開示されている技術的事項の範囲を超えているとはいえない。

(エ)そして、本1、本5及び本6発明並びにその従属項に係る発明は、エタノール混合ガソリン(E10)に浸漬した際の「ゾル分の重量平均分子量」と、エタノール混合ガソリン(E10)に対する「ゲル分率」とを、好適な範囲に設定することを「課題を解決するための手段」に位置づけて、当該発明が解決しようとする課題を解決したものであるのに対して、特許異議申立人の主張する「基材の組成・厚さ」や「粘着剤層の厚さ」については「課題を解決するための手段」に位置づけられているものではないから、当該「基材の組成・厚さ」や「粘着剤層の厚さ」に関する事項が規定されていない本1及び本3〜6発明においては、当該「基材の組成・厚さ」や「粘着剤層の厚さ」の条件が同じであれば、本1及び本3〜6発明の特定事項により、当該発明が解決しようとする課題が改善されると解されることから、本1及び本3〜6発明がサポート要件を満たさないということはできない。

(オ)したがって、上記ア.で主張される事項によっては、本件特許の請求項1及び3〜6の記載が、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえないので、本件特許の請求項1及び3〜6の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合しないとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由、並びに特許異議申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、本1及び本3〜本6発明に係る特許を取り消すことができない。
また、他に本1及び本3〜本6発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、訂正前の請求項2は削除されているので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系樹脂を含む基材と、アクリル系共重合体および架橋剤を含む粘着剤組成物から形成される粘着剤層と、を含み、
前記アクリル系共重合体は、アルキル(メタ)アクリレートと、カルボキシ基含有不飽和単量体と、を含む単量体混合物を共重合して得られ、
前記カルボキシ基含有不飽和単量体の含有量は、単量体混合物に対して5質量%を超え20質量%以下であり、
前記粘着剤層のガソリンおよびエタノールの混合溶媒(ガソリン:エタノール=90:10、体積比)に20分浸漬した際のゾル分の重量平均分子量が26万〜40万であり、
前記粘着剤層のガソリンおよびエタノールの混合溶媒(ガソリン:エタノール=90:10、体積比)に対するゲル分率が83〜91%である、粘着シート。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記アクリル系共重合体の重量平均分子量が50万以上である、請求項1に記載の粘着シート。
【請求項4】
前記塩化ビニル系樹脂を含む基材がカレンダー成形で製膜されてなる、請求項1または3に記載の粘着シート。
【請求項5】
カレンダー成形で塩化ビニル系樹脂を含む基材を得、
該基材上にアクリル系共重合体および架橋剤を含む粘着剤組成物から形成される粘着剤層を形成することを有する粘着シートの製造方法であって、
前記アクリル系共重合体は、アルキル(メタ)アクリレートおよびカルボキシ基含有不飽和単量体を含む単量体混合物を共重合して得られ、
前記カルボキシ基含有不飽和単量体の含有量は、単量体混合物に対して5質量%を超え20質量%以下であり、
前記粘着剤層のガソリンおよびエタノールの混合溶媒(ガソリン:エタノール=90:10、体積比)に20分浸漬した際のゾル分の重量平均分子量が26万〜40万であり、
前記粘着剤層のガソリンおよびエタノールの混合溶媒(ガソリン:エタノール=90:10、体積比)に対するゲル分率が83〜91%である、粘着シートの製造方法。
【請求項6】
塩化ビニル系樹脂を含む基材と、アクリル系共重合体および架橋剤を含む粘着剤組成物から形成される粘着剤層と、を含む、粘着シートの耐溶媒性向上方法であって、
前記溶媒が、ガソリンおよびエタノールの混合溶媒(ガソリン:エタノール=90:10、体積比)であり、
前記アクリル系共重合体は、アルキル(メタ)アクリレートおよびカルボキシ基含有不飽和単量体を含む単量体混合物を共重合して得られ、
前記カルボキシ基含有不飽和単量体の含有量は、単量体混合物に対して5質量%を超え20質量%以下であり、
前記粘着剤層のガソリンおよびエタノールの混合溶媒(ガソリン:エタノール=90:10、体積比)に20分浸漬した際のゾル分の重量平均分子量が26万〜40万であり、
前記粘着剤層のガソリンおよびエタノールの混合溶媒(ガソリン:エタノール=90:10、体積比)に対するゲル分率が83〜91%である、方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-04-26 
出願番号 P2017-196968
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C09J)
P 1 651・ 121- YAA (C09J)
P 1 651・ 113- YAA (C09J)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 門前 浩一
特許庁審判官 蔵野 雅昭
木村 敏康
登録日 2021-04-05 
登録番号 6863870
権利者 リンテック株式会社
発明の名称 粘着シート  
代理人 八田国際特許業務法人  
代理人 八田国際特許業務法人  

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