• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  A61J
管理番号 1387532
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-08-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-04-01 
確定日 2022-08-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第6953596号発明「薬品仕分装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6953596号の請求項1、3ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許6953596号の請求項1、3ないし5に係る特許についての出願は、平成25年9月5日に出願された特願2013−183824号の一部を平成29年8月4日に新たな特許出願とした特願2017−151676号の一部を平成30年8月7日に新たな特許出願とした特願2018−148663号の一部を令和2年9月15日に新たな特許出願としたものであって、令和3年10月1日にその特許権の設定登録がされ、令和3年10月27日に特許公報が発行され、その後、令和4年4月1日に特許異議申立人森下武一(以下、「申立人」という。)より、請求項1、3ないし5に係る特許について特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許6953596号の請求項1、3ないし5の特許に係る発明(以下、「本件発明1」、「本件発明3」ないし「本件発明5」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
薬品が載置される仕分トレイと、
前記仕分トレイ内の薬品の状態を画像データとして取得するための識別カメラと、
前記識別カメラが取得した画像データに基づいて前記仕分トレイから薬品を取り出して搬送する搬送部と、
前記搬送部で搬送された前記薬品を載置し、回転させながら前記薬品上に表示された第1の識別コードおよび第2の識別コードを検出する判別部と、
前記識別カメラ、前記搬送部、および前記判別部を制御する制御部と、
を含み、
前記制御部は、前記第1の識別コードを検出する際の前記薬品の回転速度と前記第2の識別コードを検出する際の回転速度とを異ならせる、
薬品仕分装置。
【請求項3】
前記第1の識別コードはバーコードであり、前記第2の識別コードは文字情報である、
請求項1または2に記載の薬品仕分装置。
【請求項4】
前記第1の識別コードに基づき取得される情報は薬品の種類に関する情報を含み、前記第2の識別コードに基づき取得される情報は薬品の使用期限に関する情報を含む、
請求項1から3のいずれかに記載の薬品仕分装置。
【請求項5】
前記判別部で識別コードの検出がなされた前記薬品を搬送する第2の搬送部と、
前記第2の搬送部で搬送された前記薬品を収納する収納容器と、を含む、
請求項1から4のいずれかに記載の薬品仕分装置。」

第3 特許異議申立理由の概要
1 申立理由(特許法第29条第2項
本件発明1、3ないし5は、本件特許出願前に日本国内において頒布された下記甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて、または甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、本件発明1、3ないし5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、それらの特許は特許法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

2 証拠方法
甲第1号証:久池井茂、外8名、「画像処理技術とロボット制御技術を活用した注射薬自動仕分けシステムの研究開発」、医療機器学、一般社団法人日本医療機器学会、2013年8月1日、第83巻、第4号、p347−353(以下「甲1」という。)
甲第2号証:特開2003−311217号公報(以下「甲2」という。)
甲第3号証:特表2009−504199号公報(以下「甲3」という。)

第4 甲各号証の記載事項
1 甲1
(1)甲1の記載
甲1には、以下の記載がある。(合議体注:丸付き文字は「○文字」で表記する。下線は当審で付した。)

ア「しかし,従来の注射薬自動払出システムでは,使用されずに返品された注射薬は手作業で各薬品の保管トレイに戻す必要がある.数百種類も存在する注射薬を一つひとつ確認し,各薬品の保管トレイに戻す作業は,薬剤師にとって大きな負担となっており,返品ミスを招く恐れもある.注射薬は医師が処方しても,患者の容体が変わって返品になる割合が3割ほどに達することもある.薬剤師が仕分けにかける時間を本来業務に当てることで,よりレベルの高いチーム医療が実現できる.したがって,返品薬を元の保管トレイに戻す作業の自動化が強く求められている.」(第347ページ右下欄第9行−第348ページ左欄第10行)

イ「以上の医療現場のニーズから,返品された注射薬の仕分けを自動でおこなう返品薬仕分け装置4)を研究開発した.形の異なる容器を画像で一つひとつ確認した上,ピッキングをしてGS1データバーで注射薬を確認して保管トレイに戻す仕組みである.この返品薬仕分け装置を注射薬自動払出システムに搭載し,業務軽減とヒューマンエラー防止を強化できる注射薬自動仕分けシステム5)を実用化する.カメラによる画像認識とロボットによる自動仕分けであり,高速・高精度な完全自動処理システムである.国際的に見ても例が無く,非常に新規性の高い研究開発である.
本論文では,返品薬仕分け装置で活用した画像処理技術やピッキング手法についてまとめる.特に,トレイにランダムに配置された注射薬の中から,一つひとつの薬品をピッキングすることができ,姿勢・位置の認識手法に特徴がある.薬品画像の面積に関する評価関数を導入することで実現でき,画像認識において,テンプレートマッチング法よりも優れた認識方法であるため,処理時間を短縮できる.」(第348ページ左欄第11−32行)

ウ「図2(b)のように,返却されて種類もバラバラになった状態でトレイに入れられた薬品群の中からピッキングをおこない,元のトレイに戻すという手順により返品処理の自動化が実現できる.」(第349ページ左欄第5−9行)

エ「図4に,本研究で用いた実験装置(W900×D550×H600)を示す.主に,ピッキング部,画像認識部、仕分け部から構成されている.3軸直交ロボット(IK2-SXBB11MMS+XSEL,IAI)とコンプレッサ(YC-3RS,株式会社八重崎空圧)による吸着ピッキングで注射薬の個体抽出を実現する.なお,画像の撮像には,カメラ(acA1600-20gc,Basler),レンズ(AZURE-0814M5M,AZURE Photonics)を用いた.以下に実験方法をまとめる.
○1返品された注射薬群の中から,一つの注射薬をピッキングする.
○2ピッキングした注射薬を,バーコードとOCR機能の併用で識別する.
○3識別した注射薬を,種類毎に分別されている保管トレイに返品する.」(第349ページ左欄第23行−右欄第9行)

オ「1)薬品群からの固体の抽出
返品薬仕分け装置において,ピッキングの対象となるアンプルやバイアルといった注射薬は,一般的に透明な容器に,カラーのラベルが張り付けられたものが主流である.したがって,パターンマッチングをおこなわずに,注射薬の姿勢や位置を検出するため,この特徴に注目した.まず,返品された注射薬を背景が黒いトレイに投入する.これにより,注射薬の透明(容器)部はトレイの背景色の黒が透過される.さらに図5のように,撮影された画像に対して,ある閾値以上の画素を1に,閾値未満の画素を0に,それぞれ置き換える2値化処理をおこなうことにより,トレイの背景と薬品のラベル部を分離することが可能となる.ただし,この時の閾値は,画像の濃淡に合わせ動的に設定する6).」(第349ページ右欄第12−27行)

カ「2)ピッキング対象の選別
前述の手法により抽出された候補の中から,次式に示す評価関数Jiを利用し,ピッキング対象を選別した.

ここで、Siは各注射薬画像の面積,Riは各注射薬画像に外接する矩形の面積,Tkは事前に登録しておくk個のテンプレート画像の面積である.ただし,注射薬画像に外接する矩形の面積Riは,図6で示すように,検出した注射薬の姿勢(角度)と並行に矩形を取る.また,αは評価関数Jiの第1項と第2項のバランスを取るための重みであり,試行錯誤によって与えた.Ri−Siは注射薬に外接する矩形と注射薬の面積の差分(図7の斜線部)であり,これを正規化したものが第1項である.
図7(a)のように注射薬の重心や姿勢が正確に検出できている場合は,第1項の値は小さくなる.一方,図7(b)や(c)のように注射薬が重なっている場合や,姿勢の検出に失敗した場合は,第1項の値が大きくなる.つまり,これらの状態の違いを第1項の値により識別が可能である.しかし,図7(d)のように誤検出した場合,第1項の値では識別することはできない.そこで,第2項を加えることにした.第2項は,事前に登録した注射薬の面積と検出した注射薬の面積の差Tk−Siを正規化したものである.つまり,テンプレートとの差をJiに加えることで,検出した注射薬の面積が大きすぎるものや,小さすぎるものを識別することが可能となる.
以上により,ピッキング対象はJiが最小の値となるi番目の注射薬画像とする.そして,条件を満たす注射薬の重心,および姿勢情報を利用することでピッキングが可能となる.」

キ「3)注射薬の識別および情報の取得
ピッキングした注射薬の識別は,図4の実験装置のローラーの上で回転させながら,GS1DataBarのバーコード画像を読み取ることで実現する.また,製造番号や使用期限は,文字を認識する画像処理技術であるOCR(Optical Character Recognition)を用いる.
必要な情報の選別は,OCRによって認識された文字列が製造番号と使用期限のフォーマットに適合しているか否かで判断する.印字方向は,バーコードリーダーで得た注射薬の情報をもとに判断し,回転方向に対して水平もしくは垂直かを基準にして,画像の回転方向の処理を分ける.また,印字位置については,OCRをおこなう画像の回転方向に対して分割し,使用期限の西暦が入れば,製造番号と使用期限を含んだ全体画像にOCR処理をおこなう.」(第350ページ右欄第16行−第351ページ左欄第7行)

ク「また、注射薬の識別のため,重心検出,姿勢検出,薬品の識別,OCRなどの画像情報を自動で取得する画像処理アプリケーションを開発した.図9は,カメラで撮像した画像からバーコードを読み取り,文字を認識する画像処理方法OCRを用いて,薬品の製造番号と使用期限を識別した一例である.バーコードの読み取りは,全体像が映っていなくても取得可能で単純な動作のみで実現した.注射薬がピッキングされ,実験装置のローラー部で回転させることができれば,認識率は99.9%であった.」(第351ページ右欄第1−11行)

ケ「

」(図2)

(2)甲1の認定事項
上記(1)から、甲1について以下のことが理解できる。
ア 上記(1)イの下線部の記載から、甲1には、返品された注射薬の仕分けを自動でおこなう返品薬仕分け装置が記載されている。
また、上記(1)オの下線部の記載から、返品薬仕分け装置は、返品された注射薬の投入される背景が黒いトレイを備えている。
また、上記(1)エ、オの下線部の記載から、返品薬仕分け装置は、背景が黒いトレイに投入された注射薬の姿勢や位置を検出するため、画像を撮像している。
また、上記(1)エの下線部の記載から、返品薬仕分け装置は、画像の撮像にカメラを用いている。
以上から、返品薬仕分け装置は、背景が黒いトレイ内の注射薬の姿勢や位置を画像として撮像するためのカメラを備えているといえる。

イ 上記(1)オの下線部の記載から、返品薬仕分け装置は、撮像された画像に基づきトレイの背景とラベル部を分離する処理を行っている。
また、上記(1)エの下線部の記載から、返品薬仕分け装置は、画像の撮像にカメラを用いている。
また、上記(1)カの下線部の記載から、返品薬仕分け装置は、分離した中からピッキング対象を選別する処理を行っている。
また、上記(1)エ、キの下線部の記載から、返品薬仕分け装置のピッキング部は、注射薬をピッキングしてローラーに搬送するものである。
以上から、返品薬仕分け装置は、カメラで撮像した画像に基づいて背景が黒いトレイから注射薬をピッキングしてローラーに搬送するものである。

ウ 上記(1)クの下線部の記載から、返品薬仕分け装置は、カメラで撮像した画像からバーコードを読み取り、文字を認識するOCR処理を行っている。
また、上記(1)キの下線部の記載から、返品薬仕分け装置は、ピッキングした注射薬を、実験装置のローラーの上で回転させながら、バーコード画像を読み取り、また、文字列として印字された使用期限を含んだ画像にOCR処理を行うものである。
以上から、返品薬仕分け装置は、ピッキングされた注射薬をローラーで回転させながら注射薬上に表示されたバーコードおよび文字列を検出するものである。

(3)甲1発明
上記(1)の摘記事項及び(2)の認定事項から、甲1には、以下の発明が記載されている(以下、「甲1発明」という。)。
「返品された注射薬の投入される背景が黒いトレイと、
背景が黒いトレイ内の注射薬の姿勢や位置を画像として撮像するためのカメラと、
カメラで撮像した画像に基づいて背景が黒いトレイから注射薬をピッキングしてローラーに搬送するピッキング部と、
を含み、
ピッキングされた注射薬をローラーで回転させながら注射薬上に表示されたバーコードおよび文字列を検出する、
返品薬仕分け装置。」

2 甲2
(1)甲2の記載
甲2には、以下の記載がある。
ア「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、紙葉類処理装置及び紙葉類処理方法に係り、特に、郵便物などの紙葉類から所定情報を読み取って区分や押印などの処理を行う紙葉類処理装置及びこれに適用される紙葉類処理方法に関する。」

イ「【0005】また、紙葉類を搬送する搬送速度は、読取機構の読取性能に見合った速度に設定する必要がある。このため、取出速度を向上させたのに伴って、単純に搬送速度も向上させた場合、読取性能の低い読取機構においては、紙葉類の所定情報を確実に読み取ることができず、読取不良を招くおそれがある。」

ウ「【0015】読取部34は、搬送機構33により搬送された紙葉類に所定の処理を施す処理手段として機能する。すなわち、読取部34は、搬送機構33により搬送されている紙葉類から所定情報、例えば宛先などのカテゴリ情報を読み取る読取手段として機能する。この読取部34は、紙葉類上の文字情報を光学的に読み取って文字認識する光学的文字読取装置すなわちOCR、紙葉類上のバーコードを光学的に読み取るバーコードリーダすなわちBCRなどを備えて構成されている。」

エ「【0018】この入力部37Aは、処理モード、すなわち単位時間当たりに処理する紙葉類の処理枚数(K/h=1000枚/時間)の入力を受け付ける入力手段として機能する。また、この入力部37Aは、読取モード、すなわち読取部34のOCRのみで読み取りを行う第1読取モード、OCR及びBCRを組み合わせた読み取りを行う第2読取モード、BCRのみで読み取りを行う第3読取モードなどの指定を受け付ける指定手段として機能する。さらに、この入力部37Aは、取出部32での紙葉類の取出速度(m/s)や、搬送機構33での紙葉類の搬送速度(m/s)の設定を受け付ける設定手段として機能する。」

オ「【0020】メモリ部110には、区分機6全体を制御するための各種制御情報の他に、後に詳述するように、処理モード毎に取出部32による紙葉類の取出速度と搬送機構33による紙葉類の搬送速度との最適な組み合わせ、読取部34により読取モード毎に処理可能な処理モードの許容範囲、処理モード毎に処理可能な取出速度及び搬送速度の許容範囲などの各種テーブルが記憶されている。」

カ「【0022】搬送制御回路118は、CPU100の制御に基づいて、設定された所定の搬送速度で紙葉類を搬送するよう搬送機構33を駆動する。読取制御回路120は、CPU100の制御に基づいて、設定された読取モードに応じて読取部34のOCR34A及びBCR34Bを駆動する。区分制御回路122は、CPU100の制御に基づいて、段パス部35及び区分集積部36を駆動する。」

キ「【0042】次に、これら紙葉類処理装置において、処理モードに対応した最適な処理速度の設定方法について説明する。なお、ここでは、区分機6を例にとって処理速度の設定方法の第1実施例について説明する。また、ここでは、読取モードとして、上述した第1読取モード(OCR)、第2読取モード(OCR+BCR)、第3読取モード(BCR)が実行可能であるとする。
【0043】このような第1実施例においては、メモリ部110には、図7に示すような第1テーブルT1及び図8に示すような第2テーブルT2が記憶されている。すなわち、第1テーブルT1には、読取部34による読取モード毎に処理可能な処理モードの許容範囲が規定されている。例えば、第1読取モードでは、処理モードの許容範囲は、30〜40K/hであり、第2読取モードでは、処理モードの許容範囲は、30〜50K/hであり、第3読取モードでは、処理モードの許容範囲は、30〜60K/hである。
【0044】また、第2テーブルT2には、処理モード毎に取出部32による紙葉類の取出速度と搬送機構33による紙葉類の搬送速度との最適な組み合わせが規定されている。例えば、処理モードが30K/hの場合、取出速度は比較的低速の3m/sであって搬送速度は比較的低速の3m/sである。また、処理モードが40K/hの場合、取出速度は比較的低速の3m/sであって搬送速度は比較的高速の3.6m/sである。処理モードが50K/hの場合、取出速度は比較的高速の3.8m/sであって搬送速度は比較的低速の3m/sである。処理モードが60K/hの場合、取出速度は比較的高速の3.8m/sであって搬送速度は比較的高速の3.6m/sである。」

ク「【0051】例えば、読取モードとして第3読取モードが指定され、処理モードとして60K/hが入力された場合、取出速度を3.8m/sに設定するとともに、搬送速度を3.6m/sに設定する。CPU100は、ステップST18において設定された取出速度の設定値を取出制御回路116に出力するとともに、ステップST19において設定された搬送速度の設定値を搬送制御回路118に出力する。」

(2)甲2技術
以上から、甲2には、次に示す「甲2技術」が記載されているといえる。

「搬送されている紙葉類からOCRのみで読み取りを行う第1読み取りモード、OCR及びBCRを組み合わせた読み取りを行う第2読取モード、BCRのみで読み取りを行う第3読取モードを備えた紙葉類処理装置であって、第1読取モードでは、処理モードの許容範囲は、30〜40K/hであり、第2読取モードでは、処理モードの許容範囲は、30〜50K/hであり、第3読取モードでは、処理モードの許容範囲は、30〜60K/hであり、処理モードが30K/hの場合、搬送速度は比較的低速の3m/sであり、処理モードが40K/hの場合、搬送速度は比較的高速の3.6m/sであり、処理モードが50K/hの場合、搬送速度は比較的低速の3m/sであり、処理モードが60K/hの場合、搬送速度は比較的高速の3.6m/sである紙葉類処理装置。」

3 甲3
(1)甲3の記載
甲3には、以下の記載がある。

ア「【0349】
バイアルIDステーション5000は、回転プラットフォーム5005、カメラシステム5010、光(図示せず)、およびパターン照合ソフトウエアを実行するプロセッサ(図示せず)を含む。例示的な方法では、ロボットはバイアル5015をプラットフォーム5005の中心に配置することができ、APASセルソフトウエアは動作制御ハードウエア5020に、プラットフォーム5005の回転を始めるように命令することができる。バイアル5015が回転するにつれ、カメラ5010はバイアルラベル5025の画像をとることができる。画像はパターン照合ソフトウエアに渡され、ソフトウエアはバイアルラベルの領域を、その薬物に対する予め規定され、訓練された画像の組と比較する。領域はそのバイアルラベルの任意の独特な特徴を含むことができるが、通常、薬物名、薬物製造者、および/または薬物コード(例えば、NDCまたはDIN)を含んでもよい。バイアル5015は1または複数の回転数で回転させてもよく、それに伴い、パターン照合ソフトウエアは重要なラベルフィールドの照合について各画像をチェックする。ソフトウエアにおける1つまたは複数のしきい値設定により、バイアル画像と1つまたは複数の訓練した、予め規定された画像との間の照合を格付けすることができる。格付けはしきい値に基づく合格または不合格スコアに対応することができる。パターン認識に合格するためには、1つまたは複数の規定されたフィールドに対し十分良好な一致を存在させることができる。好ましい態様では、1つのラベルにつき少なくとも2つの独特なパターンを使用して医療容器(例えば、バイアル、シリンジ、IVバッグ)を識別してもよい。APASセルはバイアル画像を保存してもよく、これにより、確実に、重要なフィールドが、バイアルのロット番号および有効期限と共に取り込まれる。ソフトウエアはその後、論理リンクを作成することができ、画像およびバイアルを使用する薬物オーダーを関連づけることができる。これにより、任意の薬物オーダーを処理するために使用されるバイアルの記録を監査するための情報を保存する能力が提供される。
【0350】
パターン照合ソフトウエアの追加の特徴は、画像中のバーコードの認識を提供することであってもよい。例示的な方法は、バイアルの1つまたは複数の画像の1つまたは複数の特徴についてのパターン照合を実行することを含んでもよい。パターン照合は、1つが入手可能であれば、バイアル画像の1つまたは複数からのバーコードを読み取ることと組み合わせてもよい。組み合わせにより、バイアル照合に対し追加のロバスト性測定を提供することができる。」

(2)甲3技術
以上から、甲3には、次に示す「甲3技術」が記載されているといえる。

「回転プラットフォーム上でバイアルを回転させ、バーコードを含んだバイアルラベルの画像をカメラで取得する際に、バイアルを複数の回転数で回転させることが可能なバイアルIDステーション。」

第5 当審の判断
1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「返品された注射薬の投入される背景が黒いトレイ」は、本件発明1の「薬品が載置される仕分トレイ」に相当する。
以下、同様に、「背景が黒いトレイ内の注射薬の姿勢や位置を画像として撮像するためのカメラ」は、「前記仕分トレイ内の薬品の状態を画像データとして取得するための識別カメラ」に、「カメラで撮像した画像に基づいて背景が黒いトレイから注射薬をピッキングしてローラーに搬送するピッキング部」は、「前記識別カメラが取得した画像データに基づいて前記仕分トレイから薬品を取り出して搬送する搬送部」に、「ピッキングされた注射薬をローラーで回転させながら注射薬上に表示されたバーコードおよび文字列を検出する」部は、「前記搬送部で搬送された前記薬品を載置し、回転させながら前記薬品上に表示された第1の識別コードおよび第2の識別コードを検出する判別部」に、「返品薬仕分け装置」は、「薬品仕分装置」に、それぞれ相当する。
また、甲1発明の返品薬仕分け装置は、「背景が黒いトレイ内の注射薬の姿勢や位置を画像として撮像するためのカメラ」、「カメラで撮像した画像に基づいて背景が黒いトレイから注射薬をピッキングしてローラーに搬送するピッキング部」、及び「ピッキングされた注射薬をローラーで回転させながら注射薬上に表示されたバーコードおよび文字列を検出する」部を制御する制御部を有していることは明らかであって、当該制御部は、本件発明1の「前記識別カメラ、前記搬送部、および前記判別部を制御する制御部」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲1発明は、次の一致点および相違点を有する。
<一致点>
「薬品が載置される仕分トレイと、
前記仕分トレイ内の薬品の状態を画像データとして取得するための識別カメラと、
前記識別カメラが取得した画像データに基づいて前記仕分トレイから薬品を取り出して搬送する搬送部、
前記搬送部で搬送された前記薬品を載置し、回転させながら前記薬品上に表示された第1の識別コードおよび第2の識別コードを検出する判別部、
前記識別カメラ、前記搬送部、および前記判別部を制御する制御部と、
を含む、
薬品仕分装置。」

<相違点>
本件発明1は、制御部が、第1の識別コードを検出する際の薬品の回転速度と第2の識別コードを検出する際の回転速度とを異ならせるのに対し、甲1発明では、そのような構成を有しない点で相違する。

(2)相違点についての検討
ア 甲1発明と甲2技術との組合せについて
まず、本件発明1は、明細書の[0022]−[0023]を参照すると、バーコードと使用期限など、異なる識別コードを別々に検出するものにおいて、識別コードの検出精度を向上させるために、第1の識別コードを検出する際の薬品の回転速度と第2の識別コードを検出する際の回転速度とを異ならせるものである。
次に、第4 1(1)キ、ク、ケの記載から、甲1発明は、注射薬をローラー上で回転させて、注射薬のラベルを1つのカメラで撮影して1つの画像を取得し、当該画像を処理することによりバーコードを読み取って注射薬の情報を取得し、その情報に応じて画像処理の方向を判断して、当該画像をOCR処理して文字列を取得するものであり、異なる識別記号を別々に検出するものではなく、両者を1度に検出するものであって、それ故に、ローラーの回転速度を異ならせる必要のないものである。

以上をふまえ、甲1発明に甲2技術を適用することについて考えると、甲2技術は、OCRのみで読み取りを行う第1読み取りモードとBCRのみで読み取りを行う第3読取モードにおいて、異なった搬送速度を設定し得るものであるから、2つの検出部(OCRとBCR)をそれぞれ個別に用いるものである。
そうすると、甲1発明は、1つのカメラで撮影した1つの画像からバーコードと文字列を検出ものであるから、2つの検出部をそれぞれ個別に用いる甲2技術を甲1発明に適用することはできない。

また、甲2技術は、OCR及びBCRを組み合わせた読み取りを行う第2読取モードで紙葉類を処理するものでもあるが、当該第2読取モードでは、OCRでの読取処理時とBCRでの読取処理時において搬送速度を変更するものではない。
したがって、甲1発明に対して、甲2技術におけるOCR及びBCRを採用したとしても、本件発明1の「前記制御部は、前記第1の識別コードを検出する際の前記薬品の回転速度と前記第2の識別コードを検出する際の回転速度とを異ならせる」という構成とはならない。

よって、上記相違点に係る本件発明1の構成は、甲1発明及び甲2技術に基いて、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。
したがって、上記相違点1ないし3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2技術に基いて、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。

イ 甲1発明と甲3技術との組合せについて
甲3技術は、バイアルラベルの画像をカメラで取得する際に、バイアルを複数の回転数で回転させることが可能なものであるが、甲1発明に対して甲3技術を採用しても、注射薬をローラー上で回転させる際に、複数の回転数で回転させるものにしかならず、バーコードを検出する際の注射薬の回転速度と、文字列を検出する際の回転速度を異ならせるものとはならない。
したがって、甲1発明に対して、甲3技術におけるバイアルラベルの画像をカメラで取得する際に、バイアルを複数の回転数で回転させる構成を採用したとしても、本件発明1の「前記制御部は、前記第1の識別コードを検出する際の前記薬品の回転速度と前記第2の識別コードを検出する際の回転速度とを異ならせる」ものとはならない。

よって、上記相違点に係る本件発明1の構成は、甲1発明及び甲3技術に基いて、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。
したがって、上記相違点1ないし3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲3技術に基いて、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。

(3)まとめ
以上より、本件発明1は、甲1発明及び甲2技術、又は甲1発明及び甲3技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 本件特許発明3ないし5について
本件発明3ないし5は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えたものである。
したがって、本件発明3ないし5は、本件発明1について検討したのと同様の理由により甲1発明及び甲2技術、又は甲1発明及び甲3技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1及び請求項3ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1及び請求項3ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2022-07-28 
出願番号 P2020-154210
審決分類 P 1 652・ 121- Y (A61J)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 村上 聡
特許庁審判官 松田 長親
倉橋 紀夫
登録日 2021-10-01 
登録番号 6953596
権利者 PHCホールディングス株式会社
発明の名称 薬品仕分装置  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ