ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F04D 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 F04D |
---|---|
管理番号 | 1388120 |
総通号数 | 9 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-09-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2021-09-24 |
確定日 | 2022-08-04 |
事件の表示 | 特願2017− 38206「制御装置、該制御装置に搭載された基板、及び該制御装置が適用された真空ポンプ」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 9月20日出願公開、特開2018−145803〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成29年3月1日の出願であって、その手続の経緯は、以下のとおりである。 令和 2年12月15日付け 拒絶理由通知書 令和 3年 1月27日 意見書、手続補正書の提出 令和 3年 4月 7日付け 拒絶理由通知書 令和 3年 5月26日 意見書・手続補正書の提出 令和 3年 6月29日付け 拒絶査定 令和 3年 9月24日 審判請求書、手続補正書の提出 第2 令和3年9月24日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和3年9月24日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について (1)本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は補正箇所である。) 「磁気軸受に電流を流す磁気軸受用駆動電流増幅器とモータに電流を流すモータ用駆動電流増幅器とを搭載したパワー基板と、 前記磁気軸受による浮上制御と前記モータを所定の回転速度で連続して回転させる回転速度制御を行う制御基板と、 該制御基板と前記パワー基板とを収納する筐体とを備え、 前記制御基板にセンサ回路が備えられ、 前記制御基板は前記パワー基板より小さいことを特徴とする制御装置。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の、令和3年5月26日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。 「磁気軸受に電流を流す磁気軸受用駆動電流増幅器とモータに電流を流すモータ用駆動電流増幅器とを搭載したパワー基板と、 前記磁気軸受による浮上制御と前記モータを所定の回転速度で連続して回転させる回転速度制御を行う制御基板と、 該制御基板と前記パワー基板とを収納する筐体とを備え、 前記制御基板にセンサ回路が備えられていることを特徴とする制御装置。」 2 補正の適否 (1)新規事項の追加について 本件補正により、請求項1には、「前記制御基板は前記パワー基板より小さい」という構成が付加された。 請求人は、審判請求書において「『制御基板はパワー基板より小さい』の部分の補正の根拠は、図3です。」と主張している。 しかし、明細書の【0006】【0007】【0009】〜【0016】等によれば、本件の発明の目的は、機能面の分離や設計のしやすさから磁気軸受回路基板とモータ基板とに回路を分離することに代えて、電力の必要な基板と弱電で済む基板の2種類の基板とすることであり、基板の大小関係に着目したものでないことは明らかであるから、図3のパワー基板21と制御基板23との大小関係が、問題意識をもって正確に記載されていると考えることはできない。そもそも、特許出願の願書に添付された図面は、発明の技術内容を説明する便宜のために描かれるものであるから、設計図面に要求されるような正確性をもって描かれているとは限らない。 仮に、図3が寸法まで正確性をもって描かれているとしても、図3は基板の配置を示す断面図であるため(【0033】)、基板の特定の一断面における断面積しか示されておらず、基板の奥行き方向の寸法は不明である。 したがって、図3から、制御基板はパワー基板より小さいことを読み取ることはできない。 また、願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)の上記箇所以外をみても、「制御基板はパワー基板より小さい」ことについては記載されておらず、当初明細書等の記載から自明の事項であるともいえないから、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるとはいえない。 したがって、本件補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてしたものとはいえず、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。 (2)本件補正の目的 上記(1)のとおり、本件補正は、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないが、仮に、本件補正が特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしており、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものとして、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。 (3)本件補正発明 本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。 (4)引用文献の記載事項 ア 引用文献1 (ア)原査定(令和3年6月29日付けの拒絶査定)の拒絶の理由で引用された、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1である登録実用新案第3195919号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。(下線は注目箇所を示すために当審で付したものである。以下同様。) 「【0008】 (実施の形態) 以下、図1〜6を参照して、本考案による真空ポンプの一実施形態であるターボ分子ポンプを説明する。 図1は、ターボ分子ポンプ1の外観図である。ターボ分子ポンプ1は、ポンプ部2と、冷却板30と、冷却板30を挟んでポンプ部2とは反対側に取り付けられた制御部4とを備える。 【0009】 ポンプ部2の中心軸上には、ロータ軸が配置される。ロータ軸には、ロータが、ロータ軸と同軸に取り付けられる。ロータ軸は磁気軸受により非接触で保持される。磁気軸受により回転自在に磁気浮上されたロータ軸は、モータにより高速に回転駆動される。磁気軸受とモータの制御、および磁気軸受とモータへの電力供給は、制御部4により行われる。 ロータを磁気浮上させ、モータによりロータを回転駆動すると、気体分子が図1に示すポンプ部2の上部から流入し、排気口5から排気される。 冷却板30は、内部に冷却水が循環する、不図示の冷却水流路を備える。冷却水流路には、不図示のポンプにより冷却水が冷却水導入管31より導入され、冷却水排出管32より流出する。 【0010】 図2は、ターボ分子ポンプ1を図1とは上下反対にした状態における、制御部4の断面図である。すなわち、図2においてターボ分子ポンプ1の吸気口は下方にある。制御部4の主要構成品は、電源基板10と、制御基板20である。電源基板10、および制御基板20は、カバー33により覆われる。カバー33と冷却板30とは制御部4の筐体34を構成する。すなわち、冷却板30は制御部4の筐体34の一面を構成している。しかしながら、これに限定されず、カバー33と冷却板30との間に筐体34の一面を形成する板が別途設けられても良い。電源基板10は、ネジ11により冷却板30に密着して固定される。制御基板20は、ネジ21およびスペーサ24により冷却板30から所定の高さに固定される。すなわち、電源基板10は、制御基板20と冷却板30の間に設けられる。 スペーサ24は、一端には雄ネジが形成されており冷却板30に固定される。スペーサ24の他端には雌ネジが形成されており、ネジ21が固定される。」 「【0012】 (機能の概要) 図3は、電源基板10および制御基板20の機能の概要を示すブロック図である。 電源基板10は、モータを駆動するモータ駆動回路101と、磁気軸受を駆動する磁気軸受駆動回路102とを備える。モータ駆動回路101は、不図示の外部AC電源から電力の供給を受ける。モータ駆動回路101は、モータがモータ制御回路201から入力される動作指令どおりに動作するように、電圧や周波数を調整した電力をモータに供給する。磁気軸受駆動回路102は、ロータ軸の姿勢を制御するために、磁気軸受制御回路202から入力される動作指令に従い、電流を調整した電力を磁気軸受に供給する。 【0013】 このように、モータ駆動回路101および磁気軸受駆動回路102は、モータおよび磁気軸受の動作に必要な大きな電力を扱うため、大きな発熱を伴う。そのため、電源基板10を冷却板30に密着させて、電源基板10を冷却する。 制御基板20は、モータを制御するモータ制御回路201と、磁気軸受を制御する磁気軸受制御回路202とを備える。モータ制御回路201は、不図示のセンサの出力に基づき演算を行い、モータ駆動回路101に動作指令を出力する。磁気軸受制御回路202は、不図示のセンサの出力に基づき演算を行い、磁気軸受駆動回路102に動作指令を出力する。モータ制御回路201および磁気軸受制御回路202は、大きな電力を扱わないため発熱量が比較的小さい。そのため制御基板20を冷却板30に密着させる必要がない。」 「 」 (イ)引用発明1 上記(ア)から、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 「磁気軸受に電力を供給する磁気軸受駆動回路102とモータに電力を供給するモータ駆動回路101とを備える電源基板10と、 前記磁気軸受によりロータ軸を磁気浮上させる前記磁気軸受の制御とロータ軸を前記モータにより高速に回転駆動させる前記モータの制御を行う制御基板20と、 前記制御基板20と前記電源基板10を覆う筐体34とを備え、 前記制御基板20はセンサの出力に基づき演算を行う、 制御部4。」 イ 引用文献2 (ア)同じく原査定に引用され、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2015−172358号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の記載がある。 「【0024】 図1の真空ポンプ1は、駆動モータにより回転するロータを磁気軸受で支持し、ロータの回転により吸気口2から排気口3に向ってガスを排気する構造になっていて、例えば半導体製造装置、フラット・パネル・ディスプレイ製造装置、ソーラー・パネル製造装置におけるプロセスチャンバ、その他のチャンバのガス排気手段等として利用される。」 「【0026】 図2を参照すると、図1の真空ポンプ1に取付けてある真空ポンプの制御装置4は、開口部5を有する第1のケース6と、第1のケース6に取付けられる第2のケース7と、開口部5の側から第1のケース6内に設置された回路基板(例えば真空ポンプ1を制御する基板8(8A))と、その回路基板を覆うモールド部9と、を備えている。前記回路基板としては、真空ポンプ1の制御以外の他の用途に使用される基板を含んでもよい。なお、以下、説明の便宜上、前記回路基板の一例として前記例示の基板8(8A)を挙げて説明する。 【0027】 第1のケース6の開口部5と反対の面側には水冷ユニット10が設けられており、水冷ユニット10は水冷管11から水冷ユニット10内に導入される冷媒により第1のケース6内を冷却する構成になっている。」 「【0031】 真空ポンプ1を制御する基板8は、前記のように第1のケース6内に設置された基板(以下「第1の基板8A」という)と、真空ポンプ1の第2のケース7の内側に設置された基板(以下「第2の基板8B」という)とに大別される。 【0032】 第1の基板8Aは、主に、駆動モータや磁気軸受等のような真空ポンプ1の電装部品に対する電力の供給とその供給電力の制御とを行なう電源回路基板であり、この電源回路基板により制御された安定な電力が真空ポンプ1の電装部品に供給される。 【0033】 第2の基板8Bは、例えば磁気軸受のセンサから出力される信号(ロータの径方向変位および軸方向変位)等、真空ポンプ1の電装部品から出力される信号を受信し、受信した信号に基づき電装部品の制御(例えば磁気軸受の場合は電磁石に対する励磁電流の調節制御)を行なう制御回路基板である。但し、第1の基板8Aと第2の基板8Bの役割は、これに限るものではない。また、基板も2枚に限るものではない。」 「【0042】 第1の基板8Aの角部には、図3(a)のようなR面取り、または同図(b)のようなC面取りを施してある。第1の基板8Aの発熱や水冷ユニット10の動作により第1のケース6内の温度は変化し、第1のケース6、第1の基板8Aおよびモールド部9は熱膨張したり収縮したりする。」 「 【図1】 【図2】 」 (イ)上記【0032】の「駆動モータや磁気軸受等のような真空ポンプ1の電装部品」との記載、及び、【0033】の「第2の基板8Bは・・・電装部品の制御(例えば磁気軸受の場合は電磁石に対する励磁電流の調節制御)を行なう制御回路基板である。」との記載から、第2の基板8Bは駆動モータや磁気軸受の制御を行うことがわかる。 また、図1及び図2からは、第1の基板8Aと第2の基板8Bとが向かい合って配置され、第1の基板8A側に水冷ユニット10が設けられていることが看取される。 (ウ)引用発明2 上記(ア)(イ)から、引用文献2には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。 「真空ポンプ1のロータを支持する磁気軸受や前記ロータを回転させる駆動モータに電力の供給とその供給電力の制御とを行う第1の基板8Aと、 前記磁気軸受の電磁石に対する励磁電流の調節制御など、前記磁気軸受や前記駆動モータの制御を行う第2の基板8Bと、 第1の基板8Aが内側に設置された第1のケース6と、第1のケース6に取り付けられ第2の基板8Bが内側に設置された第2のケース7とを備え、 前記第2の基板8Bはセンサから出力される信号に基づき制御を行う、 制御装置4。」 ウ 引用文献3 (ア)同じく原査定で周知例として引用された、特開2012−245915号公報(以下、「引用文献3」という。)には、次の記載がある。 「【0016】 モータ2は、ギア7を正逆回転させる三相ブラシレスモータである。モータ2は、制御ユニット3により電流の供給および駆動が制御される。制御ユニット3は、モータ2を駆動する駆動電流が通電されるパワー部100、および、モータ2の駆動を制御する制御部90から構成される。」 「【0023】 制御部90は、プリドライバ91、カスタムIC92、回転検出部としての回転角センサ93、および、マイコン94を備えている。カスタムIC92は、機能ブロックとして、レギュレータ部95、回転角センサ信号増幅部96、および、検出電圧増幅部97を含む。 レギュレータ部95は、電源を安定化する安定化回路である。レギュレータ部95は、各部へ供給される電源の安定化を行う。例えばマイコン94は、このレギュレータ部95により、安定した所定電圧(例えば5V)で動作することになる。 回転角センサ信号増幅部96には、回転角センサ93からの信号が入力される。回転角センサ93は、モータ2の回転位置信号を検出し、検出された回転位置信号は、回転角センサ信号増幅部96に送られる。回転角センサ信号増幅部96は、回転位置信号を増幅してマイコン94へ出力する。 検出電圧増幅部97は、シャント抵抗99の両端電圧を検出し、当該両端電圧を増幅してマイコン94へ出力する。」 「【0033】 次に、図2、図4?図7に基づき、制御ユニット3について説明する。制御ユニット3は、制御基板40、金属筐体としてのヒートシンク50、パワーモジュール60、および、パワー基板70等を有する。」 「【0036】 制御基板40には、制御部90を構成する各種電子部品が実装されている。」 エ 引用文献4 (ア)同じく原査定で周知例として引用された、特開2014−75866号公報(以下、「引用文献4」という。)には、次の記載がある。 「【0012】 モータ2への電流供給源は車両のバッテリ4であり、その制御量の演算、出力は制御ユニット1が担っている。制御ユニット1は、各センサからの信号に基づき、CPU12により演算、処理を行って、後述するパワー駆動部11の電流を制御する制御処理部10と、CPU12の出力信号に基づきモータ2を駆動する電流を供給するパワー駆動部11とに区分される。パワー駆動部11は、複数のスイッチング素子(T1〜T6)を有するいわゆるインバータ部15を含んでいる。また、インバータ部15にはスイッチング素子に直接接続された電気部品類も含まれ、さらに電源部にはノイズ用チョークコイル13、電源の供給・遮断ができる電源リレー14も配置されている。」 「【0015】 制御処理部10には磁石ロータ28の回転に応じて変化する磁束を検出するための磁気センサ部16が搭載され、この磁気センサ部16には、例えばホールセンサ、TMR素子等の検出素子16aと、検出した磁束を波形整形、増幅等を行うインターフェース回路16bが一緒になってIC化され配置されている。インターフェース回路16b、検出素子16aには電源(図中丸印)とグランドも接続されている。この磁気センサ部16からの検出信号はCPU12へ伝達され、モータ2の回転位置(回転角)が演算される。」 「【0019】 制御ユニット1は、制御処理部10を搭載した制御基板10aとパワー駆動部11を搭載したパワー基板11aとケース30から構成されている。パワー基板11aには複数のスイッチング素子T1〜T6、スイッチング素子T1〜T6に接続されたコンデンサC1〜C3や抵抗Rなどの各電気部品が搭載されている。インバータ部15の主要部品であるスイッチング素子T1〜T6は、複数のスイッチング素子を1個のパッケージに内蔵したパワーモジュール15a(Ti)をなし、軸線方向とほぼ平行にヒートシンク31とともにパワー基板11aに林立している。パワーモジュール15aは、例えば図1のスイッチング素子T1とT2の上下方向のスイッチング素子同士を1パッケージとして、合計3個のパッケージが使用されている。」 (5)引用文献との対比・判断 ア 引用文献1を主引例とする場合 (ア)本件補正発明と引用発明1とを対比する。 引用発明1の「(磁気軸受に)電力を供給する」という事項は本件補正発明の「(磁気軸受に)電流を流す」という事項に相当し、以下同様に、「磁気軸受駆動回路102」は「磁気軸用駆動電流増幅器」に、「(モータに)電力を供給する」という事項は「(モータに)電流を流す」という事項に、「モータ駆動回路101」は「モータ用駆動電流増幅器」に、「備える」という事項は「搭載した」という事項に、「電源基板10」は「パワー基板」に、「前記磁気軸受によりロータ軸を磁気浮上させる前記磁気軸受の制御」は「磁気軸受による浮上制御」に、「ロータ軸を前記モータにより高速に回転駆動させる前記モータの制御」は「前記モータを所定の回転速度で連続して回転させる回転速度制御」に、「制御基板20」は「制御基板」に、「覆う」という事項は「収納する」という事項に、「筐体34」は「筐体」に、それぞれ相当する。 引用発明1の「前記制御基板20はセンサの出力に基づき演算を行う」という事項と本件補正発明の「前記制御基板にセンサ回路が備えられ」という事項とは、「前記制御基板においてセンサからの信号を処理する」という点で共通する。 そして、引用発明1の「制御部4」は本件補正発明の「制御装置」に相当する。 (イ)一致点及び相違点 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点> 「磁気軸受に電流を流す磁気軸受用駆動電流増幅器とモータに電流を流すモータ用駆動電流増幅器とを搭載したパワー基板と、 前記磁気軸受による浮上制御と前記モータを所定の回転速度で連続して回転させる回転速度制御を行う制御基板と、 該制御基板と前記パワー基板とを収納する筐体とを備え、 前記制御基板においてセンサからの信号を処理する 制御部4。」 <相違点1> 制御基板においてセンサからの信号を処理する点に関して、本件補正発明は「前記制御基板にセンサ回路が備えられ」ているのに対し、引用発明1の制御基板20はセンサの出力に基づき演算を行うものの、制御基板20がセンサ回路を備えているか明らかではない点。 <相違点2> 本件補正発明では「前記制御基板は前記パワー基板より小さい」のに対し、引用発明1では制御基板とパワー基板との大小関係が明らかではない点。 (ウ)判断 以下、相違点について検討する。 a 相違点1について 引用発明1の制御基板20はセンサの出力に基づき演算を行っていることから、センサから制御基板20までのいずれかの場所にセンサ回路を備えていることは明らかである。そして、引用発明1の制御基板20自体がセンサ回路を備えていないとしても、駆動電流を通電するパワー基板と制御を行う制御基板とに基板が分けられている制御装置において、制御基板にセンサ回路を設けることは本願の出願前における周知技術(例えば、引用文献3(制御基板40とパワー基板70のうち、制御基板40に、回転角センサ信号増幅部96、検出電圧増幅部97や、これらかの信号が入力されるマイコン94を設ける点)、引用文献4(制御基板10aとパワー基板11aのうち、制御基板10aに、検出した磁束を波形成形、増幅等を行うインターフェース回路16b、各センサからの信号に基づき演算、処理を行うCPU12を設ける点)参照。)であるから、当該周知技術に倣って、引用発明1の制御基板20にセンサ回路を備えるようにすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。 b 相違点2について 基板の大きさをどの程度とするべきかは、設置スペース、基板の実装のしやすさ、搭載する電子部品の数や大きさなどに応じて適宜選択し得る設計的事項にすぎない。引用文献1にも、変形例として図8には電源基板10と制御基板20の大きさが図4とは異なる例が示されており、電源基板10と制御基板20の大きさを状況に応じて適宜選択して、制御基板20が電源基板10より小さくなるようにすることは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。 c そして、上記(4)アのとおり、引用文献1の【0013】には、「モータ駆動回路101および磁気軸受駆動回路102は、モータおよび磁気軸受の動作に必要な大きな電力を扱うため、大きな発熱を伴う。そのため、電源基板10を冷却板30に密着させて、電源基板10を冷却する。」、「モータ制御回路201および磁気軸受制御回路202は、大きな電力を扱わないため発熱量が比較的小さい。そのため制御基板20を冷却板30に密着させる必要がない。」と記載されているとともに、運転時に高温になる部材の方が熱応力や繰り返し応力等により故障しやすいことは技術常識であるから、これらの相違点を総合的に勘案しても、パワー基板と制御基板とに分離したので、放熱の必要なのはパワー基板だけである、放熱シートは1枚で足る、パワー基板のみが熱のため寿命が短く故障し易いため交換のために用意しておく基板はこのパワー基板の1種類の基板だけで済む、放熱を集中できレイアウトが簡単で作業性もよくなるという、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明1及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 したがって、本件補正発明は、引用発明1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 イ 引用文献2を主引例とする場合 (ア) 本件補正発明と引用発明2とを対比する。 引用発明2の「真空ポンプ1のロータを支持する磁気軸受や前記ロータを回転させる駆動モータに電力の供給とその供給電力の制御とを行う」という事項は本件補正発明の「磁気軸受に電流を流す磁気軸受用駆動電流増幅器とモータに電流を流すモータ用駆動電流増幅器とを搭載した」という事項に相当し、同様に「第1の基板8A」は「パワー基板」に相当する。 磁気軸受の調整制御が浮上制御であること、及び、真空ポンプのロータを回転させるモータは所定の回転速度で連続して回転させられることは明らかであるから、引用発明2の「前記磁気軸受の電磁石に対する励磁電流の調節制御など、前記磁気軸受や前記駆動モータの制御を行う」という事項は、本件補正発明の「前記磁気軸受による浮上制御と前記モータを所定の回転速度で連続して回転させる回転速度制御を行う」という事項に相当し、以下同様に「第2の基板8B」は「制御基板」に、「第1の基板8Aが内側に設置された第1のケース6と、第1のケース6に取り付けられ第2の基板8Bが内側に設置された第2のケース7」は「該制御基板と前記パワー基板とを収納する筐体」に、それぞれ相当する。 引用発明2の「前記第2の基板8Bはセンサから出力される信号に基づき制御を行う」という事項と、本件補正発明の「前記制御基板にセンサ回路が備えられ」という事項とは、「前記制御基板においてセンサからの信号を処理する」という点で共通する。 そして、引用発明2の「制御装置4」は本件補正発明の「制御装置」に相当する。 (イ)一致点及び相違点 以上のことから、本件補正発明と引用発明2との一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点> 「磁気軸受に電流を流す磁気軸受用駆動電流増幅器とモータに電流を流すモータ用駆動電流増幅器とを搭載したパワー基板と、 前記磁気軸受による浮上制御と前記モータを所定の回転速度で連続して回転させる回転速度制御を行う制御基板と、 該制御基板と前記パワー基板とを収納する筐体とを備え、 前記制御基板においてセンサからの信号を処理する、 制御装置。」 <相違点3> 制御基板においてセンサからの信号を処理する点に関して、本件補正発明は「前記制御基板にセンサ回路が備えられ」ているのに対し、引用発明2における第2の基板8Bはセンサから出力される信号に基づき制御を行ものの、第2の基板8Bがセンサ回路を備えているか明らかではない点。 <相違点4> 本件補正発明は「前記制御基板は前記パワー基板より小さい」のに対し、引用発明2では制御基板とパワー基板との大小関係が明らかではない点。 (ウ)判断 以下、相違点について検討する。 a 相違点3について 引用発明2の第2の基板8Bはセンサから出力される信号に基づき電装部品の制御を行っていることから、センサから第2の基板8Bまでのいずれかの場所にセンサ回路を備えていることは明らかである。そして、引用発明2の第2の基板8B自体がセンサ回路を備えていないとしても、駆動電流を通電するパワー基板と制御を行う制御基板とに基板が分けられている制御装置において、制御基板にセンサ回路を設けることは、上記ア(ウ)aで検討したとおり、本願の出願前における周知技術(例えば、引用文献3、引用文献4参照。)であるから、当該周知技術に倣って、引用発明2の第2の基板8Bにセンサ回路を備えるようにすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。 b 相違点4について 基板の大きさをどの程度とするべきかは、設置スペース、基板の実装のしやすさ、搭載する電子部品の数や大きさなどに応じて適宜選択し得る設計的事項であり、第1の基板8Aと第2の基板8Bの大きさを状況に応じて適宜選択して、第2の基板8Bが第1の基板8Aより小さくなるようにすることは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。 c そして、上記(4)イのとおり、引用文献2の【0042】には、第1の基板8Aが発熱することが記載されており、図2からは第1の基板8Aと第2の基板8Bのうち、第1の基板8A側に水冷ユニット10が設けられていることが看取されるとともに、運転時に高温になる部材の方が熱応力や繰り返し応力等により故障しやすいことは技術常識であるから、これらの相違点を総合的に勘案しても、パワー基板と制御基板とに分離したので、放熱の必要なのはパワー基板だけである、放熱シートは1枚で足る、パワー基板のみが熱のため寿命が短く故障し易いため交換のために用意しておく基板はこのパワー基板の1種類の基板だけで済む、放熱を集中できレイアウトが簡単で作業性もよくなるという、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明2及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 したがって、本件補正発明は、引用発明2及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (6)請求人の主張について 請求人は審判請求書において、「本願では、磁気軸受制御とモータに対する駆動制御について、電力の必要なパワー基板21と弱電で済む制御基板23の2種類の基板にまとめました。そして、パワー基板21だけに発熱を集中させたので、弱電で構成する制御基板23については、発熱量は少なく熱に影響されることが無いものにできています。自然空冷で十分なものです。」と主張している。 しかし、引用発明1又は引用発明2も、電力の必要なパワー基板21(引用発明1の電源基板10、引用発明2の第1の基板8A)と弱電で済む制御基板23(引用発明1の制御基板20、引用発明2の第2の基板8B)の2種類の基板にまとめているから、上記(5)ア(ウ)c及び上記(5)イ(ウ)cにおいて検討したとおり、引用発明1又は引用発明2においても同様の作用効果を奏することは明らかであるから、請求人の上記主張を採用することはできない。 また、請求人は審判請求書において、「本願は、制御基板23をパワー基板21より小さくすることによりケーブルを通す空間を設けたことで、制御装置200の高さを低くできるという効果を奏します。」との主張もしている。しかし、制御基板23をパワー基板21より小さくすることによりケーブルを通す空間を設けられることや、その結果制御装置200の高さを低くできることなどは、当初明細書等に記載されておらず、且つ、当初明細書等の記載から当業者がその効果を推論できないため、上記効果を参酌することはできないから、請求人の上記主張を採用することはできない。 3 本件補正についてのむすび よって、本件補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 仮に、本件補正が、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たし、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとしても、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 令和3年9月24日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和3年5月26日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2・1(2)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、日本国内又は外国において、その出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、又は、引用文献2に記載された発明及び周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 3 引用文献及び引用発明 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし4およびその記載事項は、前記第2・2(4)に記載したとおりである。 4 対比・判断 本願発明は、前記第2・2で検討した本件補正発明から、「前記制御基板は前記パワー基板より小さい」という、制御基板とパワー基板の大きさに係る限定事項を削除したものである。 そうすると、本願発明と引用発明1との相違点は、前記第2・2(5)ア(イ)における相違点1のみとなり、また、本願発明と引用発明2との相違点は、前記第2・2(5)イ(イ)における相違点3のみとなる。 本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2・2(5)に記載したとおり、引用発明1及び周知技術に基づいて、又は、引用発明2及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、相違点2又は相違点4に相当する発明特定事項が削除された本願発明は、引用発明1及び周知技術に基づいて、又は、引用発明2及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 |
審理終結日 | 2022-05-30 |
結審通知日 | 2022-06-06 |
審決日 | 2022-06-20 |
出願番号 | P2017-038206 |
審決分類 |
P
1
8・
561-
Z
(F04D)
P 1 8・ 121- Z (F04D) |
最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
柿崎 拓 |
特許庁審判官 |
小川 恭司 関口 哲生 |
発明の名称 | 制御装置、該制御装置に搭載された基板、及び該制御装置が適用された真空ポンプ |
代理人 | 椎名 正利 |