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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G02B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G02B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G02B
管理番号 1387547
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-08-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-05-10 
確定日 2022-08-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第6967083号発明「長尺液晶フィルム、長尺偏光板、画像表示装置、および、長尺液晶フィルムの製造方法」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6967083号の請求項1ないし13に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6967083号(請求項の数13。以下,「本件特許」という。)に係る出願は,2018年(平成30年)11月26日(優先権主張 平成29年11月27日)を国際出願日とする出願であって,令和3年10月26日に特許権の設定登録がされ,同年11月17日に特許掲載公報が発行されたものである。
令和4年5月10日に特許異議申立人(以下,「申立人」という。)より請求項1ないし13に係る特許に対して本件特許異議の申立てがされた。

第2 本件特許の請求項1ないし13に係る発明
本件特許の請求項1ないし13に係る発明(以下,それぞれを「本件特許発明1」ないし「本件特許発明13」といい,これらを総称して「本件特許発明」ということがある。)は,本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定されるとおりの次のものと認められる。

「【請求項1】
長尺基材,長尺状の光配向層,及び,面内位相差を有する長尺状の液晶層をこの順に有する長尺液晶フィルムであって,
前記長尺状の液晶層には,前記長尺液晶フィルムを直線偏光子および検光子で挟んでこれらを消光位に配置して光を照射した場合に,光漏れが生じる筋状領域が存在し,前記筋状領域における遅相軸変動Δβが0°より大きく0.04°未満であることを特徴とする,長尺液晶フィルム。
【請求項2】
前記長尺状の液晶層の面内位相差が100nm〜250nmの範囲である請求項1に記載の長尺液晶フィルム。
【請求項3】
前記長尺液晶フィルムの面内位相差が100nm〜250nmの範囲である請求項1または2に記載の長尺液晶フィルム。
【請求項4】
前記長尺基材が,以下の式を満たす請求項1から3のいずれか一項に記載の長尺液晶フィルム。
|Re(550)|≦10nm
|Rth(550)|≦20nm
【請求項5】
前記長尺状の液晶層の面内位相差が110nmから160nmの範囲であり,その遅相軸が長尺基材の長手方向に対して45°をなしている,請求項1から4のいずれか一項に記載の長尺液晶フィルム。
【請求項6】
前記長尺液晶フィルムの面内位相差が110nmから160nmの範囲であり,その遅相軸が長尺基材の長手方向に対して45°をなしている,請求項1から5のいずれか一項に記載の長尺液晶フィルム。
【請求項7】
前記長尺状の液晶層が下記式を満たす,請求項1から6のいずれか一項に記載の長尺液晶フィルム。
Re(450)/Re(550)<1.0
1.0<Re(650)/Re(550)
【請求項8】
前記長尺液晶フィルムが下記式を満たす,請求項1から7のいずれか一項に記載の長尺液晶フィルム。
Re(450)/Re(550)<1.0
1.0<Re(650)/Re(550)
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の長尺液晶フィルムと,長尺状の直線偏光板とを,互いの長手方向を一致させて積層した,長尺偏光板。
【請求項10】
前記長尺状の直線偏光板の吸収軸が,前記長尺状の直線偏光板の長手方向に対して0°もしくは90°をなし,かつ,前記長尺液晶フィルムの遅相軸との交差角が45°を成している,請求項9に記載の長尺偏光板。
【請求項11】
前記長尺液晶フィルムの面内位相差が110nmから160nmの範囲である請求項10に記載の長尺偏光板。
【請求項12】
請求項9から11のいずれか一項に記載の長尺偏光板から切り出した枚葉状の偏光板を含む,画像表示装置。
【請求項13】
前記液晶層が,前記光配向層と前記液晶層との間,もしくは,前記長尺基材と前記光配向層との間の少なくとも何れかで剥離可能に設けられた,請求項1から8のいずれか一項に記載の長尺液晶フィルム。」

第3 特許異議申立書において申立人が主張する申立理由
1 申立理由の概要
申立人は,概略,次のとおりの理由で,請求項1ない13に係る特許を取り消すべきである旨主張する。

申立理由1(新規性進歩性欠如):
本件特許発明1ないし3,5ないし13は,甲1に記載された発明であって,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものであるから,それらの特許は,同項の規定に違反してされたものである,又は,甲1に記載された発明及び周知技術(周知例:甲2ないし甲7)に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,それらの特許は,同条2項の規定に違反してされたものである。
本件特許発明4は,甲1に記載された発明及び周知技術(周知例:甲8)に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,その特許は,同2項の規定に違反してされたものである。

申立理由2(明確性要件違反):
本件特許発明は,明確でないから,それらの特許は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

申立理由3(サポート要件違反):
本件特許発明は,発明の詳細な説明に記載したものでないから,それらの特許は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

申立理由4(実施可能要件違反):
本件明細書の詳細な説明の記載は,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が本件特許発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものないから,それらの特許は,特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

2 証拠方法
申立人は,申立理由1に係る証拠として,次の書証を提出している。
甲1:特開2015−200877号公報
甲2:特開2014−134771号公報
甲3:特開2012−236351号公報
甲4:特開2013−61377号公報
甲5:特開2017−102205号公報
甲6:特開2014−178709号公報
甲7:特開2015−102655号公報
甲8:特開2007−137022号公報
甲9:特開2015−57647号公報

第4 申立人が提出した証拠
1 甲1
(1)甲1の記載
甲1は,本件出願の優先権主張の日(以下,「優先日」という。)前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであるところ,当該甲1には,次の記載がある。(下線は,後述する甲1発明の構成と特に関連する箇所を示す。)

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,液晶化合物および光学フィルムならびに光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
λ/4位相差板やλ/2位相差板を単色光が透過する場合は,適切な位相差を有する波長への変換が容易である。しかし,同様に複数の単色光が混在している白色光が透過する場合では,全ての光線を適切な位相差を有する波長へと変換することは困難である。
・・・(中略)・・・
【0004】
本発明の課題は,優れた逆波長分散性を示す光学フィルムを提供することである。本発明はまた,優れた逆波長分散性を示す光学フィルムの製造に用いることができ,合成が容易である新規液晶化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
課題を解決するための手段は以下<1>〜<17>の通りである。
<1>下記一般式(1)で表される化合物を含む光学異方性層または下記一般式(1)で表される化合物を含む重合性組成物の硬化により形成される光学異方性層を含む光学フィルム;
【0006】
【化1】

【0007】
一般式(1)中,L1〜L6はそれぞれ独立に単結合または連結基を表し,
A1は置換基を有してもよい芳香族基を表し,
A2,A3はそれぞれ独立に置換基を有してもよい環状脂肪族基を表し,
B1,B2はそれぞれ独立に置換基を有していてもよい環状脂肪族基,または,置換基を有していてもよい芳香族基を表し,
Sp1,Sp2はそれぞれ独立に,スペーサー基を表し,
P1,P2は,それぞれ独立に重合性基,
アルキル基,または水素原子を表し,Yは,単結合もしくは連結基を表し,
Zは,置換基を有していてもよい芳香族基を表し,
a,bはそれぞれ独立に,0から2いずれかの整数を表す。
・・・(中略)・・・
【0015】
<11><1>〜<10>のいずれか一項に記載の光学フィルムであって,
一般式(1)で表される化合物を含む重合性組成物の硬化により形成される光学異方性層を含み,
光配向膜を含み,
上記光学異方性層が上記光配向膜と直接接している光学フィルム。
<12><1>〜<11>のいずれか1項に記載の光学フィルムを含む偏光板。
<13><1>〜<11>のいずれか1項に記載の光学フィルムを含む円偏光板。
<14><1>〜<11>のいずれか1項に記載の光学フィルムを含む表示装置。
・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0021】
本発明により優れた逆波長分散性を示す光学フィルムが提供される。また,本発明により,優れた逆波長分散性を示すフィルムの製造に用いることができ,合成が容易である新規液晶化合物が提供される。」

イ 「【発明を実施するための形態】
・・・(中略)・・・
【0024】
本明細書において「遅相軸」とは,面内において屈折率が最大となる方向を意味し,「偏光板」とは,特別な記述がない限り,長尺の偏光板,および表示装置に組み込まれる大きさに裁断された偏光板の両者を含む意味で用いている。なお,ここでいう「裁断」には「打ち抜き」および「切り出し」等も含むものとする。また,本明細書において,「偏光板」のうち,特に,本発明の光学フィルムまたは一般的なλ/4板と偏光膜との積層体を含む形態を「円偏光板」と呼ぶ。
・・・(中略)・・・
【0026】
本明細書において,Re(λ),Rth(λ)は各々,波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。Re(λ)はKOBRA21ADHまたはWR(商品名,王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。
・・・(中略)・・・
【0028】
・・・(中略)・・・
なお,遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする),任意の傾斜した2方向からレターデーション値を測定し,その値と平均屈折率の仮定値および入力された膜厚値を基に,以下の数式(1)および数式(2)によりRthを算出することもできる。
【0029】
【数1】

【0030】
式中,Re(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値を表す。nxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し,nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し,nzはnxおよびnyに直交する方向の屈折率を表す。dはフィルムの膜厚を表す。」

ウ 「【0033】
<<光学フィルム>>
本明細書において,光学フィルムとは,各種表示装置,発光装置,偏光板などの各種光学素子などの,光学部材に用いることができるフィルムを意味する。光学フィルムは光学異方性層を含む。光学フィルムは光学異方性層の他に支持体,配向層,接着層などの他の機能性層を含んでいてもよい。」

エ 「【0099】
例えば,本発明の光学フィルムを偏光板に用いる場合,偏光板を斜めから見たときの光漏れの抑制のためには,偏光膜の透過軸とセルロースアシレートフィルムの面内の遅相軸を平行に配置する必要がある。連続的に製造されるロールフィルム状の偏光膜の透過軸は,一般的に,ロールフィルムの幅方向に平行であるので,ロールフィルム状の偏光膜とロールフィルム状のセルロースアシレートフィルムからなる保護膜を連続的に貼り合せるためには,ロールフィルム状の保護膜の面内遅相軸は,フィルムの幅方向に平行であることが好ましい。従って幅方向により多く延伸することが好ましい。また延伸処理は,製膜工程の途中で行ってもよいし,製膜して巻き取った原反を延伸処理してもよい。前者の場合には残留溶媒を含んだ状態で延伸を行ってもよく,残留溶媒量が2〜30質量%で好ましく延伸することができる。」

オ 「【0122】
[重合性組成物の硬化による光学異方性層の製造方法]
光学異方性層は上述の重合性組成物を,支持体表面または支持体上に形成された配向膜の表面に,重合性組成物を適用し,重合性組成物を硬化させて製造することができる。また,偏光膜(例えば,ポリビニルアルコールフィルム)の表面をラビング処理し,その表面に重合性組成物を適用し,重合性組成物を硬化させることでも製造することができる。
【0123】
[支持体]
本発明の光学フィルムは支持体を含んでいてもよい。支持体は,特に光学異方性層を重合性化合物の硬化により形成する場合において含まれていることが好ましい。支持体は,上述の重合性組成物を塗布するための基材としての機能や,光学異方性層の層形状を維持するための機能を有する。支持体は上述の重合性組成物を塗布するための基材として用いられて光学異方性層の形成の後,剥離される仮支持体であってもよい。すなわち,本発明の光学フィルムは支持体を含んでいなくてもよく,たとえば,配向膜のみが支持体としての機能を兼ね備えていてもよい。光学異方性層を形成後,剥離して用いる場合は剥離しやすい表面性状の材質を用いてもよく,このような形成用の仮支持体としては,ガラスや易接着処理をしていないポリエステルフィルムなどを用いることができる。
・・・(中略)・・・
【0124】
[配向処理と配向膜]
光学異方性層を形成する際には,組成物中の液晶化合物の分子を所望の配向状態にするための技術が必要になる。例えば,配向膜を利用して,液晶化合物を所望の方向に配向させる技術が一般的である。配向膜としては,ポリマー等の有機化合物からなるラビング処理膜や無機化合物の斜方蒸着膜,マイクログルーブを有する膜,あるいはω−トリコサン酸やジオクタデシルメチルアンモニウムクロライド,ステアリル酸メチルの如き有機化合物のラングミュア・ブロジェット法によるLB膜を累積させた膜(単分子累積膜)などが挙げられる。さらに光の照射で配向機能が生じる配向膜なども挙げられる。配向膜としては,ポリマー層の表面をラビング処理して形成されたものも好ましい。・・・(中略)・・・長尺状のポリマーフィルムからなる支持体上に連続的に配向膜を形成する態様では,製造適性の観点では,ラビング処理の方向(ラビング方向)は,支持体の長手方向と一致していることが好ましい。偏光膜の表面などに直接に光学異方性層を形成する場合も同様である。
【0125】
配向膜としては,光配向性の素材に偏光または非偏光を照射して配向膜とした,いわゆる光配向膜を用いることもできる。光配向膜には,垂直方向または斜め方向から偏光照射する工程,または,斜め方向から非偏光照射する工程により配向規制力を付与することが好ましい。」
・・・(中略)・・・

カ 「【0132】
<<光学フィルムの用途>>
本発明の光学フィルムは,例えば,液晶セルを光学補償するための光学補償フィルムや,有機EL表示装置に用いられる広帯域λ/4板,または,λ/2板やλ/4板の位相差板として有用である。広帯域λ/4板,または,λ/2板やλ/4板の位相差板は有機EL表示装置において偏光膜と組み合わせて反射防止板として用いることができる。
特に,本発明の光学フィルムは,傾斜角が抑制された,Aプレートまたは準Aプレートとなるため,プレチルト0°の光配向膜を使用したIPS型やFFS型の液晶表示装置の光学補償フィルムとして好ましく用いることもできる。
【0133】
本発明の光学フィルムは,波長450nm,550nmおよび650nmで測定したレタ−デーション値であるRe(450),Re(550)およびRe(650)が下記式(A−1)〜(A−3)を満足する,ポジティブAプレートであることが最も好ましい。
式(A−1) 100≦Re(550)≦180nm
式(A−2) 0.70≦Re(450)/Re(550)≦0.90
式(A−3) 1.00≦Re(650)/Re(550)≦1.30」

キ 「【0164】
(光学フィルム1の作製)
<支持体の鹸化>
支持体として,市販されているトリアセチルセルロースフィルム「Z−TAC」(富士フイルム社製)を用いた。・・・(中略)・・・アルカリ鹸化処理した透明支持体を作製した。
・・・(中略)・・・
【0166】
<配向膜1の作製>
得られた透明支持体を用い,下記の組成の配向膜1形成用塗布液をワイヤーバーでアルカリ鹸化処理した面上に塗布した。60℃の温風で60秒,さらに100℃の温風で120秒,塗布面を乾燥し,配向膜1を形成した。
───────────────────────────────────
配向膜1形成用塗布液の組成
───────────────────────────────────
下記光配向用素材1 1.0質量部
ブトキシエタノール 33質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテル 33質量部
水 33質量部
───────────────────────────────────
【0167】
【化36】

【0168】
(実施例1)
<光学異方性層1の作製>
続いて,下記の光学異方性層用塗布液1を作製した。
───────────────────────────────────
光学異方性層用塗布液1の組成
───────────────────────────────────
液晶性化合物 2−B 15質量部
光重合開始剤 0.45質量部
(イルガキュア819,BASFジャパン社製)
含フッ素化合物A 0.12質量部
クロロホルム 140質量部
───────────────────────────────────
【0169】
【化37】

【0170】
作製した配向膜1に,室温大気下にて160W/cm2の空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて紫外線を照射した。このとき,ワイヤーグリッド偏光子(Moxtek社製,ProFluxPPL02)を配向膜1の面と平行にセットして露光を行った。この際用いる紫外線の照度はUV−A領域(波長380nm〜320nmの積算)において100mW/cm2,照射量はUV−A領域において1000mJ/cm2とした。
【0171】
次いで,光学異方性層用塗布液1を,紫外線を照射した光配向処理面上にバーコーターを用いて塗布した。膜面温度190℃で30秒間加熱熟成し,150℃まで冷却した後に,大気下にて70mW/cm2の空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて1000mJ/cm2の紫外線を照射して,その配向状態を固定化することにより光学異方性層1を形成し,光学フィルム1を得た。形成された光学異方性層1は,偏光照射方向に対して直交に液晶化合物2−Bが配向し,同じく遅相軸方向も直交であった。自動複屈折率計(KOBRA−21ADH,王子計測機器(株)社製)を用いて,光学フィルム1の光学特性を確認したところ,波長550nmにおいてReが125nm,Rthが65nm,Re(450)/Re(550)が0.70,Re(650)/Re(550)が1.07であった。
・・・(中略)・・・
【0183】
(反射防止板の作製)
片面だけがトリアセチルセルロース(厚さ40μm)で保護された延伸したポリビニルアルコールよりなる偏光子(厚さ20μm)を有する積層体を用いた。上記積層体の偏光子側の面上(トリアセチルセルロースによって保護されていない面)に,光学フィルム1(正Aプレート)および上記ポジティブCプレート1−1(ただし,550nmにおけるRthが−65nmとなるように,ポジティブCプレートの厚みは制御している)をこの順に積層した光学異方性層とを,光学的に等方性の接着剤(SK2057,綜研化学社製)によって貼り合わせ,有機EL用反射防止板(円偏光板)を作製した。このとき,偏光子の透過軸と正Aプレートの光学異方性層の遅相軸とのなす角は45°とした。」

(2)甲1に記載された発明
甲1の「光学フィルムは支持体を含んで」(【0123】),という記載,及び「長尺状のポリマーフィルムからなる支持体上に連続的に配向膜を形成する」(【0124】)という記載から,長尺状の光学フィルムを把握することができ,【0021】の「合成が容易である新規液晶化合物が提供される。」という記載から,【0006】,【0007】等に記載された一般式(1)で表される化合物が,液晶化合物であることが明らかであるから,前記(1)アないしキで摘記した甲1の記載から,甲1に,長尺状の光学フィルムとして,次の発明(以下,「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
,「長尺状の支持体と,当該支持体上に形成された長尺状の光配向膜と,当該光配向膜上に形成された長尺状の光学異方性層を有し,
前記支持体は,光学異方性層の形成の後,剥離される仮支持体であってもよく,
前記光学異方性層は,下記一般式(1)で表される液晶化合物を含む重合性組成物の硬化により形成され,
波長450nm,550nmおよび650nmで測定したレタ−デーション値であるRe(450),Re(550)およびRe(650)が下記式(A−1)〜(A−3)を満足する,ポジティブAプレートであり,
有機EL表示装置において偏光膜と組み合わせて反射防止板として用いることができる,
長尺状の光学フィルム。


一般式(1)中,L1〜L6はそれぞれ独立に単結合または連結基を表し,
A1は置換基を有してもよい芳香族基を表し,
A2,A3はそれぞれ独立に置換基を有してもよい環状脂肪族基を表し,
B1,B2はそれぞれ独立に置換基を有していてもよい環状脂肪族基,または,置換基を有していてもよい芳香族基を表し,
Sp1,Sp2はそれぞれ独立に,スペーサー基を表し,
P1,P2は,それぞれ独立に重合性基,
アルキル基,または水素原子を表し,Yは,単結合もしくは連結基を表し,
Zは,置換基を有していてもよい芳香族基を表し,
a,bはそれぞれ独立に,0から2いずれかの整数を表す。

式(A−1) 100≦Re(550)≦180nm
式(A−2) 0.70≦Re(450)/Re(550)≦0.90
式(A−3) 1.00≦Re(650)/Re(550)≦1.30」

2 甲2の記載
甲2は,本件出願の優先日前に頒布された刊行物であるところ,当該甲2には,次の記載がある。

(1) 「【0022】
パターン位相差フィルム10は,光配向材料により光配向材料膜が作成された後,いわゆる光配向の手法により,この光配向材料膜に直線偏光による紫外線を照射して光配向層2が形成される。・・・(中略)・・・
【0025】
[光学フィルムの製造工程]
図2は,第1実施形態のパターン位相差フィルムの製造工程を説明するためのフローチャートである。パターン位相差フィルムの製造工程では,ロールより透明フィルム基材1が順次引き出され,光配向材料膜が順次形成される(ステップS201)。光配向材料膜は,各種の製造方法を適用することができる。第1実施形態では,光配向材料をベンゼン等の溶媒に分散させた成膜用液体をダイにより塗布した後,乾燥して作成される。
【0026】
続いて,第1実施形態の製造工程では,領域Aまたは領域B(図2では領域Aとする)に偏光紫外線が照射され,領域Aまたは領域Bが露光される(ステップS202)。次に,領域A,領域Bを含む光配向材料膜の全面が露光される(ステップS203)。ステップS202,S203により,光配向層2が作成される。ステップS202において照射される偏光紫外線とステップS203において照射される偏光紫外線とは,それぞれ第1偏光方向及び第2偏光方向である偏光方向が互いに90度異なる直線偏光された紫外線である。なおパターン位相差フィルムは,光配向材料によって始めに全面を偏光紫外線により露光した後,マスクを使用して露光する場合もあり,この場合は,ステップS202とステップS203との順序が入れ替えられる。
続いて,第1実施形態では,光配向層2上にダイ等によって液晶材料が塗布された後(ステップS204),液晶材料を加熱することによって乾燥させる(ステップS205)。さらに,乾燥の後,紫外線の照射によって液晶材料を硬化させ(ステップS206),液晶でなる位相差層3が作成される。以上の処理がされたフィルムは,必要に応じて反射防止膜の作成処理等が施された後,切断工程において,所望の大きさに切り出されてパターン位相差フィルム10となる。
【0027】
図3は,図2に示したフローチャートに示したステップS202の工程を説明するための模式的な図である。この工程では,大径のロール17に巻き付けて透明フィルム基材1を搬送するようにして,ロール17に対向するように露光マスク16が配置され,直線偏光による紫外線が露光マスク16を介し,図1に示した領域Aに照射される。」

(2) 「【図3】



3 甲3の記載
甲3は,本件出願の優先日前に頒布された刊行物であるところ,当該甲3には,次の記載がある。

「【0111】
得られたポリカーボネート樹脂を240まで加熱して溶融状態とし,単軸押出機に供給しダイへと導き,この溶融ポリカーボネートを温度190〜195℃で,温度120〜130℃に調節した表面と中心線平均粗さRaが0.3μm,10点平均粗さRzが0.50μmである冷却ロールに接触させ,この接点に,ポリカーボネート樹脂の反対面より表面硬度70°のシリコンゴム製の鏡面ガイドロールを平均線圧4kg/cmで押しつけて0.25mm厚みの片面マット,他面鏡面のポリカーボネートフィルムが得た。このときのRe(550)は75nm,Rth(550)は255nmであった。」

4 甲4の記載
甲4は,本件出願の優先日前に頒布された刊行物であるところ,当該甲4には,次の記載がある。
(1) 「【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムを一定方向に搬送しながら,そこに紫外線硬化型接着剤を介して透明樹脂フィルムを重ね合わせて積層体とし,得られる積層体をその搬送方向に沿って円弧状に形成された凸曲面を有する接触体に密着させ,前記積層体の前記接触体に密着している面とは反対側から紫外線を照射して前記接着剤を硬化させ,偏光板を製造する方法であって,
前記接触体の凸曲面は,表面粗さがその輪郭曲線の最大高さRzで表して0.4〜1.2μmの範囲内にあり,そこに密着される前記積層体の表面との静摩擦係数が0.2〜1.0の範囲内にあることを特徴とする,偏光板の製造方法。」

(2) 「【0005】
ところが,このような紫外線硬化型接着剤を用いて製造される偏光板は,液晶セルに貼着される側が凹となるようにカールする,いわゆる逆カールを生じたり,長尺で製造された状態で幅方向に波打つ,いわゆるウェーブカールを生じたりするという問題があった。かかる逆カールやウェーブカールは,液晶セルに貼着するとき,貼着面に気泡を残しやすく,液晶パネルに不良を発生する原因となる。そのため偏光板には従来から,逆カールやウェーブカールがなく,カールしないか,又はカールしても液晶セルに貼着する側が凸となる,いわゆる正カールとなっていることが望まれている。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明の課題は,偏光フィルムに紫外線硬化型接着剤を介して透明樹脂フィルムを重ね合わせ,その長手方向に沿って形成された凸曲面を有する接触体に密着させながら紫外線を照射する方法を採用しながら,ウェーブカールの発生が抑制された偏光板を製造しうる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するべく鋭意研究を重ねた結果,偏光フィルムに紫外線硬化型接着剤を介して透明樹脂フィルムを重ね合わせた積層体を,所定の表面粗さとなるようにある程度粗面化された凸曲面を有し,そこに密着される積層体表面との静摩擦係数が所定範囲となる接触体を用いることにより,ウェーブカールの発生が抑制されることを見出し,本発明を完成するに至った。
・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法によれば,ウェーブカールの発生が抑制された偏光板を製造することができる。」

(3) 「【0055】
接触体(ロール)23と第二の透明樹脂フィルム3との間の静摩擦係数が0.2を下回ると,接着剤の硬化収縮に伴って偏光板5が縮み,ウェーブカールが発生しやすくなる。一方,この静摩擦係数が1.0を上回ると,接触体(ロール)23と積層体4との密着力が強くなりすぎ,接触体(ロール)23と巻取り前ニップロール25,26との間において張力異常が発生し,積層体4が変形したまま偏光板化されるため,同様にウェーブカールが発生しやすくなる。
【0056】
上記のような静摩擦係数を達成するため,接触体(ロール)23の表面粗さは,その輪郭曲線の最大高さRzで表して0.4〜1.2μmの範囲内となるようにする。このRzは,0.4〜0.8μmの範囲内となるようにすることがより好ましい。この範囲から,接触体(ロール)23に密着される透明樹脂フィルム3の材質などを勘案して,最適な値を適宜選択すればよい。表面粗さRzが0.4μmを下回ると,接触体(ロール)23とそこに密着する第二の透明樹脂フィルム3との密着力が増し,静摩擦係数が1.0を超える可能性が大きくなる。一方で,そのRzが1.2μmを超えると,そこに密着される第二の透明樹脂フィルム3に微小な傷を発生させる可能性が大きくなる。」

5 甲5の記載
甲5は,本件出願の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであるところ,当該甲5には,次の記載がある。
(1) 「【請求項7】
前記第一バックアップロールの周面の算術平均粗さが,0.020μm以下であり,
前記基材フィルムの前記第二表面の算術平均粗さが,0.005μm以下である,請求項1〜6のいずれか一項に記載の機能性フィルムの製造方法。

(2) 「【技術分野】
【0001】
本発明は,基材フィルム及び当該基材フィルム上に設けられた機能性層を備える機能性フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
・・・(中略)・・・
【0003】
機能性フィルムは,塗工液を用いて製造されることがある。通常は,機能性層を形成するための塗工液を基材フィル上に塗工し,必要に応じて塗工された塗工液を硬化させて,機能性フィルムを得る。このような塗工液の塗工は,バックアップロールを備える塗工装置を用いて行われることがあった(特許文献1〜3参照)。一般に,このような従来の塗工装置では,バックアップロールの周面に基材フィルムを支持した状態で基材フィルムを搬送しながら,基材フィルム上に塗工液を塗工していた。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バックアップロールを用いた塗工装置では,バックアップロールに基材フィルムが進入する際に,バックアップロールと基材フィルムとの間に空気が浸入することがある。浸入した空気は,バックアップロールと基材フィルムとの間に留まって空気溜まりを形成し,基材フィルムに,シワ,たるみ等の変形部を生じさせる。このような変形部が基材フィルムに生じると,当該基材フィルム上に塗工液を均一な厚みで塗工することができなくなって,機能性層に厚みムラを生じる。
・・・(中略)・・・
【0009】
また,安定な塗工を実現するために,塗工液の塗工のためにバックアップロールの周面で支持されながら搬送される基材フィルムは,搬送ズレ,搬送しわ,ばたつき等の搬送異常を生じないことが求められる。ここで,搬送ズレとは,バックアップロールの周面によって支持された状態で搬送される基材フィルムに生じうる,基材フィルムの幅方向における搬送位置の周期的又はランダムなズレをいう。また,搬送シワとは,バックアップロールの周面によって支持された状態で搬送される基材フィルムに生じうる,基材フィルムの長手方置に延在するシワをいう。
【0010】
本発明は前記の課題に鑑みて創案されたものであって,搬送異常及び厚みムラを抑制しながら機能性フィルムを製造できる,機能性フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは,前記の課題を解決するべく,鋭意検討を行った。その結果,本発明者らは,バックアップロールで支持されながら搬送される基材フィルム上に塗工液を塗工して機能性層を形成する際に,(1)基材フィルムを高速で搬送速度すること,(2)基材フィルムの搬送方向の張力を適切に調整すること,及び,(3)基材フィルムの搬送速度をバックアップロールの周速よりも僅かに速くすること,を組み合わせることにより,基材フィルムの搬送異常及び機能性層の厚みムラを抑制できることを見い出し,本発明を完成させた。
すなわち,本発明は,下記の通りである。
【0012】
〔1〕 第一表面及び第二表面を有する長尺の基材フィルムと,前記基材フィルムの前記第一表面に設けられた第一機能性層とを備える機能性フィルムの製造方法であって,
周方向に回転する第一バックアップロールの周面で,前記基材フィルムの前記第二表面を支持しながら,前記基材フィルムを搬送する工程と,
前記第二表面を前記第一バックアップロールの周面で支持された前記基材フィルムの前記第一表面に,第一塗工液を塗工して,前記第一機能性層を形成する工程と,を含み,
前記基材フィルムの前記第二表面が前記第一バックアップロールの周面で支持される支持時間T1が,0.5秒≦T1≦5秒であり,
前記第二表面を前記第一バックアップロールの周面で支持された前記基材フィルムの搬送方向の張力Ff1が,50N/m≦Ff1≦500N/mであり,
前記第二表面を前記第一バックアップロールの周面で支持された前記基材フィルムの搬送速度Vf1と前記第一バックアップロールの周速Vr1との比Vf1/Vr1が,1.001≦Vf1/Vr1≦1.010である,機能性フィルムの製造方法。
・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば,搬送異常及び厚みムラを抑制しながら機能性フィルムを製造できる,
機能性フィルムの製造方法を提供できる。」

(3) 「【0027】
〔1.2.塗工装置120〕
図2は,本発明の第一実施形態に係る機能性フィルム10の製造方法で用いる,塗工装置120を模式的に示す正面図である。
図2に示すように,塗工装置120は,第一バックアップロールとしてのバックアップロール210と,コーター300と,搬送速度測定装置としての供給ロール220と,張力測定装置としてのテンションピックアップロール230とを備える。
【0028】
(1.2.1.バックアップロール210)
図2に示すように,バックアップロール210は,基材フィルム30の第二表面32を支持しうる周面211を有する。このバックアップロール210は,基材フィルム30の搬送方向と同じ向きで,周方向に回転しうるように設けられている。また,バックアップロール210は,図示しないモーター等の駆動装置に接続されている。よって,バックアップロール210は,駆動装置から与えられる回転駆動力に応じた回転速度で回転駆動されうるように設けられている。
・・・(中略)・・・
【0031】
バックアップロール210の周面211の算術平均粗さRaは,好ましくは0.020μm以下,より好ましくは0.015μm以下である。このように滑らかな周面211を有するバックアップロール210は,入手が容易であるので,塗工装置120を用意するためのコストを安価にできる。また,従来の技術常識によれば,滑らかな周面を有するバックアップロールを用いた塗工方法では機能性層の厚みムラを抑制することが困難であったが,本発明の第一実施形態によれば,滑らかな周面211を有するバックアップロール210を用いた場合でも第一機能性層50の厚みムラを抑制することが可能である。よって,従来技術で特に解決が難しかった課題を解消できるとの観点でも,バックアップロール210としては,滑らかな周面211を有するものが好ましい。バックアップロール210の周面211の算術平均粗さRaの下限は,バックアップロール210の製造を容易にする観点から,好ましくは0.001μm以上である。
【0032】
また,第一機能性層50の厚みムラを特に効果的に抑制する観点では,バックアップロール210の周面211の算術平均粗さRaは,上述した範囲よりも大きくしても好ましい。バックアップロール210の周面211が粗いと,バックアップロール210の周面211で基材フィルム30の第二表面32を支持したときに,バックアップロール210の周面211と基材フィルム30の第二表面32との間に微小な空隙を形成することができる。そのため,バックアップロール210の周面211と基材フィルム30の第二表面32との間に浸入した空気の排出を効果的に促すことができるので,厚みムラを特に効果的に抑制できる。ただし,基材フィルム30の搬送を安定に行う観点では,バックアップロール210の周面211の算術平均粗さRaは,好ましくは0.350μm未満,より好ましくは0.300μm以下,特に好ましくは0.250μm以下である。」

6 甲6の記載
甲6は,本件出願の優先日前に頒布された刊行物であるところ,当該甲6には,次の記載がある。

(1) 「【技術分野】
【0001】
本発明はケン化処理適性を向上させた偏光板保護フィルムを有した偏光板の製造方法に関し,より詳しくは,透明性が良好で,耐高温高湿性があり,脆性を著しく改善した」

(2) 「【0133】
<アクリルフィルムの製膜方法>
本発明のアクリルフィルムは溶液流延方法,溶融流延によって作製することができるが,以下はまず溶融製膜方法について述べる。
【0134】
(溶融流延製膜方法)
溶融製膜法によるアクリルフィルムの成形法は,溶融押出し成形法,プレス成形法,インフレーション法,射出成形法,ブロー成形法,延伸成形法などに分類できる。これらの中で,機械的強度および表面精度などに優れるアクリルフィルムを得るためには,溶融押出し成形法が優れている。
【0135】
以下,溶融押出し成形法を例にとり,本発明のアクリルフィルムの製造方法について説明する。アクリルフィルムの製造方法において,溶融押出しの条件は一般的な熱可塑性樹脂に用いられる条件と同様にして行うことができる。
・・・(中略)・・・
【0171】
《冷却ロール》
本発明の冷却ロールには特に制限はないが,高剛性の金属ロールで内部に温度制御可能な熱媒体または冷媒体が流れるような構造を備えるロールであり,大きさは溶融押出しされたフィルムを冷却するのに十分な大きさであればよく,通常冷却ロールの直径は100mmから1m程度である。
・・・(中略)・・・
【0174】
冷却ロール表面の表面粗さは,Raで0.1μm以下とすることが好ましく,さらに0.05μm以下とすることが好ましい。ロール表面が平滑であるほど,得られるフィルムの表面も平滑にできる。
・・・(中略)・・・
【0181】
《弾性タッチロール》
冷却ロールに当接するタッチロールは,表面が弾性を有し,冷却ロールへの押圧力によって冷却ロールの表面に沿って変形し,冷却ロールとの間にニップを形成することができる,弾性タッチロールであることが好ましい。
・・・(中略)・・・
【0183】
本発明で用いる弾性タッチロールは,金属製外筒と内筒との2重構造になっており,その間に冷却流体を流せるように空間を有しているものである。
・・・(中略)・・・
【0187】
金属外筒表面の表面粗さは,算術平均粗さRaで0.1μm以下とすることが好ましく,さらに0.05μm以下とすることが好ましい。ロール表面が平滑であるほど,得られるフィルムの表面も平滑にできるのである。
・・・(中略)・・・
【0245】
また,製膜時のフィルム接触部(冷却ロール,カレンダーロール,ドラム,ベルト,溶液製膜における塗布基材,搬送ロールなど)の表面粗さを小さくしてフィルム表面の表面粗さを小さくすることや,アクリル樹脂の屈折率を小さくすることによりフィルム表面の光の拡散や反射を低減させることが有効である。」

7 甲7の記載
甲7は,本件出願の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであるところ,当該甲7には,次の記載がある。

(1) 「【技術分野】
【0001】
本発明は,ポリエステルフィルムからなる偏光子保護フィルムに関するものである。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は,上記事情に鑑みてなされたものであり,光学欠点が少なく,透明性,視認性に優れた偏光子保護フィルムを提供することにある。さらに好ましい態様として,虹斑の発生を抑制し,液晶表示装置の視認性に優れた偏光子保護フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
代表的な本発明は,以下の通りである。
項1.
ポリエステルフィルムの少なくとも片面に接着性改質樹脂層を有する偏光子保護フィルムであって,深さ0.5μm以上のキズの数が10〜10000個/1000m2であり,長径50μm以上の異物の数が3〜2000個/1000m2である,偏光子保護フィルム。
・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば,フィルム表面に存在する特定深さ以上のキズ,及び特定の長径以上の異物の発生を一定範囲内に制御することで,該キズ,異物に起因する光学欠点が低減された,視認性に優れる偏光子保護フィルムを提供することができる。本発明の偏光子保護フィルムは,その優れた特性から,偏光板,それを用いた液晶表示装置に使用することができる。」

(2) 「【0078】
3.偏光子保護フィルムの製造方法
本発明の偏光子保護フィルムの基材であるポリエステルフィルムは,一般的なポリエステルフィルムの製造方法に従って製造することができる。例えば,ポリエステル樹脂を溶融し,シート状に押出し成形された無配向ポリエステルをガラス転移温度以上の温度において,ロールの速度差を利用して縦方向に延伸した後,テンターにより横方向に延伸し,熱処理を施す方法が挙げられる。本発明の偏光子保護フィルムの製造方法について,主に基材にポリエチレンテレフタレートフィルムを採用した場合を例にとって説明するが,本発明はこれに限定されるものではない。
・・・(中略)・・・
【0087】
この際,フィルムのキズの発生を防止するためには,(a)フィルム表面そのものやロール表面,特にフィルムと接触するロール表面にキズの原因となる「欠点」を発生させないこと,(b)接触するロールの表面上でフィルムが縦方向および横方向にずれないようにすることが重要である。
【0088】
上記の「欠点」とは,ロール表面に形成されるキズ,堆積物,付着物,異物などの,フィルムと接触することによりフィルムに微細なキズを発生させるすべての要因を指す。よって,これらの欠点を無くすことで,フィルム表面へのキズの発生を低減できる。上記欠点の発生を防止するためには,例えば,下記に挙げる方法を採用することができる。
【0089】
フィルム製造時に用いるロールの表面粗度をRaで0.1μm以下とする方法や,堆積物,付着物,異物などのキズ発生要因のロール表面への堆積を防止するため,縦延伸工程(以下,「MD工程」という)の予熱入口と冷却ロールにロールクリーナーを設置する方法が挙げられる。」

(3) 「【0139】
(実施例1)
基材フィルムの原料に,固有粘度が0.62dl/gで,粒子を含有していないPETのペレットを用いた。このペレットを135℃で6時間減圧乾燥(1Torr)した後,押出機に供給し,約280℃でフィルム状に溶融押出して,表面温度20℃に保った金属ロール上で急冷固化し,厚さ500μmのキャストフィルムを得た。
・・・(中略)・・・
【0142】
なお,フィルム製造時に用いる全ロールに対して,ロールの表面粗度をRaで0.1μm以下に管理したロールを用いた。」

第5 判断
1 申立理由1(新規性進歩性欠如)について
(1)本件特許発明1について
ア 本件特許発明1と甲1発明の対比
(ア) 甲1発明の「長尺状の支持体」,「長尺状の光配向膜」,「長尺状の光学異方性層」及び「長尺状の光学フィルム」は,本件特許発明1の「長尺基材」,「長尺状の光配向層」,「長尺状の液晶層」及び「長尺液晶フィルム」にそれぞれ対応する。

(イ) 甲1発明の「長尺状の光学異方性層」(本件特許発明1の「長尺状の液晶層」に対応する。以下,「ア 本件特許発明1と甲1発明の対比」において,「」で囲まれた甲1発明の構成に続く()内の文言は,当該甲1発明の構成に対応する本件特許発明1の発明特定事項を表す。)は,一般式(1)で表される液晶化合物を含む重合性組成物の硬化により形成されるから,「長尺状の液晶層」といえ,当該長尺状の光学異方性層を有する「長尺状の光学フィルム」(長尺液晶フィルム)は,「長尺液晶フィルム」といえる。

(ウ) 甲1発明の「長尺状の光学フィルム」(長尺液晶フィルム)のレタデーション値Re(450),Re(550),Re(650)は,式(A−1)〜(A−3)で表されるから,甲1発明の「長尺状の光学フィルム」(長尺液晶フィルム)は「面内位相差」を有している。
そして,甲1発明の当該「面内位相差」が,専ら「長尺状の光学異方性層」(長尺状の液晶層)によってもたらされることは,「長尺状の光学異方性層」が光学異方性を有する層であること等から明らかである。
したがって,甲1発明の「長尺状の光学異方性層」は,本件特許発明1の「長尺状の液晶層」と,「面内位相差を有する」点で一致する。

(エ) 甲1発明においては,「長尺状の支持体」上に「長尺状の光配向膜」が形成され,当該「長尺状の光配向膜」上に「長尺状の光学異方性層」が形成されているから,「長尺状の支持体」(長尺基材),「長尺状の光配向膜」(長尺状の光配向層),及び「長尺状の光学異方性層」(長尺状の液晶層)をこの順に有している。

(オ) 前記(ア)ないし(エ)に照らせば,本件特許発明1と甲1発明は,
「長尺基材,長尺状の光配向層,及び,面内位相差を有する長尺状の液晶層をこの順に有する長尺液晶フィルム。」
である点で一致し,次の点で相違する。

相違点1:
本件特許発明1では,長尺状の液晶層には,長尺液晶フィルムを直線偏光子および検光子で挟んでこれらを消光位に配置して光を照射した場合に,光漏れが生じる筋状領域が存在し,前記筋状領域における遅相軸変動Δβが0°より大きく0.04°未満であるのに対して,
甲1発明では,そのような筋状領域を有するのか否かが定かでない点。

イ 判断
(ア)新規性欠如について
a 本件特許発明1と甲1発明との間に,前述した相違点1が存在する以上,本件特許発明1は,甲1発明ではない。
b 申立人は,特許異議申立書において,相違点1に関連して,
本件明細書の【0059】の記載を根拠として,相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項は,光配向処理を行う際のバックアップロールの表面の最大高さ粗さRzを0.7μm以下とすることにより実現される構成であるとした上で,
甲2にも示されているように,光配向を行うためには配向膜の正確な位置を保持するためにバックアップロールが必須の構成であるから,甲1発明を製造するにあたって,長尺状の光配向膜に光配向処理を行う際には,当然バックアップロールを用いていると主張するとともに,
甲3ないし甲7に示されているように,光学フィルムの製造装置(方法)に用いられるローラ等の接触体の最大高さ粗さRzを0.7μm以下とすることは本件特許の出願時の技術常識であるから,甲1発明を製造するにあたって,光配向処理を行う際に用いるバックアップロールの最大高さ粗さRzは当然0.7μm以下であるから,甲1発明は,当然,相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項に相当する構成を有している旨主張する。
そこで検討すると,本件明細書には,「【0058】光源34から照射され光配向層2となる材料層に入射した光の一部はバックアップロール38によって反射されて再度,材料層に入射する。その際,バックアップロール38の表面にキズおよび/または異物の付着があると,バックアップロール38によって反射される反射光の偏光状態が,キズ等が存在する位置で局所的に変化してしまう。そのため,形成される光配向層2に配向規制力の方向の局所的なムラが生じて,これによって,光配向層2上に形成される液晶層3に微細な筋状のムラ(筋状領域)が発生することがわかった。【0059】本発明の製造方法は,バックアップロール38の表面の最大高さ粗さRzを0.7μm以下とすることで,光配向処理を行う際のバックアップロール38からの反射光の局所的な偏光状態の変化を抑制して,液晶層に生じる筋状のムラ(筋状領域)を改善して,筋状領域における遅相軸変動Δβを0°より大きく0.04°未満の範囲に抑制できる。」と記載されているから,申立人がいうように,相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項は,光配向層に光配向処理を行う際に,最大高さ粗さRzが0.7μm以下である表面を有するバックアップロールを用いることによって,実現される構成であると認められる。
しかしながら,甲1には,光配向膜に光配向処理を行うに際して,バックアップロールを用いる旨の記載や示唆はないから,たとえ,甲2に,光配向膜に光配向処理を行う際にバックアップロールを用いることが記載されているとしても,甲1発明を製造するにあたって,長尺状の光配向膜に光配向処理を行う際に,当然バックアップロールを用いていると認めることはできない。
また,仮に,技術的観点から,甲1発明を製造するにあたって,長尺状の光配向膜に光配向処理を行う際に,当然バックアップロールを用いていると認めることができるとした場合でも,申立人がいう甲3ないし甲7に記載された「接触体」は,いずれも光配向処理を行う際のバックアップロールではないから,光配向膜に光配向処理を行う際に用いるバックアップロールの表面の最大高さ粗さが,0.7μm以下であることが技術常識であると認めることはできない。
したがって,申立人の主張は採用できない。

(イ)進歩性欠如について
a 本件特許発明は,本件明細書の【0031】,【0057】,【0058】に示されるとおり,「従来見出されてきた異物の起因とする欠陥や,製造時の条件変動に起因する広範囲な位相差ムラとは異なる微細な筋状のムラ(筋状領域)を知見」し,この筋状のムラは,「従来知られている欠陥抑制技術やムラ抑制技術で低減することができなかった」ことから,検討を行った結果,当該筋状領域が,「光配向工程で長尺基材1を支持するバックアップロールの表面性状に起因」しており,「バックアップロール38の表面にキズおよび/または異物の付着があると,バックアップロール38によって反射される反射光の偏光状態が,キズ等が存在する位置で局所的に変化」し,当該反射光が光配向層2となる材料層に再度入射することによって,「形成される光配向層2に配向規制力の方向の局所的なムラが生じ」ることによって,発生することを突きとめ,バックアップロールの表面性状を所定のものにして,当該筋状領域における遅相軸変動を所定範囲とすることによって,位相差ムラを抑制した点に技術的意義を有する発明である。
これに対して,甲1発明は,優れた逆波長分散性を示す光学フィルムを提供すべく,特定の液晶化合物を用いるものであって,本件特許発明とは技術的思想を異にするものであって,甲1には,遅相軸変動が生じている筋状領域の存在が課題として認識されておらず,当該筋状領域が,光配向工程で用いるバックアップロールの表面のキズや付着した異物により,偏光状態が局所的に変化した反射光が光配向層となる材料層へ再入射することによって,発生することも認識されていない。
b 前記第4 2(1)ないし(3)で摘記した記載によれば,甲2には,光配向材料膜に光配向処理をして光配向層2とする際に,透明フィルム基材1を巻き付けて搬送するロール17を用いる技術(以下,「甲2技術」という。)が記載されている。
当該甲2には,ロール17を用いる理由は記載されていないものの,技術的にみると,光配向処理をする際に,振動する等によって光配向材料膜の位置が変動してしまうと,光配向層2における配向方向が一定とならず,光配向層2上に形成する位相差層3の遅相軸の方向が,位置によってばらついてしまうため,光配向処理をする位置での光配向材料膜の位置決めを行うロール17を用いているものと推察される。
ここで,甲1発明においても,光学異方性層の遅相軸の方向がばらついたのでは,偏光膜と組み合わせて反射防止板として用いる際に,反射防止性能が低下してしまうことは,当業者に自明であるから,甲1発明を製造する際に,甲2技術を適用し,長尺状の支持体上に形成した長尺状の光配向膜の材料層に,光配向処理を行うに際して,長尺状の支持体を支持し,搬送するバックアップロールを採用すること自体は,当業者が容易に想到し得たことと認められる。
そして,本件明細書の【0059】の記載によれば,バックアップロールの表面にキズおよび/または異物の付着があると,バックアップロール38によって反射される反射光の偏光状態が,キズ等が存在する位置で局所的に変化してしまい,筋状領域が形成されてしまうものと認められるところ,完全に平坦な表面を有するバックアップロールや異物が完全に存在しないバックアップロールが実現不可能なことは,技術的にみて明らかであるから,前述した甲2技術を適用して製造した甲1発明においては,相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項のうち,「長尺状の液晶層には,長尺液晶フィルムを直線偏光子および検光子で挟んでこれらを消光位に配置して光を照射した場合に,光漏れが生じる筋状領域が存在し,」なる発明特定事項に相当する構成を具備することになる。
c しかしながら,甲1発明と同様,甲2においては,遅相軸変動が生じている筋状領域の存在が,解決すべき課題として認識されておらず,筋状領域の発生原因がバックアップロールの表面性状であることも認識されていないのであるから,甲1発明に甲2に記載されたバックアップロールを採用するに際して,筋状領域における遅相軸変動を低減しようと,ローラの表面粗さを最適化することに想到するはずもない。
d また,申立人が,光学フィルムの製造装置(方法)に用いられるローラ等の接触体の表面の最大高さ粗さRzを0.7μm以下とすることが技術常識であることを示す証拠として提出した甲3ないし甲7を参酌しても,以下のとおり,甲1発明を製造するにあたって,光配向膜に光配向処理を行う際に用いるバックアップローラの表面の最大高さ粗さRzを0.7μm以下とすることが,容易に想到し得たことであったと認めることはできない。
前記第4 3で摘記した記載によれば,甲3には,溶融ポリカーボネートを冷却してポリカーボネートフィルムを製造するときの冷却ロールの表面の中心線平均粗さRaを0.3μm,10点平均粗さRzを0.50μmとすることによって,製造されるポリカーボネートフィルムの表面のうち,冷却ロールと接触したほうの表面を鏡面とすることが記載されているが,甲1発明の光配向膜は,支持体上に形成されるものであって,溶融材料を冷却ロールによって冷却してフィルムにするものではないから,甲3の冷却ロールの表面粗さを,光配向処理の際に用いるバックアップロールの表面粗さとして採用することには,動機付けがない。また,そもそも,甲3に記載されたRzは十点平均粗さであって,最大高さ粗さではないから,甲3には,接触体の表面の最大高さ粗さRzを0.7μm以下とすることが開示されていない。
前記第4 4(1)ないし(3)で摘記した記載によれば,甲4には,偏光フィルムと透明樹脂フィルムを紫外線硬化型接着剤を介して貼り合わせた偏光板を製造する際に,製造された偏光板が,カールしないか,又はカールしても液晶セルに貼着する側が凸となる,いわゆる正カールとなるようにするために,偏光フィルムに紫外線硬化型接着剤を介して透明樹脂フィルムを重ね合わせた積層体を,搬送方向に沿って円弧状に形成された凸曲面であって,表面粗さがその輪郭曲線の最大高さRzで表して0.4〜1.2μmの範囲内にあり,そこに密着される前記積層体の表面との静摩擦係数が0.2〜1.0の範囲内にある凸曲面を有する接触体に密着させ,前記積層体の前記接触体に密着している面とは反対側から紫外線を照射して紫外線硬化型接着剤を硬化させることが記載されているが,甲1発明の光配向膜は,支持体上に形成されるものであって,紫外線硬化型接着剤を用いて支持体と接着するものではないから,甲4の接触体の表面粗さを,光配向処理の際に用いるバックアップロールの表面粗さとして採用することには,動機付けがない。
前記第4 5(1)ないし(3)で摘記した記載によれば,甲5には,基材フィルム上に塗工液を塗布する際に,バックアップロールと基材フィルムの間に空気が侵入すると,搬送異常や厚みムラが発生してしまい,特に滑らかな周面を有するバックアップロールを用いた場合には,厚みムラを抑制することが困難であるが,基材フィルムを高速で搬送し,基材フィルムの搬送方向の張力を適切に調整し,基材フィルムの搬送速度をバックアップロールの周速よりも僅かに速くすることで,周面の算術平均粗さRaが0.020μm以下のバックアップローラを用いても,厚みムラを抑制できることが記載されているが,塗工時に用いるバックアップロールの表面粗さを,光配向処理の際に用いるバックアップロールの表面粗さとして採用することには,動機付けがない。また,そもそも,甲5には,バックアップロールの表面粗さとして,算術平均粗さRaが記載されているだけで,最大高さ粗さRzは記載されていない。
前記第4 6(1)及び(2)で摘記した記載によれば,甲6には,溶融流延成膜方法によりアクリルフィルムを製造する際に,冷却ロール及び冷却ロールに当接する弾性タッチロールの表面の算術平均粗さRaを0.1μm以下としたり,カレンダーロール,ドラム,ベルト等の成膜時のフィルム接触部の表面粗さを小さくすることによりフィルム表面を平滑にして光の拡散や反射を低減させることが記載されているが,甲1発明を製造するにあたって,光配向処理の際にバックアップロールを用いた場合,当該バックアップロールと接触するのは,成膜が完了している長尺状の支持体であって,バックアップロールの表面粗さを小さくしたからといって,支持体の表面を平滑にすることはできないから,甲6に記載された溶融流延性膜方法における冷却ロール及び弾性タッチロールの表面粗さやフィルム接触部の表面粗さを,光配向処理の際に用いるバックアップロールの表面粗さとして採用することには,動機付けがない。また,そもそも,甲6には,冷却ロールや弾性タッチロールの表面粗さとして,算術平均粗さRaが記載されているだけで,最大高さ粗さRzは記載されていない。
前記第4 7(1)ないし(3)で摘記した記載によれば,甲7には,ポリエステル樹脂を溶融し,シート状に押出し成形された無配向ポリエステルをガラス転移温度以上の温度において,ロールの速度差を利用して縦方向に延伸した後,テンターにより横方向に延伸し,熱処理を施して,ポリエステルフィルムを製造する際に,キズの発生を防止するために,フィルム製造時に用いるロールの表面粗度をRaで0.1μm以下とすることが記載されているが,甲1発明を製造するにあたって,長尺状の支持体と当該支持体上に塗工された長尺状の光配向膜(光配向処理前のもの)とからなる長尺状のフィルムから,最終製品である光学フィルムに至るまでの間に,溶融した樹脂をシート状に押出し成形したり,延伸処理をしたりすることはないから,甲7に記載されたフィルム製造時に用いるロールの表面粗度を,光配向処理の際に用いるバックアップロールの表面粗さとして採用することには,動機付けがない。また,そもそも,甲7には,フィルム製造時に用いるロールの表面粗さとして,Ra(算術平均粗さ又は中心線平均粗さ)が記載されているだけで,最大高さ粗さRzは記載されていない。
c また,申立人が提出した他の証拠(甲8,甲9)を含め,光配向処理を行う際のバックアップロールの最大高さ粗さを0.7μm以下にする技術が,本件出願の優先日前に,公知・公用等であったことを示す証拠は見当たらない。
以上のとおりであるから,甲1発明において,相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項に相当する構成を採用することは,当業者が容易に想到し得たことではない。
したがって,本件特許発明1は,甲1発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件特許発明2ないし13について
本件特許の請求項2ないし13は,請求項1を引用する形式で記載されたものであって,本件特許発明2ないし13は,本件特許発明1の発明特定事項を全て具備し,これに限定を加えたものに相当するところ,前記(1)で述べたとおり,本件特許発明1が甲1発明でなく,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上,本件特許発明2,3,5ないし13は,本件特許発明1と同様の理由で,甲1発明でなく,本件特許発明2ないし13は,甲1発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(3)小括
申立理由1(新規性進歩性欠如)によって,本件特許発明1ないし13に係る特許を取り消すことはできない。

2 申立理由2(明確性要件違反)について
申立人は,審査基準の第II部第2章第3節を引用した上で,本件特許の請求項1に記載された「前記長尺状の液晶層には,前記長尺液晶フィルムを直線偏光子および検光子で挟んでこれらを消光位に配置して光を照射した場合に,光漏れが生じる筋状領域が存在し,前記筋状領域における遅相軸変動Δβが0°より大きく0.04°未満である」との発明特定事項について,当該発明特定事項は,発明の課題(願望)自体であり,当該課題を達成するための手段が特定されていないから,本件特許発明1ないし13は不明確であると主張する。
そこで検討するに,まず,申立人が引用する審査基準の第II部第2章第3節が,機能,特性等による表現を含む請求項において,明確性要件違反となる場合があることを説明しているのに対して,申立人が指摘する発明特定事項は,筋状領域が存在することと,当該筋状領域における遅相軸変動Δβの数値範囲を規定しているのであって,機能,特性等によって記載されてはいないから,審査基準の第II部第2章第3節は,前記発明特定事項の明確性要件を判断する際の指針とはならない。
次に,前記発明特定事項が,発明の課題(願望)自体を記述したものであるのか否かはおくとして,発明の課題(願望)自体が発明特定事項として記載されているからといって,直ちに明確性要件違反となるわけではない。明確性要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載だけではなく,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願当時における技術的常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきものと解される。
これを,前記発明特定事項についてみると,その前半部分である「前記長尺状の液晶層には,前記長尺液晶フィルムを直線偏光子および検光子で挟んでこれらを消光位に配置して光を照射した場合に,光漏れが生じる筋状領域が存在し,」については,筋状領域が存在すること,及び当該筋状領域の定義(もしくは確認方法)が記載された部分であって,筋状領域とは,その定義及び名称からみて,遅相軸の方向が,液晶フィルム全体の遅相軸の方向からずれていることによって,検光子が光漏れを検知する領域であり,かつ,筋状の形状をしている領域と明確に理解することができる。
また,前記発明特定事項のうち残余の部分の「前記筋状領域における遅相軸変動Δβが0°より大きく0.04°未満である」については,本件明細書の【0028】に「ここでいう遅相軸変動Δβは,液晶層3の平均遅相軸方向αに対する,当該領域の遅相軸の角度βの最大値である。
Δβ = (|β|の,当該領域内における最大値)」
と記載されていることから,Δβとは,液晶層の平均遅相軸方向に対する筋状領域内の遅相軸方向のずれの最大値であると明確に理解でき,また,その数値範囲である「0°より大きく0.04°未満である」にも不明確な点はない。
以上によれば,前記発明特定事項は,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえないから,明確性要件に適合する。
したがって,申立理由2(明確性要件違反)によって,本件特許発明1ないし13に係る特許を取り消すことはできない。

3 申立理由3(サポート要件違反)について
申立人は,本件明細書には,【0086】,【0087】に記載されたセルロースアシレートフィルム1を,【0088】,【0089】に記載された方法を用いて作成し,【0091】ないし【0093】に記載された光配向膜用組成物1,及び【0095】ないし【0105】に記載された光学異方性層用塗布液(液晶組成物)を用いて,【0090】,【0094】に記載された方法により液晶フィルムを作成したことが記載されているのみであり,これら以外の材料及び方法については記載されておらず,出願時の技術常識に照らして,これらの記載のみから,本件特許発明1ないし13の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえないと主張する。
そこで検討するに,サポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,その記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。
これを本件についてみるに,本件明細書の発明の詳細な説明には,【0016】及び【0028】には,本件特許発明1の発明特定事項が記載されている。
また,本件明細書の発明の詳細な説明の【0002】ないし【0007】の記載からは,本件発明が解決しようとする課題は,光配向層を含む液晶フィルムにおいて,位相差ムラを抑えることと認められる。
そして,「長尺液晶フィルムを直線偏光子および検光子で挟んでこれらを消光位に配置して光を照射した場合に,光漏れが生じる筋状領域」は,位相差ムラの一つであること,当該筋状領域における遅相軸変動Δβが小さいほど,位相差ムラの程度が小さくなることは,技術的にみて明らかである。そして,本件明細書の発明の詳細な説明の【0110】の表1には,筋状領域の遅相軸変動Δβが0.01°,0.02°及び0.03°である実施例1ないし4の液晶フィルムを用いて円偏光板を構成して,有機EL表示装置に貼合して,有機EL表示装置を黒表示状態にて自然光線下で観察したときに,異常が見えないのに対して,筋状領域の遅相軸変動Δβが0.05°及び0.10°である比較例1及び2の液晶フィルムを用いて円偏光板を構成して,有機EL表示装置に貼合して,有機EL表示装置を黒表示状態にて自然光線下で観察したときに,異常が見える及び強く見えることが示されていることから,筋状領域の遅相軸変動Δβが0.04°程度未満であれば,液晶フィルムの位相差ムラを十分に抑制できることを把握できる。
しかるに,本件特許発明1ないし13は,「筋状領域における遅相軸変動Δβが0°より大きく0.04°未満である」との発明特定事項を有しているから,本件特許発明1ないし14は,発明の詳細な説明の記載により当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものというべきである。
申立人の主張は,要するに,本件特許発明が,実際に効果が確かめられた実施例1ないし4以外の態様を包含するから,サポート要件違反に該当するというものであるが,本件特許発明は,たとえ実施例1ないし4以外の態様であっても,前述したとおり,当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから,当該申立人の主張に理由はない。
したがって,取消理由3(サポート要件違反)により,本件特許発明1ないし13に係る特許を取り消すことはできない。

4 申立理由4(実施可能要件違反)について
申立人は,本件明細書の【0047】に「バックアップロールの表面の最大高さ粗さRzは0.7nm以下である製造方法である。」と記載されているが,【0059】及び【0090】の「0.7μm以下」という記載や,表1の記載(各実施例の「最大高さ粗さRz(μm)」の欄の数値)と矛盾しているから,実施可能要件に違反する旨主張する。
しかしながら,本件明細書の発明の詳細な説明の【0047】の「0.7nm以下」との記載が誤記であり,正しくは「0.7μm以下」であることは,【0059】,【0090】及び表1の記載や,最大高さ粗さRzを0.7nm以下とすることが技術的には著しく困難であること等から,当業者に自明である。
したがって,当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載から,本件特許発明を実施するには,バックアップロールの最大高さ粗さRzを0.7μm以下とすればよいことを理解できるというほかないのであって,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件特許発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるというほかない。
よって,取消理由4(実施可能要件違反)により,本件特許発明1ないし13に係る特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから,特許異議申立書に記載した申立理由によっては,本件特許の請求項1ないし13に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件特許の請求項1ないし13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-07-27 
出願番号 P2019-555396
審決分類 P 1 651・ 113- Y (G02B)
P 1 651・ 536- Y (G02B)
P 1 651・ 537- Y (G02B)
P 1 651・ 121- Y (G02B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 松波 由美子
特許庁審判官 清水 康司
小濱 健太
登録日 2021-10-26 
登録番号 6967083
権利者 富士フイルム株式会社
発明の名称 長尺液晶フィルム、長尺偏光板、画像表示装置、および、長尺液晶フィルムの製造方法  
代理人 三橋 史生  
代理人 伊東 秀明  
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