ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03F |
---|---|
管理番号 | 1388763 |
総通号数 | 10 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-10-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2021-03-31 |
確定日 | 2022-09-16 |
事件の表示 | 特願2019−514026号「基板、基板ホルダ、及び基板コーティング装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年4月5日国際公開、WO2018/059836号、令和元年11月7日国内公表、特表2019−532336号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2017年(平成29年)8月23日(パリ条約による優先権主張 2016年9月27日 欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。 令和元年 5月 9日 :上申書、手続補正書の提出 令和2年 3月11日付け:拒絶理由通知書 令和2年 6月 9日 :意見書、手続補正書の提出 令和2年11月26日付け:拒絶査定 令和3年 3月31日 :審判請求書、手続補正書の提出 令和3年10月22日付け:拒絶理由通知書(以下、この拒絶理由通知書で通知した拒絶理由を「当審拒絶理由」という。) 令和4年 1月21日 :意見書、手続補正書(以下、この手続補正書により行った補正を「本件補正」という。)の提出 第2 本願発明 本願の請求項1ないし7に係る発明は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。(なお、当該請求項1は、本件補正では補正がなされていない。) 「装置の基板ホルダにクランプされるように構成された裏側を含むリソグラフィプロセス用の基板であって、前記裏側は、前記裏側の摩擦係数を低減させるように構成された単分子層が少なくとも部分的に設けられており、前記単分子層の分子は極性頭部及び非極性尾部を有し、前記極性頭部は前記基板の裏側に付着しており、前記基板の裏側が、その前記摩擦係数がクランプ力が閾値を超えた場合に前記単分子層が変位した結果として前記裏側と前記基板ホルダとの間に直接的な接触が生じることにより増大するように構成されている、基板。」 第3 当審拒絶理由の概要 当審拒絶理由は、概略、次の理由を含むものである。 理由(進歩性)この出願の請求項1ないし10に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の文献に記載された発明及び周知技術に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 引用文献1.特表2016−528551号公報 引用文献2.特開2012−33964号公報 周知文献1.特開2006−86113号公報 周知文献2.特開2009−191168号公報 周知文献3.特表2014−516416号公報 周知文献4.特開2006−247823号公報 第4 引用文献について 1 引用文献1について (1)引用文献1の記載事項 引用文献1には下記の記載がある。 ア 「【発明が解決しようとする課題】 【0003】 本書に記載された実施形態は、リソグラフィの歪みを低減するための方法及び装置に関する。」 イ 「【0006】 ウエハ裏側の状態は、イメージングスキャナもしくはカメラの上でチャッキングの際に生じる、最終的なウエハの歪みにおいて重要な役割を果たしている可能性がある。図1は、接触領域(contact areas)、例えばチャックピン100と、半導体基板104を受けるウエハステージ102とを示す。粒子106は、導体基板104の裏面に付着している。基板104の裏側表面とチャックピン100との間の相互作用は、どのように基板104がピン100の横切って(across)スリップするかを決定する。基板104の裏側が均一でないとき、例えば粒子106が存在する又は表面の凹凸が存在するとき、基板104は、各ピン100毎に異なるようにスリップする。それにより不均一な基板の歪みが生じる。不均一な基板の歪みは望ましくない。なぜなら、そのような歪みは不十分なオーバレイ性能をもたらす可能性があるからだ。」 ウ 「【0011】 ・・・基板の裏側は洗浄され得る。裏側がテクスチャ化されなかった基板と比較して、より小さく且つ均一な摩擦係数を達成する・・・。小さく且つ均一な摩擦係数は、チャッキングの際、より均一なウエハの歪みシグネチャをもたらす可能性があり、及び従って、後続のリソグラフィレベルのスタッキングの際、オーバーレイ性能を向上させる。 ・・・ 【0014】 ・・・基板裏側におけるケイ素基板・・・」 (2)以上(1)によれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。(なお、段落番号は参考までに記載した。) 「リソグラフィの歪みを低減するため(【0003】)、 半導体基板を受けるウエハステージ上において(【0006】)、 前記半導体基板裏側の状態を(【0006】)、摩擦係数が小さく且つ均一となして、より均一なウエハの歪みシグネチャをもたらして(【0011】)、前記半導体基板の裏側表面とチャックピンとの間の相互作用を決定する(【0006】)、 基板裏側がケイ素基板である半導体基板(【0006】)。」 2 周知文献について (1)周知文献1(特開2006−86113号公報) 「すなわち、特殊な装置を必要とせず、溶液に浸漬するだけで固体表面に有機分子の単分子膜(自己組織化膜)を形成して、摩擦係数を低減することにより、コネクタを低挿入力化することができる。また、自己組織化膜は上記溶液浸漬法以外にも、気相成膜法(例えば、チオール系有機物の蒸気雰囲気に相手方コネクタとの嵌合時に相手方コネクタの端子と摺動し合う摺動面を暴露する方法)によっても形成することができる。」(【0012】)との記載参照。 (2)周知文献2(特開2009−191168号公報) 「シリコン基板と直接結合した自己組織化膜を用いてシリコン基板の摩擦・摩耗の低減化を行う。」(【0003】)、及び、「本発明の摩擦摩耗低減方法に用いる潤滑膜は、図1の模式図に示すように一般式CH3-(CH2)n=CH2(n=12-18)で表わされる直鎖の1-アルケンの分子膜を有する自己組織化単分子膜(SAM(Self-Assembled Monolayer)であり、これで被覆されたシリコンは摩擦・摩耗特性が低減されるという特徴を有する。また、本発明は、水素終端シリコンを、図1に示すように一般式CH2-(CH2)n=CH2(n=12-18)(式中、nは12〜18の整数である。)で表わされる直鎖の1-アルケンのメシチレン溶液に130〜170℃で1〜5時間分浸漬することにより、自己組織化分子膜(SAM(Self-Assembled Monolayer)で被覆されたシリコンを作成することができる。」(【0007】)との記載参照。 (3)周知文献3(特表2014−516416号公報) 「低減された静摩擦を有する高信頼の電気機械システムデバイスを作製する方法を開示する。方法の実装形態では、基板の表面に誘電体層を有する基板が提供される。自己組織化単分子層(「SAM」)コーティングが、誘電体層上に形成される。」(【0017】)との記載参照。 第5 対比 1 本願発明と引用発明を対比する。 (1)引用発明の「ウエハステージ」、「ウエハステージ」が「半導体基板を受ける」こと、及び、「リソグラフィ」の「半導体基板」は、本願発明の「基板ホルダ」、「装置の基板ホルダにクランプされる」こと、及び、「リソグラフィプロセス用の基板」にそれぞれ相当する。 したがって、引用発明の「リソグラフィ」の「前記半導体基板裏側の状態を、摩擦係数が小さく且つ均一となして、より均一なウエハの歪みシグネチャをもたらして、前記半導体基板の裏側表面とチャックピンとの間の相互作用を決定する」「半導体基板」は、本願発明の「装置の基板ホルダにクランプされるように構成された裏側を含むリソグラフィプロセス用の基板」に相当する。 (2)引用発明の「前記半導体基板裏側の状態を、摩擦係数が小さく且つ均一となして、より均一なウエハの歪みシグネチャをもたらして、前記半導体基板の裏側表面とチャックピンとの間の相互作用を決定する」ことは、本願発明の「前記裏側は、前記裏側の摩擦係数を低減させるように構成された単分子層が少なくとも部分的に設けられて」いることと、「前記裏側は、前記裏側の摩擦係数を低減させる構成が少なくとも部分的に設けられて」いる点で一致する。 2 一致点及び相違点 上記1によれば、本願発明と引用発明とは、 「装置の基板ホルダにクランプされるように構成された裏側を含むリソグラフィプロセス用の基板であって、前記裏側は、前記裏側の摩擦係数を低減させる構成が少なくとも部分的に設けられている、基板。」 である点で一致し、下記各点で相違する。 (相違点1) 基板の裏側の摩擦係数を低減させる構成が、本願発明は、「分子は極性頭部及び非極性尾部を有し、前記極性頭部は前記基板の裏側に付着して」いる「単分子層」であるのに対して、引用発明は、具体的な構成が特定されない点。 (相違点2) 本願発明は、「前記基板の裏側が、その前記摩擦係数がクランプ力が閾値を超えた場合に前記単分子層が変位した結果として前記裏側と前記基板ホルダとの間に直接的な接触が生じることにより増大するように構成されている」のに対して、引用発明は、このように構成されているか明らかでない点。 第6 判断 1 相違点に対する判断 (1)相違点1について 2つの接触する面を低摩擦化したい場合、極性頭部及び非極性尾部を有する自己組織化単分子膜(SAM:Self-Assembled Monolayer)を一方の面に形成、結合あるいはコーティングすることは上記周知文献1ないし3に記載されているとおり周知の技術的手段である。 一方、引用発明も、「より均一なウエハの歪みシグネチャをもたら」すために、「半導体基板裏側の状態を、摩擦係数が小さく且つ均一となして」「前記半導体基板の裏側表面とチャックピンとの間の相互作用を決定する」ものであるから、上記周知技術を適用する動機があるといえる。 そして、引用発明の「半導体基板」は「基板裏側がケイ素基板である」ところ、ケイ素基板の表面に極性があることは技術常識であるから、基板裏側もケイ素基板である引用発明に上記周知技術を適用して、当該極性頭部及び非極性尾部を有する分子を自己組織化単分子膜に用いた場合は、当該ケイ素基板の裏側に自己組織化単分子膜の極性頭部が付着することは明らかである。 したがって、引用発明において、「前記半導体基板裏側の状態を、摩擦係数が小さく且つ均一となして、前記半導体基板の裏側表面とチャックピンとの間の相互作用を決定する」ために、当該極性を有する半導体基板の裏面表面に、周知の技術的手段である極性頭部及び非極性尾部を有する自己組織化単分子膜を適用して低摩擦化することにより、上記相違点1に係る本願発明の構成となすことは当業者が容易に想到し得たことである。 (2)相違点2について 本願発明において、「前記基板の裏側が、その前記摩擦係数がクランプ力が閾値を超えた場合に前記単分子層が変位した結果として前記裏側と前記基板ホルダとの間に直接的な接触が生じることにより増大するように構成されている」点に関して、「基板の裏側に」「前記裏側の摩擦係数を低減させるように構成された単分子層が少なくとも部分的に設けられており、前記単分子層の分子は極性頭部及び非極性尾部を有し、前記極性頭部は前記基板の裏側に付着して」いるとの構成については上記(1)で述べたとおりである。そして、このような構成とした場合に、クランプ力が大きくなれば単分子層が変位すること、また、それにより基板の裏側が基板ホルダと直接接触することになることは明らかである。 したがって、相違点2は何ら格別のものではない。 (3)本願発明が奏する効果について そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知の技術的手段の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 2 審判請求人の主張について (1)審判請求人は、令和4年1月21日付けの意見書の【意見の内容】「3 拒絶理由に対する意見」「(2)理由3」において、概略下記アないしエのとおり主張する。 ア 引用文献1に記載された発明は、基板裏側の摩擦係数を恒久的に小さくすることを目的としており、そのために、化学作用剤により基板の裏面と反応させて、基板の裏面を化学的に変化させることを開示しており、この化学作用剤の一例としてHMDS(ヘキサメチルジシラザン)を列挙しているにすぎない。 イ HMDS処理後の基板表面は、摩擦係数が恒久的に低いものとなり、クランプ力によって単分子層が変位するものではない。 引用文献1は、基板裏側の摩擦係数をクランプ力の有無により可逆的に変化させることを何ら開示も示唆もしておらず、また、単分子膜に関する記載もない。 ウ 引用文献1において化学作用剤として列挙されたものの1つ(HMDS)のみが単分子膜を形成し得るものとして知られているからといって、これをもって、引用文献1が基板裏側に単分子膜を形成することを開示ないし示唆しているとの審判官殿の認定は妥当ではない。 エ 引用文献1に記載された発明において、単分子膜に関する周知技術を適用して、クランプ力の有無により基板裏側の摩擦係数を可逆的に変化させるようにすることは、引用文献1に記載の発明の範囲を超えるものであり、引用文献1に記載の発明の目的に反するものといえる。 (2)請求人の主張についての検討 ア 上記(1)ア及びイの点について 上記第4、1(1)イのとおり、引用発明の認定においては、HMDS(ヘキサメチルジシラザン)を用いていることまでは認定していないから、HMDS(ヘキサメチルジシラザン)に基づく請求人の主張は採用できない(上記(1)アの点)。 また、閾値を超えたクランプ力による単分子層の変位によって基板の裏側が基板ホルダと直接接触することになることは上記1(2)で述べたとおりであり、また、当該クランプ力がなくなれば単分子層の変位が元に戻ることによって基板の裏側が基板ホルダと直接接触しなくなることは明らかである(上記(1)イの点)。 イ 上記(1)ウの点について 引用発明の認定においては、HMDS(ヘキサメチルジシラザン)を用いていることまでは認定していないから、HMDS(ヘキサメチルジシラザン)に基づく請求人の主張は採用できないことは、上記アで述べたとおりである。 引用発明の「前記半導体基板裏側の状態を、摩擦係数が小さく且つ均一となして、前記半導体基板の裏側表面とチャックピンとの間の相互作用を決定する」ために、極性頭部及び非極性尾部を有する自己組織化単分子膜を適用する点に格別の阻害要因は認められないことは上記1(1)で検討したとおりである。 ウ 上記(1)エについて 引用発明は、「リソグラフィの歪みを低減するため」、「前記半導体基板裏側の状態を、摩擦係数が小さく且つ均一となして、前記半導体基板の裏側表面とチャックピンとの間の相互作用を決定する」ことを目的とするものであるから、引用発明に、低摩擦化するための周知の技術的手段である極性頭部及び非極性尾部を有する自己組織化単分子膜を適用することは発明の目的に反するものではなく、引用文献1に記載の発明の範囲を超えるものであるとする請求人の主張は採用できない。 (3)以上のとおりであるから、審判請求人の主張は採用することはできない。 第7 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知の技術的手段に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 審判長 瀬川 勝久 出訴期間として在外者に対し90日を附加する。 |
審理終結日 | 2022-04-18 |
結審通知日 | 2022-04-19 |
審決日 | 2022-05-06 |
出願番号 | P2019-514026 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(G03F)
|
最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
瀬川 勝久 |
特許庁審判官 |
野村 伸雄 松川 直樹 |
発明の名称 | 基板、基板ホルダ、及び基板コーティング装置 |
代理人 | 大貫 敏史 |
代理人 | 稲葉 良幸 |
代理人 | 江口 昭彦 |
代理人 | 内藤 和彦 |