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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A63F
管理番号 1387533
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-08-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-04-04 
確定日 2022-07-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第6943621号発明「遊技機」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6943621号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6943621号の請求項1に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願(以下「本件特許出願」という。)は、平成29年5月24日に出願した特願2017−102268であって、令和3年9月13日にその特許権の設定登録がされ、同年10月6日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許に対し、令和4年4月4日に特許異議申立人日本電動式遊技機特許株式会社(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされた。


第2 特許異議の申立について

1 本件発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである(1.〜11.の符号は、特許異議申立書において、申立人が付した分説の符号に倣って当合議体が付した。)。

本件特許発明
「【請求項1】
1. 遊技を行うことが可能な遊技機であって、
2. 第1数値を表示する第1表示手段と、
3. 第2数値を表示する第2表示手段と、
4. 前記第1表示手段に表示される前記第1数値と前記第2表示手段に表示される前記第2数値を更新させる更新制御を実行可能な更新手段と、
5. 発光手段と、
6. 前記更新制御に応じた更新音を出力可能な音出力手段と、を備え、
7. 前記更新手段は、
7−1. 前記第1表示手段に表示される前記第1数値を増加させる第1増加更新制御と、
7−2. 前記第2表示手段に表示される前記第2数値を増加させる第2増加更新制御と、
7−3. 前記第1表示手段に表示される前記第1数値を減少させる第1減少更新制御と、
7−4. 前記第2表示手段に表示される前記第2数値を減少させる第2減少更新制御と、を実行可能であり、
8. 特定条件が成立したときに、前記第1増加更新制御と前記第2増加更新制御とを、同一のタイミングで開始可能であり、
9. 前記発光手段は、
9−1. 前記第2増加更新制御が実行されるときに、特定光量で発光し、
9−2. 前記第2減少更新制御が実行されるときに、発光しない、または前記特定光量よりも低い光量で発光し、
10. 前記音出力手段は、
10―1. 前記第2増加更新制御が実行されるときに、特定音量の更新音を出力し、
10−2. 前記第2減少更新制御が実行されるときに、前記特定音量の更新音を出力せず、前記特定音量よりも小さい音量の更新音を出力する、
11. 遊技機。」


2 特許異議申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、本件特許の特許掲載公報である甲第1号証を提出し、本件特許に対し、次の理由を申し立てている。

(1)理由1(明確性
本件特許発明は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反し、特許法第113条第4号の規定により取り消されるべきである。
申立人が主張する具体的な理由は、概略、次のア、イのとおりである。
ア 主張ア(出発数値としてAとBとの2つの数値があった場合、どちらが第1数値であり、どちらが第2数値であるのかということが全く不明である旨の主張)
(ア)「発光手段」及び「音出力手段」は、分説9.、分説9−1.、分説9−2.、分説10.、分説10−1.、分説10−2.の制御が行われ、
(イ)それ以前の、「第1数値」に関連する「第1表示手段」等の構成は分説2.、分説4.、分説5.、分説6.、分説7.、分説7−1.、分説7−3.、分説8.であり、
(ウ)また、「第2数値」に関連する「第2表示手段」等の構成は分説3.、分説4.、分説5.、分説6.、分説7.、分説7−2.、分説7−4.、分説8.であるところ、
(エ)これだけの定義では、出発数値としてAとBとの2つの数値があった場合、どちらが第1数値であり、どちらが第2数値であるのかということが全く不明であり、分説9.、分説9−1.、分説9−2.、分説10.、分説10−1.、分説10−2.とある、発光手段及び音出力手段の制御が行われる第2数値の増減が、出発数値としてAとBのいずれかを根拠とするものか不明である。
(オ)したがって、「特許を受けようとする発明が明確であること」を充足せず、特許法第36条第6項第2号に違反している。

イ 主張イ(発明の詳細な説明を考慮しても、第1数値と第2数値との特定が不明であり、発明全体が理解できない旨の主張)
(ア)加えて、平成20年(行ケ)第10107号判決を引用し、明確性要件の判断は、特許請求の範囲の記載のみならず、発明の詳細な説明も考慮することとなっている。特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術的常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるかという観点から判断されるべきである。
(イ)明細書から、「第1数値」及び「第2数値」について、両者の定義あるいは両者の具体例を検索すると、下記i)〜iv)のとおりである。
i)「第1数値(たとえば、図6(C)に示すBET数(サブ))と第2数値(たとえば、図6(D)に示すAT残り枚数(サブ))とを表示する表示手段(たとえば、液晶表示器51およびBETLEDなど)と、(0007)」
ここでは、「第1数値」「第1表示手段」と「第2数値」「第2表示手段」とが、「BET数(サブ)」「液晶表示器51」と「AT残り枚数(サブ)」「BETLED」とされている。
ii)「図3では、一の更新契機(8枚役の導出)により、増加更新されるタイミングがそれぞれ異なる2つの数値を「第1数値」および「第2数値」と称する。 図3の例では、第1数値は、クレジット数(メイン)Aであり、第2数値は、獲得枚数(サブ)Eおよびクレジット数(サブ)Fであるとして説明した。(0090)」
ここでは、「第1数値」と「第2数値」とが、「クレジット数(メイン)A」と「獲得枚数(サブ)Eおよびクレジット数(サブ)F」とされている。
iii)「たとえば、参照符号Pに示す例では、第1数値は、BET数(メイン)Cとなり、第2数値は、BET数(サブ)Gとなる。(0092)」
ここでは、「第1数値」と「第2数値」とが、「BET数(メイン)C」と 「BET数(サブ)G」とされている。
iv)「また、参照符号Qに示す例では、第1数値は、クレジット数(メイン)Aおよび払出枚数(メイン)Bである。また、第2数値は、獲得枚数(サブ)E、クレジット数(サブ)F、および上乗せ当選したときにおいてはAT残り枚数(サブ)Dである。(0093)」
ここでは、「第1数値」と「第2数値」とが、「クレジット数(メイン)Aおよび払出枚数(メイン)B」と「獲得枚数(サブ)E、クレジット数(サブ)F、および上乗せ当選したときにおいてはAT残り枚数(サブ)D」とされている。
v)i)〜iv)のいずれも、第1数値と第2数値との定義はない。
また、「BET数サブ」は、「0007」の記載では「第1数値」とされ、「0090」の記載では「第2数値」とされている。
このように、発明の詳細な説明を考慮しても、第1数値と第2数値との特定が不明であり、発明全体が理解できない。
従って、「特許を受けようとする発明が明確であること」を充足せず、特許法第36条第6項第2号の規定に違反している。

(2)理由2(サポート要件)
本件特許発明は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反し、特許法第113条第4号の規定により取り消されるべきである。
申立人が主張する具体的な理由は、概略、本件特許の明細書における「第1数値」及び「第2数値」の組合せとして、主張(1)イの理由に用いた上記i)〜iv)と同じ組合せを提示して、明細書を考慮しても、第1数値と第2数値との特定が記載されておらず、加えて、主張(1)イv)と同じ段落を引用し、特に「BET数サブ」については、第1数値と第2数値とのいずれであるのかが記載されておらず、特許請求の範囲に記載された発明が、明細書においてサポートされていないから、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」を充足せず、特許法第36条第6項第1号に違反しているというものである。


第3 当合議体の判断

申立人は、本件特許発明における「第1数値」及び「第2数値」に関わる記載に対し、特許法第36条第6項第2号明確性)に違反し、特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に違反している旨の主張をしているところ、当該「第1数値」及び「第2数値」という記載について、明確性及びサポート要件を満たしているか否かについて検討する。

明確性について
(1)本件特許発明の「第1数値」及び「第2数値」に関わる発明特定事項
本件特許発明では、「第1数値」及び「第2数値」について、次の事項が特定されている。
ア 「第1数値」について、
(ア)分説2.「第1数値を表示する第1表示手段と、」
(イ)分説4.「前記第1表示手段に表示される前記第1数値」「を更新させる更新制御を実行可能な更新手段と、」
を備え、
(ウ)分説7.「前記更新手段は、」
分説7−1.「前記第1表示手段に表示される前記第1数値を増加させる第1増加更新制御と、」
分説7−3.「前記第1表示手段に表示される前記第1数値を減少させる第1減少更新制御と、」
を実行可能であることが特定され、

イ 「第2数値」について、
分説3.「第2数値を表示する第2表示手段と、」
(イ)分説4.「前記第2表示手段に表示される前記第2数値を更新させる更新制御を実行可能な更新手段と、」
を備え、
分説7.「前記更新手段は、」
分説7−2.「前記第2表示手段に表示される前記第2数値を増加させる第2増加更新制御と」
分説7−4.「前記第2表示手段に表示される前記第2数値を減少させる第2減少更新制御と、」
を実行可能であることが特定され、

ウ 分説7−1.で特定される「第1数値」に関わる「第1増加更新制御」及び分説7−2.で特定される「第2数値」に関わる「第2増加更新制御」について、
(ア)分説8.「特定条件が成立したときに、前記第1増加更新制御と前記第2増加更新制御とを、同一のタイミングで開始可能であり、」と特定され、

エ さらに、「第2数値」に関わる「発光手段」による発光及び「音出力手段」による音の出力について、
(ア)分説9.「前記発光手段は、」
分説9−1.「前記第2増加更新制御が実行されるときに、特定光量で発光し、」
分説9−2.「前記第2減少更新制御が実行されるときに、発光しない、または前記特定光量よりも低い光量で発光し、」

(イ)分説10.「前記音出力手段は、」
分説10−1.「前記第2増加更新制御が実行されるときに、特定音量の更新音を出力し、」
分説10−2.「前記第2減少更新制御が実行されるときに、前記特定音量の更新音を出力せず、前記特定音量よりも小さい音量の更新音を出力する、」ことが特定されている。

オ 小括
(ア)そうすると、上記アにより、「第1数値」は、「更新手段」により表示される数値を「増加させる第1増加更新制御と」、表示される数値を「減少させる第1減少更新制御と」からなる「更新制御」が実行されて「第1表示手段」に表示されることが特定されるものである。

(イ)上記イにより、「第2数値」は、「更新手段」により表示される数値を「増加させる第2増加更新制御と」、表示される数値を「減少させる第2減少更新制御と」からなる「更新制御」が実行されて「第2表示手段」に表示されることが特定されるものである。

(ウ)そして、上記ウにより、「第1表示手段」に表示される「第1数値」と「第2表示手段」に表示される「第2数値」のそれぞれの数値を増加させる「第1増加更新制御」及び「第2増加更新制御」について、「特定条件が成立したときに、前記第1増加更新制御と前記第2増加更新制御とを、同一のタイミングで開始可能であり、」と特定されるものである。

(エ)さらに、上記エにより、「第2数値」に関わる「発光手段」による発光及び「音出力手段」による音の出力について、「前記発光手段は、」「前記第2増加更新制御が実行されるときに、特定光量で発光し、前記第2減少更新制御が実行されるときに、発光しない、または前記特定光量よりも低い光量で発光し、」「前記音出力手段は、」「前記第2増加更新制御が実行されるときに、特定音量の更新音を出力し、前記第2減少更新制御が実行されるときに、前記特定音量の更新音を出力せず、前記特定音量よりも小さい音量の更新音を出力する、」と特定されている。

(2)上記(1)オより、本件特許について、請求項1には、
(i)「更新手段」により表示される数値を「増加させる第1増加更新制御と」、表示される数値を「減少させる第1減少更新制御と」からなる「更新制御」が実行されて「第1表示手段」に表示される「第1数値」と、
「更新手段」により表示される数値を「増加させる第2増加更新制御と」、表示される数値を「減少させる第2減少更新制御と」からなる「更新制御」が実行されて「第2表示手段」に表示される「第2数値」という2つの数値を表示すること、
(ii)「第1数値」と「第2数値」のそれぞれの数値を増加させる「第1増加更新制御」及び「第2増加更新制御」は、「特定条件が成立したときに、前記第1増加更新制御と前記第2増加更新制御とを、同一のタイミングで開始可能であ」ること、
(iii)さらに、「第2数値」については、「前記発光手段は、」「前記第2増加更新制御が実行されるときに、特定光量で発光し、」「前記第2減少更新制御が実行されるときに、発光しない、または前記特定光量よりも低い光量で発光し、」「前記音出力手段は、」「前記第2増加更新制御が実行されるときに、特定音量の更新音を出力し、」「前記第2減少更新制御が実行されるときに、前記特定音量の更新音を出力せず、前記特定音量よりも小さい音量の更新音を出力する、」ことが特定されている。

(3)つまり、本件特許の「第1数値」及び「第2数値」は、表示される数値が増加又は減少する2つの数値がそれぞれ表示手段に表示され、「特定条件が成立したときに」、2つの数値を増加させる増加更新制御を「同一のタイミングで開始可能であ」って、さらに、「第2数値」については、「前記発光手段は、」「前記第2増加更新制御が実行されるときに、特定光量で発光し、」「前記第2減少更新制御が実行されるときに、発光しない、または前記特定光量よりも低い光量で発光し、」、また、「前記音出力手段は、」「前記第2増加更新制御が実行されるときに、特定音量の更新音を出力し、」「前記第2減少更新制御が実行されるときに、前記特定音量の更新音を出力せず、前記特定音量よりも小さい音量の更新音を出力する」ものであると理解することができる。
してみれば、本件特許の請求項1には、「第1数値」及び「第2数値」の定義が記載され、本件特許発明は明確である。

2 サポート要件について
(1) 本件特許の明細書の記載事項
本件特許の明細書には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当合議体が付した。)。
ア 「【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に係るスロットマシンを実施するための形態を以下に説明する。
[第1実施形態]
第1実施形態では、本発明がスロットマシンに適用された場合の一例を説明する。・・・
・・・
【0026】
前面扉1bには、報知手段の一例として、遊技に関する情報を報知する遊技用表示部13が設けられている。・・・
・・・
【0029】
メイン制御部41からは、遊技用表示部13に含まれる各種表示器を点灯制御あるいは表示制御するための制御信号が遊技用表示部13に出力される。遊技用表示部13に含まれる各種表示器は、メイン制御部41からの制御信号に基づき、点灯あるいは所定情報を表示する。
・・・
【0031】
サブ制御部91からは、液晶表示器51およびスピーカ53,54のそれぞれを制御するための制御信号が液晶表示器51およびスピーカ53,54のそれぞれに出力される。液晶表示器51は、サブ制御部91からの制御信号に基づき、所定情報を表示する。また、スピーカ53,54は、サブ制御部91からの制御信号に基づき、音声を出力する。」

イ 「【0048】
[各種表示部]
図2は、各種表示部を説明するための図である。図2に示した各種表示部には数値が表示されており、表示されている数値が増加または減少されたことに基づいて数値が更新される。図2(a)は、メイン側(メイン制御部41)の制御により表示される数値の一例を示したものである。図2(b)は、サブ側(サブ制御部91)の制御により表示される数値の一例を示したものである。
・・・
【0052】
次に、図2(b)について説明する。図2(b)には、AT中において、サブ制御部91により液晶表示器51に表示される数値の一例を示す。AT中においては、図2(b)に示すように、液晶表示器51の左上の領域には、AT中のAT残り枚数(サブ)Dが表示される。また、前述したように、AT残り枚数(サブ)Dが0に到達したときに、ATは終了する。したがって、AT残り枚数(サブ)Dが上乗せされることにより増加すると遊技者にとって有利となる。また、AT中においては、液晶表示器51の右上の領域には、AT中のメダルの獲得枚数(サブ)Eが表示される。本実施形態では、AT中のメダルの獲得枚数(サブ)Eとは、AT中のメダルの純増枚数をいう。
【0053】
液晶表示器51の左下領域には、クレジット数が表示される。以下、このクレジット数を、クレジット数(サブ)Fという。このクレジット数(サブ)Fで表示されるクレジット数は、クレジット数(メイン)Aで表示されるクレジット数と同一である。
・・・
【0055】
次に、これらA〜Gの7つの数値の増加更新および減少更新について説明する。・・・
【0056】
次に、クレジット数(メイン)Aおよびクレジット数(サブ)Fの増加更新について説明する。クレジット数(メイン)Aおよびクレジット数(サブ)Fは、たとえば、小役が入賞したときに、該小役に対応するメダル払出枚数分、増加更新される。また、クレジット数(メイン)Aおよびクレジット数(サブ)Fは、遊技者によりメダル投入部4からメダル投入されたときに、該投入されたメダル数分、増加更新される。また、クレジット数(メイン)Aおよびクレジット数(サブ)Fは、たとえば、BET操作(本実施形態では、MAXBETスイッチ6への操作)が実行されることにより、設定された賭数分、減少更新される。本実施形態では、MAXBETスイッチ6の操作により、一度に3枚の賭数が設定されることから、3枚分、減少更新される。
・・・
【0067】
次に、獲得枚数(サブ)Eの減少更新について説明する。リプレイとは異なる表示結果が導出された場合には、該表示結果が導出されたゲームの次のゲームを開始するためのMAXBETスイッチ6への操作が実行され、その後、該次のゲームを開始するためのレバーオン操作が実行されたときに、1ゲームに必要な賭数(本実施形態では、3枚)分、獲得枚数(サブ)Eは減少更新される。たとえば、獲得枚数(サブ)Eとして100枚が表示されているときにおいて、MAXBETスイッチ6への操作が実行されたときには、100枚から97枚に減少更新される。次に、獲得枚数(サブ)Eの増加更新について説明する。たとえば、小役を入賞させる表示結果が導出されたときに、獲得枚数(サブ)Eは、該入賞した小役に対応するメダル払出枚数分、増加更新される。たとえば、獲得枚数(サブ)Eとして97枚が表示されているときにおいて、8枚役が入賞したときには、獲得枚数(サブ)Eは、105枚に増加更新される。このように、獲得枚数(サブ)Eは、1ゲームでの減少更新および増加更新により、純増枚数分、更新されることになる。
【0068】
[数値を増加するときの更新開始タイミングなど]
図3は、数値を増加するときの更新開始タイミングなどを説明するための図である。図3では、該数値とは、クレジット数(メイン)A、獲得枚数(サブ)E、クレジット数(サブ)Fとする。また、本実施形態では、これら3つの数値の増加更新は、所定の更新契機(特定条件)が成立したときに開始される。図3の例では、該更新契機は、小役(図3の例では8枚役)が入賞することにより成立する契機とする。なお、8枚役が入賞することを、8枚役が導出するともいう。
【0069】
図3(A)に示すように、タイミングT1で8枚役が導出すると、入賞判定処理が実行される。タイミングT2で入賞判定処理が終了すると、図3(B)に示すように、メイン制御部41はサブ制御部91に対して払出開始コマンドを送信する。払出開始コマンドは、払出処理が開始されたことをサブ制御部91が特定可能なコマンドである。サブ制御部91が払出開始コマンドを受信したタイミングT3で、該サブ制御部91は払出処理が開始されたことを特定する。その後、払出処理が終了したタイミングT4でゲーム終了時処理が実行される。
・・・
【0071】
また、図3(D)および図3(E)に示すように、タイミングT3で、サブ制御部91により、クレジット数(サブ)Fの増加更新、および獲得枚数(サブ)Eの増加更新が実行される。クレジット数(サブ)Fおよび獲得枚数(サブ)Eは8枚分、増加更新される。また、本実施形態では、クレジット数(メイン)Aの増加更新の期間と、クレジット数(サブ)Fの増加更新の期間と、および獲得枚数(サブ)Eの増加更新の期間とは全て同一であるとする。また、クレジット数(サブ)Fの増加更新、および獲得枚数(サブ)Eの増加更新が終了するタイミングはT5とする。また、タイミングT2からタイミングT3までの期間と、タイミングT4からタイミングT5までの期間とは同一である。
【0072】
図3に示すように、1の更新契機が成立したとき(たとえば、8枚役が導出されたとき)には、クレジット数(メイン)Aの増加更新はタイミングT2で開始され、クレジット数(サブ)Fの増加更新、および獲得枚数(サブ)EはタイミングT3で開始される。」

ウ 図3





エ 「【0095】
[本実施形態の効果]・・・
【0096】
(1)図3で説明した3つの数値、つまり、クレジット数(メイン)A、獲得枚数(サブ)E、クレジット数(サブ)Fそれぞれが、増加更新されるということは、遊技者にとって有利な(遊技者にとって嬉しい)更新である。以下では、このような更新を、有利更新ともいう。・・・
・・・
【0100】
(3) また、本実施形態では、図3および図6に示すように、一の契機(本実施形態では、8枚役の入賞)の成立により、有利更新と不利更新との双方が実行される。したがって、該一の契機において多様な更新制御を実行することができる。また、図3および図6に示すように、一のタイミング(本実施形態では、サブ制御部91が払出コマンドを受信したタイミング)で、クレジット数(サブ)Fおよび獲得枚数(サブ)Eが増加更新するとともに、BET数(サブ)GおよびAT残り枚数(サブ)Dが減少更新する。したがって、該一のタイミングにおいて多様な更新制御を実行することができる。
【0101】
(4) また、図3および図6で説明したように、増加更新制御および減少更新制御のいずれであっても、メイン制御部41により数値を更新するタイミングと、サブ制御部91により数値を更新するタイミングとを異ならせることができる。したがって、メイン制御部41の更新制御と、サブ制御部91の更新制御とを切り分けることができることから、メイン制御部41とサブ制御部91との設計の自由度を高めることができる。また、増加更新制御および減少更新制御のいずれであっても、サブ制御部91により更新される2つの数値の更新タイミングは同一となる。したがって、サブ制御部91により更新される2つの数値の更新タイミングが異なるものと比較して、サブ制御部91の更新制御負担を軽減できる。」

オ 「【0106】
(7) また、本実施形態では、有利更新が行われるときはスピーカ53,54から音声が出力される。このような音声(たとえば、入賞音、払出音など)が出力されることで、遊技者に不利更新に比べて有利更新を強く印象付けることができる。なお、図3および図6では、1の契機で有利更新および不利更新の双方が実行される場合を説明した。この場合には、該有利更新を契機とする音声を出力するようにしてもよい。また、該不利更新が実行されていることから、該音声を出力しないようにしてもよい。一方、有利更新が実行されずに不利更新が行われるときは音声は出力されない。これにより、不利更新が実行されたことを遊技者に目立たせなくすることができる。」

カ 「【0107】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態について説明する。上述した第1実施形態においては、図3〜図9に示すように、増加更新するときでも減少更新するときでも、いずれにおいても更新の途中経過を表示していた。たとえば、図9(A)に示すように、クレジット数(メイン)Aにおいて、0から8に数値を増加更新する場合、「0」→「1」→「2」→・・・「8」といったように、「0」から「8」に更新するまでの途中経過である「1」や「2」などの数値が一旦表示されていた。また、図9(B)に示すように、クレジット数(メイン)Aにおいて、11から8に数値を減少更新する場合、「11」→「10」→「9」→「8」といったように、「11」から「8」に更新するまでの途中経過である「10」や「9」などの数値が一旦表示されていた。これに対して、第2実施形態においては、不利更新が行われるときの数値の更新については、途中経過を表示することなく行われる場合について説明する。また、第1実施形態と同一の構成・処理については省略し、異なる構成・処理について説明する。
【0108】
図11は、第2実施形態における数値の更新態様を説明するための図である。図11(A)は、クレジット数(メイン)Aの減少更新(不利更新)の更新態様を示し、図11(B)は、クレジット数(メイン)Aの増加更新(有利更新)の更新態様を示す。また、図11(C)は、獲得枚数(サブ)Eの減少更新(不利更新)の更新態様を示し、図11(D)は、獲得枚数(サブ)Eの増加更新(有利更新)の更新態様を示す。なお、図11(B)の更新態様は、図4(A)の更新態様と同一である。また、図11(D)の更新態様は、図4(B)の更新態様と同一である。」

キ 「【0154】
[更新の強調について]
上記実施形態において、有利更新が行われるときはスピーカ53,54から音声が出力されるのに対して、不利更新が行われるときは音声は出力されないようにすることで、有利更新を強調したが、有利更新を不利更新に比べて強く印象付ける方法はこれに限られない。
【0155】
たとえば、メダルが増えるような有利更新が行われるときも、メダルが減るような不利更新が行われるときもスピーカ53,54から音声が出力されるものの、有利更新のときの方が不利更新のときに比べて音量を大きくしてもよい。このようにすることでも、遊技者に対して、不利更新に比べて有利更新を強く印象付けることができる。また、有利更新が行われるときには、不利更新が行われるときよりも、聞き取り易い音を出力するようにしてもよい。
【0156】
また、有利更新が行われるときには、遊技機に備えられたLEDを点灯させるのに対して、不利更新が行われるときには点灯させない、或いは光量を有利更新が行われるときに比べて下げて点灯させるようにしてもよい。」

(2)本件特許発明に対応する実施例について
明確性について検討した上記1(1)オより、本件特許発明の分説8.において、「第1表示手段」に表示される「第1数値」と「第2表示手段」に表示される「第2数値」のそれぞれの数値を増加させる「第1増加更新制御」及び「第2増加更新制御」について、「特定条件が成立したときに、前記第1増加更新制御と前記第2増加更新制御とを、同一のタイミングで開始可能であり、」と特定されるものである。そこで、本件特許の明細書において、増加更新制御が同一のタイミングで開始されている2つの数値について検討すると、上記ア(イ)に摘記した【0072】に、「図3に示すように、1の更新契機が成立したとき(たとえば、8枚役が導出されたとき)には、クレジット数(メイン)Aの増加更新はタイミングT2で開始され、クレジット数(サブ)Fの増加更新、および獲得枚数(サブ)EはタイミングT3で開始される。」と記載されている。つまり、本件特許の明細書には、8枚役が導出されたという更新契機が成立したときには、クレジット数(サブ)Fの増加更新、および獲得枚数(サブ)Eの増加更新が、タイミングT3という同一のタイミングで開始されることが記載されている。

そうすると、本件特許発明の分説8.の「特定条件が成立したときに」に対応する実施例は、「8枚役が導出されたとき」であり、同分説8.の「前記第1増加更新制御」に対応する実施例は、「クレジット数(サブ)Fの増加更新」であり、同分説8.の「前記第2増加更新制御」に対応する実施例は、「獲得枚数(サブ)E」の増加更新」であり、同分説8.の「同一のタイミングで開始可能であ」ることに対応する実施例は、「タイミングT3で開始される」ことである。
してみれば、本件特許発明の分説8.に対応する事項は、本件特許の明細書に記載されている。

イ 次に、上記アの検討を受け、本件特許発明の「前記第1増加更新制御」に対応する実施例が、「クレジット数(サブ)Fの増加更新」であるとすると、本件特許発明の分説2.の「第1数値」、「第1表示手段」に対応する実施例はそれぞれ、「クレジット数(サブ)」、「クレジット数が表示される」「液晶表示器51の左下領域」(【0053】)である。
そして、本件特許の明細書には、「次に、クレジット数(メイン)Aおよびクレジット数(サブ)Fの増加更新について説明する。クレジット数(メイン)Aおよびクレジット数(サブ)Fは、たとえば、小役が入賞したときに、該小役に対応するメダル払出枚数分、増加更新される。また、クレジット数(メイン)Aおよびクレジット数(サブ)Fは、遊技者によりメダル投入部4からメダル投入されたときに、該投入されたメダル数分、増加更新される。また、クレジット数(メイン)Aおよびクレジット数(サブ)Fは、たとえば、BET操作(本実施形態では、MAXBETスイッチ6への操作)が実行されることにより、設定された賭数分、減少更新される。本実施形態では、MAXBETスイッチ6の操作により、一度に3枚の賭数が設定されることから、3枚分、減少更新される。」(【0056】)と記載されている。この記載は、「クレジット数(サブ)F」が、「増加更新」及び「減少更新」されることを表しているから、本件特許の明細書には、本件特許発明の分説2.「第1数値を表示する第1表示手段と、」、分説4.「前記第1表示手段に表示される前記第1数値」「を更新させる更新制御を実行可能な更新手段と、」を備え、分説7.「前記更新手段は、」、分説7−1.「前記第1表示手段に表示される前記第1数値を増加させる第1増加更新制御と、」、分説7−3.「前記第1表示手段に表示される前記第1数値を減少させる第1減少更新制御と、」を実行可能であることに対応する実施例が記載されている。

ウ 上記イと同様に、本件特許発明の「前記第2増加更新制御」に対応する実施例が、「獲得枚数(サブ)E」の増加更新」であるとすると、本件特許発明の分説3.の「第2数値」、「第2表示手段」に対応する実施例はそれぞれ、「獲得枚数(サブ)E」、「AT中のメダルの純増枚数」が表示される「液晶表示器51の右上の領域」(【0052】)である。
そして、本件特許の明細書には、「次に、獲得枚数(サブ)Eの減少更新について説明する。リプレイとは異なる表示結果が導出された場合には、該表示結果が導出されたゲームの次のゲームを開始するためのMAXBETスイッチ6への操作が実行され、その後、該次のゲームを開始するためのレバーオン操作が実行されたときに、1ゲームに必要な賭数(本実施形態では、3枚)分、獲得枚数(サブ)Eは減少更新される。たとえば、獲得枚数(サブ)Eとして100枚が表示されているときにおいて、MAXBETスイッチ6への操作が実行されたときには、100枚から97枚に減少更新される。次に、獲得枚数(サブ)Eの増加更新について説明する。たとえば、小役を入賞させる表示結果が導出されたときに、獲得枚数(サブ)Eは、該入賞した小役に対応するメダル払出枚数分、増加更新される。たとえば、獲得枚数(サブ)Eとして97枚が表示されているときにおいて、8枚役が入賞したときには、獲得枚数(サブ)Eは、105枚に増加更新される。このように、獲得枚数(サブ)Eは、1ゲームでの減少更新および増加更新により、純増枚数分、更新されることになる。」(【0067】)と記載されている。この記載は、「獲得枚数(サブ)E」が、「増加更新」及び「減少更新」されることを表しているから、本件特許の明細書には、本件特許発明の分説3.「第2数値を表示する第2表示手段と、」、分説4.「前記第2表示手段に表示される前記第2数値を更新させる更新制御を実行可能な更新手段と、」を備え、分説7.「前記更新手段は、」、分説7−2.「前記第2表示手段に表示される前記第2数値を増加させる第2増加更新制御と」、分説7−4.「前記第2表示手段に表示される前記第2数値を減少させる第2減少更新制御と、」を実行可能であることに対応する実施例が記載されている。

エ さらに、「増加更新」及び「減少更新」される「獲得枚数(サブ)E」は、上記のとおり、「獲得枚数(サブ)Eとして97枚が表示されているときにおいて、8枚役が入賞したときには、獲得枚数(サブ)Eは、105枚に増加更新される。」(【0067】)ものであって、「獲得枚数(サブ)E、クレジット数(サブ)Fそれぞれが、増加更新されるということは、遊技者にとって有利な(遊技者にとって嬉しい)更新である。以下では、このような更新を、有利更新ともいう。」(【0096】)という記載、及び、「また、図11(C)は、獲得枚数(サブ)Eの減少更新(不利更新)の更新態様を示し、図11(D)は、獲得枚数(サブ)Eの増加更新(有利更新)の更新態様を示す。」(【0108】)という記載から、「獲得枚数(サブ)E」の「増加更新」は「有利更新」であり、同「減少更新」は「不利更新」である。それを踏まえ、本件特許の明細書の「また、有利更新が行われるときには、遊技機に備えられたLEDを点灯させるのに対して、不利更新が行われるときには点灯させない、或いは光量を有利更新が行われるときに比べて下げて点灯させるようにしてもよい。」(【0156】)との記載から、「獲得枚数(サブ)E」の「増加更新」が行われるときには、遊技機に備えられたLEDを点灯させるのに対して、「減少更新」が行われるときには点灯させない、或いは光量を有利更新が行われるときに比べて下げて点灯させるようにすることが記載されているといえる。
してみれば、本件特許の明細書には、本件特許発明の「第2数値」に関わる「発光手段」による発光についての分説9.「前記発光手段は、」、分説9−1.「前記第2増加更新制御が実行されるときに、特定光量で発光し、」、分説9−2.「前記第2減少更新制御が実行されるときに、発光しない、または前記特定光量よりも低い光量で発光」することに対応する実施例が記載されているといえる。

オ さらに、「第2数値」に関わる「音出力手段」による音の出力について、上の検討を踏まえ、本件特許の明細書の「本実施形態では、有利更新が行われるときはスピーカ53,54から音声が出力される。」(【0106】)、「たとえば、メダルが増えるような有利更新が行われるときも、メダルが減るような不利更新が行われるときもスピーカ53,54から音声が出力されるものの、有利更新のときの方が不利更新のときに比べて音量を大きくしてもよい。」(【0155】)との記載から、「獲得枚数(サブ)E」の「増加更新」が行われるときもスピーカ53,54から音声が出力されるものの、「増加更新」のときの方が「減少更新」のときに比べて音量を大きくすることが記載されているといえる。
してみれば、本件特許の明細書には、本件特許発明の分説10.「前記音出力手段は、」、分説10−1.「前記第2増加更新制御が実行されるときに、特定音量の更新音を出力し、」、分説10−2.「前記第2減少更新制御が実行されるときに、前記特定音量の更新音を出力せず、前記特定音量よりも小さい音量の更新音を出力する、」ことに対応する実施例が記載されているといえる。

カ 実施形態として挙げられているものは「スロットマシン」であるから、本件特許の明細書には、本件特許発明の分説1.「遊技を行うことが可能な遊技機であって、」、分説11.「遊技機」に対応する実施例が記載されているといえる。

キ そして、本件特許発明の作用効果について検討する。
本件特許発明の「第1数値」、「第1表示手段」に対応する実施例はそれぞれ、「クレジット数(サブ)」、「クレジット数が表示される」「液晶表示器51の左下領域」であり、本件特許発明の「第2数値」、「第2表示手段」に対応する実施例はそれぞれ、「獲得枚数(サブ)E」、「AT中のメダルの純増枚数」が表示される「液晶表示器51の右上の領域」である。
本件特許の明細書の【0031】の記載から、「液晶表示器51は、サブ制御部91からの制御信号に基づき、所定情報を表示する。」ところ、本件特許発明の「第1表示手段」と「第2表示手段」のいすれも、サブ制御部91によりその表示制御がなされるといえる。
そして、本件特許発明は、分説8,「特定条件が成立したときに、前記第1増加更新制御と前記第2増加更新制御とを、同一のタイミングで開始可能であり、」という構成を備えることにより、「また、増加更新制御および減少更新制御のいずれであっても、サブ制御部91により更新される2つの数値の更新タイミングは同一となる。したがって、サブ制御部91により更新される2つの数値の更新タイミングが異なるものと比較して、サブ制御部91の更新制御負担を軽減できる。」(【0101】)という作用効果を奏するから、本件特許発明の実施例のみならず、その作用効果も、本件特許の明細書に記載されていると認められる。

(3)したがって、本件特許発明は、本件特許の明細書に記載されたものである。

3 請求人の主張について
(1)申立書において、請求人は、次のア〜ウの主張をしている。
ア 主張ア(出発数値としてAとBとの2つの数値があった場合、どちらが第1数値であり、どちらが第2数値であるのかということが全く不明である旨の主張)
(ア)「発光手段」及び「音出力手段」は、分説9.、分説9−1.、分説9−2.、分説10.、分説10−1.、分説10−2.の制御が行われ、
(イ) 「第1数値」に関連する「第1表示手段」等の構成は分説2.、分説4.、分説5.、分説6.、分説7.、分説7−1.、分説7−3.、分説8.であり、
(ウ)また、「第2数値」に関連する「第2表示手段」等の構成は分説3.、分説4.、分説5.、分説6.、分説7.、分説7−2.、分説7−4.、分説8.であるところ、
(エ)これだけの定義では、出発数値としてAとBとの2つの数値があった場合、どちらが第1数値であり、どちらが第2数値であるのかということが全く不明である旨、主張している。

しかし、上記(ア)の主張について、上記の各分説は、「第2数値」に関わる「発光手段」による発光及び「音出力手段」による音の出力についての特定をなすものである。そして、「第2数値」は、上記の各分説により特定される構成を含む点で、「第1数値」と区別することができるから、上記(ア)〜(エ)の主張は失当である。

してみれば、本件特許発明における「第1数値」及び「第2数値」について、上記1(2)i)〜iii)に示した特定がなされ、同1(3)に判断を示したとおり、本件特許発明は明確であると認められる。


イ 主張イ(発明の詳細な説明を考慮しても、第1数値と第2数値との特定が不明であり、発明全体が理解できない旨の主張)
加えて、平成20年(行ケ)第10107号判決を引用したうえで、発明の詳細な説明を考慮しても、第1数値と第2数値との特定が不明であり、発明全体が理解できない旨主張する。
申立人は、本件特許の明細書において、「第1数値」及び「第2数値」という文言が記載された箇所を基に、両数値の組合せとして、上記「第2」2(1)イ(イ)に示したi)〜iv)を提示し、さらにv)の指摘をしている(上記i)〜v)を以下に再掲する。)。
i)「第1数値」と「第2数値」とが、「BET数(サブ)」と「AT残り枚数(サブ)」とされ、
ii)「第1数値」と「第2数値」とが、「クレジット数(メイン)A」と「獲得枚数(サブ)Eおよびクレジット数(サブ)F」とされ、
iii)「第1数値」と「第2数値」とが、「BET数(メイン)C」と 「BET数(サブ)G」とされ、
iv)「第1数値」と「第2数値」とが、「クレジット数(メイン)Aおよび払出枚数(メイン)B」と「獲得枚数(サブ)E、クレジット数(サブ)F、および上乗せ当選したときにおいてはAT残り枚数(サブ)D」とされている。
v)「BET数サブ」は、「0007」の記載では「第1数値」とされ、「0090」の記載では「第2数値」とされている。

しかし、上記i)〜iv)に示した「第1数値」と「第2数値」の組合せを検討すると、本件特許の明細書には、いずれの組合せも、同一のタイミングでそれぞれの増加更新を開始することの記載は無く、本件特許発明の分説8.「特定条件が成立したときに、前記第1増加更新制御と前記第2増加更新制御とを、同一のタイミングで開始可能であり、」という構成を充足しないので、本件特許発明の実施例たり得ないものである。
また、上記v)について、本件特許の明細書の【0007】の記載における「第1数値」が「BET数(サブ)」であるときの「第2数値」は、「AT残り枚数(サブ)」であるので、上記i)と同じ組合せである。また、申立書においては、上記のように、【0090】に、「BET数サブ」が「第2数値」とさせる旨の記載があるところ、本件特許の明細書の【0090】には該当する記載は存在しない。本件特許の明細書の【0092】には、「たとえば、参照符号Pに示す例では、第1数値は、BET数(メイン)Cとなり、第2数値は、BET数(サブ)Gとなる。」と記載されることから、当合議体は、申立書の「0090」なる段落番号は、「0092」の書き誤りであると善解して検討を行う。そうすると、当該段落では、「第1数値」が「BET数(メイン)C」であるときの「第2数値」は、「BET数(サブ)G」であることを表しているので、上記iii)と同じ組合せである。そして、先に検討したとおり、上記i)及びiii)に示した「第1数値」と「第2数値」の組合せは、本件特許発明の実施例たり得ないものである。

してみれば、本件特許発明の理解に際し、本件特許発明の実施例たり得ないものである、申立人が提示した上記i)〜iv)の「第1数値」と「第2数値」の組合せ、及び、v)の点を考慮する必要は無く、発明の詳細な説明を考慮しても、第1数値と第2数値との特定が不明であり、発明全体が理解できないとする申立人の主張を採用することはできない。

ウ 主張ウ(サポート要件)
さらに、申立人は、主張イの理由に用いた、本件特許の明細書における「第1数値」及び「第2数値」の組合せとして、上記イi)〜iv)と同じ組合せを提示するとともに、v)の指摘を行い、明細書を考慮しても、第1数値と第2数値との特定が記載されておらず、特に「BET数サブ」については、第1数値と第2数値とのいずれであるのかが記載されておらず、特許請求の範囲に記載された発明が、明細書においてサポートされていない旨主張する。

しかし、上記i)〜iv)に示した「第1数値」と「第2数値」の組合せが、本件特許発明の分説8.「特定条件が成立したときに、前記第1増加更新制御と前記第2増加更新制御とを、同一のタイミングで開始可能であり、」という構成を充足しないので、本件特許発明の実施例たり得ないことは、明確性について検討した上記イと同様である。
してみれば、本件特許発明の裏付けとならない、申立人が提示した上記i)〜iv)の「第1数値」と「第2数値」の組合せ、及び、v)の点を根拠に、発明の詳細な説明を考慮しても、第1数値と第2数値との特定が不明であり、発明全体が理解できないとする申立人の主張を採用することはできない。
そして、上記1(1)オに示した特定を基に、本件特許の明細書に記載された事項のうち、本件特許発明に対応する実施例を理解し得たことは、上記2(2)ア〜カにおいて検討したとおりである。そして、上記2(2)キに判断を示したとおり、本件特許発明の実施例のみならず、その作用効果も、本件特許の明細書に記載されていると認められる。

(2)小括
上記(1)ア〜ウより、申立人の主張を採用することはできない。
そして、上記1に当合議体の判断を示したとおり、本件特許発明は明確であり、また、同上記2に当合議体の判断を示したとおり、本件特許発明は、本件特許の明細書に記載されたものである。

以上より、特許異議申立の理由と及び証拠によっては、「理由(1)(明確性」及び「理由(2)(サポート要件)」のいずれによっても、本件特許を取り消すことはできない。


第4 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-07-05 
出願番号 P2017-102268
審決分類 P 1 651・ 537- Y (A63F)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 古屋野 浩志
特許庁審判官 澤田 真治
▲吉▼川 康史
登録日 2021-09-13 
登録番号 6943621
権利者 株式会社三共
発明の名称 遊技機  
代理人 黒田 博道  

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