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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B22F
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B22F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B22F
審判 全部申し立て 2項進歩性  B22F
管理番号 1387536
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-08-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-04-08 
確定日 2022-08-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第6955354号発明「粉末積層造形に用いるための造形用材料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6955354号の請求項1〜3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件の特許第6955354号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜3に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、平成29年 3月31日の出願であって、令和 3年10月 5日にその特許権の設定登録がされ、同年10月27日に特許掲載公報が発行され、その後、令和 4年 4月 8日に、その請求項1〜3(全請求項)に係る特許について、特許異議申立人である神田 紀子(以下、「申立人神田」という。)により特許異議の申立てがされ、令和 4年 4月21日に、その請求項1〜3(全請求項)に係る特許について、特許異議申立人である大澤 豊(以下、「申立人大澤」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜3に係る発明は、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、以下において、本願の請求項1〜3に係る発明を「本件特許発明1」〜「本件特許発明3」といい、総称して「本件特許発明」ということがある。

「【請求項1】
粉末積層造形に用いる造形用材料であって、
金属粉末(ただし、造粒粉末を除く。)で構成されており、
前記金属粉末は、レーザ回折・散乱法に基づく体積基準の平均粒子径が20μm以上130μm以下であり、
前記金属粉末において粒子径が45μmを超える粒子の積算質量が全体の0.5質量%以上45質量%以下であり、
電子顕微鏡観察に基づく粒子径が20μm以下の粒子の数が全体の15個数%以下である、造形用材料。
【請求項2】
前記金属粉末は、レーザ回折・散乱法に基づく体積基準の平均粒子径が20μm以上50μm以下である、請求項1に記載の造形用材料。
【請求項3】
前記金属粉末は、粉砕法、プラズマアトマイズ法、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、およびパウダースプレー法からなる群から選択されるいずれか1種の方法で製造されている、請求項1または2に記載の造形用材料。」

第3 異議申立理由の概要
1 申立人神田は、証拠方法として、後記(2)の甲第1号証〜甲第3号証(以下、それぞれ「甲A1」〜「甲A3」という。)を提出し、以下の理由により本件特許の請求項1〜3に係る特許を取り消すべき旨主張している。
(1)申立理由A−1(進歩性
本件特許発明1〜3は、甲A1に記載された発明に基いて、甲A1に記載された発明及び甲A2に記載された発明に基いて、または、甲A1に記載された発明及び甲A3に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)証拠方法
甲A1:国際公開第2016/038368号
甲A2:特開2008−69449号公報
甲A3:特開2016−23367号公報

2 申立人大澤は、証拠方法として、後記(6)の甲第1号証〜甲第5号証(以下、それぞれ「甲B1」〜「甲B5」という。)を提出し、以下の理由により本件特許の請求項1〜3に係る特許を取り消すべき旨主張している。
(1)申立理由B−1(新規性
本件特許発明1〜3は、甲B1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)申立理由B−2(進歩性
ア 申立理由B−2−1(甲B1を主たる引用例とするもの)
本件特許発明1〜3は、甲B1に記載された発明及び甲B2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

イ 申立理由B−2−2(甲B2を主たる引用例とするもの)
本件特許発明1〜3は、甲B2に記載された発明及び甲B3、甲B4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

ウ 申立理由B−2−3(甲B3を主たる引用例とするもの)
本件特許発明1〜3は、甲B3に記載された発明及び甲B2、甲B4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)申立理由B−3(サポート要件)
本件特許の請求項1〜3の記載は、本件特許発明1〜3について、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(4)申立理由B−4(明確性
本件特許の請求項1〜3の記載は、本件特許発明1〜3について、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(5)申立理由B−5(実施可能要件
本願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明の記載は、本件特許発明1〜3について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、特許法第36条第4項第1号に適合しないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(6)証拠方法
甲B1:国際公開第2016/013494号
甲B2:特開2008−69449号公報(甲A2と同じ)
甲B3:国際公開第2016/182631号
甲B4:特開2017−36485号公報
甲B5:特開2007−70159号公報

第4 当審の判断
以下に述べるとおり、当審は、上記第3の各申立理由のいずれによっても、本件特許の請求項1〜3に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
1 申立理由A−1(進歩性)について
(1)甲A1〜甲A3の記載事項、及び甲A1に記載された発明
ア 甲A1の記載事項
本願の出願前に公知となった甲A1には、「ADDITIVE MANUFACTURING METHOD AND POWDER」(発明の名称)に関し、以下の記載がある(下線は当審が付したものである。また、以下、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様。)。
(ア)「Field of Invention
This invention concerns an additive manufacturing method and powder to be used in such a method. The invention has particular applicability to a method of selective laser melting (SLM) steel powders.」(第1頁第3〜7行)
(当審訳:技術分野
本発明は、付加製造方法およびこのような方法において使用される粉末に関する。本発明は、鋼粉を選択的レーザ溶融(SLM)する方法に特に提供可能である。)

(イ)「Two material properties that affect the melt properties of the powder layer are powder composition and flow characteristics.」(第2頁第1〜2行)
(当審訳:粉末層の溶融特性に影響を与える2つの材料特性は、粉末の組成と流動特性である。)

(ウ)「Marine grade steels, such as stainless steel 316L, are desirable materials to use in additive manufacturing because of the wide array of applications.」(第2頁第12〜13行)
(当審訳:ステンレス鋼316Lなどのマリングレード鋼は、幅広い用途のために付加製造での使用に望ましい材料である。)

(エ)「The powder may have been formed by nitrogen gas atomisation. Nitrogen may aid in the formation of the austenite phase during atomisation.」(第4頁第14〜15行)
(当審訳:粉末は、窒素ガスアトマイゼーションによって形成され得る。窒素は、アトマイゼーション中、オーステナイト相の形成の助けになり得る。)

(オ)「The powder may contain at least 90% by weight, preferably at least 94% by weight and most preferably, at least 96% weight particles having a size, as measured by a laser diffraction particle size analyser, below 45μm. The powder may contain less than 2% by weight and preferably, less than 1% by weight of particles having a size below 15μm. The powder may contain less than 3% by weight and preferably, less than 2% by weight of particles having a size above 45μm. It is believed that this particle size distribution provides suitable flow characteristics.」(第4頁第21〜27行)
(当審訳:粉末は、少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも94重量%、最も好ましくは、45μm未満のレーザー回折粒子サイズ分析器によって測定されるサイズを有する少なくとも96重量%の粒子を含み得る。粉末は、15μm未満のサイズを有する2重量%未満、好ましくは1重量%未満の粒子を含み得る。粉末は、45μmを超えるサイズを有する粒子の3重量%未満、好ましくは2重量%未満を含み得る。この粒子サイズ分布は、適切な流動特性を提供すると考えられている。)

(カ)「Example 1
316L stainless steel powder in the range 15 to 45 μm was supplied by Sandvik Osprey Ltd, with a dispatch number 14D0097. The powder batch was 10kg in weight and contained a test certificate. Details from the test certificate are shown in table 1」(第8頁第6〜11行)
(当審訳:例1
15?45μmの範囲の316Lステンレス鋼粉末は、Sandvik Osprey Ltdから、発送番号14D0097で供給された。粉末バッチは重量10kgで、試験証明書が含まれていた。テスト証明書の詳細を表1に示す。)

(キ)「


」(第8頁「Table 1」)
(当審訳:表1




(ク)「A hall flow for the powder was measured to be 20.1sec/50g.」(第9頁第2行)
(当審訳:粉末のホール流動は、20.1秒/50gと測定された。)

イ 甲A1に記載された発明
上記アに摘記した甲A1の記載事項を総合勘案し、特に、例1の「316Lステンレス鋼粉末」に着目すると、甲A1には、次の発明が記載されていると認められる。

「幅広い用途のために付加製造での使用に望ましい材料である316Lステンレス鋼粉末であって、
レーザー回折粒子サイズ分析器によって測定される粉末サイズ分布において、15μm未満のサイズを有する粒子が1.1重量%、15〜45μmのサイズを有する粒子が97.9重量%、45μmを超えるサイズを有する粒子が1.0重量%であり、
d50が31.3μmであり、
粉末のホール流動が20.1秒/50gである、
316Lステンレス鋼粉末。」(以下、「甲A1発明」という。)

ウ 甲A2の記載事項
本願の出願前に公知となった甲A2には、「金属間化合物製の三次元製品の大量生産法」(発明の名称)に関し、以下の記載がある。
(ア)「【請求項1】
電子ビーム溶融によって、金属間化合物製の三次元製品を大量生産する方法であって、
a)前記製品の三次元数学的モデルを作製し、これをコントロールユニットに保存する工程;
b)使用する金属間化合物の粉末を調製する工程;
c)溶融チャンバー内において、粉末を敷設して、一定かつ実質的に均一な厚さを持つ粉末層を形成する工程;
d)溶融チャンバー内において、敷設した粉末層を、粉末の融点より低い温度に予熱する工程;
e)コントロールユニットに保存した三次元モデルに従って、前記製品の断面部分に相当する区域において集束電子ビームにて走査することによって溶融を行う工程;
f)このようにして形成された前記製品の最後の断面部分の上面が、溶融チャンバー内に配置され、製品の既に形成された部分の周囲に敷設される粉末のレベルに位置するようにする工程;及び
g)工程c)〜f)を、コントロールユニットに保存した三次元モデルに従って、前記製品の最終の断面部分に達成するまで繰り返す工程
を包含し、前記粉末が、製造された製品を構成する最終の金属間化合物と同じ化学組成を持つチタン及びアルミニウムを基材とする金属間化合物の粉末であることを特徴とする金属間化合物製の三次元製品の大量生産法。
・・・
【請求項14】
粉末の粒径が20〜150μmの範囲である請求項1記載の方法。
・・・
【請求項16】
粉末がガスアトマイゼーション法によって得られたものである請求項1記載の方法。」

(イ)「【0001】
本発明は、交互積層技術を使用する金属間化合物製の立体的製品を大量生産する方法に関する。」

(ウ)「【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明の一般的な目的は、従来技術と比べて、製造コストをかなり低減することができる、金属間化合物にて製造された三次元製品の大量生産法を提案することにある。
【0022】
本発明の他の目的は、チタン及びアルミニウムを基材とする金属間化合物製の製品、特に、γTiAlタイプの金属間化合物製であり、かつ複雑な形状を持つ製品を製造できる上述のタイプの方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
これらの目的は、本発明の手段によって達成される。すなわち、本発明は、電子ビーム溶融法を介して、金属間化合物製の三次元製品を大量生産する方法であって、
a)製品の三次元数学的モデルを作製し、これをコントロールユニットに保存する工程;
b)使用する金属間化合物の粉末を調製する工程;
c)溶融チャンバー内において粉末を敷設して、一定かつ実質的に均一な厚さを持つ粉末層を形成する工程;
d)溶融チャンバー内において敷設した粉末層を、粉末の融点より低い温度に予熱する工程;
e)コントロールユニットに保存した三次元モデルに従って、製品の断面部分に相当する区域において集束電子ビームにて走査することによって溶融を行う工程;
f)このようにして形成された製品の最後の断面部分の上面が、溶融チャンバー内に配置され、製品の既に形成された部分の周囲に敷設される粉末のレベルに位置するようにする工程;及び
g)工程c)〜f)を、コントロールユニットに保存した三次元モデルに従って、製品の最終の断面部分に達成するまで繰り返す工程
を包含することを特徴とする金属間化合物製の三次元製品の大量生産法に関する。
【0024】
本発明によって提案された方法によれば、粉末は、チタン及びアルミニウムを基材とし、製品を構成する最終の金属間化合物と同じ化学組成を持つ金属間化合物の粉末である。」

(エ)「【0036】
混合物の粉末は、粒径20〜150μmを有する。この粒径より小では、粉末は細かすぎ、公知の自己発火現象のため爆発を生ずることがあり、一方、この範囲より大では、製造される製品の表面粗さにおける過剰な増大がある。
【0037】
粉末の粒径の選択は、実質的に、最大製造速度(より大きい粒径を持つ粉末が好適である)から最小表面粗さ(より小さい粒径を持つ粉末が好適である)までの範囲内で行われる。自動車及び航空機産業を対象とした製品のための最も多くの製法に好適な粒径は、約70μmである。
【0038】
好ましくは、ガスアトマイジング法、すなわち、実質的に球状の粉末を形成する方法を介して得られる粉末が使用される。」

(オ)「【0053】
粉末は、製造された製品を構成する材料と正確に同じ組成を有する。粉末は、20〜150μm、より好ましくは、約70μmの粒径を有し、好ましくは、実質的に球状の粒子を形成するようにガスアトマイジング法を介して得られたものである。」

エ 甲A3の記載事項
本願の出願前に公知となった甲A3には、「合金構造体の製造方法」(発明の名称)に関し、以下の記載がある。
(ア)「【0016】
本実施形態に係る合金構造体は、鉄(Fe)と、Feと固溶化する少なくとも4種以上の他の元素(以下、非Fe主成分元素ということがある。)とを主成分とする高エントロピー合金からなり、積層造形によって所望の形状寸法に造形された金属造形物である。この合金構造体は、非Fe主成分元素及びFeの元素を、個々の各元素についてそれぞれ5at%以上30at%以下の範囲の原子濃度で含有し、これらの元素のうちの少なくとも4種の元素が実質的に等原子比率となる元素組成を有している。そして、非Fe主成分元素及びFeの原子は、これら複数種の元素が多元的に固溶した固溶相を形成している。そのため、この合金構造体は、高エントロピー合金としての一般的性質として、高い耐熱性、高温強度、耐摩耗性、耐腐食性を有している。また、後記するように、積層造形によって形成される特有の凝固組織を有しており、元素組成及び機械的強度の分布の均一性が高い特徴を有している。」

(イ)「【0088】
[実施例1−3]
実施例1−3として、元素組成がAl1.5CoCrFeNiで表わされる合金構造体を積層造形により製造した。原子濃度比率は、Alの原子濃度が約27.2at%、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約18.2at%である。
【0089】
はじめに、Alの原子濃度が約27.2at%、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約18.2at%である合金を地金として用いて、ガスアトマイズ法によって、合金粉末を調製した。そして、得られた合金粉末を分級し、粒子径分布を20μm以上50μm以下の範囲に限定すると共に、体積基準の平均粒子径が約30μmとなるようにした。
【0090】
続いて、積層造形装置を使用して、基材上に合金材を造形した。基材としては、直径10mm、高さ50mmの円柱形状の機械構造用炭素鋼「S45C」を用いた。また、積層造形装置としては、熱源をレーザー光としたレーザー溶融積層造形装置「EOSINT M270」(EOS社製)を使用した。積層造形装置では、窒素雰囲気下において、基材上に、粉末展延工程及び凝固層造形工程を繰り返し行うことによって、200μmの多層膜状の合金材を製造した。」

(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲A1発明とを対比する。
(ア)甲A1発明の「316Lステンレス鋼粉末」は、「幅広い用途のために付加製造での使用に望ましい材料であ」って、金属粉末であるから、本件特許発明1の「粉末積層造形に用いる造形用材料であって、金属粉末で構成されて」いる「造形用材料」に相当する。

(イ)甲A1発明の「316Lステンレス鋼粉末」が、「レーザー回折粒子サイズ分析器によって測定されるサイズ粉末サイズ分布において」、「45μmを超えるサイズを有する粒子が1.0重量%であ」る点は、本件特許発明1の「造形用材料」について、「前記金属粉末において粒子径が45μmを超える粒子の積算質量が全体の0.5質量%以上45質量%以下であ」る点に相当する。

(ウ)甲A1発明の「316Lステンレス鋼粉末」の「d50が31.3μmであ」る点は、本件特許発明1の「造形用材料」について、「前記金属粉末は、レーザ回折・散乱法に基づく体積基準の平均粒子径が20μm以上130μm以下であ」る点に相当する。

(エ)そうすると、本件特許発明1と甲A1発明とは、
「粉末積層造形に用いる造形用材料であって、
金属粉末で構成されており、
前記金属粉末は、レーザ回折・散乱法に基づく体積基準の平均粒子径が20μm以上130μm以下であり、
前記金属粉末において粒子径が45μmを超える粒子の積算質量が全体の0.5質量%以上45質量%以下である、造形用材料。」
である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>
本件特許発明1の「造形用材料」を構成する「金属粉末」から造粒粉末は除かれているのに対して、甲A1発明の「316Lステンレス鋼粉末」が造粒粉末を含むものか否かは不明な点。

<相違点2>
本件特許発明1の「造形用材料」は、「電子顕微鏡観察に基づく粒子径が20μm以下の粒子の数が全体の15個数%以下である」のに対して、甲A1発明の「316Lステンレス鋼粉末」に含まれる「電子顕微鏡観察に基づく粒子径が20μm以下の粒子の数」が全体のどの程度の割合かは不明な点。

イ 相違点についての判断
事案に鑑みて、上記相違点2について、まず検討する。
(ア)上記(1)アに摘記した事項を含む甲A1の記載を参照しても、甲A1には、「電子顕微鏡観察に基づく粒子が20μm以下の粒子の数」についての明示的な記載は見当たらない。

(イ)また、甲A1発明に係る「316Lステンレス鋼粉末」は、「粉末のホール流動が20.1秒/50gである」との流動特性を備えたものであり、この特性は、本件明細書の【0069】、【0070】に記載された「JIS Z2502:2012に規定される「金属粉−流動度測定方法」に準じて」測定された流動度と同様に測定されたものと推定される。

(ウ)そして、上記「粉末のホール流動が20.1秒/50gである」とは、上記(イ)の流動度の測定に当たって、本件明細書の【0069】、【0070】に記載の「粉末が全て流れ出た場合」、すなわち「流れる」場合に該当するといえる。

(エ)しかしながら、甲A1発明に係る「316Lステンレス鋼粉末」が、上記(イ)の流動度の測定に当たって、本件特許発明1の実施例と同様に「粉末が全て流れ出た」、すなわち「流れる」との流動特性を備えているからといって、そのことから直ちに、甲A1発明に係る「316Lステンレス鋼粉末」が「電子顕微鏡観察に基づく粒子径が20μm以下の粒子の数が全体の15個数%以下である」とはいえないことは、明らかである。

(オ)したがって、上記相違点2は、実質的な相違点である。

(カ)そこで、上記相違点2の容易想到性について検討する。
a 上記(1)ア(キ)に摘記したとおり、甲A1の「Table 1」には、粒子径が15μm未満の割合が「1.1重量%以下」の「316Lステンレス鋼粉末」が記載されているものの、本件明細書の【0044】の「なお、参考までに、一般的な粒度調整が施され、粒子径が45μmを超える粒子の割合が0.5質量%以上との要件を満たすような各種の粉末において、20μm以下の微細な粒子は、例えば約5体積%以下であったり、5質量%以下であったりし得る。これに対し、20μm以下の微細な粒子を個数基準で評価すると、その割合は、おおよそ20〜50個数%という高い割合になり得る。この点において、ここに開示される造形用材料は、従来の一般的な粒度調整を施された粉末と明確に区別される。」との記載も考慮すると、甲A1の「Table 1」の上記「316Lステンレス鋼粉末」において、粒子径が15μm未満の割合が、所定の重量%以下であることが記載されていても、本件特許発明1のように「電子顕微鏡観察に基づく粒子径が20μm以下の粒子の数」に着目して、これを全体の所定割合以下とすることが示唆されているとはいえない。

b また、上記(1)ウに摘記したとおり、甲A2には、交互積層技術を使用する金属間化合物の粉末の粒径を「20〜150μm」とすることが記載され、上記(1)エに摘記したとおり、甲A3には、積層造形に用いられる合金粉末を分級して、粒子径分布を20μm以上50μm以下の範囲とすることが記載されてはいるが、本件明細書の【0043】の「粒子径が20μm以下の粒子は、上記のふるい分け試験のときには、より粗大な粒子の表面に付着する等して分級され難いレベルの粒子である。」との記載も考慮すると、甲A2、甲A3の上記粉末であっても、粒子径が20μm以下の粒子が全く含まれていないとか、15個数%以下であるとは認められない。

c 加えて、仮に甲A2、甲A3に記載された粉末が粒子径20μm以下の粒子を15個数%以下しか含まないものであったとしても、上記aで検討したとおり、甲A1発明が「電子顕微鏡観察に基づく粒子径が20μm以下の粒子の数」に着目して、これを全体の所定割合以下とすることを示唆するものではない以上、甲A2、甲A3に記載された当該粉末を甲A1発明に適用しようとする動機付けを見いだせない。

d したがって、甲A1発明において、上記相違点2に係る特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

(キ)よって、上記相違点1について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲A1に記載された発明に基いて、甲A1に記載された発明及び甲A2に記載された発明に基いて、または、甲A1に記載された発明及び甲A3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件特許発明2、3について
本件特許発明2、3は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、上記(2)イ(キ)のとおり、本件特許発明1が甲A1に記載された発明に基いて、甲A1に記載された発明及び甲A2に記載された発明に基いて、または、甲A1に記載された発明及び甲A3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、同様に、甲A1に記載された発明に基いて、甲A1に記載された発明及び甲A2に記載された発明に基いて、または、甲A1に記載された発明及び甲A3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)小括
以上のとおり、本件特許発明1〜3は、甲A1に記載された発明に基いて、甲A1に記載された発明及び甲A2に記載された発明に基いて、または、甲A1に記載された発明及び甲A3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえないから、申立理由A−1によっては同発明に係る特許を取り消すことはできない。

2 申立理由B−1(新規性)、B−2−1(進歩性)について
(1)甲B1、甲B2の記載事項、及び甲B1に記載された発明
ア 甲B1の記載事項
本願の出願前に公知となった甲B1には、「溶融積層造形に用いる合金粉末及び合金粉末の製造方法」(発明の名称)に関し、以下の記載がある。
(ア)「[0001] 本発明は、溶融積層造形に用いる合金粉末及び合金粉末の製造方法に関する。」

(イ)「[0011] そこで、本発明は、元素組成及び機械的強度の分布の均一性が高く、良好な高温強度と耐食性とを有する任意の形状寸法の合金構造体を提供することを目的とする。」

(ウ)「[0028] 本実施形態に係る合金構造体は、合金粉末を用いた粉末積層造形によって製造することができる。合金粉末を溶融させた後に凝固させて凝固組織を形成し、多数の凝固組織を周囲と一体化させながら配列させることによって、所望の形状寸法の立体造形物として合金構造体を製造する方法である。本実施形態に係る合金構造体の製造方法は、積層造形に用いる合金粉末を調製する粉末調製工程と、調製された合金粉末を用いて合金構造体を造形する積層造形工程とを含んでなる。
[0029] 粉末調製工程では、製造しようとする合金構造体と同じ主成分元素と添加元素とを含有し、主成分元素が実質的に等原子比率となる元素組成を有する合金粉末を調製する。合金粉末は、各粉末粒子が、製造しようとする合金構造体と略同じ元素組成となるような粒子集合とすることが好ましい。なお、凝固層造形工程において合金粉末を加熱する際に合金成分の一部が揮発して失われる場合があるため、こうした揮発による組成変化を考慮して原子濃度の範囲を高い範囲に設定してもよい。
[0030] 合金粉末の調製方法としては、従来から一般的に利用されている金属粉末の製造方法を用いることができる。例えば、合金の溶湯に流体を吹き付けて飛散させて凝固させるアトマイズ法、合金の溶湯を凝固させた後に機械的に粉砕する粉砕法、金属粉末を混合し圧接及び粉砕を繰り返して合金化させるメカニカルアロイング法、合金の溶湯を回転しているロール上に流下させて凝固させるメルトスピニング法等の適宜の方法を利用することができる。
[0031] 合金粉末の調製方法としては、アトマイズ法が好適であり、より好ましくはガスアトマイズ法、さらに好ましくは流体として不活性ガスを使用して不活性ガス雰囲気で行うガスアトマイズ法が用いられる。このような調製方法によると、真球度が高く、不純物の混入が少ない合金粉末を調製することが可能である。そして、合金粉末の真球度が高められると、積層造形において合金粉末を展延する際の抵抗が抑えられるため、合金粉末のむらを低減することができる。また、不活性ガスを使用することによって、酸化物不純物等の混入が抑制されるため、製造される合金材の金属組織をより均一なものとすることができる。
[0032] 合金粉末は、積層造形において合金粉末を展延させる方式や、合金粉末を溶融させる熱源の出力等の溶融条件に応じて適宜の粒子径とすることができる。但し、通常は合金粉末の粒子径分布は、1μm以上500μm以下の範囲とすることが好ましい。合金粉末の粒子径が1μm以上であれば、合金粉末の巻き上がりや浮遊が抑制されたり、金属の酸化反応性が抑えられたりして、粉塵爆発等の恐れが低くなるためである。一方で、合金粉末の粒子径が500μm以下であれば、積層造形において形成される凝固層の表面が平滑になり易い点で有利である。また、合金粉末を溶融させるための加熱手段の出力を抑えることが可能になり、合金粉末の溶融速度や合金粉末を局所加熱する際の被加熱領域の範囲の制御が容易になるため、合金構造体の造形精度や凝固組織の均一性を確保し易くすることができる。」

(エ)「[0088][実施例1−3]
実施例1−3として、元素組成がAl1.5CoCrFeNiで表わされる合金構造体を積層造形により製造した。原子濃度比率は、Alの原子濃度が約27.2at%、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約18.2at%である。
[0089] はじめに、Alの原子濃度が約27.2at%、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約18.2at%である合金を地金として用いて、ガスアトマイズ法によって、合金粉末を調製した。そして、得られた合金粉末を分級し、粒子径分布を20μm以上50μm以下の範囲に限定すると共に、体積基準の平均粒子径が約30μmとなるようにした。
[0090] 続いて、積層造形装置を使用して、基材上に合金材を造形した。基材としては、直径10mm、高さ50mmの円柱形状の機械構造用炭素鋼「S45C」を用いた。また、積層造形装置としては、熱源をレーザー光としたレーザー溶融積層造形装置「EOSINT M270」(EOS社製)を使用した。積層造形装置では、窒素雰囲気下において、基材上に、粉末展延工程及び凝固層造形工程を繰り返し行うことによって、200μmの多層膜状の合金材を製造した。」

イ 甲B1に記載された発明
上記アに摘記した甲B1の記載事項を総合勘案し、特に、実施例1−3に用いられた合金粉末に着目すると、甲B1には、次の発明が記載されていると認められる。

「溶融積層造形に用いる合金粉末であって、Alの原子濃度が約27.2at%、Co、Cr、Fe及びNiの原子濃度が約18.2at%である合金を地金として用いて、ガスアトマイズ法によって調整して得られた合金粉末を分級し、粒子径分布を20μm以上50μm以下の範囲に限定すると共に、体積基準の平均粒子径が約30μmとなるようにした合金粉末。」(以下、「甲B1発明」という。)

ウ 甲B2の記載事項
本願の出願前に公知となった甲B2(甲A2と同じ)には、「金属間化合物製の三次元製品の大量生産法」(発明の名称)に関し、上記1(1)ウに摘記したとおりの記載がある。

(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲B1発明とを対比する。
(ア)甲B1発明の「溶融積層造形に用いる」「合金粉末」は、ガスアトマイズ法で調整して得られたものを分級したものであるから、本件特許発明1の「粉末積層造形に用いる造形用材料」であって、これを構成する「金属粉末(ただし、造粒粉末を除く。)」に相当する。

(イ)甲B1発明の分級後の「合金粉末」と、本件特許発明1の「金属粉末」とは、「体積基準の平均粒子径が20μm以上130μm以下であ」る点で共通する。

(ウ)そうすると、本件特許発明1と甲B1発明とは、
「粉末積層造形に用いる造形用材料であって、
金属粉末(ただし、造粒粉末を除く。)で構成されており、
前記金属粉末は、体積基準の平均粒子径が20μm以上130μm以下である、造形用材料。」
である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点3>
金属粉末の体積基準の平均粒子径について、本件特許発明1は、「レーザ回折・散乱法に基づく」ものであるのに対して、甲B1発明は、どのような方法によって算出されたものか不明な点。

<相違点4>
本件特許発明1の「金属粉末」は、「粒子径が45μmを超える粒子の積算質量が全体の0.5質量%以上45質量%以下であ」るのに対して、甲B1発明の「合金粉末」において、「粒子径が45μmを超える粒子の積算質量」が全体のどの程度の割合かは不明な点。

<相違点5>
本件特許発明1の「造形用材料」は、「電子顕微鏡観察に基づく粒子径が20μm以下の粒子の数が全体の15個数%以下である」のに対して、甲B1発明の「合金粉末」に含まれる「電子顕微鏡観察に基づく粒子径が20μm以下の粒子の数」が全体のどの程度の割合かは不明な点。

イ 相違点についての判断
事案に鑑みて、上記相違点5について、まず検討する。
(ア)上記(1)アに摘記した事項を含む甲B1の記載を参照しても、甲B1には、「電子顕微鏡観察に基づく粒子が20μm以下の粒子の数」についての明示的な記載は見当たらない。

(イ)また、甲B1発明の「合金粉末」は、分級によって、「粒子径分布を20μm以上50μm以下の範囲に限定」したものであるが、本件明細書の【0043】の「粒子径が20μm以下の粒子は、上記のふるい分け試験のときには、より粗大な粒子の表面に付着する等して分級され難いレベルの粒子である。」との記載も考慮すると、甲B1発明の上記合金粉末であっても、粒子径が20μm以下の粒子が全く含まれていないとか、15個数%以下であるとは認められない。

(ウ)したがって、上記相違点5は、実質的な相違点である。

(エ)そこで、上記相違点5の容易想到性について検討する。
a 上記(1)アに摘記したとおり、甲B1の[0032]には、「通常は合金粉末の粒子径分布は、1μm以上500μm以下の範囲とすることが好ましい。合金粉末の粒子径が1μm以上であれば、合金粉末の巻き上がりや浮遊が抑制されたり、金属の酸化反応性が抑えられたりして、粉塵爆発等の恐れが低くなるためである。一方で、合金粉末の粒子径が500μm以下であれば、積層造形において形成される凝固層の表面が平滑になり易い点で有利である。」旨記載されているものの、本件明細書の【0044】の「なお、参考までに、一般的な粒度調整が施され、粒子径が45μmを超える粒子の割合が0.5質量%以上との要件を満たすような各種の粉末において、20μm以下の微細な粒子は、例えば約5体積%以下であったり、5質量%以下であったりし得る。これに対し、20μm以下の微細な粒子を個数基準で評価すると、その割合は、おおよそ20〜50個数%という高い割合になり得る。この点において、ここに開示される造形用材料は、従来の一般的な粒度調整を施された粉末と明確に区別される。」との記載も考慮すると、甲B1発明の「合金粉末」が、分級によって、「粒子径分布を20μm以上50μm以下の範囲に限定」したものであるからといって、本件特許発明1のように「電子顕微鏡観察に基づく粒子径が20μm以下の粒子の数」に着目して、これを全体の所定割合以下とすることが示唆されているとはいえない。

b また、上記1(1)ウに摘記したとおり、甲B2の【0036】には、「混合物の粉末は、粒径20〜150μmを有する。この粒径より小では、粉末は細かすぎ、公知の自己発火現象のため爆発を生ずることがあり、一方、この範囲より大では、製造される製品の表面粗さにおける過剰な増大がある。」旨記載されているものの、上記1(2)イ(カ)bにおいて検討したとおり、甲B2(甲A2と同じ)の上記粉末であっても、粒子径が20μm以下の粒子が全く含まれていないとか、15個数%以下であるとは認められない。

c 加えて、仮に甲B2に記載された粉末が粒子径20μm以下の粒子を15個数%以下しか含まないものであったとしても、上記aで検討したとおり、甲B1発明が「電子顕微鏡観察に基づく粒子径が20μm以下の粒子の数」に着目して、これを全体の所定割合以下とすることを示唆するものではない以上、甲B2に記載された当該粉末を甲B1発明に適用しようとする動機付けを見いだせない。

d したがって、甲B1発明において、上記相違点5に係る特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

(オ)よって、上記相違点3、4について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲B1に記載された発明であるといえず、また、甲B1に記載された発明及び甲B2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件特許発明2、3について
本件特許発明2、3は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、上記(2)イ(オ)のとおり、本件特許発明1が甲B1に記載された発明とはいえず、また、甲B1に記載された発明及び甲B2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、同様に、甲B1に記載された発明とはいえず、また、甲B1に記載された発明及び甲B2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)小括
以上のとおり、本件特許発明1〜3は、甲B1に記載された発明とはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当するものとはいえないから、申立理由B−1によっては同発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、本件特許発明1〜3は、甲B1に記載された発明及び甲B2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえないから、申立理由B−2−1によっては同発明に係る特許を取り消すことはできない。

3 申立理由B−2−2(進歩性)について
(1)甲B2〜甲B5の記載事項、及び甲B2に記載された発明
ア 甲B2の記載事項
本願の出願前に公知となった甲B2(甲A2と同じ)には、「金属間化合物製の三次元製品の大量生産法」(発明の名称)に関し、上記1(1)ウに摘記したとおりの記載がある。

イ 甲B2に記載された発明
上記1(1)ウに摘記した甲B2の記載事項を総合勘案し、特に、【0053】に記載された粉末に着目すると、甲B2には、次の発明が記載されていると認められる。

「交互積層技術を使用する金属間化合物製の立体的製品を大量生産する方法に用いられる金属間化合物の粉末であって、当該粉末は、20〜150μm、より好ましくは、約70μmの粒径を有し、好ましくは、実質的に球状の粒子を形成するようにガスアトマイジング法を介して得られたものである、金属間化合物の粉末。」(以下、「甲B2発明」という。)

ウ 甲B3の記載事項
本願の出願前に公知となった甲B3には、「METHODS AND APPARATUSES FOR PRODUCING METALLIC POWDER MATERIAL」(発明の名称)に関し、以下の記載がある。
(ア)「[0001] The present disclosure relates to methods and apparatuses for producing a metallic powder material.」
(当審訳:本発明は、金属粉末材料を製造するための方法及び装置に関する。)

(イ)「[0037] In certain non-limiting embodiments, a metallic powder material produced according to various non-limiting embodiments of the methods, or by the various non-limiting embodiments of apparatuses, disclosed herein comprises an average particle size of 10 to 150 microns. In certain non-limiting embodiments, a metallic powder material produced according to various non-limiting embodiments of the methods, or by the various non-limiting embodiments of apparatuses, disclosed herein has a particle size distribution of 40 to 120 microns {i.e., the particle size of substantially all the powder particles falls in the range of 40 to 120 microns). A metallic powder material having a particle size distribution of 40 to 120 microns is particularly useful in electron beam additive manufacturing applications. In certain non-limiting embodiments, a metallic powder material produced according to various non-limiting embodiments of the methods, or by the various non-limiting embodiments of apparatuses, disclosed herein has a particle size distribution of 15 to 45 microns (i.e., the particle size of substantially all the powder particles falls in the range of 15 to 45 microns). A metallic powder material having a particle size distribution of 15 to 45 microns is particularly useful in laser additive manufacturing applications. According to certain non-limiting embodiments, the metallic powder material comprises spherical particles. In certain other non-limiting embodiments, at least a portion of the metallic powder material has other geometric forms, including, but not limited to, flakes, chips, needles, and combinations thereof.」
(当審訳:特定の非限定的実施形態では、本明細書に開示された方法の種々の非限定的実施形態にしたがい、または、装置の種々の非限定的実施形態により製造される金属粉末材料は、10〜150ミクロンの平均粒子サイズを有する。特定の非限定的実施形態では、本明細書に開示された方法の種々の非限定的実施形態にしたがい、または、装置の種々の非限定的実施形態により製造される金属粉末材料は、40〜120ミクロンの粒子サイズ分布(すなわち、実質的に全ての粉末粒子の粒子サイズが40〜120ミクロンの範囲に入る)を有する。40〜120ミクロンの粒子サイズ分布を有する金属粉末材料は、特に、電子ビーム積層造形の用途に有益である。特定の非限定的実施形態では、本明細書に開示された方法の種々の非限定的実施形態にしたがい、または、装置の種々の非限定的実施形態により製造される金属粉末材料は、15〜45ミクロンの粒子サイズ分布(すなわち、実質的に全ての粉末粒子の粒子サイズが15〜45ミクロンの範囲に入る)を有する。15〜45ミクロンの粒子サイズ分布を有する金属粉末材料は、特に、レーザ積層造形の用途に有益である。特定の非限定的実施形態によると、金属粉末材料は、球状粒子を有する。特定の他の非限定的実施形態では、金属粉末材料の少なくとも一部は、限定されるものではないが、フレーク、チップ、針、及び、これらの組合わせを含む他の幾何学形状を有する。)

(ウ)「[0039] Metallic powder materials made according the methods and apparatuses of the present disclosure may have any composition suitably made using the present methods and apparatuses. According to certain non-limiting embodiments, the metallic powder materials have the chemical composition of one of a commercially pure titanium, a titanium alloy (e.g., Ti-6AI-4V alloy, having a composition specified in UNS R56400), and a titanium aluminide alloy (e.g., Ti-48AI-2Nb-2Cr alloy).
According to another non-limiting embodiment, the metallic powder materials have a chemical composition material comprising, by weight, about 4 percent vanadium, about 6 percent aluminum, and balance titanium and impurities. (All percentages herein are weight percentages, unless otherwise indicated.) According to yet another non-limiting embodiment, the metallic powder materials have the chemical composition of one of a commercially pure nickel, a nickel alloy (e.g., Alloy 718, having a composition specified in UNS N07718), a commercially pure zirconium, a zirconium alloy (e.g. , Zr 704 alloy, having a composition specified in UNS R60704), a commercially pure niobium, a niobium alloy (e.g. , ATI NblZrTM alloy (Type 3 and Type 4), having a composition specified in UNS R04261 ), a commercially pure tantalum, a tantalum alloy (e.g. , Tantalum-10% tungsten alloy, having a composition specified in UNS 20255), a commercially pure tungsten, and a tungsten alloy (e.g., 90-7-3 tungsten alloy). It will be understood that the methods and apparatuses described herein are not limited to producing metallic powder materials having the foregoing chemical compositions. Instead, the starting materials may be selected so as to provide a metallic powder material having the desired chemical composition and other desired properties.」
(当審訳:本開示の方法及び装置にしたがって造られる金属粉末材料は、本方法及び装置を使用して適切に製造される任意の組成を有することができる。特定の非限定的実施形態によると、金属粉末材料は、市販の純チタン、チタン合金(例えば、UNS R56400に規定された組成を有するTi−6Al−4V合金)、及び、チタンアルミナイド合金(例えば、Ti−48Al−2Nb−2Cr合金)の1つの化学組成を有する。他の非限定的実施形態によると、金属粉末材料は、重量で、約4パーセントのバナジウム、約6パーセントのアルミニウム、及び、残部のチタン及び不純物を含む化学組成材料を有する(他に指示しない限り、ここの全てのパーセンテージは、重量パーセントである。)。更に他の非限定的実施形態によると、金属粉末材料は、市販の純ニッケル、ニッケル合金(例えば、UNS N07718に規定された組成を有する合金718)、市販の純ジルコニウム、ジルコニウム合金(例えば、UNS R60704に規定された組成を有するZr704合金)、市販の純ニオブ、ニオブ合金(例えば、UNS R04261に規定された組成を有するATI Nb1Zr(商標)合金(タイプ3及びタイプ4))、市販の純タンタル、タンタル合金(例えば、UNS 20255に規定する組成を有するタンタル−10%タングステン合金)、市販の純タグステン、及び、タングステン合金(例えば、90−7−3タングステン合金)の1つの化学組成を有する。本明細書に記載の方法及び装置は、上述の化学組成を有する金属粉末材料を製造することに限定されないことが理解される。代りに、出発材料は、所要の化学組成及び他の所要の特性を有する金属粉末材料を提供するように選択してもよい。)

エ 甲B4の記載事項
本願の出願前に公知となった甲B4には、「積層造形用Ni基超合金粉末」(発明の名称)に関し、以下の記載がある。
(ア)「【0031】
平均粒径(D50)が10〜100μmである金属粉末
本発明に係る硬質粉末を積層造形用粉末として用いる場合の平均粒径は、10〜100μmでかつD90が150μm以下である。しかし、10μm未満では、微粉化により粉末の流動性が低下し、100μmを超えると充填率が低下し、造形体の密度が低下する。D90が150μmを超えると積層造形時に粉末の一部が溶け残って焼結され、欠陥として残存するため、D90を150μm以下とする。」

(イ)「【0033】
以下、本発明に係る実施例によって具体的に説明する。
表1〜3に示す供試材の作製に当たり、ガスアトマイズ法により所定の成分の粉末を作製し63μm以下に分級した。ガスアトマイズは、真空中にてアルミナ製坩堝で所定の配分となる様にした原料を高周波誘導加熱で溶解し、坩堝下の直径5mmのノズルから溶融した合金を落下させ、これに高圧アルゴンまたは高圧窒素を噴霧することで実施した。これを原料粉末とし、3次元積層造形装置(EOS−M280)を用いて角10mmのブロックを作製した。その供試材についての不純物S、Nの造形時割れに対する影響を詳細に評価した。その時の割れ数、相対密度に対する挙動を評価し、表1〜3に示す。」

オ 甲B5の記載事項
本願の出願前に公知となった甲B5には、「球状金属酸化物粉末、その製造方法及び用途」(発明の名称)に関し、以下の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、表面が緻密な成形焼結体の製造が容易な金属酸化物粉末、特にシリカ粉末又はアルミナ粉末及びその製造方法を提供することである。また、本発明の他の目的は、本発明の球状金属酸化物粉末を用いて製造された、平滑性の高められた金属酸化物焼結体、薄膜の多層基板に対しても充填性及び電気的特性とが高められた樹脂基板及び狭隙充填性が高められた電子部品の封止材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、金属粉末及び/又は金属酸化物粉末の火炎による熱処理物であって、平均粒子径0.1〜2μm、比表面積2〜30m2/g、15μm以上の粗大粒子数が300個/g以下であることを特徴とする球状金属酸化物粉末である。この場合において、15μm以上の金属粒子数が10個/g以下であること、球状金属酸化物粉末がシリカでありアルミナ、酸化鉄、酸化ナトリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウムの含有量がそれぞれ50ppm以下であること、球状金属酸化物粉末がアルミナでありシリカ、酸化鉄、酸化ナトリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウムの含有量がそれぞれ50ppm以下であることが好ましい。」

(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲B2発明とを対比する。
(ア)甲B2発明の「交互積層技術を使用する金属間化合物製の立体的製品を大量生産する方法に用いられる」「金属間化合物の粉末」は、「実質的に球状の粒子を形成するようにガスアトマイジング法を介して得られたもの」であるから、本件特許発明1の「粉末積層造形に用いる造形用材料」であって、これを構成する「金属粉末(ただし、造粒粉末を除く。)」に相当する。

(イ)そうすると、本件特許発明1と甲B2発明とは、
「粉末積層造形に用いる造形用材料であって、
金属粉末(ただし、造粒粉末を除く。)で構成されている、造形用材料。」
である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点6>
本件特許発明1の「金属粉末」は、「レーザ回折・散乱法に基づく体積基準の平均粒子径が20μm以上130μm以下であ」るのに対して、甲B2発明の「金属間化合物の粉末」は、「20〜150μm、より好ましくは、約70μmの粒径を有」するものではあるものの、当該粒径が、「レーザ回折・散乱法に基づく体積基準の平均粒子径」であるか否かは不明な点。

<相違点7>
本件特許発明1の「金属粉末」は、「粒子径が45μmを超える粒子の積算質量が全体の0.5質量%以上45質量%以下であ」るのに対して、甲B2発明の「金属間化合物の粉末」において、「粒子径が45μmを超える粒子の積算質量」が全体のどの程度の割合かは不明な点。

<相違点8>
本件特許発明1の「造形用材料」は、「電子顕微鏡観察に基づく粒子径が20μm以下の粒子の数が全体の15個数%以下である」のに対して、甲B2発明の「金属間化合物の粉末」に含まれる「電子顕微鏡観察に基づく粒子径が20μm以下の粒子の数」が全体のどの程度の割合かは不明な点。

イ 相違点についての判断
事案に鑑みて、上記相違点8について、まず検討する。
(ア)上記1(1)ウに摘記した事項を含む甲B2の記載を参照しても、甲B2には、「電子顕微鏡観察に基づく粒子が20μm以下の粒子の数」についての明示的な記載は見当たらない。

(イ)また、上記1(1)ウに摘記したとおり、甲B2の【0036】には、「混合物の粉末は、粒径20〜150μmを有する。この粒径より小では、粉末は細かすぎ、公知の自己発火現象のため爆発を生ずることがあり、一方、この範囲より大では、製造される製品の表面粗さにおける過剰な増大がある。」旨記載されているものの、上記1(2)イ(カ)bにおいて検討したとおり、甲B2(甲A2と同じ)の上記粉末であっても、粒子径が20μm以下の粒子が全く含まれていないとか、15個数%以下であるとは認められない。

(ウ)したがって、上記相違点8は、実質的な相違点である。

(エ)そこで、上記相違点8の容易想到性について検討する。
a 上記1(1)ウに摘記した甲B2の記載事項を参照しても、甲B2発明の「金属間化合物の粉末」について、本件特許発明1のように「電子顕微鏡観察に基づく粒子径が20μm以下の粒子の数」に着目して、これを全体の所定割合以下とすることが示唆されているとはいえない。

b また、上記(1)ウ〜オに摘記した甲B3〜甲B5の記載事項を参照しても、甲B2発明の「金属間化合物の粉末」において、「電子顕微鏡観察に基づく粒子径が20μm以下の粒子の数」に着目して、これを全体の所定割合以下とする動機付けを見いだせない。

c したがって、甲B2発明において、上記相違点8に係る特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

(オ)よって、上記相違点6、7について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲B2に記載された発明及び甲B3、甲B4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件特許発明2、3について
本件特許発明2、3は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、上記(2)イ(オ)のとおり、本件特許発明1が甲B2に記載された発明及び甲B3、甲B4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、同様に、甲B2に記載された発明及び甲B3、甲B4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)小括
以上のとおり、本件特許発明1〜3は、甲B2に記載された発明及び甲B3、甲B4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえないから、申立理由B−2−2によっては同発明に係る特許を取り消すことはできない。

4 申立理由B−2−3(進歩性)について
(1)甲B3に記載された発明
上記3(1)ウに摘記した甲B3の記載事項を総合勘案し、特に、[0037]、[0039]に記載された金属粉末材料に着目すると、甲B3には、次の発明が記載されていると認められる。

「電子ビーム積層造形の用途に有益である金属粉末材料であって、40〜120ミクロンの粒子サイズ分布(すなわち、実質的に全ての粉末粒子の粒子サイズが40〜120ミクロンの範囲に入る)を有する、金属粉末材料。」(以下、「甲B3発明」という。)

(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲B3発明とを対比する。
(ア)甲B3発明の「電子ビーム積層造形の用途に有益である金属粉末材料」は、本件特許発明1の「粉末積層造形に用いる造形用材料」であって、これを構成する「金属粉末」に相当する。

(イ)そうすると、本件特許発明1と甲B3発明とは、
「粉末積層造形に用いる造形用材料であって、
金属粉末で構成されている、造形用材料。」
である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点9>
本件特許発明1の「造形用材料」を構成する「金属粉末」から造粒粉末は除かれているのに対して、甲B3発明の「金属粉末材料」が造粒粉末を含むものか否かは不明な点。

<相違点10>
本件特許発明1の「金属粉末」は、「レーザ回折・散乱法に基づく体積基準の平均粒子径が20μm以上130μm以下であ」るのに対して、甲B3発明の「金属粉末材料」は、「40〜120ミクロンの粒子サイズ分布(すなわち、実質的に全ての粉末粒子の粒子サイズが40〜120ミクロンの範囲に入る)を有する」ものではあるものの、当該粒子サイズが、「レーザ回折・散乱法に基づく体積基準の平均粒子径」であるか否かは不明な点。

<相違点11>
本件特許発明1の「金属粉末」は、「粒子径が45μmを超える粒子の積算質量が全体の0.5質量%以上45質量%以下であ」るのに対して、甲B3発明の「金属粉末材料」において、「粒子径が45μmを超える粒子の積算質量」が全体のどの程度の割合かは不明な点。

<相違点12>
本件特許発明1の「造形用材料」は、「電子顕微鏡観察に基づく粒子径が20μm以下の粒子の数が全体の15個数%以下である」のに対して、甲B3発明の「金属粉末材料」に含まれる「電子顕微鏡観察に基づく粒子径が20μm以下の粒子の数」が全体のどの程度の割合かは不明な点。

イ 相違点についての判断
事案に鑑みて、上記相違点12について、まず検討する。
(ア)上記3(1)ウに摘記した事項を含む甲B3の記載を参照しても、甲B3には、「電子顕微鏡観察に基づく粒子が20μm以下の粒子の数」についての明示的な記載は見当たらない。

(イ)また、上記(1)のとおり、甲B3発明の「金属粉末材料」は、「40〜120ミクロンの粒子サイズ分布(すなわち、実質的に全ての粉末粒子の粒子サイズが40〜120ミクロンの範囲に入る)を有する」ものではあるが、どのような手段によりこのような粒子サイズ分布の金属粉末材料を得たのかは、甲B3の記載を参照しても明らかではなく、本件明細書の【0043】の「粒子径が20μm以下の粒子は、上記のふるい分け試験のときには、より粗大な粒子の表面に付着する等して分級され難いレベルの粒子である。」との記載も考慮すると、甲B3発明の上記金属粉末材料であっても、「実質的に全ての粉末粒子の粒子サイズが40〜120ミクロンの範囲に入る」というにすぎず、粒子径が20μm以下の粒子が全く含まれていないとか、15個数%以下であるとは認められない。

(ウ)したがって、上記相違点12は、実質的な相違点である。

(エ)そこで、上記相違点12の容易想到性について検討する。
a 上記3(1)ウに摘記した甲B3の記載事項を参照しても、甲B3発明の「金属粉末材料」について、本件特許発明1のように「電子顕微鏡観察に基づく粒子径が20μm以下の粒子の数」に着目して、これを全体の所定割合以下とすることが示唆されているとはいえない。

b また、上記1(1)ウに摘記した甲B2の記載事項や、上記3(1)エ、オに摘記した甲B4、甲B5の記載事項を参照しても、甲B3発明の「金属粉末材料」において、「電子顕微鏡観察に基づく粒子径が20μm以下の粒子の数」に着目して、これを全体の所定割合以下とする動機付けを見いだせない。

c したがって、甲B3発明において、上記相違点12に係る特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

(オ)よって、上記相違点9〜11について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲B3に記載された発明及び甲B2、甲B4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件特許発明2、3について
本件特許発明2、3は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、上記(2)イ(オ)のとおり、本件特許発明1が甲B3に記載された発明及び甲B2、甲B4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、同様に、甲B3に記載された発明及び甲B2、甲B4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)小括
以上のとおり、本件特許発明1〜3は、甲B3に記載された発明及び甲B2、甲B4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえないから、申立理由B−2−3によっては同発明に係る特許を取り消すことはできない。

5 申立理由B−3(サポート要件)について
(1)本件明細書の記載事項
本件明細書には、以下の記載がある。
ア 「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで最近になって、造形速度の高速化、造形装置の設置面積の縮小等を目的として、貯留槽を造形槽の上方に設け、粉末材料を造形槽の下部から重力落下させて造形槽に供給するタイプの粉末積層造形装置が提供されている(例えば、特許文献3)。この種の粉末積層造形装置においては、例えば、貯留槽と造形槽とが水平方向に相対的に移動可能に構成されている。そして貯留槽の上方を造形槽が移動しながら粉末材料を落下させ、落下した粉末材料をスキージにより平坦化している。粉末材料の薄層の厚みは、例えば30〜100μm程度と薄く、貯留槽の下部に設けられる粉末材料の供給口は粉末材料を少量ずつ供給できるように比較的狭いものとなる。したがって、材料の供給方式が、従来の押出供給式の積層造形装置で使用されていた粉末材料を、落下供給式の積層造形装置にそのまま用いると、供給口で目詰まりを起こしたり、供給量にムラが発生し易くなるという、これまでに無い新たな問題が発生していた。また、この目詰まり等の問題は、繰り返し造形を行い、造形に寄与しなかった粉末材料を再利用する頻度が高まるほど、顕在化し易かった。さらに、貯留槽からの粉末材料の供給量にムラが生じて一定でない場合は、スキージにより粉末材料を均しても薄層にもムラが発生してしまい、造形精度の低下を免れないという問題もあった。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、例えば、落下供給式の貯留槽から供給する場合であっても供給が良好に行えるように流動性が改善されている、粉末積層造形に用いるための粉末状の造形用材料を提供することにある。」

イ 「【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するものとして、ここに開示される技術は、粉末積層造形に用いる造形用材料を提供する。この造形用材料は、金属材料および無機材料からなる群から選択される少なくとも1種からなる粉末を含み、粒子径が45μmを超える粒子の積算質量が全体の0.5質量%以上であり、電子顕微鏡観察に基づく粒子径が20μm以下の粒子の数が全体の15個数%以下である。
【0008】
従来の積層造形用の粉末材料は、一般的な粉砕と分級とにより粒度調整が為されている。本発明者らの検討によると、これらの粉末には、非常に微細な粒子が不可避的に存在している。その微細な粒子は、例えば、体積や重量等を基準にするとその割合は全体のごく僅か(例えば約3%以下)でしかない。しかしながら、粉体の平均粒径に依らずその存在は、粉体の流動性を考慮した場合に大きな影響を与え得ることを知見した。そこで、ここに開示される技術では、この流動性に影響を与え得る、粒子径が20μm以下の微細な粒子の割合を、個数基準で15%以下と少量に制限するようにしている。これにより、例えば、落下供給式の粉末積層造形装置に用いる場合であっても、粉末供給時の造形用材料の目詰まり等の発生を抑制することができる。その結果、造形テーブル上に形成される一層の粉末材料層の均質性、表面平坦性を改善することができる。このことにより、粉末積層造形に適した好適な流動性を備える造形用材料が提供される。
【0009】
ここに開示される技術の好ましい態様において、上記粉末は、レーザ回折・散乱法に基づく体積基準の平均粒子径が20μm以上130μm以下である。これにより、汎用されている造形装置において、造形精度の高い造形を可能とする造形用材料が提供される。
【0010】
ここに開示される技術の好ましい態様において、上記粉末は、粒子径が45μmを超える粒子の積算質量が全体の45質量%以下である。金属材料やセラミック材料は、樹脂材料と比較して、例えば、電子線やレーザ光等のエネルギーが供給されたときに溶融され難い。そこで上記のように粗大な粒子の割合を制限することで、溶融され易く、緻密な造形物の造形が可能な造形用材料が提供される。その結果、例えば、レーザ走査速度を高めて、短時間での造形が可能な造形用材料が提供される。」

ウ 「【0018】
(造形用材料)
ここに開示される「造形用材料」は、粉末積層造形に用いるための粉末状の材料である。粉末積層造形とは、付加製造技術において造形物の材料として粉末状の材料を用いる各種の造形手法を広く包含する。具体的には、例えば、バインダジェット法に代表される結合材噴射(Binder jetting)法、レーザ肉盛り溶接,電子ビーム肉盛り溶接,アーク溶接等に代表される指向性エネルギー堆積(Directed energy deposition)法、レーザ焼結法,レーザ選択焼結(Selective Laser Sintering:SLS)法,電子ビーム焼結法等に代表される粉末床溶融結合(Powder bed fusion)法等と呼ばれるものが含まれる。この造形用材料は緻密な造形物の造形に好適であるとの観点から、指向性エネルギー堆積法、粉末床溶融結合法を採用することがより好ましい。
【0019】
本発明者らは、従来の粉末の造形用材料の流動性について鋭意研究を重ねた結果、以下の事項について知見した。すなわち、従来の造形用材料は、典型的には造形品質を確保する目的で、要求される造形精度(例えば1層ごとの造形厚み)に応じて、粉砕機等による粉砕や、振動ふるい機等によるふるい分けなどによる粒度調整が一般に行われていた。例えば、積層造形用の金属粉末の粒度は、一般的には、−45+15μm(すなわち、45μmよりも小さく、15μmよりも大きい)程度に調整されている。その結果、かかる粒度調整が施された造形用材料の粒度分布(頻度分布)は、例えば、理想的には、中央付近は正規分布に近い形状を有し、大粒径側と小粒径側とで粒子がカット(除去)されることにより頻度が低減された形状を示すものであり得た。なお、工業的に生産される造形用材料の粒度分布の管理については、一般的に、レーザ回折・散乱法に基づき体積基準の粒度分布が採用されている。しかしながら、本発明者らの詳細な観察の結果、従来の造形用材料においては、粒度調整が施されたものであっても、施されていないものであっても、例えば、電子顕微鏡で観察した場合に、微細な粒子が多数存在していることが確認できるものであった。そして、本発明者らが粒度調整の手法を種々検討し、かかる微細な粒子を選択的に除去した結果、造形用材料の流動性が劇的に改善されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0020】
ここに開示される造形用材料は、金属材料および無機材料からなる群から選択される少なくとも1種からなる粉末を含んでいる。そして、この粉末における粒子径が45μmを超える粒子の積算質量が全体の0.5質量%以上であり、電子顕微鏡観察に基づく粒子径が20μm以下の粒子の数が全体の15個数%以下である。
【0021】
(金属材料)
金属材料は本質的に金属を含む。金属材料を含む粉末は、典型的には、主成分として金属を含む。ここでいう主成分とは、当該金属材料含有粉末の70質量%以上を占める成分を意味する。金属材料含有粉末は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上(典型的には98質量%以上)が金属からなることが好ましい。
【0022】
金属としては特に制限されず、例えば、各種の金属元素の単体や、これらの元素と他の1種以上の元素とからなる合金等であってよい。・・・」

エ 「【0037】
(粗大粒子割合)
上記粉末は、粒子径が45μmを超える粒子の積算質量(質量割合)が全体の0.5質量%以上である。これにより、粉末を全体として、粉末積層造形に適したある程度大きな粒子を含むものとして把握することができる。この粒子径が45μmを超える粒子の割合は、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上が特に好ましい。造形精度向上の観点からは、45μmを超える粒子の割合は、例えば、45質量%以下とすることがよい。
【0038】
なお、この45μmを超える粒子の割合は、目開き45μmのふるいを用いたふるい分け試験により好ましく把握することができる。ふるい分け試験は、例えば、JIS Z8815:1994に規定される乾式ふるい分けに準じて実施することができる。
【0039】
(平均粒子径)
上記粉末の平均粒子径は特に制限されず、例えば、使用する粉末積層造形装置の規格に適した大きさとすることができる。例えば、粉末積層造形における一層分の造形用材料の供給に適した大きさであり得る。粉末の平均粒子径の上限は、より大きいものとする場合には、例えば、130μm超過とすることができるが、典型的には130μm以下とすることができ、好ましくは100μm以下、より好ましくは75μm以下、さらに好ましくは50μm以下、特に好ましくは45μm以下、例えば40μm以下とすることができる。この粉末は、平均粒子径が小さくなるにつれて、例えば粉末積層造形装置の造形槽内での充填率が向上し得る。その結果、造形される三次元造形物の緻密度を好適に増すことができる。また、造形される三次元造形物の表面粗さ(Ra)を小さくできるとともに、寸法精度を向上させるという効果を得ることもできる。
【0040】
また、粉末の平均粒子径の下限は、造形用材料の流動性に影響を与えない範囲であれば特に制限されない。必ずしもこれに限定されるものではないが、後述の20μm以下の粒子の数を制限するとの観点から、平均粒子径は、例えば、23μm以上が好ましく、さらには25μm以上が好ましく、例えば30μm以上等とすることができる。平均粒子径を比較的大きくすることで、例えば、造形物を形成する際のハンドリングや造形用材料の流動性を全体として高めることができる。その結果、造形装置への造形用材料の供給を良好に実施することができ、作製される三次元造形物の仕上がりが良好となるために好ましい。なお、ここでいう流動性とは、主に、移送性、施工性(敷き詰め性)を意図している。粉末がこのような平均粒子径を有することで、粒子径が45μmを超える粒子の割合について、上記の要件を容易に満たすことができる。
【0041】
なお、上記粉末についての「平均粒子径」は、特筆しない限り、レーザ回折・散乱法に基づく粒度分布測定装置により測定される体積基準の粒度分布における累積50%における粒子径(50%体積平均粒子径;Dv50%)とすることができる。
【0042】
(微細粒子の個数割合)
そしてここに開示される粉末は、電子顕微鏡観察に基づく粒子径が20μm以下の粒子の数が全体の15個数%以下に規定されている。こ発明者らの検討によると、一般的な粒度調整を施され、粒子径が45μmを超える粒子の割合が0.5質量%以上との要件を満たすような各種の粉末においては、粒子径が20μm以下程度の粒子がより粗大な粒子と接触したときに、当該粗大な粒子間に挟み込まれるなどして、粗大粒子が流動しようとしたときにその動きを阻害し易くなると考えられる。したがって、流動性の低下に大きな影響を及ぼし得る20μm以下の微細な粒子の数を15個数%以下に制限することで、粉末の流動性を確実かつ飛躍的に高めることができる。20μm以下の微細な粒子の個数は、12個数%以下が好ましく、10個数%以下がより好ましく、8個数%以下がさらに好ましく、5個数%以下が特に好ましく、例えば3個数%以下とすることができる。
【0043】
なお、この粒子径が20μm以下の粒子は、上記のふるい分け試験のときには、より粗大な粒子の表面に付着する等して分級され難いレベルの粒子である。また、かかる微小な粒子は、上述のレーザ回折・散乱法やふるい分け試験等のように体積基準および質量基準で評価すると、その寸法が微小であるが故に頻度(体積および質量等)が無視し得るほどに小さく計測される。そこで、ここに開示される技術においては、電子顕微鏡観察に基づいて、かかる粒子径が20μm以下の微細な粒子を、その数で把握するようにしている。
【0044】
なお、参考までに、一般的な粒度調整が施され、粒子径が45μmを超える粒子の割合が0.5質量%以上との要件を満たすような各種の粉末において、20μm以下の微細な粒子は、例えば約5体積%以下であったり、5質量%以下であったりし得る。これに対し、20μm以下の微細な粒子を個数基準で評価すると、その割合は、おおよそ20〜50個数%という高い割合になり得る。この点において、ここに開示される造形用材料は、従来の一般的な粒度調整を施された粉末と明確に区別される。
【0045】
なお、粒子径が20μm以下の粒子についての「粒子径」は、一般的な電子顕微鏡による観察に基づき測定される粒子径である。本明細書においては、倍率が200倍の観察像を基に測定される円相当径を採用している。電子顕微鏡としては特に制限されないが、この種の分析に汎用されている走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、マイクロスコープ等を使用することができる。円相当径の算出に際しては、例えば、適切な画像解析ソフトを利用してもよい。
【0046】
また、電子顕微鏡観察に基づいて粒子径が20μm以下の粒子の個数を、厳密にすべて測定するのは困難であり、過度な負担となり得る。さらに、使用する電子顕微鏡や観察像の解像度等によってカウントできる粒子の大きさの下限にバラつきが生じるのは好ましくない。そして粒子径が20μm以下の粒子であっても、十分に微小な粒子については、粗大な粒子の流動を阻害する作用が小さいと考えられる。したがって、例えば上記のとおり倍率が200倍の観察像を用いて粒子径が20μm以下の粒子の個数を計測する場合、例えば、粉末を構成する粒子のうち、粒子径が1μm以上のものを計測の対象とすることができる。また、20μm以下の粒子の個数をカウントする場合も、粒子径が1μm以上の粒子を確認できる程度の解像度の観察像を使用することができる。
【0047】
以上の造形用材料は、典型的には、原料としての金属および/またはセラミックを含む粉末の粒度を適切に調整することで用意することができる。ここで、原料としての粉末の製造方法は特に制限されないが、粉末の外形は製造方法によって特徴的であり得る。一般に、球形化処理が施されていない金属またはセラミックは、その製造方法に由来していびつな形状を有しやすい傾向がある。例えば、粉末の工業的な製造方法として、代表的には、粉砕法、プラズマアトマイズ法、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、パウダースプレー法および造粒法等が挙げられる。これらのうち、プラズマアトマイズ法は概ね球形に近い粒子が得られるものの、比較的コストが高いという欠点がある。その他の各粉末製造方法では、比較的低コストであるという利点があるものの、いびつな形状の粉末が得られ易い。とりわけ、粉砕物であるセラミック粉末を含む場合は、結晶面に沿って破砕されているためにその傾向が強くなる。また、ガスアトマイズ法や水アトマイズ法等により製造された金属粉末を含む場合は、勾玉状の粒子が形成されたり、粗大粒子の表面に微小な粒子が強固に付着した形状の粒子が形成されたりする。その結果、粉末の流動性は相対的に低減される。しかしながら、ここに開示される技術によると、上記のとおりの粒度調整により、かかる形態が非球形の粒子からなる粉末においても、好適にその流動性を高めることができる。かかる観点において、ここに開示される造形用材料は、プラズマアトマイズ法により製造された粉末はもちろんのこと、粉砕法、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、パウダースプレー法および造粒法により製造された粉末についても好ましく対象とすることができる。
【0048】
(造形用材料の製造方法)
本実施形態における造形用材料は、上述のように、例えば一般的な粉末材料や、積層造形用粉末として提供されている造形用材料等をより適切に粒度調整することで用意することができる。粒度調整の手法としては、例えば、まず、所望の組成からなる粉末を含む原料粉末を用意する。このとき、原料粉末は、粒子径が45μmを超える粒子の積算質量が概ね全体の0.5質量%以上となるように予備的に粒度調整を施しておいてもよい。かかる粒子の割合が元から概ね全体の0.5質量%以上である原料粉末を入手した場合は、特に予備調整の必要はない。次いで、この原料粉末から、粒子径が20μm以下の微細な粒子を除去する分級を実施する。これにより、上記のとおり、20μm以下の粒子の割合が15個数%以下となるように分級することができる。
【0049】
分級(微細粒子の除去)の方法は等に制限されず、例えば、湿式法または乾式法のいずれであっても採用することができる。さらに、具体的な分級方法としては、例えば、重力による粒子の落下速度や落下位置の違いを利用する分級手法や、粉体を含む流体を旋回させて遠心力を作用させることを利用する分級手法などを好ましく採用することができる。例えば、一例として、粗大粒子に対しては遠心力を強く作用させ、微細粒子に対しては遠心力を抑制させて、両者を臨界粒子径にて分級する遠心分級法や、上述の遠心力と慣性力とを組み合わせた慣性分級方式等を採用することができる。なお、この分級工程においては、上記のとおり、20μm以下の微細な粒子を選択的に除去するとの目的をもって、種々の分級条件を制御することができる。これにより、ここに開示される造形用材料を得ることができる。」

オ 「【0059】
[実施例]
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明を以下の実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0060】
積層造形用粉末として市販されている、SUS316Lからなる造形用粉末を4種類用意した。これらの造形用粉末は、いずれもガスアトマイズ法で製造されており、所定の金属3Dプリンタ用に粒度が調整されたものである。以下、この入手したままの造形用粉末を、原料粉末という場合がある。
【0061】
また、用意した4種類の造形用粉末のそれぞれについて、分級処理条件を調整しながら分級を行い、20μm以下の粒子を除去する処理を施し、処理済みの造形用粉末を得た。分級処理は、高速旋回気流中に粉末を供給することにより粗粉と細粉とをその重力差を利用して分離する気流分級機(試作機)を用いた。
【0062】
以上の、入手したままの各粉末(原料粉末)と処理後の粉末とのそれぞれについて、以下の試験及び評価を行い、その結果を下記の表1に示した。
【0063】
先ず、各粉末について、レーザ回折/散乱式粒度測定器(株式会社堀場製作所製、LA−300)を用いて粒度を測定した。そしてこれにより得られた体積基準に基づく累積50%粒径(Dv50%)および累積3%粒径(Dv3%)を調べた。なお、ここでいう累積3%粒径とは、体積基準の粒度分布において、粒子径の小さい側から数えて3体積%目に位置する粒子の粒子径を意味する。
【0064】
次いで、各粉末を100gずつ用意し、目開き45μmのステンレスふるいを用いてふるい分けした後、ふるい上に残った粉末の質量を測定することで、粒子径が45μmを超える粒子の割合(質量%)を算出した。なお、ステンレスふるいとしては、JIS Z8801−1:2006の規定に適合する試験用ふるいを使用した。【0065】
また、各粉末についてSEM観察を行い、倍率が200倍の画像において粒子径が20μm以下でかつ1μm以上の粒子の数と、粒子径が20μmを超える粒子の数とを数え、粒子全体に占める粒子径が20μm以下の粒子の数の割合を算出した。参考のために、図1および図2に、平均粒子径(Dv50%)が41.2μmの原料粉末(比較例3)と、その分級処理後の粉末(実施例3)のSEM像をそれぞれ例示した。なお、粒子径の測定には、粉末を構成する各粒子が重ならないように分散させた状態の観察像を用意し、画像解析ソフト(Media Cybernetics社製、Image−Pro)を用い、粒子1つの面積値から算出される同面積の円の直径(円相当径)を採用した。
【0066】
さらに、原料粉末と処理後の粉末とのそれぞれについて、施工性および流動性の評価を行い、その結果を下記の表1に併せて示した。
【0067】
まず、施工性の評価は、粉末積層造形装置を用い、造形テーブルに各粉末を供給して得られた粉末層の表面を観察することで行った。具体的には、三次元粉末光造形装置として、レーザ焼結型の三次元粉末光造形装置(株式会社松浦機械製作所製、LUMEX Avance−25)を用い、造形槽の上方に渡し架けられたライン状の粉末供給装置に、各粉末を所定量貯留した。この粉末供給装置は、下部に設けられた供給口から貯留している粉末を順次落下させながら、造形槽の上方を水平方向に移動し、造形槽の上方を横断する。また同時に、供給装置には、供給口の移動方向の前方および後方にスキージブレードが設けられており、供給装置が移動することで、造形槽に供給した粉末をこのスキージブレードによって平坦化する。そこで、粉末の供給条件を、供給装置の移動およびスキージ速度を1m/分とし、粉末の供給厚みを0.5mmとして、造形槽内の造形テーブル上に各粉末を供給した。
【0068】
また、このようにして得られた粉末層の表面を目視で観察し、スキージング方向に線状の擦り後が形成されているかどうかを観察した。その結果を、表面に擦り後が見られなかった場合を○とし、擦り後が見られた場合を×として表1に示した。
【0069】
また、供給装置における流動性を評価するために、JIS Z2502:2012に規定される「金属粉−流動度測定方法」に準じて、粉末の流動度を測定した。具体的には、試験用の漏斗を漏斗支持器に固定し、オリフィスを塞いだ状態で50gの粉末を漏斗に供給した。その後、オリフィスを解放し、粉末がオリフィスから全て流れ出るかどうかを確認した。その結果、粉末が全て流れ出た場合を「流れる」とし、粉末が全く流れ出ない場合を「流れない」と評価し、表1に示した。
【0070】
【表1】



カ 「【0074】
そして、施工性については、原料粉末を用いた場合は全ての例(比較例1〜4)で粉末層の表面にスジが確認できたものの、処理後の粉末を用いた場合は全ての例(実施例1〜4)で粉末層の表面にスジが確認できなかった。このことから、20μm以下の粒子を厳密に除去する分級によって、粉末積層造形の精度が高められることが確認できた。
【0075】
また、流動性についても、原料粉末を用いた場合は全ての例(比較例1〜4)で漏斗から粉末が流出されなかったのに対し、処理後の粉末を用いた場合は全ての例(実施例1〜4)で粉末がオリフィスをスムーズに通過して漏斗から流出することが確認できた。このことから、20μm以下の粒子を厳密に除去する分級によって、例えば漏斗のような先すぼみの形状を通過する際の詰まりや引っ掛かりが抑制され、粉末の流動性が著しく高められることが確認できた。
【0076】
以上の結果は、原料粉末の平均粒子径に因ることなく、20μm以下の粒子を厳密に除去することにより達成されている。これは、粉末の流動性に関して、ちょうど20μm以下あるいはこの近傍の大きさの粒子が、より大きな粒子を絡み合わせるトリガーとして作用していると考えられる。そのため20μm以下の粒子の割合を15個数%以下に抑えることで、造形用材料の流動性および施工性を好適に改善できたと考えられる。」

(2)サポート要件充足性についての判断
ア 上記(1)アに摘記した本件明細書の【0005】〜【0006】の記載を考慮すると、本件特許発明が解決しようとする課題は、例えば、落下供給式の貯留槽から供給する場合であっても供給が良好に行えるように流動性が改善されている、粉末積層造形に用いるための粉末状の造形用材料を提供することであると認められる。

イ そして、上記(1)イ〜カに摘記した本件明細書の【0008】、【0019】、【0042】、【0059】〜【0070】、及び【0074】〜【0076】の記載を考慮すると、上記アの課題は、粉末積層造形に用いる造形用材料において、流動性の低下に大きな影響を及ぼし得る20μm以下の微細な粒子の数を15個数%以下に制限することで、その流動性を改善することで、解決できると理解できる。

ウ そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」は、粉末積層造形に用いる造形用材料において、流動性の低下に大きな影響を及ぼし得る20μm以下の微細な粒子の数を15個数%以下に制限することにあるといえる。

エ 一方、上記第2に摘記したとおり、本件特許発明1〜3は、いずれも「電子顕微鏡観察に基づく粒子径が20μm以下の粒子の数が全体の15個数%以下である」点を発明特定事項として備えているから、「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」内のものである。

オ この点につき、申立人大澤は、
(ア)本件明細書の実施例の項にて、課題についての「流動性」の評価が行われたのは、「金属粉末」のうち、「SUS316Lからなる造形用粉末」のみであり(【0060】)、また、「流動性」には、粉末を構成する粒子の比重ないし重量や表面性状、粒子どうしの摩擦特性等が影響すると解され、粒子の比重や表面性状、摩擦特性は、粒子の金属ないし合金の材質によって大きく異なるから、本件特許発明1に含まれる、SUS316L以外の種々の金属種ないし合金種の粉末のいずれにおいても、本件特許発明1で特定された粒径のみに関する条件を満たすことで「流動性」がSUS316Lと同様に改善するとは到底解されないこと(特許異議申立書第18頁第15行〜第19頁第20行)、

(イ)本件明細書の実施例における「流動性」の評価について、粉末が全て流れ出た場合を「流れる」とし、粉末が全く流れ出ない場合を「流れない」と評価しているが、実施例1〜4の粉末と比較例1〜4の粉末との粒径の僅かな違いで、粉末が全て流れるか又は全く流れないかという両極端な評価結果になるとは解されず、また、JIS Z2502:2012のように粉末を充填した漏斗でオリフィスを開いたときから最後の粉末がオリフィスを離れるときまでの通過時間を測定するのではなく、「流れる」か「流れない」かの二極的な評価をしていることについても疑義があるから、そのような客観的妥当性に欠ける評価によっては、本件特許発明1〜3が「流動性」についての課題を解決することができるとは認められないこと(特許異議申立書第19頁第21行〜第20頁第23行)、

をそれぞれ主張している。

カ そこで上記オの各主張について検討する。
(ア)上記オ(ア)の主張について
上記(1)エに摘記したとおり、本件明細書の【0042】には、流動性が低下する機序について、「一般的な粒度調整を施され、粒子径が45μmを超える粒子の割合が0.5質量%以上との要件を満たすような各種の粉末においては、粒子径が20μm以下程度の粒子がより粗大な粒子と接触したときに、当該粗大な粒子間に挟み込まれるなどして、粗大粒子が流動しようとしたときにその動きを阻害し易くなると考えられる。したがって、流動性の低下に大きな影響を及ぼし得る20μm以下の微細な粒子の数を15個数%以下に制限することで、粉末の流動性を確実かつ飛躍的に高めることができる。」と記載されており、この記載からは、所定の粒子の数を制限すれば流動性が高まること、そのような傾向は、粒子の種類が異なっても、程度の差はあれ、同様であると理解できる。
したがって、上記オ(ア)の主張は採用しない。

(イ)上記オ(イ)の主張について
本件明細書の実施例における「流動性」の評価について、実際に「流れない」という結果であれば、通過時間を測定できないのは当然であり、「流れない」という結果に対して、「流れる」場合にあえて通過時間を測定する必要もないことも自明であり、このような結果が、直ちに客観的妥当性に欠ける評価とはいえない。
したがって、上記オ(イ)の主張は、根拠を欠くものであるから、採用しない。

キ よって、本件特許発明1〜3は、発明の詳細な説明に記載したものといえる。

(3)小括
以上のとおり、本件特許の請求項1〜3の記載は、本件特許発明1〜3について、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであり、特許法第36条第6項第1号に適合するものであるから、申立理由B−3によっては同請求項に係る特許を取り消すことはできない。

6 申立理由B−4(明確性)について
(1)「電子顕微鏡観察に基づく粒子径が20μm以下の粒子の数が全体の15個数%以下である」点について
ア 本件特許の請求項1に記載された「電子顕微鏡観察に基づく粒子径が20μm以下の粒子の数が全体の15個数%以下である」点について、上記5(1)エ、オに摘記したとおり、本件明細書には、以下の記載がある。
「なお、粒子径が20μm以下の粒子についての「粒子径」は、一般的な電子顕微鏡による観察に基づき測定される粒子径である。本明細書においては、倍率が200倍の観察像を基に測定される円相当径を採用している。電子顕微鏡としては特に制限されないが、この種の分析に汎用されている走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、マイクロスコープ等を使用することができる。円相当径の算出に際しては、例えば、適切な画像解析ソフトを利用してもよい。」(【0045】)
「また、電子顕微鏡観察に基づいて粒子径が20μm以下の粒子の個数を、厳密にすべて測定するのは困難であり、過度な負担となり得る。さらに、使用する電子顕微鏡や観察像の解像度等によってカウントできる粒子の大きさの下限にバラつきが生じるのは好ましくない。そして粒子径が20μm以下の粒子であっても、十分に微小な粒子については、粗大な粒子の流動を阻害する作用が小さいと考えられる。したがって、例えば上記のとおり倍率が200倍の観察像を用いて粒子径が20μm以下の粒子の個数を計測する場合、例えば、粉末を構成する粒子のうち、粒子径が1μm以上のものを計測の対象とすることができる。また、20μm以下の粒子の個数をカウントする場合も、粒子径が1μm以上の粒子を確認できる程度の解像度の観察像を使用することができる。」(【0046】)
「また、各粉末についてSEM観察を行い、倍率が200倍の画像において粒子径が20μm以下でかつ1μm以上の粒子の数と、粒子径が20μmを超える粒子の数とを数え、粒子全体に占める粒子径が20μm以下の粒子の数の割合を算出した。参考のために、図1および図2に、平均粒子径(Dv50%)が41.2μmの原料粉末(比較例3)と、その分級処理後の粉末(実施例3)のSEM像をそれぞれ例示した。なお、粒子径の測定には、粉末を構成する各粒子が重ならないように分散させた状態の観察像を用意し、画像解析ソフト(Media Cybernetics社製、Image−Pro)を用い、粒子1つの面積値から算出される同面積の円の直径(円相当径)を採用した。」(【0065】)

イ そうすると、本件明細書の上記アの記載を参酌することにより、本件特許の請求項1に記載された「電子顕微鏡観察に基づく粒子径が20μm以下の粒子の数が全体の15個数%以下である」ことは、この種の分析に汎用されている走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、マイクロスコープ等を使用して、倍率が200倍で、粉末を構成する各粒子が重ならないように分散させた状態の観察像を用いて、粒子径が1μm以上20μm以下の粒子を計測の対象として、適切な画像解析ソフトを利用して円相当径の算出することにより、確認することができるといえる。

ウ この点につき、申立人大澤は、本件明細書中には、観察対象とする粒子の総個数(母集団)について何ら記載されておらず、観察対象の粒子個数を十分多くして再度測定を行った場合、「20μm以下の粒子の割合」が表1に示された数値になるかどうかについて疑義があるから、本件特許発明1〜3の「粒子径が20μm以下の粒子の数」が一義的に求められるものであると解されない旨主張している。

エ そこで、上記ウの主張について検討するに、粒子径が1μm以上20μm以下の粒子を計測するための観察像は、その倍率が「200倍」と特定されており、また、粉末を構成する各粒子が重ならないように分散させた状態のものであることから、観察視野の中に存在する粒子の数も自ずから特定されると考えられること、また、造形用材料中の不均一性に起因して、「粒子径が20μm以下の粒子の数」が観察対象とする領域によって異なることは想定されるとしても、そのような場合に複数の領域で観測して平均値を算出するなどの適切な操作を行うことは、本件特許発明の属する技術分野における常套手段にすぎないこと、を考慮すれば、本件明細書中に観察対象とする粒子の総個数(母集団)の記載がないからといって、本件特許発明1〜3の「粒子径が20μm以下の粒子の数」が一義的に求められることについての疑義が生じるとはいえない。
したがって、上記ウの主張は採用しない。

(2)請求項3の「前記金属粉末は、粉砕法、プラズマアトマイズ法、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、およびパウダースプレー法からなる群から選択されるいずれか1種の方法で製造されている」点について
ア 本件特許の請求項3には、物の発明である「造形用材料」について、「金属粉末は、粉砕法、プラズマアトマイズ法、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、およびパウダースプレー法からなる群から選択されるいずれか1種の方法で製造されている」と、その製造方法により特定する記載がある。

イ 一方、上記5(1)エに摘記した本件明細書の【0047】の「例えば、粉末の工業的な製造方法として、代表的には、粉砕法、プラズマアトマイズ法、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、パウダースプレー法および造粒法等が挙げられる。これらのうち、プラズマアトマイズ法は概ね球形に近い粒子が得られるものの、比較的コストが高いという欠点がある。その他の各粉末製造方法では、比較的低コストであるという利点があるものの、いびつな形状の粉末が得られ易い。とりわけ、粉砕物であるセラミック粉末を含む場合は、結晶面に沿って破砕されているためにその傾向が強くなる。また、ガスアトマイズ法や水アトマイズ法等により製造された金属粉末を含む場合は、勾玉状の粒子が形成されたり、粗大粒子の表面に微小な粒子が強固に付着した形状の粒子が形成されたりする。その結果、粉末の流動性は相対的に低減される。しかしながら、ここに開示される技術によると、上記のとおりの粒度調整により、かかる形態が非球形の粒子からなる粉末においても、好適にその流動性を高めることができる。かかる観点において、ここに開示される造形用材料は、プラズマアトマイズ法により製造された粉末はもちろんのこと、粉砕法、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、パウダースプレー法および造粒法により製造された粉末についても好ましく対象とすることができる。」との記載を参照すれば、本件特許発明3に係る「造形用材料」が、その製造方法により特定されているとしても、それぞれの製造方法に対応した所定の形状の金属粉末を有するものであることは、明確に把握することができる。

(3)小括
以上のとおり、本件特許の請求項1〜3の記載は、本件特許発明1〜3について、特許を受けようとする発明が明確であり、特許法第36条第6項第2号に適合するものであるから、申立理由B−4によっては同請求項に係る特許を取り消すことはできない。

7 申立理由B−5(実施可能要件)について
(1)本件特許発明1〜3の造形用材料の粒度調整について
ア 上記5(1)エに摘記したとおり、本件明細書の【0048】、【0049】には、造形用材料の粒度調整について、「粒度調整の手法としては、例えば、まず、所望の組成からなる粉末を含む原料粉末を用意する。このとき、原料粉末は、粒子径が45μmを超える粒子の積算質量が概ね全体の0.5質量%以上となるように予備的に粒度調整を施しておいてもよい。かかる粒子の割合が元から概ね全体の0.5質量%以上である原料粉末を入手した場合は、特に予備調整の必要はない。次いで、この原料粉末から、粒子径が20μm以下の微細な粒子を除去する分級を実施する。これにより、上記のとおり、20μm以下の粒子の割合が15個数%以下となるように分級することができる。・・・分級(微細粒子の除去)の方法は等に制限されず、例えば、湿式法または乾式法のいずれであっても採用することができる。さらに、具体的な分級方法としては、例えば、重力による粒子の落下速度や落下位置の違いを利用する分級手法や、粉体を含む流体を旋回させて遠心力を作用させることを利用する分級手法などを好ましく採用することができる。例えば、一例として、粗大粒子に対しては遠心力を強く作用させ、微細粒子に対しては遠心力を抑制させて、両者を臨界粒子径にて分級する遠心分級法や、上述の遠心力と慣性力とを組み合わせた慣性分級方式等を採用することができる。なお、この分級工程においては、上記のとおり、20μm以下の微細な粒子を選択的に除去するとの目的をもって、種々の分級条件を制御することができる。これにより、ここに開示される造形用材料を得ることができる。」との記載はあるが、遠心分級法や慣性分級方式等の分級手法を採用した際の具体的な条件は、明らかでない。

イ また、上記5(1)オに摘記したとおり、本件明細書の【0060】、【0061】には、本件特許発明の実施例について、「積層造形用粉末として市販されている、SUS316Lからなる造形用粉末を4種類用意した。これらの造形用粉末は、いずれもガスアトマイズ法で製造されており、所定の金属3Dプリンタ用に粒度が調整されたものである。以下、この入手したままの造形用粉末を、原料粉末という場合がある。・・・また、用意した4種類の造形用粉末のそれぞれについて、分級処理条件を調整しながら分級を行い、20μm以下の粒子を除去する処理を施し、処理済みの造形用粉末を得た。分級処理は、高速旋回気流中に粉末を供給することにより粗粉と細粉とをその重力差を利用して分離する気流分級機(試作機)を用いた。」との記載はあるが、原料粉末の粒径等の仕様や入手元、分級処理の具体的な条件は、明らかではなく、分級処理に用いられる「気流分流機」は「試作機」とされており、一般に入手できるものか否か明らかではない。

ウ しかしながら、本件明細書の【0049】の「例えば、一例として、粗大粒子に対しては遠心力を強く作用させ、微細粒子に対しては遠心力を抑制させて、両者を臨界粒子径にて分級する遠心分級法や、上述の遠心力と慣性力とを組み合わせた慣性分級方式等を採用することができる。なお、この分級工程においては、上記のとおり、20μm以下の微細な粒子を選択的に除去するとの目的をもって、種々の分級条件を制御することができる。」との記載に接した当業者であれば、本願出願時の技術常識を参照しつつ、一般に使用される遠心分級機や慣性分級方式を採用した分級機を用いて、20μm以下の微細な粒子を選択的に除去するための分級条件を最適化することに過度の試行錯誤を伴うとはいえず、本件特許発明1〜3を実施することができないとの疑義が生じるとまではいえない。

(2)したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件特許発明1〜3について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、特許法第36条第4項第1号に適合するものであるから、申立理由B−5によっては同発明に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、申立人神田、及び申立人大澤による特許異議の申立ての理由によっては、請求項1〜3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2022-07-29 
出願番号 P2017-072245
審決分類 P 1 651・ 537- Y (B22F)
P 1 651・ 121- Y (B22F)
P 1 651・ 536- Y (B22F)
P 1 651・ 113- Y (B22F)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 井上 猛
特許庁審判官 境 周一
粟野 正明
登録日 2021-10-05 
登録番号 6955354
権利者 株式会社フジミインコーポレーテッド
発明の名称 粉末積層造形に用いるための造形用材料  
代理人 安部 誠  
代理人 大井 道子  
代理人 谷 征史  

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