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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08J 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C08J 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08J 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08J |
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管理番号 | 1388381 |
総通号数 | 9 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-09-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-09-09 |
確定日 | 2022-07-01 |
異議申立件数 | 2 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6845348号発明「ポリオレフィン系樹脂発泡体シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6845348号の特許請求の範囲の記載を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1−8]のとおり、訂正することを認める。 特許第6845348号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6845348号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、2019年(令和1年)9月27日(優先権主張 平成30年9月28日)を国際出願日とする特許出願であって、令和3年3月1日にその特許権の設定登録(請求項の数8)がされ、同年同月17日に特許掲載公報が発行されたものである。 その後、その特許に対し、令和3年9月9日に特許異議申立人 東レ株式会社(以下、「特許異議申立人A」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされるとともに、同年同月15日に特許異議申立人 石井 豪(以下、「特許異議申立人B」という。)により、特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、同年12月2日付けで取消理由が通知され、令和4年2月2日に特許権者 積水化学工業株式会社(以下、「特許権者」という。)より訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされるとともに意見書の提出がされ、同年同月9日付けで特許法第120条の5第5項に基づく訂正請求があった旨の通知を行ったところ、同年3月9日に特許異議申立人Bより意見書の提出がされたものの、特許異議申立人Aからは、何ら応答がなかったものである。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。) ・訂正事項 特許請求の範囲の請求項1に、「見かけ密度が0.035g/cm3以下であり、」とあるのを、「見かけ密度が0.025g/cm3以下であり、」に訂正する。 請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2ないし8も同様に訂正する。 なお、請求項1ないし8は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項に係る請求項1の訂正は、見かけ密度の上限を「0.035g/cm3」から「0.025g/cm3」とするものであって、見かけ密度の範囲を減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項1に係る請求項1の訂正は、願書に添付した明細書の段落【0067】、実施例8ないし10の記載からみて、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであるから新規事項の追加に該当しない。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。 請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2ないし8も同様である。 3 訂正の適否についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1−8]について訂正することを認める。 第3 本件特許 上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明8」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 面密度が5g/m2以上400g/m2以下であり、見かけ密度が0.025g/cm3以下であり、昇温速度10℃/分、測定温度23℃〜550℃にて測定した熱重量分析において、重量が90質量%から10質量%まで減少するのにかかる時間(t)が9分以上である、ポリオレフィン系樹脂発泡体シート。 【請求項2】 厚みが15mm以下である、請求項1に記載のポリオレフィン系樹脂発泡体シート。 【請求項3】 前記ポリオレフィン系樹脂発泡体シートを構成するポリオレフィン系樹脂が、ポリエチレン樹脂及びポリプロピレン樹脂から選ばれる1種以上である、請求項1又は2に記載のポリオレフィン系樹脂発泡体シート。 【請求項4】 前記ポリオレフィン系樹脂が、ポリエチレン樹脂及びポリプロピレン樹脂の併用である、請求項3に記載のポリオレフィン系樹脂発泡体シート。 【請求項5】 難燃剤を含有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリオレフィン系樹脂発泡体シート。 【請求項6】 前記難燃剤がリン酸塩、ポリリン酸塩、リン系スピロ化合物、及びハロゲン系難燃剤から選ばれる1種以上を含む、請求項5に記載のポリオレフィン系樹脂発泡体シート。 【請求項7】 前記難燃剤がリン酸塩、ポリリン酸塩、及びリン系スピロ化合物から選ばれる1種以上を含む、請求項5又は6に記載のポリオレフィン系樹脂発泡体シート。 【請求項8】 前記熱重量分析において、400℃まで加熱したときの残重量率が40質量%以上である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリオレフィン系樹脂発泡体シート。」 第4 特許異議申立人が主張する特許異議申立理由について 特許異議申立人A及び特許異議申立人Bが特許異議申立書において、請求項1ないし8に係る特許に対して申し立てた特許異議申立理由の要旨は、それぞれ次のとおりである。 1 特許異議申立人Aが申し立てた特許異議申立理由の要旨 特許異議申立人Aが申し立てた請求項1ないし8に係る特許に対する特許異議申立理由の要旨(下記(1)〜(5))及び証拠方法(同(6))は、次のとおりである。 (1) 申立理由A1−1(新規性) 本件特許の請求項1ないし3及び5ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲A1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (2) 申立理由A1−2(新規性) 本件特許の請求項1ないし3及び5ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲A2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (3) 申立理由A1−3(新規性) 本件特許の請求項1ないし3及び5ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲A3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (4) 申立理由A1−4(新規性) 本件特許の請求項1ないし3及び5ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲A4号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (5) 申立理由A2(明確性要件) 本件特許の請求項1ないし8についての特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 申立理由A2は、概略次のとおりである。 本件発明1の[構成要件1c](時間(t)が9分以上)および本件発明8の構成要件(残重量率が40質量%以上)について、本件特許の明細書の記載を見ても具体的な測定条件が記載されていないため、これらの構成要件の充足性を一義的に確認する方法がないという点で、本件発明1〜8は記載不備(明確性欠如)の取消理由を有する。 (6) 証拠方法 甲A1号証:特開2014−152218号公報 甲A2号証:特開2017−145367号公報 甲A3号証:特開2007−231216号公報 甲A4号証:特開2011−173941号公報 甲A5号証:実験成績証明書 甲A6号証:特開2005−60603号公報 甲A7号証:本件特許に係る早期審査に関する事情説明書 甲A8号証:プラスチックフォームハンドブック、日刊工業新聞社、昭和4 8年2月28日初版発行、p.365-367 なお、証拠の表記は、おおむね特許異議申立書の記載にしたがった。 2 特許異議申立人Bが申し立てた特許異議申立理由の要旨 特許異議申立人Bが申し立てた請求項1ないし8に係る特許に対する特許異議申立理由の要旨(下記(1)〜(13))及び証拠方法(同(14))は、次のとおりである。 (1) 申立理由B1(明確性要件) 本件特許の請求項1ないし8についての特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 申立理由B1は、概略次のとおりである。 (申立理由B1−1) 熱重量分析においては、測定雰囲気が重要な因子である。測定雰囲気が異なれば、熱分解機構が異なることとなるため、重量減少時間に多大な影響が生じる。 ・・・ しかしながら、請求項1にはその規定がない。また、本件明細書を子細に見ても、熱重量分析の雰囲気についての記載が存在しない。 してみると、熱重量分析の雰囲気が規定されていない請求項1の「昇温速度10℃/分、測定温度23℃〜550℃にて測定した熱重量分析において、重量が90質量%から10質量%まで減少するのにかかる時間(t)が9分以上である」との規定では、特許請求の範囲が一義的に定まるとはいえない。 よって、請求項1に係る発明及び同項に従属する請求項2〜8に係る発明は不明確である。 (申立理由B1−2) 請求項1には、「昇温速度10℃/分、測定温度23℃〜550℃にて測定した熱重量分析において、重量が90質量%から10質量%まで減少するのにかかる時間(t)が9分以上である」との規定がある。 この規定を素直に読めば、請求項1で規定するポリオレフィン系樹脂発泡体シートは、測定温度が23℃から550℃までの間に重量が90質量%から10質量%まで減少するものであり、かつ、その時間(t)が9分以上であることになる。逆に言えば、測定温度550℃までに重量が10質量%に減少しないものは、請求項1の規定の範囲外にあることになる。 しかしながら、本件明細書の実施例4、8、9の試験結果(表1)をみると、上記規定に関するデータについて、「>22.5」、「>20」と記載されており、この記載内容からみて、これらの実施例は500℃到達時点においても未だ重量が10質量%に達していないと解される。このような試験結果のものを実施例と表現していることからみて、特許権者は、請求項の規定に反し、550℃到達時点においても未だ重量が10質量%に達していないものであっても、特許請求の範囲に包含されると認識していると解される。 してみると、特許請求の範囲の記載と、本件明細書の記載内容に矛盾があり、一義的に特許請求の範囲を特定することが困難である。 よって、請求項1に係る発明及び同項に従属する請求項2〜8に係る発明は不明確である。 (2) 申立理由B2−1(新規性) 本件特許の請求項1ないし3、5、6及び8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲B1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (3) 申立理由B2−2(新規性) 本件特許の請求項1ないし3及び5ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲B2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (4) 申立理由B2−3(新規性) 本件特許の請求項1ないし3、5、6及び8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲B3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (5) 申立理由B2−4(新規性) 本件特許の請求項1ないし6及び8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲B4号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (6) 申立理由B2−5(新規性) 本件特許の請求項1ないし6及び8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲B3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (7) 申立理由B3−1(進歩性) 本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲B1号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (8) 申立理由B3−2(進歩性) 本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲B2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (9) 申立理由B3−3(進歩性) 本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲B3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (10) 申立理由B3−4(進歩性) 本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲B4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (11) 申立理由B3−5(進歩性) 本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲B5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (12) 申立理由B4(実施可能要件) 本件特許の請求項1ないし8についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 (13) 申立理由B5(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし8についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 申立理由B4及び申立理由B5は、次のとおりである。 本件特許の明細書の実施例1と実施例3とは、同じ原料を同じ配合割合で使用しており、かつ、製造条件及び密度が同一である(なお、両者のゲル分率が同一なので、架橋時の線量も同一である。)にも関わらず、シート厚み(それに伴う面密度)のみが著しく異なる。 また、本件特許の明細書の比較例3の原料は、実施例1の原料よりも発泡剤の量のみが少ないために、通常であれば、シート厚みは薄くなることになる。しかしながら、比較例3のシート厚みは実施例1のシート厚みよりも著しく厚くなっている。 加えて、本件特許の明細書の実施例9のシートと比較例5のシートとは、難燃剤B(本件特許の明細書0026の記載からリン酸塩またはポリリン酸塩を含むと解される。)の有無が大きな相違であるが、400℃残重量率に関して、400℃で残存すると推察される難燃剤Bを含む実施例9のシートの方が、難燃剤Bを含まない比較例5のシートよりも、低い値になっている(対照的に、難燃剤Bの有無が大きな相違である実施例2と実施例4では、400℃残重量率に関して、難燃剤Bを含む実施例4のシートの方が、難燃剤Bを含まない実施例2のシートよりも、高い値になっている)。 さらにいうと、本件特許の明細書の実施例5のシートと、本件特許と同一出願人が出願した甲第10号証における実施例3のシートとは、シートの仕様(厚み、密度、25%圧縮強度、ゲル分率)が全て同一であり、難燃性のデータも同一であるが、両者の含有する難燃剤の量のみが著しく異なる。本件特許の明細書の比較例1のシートと、本件特許と同一出願人が出願した甲第10号証における比較例1のシートとは、原料及び製造方法が同一であり、難燃性のデータも同一であるが、シートの仕様(厚み、密度、25%圧縮強度)のみが著しく異なる。 かかる状況を把握した当業者であれば、本件特許の明細書における実施例等の具体的なデータが事実であるとは到底認識できない。 そうすると、当業者であれば、本件特許の明細書において本件発明の裏付けとなる実験データの真偽に関して疑義が生じるため、公開代償に値する発明自体が本件特許の明細書に記載されているとは認識しない(なお、明細書の記載が真実である旨の立証責任は特許権者にある。)。 よって、本件発明1〜8は発明の詳細な説明に記載されたものではないし、発明の詳細な説明は当業者が本件発明1〜8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでもない。 (14) 証拠方法 甲B1号証:特開昭56−116727号公報 甲B2号証:特開昭57−115432号公報 甲B3号証:特開平3−287637号公報 甲B4号証:特開平8−92406号公報 甲B5号証:特開2002−128933号公報 甲B6号証:特開平9−48870号公報 甲B7号証:特開平9−272179号公報 甲B8号証:特開平11−209497号公報 甲B9号証:特表2015−525252号公報 甲B10号証:特許第6845349号公報 なお、証拠の表記は、おおむね特許異議申立書の記載にしたがった。 第5 令和3年12月2日付け取消理由通知に記載した取消理由の概要 当審が令和3年12月2日付けで特許権者に通知した取消理由通知における取消理由の概要は、次のとおりである。なお、特許異議申立理由のうち、申立理由A1−1ないしA1−4、A2、B1−1、B2−1ないしB2−5及びB3−1ないしB3−5は、取消理由に包含される。 取消理由1−1(新規性) 本件特許の請求項1ないし3及び5ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲A1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 取消理由1−2(新規性) 本件特許の請求項1ないし3及び5ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲A2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 取消理由1−3(新規性) 本件特許の請求項1ないし3及び5ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲A3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 取消理由1−4(新規性) 本件特許の請求項1ないし3及び5ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲A4号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 取消理由1−5(新規性) 本件特許の請求項1ないし3、5、6及び8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲B1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 取消理由1−6(新規性) 本件特許の請求項1ないし3及び5ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲B2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 取消理由1−7(新規性) 本件特許の請求項1ないし3、5、6及び8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲B3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 取消理由1−8(新規性) 本件特許の請求項1ないし6及び8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲B4号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 取消理由1−9(新規性) 本件特許の請求項1ないし6及び8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲B5号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 取消理由2−1(進歩性) 本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲A1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 取消理由2−2(進歩性) 本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲A2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 取消理由2−3(進歩性) 本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲A3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 取消理由2−4(進歩性) 本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲A4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 取消理由2−5(進歩性) 本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲B1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 取消理由2−6(進歩性) 本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲B2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 取消理由2−7(進歩性) 本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲B3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 取消理由2−8(進歩性) 本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲B4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 取消理由2−9(進歩性) 本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲B5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 取消理由3(明確性要件) 本件特許の請求項1ないし8についての特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 なお、取消理由3の具体的理由は次のとおりである。 本件発明1及び8ではそれぞれ、熱重量分析の結果に基づく特定がなされているが、本件特許の明細書の記載、特に熱重量分析に関する段落【0057】、【0061】の記載を見ても、分析雰囲気などの条件について何ら記載されていない。 熱重量分析において、雰囲気条件により測定結果が大きくかわることが予想されるところであり、甲A5号証の表5においても、同じ試料に対して熱重量分析の際の雰囲気を変更したことにより結果が大きく異なることが示されている。 してみれば、雰囲気等の条件を特定しない、本件発明1及び8の熱重量分析に関する特定事項は、その範囲を明確に特定できないものとなるから、これらの特定事項を有する本件発明1及び8は明確ではない。 なお、請求項1の記載を直接または間接的に引用する本件発明2ないし8も同様である。 第6 当審の判断 1 令和3年12月2日付けで特許権者に通知した取消理由通知における取消理由についての判断 (1) 取消理由1−1(甲A1号証を根拠とする新規性)及び取消理由2−1(甲A1号証を主引例とする進歩性)について ア 甲A1号証の記載事項 甲A1号証には、「発泡体」に関し、次の記載がある。(なお、下線は各証拠において付されていたものに加え、合議体が付したものもある。以下同様。) 「【請求項1】 オレフィン系樹脂、臭素含有難燃剤、天然鉱物、及び三酸化アンチモンを含む発泡体。 【請求項2】 天然鉱物及び三酸化アンチモンの質量比が、3:1〜1:3であることを特徴とする、請求項1記載の発泡体。 【請求項3】 天然鉱物は、SiO2、Al2O3、及びFe2O3を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の発泡体。 【請求項4】 臭素含有難燃剤が、エチレンビスペンタブロモジフェニル及び/又はエチレンビステトラブロモフタルイミドである、請求項1〜3のいずれかに記載の発泡体。」 「【0001】 本発明は、難燃性能に優れたオレフィン系樹脂を用いた発泡体に関するものである。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0004】 しかし、三酸化アンチモンは、発泡剤の分解開始温度を低くし、分解速度を早める効果がある。このため製造条件のバラツキによって意図せぬ発泡剤の分解が発生し、発泡体の厚さ、密度が不均一になったり、急激な発泡に樹脂が追従できず発泡体が切れる等、製造条件が狭い範囲に限定されていた。 【0005】 また、アンチモンはレアメタルの一つであり、近年安定した調達が困難になりつつある。そのため、アンチモンの使用量を低減することが求められている。 【0006】 そこで本発明では、従来技術の課題を解決し、難燃性能の優れたオレフィン系樹脂を含む発泡体を安定して製造し提供することを目的とする。」 「【0011】 本発明の発泡体において、オレフィン系樹脂の含有量に特に制限はなく、オレフィン系樹脂を含有することが重要である。発泡体中のオレフィン系樹脂の含有量に関して、オレフィン系樹脂の持つ特性、成形加工性ならびに外観美麗性の点から、発泡前シート(発泡前シートとは、発泡工程を経る前のシートを意味する。)の全成分中の樹脂分100質量%において、オレフィン系樹脂を70質量%以上100質量%以下含有することが好ましい。また、優れた難燃性と機械特性を有する発泡体を得るために、発泡前シートの全成分中の樹脂分は60質量%以上95%質量%以下とすることが好ましい。 さらに、本発明の特徴を著しく損なわない範囲であれば、本発明の発泡体中に、他の様々な熱可塑性樹脂を必要な特性に応じて、1種類もしくは2種類以上混合して含有させてもよい。 【0012】 なお、成形加工性及び耐熱性に優れた発泡体を得るために、本発明の発泡体においては、オレフィン系樹脂として下記のポリプロピレン系樹脂(A)およびポリエチレン系樹脂(B)を原料として併用することが好ましい。そしてこのポリプロピレン系樹脂(A)とポリエチレン系樹脂(B)との含有割合に特に制限は無いが、質量比(ポリプロピレン系樹脂(A)の質量:ポリエチレン系樹脂(B)の質量)で4:6〜9:1の範囲とすることが好適に用いられる。 【0013】 このポリプロピレン系樹脂(A)としては、ポリプロピレン系樹脂(A)100質量%中のエチレン含有率が1〜5質量%、融点が135〜155℃、MFRが0.5〜5.0のランダムポリプロピレン、及び/又は、ポリプロピレン系樹脂(A)100質量%中のエチレン含有率が5〜10質量%、融点が150〜165℃、MFRが1.0〜7.0のブロックポリプロピレンが特に好ましく用いられる。」 「【実施例】 【0021】 実施例、比較例で用いた評価方法は以下の通りである。 ・・・ 【0023】 ・・・ 実施例1 オレフィン系樹脂として低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン製ノバテックLD LE520H、MFR=4g/10分、密度=923kg/m3):100質量部、臭素含有難燃剤(アルベマール製SAYTEX 8010、エチレンビスペンタブロモジフェニル):3.9質量部、天然鉱物と三酸化アンチモンとの混合物(日本精鉱製STOX−501):1.3質量部、および発泡剤としてアゾジカルボンアミド(永和化成工業製ビニホールAC#LQ):15質量部をヘンシェルミキサーにて混合し、単軸押出機を用いて150℃で溶融押出し、Tダイを用いて厚さ:2.0mmのポリエチレン系樹脂シートを作製した。このシートに加速電圧800kV、15kGyの電子線を両面から照射して架橋シートを得た後、220℃の塩浴上にて浮かべ、上方から赤外線ヒータで加熱し発泡した。その発泡体を50℃の水で冷却、発泡体表面を水洗して乾燥させ、厚さ:4.0mm、みかけ密度:33kg/m3、ゲル分率:25%の発泡体の長尺ロールを得た。この発泡体の評価を表1に示す。 実施例2 オレフィン系樹脂として低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン製ノバテックLD LE520H):100質量部、臭素含有難燃剤(アルベマール製SAYTEX BT−93、エチレンビステトラブロモフタルイミド):6.0質量部、天然鉱物と三酸化アンチモンとの混合物(日本精鉱製STOX−501):1.5質量部、発泡剤としてアゾジカルボンアミド(永和化成工業製ビニホールAC#LQ):15質量部、酸化防止剤(BASF社製IRGANOX 1010):0.1質量部を用い、実施例1と同様に発泡体を得た。この発泡体の評価を表1に示す。 【0024】 ・・・ 比較例2 オレフィン系樹脂として低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン製ノバテックLD LE520H):100質量部、臭素含有難燃剤(アルベマール製SAYTEX 8010):3.9質量部、三酸化アンチモン(日本精鉱製PATOX−K):1.3質量部、および発泡剤としてアゾジカルボンアミド(永和化成工業製ビニホールAC#LQ):15質量部を用い、実施例1と同様に発泡体を得た。この発泡体の評価を表2に示す。」 「【0025】 【表1】 【0026】 【表2】 」 イ 甲A1号証に記載された発明 甲A1号証の記載、特に実施例1、2及び比較例2の記載を中心に整理すると、甲A1号証には次の発明が記載されていると認める。 「オレフィン系樹脂として低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン製ノバテックLD LE520H、MFR=4g/10分、密度=923kg/m3):100質量部、臭素含有難燃剤(アルベマール製SAYTEX 8010、エチレンビスペンタブロモジフェニル):3.9質量部、天然鉱物と三酸化アンチモンとの混合物(日本精鉱製STOX−501):1.3質量部、および発泡剤としてアゾジカルボンアミド(永和化成工業製ビニホールAC#LQ):15質量部をヘンシェルミキサーにて混合し、単軸押出機を用いて150℃で溶融押出し、Tダイを用いて厚さ:2.0mmのポリエチレン系樹脂シートを作製し、このシートに加速電圧800kV、15kGyの電子線を両面から照射して架橋シートを得た後、220℃の塩浴上にて浮かべ、上方から赤外線ヒータで加熱し発泡させ、その発泡体を50℃の水で冷却、発泡体表面を水洗して乾燥させ得られた、厚さ:4.0mm、みかけ密度:33kg/m3、ゲル分率:25%の発泡体の長尺ロール。」(以下、「甲A1実施例1発明」という。) 「オレフィン系樹脂として低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン製ノバテックLD LE520H、MFR=4g/10分、密度=923kg/m3):100質量部、臭素含有難燃剤(アルベマール製SAYTEX BT−93、エチレンビステトラブロモフタルイミド):6.0質量部、天然鉱物と三酸化アンチモンとの混合物(日本精鉱製STOX−501):1.5質量部、および発泡剤としてアゾジカルボンアミド(永和化成工業製ビニホールAC#LQ):15質量部、酸化防止剤(BASF社製IRGANOX 1010):0.1質量部をヘンシェルミキサーにて混合し、単軸押出機を用いて150℃で溶融押出し、Tダイを用いて厚さ:2.0mmのポリエチレン系樹脂シートを作製し、このシートに加速電圧800kV、15kGyの電子線を両面から照射して架橋シートを得た後、220℃の塩浴上にて浮かべ、上方から赤外線ヒータで加熱し発泡させ、その発泡体を50℃の水で冷却、発泡体表面を水洗して乾燥させ得られた、厚さ:6.0mm、みかけ密度:33kg/m3、ゲル分率:23%の発泡体の長尺ロール。」(以下、「甲A1実施例2発明」という。) 「オレフィン系樹脂として低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン製ノバテックLD LE520H、MFR=4g/10分、密度=923kg/m3):100質量部、臭素含有難燃剤(アルベマール製SAYTEX 8010、エチレンビスペンタブロモジフェニル):3.9質量部、三酸化アンチモン(日本精鉱製PATOX−K):1.3質量部、および発泡剤としてアゾジカルボンアミド(永和化成工業製ビニホールAC#LQ):15質量部をヘンシェルミキサーにて混合し、単軸押出機を用いて150℃で溶融押出し、Tダイを用いて厚さ:2.0mmのポリエチレン系樹脂シートを作製し、このシートに加速電圧800kV、15kGyの電子線を両面から照射して架橋シートを得た後、220℃の塩浴上にて浮かべ、上方から赤外線ヒータで加熱し発泡させ、その発泡体を50℃の水で冷却、発泡体表面を水洗して乾燥させ得られた、厚さ:4.0mm、みかけ密度:33kg/m3、ゲル分率:25%の発泡体の長尺ロール。」(以下、「甲A1比較例2発明」という。) ウ 対比・判断 (ア) 本件発明1について 本件発明1と甲A1実施例1発明とを対比する。 甲A1実施例1発明の「発泡体の長尺ロール」は「ポリエチレン系樹脂シート」を加熱発泡させたものであるから、本件発明1の「ポリオレフィン系樹脂発泡体シート」に相当する。 そして、甲A1実施例1発明の発泡体の長尺ロールはその性状が、厚さ:4.0mm、みかけ密度:33kg/m3であるから、見かけ密度は0.033g/cm3であり、面密度は0.033×100cm×100cm×0.4cm=132g/m2と算出され、本件発明1の「面密度が5g/m2以上400g/m2以下」であるとの特定事項を満たす。 してみると、両者は、 「面密度が5g/m2以上400g/m2以下である、ポリオレフィン系樹脂発泡体シート。」 で一致し、次の点で相違する。 (相違点A1−1) ポリオレフィン系樹脂発泡体シートの見かけ密度に関し、本件発明1は、「0.025g/cm3以下」と特定されるのに対し、甲A1実施例1発明は、「0.033g/cm3」である点。 (相違点A1−2) 本件発明1のポリオレフィン系樹脂発泡体シートは、「昇温速度10℃/分、測定温度23℃〜550℃にて測定した熱重量分析において、重量が90質量%から10質量%まで減少するのにかかる時間(t)が9分以上」である旨特定されるところ、甲A1実施例1発明にはそのような特定がない点。 上記相違点について検討する。 まず相違点A1−1について検討するに、本件発明1と甲A1実施例1発明は、見かけ密度の点で明らかに相違しているから、本件発明1は甲A1実施例1発明ではない。 また、甲A1実施例1発明において、見かけ密度を変更する動機付けもない。 なお、仮に、甲A1実施例1発明において見かけ密度を変更した場合、甲A1実施例1発明の「発泡体の長尺ロール」における他の物性にも影響することとなるため、相違点A1−2に係る事項を満たすものであるのかどうかも明らかではないものとなる。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲A1実施例1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 なお、甲A1実施例2発明、甲A1比較例2発明についても、甲A1実施例1発明と同様に判断される。 以下、甲A1実施例1発明、甲A1実施例2発明、甲A1比較例2発明を総称し、「甲A1発明」として検討を進める。 (イ) 本件発明2ないし8について 本件発明2ないし8はいずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものである。 そして、上記(ア)で検討のとおり、本件発明1と甲A1発明は同一ではなく、甲A1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明1の全ての特定事項を含む本件発明2ないし8についても同様に、甲A1発明と同一ではなく、甲A1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (ウ) 取消理由1−1及び取消理由2−1についてのまとめ 上記(ア)及び(イ)のとおりであるから、取消理由1−1及び取消理由2−1は、その理由がない。 (2) 取消理由1−2(甲A2号証を根拠とする新規性)及び取消理由2−2(甲A2号証を主引例とする進歩性)について ア 甲A2号証に記載された発明 甲A2号証の記載、特に実施例1、4及び比較例3の記載を中心に整理すると、甲A2号証には次の発明が記載されていると認める。 「オレフィン系樹脂として低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン製ノバテックLD LE520H、MFR=4g/10分、密度=923kg/m3):100質量部、難燃剤A:芳香族ホスホン酸エステル(丸菱油化工業製、製品名:ノンネン73)5質量部および発泡剤としてアゾジカルボンアミド(永和化成工業製ビニホールAC#LQ):10質量部、酸化防止剤(BASF社製IRGANOX 1010):0.5質量部をヘンシェルミキサーにて混合し、単軸押出機を用いて150℃で溶融押出し、Tダイを用いて厚さ:1.5mmのポリエチレン系樹脂シートを作製し、このシートに加速電圧800kV、15kGyの電子線を両面から照射して架橋シートを得た後、220℃の塩浴上にて浮かべ、上方から赤外線ヒータで加熱し発泡させ、その発泡体を50℃の水で冷却、発泡体表面を水洗して乾燥させ得られた、厚さ:3.0mm、みかけ密度:33kg/m3の発泡体の長尺ロール。」(以下、「甲A2実施例1発明」という。) 「オレフィン系樹脂として低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン製ノバテックLD LE520H、MFR=4g/10分、密度=923kg/m3):100質量部、難燃剤A:エチレンビスペンタブロモジフェニル:アルベマール製、製品名:SAYTEX 8010)14質量部および発泡剤としてアゾジカルボンアミド(永和化成工業製ビニホールAC#LQ):14質量部、酸化防止剤(BASF社製IRGANOX 1010):0.5質量部をヘンシェルミキサーにて混合し、単軸押出機を用いて150℃で溶融押出し、Tダイを用いて厚さ:1.7mmのポリエチレン系樹脂シートを作製し、このシートに加速電圧800kV、15kGyの電子線を両面から照射して架橋シートを得た後、220℃の塩浴上にて浮かべ、上方から赤外線ヒータで加熱し発泡させ、その発泡体を50℃の水で冷却、発泡体表面を水洗して乾燥させ得られた、厚さ:4.1mm、みかけ密度:26kg/m3の発泡体の長尺ロール。」(以下、「甲A2実施例4発明」という。)」 「オレフィン系樹脂として低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン製ノバテックLD LE520H、MFR=4g/10分、密度=923kg/m3):100質量部、難燃剤B:エチレンビスペンタブロモジフェニル(アルベマール製、製品名:SAYTEX 8010)2.5質量部、難燃助剤:三酸化アンチモン(日本精鉱製PATOX−K)1.0質量部、および発泡剤としてアゾジカルボンアミド(永和化成工業製ビニホールAC#LQ):10質量部、酸化防止剤(BASF社製IRGANOX 1010):0.5質量部をヘンシェルミキサーにて混合し、単軸押出機を用いて150℃で溶融押出し、Tダイを用いて厚さ:1.5mmのポリエチレン系樹脂シートを作製し、このシートに加速電圧800kV、15kGyの電子線を両面から照射して架橋シートを得た後、220℃の塩浴上にて浮かべ、上方から赤外線ヒータで加熱し発泡した。その発泡体を50℃の水で冷却、発泡体表面を水洗して乾燥させ得られた、厚さ:3.0mm、みかけ密度:33kg/m3の発泡体の長尺ロール。」(以下、「甲A2比較例3発明」という。) イ 対比・判断 (ア) 本件発明1について 本件発明1と甲A2実施例1発明とを対比する。 甲A2実施例1発明の「発泡体の長尺ロール」は「ポリエチレン系樹脂シート」を加熱発泡させたものであるから、本件発明1の「ポリオレフィン系樹脂発泡体シート」に相当する。 そして、甲A2実施例1発明の発泡体の長尺ロールはその性状が、厚さ:3.0mm、みかけ密度:33kg/m3であるから、見かけ密度は0.033g/cm3であり、面密度は0.033×100cm×100cm×0.3cm=99g/m2と算出され、本件発明1の「面密度が5g/m2以上400g/m2以下」であるとの特定事項を満たす。 してみると、両者は、 「面密度が5g/m2以上400g/m2以下である、ポリオレフィン系樹脂発泡体シート。」 で一致し、次の点で相違する。 (相違点A2−1) ポリオレフィン系樹脂発泡体シートの見かけ密度に関し、本件発明1は、「0.025g/cm3以下」と特定されるのに対し、甲A2実施例1発明は、「0.033g/cm3」である点。 (相違点A2−2) 本件発明1のポリオレフィン系樹脂発泡体シートは、「昇温速度10℃/分、測定温度23℃〜550℃にて測定した熱重量分析において、重量が90質量%から10質量%まで減少するのにかかる時間(t)が9分以上」である旨特定されるところ、甲A2実施例1発明にはそのような特定がない点。 上記相違点について検討する。 まず相違点A1−2について検討するに、本件発明1と甲A2実施例1発明は、見かけ密度の点で明らかに相違しているから、本件発明1は甲A2実施例1発明ではない。 また、甲A2実施例1発明において、見かけ密度を変更する動機付けもない。 なお、仮に、甲A2実施例1発明において見かけ密度を変更した場合、甲A2実施例1発明の「発泡体の長尺ロール」における他の物性にも影響することとなるため、相違点A2−2に係る事項を満たすものであるのかどうかも明らかではないものとなる。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲A2実施例1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 なお、甲A2実施例4発明、甲A2比較例3発明についても、甲A2実施例1発明と同様に判断される。 以下、甲A2実施例1発明、甲A2実施例4発明、甲A2比較例3発明を総称し、「甲A2発明」として検討を進める。 (イ) 本件発明2ないし8について 本件発明2ないし8はいずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものである。 そして、上記(ア)で検討のとおり、本件発明1と甲A2発明は同一ではなく、甲A2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明1の全ての特定事項を含む本件発明2ないし8についても同様に、甲A2発明と同一ではなく、甲A2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (ウ) 取消理由1−2及び取消理由2−2についてのまとめ 上記(ア)及び(イ)のとおりであるから、取消理由1−2及び取消理由2−2は、その理由がない。 (3) 取消理由1−3(甲A3号証を根拠とする新規性)及び取消理由2−3(甲A3号証を主引例とする進歩性)について ア 甲A3号証に記載された発明 甲A3号証の記載、特に実施例1及び比較例1の記載を中心に整理すると、甲A3号証には次の発明が記載されていると認める。 「密度925kg/m3、MFR=2.3のポリエチレン100部、非ハロゲン系難燃剤として、FP2000(旭電化製) 30重量部、アクリル変性したポリテトラフルオロエチレンを20重量%マスターバッチしたものとしてメタブレン(登録商標)(三菱レイヨン製、マスターバッチ中のポリテトラフルオロエチレンの含有量は4重量%)を2重量部、酸化防止剤として、イルガノックス(登録商標)1010(チバスペシャリティケミカルズ製)を0.5重量部、熱分解型発泡剤としてアゾジカルボンアミド(大塚化学製)15重量部をヘンシェルミキサーにて均一に混合し、シリンダー前半部分を160〜170℃の温度に、後半部分を130〜140℃の温度に設定したスクリュー径60mmφの2軸押出機を用い、スクリュー回転数18rpmでTダイから押し出し、厚さ2.1mmの長尺の発泡性シートを作成し、 このシートに加速電圧650Kvで、50kGyに相当する線量を両面から照射して架橋させ、次いで、このシートを225℃に設定したソルト浴に連続的に投入し加熱するとともに、ソルト面に接触していない面を赤外線ヒーターで加熱させることで得られた、厚み4.3mm、密度33kg/m3であるシート状の発泡体。」(以下、「甲A3実施例1発明」という。) 「密度925kg/m3、MFR=2.3のポリエチレン100部、非ハロゲン系難燃剤として、FP2000(旭電化製) 30重量部、酸化防止剤として、イルガノックス(登録商標)1010(チバスペシャリティケミカルズ製)を0.5重量部、熱分解型発泡剤としてアゾジカルボンアミド(大塚化学製)15重量部をヘンシェルミキサーにて均一に混合し、シリンダー前半部分を160〜170℃の温度に、後半部分を130〜140℃の温度に設定したスクリュー径60mmφの2軸押出機を用い、スクリュー回転数18rpmでTダイから押し出し、厚さ2.1mmの長尺の発泡性シートを作成し、 このシートに加速電圧650Kvで、50kGyに相当する線量を両面から照射して架橋させ、次いで、このシートを225℃に設定したソルト浴に連続的に投入し加熱するとともに、ソルト面に接触していない面を赤外線ヒーターで加熱させることで得られた、厚み3.5mm、密度32kg/m3であるシート状の発泡体。」(以下、「甲A3比較例1発明」という。) イ 対比・判断 (ア) 本件発明1について 本件発明1と甲A3実施例1発明とを対比する。 甲A3実施例1発明の「シート状の発泡体」は「ポリエチレン」を主たる原料として作製されたものであるから、本件発明1の「ポリオレフィン系樹脂発泡体シート」に相当する。 そして、甲A3実施例1発明のシート状の発泡体はその性状が、厚み4.3mm、密度33kg/m3であるから、見かけ密度は0.033g/cm3であり、面密度は0.033×100cm×100cm×0.43cm=141.9g/m2と算出され、本件発明1の「面密度が5g/m2以上400g/m2以下」であるとの特定事項を満たす。 してみると、両者は、 「面密度が5g/m2以上400g/m2以下である、ポリオレフィン系樹脂発泡体シート。」 で一致し、次の点で相違する。 (相違点A3−1) ポリオレフィン系樹脂発泡体シートの見かけ密度に関し、本件発明1は、「0.025g/cm3以下」と特定されるのに対し、甲A3実施例1発明は、「0.033g/cm3」である点。 (相違点A3−2) 本件発明1のポリオレフィン系樹脂発泡体シートは、「昇温速度10℃/分、測定温度23℃〜550℃にて測定した熱重量分析において、重量が90質量%から10質量%まで減少するのにかかる時間(t)が9分以上」である旨特定されるところ、甲A3実施例1発明にはそのような特定がない点。 上記相違点について検討する。 まず相違点A3−1について検討するに、本件発明1と甲A3実施例1発明は、見かけ密度の点で明らかに相違しているから、本件発明1は甲A3実施例1発明ではない。 また、甲A3実施例1発明において、見かけ密度を変更する動機付けもない。 なお、仮に、甲A3実施例1発明において見かけ密度を変更した場合、甲A3実施例1発明の「シート状の発泡体」における他の物性にも影響することとなるため、相違点A3−2に係る事項を満たすものであるのかどうかも明らかではないものとなる。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲A3実施例1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 なお、甲A3比較例1発明についても、甲A3実施例1発明と同様に判断される。 以下、甲A3実施例1発明及び甲A3比較例1発明を総称し、「甲A3発明」として検討を進める。 (イ) 本件発明2ないし8について 本件発明2ないし8はいずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものである。 そして、上記(ア)で検討のとおり、本件発明1と甲A3発明は同一ではなく、甲A3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明1の全ての特定事項を含む本件発明2ないし8についても同様に、甲A3発明と同一ではなく、甲A3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (ウ) 取消理由1−3及び取消理由2−3についてのまとめ 上記(ア)及び(イ)のとおりであるから、取消理由1−3及び取消理由2−3は、その理由がない。 (4) 取消理由1−4(甲A4号証を根拠とする新規性)及び取消理由2−4(甲A4号証を主引例とする進歩性)について ア 甲A4号証に記載された発明 甲A4号証の記載、特に実施例7の記載を中心に整理すると、甲A4号証には次の発明(以下、「甲A4発明」という。)が記載されていると認める。 「ポリオレフィン系樹脂(a)として、線状低密度ポリエチレン樹脂(MFR=9.0g/10min)50質量部、低密度ポリエチレン(MFR=3.5g/10min)50質量部、トリアゾール系化合物(b)として、(3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール)0.5質量部、難燃剤(c)として、エチレンビスペンタブロモジフェニル12質量部、発泡剤としてアゾジカルボンアミド(永和化成製 パンスレン)17質量部を添加して、170℃にて溶融混練し、シート状態に押出成型し、この発泡性シートに50kGyの電子線を照射して樹脂成分を架橋させ、220℃の横型亜硝酸ナトリウム塩浴上にて発泡させ、その発泡体の表面を純水で水洗して乾燥させて得られた、厚み5.2mm、密度34kg/m3、のポリオレフィン系樹脂架橋発泡体。」 イ 対比・判断 (ア) 本件発明1について 本件発明1と甲A4発明とを対比する。 甲A4発明の「ポリオレフィン系樹脂架橋発泡体」はシート状態に押出成型し、得られた「発泡性シート」を発泡させることで作製されたものであるから、本件発明1の「ポリオレフィン系樹脂発泡体シート」に相当する。 そして、甲A4発明のポリオレフィン系樹脂架橋発泡体はその性状が、厚み5.2mm、密度34kg/m3であるから、見かけ密度は0.034g/cm3であり、面密度は0.034×100cm×100cm×0.52cm=176.8g/m2と算出され、本件発明1の「面密度が5g/m2以上400g/m2以下」であるとの特定事項を満たす。 してみると、両者は、 「面密度が5g/m2以上400g/m2以下である、ポリオレフィン系樹脂発泡体シート。」 で一致し、次の点で相違する。 (相違点A4−1) ポリオレフィン系樹脂発泡体シートの見かけ密度に関し、本件発明1は、「0.025g/cm3以下」と特定されるのに対し、甲A4発明は、「0.034g/cm3」である点。 (相違点A4−2) 本件発明1のポリオレフィン系樹脂発泡体シートは、「昇温速度10℃/分、測定温度23℃〜550℃にて測定した熱重量分析において、重量が90質量%から10質量%まで減少するのにかかる時間(t)が9分以上」である旨特定されるところ、甲A4発明にはそのような特定がない点。 上記相違点について検討する。 まず相違点A4−1について検討するに、本件発明1と甲A4発明は、見かけ密度の点で明らかに相違しているから、本件発明1は甲A4発明ではない。 また、甲A4発明において、見かけ密度を変更する動機付けもない。 なお、仮に、甲A4発明において見かけ密度を変更した場合、甲A4発明の「ポリオレフィン系樹脂架橋発泡体」における他の物性にも影響することとなるため、相違点A4−2に係る事項を満たすものであるのかどうかも明らかではないものとなる。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲A4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (イ) 本件発明2ないし8について 本件発明2ないし8はいずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものである。 そして、上記(ア)で検討のとおり、本件発明1と甲A4発明は同一ではなく、甲A4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明1の全ての特定事項を含む本件発明2ないし8についても同様に、甲A4発明と同一ではなく、甲A4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (ウ) 取消理由1−4及び取消理由2−4についてのまとめ 上記(ア)及び(イ)のとおりであるから、取消理由1−4及び取消理由2−4は、その理由がない。 (5) 取消理由1−5(甲B1号証を根拠とする新規性)及び取消理由2−5(甲B1号証を主引例とする進歩性)について ア 甲B1号証の記載事項 甲B1号証には、「低煙難燃性発泡体の製造方法」に関し、次の記載がある。 「2.特許請求の範囲 酢酸ビニル含有量50〜80重量%の酢酸ビニル−エチレン共重合体単独もしくはこれに他の樹脂を配合した樹脂分100重量部に対して、水和金属酸化物50〜300重量部、ハロゲン系難燃剤5〜40重量部、及び発泡剤からなる組成物に、架橋剤を添加しこれを加熱して架橋発泡せしめるか、又は該組成物に電離性放射線を照射して架橋した後加熱発泡せしめることにより、低煙難燃性発泡体の製造方法。」(第1頁左下欄第4ないし13行) 「3.発明の詳細な説明 本発明は難燃性にしてかつ低煙性を有するプラスチック発泡体の製造方法に関するものである。」(第1頁左下欄第14ないし17行) 「本発明は、これらの欠点を改善せんとして鋭意研究を行った結果、可撓性、耐水性、熱加工性、耐候性などの点でポリエチレン発泡体のもつすぐれた特徴を保持すると共に「不燃材料」となる上で、最も大きな要件である上記時間温度面積(tdθ)と発煙係数(CA)との規定値を満足する新規発泡体の製造方法を提供するものである。即ち、本発明に、酢酸ビニル含有量50〜80重量%の酢酸ビニル−エチレン共重合体単独もしくはこれに他の樹脂を配合した樹脂分100重量部に対して、水和金属酸化物粉末50〜300重量部、ハロゲン系難燃剤5〜40重量部、及び発泡剤からなる組成物に、更に架橋剤及び必要により架橋助剤を添加し混練成形したのち加熱して架橋発泡せしめるか、又は該組成物を混練成形したのち放射線照射した後加熱発泡せしめることにより、密度0.1〜0.01g/cm3を有する低煙性かつ難燃性の無機物高充てん樹脂発泡体の製造方法、である。」(第2頁左上欄第7行ないし同頁右上欄第5行) 「次に、本発明方法の構成について詳細に説明する。 本発明におけるポリマー成分は酢酸ビニル含有量が50〜80重量%の酢酸ビニル−エチレン共重合体単独もしくはこれに他の樹脂をブレンドしたものである。その分子量は190℃におけるメルトインデックスで0.01〜300の巾広い範囲のものが使える。また通常、その共重合体の密度は1.0g/cm3以上1.2g/cm3以下である。なお、酢酸ビニル含有量が55〜70%でメルトインデックスポリマー成分は酢酸ビニル−エチレン共重合体のみで構成されることもあるが、他の熱可塑性ポリマーを補助的にブレンドすることが好ましく、例えば、ポリエチレン、酢酸ビニル含有量が40%以下の結晶性のエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体等のエチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体等の一種もしくは二種以上をポリマー成分中の50重量%未満好ましくは10〜40重量%の範囲でブレンドする。その理由は、前記の酢酸ビニル−エチレン共重合体は非結晶性であるため、水和金属酸化物を多量に添加配合しても、極めて柔軟でかつ粘着性に富むため、ペレット化やシート状物のハンドリングに難点がある。上記のように、他の結晶性ポリマーをブレンドするとこの点が著しく改善される効果があるのである。 そして、特に、酢酸ビニル含有量15〜30重量%のエチレン−酢酸ビニル共重合体20〜40重量%とエチレン−酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体5〜30重量%の範囲内で前記酢酸ビニル−エチレン共重合体にブレンドする時発泡性能が特に改善されるのでこのような3元系ポリマーとすることが最も望ましい。 本発明にて使用する無機物は加熱により脱水して難燃化作用を示す水和金属酸化物を使用するものであり、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ハードクレー、タルク、マイカ、カオリンクレー、アスベスト、含水ケイ酸カルシウム、アタパルジャイト等である。これらは単独で用いられる場合だけでなく、2種以上の水和金属酸化物を併用する場合や水和金属酸化物以外の無機物粉末や木粉、モミガラ等の有機物粉末を併用することもある。 これらは通常、微粉末状態で用いるが繊維状態でも用いられる。繊維形態にて使用されるものは、例えば、エトリンガイト、ドーソナイト等である。微粉末の平均粒子径は、発泡倍率の点から、0.01〜20μの範囲のものが好ましく、0.05〜10μのものが最も好ましい。 またこれら無機物の添加量は、ポリマー成分100重量部に対して50〜300重量部、好ましくは70〜130重量部の範囲である。この上限値を越えると十分な倍率の発泡体とならず、また下限値に満たないと無機物添加の効果が発揮されず、発煙性と燃焼熱を低くすることができない。なお、本発明方法では、水和金属酸化物として特に水酸化アルミニウムを用いた場合、ポリマー成分の酢酸ビニル−エチレン共重合体との組み合わせによる相剰効果が発揮され、すぐれた難燃性を呈するので、水酸化アルミニウムが最も好ましいものである。 本発明にて使用される難燃剤としては、ハロゲン化芳香族系、ハロゲン化脂肪族・芳香族系及びハロゲン化脂環系等のハロゲン系難燃剤を使用するものであり、例えば、デカブロムディフェニールオキサイド、ヘキサブロムベンゼン、ファイヤーガード3000(帝人化成株式会社製品)、CITEX BT−93(米国CITIES SER-VICE COMPANY社製品)、デクロランプラス25(Hooker社製品)等である。その添加量はポリマー成分100重量部に対して5〜40重量部、好ましくは10〜30重量部である。特に、ブロム系難燃剤がすぐれており、デカブロムヂィフェニールオキサイド、ファイヤーガード3000、CITEX BT−93等中でもCITEX BT−93が最も効果的である。 また、これらの難燃剤に、難燃助剤として、三酸化アンチモン、ホウ酸亜鉛、赤リン等を併用してもよい。 これら難燃剤の添加量はポリマー成分100重量部に対して5〜50重量部好ましくは10〜30重量部である。 ハロゲン系難燃剤を添加すると一般的には難燃性が向上するが、発煙量が著しく増大してCA≦30にすることは不可能である。然しながら上記の如く水和金属酸化物を添加することにより発煙量を抑制し、前記の発煙係数(CA)をCA≦30にすることが可能となるのである。このように、水和金属酸化物とハロゲン系難燃剤とを併用することにより、はじめてCAとtdθを容易に低減せしめることができるのである。 また、発泡剤としては、例えばアゾジカルボンアミド、重炭酸ソーダ、ジニトロンペンタメチレンテトラミン、p,p'−オキシビスベンゼンスルフォニルヒドラジド等の化学分解型発泡剤を用いる。発泡剤の添加量をかえることにより発泡体の密度を巾広く制御できる。通常10〜50重量部添加する。発泡体密度は通常0.1〜0.02g/cm3の範囲である。 本発明においてはポリマーを架橋する手段として、化学架橋剤を用いる方法又は電離性放射線を照射する方法がある。化学架橋剤としては、通常用いられる各種のものを使用でき、例えば、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,3−ビス(tert−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン等である。その他いわゆるシラン架橋剤を用いることもできる。また電離性放射線としては、電子線、γ線、X線、中性子線があるが電子線が最も好ましく用いられる。好適照射線量は1〜5Mradの範囲である。 更に、本発明としては架橋効率を高めるため、多官能性モノマー等の架橋助剤を適宜併用することがある。例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、トリメチロールメタントリアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリアリールインシアヌレート等である。 その他、必要に応じて各種の添加剤、例えば酸化防止剤、着色剤、カーボンブラック、滑剤等の加工助剤、無機物の表面処理剤等を使用することがある。」(第2頁右下欄第15行ないし第4頁右上欄末行) 「本発明方法にて、建設省告示第1828号にて規定される試験にて「不燃材料」に規定されうる断熱鉄板用長尺発泡体シートを製造する場合には、発泡体の密度と発泡体シートの厚みに厳しい制約を加える必要がある。断熱性能の点から厚みは自から制限され通常3mm以下では意味がない。また厚さは組成と発泡倍率にもよるが、実験の結果では密度0.07〜0.03g/cm3の本発明発泡体で3〜6mmの厚みの発泡シート、より好ましくは0.06〜0.03g/cm3の密度で厚さ3〜5mmの発泡体シートを適用する必要があると判明している。」(第4頁右下欄第1ないし12行) 「次に本発明の実施例について説明する。(以下部とあるは何れも重量部を示す。) 実施例(1)〜(5),比較例(1)〜(2) 酢酸ビニル含有量61重量%、密度1.05g/cm3、メルトインデックス30〜50の酢酸ビニル−エチレン共重合体(大日本インキ株式会社製品、エバスレン450−P)100重量部(以下部と略記する。)、水酸化アルミニウム微粉末(昭和電工株式会社製品、ハイジライトH−42M)100部、発泡剤アゾジカルボンアミド(永和化成株式会社製品、ヴィニホールAC#1L)23部、表面処理剤としてイソプロピル−トリ(イソステアロイル)チタネート(米国Kenrich Petrochemical社製品、KEN − REACT TTS)3部、架橋剤としてジクミルパーオキサイド(三井石油化学株式会社製品)2部、架橋助剤としてトリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学株式会社製品)0.5部及び第1表に示したように、ブロム系難燃剤(帝人化成株式会社製品、ファイヤーガード3000)0〜40部、難燃助剤として三酸化アンチモン0〜20部の割合からなる組成物を、小型実験用バンバリーミキサーにて120℃の温度にて十分に混練し、厚さ2mmのシートにプレス成形した。このシートを200℃の空気恒温槽に15分間おきとり出したところ高倍率に発泡したシートが得られた。これをスライサーにて厚さ約4mmにスライスして、片面のみに表皮を有する試料を得た。この発泡体試片を22cm×22cmのサイズに切断し、同サイズの厚さ3mmの亜鉛鉄板に加熱貼合した。 斯くしてえた試料片をJISA−1321−1975に規定する方法により表面試験を行い、燃焼時の発熱量の指標となる時間温度面積(tdθ)と発煙量の指標となる発煙係数(CA)とが、不燃材料として規定する数値即ちtdθ=0,CA>30をみたしているか否かを測定した。その結果は第1表に示す通りである。 なお発泡体の密度及び厚さについても該表に併記した。 」 (第4頁右下欄第13行ないし第5頁左下欄末行) 「実施例(6)〜(8) ハイジライトM(水酸化アルミニウム)の添加量を80部(実施例6)、100部(実施例7)及130部(実施例8)にとした以外はすべて実施例(1)と同様にして発泡体を製造し、その片面に厚さ3mmの亜鉛鉄板に加熱貼着したものについて難燃性を測定した。 その結果は何れもtdθ=0,CA<30の値を有し、不燃材料として十分使用可能であることを示した。 実施例(9)〜(12) 第2表に示す組成にジクミルパーオキサイド3部、トリメチロールプロパントリアクリレート0.3部、イソプロピル−トリイソステアロイルチタネート3部及びステアリン酸亜鉛1部を夫々添加した組成物を実施例(1)と同様の方法により発泡体を製造し、その片面に厚さ3mmの亜鉛鉄板を加熱貼着したものについてJISA−1321−1975の方法に基き難燃性を測定した。 その結果に第2表に併記した通りであり、tdθ=0,CA<30の値を有し、不燃材料として十分使用可能であることを示した。 」 (第5頁右下欄第8行ないし第6頁右上欄末行) イ 甲B1号証に記載された発明 甲B1号証の記載、特に実施例3及び11の記載を中心に整理すると、甲B1号証には次の発明が記載されていると認める。 「酢酸ビニル含有量61重量%、密度1.05g/cm3、メルトインデックス30〜50の酢酸ビニル−エチレン共重合体(大日本インキ株式会社製品、エバスレン450−P)100重量部(以下部と略記する。)、水酸化アルミニウム微粉末(昭和電工株式会社製品、ハイジライトH−42M)80部、発泡剤アゾジカルボンアミド(永和化成株式会社製品、ヴィニホールAC#1L)23部、表面処理剤としてイソプロピル−トリ(イソステアロイル)チタネート(米国Kenrich Petrochemical社製品、KEN − REACT TTS)3部、架橋剤としてジクミルパーオキサイド(三井石油化学株式会社製品)2部、架橋助剤としてトリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学株式会社製品)0.5部、ブロム系難燃剤(帝人化成株式会社製品、ファイヤーガード3000)20部、難燃助剤として三酸化アンチモン7部からなる組成物を、小型実験用バンバリーミキサーにて120℃の温度にて十分に混練し、厚さ2mmのシートにプレス成形し、このシートを200℃の空気恒温槽に15分間おきとり出し得られた、厚さ4.2mm、密度0.035g/cm3の発泡したシート。」(以下、「甲B1実施例3発明」という。) 「酢酸ビニル含有量61重量%、密度1.05g/cm3、メルトインデックス30〜50の酢酸ビニル−エチレン共重合体(大日本インキ株式会社製品、エバスレン450−P)100重量部(以下部と略記する。)、エチレン−酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体(日本ゼオン株式会社製品、グラフトマーR−5)50部、水酸化アルミニウム微粉末(昭和電工株式会社製品、ハイジライトH−42M)100部、発泡剤アゾジカルボンアミド(永和化成株式会社製品、ヴィニホールAC#1L)44部、表面処理剤としてイソプロピル−トリイソステアロイルチタネート(米国Kenrich Petrochemical社製品、KEN − REACT TTS)3部、架橋剤としてジクミルパーオキサイド(三井石油化学株式会社製品)3部、架橋助剤とトリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学株式会社製品)0.3部、難燃剤(CITIES SER-VICE COMPANY社製品、CITEX BT−93)30部、難燃助剤として三酸化アンチモン21部、ステアリン酸亜鉛1部からなる組成物を、小型実験用バンバリーミキサーにて120℃の温度にて十分に混練し、厚さ2mmのシートにプレス成形し、このシートを200℃の空気恒温槽に15分間おきとり出し得られた、厚さ4.5mm、密度0.035g/cm3の発泡したシート。」(以下、「甲B1実施例11発明」という。) ウ 対比・判断 (ア) 本件発明1について 本件発明1と甲B1実施例3発明とを対比する。 甲B1実施例3発明の「発泡したシート」は、「酢酸ビニル−エチレン共重合体」を原料とし作製されたものであるから、本件発明1の「ポリオレフィン系樹脂発泡体シート」に相当する。 そして、甲B1実施例3発明の発泡したシートはその性状が、厚さ4.2mm、密度0.035g/cm3であるから、見かけ密度は0.035g/cm3であり、面密度は0.035×100cm×100cm×0.42cm=147g/m2と算出され、本件発明1の「面密度が5g/m2以上400g/m2以下」であるとの特定事項を満たす。 してみると、両者は、 「面密度が5g/m2以上400g/m2以下である、ポリオレフィン系樹脂発泡体シート。」 で一致し、次の点で相違する。 (相違点B1−1) ポリオレフィン系樹脂発泡体シートの見かけ密度に関し、本件発明1は、「0.025g/cm3以下」と特定されるのに対し、甲B1実施例3発明は、「0.035g/cm3」である点。 (相違点B1−2) 本件発明1のポリオレフィン系樹脂発泡体シートは、「昇温速度10℃/分、測定温度23℃〜550℃にて測定した熱重量分析において、重量が90質量%から10質量%まで減少するのにかかる時間(t)が9分以上」である旨特定されるところ、甲B1実施例3発明にはそのような特定がない点。 上記相違点について検討する。 まず相違点B1−1について検討するに、本件発明1と甲B1実施例3発明は、見かけ密度の点で明らかに相違しているから、本件発明1は甲B1実施例3発明ではない。 また、甲B1実施例3発明において、見かけ密度を変更する動機付けもない。 なお、仮に、甲B1実施例3発明において見かけ密度を変更した場合、甲B1実施例3発明の「発泡したシート」における他の物性にも影響することとなるため、相違点B1−2に係る事項を満たすものであるのかどうかも明らかではないものとなる。 特許異議申立人Bは、令和4年3月9日提出の意見書において、甲B1号証には、「密度0.1〜0.01g/cm3」と、見かけ密度が本件発明1と重複する範囲の記載があることをあげ、甲B1実施例3発明において、見かけ密度を変更し、本件発明1の特定事項を満たすことは当業者が容易になし得ることである旨主張する。 しかしながら、上述のとおり、甲B1実施例3発明において見かけ密度を変更することは、「発泡したシート」の組成そのものを変更することにつながり、他の物性にも影響することであり、その場合、相違点B1−2の点を満たすものであるかどうか不明となる。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲B1実施例3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 なお、甲B1実施例11発明についても、甲B1実施例3発明と同様に判断される。 以下、甲B1実施例3発明及び甲B1実施例11発明を総称し、「甲B1発明」として検討を進める。 (イ) 本件発明2ないし8について 本件発明2ないし8はいずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものである。 そして、上記(ア)で検討のとおり、本件発明1と甲B1発明は同一ではなく、甲B1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明1の全ての特定事項を含む本件発明2ないし8についても同様に、甲B1発明と同一ではなく、甲B1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (ウ) 取消理由1−5及び取消理由2−5についてのまとめ 上記(ア)及び(イ)のとおりであるから、取消理由1−5及び取消理由2−5は、その理由がない。 (6) 取消理由1−6(甲B2号証を根拠とする新規性)及び取消理由2−6(甲B2号証を主引例とする進歩性)について ア 甲B2号証に記載された発明 甲B2号証の記載、特に実施例6及び比較例13ないし15の記載を中心に整理すると、甲B2号証には次の発明が記載されていると認める。 「酸ビニル含有量25%のエチレン−酢酸ビニル共重合体(三井ポリケミカル株式会社製品:EVAFLEX360)60部と酢酸ビニル含有量61%のエチレン−酢酸ビニル共重合体(大日本インキ化学工業株式会社製品:EVATHLENE450−P)を40部含む樹脂成分100部に対して、水酸化アルミニウム粉末(昭和電工株式会社製品:ハイジライト H−42M)70部、発泡剤アゾジカルボンアミド(永和化成株式会社製品;ヴイニホールAC♯IL)25部、架橋剤ジクミルパーオキサイド(三井石油化学株式会社製品)1.0部及び多官能モノマ−としてトリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学株式会社製品:A−TMPT)を1.0部だけ添加し、さらにチタネート系カップリング剤(Ken Rich Petrochemical社製品:KEN−REACT TTS)3部とステアリン酸カルシウム(試薬)1部の割合からなる混合物を、プラペンダープラストクラフにて120℃の温度で十分に混練して発泡性組成物を得、これを温度120℃の熱プレスにて成形して厚さ2mmの発泡性シートとし、上記発泡性シート小片をシリカゲルを乾燥剤とする大型デシケーター中に3日間置き脱湿処理した後、220℃に加熱した熱風恒温槽中にて6分間加熱して発泡して得られた、密度0.033g/cm3の発泡体。」(以下、「甲B2実施例6発明」という。) 「酸ビニル含有量25%のエチレン−酢酸ビニル共重合体(三井ポリケミカル株式会社製品:EVAFLEX360)40部と酢酸ビニル含有量61%のエチレン−酢酸ビニル共重合体(大日本インキ化学工業株式会社製品:EVATHLENE450−P)を60部含む樹脂成分100部に対して、発泡剤アゾジカルボンアミド(永和化成株式会社製品;ヴイニホールAC♯IL)25部、架橋剤ジクミルパーオキサイド(三井石油化学株式会社製品)1.5部及び多官能モノマ−としてトリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学株式会社製品:A−TMPT)を0.75部だけ添加し、難燃剤としてデカブロモデイフエニールエーテル(東洋ソーダ株式会社製品:DBDEと略す)25部、酸化アンチモン12.5部、さらにステアリン酸カルシウム(試薬)1部の割合からなる混合物を、BRABENDER PLA−STOGRAPHを用いて混練しホツトプレスにてシート成形した後、シリカゲル乾燥剤入りデシケーター中に3日間置き脱湿し、その後、熱風恒温槽を用い、220℃×6分の加熱を加えて得た、発泡体密度が0.0294g/cm3の発泡体。」(以下、「甲B2比較例13発明」という。) 「酸ビニル含有量25%のエチレン−酢酸ビニル共重合体(三井ポリケミカル株式会社製品:EVAFLEX360)40部と酢酸ビニル含有量61%のエチレン−酢酸ビニル共重合体(大日本インキ化学工業株式会社製品:EVATHLENE450−P)を60部含む樹脂成分100部に対して、水酸化アルミニウム粉末(昭和電工株式会社製品:ハイジライト H−42M)20部、発泡剤アゾジカルボンアミド(永和化成株式会社製品;ヴイニホールAC♯IL)25部、架橋剤ジクミルパーオキサイド(三井石油化学株式会社製品)1.5部及び多官能モノマ−としてトリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学株式会社製品:A−TMPT)を0.75部だけ添加し、難燃剤としてデカブロモデイフエニールエーテル(東洋ソーダ株式会社製品:DBDEと略す)25部、酸化アンチモン12.5部、さらにチタネート系カップリング剤(Ken Rich Petrochemical社製品:KEN−REACT TTS)0.6部とステアリン酸カルシウム(試薬)1部の割合からなる混合物を、BRABENDER PLA−STOGRAPHを用いて混練しホツトプレスにてシート成形した後、シリカゲル乾燥剤入りデシケーター中に3日間置き脱湿し、その後、熱風恒温槽を用い、220℃×6分の加熱を加えて得た、発泡体密度が0.0314g/cm3の発泡体。」(以下、「甲B2比較例14発明」という。) 「酸ビニル含有量25%のエチレン−酢酸ビニル共重合体(三井ポリケミカル株式会社製品:EVAFLEX360)40部と酢酸ビニル含有量61%のエチレン−酢酸ビニル共重合体(大日本インキ化学工業株式会社製品:EVATHLENE450−P)を60部含む樹脂成分100部に対して、水酸化アルミニウム粉末(昭和電工株式会社製品:ハイジライト H−42M)20部、発泡剤アゾジカルボンアミド(永和化成株式会社製品;ヴイニホールAC♯IL)25部、架橋剤ジクミルパーオキサイド(三井石油化学株式会社製品)1.5部及び多官能モノマ−としてトリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学株式会社製品:A−TMPT)を0.75部だけ添加し、難燃剤としてデカブロモデイフエニールエーテル(東洋ソーダ株式会社製品:DBDEと略す)25部、酸化アンチモン12.5部、さらにチタネート系カップリング剤(Ken Rich Petrochemical社製品:KEN−REACT TTS)1.2部とステアリン酸カルシウム(試薬)1部の割合からなる混合物を、BRABENDER PLA−STOGRAPHを用いて混練しホツトプレスにてシート成形した後、シリカゲル乾燥剤入りデシケーター中に3日間置き脱湿し、その後、熱風恒温槽を用い、220℃×6分の加熱を加えて得た、発泡体密度が0.0329g/cm3の発泡体。」(以下、「甲B2比較例15発明」という。) イ 対比・判断 (ア) 本件発明1について 本件発明1と甲B2実施例6発明とを対比する。 甲B2実施例6発明の「発泡体」は、「エチレン−酢酸ビニル共重合体」を原料とし、発泡性シートとした後、加熱発泡により作製されたものであるから、本件発明1の「ポリオレフィン系樹脂発泡体シート」に相当する。 そして、甲B2実施例6発明の発泡体はその性状が、密度0.033g/cm3であり、他の例と同様に厚さ2mmの発泡性シートを33.0倍に発泡させたものであるから、見かけ密度は0.033g/cm3であり、厚みは、発泡性シートが均一に発泡した場合、3√(33.0)×2mmでおよそ6.42mmと算出される。すると、面密度は0.033×100cm×100cm×0.642cm≒211.9g/m2と算出され、本件発明1の「面密度が5g/m2以上400g/m2以下」であるとの特定事項を満たす。 してみると、両者は、 「面密度が5g/m2以上400g/m2以下である、ポリオレフィン系樹脂発泡体シート。」 で一致し、次の点で相違する。 (相違点B2−1) ポリオレフィン系樹脂発泡体シートの見かけ密度に関し、本件発明1は、「0.025g/cm3以下」と特定されるのに対し、甲B2実施例6発明は、「0.033g/cm3」である点。 (相違点B2−2) 本件発明1のポリオレフィン系樹脂発泡体シートは、「昇温速度10℃/分、測定温度23℃〜550℃にて測定した熱重量分析において、重量が90質量%から10質量%まで減少するのにかかる時間(t)が9分以上」である旨特定されるところ、甲B2実施例6発明にはそのような特定がない点。 上記相違点について検討する。 まず相違点B2−1について検討するに、本件発明1と甲B2実施例6発明は、見かけ密度の点で明らかに相違しているから、本件発明1は甲B2実施例6発明ではない。 また、甲B2実施例6発明において、見かけ密度を変更する動機付けもない。 なお、仮に、甲B2実施例6発明において見かけ密度を変更した場合、甲B2実施例6発明の「発泡体」における他の物性にも影響することとなるため、相違点B2−2に係る事項を満たすものであるのかどうかも明らかではないものとなる。 特許異議申立人Bは、令和4年3月9日提出の意見書において、甲B2号証には、「発泡倍率25〜60倍」とすると記載されているから、仮に発泡倍率50倍であれば、見かけ密度について相違点B2−1に係る本件発明1の特定事項を満たす蓋然性が高い旨主張する。 しかしながら、甲B2実施例6発明において、その製造条件である発泡倍率を変更する動機付けがあるとはいえない。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲B2実施例6発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 なお、甲B2比較例13発明ないし甲B2比較例15発明についても、甲B2実施理絵6発明と同様に判断される。 以下、甲B2実施例6発明及び甲B2比較例13発明ないし甲B2比較例15発明を総称し、「甲B2発明」として検討を進める。 (イ) 本件発明2ないし8について 本件発明2ないし8はいずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものである。 そして、上記(ア)で検討のとおり、本件発明1と甲B2発明は同一ではなく、甲B2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明1の全ての特定事項を含む本件発明2ないし8についても同様に、甲B2発明と同一ではなく、甲B2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (ウ) 取消理由1−6及び取消理由2−6についてのまとめ 上記(ア)及び(イ)のとおりであるから、取消理由1−6及び取消理由2−6は、その理由がない。 (7) 取消理由1−7(甲B3号証を根拠とする新規性)及び取消理由2−7(甲B3号証を主引例とする進歩性)について ア 甲B3号証に記載された発明 甲B3号証の記載、特に実施例1、3及び比較例の記載を中心に整理すると、甲B3号証には次の発明が記載されていると認める。 「密度0.905g/cm3及びMI 10g/minの超低密度ポリエチレンVLDPE(住友化学製のエクセレン VL 700)100重量部、水酸化アルミニウム微粉末(昭和軽金属製のハイジライト H-42M)50重量部、アゾジカルボンアミド25重量部、デカブロムジフェニルエーテル20重量部、三酸化アンチモン5重量部及びフェノール系抗酸化剤1重量部から成る組成物を、100〜125℃に温度調節されたミキシングロールで混練し、120℃で厚さ1.5mmのシートにプレス成形し、このシートを電子線加速機を用いて吸収線量が5Mradになるように照射し、次いで、このシートを230℃に温度調節された熱風乾燥機に入れて発泡させ得られた、厚み5.51mm、発泡体の密度0.031g/cm3の発泡体シート。」(以下、「甲B3実施例1発明」という。) 「密度0.905g/cm3及びMI 10g/minの超低密度ポリエチレンVLDPE(住友化学製のエクセレン VL 700)100重量部、水酸化アルミニウム微粉末(昭和軽金属製のハイジライト H-42M)80重量部、アゾジカルボンアミド25重量部、デカブロムジフェニルエーテル20重量部、三酸化アンチモン5重量部及びフェノール系抗酸化剤1重量部から成る組成物を、100〜125℃に温度調節されたミキシングロールで混練し、120℃で厚さ1.5mmのシートにプレス成形し、このシートを電子線加速機を用いて吸収線量が5Mradになるように照射し、次いで、このシートを230℃に温度調節された熱風乾燥機に入れて発泡させ得られた、厚み4.2mm、発泡体の密度0.035g/cm3の発泡体シート。」(以下、「甲B3実施例3発明」という。) 「エチレン−酢酸ビニル共重合体VEA(酢酸ビニルVA含量20%、三井ポリケミカル製のエバフレックス460)100重量部、水酸化アルミニウム微粉末(昭和軽金属製のハイジライト H-42M)80重量部、アゾジカルボンアミド25重量部、デカブロムジフェニルエーテル20重量部、三酸化アンチモン5重量部及びフェノール系抗酸化剤1重量部から成る組成物を、100〜125℃に温度調節されたミキシングロールで混練し、120℃で厚さ1.5mmのシートにプレス成形し、このシートを電子線加速機を用いて吸収線量が5Mradになるように照射し、次いで、このシートを230℃に温度調節された熱風乾燥機に入れて発泡させ得られた、厚み4.2mm、発泡体の密度0.035g/cm3の発泡体シート。」(以下、「甲B3比較例発明」という。) イ 対比・判断 (ア) 本件発明1について 本件発明1と甲B3実施例1発明とを対比する。 甲B3実施例1発明の「発泡体シート」は、「超低密度ポリエチレン」を原料とし、作製されたものであるから、本件発明1の「ポリオレフィン系樹脂発泡体シート」に相当する。 そして、甲B3実施例1発明の発泡体シートはその性状が、厚み5.51mm、発泡体の密度0.031g/cm3であるから、見かけ密度は0.031g/cm3であり、面密度は0.031×100cm×100cm×0.551cm≒170.8g/m2と算出され、本件発明1の「面密度が5g/m2以上400g/m2以下」であるとの特定事項を満たす。 してみると、両者は、 「面密度が5g/m2以上400g/m2以下である、ポリオレフィン系樹脂発泡体シート。」 で一致し、次の点で相違する。 (相違点B3−1) ポリオレフィン系樹脂発泡体シートの見かけ密度に関し、本件発明1は、「0.025g/cm3以下」と特定されるのに対し、甲B3実施例1発明は、「0.031g/cm3」である点。 (相違点B3−2) 本件発明1のポリオレフィン系樹脂発泡体シートは、「昇温速度10℃/分、測定温度23℃〜550℃にて測定した熱重量分析において、重量が90質量%から10質量%まで減少するのにかかる時間(t)が9分以上」である旨特定されるところ、甲B3実施例1発明にはそのような特定がない点。 上記相違点について検討する。 まず相違点B3−1について検討するに、本件発明1と甲B3実施例1発明は、見かけ密度の点で明らかに相違しているから、本件発明1は甲B3実施例1発明ではない。 また、甲B3実施例1発明において、見かけ密度を変更する動機付けもない。 なお、仮に、甲B3実施例1発明において見かけ密度を変更した場合、甲B3実施例1発明の「発泡体シート」における他の物性にも影響することとなるため、相違点B3−2に係る事項を満たすものであるのかどうかも明らかではないものとなる。 特許異議申立人Bは、令和4年3月9日提出の意見書において、甲B3号証には、「密度0.1〜0.02g/cm3」と、見かけ密度が本件発明1と重複する範囲の記載があることをあげ、甲B3実施例1発明において、見かけ密度を変更し、本件発明1の特定事項を満たすことは当業者が容易になし得ることである旨主張する。 しかしながら、上述のとおり、甲B3実施例1発明において見かけ密度を変更することは、「発泡体シート」の組成そのものを変更することにつながり、他の物性にも影響することであり、その場合、相違点B3−2の点を満たすものであるかどうか不明となる。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲B3実施例1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 なお、甲B3実施例3発明、甲B3比較例発明についても、甲B3実施例1発明と同様に判断される。 以下、甲B3実施例1発明、甲B3実施例3発明及び甲B2比較例発明を総称し、「甲B3発明」として検討を進める。 (イ) 本件発明2ないし8について 本件発明2ないし8はいずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものである。 そして、上記(ア)で検討のとおり、本件発明1と甲B3発明は同一ではなく、甲B3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明1の全ての特定事項を含む本件発明2ないし8についても同様に、甲B3発明と同一ではなく、甲B3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (ウ) 取消理由1−7及び取消理由2−7についてのまとめ 上記(ア)及び(イ)のとおりであるから、取消理由1−7及び取消理由2−7は、その理由がない。 (8) 取消理由1−8(甲B4号証を根拠とする新規性)及び取消理由2−8(甲B4号証を主引例とする進歩性)について ア 甲B4号証に記載された発明 甲B4号証の記載、特に実施例12の記載を中心に整理すると、甲B4号証には次の発明が記載されていると認める。 「ポリプロピレン系樹脂(MI=0.5、mp=150℃、ランダム)70重量部、ポリエチレン系樹脂(MI=2.0、mp=120℃、密度=0.920g/cm3)30重量部、ジビニルベンゼン3重量部、アゾジカルボンアミド10重量部、難燃剤として、エチレンビスペンタブロモジフェニル10重量部、及び三酸化アンチモン2.5重量部を均一に混合し、直径100mmφ、L/D=21の異方向2軸押出機を用いて、樹脂温度180℃で押し出してシートを得、このシートに3Mradの電子線を照射して架橋させた後、290℃の熱風オーブン中に入れて発泡させ得られた、厚み2.5mm、発泡倍率25倍の発泡体。」(以下、「甲B4実施例12発明」という。) なお、実施例1ないし9についてもそれぞれ、実施例12と同様に、「甲B4実施例1発明」ないし「甲B4実施例9発明」が記載されていると認める。 イ 対比・判断 (ア) 本件発明1について 本件発明1と甲B4実施例12発明とを対比する。 甲B4実施例12発明の「発泡体」は、「ポリプロピレン系樹脂」と「ポリエチレン系樹脂」を原料とし、シートに成形し、加熱発泡させることで作製されたものであるから、本件発明1の「ポリオレフィン系樹脂発泡体シート」に相当する。 してみると、両者は、「ポリオレフィン系樹脂発泡シート」で一致し、次の点で相違する。 (相違点B4−1) 本件発明1のポリオレフィン系樹脂発泡体シートは、「面密度が5g/m2以上400g/m2以下であり、見かけ密度が0.025g/cm3以下」である旨特定されるところ、甲B4実施例12発明にはそのような特定がない点。 (相違点B4−2) 本件発明1のポリオレフィン系樹脂発泡体シートは、「昇温速度10℃/分、測定温度23℃〜550℃にて測定した熱重量分析において、重量が90質量%から10質量%まで減少するのにかかる時間(t)が9分以上」である旨特定されるところ、甲B4実施例12発明にはそのような特定がない点。 上記相違点について検討する。 まず、相違点B4−1について検討するに、甲B4実施例12発明において、発泡体を構成する原料のうち、30重両部を占めるポリエチレン系樹脂の密度は0.920g/cm3であるが、70重量部を占めるポリプロピレン系樹脂の密度は明らかではない。ここで、仮にポリプロピレンの密度を0.855g/cm3と仮定すれば、甲B4実施例12発明の発泡倍率25倍の発泡体の見かけ密度はおおむね0.035g/cm3と算出される。 よって、相違点B4−1は実質的にも相違点であるから、本件発明1は甲B4実施例12発明ではない。 また、甲B4実施例12発明において、見かけ密度を変更する動機付けもない。 なお、仮に、甲B4実施例12発明において見かけ密度を変更した場合、甲B4実施例12発明の「発泡体シート」における他の物性にも影響することとなるため、相違点B4−2に係る事項を満たすものであるのかどうかも明らかではないものとなる。 特許異議申立人Bは、令和4年3月9日提出の意見書において、甲B4号証において、アゾジカルボンアミドの量を調整するなどにより、見かけ密度を調整することは容易である旨主張するが、甲B4実施例12発明において、あえて、その原料組成も含め調整する動機があるとはいえない。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲B4実施例12発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 なお、甲B4実施例1発明ないし甲B4実施例9発明についても、甲B4実施例12発明と同様に判断される。 以下、甲B4実施例1発明ないし甲B4実施例9発明及び甲B4実施例12発明を総称し、「甲B4発明」として検討を進める。 (イ) 本件発明2ないし8について 本件発明2ないし8はいずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものである。 そして、上記(ア)で検討のとおり、本件発明1と甲B4発明は同一ではなく、甲B4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明1の全ての特定事項を含む本件発明2ないし8についても同様に、甲B4発明と同一ではなく、甲B4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (ウ) 取消理由1−8及び取消理由2−8についてのまとめ 上記(ア)及び(イ)のとおりであるから、取消理由1−8及び取消理由2−8は、その理由がない。 (9) 取消理由1−9(甲B5号証を根拠とする新規性)及び取消理由2−9(甲B5号証を主引例とする進歩性)について ア 甲B5号証に記載された発明 甲B5号証の記載、特に実施例1の記載を中心に整理すると、甲B10号証には次の発明が記載されていると認める。 「ポリプロピレン樹脂(MI:2.8、融点:150℃)80重量部、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(MI:3.0、密度:0.930)20重量部、架橋助剤として1、9−ノナンジオールジメタクリレート2.0重量部、トリメチロールプロパントリメタクリレート1.0重量部、発泡剤としてアゾジカルボンアミド12重量部、さらに酸化防止剤として2.6―ジ−t−ブチル−p−クレゾール0.3重量部、ジラウリルチオプロピオネート0.3重量部、金属害防止剤としてメチルベンゾトリアゾール0.5重量部、難燃剤として1、2−ビス(ペンタブロモフェニル)エタン1.67重量部、平均粒子径0.5μmの三酸化アンチモン0.33重量部を、2軸押出機を用いて、190℃で溶融混練押出し厚さ1.3mmの連続シートを得、得られたシートに加速電圧700kvで電子線を2.0Mrad照射して架橋させ、さらに、その連続シートを熱風及び赤外線ヒーターを備えた縦型発泡熱風発泡炉で250℃に加熱し連続的に発泡させて得られた、厚み2.52mm、発泡倍率30.2倍の発泡体。」(以下、「甲B5実施例1発明」という。) なお、実施例2ないし6についてもそれぞれ、実施例1と同様に、「甲B5実施例2発明」ないし「甲B5実施例6発明」が記載されていると認める。 イ 対比・判断 (ア) 本件発明1について 本件発明1と甲B5実施例1発明とを対比する。 甲B5実施例1発明の「発泡体」は、「ポリプロピレン樹脂」と「ポリエチレン樹脂」を原料とし、シートに成形し、加熱発泡させることで作製されたものであるから、本件発明1の「ポリオレフィン系樹脂発泡体シート」に相当する。 してみると、両者は、「ポリオレフィン系樹脂発泡シート」で一致し、次の点で相違する。 (相違点B5−1) 本件発明1のポリオレフィン系樹脂発泡体シートは、「面密度が5g/m2以上400g/m2以下であり、見かけ密度が0.035g/cm3以下」である旨特定されるところ、甲B5実施例1発明にはそのような特定がない点。 (相違点B5−2) 本件発明1のポリオレフィン系樹脂発泡体シートは、「昇温速度10℃/分、測定温度23℃〜550℃にて測定した熱重量分析において、重量が90質量%から10質量%まで減少するのにかかる時間(t)が9分以上」である旨特定されるところ、甲B5実施例1発明にはそのような特定がない点。 上記相違点について検討する。 まず、相違点B5−1について検討するに、甲B5号証の段落【0020】には、発泡倍率は、発泡体の密度を測定し、その逆数を発泡倍率とした旨の記載がある。 してみると、甲B5実施例1発明の発泡体の密度は、およそ0.033g/cm3と算出される。 よって、相違点B5−1は実質的にも相違点であるから、本件発明1は甲B5実施例1発明ではない。 また、甲B5実施例1発明において、見かけ密度を変更する動機付けもない。 なお、仮に、甲B5実施例1発明において見かけ密度を変更した場合、甲B5実施例1発明の「発泡体」における他の物性にも影響することとなるため、相違点B5−2に係る事項を満たすものであるのかどうかも明らかではないものとなる。 特許異議申立人Bは、令和4年3月9日提出の意見書において、甲B5号証において、高い発泡倍率を所望し、アゾジカルボンアミドの量を調整するなどにより、見かけ密度を調整することは容易である旨主張するが、甲B5実施例1発明において、あえて、その原料組成も含め調整する動機があるとはいえない。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲B5実施例1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 なお、甲B5実施例2発明ないし甲B5実施例6発明についても、甲B5実施例1発明と同様に判断される。 以下、甲B5実施例1発明ないし甲B5実施例6発明を総称し、「甲B5発明」として検討を進める。 (イ) 本件発明2ないし8について 本件発明2ないし8はいずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものである。 そして、上記(ア)で検討のとおり、本件発明1と甲B5発明は同一ではなく、甲B5発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明1の全ての特定事項を含む本件発明2ないし8についても同様に、甲B5発明と同一ではなく、甲B5発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (ウ) 取消理由1−9及び取消理由2−9についてのまとめ 上記(ア)及び(イ)のとおりであるから、取消理由1−9及び取消理由2−9は、その理由がない。 (10) 取消理由3(明確性要件)について ア 判断 本件発明1及び8ではそれぞれ、熱重量分析の結果に基づく特定がなされているが、本件特許明細書の記載、特に熱重量分析に関する段落【0057】、【0061】の記載を見ても、分析雰囲気などの条件について何ら記載されていない。 しかしながら、当該技術分野において、樹脂材料の熱重量分析に関する規格として、「JIS K7120−1987 プラスチックの熱重量測定方法」が知られており、ここでは、測定雰囲気として「乾燥空気」を用いることとされる。 してみると、本件特許の出願時における技術常識を加味すれば、本件発明1及び8で特定するところの、「熱重量分析」における測定雰囲気は、「JIS K7120−1987 プラスチックの熱重量測定方法」と同じく「乾燥空気」で行っているものと解するのが相当である。 なお、特許異議申立人Bは意見書において縷々述べるが、いずれも上記判断に影響するものではない。 よって、本件発明1及び8は、明確ではないとまではいえない。 請求項1の記載を直接又は間接的に引用する本件発明2ないし8についても同様である。 イ 取消理由3についてのまとめ 上記アのとおりであるから、取消理由3は、その理由がない。 2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 取消理由通知において採用されなかった特許異議申立理由は、申立理由B1−2、B4及びB5である。 以下、順に検討する。 (1) 申立理由B1−2について 本件発明1は、「面密度が5g/m2以上400g/m2以下であり、見かけ密度が0.025g/cm3以下であり、昇温速度10℃/分、測定温度23℃〜550℃にて測定した熱重量分析において、重量が90質量%から10質量%まで減少するのにかかる時間(t)が9分以上である、ポリオレフィン系樹脂発泡体シート。」であり、各特定事項が示す範囲も含め明確である。 なお、特許異議申立人Bは実施例によっては、測定温度23℃〜550℃にて測定した熱重量分析において、重量が10質量%まで達していない例があることをもって、「昇温速度10℃/分、測定温度23℃〜550℃にて測定した熱重量分析において、重量が90質量%から10質量%まで減少するのにかかる時間(t)が9分以上」との特定事項を満たさないものと主張するが、当該熱重量分析において、重量が10質量%まで減少しないのであれば、通常、かかる時間が「9分以上」に含まれることは、当業者であれば当然認識できることである。 よって、申立理由B1−2は、その理由がない。 (2) 申立理由B4について 本件発明1ないし8について、本件特許の明細書には、発泡体シートに用いられる材料(【0016】ないし【0044】)、発泡体シートの製造方法(【0045】ないし【0050】)が記載されており、その実施例、各物性の測定法について(【0054】ないし【0067】)の記載もある。 してみれば、本件特許の明細書には、本件発明1ないし8について実施できる程度に記載されているものといえる。 なお、特許異議申立人Bは、実施例・比較例の個々のデータを取りあげつつ、要するにデータのつじつまが合わない旨主張するが、当該主張は上記判断に何ら影響を与えるものではない。 よって、申立理由B4は、その理由がない。 (3) 申立理由B5について 本件発明は、「軽量性を維持しつつ、高い難燃性を有するポリオレフィン系樹脂発泡体シートを提供する」ことを課題とする(【0005】)ものであり、本件特許の明細書の【0008】ないし【0010】、【0012】、実施例の記載をみるに、ポリオレフィン系樹脂発泡体シートが、「面密度が5g/m2以上400g/m2以下」、「見かけ密度が0.035g/cm3以下」、「昇温速度10℃/分、測定温度23℃〜550℃にて測定した熱重量分析において、重量が90質量%から10質量%まで減少するのにかかる時間(t)が9分以上」であれば、本件発明の課題を解決するものと認識できる。 そして、本件発明1ないし8はこれらの特定事項を全て有するものであるといえるから、本件発明1ないし8は、本件発明の課題を解決するものといえる。 なお、特許異議申立人Bは申立理由B4と同様の主張をするが、当該主張は上記判断に何ら影響を与えるものではない。 よって、申立理由B5は、その理由がない。 第7 結語 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、特許異議申立人Aが特許異議申立書に記載した特許異議申立理由及び特許異議申立人Bが特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 面密度が5g/m2以上400g/m2以下であり、見かけ密度が0.025g/cm3以下であり、昇温速度10℃/分、測定温度23℃〜550℃にて測定した熱重量分析において、重量が90質量%から10質量%まで減少するのにかかる時間(t)が9分以上である、ポリオレフィン系樹脂発泡体シート。 【請求項2】 厚みが15mm以下である、請求項1に記載のポリオレフィン系樹脂発泡体シート。 【請求項3】 前記ポリオレフィン系樹脂発泡体シートを構成するポリオレフィン系樹脂が、ポリエチレン樹脂及びポリプロピレン樹脂から選ばれる1種以上である、請求項1又は2に記載のポリオレフィン系樹脂発泡体シート。 【請求項4】 前記ポリオレフィン系樹脂が、ポリエチレン樹脂及びポリプロピレン樹脂の併用である、請求項3に記載のポリオレフィン系樹脂発泡体シート。 【請求項5】 難燃剤を含有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリオレフィン系樹脂発泡体シート。 【請求項6】 前記難燃剤がリン酸塩、ポリリン酸塩、リン系スピロ化合物、及びハロゲン系難燃剤から選ばれる1種以上を含む、請求項5に記載のポリオレフィン系樹脂発泡体シート。 【請求項7】 前記難燃剤がリン酸塩、ポリリン酸塩、及びリン系スピロ化合物から選ばれる1種以上を含む、請求項5又は6に記載のポリオレフィン系樹脂発泡体シート。 【請求項8】 前記熱重量分析において、400℃まで加熱したときの残重量率が40質量%以上である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリオレフィン系樹脂発泡体シート。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2022-06-16 |
出願番号 | P2019-557507 |
審決分類 |
P
1
651・
536-
YAA
(C08J)
P 1 651・ 537- YAA (C08J) P 1 651・ 121- YAA (C08J) P 1 651・ 113- YAA (C08J) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
細井 龍史 |
特許庁審判官 |
植前 充司 大島 祥吾 |
登録日 | 2021-03-01 |
登録番号 | 6845348 |
権利者 | 積水化学工業株式会社 |
発明の名称 | ポリオレフィン系樹脂発泡体シート |
代理人 | 細田 浩一 |
代理人 | 田口 昌浩 |
代理人 | 田口 昌浩 |
代理人 | 虎山 滋郎 |
代理人 | 虎山 滋郎 |
代理人 | 伴 俊光 |