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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C25D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C25D
審判 全部申し立て 2項進歩性  C25D
管理番号 1388417
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-09-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-04-26 
確定日 2022-08-30 
異議申立件数
事件の表示 特許第6953068号発明「亜硫酸金塩を含む金めっき液、及び亜硫酸金塩を含む金めっき液用補充液」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6953068号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6953068号(以下、「本件特許」という。)の請求項1に係る特許についての出願は、令和 3年 2月25日の出願であって、同年10月 1日に特許権の設定登録がされ、同年10月27日に特許掲載公報が発行され、その後、令和 4年 4月26日にその請求項1(全請求項)に係る特許に対して特許異議申立人 安藤 宏(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、「本件発明1」という。また、本件特許の願書に添付した明細書及び図面を「本件明細書等」という。)。

「【請求項1】
亜硫酸金塩と水とを含み、シアン化物イオン濃度が1mg/L以下であり、
液中の金濃度と亜硫酸イオン濃度とのモル比(SO32−/Au)が2.1以上2.9以下である、非シアン金めっき液用補充液。」

第3 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、以下の証拠を提出し、後記する申立理由により、本件発明1についての特許は取り消されるべきものである旨主張している。

<証拠方法>
甲第1号証:特開2006−265648号公報(以下、単に「甲1」という。以下同様。)
甲第2号証:特開2008−174796号公報(「甲2」)
甲第3号証:本間 敬之、めっき技術の基礎、エレクトロニクス実装学会誌、日本国、社団法人エレクトロニクス実装学会、2003年、Vol.6、No.7、第616〜624頁(「甲3」)

1 申立理由1(新規性
本件発明1は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、本件発明1についての特許は、同法第113条第2号に該当する。
2 申立理由2(進歩性
本件発明1は、甲1に記載された発明と甲2、甲3に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1についての特許は、同法第113条第2号に該当する
3 申立理由3(サポート要件)
本件発明1についての特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当する。
4 申立理由4(明確性
本件発明1についての特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当する。

第4 当審が職権調査により発見した参考資料
当審が職権調査により発見した参考資料として、以下の参考資料1〜3がある。

参考資料1:特開平3−64483号公報
参考資料2:特開2002−167698号公報
参考資料3:特開2002−30498号公報

第5 甲1〜3及び参考資料1〜3の記載事項
1 甲1の記載事項
甲1には以下の記載がある。(下線は当審が付した。また「・・・」は省略を示す。以下同様。)

「【請求項1】
亜硫酸金塩を含有する無電解金めっき液に、亜硫酸金塩を含むアルカリ性水溶液と亜硫酸金塩以外の亜硫酸塩及び塩酸若しくは硫酸を含むpH調整液とを混合してなる金イオン含有液を、前記無電解金めっき液中の金イオン濃度が所定範囲内に維持されるように添加する工程を有する無電解金めっき液再調製方法。」

「【0001】
本発明は、無電解金めっき液再調製方法、無電解金めっき方法及び金イオン含有液に関するものである。」

「【0006】
自己触媒型の無電解金めっき方法において、従来はシアン化合物を含む無電解金めっき液が主として用いられている。しかしながら、シアン化合物はその毒性が強いため、取り扱いが困難である。さらには、シアン化合物を含有した無電解金めっき液のほとんどは、例えば特許文献1に開示されているように比較的高いpHを有しているため、レジストが溶解してパターンめっき性が低下するという問題点がある。
【0007】
このような問題点を解決するため、シアン化合物を含まず、pHが中性付近であり、しかも比較的低温で使用可能な無電解金めっき液が近年開発されている。・・・これらの無電解金めっき液はそれ以前に開発されたものと比較してレジストの溶解性が低いため、パターンめっき性が改善される結果となっている。」

「【0014】
本発明によると、pH調整液中の亜硫酸塩が金の錯化剤として作用するため、アルカリ水溶液中の亜硫酸金塩が安定的に錯体化される。これにより、下記式(1);
3Au+→Au3++2Au (1)
で表される金イオン含有液中の金イオンの不均化反応の進行を抑制できるので、金イオン含有液自体の液安定性が十分に確保され、金イオンを無駄なく金めっき液に供給することが可能となる。また、かかる金イオン含有液は、そのpHを無電解金めっき液のpHと同程度に調整できるので、これを無電解金めっき液に添加してもその金めっき液のpHの変化を抑制でき、無電解金めっき液の液安定性を十分に確保することができる。」

「【0016】
この無電解金めっき方法によると、無電解金めっき液に、亜硫酸金塩のアルカリ性水溶液と亜硫酸金塩以外の亜硫酸塩及び塩酸若しくは硫酸を含むpH調整液とを混合してなる金イオン含有液を、無電解金めっき液中の金イオン濃度が所定範囲内に維持されるように添加する金濃度維持工程を備えるので、上述のように金イオンを無駄なく無電解金めっき液に供給でき、しかも無電解金めっき液の液安定性を十分に確保できる。よって、有効かつ確実に所望の金めっきを基体の導体部上に形成できる。また、無電解金めっき液、及びその金めっき液に金イオンを補充するための金イオン含有液は液安定性に優れているため、品質をさほど劣化させることなくそれらの液を長期間保存できる。これは、無電解金めっき工程のフレキシビリティを向上させることになるため、工程管理が従来よりも容易となり、生産コスト削減にも繋がる。」

「【0027】
本発明に係る金イオン含有液は、無電解金めっき液に金イオンを補充するための液であり、亜硫酸金塩を含むアルカリ性水溶液と、亜硫酸金塩以外の亜硫酸塩及び塩酸若しくは硫酸を含むpH調整液とを混合してなるものである。
【0028】
亜硫酸金塩を含むアルカリ性水溶液(以下、場合によって単に「アルカリ性水溶液」ともいう。)は亜硫酸金塩を配合していればよく、配合可能な亜硫酸金塩としては、例えば、亜硫酸金ナトリウム(Na3[Au(SO3)2])が挙げられる。上記アルカリ水溶液は市販のものでもよく、例えば、亜硫酸金ナトリウムと水酸化ナトリウムとを配合した水溶液が挙げられる。このアルカリ性水溶液が市販のものである場合、そのpHは概して13以上である。市販のアルカリ性水溶液としては、例えば日本高純度化学社製の亜硫酸金ナトリウムが挙げられる。」

「【0047】
本実施形態の無電解金めっき液再調製方法によると、pH調整液中の亜硫酸ナトリウムなどの亜硫酸塩が金の錯化剤として作用し、アルカリ水溶液中の亜硫酸金塩が安定的に錯体化される。これにより、金イオン含有液中の金イオンの不均化反応の進行を抑制でき金属の金の析出を十分防止できる。したがって、金イオン含有液中の金イオンを無駄なく金めっき液に供給することが可能となる。また、かかる金イオン含有液は、そのpHを無電解金めっき液のpHと同程度に調整できるので、これを無電解金めっき液に添加してもその金めっき液のpHの変化を抑制でき、無電解金めっき液の液安定性を十分に確保することができる。」

「【0053】
置換金めっき液は、めっき皮膜として形成されたニッケルと該金めっき液中の金イオンとの置換反応(Ni→Ni2++2e−、2Au++2e−→2Au)により、ニッケルめっき皮膜上に金めっき皮膜を形成するために従来用いられていたものであれば特に限定されない。したがって、置換金めっき液は、例えば、シアン化金ナトリウム若しくはシアン化金カリウム等のシアン化金塩(シアン系金イオン源)、或いは亜硫酸金塩、チオ硫酸金塩若しくは塩化金酸塩等の非シアン系金塩(非シアン系金イオン源)、並びに、亜硫酸塩、チオ硫酸塩、チオリンゴ酸塩若しくはカルボン酸塩等の錯化剤を必須成分として含有し、更に置換金めっき液に通常用いるその他の各種添加剤を適量含むこともできる。
【0054】
上記金塩としては、非シアン系金塩である亜硫酸金塩又は塩化金酸塩を用いることが好ましい。シアン化金塩は、非シアン系金塩と比較して、概して毒性が強く、取り扱いが比較的困難である。更に、シアン化金塩を含有した置換金めっき液は、該液中に導体である銅又はめっき皮膜を形成していたニッケル等の不純物が溶け込み易く、それにより置換金めっき皮膜のニッケルめっき皮膜への密着性が低下する傾向にある。」

「【実施例】
【0081】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、本実施例では、5cm×10cm×0.3mmの矩形を有する圧延銅板をめっき試験用のサンプル板として用いた。
・・・
【0085】
(無電解金めっき処理)
次に、置換金めっき皮膜が形成されたサンプル板を、流水により1分間水洗処理した後、ポリプロピレン製1Lビーカーに入れられた無電解金めっき液HGS−5400(日立化成工業社製、製品名)に浸漬し、65℃で40分間無電解金めっき処理を行い、0.5μm程度の膜厚を有する無電解金めっき皮膜を形成した。続いて、無電解金めっき皮膜を形成したサンプル板を一旦無電解金めっき液から引き上げ、流水による水洗処理を1分間行った。
【0086】
そして、上記無電解金めっき処理及び水洗処理を更に2回繰り返して、こうして金めっきを施されたサンプル板を得た。
【0087】
[金イオン含有液の調製]
金イオン濃度が100g/LであるpH=13.2の亜硫酸金ナトリウム水溶液250mLと、純水中に表1に示す亜硫酸塩、チオ硫酸塩及びエチレンジアミン四酢酸又はその塩を表1に示す濃度(g/L)で配合し、更に1N塩酸又は1N硫酸をpH調整液のpHが表1に示す値となるように配合したpH調整液750mLとを混合して、1Lの実施例1〜5に係る金イオン含有液を調製した。金イオン含有液のpHを表1に示す。
【0088】
【表1】

・・・
【0091】
[無電解金めっき液の再調製]
まず原子吸光分光計を用いて上述の無電解金めっき処理後の無電解金めっき液における金イオン濃度を測定した。次に無電解金めっき処理前の金イオン濃度に戻すために必要な金イオン量を、原子吸光分光計による測定結果から導出し、その金イオン量に相当する量の金イオン含有液を無電解金めっき処理後の無電解金めっき液に添加した。なお、それと同時に、金イオン含有液の添加量に対して一定の比率となるように、添加剤であるHGS−5400BE(日立化成工業社製、製品名)及び還元剤であるHGS−5400BH(日立化成工業社製、製品名)を無電解金めっき液に添加した。」

2 甲2の記載事項
甲2には以下の記載がある。

「【請求項1】
金錯イオン、水、親プロトン性溶媒および還元剤を含有してなり、親プロトン性溶媒の含有量が55〜90重量%であることを特徴とする金メッキ液。
・・・
【請求項6】
シアンを実質的に含まない請求項1乃至5のいずれか1項に記載の金メッキ液。」

「【0001】
本発明は金メッキ液および金メッキ方法に関し、特に非シアン系の電解金メッキ液と、この金メッキ液を用いた電解金メッキ方法に関する。
【0002】
金メッキ液としては、古くから、シアン系のメッキ液が知られている。シアン系の金メッキ液を用いると、緻密で表面平滑な優れた特性をもつ金メッキ膜を析出させることができる。しかも、シアン系金メッキ液は安定で、管理が容易なため、広く用いられている。しかしながら、シアンは毒性が強く、作業環境、廃液処理などに多くの問題点があった。」

「【0008】
本発明者は、上記課題について鋭意検討を行った結果、金錯イオン、水、および親プロトン性溶媒を含有してなり、親プロトン性溶媒の含有量が55〜90重量%である金メッキ液は、安定で容易にメッキを行えることを見出し、本発明を完成した。
即ち、親プロトン性溶媒の含有量を55〜90重量%とすると、金錯イオンが液中で非常に安定になるので、還元剤を添加しても金錯イオンの不安定化が起こらず、良質な金メッキ膜が得られる。
・・・」

「【0019】
本発明によれば、比較的高濃度に液中に含まれている親プロトン性溶媒の存在により、金錯イオンが液中で高度に安定化され、この結果、シアン系金メッキ液に匹敵する性能を持ちながら、シアンの毒性を持たない安定でかつ安全性が高く、取り扱い性に優れた金メッキ液が提供される。
しかも、還元剤を選択することにより、後述の実施例1のような自己触媒型の無電解メッキも、実施例4のような置換型の無電解メッキも行うことが可能となり、メッキ処理の多様化が図れる。」

「【0027】
金メッキ液中の親プロトン性溶媒の含有量は、金錯イオンの安定化のために、55重量%以上であり、70重量%以上が好ましい。また、溶質を十分に溶解させるためには水を一定量以上含有する必要があることから、親プロトン性溶媒の含有量は90重量%以下であり、85重量%以下が好ましい。」

「【0036】
本発明の金メッキ液は、実質的にシアンを含有していないので、安全性に優れ、且つ廃液処理も容易であり、環境への負荷が低い、優れた金メッキ液である。ここで「実質的にシアンを含まない」とは、シアンを金メッキの目的のために積極的に含有させないことを意味し、全く含有しないことが好ましい。例えば、本発明の金メッキ液を調製する際に、不純物としてシアンが混入した場合にも、当然、シアンの含有量は低い方が好ましく、具体的には1重量%以下、中でも0.1重量%以下、更には0.01重量%以下特に0.001重量%以下とすることが好ましい。」

3 甲3の記載事項
甲3には以下の記載がある。
「2.3 めっき浴の構成
めっきを行うための溶液を慣用的にめっき浴と呼んでいるが,その主な構成成分を表4に示す。めっきに必要なのは基本的には金属イオン(および無電解めっきの場合は還元剤)だが,多量の金属イオンが遊離状態であると浴は不安定となり,浴の分解(溶液中に微粒子状の金属が析出)など望ましくない反応を引き起こす原因となる。そこで通常は錯化剤を添加し金属イオンを錯体(キレート)化することにより安定化させている。特にAuやAgなどの貴金属系の場合には強い錯化剤が必要となるため,主にシアン系のものが用いられている。
電気化学的見地からは,錯体化することにより析出開始電位がより卑(マイナス)方向ヘシフトすることとなる(つまり,それだけ余計に還元のためのエネルギを与えないと析出反応が起こらない状態となる)。」(第618頁左欄下13行〜右欄下8行)

4 参考資料1の記載事項
参考資料1には以下の記載がある。

「[産業上の利用分野]
本発明はめっき液の濃度測定方法と濃度調整方法および濃度調整装置に関する。
[従来の技術]
一般的に、金めっきは、はんだ付け性、ワイヤボンディング性等の接続性、耐エッチング性、防錆性、電気伝導性に優れているところから、配線基板の製造において極めて重要な技術とされている。
無電解めっきに使用される金めっき液は、通常、めっき液の安定性に優れているという理由から、シアン系めっき液が用いられていた。しかし、シアン系めっき液には公害対策上問題があるため、近年、金属成分として金イオンと、金イオンと錯体を形成する配位子としてチオ硫酸イオンおよび亜硫酸イオンと、還元剤であるチオ尿素とを含む、非シアン系無電解金めっき液が提案されている。」(第3頁左上欄下3行〜右上欄第14行)

「以上のように、無電解めっきは、めっきの進行に伴い、めっき液成分のうちの金属成分と還元剤成分の両方が消費される。しかも、無電解めっき速度はめっき液成分の濃度に大きく依存することから、めっき速度を一定に維持するためには、金属成分と還元剤成分の両方について濃度を測定し、その消費量分を逐次補充する必要がある。
ここで、各成分の濃度の測定は、例えば、金属成分は原子吸光光度計を使用し、還元剤のチオ尿素はニトロプルシドナトリウム法を使用し、亜硫酸イオンとチオ硫酸イオンはイオンクロマト法を使用して行なうことができる。」(第3頁左下欄下2行〜右下欄第10行)

5 参考資料2の記載事項
参考資料2には以下の記載がある。

「【請求項1】亜硫酸系のメッキ液を用いるメッキ装置であって、メッキ槽内のメッキ液の亜硫酸イオン濃度を測定する亜硫酸イオン濃度測定部と、亜硫酸イオン濃度を所定の濃度にするための補充液の量を前記測定値をもとに算出しメッキ槽に補充液を自動的に供給する自動補充液供給部とを備えたことを特徴とするメッキ装置。
【請求項2】前記亜硫酸イオン濃度測定部がイオンクロマトグラフィ装置であることを特徴とする請求項1に記載のメッキ装置。」

「【0007】
【発明の実施の形態】本発明のメッキ装置の一例として、半導体ウェハに金メッキを施す噴流型メッキ装置をその構成を示す要部断面図である図1を参照して説明する。図2と同一部分には同一符号を付して説明を省略する。図1に示すように噴流型金メッキ装置101は、主にメッキ槽2と、メッキ用電源3と、積算電流計4と、アノード電極部5と、カソード電極部6と、メッキ液回収槽7と、第1の循環用ポンプ8と、第2の循環用ポンプ9と、フィルタ10と、メッキ槽2内のメッキ液11の亜硫酸イオン濃度を測定する亜硫酸イオン濃度測定部102と、亜硫酸イオン濃度を所定の濃度にするための補充液14の量をその測定値をもとに算出しメッキ槽2に補充液14を自動的に供給する自動補充液供給部103とで構成されている。亜硫酸イオン濃度測定部102は、メッキ槽2から常に亜硫酸イオン濃度測定のためのメッキ液11が採取できるようになっている。亜硫酸イオン濃度の測定法としては例えばイオンクロマトグラフィを用いるが測定に長時間を要しては組成が流動的なメッキ液11の管理としては不適当であるため迅速に測定できる手段がのぞましい。亜硫酸イオン濃度測定部102と測定値のやり取り可能な自動補充液供給部103は、その測定値をもとにメッキ液11中の亜硫酸イオン濃度を所定の濃度にするために必要な補充液14の量を算出し補充液14を自動的に供給する制御部104及び補充液タンク部105からなり、メッキ槽2内の亜硫酸イオン濃度を所望のタイミングで把握でき必要な量の補充液14をメッキ槽2に供給することができる。図1では、補充液14をメッキ槽2上方から供給する構成を示してあるが特にこれに限るものではなく例えばメッキ回収槽7に供給してもよい。」

「【図1】



6 参考資料3の記載事項
参考資料3には以下の記載がある。

「【0003】今日、非シアン系めっき液としては亜硫酸金錯体を主成分とする亜硫酸金めっき液が広く実用されるようになった。このように亜硫酸金めっき液は毒性がなく対環境性には十分配慮され、無公害電解金めっきが可能となった。しかし亜硫酸金めっき液は対環境性には十分配慮されてはいるが、液の安定性が十分ではなく、使用中に金属金が異常析出しやすい問題があった。その原因は亜硫酸金錯体の不安定な点に起因する。すなわち亜硫酸金錯体の安定性はシアン化金錯体に比較して圧倒的に小さい。亜硫酸金錯体は劣化分解して1価の遊離金イオンを生成し、この金イオンが不均化反応により金属金が生成する。この金属金は初期には極めて小さい微粒子であるが粒子同士の凝集により金粒子の成長が起こり、やがて通電とは無関係にめっき装置内で金属金が装置構成材料表面に異常析出する。この現象により正常な金めっきが不能になる問題があった。」

「【0010】即ち、本発明者らは、亜硫酸金錯体めっき液について詳細な検討を実施し、液の劣化に伴って、めっき液の吸光特性、pH、亜硫酸濃度および硫酸濃度が変化することを究明した。そして、めっき液の劣化が進むに従い、めっき液の特定波長の吸収強度が大きくなり、pHおよび錯体中の亜硫酸濃度が低下し、硫酸濃度が増えるので、それを劣化の度合いとして検出するものである。」

「【0018】図2は亜硫酸濃度の時間による変化を示す図である。ここで全亜硫酸はよう素滴定により測定する亜硫酸濃度、遊離亜硫酸はカチオン樹脂によるイオン排除液体クロマトグラフにより測定する亜硫酸濃度、及び錯体中亜硫酸は全亜硫酸から遊離亜硫酸を差し引いたものである。時間の経過にしたがって全亜硫酸及び遊離亜硫酸の濃度が減少していることがわかる。また錯体中亜硫酸濃度も全亜硫酸の減少と比例してほぼ一定の範囲内で減少していることがわかる。この結果から、めっき液中の全亜硫酸濃度もしくは遊離亜硫酸濃度を測定することにより金めっき液の劣化度を検出できることが明らかである。」

「【図2】



第6 当審の判断
1 申立理由1(新規性)及び申立理由2(進歩性)について
(1)甲1に記載された発明
上記第5の1に摘記した事項を総合勘案し、特に【0088】の【表1】に示される実施例5、6の金イオン含有液における各成分の濃度に注目すると、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。

「無電解金めっき液に金イオンを補充するために用いられる金イオン含有液であって、金イオン濃度が100g/LであるpH=13.2の亜硫酸金ナトリウム水溶液250mLと、純水中に亜硫酸ナトリウム10g/L、チオ硫酸ナトリウム5水和物5g/L、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム水和物10g/Lを配合し、更に1N塩酸をpH調整液のpHが8.0となるように配合したpH調整液750mLとを混合して得られた金イオン含有液。」(以下、「甲1実施例5発明」という。)

「無電解金めっき液に金イオンを補充するために用いられる金イオン含有液であって、金イオン濃度が100g/LであるpH=13.2の亜硫酸金ナトリウム水溶液250mLと、純水中に亜硫酸ナトリウム50g/L、チオ硫酸ナトリウム5水和物30g/L、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム水和物7g/Lを配合し、更に1N塩酸をpH調整液のpHが7.0となるように配合したpH調整液750mLとを混合して得られた金イオン含有液。」(以下、「甲1実施例6発明」という。)

(2)本件発明1について
ア 甲1実施例5発明との対比
本件発明1と甲1実施例5発明とを対比する。

甲1実施例5発明の「金イオン含有液」は、無電解金めっき液に金イオンを補充するために用いられることから、本件発明1の「非シアン金めっき液用補充液」と「金めっき液用補充液」という点で共通する。
甲1実施例5発明の「亜硫酸金ナトリウム」は、本件発明1の「亜硫酸金塩」に相当する。
甲1実施例5発明の「亜硫酸金ナトリウム水溶液」に含まれる「水」、及び「pH調整液750mL」に含まれる「純水」は、本件発明1の「水」に相当する。
甲1実施例5発明の「金イオン濃度」は、本件発明1の「金濃度」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲1実施例5発明とは、

「亜硫酸金塩と水とを含む、金めっき液用補充液。」

という点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1−1)
本件発明1は「シアン化物イオン濃度が1mg/L以下」であるのに対し、甲1実施例5発明はシアン化物イオン濃度について特定されていない点。

(相違点1−2)
本件発明1は「液中の金濃度と亜硫酸イオン濃度とのモル比(SO32−/Au)が2.1以上2.9以下である」であるのに対し、甲1実施例5発明は液中の金濃度と亜硫酸イオン濃度とのモル比について明示されていない点。

(相違点1−3)
本件発明1は「金めっき用補充液」が「非シアン」であるのに対し、甲1実施例5発明は「金めっき用補充液」が「非シアン」か否か不明である点。

イ 相違点についての検討
(ア)事案に鑑みて、上記相違点1−1についてまず検討する。
上記第5の1で摘記したとおり、甲1には「金イオン含有液」の「シアン化物イオン濃度が1mg/L以下」であることが直接的に記載されていない以上、甲1には相違点1−1に係る構成について直接的に記載されていない。
また、本件特許の出願時の技術常識を考慮しても、甲1実施例5発明の「金イオン含有液」が必ず「シアン化合物イオン濃度が1mg/L以下」であるとはいえない。
よって、相違点1−1は実質的な相違点である。

(イ)次に、相違点1−1の容易想到性について検討する。
a 上記第5の2で摘記したとおり、甲2にはシアンを実質的に含まないことで安全性に優れ、且つ廃液処理も容易であり、環境への負荷が低い、優れた金メッキ液であること、金メッキ液がシアンを全く含有しないことが望ましいことが記載されている。
b しかしながら、甲2の金メッキ液は「親プロトン性溶媒の含有量が55〜90重量%であること」を前提とするものであって、「安全性に優れる」という共通の機能を有するとしても、親プロトン性溶媒を含有することを要しない甲1実施例5発明の金イオン含有液とは前提が全く異なるものである。
c したがって、甲2の記載事項を参照しても、甲1実施例5発明において相違点1−1に係る構成を備えることが動機付けられるということはできない。
d また、上記第5の3で摘記した甲3の記載事項を参照しても、甲1実施例5発明において、相違点1に係る構成を備えることを動機付けるような記載を見いだせない。
e さらに、本件明細書等の【0011】、【0015】における、「金めっき液中のシアン化物イオン濃度を1mg/L以下とすることで、金めっき液のめっき性能が低下することを抑制できる」、「金めっき補充液についても金めっき液と同様に、シアン化物イオン濃度が1mg/L以下であることで、金めっき液のめっき性能が低下することを抑制できる」という記載を考慮すると、本件発明1が上記相違点1−1に係る発明特定事項を備えることにより、「金めっき液のめっき性能が低下することを抑制できる」という効果を奏すると認められる。そして、甲1実施例5発明や甲2、甲3の記載事項からこのような効果を予測することは困難であるといえる。
f したがって、甲1実施例5発明において、上記相違点1−1に係る本件発明1の発明特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(ウ)そうすると、上記相違点1−2、1−3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1実施例発明5であるとはいえず、また甲1実施例5発明と甲2、3の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 甲1実施例6発明との対比
本件発明1と甲1実施例6発明とを対比する。

甲1実施例6発明の「金イオン含有液」は、無電解金めっき液に金イオンを補充するために用いられることから、本件発明1の「非シアン金めっき液用補充液」と「金めっき液用補充液」という点で共通する。
甲1実施例6発明の「亜硫酸金ナトリウム」は、本件発明1の「亜硫酸金塩」に相当する。
甲1実施例6発明の「亜硫酸金ナトリウム水溶液」に含まれる「水」、及び「pH調整液750mL」に含まれる「純水」は、本件発明1の「水」に相当する。
甲1実施例6発明の「金イオン濃度」は、本件発明1の「金濃度」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲1実施例6発明とは、

「亜硫酸金塩と水とを含む、金めっき液用補充液。」

という点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点2−1)
本件発明1は「シアン化物イオン濃度が1mg/L以下」であるのに対し、甲1実施例6発明はシアン化物イオン濃度について特定されていない点。

(相違点2−2)
本件発明1は「液中の金濃度と亜硫酸イオン濃度とのモル比(SO32−/Au)が2.1以上2.9以下である」であるのに対し、甲1実施例6発明は液中の金濃度と亜硫酸イオン濃度とのモル比について明示されていない点。

(相違点2−3)
本件発明1は「金めっき用補充液」が「非シアン」であるのに対し、甲1実施例6発明は「金めっき用補充液」が「非シアン」か否か不明である点。

エ 相違点についての検討
(ア)相違点2−1について検討するに、上記イ(ア)、(イ)と同様の理由で、相違点2−1は実質的な相違点であり、また甲1実施例6発明において、上記相違点2−1に係る本件発明1の発明特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
(イ)そうすると、上記相違点2−2、2−3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1実施例発明6であるとはいえず、また甲1実施例6発明と甲2、3の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

オ 本件発明1についてのまとめ
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明とはいえず、また甲1に記載された発明と甲2、甲3の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)申立人の主張について
ア 申立人は、特許異議申立書の3.(4)ウ(ア)(アー1)の「相違点1について」、3.(4)ウ(ア)(アー2)の「相違点3について」、及び3.(4)ウ(イ)の「相違点5について」において、以下のとおり主張している。
(ア)本件発明1における「シアン化物イオン濃度が1mg/L以下」という発明特定事項は、本件明細書等の【0011】、【0012】の記載を考慮すると、リサイクルによって得られた金を使用し、かつ精製にシアン化カリウムなどのシアン化物を使用することが前提となっている。
(イ)しかしながら、めっきの技術分野全般において、使用する薬液の調整に使用する金化合物として、リサイクルによって得られ不純物としてのシアン化合物を含むものを用いることは一般的ではなく、通常は薬品メーカーなどが販売する一定の純度を有する金化合物が使用される。
(ウ)甲1の実施例には、金源である亜硫酸金ナトリウム水溶液として、具体的に如何なる方法で製造されたものを用いたかについて明示がない。
(エ)しかし、甲1にはシアン化物を利用した特殊な方法で製造した金を用いたとの記載は存在せず、また甲1の【0028】にも亜硫酸金ナトリウム水溶液として、日本高純度化学社製の亜硫酸金ナトリウムなど、市販のアルカリ性水溶液を使用できることが記載されている。
(オ)してみると、甲1実施例5発明及び甲1実施例6発明における亜硫酸金ナトリウム水溶液としても、シアン化物を利用したリサイクルという特殊な方法で製造したものではなく、一般的な市販の試薬が使用されていると解するのが相当であり、そうであれば本件明細書等に記載されているような金のリサイクル工程に由来するシアン化物イオンの混入が生じる余地は無いから、甲1の金めっき液用補充液におけるシアン化物イオン濃度は1mg/L以下である蓋然性が高いといえる。
(カ)またそうでないとしても、甲1実施例5発明及び甲1実施例6発明において、亜硫酸金塩を含むアルカリ性水溶液として、リサイクル品ではない市販のアルカリ性水溶液を使用することは当業者が容易になし得ることといえ、その場合には金の精製過程に由来するシアン化合物が混入する余地は無いから、シアン化物イオン濃度を1mg/L以下とすることに格別の困難性はない。
(キ)したがって、相違点1−1、相違点2−1は実質的な相違点ではないか、あるいは甲1実施例5発明、甲1実施例6発明において、相違点1−1、相違点2−1に係る構成を備えることは当業者が容易になし得ることといえる。

イ しかしながら、申立人は市販のアルカリ性水溶液がリサイクルによって得られた金を使用していないこと、及び市販のアルカリ性水溶液のシアン化物イオン濃度が1mg/L以下であることについていずれも客観的な証拠を何ら提示していないから、上記アの主張は根拠を欠くものである。

ウ そして、上記(2)において説示したとおり、本件発明1と甲1実施例5発明及び甲1実施例6発明との相違点1−1、2−1は実質的な相違点であるし、また甲1実施例5発明及び甲1実施例6発明において、仮に亜硫酸金塩を含むアルカリ性水溶液として市販のアルカリ性水溶液を使用することを当業者が容易になし得たとしても、シアン化物イオン濃度を1mg/L以下とすることに格別の困難性がないとはいえない。

エ よって、申立人の上記主張は採用することができない。

(4)申立理由1及び申立理由2についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1に記載された発明とはいえず、また甲1に記載された発明と甲2、甲3の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 申立理由3(サポート要件)について
(1)サポート要件について
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高裁平成17年(行ケ)第10042号、「偏光フィルムの製造法」事件)。そこで、この点について、以下検討する。

(2)発明の詳細な説明の記載
ア 発明が解決しようとする課題(以下、単に「課題」という。)は、「金めっき被膜のバラツキの問題を解決し得る、金めっき液及び金めっき液用補充液を提供すること」すること(【0005】)である。
イ ここで、上記「金めっき被膜のバラツキ」に関連して、亜硫酸金塩を含む金めっき液により被膜を形成した際に、形成される被膜にばらつきがあったこと、特に無電解金めっき形成において、所望の金めっき膜厚が得られない場合や、金めっき被膜の色調の不良が生じることがあったことが示されている(【0005】)。
ウ そして、金めっきを形成するに際して、金めっき液中にシアン化物イオン(CN−)が存在することで、金めっき液のめっき性能(めっき形成能)が低下することを見出したことに基づき、亜硫酸金塩と電解質と水を含む非シアン金めっき液に対して、金めっき液中のシアン化物イオン濃度を1mg/L以下とすることで、金めっき液のめっき性能が低下することを抑制できることが示されている(【0011】、【0015】)。
エ また、亜硫酸金塩と水を含む金めっき液用補充液についても、金めっき液と同様に、シアン化物イオン濃度が1mg/L以下であることで、金めっき液のめっき性能が低下することを抑制できることが示されている。(【0015】)。
オ さらに、亜硫酸イオンはめっき液の酸化還元電位に影響を及ぼすことから、金めっき液用補充液中の金濃度と亜硫酸イオン濃度とのモル比(SO32−/Au)が2.1以上2.9以下であることで、金めっき液用補充液が安定した液となり、また良好なめっき性能を発揮できることが示されている。(【0016】)。
カ また、実施例として、亜硫酸金(I)ナトリウムを金濃度で14g/L、電解質として亜硫酸ナトリウム80g/L、緩衝剤としてエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム20g/L、結晶調整剤としてギ酸タリウムを10mg/L(タリウム濃度)を水中に含み、シアン化物濃度が1.1mg/L、0.8mg/L及び0.4mg/Lである比較例1、実施例1及び実施例2の非シアン金めっき液を調整し、試験片に電解めっきを行ったところ、【表1】のとおり、シアン化物イオン濃度が1mg/Lを下回る実施例1、実施例2の非シアン金めっき液を用いた場合はめっき膜厚が9.49μm、9.50μmであったのに対し、シアン化物イオン濃度が1mg/Lを上回る比較例1の非シアン金めっき液を用いた場合はめっき膜厚が9.12μmとなったことが示されている。(【0019】〜【0021】、【表1】)
キ さらに、実施例として、金濃度を100g/Lとし、シアン化物濃度(CN−)および亜硫酸イオン濃度(SO32−)が異なる比較例2〜6及び実施例3〜7の種々の亜硫酸金(I)ナトリウム溶液を調整し、これら溶液から金濃度2g/L、pH緩衝成分としてクエン酸一水和物5.0g/L及びクエン酸三ナトリウム二水和物65.0g/L、析出促進剤としてチオ尿素0.1g/L、並びに結晶調整剤としてギ酸タリウム5mg/L(タリウム換算濃度)を含む、比較例2〜6及び実施例3〜7の無電解金めっき液を調製し、ニッケルめっき付き銅板材料をこれら無電解めっき液に浸漬して得た金めっき被膜を目視および蛍光エックス線膜厚計で確認することでめっき性能を○、△及び×で評価したこと、また、上記比較例2〜6及び実施例3〜7の亜硫酸金(I)ナトリウム溶液に対して定量ろ紙を1枚浸漬して間接加温し、浸漬した定量ろ紙の色を目視で確認して液安定性を○及び×で評価したこと、その結果、【表2】のとおり、シアン化物イオン濃度が1mg/Lを下回り、金濃度と亜硫酸イオン濃度とのモル比が2.1以上2.9以下である実施例4〜6の非シアン金めっき液についてはめっき性能及び液安定性のいずれも○となった。一方、シアン化物イオン濃度または金濃度と亜硫酸イオン濃度とのモル比の少なくとも一方が上記範囲を満たさない実施例3、7及び比較例2〜6についてはめっき性能または液安定性の少なくとも一方が△または×となったことが示されている。(【0022】〜【0025】、【表2】)

(3)検討
以上の記載を総合すると、発明の詳細な説明には、本件発明1に係る発明特定事項、すなわち、亜硫酸金塩と水とを含み、シアン化物イオン濃度が1mg/L以下であり、液中の金濃度と亜硫酸イオン濃度とのモル比(SO32−/Au)が2.1以上2.9以下であるという事項を備えることにより、膜厚が大きく、めっき性能及び液安定性に優れた非シアン金めっき液用補充液が得られ、上記(2)アの課題が解決できることが記載されているといえる。
以上によれば、本件発明1は、本件明細書等の発明の詳細な説明に記載されたものであって、当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により上記(2)アの課題を解決できると認識できる範囲のものである。
したがって、本件発明1については、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものである。

(4)申立人の主張について
ア 申立人は、特許異議申立書の3.(4)ウ(ウ)において、以下のとおり主張している。
(ア)本件発明1では非シアン金めっき液用補充液のうち亜硫酸金塩と水とを含むこと、シアン化物イオン濃度が1mg/L以下であること、及び液中の金濃度と亜硫酸イオン濃度とのモル比が2.1以上2.9以下であることが特定されているが、その他の成分については特定されておらず、シアン化物イオン濃度が1mg/L以下であるかぎりにおいて非シアン金めっき液用補充液が亜硫酸金塩と水以外にあらゆる成分を含有する場合を発明の技術的範囲に包含すると解される。
(イ)一方、本件明細書等には具体例としてエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムとギ酸タリウムを含有する場合(【0019】)、並びにクエン酸一水和物、クエン酸三ナトリウム二水和物、チオ尿素及びギ酸タリウムを含有する場合(【0023】)が記載されているのみである。
(ウ)ここで、本件明細書等には【0016】に亜硫酸イオンがめっき液の酸化還元電位に影響を及ぼすことから、金濃度と亜硫酸イオン濃度とのモル比が2.1以上2.9以下であることで、金めっき液用補充液が安定した液となり、良好なめっき性能を発揮できることが記載されている。
(エ)しかしながら、めっき液の酸化還元電位が金濃度と亜硫酸イオン濃度のみによって決まるものではなく、液中に存在するその他の成分の影響を受けることが技術常識であることを鑑みれば、本件発明1の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできない。

イ 申立人の上記アの主張について検討すると、非シアン金めっき液用補充液に上記具体例以外の成分が含まれ、それによってめっき液の酸化還元電位に影響があるとしても、形成される被膜のばらつきに顕著な影響を及ぼすことをうかがわせる具体的な根拠は認められない。また、申立人も非シアン金めっき液用補充液に具体例以外の成分が包含された場合に課題が解決できないとする客観的な証拠を何ら提示していない。

ウ よって、申立人の上記アの主張は根拠を欠くものであるから、本件発明1は、この点で、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合しないということはない。

(5)申立理由3についてのまとめ
よって、本件発明1についての特許が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。

3 申立理由4(明確性)について
(1)本件発明1の「亜硫酸イオン濃度」について
ア 申立人は特許異議申立書の3.(4)ウ(エ)において、めっき液中に含まれる亜硫酸イオンは、解離して文字通りイオンの状態で存在するもの(遊離の亜硫酸イオン)と、金に配位した状態の2つの状態を取り得ることが技術常識であるところ、本件発明1における「亜硫酸イオン濃度」についても、遊離の亜硫酸イオンのみの濃度を指すという解釈と、金に配位したものも含めたトータルの亜硫酸イオン濃度を指すという解釈の2通りの解釈が可能であるが、本件明細書等の記載を参酌しても、上記「亜硫酸イオン濃度」が上記2通りの解釈のいずれの意味と解すべきかが不明であるため、本件発明1が不明確である旨主張している。
イ これに対し、上記第5の4〜6にて摘記した、参考資料1の「金属成分として金イオンと、金イオンと錯体を形成する配位子としてチオ硫酸イオンおよび亜硫酸イオンと、還元剤であるチオ尿素とを含む、非シアン系無電解金めっき液が提案されている」「各成分の濃度の測定は・・・亜硫酸イオンとチオ硫酸イオンはイオンクロマト法を使用して行なうことができる。」との記載、参考資料2の「亜硫酸イオン濃度の測定法としては例えばイオンクロマトグラフィを用いる」との記載、参考資料3の「非シアン系めっき液としては亜硫酸金錯体を主成分とする亜硫酸金めっき液が広く実用されるようになった」「遊離亜硫酸はカチオン樹脂によるイオン排除液体クロマトグラフにより測定する亜硫酸濃度」との記載を考慮すると、金めっき液中の亜硫酸イオン濃度の測定にイオンクロマトグラフィを用いること、イオンクロマトグラフィにより遊離亜硫酸の濃度が測定されることはいずれも技術常識であると認められる。
ウ そして、上記技術常識を参酌すれば、本件発明1における「亜硫酸イオン濃度」についても、イオンクロマトグラフィによって測定された遊離の亜硫酸イオン濃度を指すと解するのが相当といえるから、この点で、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号の要件に適合しないということはない。

(2)申立理由4についてのまとめ
よって、本件発明1は明確であるから、同発明に係る特許が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、申立人が主張する申立理由によっては、本件発明1についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-08-19 
出願番号 P2021-028554
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C25D)
P 1 651・ 113- Y (C25D)
P 1 651・ 121- Y (C25D)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 粟野 正明
特許庁審判官 境 周一
佐藤 陽一
登録日 2021-10-01 
登録番号 6953068
権利者 松田産業株式会社
発明の名称 亜硫酸金塩を含む金めっき液、及び亜硫酸金塩を含む金めっき液用補充液  
代理人 特許業務法人秀和特許事務所  

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