• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A21D
審判 全部申し立て 2項進歩性  A21D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A21D
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A21D
管理番号 1387513
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-08-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-12-24 
確定日 2022-07-25 
異議申立件数
事件の表示 特許第6898408号発明「パン類のドウ伸展性向上剤、パン類の食感向上剤、パン類のドウの製造方法及びパン類の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6898408号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6898408号(以下、「本件特許」という。)についての出願は、令和1年10月3日を出願日とする特許出願であって、令和3年6月14日にその特許権の設定登録(請求項の数4)がされ、同年7月7日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年12月24日に特許異議申立人 太田 有紀(以下、「特許異議申立人」という。)より、特許異議の申立て(対象となる請求項:請求項1ないし4)がされ、令和4年4月8日付で特許異議申立人に対して審尋を通知したところ、同年同月27日に特許異議申立人より回答書が提出されたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、これらの発明を順に「本件特許発明1」、「本件特許発明2」などという場合があり、また、これらをまとめて「本件特許発明」という場合がある。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

【請求項1】
下記の糖組成の還元水飴を有効成分として含有する、パン類のドウ伸展性向上剤;
単糖が1〜50質量%、
二糖が6〜55質量%、
三糖が7〜25質量%、
四糖が1〜10質量%、
五糖以上が1〜81質量%。
【請求項2】
下記の糖組成の還元水飴を有効成分として含有する、パン類の食感向上剤;
単糖が1〜50質量%、
二糖が6〜55質量%、
三糖が7〜25質量%、
四糖が1〜10質量%、
五糖以上が1〜81質量%。
【請求項3】
ドウを組成する材料に、請求項1又は2に記載の剤を混合する工程を含む、パン類のドウの製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の剤を含むドウを加熱する工程を含む、パン類の製造方法。

第3 特許異議申立理由の概要
特許異議申立人が申し立てた請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議申立理由の概要は次のとおりである。

1 申立理由1(新規性欠如)
本件特許の請求項2ないし4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

2 申立理由2−1(進歩性欠如)
本件特許の請求項2ないし4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

3 申立理由2−2(進歩性欠如)
本件特許の請求項1、3及び4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

4 申立理由3(実施可能要件
本件特許の請求項2ないし4に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、それらの特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

なお、申立理由3の具体的理由は次のとおりである。

・申立理由3−1
本件の請求項2は、「特定の糖組成の還元水飴を有効成分として含有する、パン類の食感向上剤」を構成要件とする物に係る発明に関するものであり、「物の用途を用いてその物を特定しようとする記載がある場合」に該当する。
ここで、『審査基準第II部 第1章 第1節 3.実施可能要件の具体的な判断 3.1.1「物の発明」についての発明の実施の形態』において、「また、用途発明(例:医薬)においては、通常、用途を裏付ける実施例が必要である。」とされているところ、発明の詳細な説明には、『本明細書において、ドウ加熱食品の「食感向上」とは、より具体的には、「口溶け向上」、「弾力性向上」、「しっとり感向上」及び「歯切れ向上」をいう。』と記載されているが([0052])、実施例において、「口溶け」、「弾力性」、「しっとり感」及び「歯切れ」の4項目すべてが「コントロールより好ましい」または「コントロールよりさらに好ましい」との官能評価であるのは、低糖化還元水飴(SE100)のみであり、高糖化還元水飴(SE600)、中糖化還元水飴(SE57)及び低糖化還元水飴(SE30)については、当該用途が裏付けられているとは言えず、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が請求項2〜4に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。

・申立理由3−2
本件特許明細書の発明の詳細な説明では、パン類として、「食パン、イギリスパン、コッペパン、バターロール、イングリッシュマフィン、クロワッサン、ピザ、ベーグル、バンズ、乾パン、パネトーネ、餡パン、ジャムパン、クリームパン、揚げパン、発酵ドーナツ、蒸しパン等」と記載しているが([0032])、これらのパン類には食感が明らかに異なるものが含まれている。例えば「乾パン」には「しっとり感向上」や「弾力性向上」が求められていない。そうすると、「食パン」についての実施の形態のみが記載され、「乾パン」のように何をもって食感向上とするのか不明である本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が請求項2〜4に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。

5 申立理由4(サポート要件)
本件特許請求項2ないし4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、それらの特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

なお、申立理由4の具体的理由は次のとおりである。

・申立理由4−1
本件の請求項2は、「単糖が1〜50質量%、二糖が6〜55質量%、三糖が7〜25質量%、四糖が1〜10質量%、五糖以上が1〜81質量%という糖組成の還元水飴」という糖組成を変数によって特定した、いわゆるパラメーター発明である。パラメーター発明において、「特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するためには、発明の詳細な説明は、その数式が示す範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的意味が、特許出願時において、具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載するか、又は、特許出願時の技術常識を参酌して、当該数式が示す範囲内であれば、所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に、具体例を開示して記載することを要する(平成17年(行ケ)10042号知財高裁判決)」。しかし、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、単糖が1〜10質量%、二糖が6〜12質量%、三糖が7〜12質量%、四糖が5〜10質量%、五糖以上が64〜81質量%という糖組成([0076]の表1参照)である低糖化還元水飴(SE100)について食感向上効果が得られることが記載されているだけで([0102]の表4参照)、それ以外の範囲の糖組成については、「口溶け向上」、「弾力性向上」、「しっとり感向上」及び「歯切れ向上」の4項目すべてを満たす「食感向上」の効果は得られていない。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、請求項2に記載の「単糖が1〜50質量%、二糖が6〜55質量%、三糖が7〜25質量%、四糖が1〜10質量%、五糖以上が1〜81質量%という糖組成の還元水飴」について、当該範囲内であれば、所望の効果が得られることが、当業者において認識できる程度に記載したものとはいえず、請求項2に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された課題を解決できるものとは言えない。
本件の請求項2を引用する請求項3〜4についても同様である。

・申立理由4−2
本件特許明細書の発明の詳細な説明では、パン類として、「食パン、イギリスパン、コッペパン、バターロール、イングリッシュマフイン、クロワッサン、ピザ、ベーグル、バンズ、乾パン、パネトーネ、餡パン、ジャムパン、クリームパン、揚げパン、発酵ドーナッ、蒸しパン等」と記載しているが(「0032」)、実施例において、食感向上に関する記載は、「食パン」に関するものだけであり、「食パン」とは明らかに食感が異なる、例えばベーグル、乾パン、蒸しパン等においても食感向上の効果が得られることが、当業者において認識できる程度に記載したものとはいえず、請求項2に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された課題を解決できるものとは言えない。
本件の請求項2を引用する請求項3〜4についても同様である。

6 申立理由5(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、それらの特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

なお、申立理由5の具体的理由は次のとおりである。

・申立理由5−1
本件の請求項1〜4には、「パン類」との記載があるが、「パン類」とそれ以外の区分が明確でない。
本件特許明細書の[0032]では、「ドウ加熱食品として、これに限定されるものではないが、例えば、パン類(食パン、イギリスパン、コッペパン、バターロール、イングリッシュマフイン、クロワッサン、ピザ、ベーグル、バンズ、乾パン、パネトーネ、餡パン、ジャムパン、クリームパン、揚げパン、発酵ドーナツ、蒸しパン等)、スポンジケーキ、ドーナツ、饅頭、パイ、カステラ、ビスケット、クッキー、クラッカー、かりんとう、ホットケーキ、バームクーへン、スコーン、マフィン等を例示することができる。)と記載している。すなわち、パン類として、「食パン、イギリスパン、コッペパン、バターロール、イングリッシュマフィン、クロワッサン、ピザ、ベーグル、バンズ、乾パン、パネトーネ、餡パン、ジャムパン、クリームパン、揚げパン、発酵ドーナツ、蒸しパン等」を記載している。
本件特許明細書では「パン類」を文言で定義するかわりに、パン類に分類されるものを[0032]で列挙しており、「ピザ」もその中に含めている。しかしながら、本件特許明細書の[0002]においては「小麦等の穀粉を用いたドウ加熱食品においては、パン類、菓子類、パイ、ピザ、ドーナツ、饅 頭等、非常に幅広い製品群が存在する。」と記載しており、「パン類」と「ピザ」を同レベルのものとして分類している。してみると、[0032]での列挙による定義はパン類の範囲を不明確にするものである。

・申立理由5−2
本件特許の審査における令和3年1月21日提出の意見書の「3.拒絶理由について」の「(1−4)引用文献4について」において、本件特許権者は、「ドウ加熱食品の分野では、蒸した食品と焼いた(焼成した)食品とでは、特性が著しく異なり、その製造方法や添加物も大きく相違します。」主張しているが、パン類の中には、特性が著しく異なる「蒸しパン」が含まれており、パン類の範囲が不明確である。

・申立理由5−3
食感向上について、本件特許明細書の[0052]では、『「口溶け向上」、「弾力性向上」、「しっとり感向上」及び「歯切れ向上」をいう。「口溶け向上」は、(該還元水飴を混合して加熱した)ドウ加熱食品を喫食した場合に、該還元水飴を混合せずに製造したドウ加熱食品に比して、口の中でモチャモチャした感じが続くことなく、よりスムーズに咀嚼されることをいう。「弾力性向上」は、(該還元水飴を混合して加熱した)ドウ加熱食品を喫食した場合に、該還元水飴を混合せずに製造したドウ加熱食品に比して、ドウ加熱食品の歯ごたえ、噛みごたえ又はもっちり感が向上していることをいう。「しっとり感向上」は、(該還元水飴を混合して加熱した)ドウ加熱食品を喫食した場合に、該還元水飴を混合せずに製造したドウ加熱食品に比して、口の中でパサパサした感じがより少ないことをいう。「歯切れ向上」とは、(該還元水飴を混合して加熱した)ドウ加熱食品を喫食した場合に、該還元水飴を混合せずに製造したドウ加熱食品に比して、歯にまとわりつく又は歯に引っ付く感じがより少ないことをいう。』と定義しているが、「食パン」と、例えばベーグル、乾パン、蒸しパン等とでは、食感が明らかに異なり、上記定義による食感向上効果が得られるパン類の範囲が不明確である。

・申立理由5−4
本件の請求項2には、「食感向上剤」との記載があるが、「食感向上」の定義が明確でない。
本件特許明細書の[0052]では、『本明細書において、ドウ加熱食品の「食感向上」とは、より具体的には、「口溶け向上」、「弾力性向上」、「しっとり感向上」及び「歯切れ向上」をいう。』と記載している。
しかしながら、[0102]の表4において、「口溶け」、「弾力性」、「しっとり感」及び「歯切れ」のすべての項目が「コントロールより好ましい」または「コントロールよりさらに好ましい」のは、低糖化還元水飴(SE100)だけである。一方、本件特許に係る還元水飴(すなわち、SE600、SE57、SE30、SE100)のすべてにおいて「コントロールより好ましい」または「コントロールよりさらに好ましい」と評価された項目は、「しっとり感』のみであり、食感向上の定義が不明確である。
なお、本件特許権者配布の甲第3号証の第17頁右下欄によると、クッキーに関して、高糖化還元水飴(SE600)と低糖化還元水飴(SE30)では形成する食感が異なり、「糖アルコールを使い分ける事で様々な食感を形成することが可能です!」と記載されており、パン類についても、高糖化還元水飴と低糖化還元水飴では形成する食感が異なる蓋然性が高く、この点からも食感向上の定義は不明確である。
本件の請求項2を引用する請求項3〜4についても同様である。

6 証拠方法
・甲第1号証:小麦粉−その原料と加工品―、日本麦類研究会、平成19年2月28日改訂第4版発行、第562〜565頁
・甲第2号証:特開昭58−9641号公報
・甲第3号証:糖アルコールの機能と食品への効果、物産フードサイエンス株式会社
・甲第4号証:月刊フードケミカル、2017年11月、第36〜39頁
・甲第5号証:特開平11−313601号公報
・甲第6号証:特開平2−117340号公報

第4 特許異議申立理由についての判断
1 申立理由1(甲第3号証を根拠とする新規性欠如)及び申立理由2−1(甲第3号証を主引用例とする進歩性欠如)について
甲第3号証は、「糖アルコールの機能と食品への効果」とのタイトルで、物産フードサイエンス株式会社が作成した資料であると認められるところ、証拠として提出された甲第3号証には、発行あるいは発表した日、さらには、どのような場で発表されたものかについての記載がない。
この点につき、合議体は、令和4年4月8日付け審尋にて、甲第3号証「糖アルコールの機能と食品への効果」に関し、当該証拠が本件出願前に公知であったことを示す証拠(甲第3号証が、いつ、誰が、どこで、どのようにして発表されたものであるかを証明する証拠)を提出するよう求めたものの、特許異議申立人は、令和4年4月27日提出の回答書において、何ら具体的な証拠を提出することなく、「本件特許権者は、当該証拠は自己が作成し配布したものである以上、当該証拠が本件出願前に公知であったことを認識しております」と回答したにとどまる。
してみると、甲第3号証は、いつ、誰が、どこで、どのようにして発表されたものであるかを示す具体的な証拠がないから、特許法第29条第1項第3号及び同条第2項でいうところの、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった「刊行物」にあたるものとはいえない。
よって、甲第3号証に依拠する申立理由1及び申立理由2−1は、その理由がない。

なお、仮に、甲第3号証が、「刊行物」にあたるものであるとしても、一見して、本件特許発明2ないし4に対し、特許法第29条第1項第3号及び同条第2項の理由の根拠となり得るものであるということもできない。

2 申立理由2−2(甲第1号証を主引用例とする進歩性欠如)について
(1) 主な証拠の記載事項等
ア 甲第1号証の記載事項等
(ア) 甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、「小麦粉 −その原料と加工品−」に関し、次の記載がある。
「2.主要な製パン材料
ここで製パンに使用される主要な材料について簡単に解説する。
・・・
(1)小麦粉
・・・
(2)イースト
・・・
(3)食塩
・・・
(4)砂糖(糖類)
砂糖あるいは異性化糖のような製パンに一般的に使用される糖類は、イーストの栄養源になると共に、パンの甘みやクラストの着色を高める。
また、糖類は生地の柔軟性及び伸展性を高めると共に、パンのしっとりとした触感あるいは食感を高める機能を有している。」(第562頁第1行ないし第564頁第3行)

(イ) 甲第1号証に記載された発明
上記(ア)の記載からみて、甲第1号証には次の発明が記載されていると認める。

「パン生地の柔軟性及び伸展性を高める剤としての糖類。」(以下、「甲1伸展剤発明」という。)

「パンのしっとりとした触感あるいは食感を高める剤としての糖類。」(以下、「甲1食感向上剤発明」という。また、「甲1伸展剤発明」と「甲1食感向上剤発明」をあわせて、「甲1発明」と称する場合がある。)

イ 甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、「小麦粉の水性ドウの品質改良法」について、次の記載がある。

「小麦粉水性ドウにその2%以下量におけるキサンタンガムと10%以下量における多価アルコールとからなる溶液を均質に添加することを特徴とする小麦粉水性ドウの品質改良法。」(特許請求の範囲)

「この発明は、工業的に有利に小麦粉水性ドウの品質を改良することを目的とする。詳しくは、○1(合議体注:「○1」は、○のなかに数字が入つた記号を示す。本摘記箇所における他の箇所についても同様である。)水性ドウの伸展性を向上させることにある。水性ドウの製造に当つて伸展性を向上させることは必須の課題である。○2水性ドウの保湿性を向上させることにある。水性ドウ製造後その水分の揮散率を出来るだけ少くすることは、その品質保持の点から必須の課題である。○3水性ドウあるいはそれらの成形物例えば生めん、生ラーメン、及び生のギヨウザの皮等の冷凍変性を防止することである。水性ドウあるいはその成形物の製造、流通の普及に当つて、この課題の解決は最も重要なことである。○4水性ドウの弾力を増強させることである。水麦粉ドウの弾力増強は歩どまりの向上と食感の改良に、必須の課題でもある。」(第1頁左下欄第11行ないし右下欄第5行)

「この発明は改良剤として、2種の物質を使用する。キサンタンガムと多価アルコールである。キサンタンガムは目的とする小麦粉水性ドウの2%(重量、以下同じ)以下量を使用する。
採用する多価アルコールとしては、グリセリン、D−ソルビット、マルチトール、プロピレングリコールその他があげられる。これらは単種であるいは2種以上併せ使用される。その使用量は目的水性ドウの10%以下量である、10%以下量において2〜6%の範囲が好適な結果を示す。」(第1頁右下欄第7行ないし第14行)

「(実験例)
小麦粉(中力)を利用し下記の処方に基づき、常法通り万能ミキサー、麺ラインを利用し生地を調製した。フードレオメーターにより生地の伸展性、弾力性(ゲル強度)及び冷蔵保存(5〜10℃)後の生地の状態を観察したものである。
処方
小麦粉(中力) 100部(重量、以下同じ)
食 塩 2〃
本発明の改良剤 0〜4〃
水 32〜28〃
フードレオメーター測定条件(引張試験)
各生地の断面積 2×10mm
くさり加重 4.95g/cm3
L……伸び
H……荷重単位の長さ

」(第2頁左上欄第12行ないし左下欄末行)

(2) 対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1伸展剤発明とを対比する。
甲1伸展剤発明の「生地」、「柔軟性及び伸展性を高める剤」は、本件特許発明1の「ドウ」、「伸展性向上剤」に相当する。
また、甲1伸展剤発明の「糖類」は、本件特許発明1の「下記の糖組成の還元水飴」と、「糖」である限りにおいて一致する。
してみると、両者は、
「糖を有効成分として含有する、パン類のドウ伸展性向上剤。」
で一致し、次の点で相違する。
(相違点1)
ドウ伸展性向上剤に含まれる糖に関し、本件特許発明1は「還元水飴」であって「単糖が1〜50質量% 二糖が6〜55質量% 三糖が7〜25質量% 四糖が1〜10質量% 五糖以上が1〜81質量%」の糖組成であると特定されるのに対し、甲1伸展剤発明は「糖類」であるものの、そのような特定がない点。

上記相違点1について検討する。
甲第2号証には、小麦粉水性ドウの品質改良法に関し、D−ソルビットやマルチトールを用いた試料についての記載があり、フードレオメータの測定値(第2頁左下欄の表を参照)からみると、何も添加しない試料に比して、生地の伸展性が向上していることが示されている。
しかしながら、甲1伸展剤発明の「糖類」を「還元水飴」に変更する動機付けはないし、また、当該技術分野において、パン類の生地に添加される「糖類」が「還元水飴」であるとする技術常識があるとも認められない。
さらに、仮に、甲1伸展剤発明の「糖類」を「還元水飴」に変更できたとしても、甲第2号証には、その糖組成について、相違点1に係る本件特許発明1の特定事項に相当する記載もないことから、甲1伸展剤発明において、その糖組成を相違点1に係る本件特許発明1の特定事項を満たすものとすることは、甲第1号証、甲第2号証及び甲第4号証ないし甲第6号証の何れの証拠からも導くことができない。
そして、本件特許発明1は、相違点1に係る本件特許発明1の糖組成を満たす還元水飴を用いることにより、明細書記載の格別の効果を奏するものである。
したがって、本件特許発明1は、甲1伸展剤発明に基づいて当業者が容易に想到できたものではない。

イ 本件特許発明2について
本件特許発明2と甲1食感向上剤発明とを対比すると、概ね上記アと同様の相当関係が成り立つから、両者は、
「糖を有効成分として含有する、パン類の食感向上剤。」
で一致し、次の点で相違する。
(相違点2)
食感向上剤に含まれる糖に関し、本件特許発明2は「還元水飴」であって「単糖が1〜50質量% 二糖が6〜55質量% 三糖が7〜25質量% 四糖が1〜10質量% 五糖以上が1〜81質量%」の糖組成であると特定されるのに対し、甲1食感向上剤発明は「糖類」であるものの、そのような特定がない点。

上記相違点2について検討するに、相違点2は、実質的に上記相違点1と同旨である。
よって、上記アの場合と同様に判断されるから、本件特許発明2は、甲1食感向上剤発明に基づいて業者が容易に想到できたものではない。

ウ 本件特許発明3及び4について
本件特許発明3及び4はいずれも、請求項1の「ドウ伸展性向上剤」あるいは請求項2の「食感向上剤」を用いる、「パン類のドウ」あるいは「パン類」の製造方法の発明であるところ、上記ア及びイで検討のとおり、本件特許発明1及び2は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、請求項1の「ドウ伸展性向上剤」あるいは請求項2の「食感向上剤」を用いる、「パン類のドウ」あるいは「パン類」の製造方法の発明である本件特許発明3及び4についても同様に、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3) 申立理由2−2についてのまとめ
上記(2)のとおりであるから、申立理由2−2は、その理由がない。

3 申立理由3(実施可能要件)について
(1) 実施可能要件の判断基準
本件特許発明2は「パン類の食感向上剤」という物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
また、本件特許発明3及び4はそれぞれ「パン類のドウの製造方法」、「パン類の製造方法」という物を生産する方法の発明であるところ、物を生産する方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産する方法を使用し、その方法により生産した物を使用することができる程度の記載があることを要する。

(2) 実施可能要件についての判断
本件特許の明細書には、還元水飴に関する記載(【0022】ないし【0028】)、ドウに関する記載(【0030】ないし【0032】)、食感向上剤に関する記載(【0051】ないし【0059】)、ドウの製造方法に関する記載(【0064】ないし【0066】)、ドウ加熱食品の製造方法に関する記載(【0067】ないし【0069】)があり、具体的な食パンに関する実施例の記載もある。
これらの記載を総合すれば、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明2を生産し、使用することができる程度に記載されているものといえるし、本件特許発明3及び4の物を生産する方法を使用し、その方法により生産した物を使用することができる程度の記載があるものといえる。

(3) 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、申立理由3−1において「食感向上」と実施例における効果の検討の関係を、申立理由3−2においてパン類に含まれるものと効果発現の関係に関する点で縷々主張するが、いずれも、上記判断には何ら影響しない。

(4) 申立理由3についてのまとめ
上記(2)及び(3)のとおりであるから、申立理由3は、その理由がない。

4 申立理由4(サポート要件)について
(1) サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2) サポート要件についての判断
本件特許発明2の課題は、「化学合成された乳化剤等を用いることなく低コストで効果的にパン類の食感を向上させる剤を提供する」(【0011】)ことであるところ、「ドウ加熱食品の食感向上剤は、所定の還元水飴を有効成分として含有する」こと、「該食感向上剤を用いることで、ドウ加熱食品の食感を向上させることができる」こと(【0048】)が記載され、「ドウ加熱食品の「食感向上」とは、より具体的には、「口溶け向上」、「弾力性向上」、「しっとり感向上」及び「歯切れ向上」をいう」こと(【0052】)が記載されている。
これらの記載から、ドウ加熱食品の食感向上剤として、所定の還元水飴を有効成分として含有することにより、化学合成された乳化剤等を用いることなく低コストで効果的にパン類の食感、すなわち、「口溶け向上」、「弾力性向上」、「しっとり感向上」及び「歯切れ向上」の少なくともいずれかを向上させる剤を提供するとの発明の課題を解決すると認識できる。
そして、本件特許発明2は、「所定の糖組成の還元水飴」を有効成分として含有する、「パン類」の「食感向上剤」であるから、本件特許発明2は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。

(3) 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、申立理由4−1において、実施例においては、低糖化還元水飴(SE100)について食感向上効果が得られることが記載されているだけで([0102]の表4参照)、それ以外の範囲の糖組成については、「口溶け向上」、「弾力性向上」、「しっとり感向上」及び「歯切れ向上」の4項目すべてを満たす「食感向上」の効果は得られていないと主張するが、食感向上の効果については、【0052】に記載されているように、「口溶け向上」、「弾力性向上」、「しっとり感向上」及び「歯切れ向上」の少なくともいずれか向上すればこと足りるものと解されるから、4項目すべてにおいて向上しなければならないことを前提とする、特許異議申立人の当該主張は採用できない。
また、特許異議申立人は、申立理由4−2において、実施例で検討されている「食パン」とは大きく異なる形態のパン類における食感向上効果が確認できない旨主張するが、食感向上剤を加えれば、加えないものに比して、4項目のいずれかの食感が向上するであろうことは当業者であれば理解できることから、特許異議申立人の当該主張も採用することができない。

(4) 申立理由4についてのまとめ
上記(2)及び(3)のとおりであるから、申立理由4は、その理由がない。

5 申立理由5(明確性要件)について
(1) 申立理由5−1ないし5−3について
特許異議申立人は、申立理由5−1ないし5−3において、「パン類」に含まれる範囲が明確でない旨主張するが、本件特許の明細書の【0032】には、「本明細書において、「ドウ加熱食品」は、前述のドウを加熱して得られた食品をいう。ドウ加熱食品として、これに限定されるものではないが、例えば、パン類(食パン、イギリスパン、コッペパン、バターロール、イングリッシュマフィン、クロワッサン、ピザ、ベーグル、バンズ、乾パン、パネトーネ、餡パン、ジャムパン、クリームパン、揚げパン、発酵ドーナツ、蒸しパン等)、スポンジケーキ、ドーナツ、饅頭、パイ、カステラ、ビスケット、クッキー、クラッカー、かりんとう、ホットケーキ、バームクーヘン、スコーン、マフィン等を例示することができる。」と定義されているから、「パン類」の範囲は明確である。
なお、特許異議申立人は、【0002】の記載と【0032】の記載の不整合を指摘しているが、【0002】の記載はあくまで背景技術に関する記載であるのに対し、【0032】の記載は「ドウ加熱食品」の定義に相当する記載であって、その中で「パン類」について記載されているから、当該記載に触れた当業者であれば、当然、【0032】の記載に沿って解釈するものといえる。

(2) 申立理由5−4について
食感向上の定義は、【0052】の記載のとおりであり、上記4(2)及び(3)で検討したとおり明確である。

(3) 申立理由5についてのまとめ
上記(2)及び(3)のとおりであるから、申立理由5は、その理由がない。

第5 結語
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-07-14 
出願番号 P2019-183001
審決分類 P 1 651・ 536- Y (A21D)
P 1 651・ 537- Y (A21D)
P 1 651・ 121- Y (A21D)
P 1 651・ 113- Y (A21D)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 植前 充司
大島 祥吾
登録日 2021-06-14 
登録番号 6898408
権利者 物産フードサイエンス株式会社
発明の名称 パン類のドウ伸展性向上剤、パン類の食感向上剤、パン類のドウの製造方法及びパン類の製造方法  
代理人 川野 陽輔  
代理人 江部 陽子  
代理人 大窪 智行  
代理人 太田 清子  
代理人 佐川 慎悟  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ