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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項1号公知 E02D 審判 全部申し立て 2項進歩性 E02D 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 E02D |
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管理番号 | 1388402 |
総通号数 | 9 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-09-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-12-09 |
確定日 | 2022-08-26 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6883365号発明「防蟻用基礎構造」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6883365号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6883365号の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、令和2年6月5日に出願され、令和3年5月12日にその特許権の設定登録がされ、同年6月9日に特許掲載公報が発行された。 その後、同年12月9日に、特許異議申立人 株式会社ピーエルジー(以下、「申立人」という。)より特許異議申立書(以下、「申立書」という。)が提出され、請求項1ないし7に係る特許に対して、特許異議の申立てがされた。 以降の経緯は、以下のとおりである。 令和4年 2月24日付け; 申立人に対する審尋 令和4年 4月 1日; 申立人より回答書(以下、「申立人回答書 」という。)の提出 令和4年 4月28日付け; 取消理由通知 令和4年 6月14日; 特許権者より意見書の提出 第2 本件発明 特許第6883365号の請求項1ないし7の特許に係る発明(以下、それぞれを「本件発明1」などといい、本件発明1ないし7をまとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 (なお、申立書第5頁下から11行〜第6頁最終行において申立人が特許請求の範囲に付した分説のとおり、請求項1について各構成にAないしEの分説を付した。) 「【請求項1】 A 底板部および前記底板部の外縁部から鉛直方向に延在する立上がり部を備える木造建造物用のベタ基礎構造と、 B 前記ベタ基礎構造の下方に埋設された防蟻用の底部発泡樹脂体と、 C 前記立上がり部の横側面に沿って配置された防蟻用の側部発泡樹脂体と、を有し、 D 防蟻用の前記底部発泡樹脂体および前記側部発泡樹脂体がいずれも発泡ビーズ成形体を含み、 E 上記側部発泡樹脂体の上端面を覆う硬質の被覆部を有する蟻返し部材が設けられていることを特徴とする防蟻用基礎構造。 【請求項2】 前記蟻返し部材が、前記被覆部の建物側の外縁部から上方および/または下方に延在する壁部を有する請求項1に記載の防蟻用基礎構造。 【請求項3】 前記側部発泡樹脂体の上端面と前記立上がり部の上端面とが略面一に配置され、 前記被覆部が前記側部発泡樹脂体の上端面と、前記立上がり部の上端面の少なくとも一部とに亘って配置されている請求項1または2に記載の防蟻用基礎構造。 【請求項4】 前記発泡ビーズ成形体の基材樹脂が、ポリスチレン系樹脂である請求項1から3のいずれいか一項に記載の防蟻用基礎構造。 【請求項5】 地盤中において、 前記底部発泡樹脂体および/または前記側部発泡樹脂体の側面に沿って、透水部材が配置されている請求項1から4のいずれか一項に記載の防蟻用基礎構造。 【請求項6】 前記側部発泡樹脂体の外側面には、保護層が設けられており、 前記保護層の上端面は、前記側部発泡樹脂体の上端面と略面一に配置されており、 前記被覆部が、前記保護層の上端面を覆う請求項1から5のいずれか一項に記載の防蟻用基礎構造。 【請求項7】 前記底板部と地盤とが、防蟻用の前記底部発泡樹脂体および前記側部発泡樹脂体によって隔離されている請求項1から6のいずれか一項に記載の防蟻用基礎構造。」 第3 証拠一覧、異議申立理由及び取消理由の概要、特許権者による意見書における主張の概要 1 証拠一覧 申立人が提示する証拠は、以下のとおりである。なお、以下では甲第1号証、甲第2号証等を、それぞれ「甲1」、「甲2」等という。 <甲1> ・個人住宅の新築工事設計図2枚(以下、「甲1設計図1」及び「甲1設計図2」という。)の写し ・個人住宅について「「コロンブス工法」施工状況報告書」と記載された紙(以下、「甲1報告書」という。)1枚の写し ・個人住宅の基礎の施工の様子を撮影した写真(計18枚)を掲載した紙(計3枚。以下、「甲1写真書面」という。)の写し (申立人作成、作成日 令和3年12月4日) <甲2> ・「BCJ−審査証明−265」の番号が付され、「技術名称:地盤置換工法「ライトドレンコロンブス○R工法」(当審注:「○R」は「○」の中に「R」を示す。以下、同様。)と記載された「建築技術審査証明書(建築技術)」(以下、「甲2証明書」という。)の写し、1枚、一般財団法人日本建築センター (証明がされた日 2019年9月13日) ・「BCJ−審査証明−265」の番号が付され、、「技術名称:地盤置換工法「ライトドレンコロンブス○R工法」と記載された説明紙3枚(以下、「甲2説明書」という。)の写し (技術審査完了日 2019年9月13日) <甲3> ・「第H15確認建築福島中建00129号」の番号が付された「建築基準法第6条第1項の規定による確認済証」(以下、「甲3建築確認済証」という。)の写し1枚 ・福島県県中建設事務所の平成15年9月3日の収受印が押された「確認申請書(建築物)」(以下、「甲3建築確認申請書」という。)の第一面ないし第四面の写し計4枚 ・福島県県中建設事務所の平成15年9月3日の収受印が押され、図面名に「矩形詳細図」と記載され、図番に「A−8」と記載された図面(以下、「甲3A−8詳細図」という。)の写し1枚 ・上記甲3A−8詳細図の部分拡大図(以下、「甲3A−8部分拡大図」という。)の写し1枚 ・「矩形詳細図」と記載され、建築事務所名及び建築士の名前が付された図面(以下、「甲3その詳細図」という。)の写し1枚 (上記甲3建築確認済証の発行日 平成15年9月9日) <甲4> 登録実用新案第3212407号公報(平成29年9月7日発行) <甲5> 特開2000−17747号公報(平成12年1月18日公開) <甲6> 特開平11−236736号公報(平成11年8月31日公開) 2 異議申立理由及び取消理由の概要 (1)異議申立理由 ア 甲1ないし甲3の立証趣旨について 当審における令和4年2月24日付け審尋に対し、申立人は申立人回答書において、甲1ないし甲3の立証趣旨について、概ね以下のとおり説明している。 ・甲1写真書面は、甲1報告書と一連の書類であり、甲1設計図1及び2とともに、工事にかかる人物に限らず閲覧可能な状態にあり、これらの記載事項は、少なくとも本件特許の出願時には公知の状態であった。甲1は、本件発明1の構成AないしDは出願時において公知であったことを示す。 ・甲2証明書及び甲2説明書は、2019年10月28日にリニューアルされた本件特許権者のホームページ(http://nakamura-jishin.com/company.html)に掲載され、また一般財団法人日本建築センターのホームページ(https://www.bcj.or.jp/rating/bizunit/exam/list/)にも掲載されて、本件特許出願前に公知であった。 ・甲3A−8詳細図と甲3その他詳細図とは、1枚の図面として甲3建築確認申請書に添付されたものであり、甲3建築確認申請書及び甲3建築確認済証は、「建築計画概要書の閲覧制度」に則って、本件特許出願前に不特定人が閲覧可能な状態であった。 イ 異議申立理由の概要 上記申立人回答書における回答の内容、及び、申立人は申立書において、本件発明1の構成AないしDは甲1、甲2及び甲3に開示されている旨を主張していること(申立書第7頁第18行〜第9頁下から3行)を踏まえると、申立人による異議申立理由の概要は、以下のとおりである。 (進歩性) 本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、甲1、甲2または甲3に記載された発明及び甲4ないし甲6に示される周知技術に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許がされたものであり、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により、取り消されるべきものである。 (2)令和4年4月28日付け取消理由 ア 甲3の各書類の閲覧可能性等について 令和4年4月28日付けで特許権者に通知した取消理由において、甲3建築確認済証、甲3建築確認申請書、甲3A−8詳細図、及び甲3A−8部分拡大図に示される内容は、本件特許の出願日より前に、不特定人が閲覧可能であったと解した。 イ 取消理由の概要 甲3の各書類の閲覧可能性等について、上記アのとおり解したうえで、当審において特許権者に通知した上記取消理由の概要は、以下のとおりである。 (新規性) 本件特許の請求項1、3、4及び7に係る発明は、甲3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項の規定に違反して特許がされたものであり、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により、取り消されるべきものである。 (進歩性) 本件特許の請求項1ないし4、6及び7に係る発明は、甲3に記載された発明、及び甲4または甲5に示される周知技術に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許がされたものであり、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により、取り消されるべきものである。 3 特許権者による意見書における主張の概要 特許権者は、令和4年6月14日付けの意見書において、概略以下の主張をしている。 (1)甲3について 甲3として提出された書類は、いずれも、「建築計画概要書」ではなく、「建築計画概要書の閲覧制度」により閲覧可能であったとはいえない。 「矩形詳細図」及びその拡大図である、甲3A−8詳細図、甲3A−8部分拡大図及び甲3その他詳細図(以下、まとめて「甲3詳細図」という。)は、「付近見取図」でも「配置図」でもないから、「建築計画概要書」に含まれず、本件特許出願前において「建築計画概要書の閲覧制度」により不特定人に閲覧不可能であったことは明らかである。 (2)取消理由に通知した取消理由に対して 上記(1)のとおり、証拠としての適格性を欠く甲3A−8詳細図及び甲3A−8部分拡大図に基づき認定された甲3に記載された発明に基づいて、本件発明の新規性及び進歩性が否定されるものではない。 第4 当審の判断 1 取消理由通知において通知した取消理由について 取消理由通知において通知した取消理由は、上記第4の2(2)に示したとおり、甲3を主たる証拠とした本件発明1、3、4及び7の新規性欠如、及び、甲3を主たる証拠とした本件発明1ないし4、6及び7の進歩性欠如である。 (1)主たる証拠である甲3について ア 甲3の各書類に記載された事項 (ア)甲3建築確認済証 a 「建築基準法第6条第1項の規定による確認済証」と記載され、福島県建築主事印が押されている。 b 右上に「第H15確認建築福島中建00129号」と記載され、右下に「第H15確申建築福島中建00135号」と記載されている。 c 平成15年9月9日の日付が付されている。 d 「・・・・様」の箇所に、申立人名及び申立人代表者名が記載されており、申立人に対して発行されたものである。 e 「1.申請年月日」の欄に、「平成15年9月3日」と記載されている。 f 「2.建築場所、設置場所又は築造場所」の欄に、具体的な住所が、地番まで記載されている。 g 「3.」「(6)建築物の構造」の欄に、「木造」と記載されている。 (イ)甲3建築確認申請書 a 「第一面」に、「確認申請書(建築物)」と記載されている。 b 「第一面」の「申請者氏名」の欄に、申立人名及び申立人代表者名が記載されており、申立人による建築確認申請の書類である。 c 「第一面」の「設計者氏名」の欄に、設計者の氏名が記載されている。 d 「第一面」の表中の「※確認番号欄」に、「平成15年9月9日」「第129号」と押印されている。 e 「第二面」「建築主等の概要」として、「1.建築主」の欄に、上記bと同じ氏名が記載され、「3.設計者」の欄に、上記cと同じ設計者の氏名が記載されている。 f 「第三面」「建築物及びその敷地に関する事項」として、「1.地名地番」の欄に、上記(ア)fと同じ具体的な住所が、地番まで記載されている。 g 「第四面」「建築物別概要」として、「4.構造」の欄に、「木造」と記載されている。 h 「第一面」〜「第四面」の各面の右下に、福島県県中建設事務所の平成15年9月3日の収受印が押されている。 (ウ)甲3A−8詳細図 a 「工事名」の欄には、申立人の本社棟の新築工事であることが、記載されている。 b 「図面名」の欄には、「矩形詳細図」と記載されている。 c 「図番」の欄には、「A−8」と記載されている。 d 「図番」の欄の上方に、福島県県中建設事務所の平成15年9月3日の収受印が押されている。 e 建物の断面図の右半分が示されている。 (エ)甲3A−8部分拡大図 a 「図面名」の欄に「矩形詳細図」と記載されている。 b 上記(ウ)eの建物断面図の右下部分が、拡大されて示されている。 (オ)甲3その他詳細図 a 建築事務所名、及び上記(イ)c及びeと同じ設計者の氏名が、記載されている。 b 建築事務所名の上方に、「矩形詳細図」と記載されている。 c 上記(ウ)eの建物の断面図の右半分と概略整合する、建物の断面図の左半分が、示されている。 イ 甲3の各書類の関係 上記ア(ア)〜(オ)の甲3の各書類について、(ア)b及び(イ)dの「平成(H)15・・・・129号」という番号の一致、上記(イ)h及び(ウ)dの収受印の日付の一致、上記(ウ)e、(エ)b及び(オ)cの図面の整合性、並びに、その他建築主、設計者、地番などの記載事項の対応関係から、甲3の各書類は、いずれも申立人本社棟の建築に関する平成15年の書類であると解される。 ウ 甲3の各書類の、特許法29条第1項各号該当性 (ア)第29条第1項第3号該当性 甲3の各書類のいずれについても、申立人本社棟の建築に関して、関係者のために作成された書類であっても、公衆に対し頒布により公開することを目的として複製された文書・図書等の情報伝達媒体ではないから、本件特許の出願前に頒布された刊行物であるということはできない。 また、甲3の各書類のいずれについても、「建築計画概要書」ではないから、建築計画概要書の閲覧制度に基づいて本件特許出願前に不特定の者に閲覧可能であったということはできず、かつ、不特定の者による閲覧が本件特許出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用できる形で可能であったことを示す証拠はない。 したがって、甲3の各書類のいずれについても、特許法第29条第1項第3号にいう、「頒布された刊行物」または「電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた」ものということはできず、甲3の各書類に示される内容が、同法同条同項同号に掲げる発明になったということはできない。 (イ)甲3詳細図の第29条第1項第1号該当性 甲3A−8詳細図、甲3A−8部分拡大図、及び甲3その他詳細図からなる甲3詳細図は、甲3建築確認申請書に添付して福島県県中建設事務所に提出された図面であるとしても、これら甲3詳細図が建築計画概要書の閲覧制度に基づいて本件特許出願前に不特定の者に閲覧可能であったということができず、また、本件特許出願前に実際に守秘義務等のない第三者にこれら甲3詳細図が開示されたことを認めるに足りる証拠がない。 したがって、甲3詳細図に示される内容が、特許法第29条第1項第1号に掲げる発明になったということはできない。 (ウ)甲3詳細図の第29条第1項第2号該当性 甲3A−8詳細図、甲3A−8部分拡大図、及び甲3その他詳細図について、これら甲3詳細図が作成されたことをもって、当該甲3詳細図に示される具体的な建物の構造を、不特定の者が知り得る状態で、当該建物の製造等の発明の実施が行われたということはできない。 したがって、甲3詳細図に示される内容が、特許法第29条第1項第2号に掲げる発明になったということはできない。 (エ)甲3建築確認済証、及び甲3建築確認申請書の第29条第1項第1号又は2号該当性 甲3建築確認済証、及び甲3建築確認申請書は、建物の基礎の具体的構造については何ら示しておらず、建物が「木造」であることを示すにとどまる。 したがって、仮に甲3建築確認済証、又は甲3建築確認申請書に記載される内容と同様の内容が、本件特許出願前に不特定の者に閲覧可能であり、かつ、実際に守秘義務等のない第三者に開示されていたとしても、建物の基礎構造として、何らかの具体的な構造が特許法第29条第1項第1号に掲げる発明となったということはできない。 また、仮に甲3建築確認済証、又は甲3建築確認申請書に記載される「木造」という内容については、不特定の者が知り得る状態で建物の製造等が行われたとしても、甲3建築確認済証及び甲3建築確認申請書にも示されない建物の基礎の具体的な構造まで、不特定の者が知り得る状態で製造等の実施がされたと認めるに足りる証拠はない。 したがって、甲3建築確認済証、及び甲3建築確認申請書より、建物の基礎の具体的な構造が、特許法第29条第1項第2号に掲げる発明となったということはできない。 エ 甲3より、特許法第29条第1項各号に掲げる発明となった内容 上記ウ(ア)ないし(ウ)のとおり、甲3詳細図に示される建物の具体的構造は、甲3より、特許法第29条第1項各号に掲げる発明となったということができない。 また、上記ウ(ア)及び(エ)のとおり、甲3建築確認済証、及び甲3建築確認申請書に記載される内容から、建物の基礎の何らかの具体的な構造が、特許法29条第1項各号に掲げる発明となったということができない。 (2)甲3を主たる証拠とした本件発明1、3、4及び7の新規性について 上記(1)のとおり、甲3からは、建物の基礎の具体的な構造として、特許法第29条第1項各号に係る発明を認定することができないから、本件発明1は、甲3を主たる証拠として、特許法第29条第1項の規定により特許を受けることができないものではない。 本件発明1の構成を全て有する、本件発明3、4及び7についても、同様である。 (3)甲3を主たる証拠とした本件発明1ないし4、6及び7の進歩性について 上記(1)のとおり、甲3からは、建物の基礎の具体的な構造として特許法第29条第1項各号に係る発明を認定することができないから、後記2の(1)ウ及びエに摘記する甲4及び甲5に記載される事項について、詳細に検討するまでもなく、その余の副引例または周知技術を組み合わせて、本件発明1に係る建造物用の基礎構造とする具体的な動機付けがあったということができない。 なお、後記2の(1)オに摘記する甲6に記載される事項を、さらに検討に含めた場合にも、同様である。また、後記2の(2)ア及び(3)アに指摘するとおり、甲1及び甲2に示される事項は、建物の基礎の構造として、特許法第29条第1項各号のいずれかに掲げる発明になったとはいえない。 したがって、本件発明1は、甲3を主たる証拠として、甲1、甲2、甲4ないし甲6に記載される事項を考慮したとしても、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものではない。 本件発明1の構成を全て有する、本件発明2ないし4、6及び7についても、同様である。 (4)小括 以上のとおりであるから、本件発明1ないし4、6及び7に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由によって、取り消されるべきものではない。 2 取消理由通知において採用しなかった異議申立理由について (1)甲3以外の証拠について 申立人が提出する証拠のうち、甲3については、上記1(1)に示したとおりである。 甲3以外の証拠については、以下のとおりである。 ア 甲1について (ア)甲1設計図1 個人宅名が記載された設計図であり、下方に下がる梁状の箇所を有し、上部が略平坦な基礎が示されている。基礎のうち、下方に下がる梁状の箇所の下には、網線が付された厚みの薄い部材が配置され、「ジオフォームS t300」と記載されている。基礎のうち、下方に下がる梁状の箇所以外の箇所の下には、網線が付された厚みの厚い部材が配置され、「ジオフォーム t800」と記載されている。 (イ)甲1設計図2 上記(ア)と同じ個人宅名が記載された設計図であり、基礎の梁下部、及び梁下部以外の箇所について、「ジオフォーム」なる部材の割り付け図が示されている。 (ウ)甲1報告書 上記(ア)及び(イ)と同じ個人宅名が記載され、「コロンブス工法」の施工状況についての検査結果が示されている。 (エ)甲1写真書面 施工現場の様子を示す計18枚の写真が掲載された計3枚の書面であり、18枚の写真のうち、ホワイトボードが大きめに写った写真については、ホワイトボード中の「工事名」の箇所に上記(ア)ないし(ウ)と同じ個人宅名が記載されているのが看取される。また、18枚の写真からは、地盤を掘り下げた箇所に砕石が敷かれ、白い直方体状の部材及び鉄筋が配置される様子が、看取される。 イ 甲2について (ア)甲2証明書 甲2証明書には、「(開発の趣旨)」の箇所に、「・・・軽量地盤材を基礎型枠に用いることによる基礎の施工性向上、並びに土壌・水質汚染の抑制を目指す。」と記載されている(下線は、当審において付した。以下、同様。)。 ただし、甲2証明書は、申立人が回答書において説明する特許権者のホームページに掲載されているが、特許権者ホームページへの掲載時期は明らかではない。また、甲2証明書は、申立人が申立人回答書において説明する一般財団法人日本建築センターのホームページには、掲載されていない。 (イ)甲2説明書 甲2説明書には、「1.3 技術の概要」の箇所に、次の記載がされている。 「本技術は、基礎の下部あるいは側面に、有機発泡材(以下「軽量地盤材」という)を目的に応じて選定・配置することによって、基礎コンクリートと一体になる軽量地盤材による地盤改良工法である。具体的には、基礎コンクリート打設時における型枠の代替、地盤との断熱、基礎下部地盤の軽量化、排水性軽量材(以下「ライトフィルター」という)を組合わせることで、地表層の排水性を改善し、建物の耐震性能・基礎の断熱性能を向上させる工法である。一方、本技術に使用する材料は、軽量でかつ容易に加工が可能である。」 また、「1.4 適用範囲等」の箇所に、「(1)・・・・ベタ基礎とする。」と記載されている。 ただし、甲2説明書は、申立人が申立人回答書において説明する特許権者のホームページに掲載されていない。また、申立人が申立人回答書において説明する、一般財団法人日本建築センターのホームページに掲載された「BCJ−審査証明−265」「ライトドレンコロンブス○R工法」の説明書3枚は、2020年9月11日付けで適用範囲が変更された後のものであり、申立人が提出した甲2説明書と同一ではない。 (ウ)甲2に記載された発明 上記(ア)及び(イ)のとおり、甲2証明書及び甲2説明書のホームページ掲載日は不明であるが、甲2証明書及び甲2説明書には、次の発明(以下、それぞれ「甲2発明1」及び「甲2発明2」という。)が記載されている。 <甲2発明1> 軽量地盤材を基礎型枠に用いることで施工性を向上させた基礎。 <甲2発明2> ベタ基礎の下部あるいは側面に、有機発泡材(軽量地盤材)を配置することにより、基礎コンクリート打設時における型枠の代替とすることが可能な、建物の基礎。 ウ 甲4について 甲4には、次の記載がある。 (ア)「【0011】 [実施例1] (1)基礎外断熱構造 本考案の基礎外断熱構造は、基礎コンクリート2の外周に外張り断熱材3を配置したものである(図1)。 外張り断熱材3の上端には防蟻笠木1を配置する。 【0012】 (2)外張り断熱材 外張り断熱材3は板状の発泡プラスチック製であり、ポリスチレンや硬質ウレタン等の発泡体からなる。 【0013】 (3)防蟻笠木 防蟻笠木1は、金属や合成樹脂等の硬質の素材からなり、長さ方向に亘って水平部11を形成し、その幅方向の両端を下方に折り曲げた外折曲部12、内折曲部13をそれぞれ形成する(図2)。 ・・・(中略)・・・。 【0014】 (3.1) 内折曲部13の下部は、下端から所定の位置から外側に折り曲げて傾斜部131を形成する。 内折曲部13は基礎コンクリート2を打設する際に、下端が基礎コンクリート2に埋設されるが、その時に内側に折れてしまうおそれがある。 このため、予め外側に折り曲げて傾斜部131を形成することにより、内側に折れてしまうことを防止する。 【0015】 (4)防蟻笠木の作用 防蟻笠木1は、外張り断熱材3の上端に配置されている。 そして、防蟻笠木1は硬質なため、シロアリが外張り断熱材3内を掘り進んで上端部に達しても、硬質な防蟻笠木1に遮られて、外張り断熱材3上端部から木造住宅の土台まで進むことはできない。 また、外折曲部12より外側は露出しているため、日光に弱いシロアリが外折曲部12の表面から土台に到達することはない。 内折曲部13は基礎コンクリート2に埋設されるため、防蟻笠木1は外張り断熱材3の上端に固定される。そして、内折曲部13が硬質な基礎コンクリート2内にあるため、内側からシロアリが土台に到達することもない。」 (イ)「 」 エ 甲5について 甲5には、次の記載がある。 (ア)「【0021】図1に示すように、コンクリート基礎1の外周(基礎1の立ち上がり部の外周)及び外壁の外周には、夫々発泡プラスチック断熱材2及び6が設けられている。 【0022】この発泡プラスチック断熱材2及び6の材料としては、断熱性に優れ、保水性が無く、耐久性にも優れたものが望ましく、例えばポリスチレン発泡体,硬質ウレタン発泡体,フェノール発泡体等が挙げられる。かかる発泡プラスチック断熱材の厚みは地域毎の設計環境温度等から要求される断熱性能によって決められ、上記の材料を用いることにより通常は20mm〜100mm程度とすることができるが、これに限定されるものではない。。【0023】また、基礎1の外周に設けられた発泡プラスチック断熱材2の地上部分には、その厚み方向の全体を覆うように白蟻防止性能を有する部材3(以下、「白蟻防止部材3」と称す。)が設けられている。この白蟻防止部材3は、基礎1の上面(図1(a)参照)もしくは基礎1の外周面(図1(b)参照)に当接して設けられる。尚、「白蟻防止」とは、白蟻の侵入を防ぐことであり、死滅させることまでをも意味するものではない。 【0024】かかる白蟻防止部材3の素材としては、少なくとも白蟻被害に耐性の材料が用いられ、例えば銅板、ステンレス鋼板、亜鉛メッキ処理鋼板及びその他の金属板(シート状のものも含む)等、もしくは熱的に有利である合成樹脂板(シート状のものも含む)等を用いることができる。合成樹脂材料を用いる場合には、実開昭57−17308号公報に記載されたようにロックウエル硬度がR50以上となればより効果的である。」 (イ)「【0035】図1に示した例では白蟻防止部材3として平板状のものを用いているが、白蟻防止部材3の形状はこれに限定されるものではなく、例えば図2に示すように断面L字状のものや、図3に示すように断面コの字状のもの等、所望の形状を選択することができる。 【0036】平板状の白蟻防止部材3を図1(b)に示すように基礎1の外周面に接して設ける場合には、コンクリート基礎1との間に隙間が生じ易く、この隙間が白蟻の通り道となる場合がある。一方、L字状もしくはコの字状等の白蟻防止部材を用いる場合には、コンクリート基礎1と面で当接することができるため、隙間が生じる危険性が少なく、白蟻対策上好ましい。なお、L字状もしくはコの字状等の白蟻防止部材3が基礎1と密着する折り曲げ部分の幅は、2cm〜6cm程度で十分であるが、これに限定されるものではない。」 (ウ)「 」 オ 甲6について 甲6には、次の記載がある。 (ア)「【0005】 【発明の実施の形態】本発明の防蟻材は、ポリカーボネート系樹脂発泡体からなるが、この場合、平均気泡膜厚は5μm以上である。より好ましくは10μm〜1000μmである。該平均気泡膜厚が5μm以下であるとシロアリ等に食害されて、蟻道を作られるおそれがある。本発明においてポリカーボネート系樹脂発泡体の見掛密度は30〜600kg/m3、より好ましくは40〜400kg/m3である。該密度が30kg/m3未満であると発泡体の平均気泡膜厚が薄くなりシロアリ等に食害されてしまう恐れがある。また、該密度が30kg/m3未満において気泡膜を厚くしようとすると気泡径のとても大きい発泡体となってしまい、断熱性等の物性が劣るものとなってしまう。一方、600kg/m3を超えると発泡体材料として断熱性や軽量性等の特性が損なわれる恐れがある。本発明でいう平均気泡膜厚とは、プラスチックフォームハンドブック(日刊工業新聞社、昭和48年2月28日発行)第222頁の(3.3)式を変形して得られる下記(1)式に、発泡体のポリマー体積分率(Vs)及び平均気泡径(d)(単位はμm)を代入して算出された気泡膜厚(t)(単位はμm)を意味する。」 (イ)「【0011】ポリカーボネート系発泡体は、前記したポリカーボネート系樹脂よりなる基材樹脂を発泡剤の存在下従来公知の押出発泡成形、インジェクション発泡成形、プレス発泡成形、発泡ビーズの型内成形などによって発泡成形させて製造されるが、中でも押出発泡成形による方法が、低密度の発泡体を容易に得ることができるので好ましい。」 (ウ)「【0017】次に、本発明の防蟻布基礎の例を図面を用いて説明する。図1は、本発明の防蟻布基礎の第1例の断面図である。図2は、本発明の防蟻布基礎の第2例の断面図である。図3は、本発明の防蟻布基礎の第2例で用いられる防蟻パネルの斜視図である。なお、図中、1、10は防蟻布基礎、2は布基礎のコンクリート打設部、3、30は防蟻パネル、4は土台、5はポリスチレン樹脂押出発泡板、6は防蟻材をそれぞれ示す。 【0018】図1の防蟻布基礎の第1例においては、布基礎のコンクリート打設部2の両側に防蟻パネル3が一体化して形成されている。建物の土台4は布基礎のコンクリート打設部2の直上に載置固定される。防蟻パネル3は布基礎のコンクリート打設部2の片側のみであっても構わないが、その場合は建物の外側の方が望ましい。また、防蟻パネル3の露出面は、通常モルタルで被覆される(図示せず)。」 (エ)「 」 (2)甲1を主たる証拠とした進歩性について ア 甲1の特許法第29条第1項各号該当性 甲1の各書類は、個人宅の建築に関して、関係者のために作成された書類であっても、公衆に対し頒布により公開することを目的として複製された文書・図書等の情報伝達媒体ではないから、本件特許の出願前に頒布された刊行物であるということはできない。また、甲1の各書類について、本件特許出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能であったことを示す証拠はないから、甲1の各書類に示される内容が、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明になったということはできない。 甲1の各書類について、本件特許出願前に守秘義務等のない第三者に開示されたことを認めるに足りる証拠はないから、特許法第29条第1項第1号に掲げる発明になったということはできない。 甲1の各書類に名前が示されている個人宅が建設されたことをもって、建物の基礎の具体的な構造について、不特定の者が知り得る状態で建物の製造が実施されたことを示す証拠はないから、甲1の各書類に示される内容が、建物の基礎の具体的な構造として、特許法第29条第1項第2号に掲げる発明になったということはできない。 イ 本件発明1について 上記アのとおり、甲1からは建物の基礎の具体的構造として、特許法第29条第1項各号に掲げる発明を認定することができないから、その余の副引例または周知技術を組み合わせて、本件発明1に係る建造物用の基礎構造とする具体的な動機があったということができない。 したがって、本件発明1は、甲1を主たる証拠として、たとえ甲2ないし甲6に示される事項を考慮しても、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 本件発明2ないし7について 上記アのとおり、本件発明1は、甲1を主たる証拠として、たとえ甲2ないし甲6に示される事項を考慮しても、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の構成を全て備える本件発明2ないし7についても、同様である。 (3)甲2を主たる証拠とした進歩性について ア 甲2の特許法第29条第1項各号該当性 甲2証明書及び甲2説明書は、本件特許出願前に頒布された刊行物ということができず、本件特許出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能になったと認めるに足りる証拠がない。 また、甲2証明書又は甲2説明書について、本件特許出願前に守秘義務等のない第三者に開示されたことを認めるに足りる証拠はない。 甲2証明書又は甲2説明書が作成されたことをもって、建物の基礎の構造を不特定の者が知り得る状態で、建物の基礎の製造が実施されたことを示す証拠もない。 したがって、申立人の提出する証拠及び主張より、甲2証明書又は甲2説明書に記載される内容が、建物の基礎の構造として、特許法第29条第1項各号のいずれかに掲げる発明になったとはいえない。 なお、甲2証明書又は甲2説明書が、本件特許出願前に上記特許権者のホームページまたは一般財団法人日本建築センターのホームページに掲載されて、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となっていた場合については、後記ウにおいて予備的に検討する。 イ 本件発明1について−主位的判断 上記アのとおり、甲2からは建物の基礎の構造として、特許法第29条第1項各号に掲げる発明を認定することができないから、その余の副引例または周知技術を組み合わせて、本件発明1に係る建造物用の基礎構造とする具体的な動機があったということができない。 したがって、本件発明1は、甲2を主たる証拠として、たとえ甲1及び甲3ないし甲6に示される事項を考慮しても、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 本件発明1について−予備的判断 (ア)ホームページへの掲載が本件特許出願より前であった場合 甲2証明書及び甲2説明書の特許法第29条第1項各号該当性については、上記アのとおりであるが、申立人は甲2証明書及び甲2説明書が本件特許出願前にホームページに掲載されていた旨を主張しているので(申立人回答書第4頁第1行〜同頁下から第3行)、以下では、甲2証明書のホームページへの掲載、または甲2説明書のホームページへの掲載が、本件特許出願より前であった場合についても、予備的に判断する。 甲2証明書又は甲2説明書のホームページへの掲載が、本件特許出願より前であった場合には、上記(1)イ(ウ)に認定した甲2発明1又は甲2発明2が、本件特許出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったこととなる。 甲2発明1と甲2発明2との内容は概略同様であるが、甲2説明書に基づいた甲2発明2の方が、若干詳しい構成まで認定されている。 (イ)本件発明1と甲2発明2との対比 本件発明1と甲2発明2とを対比する。 甲2発明2において「建物の基礎」である「ベタ基礎」は、構造であることが明らかであることを踏まえると、本件発明1における「木造建造物用のベタ基礎構造」とは、「建造物用のベタ基礎構造」という点で共通する。 甲2発明2において「ベタ基礎」の「下部」に「配置」されて「基礎コンクリート打設時における型枠の代替」とされる「有機発泡材(軽量地盤材)」は、樹脂を含有することが技術常識から明らかであることを踏まえると、本件発明1において「前記ベタ基礎構造の下方に埋設された防蟻用の底部発泡樹脂体」とは、「ベタ基礎構造の下方に埋設された底部発泡樹脂体」という点で共通する。 甲2発明2において「ベタ基礎」の「側面」に「配置」されて「基礎コンクリート打設時における型枠の代替」とされる「有機発泡材(軽量地盤材)」と、本件発明1において「前記立上がり部の横側面に沿って配置された防蟻用の側部発泡樹脂体」とは、「側部発泡樹脂体」という点で共通する。 甲2発明2における「建物の基礎」と、本件発明1における「防蟻用基礎構造」とは、「基礎構造」という点で共通する。 以上を整理すると、本件発明1と甲2発明2とは、以下の点で一致する。 「建造物用のベタ基礎構造と、 前記ベタ基礎構造の下方に埋設された底部発泡樹脂体と、 側部発泡樹脂体と、を有する、 基礎構造。」 <相違点> 本件発明1においては、 「ベタ基礎構造」が「底板部および前記底板部の外縁部から鉛直方向に延在する立上がり部を備える木造建造物用の」ものであり、 「側部発泡樹脂体」が「前記立上がり部の横側面に沿って配置された」ものであり、 「底部発泡樹脂体および前記側部発泡樹脂体」がいずれも「発泡ビーズ成形体」を含んだ「防蟻用の」ものであり、 「側部発泡樹脂体の上端面を覆う硬質の被覆部を有する蟻返し部材が設けられ」ており、 全体として「防蟻用基礎構造」となっているのに対し、 甲2発明2においてはそうなっていない点。 (ウ)相違点についての判断 上記相違点について、判断する。 上記相違点に係る本件発明1の構成に関し、本件明細書の段落【0017】には、次の記載がある。 「本発明者は、発泡ビーズ成形体と、押出成形などの他の発泡体成形方法により成形された非発泡ビーズ成形体とを、それぞれ木造建造物下の地盤に埋設した場合に、発泡ビーズ成形体には白蟻が近づかない傾向にあることを見出した。発泡ビーズ成形体と非発泡ビーズ成形体の構成樹脂が同じであっても、同様の傾向がある。 かかる知見に関する理由は明らかではないが、本発明者は、発泡ビーズ成形体は、振動を吸収する際に発泡ビーズ成形体自身も微弱に振動し、これが白蟻の忌避環境を作りだしているのではないかと推察する。たとえば、押出成形や射出成形により形成されたポリスチレン系樹脂発泡体に比べてポリスチレン系樹脂発泡ビーズ成形体の方が、周囲の振動を吸収し、かつ自身も微弱に振動する傾向が強い。木造建造物や当該木造建造物が建てられた地盤には、常に、周辺の道路や工場などにおいて発生する振動が地盤を介して伝搬する地盤振動や、木造建築物の居住者の活動により発生する生活振動が、概ね40dB〜60dB程度発生しているといわれる。そのため、木造建造物の基礎構造または基礎構造周辺に沿わせて発泡ビーズ成形体を配置すると、上記地盤振動および生活振動により発泡ビーズ成形体も絶えず微弱に振動し、この微弱な振動により白蟻の忌避環境を構築することができるものと推察される。」 上記段落【0017】の記載より、本件発明1は、木造建造物の基礎構造に沿わせて配置した場合の発泡ビーズ成形体の振動特性が、押出形成や射出形成により形成された発泡樹脂体よりも、白蟻の忌避環境を構築するうえで優れていることに着目して、上記相違点に係る構成のうち、木造建造物用のベタ基礎構造の底部発泡樹脂体及び側部発泡樹脂体をいずれも発泡ビーズ成形体を含んだものとして、防蟻用のものとする構成を採用したものであると、理解される。また本件発明1は、側部発泡樹脂体の上端面については、硬質の被覆部を有する蟻返し部材をさらに設けることとして、上記相違点に係る本件発明1のその余の構成を採用したものであると、理解される。 これに対し、上記甲4及び甲5には、上記(1)ウ及びエに摘記した事項が記載されており、上記相違点に係る本件発明1の構成のうち、「側部発泡樹脂体の上端面を覆う硬質の被覆部を有する蟻返し部材」を設ける構成に相当する構成が、開示されている。 しかしながら、甲4及び甲5においては、コンクリートの外周に配置する断熱材として、「ポリスチレンや硬質ウレタン等の発泡体」(甲4の段落【0012】)、「例えばポリスチレン発泡体、硬質ウレタン発泡体、フェノール発泡体」(甲5の段落【0022】)が好適とされており、木造建築物に用いた場合の振動特性から発泡ビーズ成形体を選択すべきことは示唆されていない。 この点に関し、甲6には、上記(1)オに摘記した事項が記載されており、布基礎の両側に設ける防蟻パネルとして、ポリカーボネート系樹脂よりなる発泡体を用いることが示されたうえで、ポリカーボネート系樹脂よりなる発泡体の公知の成形手法の一つとして、発泡ビーズを用いることも挙げられている。しかしながら、甲6においては、発泡樹脂の特性として、平均気泡膜圧及び見掛け密度に着目し、公知の成形手法の中では押出発泡成形を好ましいものとしているから、木造建築物に用いた場合の振動特性の観点から発泡ビーズ成形体を選択すべきことが示唆されいるとはいえない。 なお、甲1及び甲3に示される内容は、上記(2)ア及び上記1(1)に指摘したとおり、建物の基礎に関する具体的構造として本件特許出願前に特許法第29条第1項各号に掲げる発明となったものと認めることができない。 そうすると、たとえ甲2説明書が本件特許出願前にホームページに掲載されていて、甲2発明2が本件特許出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能な発明となっていたとしても、甲2発明2において、有機発泡材(軽量地盤材)として、木造建築物の基礎に沿わせて用いた場合に振動の観点から防蟻性が高くなるものとして発泡ビーズ成形体を選択し、もって上記相違点に係る本件発明1の構成のうち、「木造建造物用の」ベタ基礎構造に沿って配置する「底部発泡樹脂体」および「側部発泡樹脂体」をいずれも「発泡ビーズ成形体」を含んだ「防蟻用の」ものとする構成に相当する構成とすることは、甲1及び甲3ないし甲6に記載される事項を考慮しても、当業者にとって容易であったということはできない。 したがって、上記相違点に係る本件発明1の構成のうち、「側部発泡樹脂体の上端面を覆う硬質の被覆部を有する蟻返し部材」を設ける構成について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明2において、甲1及び甲3ないし甲6に記載される事項を考慮しても、当業者が本件特許出願前に容易に発明をすることができたものではない。 (エ)甲2発明1に基づく予備的判断 上記(ア)に指摘したとおり、甲2発明1と甲2発明2とは、概略同様の内容であって、甲2説明書に基づく甲2発明2の方が、甲2証明書に基づく甲2発明1より若干詳しい構成まで認定し得るところ、上記(イ)及び(ウ)のとおり、たとえ甲2発明2が本件特許出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能な発明となっていたとしても、本件発明1は、甲2発明2において、甲1及び甲3ないし甲6に記載される事項を考慮しても、当業者が本件特許出願前に容易に発明をすることができたものではない。 そうすると、甲2発明2について指摘したと同様の理由により、たとえ甲2発明1が本件特許出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能な発明となっていたとしても、本件発明1は、甲2発明1において、甲1及び甲3ないし甲6に記載される事項を考慮しても、当業者が本件特許出願前に容易に発明をすることができたものではない。 エ 本件発明2ないし7について 上記アないしウのとおり、本件発明1は、甲2を主たる証拠として、たとえ甲1及び甲3ないし甲6に示される事項を考慮しても、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の構成を全て備える本件発明2ないし7についても、同様である。 (4)甲3を主たる証拠とした本件発明5の進歩性について 本件発明5は、本件発明1ないし4のいずれかの構成を全て有し、さらに構成を付加したものである。 そして、上記1(3)で判断したとおり、本件発明1ないし4は、甲3を主たる証拠として、甲1、甲2、甲4ないし甲6に記載される事項を考慮しても、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1ないし4のいずれかの構成を全て有する本件発明5についても、同様である。 (5)小括 以上のとおりであるから、本件発明1ないし7に係る特許は、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由によって、取り消されるべきものではない。 第5 むすび 以上のとおり、本件発明1ないし7に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。 また、他に本件発明1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2022-08-15 |
出願番号 | P2020-098472 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Y
(E02D)
P 1 651・ 111- Y (E02D) P 1 651・ 121- Y (E02D) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
居島 一仁 |
特許庁審判官 |
有家 秀郎 住田 秀弘 |
登録日 | 2021-05-12 |
登録番号 | 6883365 |
権利者 | 中村物産有限会社 |
発明の名称 | 防蟻用基礎構造 |
代理人 | 水野 博文 |
代理人 | 細井 勇 |
代理人 | 栗田 由貴子 |