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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C04B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C04B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C04B
管理番号 1387794
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-12-22 
確定日 2022-08-04 
事件の表示 特願2020− 20981「カルシウムアルミネート系充填材」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 9月 2日出願公開、特開2021−127255〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、令和2年2月10日の出願であって、同年6月23日付けで拒絶理由が通知され、同年7月30日に意見書及び手続補正書が提出され、同年9月18日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)されたのに対し、同年12月22日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、それと同時に手続補正(以下「本件補正」という。)がなされたものである。

第2 本件補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の請求項2の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項2の記載は、次のとおり補正された。
「【請求項2】
A.アルミナセメントにブロッキング材を添加し、水和反応をブロックした水性アルミナセメント液
B.前記水性アルミナセメント液の水和反応をブロックしているブロッキング材を解除する硬化剤(水硬反応開始剤)
からなり、
AおよびBを別々に容器内に収納して現場で混合して利用するようにしたことを特徴とする常温硬化型カルシウムアルミネート系充填材。」(下線は補正箇所である。)

(2)本件補正前の請求項2の記載
本件補正前の請求項2の記載は次のとおりである。
「【請求項2】
A.アルミナセメントにブロッキング材を添加し、水和反応をブロックした水性アルミナセメント液
B.前記水性アルミナセメント液の水和反応をブロックしているブロッキング材を解除する硬化剤(水硬反応開始剤)
からなり、
AおよびBを別々に容器内に収納して現場で混合して利用するようにしたことを特徴とするカルシウムアルミネート系充填材。」

2 補正の適否
(1)補正の目的について
本件補正の請求項2についての補正は、カルシウムアルミネート系充填材を「常温硬化型」に限定するもので、いわゆる限定的減縮をしたものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当する。
そこで、上記1(1)で記載した本件補正後の請求項2に係る発明(以下「補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(2)独立特許要件について
ア 引用文献1について
(ア)記載事項
本願の出願前に頒布され、下記第3の2で述べる原査定の拒絶の理由において引用された引用文献1(特許第6521474号公報)には、次の事項が記載されている。なお、下線は、当審において付したものである。
(1ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のアルミナセメントを含有する安定化されたアルミナセメント水性懸濁液を主剤の主要成分とし、該懸濁液の水硬反応を誘発させる珪酸ナトリウムもしくは炭酸ナトリウム、炭酸カリウムが溶解したアルカリ性液体を水硬反応誘発剤として、前記主剤と水硬反応誘発剤とを別々にパッケージしてなることを特徴とするアルミナセメント系2剤型塗料。
<主剤の主要成分>
A)アルミナセメント水性懸濁液の総重量を100重量%として、60%以上のアルミナ含有量を有するアルミナ高含有量アルミナセメント懸濁液0.5重量%〜42重量%
B)アルミナセメント水性懸濁液の総重量を100重量%として、アルミナセメント水性懸濁液中のリン含有化合物を含むブロッキング剤0.1重量%〜20重量%
C)アルミナセメント水性懸濁液の総重量を100重量%として、アルミナセメント水性懸濁液中のリン含有化合物とは異なるブロッキング剤0.3重量%〜5重量%
D)保水剤
E)界面活性剤
F)粘度調整剤
G)着色顔料
H)体質顔料
I)抗菌剤、防腐剤、防錆剤」

(1イ)「【技術分野】
【0001】
この発明は常温で硬化可能な水分散型アルミナセメントを主成分とするアルミナセメント系2剤型もしくは1剤型塗料に関するものである。」

(1ウ)「【0005】
なお、前記流体懸濁液の安定化は、ブロッキング剤(または阻害剤)を添加することにより、水硬性結合剤の水和を停止させることにより行われる。少なくとも一つのメタリン酸、亜リン酸、リン酸、ホスホン酸及び水と反応させることにより、これらの化合物のいずれかを形成することができる任意の化合物から選択されるリン含有化合物を含む既知のブロッキング剤が、アルミナセメントを含む水硬性バインダーベースの水性懸濁液を安定化するために用いられている。
また、前記したブロッキング剤としてホウ酸及びホウ酸塩化合物を使用することが可能である。
一般にセメント粉体は粒子が大きく(小さくても100〜400ミクロン)、薄く塗れない。一方、液体化(40ミクロン)することにより薄塗が可能になり、またこのアルミナセメント系塗料を用いれば塗面に種々の意匠を付与することも可能となるのである。」

(1エ)「【発明の効果】
【0015】
以下に本発明のアルミナセメント系塗料の効果を詳述する。
1)主材(主要成分)であるアルミナセメントの持つ一般のセメントと異なる性能をそのまま液体で使える。(普通ポルトランドセメントのような粉体の水硬性反応物質では長期間液状にすることは不可能であり、また、通常の使用で硬化した固化体であっても、耐火性能、早強性能、耐蝕性能、耐薬品性能等の性能は望めない。)
a.樹脂と違い熱を加えなくても常温の下で、液状の水硬反応誘発剤と混和するだけでアルミナセメント固化体の持つ強度発現(鉛筆硬度約4H以上)が可能。このようにアルミナセメントの強度発現は大きいが、樹脂系塗料の場合は、熱を加えないと強度発現が難しい。
b.主材(主要成分)がアルミナセメントであるため無機系素材の持つ強さが発揮されて、超耐久性塗料(塗膜)ができる。
c.主要成分がアルミナセメントであるため遮塩性があり、塩害の発生する海辺や寒冷で凍結防止剤(塩化カルシウム)の散布が頻繁な地域の構築物への仕上げに適している。
d.通常のポルトランドセメントは酸に弱いが、アルミナセメントは酸に強く、酸性雨、CO2ガス、NOxガス、SOxガスの影響によるコンクリートの中性化を防ぐことができる。
e.主要成分がアルミナセメントであるため紫外線(UV)の影響を受けず、長期に渡って良好な塗膜を保つ。
f.アルミナセメントは耐摩耗性が高いので、風で絶えず砂塵に曝される壁面へ塗装し塗膜が形成されると、傷付き難くなり、粉塵の付着(塗膜に食い込む)に起因する汚れを防止できる。
g.主要成分がアルミナセメントなので裸火による燃焼がない。従って火事の発生によって塗膜の発火が生じない為、塗膜からの引火による延焼を防ぐことができる。
h.ほとんど有機物質で構成された有機樹脂系塗料と違い、燃焼し難く、高熱でもガス化しない無機成分で構成されているので、高温に曝されてもガスを発生しない塗料並びに塗膜ができる。
i.普通ポルトランドセメントを用いた仕上げ材は、水を加えた後の可使時間(常温で1〜2時間程度)が短く施工性が悪いが、本発明のアルミナセメント系2剤型塗料は可使時間が、市販の2液反応硬化型塗料の可使時間(8時間以上)と同等になるため、施工性が良い。
なお、水硬反応を誘発させるアルカリ性硬化剤組成物を珪酸ナトリウムと限定することにより、現場での作業が簡便で、主剤と硬化剤の配合ミス(硬化剤の入れ忘れ)を防げる1剤型塗料が実現できる。
j.リン酸系化合物は、還元作用(酸化防止作用)を有し、また棚酸は殺菌作用を有している。
更には、リン酸系化合物の鉄イオンに配位して錯体を形成し、金属の溶出(腐食)を遅らせる作用や赤錆(酸化第二銭鉄を不動態の黒錆(四酸化三鉄 Fe3O4)に変化させる還元作用を有している。これにより、塗料の貯蔵安定性に寄与するだけでなく、造膜後の塗膜性能に防錆性をも付与することができる。
上記の作用に鑑みて、塗料中に含まれる水をはじめとする、有機化合物の腐敗を長期間抑制する防腐剤としての役割を発揮する。
また、塗料中に配合される天然由来の微細骨材・体質顔料等の鉱物系粉体に含有する微量鉄分の、導出による変色(錆汁)を抑制する効果もある。」

(1オ)「【0030】
また望ましくは、アルミナセメントに含まれるアルミナ、高アルミナセメントの化学組成は、以下のいずれかである。
Al2O3:>60%、好ましくは60〜75パーセント、
CaO:>25%、好ましくは25〜50%、
SiO2:<5%、好ましくは<4%から、より好ましくは<2%
Fe2O3:<10%、好ましくは<5%、より好ましくは<1%
本発明において、前記水硬性結合剤はさらに、カルシウム硫酸塩を含んでいてもよい。カルシウム硫酸塩は、無水型あるいは半水和型石膏、石膏、またはこれらの混合物から選択される化合物から誘導することができる。
前記アルミナセメント水性懸濁液は、硫酸カルシウムの0〜50%、好ましくは5〜30%をアルミナセメント水性懸濁液の総重量に対して含んでいることができる。
【0031】
本発明において、前記アルミナセメントおよびカルシウム硫酸の併用は、エトリンガイトのバインダーを形成することができる。
前記エトリンガイトは、SO42−とH2Oが存在するセメント水和時に、アルミネート相(アルミン酸三カルシウム、3CaO・Al2O3)とSO42−とH2Oが反応し、生成される水和物をいう。化学式では3CaO・Al2O3・3CaSO4・32H2Oで示される。」

(1カ)「【0032】
本発明で使用されるアルミナセメント水性懸濁液は、保水剤等の追加の添加剤を含んでいてもよい。これらの添加剤は、好ましくは、保水剤、界面活性剤、レオロジー剤および殺菌剤から選択されるだけでなく、可塑剤、抗発泡剤および増粘剤を含むことができる。
前記保水剤としては、吸水性の高い、有機系または無機系繊維や多孔質な物質及び水の蒸発を抑える作用のある、有機溶剤、樹脂等も含むものである。
また界面活性剤としては、分散剤、レベリング剤、消泡・抑泡剤、湿潤剤等の機能を有するものとすることができる。」
「【0037】
本発明のアルミナセメント水性懸濁液は、他の組成物を形成するために、充填剤を含むことができる。
そのようなフィラーとしては、鉱物または本質的に有機およびケイ質化合物から選択することができ、高炉スラグ、カーボネート化合物(炭酸カルシウム、ドロマイト)、顔料、酸化チタン、パーライトまたはバーミキュライトのような光反射性の充填材(砂、石英、ヒュームドシリカ)がある。
前記顔料としては、第1に着色顔料が挙げられ、この着色顔料は高輝性、光干渉性、遮熱性、蓄光性等の性能を持つ機能性顔料も含むものである。
また第2に体質顔料が挙げられ、微粒骨材、高炉スラグのような潜在的水硬反応性を有する微粒骨材も含むものである。
そして充填剤は、組成物の総重量の10%〜30%、好ましくは1〜50%であり、残りはアルミナセメント水性懸濁液から形成されている。」

(1キ)「【0054】
本発明は、以上に詳述したアルミナセメント水性懸濁液を主要成分とする主剤(A剤)と、A剤の水硬反応を誘発する水硬反応誘発剤からなる硬化剤(B剤)とから本発明のアルミナセメント系2剤型塗料が形成される。
なお、本発明のアルミナセメント系2剤型塗料の製造において、上記のアルミナセメント水性懸濁液で使用しているブロッキング剤、添加剤(分散剤、流動化剤、可塑剤、抗発泡剤、増粘剤、保水剤等)、殺生物剤、フィラー類、樹脂等を追加投入する事は可能であるが、塗料としての性状並びに性能を付与するためには、以下の手法を行使する必要があり、以降その説明をする。
【0055】
先ず、本発明のアルミナセメント系2剤型塗料の水硬反応誘発剤からなる硬化剤(B剤)の説明を詳細に以下に示す。
<アルカリ性付与物質(硬化剤)の選定及び硬化剤の調整(塗料化)>
KERNEOS社(フランス)製、アルミナセメント水性懸濁液のEXALT 60H(エクザルト 60H商品名)は、混濁液状態では、水硬反応が起きることなく、安定な流動性(スラリー性)液体である。
そこで、水硬反応を誘発させる物質が必要となる。
製造メーカーのKERNEOS社(フランス)の技術資料及び見解では、アルカリ性の刺激で水硬反応を誘発するとしている。
なお、アルカリ性の刺激を与える「水硬反応誘発剤」として、前記製造メーカーは水酸化ナトリウム水溶液を推奨しているが、劇物である水酸化ナトリウムを製造工程で扱うのは好ましくなく、ましては、塗装工事現場での使用は不可能である。
特に、本発明品は、アルミナセメントの混濁液(EXALT 60H)を主要成分とする主剤とアルミナセメントの混濁液の水硬反応を誘発させるアルカリ性液体を硬化剤とし、主剤と硬化剤は別々にパッケージングした現場調合の2液塗料を想定しているため、アルカリ性の硬化剤(水硬反応誘発剤)は作業者が直接触れる事になり、労働安全面上不適切な作業となる。」

(1ク)「【0059】
<主剤と硬化剤の混合液性状>
1)ポットライフ(可使時間)
前述の水硬反応誘発剤(硬化剤)実施例とアルミナセメント水性懸濁液の主剤実施例を組み合わせた塗料液(主剤・硬化剤の混合液)のポットライフ(可使時間)の確認を行なう。
確認方法は以下の手順で実施
(1)試験方法JIS K5600-2-6 : 1999「塗料一般試験方法−第 2 部:塗料の性状・安定性ー第 6 節:ポットライフ」に準拠
(2)合否の判断基準JIS K5659-7-7:2008「鋼構造物用耐候性塗料 ポットライフ」に準拠
(3)JIS規格では、ポットライフ(可使時間)は、5時間での評価だが、本件では実施工での使用時間を鑑みて8時間と24時間での評価も実施した。





(1ケ)「【0067】
6)有機樹脂系塗料の改質剤としての用途
上記の事例の中で、本発明塗料の実施例97において、水硬性結合剤を含有するアルミナセメント水性懸濁液を主成分とする主剤組成物と珪酸ナトリウムを主成分とする水硬反応を誘発させるアルカリ性硬化剤組成物を混合した状態の1剤化が可能であることがわかったので、既存の塗料やエマルション樹脂の付着強度や塗膜硬度の改質剤としての用途への展開が考えられる。
そこで、実施例97をエマルション樹脂に添加して、付着性の変化と塗膜硬度変化を試験した。
【0068】
(3)付着力と塗膜硬度
上記1)でMFTと破消泡性・抑泡性の調整をした樹脂液へ上記2)の実施例97(主剤・硬化剤混合液)を添加した物を試料として、100〜150g/m2/2回の塗着量をエアースプレーでスレート板に塗布し試験体を作製。温度23±2℃,湿度50±5%の室内で乾燥させ24時間後と7日後の塗膜硬度を「JIS. K. 5600-5-4:1999.塗料一般試験方法ー第 5 部:塗膜の機械的性質ー第 4 節:引っかき硬度(鉛筆法)」に準じて測定した。
また、7日後の付着性を「JIS K5600-5-6: 1999 塗料一般試験方法≡第 5 部:塗膜の機械的性質≡第 6 節:付着性(クロスカット法)」に準じて測定をした。
但し、使用したテープは本規格外の粘着力の強い、梱包用布テープを使用した。
格子数は25マスで、格子間隔は4mmで実施。


※以上から、本発明塗料の主剤と硬化剤の混合液を樹脂液に添加する事で、塗膜硬度並びに付着力が増す事が、明らかである。
この効果を利用すれば、エマルション樹脂や水性塗料へ添加するだけで、強い付着力や高い塗膜硬度が発現できる。
従って、塗料だけでなく、塗膜の改質剤としての用途での使用が可能と思われる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によれば、従来のアルミナセメント系2剤型塗料のメリットである強度や高度、耐酸性を要求される用途のみならず、アルミナセメント系2剤型塗料を用いることが難しいとされていた薄膜が必要な各種の用途にも適用することができる。
具体的には、現在構築物の外装は、美粧性の維持や構築物への保護の目的で、紫外線(UV)劣化の影響を受けやすい有機樹脂が主要成分である有機樹脂系塗料によって施工されているが、紫外線(UV)劣化の影響を受けやすい有機樹脂に依存するため美粧性の維持や構築物への保護効果は短いが、本発明のアルミナセメント系2剤型塗料で施工することにより、紫外線(UV)劣化の影響を受けることがないので、美粧性の維持や構築物への保護効果は長期にわたって維持できる。
また、建材や工業用品等で硬度や強度が乏しい素材に対して、コーティングするだけで、素材表面を鉱物や金属に近い硬度や強度に改質することができるため、素材の表面処理の用途にも利用可能である。
さらに、この発明のアルミナセメント系2剤型塗料は、いわゆる塗料の用途だけに限定されるものではなく、有機樹脂や有機樹脂系塗料に対して硬度及び強度を向上させる改質剤としても利用することができる。」


(イ)引用発明について
上記(ア)の摘記(1ア)の【請求項1】の記載、並びに、摘記(1イ)、(1オ)及び(1キ)の下線部から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「以下のアルミナセメントを含有する安定化されたアルミナセメント水性懸濁液を主剤の主要成分とし、該懸濁液の水硬反応を誘発させる珪酸ナトリウムもしくは炭酸ナトリウム、炭酸カリウムが溶解したアルカリ性液体を水硬反応誘発剤として、前記主剤と水硬反応誘発剤とを別々にパッケージして現場調合する、常温で硬化可能なアルミナセメント系2剤型塗料であって、
アルミナセメントに含まれるアルミナ、高アルミナセメントの化学組成は、Al2O3:>60%、CaO:>25%、SiO2:<5%、Fe2O3:<10%である、アルミナセメント系2剤型塗料。
<主剤の主要成分>
A)アルミナセメント水性懸濁液の総重量を100重量%として、60%以上のアルミナ含有量を有するアルミナ高含有量アルミナセメント懸濁液0.5重量%〜42重量%
B)アルミナセメント水性懸濁液の総重量を100重量%として、アルミナセメント水性懸濁液中のリン含有化合物を含むブロッキング剤0.1重量%〜20重量%
C)アルミナセメント水性懸濁液の総重量を100重量%として、アルミナセメント水性懸濁液中のリン含有化合物とは異なるブロッキング剤0.3重量%〜5重量%
D)保水剤
E)界面活性剤
F)粘度調整剤
G)着色顔料
H)体質顔料
I)抗菌剤、防腐剤、防錆剤」

イ 対比
補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)「A」について
引用発明の「アルミナセメント水性懸濁液中のリン含有化合物を含むブロッキング剤」及び「アルミナセメント水性懸濁液中のリン含有化合物とは異なるブロッキング剤」は、摘記(1ウ)の「ブロッキング剤(または阻害剤)を添加することにより、水硬性結合剤の水和を停止させることにより行われる」との記載を踏まえると、補正発明の「水和反応をブロック」する「ブロッキング材」に相当する。
そうすると、引用発明の「リン含有化合物を含むブロッキング剤」及び「リン含有化合物とは異なるブロッキング剤」を含む「アルミナセメント水性懸濁液」を「主要成分」とする「主剤」は、補正発明の「A.アルミナセメントにブロッキング材を添加し、水和反応をブロックした水性アルミナセメント液」に相当する。

なお、引用発明の「主剤」には「D)保水剤 E)界面活性剤 F)粘度調整剤 G)着色顔料 H)体質顔料 I)抗菌剤、防腐剤、防錆剤」も含有されているが、補正発明は「ブロッキング材を添加し」た「水性アルミナセメント液」と特定されており、ブロッキング材を添加しさえすれば、ブロッキング材以外の成分の含有を排除するものではない。
また、摘記(1カ)の「本発明で使用されるアルミナセメント水性懸濁液は、保水剤等の追加の添加剤を含んでいてもよい。これらの添加剤は、好ましくは、保水剤、界面活性剤、レオロジー剤および殺菌剤から選択されるだけでなく、可塑剤、抗発泡剤および増粘剤を含むことができる。」、「本発明のアルミナセメント水性懸濁液は、他の組成物を形成するために、充填剤を含むことができる。そのようなフィラーとしては、鉱物または本質的に有機およびケイ質化合物から選択することができ、高炉スラグ、カーボネート化合物(炭酸カルシウム、ドロマイト)、顔料、酸化チタン、パーライトまたはバーミキュライトのような光反射性の充填材(砂、石英、ヒュームドシリカ)がある。前記顔料としては、第1に着色顔料が挙げられ、この着色顔料は高輝性、光干渉性、遮熱性、蓄光性等の性能を持つ機能性顔料も含むものである。また第2に体質顔料が挙げられ、微粒骨材、高炉スラグのような潜在的水硬反応性を有する微粒骨材も含むものである。」との記載、摘記(1キ)の「アルミナセメント水性懸濁液で使用しているブロッキング剤、添加剤(分散剤、流動化剤、可塑剤、抗発泡剤、増粘剤、保水剤等)、殺生物剤、フィラー類、樹脂等を追加投入する事は可能である」との記載を踏まえると、引用発明において「D)保水剤 E)界面活性剤 F)粘度調整剤 G)着色顔料 H)体質顔料 I)抗菌剤、防腐剤、防錆剤」は任意添加成分ともいえるものである。

(イ)「B」について
引用発明において、「アルミナセメント水性懸濁液」に含まれる「ブロッキング剤」は、上記(ア)の検討を踏まえると、「アルミナセメント水性懸濁液」の水和反応をブロッキングするものであるところ、「水硬反応誘発剤」は、「アルミナセメント水性懸濁液」の「水硬反応を誘発させる」ものであって「水硬反応」は水と反応(水和反応)して硬化する反応であるから、「ブロッキング剤」の働きを解除するものであるといえる。
また、引用発明の「水硬反応を誘発させる」「水硬反応誘発剤」は、水硬反応を開始させるものであるから、補正発明の「硬化剤(水硬反応開始)」に相当する。
そうすると、引用発明の「該懸濁液の水硬反応を誘発させる珪酸ナトリウムもしくは炭酸ナトリウム、炭酸カリウムが溶解したアルカリ性液体」である「水硬反応誘発剤」は、補正発明の「B.前記水性アルミナセメント液の水和反応をブロックしているブロッキング材を解除する硬化剤(水硬反応開始剤)」に相当する。

(ウ)「AおよびBを別々に容器内に収納して現場で混合して利用するようにしたこと」について
引用発明の「別々にパッケージして現場調合する」ことは、補正発明の「別々に容器内に収納して現場で混合する」ことに相当するから、上記(ア)及び(イ)を踏まえると、引用発明の「前記主剤と水硬反応誘発剤とを別々にパッケージして現場調合する」ことは、補正発明の「AおよびBを別々に容器内に収納して現場で混合して利用するようにした」ことに相当する。

(エ)引用発明の「アルミナセメントに含まれるアルミナ、高アルミナセメントの化学組成は、Al2O3:>60%、CaO:>25%、SiO2:<5%、Fe2O3:<10%である、アルミナセメント系」は、酸化アルミニウムと酸化カルシウムが含まれており、これらは水和によりカルシウムアルミネート相を形成することは技術常識であるから、補正発明の「カルシウムアルミネート系」に相当する。そして、「塗料」と「充填材」は、文言上は「材料」という点で共通する。
そうすると、引用発明の「常温で硬化可能なアルミナセメント系2剤型塗料」と、補正発明の「常温硬化型カルシウムアルミネート系充填材」とは、「常温硬化型カルシウムアルミネート系材」という点で共通する。

(オ)一致点・相違点について
上記(ア)〜(エ)を踏まえると、補正発明と引用発明とは、以下の点で一致し、以下の点で一応相違する。
(一致点)
「A.アルミナセメントにブロッキング材を添加し、水和反応をブロックした水性アルミナセメント液
B.前記水性アルミナセメント液の水和反応をブロックしているブロッキング材を解除する硬化剤(水硬反応開始剤)
からなり、
AおよびBを別々に容器内に収納して現場で混合して利用するようにした常温硬化型カルシウムアルミネート系材料。」

(相違点)
材料が、補正発明では「充填材」と記載されているのに対し、引用発明では「塗料」と記載されている点。

ウ 判断
(ア)相違点について
a 補正発明における「充填剤」とは、本願明細書の【0016】に、
「<効果>
以下に本発明のカルシウムアルミネート生成可能なアルミナセメント水溶液、いわゆるカルシウムアルミネート系充填材の効果を詳述する。
本発明のカルシウムアルミネート生成可能なアルミナセメント水溶液、いわゆるカルシウムアルミネート系充填材を既存の汎用樹脂並びに市販塗料へ改質剤として添加したところ、下記の性能改善が明らかとなった。
a.均一な艶消し塗面が得られる。
b.塗膜の乾燥(硬化)速度が促進される。
c.強い付着性が得られる。
d.耐熱性・耐燃焼性の向上が得られる。
e.塗装後、塗装面を重ねる場合、耐ブロッキング(乾燥塗膜の粘着、ベタツキの解消)性の向上が得られる。
すなわち、本発明のカルシウムアルミネート生成可能なアルミナセメント水溶液、いわゆるカルシウムアルミネート系充填材を既成の汎用樹脂並びに市販塗料へ添加することにより、以上のような性能改善または性能付加が可能であることから、樹脂並びに塗料への添加剤としての商品価値は非常に高いと考えられる。
また、塗料用バインダー(結合剤)の樹脂の補助若しくは代替えが可能であると考えられる。」
と記載されているとおり、既存の汎用樹脂並びに市販塗料へ添加する「改質剤」ともいえるものである。

b 一方、引用発明における「塗料」について、摘記(1ケ)に「6)有機樹脂系塗料の改質剤としての用途」が記載されており、同摘記の【0067】に「既存の塗料やエマルション樹脂の付着強度や塗膜硬度の改質剤しての用途への展開」との記載、同摘記の【0068】に「本発明塗料の主剤と硬化剤の混合液を樹脂液に添加する事で、塗膜硬度並びに付着力が増す事が、明らかである。この効果を利用すれば、エマルション樹脂や水性塗料へ添加するだけで、強い付着力や高い塗膜硬度が発現できる。従って、塗料だけでなく、塗膜の改質剤としての用途での使用が可能」との記載、そして、同摘記の【0069】に「この発明のアルミナセメント系2剤型塗料は、いわゆる塗料の用途だけに限定されるものではなく、有機樹脂や有機樹脂系塗料に対して硬度及び強度を向上させる改質剤としても利用することができる」と記載されていることから、引用発明における「塗料」は、有機樹脂や有機樹脂系塗料に対して添加する「改質剤」であると解される。

c そうすると、補正発明の「充填剤」と引用発明の「塗料」とは、文言上の違いがあるにせよ、技術的には両者とも、樹脂や塗料に添加する「改質剤」である点で一致することから、上記相違点は、実質的な相違点であるとはいえない。
よって、補正発明と引用発明との間に相違点は存在しないことから、補正発明は、引用発明である。
仮に、上記相違点が実質的な相違点であるとしても、引用発明の「塗料」は、上記bで記載した摘記(1ケ)の記載に鑑みて、樹脂並びに塗料へ添加する改質剤すなわち「充填材」として用いることは当業者が容易になし得たことである。

(イ)請求人の主張について
請求人は、審判請求書の【請求の理由】の「3.本願発明が特許されるべき理由」の「C)」で、
「C)以上の拒絶査定(理由)に対しては、出願人はどうしても納得できないのであえて審判を請求し、再度のご審理を希求します。
出願人が拒絶査定を不服とする理由は下記のとおりです。」と記載し、次の(1)〜(4)を主張している。

a (1)の主張について
(a)請求人は(1)として、概ね以下の主張をしている。
「本願発明はさらに進めて、その水性アルミナセメント液と硬化剤(水硬反応開始剤)の種類を選ぶことにより、混合物がそのまま同一容器へ密封すれば長期に渡って保管できる常温硬化型カルシウムアルミネート系充填材となることを見出したものであります。
すなわち、表14ないし表16のように本願発明においては可使時間(ポットライフ)が非常に良好であるのに対し、従来例を示す表26の比較例18においては可使時間を得る前に外観上のマット感において良好な結果を得ることができなかったのであります。
このように水硬性のアルミナセメントは、水に触れれば短時間(1〜2時間)で固化しますが、本願発明のカルシウムアルミネート系充填材では、塗料並びに塗料用樹脂と同等の可使時間を有しているのであって、引用文献1にはない新規性および進歩性を有していることは明らかであります。」

(b)(1)の主張に対する当審の判断
まず、補正発明は、水性アルミナセメント液(アルミナセメント及びブロッキング材)の種類、硬化剤(水硬反応開始剤)の種類を特定していないことから、上記(1)の請求人の主張は、補正発明の記載に基づかない主張であり、当を得ないものである。
仮に、補正発明の硬化剤(水硬反応開始剤)が表14ないし16に記載されている珪酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムであり、補正発明のブロッキング材が表14ないし16に記載されているリン酸ナトリウム、ホウ酸であるとしても、引用発明は「水硬反応を誘発させる珪酸ナトリウムもしくは炭酸ナトリウム、炭酸カリウムが溶解したアルカリ性液体を水硬反応誘発剤」を用いており、「ブロッキング剤」として、摘記(1ウ)に記載されているようにリン酸又はホウ酸の化合物を用いるものであるから、新規性はないものである。
さらに、可使時間についても、摘記(1ク)の表13〜16に可使時間が24時間でも使用できることが記載されており、摘記(1エ)に「i.普通ポルトランドセメントを用いた仕上げ材は、水を加えた後の可使時間(常温で1〜2時間程度)が短く施工性が悪いが、本発明のアルミナセメント系2剤型塗料は可使時間が、市販の2液反応硬化型塗料の可使時間(8時間以上)と同等になるため、施工性が良い。」と記載されていることから、請求人の「引用文献1にはない新規性および進歩性を有している」との主張も、当を得ないものである。

b (2)の主張について
(a)請求人は(2)として、概ね以下の主張をしている。
「しかしながら、本願発明「常温硬化型カルシウムアルミネート系充填材」と上記文献1に記載された発明「アルミナセメント系2(1)剤型塗料」とはその用途や作用効果において明らかに相違するものであることから、上記文献1に記載された発明とは異なる顕著な効果を有するものであります。
すなわち明細書に記載した「本発明によれば、従来のアルミナセメントのメリットである強度や高度、耐酸性、不燃性を要求される用途のみならず、アルミナセメントを用いることが難しいとされていた薄膜が必要な各種の用途にも適用することができる。
具体的には、現在構築物の外装は、美粧性の維持や構築物への保護の目的で、紫外線(UV)劣化の影響を受けやすい有機樹脂が主要成分である有機樹脂系塗料によって施工されているが、紫外線(UV)劣化の影響を受けやすい有機樹脂に依存するため美粧性の維持や構築物への保護効果は短いが、本発明の常温硬化型カルシウムアルミネート系充填材を用いて施工することにより、紫外線(UV)劣化の影響を受けることがないので、美粧性の維持や構築物への保護効果は長期にわたって維持できる。
また、建材や工業用品等で硬度や強度が乏しい素材に対して、常温硬化型カルシウムアルミネート系充填材を用いた塗料でコーティングするだけで、素材表面を鉱物や金属に近い硬度や強度、燃え難く改質することができるため、素材の表面処理の用途にも利用可能である。
その他の用途としては、従来の有機樹脂系接着剤では接着が十分得られていない、金属や釉薬を施したタイル面、さらには、ガラス等の接着剤やコーティング剤への利用が可能であり、砂、砂利等を配合すれば、既調合の液状モルタルや生コンの代替えとして利用できる。
さらに、この発明の常温硬化型カルシウムアルミネート系充填材は、美粧性の維持や構築物への保護効果だけに限定されるものではなく、有機樹脂や有機樹脂系塗料に対して硬度及び強度を向上させる改質剤として利用することができる。」という非常に顕著な作用効果を発揮するのであります。」

(b)(2)の主張に対する当審の判断
請求人は、補正発明が、引用文献1に記載された発明(引用発明)とは異なる顕著な効果を有するものであることを主張しているが、上記(ア)で検討したとおり、補正発明は引用発明であるから、引用発明は、補正発明と同様の効果を奏するものである。
また、上記(ア)で検討したとおり、仮に、上記相違点が実質的な相違点であるとしても、引用発明の「塗料」を「充填材」として用いることは当業者が容易になし得たことであり、引用発明の効果は、摘記(1エ)に「e.主要成分がアルミナセメントであるため紫外線(UV)の影響を受けず、長期に渡って良好な塗膜を保つ。」、「g.主要成分がアルミナセメントなので裸火による燃焼がない。従って火事の発生によって塗膜の発火が生じない為、塗膜からの引火による延焼を防ぐことができる。h.ほとんど有機物質で構成された有機樹脂系塗料と違い、燃焼し難く、高熱でもガス化しない無機成分で構成されているので、高温に曝されてもガスを発生しない塗料並びに塗膜ができる。」、摘記(1キ)に「建材や工業用品等で硬度や強度が乏しい素材に対して、コーティングするだけで、素材表面を鉱物や金属に近い硬度や強度に改質することができるため、素材の表面処理の用途にも利用可能である。さらに、この発明のアルミナセメント系2剤型塗料は、いわゆる塗料の用途だけに限定されるものではなく、有機樹脂や有機樹脂系塗料に対して硬度及び強度を向上させる改質剤としても利用することができる。」等と記載されていることから、補正発明が、引用発明とは異なる顕著な効果を有するものとはいえない。

c (3)の主張について
(a)請求人は(3)として、概ね以下の主張をしている。
「本件発明の常温硬化型カルシウムアルミネート系充填材は、水性アルミナセメントとしての利用、水性アルミナセメントを添加材とし、各種分野への中間材料として利用することができるのであります。
1)水性アルミナセメントとして利用
本件発明の常温硬化型カルシウムアルミネート系充填材は、水性アルミナセメントとしてあらゆるアルミナセメント材を利用する場所に水性材として使えます。例えば大型現場の床はセルフレベリング床(アルミナセメント)で仕上げるが、大型ミキサー車が練って床に流して仕上げます。しかし、小さな現場ではミキサー車が利用できず、作業者が現場で粉から混練りして作る、大変な作業となります。本件発明では水性アルミナセメント材に骨材を混入するだけでセルフレベリング床ができるのであり、作業時間の短縮、作業人数減となり大幅に効率が良くなるのであります。」

(b)(3)の主張に対する当審の判断
まず、本願明細書には「中間材料」との記載はないことから、上記「中間材料」との主張は、本願明細書の記載に基づかないものである。
また、引用発明は「アルミナセメント水性懸濁液」の「水性材」であり、そして、引用発明も摘記(1オ)に「また第2に体質顔料が挙げられ、微粒骨材、高炉スラグのような潜在的水硬反応性を有する微粒骨材も含むものである。」と記載されているように、骨材を添加され得るものであるから、上記主張は、当を得ないものである。。

d (4)の主張について
(a)請求人は(4)として、概ね以下の主張をしている。
「本件発明の常温硬化型カルシウムアルミネート系充填材を一液水性アルミナセメント用添加材として利用樹脂メーカーが樹脂の添加剤として利用できるのであります。
すなわち、一液の水性になったことにより、水系樹脂(耐アルカリ)に添加材として混入できます。このような水系樹脂に混入すると無機の水和物が混入でき、乾燥後、無機有機物のハイブリッド化が可能な樹脂ができるのであります。」

(b)(4)の主張に対する当審の判断
まず、補正発明は、「AおよびBを別々に容器内に収納して現場で混合して利用するようにした」もので、いわゆる「二液」のものであって、「一液」のものではないことから、上記主張は、補正発明の記載に基づかないものである。
なお、引用文献1には、摘記(1ア)に「この発明は常温で硬化可能な水分散型アルミナセメントを主成分とするアルミナセメント系2剤型もしくは1剤型塗料に関するものである」と記載されており、「1剤型」すなわち「一液」のものも記載されている。

e 請求人の主張に対する判断のまとめ
以上のことから、請求人の主張は、いずれも、上記(ア)で述べた判断を左右するものではない。

エ 小括
したがって、上記ウ(ア)で述べたとおり、補正発明は引用発明であることから、補正発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許法第29条第1項の規定により、特許を受けることができない。
また、仮に、上記イ(オ)で記載した相違点が実質的な相違点であるとしても、補正発明は、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

3 本件補正についてのむすび
よって、補正発明は、特許法第29条第1項又は同法同条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1〜7に係る発明は、令和2年7月30日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項2に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。
1.(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
・請求項1〜7
・引用文献1
<引用文献等一覧>
1. 特許第6521474号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項は、前記第2の[理由]2(2)アに記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2(1)で検討したように、カルシウムアルミネート系充填材について「常温硬化型」との限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する補正発明が、前記第2の[理由]2(2)ウ及びエに記載したとおり、引用発明であるから、本願発明も、引用発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許法第29条第1項の規定により、特許を受けることができない。
また、仮に、前記第2の[理由]2(2)イ(オ)で記載した相違点が実質的な相違点であるとしても、本願発明も、補正発明と同様に、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項又は同法同条第2項の規定により特許を受けることができないから、その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり、審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-06-01 
結審通知日 2022-06-07 
審決日 2022-06-22 
出願番号 P2020-020981
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C04B)
P 1 8・ 113- Z (C04B)
P 1 8・ 575- Z (C04B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 河本 充雄
特許庁審判官 三崎 仁
後藤 政博
発明の名称 カルシウムアルミネート系充填材  
代理人 土橋 博司  

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