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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B32B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 B32B 審判 全部申し立て 特39条先願 B32B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B32B 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 B32B |
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管理番号 | 1387538 |
総通号数 | 8 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-08-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2022-04-13 |
確定日 | 2022-08-04 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6947249号発明「シーラント用途のポリエステルフィルム、積層体及び包装体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6947249号の請求項1〜7に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6947249号の請求項1〜7に係る特許についての出願は、平成28年3月18日に出願した特願2016−55075号の一部を令和2年6月18日に新たな特許出願としたものであって、令和3年9月21日にその特許権の設定登録がされ、令和3年10月13日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1〜7に係る特許について、令和4年4月13日に特許異議申立人西田聡子(以下「申立人」という。)により本件の特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1〜7に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明7」といい、総称して「本件発明」ということがある。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 エチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステル樹脂で構成され、厚みが3μm以上200μm以下で、下記要件(1)〜(6)を満たすことを特徴とするシーラント用途の共押出積層ポリエステル系フィルム。 (1)少なくとも1層のヒートシール層を有する、2つ以上の層から構成されており、フィルム面の少なくともどちらか一方の表層にヒートシール層を有する(但し、ヒートシール層以外の層が海島構造を有するフィルムを除く)。 (2)ヒートシール層は全モノマー成分中、エチレンテレフタレートユニットを50モル%以上含有すると共に、非晶質成分となり得る1種以上のモノマー成分の合計(非晶成分量)が12モル%以上30モル%以下であり、かつヒートシール層の非晶成分量からそれ以外の層の非晶成分量を差し引いた非晶成分量の差が4モル%以上30モル%以下である。 (3)ポリエステル系フィルムのヒートシール層同士を160℃、2kg/cm2、2秒間でヒートシールしたときの剥離強度が2N/15mm以上25N/15mm以下であり、 (4)ヒートシール層と結晶性ポリエステルからなる二軸延伸ポリエステル系フィルムを160℃、2kg/cm2、2秒間でヒートシールしたときの剥離強度が2N/15mm以上20N/15mm以下である。 (5)80℃温湯中で10秒間にわたって処理したときの熱収縮率が長手方向、幅方向いずれも0%以上15%以下である。 (6)ヒートシール層と結晶性ポリエステルからなる無延伸ポリエステル系フィルムを160℃、2kg/cm2、2秒間でヒートシールしたときの剥離強度が2N/15mm以上25N/15mm以下である。 【請求項2】 ヘイズが1%以上15%以下であることを特徴とする請求項1に記載のシーラント用途のポリエステル系フィルム。 【請求項3】 長手方向と幅方向の厚みムラがいずれも18%以下であることを特徴とする、請求項1、2のいずれかに記載のシーラント用途のポリエステル系フィルム。 【請求項4】 一軸延伸フィルム又は二軸延伸フィルムであることを特徴とする請求項1〜3に記載のシーラント用途のポリエステル系フィルム。 【請求項5】 請求項1〜4に記載のシーラント用途のポリエステル系フィルムを少なくとも一部に用いたことを特徴とする包装袋。 【請求項6】 請求項1〜4に記載のシーラント用途のポリエステル系フィルムを少なくとも1層として有していることを特徴とする積層体。 【請求項7】 請求項6に記載の積層体を少なくとも一部に用いたことを特徴とする包装袋。」 第3 特許異議申立理由の概要 申立人は、甲第1号証〜甲第11号証(以下「甲1」〜「甲11」という。)を提出し、本件発明1〜7は、以下の理由により取り消すべきものである旨を主張する。 1.理由1(甲1に基づく新規性及び進歩性) 本件発明1〜7は、甲1に記載された発明であると共に甲1に基いて当業者が容易になし得た発明であるから、特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。 2.理由2(甲2に基づく新規性及び進歩性) 本件発明1〜7は、甲2に記載された発明であると共に甲2に基いて当業者が容易になし得た発明であるから、特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。 3.理由3(甲5に基づく進歩性) 本件発明1〜7は、甲5に基いて当業者が容易になし得た発明であるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。 4.理由4(甲6に基づく進歩性) 本件発明1〜7は、甲6に基いて当業者が容易になし得た発明であるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。 5.理由5(甲11に基づく同日出願) 請求項1〜7に係る発明は、同日出願された、甲11に係る出願の発明と同一と認められ、かつ、当該同日出願に係る発明は特許されており協議を行うことができないものであるから、請求項1〜7に係る特許は、特許法第39条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。 6.理由6(記載不備) 請求項1〜7に係る特許は、以下の(1)〜(4)の点で、その発明の詳細な説明が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない、あるいはその特許請求の範囲が特許法第36条第6項第1号又は第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。 (1)本件発明1の物性値の効果(剥離強度と熱収縮率)を奏するための必須の要件が本件発明1において規定されていない。 (2)本件発明1では非晶成分について何ら特定されていないところ、実施例に非晶成分として記載されているのは、ジオール成分であるNPGとCHDMのモノマーを用いた例のみであり、非晶成分としてジカルボン酸成分のモノマーを用いた例及びジオール成分のうちNPG又はCHDM以外のモノマーを用いた例は記載されていない。 (3)本件発明1ではフィルムの延伸について何ら特定されてないところ、実施例に記載されているのは「二軸延伸フィルム」のみであり、「無延伸フィルム」及び「一軸延伸フィルム」の例が記載されていない。 (4)本件発明1の「非晶成分となり得る1種以上のモノマー成分の合計(非晶成分量)」のモル%の基準が不明確である。 <証拠方法> 甲1 :特開平3−114745号公報 甲2 :特開2014−61663号公報 甲3 :国際公開第2014/175313号 甲4 :特開平4−293920号公報 甲5 :DuPont Teijin Films,“DuPont Teijin Film s 社製品カタログ「Mylar○R(当審注:○Rは丸付き文字 を表す。)850」”,[Online],2007年,インターネット <https://doganak.com/assets/dokuman/mylar-850-1.pdf> 甲6 :御子勉,外2名,“包装用フィルム概論”,株式会社東洋紡パッケ ージング・プラン・サービス,2003年9月1日,p.49-50,113-118 甲7 :21世紀包装研究協会,“包装実務ハンドブック”,日刊工業新聞 社,2001年1月31日,p,118-124 甲8 :国際公開第2009/041408号 甲9 :国際公開第03/039867号 甲10:日本規格協会,“JIS食品包装用プラスチックフィルム通則 JI S Z 1707:2019”,平成31年1月21日,p.9 甲11:特許第6724447号公報 第4 各甲号証の記載 1.甲1について (1)甲1に記載された事項 甲1には、次の事項が記載されている(下線は強調のため当審が付した。以下同様。)。 ア.「2.特許請求の範囲 高融点ポリエステル系樹脂からなる基材フィルムの少なくとも片面に低融点ポリエステル系樹脂を主成分とする熱接着層を積層してなる熱接着性ポリエステル系樹脂積層フィルムにおいて、該熱接着層は損失弾性率から計算される活性化エネルギーが20〜60kcal/molであると共に、融点が150℃以下であり且つ280℃での重量残存率が60%以上である潤滑剤を0.01〜10重量%含有していることを特徴とする熱接着性ポリエステル系樹脂積層フィルム。」(第1ページ左欄4〜14行) イ.「本発明は熱接着性に優れたポリエステル系樹脂積層フィルムに関し、詳細には包装材料やシール材料等の用途に適し、ヒートシール後の剥離に対するタフネスさを有し且つ耐ブロッキング性に優れた、熱接着性ポリエステル系樹脂積層フィルムに関するものである。」(第1ページ左欄下から4行〜同ページ右欄2行) ウ.「まず本発明は基材となる高融点ポリエステル系フィルムは特に限定されるものでなく、例えばポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレート,ポリエチレン−1,2−ジフェノキシエタン−4,4−ジカルボキシレート及びこれらの構成成分を主成分とする共重合体が適用できる。」(第2ページ左下欄1〜7行) エ.「[実施例] 試験フィルムの製作は共押出し法に基づき1台のT型口金に2台の押し出し機No.1,No.2を接続して行った。No.1の押し出し機にはポリエチレンテレフタレート(極限粘度0.62)を装入し、No.2の押し出し機には第1表に示す2種類のレジンと後述するマスターバッチとを第1表に示す割合でブレンドして装入し、両者共に280℃で溶融し押し出した。T型口金から吐出される積層シートを、回転する冷却用ロール(20℃)に巻き付け冷却固化した。 該積層シートの厚みを測定してみると240μmであり、このうちポリエチレンテレフタレート層は205μmであり、共重合体層は35μmであった。 次に90℃に加熱した、回転速度の異なる2組のニップロール間に上記積層シートを通過させて、積層シート進行方向に3.6倍延伸した。 さらに該積層シートをテンター方式の横延伸機に送り込み100℃に加熱しながら3.6倍に延伸した後、やや弛緩させながら220℃の熱風で熱固定し、冷却後巻き取り試験フィルムを得た。」(第4ページ右上欄12行〜同ページ左下欄13行) オ.「(2)ヒートシール強度 2枚の積層シートの熱接着層同士を合せてヒートシールしたフィルムを、長さ10cm,幅15mmの短冊状に切断しサンプルとした。該サンプルを20℃、RH65%の雰囲気下で24時間調湿した後、東洋ボルドウィン社製テンシロンを用いて長手方向に200mm/分の速度で剥離していき、フィルム破断時の強度を測定してヒートシール強度(g/15mm)とした。」(第4ページ右下欄9〜17行) カ.「尚第1表中に用いた略号及びマスターバッチの内容は以下の通りである。 TPA:テレフタル酸 IPA:イソフタル酸 SA :セバシン酸 NPG:ネオペンチルグリコール EG :エチレングリコール BD :ブタンジオール DEG:2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール (a)マスターバッチA (TPA/SA)/EG=(70/30)/100の共重合レジンにエチレンビスステアリン酸アミドを190:10の割合で混合し、200℃の2軸押し出し機で混練りし押し出してストラン ドとした。次にストランドカッターによりチップ化した後乾燥しマスターバッチAとした。」(第5ページ左上欄最終行〜同ページ右上欄15行) キ.「第1表 」(第6ページ) ク.上記カ.及び上記キ.を参酌すると、比較例10に係る接着剤は、TPA(テレフタル酸)100モル%とEG(エチレングリコール)70モル%、NPG(ネオペンチルグリコール)30モル%との共重合体であるポリエステルBと、TPA(テレフタル酸)70モル%、SA(セバシン酸)30モル%とEG(エチレングリコール)100モル%との共重合体であるマスターバッチAを、ブレンド率95:5で混合した樹脂である。そして、ポリエステルBはNPG(ネオペンチルグリコール)を30モル%含有するから、接着剤層は、NPGを28.5モル%含有し、エチレンテレフタレートユニットを70モル%含有することが分かる。 ケ.上記キ.の比較例10に係る接着剤は、ヒートシール温度100℃におけるシール強度が470g/15mmであることがわかる。 (2)甲1に記載された発明 甲1の上記記載を総合し、特に比較例10に着目して整理すると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。その他の各甲号証についても同様にいう。)が記載されている。 「ポリエチレンテレフタレート層と接着剤層からなる共押出し積層シートであって、 厚み240μmの積層シートを進行方向及びテンター方向それぞれに3.6倍延伸し、 接着剤層は、NPG(ネオペンチルグリコール)を28.5モル%とエチレンテレフタレートユニットを70モル%含有し、 ヒートシール温度100℃におけるシール強度が470g/15mmである、 積層シート。」 2.甲2について (1)甲2に記載された事項 甲2には、次の事項が記載されている。 ア.「【請求項1】 ヒートシール性を有するポリエチレンテレフタレート系樹脂からなる内層フィルム及び基材フィルムからなり、前記内層フィルムのヒートシール面が、イソフタル酸成分の共重合比率が10モル%〜20モル%であるイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート樹脂で構成される包装材。 【請求項2】 前記内層フィルムがイソフタル酸成分の共重合比率が10モル%〜20モル%のイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート樹脂から成るヒートシール面側層とイソフタル酸成分の共重合比率が0モル%〜5モル%のイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート樹脂から成る層の2層を少なくとも有する多層フィルムである請求項1に記載の包装材。」 イ.「【0009】 ・・・ イソフタル酸成分の共重合比率が10モル%〜20モル%の比較的高変性率のポリエチレンテレフタレートは、結晶性が低いためにヒートシール特性に優れると共に、優れた非収着性を有するものの、イソフタル酸成分の共重合比率が0モル%〜5モル%の低変性率のポリエチレンテレフタレートはさらに高い非収着性を有する。また、低変性率のポリエチレンテレフタレートはペットボトル用材料として汎用的に大量に使用されているため安価に調達可能であり、経済性に優れる。すなわち、ポリエチレンテレフタレート系樹脂からなる内層フィルムを上記の多層構成とすることにより、ヒートシール特性、非収着性および経済性に優れた内層フィルムが実現出来るのである。 ・・・ 内層フィルムの厚みは10μm〜30μm、特に15μm〜28μmが好ましい。これ以上の厚みでは、非収着性が低下したり、引き裂き性に問題が生じたりする恐れがあり、またこれ以下の厚みではヒートシール強度が低下したり、包装材の腰が損なわれ商品性に問題を来す恐れがある。内層フィルムが多層構成の場合、ヒートシール面側層の厚みは2〜20μmが好ましく、3〜10μmが特に好ましい。低変性率のポリエチレンテレフタレート層の厚みは、ヒートシール面側層の厚みと合わせて所望の内層フィルム全体の厚みを得られるように適宜設定することができるが、好ましくは10〜28μmであり、特に好ましくは15〜25μmである。 内層フィルムはTダイ成形やインフレーション成形等公知の製膜方法で製膜することができる。その際、熱溶融状態の膜が急速冷却により固化されることが好ましい。急速冷却することにより、樹脂の結晶化を抑制し、ヒートシール特性に優れたフィルムが得られる。」 ウ.「【0018】 以下、本発明を実施例により具体的に説明する。各値は以下の方法により測定した。 (1) ヒートシール強度 ヒートシール試験装置(テスター産業株式会社製)を使用し、シール時間0.8秒、シール圧を2kgf/cm2と固定し、シール温度を変更してシール界面の温度を測定しながら試験片を作製した。ヒートシール強度の測定はJIS−Z1707に準じ、23℃、50%RH環境下で、精密万能試験機オートグラフAG−IS(島津製作所株式会社製)にて測定した。フィルムの流れ方向(MD)に300mm/minの速度で引っ張り、最大試験力(N/15mm)をヒートシール強度とし、シール界面温度に対してプロットしてヒートシール曲線を作成した。ここで、ヒートシール強度が1N/15mmに達するシール界面温度をシール発現温度とし、シール界面温度110℃でのヒートシール強度と共にヒートシール特性の評価に用いた。シール発現温度90℃以下および110℃でのシール強度15N/15mm以上の両条件を満足する包装材をヒートシール特性良好とした。 ・・・ 【0019】 [実施例1] 基材フィルムとして12μm二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムと7μmアルミ箔のドライラミネートフィルム、内層フィルムとして5μmイソフタル酸変性PET(イソフタル酸成分共重合比率15モル%)および20μmイソフタル酸変性PET(イソフタル酸成分共重合比率2モル%)から成る25μm無延伸2層PETフィルムを用いた。基材フィルムのアルミ箔側と内層フィルムの20μmイソフタル酸変性PET(イソフタル酸成分共重合比率2モル%)側を対向させて2液硬化型ウレタン系接着剤を用いてドライラミネーション法により積層し、包装材を得た。得られた包装材の評価結果を表1に示す。」 エ.「【表1】 」 (2)甲2発明 甲2の上記記載を総合し、特に実施例1について着目して整理すると、甲2には、次の甲2発明が記載されている。 「イソフタル酸成分の共重合比率が15モル%のイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート樹脂から成るヒートシール面側層と、イソフタル酸成分の共重合比率が2モル%のイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート樹脂から成る層を、Tダイ成形により製膜してなる内層フィルムであって、 厚みが25μmであり、 シール温度110℃、シール圧2kgf/cm2、シール時間0.8秒間でのシール強度が21N/15mmである、 内層フィルム。」 3.甲5について (1)甲5に記載された事項 甲5には、次の事項が記載されている。なお、訳文は当審で付した仮訳である。 ア.「製品の説明:Mylar〇R850は、共押出された片面ヒートシール可能なポリエステルフィルムです。Mylar〇R850は、それ自身にヒートシールすることが可能であり、また、熱成形されたAPET/CPETトレイとAPETコーティングされたボードに良好にヒートシールします。Mylar〇R850はまた、PVdC、PVC、紙、アルミホイルなど、他の様々な基材にもヒートシールされますが、ポリオレフィンにはシールされません。Mylar〇R850のプレーンな(ヒートシールしない)表面は、標準的なポリエステルフィルムの特性を示します。Mylar〇R850は、15ミクロンと20ミクロンの厚さでご入手いただけます。別添のデータシートをご参照ください。 代表的な用途:Mylar〇R850は、単一のウェブ(図1)又はラミネートの一部(図2)として、APET/CPETトレイに蓋をするための優れたフィルムです。このような包装体は、オーブン用デュアル調理製品によく使用されます。Mylar〇R850は、Form-Fill-Seal機器及びブリスターパックにも使用できます。その優れた保香特性により、芳香剤やトイレブロックなどの芳香製品の包装に最適です。」(第1ページ本文1〜9行) イ.「実用情報:Mylar〇R850は、140℃から220℃までの極めて広いヒートシール範囲を有し、優れたホットタック特性を備えています。」(第1ページ11〜12行) ウ.「 」(第2ページ) (2)甲5発明 甲5の上記記載を総合すると、甲5には、次の甲5発明が記載されている。 「PET層とAPETヒートシール層を共押出しされた包装用ポリエステルフィルムであって、 厚みが15μmであり、 シール対シール、140℃、40psi、1秒でのヒートシール強度が800g/25mmであり、 シール対プレーン、140℃、40psi、1秒でのヒートシール強度が400g/25mmであり シール対APET/CPETトレイ、180℃、80psi、1秒でのヒートシール強度が1000g/25mmであり、 190℃で5分の収縮量が3%である、 包装用ポリエステルフィルム。」 4.甲6について (1)甲6に記載された事項 甲6には、次の事項が記載されている。 ア.「〇3コポリマー(PETG) ・・・コポリマーでよく使われているものにPETG(Eastman Chemical)があるので紹介する。 (i)PETGの分子構造 二塩基酸としてTPA、グリコール成分としてEGとシクロヘキサンジメタノール(CHDM)を使っている。 ホモポリマーの鎖の中に大きい分子のCHDMが入ることにより結晶化しにくくなる。PETGは結晶化させないためにCHDMを共重合させており、このCHDMの共重合により、PETG(6763)は結晶化していないので融点はなく、81℃以上になると軟らかくなりはじめる。 (ii)PETGの特徴 CHDMの共重合によりホモポリマー(PET)より次のような物性が改良されている。 PETGの主な特徴を下記に示す。 a.耐薬品性、耐油性に優れる b.ヒートシール性、溶剤接着性を持つ c.透明性、光沢が高く、ガラスのような外観を有している d.高い衝撃強度(低温衝撃強度も優れる)を持つ 」(第49ページ1行〜第50ページ末尾) イ.「6.PETフィルム(二軸延伸ポリエステルフィルム) (1)フィルムの製膜方法 包装用の二軸延伸PETフィルムはすべて逐次二軸延伸で製膜されている。 ・・・ フィルムの厚みは包装用途で9μmから25μmまでが使われており、メインは12μmである。」(第113ページ1〜8行) ウ.「(v)ヒートシールタイプ 共押出で、シーラント層にコポリエステルを使ったヒートシーラブルPETが軟包装で使われている。コポリエステルはホモポリマー(融点:265℃)より融点が低く、シール性がある。 シーラント層の厚みを厚くするとシール強度は強くなるが、現在使われているものは、300〜500gf/15mmくらいのシール強度である。 又このヒートシールタイプのフィルムのシール強度は低くなるが、表面(ホモポリマー)とのヒートシール性があるので、オーバーラップにも使える。 ・・・ 」(第117ページ1〜10行とその下の図) エ.上記ア.及びウ.から、「コポリマー」としてはPETGがよく使われることと、PETGは結晶化していないこと、すなわち非結晶化成分が多い材質であることが分かる。 オ.上記イ.から、上記ウ.における「ホモポリマー」は二軸延伸ポリエステルフィルムであることがわかる。 (2)甲6発明 上記記載を総合すると、甲6には、次の甲6発明が記載されている。 「二軸延伸PET層と、シール層としてのPETG層からなる共押出積層ポリエステルフィルムであって、 厚みが12μmであって、 シール強度が300〜500gf/15mmである、 積層ポリエステルフィルム。」 5.甲3、4、7〜10に記載された事項 (1)甲3に記載された事項 甲3の特に請求項1、段落[0044]及び[表3]の記載事項を総合すると、以下の事項が記載されている。 「シーラント用延伸ポリエステル系フィルムのヒートシール試験において、ヒートシール条件を130℃、10N/cm2、2秒間とし且つヒートシールする相手材を同じポリエステル系フィルム、他の結晶性の二軸延伸ポリエステル系フィルム又は他の結晶性の無延伸ポリエステル系フィルムとすること。」 (2)甲4に記載された事項 甲4の段落【0035】〜【0037】及び表1の特に実施例2について着目すると、以下の事項が記載されている。 「イソフタル酸成分を12モル%含有する厚さ200μmのPETフィルムの透明度が高いこと。」 (3)甲7に記載された事項 甲7の特に第122ページの表19.3には、以下の事項が記載されている。 「ポリエチレンテレフタレートの熱水収縮率は、未延伸と二軸延伸の何れにおいても0であること。」 (4)甲8に記載された事項 甲8の特に段落[0035]〜[0038]には、以下の事項が記載されている。 「熱収縮性ポリエステルフィルムにおいて、厚み斑は18%以下であることが好ましく、ヘイズ値は3以上13以下が望ましいこと。」 (5)甲9に記載された事項 甲9の特に第26ページの実施例9の記載箇所には、以下の事項が記載されている。 「PETG6763(イーストマン・ケミカル社製)にはCHDM(1,4−シクロヘキサンジメタノールが30mol%共重合されていること。」 (6)甲10に記載された事項 甲10の特に第9ページの「表A.1−フィルムの種別」には、以下の事項が記載されている。 「フィルムのヒートシール強さに対して、1種(35N/15mm〜)、2種(23〜35N/15mm)、3種(15〜23N/15mm)、4種(6〜15N/15mm)及び5種(3〜6N/15mm)に種別されること。」 第5 当審の判断 1.申立理由1(甲1に基づく新規性及び進歩性について) (1)本件発明1について ア.対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明の「ポリエチレンテレフタレート層」、「接着剤層」はそれぞれ、本件発明1の「ヒートシール層以外の層」及び「それ以外の層」、「ヒートシール層」に相当する。 甲1発明の「「NPG(ネオペンチルグリコール)」は、本件明細書の段落【0013】からみて、本件発明1の「非晶成分」に相当する。 甲1発明の「NPG(ネオペンチルグリコール)を28.5モル%とエチレンテレフタレートユニットを70モル%含有」する「接着剤層」は、本件発明1の「(2)」「全モノマー成分中、エチレンテレフタレートユニットを50モル%以上含有すると共に、非晶質成分となり得る1種以上のモノマー成分の合計(非晶成分量)が12モル%以上30モル%以下であ」る「ヒートシール層」に相当する。 甲1発明の「ポリエチレンテレフタレート層と接着剤層からなる共押出し積層シート」は、本件発明1の「エチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステル樹脂で構成され、」「(1)少なくとも1層のヒートシール層を有する、2つ以上の層から構成されており、フィルム面の少なくともどちらか一方の表層にヒートシール層を有す」する「シーラント用途の共押出積層ポリエステル系フィルム。」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲1発明は、以下の一致点1で一致すると共に、相違点1−1〜1−5で相違する。 <一致点1> 「エチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステル樹脂で構成され、下記要件(1)〜(2)を満たすシーラント用途の共押出積層ポリエステル系フィルム。 (1)少なくとも1層のヒートシール層を有する、2つ以上の層から構成されており、フィルム面の少なくともどちらか一方の表層にヒートシール層を有する。 (2)ヒートシール層は全モノマー成分中、エチレンテレフタレートユニットを50モル%以上含有すると共に、非晶質成分となり得る1種以上のモノマー成分の合計(非晶成分量)が12モル%以上30モル%以下である。」 <相違点1−1(フィルムの厚み)> 共押出積層ポリエステル系フィルムの厚みが、本件発明1では、「3μm以上200μm以下」であるのに対し、甲1発明では、「厚み240μmの積層シートを進行方向及びテンター方向それぞれに3.6倍延伸し」た後の厚みが不明である点。 <相違点1−2(海島構造の有無)> ヒートシール層以外の層が、本件発明1では、「海島構造を有」しないのに対し、甲1発明では、海島構造を有するか否かが不明な点。 <相違点1−3(非晶成分量の差)> ヒートシール層の非晶成分量からそれ以外の層の非晶成分量を差し引いた差が、本件発明1では、「4モル%以上30モル%以下」であるのに対し、甲1発明では、不明である点。 <相違点1−4(剥離強度)> ヒートシール層の剥離強度が、本件発明1では、「(3)ポリエステル系フィルムのヒートシール層同士を160℃、2kg/cm2、2秒間でヒートシールしたときの剥離強度が2N/15mm以上25N/15mm以下であり」、「(4)ヒートシール層と結晶性ポリエステルからなる二軸延伸ポリエステル系フィルムを160℃、2kg/cm2、2秒間でヒートシールしたときの剥離強度が2N/15mm以上20N/15mm以下であ」り、「(6)ヒートシール層と結晶性ポリエステルからなる無延伸ポリエステル系フィルムを160℃、2kg/cm2、2秒間でヒートシールしたときの剥離強度が2N/15mm以上25N/15mm以下である」のに対し、甲1発明では、「ヒートシール温度100℃におけるシール強度が470g/15mmである」点。 <相違点1−5(熱収縮率)> 共押出積層ポリエステル系フィルムの熱収縮率が、本件発明1では、「(5)80℃温湯中で10秒間にわたって処理したときの熱収縮率が長手方向、幅方向いずれも0%以上15%以下である」のに対し、甲1発明では、不明である点。 イ.新規性についての判断 事案に鑑み、相違点1−4について検討する。 甲1には、接着剤層のシール強度を相違点1−4に係る(3)、(4)及び(6)の条件で測定することは記載されていない。また、本件出願時における技術常識であるともいえない。 よって、相違点1−4は実質的な相違点であるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明ではない。 ウ.進歩性についての判断 さらに、相違点1−4について検討する。 甲1発明は、ヒートシール温度100℃におけるシール強度が470g/15mmであるが、ヒートシールする際の温度、荷重及び加熱時間については何ら開示されていない。また、申立人が甲10としても提出している「“JIS食品包装用プラスチックフィルム通則 JIS Z 1707:2019”」には、申立人が提出していないページであるが、「7.4 ヒートシール強さ試験」として「ヒートシールの方法及び条件は、受渡当事者間の協定による。」と記載されており、このことからわかるように、ヒートシールする際の条件は当該技術分野の技術常識を参酌しても定まるものではない。また、相違点1−4に係る(3)、(4)及び(6)の条件で測定することは、甲1のほか、甲2〜甲10のいずれにも記載されていないし、同条件とする動機づけもない。 したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2ないし甲10に記載された事項から容易になし得たものではない。 (2)本件発明2〜7について 本件発明2〜7は、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(1)で検討したのと同じ理由により、本件発明2〜7は、甲1発明ではなく、また、当業者が甲1発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 2.申立理由2(甲2に基づく新規性及び進歩性について) (1)本件発明1について ア.対比 本件発明1と甲2発明とを対比する。 甲2発明の「15モル%のイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート樹脂から成るヒートシール面側層」、「2モル%のイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート樹脂から成る層」、「厚みが25μm」はそれぞれ、本件発明1の、「ヒートシール層」、「ヒートシール層以外の層」及び「それ以外の層」、「厚みが3μm以上200μm以下」に相当する。 甲2発明の「イソフタル酸」は、本件明細書の段落【0013】からみて、本件発明1の「非晶成分」に相当する。 甲2発明の「イソフタル酸成分の共重合比率が15モル%のイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート樹脂から成るヒートシール面側層」は、本件発明1の「(2)」「全モノマー成分中、エチレンテレフタレートユニットを50モル%以上含有すると共に、非晶質成分となり得る1種以上のモノマー成分の合計(非晶成分量)が12モル%以上30モル%以下であり、かつヒートシール層の非晶成分量からそれ以外の層の非晶成分量を差し引いた非晶成分量の差が4モル%以上30モル%以下である」「ヒートシール層」に相当する。 甲2発明の「イソフタル酸成分の共重合比率が15モル%のイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート樹脂から成るヒートシール面側層と、イソフタル酸成分の共重合比率が2モル%のイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート樹脂から成る層を、Tダイ成形により製膜してなる内層フィルム」は、本件発明1の「エチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステル樹脂で構成され、」「(1)少なくとも1層のヒートシール層を有する、2つ以上の層から構成されており、フィルム面の少なくともどちらか一方の表層にヒートシール層を有す」する「シーラント用途の共押出積層ポリエステル系フィルム。」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲2発明は、以下の一致点2で一致すると共に、相違点2−1〜2−3で相違する。 <一致点2> 「エチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステル樹脂で構成され、厚みが3μm以上200μm以下で、下記要件(1)〜(2)を満たすことを特徴とするシーラント用途の共押出積層ポリエステル系フィルム。 (1)少なくとも1層のヒートシール層を有する、2つ以上の層から構成されており、フィルム面の少なくともどちらか一方の表層にヒートシール層を有する。 (2)ヒートシール層は全モノマー成分中、エチレンテレフタレートユニットを50モル%以上含有すると共に、非晶質成分となり得る1種以上のモノマー成分の合計(非晶成分量)が12モル%以上30モル%以下であり、かつヒートシール層の非晶成分量からそれ以外の層の非晶成分量を差し引いた非晶成分量の差が4モル%以上30モル%以下である。」 <相違点2−1(海島構造の有無)> ヒートシール層以外の層が、本件発明1では、「海島構造を有」しないのに対し、甲2発明では、海島構造を有するか否かが不明な点。 <相違点2−2(剥離強度)> ヒートシール層の剥離強度が、本件発明1では、「(3)ポリエステル系フィルムのヒートシール層同士を160℃、2kg/cm2、2秒間でヒートシールしたときの剥離強度が2N/15mm以上25N/15mm以下であり」、「(4)ヒートシール層と結晶性ポリエステルからなる二軸延伸ポリエステル系フィルムを160℃、2kg/cm2、2秒間でヒートシールしたときの剥離強度が2N/15mm以上20N/15mm以下であ」り、「(6)ヒートシール層と結晶性ポリエステルからなる無延伸ポリエステル系フィルムを160℃、2kg/cm2、2秒間でヒートシールしたときの剥離強度が2N/15mm以上25N/15mm以下である」のに対し、甲2発明では、「シール温度110℃、シール圧2kgf/cm2、シール時間0.8秒間でのシール強度が21N/15mmである」点。 <相違点2−3(熱収縮率)> 共押出積層ポリエステル系フィルムの熱収縮率が、本件発明1では、「(5)80℃温湯中で10秒間にわたって処理したときの熱収縮率が長手方向、幅方向いずれも0%以上15%以下である」のに対し、甲2発明では、不明である点。 イ.新規性についての判断 事案に鑑み、相違点2−2について検討する。 甲2には、ヒートシール面側層のシール強度を相違点2−2に係る(3)、(4)及び(6)の条件で測定することは記載されていない。また、本件出願時における技術常識であるともいえない。 よって、相違点2−2は実質的な相違点であるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明ではない。 ウ.進歩性についての判断 さらに、相違点2−2について検討する。 甲2発明は、シール温度110℃、シール圧2kgf/cm2、シール時間0.8秒間でのシール強度が21N/15mmであるところ、本件発明1の相違点2−2に係る発明特定事項とは、シール温度及びシール時間が異なる。加えて、シールの相手材も不明である。ここで、申立人が甲10としても提出している「“JIS食品包装用プラスチックフィルム通則 JIS Z 1707:2019”」には、申立人が提出していないページであるが、「7.4 ヒートシール強さ試験」として「ヒートシールの方法及び条件は、受渡当事者間の協定による。」と記載されており、このことからわかるように、ヒートシールする際の条件は当該技術分野の技術常識を参酌しても定まるものではない。また、相違点2−2に係る(3)、(4)及び(6)の条件で測定することは、甲2のほか、甲1,甲3〜甲10のいずれにも記載されていないし、同条件とする動機づけもない。 したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明及び甲1、甲3〜甲10に記載された事項から容易になし得たものではない。 (2)本件発明2〜7について 本件発明2〜7は、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(1)で検討したのと同じ理由により、本件発明2〜7は、甲2発明ではなく、また、当業者が甲2発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 3.申立理由3(甲5に基づく進歩性について) (1)本件発明1について ア.対比 本件発明1と甲5発明とを対比する。 甲5発明の「PET層」、「APETヒートシール層」、「厚みが15μm」はそれぞれ、本件発明1の「ヒートシール層以外の層」及び「それ以外の層」、「ヒートシール層」、「厚みが3μm以上200μm以下」に相当する。 甲5発明の「APET」は非結晶PETであって「PET」よりも非結晶成分が多いという技術常識からみて、甲5発明の「APETヒートシール層」と本件発明1の「(2)」「全モノマー成分中、エチレンテレフタレートユニットを50モル%以上含有すると共に、非晶質成分となり得る1種以上のモノマー成分の合計(非晶成分量)が12モル%以上30モル%以下であり、かつヒートシール層の非晶成分量からそれ以外の層の非晶成分量を差し引いた非晶成分量の差が4モル%以上30モル%以下である」「ヒートシール層」とは、「全モノマー成分中、エチレンテレフタレートユニットを50モル%以上含有すると共に、非晶質成分となり得る1種以上のモノマー成分を含有し、かつヒートシール層の非晶成分量がそれ以外の層の非晶成分量よりも多い」「ヒートシール層」という限りにおいて一致する。 甲5発明の「190℃で5分の収縮量が3%である」と、本件発明1の「(5)80℃温湯中で10秒間にわたって処理したときの熱収縮率が長手方向、幅方向いずれも0%以上15%以下である」とは、「熱収縮率が0%以上15%である」という限りにおいて一致する。 甲5発明の「PET層とAPETヒートシール層を共押出しされた包装用ポリエステルフィルム」は、本件発明1の「エチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステル樹脂で構成され、」「(1)少なくとも1層のヒートシール層を有する、2つ以上の層から構成されており、フィルム面の少なくともどちらか一方の表層にヒートシール層を有す」する「シーラント用途の共押出積層ポリエステル系フィルム。」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲5発明は、以下の一致点3で一致すると共に、相違点3−1〜3−4で相違する。 <一致点3> 「エチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステル樹脂で構成され、厚みが3μm以上200μm以下で、下記要件(1)〜(2)及び(5)を満たすことを特徴とするシーラント用途の共押出積層ポリエステル系フィルム。 (1)少なくとも1層のヒートシール層を有する、2つ以上の層から構成されており、フィルム面の少なくともどちらか一方の表層にヒートシール層を有する。 (2)ヒートシール層は全モノマー成分中、エチレンテレフタレートユニットを50モル%以上含有すると共に、非晶質成分となり得る1種以上のモノマー成分を含有し、かつヒートシール層の非晶成分量がそれ以外の層の非晶成分量よりも多く、 (5)熱収縮率が0%以上15%である。」 <相違点3−1(海島構造の有無)> ヒートシール層以外の層が、本件発明1では、「海島構造を有」しないのに対し、甲5発明では、海島構造を有するか否かが不明な点。 <相違点3−2(非晶成分量の差)> ヒートシール層の非晶成分量が、本件発明1では、「(2)」「12モル%以上30モル%以下であり、かつ」「それ以外の層の非晶成分量を差し引いた非晶成分量の差が4モル%以上30モル%以下である」のに対し、甲5発明では、非晶成分量が不明である点。 <相違点3−3(剥離強度)> ヒートシール層の剥離強度が、本件発明1では、「(3)ポリエステル系フィルムのヒートシール層同士を160℃、2kg/cm2、2秒間でヒートシールしたときの剥離強度が2N/15mm以上25N/15mm以下であり」、「(4)ヒートシール層と結晶性ポリエステルからなる二軸延伸ポリエステル系フィルムを160℃、2kg/cm2、2秒間でヒートシールしたときの剥離強度が2N/15mm以上20N/15mm以下であ」り、「(6)ヒートシール層と結晶性ポリエステルからなる無延伸ポリエステル系フィルムを160℃、2kg/cm2、2秒間でヒートシールしたときの剥離強度が2N/15mm以上25N/15mm以下である」のに対し、甲5発明では、「シール対シール、140℃、40psi、1秒でのヒートシール強度が800g/25mmであり、シール対プレーン、140℃、40psi、1秒でのヒートシール強度が400g/25mmであり、シール対APET/CPETトレイ、180℃、80psi、1秒でのヒートシール強度が1000g/25mmであ」る点。 <相違点3−4(熱収縮率)> 共押出積層ポリエステル系フィルムの熱収縮率が、本件発明1では、「(5)80℃温湯中で10秒間にわたって処理したときの熱収縮率が長手方向、幅方向いずれも0%以上15%以下である」のに対し、甲5発明では、「190℃で5分の収縮量が3%である」点。 イ.進歩性についての判断 事案に鑑み、相違点3−3について検討する。 甲5発明は、ヒートシール層の相手材としてヒートシール層、プレーンな表面(PET層)、APET/CPETトレイ、の3種類について、試験条件としての温度、荷重及び時間を特定して測定したシール強度が規定されている。しかしながら、本件発明1とは、3種類目の相手材が異なっていると共に、試験条件も異なっている。 ここで、申立人が甲10としても提出している「“JIS食品包装用プラスチックフィルム通則 JIS Z 1707:2019”」には、申立人が提出していないページであるが、「7.4 ヒートシール強さ試験」として「ヒートシールの方法及び条件は、受渡当事者間の協定による。」と記載されており、このことからわかるように、ヒートシールする際の条件は当該技術分野の技術常識を参酌しても定まるものではない。また、相違点3−3に係る(3)、(4)及び(6)の条件で測定することは、甲2のほか、甲1,甲3〜甲10のいずれにも記載されていないし、同条件とする動機づけもない。 したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲5発明及び甲1〜4、甲6〜甲10に記載された事項から容易になし得たものではない。 (2)本件発明2〜7について 本件発明2〜7は、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(1)で検討したのと同じ理由により、本件発明2〜7は、甲5発明ではなく、また、当業者が甲5発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 4.申立理由4(甲6に基づく進歩性について) (1)本件発明1について ア.対比 本件発明1と甲6発明とを対比する。 甲6発明の「二軸延伸PET層」、「シール層としてのPETG層」、「厚みが12μm」はそれぞれ、本件発明1の「ヒートシール層以外の層」及び「それ以外の層」、「ヒートシール層」、「厚みが3μm以上200μm以下」に相当する。 甲6発明の「PETG」は、第4の4.(1)ア.の記載からみて非晶成分としてCHDMが添加されていることがわかるから、甲6発明の「シール層としてのPETG層」と本件発明1の「(2)」「全モノマー成分中、エチレンテレフタレートユニットを50モル%以上含有すると共に、非晶質成分となり得る1種以上のモノマー成分の合計(非晶成分量)が12モル%以上30モル%以下であり、かつヒートシール層の非晶成分量からそれ以外の層の非晶成分量を差し引いた非晶成分量の差が4モル%以上30モル%以下である」「ヒートシール層」とは、「全モノマー成分中、エチレンテレフタレートユニットを50モル%以上含有すると共に、非晶質成分となり得る1種以上のモノマー成分を含有し、かつヒートシール層の非晶成分量がそれ以外の層の非晶成分量よりも多い」「ヒートシール層」という限りにおいて一致する。 甲6発明の「二軸延伸PET層と、シール層としてのPETG層からなる共押出積層ポリエステルフィルム」は、本件発明1の「エチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステル樹脂で構成され、」「(1)少なくとも1層のヒートシール層を有する、2つ以上の層から構成されており、フィルム面の少なくともどちらか一方の表層にヒートシール層を有す」する「シーラント用途の共押出積層ポリエステル系フィルム。」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲6発明は、以下の一致点4で一致すると共に、相違点4−1〜4−4で相違する。 <一致点4> 「エチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステル樹脂で構成され、厚みが3μm以上200μm以下で、下記要件(1)〜(2)を満たすことを特徴とするシーラント用途の共押出積層ポリエステル系フィルム。 (1)少なくとも1層のヒートシール層を有する、2つ以上の層から構成されており、フィルム面の少なくともどちらか一方の表層にヒートシール層を有する。 (2)ヒートシール層は全モノマー成分中、エチレンテレフタレートユニットを50モル%以上含有すると共に、非晶質成分となり得る1種以上のモノマー成分を含有し、かつヒートシール層の非晶成分量がそれ以外の層の非晶成分量よりも多い。」 <相違点4−1(海島構造の有無)> ヒートシール層以外の層が、本件発明1では、「海島構造を有」しないのに対し、甲6発明では、海島構造を有するか否かが不明な点。 <相違点4−2(非晶成分量の差)> ヒートシール層の非晶成分量が、本件発明1では、「(2)」「12モル%以上30モル%以下であり、かつ」「それ以外の層の非晶成分量を差し引いた非晶成分量の差が4モル%以上30モル%以下である」のに対し、甲6発明では、不明である点。 <相違点4−3(剥離強度)> ヒートシール層の剥離強度が、本件発明1では、「(3)ポリエステル系フィルムのヒートシール層同士を160℃、2kg/cm2、2秒間でヒートシールしたときの剥離強度が2N/15mm以上25N/15mm以下であり」、「(4)ヒートシール層と結晶性ポリエステルからなる二軸延伸ポリエステル系フィルムを160℃、2kg/cm2、2秒間でヒートシールしたときの剥離強度が2N/15mm以上20N/15mm以下であ」り、「(6)ヒートシール層と結晶性ポリエステルからなる無延伸ポリエステル系フィルムを160℃、2kg/cm2、2秒間でヒートシールしたときの剥離強度が2N/15mm以上25N/15mm以下である」のに対し、甲6発明では、「シール強度が300〜500gf/15mmであ」って、相手材や試験条件が不明な点。 <相違点4−4(熱収縮率)> 共押出積層ポリエステル系フィルムの熱収縮率が、本件発明1では、「(5)80℃温湯中で10秒間にわたって処理したときの熱収縮率が長手方向、幅方向いずれも0%以上15%以下である」のに対し、甲6発明では、不明な点。 イ.進歩性についての判断 事案に鑑み、相違点4−3について検討する。 甲6には、シール強度の試験条件(相手材並びにヒートシールする際の温度、荷重及び加熱時間)について何ら記載されていない。 ここで、申立人が甲10としても提出している「“JIS食品包装用プラスチックフィルム通則 JIS Z 1707:2019”」には、申立人が提出していないページであるが、「7.4 ヒートシール強さ試験」として「ヒートシールの方法及び条件は、受渡当事者間の協定による。」と記載されており、このことからわかるように、ヒートシールする際の条件は当該技術分野の技術常識を参酌しても定まるものではない。また、相違点4−3に係る(3)、(4)及び(6)の条件で測定することは、甲6のほか、甲1〜甲5、甲7〜甲10のいずれにも記載されていないし、同条件とする動機づけもない。 したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲6発明及び甲1〜甲5、甲7〜甲10に記載された事項から容易になし得たものではない。 (2)本件発明2〜7について 本件発明2〜7は、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(1)で検討したのと同じ理由により、本件発明2〜7は、甲6発明ではなく、また、当業者が甲6発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 5.申立理由5(甲11に基づく同日出願について) (1)同日出願に係る発明 本件特許に係る出願は、特願2016−55075号(以下「原出願」という。)の一部を分割して新たな特許出願としたものであって、原出願は既に特許第6724447号として登録されているところ、その特許請求の範囲の記載は、以下のとおりである(以下、特許6724447号の特許請求の範囲に記載された発明を総称して「同日出願発明」という。)。 「【請求項1】 エチレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステル樹脂で構成され、下記要件(1)〜(6)を満たすことを特徴とするシーラント用途の共押出積層ポリエステル系フィルム。 (1)少なくとも1層のヒートシール層を有する、2つ以上の層から構成されており、フィルム面の少なくともどちらか一方の表層にヒートシール層を有する(但し、ヒートシール層以外の層が海島構造を有するフィルムを除く)。 (2)ヒートシール層は全モノマー成分中、エチレンテレフタレートユニットを50モル%以上含有すると共に、非晶質成分となり得る1種以上のモノマー成分の合計(非晶成分量)が12モル%以上30モル%以下であり、かつヒートシール層の非晶成分量からそれ以外の層の非晶成分量を差し引いた非晶成分量の差が4モル%以上30モル%以下である。 (3)ポリエステル系フィルムのヒートシール層同士を160℃、2kg/cm2、2秒間でヒートシールしたときの剥離強度が2N/15mm以上25N/15mm以下であり、 (4)ヒートシール層と結晶性ポリエステルからなる二軸延伸ポリエステル系フィルムを160℃、2kg/cm2、2秒間でヒートシールしたときの剥離強度が2N/15mm以上20N/15mm以下である。 (5)ヒートシール層と結晶性ポリエステルからなる無延伸ポリエステル系フィルムを160℃、2kg/cm2、2秒間でヒートシールしたときの剥離強度が2N/15mm以上25N/15mm以下である。 (6)80℃温湯中で10秒間にわたって処理したときの熱収縮率が長手方向、幅方向いずれも0%以上15%以下である。 【請求項2】 ヘイズが1%以上15%以下であることを特徴とする請求項1に記載のシーラント用途のポリエステル系フィルム。 【請求項3】 長手方向と幅方向の厚みムラがいずれも18%以下であることを特徴とする、請求項1、2のいずれかに記載のシーラント用途のポリエステル系フィルム。 【請求項4】 一軸延伸フィルム又は二軸延伸フィルムであることを特徴とする請求項1〜3に記載のシーラント用途のポリエステル系フィルム。 【請求項5】 請求項1〜4に記載のシーラント用途のポリエステル系フィルムを少なくとも一部に用いたことを特徴とする包装袋。 【請求項6】 請求項1〜4に記載のシーラント用途のポリエステル系フィルムを少なくとも1層として有していることを特徴とする積層体。 【請求項7】 請求項6に記載の積層体を少なくとも一部に用いたことを特徴とする包装袋。」 (2)本件発明1〜7との同一性について 上記(1)のとおり、同日出願発明は、本件発明1が有する「厚みが3μm以上200μm以下で」という発明特定事項を有しない。 したがって、本件発明1〜7は、同日出願発明と同一であるとはいえない。 6.申立理由6−1(実施可能要件について) (1)発明の詳細な説明の記載 本件明細書の段落【0040】〜【0045】には、本件発明の各実施例が記載されており、これらの記載を参照し技術常識を踏まえれば、本件発明に係る「シーラント用途の共押出積層ポリエステル系フィルム」を生産し、使用することができるものといえるから、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているものといえる。 (2)申立人の主張について 申立人は、本件発明1の物性値の効果(剥離強度と熱収縮率)を奏するための必須の要件が本件発明1において規定されておらず、実施例には非晶成分としてジカルボン酸成分のモノマーを用いた例及びジオール成分のうちNPG又はCHDM以外のモノマーを用いた例は記載されておらず、また、実施例には「無延伸フィルム」及び「一軸延伸フィルム」の例が記載されていないため、実施可能要件に違反する旨主張している。 しかしながら、本件明細書の各実施例には、本件発明1で特定された剥離強度と熱収縮率を満たす実施例が記載されており、当業者であれば、その記載を参考にして、実施例で記載された成分や態様以外のものについても実施できるといえるから、申立人の主張は採用できない。 7.申立理由6−2(サポート要件について) (1)発明の詳細な説明の記載 本件発明の解決しようとする課題について、本件明細書には、「特許文献3には有機化合物の非吸着性をもったシーラント用途のポリエステル系フィルムが開示されている。しかし、特許文献3のポリエステル系フィルムは、熱収縮率が高いことが短所になっている。・・・、収縮性を低減させたシーラント用途のポリエステル系フィルムは得ることができなかった。・・・本発明は、前記のような従来技術の問題点を解消することを目的とするものである。すなわち、本発明のポリエステル系フィルム同士の高いヒートシール強度を有するのみならず、他の無延伸ポリエステル系フィルムや他の二軸延伸ポリエステル系フィルムとのヒートシール強度に優れ、また種々の有機化合物を吸着しにくいだけでなく、高温環境下でも収縮が少なく、厚み精度、透明性、衛生性に優れたシーラント用途のポリエステル系フィルムを提供するものである。・・・」(段落【0005】〜【0007】)と記載されているように、本件発明の解決しようとする課題は、従来のポリエステル系フィルムの特徴に加え、熱収縮率を低減させ、他の無延伸ポリエステル系フィルムや他の二軸延伸折りエステル系フィルムとのヒートシール強度に優れたポリエステル系フィルムを提供することである。そして、ヒートシール強度と収縮率を両立するために、発明の詳細な説明の段落【0017】には、非晶成分量の差を4モル%以上とすることが記載されている。 また、ヒートシール強度を改善するために、本件明細書の段落【0016】には、ヒートシール層の非晶成分量を12〜30モル%とすることが記載されており、段落【0017】には、ヒートシール層に含まれる非晶成分量を、その他の層に含まれる非晶成分量よりも4〜30モル%多くすることが記載されている。 (2)当審の判断 本件明細書の上記記載からすると、本件発明1に係る発明特定事項のうち、要件(2)及び(5)によりヒートシール強度及び熱収縮率の低減を改善するという課題を解決できることを、発明の詳細な説明から当業者であれば認識できる。また、要件(3)、(4)及び(6)により種々の相手材とのヒートシール強度を改善するという課題を解決できることを、発明の詳細な説明から当業者であれば認識できる。 したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、発明の詳細な説明に記載されたものである。 (3)申立人の主張について 申立人は、本件発明1の物性値の効果(剥離強度と熱収縮率)を奏するための必須の要件が本件発明1において規定されておらず、実施例には非晶成分としてジカルボン酸成分のモノマーを用いた例及びジオール成分のうちNPG又はCHDM以外のモノマーを用いた例は記載されておらず、また、実施例には「無延伸フィルム」及び「一軸延伸フィルム」の例が記載されていないため、サポート要件に違反する旨を主張している。 しかしながら、上述のように、発明の詳細な説明の記載からみて、本件発明1は、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり、さらに、本件明細書の各実施例において、本件発明1の発明特定事項を備えたフィルムが、ヒートシール強度、温湯熱収縮性、ヘイズ、厚みムラ、保香性、吸着性及び高温環境下で放置したあとの外観についての評価が、いずれも良好であることが確認されており、当業者であれば、実施例で記載された成分や態様以外のものについても、本件発明1の発明特定事項のものは、同様の評価を得ることができると認識し得るものといえるから、申立人の主張は採用できない。 8.申立理由6−3(明確性要件について) 本件発明1の「(2)ヒートシール層は全モノマー成分中、エチレンテレフタレートユニットを50モル%以上含有すると共に、非晶質成分となり得る1種以上のモノマー成分の合計(非晶成分量)が12モル%以上30モル%以下であり、かつヒートシール層の非晶成分量からそれ以外の層の非晶成分量を差し引いた非晶成分量の差が4モル%以上30モル%以下である。」との記載は、ヒートシール層を構成するポリエステル樹脂のヒートシール強度に寄与する非晶成分量を特定するものである。 そして、ポリエステルは、ジカルボン酸モノマーとジオールモノマーからなるエステル成分ユニットから構成されるところ、ジカルボン酸モノマーとジオールモノマーのいずれかが非晶成分のものが「非晶質成分」である。 そうすると、「ヒートシール層」における「全モノマー成分中」の「非晶質成分となり得る1種以上のモノマー成分の合計(非晶成分量)」のモル%は、「ヒートシール層」における「全モノマー成分」に対して、非晶成分モノマーを含むエステル成分が占めるモル%であることは明らかである。 この解釈は、本件明細書の段落【0016】の「ここでの非晶成分量とは、非晶成分となりうるカルボン酸、もしくはジオールモノマー成分量の総和を指す。これは、エステル成分1ユニット(カルボン酸モノマーとジオールモノマーがエステル結合によってつながれた1単位)につき、酸成分またはジオール成分のいずれか片方が非晶成分となりうるモノマーであれば、そのエステルユニットは非晶質であるとみなせるためである。」との記載とも整合する。 よって、本件発明1の記載は明確である。 第6 むすび 以上のとおりであるから、特許異議の申立て理由及び証拠によっては、請求項1〜7に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1〜7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2022-07-26 |
出願番号 | P2020-105157 |
審決分類 |
P
1
651・
4-
Y
(B32B)
P 1 651・ 113- Y (B32B) P 1 651・ 121- Y (B32B) P 1 651・ 537- Y (B32B) P 1 651・ 536- Y (B32B) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
井上 茂夫 |
特許庁審判官 |
藤井 眞吾 稲葉 大紀 |
登録日 | 2021-09-21 |
登録番号 | 6947249 |
権利者 | 東洋紡株式会社 |
発明の名称 | シーラント用途のポリエステルフィルム、積層体及び包装体 |