ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 A47G 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A47G 審判 全部無効 1項2号公然実施 A47G |
---|---|
管理番号 | 1388684 |
総通号数 | 10 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-10-28 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2020-02-14 |
確定日 | 2022-03-31 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第6521554号発明「衣服用ハンガー及び衣服用ハンガーの製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第6521554号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−3〕について訂正することを認める。 特許第6521554号の請求項1,3についての審判請求は成り立たない。 特許第6521554号の請求項2についての審判請求を却下する。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6521554号の請求項1〜請求項3に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2018年(平成30年)9月12日(優先権主張 2018年6月15日)を国際出願日とする出願であって、令和元年5月10日に特許権の設定登録(請求項の数3)がされたものである。 そして、令和2年2月14日に請求人日本コパック株式会社(以下、「請求人」という。)より請求項1〜3に係る特許について特許無効審判が請求され、令和2年7月22日に被請求人株式会社チャナカンパニー(以下、「被請求人」という。)より審判事件答弁書が提出された。その後、令和2年9月11日付けで審理事項通知書が通知され、令和2年10月27日に請求人より口頭審理陳述要領書、証人尋問申出書及び尋問事項書が提出され、令和2年11月17日に被請求人より口頭審理陳述要領書が提出された。さらに、令和2年12月1日に口頭審理及び証拠調べ(証人尋問)が行われ、令和2年12月22日に請求人より上申書が提出され、令和3年1月12日に被請求人より上申書が提出された。その後、令和3年4月28日付けで審決の予告がされ、令和3年8月6日に被請求人より訂正請求書が提出され、令和3年9月27日に請求人より弁駁書が提出され、令和3年10月11日付けの補正許否の決定により、令和3年9月27日に提出された弁駁書による請求の理由の補正が許可された。そして、令和3年12月10日に被請求人より答弁書が提出され、令和3年12月17日に請求人より上申書が提出され、令和3年12月28日に被請求人より上申書が提出された。 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 被請求人が令和3年8月6日にした訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである(下線は、訂正箇所を当審で付したものである。)。 (1)訂正事項1 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に 「フック部と本体部とを備える衣服用ハンガーであって、 前記本体部は、 前記フック部が固定される中心部と、前記中心部に対して対称に形成される一対の肩支持部が、プラスチック樹脂によって合わせ目を有さない単一の部材として形成されており、 前記中心部において屈曲し、一方の前記肩支持部の端部近傍から、他方の前記肩支持部の端部近傍へ向かう空間部が形成されており、 前記中心部において、前記フック部が固定される領域には、前記空間部が形成されておらず、 前記中心部における前記空間部の上方の壁の厚さは、前記肩支持部における前記空間部の上方の壁の厚さよりも大きく構成されており、 前記本体部の全体にわたって、前記空間部の上方の壁の厚さは、前記空間部の下方の壁の厚さよりも大きく構成されている、衣服用ハンガー。」 とあるのを、 「フック部と本体部とを備える衣服用ハンガーであって、 前記本体部は、 前記フック部が固定される中心部と、前記中心部に対して対称に形成される一対の肩支持部が、プラスチック樹脂によって合わせ目を有さない単一の部材として形成されており、 前記中心部において屈曲し、一方の前記肩支持部の端部近傍から、他方の前記肩支持部の端部近傍へ向かう空間部が形成されており、 前記中心部において、前記フック部が固定される領域には、前記空間部が形成されておらず、 前記中心部における前記空間部の上方の壁の厚さは、前記肩支持部における前記空間部の上方の壁の厚さよりも大きく構成されており、 前記本体部の全体にわたって、前記空間部の上方の壁の厚さは、前記空間部の下方の壁の厚さよりも大きく構成されており、 前記フック部は、衣服を吊り下げる上側部分と、前記中心部に固定される下側部分で構成され、 前記下側部分は、複数の環状部が形成された直線部と、前記環状部の上方に位置し、直径が拡大した拡径部で構成され、前記環状部は、上面から下方に向かって縮径する傾斜面を有し、 前記環状部の前記上面及び前記傾斜面、及び、前記拡径部の上面及び下面は、前記中心部を構成する前記プラスチック樹脂と接している、 衣服用ハンガー。」 と訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3も同様に訂正する。)。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (3)訂正事項3 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3に 「衣類を吊り下げる吊り下げ部と、前記肩支持部の端部近傍の下部に固定される一対の固定軸部を有するアンダーバーを有し、 前記固定軸部には、直径が拡大した拡大部が形成されており、 前記拡大部の上面及び下面は、前記肩支持部を構成する前記プラスチック樹脂と接している、 請求項1または請求項2のいずれかに記載の衣服用ハンガー。」 とあるのを、 「衣類を吊り下げる吊り下げ部と、前記肩支持部の端部近傍の下部に固定される一対の固定軸部を有するアンダーバーを有し、 前記固定軸部には、直径が拡大した拡大部が形成されており、 前記拡大部の上面及び下面は、前記肩支持部を構成する前記プラスチック樹脂と接している、 請求項1に記載の衣服用ハンガー。」 と訂正する。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、独立特許要件 (1)訂正事項1 ア 訂正の目的の適否 訂正事項1に係る請求項1についての訂正は、本件訂正前の請求項1に記載された「フック部」について、「前記フック部は、衣服を吊り下げる上側部分と、前記中心部に固定される下側部分で構成され、前記下側部分は、複数の環状部が形成された直線部と、前記環状部の上方に位置し、直径が拡大した拡径部で構成され、前記環状部は、上面から下方に向かって縮径する傾斜面を有し、前記環状部の前記上面及び前記傾斜面、及び、前記拡径部の上面及び下面は、前記中心部を構成する前記プラスチック樹脂と接している」ことを限定するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項の有無 本件特許の特許請求の範囲、明細書又は図面(以下、「特許明細書等」といい、このうち明細書については「特許明細書」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同様である。)。 (ア)「【0010】第三の発明は、第一の発明または第二の発明の構成において、前記フック部は、衣服を吊り下げる上側部分と、前記中心部に固定される下側部分で構成され、前記下側部分には、直径が拡大した拡径部が形成されており、前記拡径部の上面及び下面は、前記中心部を構成する前記プラスチック樹脂と接している、衣服用ハンガーである。」 (イ)「【0027】上述のように、中心部4aにおいて、フック部2が固定される領域には、空間部4dは形成されていない。このため、フック部2は、プラスチック樹脂のみで形成されている領域H1に強固に固定される。」 (ウ)「【0029】図7に示すように、フック部2の上側部分は、吊下げ用のバー(図示せず)に吊り下げるための開口環状部2c及び直線部2dで構成される。フック部2の下側部分は、複数の環状部2b1が形成された直線部2bと拡径部2aで構成される。環状部2b1は、上側の面から下側の面に向かって傾斜している。」 (エ)「【0031】本体部4を成形した後、本体部4を金型から取り出し、プラスチック樹脂が完全に固化する前に、フック部2を本体部4に差しこむと、図9(a)の断面図及び平面図に示すように、本体部4には孔J1が生じるのであるが、極めて短時間において、図9(b)に示すように、拡径部2aを含むフック部2は溶融状態のプラスチック樹脂に覆われる。フック部2を本体部4に差しこむ条件によっては、拡径部2aの上面2aa(図7)において、直線部2dの近傍はプラスチック樹脂に覆われない場合もあるが、その場合であっても、上面2aaの一部はプラスチック樹脂に覆われる。」 (オ)「【0032】あるいは、本体部4を成形した後、本体部4を金型から取り出し、プラスチック樹脂が固化した後に、フック部2をプラスチック樹脂の融点以上の温度に熱して本体部4に差しこむことによって、フック部2が本体部4を溶融状態にしつつ、本体部4の内部に入り込むことができる。いずれの場合においても、フック部2が本体部4に差しこまれた後に、直線部2bと拡径部2aが溶融状態のプラスチック樹脂で覆われ、フック部2は強固に固定される。すなわち、プラスチック樹脂が固化した後において、フック部2の上面2aa及び下面2ab(図7参照)は、プラスチック樹脂と接しているから、本体部4におけるフック部2の上下方向の位置は強固に固定される。」 そして、前記(ア)によると、訂正事項1により本件訂正後の請求項1に記載された「前記フック部は、衣服を吊り下げる上側部分と、前記中心部に固定される下側部分で構成され」るという事項は、特許明細書等に開示されているといえる。 また、前記(ウ)によると、フック部2の下側部分は、複数の環状部2b1が形成された直線部2bと、拡径部2aで構成され、環状部2b1は、上側の面から下側の面に向かって傾斜していることが把握でき、この上側の面から下側の面に向かって傾斜している部分は、上面から下方に向かって縮径する傾斜面からなるといえる。そして、前記拡径部2aは、前記(ア)によると、直径が拡大したものであることが把握でき、また、前記(ウ)において、「図7に示すように」という記載とともに、フック部2の説明がされているところ、図7の図示内容から、拡径部2aが複数の環状部2b1の上方に位置していることが看取できる。 これらの事項を考慮すると、訂正事項1により本件訂正後の請求項1に記載された「前記下側部分は、複数の環状部が形成された直線部と、前記環状部の上方に位置し、直径が拡大した拡径部で構成され、前記環状部は、上面から下方に向かって縮径する傾斜面を有」するという事項は、特許明細書等に開示されているといえる。 そして、前記(ア)、(イ)、(エ)及び(オ)によると、拡径部2aの上面2aa及び下面2abは、中心部4aを構成するプラスチック樹脂と接していることが把握できる。また、前記したように、前記(ウ)によると、環状部2b1は、上面と傾斜面とを備えているといえ、この環状部2b1が形成される直線部2bは、前記(オ)によると、溶融状態のプラスチック樹脂で覆われ、その後、該プラスチック樹脂が固化するから、図3及び図9(b)の図示内容も考慮すると、環状部2b1の上面及び傾斜面も中心部4aを構成するプラスチック樹脂と接していることは明らかである。 これらの事項を考慮すると、訂正事項1により本件訂正後の請求項1に記載された「前記環状部の前記上面及び前記傾斜面、及び、前記拡径部の上面及び下面は、前記中心部を構成する前記プラスチック樹脂と接している」という事項は、特許明細書等に開示されているといえる。 そして、請求人は、令和3年9月27日に提出した弁駁書第1ページ下から6行〜第2ページ下から2行において、本件訂正後の請求項1において、「拡径部」と「環状部」との形状上の区別がされておらず、複数の環状部のみを備えた構成を含むものであり、このような構成については特許明細書から自明なものではなく、新たな技術的事項を導入するものである旨、主張しているが、後述する第6 3(1)ウ(イ)aに示すように、本件訂正後の請求項1に記載された拡径部は、その上面及び下面に、傾斜面を有さず、環状部とは形状や作用等が異なるものといえ、本件訂正後の請求項1の記載は、複数の環状部のみを備えた構成を含むものとはいえない。そして、本件訂正後の請求項1に記載された「前記フック部は、衣服を吊り下げる上側部分と、前記中心部に固定される下側部分で構成され、前記下側部分は、複数の環状部が形成された直線部と、前記環状部の上方に位置し、直径が拡大した拡径部で構成され、前記環状部は、上面から下方に向かって縮径する傾斜面を有し、前記環状部の前記上面及び前記傾斜面、及び、前記拡径部の上面及び下面は、前記中心部を構成する前記プラスチック樹脂と接している」という事項は、前記のとおり、特許明細書等に開示されているといえる。 よって、請求人の前記主張は採用できない。 したがって、訂正事項1は、特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。 ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1に係る請求項1についての訂正は、前記アで検討したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。 エ 独立特許要件 本件特許無効審判事件においては、本件訂正前の請求項1〜3について無効審判の請求の対象とされているので、訂正事項1に関して、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 (2)訂正事項2 訂正事項2に係る請求項2についての訂正は、本件訂正前の請求項2を削除するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項2に係る請求項2についての訂正が、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかであるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 また、本件特許無効審判事件においては、本件訂正前の請求項1〜3について無効審判の請求の対象とされているので、訂正事項2に関して、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 (3)訂正事項3 訂正事項3に係る請求項3についての訂正は、本件訂正前の請求項2の削除に伴い、引用する請求項の数を削減するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項3に係る請求項3についての訂正が、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかであるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 また、本件特許無効審判事件においては、本件訂正前の請求項1〜3について無効審判の請求の対象とされているので、訂正事項3に関して、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 3 一群の請求項ごとに訂正を請求することについて 本件訂正前の請求項2及び請求項3は、本件訂正前の請求項1を直接的又は間接的に引用したものであるから、本件訂正前の請求項1〜請求項3は、特許法施行規則第45条の4に規定する関係を有する一群の請求項を構成する。そして、本件訂正請求は、訂正事項1〜訂正事項3により、本件訂正前の請求項1〜請求項3の記載を訂正しようとするものであり、一群の請求項1〜請求項3に対して請求されている。 したがって、本件訂正請求は特許法第134条の2第3項の規定に適合するものである。 4 小括 前記のとおり、訂正事項1〜訂正事項3に係る訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合し、さらに、同法第134条の2第3項の規定に適合する。 したがって、特許請求の範囲を、令和3年8月6日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−3〕について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件特許発明 本件訂正請求により訂正された請求項1,3に係る発明(以下、「本件特許発明1」、「本件特許発明3」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1,3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 フック部と本体部とを備える衣服用ハンガーであって、 前記本体部は、 前記フック部が固定される中心部と、前記中心部に対して対称に形成される一対の肩支持部が、プラスチック樹脂によって合わせ目を有さない単一の部材として形成されており、 前記中心部において屈曲し、一方の前記肩支持部の端部近傍から、他方の前記肩支持部の端部近傍へ向かう空間部が形成されており、 前記中心部において、前記フック部が固定される領域には、前記空間部が形成されておらず、 前記中心部における前記空間部の上方の壁の厚さは、前記肩支持部における前記空間部の上方の壁の厚さよりも大きく構成されており、 前記本体部の全体にわたって、前記空間部の上方の壁の厚さは、前記空間部の下方の壁の厚さよりも大きく構成されており、 前記フック部は、衣服を吊り下げる上側部分と、前記中心部に固定される下側部分で構成され、 前記下側部分は、複数の環状部が形成された直線部と、前記環状部の上方に位置し、直径が拡大した拡径部で構成され、前記環状部は、上面から下方に向かって縮径する傾斜面を有し、 前記環状部の前記上面及び前記傾斜面、及び、前記拡径部の上面及び下面は、前記中心部を構成する前記プラスチック樹脂と接している、 衣服用ハンガー。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 衣類を吊り下げる吊り下げ部と、前記肩支持部の端部近傍の下部に固定される一対の固定軸部を有するアンダーバーを有し、 前記固定軸部には、直径が拡大した拡大部が形成されており、 前記拡大部の上面及び下面は、前記肩支持部を構成する前記プラスチック樹脂と接している、 請求項1に記載の衣服用ハンガー。」 第4 請求人が主張する無効理由の概要及び証拠方法 1 無効理由の概要 請求人は、本件特許の請求項1〜3に係る特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、以下の無効理由を主張している。なお、以下の(3)〜(5)については、令和3年10月11日付けの補正許否の決定により補正が許可されたものである。 [無効理由] (1)[新規性、進歩性]本件特許発明1は、甲第1の1号証〜甲第1の4号証から把握される発明であるから、本件特許の優先日前に日本国内において公然に実施された発明である。仮に、本件特許発明1が、甲第1の1号証〜甲第1の4号証から把握される発明と構成上の差異があるとしても、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものである。 したがって、本件特許発明1は、特許法第29条第1項第2号に規定される発明に該当するものであり、又は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許発明1に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 (2)[進歩性]本件特許発明2及び本件特許発明3は、甲第1の1号証〜甲第1の4号証から把握される発明を主引用発明とし、甲第2号証に記載された発明との組み合わせにより、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、本件特許発明2及び本件特許発明3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許発明2及び本件特許発明3に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 (3)[進歩性]本件特許発明1は、甲第1の1号証〜甲第1の4号証から把握される発明を主引用発明とし、甲第4号証又は甲第5号証に記載された発明との組み合わせにより、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、本件特許発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許発明1に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 (4)[進歩性]本件特許発明3は、甲第1の1号証〜甲第1の4号証から把握される発明を主引用発明とし、甲第2号証に記載された発明、及び甲第4号証又は甲第5号証に記載された発明との組み合わせにより、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、本件特許発明3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許発明3に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 (5)[サポート要件]本件特許発明1は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反するものであるから、本件特許発明1に係る特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。 2 証拠方法 請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。なお、以下の甲第4号証、甲第5号証は、令和3年10月11日付けの補正許否の決定により補正が許可され、追加されたものである。 (1)書証 甲第1の1号証:中空トップス(セオリー型)w400t10の図面 甲第1の2号証:発注書 甲第1の3号証:公証書(証拠保全) 甲第1の4号証:DVDディスク(証拠保全) 甲第1の5号証:公証書(周社長の調書) 甲第1の6号証:INVOICE(送り状) 甲第1の7号証:輸入許可通知書 甲第1の8号証:売上伝票(控) 甲第1の9号証:金型申請書 甲第1の9の1号証:日本コパック株式会社グループ・組織図 甲第1の10号証:陳述書(鈴木竜介) 甲第1の11号証:甲第1の1号証の図面データが格納されたフォルダのファイル表示画面 甲第1の12号証:日本コパック株式会社の社内システムの表示画面 甲第1の13号証:2017年8月17日付け電子メール 甲第1の14号証:甲第1の9号証のエクセルデータが格納されたフォルダのファイル表示画面 甲第2号証:実願平2−3260号(実開平3−94177号)のマイクロフィルム 甲第3号証:鑑定書(東京工業大学 工学院 機械系 准教授 齊藤卓志) 甲第4号証:実用新案登録第2584460号公報 甲第5号証:実願平2−9177号(実開平3−101272号)のマイクロフィルム 以下、「甲第1の1号証」については、「甲1の1」と表記し、「甲第1の2号証」、「甲第2号証」等についても同様に、「甲1の2」、「甲2」等と表記する。 また、これらの証拠方法(書証)のうち、少なくとも甲2については、当事者間に成立の争いはない(第1回口頭審理調書及び証拠調べ調書の「被請求人」欄の「3」)。 (2)人証 証人:菅淳一(日本コパック株式会社 ハンガー製品本部 マネージャー) 第5 被請求人の主張の概要及び証拠方法 1 被請求人の主張の概要 これに対し、被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めている。 2 証拠方法 被請求人が提出した証拠方法(書証)は、以下のとおりである。 乙第1号証:株式会社ジーユー宛て書状 乙第2号証:株式会社ファーストリテイリングからの書状 乙第3号証:陳述書(サカエ株式会社 代表取締役 松岡隆永) 乙第4号証:陳述書(株式会社フジクラ 代表取締役 後藤照義) 以下、「乙第1号証」については、「乙1」と表記し、「乙第2号証」等についても同様に、「乙2」などと表記する。 また、これらの証拠方法(乙1〜乙4)のうち、少なくとも乙1及び乙2については、当事者間に成立の争いはない(第1回口頭審理調書及び証拠調べ調書の「請求人」欄の「3」)。 第6 当審の判断 1 請求人提出の証拠の記載内容等 (1)書証 請求人が提出した書証には、以下の事項が記載されている。 ア 甲1の1、甲1の2 (ア)甲1の1について 甲1の1は、請求人が2017年6月7日に作成した「中空トップス(セオリー型)w400t10」についての図面の写しである。 なお、被請求人は、甲1の1について、署名又は押印がされていないことを理由に成立を認めていない(第1回口頭審理調書及び証拠調べ調書の「被請求人」欄の「3」)が、甲1の11の記載(後記するコ(イ)a)及び証人菅淳一の証言(後記する(2)ア(イ)、(エ)及び(オ))によると、甲1の1の電子データは、請求人により、更新日時を2017年6月7日として、クラウド上に保管されているものと認められ、また、甲1の1が真正に成立したものでないとする特段の理由もないから、甲1の1は、真正に成立したものと推定される。 (イ)甲1の1に記載された事項 甲1の1には、以下の事項が記載されている。 a 甲1の1の図面 b 甲1の1の右下側には、「DESIGN」と記載された行に、「所属」として「企画部」、「氏名」として「槻木澤 美華」、「日付」として「20170607」の文字が看取され、「MD」と記載された行に、「所属」として「生産部」、「氏名」として「菅 淳一」の文字が看取され、「SALES」と記載された行に、「所属」として「営業部」、「氏名」として「星野 晃宏」の文字が看取される。さらに、甲1の1の右下側には、「gu 御中」の文字、「名称」として「中空トップス(セオリー型)w400t10」の文字が看取される。 c 甲1の1の右下側には、「仕上げ」欄に「20170519 フック 回転式→固定式へ変更」の文字が看取される。 d 甲1の1の右側の断面図には、「A−A」及び「中空構造」の文字が看取される。 e 甲1の1の右側中央のハンガーの平面図によると、ハンガーの左端から右端までの寸法について、「399.16」の文字が看取される。 (ウ)甲1の2について 甲1の2は、請求人が2017年7月14日に作成した、左上側に甲1の1と同じ図面が記載された発注書の写しである。 なお、被請求人は、甲1の2について、署名又は押印がされていないことを理由に成立を認めていない(第1回口頭審理調書及び証拠調べ調書の「被請求人」欄の「3」)が、甲1の12の記載(後記するサ(イ)a)及び証人菅淳一の証言(後記する(2)ア(カ))によると、甲1の2の電子データは、発注日を2017年7月14日として、上海の請求人関連会社に置いてあるサーバー上に保管されているものと認められ、また、甲1の2が真正に成立したものでないとする特段の理由もないから、甲1の2は、真正に成立したものと推定される。 (エ)甲1の2に記載された事項 甲1の2には、以下の事項が記載されている。 a 甲1の2の発注書 b 甲1の2の上側には、「依頼日」として「2017年7月14日」の文字が看取され、また、「2017.5.31改 Nippon Copack Inc.」の文字が看取される。 c 甲1の2の下側には、「型式」欄に「GTH−400」、「材質」欄に「PP 木シボ」の文字が看取される。 d 甲1の2の右側には、「営業担当」欄に「星野」、「上海担当」欄に「近藤 仁」、「商品名」欄に「GTH_400中空成形ハンガーMW共有」、「ユーザー名」欄に「GU」、「ブランド名」欄に「GU」の文字が看取される。 (オ)甲1の1及び甲1の2から把握される事項 a 前記(エ)dによると、甲1の2には、「GTH_400中空成形ハンガーMW共有」と記載され、前記(イ)bによると、甲1の1には、「中空トップス(セオリー型)w400t10」と記載されているから、甲1の1及び甲1の2から把握されるハンガーは、トップス用の中空成形ハンガーであるといえる。 b 前記(イ)aに示した甲1の1の図面、及び前記(イ)cによると、固定式のフックを備えることが把握でき、中空成形ハンガーは、このフックと本体とから構成されているといえるから、中空成形ハンガーは、フックと本体とを備えることが把握できる。 c 前記(イ)aに示した甲1の1の図面に図示された中空成形ハンガーの形状、及び前記(イ)cによると、その本体は、フックが中心部に固定され、この中心部に対して対称に一対の傾斜部分が形成されているといえる。そして、この一対の傾斜部分は、その機能を考慮すると、トップスの肩の部分を支持する部分であるから、肩支持部であるといえる。また、前記(エ)cには、材質として、「PP 木シボ」と記載されており、成形品におけるPPとは、一般にポリプロピレンを意味していると解されるから、中空成形ハンガーの本体は、ポリプロピレンから形成されているといえる。すると、中空成形ハンガーの本体は、フックが固定される中心部と、前記中心部に対して対称に形成される一対の肩支持部が、ポリプロピレンによって形成されているといえる。 d 前記(イ)aに示した甲1の1の図面に図示された断面図及び前記(イ)dによると、この断面図は、甲1の1の図面に図示された中空成形ハンガーのA−A部分、つまり肩支持部の断面図であり、かつ肩支持部の先端側から見た断面図であるといえ、中空成形ハンガーの本体における肩支持部には、その断面に肩支持部の先端側から把握できる中空構造が形成されているから、本体は、肩支持部に沿った空間部が形成されているといえる。 e 前記(イ)aに示した甲1の1の図面に図示されたフックの形状等を考慮すると、フックは、吊り下げのための上側部分と、中心部に固定される下側部分で構成されているといえる。 以上を総合すると、甲1の1及び甲1の2から、次の事項(以下、「発注書ハンガー」という。)を把握することができる。 [発注書ハンガー] フックと本体とを備えるトップス用の中空成形ハンガーであって、 前記本体は、 前記フックが固定される中心部と、前記中心部に対して対称に形成される一対の肩支持部が、ポリプロピレンによって形成されており、 肩支持部に沿った空間部が形成されており、 前記フックは、吊り下げのための上側部分と、前記中心部に固定される下側部分で構成されている、 トップス用の中空成形ハンガー。 イ 甲1の3、甲1の4 (ア)甲1の3について 甲1の3は、中華人民共和国上海市東方公証処所属の公証人 黄欣が、申請者である上海鴻羽来貿易有限公司の申請に基づき、2019年10月22日に上海鴻雲塑▲有限公司(注:▲は、「月(にくづき)」の右に「交」。以下、同様である。また、この有限公司を、以下、「上海鴻雲社」という。)において行われた証拠保全の現場に立ち会い、甲1の3に添付される写真のプリントの内容及び甲1の4のDVDディスクに保存された動画の内容が現場の状況と相違ないことを証明する、2019年11月6日に作成した公証書である。 なお、被請求人は、甲1の3について、署名又は押印がされていないことを理由に成立を認めていない(第1回口頭審理調書及び証拠調べ調書の「被請求人」欄の「3」)が、甲1の3は、中華人民共和国上海市東方公証処所属の公証人 黄欣の署名及び押印がされており、また、甲1の3が真正に成立したものでないとする特段の理由もないから、甲1の3は、真正に成立したものと推定される。 (イ)甲1の3に記載された事項 甲1の3には、以下の写真のプリントが添付されている。 a 添付された写真のプリントの第4ページ上 b 添付された写真のプリントの第5ページ下 c 添付された写真のプリントの第7ページ下 d 添付された写真のプリントの第8ページ上 e 添付された写真のプリントの第8ページ下 f 添付された写真のプリントの第9ページ上 g 添付された写真のプリントの第11ページ下 h 添付された写真のプリントの第15ページ下 i 添付された写真のプリントの第16ページ上 j 添付された写真のプリントの第16ページ下 k 添付された写真のプリントの第17ページ上 l 添付された写真のプリントの第17ページ下 m 添付された写真のプリントの第18ページ上 n 添付された写真のプリントの第18ページ下 o 添付された写真のプリントの第19ページ上 (ウ)甲1の4について 甲1の4は、中華人民共和国上海市東方公証処所属の公証人 黄欣が、申請者である上海鴻羽来貿易有限公司の申請に基づき、2019年10月22日に上海鴻雲社において行われた証拠保全の現場に立ち会い、2019年11月6日に作成した公証書(甲1の3)に添付された、証拠保全時に撮影された動画が保存されたDVDディスクである。 なお、被請求人は、甲1の4について、署名又は押印がされていないことを理由に成立を認めていない(第1回口頭審理調書及び証拠調べ調書の「被請求人」欄の「3」)が、甲1の4は、中華人民共和国上海市東方公証処所属の公証人 黄欣の署名及び押印がされた公証書(甲1の3)に添付されたものであり、また、甲1の4が真正に成立したものでないとする特段の理由もないから、甲1の4は、真正に成立したものと推定される。 (エ)甲1の4に保存された動画 a 動画の00:17:04〜00:18:31 上海鴻雲社の工場内のパソコンが操作されて開かれたエクセルファイルの593行に「HY17046」、「GTH−400」及び「2017/6/13」の文字が表示されていることが看取される。 b 動画の00:19:57〜00:22:41 上海鴻雲社の工場内のパソコンが操作されて、プリンタで印刷された表に「HY17046」、「GTH−400」及び「2017/6/13」の文字が記載されていることが看取される。 c 動画の00:25:17〜00:26:24 「HY17046」の文字が刻印され、「GTH−400」の文字が書かれた金型が看取される。 d 動画の00:28:15〜00:35:29 前記cの金型が射出成形のための装置内にセットされたことが看取される。 e 動画の00:53:16〜00:55:03 前記cの金型にフックがセットされたことが看取される。 f 動画の00:56:06〜01:10:02 前記dの射出成形のための装置によりハンガーが製造されたことが看取される。 g 動画の01:10:06〜01:10:43 前記fにおいて製造されたハンガーが、万力の近くまで運ばれたことが看取される。 h 動画の01:12:08〜01:18:23 前記gの万力で固定されたハンガーを9つの部分に切断したことが看取される。 i 動画の01:18:24〜01:23:12 前記hにおいて切断された9つの部分の断面が看取され、本体の一方の傾斜部分の端部近傍から、他方の傾斜部分の端部近傍へ向かう空間部が形成されていることが看取される。また、本体の中心部におけるフックが取り付けられる領域には、空間部が形成されていないこと、中心部における空間部の上方の壁の厚さが、傾斜部分における空間部の上方の壁の厚さよりも大きいこと、及び本体の全体にわたって、空間部の上方の壁の厚さが、空間部の下方の壁の厚さよりも大きいことが看取される。 j 動画の01:23:13〜01:23:19 フックと、フックが取り付けられた中心部との間に力を加えても、フックと中心部との位置関係が変化しないことからみて、フックが本体の中心部に固定されていることが看取される。 (オ)甲1の3及び甲1の4から把握される事項 a 前記(イ)b、c、d、e及びfの写真のプリント、並びに前記(エ)c、d及びfの動画によると、「HY17046」の刻印が施され、「GTH−400」の文字が書かれた金型を用いてハンガーが製造されたことが把握できる。また、前記(イ)aの写真のプリント、並びに前記(エ)a及びbの動画によると、金型「HY17046」は、「GTH−400」という名称のハンガーを製造するためのものであることが把握できる。すると、甲1の3及び甲1の4から把握されるハンガーは、金型「HY17046」を用いて製造された、名称が「GTH−400」のハンガーであるといえる。 b 前記(イ)gの写真のプリント、並びに前記(エ)e及びfの動画によると、ハンガーは、フックと本体とを備えることが把握できる。 c 前記(イ)gの写真のプリント、並びに前記(エ)f及びjの動画によると、ハンガーの本体は、フックが中心部に固定され、この中心部に対して対称に一対の傾斜部分が形成されているとともに、この中心部と一対の傾斜部分とが合わせ目を有さない単一の部材として形成されていることが把握できる。そして、この一対の傾斜部分は、その機能を考慮すると、トップスの肩の部分を支持する部分であるから、肩支持部であるといえる。すると、ハンガーの本体は、フックが固定される中心部と、前記中心部に対して対称に形成される一対の肩支持部が、合わせ目を有さない単一の部材として形成されているといえる。 d 前記(イ)h、i、j、k、l、m、n及びoの写真のプリント、並びに前記(エ)h及びiの動画によると、本体の一方の肩支持部の端部近傍から、他方の肩支持部の端部近傍へ向かう空間部が形成されていることが把握でき、ハンガーの形状が、中心部で屈曲していることを考慮すると、この空間部は、中心部において屈曲し、一方の肩支持部の端部近傍から、他方の肩支持部の端部近傍へ向かって形成されているといえる。 e 前記(イ)h、i、j、k、l、m、n及びoの写真のプリント、並びに前記(エ)h、i及びjの動画によると、本体の中心部において、フックが固定される領域には、空間部が形成されておらず、中心部における空間部の上方の壁の厚さは、肩支持部における空間部の上方の壁の厚さよりも大きく構成され、本体の全体にわたって、空間部の上方の壁の厚さは、空間部の下方の壁の厚さよりも大きく構成されているといえる。 f 前記(イ)g及びkの写真のプリント、並びに前記(エ)e、i及びjの動画に示されたフックの形状等を考慮すると、フックは、吊り下げのための上側部分と、中心部に固定される下側部分で構成されているといえる。 以上を総合すると、甲1の3及び甲1の4から、次の事項(以下、「証拠保全ハンガー」という。)を把握することができる。 [証拠保全ハンガー] フックと本体とを備える、金型「HY17046」を用いて製造された、名称が「GTH−400」のハンガーであって、 前記本体は、 前記フックが固定される中心部と、前記中心部に対して対称に形成される一対の肩支持部が、合わせ目を有さない単一の部材として形成されており、 前記中心部において屈曲し、一方の前記肩支持部の端部近傍から、他方の前記肩支持部の端部近傍へ向かう空間部が形成されており、 前記中心部において、前記フックが固定される領域には、前記空間部が形成されておらず、 前記中心部における前記空間部の上方の壁の厚さは、前記肩支持部における前記空間部の上方の壁の厚さよりも大きく構成されており、 前記本体の全体にわたって、前記空間部の上方の壁の厚さは、前記空間部の下方の壁の厚さよりも大きく構成されており 前記フックは、吊り下げのための上側部分と、前記中心部に固定される下側部分で構成されている、 ハンガー。 ウ 甲1の5 (ア)甲1の5について 甲1の5は、中華人民共和国上海市東方公証処所属の公証人 黄欣が、申請者である上海漢之弁護士事務所の申請に基づき、2019年10月29日に上海市東方公証処において申請者の委託代理人である梁海蓮が周鴻康に対して尋問を行った現場に立ち会い、当該尋問が行われ、甲1の5に添付される調書が作成され、梁海蓮と周鴻康が即座に当該調書に署名したことを証明する、2019年11月6日に作成した公証書である。 なお、被請求人は、甲1の5について、署名又は押印がされていないことを理由に成立を認めていない(第1回口頭審理調書及び証拠調べ調書の「被請求人」欄の「3」)が、甲1の5は、中華人民共和国上海市東方公証処所属の公証人 黄欣の署名及び押印がされており、また、甲1の5が真正に成立したものでないとする特段の理由もないから、甲1の5は、真正に成立したものと推定される。 (イ)甲1の5に記載された事項 甲1の5に添付された調書の翻訳文、及び当該調書に添付された資料には、以下の事項が記載されている。 a「質問:お名前と職務を教えてもらえませんか。 回答:私の名前は周鴻康で、上海鴻雲塑▲有限公司の法定代表者です。」(添付された調書の翻訳文1/3の第8行〜第9行) b「質問:お手元にある第1〜7頁の資料は何の資料ですか。 回答:第1〜4頁の図面は、番号がHY17046である弊社の金型に係る図面です。第1、2頁の図面は金型3D図のプリントです。第1頁の図面には、ハンガー製品が仮想表示されておりますが、第2頁の図面には、第1頁の図面に仮想表示されたハンガー製品は表示されていません。第3、4頁の図面は、金型2D図のプリントで、第3頁の図面は第1、2頁上の金型の図面に対応しており、第4頁の図面は、上記3D図に表示された金型に対応する相手側の金型の2D図です。 これらの図面では、ハンガー本体の凹部の下側の中央部にある中間穴は、窒素を吹き込むための穴で、両端部にある穴は、余分な樹脂や窒素を排出するための穴です。第1〜3頁の図面では、上記中央部にある中間穴の右側に位置する穴は樹脂供給穴で、第4頁の図面では、樹脂供給穴は上記中間穴の左側に位置しています。最終的に形成されたハンガーには、上記4つの穴に対応する穴の跡が残ります。」(添付された調書の翻訳文1/3の第10行〜第22行) c「質問:この金型の番号はなぜHY17046ですか。 回答:これは弊社がずっと使用してきた番号付けのルールに基づいて確定されたもので、その中のHYは弊社名「鴻雲」の中国語発音「HONG YUN」の2つの頭文字「H」「Y」で、弊社鴻雲の金型であることを意味します。17は2017年、46はその年の第46番の金型を表します。したがって、HY17046は弊社鴻雲で2017年に製造された第46番の金型であることを意味します。弊社のサーバーには金型部によって作成された新金型一覧表が保存されており、第8頁の資料に表示された表は、新金型一覧表の一部で、金型HY17046に関する情報が含まれています。」(添付された調書の翻訳文2/3の第6行〜第14行) d「質問:この一覧表の中の「オーダー日」及び「製品名」はそれぞれ何を表しますか。 回答:「オーダー日」は弊社の金型部が金型作製指示を受けた日付で、「製品名」は当該金型をもって製造した製品の名称を表します。金型HY17046のオーダー日は2017年6月13日であることを例として説明すると、金型部が当該金型製作指示を受けた日付も2017年6月13日であることになります。当該金型で製造された製品の名称はGTH−400です。GTH−400では、Gはこの製品が日本GU社に供給されるものであることを表し、Tは上着「TOPS」の頭文字で、Hはハンガーの英語「HANGER」の頭文字で、400はハンガーの幅400mmであることを表します。」(添付された調書の翻訳文2/3の第15行〜第24行) e「質問:第9〜16頁の資料は、何の資料ですか。 回答:これらは、2019年10月22日に弊社で金型HY17046で製造されたハンガーの写真のプリントです。ハンガーの内部構造を観察するために、ハンガーを切断しました。これらの図面からはっきり見えるように、ハンガーの本体部には、連続した中空部が形成されており、中空部の上の方の厚みは、その下の方の厚みより大きいです。 ハンガーの中間部分の中空部の上の方の厚みは、ハンガー両側の中空部の上の方の厚みより大きいです。また、図14からはっきり見えるように、ハンガーのフックが中空部に突出していません。フックは固定されて回転できませんが、これは図面では表示不能です。2017年より、弊社は金型HY17046で上記構造のハンガーを製造し、日本コパック株式会社を介して日本GU社への出荷を開始しました。」(添付された調書の翻訳文2/3の第33行〜3/3の第6行) f 調書に添付された資料の第1ページ g 調書に添付された資料の第2ページ h 調書に添付された資料の第3ページ i 調書に添付された資料の第4ページ エ 甲1の6 (ア)甲1の6について 甲1の6は、2017年8月14日に上海市●●品原料公司(注:●●は、 。以下、同様である。)が作成したINVOICE(送り状)の写しである。 なお、被請求人は、甲1の6について、署名又は押印がされていないことを理由に成立を認めていない(第1回口頭審理調書及び証拠調べ調書の「被請求人」欄の「3」)が、甲1の6には、後記するように真正に成立したものと推定される甲1の7(輸入許可通知書)と同様に、「SHANGHAI TEXTILE RAW MATERIALS CORPORATION」、「Y17−07−025」の文字が看取される等、甲1の6は、甲1の7と整合するものであり、また、甲1の6が真正に成立したものでないとする特段の理由はないから、甲1の6は、真正に成立したものと推定される。 (イ)甲1の6に記載された事項 甲1の6には、以下の事項が記載されている。 a 甲1の6の上側には、「上海市●●品原料公司」、「SHANGHAI TEXTILE RAW MATERIALS CORPORATION」の文字が看取され、その下の左側には「ジーユー 横浜港北ノースポート・モール店」の文字が看取され、その右側には、「INVOICE NO.Y17−07−025」、「DATE 2017/8/14」の文字が看取される。 b 甲1の6の中央の「数量与貸品名称」欄には、「1708−010/1708−013 PLASTIC HANGER J−1706−0003/824 785010001 GTH−400 4500PCS」の文字が看取される。 オ 甲1の7 (ア)甲1の7について 甲1の7は、2017年8月16日に羽田税関支署長が作成した輸入許可通知書の写しである。 なお、被請求人は、甲1の7について、署名又は押印がされていないことを理由に成立を認めていない(第1回口頭審理調書及び証拠調べ調書の「被請求人」欄の「3」)が、甲1の7は、羽田税関支署長が職務上作成したものと認めることができ、また、甲1の7が真正に成立したものでないとする特段の理由はないから、甲1の7は、真正に成立したものと推定される。 (イ)甲1の7に記載された事項 甲1の7には、以下の事項が記載されている。 a 甲1の7の右上側には、「申告年月日」として「2017/08/16」の文字が看取され、下側には、「輸入許可日」として「2017/08/16」、審査終了日として「2017/08/16」の文字が看取される。 b 甲1の7の左上側には「輸入者 P0082456−0000 NIPPON COPACK INC.」の文字が看取され、その下側には、「仕出人SHANGHAI TEXTILE RAW MATERIALS CORPORATION」の文字が看取され、その下側の表には、「仕入書番号B−Y17−07−025」の文字が看取される。 カ 甲1の8 (ア)甲1の8について 甲1の8は、2017年8月17日に請求人が作成した売上伝票(控)の写しである。 なお、被請求人は、甲1の8について、署名又は押印がされていないことを理由に成立を認めていない(第1回口頭審理調書及び証拠調べ調書の「被請求人」欄の「3」)が、甲1の8には、前記したように真正に成立したものと推定される甲1の7(輸入許可通知書)の輸入者「NIPPON COPACK INC.」と同様の「日本コパック株式会社」との文字が右上側に看取され、また、甲1の7(輸入許可通知書)の輸入許可日(2017/08/16)と同様の「8/16着」との文字が左下側に看取される等、甲1の8は、甲1の7と整合するものであり、また、甲1の8が真正に成立したものでないとする特段の理由はないから、甲1の8は、真正に成立したものと推定される。 (イ)甲1の8に記載された事項 甲1の8には、以下の事項が記載されている。 a 甲1の8の右上側には、「17年08月17日」、「日本コパック株式会社」の文字が看取され、左下側には「納品先 gu 港北ノースポート・モール店08/16着 AIR 鈴木様御依頼分」の文字が看取される。 b 甲1の8の中央の表には、「品名・備考」欄に「GTH_400 中空成形ハンガー MW共有 W400」の文字が看取される。 キ 甲1の9 (ア)甲1の9について 甲1の9は、請求人が2017年5月19日に作成した金型申請書の写しである。 なお、被請求人は、甲1の9について、署名又は押印がされていないことを理由に成立を認めていない(第1回口頭審理調書及び証拠調べ調書の「被請求人」欄の「3」)が、甲1の14の記載(後記するス(イ)a)及び証人菅淳一の証言(後記する(2)ア(キ))によると、甲1の9の電子データは、更新日時を2017年5月19日として、請求人社内のネットワークにおけるサーバー上に保管されているものと認められ、また、甲1の9が真正に成立したものでないとする特段の理由もないから、甲1の9は、真正に成立したものと推定される。 (イ)甲1の9に記載された事項 甲1の9には、以下の事項が記載されている。 a 甲1の9の左上側には、「日本側」の文字が看取され、その下方の「MD」欄には「菅」の印が押印され、「申請」欄には「星野」の印が押印されていることが看取される。また、右上側には、「上海側」の文字が看取され、その下方には「近藤 仁」の欄が設けられていることが看取される。 b 甲1の9の中央の表には、「申請日付」欄に「2017年5月19日」、「ユーザー名」欄に「GU」、「商品名(金型名)」欄に「中空ハンガー共通TOPS W400」、「金型作成工場」欄に「ホンユン」、「製品材質」欄に「PP(木目シボ)」、「申請理由」欄に「GU大型旗艦店用」の文字が看取される。 ク 甲1の9の1 (ア)甲1の9の1について 甲1の9の1は、請求人が2017年5月19日に作成した、2017年5月1日現在の日本コパック株式会社グループ・組織図の写しである。 なお、被請求人は、甲1の9の1について、署名又は押印がされていないことを理由に成立を認めていない(第1回口頭審理調書及び証拠調べ調書の「被請求人」欄の「3」)が、甲1の9の1は、証人菅淳一が2017年8月頃にハンガー製品本部のマネージャーをしていたという証言(後記する(2)ア(ア))等と整合するものであり、また、甲1の9の1が真正に成立したものでないとする特段の理由もないから、甲1の9の1は、真正に成立したものと推定される。 (イ)甲1の9の1に記載された事項 甲1の9には、以下の事項が記載されている。 a 甲1の9の1の左下側には、「平成29年5月1日現在」の文字が看取され、「グループ会社」の「上海鴻羽来貿易有限公司」に「近藤仁」の文字、「営業本部」の「営業販促室」に「星野」の文字、「木製・金属ハンガー製品本部」に「菅」の文字が看取される。 ケ 甲1の10 (ア)甲1の10について 甲1の10は、2020年1月21日に作成された、株式会社ファーストリテイリングの従業員である鈴木竜介の陳述書である。 なお、被請求人は、甲1の10について、署名又は押印がされていないことを理由に成立を認めていない(第1回口頭審理調書及び証拠調べ調書の「被請求人」欄の「3」)が、甲1の10には、鈴木竜介の署名及び押印がされており、また、甲1の10が真正に成立したものでないとする特段の理由もないから、甲1の10は、真正に成立したものと推定される。 (イ)甲1の10に記載された事項 甲1の10には、以下の事項が記載されている。 a 「1 身上経歴 私は、2006年8月1日に株式会社ジーユー(以下「GU」という。)に入社し、当初は店舗勤務として採用されました。その後、2012年3月からGUの本部に異動となり、衣服用ハンガーや什器の調達に従事しました。そして、2015年9月に株式会社ファーストリテイリングに転籍し、現在に至ります。衣服用ハンガーの調達については、転籍後も担当しています。」 b 「2 GU横浜港北ノースポート・モール店について 横浜市都筑区に所在する横浜港北ノースポート・モール店は、GUのプロジェクトとして2016年9月に打ち出されたものです。そのときに、超大型店にふさわしい店にしようという話がありました。 その前は、GU向けとして日本コパック株式会社の針金ハンガーを採用していました。しかし、ファッション性を上げるために新しいハンガーを考え出す必要がありました。このため、日本コパック株式会社の担当者と新しいデザインのハンガーの検討を行いました。具体的には、2017年4月16日に、中空成形ハンガー(GTH−400)に関する図面を提案してもらったことを記憶しています。実際にサンプルを製作していただき使用してみて、衣服のズレなどがなかったので、採用することに決定しました。」 c 「3 日本コパック株式会社製の中空成形ハンガー(GTH−400)について 中空成形ハンガー(GTH−400)の最初の納品日は2017年8月16日でした。納品された即日に店頭設置しました。 GU横浜港北ノースポート・モール店が2017年9月15日にオープンしました。 したがって、同ハンガーは、店頭に設置された後、現在に至るまで、形状は一切変更していません。同ハンガーは、現在も店舗にて用いられており、引き続き日本コパック株式会社から納入されています。」 d 「4 公然性について 2017年9月15日のGU横浜港北ノースポート・モール店のオープン後、多くのお客様を受け入れ、上記ハンガーを見ることができる状態におきました。 また、弊社の従業員ないし販売員に対して、上記ハンガーについて秘密を保持しておくという特別の契約は日本コパック株式会社と締結したことはありません。したがって、現場の責任者として、上記ハンガーを第三者に見せることがない様にと部下に指示したこともありません。 よって、ハンガーの内部形状についても、破断等して調べることができる状態となっています。」 コ 甲1の11 (ア)甲1の11について 甲1の11は、2020年9月29日に請求人が作成した、甲1の1の図面データが格納されたフォルダのファイル表示画面の写しである。 なお、被請求人は、甲1の11について、署名又は押印がされていないことを理由に成立を認めていない(第1回口頭審理調書及び証拠調べ調書の「被請求人」欄の「3」)が、甲1の11は、証人菅淳一の証言(後記する(2)ア(エ)及び(オ))によると、請求人が甲1の1の図面の電子データを保存しているフォルダのファイル表示画面を印刷したものであると認められ、また、甲1の11が真正に成立したものでないとする特段の理由もないから、甲1の11は、真正に成立したものと推定される。 (イ)甲1の11に記載された事項 a 甲1の11において、「OneDrive−日本コパック 株式会社>SolidWorks部品ファイル>gu>中空ハンガー」というフォルダ内のファイルが看取され、上から6番目のファイルについて、「名前」が「中空トップスw400t1c(セオリー型).pdf」、「更新日時」が「2017/06/07 11:03」であることが看取される。 サ 甲1の12 (ア)甲1の12について 甲1の12は、2020年9月29日に請求人が作成した、請求人の社内システムの表示画面の写しである。 なお、被請求人は、甲1の12について、署名又は押印がされていないことを理由に成立を認めていない(第1回口頭審理調書及び証拠調べ調書の「被請求人」欄の「3」)が、甲1の12は、証人菅淳一の証言(後記する(2)ア(カ))によると、甲1の2の発注書が保存されている、上海の請求人関連会社に置いてあるサーバー上に直接アクセスできるシステムの画面を印刷したものであると認められ、また、甲1の12が真正に成立したものでないとする特段の理由もないから、甲1の12は、真正に成立したものと推定される。 (イ)甲1の12に記載された事項 a 甲1の12の最左欄に「1」と表示された行のデータにおいて、「発注日」が「2017−07−14」、「商品名」が「GTH−400 中空成形」であることが看取される。 シ 甲1の13 (ア)甲1の13について 甲1の13は、2017年8月17日に、請求人の従業員である「星野」が「鈴木様」及び「佐藤様」に宛てた、Subjectを「GU横浜港北ノースポート・モール店 搬入報告 0816」とする電子メールの写しである。 なお、被請求人は、甲1の13について、署名又は押印がされていないことを理由に成立を認めていない(第1回口頭審理調書及び証拠調べ調書の「被請求人」欄の「3」)が、証人菅淳一の証言(後記する(2)ア(ク))によると、甲1の13の電子メールは、請求人の営業である「星野」が、株式会社ジーユー(以下、「ジーユー社」という。)の「鈴木様」と「佐藤様」に送ったものと認められ、また、甲1の13が真正に成立したものでないとする特段の理由もないから、甲1の13は、真正に成立したものと推定される。 (イ)甲1の13に記載された事項 甲1の13には、以下の事項が記載されている。 a 1行目の「From」欄に「日本コパック 星野」との文字、2行目の「Sent」欄に「Thursday August 17 2017 8:10AM」との文字、3行目の「to」欄に「takeshi.sato@gu−global.com」、「ryosuke.suzuki@fastretailing.com」、「kan@copack.co.jp」との文字が看取される。 b 電子メールの本文の1行目〜2行目に「鈴木様 佐藤様」との文字、本文の第4行目〜第7行目に「昨日初日分は、お電話でお伝えしました通り、PM18時30分に店舗様に全商品を無事納品することができました。羽田空港の通関がお盆の物流量で中々許可がおりず、17時過ぎにようやく通関許可がでました。羽田で商品をピックし、18時弱に店舗様へ納品致しました。新井店長の指示の基、スタッフ様と連動し売場にハンガーを配置し、昨日の作業は終えました。」との文字が看取される。 ス 甲1の14 (ア)甲1の14について 甲1の14は、2020年10月22日に請求人が作成した、甲1の9のエクセルデータが格納されたフォルダのファイル表示画面の写しである。 なお、被請求人は、甲1の14について、署名又は押印がされていないことを理由に成立を認めていない(第1回口頭審理調書及び証拠調べ調書の「被請求人」欄の「3」)が、甲1の14は、証人菅淳一の証言(後記する(2)ア(キ))によると、請求人が甲1の9の金型申請書の電子データを保存しているフォルダのファイル表示画面を印刷したものであると認められ、また、甲1の14が真正に成立したものでないとする特段の理由もないから、甲1の14は、真正に成立したものと推定される。 (イ)甲1の14に記載された事項 a 甲1の14において、「ネットワーク>192.168.2.127>public>成型 2017〜>サンプル・見積もり依頼>レ・シ>GU>2017年>5月」というフォルダ内のファイルが看取され、上から2番目のファイルについて、「名前」が「20170519 GU中空ハンガー 3種 金型申請書.xls」、「更新日時」が「2017/05/19 17:15」であることが看取される。 セ 甲2 本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲2には、図面とともに次の事項が記載されている。 (ア)「[利用分野及び考案の概要] 本考案は、衣服ハンガー、特に、背広等の上着を係止するハンガー本体の下方にズボンを係止するための係止桟が具備せしめられている形式の衣服ハンガーに関するものであり、該ハンガー本体を、芯材の外周を非発泡表面層を具備する発泡樹脂で被覆させる構成とすることにより全体にソフトで且豪華な趣のあるハンガーを提案するものである。さらに、ハンガー吊り下げ用のフック及び前記係止桟を該芯材に深く嵌め込むことができるようにしてこれらの取り付けを確実にするものである。」(明細書第2ページ第2行〜第13行) (イ)「[技術的課題] 本考案は、このような、『芯材(10)の外周をクッション材(11)で被覆せしめてなり且中央頂部が山型状に隆起するとともにその左右に斜辺部が斜め下方に傾斜する形状のハンガー本体(1)と、前記ハンガー本体(1)の中央頂部に取り付けられるハンガー吊り下げ用のフック(2)と、前記ハンガー本体(1)の下方に水平に位置するように前記芯材(10)の両斜辺部先端下面に取り付けられるズボン係止用の係止桟(3)とからなる衣服ハンガー』において、該フック(2)及び係止桟(3)のハンガー本体(1)への取り付けが確実となり且該ハンガー本体(1)の手触りが向上するように、ハンガー本体(1)を一定の大きさ形状に維持したままで、フック(2)及び係止桟(3)の取り付け部が強化でき、しかも、他の部分をクッション材(11)によって厚く被覆できるようにすることをその技術的課題とする。」(明細書第4ページ第6行〜第5ページ第5行) (ウ)「尚、該係止桟(3)は、第1図に示すように、芯材(10)の前記取付け孔(14)(14)に嵌め込まれる保持部(31)(31)間に挟持されるように水平に支持せしめられてなるものであり、該保持部(31)(31)は、第3図に示すように、拡大頭部を具備する金具が先端に設けられており、該拡大頭部を加熱した状態で該取付け孔(14)(14)に強制的に圧入する。すると、芯材(10)を構成している樹脂が溶融してその頭部を包み込むようになり、冷却後は該金具先端部が抜け止め状態に保持されることとなる。 フック(2)は、第4図に示すように、その基端部に拡大頭部を具備させる構成とし、該拡大頭部を、上記した保持部(31)(31)の場合と同様に、加熱するとともに前記取付け孔(13)に抜け止め状態に圧入すれば良い。」(明細書第10ページ第19行〜第11ページ第15行) ソ 甲3 (ア)甲3について 甲3は、「金型HY17046」を用いて製造されたハンガーが本件特許発明1の空間部と同様の形状であるか否かを東京工業大学工学院機械系准教授齊藤卓志が鑑定し、令和2年12月16日に作成した鑑定書である。 なお、甲3には、齊藤卓志の押印がされており、また、甲3が真正に成立したものでないとする特段の理由もないから、甲3は、真正に成立したものと推定される。 (イ)甲3に記載された事項 甲3には、以下の事項が記載されている。 a 「金型HY17046は、添付図面の図2に追記して部分拡大して示した次図に示すように、中央に形成された1つの窒素ガス供給用穴○1(注:甲3で用いられる「○1(○の中にアラビア数字の1)」は、「○1」と表記する。以下「○2(○の中にアラビア数字の2)」等についても同様に表記する)と、その隣に形成された1つの材料供給用穴○2と、ハンガーの端部それぞれに設けられた2つの材料排出用穴○3とを備えている。材料供給用穴○2から樹脂としてポリプロピレンを溶融状態で注入した後に、中央の窒素ガス供給用穴○1から窒素ガスを大気圧以上で吹き込み、両端部の各材料排出用穴○3から材料を排出する。 上述した樹脂成形方法は、射出成形の技術分野におけるガスインジェクション成形法(またはガスアシスト成形法)に相当する。そして、材料供給用穴○2から樹脂を注入して材料排出用穴○3から樹脂を排出することから、ガスインジェクション法の中でも、いわゆるステキャビ法に属する。ステキャビ法は、キャビティの全体に樹脂を充填するフルショット充填を行った後に、窒素ガスによって未凝固の樹脂をキャビティに接続した排出空間(ステキャビ)に押し出す方法である(ステキャビ法については、例えば次図参照)。」(第2ページ第5行〜第3ページ第1行) b 「以下にその成形プロセスをまとめる。 1.金型内に充填された樹脂材料のうち、金属製フック近傍の材料は、低温のフックと接触することで、相対的に早く固化が進行する。 2.樹脂充填の完了後、窒素ガス供給用穴○1から導かれた窒素ガスは、状況1.で述べた金属製フック近傍の固化部分に衝突することで、ハンガーの長手方向に向きを変えて進行しはじめる。 3.状況2.における窒素ガス体積に相当する溶融樹脂が、ハンガー両端にある材料排出用穴○3から排出される。 4.このとき、材料排出用穴○3の位置がハンガー下側に存在するため、材料排出用穴○3に近い溶融領域、すなわち成形品断面中央より下側に偏った部分の材料が主に流動する。 5.ポリプロピレン等の結晶性材料の溶融粘度は低いため、窒素ガスの連続的な供給により、窒素ガスの気泡は成形品内の溶融領域内を速やかに進行する。このとき、成形品中における窒素ガスが、最も流動圧力損失の少ない方向へ進行することは自明である。 6.このため、窒素ガス供給用穴○1と材料排出用穴○3が、共にハンガー下側に設置された金型HY17046において、窒素ガスの流路は、両者の間を可能な限り短い距離で結ぶように形成されると考えられる。 7.結果的に、成形品断面の下側に偏って窒素ガスの流路(空間)が形成されることになる。」(第4ページ第3行〜第22行) c 「なお、ガスインジェクション成形は、中空構造を形成する有効なプロセスではあるが、相対的に粘度の高い溶融樹脂中に低粘度のアシストガスを導く手法であり、成形途上で生じる現象は強い非線形性を示す。よって、設計どおりの成形品形状/性能を得るための成形条件はそれほど広くなく、量産において条件出しが完了した後、樹脂や窒素ガスの流量・圧力を意図的に変化させることはない。また、意図せずそれらが変化した場合には、いわゆる成形不良となることが多い。」(第5ページ第11行〜第16行) タ 甲4 本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲4には、図面とともに次の事項が記載されている。 (ア)「【0021】前記ハンガーフック2は図1、図2に示すように、金属製の細長い円柱状で、円形状に加工された吊り部2aと、本体1へ挿入される直線部2bとからなる。前記吊り部2aの先端には、頭部3が設けられている。また、前記ハンガーフックの直径はEである。 【0022】前記直線部2bには図3、図4に示すように、途中から逆円錐台形の第3挿入部2hが数段設けられている。前記第3挿入部2hは、前記ハンガーフック2の直径Eより大きい直径Gをもつ上底部2iと、前記ハンガーフック2の直径Eよりも小さな直径Hをもつ下底部2jとから構成されている。また、第3挿入部2hは、円柱形で直径がFの第2挿入部2gへと続く。前記直径Fは、前記ハンガーフック2の直径Eと同じ大きさである。さらに、前記第2挿入部2gの先端部には、テーパー状に成形された第1挿入部2fが設けられている。すなわち、前記各直径の大きさの関係は、H<E=F<Gとなる。 【0023】また、本体1の中央上部には、ハンガーフック2が挿入されるフックホール6が設けられている。該フックホール6は図5〜図7に示されるように、入り口付近の大ホール6aと該大ホール6aの下側に位置する小ホール6bにより構成されている。前記大ホール6aの直径はIであり、ハンガーフック2の直径E、第2挿入部2gの直径Fよりも大きく、第3挿入部2hの上底部2iの直径Gよりも小さい。また、前記小ホール6bの直径はJであり、ハンガーフック2の直径E、第2挿入部2gの直径Fよりも大きく、大ホール6aの直径Iよりも小さい。すなわち、前記各直径の大きさの関係は、E=F<J<I<Gとなる。 【0024】このような、前記ハンガーフック2と前記本体1を結合することによりハンガーが作られる。前記ハンガーフック2と前記本体1の結合は、本体1が冷却固化する前に、ハンガーフック2の前記直線部2bをその先端から、本体1の前記フックホール6へ挿入するように行われる。 【0025】以上の構成に係る本実施例において、ハンガーフック2は、本体1が冷却固化する前に挿入されるとき、先端の部分がテーパー状に成形された第1挿入部2fが設けられているため、ハンガーフック2は、本体1に空けられたフックホール6に挿入しやすくなる。また、フックホール6の入り口の大ホール6aは、小ホール6bより広めに空けてあるため、さらにハンガーフック2が挿入しやすくなる。前記フックホール6は、本体1が完全に冷却固化する前に空けられた穴であり、ハンガーフック2を挿入するときにも、本体1内部のフックホール6は固化していない。 【0026】また、前記第1挿入部2fから続く円柱形の第2挿入部2gが設けられているため、第1挿入部2fにより挿入されたハンガーフック2をフックホール6の中心に誘導しつつ垂直に挿入されるように導く。 【0027】また、第3挿入部2hを逆円錐台形とすることにより、フックホール6が第3挿入部2hの壁面に沿って押し広げら、内壁の圧力(図4のP2)が高くなる。このとき、第3挿入部2hの上底部2iの直径Gは、前記下底部2jの直径Hよりも大きめにできているため、ハンガーフック2と第3挿入部2hとの間には段差ができている。このため、第3挿入部2hがフックホール6の奥へ進むとき前記上底部2iの上側の圧力(図4のP1)が低くなる。このように、各部分の圧力(図4のP1とP2)が変化することにより、上底部2iの上側に本体1の一部が入り込むような作用(図4の矢印F)が起きる。そして、本体1が完全に冷却固化したとき、本体1の一部が前記上底部2iの上側へ入り込んでいて、第3挿入部2hにより係合される形でハンガーフック2が抜けなくなる。さらに、第3挿入部2hの上底部2jは、直径Gがハンガーフック2の直径Eよりも太く、しかもハンガーフック2の中心軸より垂直方向へ張り出す面であるため、ハンガーフック2が上方向へ抜けようとしたときこれを押える力が垂直方向に加わり押えようとする力が分散することなく最大限に働く。このためハンガーフック2と本体1との係合が強固になる。」 (イ)図1には、以下の事項が図示されている。 (ウ)図3には、以下の事項が図示されている。 (エ)図4には、以下の事項が図示されている。 チ 甲5 本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲5には、図面とともに次の事項が記載されている。 (ア)「図において、1はABS6で成形したハンガー主体、2はガラス繊維入りポリアミド樹脂で成形したフック、3はフック2に形成した挿込み部、4はこの挿込み部3の抜け止めになるように軸方向に多段で、かつ、それぞれ周方向全周に形成した段部、5は上記挿込み部3を挿入するようにハンガー主体1の中央上部に形成したボスである。」(明細書第4ページ第16行〜第5ページ第5行) (イ)「上記フック2は、ハンガー主体1の成形直後に、フック2の挿込み部3よりも若干小径に成形したボス5の挿込み孔6の表面が少し凝まって内部が軟い内に挿込み部3を押し入れ、更に周方向に回転することによって、挿込み部3の外形に沿ってボス4が冷却収縮した中で、抜け止めされ、かつ、回転自在に取り付けられている。」(明細書第5ページ第6行〜第13行) (ウ)第1図には、以下の事項が図示されている。 (エ)第2図には、以下の事項が図示されている。 (2)人証 令和2年12月1日に行われた証拠調べ(証人尋問)において、次の事項が陳述された。 ア 主尋問 (ア)「○請求人代理人 まず、現在の職業についてお伺いいたします。あなたの職業を教えてください。 ○菅証人 日本コパック株式会社でハンガー製品本部という部署のマネージャーをしております。 ○請求人代理人 マネージャーの仕事というのは具体的にどのようなものですか。 ○菅証人 取り扱っていますハンガー製品全ての生産管理及び品質管理、または新商品の開発、商品開発の統括をしております。 ○請求人代理人 はい。じゃ、次の質問に移らせていただきます。GTH−400という番号で付されている、甲1の1号証のハンガーですね、以下のものを略して甲1ハンガーと述べさせていただきますけれども、甲1ハンガーがGU横浜港北ノースポート・モール店に販売された2017年8月頃の日本コパック株式会社における所属についてお伺いします。2017年8月頃、日本コパック株式会社での所属は何でしたか。 ○菅証人 ハンガー製品本部のマネージャーをしておりました。 ○請求人代理人 現在と同じということですか。 ○菅証人 はい。同じになります。」 (イ)「○請求人代理人 はい。じゃ、次の質問に移ります。甲1ハンガーに関与したいきさつについてお伺いしようと思います。甲1の1を示していただいてよろしいでしょうか。 それでは、今、ご覧になっている甲1の1をお伺いします。まず、この甲1の1に示されているハンガーを知っていますか。 ○菅証人 はい。知っています。 ○請求人代理人 なぜ知っていると言えるんですか。 ○菅証人 はい、こちらの甲1の1の書類に真ん中の下段のほうですね。MD、生産部の欄があるんですが、そこに私、菅淳一の名前が記載あります。当時、生産部門の責任者としてこの図面を確認したと認識しております。 ○請求人代理人 MDというのはどういう意味なんですか。 ○菅証人 MD欄のMDというのはマーチャンダイザーの略になりまして、マーチャンダイザーというのは商品開発から販売戦略までを一貫して行う職種の略称になります。 ○請求人代理人 はい。この甲1ハンガーの製造販売に関してはどのように関わりましたか。 ○菅証人 当時、GU様のほうで横浜のノースポート港北店というところに初めてのデジタル店舗を出店されるということが決まりまして、その際に新しいハンガーの提案をしてほしいということで、こちらの図面の中空ハンガーをご提案しました。で、製品の開発から納品までに携わりました。」 (ウ)「○請求人代理人 はい。じゃ、次の質問に移ります。 甲1ハンガーを販売する際の秘密保持義務の有無についてお伺いします。甲1ハンガーをGU横浜港北ノースポート・モール店に販売する際に、甲1ハンガーに関して秘密保持義務のような契約をしましたか。 ○菅証人 秘密保持契約はしておりません。 ○請求人代理人 なぜ、そのように言えるんですか。 ○菅証人 我々のハンガー分野においてはお客様に対して秘密保持契約義務というものを課した、課すという例がなく、私の経験上も一度もそのような契約をお客様と交わしたことがありません。」 (エ)「○請求人代理人 はい。では、次の質問に移ります。甲1の1の図面のデータの格納場所等についてお伺いします。手元の甲1の1、もう一度、見てください。この図面というのはどのような書類なんですか。 ○菅証人 この図面は、お客様との打合せの中で製品の仕様が確定し、最終の仕様の形状で製品図面として社内に電子データで保存しているものになります。 ○請求人代理人 電子データということは紙では保管しないんですか。 ○菅証人 紙では保存しておりません。 ○請求人代理人 なぜですか。 ○菅証人 これはペーパーレスのためです。 ○請求人代理人 それでは、データの保存場所についてお伺いしたいんですけれども、データはどこに保管されているんでしょうか。 ○菅証人 はい。データのほうはOneDriveというクラウド上のストレージ上に保管するようにしています。 ○請求人代理人 はい。甲1の11を示していただいてよろしいでしょうか。今、画面に甲1の11が映っていますけれど、データというのはここに保存されているということですか。 ○菅証人 はい、そうです。」 (オ)「○菅証人 こちらが図面を保管しているデータになります。この中のGU様というフォルダがありまして、こちらの中に今回の中空ハンガーの図面データが保管されております。で、こちらの2017年6月、更新日時の欄に2017年6月7日とありますが、こちらの図面が本件のデータ、図面データの保管部になります。 ○請求人代理人 ありがとうございます。このデータの保管場所というのは、なぜ、あなたが知っているんですか。 ○菅証人 はい。これは私がハンガー製品の生産部署の責任者として全て保存場所を把握するようになっています。 ○請求人代理人 はい。今のPDFファイルなんですけれど、先ほどフォルダのほうの更新日時が2017/06/07となっていますけれど、この更新日時というのは改変することっていうのはあるんですか。 ○菅証人 これは改変はいたしません。 ○請求人代理人 どうしてそういうふうに言えるんですか。 ○菅証人 こちらは弊社内でも企画部の設計の担当だけがCADソフトを使って操作できるデータとなっておりまして、これについてはもう社内のルールで図面データを変更しないというふうに取り決めております。」 (カ)「○請求人代理人 はい。じゃ、次の質問に移らせていただきます。甲1の2号証の発注書のデータの格納場所、社内での取り扱い等についての質問に移らせていただきます。甲1の2を示していただいてよろしいでしょうか。はい、今、画面に甲1の2が示されていますけれども、この書類は何ですか。 ○菅証人 GTH−400の発注書になります。 ○請求人代理人 この発注書というのはどのような書類ですか。 ○菅証人 この発注書は弊社の営業部門から生産部門に向けて最終製品仕様が確定した後に、数量であったり納期の情報を記載して依頼をするための社内の発注書類になります。 ○請求人代理人 この発注書、甲1の2ですね、どこに保管されますか。 ○菅証人 これは弊社の通称、上海システムと呼ばれるネットワーク上のデータに保存されています。 ○請求人代理人 はい。甲1の12を示してもらってよろしいでしょうか。今、上海システムとおっしゃっていたのはこの画面に映っているこのことですか。 ○菅証人 はい、そうです。 ○請求人代理人 はい。これは紙では保管しないんですか。 ○菅証人 これも紙では保存しておりません。 ○請求人代理人 どうしてですか。 ○菅証人 同じくペーパーレスのためになります。 ○請求人代理人 そうしたらまたPCから1の2ですね、を示していただきたいと思います。 ○菅証人 こちらが弊社で今、使っている上海システムという中国側ですね、生産工場がある中国側の子会社に置いてあるサーバー上に直接アクセスができるシステムとなっています。これについては設計担当以外、ほぼ全社員が内容を確認できるシステムとなっています。で、この中に各製品の発注のデータが保存されています。で、これの一番上の2017年7月14日発注日というところ、こちらが今回のGTH−400、中空ハンガーの発注データになります。 ○請求人代理人 はい、ありがとうございます。この保管場所というのはなぜあなたは知っているんですか。 ○菅証人 こちらも私のハンガー製品の生産部の責任者として、日々、常々使用しているデータになりますのでよく知っています。 ○請求人代理人 はい。じゃ、また甲1の2を見ていただいてよろしいでしょうか。今、画面に甲1の2が映っていますけれど、この上部に依頼日2017年7月14日とあるんですが、これは何を意味しますか。 ○菅証人 これは弊社内の別の営業部門から生産部門に製品の仕様または納期、数量等の情報を記載して発注をかける際にその発注をかけた日付がこの依頼日になります。」 (キ)「○請求人代理人 はい、ありがとうございます。それでは次の質問に移らせていただきます。甲1の9号証の金型申請書の社内の扱い等についてお伺いをします。甲1の9を示していただいてよろしいでしょうか。今、画面に映っている甲の1の9ですね。この書類は何ですか。 ○菅証人 はい、こちらはGTH−400の金型申請書になります。 ○請求人代理人 GTH−400って書いていないと思うんですけど、なぜGTHの金型申請書って言えるんですか。 ○菅証人 まず、ユーザー名の欄ですね。上から2段目のユーザー名のところにGUという記載がありまして、また、その下の商品名のところに中空ハンガー共通トップス、W400という表記があります。これをもってGUのトップスハンガーの略ですね、GTH−400ということを示しておりまして、また左上部のMDという欄に私自身の印鑑が押してあります。これによってこのGTH−400の金型申請書であるということが示されております。 ○請求人代理人 はい。この金型申請書というのはどういう書類ですか。 ○菅証人 こちらは最終の仕様が確定して、金型を製作するということになった際に、その金型の費用を社内で弊社の社長に費用の決裁を取るための社内の申請書になります。 ○請求人代理人 この金型申請書というのはどこに保管されますか。 ○菅証人 金型申請書については弊社の社内のネットワーク、サーバー上にデータ保存されています。 ○請求人代理人 はい。じゃ、次、またPCのほうで示していただいてよろしいでしょうか。 ○菅証人 はい。こちらは今、社内の弊社内の社内のネットワークの中になるんですけども、こちらのネットワーク内のGU様のフォルダ内に先ほどの金型申請書のデータが保存されております。 ○請求人代理人 はい、ありがとうございます。この金型申請書というのは紙では保管しないんですか。 ○菅証人 はい。この申請書も紙では保存しません。 ○請求人代理人 それはなぜですか。 ○菅証人 同様にペーパーレス化のためです。 ○請求人代理人 はい。この金型申請書が保管されている場所というのはどうして知っているんでしょうか。 ○菅証人 これも私がハンガー製品本部、生産部署の責任者として、申請書自体は、ハンガーについての申請書は全て私のほうで作成をして、MD欄の確認印を全部、全て押しておりますので、この保管場所についてはよく存じております。 ○請求人代理人 はい。このエクセルの更新日時が2017/05/19となっていますけれど、この更新日時というのは変更されることというのはありますか。 ○菅証人 更新日時は変更されることがあります。 ○請求人代理人 はい。どのような場合に更新日時が変更されますか。 ○菅証人 これ、データをそのまま上書き保存した場合に更新日時が変わります。 ○請求人代理人 はい。ということはこのエクセルの更新日時が2017/05/19ということはどういうことを意味しますか。 ○菅証人 このデータが2017年の5月の19日以降に内容変更がないということを意味しております。 ○請求人代理人 はい。このエクセルの更新日時というのは何か改変とかされることっていうのはあるんでしょうか。 ○菅証人 更新日時については改変はされないです。 ○請求人代理人 どうしてそういうふうに言えるんですか。 ○菅証人 これは私自身が申請書を作成したエクセルデータになっており、日付の変更もしておりません。」 (ク)「○請求人代理人 はい。じゃ、次の質問に移ります。甲1の13号証の電子メールについてお伺いをします。甲1の13を示していただいてよろしいでしょうか。はい。今、甲1の13が示されておりますけれども、これは何ですか。 ○菅証人 はい。こちらのメールが弊社の営業の星野という者から、お客様のGUの鈴木様と佐藤様宛てに送ったメールになります。 ○請求人代理人 この電子メールを知っていますか。 ○菅証人 はい、知っています。 ○請求人代理人 なぜ知っていると言えるんでしょうか。 ○菅証人 このメールのCcの欄ですね、上部のCcのアドレスの欄にkan@マークという私自身のメールアドレスが入っています。 ○請求人代理人 それだけで知っていると言えるんでしょうか。 ○菅証人 このときの経緯を非常によく記憶しているからです。 ○請求人代理人 はい。どのような経緯だったのかお伺いします。このメールの内容にあなた自身が関わったということですか。 ○菅証人 はい。かなり深く関わっておりまして、当時、このメールの文面にある羽田空港からGUのノースポート港北店までハンガーをレンタカーを借りて運んだのは私自身であります。 ○請求人代理人 なぜ、わざわざあなた自身が羽田空港まで取りに行ったんですか。 ○菅証人 実はこのとき、納品が非常に遅延しているという状況に達しておりまして、通常ですとやらないんですけれども、羽田空港に自分で車を借りて取りに行って、直接店舗に運ばないといけないという切迫した状況になっておりまして、それによってかなり印象的に記憶によく残っているということになります。 ○請求人代理人 ところで、この電子メールの記載を見ますと、GTH−400とか特にそういうことは書いていないんですけれど、なぜこの内容が甲1ハンガー、GTH−400ですね、これを示していると言えるんでしょうか。 ○菅証人 はい。まず、甲1の7号の書面を見てご確認いただきたいんですけれども、こちらの真ん中辺りですね、画面の下のほう、赤枠で囲ってあるところの仕入者番号Bというところに番号がありまして、Y17の07の025という表記があります。 これに対して甲1の6号の書面を見ていただきたいんですけれども、こちらはこの案件のインボイスになっておりまして、このインボイスナンバー、書類の上段のほう、右手のほうです。インボイスナンバーというところがあって、この番号がY17の07の025と一致しております。このため、このハンガーがこちらのGTH−400ということが証明できます。 ○請求人代理人 甲1の6の今の番号Y17云々が一致しているのは分かるんですけど、GTH−400というのはどこから分かるんですか。 ○菅証人 同じく甲1の6号の配送先の左上ですね。GU横浜港北ノースポート・モール店という表記と、また明細の欄の真ん中辺りでGTH−400という表記があります。 ○請求人代理人 はい、分かりました。そうしますと甲1の7の輸入許可通知書というのはGTH−400を意味することは分かりました。じゃ、このGTH−400がなぜGU横浜港北ノースポート・モール店に納品されたと言えるのでしょうか。 ○菅証人 はい。また再度、甲1の7号の書面を確認いただきたいんですけれども、これが8月16日が輸入許可日という記載になっておりまして、羽田の税関支所長のほうの許可をもって輸入許可通知書が発行されております。また、甲1の13号ですね―すみません―の、メールの文面をご確認いただきたいんですけれども、こちらの冒頭のほうで、昨日初日分はお電話でお伝えしたとおり、PM6時半に納品を完了しましたという記載があります。このメール自体は8月の17の日付のメールになっておりまして、その中での昨日というところですので、8月16日という証明ができるかなと思います。で、先ほどの輸入許可通知書、税関長から出ている輸入許可通知書の日付とこの納品日が一致しますという内容です。」 イ 反対尋問 (ア)「○被請求人代理人 尋問事項(5)の甲1ハンガーを販売する際の秘密保持義務の有無について、証人は販売する際には秘密保持契約が結んでいないというふうに今、陳述されました。ところでお客様であるGUにおいて備品の内部構造を勝手に見たり、従業員が勝手にこれを見ていいかどうかについてはご存じですか。 ○菅証人 存じ上げておりません。」 (イ)「○被請求人代理人 ということは、2017年当時においてはバックアップは取っているかどうか、証人はご存じないということでよろしいですか。 ○菅証人 そうですね。存じ上げておりません。」 ウ 補充尋問 (ア)「○審判長 ハンガーにはGTH−400というような記号でその型式が定められているようなんですけれども、この型式というのはハンガーの開発においてどのようなタイミングで決定されるのでしょうか。 ○菅証人 これはお客様というよりは、弊社の工場で管理する際に必要とされる記号になっておりまして、実際には金型の製作に入る直前か、またはもう製作中に型番を決めて完成時点までにこの金型の型番がはっきりしているような状態で名前を付けるようにはしています。 ○審判長 はい。例えばハンガーの構造に金型がばしっと完成したような状況の後に軽微な改変ですね、ハンガーの形の改変というのがあった場合に、この型式の記号というのを改変ごとに変わったりすることがあるんでしょうか。 ○菅証人 金型の改変はかなりレアでして、実際にはハンガーに刻印を入れたりとかっていうこともあって、その作業は非常に大きな手間になるので、よほどの事情がなければ変更はありません。むしろ商品名のほうがお客様の都合等で変更することはあります。 ○審判長 型式が決まればハンガーの形というのももう決まるというような理解でよろしいでしょうか。 ○菅証人 そうですね。 ○審判長 はい。型式というかこのGHの400という、こういう記号で示されるものというのは皆、同じハンガーの構造であるということでしょうか。 ○菅証人 そうですね、はい。そうです、はい。」 2 被請求人提出の証拠の記載内容等 被請求人が提出した証拠(書証)のうち、特に乙3及び乙4には、以下の事項が記載されている。 (1)乙3 ア 乙3について 乙3は、2020年12月29日に作成された、サカエ株式会社の代表取締役である松岡隆永の陳述書である。 なお、乙3には、松岡隆永の押印がされており、また、乙3が真正に成立したものでないとする特段の理由もないから、乙3は、真正に成立したものと推定される。 イ 乙3に記載された事項 a 「2 株式会社チャナカンパニーの特許第6521554号に対する無効審判(無効2020−800016)で提出された甲第1の5号証についての私の見解は以下の通りです。 「摸号HY17046」との記載がある図面を見ましたが、この図面と甲第1の5号証の他の記載だけでは、この図面の金型を使用してどのような内部構造のハンガーを製造しようとしているのかを特定することはできません。同様に、成形条件が不明ですから、この図面の金型を使用した場合、どのような内部構造のハンガーが製造されるのかも特定できません。 例えば、成形に使用する樹脂も色々なグレードがあります。ハンガーにはポリプロピレンを使用することが一般的ですが、ボリプロピレンにも多くのグレードがあり、特性が様々です。また、甲第1の5号証に含まれる「調書」からは、成形中に樹脂に窒素を通すようですが、金型に樹脂を供拾してから窒素を供給するまでの時間、窒素を供給するときの圧力や量などの条件によっても、成形品に形成される空間の位置や形状、大きさなどの構造は変わります。このため、摸号HY17046の図面の金型を使用して成形した湯合に、どのような内部構造になるのかは、特定できないというのが私の見解です。」 (2)乙4 ア 乙4について 乙4は、2020年12月29日に作成された、株式会社フジプラの代表取締役である後藤照義の陳述書である。 なお、乙4には、後藤照義の押印がされており、また、乙4が真正に成立したものでないとする特段の理由もないから、乙4は、真正に成立したものと推定される。 イ 乙4に記載された事項 a 「2 株式会社チャナカンパニーの特許第6521554号に対する無効審判(無効2020−800016)で提出された甲第1の5号証を見て、意見を述べます。 甲第1の5号証の「摸号HY17046」と記載された図面は、ハンガーを製造するための金型を示していると理解します。ただし、この図面だけでは、特定の内部構造のハンガーが成形されるのかを判断することはできません。どのような内部構造のハンガーを作ろうとしているのかは判断材料がありませんし、成形条件についても判断材料がないからです。 「摸号HY17046」の図面に「PP」という表示があり、ポリプロピレンを示すことは理解できます。ただし、ポリプロピレンもグレードによって、特性が異なり、例えば、メルトフローレートに大きな相違があります。 甲第1の5号証に含まれる「調書」によれば、上記の金型に樹脂を注入した後に、窒素を吹き込むようですが、上述のように、樹脂の種類は不明ですし、金型に注入する樹脂の量も不明ですし、樹脂を注入した後、窒素を吹き込むまでの時間も不明ですし、窒素の供給圧力や供給量などの供給条件も不明です。 金型に樹脂を注入すると、樹脂は金型と接している部分から固化するのが一般的ですが、「摸号HY17046」によれば、樹脂の量は中心部において相対的に多いので、樹脂の量に応じて、長手方向における中心部の方が端部よりも溶融状態を長く維持する可能性があります。あるいは、予めフックを金型にセットしておく場合には、溶融状態はフックの温度の影馨を受けるのか、あるいは、フックが金型にセットされると金型の熱がフックに伝導し、金型と同程度の温度になるので溶融状態はフックの温度の影響は受けないのか、あるいは、フックの温度の影轡は小さいのかなど、諸条件が不明です。 「調書」によれば、窒素はハンガー本体の凹部の下側の中央部にある中間穴から吹き込まれ、両端部の穴から排出されるとのことですが、その説明が正しいと仮定して考察しても、やはり、上述の条件が不明なので、成形品にどのような空間が形成されるのかを特定することはできません。例えば、樹脂の溶融状態と、窒素の供給圧力と供給量によっては、そのような大きな空間が形成されない場合があると思われますが、その場合に、窒素がどのような経路を流れ、どのような形状や位置において空間を形成するのかについて、特定するための判断材料がありません。窒素が下側から吹き込まれるので、上側へ流れ、その後、方向を変え、いずれかの経路を通って、両端部にある穴から排出されると推察されます。下側から上側へ向かって流れた窒素の経路が、例えば、金型の上側近傍に沿って長手方向の両端部へ向かい、主にハンガーの上側の部分に沿った空間を形成するのか、あるいは、中間穴の真上の部分の壁に当たり、その後、単純に最短経路をとり、斜めの経路を通って両端部にある穴に向かい、ハンガーを斜めに横切る空間を形成するのか、あるいは、何らかの別の経路を通るのかについて、上述のように、成形条件が不明であり、金型内の樹脂の溶融状態も不明であり、窒素の供給条件も不明ですから、特定することはできません。」 3 無効理由について (1)新規性、進歩性について 甲1の1〜甲1の4から把握されるハンガーが、本件特許の優先日前に公然実施をされたといえるか、公然実施をされたとすると、いかなる発明が公然実施をされたといえるのかを検討する。 ア 公然実施について (ア)実施時期について a まず、甲1の2は、証人菅淳一の証言(前記1(2)ア(カ))によると、請求人社内で、営業部門から生産部門に向けて、生産を依頼する際に用いる発注書ということである。そして、甲1の1及び甲1の2によると、型式が「GTH−400」、商品名が「GTH_400中空成形ハンガーMW共有」、ユーザー名が「GU」、ハンガーの左端から右端までの寸法である幅が、「399.16」mmである、前記1(1)ア(オ)に示した「発注書ハンガー」が、2017年7月14日に、請求人社内において、営業部門から生産部門に発注されたことが把握できる。 b 甲1の5の公証書に添付された調書における、上海鴻雲社の法定代表者である周鴻康の回答(前記1(1)ウ(イ)d及びe)によると、上海鴻雲社は、2017年より、金型「HY17046」を用いて、製品の名称が「GTH−400」のハンガーを製造し、請求人を介してジーユー社への出荷を開始したことが把握できる。 c そして、上海鴻雲社において金型「HY17046」を用いて製造されたハンガーの製品の名称「GTH−400」は、甲1の2(発注書)に記載されたハンガーの型式「GTH−400」と一致しており、また、周鴻康が回答した、製品の名称「GTH−400」における、Gは日本GU社に供給されるものであること、Tは上着「TOPS」の頭文字、Hはハンガー「HANGER」の頭文字、400はハンガーの幅400mmをそれぞれ意味するという事項(前記1(1)ウ(イ)d)は、甲1の2(発注書)に記載されたユーザー名が「GU」であること、前記「発注書ハンガー」がトップス用の中空成形ハンガーであること、甲1の2(発注書)に記載されたハンガーの幅が399.16mmであることと整合するものである。そうすると、前記bに示した、上海鴻雲社が、2017年より、金型「HY17046」を用いて製造し、請求人を介して、ジーユー社への出荷を開始したハンガーとは、前記aに示した、2017年7月14日に、請求人社内において、営業部門から生産部門に発注された「発注書ハンガー」であると推認される。 d また、甲1の9(金型申請書)の前記1(1)キ(イ)bによると、請求人が、2017年5月19日に、「商品名(金型名)」を「中空ハンガー共通TOPS W400」、「ユーザー名」を「GU」として、GU大型旗艦店用に作成を申請した金型の「金型作成工場」は「ホンユン」であると解されるが、甲1の5の公証書に添付された調書における周鴻康の回答によると、上海鴻雲社の社名における「鴻雲」の中国語発音は「HONG YUN」とのことである(前記1(1)ウ(イ)c)。そうすると、請求人がGU大型旗艦店用に作成を申請した「中空ハンガー共通TOPS W400」の金型は、上海鴻雲社で作成されたと推認され、このことは、前記cに示した推認を裏付けるものである。 e そして、前記bに示したように、上海鴻雲社は、2017年より、金型「HY17046」を用いて、製品の名称が「GTH−400」のハンガーを製造し、請求人を介してジーユー社への出荷を開始したと把握されるが、これに関連し、「Y17−07−025」の記号がともに看取される甲1の6のINVOICE(送り状)及び甲1の7の輸入許可通知書によると、「ジーユー 横浜港北ノースポート・モール店」宛ての「GTH−400」に係る「PLASTIC HANGER」が、請求人を輸入者として、中華人民共和国から日本国に輸入され、2017年8月16日に、その輸入が許可されたことが把握できる。そして、甲1の8の売上伝票(控)、甲1の10の鈴木竜介の陳述書(前記1(1)ケ(イ)c)、甲1の13の電子メール(前記1(1)シ(イ)a及びb)及び証人菅淳一の証言(前記1(2)ア(ク))によると、「GTH_400 中空成形ハンガー MW共有 W400」が、同じく2017年8月16日に、請求人から「gu 港北ノースポート・モール店」に納品されたことが把握できる。 f 甲1の5の公証書に添付された調書から把握される上海鴻雲社において金型「HY17046」を用いて製造されたハンガー、甲1の6(INVOICE(送り状))及び甲1の7(輸入許可通知書)から把握される2017年8月16日に輸入が許可された「PLASTIC HANGER」、並びに甲1の8(売上伝票(控))、甲1の10(鈴木竜介の陳述書)、甲1の13(電子メール)、及び証人菅淳一の証言から把握される2017年8月16日に「gu 港北ノースポート・モール店」に納品された「GTH_400 中空成形ハンガー MW共有 W400」は、いずれも請求人からジーユー社に向けた「GTH−400」に係るハンガーであるといえるから、上海鴻雲社において金型「HY17046」を用いて製造されたハンガーが、2017年8月16日に中華人民共和国から日本国への輸入が許可され、同日に「gu 港北ノースポート・モール店」に納品されたものと推認できる。 g 以上を総合すると、甲1の1及び甲1の2から把握される、型式を「GTH−400」とする「発注書ハンガー」は、上海鴻雲社において金型「HY17046」を用いて製造され、本件特許の優先日(2018年6月15日)前である、2017年8月16日に、輸入者である請求人から、「gu 港北ノースポート・モール店」を運営するジーユー社に譲渡されたものと推認される。 (イ)実施の公然性について 前記(ア)gに示したように、甲1の1及び甲1の2から把握される、型式を「GTH−400」とする「発注書ハンガー」は、上海鴻雲社において金型「HY17046」を用いて製造され、2017年8月16日に、輸入者である請求人から、「gu 港北ノースポート・モール店」を運営するジーユー社に譲渡されたものと推認されるが、この譲渡にあたり、請求人とジーユー社との間、又はジーユー社内などにおいて、当該ハンガーの構造等に関する守秘義務が存在していたという事実は認められない。また、社会通念に照らしても、顧客であるジーユー社が、当然に守秘義務を課されていたとは認められない。これらのことは、甲1の10の鈴木竜介の陳述書(前記1(1)ケ(イ)d)、証人菅淳一の証言(前記1(2)ア(ウ))からも裏付けられるものである。 被請求人は、「所有権の移転が直ちに公然実施にはならないことは自明である。・・・また、企業などの法人が購入した物の所有権は法人に属する。このことは証拠を要さない事実である。法人の所有に係る物を許可なくその従業員が破壊できる根拠はない。」(口頭審理陳述要領書第6ページ第28行〜第32行)と主張するが、ハンガーの納品を受けたジーユー社において、所望のハンガーが納品されたかの確認は、当然、行われるべきものと解され、例えば、ハンガーの調達を担当する者が、このような確認のため、必要に応じて、ハンガーの分解等を行うことは、業務の範囲内として、当然に許可されているものと認められる。 そうすると、前記(ア)gに示した請求人からジーユー社へのハンガーの譲渡により、当該ハンガーは、ジーユー社の従業員が、その構造等を知り得る状態におかれたといえ、日本国内又は外国において公然に譲渡(実施)をされたものと認められる。 イ 公然実施をされた発明について 2017年8月16日に「gu 港北ノースポート・モール店」に納品されることにより公然実施をされたハンガー(以下、「公然実施ハンガー」という。)は、前記ア(ア)gに示したように、型式を「GTH−400」とする「発注書ハンガー」を、上海鴻雲社において金型「HY17046」を用いて製造したものと推認できるから、「公然実施ハンガー」の構造等は、公然実施前に上海鴻雲社において金型「HY17046」を用いて製造されたハンガー(以下、「17年上海製ハンガー」という。)の構造等と同一であるといえる。 したがって、「公然実施ハンガー」として、公然実施をされた発明を認定するにあたり、以下、「17年上海製ハンガー」の構造等を検討する。 (ア)「17年上海製ハンガー」について 「17年上海製ハンガー」は、型式を「GTH−400」とする「発注書ハンガー」を、上海鴻雲社において金型「HY17046」を用いて製造したものであるところ、前記1(1)イ(オ)に示した「証拠保全ハンガー」は、金型「HY17046」を用いて製造された、名称が「GTH−400」のハンガーである。 すると、「17年上海製ハンガー」と「証拠保全ハンガー」とは、ともに「GTH−400」に係るハンガーであり、金型「HY17046」を用いて製造されたものである。 a 「GTH−400」の同一性からみた検討 「17年上海製ハンガー」と「証拠保全ハンガー」とは、前記したように、ともに「GTH−400」に係るハンガーであるところ、証人菅淳一の証言(前記1(2)ウ(ア))によると、同じ記号「GTH−400」で示されるハンガーは、その構造が同じとのことである。 また、甲1の3に添付された写真のプリント、及び甲1の4に保存された動画から把握される「証拠保全ハンガー」の外観をみても、甲1の1の図面に示された「発注書ハンガー」の外観と、特段の相違は認められず、「発注書ハンガー」を金型「HY17046」を用いて製造した「17年上海製ハンガー」の製造時から、当該「証拠保全ハンガー」の製造時までに、「GTH−400」に係るハンガーの構造が変更されたという特別の事情を把握することはできない。 すると、「17年上海製ハンガー」と「証拠保全ハンガー」とは、ともに「GTH−400」に係るハンガーであって、その構造は、製造時の個体差はあるにせよ、同様であると考えるのが自然である。 b 金型「HY17046」の同一性からみた検討 (a)金型について 「17年上海製ハンガー」と「証拠保全ハンガー」とは、前記したように、ともに金型「HY17046」を用いて製造されものである。そして、金型の作成に際して、甲1の9の金型申請書において、社長の決裁を取得していること(証人菅淳一の証言における前記1(2)ア(キ))からも把握できるように、金型の決定は、社内における重大な意志決定であり、一度、作成された金型を改変することは希であると解される。また、仮に金型を改変せざるを得ない場合でも、その場合には、金型の記号も変更するのが自然である。 すると、「17年上海製ハンガー」と「証拠保全ハンガー」とは、同じ金型「HY17046」を用いて製造されたものと推認され、具体的には、ともに甲1の5の調書に添付された資料の第1ページ〜第4ページに記載された図面(前記1(1)ウ(イ)f、g、h及びi。以下、「甲1の5金型図面」という。)に基づき作成された金型「HY17046」を用いて製造されたものと推認される。 (b)成形条件について 次に、前記(a)で示したように「17年上海製ハンガー」と「証拠保全ハンガー」とが、ともに甲1の5金型図面に基づき作成された金型「HY17046」を用いて製造されたとしても、それぞれの製造時における成形条件が異なれば、それぞれのハンガーの外形や空間部の形態が異なるものになると解されるから、両者の製造時における成形条件について検討する。 まず、「17年上海製ハンガー」は、その製造後、2017年8月16日に「gu 港北ノースポート・モール店」に納品されたものであることを考慮すると、この「17年上海製ハンガー」は、種々の成形不良が生じない最適な成形条件を決定した上で、製造されたと推認される。 また、甲1の5金型図面に基づき作成された金型「HY17046」を用いたハンガーの製造は、甲3(鑑定書)の前記1(1)ソ(イ)aによると、ステキャビ法によるガスインジェクション成形法で行われたものと解され、金型「HY17046」は、甲3の前記1(1)ソ(イ)aに示した図面における、○1で示された窒素ガス供給用穴、○2で示された材料供給用穴、○3で示された材料排出用穴を備えるものと解される。そして、甲3(鑑定書)の前記1(1)ソ(イ)bによると、金型「HY17046」において、窒素ガス供給用穴○1と材料排出用穴○3が、ともにハンガー下側に設置されているから、窒素ガスの流路は、両者の間を可能な限り短い距離で結ぶように形成され、結果的に、成形品断面の下側に偏って窒素ガスの流路(空間)が形成されるとのことであるから、前記した「証拠保全ハンガー」の外形及び空間部の形態は、金型「HY17046」を用いて製造されたハンガーの外形及び空間部の形態として、技術的に不自然なものではなく、「証拠保全ハンガー」の製造が、空間部の形態等を意図的に調整するために特別に変更された成形条件で行われたとは解されない。 さらに、甲3(鑑定書)の前記1(1)ソ(イ)cによると、ガスインジェクション成形法において設計どおりの成形品を得るための成形条件は広くなく、量産のための条件出しが完了した後、樹脂や窒素ガスの流量・圧力を意図的に変化させることはなく、意図せずにこれらが変化した場合には成形不良が生じることが多いとのことであるが、甲1の3及び甲1の4から把握される「証拠保全ハンガー」の外形及び空間部の形態に外観上の不良がみられないことを考慮すると、「証拠保全ハンガー」は、種々の成形不良が生じないように予め決定された成形条件で製造されたと推認される。 すると、「17年上海製ハンガー」と、「証拠保全ハンガー」とは、ともに種々の成形不良が生じないように予め決定された成形条件で製造されたと解され、量産のための条件出しが完了した後に、当該条件を変更することは、通常、行われないことを考慮すると、「17年上海製ハンガー」と「証拠保全ハンガー」とは、同様の成形条件で製造されたものと推認される。 (c)小括り 前記した(a)及び(b)を踏まえると、「17年上海製ハンガー」と「証拠保全ハンガー」とは、同じ金型「HY17046」を用い、同様の成形条件で製造されたものと推認され、両者の外形及び空間部の形態は、製造時の個体差はあるにせよ、同様であると考えるのが自然である。 c 被請求人の主張について 被請求人は、令和3年1月12日に、乙3及び乙4とともに、上申書を提出し、この上申書において、「甲第1の5号証に含まれる金型HY17046の図から理解される金型で製造されるハンガーの内部の空間について、その形状、位置、大きさ(以下、「形状、位置、大きさ」を総称して「形態」と呼ぶ。)を特定することは不可能である。ハンガー内に形成される空間の形態を特定することが不可能である客観的な証拠は、成形条件が不明であり、成形条件を特定するための客観的な証拠もないという事実である(乙第3号証、乙第4号証参照。)。上記を言いかえると、ハンガー内に形成される空間が、ハンガー内の全体にわたるような大きな空間なのか、主にハンガーの上側の部分に沿った空間なのか、ハンガーを斜めに横切る空間なのか、あるいは、その他の形態の空間なのか、特定することができないということである(乙第4号証参照)。」(上申書第1ページ下から7行〜第2ページ第2行)と主張している。 被請求人が主張するように、「17年上海製ハンガー」の製造時における成形条件を直接的に特定することはできず、仮に「17年上海製ハンガー」が、「証拠保全ハンガー」の製造時とは、全く異なる成形条件で製造されていたとすれば、被請求人が主張するように、ハンガー内に形成される空間が、ハンガー内の全体にわたるような大きな空間、ハンガーの上側の部分に沿った空間、又はハンガーを斜めに横切る空間等に形成されていたかもしれない。 しかしながら、前記b(b)に示したように、「17年上海製ハンガー」と「証拠保全ハンガー」とは、同様の成形条件で製造されたものと推認されるから、「17年上海製ハンガー」の製造時における成形条件を直接的に特定することができないことをもって、「17年上海製ハンガー」内に形成される空間部の形態を特定できないとはいえず、被請求人の前記主張は採用することができない。 d まとめ 前記a〜cで検討した事項を踏まえると、「17年上海製ハンガー」の外形及び空間部の形態は、「証拠保全ハンガー」の外形及び空間部の形態と、製造時の個体差はあるにせよ、同様であったと推認される。 (イ)公然実施をされた発明の認定 「17年上海製ハンガー」は、前記したように型式を「GTH−400」とする「発注書ハンガー」を、上海鴻雲社において金型「HY17046」を用いて製造したものと推認できるところ、その外形及び空間部の形態は前記(ア)に示したように、「証拠保全ハンガー」の外形及び空間部の形態と同様のものであったと推認される。 これらを踏まえ、「17年上海製ハンガー」が「公然実施ハンガー」として、公然実施をされた際の発明を検討する。 まず、「17年上海製ハンガー」、つまり「公然実施ハンガー」は、前記1(1)ア(オ)に示した「発注書ハンガー」として把握された事項によると、「フックと本体とを備えるトップス用の中空成形ハンガー」であるといえ、また、本体が「ポリプロピレンによって形成されて」いるといえる。同様に「フックは、吊り下げのための上側部分と、前記中心部に固定される下側部分で構成されている」といえる。 さらに、「公然実施ハンガー」は、上海鴻雲社において金型「HY17046」を用いて製造されることにより、「発注書ハンガー」の「肩支持部に沿った空間部」の形態が、前記1(1)イ(オ)に示した「証拠保全ハンガー」の空間部の形態と同様のものとなり、また、「本体」は、「合わせ目を有さない単一の部材として形成され」たと推認される。 以上を総合すると、「公然実施ハンガー」として、甲1の1〜甲1の4から、把握される次の発明(以下、「公然実施発明」という。)が公然実施をされたと認められる。 [公然実施発明] フックと本体とを備えるトップス用の中空成形ハンガーであって、 前記本体は、 前記フックが固定される中心部と、前記中心部に対して対称に形成される一対の肩支持部が、ポリプロピレンによって合わせ目を有さない単一の部材として形成されており、 前記中心部において屈曲し、一方の前記肩支持部の端部近傍から、他方の前記肩支持部の端部近傍へ向かう空間部が形成されており、 前記中心部において、前記フックが固定される領域には、前記空間部が形成されておらず、 前記中心部における前記空間部の上方の壁の厚さは、前記肩支持部における前記空間部の上方の壁の厚さよりも大きく構成されており、 前記本体の全体にわたって、前記空間部の上方の壁の厚さは、前記空間部の下方の壁の厚さよりも大きく構成されており、 前記フックは、吊り下げのための上側部分と、前記中心部に固定される下側部分で構成されている、 トップス用の中空成形ハンガー。 ウ 本件特許発明1について (ア)対比 本件特許発明1と公然実施発明とを対比すると、後者の「フック」、「本体」、「トップス用の中空成形ハンガー」及び「ポリプロピレン」は、それぞれ前者の「フック部」、「本体部」、「衣服用ハンガー」及び「プラスチック樹脂」に相当する。また、後者の「吊り下げのための上側部分」は、トップス用の中空成形ハンガーの本体を介して、トップスを吊り下げるためのものであるから、前者の「衣服を吊り下げる上側部分」に相当する。 したがって、本件特許発明1と公然実施発明とは、次の点で一致し、 [一致点] フック部と本体部とを備える衣服用ハンガーであって、 前記本体部は、 前記フック部が固定される中心部と、前記中心部に対して対称に形成される一対の肩支持部が、プラスチック樹脂によって合わせ目を有さない単一の部材として形成されており、 前記中心部において屈曲し、一方の前記肩支持部の端部近傍から、他方の前記肩支持部の端部近傍へ向かう空間部が形成されており、 前記中心部において、前記フック部が固定される領域には、前記空間部が形成されておらず、 前記中心部における前記空間部の上方の壁の厚さは、前記肩支持部における前記空間部の上方の壁の厚さよりも大きく構成されており、 前記本体部の全体にわたって、前記空間部の上方の壁の厚さは、前記空間部の下方の壁の厚さよりも大きく構成されており、 前記フック部は、衣服を吊り下げる上側部分と、前記中心部に固定される下側部分で構成されている、 衣服用ハンガー。 次の点で相違する。 [相違点] 本件特許発明1は、「前記下側部分は、複数の環状部が形成された直線部と、前記環状部の上方に位置し、直径が拡大した拡径部で構成され、前記環状部は、上面から下方に向かって縮径する傾斜面を有し、前記環状部の前記上面及び前記傾斜面、及び、前記拡径部の上面及び下面は、前記中心部を構成する前記プラスチック樹脂と接している」のに対し、公然実施発明は、下側部分に前記のような環状部及び拡径部が形成されているか不明である点。 (イ)判断 a 相違点について 以下、前記相違点について検討する。 本件特許発明1における「上面から下方に向かって縮径する傾斜面を有し」、「前記上面及び前記傾斜面」が「前記中心部を構成する前記プラスチック樹脂と接している」複数の環状部と、「直径が拡大し」、その「上面及び下面は、前記中心部を構成する前記プラスチック樹脂と接している」拡径部とは、「環状部」及び「拡径部」という異なる用語により区別されて特定されていることを考慮すると、その形状や作用等に何らかの違いがあると解するのが自然であるが、請求項1の記載では、両者の違いが、必ずしも明らかでないため、請求項1に記載された「環状部」及び「拡径部」との用語の意義を解釈するにあたり、特許明細書の記載及び図面の図示内容を考慮する。 まず、特許明細書の段落【0029】の「フック部2の下側部分は、複数の環状部2b1が形成された直線部2bと拡径部2aで構成される。環状部2b1は、上側の面から下側の面に向かって傾斜している。」という記載、段落【0031】の「本体部4を成形した後、本体部4を金型から取り出し、プラスチック樹脂が完全に固化する前に、フック部2を本体部4に差しこむと、図9(a)の断面図及び平面図に示すように、本体部4には孔J1が生じるのであるが、極めて短時間において、図9(b)に示すように、拡径部2aを含むフック部2は溶融状態のプラスチック樹脂に覆われる。」という記載、段落【0032】の「あるいは、本体部4を成形した後、本体部4を金型から取り出し、プラスチック樹脂が固化した後に、フック部2をプラスチック樹脂の融点以上の温度に熱して本体部4に差しこむことによって、フック部2が本体部4を溶融状態にしつつ、本体部4の内部に入り込むことができる。いずれの場合においても、フック部2が本体部4に差しこまれた後に、直線部2bと拡径部2aが溶融状態のプラスチック樹脂で覆われ、フック部2は強固に固定される。すなわち、プラスチック樹脂が固化した後において、フック部2の上面2aa及び下面2ab(図7参照)は、プラスチック樹脂と接しているから、本体部4におけるフック部2の上下方向の位置は強固に固定される。」という記載、及び図7の図示内容を考慮すると、環状部2b1は、「上側の面から下側の面に向かって傾斜している」部位を有し、この傾斜している部位が、フック部2を本体部4に差し込む際、フック部4の前方を向き、拡径部2aよりも前方に位置することにより、フック部2を本体部4に差し込む際の抗力を逃がし、差し込みやすくしているものと把握できる。一方、拡径部2aは、環状部2b1とはその作用が異なり、その上面2aa及び下面2abがプラスチック樹脂と接して、本体部4におけるフック部2の上下方向の位置を強固に固定するためのものであるから、本体部4に対してフック部2が上下方向に移動する際の抗力が大きくなるように、その上面2aa及び下面2abに、前記のような傾斜している部位を有さないものと把握できる。 そして、特許明細書の記載及び図面の図示内容から把握できる、環状部2b1と拡径部2aの形状や作用の違いを考慮すると、本件特許発明1において、異なる用語により区別されて特定された「環状部」と「拡径部」とは、それぞれ技術的意義が異なるものと解され、「直径が拡大し」、その「上面及び下面は、前記中心部を構成する前記プラスチック樹脂と接している」と特定されている拡径部の技術的意義は、本体部におけるフック部の上下方向の位置を強固に固定することであるといえる。そして、仮に、拡径部の上面又は下面に、環状部と同様の傾斜面を有するとすると、本体部に対してフック部が上下方向に移動する際の抗力が低減され、移動しやすくなり、前記技術的意義に反することとなるから、拡径部の上面及び下面は、傾斜面を有さないものと解するのが妥当である。そして、この点で、拡径部と環状部とは形状や作用等が異なるものといえる。 このことについては、被請求人も、令和3年12月10日に提出した答弁書の第3ページ下から5行目において、「「拡径部」は「傾斜面」を有さない。」と認めるものである。 そして、甲2には、前記1(1)セ(ア)〜(ウ)によると、ハンガー吊り下げ用のフック(2)を確実に取り付けるために、フック(2)の基端部に拡大頭部を具備することが記載されているものの、フック(2)には、該拡大頭部が一つ設けられるのみであり、複数の環状部や、該環状部の上方に位置する拡径部を設けることついて、何ら記載も示唆もされていない。 次に、甲4には、前記1(1)タ(ア)によると、ハンガーフック2の直線部2bに逆円錐台形の第3挿入部2hを数段、設けることが記載され、前記1(1)タ(イ)〜(エ)の図示内容によると、第3挿入部2hの上底部2iと下底部2jの間に、上底部2iから下底部2jに向かって縮径する傾斜面を有することが看取できる。また、甲5には、前記1(1)チ(ア)及び(イ)によると、フック2に形成した挿込み部3に、抜け止めになるように軸方向に多段で、かつ、それぞれ周方向全周に形成した段部4を設けることが記載され、前記1(1)チ(ウ)及び(エ)の図示内容によると、フック2の直線状に延びる部位に、該段部4を形成することにより、上方の面から下方に向かって縮径する傾斜面が形成されていることが看取できる。したがって、甲4、甲5には、フックの直線部に、上面から下方に向かって縮径する傾斜面を有する環状部を、複数設けることが開示されているといえるものの、これら複数の環状部は、いずれも傾斜面を有するものであって、その形状や作用等について、他の環状部と異なるものではない。 そして、前記したように、本件特許発明1の拡径部は、その上面及び下面に、傾斜面を有さず、環状部とは形状や作用等が異なるものといえるから、甲4、甲5に開示されている複数の環状部は、いずれも本件特許発明1の「拡径部」に相当するものではなく、甲4、甲5には、拡径部を設けること、さらには複数の環状部の上方に拡径部を設けることについて、何ら記載も示唆もされていない。 そうすると、公然実施発明に、甲2に記載された事項、若しくは甲4又は甲5に記載された事項を適用したとしても、フックに、「直径が拡大し」、その「上面及び下面は、前記中心部を構成する前記プラスチック樹脂と接している」拡径部を設ける構成とはならず、まして、この拡径部を複数の環状部の上方に設ける構成とはならないといえる。 さらに、ハンガー本体におけるフックの上下方向の位置を強固に固定するという課題、特に、フックが下方向にも移動しないように強固に固定するという課題について、甲1の1〜甲1の4、甲2、甲4又は甲5のいずれにも何ら示唆されていないから、公然実施発明に、甲4又は甲5に記載された事項を適用したとしても、その際、複数の環状部のうち上方のものを拡径部とすることや、複数の環状部とは別に上方に拡径部を設けることの動機はないといえる。 したがって、甲2に記載された事項、若しくは甲4又は甲5に記載された事項を考慮しても、公然実施発明において、本件特許発明1の前記相違点に係る発明特定事項とすることを、当業者が容易に想到し得るものではない。 b 請求人の主張について (a)請求人は、令和3年9月27日に提出した弁駁書において、「そうすると、甲4の複数の第3挿入部2hのうちの最上部の第3挿入部2hが本件請求項1の「拡径部」に相当し、それよりも下方に位置する複数の第3挿入部2hが本件請求項1の「環状部」に相当する。したがって、本件訂正請求書によって請求項1に加えられた事項は、甲4に開示されている。」(弁駁書第4ページ第6行〜第9行)、「そうすると、甲5の複数の段部4のうちの最上部の段部4が本件請求項1の「拡径部」に相当し、それよりも下方に位置する複数の段部4が本件請求項1の「環状部」に相当する。したがって、本件訂正請求書によって請求項1に加えられた事項は、甲5に開示されている。」(弁駁書第5ページ第5行〜第8行)と主張しているが、前記aで検討したように、本件特許発明1の拡径部は、その上面及び下面に、傾斜面を有さず、環状部とは形状や作用等が異なるものといえるから、甲4に記載された最上部の第3挿入部2hや、甲5に記載された最上部の段部4が本件特許発明1の拡径部に相当するとはいえない。 よって、請求人の前記主張は採用できない。 (b)請求人は、令和3年9月27日に提出した弁駁書において、「しかし、敢えて進歩性について検討するならば、環状部に加えて拡径部が設けられていることによる作用効果は、よりフック部の固定強度が増加するといった程度のものであると理解できる。そうすると、フック部の固定強度の増加については、当業者であれば常に検討する事項(例えば甲4及び甲5参照)であり、進歩性を肯定的に評価しうる程度の顕著な効果とはいえない。したがって、本件の図7に示された形状の拡径部を設けることは、甲4及び甲5の記載に鑑み、いわゆる設計事項と言える。」(弁駁書第6ページ第1行〜第6行)と主張しているが、本件特許発明1は、その上面及び下面に、傾斜面を有さない拡径部を設けることにより、衣服用ハンガーの本体部におけるフック部の上下方向の位置を強固に固定するという作用効果、特に、フック部が下方向にも移動しないように強固に固定するという作用効果を奏するものであり、当該作用効果について、何ら記載も示唆もされていない甲4や甲5に記載された事項を考慮しても、上面及び下面に、傾斜面を有さない拡径部を設けることの動機はなく、該拡径部を設けることは、設計事項といえるものではない。 よって、請求人の前記主張は採用できない。 (c)請求人は、令和3年12月17日に提出した上申書において、「しかし、「拡径部」は「傾斜面」を有さないとの主張は、請求項1の記載に基づかない主張であり、特許請求の範囲の解釈として許されない。ましてや、明細書の実施形態の記載や図面を根拠として特許請求の範囲を限定的に解釈することは許されない。」(令和3年12月12日に提出された上申書第2ページ第1行〜第3行)と主張しているが、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するにあたり、特許請求の範囲の記載が必ずしも明らかでない場合等において、特許明細書の記載や図面の図示内容を考慮することが一律に妨げられるものではない。 よって、請求人の前記主張は採用できない。 c 作用効果について 本件特許発明1は、前記相違点に係る「前記下側部分は、複数の環状部が形成された直線部と、前記環状部の上方に位置し、直径が拡大した拡径部で構成され、前記環状部は、上面から下方に向かって縮径する傾斜面を有し、前記環状部の前記上面及び前記傾斜面、及び、前記拡径部の上面及び下面は、前記中心部を構成する前記プラスチック樹脂と接している」という発明特定事項を備えることにより、「プラスチック樹脂が固化した後において、フック部2の上面2aa及び下面2ab(図7参照)は、プラスチック樹脂と接しているから、本体部4におけるフック部2の上下方向の位置は強固に固定される。」(特許明細書の段落【0032】。)という作用効果を奏するものであって、このような作用効果については、その上面及び下面に、傾斜面を有さず、環状部とは形状や作用等が異なる拡径部について何ら示唆されていない、公然実施発明、甲2に記載された事項、若しくは甲4又は甲5に記載された事項から当業者が予測できるものではない。 (ウ)まとめ したがって、本件特許発明1と公然実施発明は、前記相違点で相違し、該相違点は実質的な相違点といえるから、本件特許発明1は、公然実施発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第2号に規定する発明に該当しない。 また、本件特許発明1は、公然実施発明、甲2に記載された事項、若しくは甲4又は甲5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。 エ 本件特許発明2について 本件訂正請求により、本件訂正前の請求項2は削除されたため、請求人の主張する本件特許発明2についての無効理由は、その対象となる請求項2に係る特許が存在しないものとなった。 オ 本件特許発明3について 本件特許発明3は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、少なくとも前記相違点において、本件特許発明3と公然実施発明とは相違する。そして、前記ウ(イ)のとおり、甲2に記載された事項、若しくは甲4又は甲5に記載された事項を考慮しても、公然実施発明において、本件特許発明1の前記相違点に係る発明特定事項とすることを、当業者が容易に想到し得るものではないから、本件特許発明3についても同様に、甲2に記載された事項、若しくは甲4又は甲5に記載された事項を考慮しても、公然実施発明において、本件特許発明3の前記相違点に係る発明特定事項とすることを、当業者が容易に想到し得るものではない。 したがって、本件特許発明3は、公然実施発明、甲2に記載された事項、及び甲4又は甲5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。 (2)サポート要件について ア サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。 イ 特許明細書の発明の詳細な説明の記載について 特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0005】によると、本件特許発明1が解決しようとする課題は、木製のハンガーよりも安価であり、かつ、木製のハンガーに劣らない高級感のある衣服用ハンガーを提供するというものであり、その課題を解決するために、発明の詳細な説明の段落【0007】には、中心部と、中心部に対して対称に形成される一対の肩支持部が、プラスチック樹脂によって合わせ目を有さない単一の部材として形成されること、及び本体部には、一方の肩支持部の端部近傍から他方の肩支持部の端部近傍に向かう空間部が形成されることが記載されている。 ウ 本件特許発明1について 本件特許発明1は、衣服用ハンガーに関する発明であって、「前記本体部は、前記フック部が固定される中心部と、前記中心部に対して対称に形成される一対の肩支持部が、プラスチック樹脂によって合わせ目を有さない単一の部材として形成されており、前記中心部において屈曲し、一方の前記肩支持部の端部近傍から、他方の前記肩支持部の端部近傍へ向かう空間部が形成されて」いるという発明特定事項を備えるものである。 すると、本件特許発明1は、前記イに示した、木製のハンガーよりも安価であり、かつ、木製のハンガーに劣らない高級感のある衣服用ハンガーを提供するという課題を解決するための手段として、発明の詳細な説明の段落【0007】に記載された、中心部と、中心部に対して対称に形成される一対の肩支持部が、プラスチック樹脂によって合わせ目を有さない単一の部材として形成されること、及び本体部には、一方の肩支持部の端部近傍から他方の肩支持部の端部近傍に向かう空間部が形成されることに対応する事項を備えるものであり、前記課題を解決するための手段が反映されているといえるから、本件特許発明1は、前記課題を解決できると認識できる範囲のものである。 そうすると、本件特許発明1は、サポート要件に違反するものではない。 エ 請求人の主張について 請求人は、令和3年9月27日に提出した弁駁書第2ページ末行〜第3ページ第6行において、本件訂正後の請求項1において、「拡径部」と「環状部」との形状上の区別がされておらず、複数の環状部のみを備えた構成を含むものであり、このような構成については特許明細書には記載も示唆もされていない旨、主張しているが、前記(1)ウ(イ)aで検討したように、本件特許発明1の拡径部は、その上面及び下面に、傾斜面を有さず、環状部とは形状や作用等が異なるものといえ、本件特許発明1は、複数の環状部のみを備えた構成を含むものとはいえない。そして、本件特許発明1において、「拡径部」及び「環状部」について特定した「前記フック部は、衣服を吊り下げる上側部分と、前記中心部に固定される下側部分で構成され、前記下側部分は、複数の環状部が形成された直線部と、前記環状部の上方に位置し、直径が拡大した拡径部で構成され、前記環状部は、上面から下方に向かって縮径する傾斜面を有し、前記環状部の前記上面及び前記傾斜面、及び、前記拡径部の上面及び下面は、前記中心部を構成する前記プラスチック樹脂と接している」という事項は、前記第2 2(1)イで検討した理由と同様の理由により、発明の詳細な説明(前記第2 2(1)イ(ア)〜(オ)参照。)に記載されたものである。 よって、請求人の前記主張は採用できない。 オ まとめ したがって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載したものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。 第7 むすび 以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由及び証拠方法によって、本件特許発明1に係る特許及び本件特許発明3に係る特許を無効とすることはできない。 また、本件訂正請求により、請求項2は削除されたため、請求項2に係る特許についての特許無効審判の請求は、その対象となる特許が存在しないものとなったから、特許法第135条の規定により、その審判の請求を却下する。 審判費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 フック部と本体部とを備える衣服用ハンガーであって、 前記本体部は、 前記フック部が固定される中心部と、前記中心部に対して対称に形成される一対の肩支持部が、プラスチック樹脂によって合わせ目を有さない単一の部材として形成されており、 前記中心部において屈曲し、一方の前記肩支持部の端部近傍から、他方の前記肩支持部の端部近傍へ向かう空間部が形成されており、 前記中心部において、前記フック部が固定される領域には、前記空間部が形成されておらず、 前記中心部における前記空間部の上方の壁の厚さは、前記肩支持部における前記空間部の上方の壁の厚さよりも大きく構成されており、 前記本体部の全体にわたって、前記空間部の上方の壁の厚さは、前記空間部の下方の壁の厚さよりも大きく構成されており、 前記フック部は、衣服を吊り下げる上側部分と、前記中心部に固定される下側部分で構成され、 前記下側部分は、複数の環状部が形成された直線部と、前記環状部の上方に位置し、直径が拡大した拡径部で構成され、前記環状部は、上面から下方に向かって縮径する傾斜面を有し、 前記環状部の前記上面及び前記傾斜面、及び、前記拡径部の上面及び下面は、前記中心部を構成する前記プラスチック樹脂と接している、 衣服用ハンガー。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 衣類を吊り下げる吊り下げ部と、前記肩支持部の端部近傍の下部に固定される一対の固定軸部を有するアンダーバーを有し、 前記固定軸部には、直径が拡大した拡大部が形成されており、 前記拡大部の上面及び下面は、前記肩支持部を構成する前記プラスチック樹脂と接している、 請求項1に記載の衣服用ハンガー。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2022-01-26 |
結審通知日 | 2022-01-28 |
審決日 | 2022-02-14 |
出願番号 | P2018-567776 |
審決分類 |
P
1
113・
537-
YAA
(A47G)
P 1 113・ 121- YAA (A47G) P 1 113・ 112- YAA (A47G) |
最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
佐々木 芳枝 |
特許庁審判官 |
柿崎 拓 長馬 望 |
登録日 | 2019-05-10 |
登録番号 | 6521554 |
発明の名称 | 衣服用ハンガー及び衣服用ハンガーの製造方法 |
代理人 | 三苫 貴織 |
代理人 | 川上 美紀 |
代理人 | 藤田 考晴 |
代理人 | 八木澤 史彦 |
代理人 | 藤澤 厚太郎 |
代理人 | 長田 大輔 |
代理人 | 八木澤 史彦 |
代理人 | 河合 利恵 |