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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B29C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B29C
審判 全部申し立て 2項進歩性  B29C
管理番号 1388373
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-09-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-08-06 
確定日 2022-06-14 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6828343号発明「異材接合体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許6828343号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし3〕について、訂正することを認める。 特許第6828343号の請求項3に係る特許を維持する。 特許第6828343号の請求項1及び2に係る特許に対する特許異議申立を却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6828343号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成28年9月26日に出願された特願2016−186768号であって、令和3年1月25日にその特許権の設定登録(請求項の数3)がされ、同年2月10日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年8月6日に特許異議申立人 特許業務法人朝日奈特許事務所(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし3)がされ、同年12月16日付けで取消理由通知が通知された後に令和4年2月18日に特許権者 いすゞ自動車株式会社(以下、「特許権者」という。)により訂正請求がされると共に意見書が提出され、同年同月24日付けで特許法第120条の5第5項の通知がされたが、特許異議申立人により何らの応答もなかったものである。

第2 訂正の適否について
1 訂正の内容
令和4年2月18日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に
「樹脂材を金属材と接合して得られる異材接合体であって、
前記樹脂材は、樹脂と繊維とを含有しており、
前記金属材は、表面に凹部を有しており、
少なくとも一部の前記繊維は、前記凹部の内側領域と外側領域とを横断するように配置されており、
前記凹部は、浅部が深部よりも狭窄されている
ことを特徴とする異材接合体。」
と記載されているのを、
「樹脂材を金属材と接合して得られる異材接合体であって、
前記樹脂材は、樹脂と繊維とを含有しており、
前記金属材は、表面に凹部を有しており、
少なくとも一部の前記繊維は、前記凹部の内側領域と外側領域とを横断するように配置されており、
前記凹部は、浅部が深部よりも狭窄されており、
前記深部は、前記凹部の深さ方向に向かって断面形状の幅が増大した後、縮小し、
前記深部は、前記凹部の深さ方向の中間部に、断面形状の幅が最大となる最大幅位置を有し、
前記樹脂は、前記凹部の深さ方向に向かって、前記浅部から、前記深部の最大幅位置より深い位置まで配置され、
少なくとも一部の前記繊維は、前記凹部の深さ方向に向かって、前記浅部を通過し、前記深部の最大幅位置より深い位置まで延び、かつ、前記深部の最大幅位置より深い位置で、深さ方向に対し傾斜されている
ことを特徴とする異材接合体。」
に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1及び2に係る請求項1及び2の訂正について
訂正事項1及び2に係る請求項1及び2についての訂正は、請求項1及び2の削除を目的とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件特許明細書等」という。)に記載した事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。

(2)訂正事項3に係る請求項3の訂正について
訂正事項3に係る請求項3についての訂正は、凹部における深部の形状について、「前記凹部の深さ方向に向かって断面形状の幅が増大した後、縮小」し、「前記凹部の深さ方向の中間部に、断面形状の幅が最大となる最大幅位置を有」することを特定すると共に、樹脂について、「前記凹部の深さ方向に向かって、前記浅部から、前記深部の最大幅位置より深い位置まで配置され」ることを特定すると共に、繊維について、「少なくとも一部の前記繊維は、前記凹部の深さ方向に向かって、前記浅部を通過し、前記深部の最大幅位置より深い位置まで延び、かつ、前記深部の最大幅位置より深い位置で、深さ方向に対し傾斜されている」ことを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、上記請求項3についての特定事項は、本件特許明細書等の【図1】に記載されていると認められることから、訂正事項3に係る請求項3についての訂正は、本件特許明細書等に記載した事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし3〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
上記第2で示したとおり、本件訂正は認められたため、本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
樹脂材を金属材と接合して得られる異材接合体であって、
前記樹脂材は、樹脂と繊維とを含有しており、
前記金属材は、表面に凹部を有しており、
少なくとも一部の前記繊維は、前記凹部の内側領域と外側領域とを横断するように配置されており、
前記凹部は、浅部が深部よりも狭窄されており、
前記深部は、前記凹部の深さ方向に向かって断面形状の幅が増大した後、縮小し、
前記深部は、前記凹部の深さ方向の中間部に、断面形状の幅が最大となる最大幅位置を有し、
前記樹脂は、前記凹部の深さ方向に向かって、前記浅部から、前記深部の最大幅位置より深い位置まで配置され、
少なくとも一部の前記繊維は、前記凹部の深さ方向に向かって、前記浅部を通過し、前記深部の最大幅位置より深い位置まで延び、かつ、前記深部の最大幅位置より深い位置で、深さ方向に対し傾斜されている
ことを特徴とする異材接合体。」

第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由及び取消理由の概要
1 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和3年8月6日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は、次のとおりである。
(1)申立理由1(明確性要件).本件特許の請求項1及び2に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、それらの特許は同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
概略は、以下の通り。
「(繊維の)長手方向」と「凹部の深度方向」を「一致させる」ことを規定する本件特許発明1は、具体的にどのような状態までを包含するものであるか、当業者は理解することができない。
(2)申立理由2−1(新規性).本件特許の請求項1及び2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物である甲第1号証の1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(3)申立理由2−2(新規性).本件特許の請求項1及び2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物である甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(4)申立理由2−3(新規性).本件特許の請求項3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物である甲第3号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、その発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(5)申立理由3−1(進歩性).本件特許の請求項1及び2に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された下記の刊行物である甲第1号証の1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(6)申立理由3−2(進歩性).本件特許の請求項1及び2に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された下記の刊行物である甲第2号証に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(7)申立理由3−3(進歩性).本件特許の請求項3に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された下記の刊行物である甲第3号証に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(8)申立理由3−4(進歩性).本件特許の請求項3に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された下記の刊行物である甲第1号証に記載された発明及び甲4号証に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(9)証拠方法
・甲第1号証の1:国際公開第2015/188798号
・甲第1号証の2:特表2017−524554号公報
・甲第2号証:特開2014−223781号公報
・甲第3号証:特開2014−166693公報
・甲第4号証:特開2015−100959号公報
以下、順に、「甲1の1」等という。

2 取消理由通知に記載した取消理由の概要
令和3年12月6日付けで通知された取消理由通知に記載した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1)取消理由1(明確性要件).本件特許の請求項1及び2に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、それらの特許は同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(2)取消理由2−1(新規性).本件特許の請求項1及び2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された甲1の1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(3)取消理由2−2(新規性).本件特許の請求項1及び2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された甲2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(4)取消理由2−3(新規性).本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された甲3に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(5)取消理由3−1(進歩性).本件特許の請求項1及び2に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された甲1の1に記載された発明に基いて、その出願前にその当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(6)取消理由3−2(進歩性).本件特許の請求項1及び2に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された甲2に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(7)取消理由3−3(進歩性).本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された甲3に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(8)取消理由3−4(進歩性).本件特許の請求項3に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された甲1の1に記載された発明及び周知技術に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

取消理由1(明確性要件)、取消理由2−1ないし2−3(新規性)、取消理由3−1ないし3−4(進歩性)の概要は、各々、申立理由1(明確性要件)、申立理由2−1ないし2−3(新規性)、申立理由3−1ないし3−4(進歩性)と同旨である。

第5 取消理由及び申立理由についての当審の判断
1 取消理由1(明確性要件)及び申立理由1(明確性要件)について
取消理由及び申立理由の対象である請求項1及び請求項2が削除されたため、当該取消理由及び当該申立理由は対象が存在しなくなった。

2 取消理由2−1及び2−2(新規性)、申立理由2−1及び2−2(新規性)、取消理由3−1及び3−2(進歩性)、申立理由3−1及び3−2(進歩性)について
取消理由及び申立理由の対象である請求項1及び請求項2が削除されたため、当該取消理由及び当該申立理由は対象が存在しなくなった。

3 取消理由2−3(新規性)、申立理由2−3(新規性)、取消理由3−3(進歩性)、申立理由3−3(進歩性)について
(1)甲3に記載された事項等
ア 甲3に記載された事項
甲3には、「複合成形体とその製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。以下、同様。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属成形体と樹脂成形体が接合された複合成形体であって、
前記金属成形体が、レーザー光の照射により接合面に形成された細孔の組み合わせからなる細孔群を有しており、
前記細孔が、開口部から底面までの間の内径が均一ではなく、かつ開口部から底面までの間に最小内径部分を有しているものであり、
前記複合成形体が、前記金属成形体が有している細孔群内に樹脂が入り込んだ状態で接合されている複合成形体。
【請求項2】
前記細孔が、開口部の内径(D1)、最小内径部分の内径(D2)、最小内径部分から底面までの最大内径部分の内径(D3)の関係において、D1>D2およびD3>D2を満たしている、請求項1記載の複合成形体。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、接合強度がより高められている複合成形体と、その製造方法を提供することを課題とする。」
「【発明を実施するための形態】
【0014】
<複合成形体>
(1)図1の複合成形体
図1の複合成形体1は、平板の金属成形体10と平板の樹脂成形体20が接合されて一体化されたものである。図1では、小さな円で囲んだ部分を拡大した拡大図も合わせて示している。
接合一体化される前の平板の金属成形体10の接合面12は、図1、図4(a)に示すように、レーザー光の照射により形成された独立した細孔31の組み合わせからなる細孔群30を有している。
【0015】
細孔群30を形成する細孔31は、図5、図6に示すような厚さ方向への断面形状をしている。
図5に示すように、細孔31は、開口部32から底面33までの間の内径が均一ではなく、大きくなったり、小さくなったりしている。
細孔31は、開口部32から底面33までの間に最小内径部分(くびれ部分)34を有しており、開口部32の内径(D1)、最小内径部分(くびれ部分)34の内径(D2)、最小内径部分34から底面33までの最大内径部分の内径(D3)の関係においては、D1>D2およびD3>D2を満たしている。
【0016】
図6(a)は、図4と同じ断面形状の細孔31を示している。図6(a)の細孔31は、開口部32の内径D1、最小内径部分(くびれ部分)34の内径(D2)、最小内径部分34から底面33までの最大内径部分の内径(D3)の関係において、D1>D3>D2の関係を満たしている。
図6(b)は、図4とは異なる断面形状の細孔31を示している。図6(a)の細孔31は、開口部32の内径D1、最小内径部分(くびれ部分)34の内径(D2)、最小内径部分34から底面33までの最大内径部分の内径(D3)の関係において、D3>D1>D2の関係を満たしている。
ここでD1=D3であってもよい。」
「【0041】
本発明の複合成形体で使用する樹脂成形体の樹脂は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のほか、熱可塑性エラストマーも含まれる。」
「【0045】
これらの熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性エラストマーには、公知の繊維状充填材を配合することができる。
公知の繊維状充填材としては、炭素繊維、無機繊維、金属繊維、有機繊維等を挙げることができる。
炭素繊維は周知のものであり、PAN系、ピッチ系、レーヨン系、リグニン系等のものを用いることができる。
無機繊維としては、ガラス繊維、玄武岩繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化ホウ素繊維、窒化ケイ素繊維等を挙げることができる。
金属繊維としては、ステンレス、アルミニウム、銅等からなる繊維を挙げることができる。
有機繊維としては、ポリアミド繊維(全芳香族ポリアミド繊維、ジアミンとジカルボン酸のいずれか一方が芳香族化合物である半芳香族ポリアミド繊維、脂肪族ポリアミド繊維)、ポリビニルアルコール繊維、アクリル繊維、ポリオレフィン繊維、ポリオキシメチレン繊維、ポリテトラフルオロエチレン繊維、ポリエステル繊維(全芳香族ポリエステル繊維を含む)、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリイミド繊維、液晶ポリエステル繊維などの合成繊維や天然繊維(セルロース系繊維など)や再生セルロース(レーヨン)繊維などを用いることができる。
【0046】
これらの繊維状充填材は、繊維径が3〜60μmの範囲のものを使用することができるが、これらの中でも、例えば金属成形体10の接合面11に対して形成されるマーキングパターンの幅(細孔の開口部の大きさ、または溝の幅)より小さな繊維径のものを使用することが好ましい。繊維径は、より望ましくは5〜30μm、さらに望ましくは7〜20μmである。
このようなマーキングパターンの幅より小さな繊維径の繊維状充填材を使用したときには、金属成形体のマーキングパターン内に繊維状充填材の一部が入り込んだ状態の複合成形体が得られ、金属成形体と樹脂成形体の接合強度が高められるので好ましい。
さらにこれらの繊維状充填材は、樹脂成形体の機械的強度を高め、金属成形体との機械的強度差を小さくすることで金属成形体と樹脂成形体との接合強度を高めるため、成形後の樹脂成形体中に含まれる重量平均繊維長が、好ましくは0.1〜5.0mm、より好ましくは0.1〜4.0mm、さらに好ましくは0.2〜3.0mm、もっとも好ましくは0.5〜2.5mmにできるような長さのものを製造原料として使用することが好ましい。 熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性エラストマー100質量部に対する繊維状充填材の配合量は5〜250質量部が好ましい。より望ましくは、25〜200質量部、さらに望ましくは45〜150質量部である。」
「【実施例】
【0049】
実施例1
図9に示す金属成形体(アルミニウム:A5052)の接合面12に対して、表1に示す条件でレーザー照射して、図9に示すような状態の多数の細孔31(細孔群30)を形成した。レーザー発振器はYAGレーザー(Navigator1064-6YC)を使用した。
【0050】
図10(a)は、実施例1で使用した金属成形体の平面のSEM写真(200倍)であり、図10(b)は、厚さ方向断面のSEM写真(200倍)である。
上記のようにして金属成形体に細孔群を形成した後、下記の方法でインサート成形して、実施例1の複合成形体を得た。
【0051】
実施例2
図9に示す金属成形体(アルミニウム:A5052)の接合面12に対して、表1に示す下記の条件でレーザー照射して、図9に示すような状態の多数の細孔31(細孔群30)を形成した。レーザー発振器はファイバーレーザー(IPG製 YLP-1-50-30-30RA)を使用した。
【0052】
図11(a)は、実施例2で使用した金属成形体の平面のSEM写真(300倍)であり、図11(b)は、厚さ方向断面のSEM写真(180倍)である。 図11(a)、(b)から確認できるとおり、開口部の周囲に溶融金属が固化した突起(バリ)が形成されていた。
上記のようにして金属成形体に細孔群を形成した後、下記の方法でインサート成形して、実施例2の複合成形体を得た。
【0053】
比較例1
図9に示す金属成形体(アルミニウム:A5052)の接合面12に対して、表1に示す条件でレーザー照射して、図9に示すような状態の多数の細孔31(細孔群30)を形成した。レーザー発振器はファイバーレーザー(IPG製 YLP-1-50-30-30RA)を使用した。
【0054】
図12(a)は、比較例1で使用した金属成形体の平面のSEM写真(300倍)であり、図12(b)は、厚さ方向断面のSEM写真(300倍)である。
上記のようにして金属成形体に細孔群を形成した後、下記の方法でインサート成形して、比較例1の複合成形体を得た。
【0055】
比較例2
図9に示す金属成形体(アルミニウム:A5052)の接合面12に対して、表1に示す条件でレーザー照射して、図9に示すような状態の多数の細孔31(細孔群30)を形成した。レーザー発振器はファイバーレーザー(IPG製 YLP-1-50-30-30RA)を使用した。
【0056】
図13(a)は、比較例1で使用した金属成形体の平面のSEM写真(100倍)であり、図13(b)は、厚さ方向断面のSEM写真(80倍)である。
上記のようにして金属成形体に細孔群を形成した後、下記の方法でインサート成形して、比較例2の複合成形体を得た。
得られた複合成形体における金属成形体と樹脂成形体の下記試験による接合強度は、15MPaであった。
【0057】
<インサート成形(射出成形)>
樹脂:GF60%強化PA66樹脂(プラストロンPA66−GF60−01(L7):ダイセルポリマー(株)製),ガラス繊維の繊維長:11mm
樹脂温度:320℃
金型温度:100℃
射出成形機:FUNAC ROBOSHOT S−2000i−100B
【0058】
〔引張試験〕
実施例および比較例の複合成形体を用い、引張試験を行って接合強度を評価した。結果を表1に示す。
なお、複合成形体の樹脂成形体中のガラス繊維の繊維長(重量平均繊維長)は0.85mmであった。平均繊維長は、成形品から約3gの試料を切出し、650℃で加熱・灰化させてガラス繊維を取り出した。取り出した繊維の一部(500本)から重量平均繊維長を求めた。計算式は、特開2006−274061号公報の〔0044〕、〔0045〕を使用した。
引張試験は、金属成形体側の端部を固定した状態で、金属成形体と樹脂成形体が破断するまで図14に示すX1方向に引っ張った場合の最大荷重を測定した。
<引張試験条件>
試験機:テンシロンUCT−1T
引張速度:5mm/min
チャック間距離:50mm
【0059】
【表1】


「【図1】


「【図5】

【図6】



イ 甲3発明
甲3には、実施例1に関する記載を【特許請求の範囲】の記載にならって整理すると、
「金属成形体と樹脂成形体が接合された複合成形体であって、
前記金属成形体が、レーザー光の照射により接合面に形成された細孔の組み合わせからなる細孔群を有しており、
前記細孔が、開口部から底面までの間の内径が均一ではなく、かつ開口部から底面までの間に最小内径部分を有しているものであり、
前記細孔が、開口部の内径(D1)、最小内径部分の内径(D2)、最小内径部分から底面までの最大内径部分の内径(D3)の関係において、D1=95μm、D2=38μmおよびD3=57μmであり、深さ(F)=360μmであり、
前記金属成形体の接合面に細孔群を形成した後、下記の方法でインサート成形することにより、前記金属成形体が有している細孔群内に樹脂が入り込んだ状態で接合されており、複合成形体の樹脂成形体中のガラス繊維の繊維長(重量平均繊維長)が0.85mmとなっている複合成形体。
<インサート成形(射出成形)>
樹脂:GF60%強化PA66樹脂(プラストロンPA66−GF60−01(L7):ダイセルポリマー(株)製)
樹脂温度:320℃
金型温度:100℃
射出成形機:FUNAC ROBOSHOT S−2000i−100B」の発明(以下、「甲3実施例1発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)対比・判断
本件特許発明3と甲3実施例1発明を対比する。
甲3実施例1発明における金属成形体の細孔は、その開口部の内径(D1)、最小内径部分の内径(D2)、最小内径部分から底面までの最大内径部分の内径(D3)の関係において、D1=95μm、D2=38μmおよびD3=57μmとなっているところ、「最小内径部分」及び「最小内径部分から底面までの最大内径部分」は、各本件特許発明1の「浅部」及び「深部」に相当する。そして、D2=38μmおよびD3=57μmより、D2<D3の関係となっていることから、甲3実施例1発明における金属成形体の細孔は、本件特許発明3の「前記凹部は、浅部が深部よりも狭窄されている」事項を備える。
また、甲3の【図6】より、甲3実施例1発明における金属成形体の細孔は、本件特許発明3の「前記深部は、前記凹部の深さ方向に向かって断面形状の幅が増大した後、縮小し、前記深部は、前記凹部の深さ方向の中間部に、断面形状の幅が最大となる最大幅位置を有」する事項を備える。

そうすると、両者は以下の<一致点>で一致し、以下の<相違点>で相違する。
<一致点>
樹脂材を金属材と接合して得られる異材接合体であって、
前記樹脂材は、樹脂と繊維とを含有しており、
前記金属材は、表面に凹部を有しており、
前記凹部は、浅部が深部よりも狭窄されており、
前記深部は、前記凹部の深さ方向に向かって断面形状の幅が増大した後、縮小し、
前記深部は、前記凹部の深さ方向の中間部に、断面形状の幅が最大となる最大幅位置を有する、異材接合体

<相違点3−1>
本件特許発明3が「前記樹脂は、前記凹部の深さ方向に向かって、前記浅部から、前記深部の最大幅位置より深い位置まで配置され」と特定されているのに対し、甲3実施例1発明はそのような特定がされていない点
<相違点3−2>
本件特許発明3が「少なくとも一部の前記繊維は、前記凹部の深さ方向に向かって、前記浅部を通過し、前記深部の最大幅位置より深い位置まで延び、かつ、前記深部の最大幅位置より深い位置で、深さ方向に対し傾斜されている」と特定されているのに対し、甲3実施例1発明はそのような特定がされていない点

そこで、上記相違点について検討する。
事案に鑑み、<相違点3−2>から検討する。
甲3実施例1発明における金属成形体の細孔は、開口部の内径(D1)、最小内径部分の内径(D2)、最小内径部分から底面までの最大内径部分の内径(D3)の関係において、D1=95μm、D2=38μmおよびD3=57μmであり、深さ(F)=360μmである。そして複合成形体の樹脂成形体中のガラス繊維の繊維長(重量平均繊維長)は0.85mm(850μm)となっている。ここで、ガラス繊維の直径は不明ではあるものの、甲3の段落【0046】に、「これらの繊維状充填材は、繊維径が3〜60μmの範囲のものを使用することができるが、これらの中でも、例えば金属成形体10の接合面11に対して形成されるマーキングパターンの幅(細孔の開口部の大きさ、または溝の幅)より小さな繊維径のものを使用することが好ましい。繊維径は、より望ましくは5〜30μm、さらに望ましくは7〜20μmである。
このようなマーキングパターンの幅より小さな繊維径の繊維状充填材を使用したときには、金属成形体のマーキングパターン内に繊維状充填材の一部が入り込んだ状態の複合成形体が得られ、金属成形体と樹脂成形体の接合強度が高められるので好ましい。」と記載されていることから、甲3実施例1発明が、「少なくとも一部の前記繊維は、前記凹部の深さ方向に向かって、前記浅部を通過し」との構成を有しているとまでは言えるものの、少なくとも一部の前記繊維が、「前記深部の最大幅位置より深い位置まで延び、かつ、前記深部の最大幅位置より深い位置で、深さ方向に対し傾斜されている」事項を満たすと言い得る合理的な理由は見あたらないから、この点は実質的な相違点である。
また、少なくとも一部の前記繊維が、「前記深部の最大幅位置より深い位置まで延び、かつ、前記深部の最大幅位置より深い位置で、深さ方向に対し傾斜されている」事項について、甲3には記載も示唆もされていないし、その他の証拠を参酌しても記載されていないことから、当業者であっても、甲3実施例1発明において、<相違点3−2>に係る事項を容易に想到することはできない。
そして、本件特許発明3は、「従来よりも樹脂材を金属材と強固に接合することができる異材接合体を提供することができる。」(本件特許明細書の段落【0012】)という効果を奏するものである。
よって、本件特許発明3は、その余の相違点について検討するまでもなく、甲3実施例1発明、すなわち甲3に記載された発明でもなく、また、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものではない。

(3)取消理由2−3(新規性)、申立理由2−3(新規性)、取消理由3−3(進歩性)、申立理由3−3(進歩性)についてのむすび
したがって、本件特許発明3は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項3に係る特許は、当該取消理由及び申立理由によっては取り消すことはできない。
なお、取消理由の対象である請求項1及び請求項2が削除されたため、当該請求項に対する取消理由2−3(新規性)、取消理由3−3(進歩性)は対象が存在しなくなった。

4 取消理由3−4(進歩性)、申立理由3−4(進歩性)について
(1)甲1の1に記載された事項等
ア 甲1の1に記載された事項
甲1の1には、「プラスチック−金属ハイブリッド構成部品を形成するための、金属及びプラスチックからなる材料複合体を製造するための方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、以下、訳文のみを示し、訳文及び記載箇所共に、甲1の2で代替する。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック−金属ハイブリッド構成部品を形成するための、金属及びプラスチックからなる材料複合体を製造するための方法であって、
金属表面と少なくとも1つのプラスチック成分との付着を改善するために、短パルスレーザ放射を用いて、ランダムな巨視的及び/又は微視的アンダカットを前記金属表面に導入して、前記金属表面を粗面化し、
前記アンダカットはそれぞれ、射出成形プロセスにおいて、前記少なくとも1つのプラスチック成分で少なくとも部分的に充填され、これにより前記プラスチック成分は、前記巨視的及び/又は微視的アンダカット内に係合し、
前記金属表面の前記粗面化の後、前記少なくとも1つのプラスチック成分のための前記射出成形プロセスの前、及び/又は前記少なくとも1つのプラスチック成分のための前記射出成形プロセス中に、前記金属の少なくとも粗面化された前記表面を、室温から、前記少なくとも1つのプラスチック成分の加工温度より100℃高い温度までの範囲内にある温度まで加熱する、方法。
・・・
【請求項15】
前記少なくとも1つのプラスチック成分として、エラストマ又はエラストマ様プラスチックを使用することを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも1つのプラスチック成分を用いた前記射出成形プロセスは、少なくとも部分的な真空下で実施されることを特徴とする、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記少なくとも1つのプラスチック成分は、フィラー及び強化材料を配合されることを特徴とする、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
・・・
【請求項19】
ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維又は亜麻、麻若しくはサイザルの天然繊維を、前記少なくとも1つのプラスチック成分を強化するための繊維として使用することを特徴とする、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項20】
繊維長1mm未満若しくは0.4mm未満の繊維、又は短いガラス繊維を使用することを特徴とする、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項21】
繊維長1mm〜30mmの繊維、又は長いガラス繊維を使用することを特徴とする、請求項16又は17に記載の方法。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、荷重下で高い安定性を有する堅牢なプラスチック‐金属ハイブリッド構成部品を製造できる、冒頭で述べたタイプの方法を提供するという新規の問題に基づいている。当該プラスチック‐金属ハイブリッド構成部品は、加工前の金属の表面の清浄度に関して全く問題がなく、温度変化及び腐食による荷重に関して安定である。特に、粗面化した金属表面上への少なくとも1つのプラスチック成分の射出成形において接合されるプラスチック‐金属ハイブリッド構成部品の結合強度を最適化するために、プラスチック成分の早期の硬化を防止し、構造形成された金属表面に対する上記少なくとも1つのプラスチック成分の付着安定性を保証することを保証する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によると、上記問題は、請求項1に記載の方法の特徴全体により解決される。本発明による方法の発展形態を、従属請求項に記載する。
【0012】
本発明によると、金属表面と少なくとも1つのプラスチック成分との付着を改善するために、短パルスレーザ放射を用いて、ランダムな巨視的及び/又は微視的アンダカットを金属表面に導入して、金属表面を粗面化する。上記アンダカットはそれぞれ、射出成形プロセスにおいて、少なくとも1つのプラスチック成分で少なくとも部分的に充填され、これにより上記プラスチック成分は、巨視的及び/又は微視的アンダカット内に係合する。ここで金属表面の粗面化の後、かつ少なくとも1つのプラスチック成分のための射出成形プロセスの前、及び/又は少なくとも1つのプラスチック成分のための射出成形プロセス中に、金属の少なくとも粗面化された表面を、室温から、少なくとも1つのプラスチック成分の加工温度より100℃高い温度までの範囲内にある温度まで加熱する。」
「【0023】
フィラー及び強化材料の領域において、プラスチック成分の長さ膨張係数を低減し、温度変化によって引き起こされる材料の接合部分領域における応力を低減する成分が特に有利である。好ましくはガラス繊維、炭素繊維又はアラミド繊維を、少なくとも1つのプラスチック成分を強化するための繊維として使用する。繊維の配向に沿って負の熱膨張係数を有する、アラミド繊維等のポリマー系強化系は、この関連では特に有利であることが分かっている。
【0024】
本発明による方法では:強化繊維を有しない;射出成形プロセス前に例えば繊維長1mm未満、好ましくは0.4mm未満の比較的短い強化繊維を有する、若しくは射出成形プロセス前に短い強化繊維を有する;及び/又は射出成形プロセス前に例えば1〜30mmの範囲の繊維長を有する比較的長い強化繊維を有する、プラスチック成分を使用してよい。ここで熱可塑性プラスチック、熱硬化性プラスチック、エラストマプラスチックを使用でき、好ましくは繊維強化されたポリプロピレン又はポリアミド等の特殊プラスチックを使用できる。」
「【0034】
更に、100μm〜1mmの範囲の巨視的粗面化深さを有する、制御下で適合された構造は、ランダムな微視的凹凸形状により可能であり、その結果、プラスチックと金属との最適な係合は後続の射出成形プロセスにおいて保証される。」
「【0040】
図1、2はそれぞれ、各場合においてレーザ構造形成部の間隔及び深さの変動を有して製造された、第1及び第2の金属‐ポリマー複合体の金属表面のレーザ構造形成部の微視的表現を示し、これらは各金属‐ポリマー複合体の接合領域を調製するために生成される。図3によるREM画像が示すように、レーザ構造形成は、金属表面3の粗面化のために、金属表面3に対して二次元的に延在する様式で適用される。ここで領域のサイズは、製造される各金属−ポリマー複合体によって伝達される力に応じて寸法設定される。レーザ構造形成は短パルスレーザ放射を用いて行われ、図1〜3から明白に分かるように、ランダムな巨視的及び/又は微視的アンダカットを金属表面に導入することにより、金属表面を粗面化する。射出成形プロセスにおける金属‐ポリマー複合体の接合中、巨視的及び/又は微視的アンダカットはポリマー成分で少なくとも部分的に充填され、これにより巨視的及び/又は微視的アンダカット内でのポリマー成分の係合が起こり、金属表面とポリマー成分との付着が著しく改善される。
【0041】
アルミニウム/ガラス繊維強化ポリアミド複合体の接合領域のCT断面画像を図4で確認でき、図4では、レーザ構造形成表面及びアンダカットを有するアルミニウムと、上部の、上記アンダカットを充填するガラス繊維強化ポリアミド材料とを示す。アルミニウム表面のレーザ構造形成部は射出成形プロセス中に完全には排気されないため、小さな未充填残留部分が残る(図では暗色で示す)が、これは部分的に真空の射出成形ツールの使用により回避できる。
【0042】
図5は、鋼/ガラス繊維強化ポリアミド複合体の接合領域の詳細な画像を示し、ここで金属は下部に暗色で示され、ポリアミド媒体は上部に灰色で示され、ポリアミド媒体中のガラス繊維は明るい灰色で示され、ガラス繊維強化ポリアミドで充填されていない金属/ガラス繊維強化ポリアミド複合体の領域は白色で示される。ここでも、射出成形プロセスにおける金属/ガラス繊維強化ポリアミド複合体の接合の前に、短パルスレーザ放射を用いて、ランダムな巨視的及び/又は微視的アンダカットを金属表面に導入することにより、金属表面を粗面化する。ポリアミドを強化するために、射出成形プロセスの前に長さ1〜2mmの短繊維を、及び/又は射出成形プロセスの前に長さ最高30mmの長いガラス繊維を使用してよい。部分的に真空の射出成形ツールを用いることにより、ガラス繊維強化ポリアミドを用いた粗面化金属表面のレーザ構造形成部の完全な充填を達成でき、これにより、金属/ガラス繊維強化ポリアミド複合体の極めて高い負荷支持能力が保証される。」
「【0052】
図9は、スキャナの光学部品が構造形成されるワークピース表面に対して所定の相対移動を実施することを示し、図9から分かるように、スキャナの光学部品は、その作業野(x,y)内のワークピース表面の閉鎖構造にわたる連続的ループにおいてレーザビームをガイドする。2つの移動の重畳により、後続の荷重方向に適合する、構造形成される金属表面の制御されたランダムな構造形状を、異なる深さで生成できる。生成されるレーザ構造形成部の形状及び深さは、ビームの移動のガイダンス(形状)及び/又は速度、並びに例えば出力及び/又は反復率等のレーザのパラメータの同時適合を変更することにより、画定できる。数100μm〜最高1mmの構造形成部の深さが可能である。従って、接合相手の性質及び指定された荷重プロファイルに対する射出成形プロセスの適合が可能である。」
「【図1】

【図2】


【図3】

【図4】

【図5】



イ 甲1発明
甲1の1に記載された事項を、上記アの記載事項の下線部と【図5】を中心に整理すると、
「射出成形プロセスにおける鋼/ガラス繊維強化ポリアミド複合体の接合の前に、短パルスレーザ放射を用いて、ランダムな巨視的及び/又は微視的アンダカットを鋼表面に導入することにより、鋼表面が粗面化されると共に、ポリアミドを強化するために、射出成形プロセスの前に長さ1〜2mmの短繊維を、及び/又は射出成形プロセスの前に長さ最高30mmの長いガラス繊維を使用する、射出成形プロセスにより得られる鋼/ガラス繊維強化ポリアミド複合体」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

(2)甲2に記載された事項
甲2には、「金属/樹脂複合構造体」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属表面に間隔周期が20nm以上500μm以下である凸部が林立した微細凹凸面を有している金属部材と、
射出成形により、前記金属部材に直接的に接合される樹脂組成物からなる樹脂部材からなり、
該樹脂組成物が、
(A)熱可塑性樹脂20〜90重量部、
(B)充填材10〜80重量部、
((A)+(B)の合計は100重量部)を含んでなり、
該(B)充填材中、最大長さが10nm以上500μm以下の範囲にある充填材が数分率で5〜100%存在する、金属/樹脂複合構造体。」
「【0001】
本発明は、金属表面に微細凹凸を施した金属部材と、特定の形状を有する充填剤を含む樹脂組成物とが接合した金属/樹脂複合構造体に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、充填材を含有する樹脂組成物と、金属部材が強力に接合された金属/樹脂複合構造体を提供することである。」
「【0013】
該凸部の間隔周期は、好ましくは50nm〜700μm、より好ましくは80nm〜500μmである。該凸部の間隔周期が上記範囲内にあると、後述する樹脂組成物に含まれる特定の形状を有する充填剤が微細凹凸面の凹部に入り込む、もしくは近接することが可能となる。」
「【0042】
さらに、金属部材の金属表面には間隔周期が20nm以上800μm以下である凸部が林立した微細凹凸面があるので、該金属表面に形成されたスキン層中若しくはその付近にも存在する(B)充填材に含まれる最大長さが10nm以上500μm以下の範囲にある充填材が金属表面の微細凹凸面に侵入が可能もしくは微細凹凸面に限りなく近づくことができるため、充填材が持つ補強効果を、金属−樹脂界面において発現させることが可能となると考えられる。
<金属/樹脂複合構造体の製造方法>
本発明の金属/樹脂複合構造体の製造方法は特に限定されず、射出成形、押出成形、加熱プレス成形、圧縮成形、トランスファーモールド成形、注型成形、レーザー溶着成形、反応射出成形(RIM成形)、リム成形(LIM成形)、溶射成形等の樹脂成形方法が採用できる。これらの中でも、射出成形法が好ましく、
具体的には、前記金属部材を射出成形金型のキャビティ部にインサートし、樹脂組成物を金型に射出する射出成形法により製造するのが好ましい。具体的には、以下の(i)〜(iii)の工程を含んでいる。
(i)樹脂組成物を調製する工程
(ii)金属部材を、射出成形用の金型内に設置する工程
(iii)樹脂組成物を、上記金属部材の少なくとも一部と接するように、上記
金型内に射出成形する工程」
「【実施例】
【0055】
以下に、本発明の実施形態を実施例により説明するが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。
【0056】
なお、図3,4は各実施例の共通の図として使用する。図3は、樹脂部材105と金属部材103との金属/樹脂複合構造体106を製造する過程を模式的に示した構成図である。具体的には所定形状に加工され、表面に微細凹凸面を有する表面処理領域104が形成された金属部材103を射出成形用の金型102内に設置し、射出成形機101により、樹脂組成物をゲート/ランナー107を通して射出し、微細凹凸面が形成された金属部材103と一体化された金属/樹脂複合構造体106を製造する過程を模式的に示している。
【0057】
図4は、樹脂部材105と金属部材103との金属/樹脂複合構造体106を模式的に示した外観図である。
(金属の表面処理)
市販の1.6mm厚のA5052アルミニウム合金板を、18mm×45mmの長方形片に切断し、片側の端にレーザーマーカー(オムロン製MX−Z2000)を用いて15mm×7mmの長方形の範囲で、格子状に一定間隔の溝を切削(レーザー出力20W、スキャン速度500mm/秒、周波数100kHz)し、金属部材を得た。レーザー顕微鏡(KEYENCE製VK−X100)にて、切削面を観察すると、凸部の間隔周期が150μm、溝幅50μm、深さが10
0μmである格子状の溝が形成されていた。
(金属/樹脂複合構造体中の充填材の最大長さ測定、数分率算出)
作成した金属/樹脂複合構造体の樹脂部分を400℃に熱したオーブンの中で24時間放置し、樹脂を完全に炭化させた。その後、炭化した樹脂を取り除き、残った充填材を走査型電子顕微鏡(日本電子製)にて充填材が100個以上撮影できる倍率で撮影し、1つ1つの充填材の最大の辺の長さを測定した。
【0058】
かかる方法で撮影された画像から、下記式を用いて、最大長さ10nm以上500μm以下にある充填材の数分率Xを求めた。
【0059】
X=(Y/Z)×100
X:樹脂組成物中に含まれる最大長さ10nm以上500μm以下の充填材の数分率(%)
Y:最大長さ10nm以上500μm以下の充填材の数
Z:全充填材の数
(金属/樹脂複合構造体の接合強度の測定)
引っ張り試験機「モデル1323(アイコーエンジニヤリング社製)」を使用し、引張試験機に専用の治具を取り付け、室温(23℃)にて、チャック間距離60mm、引張速度10mm/minの条件にて測定をおこなった。破断荷重(N)を金属/樹脂接合部分の面積で除する事により接合強度(MPa)を得た。
(接合強度の合否判定)
上記接合強度において、23MPa以上27MPa未満得られた成形品に対しては○、27MPa以上得られた成形品に対しては◎、23MPa未満であった成形品については×と判定した。
[実施例1]
(繊維強化ポリアミドの作成)
ポリアミドとして、宇部興産製PA6(1015B)70重量部、オーウェンスコーニング製のガラス繊維(CS03JAFT2A、初期最大長さ3mm)30重量部を、テクノベル社製二軸押出機KZW15TW(スクリュー径15mm、L/D=45)にて260℃にて500rpmで混練し、ガラス繊維強化ポリアミドを得た。
(金属/樹脂複合構造体の作成)
日本製鋼所社製のJSW J85ADに小型ダンベル金属インサート金型102を装着し、金型102内にレーザー切削領域104を形成した上記アルミニウム片を設置した。次いで、その金型102内に上記で作成したガラス繊維強化ポリアミドを、シリンダー温度260℃、金型温度120℃、射出速度25mm/sec、保圧80MPa、保圧時間10秒の条件にて射出成形を行い、金属/樹脂複合構造体を得た。
【0060】
上記方法により、金属/樹脂複合構造体を6個製造したのち、1つを前述した方法で樹脂組成物中に含まれる充填剤のうち、最大長さ10nm以上500μm以下の充填材の数分率(%)を求めるのに用い、残り5つは、上記方法で引っ張り試験を実施し、5回測定した接合強度の平均値を接合強度として求めた。その結果を表1に示す。
[実施例2]
(繊維強化ポリアミドの作成)
ポリアミドとして、宇部興産製PA6(1015B)70重量部、東レ製の炭素繊維(トレカカットファイバー、初期最大長さ3mm)30重量部を、テクノベル社製二軸押出機KZW15TW(スクリュー径15mm、L/D=45)にて260℃にて500rpmで混練し、炭素繊維強化ポリアミドを得た。
(金属/樹脂複合構造体の作成)
実施例1において、ガラス繊維強化ポリアミドに変えて、上記方法で調整した炭素繊維強化ポリアミドを用いた以外は同様の方法で金属/樹脂複合構造体を得た。
【0061】
最大長さ10nm以上500μm以下の充填材の数分率(%)および接合強度を実施例1と同様にして求めた。評価結果を表1に示す。
[実施例3]
(繊維強化ポリプロピレン)
ガラス繊維強化ポリプロピレンとして、短繊維強化ポリプロピレン(プライムポリマー製V7100、ポリプロピレン80重量部、ガラス繊維20重量部、ガラス繊維長300μm)を用いた。
(金属/樹脂複合構造体の作成)
日本製鋼所社製のJSW J85ADに小型ダンベル金属インサート金型102を装着し、金型102内にレーザー切削領域104を形成した上記アルミニウム片を設置した。次いで、その金型102内に上記繊維強化ポリプロピレンを、シリンダー温度250℃、金型温度120℃、射出速度25mm/sec、保圧80MPa、保圧時間10秒の条件にて射出成形を行い、金属/樹脂複合構造体を得た。
【0062】
最大長さ10nm以上500μm以下の充填材の数分率(%)および接合強度を実施例1と同様にして求めた。評価結果を表1に示す。
・・・
【0065】


「【0066】
[実施例4]
(繊維強化ポリアミドの作成)
実施例1と同様の方法で、ガラス繊維強化ポリアミドを得た。
(金属/樹脂複合構造体の作成)
日本製鋼所社製のJSW J85ADに小型ダンベル金属インサート金型102を装着し、金型102内にレーザー切削領域104を形成した上記アルミニウム片を設置した。次いで、高速ヒートサイクル成形用金型温調装置(松井製作所製RHCM100G)を接続した金型102を150℃まで加熱した。その後、金型102内に上記で作成したガラス繊維強化ポリアミドを、シリンダー温度260℃、射出速度25mm/sec、保圧80MPa、保圧時間10秒の条件に
て射出成形を行い、次いで、室温の水にて金型温度を80℃まで急冷し、金属/樹脂複合構造体を得た。
【0067】
最大長さ10nm以上500μm以下の充填材の数分率(%)および接合強度を実施例1と同様にして求めた。評価結果を表2に示す。
[実施例5]
(繊維強化ポリアミドの作成)
実施例2と同様の方法で、炭素繊維強化ポリアミドを得た。
(金属/樹脂複合構造体の作成)
実施例4において、ガラス繊維強化ポリアミドに変えて、上記方法で調整した炭素繊維強化ポリアミドを用いた以外は同様の方法で金属/樹脂複合構造体を得た。
【0068】
最大長さ10nm以上500μm以下の充填材の数分率(%)および接合強度を実施例1と同様にして求めた。評価結果を表2に示す。
[実施例6]
(繊維強化ポリプロピレン)
実施例3と同様の方法で、ガラス繊維強化ポリプロピレンを得た。
(金属/樹脂複合構造体の作成)
日本製鋼所社製のJSW J85ADに小型ダンベル金属インサート金型102を装着し、金型102内にレーザー切削領域104を形成した上記アルミニウム片を設置した。次いで、高速ヒートサイクル成形用金型温調装置(松井製作所製RHCM100G)を接続した金型102を140℃まで加熱した。その後、金型102内に上記繊維強化ポリプロピレンを、シリンダー温度250℃、射出速度25mm/sec、保圧80MPa、保圧時間10秒の条件にて射出成形を
行い、次いで、室温の水にて金型温度を60℃まで急冷し、金属/樹脂複合構造体を得た。
【0069】
最大長さ10nm以上500μm以下の充填材の数分率(%)および接合強度を実施例1と同様にして求めた。評価結果を表2に示す。
【0070】


「【0071】
[実施例7]
(繊維強化ポリエーテルエーテルケトン)
ガラス繊維強化ポリエーテルエーテルケトンとして、VICTREX社製ポリエーテルエーテルケトンである450GL30(ガラス繊維30重量部、ポリエーテルエーテルケトン70重量部含有)を用いた。
(金属/樹脂複合構造体の作成)
日本製鋼所社製のJSW J85ADに小型ダンベル金属インサート金型102を装着し、金型102内にレーザー切削領域104を形成した上記アルミニウム片を設置した。次いで、その金型102内に上記繊維強化ポリエーテルエーテルケトンを、シリンダー温度390℃、金型温度130℃、射出速度25mm/sec、保圧80MPa、保圧時間10秒の条件にて射出成形を行い、金属/樹脂複合構造体を得た。
【0072】
最大長さ10nm以上500μm以下の充填材の数分率(%)および接合強度を実施例1と同様にして求めた。評価結果を表3に示す。
[実施例8]
(繊維強化ポリエーテルイミド)
ガラス繊維強化ポリエーテルイミドとして、SABIC社製ポリエーテルイミドであるULTEM2200(ガラス繊維20重量部、ポリエーテルイミド80重量部含有)を用いた。
(金属/樹脂複合構造体の作成)
日本製鋼所社製のJSW J85ADに小型ダンベル金属インサート金型102を装着し、金型102内にレーザー切削領域104を形成した上記アルミニウム片を設置した。次いで、その金型102内に上記繊維強化ポリエーテルエーテルケトンを、シリンダー温度400℃、金型温度170℃、射出速度25mm/sec、保圧80MPa、保圧時間10秒の条件にて射出成形を行い、金属/樹脂複合構造体を得た。
【0073】
最大長さ10nm以上500μm以下の充填材の数分率(%)および接合強度を実施例1と同様にして求めた。評価結果を表3に示す。
【0074】






(3)甲3に記載された事項
甲3に記載された事項は、上記3(1)アに示した通りである。

(4)甲4に記載された事項
甲4には、「金属樹脂接合成形品、該成形品用金属部品およびそれらの製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属成形体を射出成形機の金型にインサートして、前記金属成形体と熱可塑性樹脂材料が接合するよう射出成形する金属樹脂接合成形品の製造方法であって、
熱可塑性樹脂材料と接合する前記金属成形体表面に、レーザー照射で凹部が形成されており、かつ、該金属成形体表面と該凹部の側面とのなす角が10〜55度の範囲であることを特徴とする金属樹脂接合成形品の製造方法。」
「【0015】
金属成形体表面に対するレーザー照射は、金属成形体表面の平面方向に対して10〜55度の角度(金属成形体表面の法線方向に対しては35〜80度の角度)をつけた状態でレーザー光を当てる。図1は形成された凹部の断面を(金属成形体の厚み方向への断面)を模式的に示した図である。図1に示すように、レーザー照射された金属成形品は、側面3と底面4からなる凹部が形成される。当該凹部の側面3と該金属成形体表面2とのなす角θは10〜55度の範囲である。」
「【0025】
また、これらの熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーに、本発明の効果を損ねない範囲で従来公知の各種無機・有機充填剤、難燃剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤、着色剤、カーボンブラック、離型剤、可塑剤等の添加剤公知の繊維状充填材を配合することができる。」
「【0028】
本発明の成形品は、レーザー照射により形成された金属表面は非常に粗いため、樹脂との密着性が低くなるものの、樹脂との接触面における摩擦力が向上し、該境界面と同方向に働くせん断力に対しては耐久性を保持しつつ、該金属部品表面と該凹部側面とのなす角を特定角度とすることで、樹脂のひっかかり部位が形成され、それにより高い接合強度、特に、冷熱サイクルにより樹脂が膨潤、収縮を繰り返した場合であっても、優れた耐冷熱サイクル性を発揮することができる。」
「【図1】



(5)対比・判断
本件特許発明3と甲1発明を対比すると、両者は以下の<一致点>で一致し、以下の<相違点>で相違する。
<一致点>
樹脂材を金属材と接合して得られる異材接合体であって、
前記樹脂材は、樹脂と繊維とを含有しており、
前記金属材は、表面に凹部を有している異材接合体

<相違点1>
本件特許発明3が「前記凹部は、浅部が深部よりも狭窄されており、
前記深部は、前記凹部の深さ方向に向かって断面形状の幅が増大した後、縮小し、
前記深部は、前記凹部の深さ方向の中間部に、断面形状の幅が最大となる最大幅位置を有し、
前記樹脂は、前記凹部の深さ方向に向かって、前記浅部から、前記深部の最大幅位置より深い位置まで配置され、
少なくとも一部の前記繊維は、前記凹部の深さ方向に向かって、前記浅部を通過し、前記深部の最大幅位置より深い位置まで延び、かつ、前記深部の最大幅位置より深い位置で、深さ方向に対し傾斜されている」と特定されているのに対し、甲1発明はそのような特定がされていない点

そこで、上記<相違点1>について検討する。
甲1には、「少なくとも一部の前記繊維は、前記凹部の深さ方向に向かって、前記浅部を通過し、前記深部の最大幅位置より深い位置まで延び、かつ、前記深部の最大幅位置より深い位置で、深さ方向に対し傾斜されている」なる技術事項について、記載も示唆もされていない。
また、甲2には、例えば、実施例1に着目すると、「日本製鋼所社製のJSW J85ADに小型ダンベル金属インサート金型102を装着し、金型102内にレーザー切削領域104(凸部の間隔周期が150μm、溝幅50μm、深さが100μmである格子状の溝。)を形成したアルミニウム片を設置し、次いで、その金型102内にガラス繊維強化ポリアミド(宇部興産製PA6(1015B)70重量部、オーウェンスコーニング製のガラス繊維(CS03JAFT2A、初期最大長さ3mm)30重量部を、テクノベル社製二軸押出機KZW15TW(スクリュー径15mm、L/D=45)にて260℃にて500rpmで混練して得られたもの。)を、シリンダー温度260℃、金型温度120℃、射出速度25mm/sec、保圧80MPa、保圧時間 10秒の条件にて射出成形を行って得られた、最大長さ10nm以上500μm以下の充填材の数分率が54(%)の金属/樹脂複合構造体。」が記載されている。
甲3には、例えば、実施例1に着目すると、上記3(1)イで示した甲3実施例1発明が記載されている。
甲4には、【請求項1】に、「金属成形体を射出成形機の金型にインサートして、前記金属成形体と熱可塑性樹脂材料が接合するよう射出成形する金属樹脂接合成形品の製造方法であって、熱可塑性樹脂材料と接合する前記金属成形体表面に、レーザー照射で凹部が形成されており、かつ、該金属成形体表面と該凹部の側面とのなす角が10〜55度の範囲であることを特徴とする金属樹脂接合成形品の製造方法。」が記載されている。
しかしながら、甲2ないし甲4を参照しても、上記技術事項は記載も示唆もされていないし、当該技術事項が周知技術とも言えないことから、当業者であっても、甲1発明において、<相違点1>に係る技術事項について容易に想到することはできない。
そして、本件特許発明3は、「従来よりも樹脂材を金属材と強固に接合することができる異材接合体を提供することができる。」(本件特許明細書の段落【0012】)という効果を奏するものである。
よって、本件特許発明3は、甲1発明、すなわち甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものではない。

(6)取消理由3−4(進歩性)、申立理由3−4(進歩性)についてのむすび
したがって、本件特許発明3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項3に係る特許は、当該取消理由及び申立理由によっては取り消すことはできない。

第6 結語
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載した申立理由によっては、本件特許の請求項3に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件特許の請求項3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、訂正により削除されたため、特許異議申立人による請求項1及び2に係る特許異議の申立ては、いずれも、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
樹脂材を金属材と接合して得られる異材接合体であって、
前記樹脂材は、樹脂と繊維とを含有しており、
前記金属材は、表面に凹部を有しており、
少なくとも一部の前記繊維は、前記凹部の内側領域と外側領域とを横断するように配置されており、
前記凹部は、浅部が深部よりも狭窄されており、
前記深部は、前記凹部の深さ方向に向かって断面形状の幅が増大した後、縮小し、
前記深部は、前記凹部の深さ方向の中間部に、断面形状の幅が最大となる最大幅位置を有し、
前記樹脂は、前記凹部の深さ方向に向かって、前記浅部から、前記深部の最大幅位置より深い位置まで配置され、
少なくとも一部の前記繊維は、前記凹部の深さ方向に向かって、前記浅部を通過し、前記深部の最大幅位置より深い位置まで延び、かつ、前記深部の最大幅位置より深い位置で、深さ方向に対し傾斜されている
ことを特徴とする異材接合体。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-06-03 
出願番号 P2016-186768
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (B29C)
P 1 651・ 537- YAA (B29C)
P 1 651・ 121- YAA (B29C)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 須藤 康洋
細井 龍史
登録日 2021-01-25 
登録番号 6828343
権利者 いすゞ自動車株式会社
発明の名称 異材接合体  
代理人 柱山 啓之  
代理人 絹谷 晴久  
代理人 柱山 啓之  
代理人 絹谷 晴久  

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