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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C02F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C02F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C02F
管理番号 1387543
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-08-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-04-28 
確定日 2022-07-29 
異議申立件数
事件の表示 特許第6954853号発明「嫌気性消化槽の立ち上げ方法及び嫌気性消化の立ち上げシステム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6954853号の請求項1〜7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6954853号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜7に係る特許についての出願は、平成30年2月20日の出願であって、令和3年10月4日にその特許権の設定登録がされ、同年同月27日に特許掲載公報が発行され、その後、全請求項に係る特許に対して、令和4年4月27日に、特許異議申立人 中谷 浩美(以下、「申立人」という。)により甲第1〜7号証を証拠方法として特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜7に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明7」といい、これらを総称して「本件発明」ということがある。)は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
処理フローの前段に原汚泥を濃縮する濃縮機構が配置された消化槽に水及び/又は種汚泥を投入することと、
前記消化槽を立ち上げるまでの間、前記濃縮機構で種汚泥と前記原汚泥とを濃縮し、濃縮汚泥を得ることと、
前記濃縮汚泥を前記消化槽に投入することと、
前記消化槽への前記濃縮汚泥の投入量を増加させることと
を含む嫌気性消化槽の立ち上げ方法。
【請求項2】
処理フローの前段に原汚泥を濃縮する濃縮機構が配置された消化槽に水及び/又は種汚泥を投入することと、
前記消化槽を立ち上げるまでの間、前記濃縮機構で前記原汚泥を濃縮し、濃縮汚泥を得ることと、
前記濃縮汚泥を前記消化槽に投入することと、
前記消化槽内の汚泥の一部を引き抜いて引抜汚泥を得ることと、
前記消化槽を立ち上げるまでの間、前記引抜汚泥の少なくとも一部を前記原汚泥とともに濃縮し、前記消化槽へ返送することと
を含む嫌気性消化槽の立ち上げ方法。
【請求項3】
処理フローの前段に原汚泥を濃縮する濃縮機構が配置された消化槽に水及び/又は種汚泥を投入することと、
前記消化槽を立ち上げるまでの間、前記濃縮機構で種汚泥と前記原汚泥とを濃縮し、濃縮汚泥を得ることと、
前記濃縮汚泥を前記消化槽に投入することと、
前記消化槽から汚泥の一部を引き抜いて引抜汚泥を得ることと、
前記消化槽を立ち上げるまでの間、前記引抜汚泥の少なくとも一部を前記種汚泥及び前記原汚泥とともに濃縮し、前記消化槽へ返送することと、
前記消化槽へ投入する濃縮汚泥の投入量を増加させることと
を含む嫌気性消化槽の立ち上げ方法。
【請求項4】
前記消化槽に水及び/又は種汚泥を投入する際、前記種汚泥を投入する場合には、前記種汚泥を前記濃縮機構において濃縮処理した後に前記消化槽へ投入することを含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の嫌気性消化槽の立ち上げ方法。
【請求項5】
前記種汚泥として、既設の消化槽から発生する汚泥を用いることを含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の嫌気性消化槽の立ち上げ方法。
【請求項6】
原汚泥を濃縮して濃縮汚泥を得る濃縮機構と、前記濃縮汚泥を嫌気性消化処理する消化槽と、消化槽と前記濃縮機構との間に配置され、前記消化槽を立ち上げるまでの間、前記消化槽から引き抜かれた引抜汚泥の一部を前記濃縮機構へ循環させる配管とを備えることを特徴とする嫌気性消化の立ち上げシステム。
【請求項7】
前記消化槽を立ち上げるまでの間、種汚泥を前記濃縮機構へ供給する汚泥供給手段を更に備える請求項6に記載の嫌気性消化の立ち上げシステム。」

第3 特許異議申立理由の概要
1 特許法第29条第1項第3号、第2項所定の規定違反(新規性進歩性欠如)について
本件発明1〜4、6及び7は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するので、本件発明1〜4、6及び7に係る特許は、特許法第29条第1項所定の規定に違反してされたものである。
本件発明1〜7は、甲第1号証に記載された発明及び甲第1〜7号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1〜7に係る特許は、特許法第29条第2項所定の規定に違反してされたものである。

2 特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について
本件特許明細書の段落【0080】の記載によれば、本件発明においては、立ち上げ運転を行う消化槽からの「引抜汚泥」も「種汚泥」の概念に含まれると解されるので、本件発明3の「前記消化槽を立ち上げるまでの間、前記引抜汚泥の少なくとも一部を前記種汚泥及び前記原汚泥とともに濃縮し」、との発明特定事項において、「引抜汚泥」と「種汚泥」とが同じものであるのか区別されるべきものであるのかが明確でない。
したがって、本件発明3及び本件発明4〜5は明確でないから、本件発明3〜5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

3 証拠方法
甲第1号証:David T. Reynolds et al.,“PRELIMINARY INVESTIGATION OF RECUPERATIVE THICKENING FOR ANAEROBIC DIGESTION”,Proceedings of the Water Environment Federation 2001(14),2001年1月,p.389−410
甲第2号証:日本下水道事業団技術評価委員会,「効率的な汚泥濃縮法の評価に関する第3次報告書 −浮上濃縮法について−」,平成6年4月25日,p.257−274
甲第3号証:津森 ジュンら,「小規模処理場施設に適したメタンガス有効利用支援に関する研究」,小規模処理場施設に適したメタンガス有効利用支援に関する共同研究報告書,No.460,独立行政法人土木研究所,平成26年6月,表紙,まえがき,目次,p.1−76
甲第4号証:特開2001−104999号公報
甲第5号証:清水 洽ら,「下水汚泥からのバイオガス活用評価 −高濃度と超高濃度汚泥の消化− (後)」,環境技術,2004年,Vol.33 No.12,p.41−45
甲第6号証:高島 正信ら,「下水汚泥の超高濃度嫌気性消化とアンモニア除去/回収」,土木学会論文集G(環境),2016年,Vol.72 No.7,p.III_117−III_124
甲第7号証:西井 啓典ら,「高効率ガス回収型汚泥消化装置の開発 −セミドライメタンR発酵装置−」,2017年,エバラ時報,No.253,p.18−22(当審注:「R」は「○」に「R」と表記されている。)

第4 特許異議申立理由についての当審の判断
1 特許法第29条第1項第3号、第2項所定の規定違反(新規性進歩性欠如)について
(1)甲各号証の記載事項等
ア 甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
(ア)甲第1号証には以下(1a)〜(1e)の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
(1a)「ABSTRACT
Laboratory and full-scale investigations of recuperative thickening for anaerobic digestion were conducted ) in Spokane, Washington at the Advanced Wastewater Treatment Plant(SAWTP). Recuperative thickening is defined as removing digesting solids from the anaerobic digestion process, thickening the solids and returning the thickened solids to the anaerobic digestion process. Recuperative thickening provides a function analogous to secondary clarification in the activated sludge process. Recuperative thickening allows operation of anaerobic digestion at independent hydraulic and solids residence times.

A simple laboratory test was developed for measuring gas production as a surrogate for methane forming bacteria activity. Laboratory tests showed gas production was not significantly reduced by exposure to 15 minutes of intense aeration. Laboratory tests also showed significant gas production from mixture of digested and waste activated sludge(WAS) thickened using conventional dissolved air flotation thickening(DAFT). In one test there was immediate gas production and a second test observed no gas production for a 12 to 24 hour period followed by gas production.」(1ページ目7行〜21行)
(当審訳:要約
ワシントン州スポーケンの高度廃水処理プラント(SAWTP)において、嫌気性消化のための繰り返しの濃縮について室内研究と実規模調査とを実施した。繰り返しの濃縮は、嫌気性消化プロセスから消化汚泥を引き抜き、当該消化汚泥を濃縮し、濃縮した当該消化汚泥を嫌気性消化プロセスに戻すことと定義される。繰り返しの濃縮では、活性汚泥法における二次処理に類似した機能を提供する。繰り返しの濃縮により、水理学的滞留時間と汚泥滞留時間とを独立させて嫌気性消化を行うことができる。
メタン生成細菌活性の代用としてガス産生を測定するために、簡単な実験室試験法を開発した。実験室の試験では、強い曝気を15分間行つても、ガス産生量に有意な減少は認められなかった。室内試験では、一般的な気泡による浮上濃縮機(DAFT)を用いて濃縮した余剰汚泥(WAS)と消化汚泥との混合物から、顕著なガス生成が示された。1つの試験では直ちにガスが生成され、2つ目の試験では、12〜24時間にわたってガスが生成されず、その後ガスが生成された。」

(1b)「This study was conducted to investigate which of the three of potential benefits of recuperative thickening can be achieved using conventional thickening technologies: gravity, DAFT, gravity belt and centrifuge. The City of Spokane, Washington SAWTP agreed to participate in laboratory and full scale testing of recuperative thickening. A schematic of the SAWTP treatment process is shown in Figure 3. Liquids treatment includes screening and grit removal(not shown), primary clarification, activated sludge operated for full year-round nitrification, seasonal phosphorus removal using alum addition ahead of the secondary clarifiers and disinfection with chlorine followed by dechlorination. Solids handling includes gravity thickening for primary solids, DAFT for WAS, two-stage conventional mesophilic anaerobic digestion, belt filter press(BFP) dewatering and land application of biosolids on dry land grains. Recycle streams are returned to the secondary influent downstream of the primary clarifiers.」(3ページ目20行〜31行)
(当審訳:本研究は、重力、DAFT、重カベルト及び遠心分離という従来の濃縮技術を用いて、繰り返しの濃縮の3つの潜在的利点のうちのどれを達成できるか検討するために実施した。ワシントン州スポーケン市のSAWTPは、繰り返しの濃縮の室内試験と実規模の実験とに参加することを同意した。SAWTP処理工程の概略を、図3に示す。液体処理には、スクリーニング及びグリット除去(図示せず)、最初沈殿池、年間を通して消化が行われるように操作される活性汚泥、最終沈殿池の前に硫酸アルミニウムを添加することによる季節的なリンの除去、並びに、塩素による消毒及びその後の脱塩素が含まれる。固形物の取り扱いには、一次固形物の重力濃縮、WASのDAFT、2段階の従来の中温性嫌気性消化、ベルトフィルタープレス(BFP)脱水、及び乾燥地粒へのバイオ固形物の土地施用が含まれる。再循環流は、最初沈殿池の下流にある二次流入水に戻される。)

(1c)「

」(4ページ目)
(当審訳:



(1d)「Plant Scale Testing of Recuperative Thickening
・・・
Recuperative thickening was tested on a plant scale by co-thickening digesting solids with WAS in one of the two DAFTs operated at the SAWTP. The DAFTs are operated 24-hours per day, 7 days per week. Co-thickening of digesting solids was accomplished by adding the digesting solids to the WAS feed pipeline to the DAFT. Equal amounts of WAS were thickened in each DAFT; the variable being that digesting solids were added to one DAFT and not to the other.・・・ Thickened primary and WAS were fed to anaerobic digester no. 2. Digesting solids were transferred from anaerobic digester no. 2 to no. 1. Biosolids were withdrawn from anaerobic digester no. l to the BFPs for dewatering. Digesting solids for recuperative thickening were also withdrawn from anaerobic digester no. l and returned to anaerobic digesters no. 2 with thickened primary and WAS. All data with the exception of digesting solids to recuperative thickening were collected as part of the normal operating procedures for SAWTP.

Reperactive thickening was initiated on September 11, 2000 and has continued with minimal interruption to the time of writing this paper−June 2001.・・・

Two analyses were completed for plant scale operation of recuperative thickening. The first analysis was from August 1 to October 17, 2000.・・・ SAWTP data for the period August 1 to September 11 was compared to data for the period September 11 to October 17. SAWTP data for primary influent, plant effluent, primary solids and WAS were analyzed to determine if the loading to the SAWTP were relatively constant through the period of analysis. If loading conditions remained unchanged, the assumption was made that differences in solids data from anaerobic digestion and BFP dewatering resulted from recuperative thickening.・・・

The second analysis was a comparison of the time period, November 1999 to May 2000 with November 2000 to May 2001. This period began after alum addition cease and was typically before alum addition commences (in 2001 alum was added in April). 」(6ページ目7行〜7ページ目24行)
(当審訳:繰り返しの濃縮のプラント規模の試験
・・・
SAWTPで運用されている2つのDAFTの1つで、消化固形物をWASと共に濃縮することにより、プラント規模で繰り返しの濃縮を試験した。DAFTは、1日24時間、週7日稼働する。消化汚泥の繰り返しの濃縮は、消化汚泥をDAFTへのWAS供給パイプラインに追加することによって達成された。各DAFTで等量のWASが濃縮された。違いは、消化汚泥が一方のDAFTに追加され、もう一方には追加されなかったことである。・・・濃縮した一次物とWASは嫌気性消化槽no.2に供給した。消化汚泥を嫌気性消化槽no.2からno.1に移動した。バイオソリッドは嫌気性消化槽no.1から引き抜かれて脱水のためのBFPに送られた。繰り返しの濃縮のための消化汚泥も嫌気性消化槽no.1から引き抜かれて、濃縮された一次物及びWASと共に嫌気性消化槽no.2に戻った。繰り返しの濃縮の消化汚泥を除くすべてのデータは、SAWTPの通常の操作手順の一部として収集された。

繰り返しの濃縮は2000年9月11日に開始され、この論文の執筆時の2001年6月まで最小の中断とともに続いた。・・・

繰り返しの濃縮のプラント規模の操作について2つの分析が完了した。最初の分析は2000年8月1日から10月17日までであった。・・・8月1日から9月11までの期間のSAWTPのデータが、9月11日から10月17日までの期間のデータと比較された。分析の期間を通じてSAWTPへの負荷がほぼ一定であるかどうかを決定するために、SAWTPの一次流入水、プラント流出水、一次固形物、及びWASのデータが分析された。もし負荷条件が変わらない場合、嫌気性消化とBFP脱水からの固形物データの違いは、繰り返しの濃縮に起因するという仮説が立てられた。・・・

2番目の分析は、1999年11月から2000年5月までの期間と2000年11月から2001年5月までの期間の比較であった。この期間は、硫酸アルミニウム添加中断後に始まり、通常は硫酸アルミニウム添加開始前である(2001年は硫酸アルミニウムが4月に添加された。))

(1e)「CONCLUSIONS
・・・
Plant Scale Testing
Two analyses of plant scale tests were completed on the recuperative thickening of digested solids co-thickened with WAS using a DAFT at the SAWTP. Recuperative thickening began September 11, 2000 and is continuing through June 2001. Approximately 20 to 25 percent of the digested solids were recuperatively thickened during this test. The first test period was August l to October 17, 2000 when alum was added for phosphorus removal. The second test period was November 2000 to May 2001, which was compared to November 1999 to May 2000. Plant scale testing compares operating data for a period when recuperative thickening was tested to a similar period when recuperative thickening was not being tested. This approach creates uncertainly because there are differences in influent loading and plant operation that could affect the results. Review of SAWTP primary influent, secondary influent, primary solids and WAS indicate that the periods being compared to the test periods were very similar and within 5- percent of each other.

The major findings of analysis are summarized below. Emphasis is placed on the results of the longer November 2000 to May 2001 period of study because the short time available for the August 1 to October 17, 2000 study period may not have been long enough to allow the plant to reach a “steady-state” to allow a good evaluation, but the results of both periods are similar in many respects.」(20ページ目12行〜21ページ目2行)
(当審訳:結論
・・・
プラント規模の試験
SAWTPでDAFTを使用して、WASと共に濃縮された消化汚泥の繰り返しの濃縮について、プラント規模の試験の2つの分析が完了した。繰り返しの濃縮は2000年9月11日から始まり、2001年6月まで続いている。この試験の間に、消化汚泥の約20から25パーセントが繰り返し濃縮された。最初の試験期間は、2000年8月1日から10月17日までで、リン除去のために硫酸アルミニウムが添加された。2番目の試験期間は2000年11月から2001年5月までであり、1999年11月から2000年5月までと比較された。プラント規模の試験では、繰り返しの濃縮が行われた期間と、繰り返しの濃縮が行われなかった同程度の期間の稼働データが比較される。このアプローチは、結果に影響を与える可能性のある流入水負荷とプラント操作に違いがあるため、不確実性が生じる。SAWTPの一次流入、二次流入、一次固形物、及びWASのレビューは、試験期間と比較されている期間が非常に類似しており、互いに5パーセント以内であることを示している。

分析の主な所見を以下に要約する。2000年8月1日から10月17日までの調査期間が短かったため、2000年11月から2001年5月までの長い調査期間の結果に重点が置かれている。これは、2000年8月1日から10月17日までの調査期間が短かったため、プラントが「定常状態」に到達できず、良好な評価が得られなかった可能性があるためであるが、両方の期間の結果は多くの点で類似している。)

(イ)前記(ア)(1a)によれば、甲第1号証には、嫌気性消化のための繰り返しの濃縮について実規模調査を実施した、ワシントン州スポーケンの高度廃水処理プラント(SAWTP)が記載されており、同(1b)〜(1d)によれば、前記高度廃水処理プラント(SAWTP)は、最初沈殿池、最終沈殿池、重力濃縮槽、浮上濃縮器(DAFT)、嫌気性消化槽(no.1,no.2)及びベルトフィルタープレス(BFP)を備え、液体処理には、スクリーニング及びグリット除去、最初沈殿池、年間を通して消化が行われるように操作される活性汚泥、最終沈殿池の前に硫酸アルミニウムを添加することによる季節的なリンの除去、並びに、塩素による消毒及びその後の脱塩素が含まれるものであり、固形物の取り扱いには、一次固形物の重力濃縮、余剰汚泥(WAS)のDAFT、2段階の従来の中温性嫌気性消化、ベルトフィルタープレス(BFP)脱水、及び乾燥地粒へのバイオ固形物の土地施用が含まれるものであり、再循環流は、最初沈殿池の下流にある二次流入水に戻されるものである。
また、前記高度廃水処理プラント(SAWTP)は、運用されている2つのDAFTの1つで、消化固形物を余剰汚泥(WAS)と共に濃縮することにより、プラント規模で繰り返しの濃縮を試験したものであり、その運転方法において、DAFTは、1日24時間、週7日稼働するものであり、消化汚泥の繰り返しの濃縮は、消化汚泥をDAFTへのWAS供給パイプラインに追加することによって達成されたものであり、各DAFTで等量のWASが濃縮されたものであるが、2つのDAFTにおける違いは、消化汚泥が一方のDAFTに追加され、もう一方には追加されなかった点にあるものである。
そして、濃縮した一次物とWASは嫌気性消化槽no.2に供給し、消化汚泥を嫌気性消化槽no.2からno.1に移動し、バイオソリッドは嫌気性消化槽no.1から引き抜かれて脱水のためのベルトフィルタープレス(BFP)に送られ、繰り返しの濃縮のための消化汚泥も嫌気性消化槽no.1から引き抜かれて、濃縮された一次物及びWASと共に嫌気性消化槽no.2に戻るものである。

(ウ)前記(イ)によれば、甲第1号証には、以下の発明が記載されているといえる。
「嫌気性消化のための繰り返しの濃縮について実規模調査を実施した、高度廃水処理プラント(SAWTP)の運転方法であって、
前記高度廃水処理プラント(SAWTP)は、最初沈殿池、最終沈殿池、重力濃縮槽、浮上濃縮器(DAFT)、嫌気性消化槽(no.1,no.2)及びベルトフィルタープレス(BFP)を備え、
液体処理には、スクリーニング及びグリット除去、最初沈殿池、年間を通して消化が行われるように操作される活性汚泥、最終沈殿池の前に硫酸アルミニウムを添加することによる季節的なリンの除去、並びに、塩素による消毒及びその後の脱塩素が含まれるものであり、
固形物の取り扱いには、一次固形物の重力濃縮、余剰汚泥(WAS)のDAFT、2段階の従来の中温性嫌気性消化、ベルトフィルタープレス(BFP)脱水、及び乾燥地粒へのバイオ固形物の土地施用が含まれるものであり、再循環流は、最初沈殿池の下流にある二次流入水に戻されるものであり、
前記高度廃水処理プラント(SAWTP)は、運用されている2つの浮上濃縮器(DAFT)の1つで、消化固形物を余剰汚泥(WAS)と共に濃縮することにより、プラント規模で繰り返しの濃縮を試験したものであり、
その運転方法において、DAFTは、1日24時間、週7日稼働するものであり、消化汚泥の繰り返しの濃縮は、消化汚泥をDAFTへのWAS供給パイプラインに追加することによって達成されたものであり、各DAFTで等量のWASが濃縮されたものであるが、2つのDAFTにおける違いは、消化汚泥が一方のDAFTに追加され、もう一方には追加されなかった点にあるものであり、
そして、濃縮した一次物とWASは嫌気性消化槽no.2に供給し、消化汚泥を嫌気性消化槽no.2からno.1に移動し、バイオソリッドは嫌気性消化槽no.1から引き抜かれて脱水のためのベルトフィルタープレス(BFP)に送られ、繰り返しの濃縮のための消化汚泥も嫌気性消化槽no.1から引き抜かれて、濃縮された一次物及びWASと共に嫌気性消化槽no.2に戻る、高度廃水処理プラント(SAWTP)の運転方法。」(以下、「甲1発明」という。)

「嫌気性消化のための繰り返しの濃縮について実規模調査を実施した、高度廃水処理プラント(SAWTP)であって、
前記高度廃水処理プラント(SAWTP)は、最初沈殿池、最終沈殿池、重力濃縮槽、浮上濃縮器(DAFT)、嫌気性消化槽(no.1,no.2)及びベルトフィルタープレス(BFP)を備え、
液体処理には、スクリーニング及びグリット除去、最初沈殿池、年間を通して消化が行われるように操作される活性汚泥、最終沈殿池の前に硫酸アルミニウムを添加することによる季節的なリンの除去、並びに、塩素による消毒及びその後の脱塩素が含まれるものであり、
固形物の取り扱いには、一次固形物の重力濃縮、WASのDAFT、2段階の従来の中温性嫌気性消化、ベルトフィルタープレス(BFP)脱水、及び乾燥地粒へのバイオ固形物の土地施用が含まれるものであり、再循環流は、最初沈殿池の下流にある二次流入水に戻されるものであり、
前記高度廃水処理プラント(SAWTP)は、運用されている2つの浮上濃縮器(DAFT)の1つで、消化固形物を余剰汚泥(WAS)と共に濃縮することにより、プラント規模で繰り返しの濃縮を試験したものであり、
その運転方法において、DAFTは、1日24時間、週7日稼働するものであり、消化汚泥の繰り返しの濃縮は、消化汚泥をDAFTへのWAS供給パイプラインに追加することによって達成されたものであり、各DAFTで等量のWASが濃縮されたものであるが、2つのDAFTにおける違いは、消化汚泥が一方のDAFTに追加され、もう一方には追加されなかった点にあるものであり、
そして、濃縮した一次物とWASは嫌気性消化槽no.2に供給し、消化汚泥を嫌気性消化槽no.2からno.1に移動し、バイオソリッドは嫌気性消化槽no.1から引き抜かれて脱水のためのベルトフィルタープレス(BFP)に送られ、繰り返しの濃縮のための消化汚泥も嫌気性消化槽no.1から引き抜かれて、濃縮された一次物及びWASと共に嫌気性消化槽no.2に戻る、高度廃水処理プラント(SAWTP)。」(以下、「甲1’発明」という。)

イ 甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、効率的な汚泥濃縮として機械濃縮が挙げられること、機械濃縮の例として、造粒濃縮、遠心濃縮又は浮上濃縮が挙げられることが記載されている(274ページ2行〜7行)。

ウ 甲第3号証の記載事項
甲第3号証には、嫌気性消化を行う反応器1〜反応器4の運転を開始するとき、その際の植種汚泥に、処理場Aの消化槽の高温消化汚泥(反応器2〜4)もしくは処理場Bの消化槽の中温消化汚泥(反応器1)を濃縮して用いること、反応器3及び4の立ち上げ期間(30日間)は引き抜き消化汚泥を遠心分離し、上澄み液を除いて投入分の基質と混合してから反応器に返送することで、極力汚泥を流出させないようにしたことが記載されている(14ページ12行〜17行)。

エ 甲第4号証の記載事項
甲第4号証には、メタン発酵槽のメタン発酵汚泥と有機性汚泥とを混合槽において混合し、混合したものを濃縮分離装置で濃縮し、メタン発酵槽に投入することが記載されている(段落【0010】〜【0020】、【図1】)。

オ 甲第5号証の記載事項
甲第5号証には、装置のコンパクト化とエネルギー効率を考えて、汚泥を液状で扱える8〜12%の超高濃度に濃縮した汚泥を対象として消化を行うこと、発酵槽から引き抜かれた消化汚泥の一部を汚泥濃縮脱水器へ循環させることが記載されている(915ページ左欄4行〜10行、919ページの図−9)。

カ 甲第6号証の記載事項
甲第6号証には、嫌気性消化において、流入TS9〜11%の消化汚泥を遠心濃縮し濃度を高めたものを種汚泥としてHRT120日で実験を開始し、175日間運転したこと、106日目からは、1週間に1回の頻度で消化汚泥を取り出してアンモニアストリッピングした後、消化槽に戻す運転を開始したことが記載されている(III_120ページ左欄6行〜右欄11行)。

キ 甲第7号証の記載事項
甲第7号証には、下水処理場に設置したパイロットプラントにおいて、処理場の初沈重力濃縮汚泥と余剰汚泥を混合した混合生汚泥を原汚泥とし、この原汚泥にカチオン系高分子凝集剤を添加して濃縮部で濃縮した汚泥を消化部に投入したことが記載されいている(20ページ左欄6行〜12行、図4)。

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「余剰汚泥(WAS)」及び「浮上濃縮器(DAFT)」は、それぞれ、本件発明1における「原汚泥」及び「濃縮機構」に相当し、甲1発明は、「消化汚泥をDAFTへのWAS供給パイプラインに追加」し、「濃縮した一次物とWAS」を「嫌気性消化槽no.2に供給」するものであるから、甲1発明における「嫌気性消化槽no.2」は、本件発明1における、「処理フローの前段に原汚泥を濃縮する濃縮機構が配置された消化槽」に相当し、甲1発明に係る「高度廃水処理プラント(SAWTP)の運転方法」と本件発明1に係る「嫌気性消化槽の立ち上げ方法」とは、「方法」である点で共通する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「処理フローの前段に原汚泥を濃縮する濃縮機構が配置された消化槽を含む、方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

・相違点1:本件発明1は、「前記消化槽を立ち上げるまでの間、前記濃縮機構で種汚泥と前記原汚泥とを濃縮し、濃縮汚泥を得ること」「を含む嫌気性消化槽の立ち上げ方法」に係るものであるのに対して、甲1発明は、前記「嫌気性消化槽の立ち上げ方法」に係るものであるか否かが明らかでない点。

・相違点2:本件発明1は、「消化槽に水及び/又は種汚泥を投入することと、」、「前記濃縮汚泥を前記消化槽に投入することと、前記消化槽への前記濃縮汚泥の投入量を増加させること」「を含む」、との発明特定事項を有するのに対して、甲1発明は前記発明特定事項を有するか否かが明らかでない点。

イ 判断
(ア)まず、前記アの相違点1について検討すると、前記(1)ア(1a)、(1b)によれば、甲1発明は、ワシントン州スポーケンの高度廃水処理プラント(SAWTP)において、嫌気性消化のための繰り返しの濃縮について実規模調査を実施するためのものであって、繰り返しの濃縮の3つの潜在的利点のうちのどれを達成できるか検討するために実施したものである。
すなわち、同(1d)及び(1e)によれば、前記調査は、SAWTPで運用されている2つのDAFTの1つで、消化固形物をWASと共に濃縮することにより、プラント規模で繰り返しの濃縮を試験したものであり、最初の試験期間が2000年8月1日から10月17日までであり、繰り返しの濃縮は2000年9月11日から始まり、2001年6月まで続いているものであり、プラント規模の試験では、繰り返しの濃縮が行われた期間と、繰り返しの濃縮が行われなかった同程度の期間の稼働データが比較されるものである。
そして、最初の試験期間においては、8月1日から9月11日までの期間のSAWTPのデータが、9月11日から10月17日までの期間のデータと比較されたのであるが、SAWTPへの負荷が分析の期間を通じてほぼ一定であるかどうかを決定するために、SAWTPの一次流入水、プラント流出水、一次固形物、及びWASのデータが分析され、もしSAWTPへの負荷条件が変わらない場合、嫌気性消化とBFP脱水からの固形物データの違いは、繰り返しの濃縮に起因するという仮説が立てられて、分析が行われたものである。

(イ)前記(ア)によれば、甲1発明は、SAWTPへの負荷条件が変わらない場合、嫌気性消化とBFP脱水からの固形物データの違いは、繰り返しの濃縮に起因するという仮説に基づいて、繰り返しの濃縮が行われた期間と行われなかった期間の同じくらいの期間の稼働データを比較することで、繰り返しの濃縮の利点について分析を行うものであるから、そもそも、プラントの負荷条件が変わらないことを前提としたものといえる。
これに対して、「嫌気性消化槽」を立ち上げるときには、負荷条件が変化することが強く推認されるから、そもそもプラントの負荷条件が変わらないことを前提とした甲1発明が、「嫌気性消化槽の立ち上げ方法」に係るものであるとは考え難いので、前記相違点1は実質的な相違点であるというほかない。
してみれば、前記アの相違点2について検討するまでもなく、本件発明1が甲1発明であるとはいえない。

(ウ)そして、甲1発明を「嫌気性消化槽の立ち上げ方法」に係るものとすることは、プラントの負荷条件が変わらないという前記甲1発明の前提を破却するものであり、その場合、前記(イ)の仮説に基づいた繰り返しの濃縮の利点についての分析は不可能となるから、阻害要因を有するものである。
してみれば、甲第1〜7号証に記載された事項にかかわらず、甲1発明を「嫌気性消化槽の立ち上げ方法」に係るものとして、前記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることは、当業者が容易になし得ることではない。
更に、仮に、甲1発明を「嫌気性消化槽の立ち上げ方法」に係るものとすることが阻害要因を有しないとしても、甲第1〜7号証のいずれにも、「消化槽を立ち上げるまでの間、濃縮機構で種汚泥と原汚泥とを濃縮し、濃縮汚泥を得ること」が記載も示唆もされるものではないから、甲1発明を前記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることは、甲第1〜7号証に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得ることではない。
したがって、前記相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲第1〜7号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明2〜5について
ア(ア)前記(2)アと同様にして本件発明2と甲1発明とを対比すると、本件発明2と甲1発明とは、少なくとも以下の点で相違する。

・相違点1’:本件発明2は、「前記消化槽を立ち上げるまでの間、前記濃縮機構で前記原汚泥を濃縮し、濃縮汚泥を得ることと」、「前記消化槽を立ち上げるまでの間、前記引抜汚泥の少なくとも一部を前記原汚泥とともに濃縮し、前記消化槽へ返送することとを含む嫌気性消化槽の立ち上げ方法」に係る発明であるのに対して、甲1発明は、前記「嫌気性消化槽の立ち上げ方法」に係る発明であるか否かが明らかでない点。

(イ)以下、前記(ア)の相違点1’について検討すると、前記相違点1’は、甲1発明が「嫌気性消化槽の立ち上げ方法」に係る発明であるか否かが明らかでないことをいうものである点で前記(2)アの相違点1と同様であるから、前記(2)イ(イ)に記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明2が甲1発明であるとはいえない。
そして、甲1発明を「嫌気性消化槽の立ち上げ方法」に係るものとすることは阻害要因を有することは、前記(2)イ(ウ)に記載のとおりであるし、仮にそうでないとしても、甲第1〜7号証のいずれにも、「消化槽を立ち上げるまでの間、濃縮機構で原汚泥を濃縮し、濃縮汚泥を得ることと」、「消化槽を立ち上げるまでの間、引抜汚泥の少なくとも一部を前記原汚泥とともに濃縮し、前記消化槽へ返送すること」が記載も示唆もされるものではないから、甲1発明を前記相違点1’に係る本件発明2の発明特定事項を有するものとすることは、甲第1〜7号証に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得ることではない。
したがって、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1発明及び甲第1〜7号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ(ア)前記(2)アと同様にして本件発明3と甲1発明とを対比すると、本件発明3と甲1発明とは、少なくとも以下の点で相違する。

・相違点1”:本件発明3は、「前記消化槽を立ち上げるまでの間、前記濃縮機構で種汚泥と前記原汚泥とを濃縮し、濃縮汚泥を得ることと」、「前記消化槽を立ち上げるまでの間、前記引抜汚泥の少なくとも一部を前記種汚泥及び前記原汚泥とともに濃縮し、前記消化槽へ返送することと」「を含む嫌気性消化槽の立ち上げ方法」に係る発明であるのに対して、甲1発明は、前記「嫌気性消化槽の立ち上げ方法」に係る発明であるか否かが明らかでない点。

(イ)以下、前記(ア)の相違点1”について検討すると、前記相違点1”も、甲1発明が「嫌気性消化槽の立ち上げ方法」に係る発明であるか否かが明らかでないことをいうものである点で前記(2)アの相違点1と同様であるから、前記(2)イ(イ)に記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明3も甲1発明であるとはいえない。
また、甲1発明を「嫌気性消化槽の立ち上げ方法」に係るものとすることは阻害要因を有することは、前記(2)イ(ウ)に記載のとおりであるし、仮にそうでないとしても、甲第1〜7号証のいずれにも、「消化槽を立ち上げるまでの間、濃縮機構で種汚泥と原汚泥とを濃縮し、濃縮汚泥を得ることと」、「前記消化槽を立ち上げるまでの間、引抜汚泥の少なくとも一部を前記種汚泥及び前記原汚泥とともに濃縮し、前記消化槽へ返送すること」が記載も示唆もされるものではないから、甲1発明を前記相違点1”に係る本件発明3の発明特定事項を有するものとすることは、甲第1〜7号証に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得ることではない。
したがって、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明3も、甲1発明及び甲第1〜7号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 更に、本件発明4及び5について検討しても事情は同じである。

(4)本件発明6及び7について
ア 対比
本件発明6と甲1’発明とを対比すると、甲1’発明における「余剰汚泥(WAS)」、「浮上濃縮器(DAFT)」及び「嫌気性消化槽no.2」は、それぞれ、本件発明6における「原汚泥」、「原汚泥を濃縮して濃縮汚泥を得る濃縮機構」及び「前記濃縮汚泥を嫌気性消化処理する消化槽」に相当する。
また、甲1’発明において、「消化汚泥をDAFTへのWAS供給パイプラインに追加」する経路は、本件発明6における「消化槽と前記濃縮機構との間に配置され」、「前記消化槽から引き抜かれた引抜汚泥の一部を前記濃縮機構へ循環させる配管」に相当し、甲1’発明に係る「高度廃水処理プラント(SAWTP)」と本件発明6に係る「嫌気性消化の立ち上げシステム」とは、「システム」である点で共通する。
そうすると、本件発明6と甲1’発明とは、
「原汚泥を濃縮して濃縮汚泥を得る濃縮機構と、前記濃縮汚泥を嫌気性消化処理する消化槽と、消化槽と前記濃縮機構との間に配置され、前記消化槽から引き抜かれた引抜汚泥の一部を前記濃縮機構へ循環させる配管とを備える、システム。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

・相違点3:本件発明6は、「嫌気性消化の立ち上げシステム」に係る発明であって、「前記消化槽を立ち上げるまでの間、」消化槽から引き抜かれた引抜汚泥の一部を濃縮機構へ循環させるものであるのに対して、甲1’発明は、前記「嫌気性消化の立ち上げシステム」に係る発明であるか否かが明らかでない点。

イ 判断
(ア)以下、前記アの相違点3について検討すると、甲1’発明が、そもそも、プラントの負荷条件が変わらないことを前提としたものといえることは、甲1発明と同様である。
そうすると、前記(2)イ(イ)に記載したのと同様の理由により、甲1’発明が「嫌気性消化の立ち上げシステム」に係るものであるとは考え難いので、前記相違点3も実質的な相違点であるというほかないから、本件発明6が甲1’発明であるとはいえない。

(イ)また、前記(2)イ(ウ)に記載したのと同様の理由により、甲1’発明を「嫌気性消化の立ち上げシステム」に係るものとすることは阻害要因を有するし、仮にそうでないとしても、甲第1〜7号証のいずれにも、「前記消化槽を立ち上げるまでの間、前記消化槽から引き抜かれた引抜汚泥の一部を」「原汚泥を濃縮して濃縮汚泥を得る」「濃縮機構へ循環させる」ことが記載も示唆もされるものではないから、甲1’発明を前記相違点3に係る本件発明6の発明特定事項を有するものとすることは、甲第1〜7号証に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得ることではない。
したがって、本件発明6は、甲1’発明及び甲第1〜7号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
更に、本件発明7について検討しても事情は同じである。

(5)申立人の主張について
ア 申立人は、甲第1号証に記載された発明が嫌気性消化槽の「立ち上げ」に係るものである点について、特許異議申立書において、甲第1号証には、繰り返しの濃縮によって、消化槽の水理学的滞留時間(HRT)と汚泥滞留時間(SRT)とが個別に調整可能となることが記載されており、生物処理槽の立ち上げ運転に際して、HRTやSRTを操作して微生物の増殖に適した環境を与えることは常識的な事柄である旨(13ページ14行〜最終行)、甲第1号証には、嫌気性消化槽を備えるプラントが「定常状態(steady-state)」になる前に、浮上濃縮器で消化汚泥と余剰汚泥とを濃縮し、濃縮された混合物を嫌気性消化槽へ投入したことが記載されているから、嫌気性消化槽が「定常状態」となる前に、「浮上濃縮器で消化汚泥と余剰汚泥とを濃縮して、濃縮された混合物を得ること」と、「濃縮された混合物を嫌気性消化槽に投入すること」とは、本件特許の出願日前に実施されていた旨(16ページ20行〜最終行)、前記「嫌気性消化槽が定常状態となる前」は、嫌気性消化槽が後に定常状態に至るという前提において定常状態に至る前の期間を指しており、本件発明における消化槽を「立ち上げるまでの間」に相当する旨(37ページ10行〜13行)を主張している。

イ そこで、以下、前記アの主張について検討すると、そもそも、甲第1号証には、甲第1号証に記載された発明が嫌気性消化槽の「立ち上げ」に係るものであることは記載も示唆もされていない。
そして、繰り返しの濃縮によって消化槽の水理学的滞留時間(HRT)と汚泥滞留時間(SRT)とを個別に調整可能とすることが、嫌気性消化槽の「立ち上げ」を直ちに意味することを示す証拠はなく、そのような技術常識も存在しないので、甲第1号証に、繰り返しの濃縮によって、消化槽の水理学的滞留時間(HRT)と汚泥滞留時間(SRT)とが個別に調整可能となることが記載されているとしても、このことから直ちに、甲第1号証に記載された発明が嫌気性消化槽の「立ち上げ」に係るものであるということはできない。
また、前記(1)ア(1d)、(1e)によれば、甲第1号証においてプラントが「定常状態」に達しなかった最初の分析は、期間が2000年8月1日から10月17日までのものであって、そのほぼ中間の9月11日から繰り返しの濃縮が始まり、繰り返しの濃縮が行われなかった2000年8月1日から9月11日までの期間のデータと、繰り返しの濃縮が行われた9月11日から10月17日までの期間のデータが比較されたものであり、このとき繰り返しの濃縮が行われた期間は、2000年9月11日から10月17日までの概略1か月である。
これに対して、2番目の分析は、繰り返しの濃縮が行われなかった1999年11月から2000年5月までの期間と、繰り返しの濃縮が行われた2000年11月から2001年5月までの期間の比較であり、繰り返しの濃縮が行われた期間は、2000年11月から2001年5月までの概略6〜7か月であって、分析は、長い調査期間の結果に重点が置かれるものである。
すると、前記(1)ア(1e)の「2000年8月1日から10月17日までの調査期間が短かったため、プラントが「定常状態」に到達できず、良好な評価が得られなかった可能性がある」という記載は、単に、最初の分析における繰り返しの濃縮が始まった後の調査期間が、2番目の分析よりも大幅に短く、繰り返しの濃縮が始まった後で、良好な評価が得られる状態に達しなかったことを意味するものと解するのが相当であって、「嫌気性消化槽が定常状態となる前」が、本件発明における消化槽を「立ち上げるまでの間」に相当するとは考え難いし、甲第1号証に記載された発明が嫌気性消化槽の「立ち上げ」に係るものであることを示す証拠もないので、申立人の前記アの主張はいずれも採用できない。

(6)小括
よって、本件発明1〜4、6及び7は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、本件発明1〜7は、甲第1号証に記載された発明及び甲第1〜7号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないので、前記第3の1の特許異議申立理由はいずれも理由がない。

2 特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について
(1)明確性要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が、明確性要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきであるから、以下、この観点に立って検討する。

(2)当審の判断
ア 本件特許明細書には、以下の記載がある。
(ア)「【0003】
嫌気性消化処理の分解過程は嫌気性微生物である酸生成菌とメタン生成細菌の働きにより汚泥中の有機分をガス化することで行われ、酸性発酵期、酸性減退期およびアルカリ性発酵期の分解過程を経て行われる。そのため、消化槽内に投入される下水汚泥や有機性排水の量に見合った嫌気性微生物を消化槽内に保持することが重要であるとともに、酸生成菌に比べ、pH、有機酸濃度および温度変動に敏感で増殖速度も遅いメタン生成細菌の生育に適した最適条件を保持し有機分の分解過程のバランスを保つことが重要である。
【0004】
嫌気性消化を行う消化槽の立ち上げには、まずタンク内に水を満たし、配管系統の気密試験を行う。その後、可能であれば消化槽内に嫌気性微生物を含む汚泥(種汚泥)を投入し、消化処理対象となる原汚泥を投入する。原汚泥の投入量を徐々に増加させ、嫌気性微生物を消化槽内で十分に増殖させて馴致させる。通常は、種汚泥を投入してから50〜60日で定常運転が可能であることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。」

(イ)「【0050】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態に係る嫌気性処理システムは、図3に示すように、種汚泥と原汚泥とを濃縮して濃縮汚泥を得る濃縮機構1と、濃縮汚泥を嫌気性消化処理する消化槽2と、種汚泥を濃縮機構1へ供給する種汚泥供給手段5を備える。種汚泥の供給元は特に限定は無いが、望ましくは同一敷地内に設置された稼働中又は稼働中であったが将来停止予定の消化槽4等を用いることが好ましい。種汚泥供給手段5としては、配管、運搬機など、既設消化汚泥を運搬可能な手段であれば特に限定されない。」

(ウ)「【0075】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態に係る嫌気性処理システムは、図4に示すように、原汚泥を濃縮して濃縮汚泥を得る濃縮機構1と、濃縮汚泥を嫌気性消化処理する消化槽2と、消化槽2と濃縮機構1との間に配置され、消化槽2から引き抜かれた引抜汚泥の一部を濃縮機構1へ循環させる配管3とを備える。濃縮機構1及び消化槽2の構成は図3に示す構成と実質的に同様であるので説明を省略する。
【0076】
消化槽2内の汚泥は引き抜かれた後、引き抜かれた汚泥(「引抜汚泥」と称する)が消化槽2の後段に設置された後段設備へと送られて水処理される一方で、引抜汚泥の一部又は全部が配管3を介して濃縮機構1又は濃縮機構1の前段に接続された配管3に返送されるように構成されている。
・・・
【0080】
本実施形態に係る立ち上げ方法によれば、消化槽2内の汚泥の一部を引き抜いて濃縮機構1へ返送し、原汚泥とともに濃縮機構1で所定の濃度まで濃縮し、消化槽2へ再投入することで、当該消化槽からの引抜汚泥を高濃度の種汚泥として活用することができる。その結果、消化槽2内の環境を大きく変動させることなく、消化槽2の早期立ち上げが実現できる。」

(エ)「1 :濃縮機構
2 :嫌気性消化槽
3 :配管
4 :既設消化槽
5 :種汚泥供給手段」

(オ)「【図3】



(カ)「【図4】



イ 前記ア(ア)、(イ)、(エ)、(オ)によれば、本件発明における「種汚泥」とは、嫌気性微生物を含む汚泥のことであって、その供給元は、同一敷地内に設置された稼働中又は稼働中であったが将来停止予定の消化槽等を用いることが好ましいものであり、これに対して、前記ア(ウ)、(エ)、(カ)によれば、「引抜汚泥」とは、消化槽内から引き抜かれた汚泥をいうものである。

ウ 前記イによれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明3の「種汚泥」は、嫌気性微生物を含む汚泥のことであって、その供給元は、同一敷地内に設置された稼働中又は稼働中であったが将来停止予定の消化槽等を用いることが好ましい汚泥のことをいい、「引抜汚泥」は、消化槽内から引き抜かれた汚泥のことをいうものと理解でき、「種汚泥」と「引抜汚泥」を区別することができるので、特許請求の範囲の請求項3の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
そして、このことを前記(1)の判断手法に照らせば、本件特許請求の範囲の請求項3の記載は、明確性要件に適合するというべきであり、請求項4及び5について検討しても事情は同じである。

(3)申立人の主張について
以下、明確性要件違反に係る申立人の主張について検討すると、前記ア(ウ)の段落【0080】の記載は、本件発明の「第2の実施の形態」に係る記載であり、前記「第2の実施の形態」は、原汚泥を濃縮して濃縮汚泥を得る濃縮機構と、濃縮汚泥を嫌気性消化処理する消化槽と、消化槽と濃縮機構との間に配置され、消化槽から引き抜かれた「引抜汚泥」の一部を濃縮器へ循環させる配管とを備えるものであって、前記(2)イでいう「種汚泥」を用いるものではない。
そして、前記段落【0080】の記載は、もともと前記「種汚泥」を用いない「第2の実施の形態」においては、「引抜汚泥」を「種汚泥」として活用することができることをいうものに過ぎず、前記「種汚泥」及び「引抜汚泥」の双方を用いる本件発明3における「種汚泥」及び「引抜汚泥」の定義は、前記(2)イのとおりで変わらないから、前記段落【0080】の記載により、本件発明3における「種汚泥」及び「引抜汚泥」の区別がつかなくなるものではないので、明確性要件違反に係る申立人の主張は採用できない。

(4)小括
したがって、本件発明3〜5は明確であるから、本件特許請求の範囲の請求項3〜5の記載は特許法第36条第6項第2号所定の規定に適合するので、前記第3の2の特許異議申立理由は理由がない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1〜7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-07-19 
出願番号 P2018-028159
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C02F)
P 1 651・ 113- Y (C02F)
P 1 651・ 121- Y (C02F)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 金 公彦
原 和秀
登録日 2021-10-04 
登録番号 6954853
権利者 水ing株式会社
発明の名称 嫌気性消化槽の立ち上げ方法及び嫌気性消化の立ち上げシステム  
代理人 アクシス国際特許業務法人  

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