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審決分類 審判 一部無効 1項3号刊行物記載  H01H
審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01H
審判 一部無効 2項進歩性  H01H
管理番号 1388685
総通号数 10 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-10-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2020-05-15 
確定日 2022-07-04 
訂正明細書 true 
事件の表示 上記当事者間の特許第6249602号発明「保護素子」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第6249602号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔3〜5、10、12〜24〕について訂正することを認める。 特許第6249602号の請求項23に係る発明についての特許を無効とする。 特許第6249602号の請求項1、3、4、10、12ないし19、21及び24に係る発明についての特許の審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その15分の14を請求人の負担とし、15分の1を被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1 特許第6249602号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし24に係る発明は、平成25年1月21日(優先権主張 平成24年3月29日)に出願され、平成29年12月1日に特許権の設定登録がなされた。
2 本件特許について、令和2年5月15日に請求人ショット日本株式会社(以下、「請求人」という。)より、「特許第6249602号の請求項1、3、4、10、12ないし19、21、23、24に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。との審決を求める。」との無効審判請求がなされた。
以下に、本件審判の請求以後の経緯を整理して示す。
令和2年 5月15日付け 審判請求書の提出(請求人)
令和2年11月13日付け 審判事件答弁書、訂正請求書(1)の提出
(被請求人)
令和2年12月28日付け 審判事件弁駁書(1)の提出(請求人)
令和3年 2月12日付け 審理事項通知書(1)
令和3年 3月 5日付け 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人)
同日付け 口頭審理陳述要領書の提出(請求人)
令和3年 3月11日付け 上申書(1)の提出(請求人)
令和3年 3月19日付け 審理事項通知書(2)
令和3年 3月26日 特許庁審判廷における口頭審理
同日付け 上申書(2)の提出(請求人)
令和3年 4月 9日付け 上申書の提出(被請求人)
令和3年 4月12日付け 無効理由通知書及び職権審理結果通知書
令和3年 5月13日付け 訂正請求書(2)、意見書の提出(被請求人)
同日付け 意見書の提出(請求人)
令和3年 7月 2日付け 審判事件弁駁書(2)の提出(請求人)
令和3年 9月17日付け 審決の予告
令和4年 1月14日付け 審決の予告
なお、訂正請求書、審判事件答弁書、審理事項通知書及び上申書について、提出日の順に「訂正請求書(1)」のように括弧数字を付している。

第2 訂正請求について
本件特許の訂正について、令和2年11月13日付け訂正請求書及び令和3年5月13日付け訂正請求書が提出されているが、「訂正の請求がされた場合において、その審判事件において先にした訂正の請求があるときは、当該先の請求は、取り下げられたものとみなす」(特許法第134条の2第6項)と規定されているから、令和3年5月13日付け訂正請求書における訂正特許請求の範囲のみを審理の対象とする。

1 訂正の内容
被請求人は、令和3年5月13日付け訂正請求書により、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであって、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。(下線は訂正箇所である。)

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項3に「上記発熱体引出電極から上記第1及び第2の電極にわたって積層され、加熱により、該第1の電極と該第2の電極との間の電流経路を溶断する可溶導体とを備え、」とある記載を、「上記発熱体引出電極から上記第1及び第2の電極にわたって、上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間でまたいで上記絶縁基板と直接密着しないように積層され、加熱により、該第1の電極と該第2の電極との間の電流経路を溶断する可溶導体とを備え、」に訂正する。
請求項3の記載を引用する請求項4、5、13ないし15、21、22及び24も同様に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項10に「上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間でまたいで、該第1の電極と該第2の電極が高融点金属層と低融点金属層に挟まれないように積層され、発熱体の加熱により、該第1の電極と該第2の電極との間の電流経路を溶断する可溶導体とを備え、」とある記載を、「上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間でまたいで上記絶縁基板と直接密着しないように、且つ、該第1の電極と該第2の電極が高融点金属層と低融点金属層に挟まれないように積層され、発熱体の加熱により、該第1の電極と該第2の電極との間の電流経路を溶断する可溶導体とを備え、」に訂正する。
請求項10の記載を引用する請求項13ないし22及び24も同様に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項12に「上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間でまたいで、該第1の電極と該第2の電極が高融点金属層と低融点金属層に挟まれないように積層され、上記発熱素子の加熱により、該第1の電極と該第2の電極との間の電流経路を溶断する可溶導体とを備え、」とある記載を、「上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間でまたいで上記絶縁基板と直接密着しないように、且つ、該第1の電極と該第2の電極が高融点金属層と低融点金属層に挟まれないように積層され、上記発熱素子の加熱により、該第1の電極と該第2の電極との間の電流経路を溶断する可溶導体とを備え、」に訂正する。
請求項12の記載を引用する請求項13ないし22及び24も同様に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項16に「上記可溶導体は、内層が高融点金属層であり、外層が低融点金属層の被覆構造であることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載の保護素子。」とある記載を、「上記可溶導体は、内層が上記高融点金属層であり、外層が上記低融点金属層の被覆構造であることを特徴とする請求項1,2,6〜12のいずれか1項に記載の保護素子。」に訂正する。
請求項16の記載を引用する請求項17、21、22及び24も同様に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項18に「上記可溶導体は、内層が低融点金属層であり、外層が高融点金属層の被覆構造であることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載の保護素子。」とある記載を、「上記可溶導体は、内層が上記低融点金属層であり、外層が上記高融点金属層の被覆構造であることを特徴とする請求項1,2,6〜12のいずれか1項に記載の保護素子。」に訂正する。
請求項18の記載を引用する請求項21、22及び24も同様に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項19に「上記可溶導体は、上層を低融点金属層、下層を高融点金属層とする2層積層体であることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載の保護素子。」とある記載を、「上記可溶導体は、上層を上記低融点金属層、下層を上記高融点金属層とする2層積層体であることを特徴とする請求項1,2,6〜12のいずれか1項に記載の保護素子。」に訂正する。
請求項19の記載を引用する請求項21、22及び24も同様に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項20に「上記可溶導体は、上記高融点金属層、上記低融点金属層を、交互に4層以上積層して形成されていることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載の保護素子。」とある記載を、「上記可溶導体は、上記高融点金属層、上記低融点金属層を、交互に4層以上積層して形成されていることを特徴とする請求項1,2,6〜12のいずれか1項に記載の保護素子。」に訂正する。
請求項20の記載を引用する請求項21、22及び24も同様に訂正する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項23に「上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間でまたいで、該第1の電極と該第2の電極が高融点金属層と低融点金属層に挟まれないように積層され、加熱により、該第1の電極と該第2の電極との間の電流経路を溶断する可溶導体とを備え、上記可溶導体は、上記高融点金属層からなり、上記第1の電極、上記第2の電極、及び上記発熱体引出電極上において、上層を該高融点金属層、下層を上記低融点金属層の2層構造をなし、上記低融点金属層は、上記発熱体が発する熱により溶融することで、上記高融点金属層からなる上記可溶導体を浸食しながら、上記低融点金属層の濡れ性が高い上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極側に引き寄せられて溶断されることを特徴とする保護素子。」とある記載を、「上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間でまたいで上記絶縁基板と直接密着しないように、且つ、該第1の電極と該第2の電極が高融点金属層と低融点金属層に挟まれないように積層され、加熱により、該第1の電極と該第2の電極との間の電流経路を溶断する可溶導体とを備え、上記可溶導体は、上記高融点金属層からなる単層の可溶導体であり、上記第1の電極、上記第2の電極、及び上記発熱体引出電極上において、上層を該高融点金属層、下層を低融点金属からなる上記低融点金属層の2層構造をなし、上記可溶導体は、上記低融点金属層が上記発熱体の発する熱により溶融することで上記高融点金属層を浸食しながら、上記高融点金属層が上記低融点金属層の濡れ性が高い上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極側に引き寄せられて溶断されることを特徴とする保護素子。」に訂正する。
請求項23の記載を引用する請求項24も同様に訂正する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項24に「上記高融点金属層の体積よりも上記低融点金属層の体積の方が多いことを特徴とする請求項1〜23のいずれか1項に記載の保護素子。」とある記載を、「上記低融点金属層は、Pbフリーハンダからなり、上記高融点金属層は、Ag若しくはCu又はAg若しくはCuを主成分とする金属からなり、上記高融点金属層の体積よりも上記低融点金属層の体積の方が多いことを特徴とする請求項1〜12,14〜23のいずれか1項に記載の保護素子。」に訂正する。

(10)一群の請求項について
訂正前の請求項24は請求項1ないし23のいずれか1項を引用している。したがって訂正前の請求項3、10、12、16、18、19、20、23及び24に対応する訂正後の請求項3、10、12、16、18、19、20、23及び24は、特許法第134条の2第3項に規定する一群の請求項である。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1
訂正事項1は、請求項3に係る発明の可溶導体の積層状態を具体的に特定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1はカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
そして、訂正事項1は、願書に添付した明細書の段落【0063】〜【0065】及び図11又は【0074】〜【0075】及び図13等に記載されているから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でした訂正である。

(2)訂正事項2
訂正事項2は、請求項10に係る発明の可溶導体の積層状態を具体的に特定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項2はカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
そして、訂正事項2は、願書に添付した明細書の段落【0075】及び【0077】並びに図13等に記載されているから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でした訂正である。

(3)訂正事項3
訂正事項3は、請求項12に係る発明の可溶導体の積層状態を具体的に特定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項3はカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
そして、訂正事項3は、願書に添付した明細書の段落【0087】及び【0089】並びに図15等に記載されているから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でした訂正である。

(4)訂正事項4
訂正事項4は、訂正前の請求項16が請求項1ないし15のいずれか1項の記載を引用するとしたものを、請求項1、2及び6ないし12のいずれか1項の記載を引用するようにしたものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、訂正事項4は、請求項16において可溶導体を構成する高融点金属層と低融点金属層が、引用する請求項に記載のものであることを明確にするために「上記」の記載を追加するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項4は請求項16において引用する請求項の数を少なくするものであり、加えて、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないものであり、さらに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でした訂正である。

(5)訂正事項5
訂正事項5は、訂正前の請求項18が請求項1ないし15のいずれか1項の記載を引用するとしたものを、請求項1、2及び6ないし12のいずれか1項の記載を引用するようにしたものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、訂正事項5は、請求項18において可溶導体を構成する高融点金属層と低融点金属層が、引用する請求項に記載のものであることを明確にするために「上記」の記載を追加するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項5は請求項18において引用する請求項の数を少なくするものであり、加えて、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないものであり、さらに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でした訂正である。

(6)訂正事項6
訂正事項6は、訂正前の請求項19が請求項1ないし15のいずれか1項の記載を引用するとしたものを、請求項1、2及び6ないし12のいずれか1項の記載を引用するようにしたものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、訂正事項6は、請求項19において可溶導体を構成する高融点金属層と低融点金属層が、引用する請求項に記載のものであることを明確にするために「上記」の記載を追加するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項6は請求項19において引用する請求項の数を少なくするものであり、加えて、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないものであり、さらに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でした訂正である。

(7)訂正事項7
訂正事項7は、訂正前の請求項20が請求項1ないし15のいずれか1項の記載を引用するとしたものを、請求項1、2及び6ないし12のいずれか1項の記載を引用するようにしたものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項7は請求項20において引用する請求項の数を少なくするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないものであり、さらに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でした訂正である。

(8)訂正事項8
訂正事項8のうち、請求項23に係る発明の可溶導体を「上記絶縁基板と直接密着しないように」積層されるものと特定することは、該可溶導体の積層状態を具体的に特定するものである。さらに、訂正事項8のうち、可溶導体の構成を「上記高融点金属層からなる単層の可溶導体であ」ること、及び、第1の電極、第2の電極及び発熱体引出電極上において、上層を該高融点金属層、下層を「低融点金属からなる」上記低融点金属層の2層構造をなすことを特定している。したがって、訂正事項8の上記各事項は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項8のうち、「上記可溶導体は、上記低融点金属層が上記発熱体の発する熱により溶融することで上記高融点金属層を侵食しながら、上記高融点金属層が上記低融点金属層の濡れ性が高い上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極側に引き寄せられて溶断される」ことを特定することは、訂正前の請求項23において、低融点金属層が溶断されることを特定していたために発明が不明確となっていたことに対応するものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
加えて、訂正事項8はカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
そして、訂正事項8は、願書に添付した明細書の段落【0117】ないし【0119】及び図21等に記載されているから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でした訂正である。

(9)訂正事項9
訂正事項9は、請求項24において、可溶導体の各層の材料を特定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、訂正事項9は、訂正前の請求項24が請求項1ないし23のいずれか1項の記載を引用するとしたものを、請求項1ないし12及び14ないし23のいずれか1項の記載を引用するようにしたものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
さらに、訂正事項9はカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
そして、訂正事項9は、願書に添付した明細書の段落【0022】及び【0118】に記載されているから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でした訂正である。

(10)独立特許要件について
訂正後の請求項3及び請求項3を引用する請求項4、13ないし15、21及び24について無効審判の請求の対象とされているので、独立特許要件は課されない。訂正後の請求項3を引用する請求項5及び22については、後記第8の1(4)で述べるとおり、訂正後の請求項3は、請求人が主張する無効理由には無効とする理由がなく、他に無効とする理由はないから、訂正後の請求項3を引用する請求項5及び22は、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものではない理由を発見しない。
訂正後の請求項10及び請求項10を直接又は間接的に引用する請求項13ないし19、21及び24について無効審判の請求の対象とされているので、独立特許要件は課されない。訂正後の請求項10を引用する請求項20及び22については、後記第8の1(6)で述べるとおり、訂正後の請求項10は、請求人が主張する無効理由には無効とする理由がなく、他に無効とする理由はないから、訂正後の請求項10を引用する請求項20及び22は、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものではない理由を発見しない。
訂正後の請求項12及び請求項12を直接又は間接的に引用する請求項13ないし19、21及び24について無効審判の請求の対象とされているので、独立特許要件は課されない。訂正後の請求項12を引用する請求項20及び22については、後記第8の1(7)で述べるとおり、訂正後の請求項12は、請求人が主張する無効理由には無効とする理由がなく、他に無効とする理由はないから、訂正後の請求項12を引用する請求項20及び22は、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものではない理由を発見しない。
訂正後の請求項16及び請求項16を引用する請求項17、21及び24について無効審判の請求の対象とされているので、独立特許要件は課されない。訂正後の請求項16を引用する請求項22については、後記第8の1(8)で述べるとおり、訂正後の請求項16は、請求人が主張する無効理由には無効とする理由がなく、他に無効とする理由はないから、訂正後の請求項16を引用する請求項22は、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものではない理由を発見しない。
訂正後の請求項18及び19並びに請求項18又は19を引用する請求項21及び24について無効審判の請求の対象とされているので、独立特許要件は課されない。訂正後の請求項18又は19を引用する請求項22については、後記第8の1(8)で述べるとおり、訂正後の請求項18又は19は、請求人が主張する無効理由には無効とする理由がなく、他に無効とする理由はないから、訂正後の請求項18又は19を引用する請求項22は、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものではない理由を発見しない。
訂正後の請求項20及び請求項20を引用する請求項21、22、24については、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものでない理由を発見しない。
訂正後の請求項23及び請求項23を引用する請求項24については、無効審判の請求の対象とされているので、独立特許要件は課されない。
訂正後の請求項24については、無効審判の請求の対象とされているので、独立特許要件は課されない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法126条第5項ないし第7項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲について、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔3〜5、10、12〜24〕について訂正することを認める。

第3 本件発明について
上記第2のとおり本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1ないし24に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明24」ということがある。)は、令和3年5月13日に提出された訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1ないし24に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
絶縁基板と、
上記絶縁基板に積層された発熱体と、
少なくとも上記発熱体を覆うように、上記絶縁基板に積層された絶縁部材と、
上記絶縁部材が積層された上記絶縁基板に積層された第1及び第2の電極と、
上記第1及び第2の電極の間の電流経路上で該発熱体に電気的に接続された発熱体引出電極と、
上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間でまたいで上記絶縁部材と直接密着しないように積層され、加熱により、該第1の電極と該第2の電極との間の電流経路を溶断する可溶導体とを備え、
上記可溶導体は、少なくとも高融点金属層と低融点金属層とを含む積層体からなり、
上記低融点金属層は、上記発熱体が発する熱により溶融することで、上記高融点金属層を浸食しながら、上記低融点金属層の濡れ性が高い上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極側に引き寄せられて溶断されることを特徴とする保護素子。
【請求項2】
絶縁基板と、
上記絶縁基板に積層された発熱体と、
少なくとも上記発熱体を覆うように、上記絶縁基板に積層された絶縁部材と、
上記絶縁部材が積層された上記絶縁基板に積層された第1及び第2の電極と、
上記第1及び第2の電極の間の電流経路上で該発熱体に電気的に接続された発熱体引出電極と、
上記発熱体引出電極から上記第1及び第2の電極にわたって積層され、加熱により、該第1の電極と該第2の電極との間の電流経路を溶断する可溶導体とを備え、
上記可溶導体は、少なくとも高融点金属層と低融点金属層とを含む積層体からなり、
上記高融点金属層は、表面に開口を有し、上記低融点金属層が露出しており、
上記低融点金属層は、上記発熱体が発する熱により溶融することで、上記高融点金属層を浸食しながら、上記低融点金属層の濡れ性が高い上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極側に引き寄せられて溶断されることを特徴とする保護素子。
【請求項3】
絶縁基板と、
上記絶縁基板に積層された発熱体と、
少なくとも上記発熱体を覆うように、上記絶縁基板に積層された絶縁部材と、
上記絶縁部材が積層された上記絶縁基板に積層された第1及び第2の電極と、
上記第1及び第2の電極の間の電流経路上で該発熱体に電気的に接続された発熱体引出電極と、
上記発熱体引出電極から上記第1及び第2の電極にわたって、上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間でまたいで上記絶縁基板と直接密着しないように積層され、加熱により、該第1の電極と該第2の電極との間の電流経路を溶断する可溶導体とを備え、
上記可溶導体は、上層を高融点金属層、下層を低融点金属層の2層構造をなし、
上記低融点金属層は、上記発熱体が発する熱により溶融することで、上記高融点金属層を浸食しながら、上記低融点金属層の濡れ性が高い上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極側に引き寄せられて溶断されることを特徴とする保護素子。
【請求項4】
上記高融点金属層はPb含有ハンダよりも高い熱伝導度であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の保護素子。
【請求項5】
上記可溶導体の両端において、上記第1及び第2の電極に接続される部分にハンダの溜まり部を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の保護素子。
【請求項6】
絶縁基板と、
上記絶縁基板に積層された発熱体と、
少なくとも上記発熱体を覆うように、上記絶縁基板に積層された絶縁部材と、
上記絶縁部材が積層された上記絶縁基板に積層された第1及び第2の電極と、
上記第1及び第2の電極の間の電流経路上で該発熱体に電気的に接続された発熱体引出電極と、
上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間でまたいで上記絶縁部材と直接密着しないように積層され、加熱により、該第1の電極と該第2の電極との間の電流経路を溶断する複数の可溶導体とを備え、
上記可溶導体は、少なくとも高融点金属層と低融点金属層とを含む積層体からなり、
上記低融点金属層は、上記発熱体が発する熱により溶融することで、上記高融点金属層を浸食しながら、上記低融点金属層の濡れ性が高い上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極側に引き寄せられて溶断されることを特徴とする保護素子。
【請求項7】
上記複数の可溶導体が積層された上記発熱体引出電極は、上記複数の可溶導体の可溶導体間に絶縁層が形成されている請求項6記載の保護素子。
【請求項8】
上記発熱体引出電極は、上記複数の可溶導体が積層されている部分の幅よりも上記複数の可溶導体の間の部分の幅が狭く形成されている請求項6記載の保護素子。
【請求項9】
絶縁基板と、
上記絶縁基板の内部に内蔵された発熱体と、
上記絶縁基板に積層された第1及び第2の電極と、
上記第1及び第2の電極の間の電流経路上で該発熱体に電気的に接続された発熱体引出電極と、
上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間でまたいで、該第1の電極と該第2の電極が高融点金属層と低融点金属層に挟まれないように積層され、発熱体の加熱により、該第1の電極と該第2の電極との間の電流経路を溶断する可溶導体とを備え、
上記可溶導体は、少なくとも上記高融点金属層と上記低融点金属層とを含む積層体からなり、
上記低融点金属層は、上記発熱体が発する熱により溶融することで、上記高融点金属層を浸食しながら、上記低融点金属層の濡れ性が高い上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極側に引き寄せられて溶断されることを特徴とする保護素子。
【請求項10】
絶縁基板と、
上記絶縁基板に積層された発熱体と、
上記絶縁基板の上記発熱体が積層された面の反対面に積層された第1及び第2の電極と、
上記第1及び第2の電極の間の電流経路上で該発熱体に電気的に接続された発熱体引出電極と、
上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間でまたいで上記絶縁基板と直接密着しないように、且つ、該第1の電極と該第2の電極が高融点金属層と低融点金属層に挟まれないように積層され、発熱体の加熱により、該第1の電極と該第2の電極との間の電流経路を溶断する可溶導体とを備え、
上記可溶導体は、少なくとも上記高融点金属層と上記低融点金属層とを含む積層体からなり、
上記低融点金属層は、上記発熱体が発する熱により溶融することで、上記高融点金属層を浸食しながら、上記低融点金属層の濡れ性が高い上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極側に引き寄せられて溶断されることを特徴とする保護素子。
【請求項11】
絶縁基板と、
上記絶縁基板に積層された発熱体と、
上記絶縁基板の上記発熱体が積層された同一面に積層された第1及び第2の電極と、
上記第1及び第2の電極の間の電流経路上で該発熱体に電気的に接続された発熱体引出電極と、
上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間でまたいで、該第1の電極と該第2の電極が高融点金属層と低融点金属層に挟まれないように積層され、発熱体の加熱により、該第1の電極と該第2の電極との間の電流経路を溶断する可溶導体とを備え、
上記可溶導体は、少なくとも上記高融点金属層と上記低融点金属層とを含む積層体からなり、
上記低融点金属層は、上記発熱体が発する熱により溶融することで、上記高融点金属層を浸食しながら、上記低融点金属層の濡れ性が高い上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極側に引き寄せられて溶断されることを特徴とする保護素子。
【請求項12】
絶縁基板と、
上記絶縁基板に積層された第1及び第2の電極と、
上記第1及び第2の電極の間の電流経路上に積層された発熱体引出電極と、
上記発熱体引出電極に電気的に接続する様に搭載された発熱素子と、
上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間でまたいで上記絶縁基板と直接密着しないように、且つ、該第1の電極と該第2の電極が高融点金属層と低融点金属層に挟まれないように積層され、上記発熱素子の加熱により、該第1の電極と該第2の電極との間の電流経路を溶断する可溶導体とを備え、
上記可溶導体は、少なくとも上記高融点金属層と上記低融点金属層とを含む積層体からなり、
上記低融点金属層は、上記発熱素子が発する熱により溶融することで、上記高融点金属層を浸食しながら、上記低融点金属層の濡れ性が高い上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極側に引き寄せられて溶断されることを特徴とする保護素子。
【請求項13】
上記低融点金属層は、Pbフリーハンダからなり、上記高融点金属層は、Ag若しくはCu又はAg若しくはCuを主成分とする金属からなることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の保護素子。
【請求項14】
上記高融点金属層の表面には、Au若しくはAuを主成分とする皮膜が形成されている請求項1〜13のいずれか1項に記載の保護素子。
【請求項15】
上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極に接続される位置において、上記可溶導体は、低融点金属にて接続されることを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載の保護素子。
【請求項16】
上記可溶導体は、内層が上記高融点金属層であり、外層が上記低融点金属層の被覆構造であることを特徴とする請求項1,2,6〜12のいずれか1項に記載の保護素子。
【請求項17】
上記低融点金属層は、少なくとも一部の上記高融点金属層を貫通するように形成されていることを特徴とする請求項16記載の保護素子。
【請求項18】
上記可溶導体は、内層が上記低融点金属層であり、外層が上記高融点金属層の被覆構造であることを特徴とする請求項1,2,6〜12のいずれか1項に記載の保護素子。
【請求項19】
上記可溶導体は、上層を上記低融点金属層、下層を上記高融点金属層とする2層積層体であることを特徴とする請求項1,2,6〜12のいずれか1項に記載の保護素子。
【請求項20】
上記可溶導体は、上記高融点金属層、上記低融点金属層を、交互に4層以上積層して形成されていることを特徴とする請求項1,2,6〜12のいずれか1項に記載の保護素子。
【請求項21】
上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極の表面に、Ni/Auメッキ処理が施されていることを特徴とする請求項1〜20のいずれか1項に記載の保護素子。
【請求項22】
上記発熱体と上記絶縁基板の間に絶縁部材層を設けることを特徴とする請求項1〜21のいずれか1項に記載の保護素子。
【請求項23】
絶縁基板と、
上記絶縁基板に積層された発熱体と、
少なくとも上記発熱体を覆うように、上記絶縁基板に積層された絶縁部材と、
上記絶縁部材が積層された上記絶縁基板に積層された第1及び第2の電極と、
上記第1及び第2の電極の間の電流経路上で該発熱体に電気的に接続された発熱体引出電極と、
上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間でまたいで上記絶縁基板と直接密着しないように、且つ、該第1の電極と該第2の電極が高融点金属層と低融点金属層に挟まれないように積層され、加熱により、該第1の電極と該第2の電極との間の電流経路を溶断する可溶導体とを備え、
上記可溶導体は、上記高融点金属層からなる単層の可溶導体であり、上記第1の電極、上記第2の電極、及び上記発熱体引出電極上において、上層を該高融点金属層、下層を低融点金属からなる上記低融点金属層の2層構造をなし、
上記可溶導体は、上記低融点金属層が上記発熱体の発する熱により溶融することで上記高融点金属層を浸食しながら、上記高融点金属層が上記低融点金属層の濡れ性が高い上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極側に引き寄せられて溶断されることを特徴とする保護素子。
【請求項24】
上記低融点金属層は、Pbフリーハンダからなり、上記高融点金属層は、Ag若しくはCu又はAg若しくはCuを主成分とする金属からなり、
上記高融点金属層の体積よりも上記低融点金属層の体積の方が多いことを特徴とする請求項1〜12,14〜23のいずれか1項に記載の保護素子。」

第4 請求人の主張及び証拠方法
1 請求の趣旨
請求人は、審判請求書において、「特許第6249602号の請求項1、3、4、10、12−19、21、23、24に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めている。

2 請求人が主張する無効理由
(1)無効理由1(新規性
本件特許の請求項1及び10に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきものである。
(2)無効理由2(進歩性
本件特許の請求項1、3、4、10、12ないし19、21、23及び24に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第5号証に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1、3、4、10、12ないし19、21、23及び24に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきものである。
(3)無効理由3(明確性
本件特許の請求項3、4、12ないし19、21、23及び24に係る発明は明確でないから、本件特許は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対して特許されたものであって、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とされるべきものである。

3 請求人の証拠方法
請求人は、審判請求書に甲第1号証ないし甲第9号証を添付して提出し、審判事件弁駁書(1)に甲第10号証及び甲第11号証を添付して提出し、口頭審理陳述要領書に甲第12号証ないし甲第21号証を添付して提出し、上申書(2)に甲第22号証ないし甲第25号証を添付して提出した。

甲第1号証:特開2002−184282号公報
甲第2号証:A. Wright、外1名、"ELECTRIC FUSES 2nd Edition"、(英)、The Institution of Electrical Engineers、1997、pp.28-33,84-85
甲第3号証:Gabriele Klepp、"Elektriche Schmelzsicherungen Teil 4: Langzeitverhalten"、etz Bd.、(独)、VDE-VERLAG GmbH、1984、 p.846
甲第4号証:特開2007−95592号公報
甲第5号証:米国特許第2911504号明細書
甲第6号証:N.F.モット・H.ジョーンズ著、吉岡正三、外1名訳、「金属物性論」、初版、株式会社内田老鶴圃、1988年7月20日、VII.金属と合金の電気抵抗(1)
甲第7号証:特開2001−167679号公報
甲第8号証:特開平11−120881号公報
甲第9号証:特開平8−236305号公報
甲第10号証:ショット日本株式会社、「バッテリープロテクター(表面実装ヒューズ)」、2020年12月11日(インターネット参照)
甲第11号証:特開2010−170801号公報
甲第12号証:特開平7−169908号公報
甲第13号証:特開2005−66673号公報
甲第14号証:長崎誠三、外1名、「二元合金状態図集」、2版、株式会社アグネ技術センター、2006年4月30日、第16、17、244及び245頁
甲第15号証:特開平6−326389号公報
甲第16号証:ソルダリング用語事典編集委員会、「図解 ソルダリング用語事典」、初版、株式会社工業調査会、1992年11月20日、第244ないし247、454及び455頁
甲第17号証:特開平5−21000号公報
甲第18号証:特開2003−234370号公報
甲第19号証:ソルダリング用語事典編集委員会、「図解 ソルダリング用語事典」、初版、株式会社工業調査会、1992年11月20日、第400、401、434ないし437頁
甲第20号証:竹本正、外1名、「ソルダリング イン エレクトロニクス」、初版、日刊工業新聞社、1990年1月30日、第112ないし117頁
甲第21号証:大澤直、「電子材料のはんだ付技術」、4版、株式会社工業調査会、1988年10月1日、第20ないし23及び102ないし107頁
甲第22号証:特開平9−36533号公報
甲第23号証:再公表特許第2004/108345号(当審注:上申書(2)に添付の証拠説明書には、「国際公開第2004−108345号」と記載されているが、提出された甲第23号証は上記再公表特許である。)
甲第24号証:再公表特許第2009/131178号(当審注:上申書(2)に添付の証拠説明書には、「国際公開第2009−131178号」と記載されているが、提出された甲第24号証は上記再公表特許である。)
甲第25号証:国際公開第2010/076848号

第5 当審から通知した無効理由
当審が、令和2年11月13日付け訂正請求書における訂正特許請求の範囲を審理の対象として、令和3年4月12日付けで職権により通知した無効理由(以下、「当審無効理由」という。)の概要は、次のとおりである。

1 当審無効理由1(明確性
本件特許の請求項23及び24に係る発明は明確でないから、本件特許は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対して特許されたものであって、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とされるべきものである。
2 当審無効理由2(新規性
本件特許の請求項23に係る発明は、甲第11号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきものである。
3 当審無効理由3(進歩性
本件特許の請求項23及び24に係る発明は、甲第11号証に記載された発明及び甲第19号証ないし甲第21号証に記載された技術的事項に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきものである。

第6 被請求人の主張及び証拠方法
1 被請求人の主張
被請求人は、「1.請求人の請求を棄却する。2.審判費用は請求人の負担とする。との審決を求める。」を答弁の趣旨とし、証拠方法として乙第1号証(後記「2 被請求人の証拠方法」を参照。)を提出するとともに、以下のとおり主張をしている。

(1)請求人適格について
請求人は、特許法第123条第2項に定める「利害関係人」に該当することについて審判請求書において何ら記載していない。したがって、被請求人は、請求人の本件特許の無効審判請求を行う利益について争う。
(2)無効理由1ないし3について
無効理由1ないし3は、いずれも理由がない。
(3)当審無効理由1ないし3について
当審無効理由1ないし3は、いずれも理由がない。

ここで、被請求人は、上記のうち「(1)請求人適格について」の争いを取り下げた(第1回口頭審理調書「被請求人 4」を参照。)。

2 被請求人の証拠方法
被請求人は、令和2年11月13日付け答弁書に乙第1号証を添付して提出した。

乙第1号証:国際公開第00/19472号

第7 各甲号証、乙号証の記載
1 甲第1号証
甲第1号証には、図面とともに次の記載がある(下線は当審で付したものである。以下同様。)。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ヒューズ素子及びチップ型ヒューズに関するものである。」
「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、絶縁材の上に半田材料を用いて形成され、絶縁材を介して発熱体から伝わる熱で溶断するヒューズ素子を改良の対象とする。本発明では、第1の半田材料を用いて形成された下側半田材料層と、第1の半田材料よりも融点の低い第2の半田材料を用いて下側半田材料層の上に直接形成された上側半田材料層とからヒューズ素子を構成する。本発明のように、ヒューズ素子を構成すれば、発熱体からヒューズ素子に伝わる熱によって、最初に、第1の半田材料よりも融点の低い第2の半田材料からなる上側半田材料層が溶融して、下側半田材料層の上で溶融状態になる。溶融状態になっている上側半田材料層内は、まとまろうとする力が発生するものの、下側半田材料層に対してぬれ性がよいため、溶融した上側半田材料層は溶融していない下側半田材料層の上に溶断しない状態(分離しない状態)で残っている。したがってリフローソルダリング時にヒューズ素子の上側半田材料層が溶融しても、それだけで上側半田材料層が溶断することはない。発熱体からの熱量が増加して下側半田材料層を構成する第1の半田材料の融点以上に下側半田材料層が加熱されると、下側半田材料層が溶融を開始する。下側半田材料層が溶融をし始めると、すでに溶融していて電極を中心にまとまろうとしている(または溶断しようとしている)上側半田材料層の内部の力が溶融を開始した下側半田材料層に加わって、溶融した下側半田材料層がまとまろうとする速度が速くなる。その結果、融点の高い第1の半田材料のみでヒューズ素子を形成した場合と比べて、本発明のヒューズ素子のほうが溶断に要する時間(溶断時間)が短くなる。」
「【0010】本発明が改良の対象とするチップ型ヒューズは、セラミック製のチップ状基板と、チップ状基板上に配置された半田材料からなるヒューズ素子と、チップ状基板上に配置されて通電されるとヒューズ素子を溶断するための熱を発生する発熱体とを具備しており、リフローソルダリング方法により回路基板上に実装される。なお、この回路基板上には、チップ型ヒューズ以外の他の電子部品もリフローソルダリング方法により実装される。本発明では、リフローソルダリング方法のリフロー条件におけるピーク温度よりも高い融点を有する第1の半田材料を用いて形成された下側半田材料層と、ピーク温度よりも低い融点を有する第2の半田材料を用いて下側半田材料層の上に直接形成された上側半田材料層とからヒューズ素子を構成する。本発明のように、ヒューズ素子を構成すれば、前述したヒューズ素子と同様の作用により、第1及び第2の半田材料の融点及び厚み寸法を適宜に設定することにより、下側半田材料層の溶断時間を短縮することができる。そのため、高い融点を有する下側半田材料層によって、リフローソルダリング時のヒューズ素子の溶断を防ぐことができ、しかも低い融点を有する上側半田材料層によって、溶断時間を短くすることができる。特に本発明によれば、第2の半田材料は、リフロー条件におけるピーク温度よりも低い融点を有しているので、溶断時間の遅れを大幅に抑制することができる。その結果、鉛フリー半田を用いるピーク温度の高いリフローソルダリング時におけるヒューズ素子の溶断を防ぐことができ、しかも比較的短いヒューズ素子の溶断時間が求められる電子部品にも対応できるチップ型ヒューズを得ることができる。」
「【0012】本発明のチップ型ヒューズに用いる発熱体及びヒューズ素子は、種々の構造に構成することができる。例えば、ヒューズ素子をチップ状基板の表面上に配置し、発熱体をチップ状基板を間に介してヒューズ素子と対向するようにチップ状基板の裏面上に配置することができる。このようにすれば、発熱体とヒューズ素子との距離を最短にすることができ、また両者の対向面積を最も大きくすることができるので、発熱体から発生した熱を短い時間で効率良くヒューズ素子に伝達することができ、ヒューズ素子の溶断時間を短くすることができる。この場合、ヒューズ素子は、一対のヒューズ用電極と該一対のヒューズ用電極の間に配置されたヒューズ用中間電極とに跨って形成し、発熱体は一対の発熱体用電極と該一対の発熱体用電極の間に配置された発熱体用中間電極とに跨って形成するのが好ましい。このようにすれば、ヒューズ用中間電極に分割された直列接続の2つの分割ヒューズ素子に対して、それぞれ発熱体用中間電極に分割された分割発熱体から熱を加えることができ、2つの分割ヒューズ素子をそれぞれ確実に遮断することが可能になる。また、ヒューズ素子を形成する際には、ヒューズ用中間電極が溶融した半田材料を引き止めることができるため、半田材料の分離を防いでヒューズ素子を確実に形成できる。更にこの場合には、ヒューズ用中間電極と発熱体用中間電極とを電気的に共通接続し、一対の発熱体用電極を電気的に共通接続するのが好ましい。このようにすれば、ヒューズ,電極及び発熱体の形成が容易になる。」
「【0017】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。図1及び図2は一部を省略した本発明の実施の形態のチップ型ヒューズの平面図及び底面図であり、図3は図1のIII-III線で切断した概略断面図である。なお、理解を容易にするため、図3においては各部の厚み寸法を誇張して描いている。図1及び図2に示すように、このチップ型ヒューズは、ほぼ矩形のチップ状基板1を有している。チップ状基板1はセラミックスにより形成されており、その長手方向に延びる2つの長辺のうちの1つの長辺には3つの半円弧状の凹部3乃至7が形成されている。また他方の長辺の中央部にも1つの円弧状の凹部9が形成されている。これらの凹部3乃至9は、チップ状基板1の表面1aと裏面1bとを結ぶ側面または外周面に沿って延びている。またチップ状基板1の2つの短辺には、それぞれ平面から見てU字状を呈する凹部11及び13が形成されている。これらの凹部11及び13には、チップ状基板の表面1aを覆う図示しないケースの取付用フックが嵌合される。
【0018】チップ状基板1の表面1aには、凹部3乃至7に隣接して形成された表面電極15乃至19と、アンカー部として用いられる補助電極21及び23とが設けられている。表面電極15乃至19及び補助電極21,23は、ガラスペーストにAg,Ag−Pd等の導電性粉末が混練されてなるメタルグレーズ導電性ペーストを用いて形成されている。パターンの印刷はスクリーン印刷を用いて行われ、ペーストの焼成温度は約850℃程度である。凹部3及び7に隣接する表面電極15及び19は、接続用電極15a,19aと一対のヒューズ用電極15b,19bとをそれぞれ有している。凹部5に隣接する表面電極17は、接続用電極17aと接続用電極17aから延びるヒューズ用中間電極17bとを有している。補助電極21は、ヒューズ用電極15bとヒューズ用中間電極17bとの間のほぼ中央部に形成されており、補助電極23は、ヒューズ用電極19bとヒューズ用中間電極17bとの間のほぼ中央部に形成されている。
【0019】チップ状基板1の表面1a上には矩形状のヒューズ素子25が形成されている。ヒューズ素子25は、一対のヒューズ用電極15b,19bと、補助電極21,23と、ヒューズ用中間電極17bとを跨いで形成されており、後述する裏面1b側の発熱体45が発生する熱により溶断する。ヒューズ素子25は、ヒューズ用中間電極17bを跨ぐことにより、一対の分割ヒューズ素子25A及び25Bから構成されることになる。一方の分割ヒューズ素子25Aは、ヒューズ素子25のヒューズ用電極15bとヒューズ用中間電極17bとの間の部分であり、他方の分割ヒューズ素子25Bは、ヒューズ素子25のヒューズ用電極19bとヒューズ用中間電極17bとの間の部分である。本例のように、補助電極21,23及びヒューズ用中間電極17bを跨いでヒューズ素子25を形成すると、ヒューズ素子25を形成する際に補助電極21,23及びヒューズ用中間電極17bが溶融した半田材料を引き止めることができるため、半田材料の分離を防いでヒューズ素子25を確実に形成できる。
【0020】また、ヒューズ素子25は、図3に示すように、下側半田材料層27と、下側半田材料層27の上に直接形成された上側半田材料層29とが積層されて構成されている。下側半田材料層27は、本例のチップ型ヒューズを後述するリフローソルダリング方法により回路基板上に実装する際のリフロー条件におけるピーク温度(250℃)よりも高い融点(295℃)を有する鉛を含む第1の半田材料を用いて形成されている。上側半田材料層29は、ピーク温度(250℃)よりも低い融点(245℃)を有するSn/Sb系の鉛を含まない第2の半田材料を用いて形成されている。下側半田材料層27の形成方法についていは(当審注:原文ママ)、前述の国際公開番号WO00/19472号公報に詳しく説明されているので省略する。また上側半田材料層29の形成方法についていは(当審注:原文ママ)、下側半田材料層27を形成したのちに、その上に国際公開番号WO00/19472号公報に示された方法と同じ方法で重ねて形成すればよい。半田同士のなじみが良いため、上側半田材料層29を形成する際には、アンカーとなるような電極は特に必要としない。第1の半田材料の融点と第2の半田材料の融点の差は40℃以上にするのが好ましい。また、下側半田材料層27の抵抗値R1と、下側半田材料層27と上側半田材料層29とを併せたヒューズ素子の抵抗値R2との比は、1:8となっている。これらの抵抗値R1とR2との比は、1:17〜1:5とするのが好ましい。なお、最も好ましいのは、1:8前後である。下側半田材料層27及び上側半田材料層29の作用については、後に詳細に説明する。なお、第2の半田材料は、Sn/Sb系以外にSn/Ag系及びSn/Cu系を用いることができる。また、本発明のヒューズ素子の構造の思想は、従来の鉛を含む半田材料に用いてもよいのは勿論である。」
「【0022】チップ状基板1の表面1aには、ヒューズ素子25及び各接続用電極15a・・・の半田付け部分を除いた領域に、ガラス材料からなる絶縁材料を用いてオーバーコート36が形成されている。なお、図1では、理解を容易にするため、オーバーコート36を透明に描いている。」
「【0024】チップ状基板1の裏面1b上には、一対の発熱体用電極43b及び43cと発熱体用中間電極39bとを跨ぐように矩形状の発熱体45が形成されている。この発熱体45は、チップ状基板1を間に介して表面1a上のヒューズ素子25と対向する位置に配置されている。この発熱体45もヒューズ素子25と同様に、発熱体用中間電極39bを跨ぐことにより、一対の分割発熱体45A及び45Bから構成されることになり、通電されてチップ状基板1を通してヒューズ素子25を溶断するための熱を発生する。一方の分割発熱体45Aは、発熱体45の発熱体用電極43bと発熱体用中間電極39bとの間の部分であり、分割ヒューズ素子25Bと対向している。他方の分割発熱体45Bは、発熱体45の発熱体用電極43cと発熱体用中間電極39bとの間の部分であり、分割ヒューズ素子25Aと対向している。この発熱体45は、温度上昇にしたがって抵抗値が変化するサーミスタにより形成されている。サーミスタの種類は、使用環境及び目的に応じて適宜に設定することができる。例えば、発熱体に定電圧が印加される使用条件下において、発熱体の焼き切れ防止等を図りたい場合には、温度上昇にしたがって抵抗値が増加する正特性サーミスタを用いるのが好ましい。また、ヒューズ素子の溶断時間を早めたい場合には、温度上昇にしたがって抵抗値が減少する負特性サーミスタを用いるのが好ましい。発熱体に定電流が通電される使用条件下において、発熱体の焼き切れ防止等を図りたい場合には、発熱体として負特性サーミスタを用いるのが好ましい。また、ヒューズ素子の溶断時間を早めたい場合には、発熱体として正特性サーミスタを用いるのが好ましい。負特性サーミスタとしては、B定数が3000〜5000の材料を用いることができる。
【0025】チップ状基板1の裏面1bには、裏面電極41の半田付け部分を除いた領域、一対の発熱体用電極43b,43c及び発熱体45を覆うようにガラス材料または樹脂からなる絶縁コート47が形成されている。なお、図2では、理解を容易にするため、絶縁コート47を透明に描いている。」
「【0028】本例のチップ型ヒューズは、接続用電極37,39a,41,43aに対応する位置に予め半田ペースト(ソルダペースト)が印刷された回路基板に搭載した状態で熱風が噴出する炉を通過させてソルダペーストを溶融させ、その後冷却工程を経て固化させるリフローソルダリング方法により回路基板上に実装される。本例では、下側半田材料層27が、リフローソルダリング方法により回路基板上に実装する際のリフロー条件におけるピーク温度(250℃)よりも高い融点(295℃)を有する第1の半田材料を用いて形成されているため、回路基板上に実装される際にヒューズ素子25が溶断されることはない。また、実装時には、上側半田材料層29の第2の半田材料は溶融した状態で下側半田材料層27の上に連続した溶融状態で留まっている。
【0029】この実施の形態のチップ型ヒューズの回路図は、図5に示す通りである。このチップ型ヒューズでは、接続用電極37及び41が保護すべき回路の遮断部分に接続され、また接続用電極43aが保護すべき回路の過電圧を検出すべき箇所に接続される。そして、過大電圧が接続用電極43aから一対の分割発熱体45A,45Bに印加されると一対の分割ヒューズ素子25A及び25Bの少なくとも一方を通って電流が流れる。そして分割抵抗体45A,45Bからの発熱により、一対の分割ヒューズ素子25A,25Bの少なくとも一つが溶融温度まで加熱されると溶断する。また過大電流が接続用電極37と接続用電極39との間を流れると、その際の熱で一対の分割ヒューズ素子25A,25Bの少なくとも一つが溶断し、接続用電極37と接続用電極41との間で回路が遮断する。本例のように、高い融点を有する第1の半田材料を用いて形成された下側半田材料層27と、低い融点を有する第2の半田材料を用いて下側半田材料層27の上に直接形成された上側半田材料層29とからヒューズ素子25を構成すると、発熱体45からヒューズ素子25に伝わる熱によって、最初に、融点の低い第2の半田材料が溶融して上側半田材料層29が溶断され、次に第1の半田材料が溶融する。その際に第1の半田材料の両端部が溶断された上側半田材料層29にそれぞれ引っ張られるため、下側半田材料層27の溶断が容易になる。そのため、高い融点を有する下側半田材料層27によって、リフローソルダリング時のヒューズ素子の溶断を防ぐことができ、しかも低い融点を有する上側半田材料層29によって、溶断時間の遅れを抑制できる。」
「【図3】



2 甲第2号証
甲第2号証には、図面(特に、Figure 2.13を参照。)とともに次の記載がある(訳は、請求人の提出した甲第2号証の和訳文である。)。
「This phenomenon is now exploited extensively and many fuselinks have low-melting-point metals deposited on the main element material which is usually of silver or copper. When the element is in the form of a strip with restricted sections the low-melting-point metal is deposited adjacent to the restrictions but not always on them, as shown in Figure 2.13. For overload protection, at currents of sufficient magnitude to cause the low-melting-point material to melt, the alloying process commences, the element resistance rises in the alloy region and rupture occurs as described above. The current for operation is lower than that which would be required in the absence of the low-melting-point metal and lower fusing factors can be obtained. At the low operating currents the restrictions do not melt.」(第30ページ下から第5行ないし第31ページ第6行)
「翻訳:現在、この現象は広く利用されており、多くのヒューズリンクは、銀または銅である場合が多い主エレメント材料に溶着された低融点金属を持っている。エレメントが制限部分を持つ細長い形状である場合、低融点金属は制限部分に隣接して溶着されるが、図2.13に示すように必ずしもその上ではない。過負荷保護の場合、低融点材料を融解させるのに十分な電流で合金プロセスが開始され、エレメントの抵抗値が合金領域で上昇し、上述の裂け目が発生する。動作電流は低融点金属が存在しない場合に要求されるものより低く、さらに低い溶断比が得られる。制限部分は低い動作電流で融解しない。」

3 甲第3号証
甲第3号証には、次の記載がある(訳は、請求人の提出した甲第3号証の和訳文である。)。


(第846ページ中央欄下から第5行ないし右欄第14行)
「翻訳:温度が指定された値を超えた場合、可溶部帯とはんだ付け部の間で、拡散プロセスが強くなる、すなわち、可溶部材料−通常は銅または銀−は、軟ろうによって「溶解」する。この材料変化は、はんだ付け部の抵抗を増大させ、温度を上昇させる。それによって拡散プロセスは更に加速し、抵抗値および温度が早くなり、この相互作用的に強化されるプロセスが可溶部の溶断を引き起こす。」

4 甲第4号証
甲第4号証には、図面(特に【図1】ないし【図4】を参照。)とともに次の記載がある。
「【0022】
すなわち、この第2エレメント11を構成する金属材料は、第1エレメント10の金属材料よりも融点が低く、第1エレメント10の金属材料と合金化することで、第1エレメント10の融点を下げるものが選択される。したがって、過電流が印加された場合、この第2エレメント11の形成箇所が溶断の主要部となる。なお、本実施形態では、第2エレメント11がSn(錫)で形成されている。」

5 甲第5号証
甲第5号証には、図面(特にFIG.2を参照。)とともに次の記載がある(訳は、請求人の提出した甲第5号証の和訳文である。)。
(5−1)
「As regards the clad wire form of fuse member, an entirely satisfactory product is obtained when either one of the selected metals is used as the sheath element and the other metal as the core element.」(明細書第2欄第13行ないし第16行)
「翻訳:ヒューズ部材のクラッド線の形態では、選択された金属のうちのいずれか一方が外装要素として使用され、また、もう一方の金属がコア要素として使用される場合に、全体的に良好な製品が得られる。」
(5−2)
「1. A member adapted to be used as an element of a fuse consisting of from 80 to 20 parts by volume of a first material and from 20 to 80 parts by volume of a second material that is in intimate contact with the first material, at least 95% of said first material consisting of a metal selected from the group consisting of palladium and platinum, at least 95% of said second material consisting of a metal selected from the group consisting of aluminum and magnesium.」(明細書第3欄第42行ないし第50行)
「翻訳:1.体積率が80から20の第1の材料と、前記第1の材料と緊密に接触している、体積率が20から80の第2の材料とからなる、ヒューズの要素として使用されるように構成された部材であって、前記第1の材料の少なくとも95%が、パラジウムおよび白金からなるグループから選択される金属からなり、前記第2の材料の少なくとも95%が、アルミニウムおよびマグネシウムからなるグループから選択される金属からなる、部材。」

6 甲第6号証
甲第6号証には、次の記載がある。
「(1)ウィーデマン−フランツの法則(Wiedemann-Franz law);これはTを絶対温度とすると,電気伝導度に対する熱伝導度の比はLTに等しく,Lはすべての金属について同一値をとる,というものである.」(「VII. 金属と合金の電気抵抗」第3行ないし第5行)

7 甲第7号証
甲第7号証には、図面(特に【図2】を参照。)とともに次の記載がある。
「【0008】図2の(イ)は同上の合金型温度プロテクターを示す平面説明図、図2の(ロ)は同じく底面図である。図2の(イ)及び(ロ)において、2は耐熱性及び熱良伝導性の絶縁基板であり、例えばセラミックス板を使用できる。3(散点部分)は、図1の配線を可能にする印刷配線であり、図1における電源用端子b−b及び回路接続用端子a−aは絶縁基板2の裏面側に回り込んで形成されている。この印刷配線は、導電性ペーストの印刷・焼き付けにより形成できる。Tcはリフロー温度よりも高融点のヒューズ素子であり、可溶合金片を印刷配線導体に溶接により接合してあり、その可溶合金片にはフラックス4を塗布することができる。Sは印刷配線導体に溶接により接合した感熱素子であり、機器の温度により抵抗値が急変するものであれば、半導体サーミスタ以外のサーミスタの使用も可能であり、更に、正特性と負特性の何れも使用できる(図1は、負特性の場合を示し、正特性の場合は、点線枠1外の辺Cに挿入される)。Roは発熱素子としての抵抗体、Ra,Rb,Rcはバランス用抵抗体であり、何れの抵抗体も抵抗ペーストの印刷・焼き付けにより形成できる。また、チップ抵抗の使用も可能である。5は封止樹脂層である。この樹脂封止に代え、ケースパッケージで封止することもできる。」

8 甲第8号証
甲第8号証には、図面(特に【図2】を参照。)とともに次の記載がある。
「【0016】ヒューズ4は、所定の値以上の温度で溶融する溶融金属部材である半田でなり、溶融によって回路を遮断する。図4(当審注:「図2」の誤記。)に示すように、ヒューズ4の表面は、半田(融点、約221℃)よりも溶融温度が高い金10(融点1064℃)で被覆されている。金10によるヒューズ4の被覆は、ヒューズ4の全表面にメッキすることで行なった。なお、金のメッキ厚は、0.25μm〜10μmの範囲としている。」

9 甲第9号証
甲第9号証には、図面(特に【図4】を参照。)とともに次の記載がある。
「【0031】電極6a、6b、6c、6d、6eは、一般に基板上に形成される電極端子と同様に形成することができる。例えば、銅箔をパターニングしたもの、銅パターン上に順次ニッケルメッキ、金メッキを施したもの、あるいは銅パターン上に半田メッキを施したもの、あるいは導電ペーストを印刷したもの等から形成することができる。」

10 甲第10号証
甲第10号証には、ショット株式会社の製品であるバッテリープロテクター(表面実装ヒューズ)が記載されている。

11 甲第11号証
甲第11号証には、図面(特に、【図1】、【図2】、【図5】及び【図6】を参照。)とともに次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
この発明は、電子機器等に過大な電流または電圧が印加された場合に、その熱により可溶導体が溶断し、電流を遮断する保護素子に関する。」
「【0010】
また、可溶導体6には、酸化防止の為のフラックス8を塗布しているが、可溶導体6が溶融して濡れ広がる両端の電極5側については、フラックス8は塗布されず、表面が酸化して濡れ性が低下する問題があった。そして、表面の酸化により、溶断後に可溶導体6が濡れ広がる為の電極5の表面を充分に利用できず、溶融した可溶導体6は、接続された導体層4の表面の一部でしか濡れ広がらないものであった。溶融した可溶導体6は、接続された導体層4及び電極5の表面全体に濡れ広がる事が理想的であるが、従来の構造では、図14、図15に示すように、溶融した可溶導体6が広がらずに盛り上がり、絶縁カバー9の内面に接触して熱が逃げ、溶断の動作時間が長くなると言う問題が発生していた。」
「【発明の効果】
【0018】
この発明の保護素子によれば、可溶導体が溶断した際に、確実に広く電極や導体層の表面に濡れ広がり、安定で迅速な溶断動作が可能になる。さらに、可溶導体が絶縁カバーに接触することがないので、溶断動作に遅れが生じることが無く、より安定して確実な動作が可能となり、保護素子の薄型化に貢献するものである。」
「【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明の保護素子の第1実施形態について、図1〜図6を基にして説明する。この実施形態の保護素子10は、絶縁性のベース基板11の上面両端に一対の電極12が設けられ、一対の電極12と直交する対向縁部にも、他の一対の電極21が設けられている。一対の電極21には、抵抗体から成る発熱体15が接続され、発熱体15上には、絶縁層16を介して一方の電極21に接続された導体層17が積層されている。そして、導体層17と一対の電極12にはソルダペースト20が塗布され、ソルダペースト20を介して、低融点金属から成るヒューズである可溶導体13が接続固定されている。さらに、ベース基板11には、可溶導体13と対面して、絶縁体の絶縁カバー14が取り付けられている。」
「【0024】
可溶導体13の低融点金属箔としては、所定の電力で溶融するものであれば良く、ヒューズ材料として公知の種々の低融点金属を使用することができる。例えば、BiSnPb合金、BiPbSn合金、BiPb合金、BiSn合金、SnPb合金、SnAg合金、PbIn合金、ZnAl合金、InSn合金、PbAgSn合金等を用いることができる。」
「【0028】
ソルダペースト20としては、溶融した可溶導体13に対して濡れ性の良い金属成分を含有したもので、鉛フリーのものが好ましく、例えば錫(Sn)銀(Ag)銅(Cu)系のソルダペーストを用いることが出来る。ソルダペースト20は、フラックス成分中にSn等の合金の金属粒子を含有するもので、ここで用いられるフラックスもハロゲンフリーのものが好ましい。ソルダペースト20中の金属粒子の溶融温度は、可溶導体13の溶融温度以下であることが好ましく、より好ましくは出来るだけ近い温度、例えば10℃以内の温度差で溶融するものであると良い。また、ソルダペースト20の塗布パターンは、図3に示すように、導体層17表面で、可溶導体13が積層される部分からはみ出して、導体層17の端縁部に延びて形成されている。また、電極12上では、可溶導体13が載せられる部分のほぼ全面に塗布されている。
【0029】
ここで、可溶導体13は、ソルダペースト20が上記所定パターンで印刷形成された電極12及び導体層17上に載せられ、リフロー炉を通して固定される。このとき、可溶導体13が溶融しない温度で処理されるもので、ソルダペースト20中の金属粒子は、完全に溶融せず、フラックス成分も残った状態で可溶導体13が固定される。」
「【0033】
保護素子10の保護動作時には、先ずソルダペースト20の金属粒子が溶融し、電極12及び導体層17上に広がる。そして、ほとんど間を置かずほぼ同時に可溶導体13が溶融し、図5に示すように溶断する。このとき可溶導体13が溶断する際、図6に示すように、ソルダペースト20が溶融して濡れ広がった電極12及び導体層17上で、可溶導体13も広く濡れ広がり、可溶導体13が絶縁カバー14内の空間18で、高く盛り上がり絶縁カバー14の内面に接触することがない。
【0034】
この実施形態の保護素子10によれば、可溶導体13が溶断する際に、先ずソルダペースト20が広く電極12及び導体層17の表面に濡れ広がり、安定で迅速な溶断動作が可能になる。さらに、可溶導体13が絶縁カバー14に接触しないので、溶断動作の遅れが生じることが無く、安定して確実な保護動作が可能となり、より薄型の保護素子10を形成することが出来る。さらに、可溶導体13の固定用のソルダペースト20を兼用しているものであり、ソルダペースト20の形成パターンを変えるだけで実施することが出来、何ら工数やコストの増加がないものである。さらに、ソルダペースト20が設けられた電極12や導体層17の表面の酸化が抑えられ、これによっても可溶導体13の溶断特性を安定なものにする。特に、低電力の発熱動作特性において、従来の動作バラツキよりも極めて小さくする事ができ、しかも環境負荷が小さく高性能の保護素子10を提供することが出来る。」

12 甲第12号証
甲第12号証には、図面(特に【図6】を参照。)とともに次の記載がある。
「【0005】(2)(当審注:原文は、○の中に2。) はんだ板82全体が溶融し液状となるため、溶融したはんだ内部に、例えば被接合材の表面または内部から発生した気泡が侵入しやすい状態となる。侵入した気泡がはんだ内部に包含されたまま、はんだ層が固化し、接合後のはんだ層内部にボイドが残留すると、接合強度の低下と共に、熱抵抗特性が低下する。かかるボイドの発生は、はんだの液相線温度と固相線温度の間の温度ではんだ付けすることにより解消されるが、温度差が小さい場合には、温度制御が困難である。」
「【0013】
【作用】本発明に係るはんだ付け方法及びはんだ板において、はんだ材たる複合はんだ板の低融点はんだ層と被接合材とを接触させた状態で、低融点はんだ層の融点以上で、はんだ板本体の融点以下の温度をはんだ付け温度として設定して、加熱すると、低融点はんだ層が溶融して、低融点はんだ層と被接合材の界面において形成される合金層または金属結合によって、被接合材と複合はんだ板とは接合する。ここで、複合はんだ板の温度がはんだ板本体の融点以下であるため、はんだ板本体は溶融しないが、はんだ板と溶融状態の低融点はんだ層との界面においては金属原子の相互拡散が生じ、低融点はんだ層から拡散してきた金属原子により、はんだ板の表面側は、融点の低い組成に変化して溶融する。このため、はんだ板の表面側と低融点はんだ層とは、組成が均質化し、さらに、冷却した後も、金属原子の拡散は進行するため、複合はんだ板全体が均一な組成を有するはんだ層となる。よって、高い温度ではんだ付けすることによる弊害が発生することなく、高融点のはんだ層で接合部を形成できる。すなわち、はんだ付けの熱による各部材の熱膨張が小さいので、各部材の熱膨張率が大きく異なっていても、接合部には応力が残留せず、また、はんだ付け温度が低く、低融点はんだ層とはんだ板の表面のみが溶融するので、気泡の発生が抑制され、接合部内にボイドが残留しない。」

13 甲第13号証
甲第13号証には、次の記載がある。
「【背景技術】
【0002】
従来、成形はんだは、はんだ付け部の形状に合わせた円形、矩形、ワッシャ状などプレスで打ち抜かれて製品化され、通常はそれが使用されるまで、製品はある期間ポリ袋やポリ容器により保管されている。この保管により重ね合わせによる密着で、成形はんだ同志が付着してしまうという現象が起きる。」
「【発明の効果】
【0009】
半導体素子を電気的に接合するに好適な円形、短径、ワッシヤー状の成形はんだの製造において、該成形はんだの表面にポリッシング工程により低粘度のシリコーンオイル、有機酸特にはステアリン酸および有機溶剤特にはトリクロロエチレンまたはイソプロパノールの混合液を離型剤として薄膜塗布することにより、すべり抵抗が軽減され、成形はんだ同士の重ね合わせによる密着が防止され、自動供給作業がスムーズに行なえるばかりでなく、リフロー時のぬれ性を改善することができる。」

14 甲第14号証
甲第14号証には、次の図面のとおり記載がある。
(14−1)Ag−Sn図(第17ページ右上図)

(14−2)Pb−Sn図(第244ページ左上図)


15 甲第15号証
甲第15号証には、図面(特に【図1】を参照。)とともに次の記載がある。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は光のエネルギーを熱エネルギーとして利用するレーザーはんだ付け装置の光源に関する。」
「【0012】我々の実験によれば第一の光スポット径を80μmφ、そのパワーを1Wとし、第二の光スポット径を1mmφ、パワーを2Wとすれば200μm幅のパターンにはんだ付けが可能であった。そのときプリント基板のパターンの無い部分の温度は80〜100℃で、特にプリント基板の劣化は発生しなかった。200μmより大きなパターン幅のプリント基板についても第二の光スポットのパワーを大きくすれば問題無い。」

16 甲第16号証
甲第16号証には、次の記載がある。
(16−1)抵抗はんだ付(第244ページないし第246ページ)



(16−2)レーザ半田付け(第454ページないし第455ページ)



17 甲第17号証
甲第17号証には、図面(特に【図3】を参照。)とともに次の記載がある。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、絶縁基板上に形成する回路の一部において、その膜厚、線幅の一方或いは両方を小さくして溶断回路の働きを持たせたヒューズ板に関し、詳しくは、溶断回路の基板の耐熱性向上および溶断回路を高い寸法精度で且つ正確な膜厚制御が出来るようにしたもので、特に、ヒューズを集積化および小型化して用いる場合、例えば、産業用機器、自動車等のワイヤハーネスにおけるヒューズを集積した集積カードヒューズや、民生用電子機器における小型ヒューズ等として好適に用いられるものである。」
「【0029】尚、上記回路基板11と溶断部材12とを固定する方法としては、半田を用いた熱溶着の他に、超音波溶着、圧着などの方法を採用することが出来る。」

18 甲第18号証
甲第18号証には、図面(特に【図1】を参照。)とともに次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電子部品の接続方法に関し、より詳しく言えば、電極を備えた被接続部品どうしを両者の電極を介して直接接続する方法と、この方法により接続した電子部品を含む接続構造体に関する。」
「【0020】図1(a)に示すように、半導体チップ10及び回路基板20のそれぞれの電極形成部に、一般的な無電解めっき法でニッケルの突起電極11及び21をそれぞれ形成する。
【0021】次に、図1(b)に示すように、半導体チップ10の突起電極11上に、超音波はんだ付け法によってSn−Agはんだを付着させる。出力40W、周波数20kHzの超音波振動子を装備したはんだ浴を用い、窒素ガスを60リットル/minで流しながら、はんだ浴温度を280℃とし、これに半導体チップ10を0.5〜2秒間浸漬後、取り出してはんだを固化させると、電極11上に厚さ約5μmのSn−Agはんだ層12が形成される。
【0022】次いで、図1(c)に示すように、半導体チップ10と基板20を、アルゴンプラズマが照射可能な雰囲気を維持したチャンバー(図示せず)内に入れ、アルゴンプラズマ31を照射して、半導体チップの電極11上に形成したはんだ層12と基板20の電極21の各表面をエッチングする。これにより、はんだ層12及び電極21の表面の酸化膜を、水分、油脂分等の汚染物とともに除去し、はんだ層12及び電極21の各表面を活性化させる。
【0023】続いて、チャンバー内を真空雰囲気(あるいは不活性ガス雰囲気等の酸素の存在しない雰囲気)に維持し、図1(d)に示すように、半導体チップ10と回路基板20をおのおのの電極11及び21が向き合ってはんだ層12を介し接触するように位置合わせして重ね合わせ、そして室温にて5〜10N/mm2でプレスして固相接合する。これにより、図2に示したような、半導体チップ10と回路基板20とが双方の電極11及び21とその間のSn−Agはんだ層12を介して強固に接続された、半導体チップ10と回路基板20との接続構造体1が得られる。」

19 甲第19号証
甲第19号証には、次の記載がある。
(19−1)母材(第401ページ)

(19−2)溶食(はんだ食われ)(食われ)(第435ページないし第436ページ)



20 甲第20号証
甲第20号証には、次の記載がある。
「溶融はんだの中に,固体金属を浸漬すると,その温度における溶解度限界まで固体金属の溶解がおこる.実際のはんだ付作業では,溶融はんだの中の濃度がそこまで達することはない.というのは,母材の溶解と汚染はんだの汲み出しのバランスによってはんだ浴中の母材金属濃度がきまるからである.」(第113ページ「4.6はんだへの母材金属の溶解」第1行ないし第4行)

21 甲第21号証
甲第21号証には、次の記載がある。
「固体金属は溶融金属に接触すると融点よりも低い温度でも溶け出す。例えば,Cuは1,083℃以上に加熱しなければ融解しないが,溶融したSnに接触すれば250℃でもSnへ溶解する。
はんだ付の過程では液体としての溶融はんだと固体としての母材金属とが直接に触れるので,溶融はんだへの母材の溶解が大なり小なり必ず起る。」(第21ページ「4)母材の溶食」第1行ないし第11行)

22 甲第22号証
甲第22号証には、次の記載がある。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は基板の実装に関するものであり、特にSMT(表面実装技術)と呼ばれる表面実装部品を基板にはんだ付けすることに関する。
【0002】
【従来の技術】近年、実装基板の軽薄短小化、高機能化に伴い、基板実装の高密度化は、大きく進展している。その要求に応えるべく、使用される実装部品は、QFP、TCPに代表される狭ピッチの表面実装部品(SMD)が多く採用されており、そのピッチは、0.5mmから0.3mm以下レベルまで微細化が進んでいる。SMTでの基板実装は、一般的には、「ソルダペースト印刷→部品搭載→リフロー」の工程であり、はんだの供給は、ソルダペーストの印刷により行っているが、ソルダペーストの印刷は、微小パターン対応のため難しくなってきており、ソルダペーストによるはんだ供給は限界に来ている。そのため、狭ピッチが求められるところでは、あらかじめはんだがプリコートされたものを使用しており、はんだプリコート技術が求められている。その中で各種のプリコートが提案されており、電解はんだメッキ(はんだ剥離法による)、無電解メッキ(ビームソルダー)、化学反応を利用したもの(スーパーソルダー)、はんだ粒子を使用したもの(スーパージャフィット法:SJ法)等の手法が提案されている。ここで、スーパージャフィット法によるはんだプリコート作製方法については、エレクトロニクス実装技術1994.9(Vol.10No.9)号に、無電解はんだメッキにはんだプリコート作製方法については、電子材料1992年10月号(他のプリコート方法との比較図有り)に記載があるが、はんだプリコートを化学的な処理等の特別な処理により行っている。
【0003】また、一方で、ソルダペースト印刷によりプリコートを作製する方法も、日立テクノショープログラム「はんだペースト法の新しい応用」(平成6年11月)に示すように提案されている。この方法は、プリコート作製専用に、「ソルダペースト印刷→リフロー」を行うもので、ステンシル厚を薄くし、印刷性を向上させて、基板のパッドの形状にプリコート部分にのみはんだを供給している。ここで使用するソルダペースト印刷機は、印刷精度向上の為に、版離れ制御機構などの最新機構を導入したものである。」

23 甲第23号証
甲第23号証には、次の記載がある。
(23−1)
「ソルダペーストは、粉末はんだとペースト状フラックスとを混ぜ合わせた接合材料である。ペースト状フラックスは、典型的には、主成分のロジンと少量の添加成分(活性剤、チキソ剤など)とを有機溶媒に溶解して適度の粘稠性をもたせたものである。」(公報第2ページ第37行ないし第40行)
(23−2)
「ソルダペーストによるリフローはんだ付けは、溶融はんだを用いたフローはんだ付けやはんだボールを用いたはんだ付けに比べて、ボイドが発生し易いという欠点があった。ボイド発生の主な原因は、粉末はんだが溶融、凝集する時に、ソルダペースト中の揮発性のフラックス成分、特に溶剤が速やかにはんだから排除されないことである。つまり、はんだの内部に閉じ込められた揮発性のフラックス成分が加熱されて気化し、それが少量でも発生したガスは膨大な体積に膨張するため、ボイドとなる。
ボイドが近年、特に影響度を増してきたのは、電子機器および電子部品の小型化に伴うはんだ付けパッドの微少化により、それまでは許容されていたボイドが実接合面積のばらつきやそれによる接合強度の低下に影響を与えるようになってきたからである。」(公報第3ページ第6行ないし第14行)
(23−3)
「ソルダペースト中の粉末はんだとフラックスとの配合比率は、粉末はんだ:フラックスの質量比で、通常は95:5〜85:15の範囲内である。」(公報第6ページ第35行ないし第36行)
(23−4)
「フラックスと粉末はんだの質量混合比は、体積比でほぼ1:1となるように、各はんだごとに下記の通りであった。」(公報第7ページ第37行ないし第38行)

24 甲第24号証
甲第24号証には、次の記載がある。
「【0002】
現在用いられている鉛フリーはんだの主流はSn−Ag−Cu系はんだ合金である。Sn−Ag−Cu系鉛フリーはんだは、温度サイクル特性に優れている上、鉛フリーはんだの中ではぬれ性が良く、また従来のSn−Pb系はんだと同様にどのような形態にも加工が可能である。しかし、Sn−Ag−Cu系鉛フリーはんだは、Sn−Ag系鉛フリーはんだと同様に、凝固の不均一性からはんだ表面が肌荒れ(微細凹凸)を生じてほとんど光沢を示さず、更に引け巣と呼ばれる亀裂のようにみえる凝固欠陥を発生することがある。これらの現象は、Sn−Agの過共晶に起因する樹枝状結晶(デンドライト)の成長に原因がある。
【0003】
Sn−Ag系またはSn−Ag−Cu系の鉛フリーはんだでは、溶融したはんだが凝固するときに、まずSnのデンドライトが初晶として析出し、次いでSn−AgまたはSn−Ag−Cu共晶組織が凝固するが、この時の体積収縮によって、はんだ表面に微細な凹凸や引け巣が発生する。詳しく観察すると、引け巣は、デンドライトに沿って発生することがわかる。
【0004】
このように引け巣はデンドライトの結晶粒界に沿って発生する凝固割れであって、はんだの表面だけにとどまる。そのため、引け巣は、クラックの起点となってクラックを誘発することはなく、はんだ付けの信頼性を損なうものではないとされてきた。しかし、外観上は引け巣とクラックとの違いが容易に識別できず、引け巣の大きさによっては、はんだ付けの信頼性に影響する可能性が排除できないことから、次に述べるように、引け巣の発生が問題視されるようになってきている。
【0005】
即ち、はんだ付け間隔はますます微細化しているため、検査員による目視外観検査において引け巣とクラックの間の区別がより難しくなっており、場合によっては電子顕微鏡などの非常に高価な装置で確認しなければ判断できない。しかし、電子顕微鏡で観察できる試料の大きさは限定され、また観察するための時間は通常の外観検査装置の数百倍以上かかるため、全数検査に用いることは不可能である。
【0006】
ソルダペーストを用いたリフロー法によるはんだ付けの場合、はんだ付け間隔の微細化に伴い、ソルダペーストの印刷厚さも50μm程度まで薄くなることがある。その場合、リフロー後に生成したはんだ接合部(はんだフィレット)の厚さは25μm程度になり、はんだ量が少なくなる。このような薄いはんだ接合部に10μm程度の引け巣が発生すると、局所的にはんだ接合部の厚さが10μm程度となり、はんだ付けの信頼性に悪影響を及ぼすことが懸念される。」

25 甲第25号証
甲第25号証には、次の記載がある。
「[0002] 近年の電子部品の微細化・高密度化に伴い、簡便に且つ高精度での実装を可能としたはんだペーストは、電子機器組み立て過程において無くてはならない技術として広く認知されている。
[0003] はんだペーストは、はんだインゴットを溶融し、アトマイズ法、遠心分離法といった方法で粒径数〜数十μm程度の粉体とし、分級後、松脂成分、チキソ剤、溶剤等からなるフラックスを混合して作製される。
[0004] しかし、フラックスは反応性が高いため、はんだペーストにした後もはんだ粉末との間で反応が続き、特性が劣化する。すなわち、はんだペーストは比較的短い一定期間のシェルライフ(貯蔵寿命)が存在する。
[0005] そこでこの寿命を延ばすために、はんだ粉末とフラックスを窒素ガスなどの不活性ガスと共に密封して保存する技術が開示されている(特許文献1参照)。
[0006] また、はんだペーストの特性劣化は、ペースト中のはんだ粉末表面の腐食が原因であるとして、はんだ粉末の表面に腐食抑制剤を用いた発明も開示されている(特許文献2参照)。
[0007] しかしながら、はんだペーストが経時的に変化して、特性が劣化することは止められず、上記の先行発明においても、使いきれずに余ったはんだペーストは結局廃棄物として排出される。」

26 乙第1号証
乙第1号証には、図面(特に図3ないし図5を参照。)とともに次の記載がある。
「具体的にヒューズ材料層は、例えばクリーム半田を用いて一対の表面電極及び1以上の補助電極に跨って形成したクリーム半田層を加熱して溶融した後に硬化させて形成することができる。」(明細書第4ページ第19行ないし第21行)
「ヒュ一ズ材料層を形成する場合には、例えばクリーム半田を用いて一対の表面電極12及び13及び2つの補助電極16及び17並びに中間電極15に跨って形成したクリーム半田層を形成する。次にこのクリーム半田層を上から押さえた状態で加熱し、クリーム半田を溶融させて、そのままの状態で硬化させることにより、ヒューズ素子27を形成する。」(明細書第7ページ第23行ないし第27行)
「なお過大電流が流れたとき及び発熱用抵抗体26からの熱によって溶断するときには、ヒューズ素子27が拘束されていないため、補助電極16、17は溶融した導電性材料を集めるまたは引きつける作用を果すことになって、ヒューズ素子27の溶断が容易になる。」(明細書第8ページ第3行ないし第6行)
「この実施の形態のチップ型ヒューズの回路図は、図5に示す通りである。このチップ型ヒューズは、電極12及び13が保護すべ回路の遮断部分に接続され、また電極14が保護すべき回路の過電圧を検出すべき箇所に接続される。この回路において、分割抵抗部R1及びR2は、中間電極15と電極部18aと電極部19a(図3)との間に形成された発熱用抵抗体26の部分によって構成されており、分割ヒューズH1及びH2は、中間電極15と電極12と電極13との間に形成されたヒューズ素子27の部分によって構成されている。この回路構成では、課題電圧が電極14から分割抵抗部R1及びR2に印加されると分割ヒューズ部H1及びH2の少なくとも一方を通って電流が流れる。そして分割抵抗部R1及びR2からの発熱により、チップ状基板1を通って伝わる熱で分割ヒューズH1及びH2の少なくとも一つが溶融温度まで加熱されると溶断する。」(明細書第8ページ第9行ないし第19行)

第8 当審の判断
1 請求人の主張する無効理由1(新規性)及び無効理由2(進歩性)について
(1)甲第1号証に記載の技術的事項
上記甲第1号証に記載の事項から、次の技術的事項を認定できる。
ア チップ型ヒューズを構成するセラミック製のチップ状基板1の表面1aには、表面電極15及び19が一対のヒューズ用電極15b、19bを有して設けられ、前記一対のヒューズ用電極15b、19bの間の電流経路上にヒューズ用中間電極17bが形成されている(段落【0010】、【0018】及び【図1】)。
イ チップ状基板1の裏面1bには、発熱体45が形成され、該発熱体45を覆うように絶縁コート47が形成され、該発熱体45はヒューズ用中間電極17bに電気的に接続されている(段落【0018】、【0024】ないし【0026】及び【図1】ないし【図3】)。
ウ ヒューズ素子25は、チップ状基板1の表面1a上に、一対のヒューズ用電極15b、19bと、ヒューズ用中間電極17bとを跨いで形成されるものであって、発熱体45が発生する熱により溶断する(段落【0019】、【図1】及び【図3】)。
エ ヒューズ素子25は、チップ状基板1の表面1aに形成されており、裏面1b上の絶縁コート47とは直接密着していない(段落【0019】、【0025】及び【図3】)。
オ 発熱体45は、通電されて発生した熱でチップ状基板1を通してヒューズ素子25を溶断する(段落【0024】)。
カ ヒューズ素子25は、リフロー条件のピーク温度よりも高い融点を有する鉛を含む第1の半田材料を用いて形成されている下側半田材料層27と、ピーク温度よりも低い融点を有するSn/Sb系の鉛を含まない第2の半田材料を用いて形成されている上側半田材料層29とが積層されて構成されている(段落【0020】及び【図3】)。
キ ヒューズ素子25は、発熱体45から伝わる熱によって、最初に融点の低い第2の半田材料からなる上側半田材料層29が溶融し、次に高い融点を有する第1の半田材料からなる下側半田材料層27が溶融し、上側半田材料層29に対しての内部の力によって上側半田材料層29に引っ張られて、上側半田材料層29と下側半田材料層27が、ともに電極15b、17b、19bを中心にまとまって溶断される(段落【0007】、【0029】)。

(2)甲第1号証に記載の発明
上記(1)アないしキの記載を総合すると、甲第1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
[甲1発明]
「セラミック製のチップ状基板1と、
上記チップ状基板1の裏面1b上に形成された発熱体45と、
上記発熱体45を覆うように形成された絶縁コート47と、
上記絶縁コート47が上記裏面1bに形成された上記チップ状基板1の表面1aに形成された表面電極15及び19が有する一対のヒューズ用電極15b、19bと、
上記一対のヒューズ用電極15b、19bの間の電流経路上で該発熱体45に電気的に接続されたヒューズ用中間電極17bと、
上記ヒューズ用中間電極17bと上記一対のヒューズ用電極15b、19bとの間で跨いで形成されたヒューズ素子25であって、発熱体45が発生する熱でチップ状基板1を通して溶断するものであって、
上記ヒューズ素子25は、上記絶縁コート47と直接密着しないように形成されており、
上記ヒューズ素子25は、リフロー条件のピーク温度よりも高い融点を有する鉛を含む第1の半田材料を用いて形成されている下側半田材料層27と、ピーク温度よりも低い融点を有するSn/Sb系の鉛を含まない第2の半田材料を用いて形成されている上側半田材料層29とが積層されて構成されており、
上記上側半田材料層29は、上記発熱体45からの熱により溶融することで、上側半田材料層29の内部の力が上記下側半田材料層27に加わって、上記上側半田材料層29と上記下側半田材料層27が、ともに電極15b、17b、19bを中心にまとまって溶断されるチップ型ヒューズ。」

(3)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「セラミック製のチップ状基板1」は、本件発明1の「絶縁基板」に相当する。
甲1発明の「発熱体45」は、本件発明1の「発熱体」に相当するから、甲1発明の「上記チップ状基板1の裏面1b上に形成された発熱体45」は、本件発明1の「上記絶縁基板に積層された発熱体」に相当する。
甲1発明の「絶縁コート47」は、本件発明1の「絶縁部材」に相当する。すなわち、甲1発明の「上記発熱体45を覆うように形成された絶縁コート47」は、【図3】を参照すると、発熱体45に絶縁コート47が重なるように設けられており、積層されたものといえるから、本件発明1の「少なくとも上記発熱体を覆うように、上記絶縁基板に積層された絶縁部材」に相当する。
甲1発明の「一対のヒューズ用電極15b、19b」は、本件発明1の「第1及び第2の電極」に相当するから、甲1発明の「上記絶縁コート47が上記裏面1bに形成された上記チップ状基板1の表面1aに形成された表面電極15及び19が有する一対のヒューズ用電極15b、19b」は、本件発明1の「上記絶縁部材が積層された上記絶縁基板に積層された第1及び第2の電極」に相当する。
甲1発明の「ヒューズ用中間電極17b」は、本件発明1の「発熱体引出電極」に相当する。
甲1発明の「ヒューズ素子25」は、本件発明1の「可溶導体」に相当する。
甲1発明の「下側半田材料層27」は、該下側半田材料層27を形成する第1の半田材料が、積層される上側半田材料層29を形成する第2の半田材料よりも高い融点を有するものであるから、本件発明1の「高融点金属層」に相当し、同様に、甲1発明の「上側半田材料層29」は、本件発明1の「低融点金属層」に相当する。また、甲1発明の「ヒューズ素子25」が、「下側半田材料層27」と「上側半田材料層29」とが「積層されて構成されて」いることは、本件発明1の「上記可溶導体は、少なくとも高融点金属層と低融点金属層とを含む積層体からな」ることに相当する。
甲1発明の「ヒューズ素子25」が「上記絶縁コート47と直接密着しないように形成され」ることは、本件発明1の「可溶導体」が「上記絶縁部材と直接密着しないように積層され」ることに相当する。また、甲1発明の「ヒューズ素子25」が「上記ヒューズ用中間電極17bと上記一対のヒューズ用電極15b、19bとの間で跨いで形成され」ることは、本件発明1の「可溶導体」が「上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間でまたいで」「積層され」ることとの関係において、「可溶導体」が「上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間に設けられ」る限りにおいて共通するといえる。
甲1発明の「ヒューズ素子25」が「発熱体45が発生する熱でチップ状基板1を通して溶断するものであ」ることは、本件発明1の「可溶導体」が「加熱により、該第1の電極と該第2の電極との間の電流経路を溶断する」ものであることに相当する。
甲1発明の「上記上側半田材料層29は、上記発熱体45からの熱により溶融することで、上側半田材料層29の内部の力が下側半田材料層27に加わって、上記上側半田材料層29と上記下側半田材料層27が、ともに電極15b、17b、19bを中心にまとまって溶断されること」は、本件発明1の「上記低融点金属層は、上記発熱体が発する熱により溶融することで、上記高融点金属層を浸食しながら、上記低融点金属層の濡れ性が高い上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極側に引き寄せられて溶断されること」との関係において、「上記低融点金属層は、上記発熱体が発する熱により溶融することで、上記低融点金属層の濡れ性が高い上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極側に引き寄せられて溶断されること」との限りにおいて共通する。
甲1発明の「チップ型ヒューズ」は、本件発明1の「保護素子」に相当する。
以上のとおりであるから、本件発明1と甲1発明とは、次の一致点及び相違点を有する。
[一致点1]
「絶縁基板と、
上記絶縁基板に積層された発熱体と、
少なくとも上記発熱体を覆うように、上記絶縁基板に積層された絶縁部材と、
上記絶縁部材が積層された上記絶縁基板に積層された第1及び第2の電極と、
上記第1及び第2の電極の間の電流経路上で該発熱体に電気的に接続された発熱体引出電極と、
上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間に設けられ上記絶縁部材と直接密着しないように積層され、加熱により、該第1の電極と該第2の電極との間の電流経路を溶断する可溶導体とを備え、
上記可溶導体は、少なくとも高融点金属層と低融点金属層とを含む積層体からなり、
上記低融点金属層は、上記発熱体が発する熱により溶融することで、上記低融点金属層の濡れ性が高い上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極側に引き寄せられて溶断される保護素子。」
[相違点1]
本件発明1は、可溶導体が「上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間でまたいで上記絶縁部材と直接密着しないように積層され」ているものであるのに対し、甲1発明は、チップ状基板1の表面にヒューズ素子25が形成されるとともに、該基板1の裏面に絶縁コート47が形成されるものである点。
[相違点2]
本件発明1は、低融点金属層が溶融することで「高融点金属層を浸食」するものであるが、甲1発明において、上側半田材料層29の溶融により下側半田材料層27に対しての作用が、「浸食」に相当するものか不明である点。

イ 判断
(ア)相違点1
上記相違点1について検討する。
本件発明1の「可溶導体」は、「上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間でまたいで上記絶縁部材と密着しないように積層され」ているものである。ここで、「またいで」いるとは、物の上を超えている、架け渡されていることを意味しているものであって、本件発明1は、発熱体引出電極と第1及び第2の電極間の上を超えて、発熱体引出電極と第1及び第2の電極との間に架け渡され、発熱体引出電極と第1及び第2の電極との間で絶縁部材と直接密着しない構成であることを意味するものである。
そして、本件特許明細書には、段落【0039】に、「このように、従来の保護素子40においては、高融点金属層43aの全体が絶縁部材45と直接密着して形成されている。この構造においては、発熱体44の発熱により低融点金属層43bが溶融して高融点金属層43aを浸食する作用のみによって回路遮断を行う。遮断状態が完全でなくても、可溶導体が高抵抗となった時点で発熱体44への通電が抑制されるために発熱が停止する。すなわち、完全に回路を遮断できないケースが起こりうる。」と記載されており、また、同段落【0040】に、「図1に示すような本発明に係る保護素子10では、高融点金属層13a及び低融点金属層13bは、発熱体引出電極16と電極12との間でまたぐように接続される。このため、低融点金属層13bの溶融による高融点金属層の浸食作用に加え、接続された各電極上で溶融した低融点金属層13bの表面張力による物理的引き込み作用により確実に可溶導体13を溶断させることが可能である。」と記載されている。
以上の記載から、本件発明1において、可溶導体が、発熱体引出電極と第1及び第2の電極との間をまたいで絶縁部材と直接密着しないことによって、従来完全に回路を遮断できないことが起こり得たものから、低融点金属層の溶融による高融点金属層の浸食作用に加え、接続された各電極上で溶融した低融点金属層の表面張力による物理的引き込み作用により確実に回路を遮断させることを実現できているといえる。
このように、本件特許明細書の記載を参酌しても、本件発明1の可溶導体が上述の意味のものであることが理解できる。
そうすると、本件発明1において、可溶導体が「引出電極と上記第1及び第2の電極との間でまたいで上記絶縁部材と直接密着しないように積層され」ているものとは、「またいで」いない場合には絶縁部材に可溶導体が密着するものであることが前提であるのに対し、甲1発明は、チップ状基板1の表面にヒューズ素子25が形成されるとともに、該基板1の裏面に絶縁コート47が形成されるものであるから、上記前提を有していないものである。
そして、甲1発明において、ヒューズ素子25が、ヒューズ用中間電極17bと一対のヒューズ用電極15b、19bとの間を跨ぐことで絶縁コート47と直接密着しないように積層される構成とすることはできないものである。
また、甲1発明のヒューズ素子25は、下側半田材料層27と上側半田材料層29とが積層されているものであるところ、これら半田材料層の形成方法は、甲第1号証の段落【0020】において、「下側半田材料層27の形成方法についていは(当審注:原文ママ)、前述の国際公開番号WO00/19472号公報に詳しく説明されているので省略する。また上側半田材料層29の形成方法についていは(当審注:原文ママ)、下側半田材料層27を形成したのちに、その上に国際公開番号WO00/19472号公報に示された方法と同じ方法で重ねて形成すればよい。」と記載されていることから、国際公開第00/19472号、すなわち、乙第1号証に記載の形成方法と同じ方法で形成されていることが把握できる。
さらに、乙第1号証の明細書第4ページ第19行ないし第21行には、「具体的にヒューズ材料層は、例えばクリーム半田を用いて一対の表面電極及び1以上の補助電極に跨って形成したクリーム半田層を加熱して溶融した後に硬化させて形成することができる。」と記載されており、同じく第7ページ第23行ないし第27行には、「ヒュ一ズ材料層を形成する場合には、例えばクリーム半田を用いて一対の表面電極12及び13及び2つの補助電極16及び17並びに中間電極15に跨って形成したクリーム半田層を形成する。次にこのクリーム半田層を上から押さえた状態で加熱し、クリーム半田を溶融させて、そのままの状態で硬化させることにより、ヒューズ素子27を形成する。」と記載されていることから、甲1発明のヒューズ素子25は、チップ状基板1の表面1a上の一対のヒューズ用電極15b、19bと、ヒューズ用中間電極17bとを跨ってクリーム半田層を設け、クリーム半田層を加熱して溶融した後に硬化させて形成されるものであって、発熱体45が発生する熱により溶断するものであることが把握できる。
加えて、甲第1号証の段落【0024】には、「この発熱体45は、チップ状基板1を間に介して表面1a上のヒューズ素子25と対向する位置に配置されている。この発熱体45もヒューズ素子25と同様に、発熱体用中間電極39bを跨ぐことにより、一対の分割発熱体45A及び45Bから構成されることになり、通電されてチップ状基板1を通してヒューズ素子25を溶断するための熱を発生する。」と記載されている(乙第1号証の明細書第8ページ第9行ないし第19行にも同様の記載がある。)ことからも、甲1発明のヒューズ素子25は、発熱体45の熱がチップ状基板1を通して伝達するように、一対のヒューズ用電極15b、19bと、ヒューズ用中間電極17b以外の部分においてチップ状基板1に密着して形成されているものであることが把握できる。
以上から、甲1発明において、ヒューズ素子25がチップ状基板1と密着していることが、発熱体45からの伝熱の観点からむしろ有利であることを考慮すると、該ヒューズ素子25をチップ状基板1との間に空間を設けるように形成する技術思想を有していないものといえる。
またここで、ヒューズ素子の形成方法として、上記クリーム半田を用いる方法以外に、甲第12号証に記載の板状のはんだをはんだ付けにより固定する方法、あるいは、甲第13号証に記載の矩形の成形はんだを従来周知のはんだ固定方法(例えば、甲第15号証及び甲第16号証に記載のレーザはんだ付け方法、甲第16号証に記載の抵抗はんだ付け方法、甲第17号証に記載の超音波溶着からなる接合方法、あるいは、甲第18号証に記載のアルゴンプラズマ照射による固相接合からなる方法、甲第22号証に記載の印刷転写による方法を参照。)により固定する方法(以下、「従来周知のヒューズ素子形成方法」という。)が存在する。
しかしながら、上述のとおり、甲1発明のヒューズ素子25は、乙第1号証と「同じ方法」でクリーム半田を用いて形成されるものであって、チップ状基板1と密着して形成されているものであるから、上述のヒューズ素子25に対する発熱体45からの伝熱の観点を考慮すると、上記従来周知のヒューズ素子形成方法を適用してチップ状基板1との間に空間を形成するように形成することは、当業者であっても容易に想到し得たものということはできない。
またさらに、本件発明1は、相違点1に係る構成により、本件特許明細書の段落【0007】において「回路の遮断を完全にできない場合がある」と記載された問題を解決し、【0040】において「このため、低融点金属層13bの溶融による高融点金属層の浸食作用に加え、接続された各電極上で溶融した低融点金属層13bの表面張力による物理的引き込み作用により確実に可溶導体13を溶断させることが可能である。」と記載された作用効果を有するものである。
したがって、甲1発明において、ヒューズ素子25の形成方法を変更することで相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
(イ)相違点2について
相違点2は、後述する相違点Aと同様のものであるから、後述する4(3)イと同様の理由により、実質的な相違点ではない。

ウ 請求人の主張について
請求人は、令和3年3月5日付けの口頭審理陳述要領書の第5ページ第1行ないし第10ページ第16行において、甲第12号証ないし甲第18号証に基づき、甲1発明のヒューズ用電極15b、19b及びヒューズ用中間電極17bの各電極間において、ヒューズ素子25とチップ状基板1との間に空間を形成することが容易である旨を主張している。
しかし、上記イにおいて示したとおり、これらヒューズ素子25形成方法は、いずれも基板からの熱の伝導を妨げるものであるから、適用に阻害要因を有するものである。なお、甲第14号証は、Ag−Sn状態図及びPb−Sn状態図を示すものであり、はんだ付け方法を記載したものではない。また、令和3年3月26日付けの上申書の第4ページないし第6ページにおいて、甲第22号証に基づいてした主張についても同様に阻害要因を有するものである。
加えて、請求人は、同上申書の第8ページ第1行ないし第9ページ第2行において、甲第23号証ないし甲第25号証に基づき、甲1発明において、クリーム半田に替えて他のヒューズ素子形成方法を採用する動機付けの根拠を主張している。
しかし、甲第23号証ないし甲第25号証には、クリーム半田を用いることの問題点あるいは欠点が記載されているものであるが、甲1発明におけるヒューズ素子25の主たる機能であるヒューズ素子25の溶断のために、チップ状基板1を介して熱を伝えるためにチップ状基板1に密着することを変更するものではない。

エ 小括
したがって、本件発明1は、甲1発明ではなく、また甲1発明及び従来周知のヒューズ素子形成方法に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件発明3について
ア 対比
本件発明3と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「セラミック製のチップ状基板1」は、本件発明3の「絶縁基板」に相当する。
甲1発明の「発熱体45」は、本件発明3の「発熱体」に相当するから、甲1発明の「上記チップ状基板1の裏面1b上に形成された発熱体45」は、本件発明3の「上記絶縁基板に積層された発熱体」に相当する。
甲1発明の「絶縁コート47」は、本件発明3の「絶縁部材」に相当する。すなわち、甲1発明の「上記発熱体45を覆うように形成された絶縁コート47」は、【図3】を参照すると、発熱体45に絶縁コート47が重なるように設けられており、積層されたものといえるから、本件発明3の「少なくとも上記発熱体を覆うように、上記絶縁基板に積層された絶縁部材」に相当する。
甲1発明の「一対のヒューズ用電極15b、19b」は、本件発明3の「第1及び第2の電極」に相当するから、甲1発明の「上記絶縁コート47が上記裏面1bに形成された上記チップ状基板1の表面1aに形成された表面電極15及び19が有する一対のヒューズ用電極15b、19b」は、本件発明3の「上記絶縁部材が積層された上記絶縁基板に積層された第1及び第2の電極」に相当する。
甲1発明の「ヒューズ用中間電極17b」は、本件発明3の「発熱体引出電極」に相当する。
甲1発明の「ヒューズ素子25」は、本件発明3の「可溶導体」に相当する。
甲1発明の「下側半田材料層27」は、該下側半田材料層27を形成する第1の半田材料が、積層される上側半田材料層29を形成する第2の半田材料よりも高い融点を有するものであるから、本件発明3の「高融点金属層」に相当し、同様に、甲1発明の「上側半田材料層29」は、本件発明3の「低融点金属層」に相当する。そうすると、甲1発明の「上記ヒューズ素子25は、リフロー条件のピーク温度よりも高い融点を有する鉛を含む第1の半田材料を用いて形成されている下側半田材料層27と、ピーク温度よりも低い融点を有するSn/Sb系の鉛を含まない第2の半田材料を用いて形成されている上側半田材料層29とが積層されて構成されて」いることは、本件発明3の「上記可溶導体は、上層を高融点金属層、下層を低融点金属層の2層構造をなし」ていることとの関係において、「上記可溶導体は、高融点金属層、低融点金属層の2層構造をなし」ている限りにおいて共通する。また、甲1発明の「ヒューズ素子25」が、「下側半田材料層27」と「上側半田材料層29」とが「積層されて構成されて」いることは、本件発明3の「可溶導体」が「積層され」ていることに相当する。
甲1発明の「ヒューズ素子25」が「上記ヒューズ用中間電極17bと上記一対のヒューズ用電極15b、19bとの間で跨いで形成され」ることは、本件発明3の「可溶導体」が「上記発熱体引出電極から上記第1及び第2の電極にわたって、上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間でまたいで上記絶縁基板と直接密着しないように積層され」ることとの関係において、「可溶導体」が「上記発熱体引出電極から上記第1及び第2の電極にわたって、上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間に設けられ」る限りにおいて共通するといえる。
甲1発明の「ヒューズ素子25」が「発熱体45が発生する熱でチップ状基板1を通して溶断するものであ」ることは、本件発明3の「可溶導体」が「加熱により、該第1の電極と該第2の電極との間の電流経路を溶断する」ものであることに相当する。
甲1発明の「上記上側半田材料層29は、上記発熱体45からの熱により溶融することで、上側半田材料層29の内部の力が下側半田材料層27に加わって、上記上側半田材料層29と上記下側半田材料層27が、ともに電極15b、17b、19bを中心にまとまって溶断されること」は、本件発明3の「上記低融点金属層は、上記発熱体が発する熱により溶融することで、上記高融点金属層を浸食しながら、上記低融点金属層の濡れ性が高い上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極側に引き寄せられて溶断されること」との関係において、「上記低融点金属層は、上記発熱体が発する熱により溶融することで、上記低融点金属層の濡れ性が高い上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極側に引き寄せられて溶断されること」との限りにおいて共通する。
甲1発明の「チップ型ヒューズ」は、本件発明3の「保護素子」に相当する。
以上のとおりであるから、本件発明3と甲1発明とは、次の一致点及び相違点を有する。
[一致点2]
「絶縁基板と、
上記絶縁基板に積層された発熱体と、
少なくとも上記発熱体を覆うように、上記絶縁基板に積層された絶縁部材と、
上記絶縁部材が積層された上記絶縁基板に積層された第1及び第2の電極と、
上記第1及び第2の電極の間の電流経路上で該発熱体に電気的に接続された発熱体引出電極と、
上記発熱体引出電極から上記第1及び第2の電極にわたって、上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間に設けられて積層され、加熱により、該第1の電極と該第2の電極との間の電流経路を溶断する可溶導体とを備え、
上記可溶導体は、高融点金属層、低融点金属層の2層構造をなし、
上記低融点金属層は、上記発熱体が発する熱により溶融することで、上記低融点金属層の濡れ性が高い上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極側に引き寄せられて溶断される保護素子。」
[相違点3]
本件発明3は、可溶導体が「上記発熱体引出電極から上記第1及び第2の電極にわたって、上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間でまたいで上記絶縁基板と直接密着しないように積層され」ているものであるのに対し、甲1発明は、「上記ヒューズ用中間電極17bと上記一対のヒューズ用電極15b、19bとの間で跨いで形成されたヒューズ素子」であって、チップ状基板1と直接密着しないことが特定されていない点。
[相違点4]
本件発明3は、可溶導体が、「上層を高融点金属層、下層を低融点金属層の2層構造をなし」ているものであるのに対し、甲1発明のヒューズ素子25は、下側半田材料層27が高い融点を有し、上側半田材料層29が低い融点を有しているものである点。
[相違点5]
本件発明3は、低融点金属層が溶融することで、「高融点金属層を浸食」するものであるが、甲1発明において、上側半田材料層29の溶融により下側半田材料層27に対しての作用が「浸食」に相当するものか不明である点。

イ 判断
(ア)相違点3について
上記相違点3について検討する。
甲1発明のヒューズ素子25は、下側半田材料層27と上側半田材料層29とが積層されているものであるところ、これら半田材料層の形成方法は、甲第1号証の段落【0020】の記載から、国際公開第00/19472号、すなわち、乙第1号証に記載の形成方法と同じ方法で形成されていることが把握できる。
そして、乙第1号証の明細書第4ページ第19行ないし第21行及び第7ページ第23行ないし第27行の記載から、甲1発明のヒューズ素子25は、チップ状基板1の表面1a上の一対のヒューズ用電極15b、19bと、ヒューズ用中間電極17bとを跨ってクリーム半田層を設け、クリーム半田層を加熱して溶融した後に硬化させて形成されるものであって、発熱体45が発生する熱により溶断するものであることが把握できる。
さらに、甲第1号証の段落【0024】の記載からも、甲1発明のヒューズ素子25は、発熱体45の熱がチップ状基板1を通して伝達するように、一対のヒューズ用電極15b、19bと、ヒューズ用中間電極17b以外の部分においてチップ状基板1に密着して形成されているものであることが把握できる。
そうすると、甲1発明において、ヒューズ素子25がチップ状基板1と密着していることが、発熱体45からの伝熱の観点からむしろ有利であることを考慮すると、該ヒューズ素子25をチップ状基板1との間に空間を設けるように形成する技術思想を有していないものといえる。
ここで、ヒューズ素子の形成方法として、上記従来周知のヒューズ素子形成方法が存在する。
しかしながら、上述のとおり、甲1発明のヒューズ素子25は、乙第1号証と「同じ方法」でクリーム半田を用いて形成されるものであって、チップ状基板1と密着して形成されているものであるから、上述のヒューズ素子25に対する発熱体45からの伝熱の観点を考慮すると、上記従来周知のヒューズ素子形成方法を適用してチップ状基板1との間に空間を形成するように形成することは、当業者であっても容易に想到し得たものということはできない。
加えて、本件発明3は、相違点3に係る構成により、本件特許明細書の段落【0007】において「回路の遮断を完全にできない場合がある」と記載された問題を解決し、【0040】において「このため、低融点金属層13bの溶融による高融点金属層の浸食作用に加え、接続された各電極上で溶融した低融点金属層13bの表面張力による物理的引き込み作用により確実に可溶導体13を溶断させることが可能である。」と記載された作用効果を有するものである。
したがって、甲1発明において、ヒューズ素子25の形成方法を変更することで相違点3に係る本件発明3の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
(イ)相違点4について
上記相違点4について検討する。
甲第5号証には、材質が異なり、従って融点の異なる2種の金属材料を積層したヒューズ(以下、「甲第5号証に記載の技術的事項」という。)が記載されている。
ここで、甲1発明のヒューズ素子25は、クリーム半田を用いて形成されたものであるため、例えば、上下の層を入れ替えて、下側を低融点金属とするとともに上側を高融点金属としようとすると、溶融状態の高融点金属は、低融点金属の融点よりも高い温度であることが明らかであるから、硬化した低融点金属層が再度溶け出すことにより、流出してしまうことを考慮すると、ヒューズ素子25の安定的な成形が困難であるといえる。そうすると、甲1発明において、甲第5号証に記載のヒューズを適用することで、上記相違点4に係る本件発明3の構成とすることは、阻害要因を有しているものであり、当業者が容易に想到し得たことではない。
(ウ)相違点5について
上記相違点5について検討する。相違点5は、上記相違点2と同様のものであり、すなわち後述する相違点Aと同様のものであるから、後述する4(3)イと同様の理由により、実質的な相違点ではない。

ウ 請求人の主張について
上記相違点3についての請求人の主張は、上記(3)ウと同様に、採用できない。
また、上記相違点4についても、請求人は甲1発明において、甲第5号証に記載の技術的事項を採用することの阻害要因について考慮していないものであるから、その主張は採用できない。

エ 小括
したがって、本件発明3は、甲1発明、従来周知のヒューズ素子形成方法及び甲第5号証に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)本件発明4について
請求項4は、請求項1ないし3のいずれか1項の記載を引用するものであるから、本件発明4は、甲1発明との関係において、上記相違点1及び2、または、上記相違点3ないし5を有するものである。
そうすると、本件発明4は、上記(3)又は(4)と同様に、甲1発明、従来周知のヒューズ素子形成方法及び甲第5号証に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(6)本件発明10について
ア 対比
本件発明10と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「セラミック製のチップ状基板1」は、本件発明10の「絶縁基板」に相当する。
甲1発明の「発熱体45」は、本件発明10の「発熱体」に相当するから、甲1発明の「上記チップ状基板1の裏面1b上に形成された発熱体45」は、本件発明10の「上記絶縁基板に積層された発熱体」に相当する。
甲1発明の「一対のヒューズ用電極15b、19b」は、本件発明10の「第1及び第2の電極」に相当するから、甲1発明の「上記絶縁コート47が上記裏面1bに形成された上記チップ状基板1の表面1aに形成された表面電極15及び19が有する一対のヒューズ用電極15b、19b」は、本件発明10の「上記絶縁基板の上記発熱体が積層された面の反対面に積層された第1及び第2の電極」に相当する。
甲1発明の「ヒューズ用中間電極17b」は、本件発明10の「発熱体引出電極」に相当する。
甲1発明の「ヒューズ素子25」は、本件発明10の「可溶導体」に相当する。
甲1発明の「下側半田材料層27」は、該下側半田材料層27を形成する第1の半田材料が、積層される上側半田材料層29を形成する第2の半田材料よりも高い融点を有するものであるから、本件発明10の「高融点金属層」に相当し、同様に、甲1発明の「上側半田材料層29」は、本件発明10の「低融点金属層」に相当する。すなわち、甲1発明の「ヒューズ素子」が、「下側半田材料層27」と「上側半田材料層29」とが「積層されて構成されて」いることは、本件発明10における「上記可溶導体は、少なくとも上記高融点金属層と上記低融点金属層とを含む積層体からな」ることに相当する。
甲1発明の「ヒューズ素子25」が「上記ヒューズ用中間電極17bと上記一対のヒューズ用電極15b、19bとの間で跨いで形成され」ることは、「可溶導体」が「上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間でまたいで上記絶縁基板と直接密着しないように積層され」ることとの関係において、「可溶導体」が「上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間に設けられ」る限りにおいて共通するといえる。
甲1発明の「ヒューズ素子25」が、「上記ヒューズ用中間電極17bと上記一対のヒューズ用電極15b、19bとの間で跨いで形成され」、「下側半田材料層27」と「上側半田材料層29」とが「積層され」ていることは、本件発明10の「可溶導体」が、「該第1の電極と該第2の電極が高融点金属層と低融点金属層に挟まれないように」「積層され」ていることに相当する。
甲1発明の「ヒューズ素子25」が「発熱体45が発生する熱でチップ状基板1を通して溶断するものであ」ることは、本件発明10の「可溶導体」が「加熱により、該第1の電極と該第2の電極との間の電流経路を溶断する」ものであることに相当する。
甲1発明の「上記上側半田材料層29は、上記発熱体45からの熱により溶融することで、上側半田材料層29の内部の力が下側半田材料層27に加わって、上記上側半田材料層29と上記下側半田材料層27が、ともに電極15b、17b、19bを中心にまとまって溶断されること」は、本件発明10の「上記低融点金属層は、上記発熱体が発する熱により溶融することで、上記高融点金属層を浸食しながら、上記低融点金属層の濡れ性が高い上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極側に引き寄せられて溶断されること」との関係において、「上記低融点金属層は、上記発熱体が発する熱により溶融することで、上記低融点金属層の濡れ性が高い上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極側に引き寄せられて溶断されること」との限りにおいて共通する。
甲1発明の「チップ型ヒューズ」は、本件発明10の「保護素子」に相当する。
以上のとおりであるから、本件発明10と甲1発明とは、次の一致点及び相違点を有する。
[一致点3]
「絶縁基板と、
上記絶縁基板に積層された発熱体と、
上記絶縁基板の上記発熱体が積層された面の反対面に積層された第1及び第2の電極と、
上記第1及び第2の電極の間の電流経路上で該発熱体に電気的に接続された発熱体引出電極と、
上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間に設けられ、該第1の電極と該第2の電極が高融点金属層と低融点金属層に挟まれないように積層され、発熱体の加熱により、該第1の電極と該第2の電極との間の電流経路を溶断する可溶導体とを備え、
上記可溶導体は、少なくとも上記高融点金属層と上記低融点金属層とを含む積層体からなり、
上記低融点金属層は、上記発熱体が発する熱により溶融することで、上記低融点金属層の濡れ性が高い上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極側に引き寄せられて溶断される保護素子。」
[相違点6]
本件発明10は、可溶導体が「上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間でまたいで上記絶縁基板と直接密着しないように、且つ、該第1の電極と該第2の電極が高融点金属層と低融点金属層に挟まれないように積層され」ているものであるのに対し、甲1発明は、「上記ヒューズ用中間電極17bと上記一対のヒューズ用電極15b、19bとの間で跨いで形成されたヒューズ素子」であって、チップ状基板1と直接密着しないことが特定されていない点。
[相違点7]
本件発明10は、低融点金属層が溶融することで、「高融点金属層を浸食」するものであるが、甲1発明において、上側半田材料層29の溶融により下側半田材料層27に対しての作用が「浸食」に相当するものか不明である点。

イ 判断
(ア)相違点6について
上記相違点6について検討する。相違点6は、上記相違点3と同様のものである。
すなわち、上記(4)イ(ア)の上記相違点3についての検討と同様に、甲1発明のヒューズ素子25は、乙第1号証の記載からクリーム半田を用いて形成されるものであるから、チップ状基板1と密着して形成されているものである。さらに、ヒューズ素子25がチップ状基板1と密着していることが、発熱体45からの伝熱の観点からもむしろ有利であることを考慮すると、該ヒューズ素子25をチップ状基板1との間に空間を設ける技術思想を有していないものといえる。そして、本件発明10が上記相違点6に係る構成を有することによる作用効果も認められる。
したがって、甲1発明において、ヒューズ素子25の形成方法を変更することで相違点6に係る本件発明10の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
(イ)相違点7について
上記相違点7について検討する。相違点7は、上記相違点2と同様のものであり、すなわち後述する相違点Aと同様のものであるから、後述する4(3)イと同様の理由により、実質的な相違点ではない。

ウ 請求人の主張について
上記相違点6についての請求人の主張は、上記(3)ウ及び(4)ウと同様に、採用できない。

エ 小括
したがって、本件発明10は、甲1発明ではなく、また甲1発明及び従来周知のヒューズ素子形成方法に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(7)本件発明12について
ア 対比
本件発明12と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「セラミック製のチップ状基板1」は、本件発明12の「絶縁基板」に相当する。
甲1発明の「一対のヒューズ用電極15b、19b」は、本件発明12の「第1及び第2の電極」に相当するから、甲1発明の「上記チップ状基板1の表面1aに形成された表面電極15及び19が有する一対のヒューズ用電極15b、19b」は、本件発明12の「上記絶縁基板に積層された第1及び第2の電極」に相当する。
甲1発明の「ヒューズ用中間電極17b」は、本件発明12の「発熱体引出電極」に相当する。
甲1発明の「発熱体45」は、本件発明12の「発熱素子」に相当するから、甲1発明の「上記チップ状基板1の裏面1b上に形成された発熱体45」は、本件発明12の「上記発熱体引出電極に電気的に接続する様に搭載された発熱体」に相当する。
甲1発明の「ヒューズ素子25」は、本件発明12の「可溶導体」に相当する。
甲1発明の「下側半田材料層27」は、該下側半田材料層27を形成する第1の半田材料が、積層される上側半田材料層29を形成する第2の半田材料よりも高い融点を有するものであるから、本件発明12の「高融点金属層」に相当し、同様に、甲1発明の「上側半田材料層29」は、本件発明12の「低融点金属層」に相当する。また、甲1発明の「ヒューズ素子25」が、「下側半田材料層27」と「上側半田材料層29」とが「積層されて構成されて」いることは、本件発明12の「上記可溶導体は、少なくとも高融点金属層と低融点金属層とを含む積層体からなる」ことに相当する。
甲1発明の「ヒューズ素子25」が「上記ヒューズ用中間電極17bと上記一対のヒューズ用電極15b、19bとの間で跨いで形成され」ることは、本件発明12の「可溶導体」が「上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間でまたいで上記絶縁基板と直接密着しないように積層され」ることとの関係において、「上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間に設けられ」る限りにおいて共通するといえる。
甲1発明の「ヒューズ素子25」が、「上記ヒューズ用中間電極17bと上記一対のヒューズ用電極15b、19bとの間で跨いで形成され」、「下側半田材料層27」と「上側半田材料層29」とが「積層され」ていることは、本件発明12の「可溶導体」が、「該第1の電極と該第2の電極が高融点金属層と低融点金属層に挟まれないように」「積層され」ていることに相当する。
甲1発明の「ヒューズ素子25」が「発熱体45が発生する熱でチップ状基板1を通して溶断するものであ」ることは、本件発明12の「可溶導体」が「上記発熱素子の加熱により、該第1の電極と該第2の電極との間の電流経路を溶断する」ものであることに相当する。
甲1発明の「上記上側半田材料層29は、上記発熱体45からの熱により溶融することで、上側半田材料層29の内部の力が下側半田材料層27に加わって、上記上側半田材料層29と上記下側半田材料層27が、ともに電極15b、17b、19bを中心にまとまって溶断されること」は、本件発明12の「上記低融点金属層は、上記発熱体が発する熱により溶融することで、上記高融点金属層を浸食しながら、上記低融点金属層の濡れ性が高い上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極側に引き寄せられて溶断されること」との関係において、「上記低融点金属層は、上記発熱素子が発する熱により溶融することで、上記低融点金属層の濡れ性が高い上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極側に引き寄せられて溶断されること」との限りにおいて共通する。
甲1発明の「チップ型ヒューズ」は、本件発明12の「保護素子」に相当する。
以上のとおりであるから、本件発明12と甲1発明とは、次の一致点及び相違点を有する。
[一致点4]
「絶縁基板と、
上記絶縁基板に積層された第1及び第2の電極と、
上記第1及び第2の電極の間の電流経路上に積層された発熱体引出電極と、
上記発熱体引出電極に電気的に接続する様に搭載された発熱素子と、
上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間に設けられ、該第1の電極と該第2の電極が高融点金属層と低融点金属層に挟まれないように積層され、上記発熱素子の加熱により、該第1の電極と該第2の電極との間の電流経路を溶断する可溶導体とを備え、
上記可溶導体は、少なくとも上記高融点金属層と上記低融点金属層とを含む積層体からなり、
上記低融点金属層は、上記発熱素子が発する熱により溶融することで、上記低融点金属層の濡れ性が高い上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極側に引き寄せられて溶断される保護素子。」
[相違点8]
本件発明12は、可溶導体が「上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間でまたいで上記絶縁基板と直接密着しないように、且つ、該第1の電極と該第2の電極が高融点金属層と低融点金属層に挟まれないように積層され」ているものであるのに対し、甲1発明は、「上記ヒューズ用中間電極17bと上記一対のヒューズ用電極15b、19bとの間で跨いで形成されたヒューズ素子」であって、チップ状基板1と直接密着しないことが特定されていない点。
[相違点9]
本件発明12は、低融点金属層が溶融することで、「高融点金属層を浸食」するものであるが、甲1発明において、上側半田材料層29の溶融により下側半田材料層27に対しての作用が「浸食」に相当するものか不明である点。

イ 判断
(ア)相違点8について
上記相違点8について検討する。相違点8は、上記相違点3と同様のものである。
すなわち、上記(4)イ(ア)の上記相違点3についての検討と同様に、甲1発明のヒューズ素子25は、乙第1号証の記載からクリーム半田を用いて形成されるものであるから、チップ状基板1と密着して形成されているものである。さらに、ヒューズ素子25がチップ状基板1と密着していることが、発熱体45からの伝熱の観点からもむしろ有利であることを考慮すると、該ヒューズ素子25をチップ状基板1との間に空間を設ける技術思想を有していないものといえる。そして、本件発明12が上記相違点8に係る構成を有することによる作用効果も認められる。
したがって、甲1発明において、ヒューズ素子25の形成方法を変更することで相違点8に係る本件発明12の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
(イ)相違点9について
上記相違点9について検討する。相違点9は、上記相違点2と同様のものであり、すなわち後述する相違点Aと同様のものであるから、後述する4(3)イと同様の理由により、実質的な相違点ではない。

ウ 請求人の主張について
上記相違点8についての請求人の主張は、上記(3)ウ及び(4)ウと同様に、採用できない。

エ 小括
したがって、本件発明12は、甲1発明及び従来周知のヒューズ素子形成方法に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(8)本件発明13ないし19及び21について
請求項13は、請求項1ないし12のいずれか1項の記載を引用している。
請求項14は、請求項1ないし13のいずれか1項の記載を引用している。
請求項15は、請求項1ないし14のいずれか1項の記載を引用している。
請求項16、18及び19は、請求項1、2、6ないし12のいずれか1項の記載を引用している。
請求項17は、請求項16の記載を引用している。
請求項21は、請求項1ないし20のいずれか1項の記載を引用している。
すなわち、本件発明13ないし19及び21は、いずれも甲1発明との関係において、上記相違点1あるいは、上記相違点1と実質的に等しい上記相違点3、6、8のいずれかを有するものである。
そうすると、本件発明13ないし19及び21は、上記(3)、(4)、(6)又は(7)と同様に、甲1発明、従来周知のヒューズ素子形成方法及び甲第5号証に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(9)本件発明23について
ア 対比
本件発明23と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「セラミック製のチップ状基板1」は、本件発明23の「絶縁基板」に相当する。
甲1発明の「発熱体45」は、本件発明23の「発熱体」に相当するから、甲1発明の「上記チップ状基板1の裏面1b上に形成された発熱体45」は、本件発明23の「上記絶縁基板に積層された発熱体」に相当する。
甲1発明の「絶縁コート47」は、本件発明23の「絶縁部材」に相当する。すなわち、甲1発明の「上記発熱体45を覆うように形成された絶縁コート47」は、【図3】を参照すると、発熱体45に絶縁コート47が重なるように設けられており、積層されたものといえるから、本件発明23の「少なくとも上記発熱体を覆うように、上記絶縁基板に積層された絶縁部材」に相当する。
甲1発明の「一対のヒューズ用電極15b、19b」は、本件発明23の「第1及び第2の電極」に相当するから、甲1発明の「上記絶縁コート47が上記裏面1bに形成された上記チップ状基板1の表面1aに形成された表面電極15及び19が有する一対のヒューズ用電極15b、19b」は、本件発明23の「上記絶縁部材が積層された上記絶縁基板に積層された第1及び第2の電極」に相当する。
甲1発明の「ヒューズ用中間電極17b」は、本件発明23の「発熱体引出電極」に相当する。
甲1発明の「ヒューズ素子25」は、本件発明23の「可溶導体」に相当する。
甲1発明の「下側半田材料層27」は、該下側半田材料層27を形成する第1の半田材料が、積層される上側半田材料層29を形成する第2の半田材料よりも高い融点を有するものであるから、本件発明23の「高融点金属層」に相当し、同様に、甲1発明の「上側半田材料層29」は、本件発明23の「低融点金属層」に相当する。
甲1発明の「ヒューズ素子25」が「上記ヒューズ用中間電極17bと上記一対のヒューズ用電極15b、19bとの間で跨いで形成され」ることは、本件発明23の「可溶導体」が「上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間でまたいで上記絶縁基板と直接密着しないように」「積層され」ることとの関係において、「上記発熱体引出電極から上記第1及び第2の電極にわたって、上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間に設けられ」る限りにおいて共通するといえる。
甲1発明の「ヒューズ素子25」が、「上記ヒューズ用中間電極17bと上記一対のヒューズ用電極15b、19bとの間で跨いで形成され」、「下側半田材料層27」と「上側半田材料層29」とが「積層され」ていることは、本件発明23の「可溶導体」が、「該第1の電極と該第2の電極が高融点金属層と低融点金属層に挟まれないように」「積層され」ていることに相当する。
甲1発明の「ヒューズ素子25」が「発熱体45が発生する熱でチップ状基板1を通して溶断するものであ」ることは、本件発明23の「可溶導体」が「加熱により、該第1の電極と該第2の電極との間の電流経路を溶断する」ものであることに相当する。
甲1発明の「上記ヒューズ素子25は、リフロー条件のピーク温度よりも高い融点を有する鉛を含む第1の半田材料を用いて形成されている下側半田材料層27と、ピーク温度よりも低い融点を有するSn/Sb系の鉛を含まない第2の半田材料を用いて形成されている上側半田材料層29とが積層されて構成されて」いる点は、本件発明23の「上記可溶導体は、上記高融点金属層からなる単層の可溶導体であり、上記第1の電極、上記第2の電極、及び上記発熱体引出電極上において、上層を該高融点金属層、下層を低融点金属からなる上記低融点金属層の2層構造をなし」ていることとの関係において、「上記可溶導体は、上記第1の電極、上記第2の電極、及び上記発熱体引出電極上において、高融点金属層及び低融点金属層の2層構造をなし」ている限りにおいて共通する。
甲1発明の「上記上側半田材料層29は、上記発熱体45からの熱により溶融することで、上側半田材料層29の内部の力が下側半田材料層27に加わって、上記上側半田材料層29と上記下側半田材料層27が、ともに電極15b、17b、19bを中心にまとまって溶断されること」は、本件発明23の「上記可溶導体は、上記低融点金属層が上記発熱体の発する熱により溶融することで、上記高融点金属層を浸食しながら、上記高融点金属層が上記低融点金属層の濡れ性が高い上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極側に引き寄せられて溶断されること」との関係において、「上記可溶導体は、上記低融点金属層が上記発熱体の発する熱により溶融することで、、上記高融点金属層が上記低融点金属層の濡れ性が高い上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極側に引き寄せられて溶断されること」との限りにおいて共通する。
甲1発明の「チップ型ヒューズ」は、本件発明23の「保護素子」に相当する。
以上のとおりであるから、本件発明23と甲1発明とは、次の一致点及び相違点を有する。
[一致点5]
「絶縁基板と、
上記絶縁基板に積層された発熱体と、
少なくとも上記発熱体を覆うように、上記絶縁基板に積層された絶縁部材と、
上記絶縁部材が積層された上記絶縁基板に積層された第1及び第2の電極と、
上記第1及び第2の電極の間の電流経路上で該発熱体に電気的に接続された発熱体引出電極と、
上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間に設けられ、該第1の電極と該第2の電極が高融点金属層と低融点金属層に挟まれないように積層され、発熱体の加熱により、該第1の電極と該第2の電極との間の電流経路を溶断する可溶導体とを備え、
上記可溶導体は、上記第1の電極、上記第2の電極、及び上記発熱体引出電極上において、高融点金属層及び低融点金属層の2層構造をなし、
上記可溶導体は、上記低融点金属層が上記発熱体の発する熱により溶融することで、上記高融点金属層が上記低融点金属層の濡れ性が高い上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極側に引き寄せられて溶断される保護素子。」
[相違点10]
本件発明23は、可溶導体が「上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間でまたいで上記絶縁基板と直接密着しないように積層され」ているものであるのに対し、甲1発明は、「上記ヒューズ用中間電極17bと上記一対のヒューズ用電極15b、19bとの間で跨いで形成されたヒューズ素子」であって、チップ状基板1と直接密着しないことが特定されていない点。
[相違点11]
本件発明23の可溶導体は、「上記高融点金属層からなる単層の可溶導体であり、上記第1の電極、上記第2の電極、及び上記発熱体引出電極上において、上層を該高融点金属層、下層を低融点金属からなる上記低融点金属層の2層構造をなし」ているものであるのに対し、甲1発明のヒューズ素子25は、下側半田材料層27が高い融点を有し、上側半田材料層29が低い融点を有し、かつ、全体に亘って2層構造である点。
[相違点12]
本件発明23は、低融点金属層が溶融することで、「高融点金属層を浸食」するものであるが、甲1発明において、上側半田材料層29の溶融により下側半田材料層27に対しての作用が「浸食」に相当するものか不明である点。

イ 判断
(ア)相違点10について
上記相違点10について検討する。相違点10は、上記相違点3と同様のものである。
すなわち、上記(4)イ(ア)の上記相違点3についての検討と同様に、甲1発明のヒューズ素子25は、乙第1号証の記載からクリーム半田を用いて形成されるものであるから、チップ状基板1と密着して形成されているものである。さらに、ヒューズ素子25がチップ状基板1と密着していることが、発熱体45からの伝熱の観点からもむしろ有利であることを考慮すると、該ヒューズ素子25をチップ状基板1との間に空間を設ける技術思想を有していないものといえる。そして、本件発明23が上記相違点10に係る構成を有することによる作用効果も認められる。
したがって、甲1発明において、ヒューズ素子25の形成方法を変更することで相違点10に係る本件発明23の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
(イ)相違点11について
上記相違点11について検討する。
甲第11号証の段落【0028】、【0029】及び【図2】には、可溶導体13が、一対の電極12及び導体層17上において、上層を該可溶導体13、下層をソルダペースト20の2層構造をなして形成されているものであって、ソルダペースト20の溶融温度は、可溶導体13の溶融温度以下である点が記載されている。
ここで、甲1発明のヒューズ素子25は、乙1号証の記載によれば、クリーム半田を加熱し、溶融させて硬化することにより成形されるものであるから、仮に低融点金属を電極15b、17b、19bに硬化させた上で、さらにこれら電極間にわたって高融点金属層を形成しようとすると、溶融状態の高融点金属は、低融点金属の融点よりも高い温度であることが明らかであるから、硬化した低融点金属層が再度溶け出すことにより、流出してしまうことを考慮すると、ヒューズ素子25の安定的な成形が困難であるといえる。そうすると、甲1発明において、甲第11号証に記載の可溶導体13ヒューズを適用することで、上記相違点11に係る本件発明23の構成とすることは、阻害要因を有しているものであり、当業者が容易に想到し得たことではない。
(ウ)相違点12について
上記相違点12について検討する。相違点12は、上記相違点2と同様のものであり、すなわち後述する相違点Aと同様のものであるから、後述する4(3)イと同様の理由により、実質的な相違点ではない。

ウ 請求人の主張について
上記相違点10についての請求人の主張は、上記(3)ウ及び(4)ウと同様に、採用できない。
また、上記相違点11についても、請求人は甲1発明において、甲第11号証に記載の技術的事項を採用することの阻害要因について考慮していないものであるから、採用できない。

エ 小括
したがって、本件発明23は、甲1発明、従来周知のヒューズ素子形成方法及び甲第11号証に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(10)本件発明24について
請求項24は、請求項1ないし12及び14ないし23のいずれか1項の記載を引用するものであるから、本件発明24は、甲1発明との関係において、上記相違点1及び2、上記相違点3ないし5、上記相違点6及び7、上記相違点8及び9、若しくは、上記相違点10ないし12のいずれかを有するものである。
そうすると、本件発明24は、上記(3)、(4)、(6)、(7)又は(9)と同様に、甲1発明、従来周知のヒューズ素子形成方法、甲第5号証及び甲第11号証に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 請求人の主張する無効理由3(明確性)について
(1)請求項3と請求項16とが両立しないことについて
請求人は、審判請求書の「7−3−2. 理由3(明確性)について」(1)において、本件特許の請求項16が請求項3の記載を引用するものであって、請求項3と請求項16における可溶導体の層構造が相矛盾する旨を主張している。
本件訂正後の請求項16は、請求項1、2、6ないし12のいずれか1項の記載を引用するものであり、請求項3の記載並びに請求項3の記載を引用する請求項4及び5の記載のいずれをも引用していないものであるから、明確であり無効理由3に該当しない。
(2)請求項3と請求項19が両立しないことについて
請求人は、審判請求書の「7−3−2. 理由3(明確性)について」(2)において、本件特許の請求項19が請求項3の記載を引用するものであって、請求項3と請求項19における可溶導体の層構造が相矛盾する旨を主張している。
本件訂正後の請求項19は、請求項1、2、6ないし12のいずれか1項の記載を引用するものであり、請求項3の記載並びに請求項3の記載を引用する請求項4及び5の記載のいずれをも引用していないものであるから、明確であり無効理由3に該当しない。
(3)請求項23の明確性について
請求人は、審判請求書の「7−3−2. 理由3(明確性)について」(3)において、本件訂正前の請求項23における「上記可溶導体は、上記高融点金属層からなり、上記第1の電極、上記第2の電極、及び上記発熱体引出電極上において、上層を該高融点金属層、下層を上記低融点金属層の2層構造をなし、」との記載は、「可溶導体」の構成が不明確であることを主張している。
本件訂正後の本件発明23は、「上記可溶導体は、上記高融点金属層からなる単層の可溶導体であり、上記第1の電極、上記第2の電極、及び上記発熱体引出電極上において、上層を該高融点金属層、下層を低融点金属からなる上記低融点金属層の2層構造をなし、」との事項を有している。すなわち、本件発明23は、可溶導体が、「上記高融点金属層からなる単層の可溶導体であ」ることが特定されるとともに、「上記第1の電極、上記第2の電極、及び上記発熱体引出電極上において、上層を該高融点金属層、下層を低融点金属からなる上記低融点金属層の2層構造をな」していることが特定されているから、「可溶導体」の構成が明確である。
請求人は、本件発明23は、依然として可溶導体が「上記高融点金属層からなる」「単層の可溶導体」であることと、「上層を該高融点金属層、下層を低融点金属からなる」「上記低融点金属層の2層構造」であることが矛盾することを主張しているが、本件発明23は、可溶導体が、第1の電極、第2の電極、発熱体引出電極上において2層構造であり、これ以外の箇所において単層であることが把握できるから、技術的に矛盾しない。したがって、請求人の当該主張は採用できない。

3 当審無効理由1(明確性)について
当審無効理由1は、令和2年11月13日付け訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項23において、「上記低融点金属層は、上記発熱体が発する熱により溶融することで、上記高融点金属層からなる上記可溶導体を浸食しながら、上記低融点金属層の濡れ性が高い上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極側に引き寄せられて溶断される」と記載されていたことの不備を指摘したものである。
本件訂正後の本件発明23は、次のとおり特定されているから、当審無効理由1は解消している。また、請求項23の記載を引用する請求項24についても同様である。
「絶縁基板と、
上記絶縁基板に積層された発熱体と、
少なくとも上記発熱体を覆うように、上記絶縁基板に積層された絶縁部材と、
上記絶縁部材が積層された上記絶縁基板に積層された第1及び第2の電極と、
上記第1及び第2の電極の間の電流経路上で該発熱体に電気的に接続された発熱体引出電極と、
上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間でまたいで上記絶縁基板と直接密着しないように、且つ、該第1の電極と該第2の電極が高融点金属層と低融点金属層に挟まれないように積層され、加熱により、該第1の電極と該第2の電極との間の電流経路を溶断する可溶導体とを備え、
上記可溶導体は、上記高融点金属層からなる単層の可溶導体であり、上記第1の電極、上記第2の電極、及び上記発熱体引出電極上において、上層を該高融点金属層、下層を低融点金属からなる上記低融点金属層の2層構造をなし、
上記可溶導体は、上記低融点金属層が上記発熱体の発する熱により溶融することで上記高融点金属層を浸食しながら、上記高融点金属層が上記低融点金属層の濡れ性が高い上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極側に引き寄せられて溶断されることを特徴とする保護素子。」

4 当審無効理由2(新規性)及び当審無効理由3(進歩性)について
(1)甲第11号証に記載の技術的事項
上記甲第11号証に記載の事項から、次の技術的事項を認定できる。
ア 絶縁層16は、ベース基板11に積層された発熱体15を覆うように、ベース基板に積層されている(段落【0021】及び【図2】)。
イ 導体層17は、一対の電極12の間の電流経路上で発熱体15に電極21を介して接続されている(段落【0021】及び【図1】)。
ウ 可溶導体13は、導体層17と一対の電極12との間でまたいで設けられ、ベース基板11に密着しておらず、導体層17及び一対の電極12にソルダペースト20を介して接続され、保護動作時に一対の電極12間の電流経路を溶断する(段落【0029】、【0033】、【図2】及び【図5】)。
エ 可溶導体13は、リフロー炉で溶融しない温度で処理される低融点金属箔からなる単層の可溶導体13である(段落【0024】及び【0029】)。
オ 可溶導体13は、一対の電極12及び導体層17上において、上層を該可溶導体13、下層をソルダペースト20の2層構造をなして形成されている(段落【0029】及び【図2】)。
カ ソルダペースト20の溶融温度は、可溶導体13の溶融温度以下である(段落【0028】)。
キ 可溶導体13は、ソルダペースト20が発熱体15の発する熱により溶融することで、可溶導体13を溶融しながら、該可溶導体13が上記ソルダペースト20の濡れ性が高い一対の電極12及び導体層17の表面に濡れ広がり溶断される(段落【0033】、【0034】、【図5】及び【図6】)。

(2)甲第11号証に記載の発明
上記(1)アないしキの記載を総合すると、甲第11号証には、以下の発明(以下、「甲11発明」という。)が記載されていると認められる。
[甲11発明]
「絶縁性を有するベース基板11と、
上記ベース基板11上に積層された発熱体15と、
少なくとも上記発熱体15を覆うように、上記ベース基板11に積層された絶縁層16と、
上記絶縁層16が設けられた上記ベース基板11に設けられた一対の電極12と、
上記一対の電極12の間の電流経路上で該発熱体15に電極21を介して接続された導体層17と、
上記導体層17と上記一対の電極12との間でまたいで、上記ベース基板11と直接密着しないように、且つ、該一対の電極12が可溶導体13とソルダペースト20に挟まれないように接続固定され、保護動作時に該一対の電極12間の電流経路を溶断する可溶導体13とを備え、
上記可溶導体13は、リフロー炉で溶融しない温度で処理される低融点金属箔からなる単層の可溶導体13であり、上記一対の電極12及び上記導体層17上において、上層を上記可溶導体13、下層を上記ソルダペースト20の2層構造をなし、
上記可溶導体13は、上記ソルダペースト20が上記発熱体15の発する熱により、上記可溶導体13の溶融温度以下で溶融することで、上記低融点金属箔からなる可溶導体13を溶融しながら、該可溶導体13が上記ソルダペースト20の濡れ性が高い上記一対の電極12及び上記導体層17の表面に濡れ広がり溶断される保護素子10。」

(3)本件発明23について
ア 対比
本件発明23と甲11発明とを対比する。
甲11発明の「絶縁性を有するベース基板11」は、本件発明23の「絶縁基板」に相当する。
甲11発明の「発熱体15」は、本件発明23の「発熱体」に相当する。
甲11発明の「絶縁層16」は、本件発明23の「絶縁部材」に相当する。
甲11発明の「一対の電極12」は、本件発明23の「第1及び第2の電極」に相当するから、甲11発明の「上記絶縁層16が設けられた上記ベース基板11に設けられた一対の電極12」は、本件発明23の「上記絶縁部材が積層された上記絶縁基板に積層された第1及び第2の電極」に相当する。
甲11発明の「導体層17」は、本件発明23の「発熱体引出電極」に相当する。
甲11発明の「可溶導体13」は、「リフロー炉で溶融しない温度で処理される低融点金属箔から」なるものであるから、本件発明23の「高融点金属層」に相当する。
また、甲11発明の「ソルダペースト20」は、「上記可溶導体13の溶融温度以下」であるから、本件発明23の「低融点金属層」に相当する。
すなわち、甲11発明の「上記導体層17と上記一対の電極12との間でまたいで、上記ベース基板11と直接密着しないように、且つ、該一対の電極12が可溶導体13とソルダペースト20に挟まれないように接続固定され、保護動作時に該一対の電極12間の電流経路を溶断する可溶導体13」は、本件発明23の「上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間でまたいで、上記絶縁基板と直接密着しないように、且つ、該第1の電極と該第2の電極が高融点金属層と低融点金属層に挟まれないように積層され、加熱により、該第1の電極と該第2の電極との間の電流経路を溶断する可溶導体」に相当する。
そして、甲11発明の「上記可溶導体13は、リフロー炉で溶融しない温度で処理される低融点金属箔からなる単層の可溶導体13であり、上記一対の電極12及び上記導体層17上において、上層を上記可溶導体13、下層を上記ソルダペースト20の2層構造をな」す点は、本件発明23の「上記可溶導体は、上記高融点金属層からなる単層の可溶導体であり、上記第1の電極、上記第2の電極、及び上記発熱体引出電極上において、上層を該高融点金属層、下層を低融点金属からなる上記低融点金属層の2層構造をな」す点に相当する。
さらに、甲11発明の「上記可溶導体13」が、「上記ソルダペースト20が上記発熱体15の発する熱により、上記可溶導体13の溶融温度以下で溶融することで、上記低融点金属箔からなる可溶導体13を溶融しながら、該可溶導体13が上記ソルダペースト20の濡れ性が高い上記一対の電極12及び上記導体層17の表面に濡れ広がり溶断される」ことは、本件発明23の「上記可溶導体」が、「上記低融点金属層が上記発熱体の発する熱により溶融することで上記高融点金属層を浸食しながら、上記高融点金属層が上記低融点金属層の濡れ性が高い上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極側に引き寄せられて溶断される」こととの関係において、
「上記可溶導体」が、「上記低融点金属層が上記発熱体の発する熱により溶融することで上記高融点金属層を溶融しながら、上記高融点金属層が上記低融点金属層の濡れ性が高い上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極側に引き寄せられて溶断される」限りにおいて共通する。
甲11発明の「保護素子10」は、本件発明23の「保護素子」に相当する。
以上のとおりであるから、本件発明23と甲11発明とは、次の一致点A及び相違点Aを有する。
[一致点A]
「絶縁基板と、
上記絶縁基板に積層された発熱体と、
少なくとも上記発熱体を覆うように、上記絶縁基板に積層された絶縁部材と、
上記絶縁部材が積層された上記絶縁基板に積層された第1及び第2の電極と、
上記第1及び第2の電極の間の電流経路上で該発熱体に電気的に接続された発熱体引出電極と、
上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間でまたいで上記絶縁基板と直接密着しないように、且つ、該第1の電極と該第2の電極が高融点金属層と低融点金属層に挟まれないように積層され、加熱により、該第1の電極と該第2の電極との間の電流経路を溶断する可溶導体とを備え、
上記可溶導体は、上記高融点金属層からなる単層の可溶導体であり、上記第1の電極、上記第2の電極、及び上記発熱体引出電極上において、上層を該高融点金属層、下層を低融点金属からなる上記低融点金属層の2層構造をなし、
上記可溶導体は、上記低融点金属層が上記発熱体の発する熱により溶融することで上記高融点金属層を溶融しながら、上記高融点金属層が上記低融点金属層の濡れ性が高い上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極側に引き寄せられて溶断される保護素子。」
[相違点A]
本件発明23は、低融点金属層が溶融することで「高融点金属層を浸食」するものであるが、甲11発明において、ソルダペースト20が溶融することで「可溶導体13を溶融」する作用が、「浸食」に相当するものか不明である点。

イ 判断
上記相違点Aについて検討する。
甲第11号証の段落【0033】には、「保護素子10の保護動作時には、先ずソルダペースト20の金属粒子が溶融し、電極12及び導体層17上に広がる。そして、ほとんど間を置かずほぼ同時に可溶導体13が溶融し、図5に示すように溶断する。」(下線は当審で付した。以下同様。)と記載されている。
この現象に関連して、甲第19号証の第435ページには、「溶食」の意味として、「はんだ付の過程で,母材の一部が溶融はんだの中に溶け込む現象。」及び「溶食は固体金属の液体金属への溶解であり、(以下略)。」と記載されている。また、甲第19号証の第401ページには、「母材」の意味として、「はんだ付に適用される固体金属(被接合金属)のこと。」と記載されている。
さらに、甲第20号証の第113ページの「4.6 はんだへの母材金属の溶解」には、「溶融はんだの中に,固体金属を浸漬すると,その温度における溶解度限界まで固体金属の溶解がおこる.」と記載されている。そして、甲第21号証の第21ページの「4) 母材の溶食」には、「固体金属は溶融金属に接触すると融点よりも低い温度でも溶け出す。例えば,Cuは1,083℃以上に加熱しなければ溶解しないが,溶融したSnに接触すれば250℃でもSnへ溶解する。
はんだ付の過程では液体としての溶融はんだと固体としての母材金属とが直接に触れるので,溶融はんだへの母材の溶解が大なり小なり必ず起る。」と記載されている。
甲第19号証の記載から、甲11発明の「可溶導体13」は、「母材金属」あるいは「固体金属」であって、可溶導体13以下の溶融温度である「ソルダペースト20」は、「溶融はんだ」であるという対応関係にあるといえる。
そして、甲第11号証の上記記載における溶融作用は、甲第20号証及び甲第21号証に記載の固体金属の溶解作用が起ることで可溶導体13の溶食が起る結果として迅速な溶断動作が可能となるものと理解できる。
ここで、本件発明23における「高融点金属層を浸食」する作用について、本件特許明細書の段落【0044】には、「図5(B)に示すように、発熱体14の直上にある可溶導体13の外層の低融点金属層13bが溶融を開始して、溶融した低融点金属が内層の高融点金属層13aに拡散し、溶食現象を生じて、高融点金属層13aが浸食され、消失する。破線の円内では、高融点金属層13aが消失して、溶融した低融点金属層13bと混じり合った状態となっている。」との記載があることから、溶融した低融点金属に対する高融点金属層の溶食が浸食であることが理解できる。
すなわち、甲11発明において、ソルダペースト20が溶融することで「可溶導体13を溶融」する作用は、本件発明23における低融点金属層が溶融することで「高融点金属層を浸食」する作用を含むものであるといえる。
したがって、上記相違点Aは、実質的な相違点ではない。仮に上記相違点Aにおいて実質的に相違するものであっても、甲11発明において甲第19号証ないし甲第21号証に記載の技術的事項を適用することで、浸食作用を起こす材料のものとすることは当業者にとって容易になし得たことである。

ウ 被請求人の主張について
(ア)令和3年5月13日付け意見書における主張
被請求人は、令和3年5月13日付け意見書において、甲第11号証の段落【0010】、【0028】及び【0029】を引用しつつ、以下の主張をしている(下線は当審で付したもの。以下同様。)。
「(イ)甲11発明
甲第11号証には、以下の記載があります。
・・・(省略)・・・
この記載からすれば、甲第11号証に記載の発明(『甲11発明』)においては、電極12,12及び導体層17上においては、ソルダペースト20によって可溶導体13が固定されていることが分かります。
ここで、ソルダペースト20はフラックス成分中に金属粒子を含有するものです。金属粒子は、リフロー炉を通ることでは完全には溶融せず、フラックス成分も残った状態です。すなわち、甲11発明における保護素子は、可溶導体13がフラックス成分中に含有された金属粒子を介して電極12,12及び導体層17と導通されるとともに固定されているものです。可溶導体13と電極12,12及び導体層17とは、金属粒子と接する部位において一部溶融した金属粒子と結合されることにより、電気的及び機械的に接続されているものと考えられます(下記図1参照(当審注;図1は省略。))。
この可溶導体13と電極12,12及び導体層17とが接続されている部位においては、フラックス成分が残った状態です。甲11発明では、保護動作時において、このフラックス成分によって電極12,12及び導体層17の濡れ性が向上されるため、溶融した金属粒子が濡れ広がることが可能となるものです。なお、甲11発明では、電極12,12及び導体層17上の可溶導体13と接しない部位にもソルダペースト20が塗布されています(甲第11号証【0028】、図3、図6等)。
このような構成により、甲11発明では、従来の構成においては電極上にフラックスが塗布されていなかったところ(甲第11号証【0010】)、電極上に塗布されたフラックスによって濡れ性を向上させることができるようになるものです。
(ウ)本件発明23と甲11発明との対比
本件発明23は、『上記第1の電極、上記第2の電極、及び上記発熱体引出電極上において、上層を該高融点金属層、下層を低融点金属からなる上記低融点金属層の2層構造をな』すのに対し、甲11発明では当該構成を備えていない点で相違します。
上述しましたように、本件発明23は、第1、第2の電極、及び発熱体引出電極上において、低融点金属からなる低融点金属層と高融点金属層の2つの金属層が積層された2層構造を有します。一方、甲11発明は、電極12,12及び導体層17上において、可溶導体13がソルダペースト20によって固定されていますが、ソルダペースト20は、フラックス成分中に金属粒子を含有するものであり、これをもって金属層とは言えません。甲11発明では、可溶導体13が設けられる部位以外にもソルダペースト20が塗布されますが、この可溶導体13が設けられる部位からはみ出して塗布されたソルダペースト20は、当該部位まで溶融した金属粒子や可溶導体13が容易に濡れ広がることを目的として設けられたものであり、このようなソルダペースト20を指して、電極12や導体層17に金属層が積層された、とも言えません。
甲第11号証【0010】では電極表面にフラックスが塗布されず酸化することにより濡れ性が低下する点が課題として記載されています。そして、甲11発明では、リフロー炉を通して可溶導体13を固定した後も、金属粒子は完全に溶融せず、フラックス成分が残った状態です。甲11発明では、通常動作時においてはこのフラックス成分によって、電極12,12及び導体層17の可溶導体13の搭載部位及びそれ以外の部位における酸化を防止し、発熱体が発熱する保護動作時においてはこのフラックス成分によって電極12,12及び導体層17の濡れ性が向上されるため、溶融した金属粒子及び可溶導体13が濡れ広がることが可能となるものです。
このように、甲11発明は、電極12,12及び導体層17の可溶導体13の搭載部位及びそれ以外の部位においてフラックスを保持することで酸化防止を図り、もって保護動作時の濡れ性の向上を図るものであり、フラックス成分中に含有された金属粒子は、保護素子の構造上、可溶導体13を電極12,12及び導体層17と電気的、機械的に接続するために含有されたものと言えます。甲第11号証の段落【0034】にも、ソルダペースト20は、可溶導体13の固定用途を兼用している旨が記載されています。
このような甲11発明の課題解決原理及びソルダペースト20の位置づけに鑑みれば、ソルダペースト20は、第一義的にはフラックス層として捉えるべきものであり、金属層とは言えないと思料します。したがって、甲第11号証には電極12及び導体層17上において2つの金属層が積層された2層構造を備えているとはいえないものであり、本件発明23は、甲第11号証に記載された発明と同一ではなく、また甲第11号証を参照することによっては、当業者が容易に発明することができたとは言えないものと思料します。」(意見書第3ページ下から第17行ないし第6ページ第17行)
上記被請求人の主張について検討する。
甲第11号証の段落【0029】には、「ここで、可溶導体13は、ソルダペースト20が上記所定パターンで印刷形成された電極12及び導体層17上に載せられ、リフロー炉を通して固定される。このとき、可溶導体13が溶融しない温度で処理されるもので、ソルダペースト20中の金属粒子は、完全に溶融せず、フラックス成分も残った状態で可溶導体13が固定される。」と記載されている。当該記載からは、ソルダペースト20の金属粒子とフラックス成分は、リフロー処理により一部が溶融するものであり、フラックス成分がソルダペースト20から流出などして減少するものの残った状態であることが把握できる。すなわち、甲11発明におけるソルダペースト20は、一部が溶融している金属粒子と、残存したフラックス成分が混在しているものであって、可溶導体13と一対の電極12及び導体層17とを機械的及び電気的に接続する金属層であるといえる。
さらに、甲第11号証の段落【0034】には、「この実施形態の保護素子10によれば、可溶導体13が溶断する際に、先ずソルダペースト20が広く電極12及び導体層17の表面に濡れ広がり、安定で迅速な溶断動作が可能になる。さらに、可溶導体13が絶縁カバー14に接触しないので、溶断動作の遅れが生じることが無く、安定して確実な保護動作が可能となり、より薄型の保護素子10を形成することが出来る。さらに、可溶導体13の固定用のソルダペースト20を兼用しているものであり、ソルダペースト20の形成パターンを変えるだけで実施することが出来、何ら工数やコストの増加がないものである。」と記載されている。当該記載中の「兼用」とは、可溶導体13を固定する機能に加え、上記段落【0034】の該記載よりも前における「可溶導体13が溶断する際に、先ずソルダペースト20が広く電極12及び導体層17の表面に濡れ広が」る機能を兼ね備えることであることは明らかである。
そうすると、甲第11号証に記載のソルダペースト20は、金属層であるだけでなく、さらに、本件発明23の「高融点金属層」に相当する可溶導体13を、保護素子の動作時に安定で迅速な溶断動作が可能な機能を有するものであるから、本件発明23の「低融点金属層」に相当するものであるといえる。
したがって、被請求人の上記主張を採用することができない。

(イ)令和3年4月9日付け上申書における主張
被請求人は、令和3年4月9日付け上申書において、甲第11号証の段落【0010】、【0018】、【0028】及び【0033】を引用しつつ、以下の主張をしている。
「仮にソルダペースト20が可溶導体の浸食(合金化)に供されるとすると、ソルダペースト20が電極に濡れ広がることで濡れ性を向上させる、且つ濡れ性が向上された電極上に溶融した可溶導体13が濡れ広がるという甲11発明の効果を奏し得ないものとなります。
また、浸食とは母材金属が溶融ハンダに溶け込む作用をいい、溶融ハンダと母材金属とが直接触れ保持されている状態がしばらく継続することが必要であると解されるところ、甲11発明では、ソルダペースト20と可溶導体13がほぼ同時に溶融するのであるから、可溶導体13はソルダペースト20に浸食されることによって溶断するのではなく、その融点以上に加熱され溶融することで溶断するものと考えるのが自然です。
甲第11号証には、可溶導体13の溶融に関し、特に電極上で浸食等が起きる点について記載も示唆もなく、また、ソルダペースト20と可溶導体13は融点差が10℃以内とすることが望ましいとの記載(甲第11号証[0028])からも、可溶導体13は、電極上及び電極間が溶融することによって溶断するものと考えられます。
本件発明23と甲11発明とは、可溶導体の溶断時において、本件発明23では電極上での浸食作用により溶断するのに対して、甲11発明では、電極上と電極間での溶融作用により溶断する点で相違します。そして、上述した甲11発明の課題解決原理に鑑みれば、甲第11号証を参照することによって、当業者が本件発明23を容易に想到し得るとは言えないと思料します。」(上申書第10ページ第11行ないし第31行)
上記被請求人の主張について検討する。
甲第11号証の段落【0018】には、「この発明の保護素子によれば、可溶導体が溶断した際に、確実に広く電極や導体層の表面に濡れ広がり、安定で迅速な溶断動作が可能になる。さらに、可溶導体が絶縁カバーに接触することがないので、溶断動作に遅れが生じることが無く、より安定して確実な動作が可能となり、保護素子の薄型化に貢献するものである。」と記載されているとおり、溶断時に可溶導体13が絶縁カバーに接触することがないようにソルダペースト20が濡れ広がることを意味しているものであって、該濡れ広がる作用が存在するからといって、ソルダペースト20が可溶導体13を浸食する作用が生じないということはできず、これら作用が同時に起こるものと解釈することが自然である。
また、浸食の作用が溶融ハンダと母材金属とが直接触れ保持されている状態がしばらく継続するとの主張について、本件特許明細書等においても浸食のための時間的要件について記載がなく、甲第19号証ないし甲第21号証の記載を考慮しても参酌すべき点がない。そして、甲11発明の「ソルダペースト20」と「可溶導体13」がほぼ同時に溶融する作用は、融点差が小さいことに加え、浸食作用によるものと理解することができる。そして、上記相違点Aにおいて実質的に相違するとしても、該相違点Aに係る本件発明23の構成は、甲11発明において、甲第19号証ないし甲第21号証の記載の事項を適用し、浸食するものとすることを妨げるものでもない。
したがって、被請求人の上記主張を採用することができない。

エ 小括
よって、本件発明23は、甲11発明である。または、本件発明23は、甲11発明、及び、甲第19号証ないし甲第21号証に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)本件発明24について
請求項24は、請求項1〜12、14〜23のいずれか1項を引用しているところ、本件発明23の発明特定事項を有する本件発明24と甲11発明とを対比すると、上記(3)アにおける一致点A及び相違点Aを有するとともに、次の点で相違する。
[相違点B]
本件発明24は、「上記低融点金属層は、Pbフリーハンダからなり、上記高融点金属層は、Ag若しくはCu又はAg若しくはCuを主成分とする金属からな」る構成を備えているのに対し、甲11発明はかかる構成を備えていない点。
[相違点C]
本件発明24は、「上記高融点金属層の体積よりも上記低融点金属層の体積の方が多い」構成を備えているのに対し、甲11発明はかかる構成を備えていない点。
上記相違点Bについて検討する。
まず、本件発明24の「低融点金属層」に相当する甲11発明の「ソルダペースト20」の材料に関し、甲第11号証の段落【0028】には「ソルダペースト20としては、溶融した可溶導体13に対して濡れ性の良い金属成分を含有したもので、鉛フリーのものが好ましく、例えば錫(Sn)銀(Ag)銅(Cu)系のソルダペーストを用いることが出来る。」と記載されており、甲11発明の「ソルダペースト20」の材料として、鉛フリーの錫(Sn)銀(Ag)銅(Cu)系のソルダペーストが記載されていると認められる。
他方で、本件発明24の「高融点金属層」に相当する甲11発明の「可溶導体13」の材料に関し、同段落【0024】には「可溶導体13の低融点金属箔としては、所定の電力で溶融するものであれば良く、ヒューズ材料として公知の種々の低融点金属を使用することができる。例えば、BiSnPb合金、BiPbSn合金、BiPb合金、BiSn合金、SnPb合金、SnAg合金、PbIn合金、ZnAl合金、InSn合金、PbAgSn合金等を用いることができる。」と記載されており、甲11発明の「可溶導体13」の材料として種々の低融点金属が開示されているところ、「Ag若しくはCu又はAg若しくはCuを主成分とする金属」は開示されていない。
また、同段落【0028】には「ソルダペースト20中の金属粒子の溶融温度は、可溶導体13の溶融温度以下であることが好ましく、より好ましくは出来るだけ近い温度、例えば10℃以内の温度差で溶融するものであると良い。」と記載されており、可溶導体13の溶融温度として、例えば錫(Sn)銀(Ag)銅(Cu)系のソルダペーストの溶融温度に近いものが想定されていると認められるところ、AgやCuの融点が1000℃前後であることを考慮すると、甲11発明の「可溶導体13」の材料である「ヒューズ材料として公知の種々の低融点金属」として、「Ag若しくはCu又はAg若しくはCuを主成分とする金属」が想定されていたとも認められない。
してみると、ヒューズ材料の技術分野における「低融点金属」とは「Ag若しくはCu又はAg若しくはCuを主成分とする金属」を含むものであるということが本願の出願前に周知技術または技術常識であったとする証拠もないことから、甲11発明において「可溶導体13」の材料を選択して相違点Bに係る本件発明24の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことということはできない。
したがって、本件発明23の発明特定事項を有する本件発明24は、上記相違点Cについて検討するまでもなく、甲11発明、及び、甲第19号証ないし甲第21号証に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第9 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正を認める。
本件発明1、3、4、10、12ないし19、21及び24についての特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものではなく、同法第123条第1項第2号に該当せず、請求人の主張する無効理由及び当審で通知した無効理由によって無効とすべきものではない。
本件発明23についての特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、当審で通知した無効理由により無効とすべきものである。
本件発明3、4、12ないし19、21、23及び24についての特許は、特許法第36条第2項の規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではなく、同法第123条第1項第4号に該当せず、請求人の主張する無効理由及び当審で通知した無効理由によって無効とすべきものではない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第64条の規定により、請求人がその15分の14を、被請求人がその15分の1を負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板と、
上記絶縁基板に積層された発熱体と、
少なくとも上記発熱体を覆うように、上記絶縁基板に積層された絶縁部材と、
上記絶縁部材が積層された上記絶縁基板に積層された第1及び第2の電極と、
上記第1及び第2の電極の間の電流経路上で該発熱体に電気的に接続された発熱体引出電極と、
上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間でまたいで上記絶縁部材と直接密着しないように積層され、加熱により、該第1の電極と該第2の電極との間の電流経路を溶断する可溶導体とを備え、
上記可溶導体は、少なくとも高融点金属層と低融点金属層とを含む積層体からなり、
上記低融点金属層は、上記発熱体が発する熱により溶融することで、上記高融点金属層を浸食しながら、上記低融点金属層の濡れ性が高い上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極側に引き寄せられて溶断されることを特徴とする保護素子。
【請求項2】
絶縁基板と、
上記絶縁基板に積層された発熱体と、
少なくとも上記発熱体を覆うように、上記絶縁基板に積層された絶縁部材と、
上記絶縁部材が積層された上記絶縁基板に積層された第1及び第2の電極と、
上記第1及び第2の電極の間の電流経路上で該発熱体に電気的に接続された発熱体引出電極と、
上記発熱体引出電極から上記第1及び第2の電極にわたって積層され、加熱により、該第1の電極と該第2の電極との間の電流経路を溶断する可溶導体とを備え、
上記可溶導体は、少なくとも高融点金属層と低融点金属層とを含む積層体からなり、
上記高融点金属層は、表面に開口を有し、上記低融点金属層が露出しており、
上記低融点金属層は、上記発熱体が発する熱により溶融することで、上記高融点金属層を浸食しながら、上記低融点金属層の濡れ性が高い上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極側に引き寄せられて溶断されることを特徴とする保護素子。
【請求項3】
絶縁基板と、
上記絶縁基板に積層された発熱体と、
少なくとも上記発熱体を覆うように、上記絶縁基板に積層された絶縁部材と、
上記絶縁部材が積層された上記絶縁基板に積層された第1及び第2の電極と、
上記第1及び第2の電極の間の電流経路上で該発熱体に電気的に接続された発熱体引出電極と、
上記発熱体引出電極から上記第1及び第2の電極にわたって、上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間でまたいで上記絶縁基板と直接密着しないように積層され、加熱により、該第1の電極と該第2の電極との間の電流経路を溶断する可溶導体とを備え、
上記可溶導体は、上層を高融点金属層、下層を低融点金属層の2層構造をなし、
上記低融点金属層は、上記発熱体が発する熱により溶融することで、上記高融点金属層を浸食しながら、上記低融点金属層の濡れ性が高い上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極側に引き寄せられて溶断されることを特徴とする保護素子。
【請求項4】
上記高融点金属層はPb含有ハンダよりも高い熱伝導度であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の保護素子。
【請求項5】
上記可溶導体の両端において、上記第1及び第2の電極に接続される部分にハンダの溜まり部を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の保護素子。
【請求項6】
絶縁基板と、
上記絶縁基板に積層された発熱体と、
少なくとも上記発熱体を覆うように、上記絶縁基板に積層された絶縁部材と、
上記絶縁部材が積層された上記絶縁基板に積層された第1及び第2の電極と、
上記第1及び第2の電極の間の電流経路上で該発熱体に電気的に接続された発熱体引出電極と、
上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間でまたいで上記絶縁部材と直接密着しないように積層され、加熱により、該第1の電極と該第2の電極との間の電流経路を溶断する複数の可溶導体とを備え、
上記可溶導体は、少なくとも高融点金属層と低融点金属層とを含む積層体からなり、
上記低融点金属層は、上記発熱体が発する熱により溶融することで、上記高融点金属層を浸食しながら、上記低融点金属層の濡れ性が高い上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極側に引き寄せられて溶断されることを特徴とする保護素子。
【請求項7】
上記複数の可溶導体が積層された上記発熱体引出電極は、上記複数の可溶導体の可溶導体間に絶縁層が形成されている請求項6記載の保護素子。
【請求項8】
上記発熱体引出電極は、上記複数の可溶導体が積層されている部分の幅よりも上記複数の可溶導体の間の部分の幅が狭く形成されている請求項6記載の保護素子。
【請求項9】
絶縁基板と、
上記絶縁基板の内部に内蔵された発熱体と、
上記絶縁基板に積層された第1及び第2の電極と、
上記第1及び第2の電極の間の電流経路上で該発熱体に電気的に接続された発熱体引出電極と、
上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間でまたいで、該第1の電極と該第2の電極が高融点金属層と低融点金属層に挟まれないように積層され、発熱体の加熱により、該第1の電極と該第2の電極との間の電流経路を溶断する可溶導体とを備え、
上記可溶導体は、少なくとも上記高融点金属層と上記低融点金属層とを含む積層体からなり、
上記低融点金属層は、上記発熱体が発する熱により溶融することで、上記高融点金属層を浸食しながら、上記低融点金属層の濡れ性が高い上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極側に引き寄せられて溶断されることを特徴とする保護素子。
【請求項10】
絶縁基板と、
上記絶縁基板に積層された発熱体と、
上記絶縁基板の上記発熱体が積層された面の反対面に積層された第1及び第2の電極と、
上記第1及び第2の電極の間の電流経路上で該発熱体に電気的に接続された発熱体引出電極と、
上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間でまたいで上記絶縁基板と直接密着しないように、且つ、該第1の電極と該第2の電極が高融点金属層と低融点金属層に挟まれないように積層され、発熱体の加熱により、該第1の電極と該第2の電極との間の電流経路を溶断する可溶導体とを備え、
上記可溶導体は、少なくとも上記高融点金属層と上記低融点金属層とを含む積層体からなり、
上記低融点金属層は、上記発熱体が発する熱により溶融することで、上記高融点金属層を浸食しながら、上記低融点金属層の濡れ性が高い上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極側に引き寄せられて溶断されることを特徴とする保護素子。
【請求項11】
絶縁基板と、
上記絶縁基板に積層された発熱体と、
上記絶縁基板の上記発熱体が積層された同一面に積層された第1及び第2の電極と、
上記第1及び第2の電極の間の電流経路上で該発熱体に電気的に接続された発熱体引出電極と、
上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間でまたいで、該第1の電極と該第2の電極が高融点金属層と低融点金属層に挟まれないように積層され、発熱体の加熱により、該第1の電極と該第2の電極との間の電流経路を溶断する可溶導体とを備え、
上記可溶導体は、少なくとも上記高融点金属層と上記低融点金属層とを含む積層体からなり、
上記低融点金属層は、上記発熱体が発する熱により溶融することで、上記高融点金属層を浸食しながら、上記低融点金属層の濡れ性が高い上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極側に引き寄せられて溶断されることを特徴とする保護素子。
【請求項12】
絶縁基板と、
上記絶縁基板に積層された第1及び第2の電極と、
上記第1及び第2の電極の間の電流経路上に積層された発熱体引出電極と、
上記発熱体引出電極に電気的に接続する様に搭載された発熱素子と、
上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間でまたいで上記絶縁基板と直接密着しないように、且つ、該第1の電極と該第2の電極が高融点金属層と低融点金属層に挟まれないように積層され、上記発熱素子の加熱により、該第1の電極と該第2の電極との間の電流経路を溶断する可溶導体とを備え、
上記可溶導体は、少なくとも上記高融点金属層と上記低融点金属層とを含む積層体からなり、
上記低融点金属層は、上記発熱素子が発する熱により溶融することで、上記高融点金属層を浸食しながら、上記低融点金属層の濡れ性が高い上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極側に引き寄せられて溶断されることを特徴とする保護素子。
【請求項13】
上記低融点金属層は、Pbフリーハンダからなり、上記高融点金属層は、Ag若しくはCu又はAg若しくはCuを主成分とする金属からなることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の保護素子。
【請求項14】
上記高融点金属層の表面には、Au若しくはAuを主成分とする皮膜が形成されている請求項1〜13のいずれか1項に記載の保護素子。
【請求項15】
上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極に接続される位置において、上記可溶導体は、低融点金属にて接続されることを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載の保護素子。
【請求項16】
上記可溶導体は、内層が上記高融点金属層であり、外層が上記低融点金属層の被覆構造であることを特徴とする請求項1,2,6〜12のいずれか1項に記載の保護素子。
【請求項17】
上記低融点金属層は、少なくとも一部の上記高融点金属層を貫通するように形成されていることを特徴とする請求項16記載の保護素子。
【請求項18】
上記可溶導体は、内層が上記低融点金属層であり、外層が上記高融点金属層の被覆構造であることを特徴とする請求項1,2,6〜12のいずれか1項に記載の保護素子。
【請求項19】
上記可溶導体は、上層を上記低融点金属層、下層を上記高融点金属層とする2層積層体であることを特徴とする請求項1,2,6〜12のいずれか1項に記載の保護素子。
【請求項20】
上記可溶導体は、上記高融点金属層、上記低融点金属層を、交互に4層以上積層して形成されていることを特徴とする請求項1,2,6〜12のいずれか1項に記載の保護素子。
【請求項21】
上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極の表面に、Ni/Auメッキ処理が施されていることを特徴とする請求項1〜20のいずれか1項に記載の保護素子。
【請求項22】
上記発熱体と上記絶縁基板の間に絶縁部材層を設けることを特徴とする請求項1〜21のいずれか1項に記載の保護素子。
【請求項23】
絶縁基板と、
上記絶縁基板に積層された発熱体と、
少なくとも上記発熱体を覆うように、上記絶縁基板に積層された絶縁部材と、
上記絶縁部材が積層された上記絶縁基板に積層された第1及び第2の電極と、
上記第1及び第2の電極の間の電流経路上で該発熱体に電気的に接続された発熱体引出電極と、
上記発熱体引出電極と上記第1及び第2の電極との間でまたいで上記絶縁基板と直接密着しないように、且つ、該第1の電極と該第2の電極が高融点金属層と低融点金属層に挟まれないように積層され、加熱により、該第1の電極と該第2の電極との間の電流経路を溶断する可溶導体とを備え、
上記可溶導体は、上記高融点金属層からなる単層の可溶導体であり、上記第1の電極、上記第2の電極、及び上記発熱体引出電極上において、上層を該高融点金属層、下層を低融点金属からなる上記低融点金属層の2層構造をなし、
上記可溶導体は、上記低融点金属層が上記発熱体の発する熱により溶融することで上記高融点金属層を浸食しながら、上記高融点金属層が上記低融点金属層の濡れ性が高い上記第1及び第2の電極並びに上記発熱体引出電極側に引き寄せられて溶断されることを特徴とする保護素子。
【請求項24】
上記低融点金属層は、Pbフリーハンダからなり、上記高融点金属層は、A若しくはCu又はA若しくはCuを主成分とする金属からなり、
上記高融点金属層の体積よりも上記低融点金属層の体積の方が多いことを特徴とする請求項1〜12,14〜23のいずれか1項に記載の保護素子。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2022-04-27 
結審通知日 2022-05-06 
審決日 2022-05-20 
出願番号 P2013-008302
審決分類 P 1 123・ 537- ZDA (H01H)
P 1 123・ 113- ZDA (H01H)
P 1 123・ 121- ZDA (H01H)
最終処分 03   一部成立
特許庁審判長 平瀬 知明
特許庁審判官 平田 信勝
段 吉享
登録日 2017-12-01 
登録番号 6249602
発明の名称 保護素子  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 野口 信博  
代理人 穂谷野 聡  
代理人 穂谷野 聡  
代理人 野口 信博  
代理人 前川 純一  

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