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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01G
審判 全部申し立て 2項進歩性  C01G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C01G
管理番号 1387518
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-08-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-01-21 
確定日 2022-07-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第6906090号発明「チタン酸カリウム粉末、摩擦調整材、樹脂組成物、摩擦材、並びに摩擦部材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6906090号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6906090号の請求項1〜10に係る特許についての出願は、平成29年12月4日(優先権主張 平成28年12月13日 日本国)を出願日とする特願2018−556583号の一部を、令和2年7月13日に新たな特許出願として分割したものであり、令和3年6月30日にその特許権の設定登録がされ、同年7月21日に特許掲載公報が発行され、その後、全請求項(請求項1〜10)に係る特許について、令和4年1月21日に特許異議申立人馬場勝久(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件発明

請求項1〜10に係る発明(以下、各請求項に係る発明及び特許を項番に対応して「本件発明1」、「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。)の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
平均長径30μm以上、平均短径15μm以上かつ平均アスペクト比が1.5〜3の柱状チタン酸カリウム粒子により構成される粉末であり、前記柱状チタン酸カリウム粒子が、組成式K2TinO2n+1〔式中、n=5.5〜6.5〕で表わされることを特徴とする、チタン酸カリウム粉末。
【請求項2】
長径30μm以上、かつ短径10μm以上の粒子の含有量が、50体積%以上であることを特徴とする、請求項1に記載のチタン酸カリウム粉末。
【請求項3】
繊維状粒子の含有量が、0.3体積%以下であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のチタン酸カリウム粉末。
【請求項4】
比表面積が、0.3m2/g〜3m2/gであることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のチタン酸カリウム粉末。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のチタン酸カリウム粉末からなることを特徴とする、摩擦調整材。
【請求項6】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のチタン酸カリウム粉末と、熱硬化性樹脂とを含有することを特徴とする、樹脂組成物。
【請求項7】
平均長径30μm以上、平均短径10μm以上かつ平均アスペクト比が1.5以上の柱状チタン酸カリウム粒子により構成される粉末であり、前記柱状チタン酸カリウム粒子が、組成式K2TinO2n+1〔式中、n=5.5〜6.5〕で表わされる、チタン酸カリウム粉末と、熱硬化性樹脂とを含有する、樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物の合計量100質量%において銅成分の含有量が銅元素として0.5質量%以下であり、
前記チタン酸カリウム粉末の含有量が、前記樹脂組成物合計100質量%に対して、5質量%〜20質量%である、樹脂組成物。
【請求項8】
摩擦材用であることを特徴とする、請求項6又は請求項7に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
請求項6〜請求項8のいずれか一項に記載の樹脂組成物の成形体であることを特徴とする、摩擦材。
【請求項10】
請求項9に記載の摩擦材を備えることを特徴とする、摩擦部材。」

第3 特許異議の申立理由

1 特許法第29条第1項第3号所定の規定違反(新規性欠如)
本件発明1〜6は、下記甲第1号証に記載された発明であって、特許第29条第1項第3号の規定に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである(以下、「申立理由1」という。)。

2 特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)
本件発明1〜10は、下記甲第1号証に記載された発明に基づいて、又は、下記甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下、「申立理由2」という。)。



甲第1号証:特開2001−253712号公報
甲第2号証:特開2015−203473号公報
甲第3号証:国際公開第2008/123046号
甲第4号証:特公平5−73694号公報
(以下、甲各号証を単に「甲1」などという。)

3 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)
本件特許1〜10は、特許請求の範囲の請求項1〜10の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下、「申立理由3」という。)。



本件特許明細書の「本発明の柱状チタン酸カリウム粒子の平均長径は、30μm以上であり、好ましくは30μm〜200μmであり、より好ましくは35μm〜100μmである。平均短径は、10μm以上であり、好ましくは10μm〜130μmであり、より好ましくは15μm〜65μmである。平均アスペクト比は、1.5以上であり、好ましくは1.5〜5であり、より好ましくは1.5〜3であり、さらに好ましくは1.5〜2.5である。平均長径、平均短径、及び平均アスペクト比を上記範囲にすることで、摩擦材に用いた場合に、優れた耐摩耗性を付与し、摩擦係数が高く安定し、優れた耐フェード性を付与することができる。」(段落0030(当審注:特許異議申立書における「段落0034」との記載は誤記と認められる。))との記載について、「平均長径、平均短径、及び平均アスペクト比を上記範囲にすることで、摩擦材に用いた場合に、優れた耐摩耗性を付与し、摩擦係数が高く安定し、優れた耐フェード性を付与することができる。」ということを裏付ける具体例又はメカニズムは、本件特許明細書に記載されていない。優れた耐摩耗性を付与することができる具体例については、「本発明のチタン酸カリウム粉末を含有している摩擦材である実施例5は、平均摩擦係数が高いにも関わらず、摩擦材の摩耗量が少ないという予期せぬ効果が得られていることがわかる。」(段落0125)との記載があるのみである。
ここで、実施例5は、実施例4の6チタン酸カリウム粉末を含む摩擦材であり、実施例6−9も実施例5と同様に実施例4の6チタン酸カリウム粉末を含む摩擦材であるところ、実施例1−3の6チタン酸カリウム粉末は、「摩擦材に用いた場合に、優れた耐摩耗性を付与し、摩擦係数が高く安定し、優れた耐フェード性を付与することができる。」との事項を裏付ける具体例ではない。
そうすると、上記事項を裏付ける唯一の具体例である実施例5(実施例4の6チタン酸カリウム粉末を含む摩擦材)における平均長径35μm、平均短径19μm、及び平均アスペクト比1.9との数値を、本件発明1−6における平均長径、平均短径、平均アスペクト比の数値の範囲又は本件発明7−10における平均長径、平均短径、平均アスペクト比の数値の範囲まで拡張できるとはいえない。
したがって、本件発明1−10は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。

第4 当審の判断

1 申立理由1(特許法第29条第1項第3号新規性欠如))及び申立理由2(特許法第29条第2項進歩性欠如))について
事案に鑑み、申立理由1及び申立理由2を併せて検討する。

(1)甲1〜甲4に記載の事項
ア 甲1に記載の事項
甲1には、「板状6チタン酸カリウム及び板状4チタン酸カリウム並びにそれらの製造方法及び摩擦材」(発明の名称)について、以下の(ア)〜(カ)の記載がある(当審注:「・・・」は省略を表す。以下、同様である。)。

(ア)「【請求項1】 平均長径1〜100μm、平均アスペクト比3〜500の板状6チタン酸カリウム。
・・・
【請求項5】 摩擦調整剤として板状6チタン酸カリウムを含有することを特徴とする摩擦材。
【請求項6】 板状6チタン酸カリウムを3〜50重量%含有することを特徴とする請求項5に記載の摩擦材。
【請求項7】 前記板状6チタン酸カリウムが、請求項1に記載の板状6チタン酸カリウムまたは請求項2〜4のいずれか1項に記載の方法により製造された板状6チタン酸カリウムであることを特徴とする請求項5または6に記載の摩擦材。」

(イ)「【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】6チタン酸カリウム(K2O・6TiO2)及び4チタン酸カリウム(K2O・4TiO2)は、通常、繊維状の化合物として得られ、優れた結晶強度と高い断熱性を有することから、摩擦調整剤や樹脂等の強化剤として広く使用されている。
【0003】しかしながら、従来の6チタン酸カリウム及び4チタン酸カリウムは繊維形状を有しているため嵩高く、流動性に劣り、製造時において供給路の壁に付着して、供給路を閉塞させるといった問題点を有している。また、樹脂強化剤としては、ねじれ方向に加わる力に対する補強性能が十分でないという欠点を有している。また、摩擦剤用途においては、摩擦面における高い効果を確保するため板状のものが要望されている。
【0004】しかしながら、6チタン酸カリウム及び4チタン酸カリウムは繊維状に結晶成長する性質があるため、これまでに板状の6チタン酸カリウム及び4チタン酸カリウムは得られていなかった。
【0005】本発明の目的は、板状の6チタン酸カリウム及び4チタン酸カリウム並びにそれらの製造方法及びそれらを用いた摩擦材を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明の板状6チタン酸カリウム及び板状4チタン酸カリウムは、平均長径1〜100μm、平均アスペクト比3〜500を有することを特徴としている。
・・・
【0009】本発明の摩擦材は、板状6チタン酸カリウム及び/または板状4チタン酸カリウムを摩擦調整剤として含有することを特徴としている。含有量は、3〜50重量%であることが好ましい。
【0010】
【発明の実施の形態】本発明の板状6チタン酸カリウム及び板状4チタン酸カリウムは、平均長径1〜100μm、好ましくは3〜30μm、平均アスペクト比3〜500、好ましくは3〜100、さらに好ましくは5〜20の板状物である。ここで、平均長径は、いわゆる平均粒子径を意味しており、例えばレーザー回折式粒度分布測定装置によりメジアン径として測定される値である。また、アスペクト比は、平均短径(厚み)に対する平均長径の比(平均長径/平均短径)をいう。平均アスペクト比は、走査型電子顕微鏡で平均短径(厚み)を測定し、上記平均長径との比率を算出することにより求めることができる。この場合一般に、走査型電子顕微鏡の視野内で厚みを確認できるもの20個程度について測定し、平均短径の平均値を求める。」

(ウ)「【0011】本発明の板状6チタン酸カリウム及び板状4チタン酸カリウムの製造方法は、板状チタン酸を水酸化カリウム溶液中に浸漬し、カリウムイオンをインターカーレートした後、焼成することを特徴としている。板状チタン酸は、酸処理により層間の陽イオンをデインターカーレートすることができる化合物を用い、これを酸処理することにより得ることができる。このような化合物としては、板状チタン酸カリウムマグネシウム及び板状チタン酸カリウムリチウム等が挙げられる。これらの化合物は、例えば特開平5−221795号公報及び本出願人による特願平11−158086号に開示された方法に従って製造することができる。
・・・
【0020】また、チタン酸カリウムリチウムの製造方法としては、例えば、チタン源とカリウム源とリチウム源を混合し、フラックスを添加し、十分混合した後、825〜1150℃で1〜12時間保持する方法が例示できる。
・・・
【0024】解砕、分級、ろ過、乾燥工程は、前記チタン酸カリウムマグネシウムの製造と同様の手段により行うことができる。チタン酸カリウムリチウムは、平均長径10〜100μm程度の比較的大型の本発明の板状6チタン酸カリウム及び板状4チタン酸カリウムの原料として好適である。
・・・
【0027】(板状6チタン酸カリウムの製造)カリウムイオンのインターカレーションは、前記で得られた板状チタン酸を1〜30%程度、好ましくは5〜20%程度の水酸化カリウム水溶液スラリーとし、スラリー中の水酸化カリウム濃度がスラリーのpHで13.5以上14未満、好ましくは約13.75となるように、必要に応じて水酸化カリウムを添加して維持しながら、撹拌を続けることにより行うことができる。撹拌は、好ましくは1時間以上、より好ましくは5〜10時間程度行う。
・・・
【0029】カリウムイオンのインターカレーション完了後、ろ過、水洗、乾燥した後、600〜800℃で焼成することにより、板状6チタン酸カリウムを得ることができる。焼成は、電気炉、マッフル炉、ロータリーキルン等のトンネルキルン、ロータリングキルン等により行うことができる。焼成時間は3時間以上であることが好ましい。
【0030】焼成温度が600℃を下回ると結晶構造が変化せず、レピドクロサイトとなり6チタン酸カリウムが得られない場合がある。また、焼成温度が800℃を超えると板状形状が損なわれ、柱状または繊維状結晶となる場合があるため好ましくない。」

(エ)「【0038】かくして得られる本発明の板状6チタン酸カリウム及び板状4チタン酸カリウムは、その形状及び結晶系に由来する性質を除く他、繊維状6チタン酸カリウム及び繊維状4チタン酸カリウムと同様の物理的性質を有しており、繊維状6チタン酸カリウム及び繊維状4チタン酸カリウムと同様に安定で無毒の化合物である。
【0039】さらに樹脂に配合した際に引張強度や曲げ強度といった機械的強度を向上させる効果を有する点においても繊維状6チタン酸カリウム及び繊維状4チタン酸カリウムと同様であるが、板状物であるため、高い表面平滑性、摺動特性の実現やねじれ方向に加わる力に対する強度の確保、アイゾット衝撃強度の向上に一層顕著な効果が期待できる。さらに、以下に説明するように、ブレーキ用摩擦材としても一層顕著な効果が期待できる。
【0040】本発明の摩擦材は、摩擦調整剤として上記本発明の板状6チタン酸カリウム及び/または板状4チタン酸カリウムを含有することを特徴としている。板状6チタン酸カリウム及び/または板状4チタン酸カリウムの摩擦材中の配合量は、3〜50重量%であることが好ましい。3重量%未満であると、摩擦摩耗特性の改善効果を発現させることができない場合があり、また50重量%を超えると、摩擦摩耗特性の効果改善はそれ以上期待できないため経済的に不利となる場合がある。
【0041】本発明の摩擦材の具体例としては、例えば基材繊維、摩擦調整剤及び結合剤からなる摩擦材を例示できる。該摩擦材中の各成分の配合割合としては、基材繊維1〜60重量部、摩擦調整剤(板状6チタン酸カリウム及び/または板状4チタン酸カリウムを含め)20〜80重量部、結合剤10〜40重量部、その他の成分0〜60重量部を例示できる。
・・・
【0043】本発明の摩擦材における摩擦調整剤としては、板状6チタン酸カリウム及び/または板状4チタン酸カリウムに加えて、本発明の効果を損なわない範囲で、他の摩擦調整剤を併用してもよい。例えば、加硫または未加硫の天然、合成ゴム粉末、カシュー樹脂粉末、レジンダスト、ゴムダスト等の有機物粉末、カーボンブラック、黒鉛粉末、二硫化モリブデン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、クレー、マイカ、タルク、ケイソウ土、アンチゴライト、セピオライト、モンモリロナイト、ゼオライト、三チタン酸ナトリウム、五チタン酸ナトリウム、8チタン酸カリウム等の無機質粉末、銅、アルミニウム、亜鉛、鉄等の金属粉末、アルミナ、シリカ、酸化クロム、酸化チタン、酸化鉄等の酸化物粉末等が挙げられる。
【0044】結合剤としては、フェノール樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、ユリア樹脂等の熱硬化性樹脂、天然ゴム、ニトリルゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ポリイソプレンゴム、アクリルゴム、ハイスチレンゴム、スチレンプロピレンジエン共重合体等のエラストマー、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、熱可塑性液晶ポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂等の有機質結合剤及びアルミナゾル、シリカゾル、シリコーン樹脂等の無機質結合剤を例示できる。」

(オ)「【0054】
【実施例】以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
(実施例1)
1.板状チタン酸カリウムマグネシウム(K0.8Mg0.4Ti1.6O4)の合成
アナターゼ酸化チタン粉末14.73kg、炭酸カリウム6.38kg、水酸化マグネシウム2.79kg、塩化カリウム10.03kg、水2リットルをヘンシェルミキサーを用いて十分に混合した後、19.6MPa(200kgf/cm2)の圧力にて加圧プレスし、1個約3kg程度の煉瓦状の成形物とした。
【0055】このものを台車に乗せトンネルキルンにより焼成した。焼成は、5℃/分の割合で1050℃まで昇温し、3時間保持した後、5℃/分の割合で室温まで降温することにより行った。
【0056】得られた焼成物をジョークラッシャーを用いて粗粉砕した後、ピンミルを用いて数mm以下に微粉砕し、次いでこのものを水に分散させ10%のスラリー溶液とし、プロペラ羽根で1時間撹拌し、湿式解砕を行った。次いでスラリー液を200メッシュ(目開き75μm)のフルイに通し、分級を行った。フルイ上の粉体は再度湿式解砕を行い分級を行った。遠心濾過後、乾燥して、板状チタン酸カリウムマグネシウム(K0.8Mg0.4Ti1.6O4、平均長径4.6μm、平均アスペクト比約10)17.80kgを得た。なお、形状は走査型電子顕微鏡(SEM)観察により確認し、同定はX線回折法及び蛍光X線分析により行った。平均長径(メジアン径)はレーザ回折式粒度分布測定装置で測定した。
【0057】2.酸処理によるデインターカレーション
前工程で得られた板状チタン酸カリウムマグネシウム(K0.8Mg0.4Ti1.6O4)の全量を、35%硫酸36.1kgを水141.9リットルに溶解させた溶液に分散させ、10%スラリーとした。撹拌羽根により約5時間撹拌を続けた後、ろ過、水洗、乾燥して、板状のチタン酸(H2Ti2O5)12.03kgを得た。得られた板状チタン酸は、板状チタン酸カリウムマグネシウムとほぼ同様の形状を有していた。なお、形状はSEM観察により確認し、同定はX線回折法及び蛍光X線分析により行った。平均長径(メジアン径)はレーザ回折式粒度分布測定装置で測定した。
【0058】3.アルカリ処理によるカリウムイオンのインターカレーション
前工程で得られた板状チタン酸の全量を水114.4リットルに分散させ、10%スラリーとし、pHが終始13.75前後に維持されるように85%水酸化カリウムを加えながら、攪拌羽根により約5時間撹拌を続けた後、ろ過、水洗、110℃2時間乾燥した。85%水酸化カリウムの添加量は合計で6.99kgであった。
【0059】4.板状6チタン酸カリウムの合成
次いで、このものを電気炉により700℃にて3時間焼成し、板状6チタン酸カリウム(平均長径4.2μm、平均アスペクト比約10)13.87kgを得た。なお、形状はSEM観察により確認し、同定はX線回折法及び蛍光X線分析により行った。平均長径(メジアン径)はレーザ回折式粒度分布測定装置で測定し、平均短径はSEM観察で測定した。図1は、得られた板状6チタン酸カリウムのSEM写真である。図2は、得られた板状6チタン酸カリウムのX線回折チャートである。
・・・
【0061】(実施例3)実施例1で得られた板状6チタン酸カリウム20重量部、アラミド繊維(商品名「ケブラーパルプ」、平均長3mm、東レ株式会社製)10重量部、結合剤(フェノール樹脂)20重量部、硫酸バリウム50重量部を混合した原料混合物を、加圧力300kgf/cm2 、常温、1分間で予備成形した後、金型による結着成形(加圧力150kgf/cm2 、温度170℃、時間5分間)を行い、成形後、熱処理(180℃で3時間保持)した。金型から取り出した後、研磨加工を施して供試ディスクパッドA(JIS D 4411試験片)を得た。摩擦調整剤の流動性は良好であり、原料混合物の調製は容易であった。」

(カ)「図1



イ 甲2に記載の事項
申立人が申立理由1の(4)ウ(ア)及び(キ)のなお書きにおいて、従たる証拠として引用する甲2には、「ブレーキピストン、ディスクブレーキ、ブレーキピストンの製造方法および熱硬化性樹脂組成物」(発明の名称)について、以下の(ア)〜(イ)の記載がある。

(ア)「【0015】
[ブレーキピストン]
はじめに、本実施形態に係るブレーキピストンについて説明する。
図1は、本発明に係る実施形態のブレーキピストン100の構造の一例を示す断面図である。図2は、本発明に係る実施形態の金属部材102表面の粗化層104を構成する凹部の断面形状の例を説明するための模式図である。
【0016】
本実施形態に係るブレーキピストン100はディスクブレーキに用いられるものであり、樹脂部材101からなるピストン本体部110と、金属部材102と、を備える。ピストン本体部110は開口部120を有している。金属部材102は、ピストン本体部110の開口部120の側端面125を覆うように設けられている。また、ピストン本体部110における開口部120の側端面125と金属部材102とが接合されており、金属部材102は少なくともピストン本体部110と接合する接合面103に微細な凹凸からなる粗化層104を有している。そして、粗化層104の上記凹凸を構成する凹部201の内部に樹脂部材101の一部が存在することにより、ピストン本体部110における開口部120の側端面125と金属部材102とが接合されている。
【0017】
本実施形態に係るブレーキピストン100は、例えば、図3に示すディスクブレーキ300に用いられるものである。図3は、本発明に係る実施形態のディスクブレーキ300の構造の一例を示す断面図である。
本実施形態に係るディスクブレーキ300は、ディスクロータ301と、ブレーキパッド302と、油圧シリンダ装置303と、キャリパー304と、ブレーキピストン100と、シール305とを備える。ディスクブレーキ300は、例えば、車両に搭載されるものである。」

(イ)「【0028】
<樹脂部材>
以下、本実施形態に係る樹脂部材101について説明する。
樹脂部材101は、例えば、熱硬化性樹脂(A)と充填材(B)とを含む熱硬化性樹脂組成物(P)を硬化してなる。
・・・
【0033】
充填材(B)としては、例えば、繊維状充填材、粒状充填材、板状充填材などが挙げられる。ここで、繊維状充填材はその形状が繊維状である充填材である。板状充填材はその形状が板状である充填材である。粒状充填材は、不定形状を含む繊維状・板状以外の形状の充填材である。
【0034】
上記繊維状充填材としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アスベスト繊維、金属繊維、ワラストナイト、アタパルジャイト、セピオライト、ロックウール、ホウ酸アルミニウムウイスカー、チタン酸カリウム繊維、炭酸カルシウムウィスカー、酸化チタンウィスカー、セラミック繊維などの繊維状無機充填材;アラミド繊維、ポリイミド繊維、ポリ(パラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維などの繊維状有機充填材;が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
・・・
【0036】
充填材(B)は、充填材(B)の全体を100質量%としたとき、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量基準粒度分布における平均粒子径が5μmを超える充填材(B1)を1質量%以上100質量%以下含むことが好ましく、2質量%以上98質量%以下含むことがより好ましい。これにより、熱硬化性樹脂組成物(P)の作業性を向上させつつ、得られる樹脂部材101の機械的強度をより一層向上させることができる。充填材(B1)の平均粒子径の上限は特に限定されないが、例えば、100μm以下である。
充填材(B1)としては、平均長径が5μm以上50mm以下で、平均アスペクト比が1以上1000以下である繊維状充填材または板状充填材を含むことがより好ましい。
充填材(B1)の平均長径および平均アスペクト比は、例えば、以下のようにSEM写真から測定することができる。まず、走査型電子顕微鏡により、複数の繊維状充填材または板状充填材を撮影する。その観察像から、繊維状充填材または板状充填材を任意に50個選択し、それらの長径(繊維状充填材の場合は繊維長、板状充填材の場合は平面方向の長径寸法)および短径(繊維状充填材の場合は繊維径、板状充填材の場合は厚み方向の寸法)をそれぞれ測定する。長径の全てを積算して個数で除したものを平均長径とする。同様に、短径の全てを積算して個数で除したものを平均短径とする。そして、平均短径に対する平均長径を平均アスペクト比とする。」

ウ 甲3に記載の事項
甲3には、「チタン酸カリウム及びその製造方法並びに摩擦材及び樹脂組成物」(発明の名称)について、以下の(ア)〜(オ)の記載がある。

(ア)「請求の範囲
[1] K2TinO(2n+1)(n=4.0〜11.0)で表わされるチタン酸カリウムであって、X線回折における最も強度の高いピーク(2θ)が11.0°〜13.5°の範囲にあり、その半価幅が0.5°以上であることを特徴とするチタン酸カリウム。
[2] 不定形の形状を有することを特徴とする請求項1に記載のチタン酸カリウム。
・・・
[5] 平均粒子径が5〜20μmの範囲である請求項1〜4のいずれか1項に記載のチタン酸カリウム。
・・・
[11] 摩擦調整剤として、請求項1〜6のいずれか1項のチタン酸カリウムまたは請求項7〜10のいずれか1項の方法で製造されたチタン酸カリウムを含有することを特徴とする摩擦材。」

(イ)「背景技術
[0002] 摩擦材に用いる摩擦調整剤としては、アスベストのような発癌性を持たないチタン酸カリウム繊維が、主に自動車用ブレーキパッドとして広く使用されている。チタン酸カリウム繊維を含む摩擦剤は、摺動性に優れ、良好な制動効果を発揮するにもかかわらず、ブレーキディスクを傷つけないという非常に好ましい利点を有している。
[0003] しかしながら、チタン酸カリウム繊維は、繊維形状を有しているため、嵩高く、流動性に劣り、製造時において供給路の壁に付着して、供給路を閉塞させるという問題点を有している。このような問題点を解消するため、板状8チタン酸カリウム、板状6チタン酸カリウム、及び板状4チタン酸カリウムなどの板状形状を有するチタン酸カリウムが提案されている(特許文献1及び2など)。
[0004] しかしながら、耐摩耗性、特に高温域での耐摩耗性をさらに改善することができる摩擦調整剤が求められている。
[0005] 特許文献3においては、長径が5μm未満であるチタン酸カリウム微粒子が提案されている。このチタン酸カリウム微粒子は、X線回折において、回折強度が弱く、半価幅の広い回折線を示すものであるが、十分な摩擦摩耗特性を示すものではない。
特許文献1:特開2001−106526号公報
特許文献2:特開2001−253712号公報
特許文献3:特開2000−256013号公報
発明の開示
[0006] 本発明の目的は、新規な形状を有し、摩擦材における優れた耐摩耗性や、樹脂組成物における優れた補強性能を有するチタン酸カリウム及びその製造方法並びに該チタン酸カリウムを含有する摩擦材及び樹脂組成物を提供することにある。
[0007] 本発明のチタン酸カリウムは、K2TinO(2n+1)(n=4.0〜11.0)で表わされるチタン酸カリウムであって、X線回折における最も強度の高いピーク(2θ)が11.0°〜13.5°の範囲にあり、その半価幅が0.5°以上であることを特徴としている。
・・・
[0009] 本発明のチタン酸カリウムは、一般に、不定形の形状を有している。すなわち、繊維状や、板状や、粒状の形状ではなく、不規則な形状を有している。具体的には、不規則な方向に複数の突起が延びる形状を有しているものであることが好ましい。すなわち、アメーバ状の形状や、ジグソーパズルのピースのような形状を有しているものであることが好ましい。
[0010] 本発明のチタン酸カリウムの平均粒子径は、5〜20μmの範囲であることが好ましい。平均粒子径は、例えばレーザー回折式粒度分布測定装置により測定することができる。
[0011] 本発明のチタン酸カリウムは、チタン源及びカリウム源のメカノケミカルな粉砕で得られる粉砕混合物を焼成して得られる2チタン酸カリウムから調製されたものであることが好ましい。より具体的には、この2チタン酸カリウムを酸処理してカリウム分を溶出させた後、焼成して調製されるものであることが好ましい。この2チタン酸カリウムも、本発明のチタン酸カリウムと同様に、上記の不定形の形状を有している。
[0012] メカノケミカルな粉砕で得られる粉砕混合物は、後述するように、反応活性の高い粉砕混合物であり、このような反応活性の高い粉砕混合物を焼成して得られる2チタン酸カリウムも反応活性が高いものであると思われる。このような反応活性の高い2チタン酸カリウムを酸処理して所望のチタン酸カリウムの組成となるようにカリウム分を溶出させた後、焼成することにより、本発明のチタン酸カリウムを得ることができる。
[0013] 本発明のチタン酸カリウムの製造方法は、チタン源及びカリウム源をメカノケミカルに粉砕しながら混合する工程と、得られた粉砕混合物を焼成して2チタン酸カリウムを調製する工程と、この2チタン酸カリウムを酸処理してカリウム分を溶出させた後、焼成する工程とを備えることを特徴としている。
[0014] 上述のように、チタン源及びカリウム源をメカノケミカルに粉砕しながら混合して得られる粉砕混合物は、反応活性の高い粉砕混合物であり、これを焼成して得られる2チタン酸カリウムも反応活性の高い2チタン酸カリウムであると考えられる。このような2チタン酸カリウムを酸処理して最終生成物である所望のチタン酸カリウムの組成となるように、カリウム分を溶出させた後、焼成することにより、本発明のチタン酸カリウムを製造することができる。
・・・
[0016] カリウム源としては、加熱により酸化カリウムを生じる化合物を用いることができ、具体的には、酸化カリウム、炭酸カリウム、水酸化カリウム、硝酸カリウムなどが挙げられる。これらの中でも、特に炭酸カリウムが好ましく用いられる。」

(ウ)「[0018] 本発明の製造方法において、メカノケミカルな粉砕としては、物理的な衝撃を与えながら粉砕する方法が挙げられる。具体的には、振動ミルによる粉砕が挙げられる。振動ミルによる粉砕処理を行うことにより、混合粉体の摩砕による剪断応力により、原子配列の乱れと原子間距離の減少が同時に起こり、異種粒子の接点部分の原子移動が起こる結果、準安定相が得られると考えられる。これにより、反応活性の高い粉砕混合物が得られると考えられる。
[0019] 本発明の製造方法においては、上記のようにして得られた粉砕混合物を焼成して2チタン酸カリウムを調製する。粉砕混合物の焼成温度は、650〜1000℃の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは720〜880℃の範囲である。焼成時間は、0.5時間〜6時間であることが好ましく、さらに好ましくは3時間〜5時間である。焼成温度が低すぎると、繊維状4チタン酸カリウムが生成し、アメーバ状の形状の2チタン酸カリウムの単一組成を得られにくい場合がある。焼成温度が高すぎると、2チタン酸カリウムの形状が柱状となり、アメーバ状の形状が得られにくい場合がある。また、焼成時間が短すぎると、繊維状4チタン酸カリウムが生成し、アメーバ状の形状の2チタン酸カリウムの単一組成を得られにくい場合がある。焼成時間が長すぎると、生産効率が悪くなるため、工業的に適さない場合がある。
[0020] 本発明の製造方法においては、上記のようにして焼成した2チタン酸カリウムを酸処理してカリウム分を溶出させる。8チタン酸カリウム(n=8)及びそれに近い組成(n=7.50〜8.49)のチタン酸カリウムを製造する場合には、酸を添加した後のpHを、7.5〜8.5の範囲に調整することが好ましい。また、6チタン酸カリウム(n=6)及びそれに近い組成(n=5.50〜6.49)のチタン酸カリウムを製造する場合には、酸を添加した後のpHを、11.5〜12.5の範囲に調整することが好ましい。また、4チタン酸カリウム(n=4)及びそれに近い組成(n=3.50〜4.49)のチタン酸カリウムを製造する場合には、酸を添加した後のpHを、13.0〜13.5の範囲に調整することが好ましい。
・・・
[0026] 本発明の摩擦材は、本発明のチタン酸カリウムを摩擦調整剤として含むことを特徴としている。その含有量としては、1〜80重量%の範囲であることが好ましい。本発明のチタン酸カリウムの含有量が1重量%未満であると、摩擦係数の安定等、摩擦調整剤としての効果を発現しにくい場合がある。80重量%を越えると、パッド成形が出来にくい場合がある。
[0027] 本発明の摩擦材は、本発明のチタン酸カリウムを摩擦調整剤として含有しているので、低温から高温域にわたって極めて安定な摩擦摩耗特性(耐摩耗性、摩擦係数等)を発揮し得る。本発明のチタン酸カリウムを含有することにより、良好な摩擦摩耗特性が得られる理由の詳細については明らかでないが、本発明のチタン酸カリウムが、上記のような特定の形状を有しているため、良好な耐摩耗性及び摩擦係数が得られるものと思われる。
[0028] 従って、本発明の摩擦材は、例えば、自動車、鉄道車両、航空機、各種産業用機器類等に用いられる制動部材用材料、例えばクラッチフェーシング用材料及びブレーキライニングやディスクパッド等のブレーキ用材料等として用いることができるものであり、制動機能の向上、安定化、耐用寿命の改善効果を得ることができる。
[0029] 結合材としては摩擦材分野において常用されるものをいずれも使用でき、例えば、フェノール樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、ユリア樹脂等の熱硬化性樹脂、天然ゴム、ニトリルゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ポリイソプレンゴム、アクリルゴム、ハイスチレンゴム、スチレンプロピレンジエン共重合体等のエラストマー、ポリアミド樹脂、ポリフェニレルサルファイド樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、熱可塑性液晶ポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂等の有機質結合材、アルミナゾル、シリカゾル、シリコーン樹脂等の無機質結合材等を挙げることができる。結合材は、1種を単独で使用でき、場合によっては2種以上の相溶性のあるもの同士を併用してもよい。
・・・
[0031] また、本発明の摩擦材は、その好ましい特性を損なわない範囲で、従来からこの分野で常用されている摩擦調整剤を含んでいてもよい。該摩擦調整剤としては、例えば、加硫又は未加硫の天然又は合成ゴム粉末、カシュー樹脂粉末、レジンダスト、ゴムダスト等の有機物粉末、カーボンブラック、黒鉛粉末、二硫化モリブデン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、クレー、マイカ、タルク、ケイソウ土、アンチゴライト、セピオライト、モンモリロナイト、ゼオライト、三チタン酸ナトリウム、六チタン酸ナトリウム、六チタン酸カリウム、八チタン酸カリウム等の無機質粉末、銅、アルミニウム、亜鉛、鉄等の金属粉末、アルミナ、シリカ、酸化クロム、酸化チタン、酸化鉄等の酸化物粉末等を挙げることができる。これら従来の摩擦調整剤は、1種を単独で使用してもよいし、必要に応じて2種以上を用いてもよい。
[0032] さらに、本発明の摩擦材は、防錆剤、潤滑剤、研削剤等の1種又は2種以上を含んでいてもよい。
[0033] 本発明の摩擦材における各成分の配合割合は、使用する結合材の種類、必要に応じて配合する繊維状物、従来の摩擦調整剤、その他の添加剤等の種類、得ようとする摩擦材に求める摺動特性や機械的特性、その用途等の種々の条件に応じて広い範囲から適宜選択できるが、通常、摩擦材全量に対し、結合材を5〜60重量%(好ましくは10〜40重量%)、摩擦調整剤を1〜80重量%(好ましくは3〜50重量%)、繊維状物を60重量%まで(好ましくは1〜40重量%)、その他の添加剤を60重量%までとすればよい。
・・・
(発明の効果)
[0041] 本発明のチタン酸カリウムは、摩擦材における摩擦調整剤として用いることにより優れた耐摩耗性を付与することができ、また樹脂組成物に含有させることにより優れた補強性能を発揮する。」

(エ)「[0060] (実施例2)
実施例1と同様にして調製した2チタン酸カリウム(K2Ti2O5)を用いて15重量%スラリー500mlを調製し、これに70重量%H2SO4水溶液10.4gを加えて1時間撹拌し、pH12に調整した。この水性スラリーを炉別、乾燥し、電気炉にて600℃で1時間焼成した。得られた焼成物をハンマーミルにて解砕し、チタン酸カリウム29.88gを得た。
[0061] 得られたチタン酸カリウムは、蛍光X線分析で確認したところ、K2Ti6.1O13.2の組成を有していた。
[0062] 図8は、得られたチタン酸カリウム(本発明6.1チタン酸カリウム)のX線回折チャートを示す図である。図8には、繊維状6チタン酸カリウム(既存6チタン酸カリウム)のX線回折チャートを併せて示している。図8に示しているように、本実施例のチタン酸カリウムは、11.58°に最も強度の高いピークが存在しており、その半価幅は1.388°であった。一方、従来の繊維状6チタン酸カリウムは、11.484°に最も強度の高いピークが存在し、その半価幅は0.188°であった。
[0063] 図3及び図4は、本実施例のチタン酸カリウムのSEM写真である。
[0064] なお、本実施例のチタン酸カリウムの平均粒子径(メディアン径)は13.2μmであった。」

(オ)「




エ 甲4に記載の事項
甲4には、「チタン酸アルカリの製造方法」(発明の名称)について、以下の(ア)〜(エ)の記載がある。

(ア)「〔従来の技術〕
いわゆる鉱物性の繊維材料は、各種の複合材料の心材として重要視されている。ことに従来のアスヘスト材にかわってチタン酸アルカリの繊維が注目をあび、このためチタン酸アルカリの製造方法が研究されている。
従来のチタン酸アルカリの製造方法としては、焼成法、溶融法、水熱法、融剤法、KDC法が提案されている。
・・・
本発明は、上記各方法の問題点を解決して、反応の均一性が高く、分散性が良好なチタン酸アルカリの結晶を極めて短時間に、安価に得ることのできるチタン酸アルカリの製造方法を提供することを目的とする。
〔問題点を解決するための手段〕
本発明は、チタン源およびアルカリ源を含む原料を混合する工程と、混合された原料を焼成する工程とを含むチタン酸アルカリの製造方法において、
上記混合する工程と上記焼成する工程との間に、混合された原料を平均粒径3mm以下の顆粒に調整する工程が設けられたことを特徴とする。」(1頁右欄22行〜2頁右欄19行)

(イ)「 顆粒あるいは造粒物を破壊しないように焼成する方法としては、流動焼成法を用いることが有効である。
・・・
さらにこれらの炉は容易に雰囲気調整を行うことができる。
雰囲気調整は、結晶の生長に効果があり、またチタン酸アルカリに新たな特性を与えることが期待できる。
・・・
アルカリ源としては、アルカリを含む化合物であればこれを用いることが可能であるが、主原料としては炭酸塩、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、塩化物等が好ましい。」(3頁右欄12〜36行)

(ウ)「(実施例5)
第5表に示す原料混合物をスプレードライ処理し、外熱式ロータリキルン中で炭酸ガスをフローさせながら焼成した。
顆粒および生成物の評価は、実施例1と同様に行い第5表に示す結果を得た。」(4頁右欄17〜22行)

(エ)「



(2)甲1及び甲3に記載の発明
ア 甲1に記載の発明
甲1の上記(1)ア(ア)の請求項1の記載によれば、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明1」という。)が記載されているといえる。

<甲1発明1>
「平均長径1〜100μm、平均アスペクト比3〜500の板状6チタン酸カリウム。」

また、甲1の同(ア)の記載によれば、請求項5を引用する請求項6をさらに引用する請求項7において、板状6チタン酸カリウムが請求項1に記載の板状6チタン酸カリウムである場合、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明2」という。)が記載されているといえる。

<甲1発明2>
「摩擦調整剤として板状6チタン酸カリウムを含有する摩擦材であって、板状6チタン酸カリウムを3〜50重量%含有し、前記板状6チタン酸カリウムが、平均長径1〜100μm、平均アスペクト比3〜500の板状6チタン酸カリウムである、摩擦材。」

イ 甲3に記載の発明
甲3の上記(1)ウ(ア)の請求項1を引用する請求項2をさらに引用する請求項5には、「K2TinO(2n+1)(n=4.0〜11.0)で表わされ、X線回折における最も強度の高いピーク(2θ)が11.0°〜13.5°の範囲にあり、その半価幅が0.5°以上であるチタン酸カリウムであって、不定形の形状を有し、平均粒子径が5〜20μmの範囲である、チタン酸カリウム。」が記載されているといえる。そして、同(ウ)の[0020]の記載によれば、上記の組成のうち、「6チタン酸カリウム(n=6)及びそれに近い組成(n=5.50〜6.49)のチタン酸カリウムを製造する」ことが記載されている。
そうすると、甲3には、以下の発明(以下、「甲3発明1」という。)が記載されているといえる。

<甲3発明1>
「K2TinO(2n+1) (n=5.50〜6.49)で表わされ、X線回折における最も強度の高いピーク(2θ)が11.0°〜13.5°の範囲にあり、その半価幅が0.5°以上であるチタン酸カリウムであって、不定形の形状を有し、平均粒子径が5〜20μmの範囲である、チタン酸カリウム。」

また、甲3の同(ア)の請求項11の記載によれば、甲3には、摩擦調整剤として、甲3発明1のチタン酸カリウムを含有する摩擦材が記載されているといえる。
そうすると、甲3には、以下の発明(以下、「甲3発明2」という。)が記載されているといえる。

<甲3発明2>
「摩擦材として、K2TinO(2n+1) (n=5.50〜6.49)で表わされ、X線回折における最も強度の高いピーク(2θ)が11.0°〜13.5°の範囲にあり、その半価幅が0.5°以上であるチタン酸カリウムであって、不定形の形状を有し、平均粒子径が5〜20μmの範囲である、チタン酸カリウムを含有する、摩擦材。」

(3)甲1を主引用例とした場合について
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明1との対比
甲1発明1の「6チタン酸カリウム」は、1〜100μmの平均長径を有するものであり、さらに、(1)ア(カ)の図1で示される、実施例1で得られた板状6チタン酸カリウムのSEM写真も併せみれば、複数の粒子からなる粉末であることは明らかであるから、本件発明1の「チタン酸カリウム粒子により構成される粉末」に相当する。
また、甲1発明1の「6チタン酸カリウム」は、同(イ)の【0002】の「6チタン酸カリウム(K2O・6TiO2)」の記載によれば、「K2O・6TiO2」で表されるものであり、各元素に対する組成式にするとK2Ti6O13であるから、本件発明1の「組成式K2TinO2n+1〔式中、n=5.5〜6.5〕」におけるn=6の場合に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明1は、「チタン酸カリウム粒子により構成される粉末であり、前記チタン酸カリウム粒子が、組成式K2TinO2n+1〔式中、n=5.5〜6.5〕で表わされる、チタン酸カリウム粉末。」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。

<相違点1>
チタン酸カリウム粒子について、本件発明1では、平均長径30μm以上、平均短径15μm以上かつ平均アスペクト比が1.5〜3の柱状であるのに対し、甲1発明1では、平均長径1〜100μm、平均アスペクト比3〜500の板状である点。

(イ)相違点1に対する判断
a まず、本件発明1における平均長径及び平均短径は、本件明細書の【0029】の記載によれば、単純には、それぞれ粒子に外接する長方形のうち最小の面積を持つ長方形の長い辺、短い辺であり、その平均短径に対する平均長径の比率がアスペクト比である。一方、甲1の上記(1)ア(イ)の【0010】の記載によれば、甲1発明1の平均長径とは、いわゆる平均粒子径を意味し、アスペクト比は、走査型電子顕微鏡で測定した平均短径(厚み)に対する平均長径の比である。そうすると、甲1発明1において、本件発明1における定義での平均長径、平均短径及び平均アスペクト比の値は直接的には不明である。

b 次に、上記相違点1に係る本件発明1の構成の技術的意義についてみると、本件明細書の記載からみて以下のとおりであると解される。
安全衛生上の懸念を回避しつつ、摩擦材としての要求特性を達成することができる6チタン酸カリウム粒子について(【0004】)、従来技術においては、各種の製造技術を採用し、(a)アスペクト3以下の6チタン酸カリウム粒子、(b)板状6チタン酸カリウム、(c)不定形状6チタン酸カリウム粒子、(d)平均短径3μm〜10μm、平均アスペクト比が1.5〜10の6チタン酸カリウム粒子、(e)平均太さ(平均短径)が2μm〜6μm、平均長さ(平均長径)が3μm〜10μmである6チタン酸カリウムが凝集した平均粒子径20μm〜100μmの粒子、との提案がなされているが(【0005】)、上記(a)〜(d)においては粒子を大きく成長させることができないため十分な補強性が得られず、摩擦特性が十分ではない、上記(a)及び(d)においては柱状、繊維状粒子を製造することを目的とするものの、環境基準以上のWHOファイバーが含有するおそれがある、上記(e)においては粒子形状は大きいもののアスペクト比を有していないことから十分な補強性が期待できず、微細な柱状粒子の凝集物を粉砕処理して粒子径を調整しているため、繊維状粒子が発生するおそれがある、といった問題があった(【0008】)。
本件発明は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、安全衛生上の懸念を回避しつつ、摩擦材に用いた場合に優れた摩擦特性を付与することができるチタン酸カリウム粉末を提供することを課題とするものであることが分かる(【0009】)。
そうすると、上記相違点1における本件発明1の特定は、WHOファイバー(長径が5μm以上、短径が3μm以下、及びアスペクト比が3以上の繊維状粒子)を含まず、6チタン酸カリウムの粒子を(a)〜(d)の従来の6チタン酸カリウムよりも大きく、一定程度のアスペクト比を有するものとすることを意図していると解される。

c 一方、上記相違点1に係る甲1発明1の構成の技術的意義についてみると、甲1発明1は、甲1の上記(1)ア(イ)〜(エ)の記載からみて以下のとおりであると解される。
従来の6チタン酸カリウムは繊維形状を有しているため嵩高く、流動性に劣り、製造時において供給路の壁に付着して、供給路を閉塞させる、樹脂強化剤としては、ねじれ方向に加わる力に対する補強性能が十分でない、という問題を有し、また、摩擦剤用途においては、摩擦面における高い効果を確保するため板状のものが要望されている(【0003】)が、6チタン酸カリウムは繊維状に結晶成長する性質があるため、これまでに板状の6チタン酸カリウムは得られていなかった(【0004】)。
甲1発明1は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、板状の6チタン酸カリウム及びそれを用いた摩擦材を提供することを課題とするものであることが分かる(【0005】)。
そして、当該課題を解決するために、板状6チタン酸カリウムにおいて、平均長径1〜100μm、平均アスペクト比3〜500を有すること、との構成をとるもので(【0006】)、これにより、その形状及び結晶系に由来する性質を除く他、繊維状6チタン酸カリウムと同様の物理的性質を有しており、繊維状6チタン酸カリウムと同様に安定で無毒の化合物であり、さらに樹脂に配合した際に引張強度や曲げ強度といった機械的強度を向上させる効果を有する点においても繊維状6チタン酸カリウムと同様であるが、板状物であるため、高い表面平滑性、摺動特性の実現やねじれ方向に加わる力に対する強度の確保、アイゾット衝撃強度の向上に一層顕著な効果が期待でき、ブレーキ用摩擦材としても一層顕著な効果が期待できるものであることが理解できる(【0038】及び【0039】)。

d 上記cによれば、甲1発明1は、6チタン酸カリウムの形状を繊維状から板状にすることを主眼とするものであって、粒子を大きくすることを意図しているものではない。そして甲1発明1では、6チタン酸カリウムが平均長径1〜100μm、平均アスペクト比3〜500を有する板状と特定されるものの、甲1の上記(1)ア(イ)の【0010】には平均長径は、好ましくは3〜30μmとされると共に、同(オ)の具体的な実施例において、6チタン酸カリウムの平均長径は4.2μm(【0059】)程度であって、粒子が大きいことを特定しているといえる本件発明1特定の30μm以上の平均長径、15μm以上の平均短径、及び1.5〜3のアスペクト比が実質的に記載されているとはいえない。
さらに、上記aによれば、甲1発明1の6チタン酸カリウムの形状に関するパラメータからすると、特に本件発明1の6チタン酸カリウムの平均短径を導き出すことはできず、本件発明1のように15μm以上の平均短径を有しているとはいえない。

e なお、甲1の上記(1)ア(ウ)の【0024】には、「チタン酸カリウムリチウムは、平均長径10〜100μm程度の比較的大型の本発明の板状6チタン酸カリウムの原料として好適である。」との記載があるので、この記載について検討しておくに、上記a〜dで述べたのと同様の理由により、本件発明1の6チタン酸カリウムの平均長径、平均短径及びアスペクト比で特定される大きな粒子を意図しているとはいえない。特に上記の記載によっても、本件発明1の平均短径の範囲を満たす大きさになっているとはいえない。

f 加えて、「柱状」及び「板状」との粒子形状について甲1の記載をみると、甲1の上記(1)ア(ウ)の【0030】の記載によれば、甲1には、カリウムイオンのインターカレーション完了後に焼成を行い板状6チタン酸カリウムの製造するにあたり、焼成温度が800℃を超えると板状形状が損なわれ、柱状または繊維状結晶となる場合があるため好ましくないことが記載されており、チタン酸カリウムの形状について、甲1発明1で特定される板状に対し、本件発明1で特定される柱状を好ましくないものとして区別しているものと解される。

g 上記a〜fのとおり、甲1には、チタン酸カリウム粒子の形状を「平均長径30μm以上、平均短径15μm以上かつ平均アスペクト比が1.5〜3の柱状」とすることは記載されておらず、上記相違点1は実質的な相違点であるから、本件発明1が甲1発明1であるとはいえない。

h 上記相違点1の容易想到性について検討すると、上記a〜fで述べたように、甲1発明1の板状6チタン酸カリウムは、「粒子を大きく成長させる」ことを意図したものではないから、甲1発明1において、当該意図の下で板状6チタン酸カリウムの形状を、平均長径、平均短径及びアスペクト比が上記相違点1に係る本件発明1の数値範囲内であるような柱状とする動機付けも存在しないというべきである。また、甲1発明1において、6チタン酸カリウムの形状を、平均長径1〜100μm、平均アスペクト比3〜500の板状とすることは、上記cで述べた問題を解決し強度や摩擦の特性を付与する上で必須の構成であり、これを、上記相違点1に係る本件発明1の構成を有するような6チタン酸カリウムに置換することは予定されていないと解するのが合理的であるから、甲2の記載事項にかかわらず、甲1発明1において、上記相違点1に係る本件発明1の構成を採用することは、当業者にとって容易に想到し得ることではない。もとより、上記(1)イの摘示によれば、甲2に、上記相違点1に係る本件発明1の構成については記載されていない。

(ウ)小括
以上のとおり、本件発明1は、甲1発明1ではなく、また、上記相違点1に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえないから、甲1発明1及び甲2に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

イ 本件発明2〜6について
本件発明2〜4は、チタン酸カリウム粉末の発明であり、本件発明5は、摩擦調整剤の発明であり、本件発明6は、樹脂組成物の発明であるが、これらの発明は、いずれも直接的又は間接的に本件発明1を引用し、本件発明1の構成をすべて具備するものであるから、本件発明1と同様に、本件発明2〜6は、甲1発明1ではなく、また、甲1発明1及び甲2に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

ウ 本件発明7について
(ア)本件発明7と甲1発明2との対比
上記ア(ア)で述べた対比と同様に、甲1発明2の「6チタン酸カリウム粒子」は、本件発明7の「チタン酸カリウム粒子により構成される粉末」に相当し、甲1発明2の「K2O・6TiO2」は、本件発明7の「組成式K2TinO2n+1〔式中、n=5.5〜6.5〕」におけるn=6の場合に相当する。
また、甲1発明2の「摩擦材」は、少なくとも摩擦調整剤として板状6チタン酸カリウムを含有するものであるから、本件発明7の「組成物」に相当する。
そうすると、本件発明7と甲1発明2は、「チタン酸カリウム粒子により構成される粉末であり、前記チタン酸カリウム粒子が、組成式K2TinO2n+1〔式中、n=5.5〜6.5〕で表わされる、チタン酸カリウム粉末を含有する、組成物。」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。

<相違点2>
チタン酸カリウム粒子について、本件発明7では、平均長径30μm以上、平均短径10μm以上かつ平均アスペクト比が1.5以上の柱状であるのに対し、甲1発明2では、平均長径1〜100μm、平均アスペクト比3〜500の板状である点。

<相違点3>
組成物について、本件発明7では、熱硬化性樹脂を含有する樹脂組成物であるのに対し、甲1発明2では、当該発明特定事項を有するのか明らかでない点。

<相違点4>
銅成分の含有量について、本件発明7では、樹脂組成物の合計量100質量%において銅成分の含有量が銅元素として0.5質量%以下と特定されているのに対し、甲1発明2では、当該発明特定事項を有するか明らかでない点。

<相違点5>
チタン酸カリウム粉末の含有量について、本件発明7では、樹脂組成物合計100質量%に対して5質量%〜20質量%と特定されているのに対し、甲1発明2では、3〜50重量%と特定されている点。

(イ)相違点2に対する判断
a 上記ア(イ)bによれば、上記相違点2における本件発明7の特定は、本件発明1と同様に、WHOファイバー(長径が5μm以上、短径が3μm以下、及びアスペクト比が3以上の繊維状粒子)を含まず、6チタン酸カリウムの粒子を(a)〜(d)の従来の6チタン酸カリウムよりも大きく、一定程度のアスペクト比を有するものとすることを意図していると解される。

b そうすると、上記ア(イ)a〜fで本件発明1について述べた事項は、本件発明7についてもあてはまり、同gと同様に、甲1には、チタン酸カリウム粒子の形状を「平均長径30μm以上、平均短径10μm以上かつ平均アスペクト比が1.5以上の柱状」とすることは記載されていないので、上記相違点2は実質的な相違点である。

c 上記相違点2の容易想到性について検討すると、上記ア(イ)hと同様に、甲1発明2の板状6チタン酸カリウムは、「粒子を大きく成長させる」ことを意図したものでもないから、甲1発明2において、当該意図の下で板状6チタン酸カリウムの平均長径、平均短径及びアスペクト比を上記相違点2に係る本件発明7の数値範囲内とする動機付けも存在しないというべきである。また、甲1発明2において、6チタン酸カリウムの形状を、平均長径1〜100μm、平均アスペクト比3〜500の板状とすることは、同hで述べたとおり必須の構成であり、これを、上記相違点2に係る本件発明7の構成を有するような6チタン酸カリウムに置換することは予定されていないと解するのが合理的であるから、甲2の記載事項にかかわらず、甲1発明2において、上記相違点2に係る本件発明7の構成を採用することは、当業者にとって容易に想到し得ることではない。もとより、上記(1)イの摘示によれば、甲2に、上記相違点2に係る本件発明7の構成については記載されていない。

(ウ)小括
以上のとおり、上記相違点2に係る本件発明7の構成は、実質的な相違点であり、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえないから、上記相違点3〜5について検討するまでもなく、本件発明7は、甲1発明2及び甲2に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 本件発明8〜10について
本件発明8は、樹脂組成物の発明であり、本件発明9は、摩擦材の発明であり、本件発明10は、摩擦部材の発明であるが、これらの発明は、いずれも直接的又は間接的に本件発明7を引用し、本件発明7の構成をすべて具備するものであるから、本件発明7と同様に、本件発明8〜10は、甲1発明2及び甲2に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)甲3を主引用例とした場合について
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲3発明1との対比
甲3発明1の「チタン酸カリウム」は、平均粒子径が測定され得るものであり、さらに、(1)ウ(オ)の図3及び図4で示される、実施例2で得られたチタン酸カリウム(6.1チタン酸カリウム)のSEM写真も併せみれば、複数の粒子からなる粉末であることは明らかであるから、本件発明1の「チタン酸カリウム粒子により構成される粉末」に相当する。
また、甲3発明1の「K2TinO(2n+1)(n=5.50〜6.49)」は、本件発明1の組成式K2TinO2n+1のn=5.5〜6.5に包含されるから、本件発明1の「組成式K2TinO2n+1〔式中、n=5.5〜6.5〕」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲3発明1は、「チタン酸カリウム粒子により構成される粉末であり、前記チタン酸カリウム粒子が、組成式K2TinO2n+1〔式中、n=5.5〜6.5〕で表わされる、チタン酸カリウム粉末。」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。

<相違点6>
チタン酸カリウム粒子について、本件発明1では、平均長径30μm以上、平均短径15μm以上かつ平均アスペクト比が1.5〜3の柱状であるのに対し、甲3発明1では、X線回折における最も強度の高いピーク(2θ)が11.0°〜13.5°の範囲にあり、その半価幅が0.5°以上であり、不定形の形状を有し、平均粒子径が5〜20μmの範囲である点。

(イ)相違点6に対する判断
a チタン酸カリウム粒子の全体形状について、甲1発明1における「不定形」は、本件発明1における「柱状」と明らかに異なるものであるから、上記相違点6は実質的な相違点である。

b 上記相違点6の容易想到性について検討する。甲3の上記(1)ウ(イ)の[0009]の「本発明のチタン酸カリウムは、一般に、不定形の形状を有している。すなわち、繊維状や、板状や、粒状の形状ではなく、不規則な形状を有している。」との記載及び同(ウ)の[0019]の「焼成温度が低すぎると、繊維状4チタン酸カリウムが生成し、アメーバ状の形状の2チタン酸カリウムの単一組成を得られにくい場合がある。焼成温度が高すぎると、2チタン酸カリウムの形状が柱状となり、アメーバ状の形状が得られにくい場合がある。」との記載によれば、甲3発明1において、柱状チタン酸カリウムは、望ましくないものとして認識されているものであるから、甲3発明1のチタン酸カリウム粒子の形状を柱状とする動機付けは甲3発明1には存在しないというべきである。また、甲4に、上記相違点6に係る本件発明1の構成については何ら記載されていない。

(ウ)小括
以上のとおり、上記相違点6に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえないから、本件発明1は、甲3発明1及び甲4に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件発明2〜6について
本件発明2〜4は、チタン酸カリウム粉末の発明であり、本件発明5は、摩擦調整剤の発明であり、本件発明6は、樹脂組成物の発明であるが、これらの発明は、いずれも直接的又は間接的に本件発明1を引用し、本件発明1の構成をすべて具備するものであるから、本件発明1と同様に、本件発明2〜6は、甲3発明1及び甲4に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 本件発明7について
(ア)本件発明7と甲3発明2との対比
上記ア(ア)で述べた対比と同様に、甲3発明2の「チタン酸カリウム」は、本件発明7の「チタン酸カリウム粒子により構成される粉末」に相当し、甲3発明2の「「K2TinO(2n+1)(n=5.50〜6.49)」は、本件発明7の「組成式K2TinO2n+1〔式中、n=5.5〜6.5〕」に相当する。
そうすると、本件発明7と甲3発明2は、「チタン酸カリウム粒子により構成される粉末であり、前記チタン酸カリウム粒子が、組成式K2TinO2n+1〔式中、n=5.5〜6.5〕で表わされる、チタン酸カリウム粉末を含有する、組成物。」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。

<相違点7>
チタン酸カリウム粒子について、本件発明7では、平均長径30μm以上、平均短径10μm以上かつ平均アスペクト比が1.5以上の柱状であるのに対し、甲3発明2では、X線回折における最も強度の高いピーク(2θ)が11.0°〜13.5°の範囲にあり、その半価幅が0.5°以上であり、不定形の形状を有し、平均粒子径が5〜20μmの範囲である点。

<相違点8>
組成物について、本件発明7では、熱硬化性樹脂を含有する樹脂組成物であるのに対し、甲3発明2では、当該発明特定事項を有するのか明らかでない点。

<相違点9>
銅成分の含有量について、本件発明7では、樹脂組成物の合計量100質量%において銅成分の含有量が銅元素として0.5質量%以下と特定されているのに対し、甲3発明2では、当該発明特定事項を有するか明らかでない点。

<相違点10>
チタン酸カリウム粉末の含有量について、本件発明7では、樹脂組成物合計100質量%に対して5質量%〜20質量%と特定されているのに対し、甲3発明2では、当該発明特定事項を有するか明らかでない点。

(イ)相違点7に対する判断
甲3発明2においても、柱状のチタン酸カリウムは望ましくないとされているものであるから、上記相違点7における判断は、上記ア(イ)における判断と同様である。

(ウ)小括
以上のとおり、上記相違点7に係る本件発明7の構成は、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえないから、上記相違点8〜10について検討するまでもなく、本件発明7は、甲3発明2及び甲4に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 本件発明8〜10について
本件発明8は、樹脂組成物の発明であり、本件発明9は、摩擦材の発明であり、本件発明10は、摩擦部材の発明であるが、これらの発明は、いずれも直接的又は間接的に本件発明7を引用し、本件発明7の構成をすべて具備するものであるから、本件発明7と同様に、本件発明8〜10は、甲3発明2及び甲4に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)申立理由1及び申立理由2に関するまとめ
以上のとおり、本件発明1〜6は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものではなく、さらに、本件発明1〜10は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、申立理由1及び申立理由2には、理由がない。

2 申立理由3(特許法第36条第6項第1号(サポート要件違反))について

(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)サポート要件に関する判断
ア 本件発明の課題について
本件明細書の記載によれば、チタン酸カリウム繊維は、平均繊維径が0.1μm〜0.5μm、平均繊維長が10μm〜20μmのものが多く、世界保健機関(WHO)で定められたWHOファイバー(長径が5μm以上、短径が3μm以下、及びアスペクト比が3以上の繊維状粒子)を含有していることから、安全衛生上の懸念を回避しつつ、摩擦材としての要求特性を達成することができる6チタン酸カリウム粒子が望まれ(【0004】)、また、銅成分を含有しない又は銅の含有量を少なくした配合においても、摩擦材としての要求特性を達成することができるチタン酸カリウム粒子が望まれていたことが把握できる(【0006】)。
また、それらに対応するため、従来技術においては、各種の製造技術を採用し、(a)アスペクト3以下の6チタン酸カリウム粒子、(b)板状6チタン酸カリウム、(c)不定形状6チタン酸カリウム粒子、(d)平均短径3μm〜10μm、平均アスペクト比が1.5〜10の6チタン酸カリウム粒子、(e)平均太さ(平均短径)が2μm〜6μm、平均長さ(平均長径)が3μm〜10μmである6チタン酸カリウムが凝集した平均粒子径20μm〜100μmの粒子、に関する提案がなされているが(【0005】)、上記(a)〜(d)の粒子の製法では、粒子を大きく成長させることができないため十分な補強性が得られず、摩擦特性が十分ではないといった問題を招来するし、上記(a)及び(d)の粒子の製法では、柱状、繊維状粒子を製造することを目的とするものの、環境基準以上のWHOファイバーが含有するおそれがあるといった問題が、上記(e)の粒子の製法では、粒子形状は大きいものの所望のアスペクト比を有していないことから十分な補強性が期待できず、微細な柱状粒子の凝集物を粉砕処理して粒子径を調整しているため、繊維状粒子が発生するおそれがあるといった問題が、それぞれ生じていることが窺える(【0008】)。
そして、本件発明は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、安全衛生上の懸念を回避しつつ、摩擦材に用いた場合に優れた摩擦特性を付与することができる、チタン酸カリウム粉末、及び該チタン酸カリウム粉末の製造方法、該チタン酸カリウム粉末を用いた摩擦調整材、樹脂組成物、摩擦材、並びに摩擦部材を提供することを課題とするものであることが分かる(【0009】)。

イ 本件発明の課題解決手段に関する発明の詳細な説明の記載について
上記アの発明の課題のうち、安全衛生上の懸念については、従来問題とされていた繊維状粒子を含まないことにより、また、優れた摩擦特性については、粒子形状が大きく所望のアスペクト比を有するチタン酸カリウムを得ることにより、それぞれ解決できると解される。そして、上記1(3)ア(イ)bにおいて説示したとおり、本件明細書の記載には、本件発明は、平均長径30μm以上、平均短径10μm以上かつ平均アスペクト比が1.5以上の柱状チタン酸カリウム粒子により構成される粉末であり、前記柱状チタン酸カリウム粒子が、組成式K2TinO2n+1〔式中、n=5.5〜6.5〕で表わされること、との構成をとることにより(【0011】)、安全衛生上の懸念を回避しつつ、摩擦材に用いた場合に、優れた耐摩耗性を付与することができ、また、摩擦係数が高く安定し、優れた耐フェード性を付与することができるとの効果を奏するものであることが記載されている(【0025】)。
また、【0030】の記載によれば、柱状チタン酸カリウム粒子の平均長径を30μm以上、平均短径を10μm以上、平均アスペクト比を1.5以上の範囲にすることで、粒子形状が大きくかつ所望のアスペクト比を有するチタン酸カリウムとなり、摩擦材に用いた場合に、優れた耐摩耗性を付与し、摩擦係数が高く安定し、優れた耐フェード性といった、優れた摩擦特性を付与するチタン酸カリウムを提供できるといえる。さらに、【0088】〜【0126】に具体的な実施例が記載され、例えば、実施例4として得られた粉末について、組成はK2Ti6O13(6チタン酸カリウム)、粉末を構成する粒子の形状は柱状、粒子の平均長径は35μm、平均短径は19μm、平均アスペクト比は1.9であることが示され(【0104】)、実施例4の6チタン酸カリウム粉末を用いて製造した実施例5の摩擦材について、粒子形状がアメーバ状の比較例2、板状の比較例3、柱状であるが平均長径11μm及び平均短径5μmと本件発明で特定される数値範囲よりも小さい比較例4をそれぞれ用いた比較例5〜8の摩擦材に比べ、耐フェード性に優れていることや、平均摩擦係数が高いにも関わらず、摩擦材の摩耗量が少ないという予期せぬ効果が得られていること(【0116】、【表4】、【表6】、【0124】、【0125】及び【図9】)が示されている。このように本件明細書の発明の詳細な説明には、「平均長径30μm以上、平均短径10μm以上かつ平均アスペクト比が1.5以上の柱状チタン酸カリウム粒子により構成される粉末であり、前記柱状チタン酸カリウム粒子が、組成式K2TinO2n+1〔式中、n=5.5〜6.5〕で表わされること」という構成を具備することにより上記の課題が解決できることについての技術的な裏付けも認められる。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、上記アの発明の課題を解決するには、「平均長径30μm以上、平均短径10μm以上かつ平均アスペクト比が1.5以上の柱状チタン酸カリウム粒子により構成される粉末であり、前記柱状チタン酸カリウム粒子が、組成式K2TinO2n+1〔式中、n=5.5〜6.5〕で表わされること」が肝要であることが理解できる。

ウ 本件明細書の発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲、及び、当該範囲と本件発明の広狭関係について
上記イで述べたように、本件発明の課題を解決するにあたっては、「平均長径30μm以上、平均短径10μm以上かつ平均アスペクト比が1.5以上の柱状チタン酸カリウム粒子により構成される粉末であり、前記柱状チタン酸カリウム粒子が、組成式K2TinO2n+1〔式中、n=5.5〜6.5〕で表わされること」が肝要であり、この点を具備していれば、おおよそ上記アの本件発明の課題を解決することができることを、当業者は本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて理解することができる。
一方、本件発明1及び本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明2〜6は、平均短径15μm以上かつ平均アスペクト比1.5〜3との発明特定事項により上記の点よりも狭い数値範囲を特定しており、また、本件発明7及び本件発明7を直接的又は間接的に引用する本件発明8〜10は、上記の点を発明特定事項として含んでいる。
そうすると、本件発明は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえるから、上記(1)の判断基準に当てはめると、本件特許請求の範囲の請求項1〜10の記載は、サポート要件に適合するということができる。
したがって、申立理由3には、理由がない。

(3)異議申立人の主張に対する判断
ア 異議申立人の主張について
上記第3の3に記載した異議申立人の申立理由3に係る主張は、要は、平均長径、平均短径及び平均アスペクト比を本件発明1又は7で特定される範囲にすることにより達成される、「摩擦材に用いた場合に、優れた耐摩耗性を付与し、摩擦係数が高く安定し、優れた耐フェード性を付与すること」との事項を裏付ける具体例又はメカニズムは、実施例4の6チタン酸カリウム粉末を含む摩擦材を用いる実施例5の具体例のみであり、実施例1〜3の具体例は上記事項を裏付けるものではなく、上記事項を裏付ける唯一の具体例である実施例5(実施例4の6チタン酸カリウム粉末を含む摩擦材)における平均長径35μm、平均短径19μm、及び平均アスペクト比1.9との数値を、本件発明1〜6における平均長径、平均短径、平均アスペクト比の数値の範囲又は本件発明7〜10における平均長径、平均短径、平均アスペクト比の数値の範囲まで拡張できるとはいえない、というものである。

イ 上記主張に対する判断
本件発明1〜10に係る特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合することは、上記(2)で述べたとおりである。
念のため異議申立人の上記主張を検討する。
上記(2)イで述べたように、6チタン酸カリウム粒子の粒子形状が大きくかつ所望のアスペクト比を有していれば、良好な摩擦特性が得られるといえるから、実施例4の6チタン酸カリウム粉末と同様に、粒子形状が大きくかつ所望のアスペクト比を有する実施例1〜3の6チタン酸カリウム粉末でも良好な摩擦特性が得られることが理解できる。
さらに検討しても、本件明細書の【0089】〜【0104】、【0116】〜【0121】の記載によれば、実施例5の摩擦材は、実施例4の6チタン酸カリウム粉末を用いたものである。この実施例4の6チタン酸カリウム粉末は、2チタン酸カリウムを得るための焼成において二酸化炭素濃度を8体積%に制御したものであり、当該二酸化炭素濃度を5体積%とした以外は概ね実施例4と同様の製造方法により製造した比較例1(合成例2)に比して、平均アスペクト比が略同等の柱状としつつ平均長径及び平均短径が大きくなっており、さらに、当該二酸化炭素濃度を10体積%とした以外は概ね実施例4と同様の製造方法により製造した実施例1(合成例3)は、実施例5(実施例4)に比して、平均アスペクト比が略同等の柱状としつつ、平均長径及び平均短径が本件発明1又は本件発明7における平均長径、平均短径及び平均アスペクト比の数値範囲内で平均長径及び平均短径が大きくなっていることが理解できる。
そして、本件明細書の【表4】及び【図9】に示された結果に基づいて、摩擦材としての特性について、実施例4の6チタン酸カリウム粉末を用いた実施例5と比較例1の6チタン酸カリウム粉末を用いた比較例5とを対比すると、実施例5では、比較例5よりも、フェード率が上昇する傾向がみてとれ、さらに、従来の摩擦材にみられる平均摩擦係数と摩擦材摩耗量との比例的な関係に対して、平均摩擦係数が高いにも関わらず摩擦材摩耗量が少ない領域にシフトしていく傾向もみてとれる。これらの傾向は、比較例5(合成例2、比較例1)に対し、実施例5(実施例4)、実施例1(合成例3)の順で、平均アスペクト比が略同等の柱状としつつ平均長径及び平均短径が大きくなっていくにつれて生じるものと予測され得る傾向であるといえる。また、本件明細書の【0125】の「本発明のチタン酸カリウム粉末を使用することで、摩擦材表面の補強性が向上することにより、高摩擦係数かつ低摩耗量が実現できると考えられる。」との記載も併せみれば、従来の摩擦材に用いられる6チタン酸カリウム粉末よりも粒子を成長させることにより摩擦材表面の補強性が向上し、結果として上記のような傾向がみてとれるメカニズムも一定程度理解できるというべきである。
そうすると、摩擦材としての効果は実施例5のみに限られるものではなく、他の実施例からでも理解され得る。
したがって、本件発明は、比較例5(合成例2、比較例1)に対して、本件発明1又は本件発明7における平均長径、平均短径及び平均アスペクト比の数値範囲まで粒子を成長させることで、当業者が「摩擦材に用いた場合に優れた摩擦特性を付与する」との課題が解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
そうすると、上記異議申立人の主張は、採用することができない。

(4)小括
以上のとおり、本件発明1〜10に対応する特許請求の範囲の請求項1〜10の記載が、サポート要件に適合していないということはできないから、申立理由3には理由がない。

第5 むすび
上記第4で検討したとおり、本件特許1〜6は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるということはできず、本件特許1〜10は、同法同条第2項の規定に違反してされたものであるということもできず、本件特許1〜10は、同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということもできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記申立理由1〜3では、本件特許1〜10を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1〜10を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-06-28 
出願番号 P2020-119669
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C01G)
P 1 651・ 113- Y (C01G)
P 1 651・ 537- Y (C01G)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 原 賢一
特許庁審判官 山田 倍司
後藤 政博
登録日 2021-06-30 
登録番号 6906090
権利者 大塚化学株式会社
発明の名称 チタン酸カリウム粉末、摩擦調整材、樹脂組成物、摩擦材、並びに摩擦部材  
代理人 特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所  

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