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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H02J
管理番号 1389140
総通号数 10 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-11-16 
確定日 2022-09-28 
事件の表示 特願2019−572127「工業プロセス用のフィールド機器及びフィールド機器の充電電力調節方法」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 1月 3日国際公開、WO2019/005264、令和 2年 8月27日国内公表、特表2020−526164、請求項の数(20)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2018年(平成30年)4月12日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2017年6月27日 米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和3年 1月 6日付け:拒絶理由通知書
令和3年 4月12日 :意見書、手続補正書の提出
平成3年 7月26日付け:拒絶査定(原査定)
令和3年11月16日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定(令和3年7月26日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

進歩性)本願請求項1〜20に係る発明は、以下の引用文献1に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1.特開2006−157865号公報

第3 本願発明
本願請求項1〜20に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」〜「本願発明20」という。)は、令和3年11月16日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1〜20に記載された事項により特定される発明であり、そのうち、本願発明1は以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
電力を受電し、2線プロセス制御ループを介してデータを伝達するように構成された機器回路と、
前記電力の未使用部分を電気グランドに分流するように構成されたシャント回路と、
電力が供給されるバルク供給装置と、
前記未使用部分の大きさの増加に伴い、前記バルク供給装置に提供される過剰部分が増加するよう調整することで、前記未使用部分の大きさに基づくとともに、充電速度を制御して前記バルク供給装置を充電するように構成された充電電力調節器と、
前記バルク供給装置により給電される補助回路と、
を備えることを特徴とする工業プロセス用のフィールド機器。」

また、本願発明2〜11は、本願発明1を減縮した発明であり、本願発明12は、本願発明1に対応する方法の発明であり、本願発明13〜20は、本願発明12を減縮した発明である。

第4 引用文献、引用発明等
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は強調のため当審にて付与。以下、同じ。)。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、プラントあるいは工場などに分散配置されている、圧力・差圧伝送器や、各種流量計、温度計、バルブポジショナなどのフィールド機器に関し、特に、無線手段により、フィールド機器の持つ診断情報などの付加情報を、フィールド機器を管理するシステムに伝送するフィールド機器および信号伝送方法の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、フィールド機器は、石油化学や、食薬品、上下水道、製鉄などの各種のプロセス配管現場などに設置され、配管の温度や、圧力、流量などの物理量を検出し、検出した信号を離れた場所に設置される制御機器に送信し、あるいは制御機器から送信された信号を受信して動作するものである。このようなフィールド機器としては、例えば、圧力・差圧伝送器、流量計、温度計、バルブポジショナなどが挙げられる。
この種のフィールド機器に関連するものがある(例えば、特許文献1から特許文献3参照)。」

「【0047】
以下に図6に基づいて本発明を詳細に説明する。図6は、本発明の第2の実施例を示す構成図である。図1の実施例と同一の要素には同一符号を付し、説明を省略する。
【0048】
図6の実施例の特徴は、充電回路41及び充電素子43に係る構成にある。また、図6の実施例は、バルブポジショナ(フィールド機器)40であり、接続点Aと接続点Bとは4−20mAの信号(アナログ信号)を入力する信号線(図示せず)に接続される。
【0049】
シャントレギュレータ(電源電圧生成手段)31の一端は接続点Aに接続され、電流検出抵抗32の一端は接続点Bに接続される。また、シャントレギュレータ31の他端と電流検出抵抗32の他端とは接続点Eで接続される。そして、接続点Eをフィールド機器40の共通電位とする。また、シャントレギュレータ31は、接続点Aに流入される4−20mAの入力電流から、アナログ/ディジタル変換器33、信号処理部34、ディジタル/アナログ変換器35等の4−20mAの信号処理に係る内部回路の電源電圧を生成する。
【0050】
また、アナログ/ディジタル変換器(ADC)33は、接続点Aと接続点Eとに接続され、電力が供給される。さらにまた、アナログ/ディジタル変換器33には、接続点Bの信号と外部センサ入力からの信号Cと信号Lと信号Mとが入力される。
【0051】
さらに、信号処理部34は、接続点Aと接続点Eとに接続され、電力が供給される。また、信号処理部34には、アナログ/ディジタル変換器33の出力の信号Fが入力され、さらに、信号PWFLが入力され、信号COMMが入出力される。そして、信号処理部34はマイクロプロセッサ(図示せず)及びメモリ(図示せず)等で形成される。さらに、そのメモリにはプログラム及びデータが格納されている。
【0052】
さらにまた、信号処理部34は、信号線の電流値と内部回路の消費電流値の相関を算出する充電制御手段の機能を有する。そして、信号処理部34には、信号CTRL、信号PWFL、信号WKUP、信号COMMが入力及び出力される。
【0053】
また、ディジタル/アナログ変換器(DAC)35は、接続点Aと接続点Eとに接続され、電力が供給される。さらにまた、ディジタル/アナログ変換器35には、信号処理部34の出力の信号Gが入力される。
【0054】
さらに、IPモジュール36にはディジタル/アナログ変換器35の出力の信号Hが入力され、コントロールリレー37にはIPモジュール36の出力が入力される。そして、IPモジュール36は電気信号を空気圧信号に変換する。さらにまた、コントロールリレー37はこの空気圧信号を増幅してバルブ20に対して圧力を出力する。
【0055】
また、圧力センサ38とバルブ20とには、コントロールリレー37の出力の圧力信号Jが入力される。さらにまた、圧力センサ38は信号Lを出力する。
【0056】
さらに、ポジションセンサ39にはバルブ20からの位置信号Kが機械的、あるいは磁気的手段等により入力される。さらにまた、ポジションセンサ39は信号Mを出力する。
【0057】
また、充電回路41は、接続点Aと接続点Eとに接続され、さらに接続点Dに接続される。さらにまた、充電回路41には信号処理部34の出力の信号CTRLが入力される。そして、充電回路41は、接続点Aに流れ込む電流(信号線の電流)の一部から接続点Dのための電流あるいは電圧を生成し、後段の蓄電デバイス43を充電する。
【0058】
さらに、電圧低下検出回路(充電状態検出手段)42は、接続点Dと接続点Eとに接続される。さらにまた、電圧低下検出回路42は電圧監視信号PWFLを信号処理部34に出力し、蓄電デバイス43の充電及び放電の程度を信号処理部34に通知する。
【0059】
また、蓄電デバイス43は、接続点Dと接続点Eとに接続される。即ち、充電回路41と蓄電デバイス43とは、直列接続回路を形成する。そして、蓄電デバイス43は、例えば、充電池または大容量コンデンサで形成される。さらにまた、蓄電デバイス43は、充電回路41によって充電される。
【0060】
さらに、無線信号送受信部44は、接続点Dと接続点Eとに接続され、電力が供給される。また、無線信号送受信部44には、信号処理部34の出力の信号WKUPが入力され、信号COMMが入出力される。そして、無線信号送受信部44は信号WKUPにより活性化・非活性化し、無線信号送受信部44と信号処理部34とは信号COMMにより例えば調歩同期式のシリアル通信を行う。
【0061】
このような図6の実施例の動作を説明する。
【0062】
バルブポジショナ40は、入力電流として4−20mAを受け取り、シャントレギュレータ31により内部回路のための電源電圧を生成する。入力電流は、電流検出抵抗32でアナログ電圧信号に変換され、アナログ/ディジタル変換器33でディジタル値に変換される。また、ポジションセンサ39の信号も、アナログ/ディジタル変換器33でディジタル値に変換される。
【0063】
そして、信号処理部34は、入力電流の信号とポジションセンサから信号に基づき、例えばPID制御演算を実行し、入力電流に応じたバルブポジションになるように、ディジタル/アナログ変換器35を介して、IPモジュール36を制御する。IPモジュール36は電気信号を空気圧信号に変換し、コントロールリレー37はこの空気圧信号を増幅してバルブ20を制御する。
【0064】
このようにして、バルブポジショナ40はバルブ20を制御する。
【0065】
なお、図6の実施例は、この他に、バルブ20の圧力をモニタするもしくは、バルブ20の診断または外部環境の診断等を行うこともある。さらに、また、図6の実施例は、4−20mAを介したハイブリッド通信(例えば、HART通信協会で規格化されているHART通信のための変調、復調)を行うこともある。
【0066】
また、図6の実施例の信号処理部34は、例えば、4−20mAの入力電流の値に基づいて、信号CTRLをパルス幅変調し、充電回路41が生成する電圧及び電流を制御する。
【0067】
詳しくは、信号処理部34は、4−20mAの入力電流(信号線の電流値)から、アナログ/ディジタル変換器33、信号処理部34、ディジタル/アナログ変換器35その他の内部回路の消費電流値を差し引いた余剰電流が、充電回路41に流れるように制御する。」

「【0073】
このようにして、図6の実施例は、効率的に蓄電デバイス43を充電する。即ち、図6の実施例は、余剰電流を無駄なく蓄電デバイス43を充電する。また、図6の実施例は、効率的に無線信号送受信部44を活性化する。よって、図6の実施例は、高効率・小形・低コストとなる。また、図6の実施例は、市場で容易に入手可能な電子部品等で簡便に形成できる。さらに、図6の実施例は、外部のホストシステムまたはアセット管理システム等との通信を好適に行うことができる。
【0074】
また、余剰電流から蓄電デバイス43に充電する充電電流を、入力電流に応じて最適化することで、無線信号送受信部44を安定的に動作させることができる。さらにまた、蓄電デバイス43の充電電圧が十分であることを検知し、無線信号送受信部44を間欠的に活性化してデータの送受信を行うことで、無線の送受信を信頼性高く行うことができる。
【0075】
さらに、図6の実施例は、4−20mAをそのまま生かしているので、既存のDCSがそのまま継続して使用できる。また、制御ループは無線でなく4−20mAを使うので、制御安定性、信頼性は確保される。さらに、4−20mAループの余剰電流を利用しており、それを蓄電して送信あるいは受信するので、電池交換及び外部電源入力が不要である。また、無線では、主に診断に必要なデータを送信し、アセット管理システムでデータを扱うようにすると、メンテナンスコスト削減が期待出来る。」

「【図6】



したがって、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、後の参照の便宜のため、引用発明をA〜Sに分説した。

A バルブポジショナ(フィールド機器)40であって(【0048】)、
B 接続点Aと接続点Bとは4−20mAの信号(アナログ信号)を入力する信号線に接続され(【0048】)、
C シャントレギュレータ(電源電圧生成手段)31の一端は接続点Aに接続され、電流検出抵抗32の一端は接続点Bに接続され、シャントレギュレータ31の他端と電流検出抵抗32の他端とは接続点Eで接続され、接続点Eをフィールド機器40の共通電位とし、シャントレギュレータ31は、接続点Aに流入される4−20mAの入力電流から、アナログ/ディジタル変換器33、信号処理部34、ディジタル/アナログ変換器35等の4−20mAの信号処理に係る内部回路の電源電圧を生成し(【0049】)、
D アナログ/ディジタル変換器(ADC)33は、接続点Aと接続点Eとに接続され、電力が供給され、アナログ/ディジタル変換器33には、接続点Bの信号と外部センサ入力からの信号Cと信号Lと信号Mとが入力され(【0050】)、
E 信号処理部34は、接続点Aと接続点Eとに接続され、電力が供給され、信号処理部34には、アナログ/ディジタル変換器33の出力の信号Fが入力され、さらに、信号PWFLが入力され、信号COMMが入出力され(【0051】)、
F 信号処理部34は、信号線の電流値と内部回路の消費電流値の相関を算出する充電制御手段の機能を有し(【0052】)、
G ディジタル/アナログ変換器(DAC)35は、接続点Aと接続点Eとに接続され、電力が供給され、ディジタル/アナログ変換器35には、信号処理部34の出力の信号Gが入力され(【0053】)、
H IPモジュール36にはディジタル/アナログ変換器35の出力の信号Hが入力され、コントロールリレー37にはIPモジュール36の出力が入力され、IPモジュール36は電気信号を空気圧信号に変換し、コントロールリレー37はこの空気圧信号を増幅してバルブ20に対して圧力を出力し(【0054】)、
I 圧力センサ38とバルブ20とには、コントロールリレー37の出力の圧力信号Jが入力され、圧力センサ38は信号Lを出力し(【0055】)
J ポジションセンサ39にはバルブ20からの位置信号Kが機械的、あるいは磁気的手段等により入力され、ポジションセンサ39は信号Mを出力し(【0056】)、
K 充電回路41は、接続点Aと接続点Eとに接続され、さらに接続点Dに接続され、充電回路41には信号処理部34の出力の信号CTRLが入力され、充電回路41は、接続点Aに流れ込む電流(信号線の電流)の一部から接続点Dのための電流あるいは電圧を生成し、後段の蓄電デバイス43を充電し(【0057】)、
L 蓄電デバイス43は、接続点Dと接続点Eとに接続され、充電回路41と蓄電デバイス43とは、直列接続回路を形成し、蓄電デバイス43は、充電池または大容量コンデンサで形成され、蓄電デバイス43は、充電回路41によって充電され(【0059】)、
M 無線信号送受信部44は、接続点Dと接続点Eとに接続され、電力が供給され(【0060】)、
N バルブポジショナ40は、入力電流として4−20mAを受け取り、シャントレギュレータ31により内部回路のための電源電圧を生成し、入力電流は、電流検出抵抗32でアナログ電圧信号に変換され、アナログ/ディジタル変換器33でディジタル値に変換され(【0062】)、
O 信号処理部34は、入力電流の信号とポジションセンサから信号に基づき、PID制御演算を実行し、入力電流に応じたバルブポジションになるように、ディジタル/アナログ変換器35を介して、IPモジュール36を制御し(【0063】)、
P 信号処理部34は、4−20mAの入力電流(信号線の電流値)から、アナログ/ディジタル変換器33、信号処理部34、ディジタル/アナログ変換器35その他の内部回路の消費電流値を差し引いた余剰電流が、充電回路41に流れるように制御し(【0067】)、
Q 余剰電流から蓄電デバイス43に充電する充電電流を、入力電流に応じて最適化することで、無線信号送受信部44を安定的に動作させ、蓄電デバイス43の充電電圧が十分であることを検知し、無線信号送受信部44を間欠的に活性化してデータの送受信を行い(【0074】)、
R 制御ループは無線でなく4−20mAを使い、4−20mAループの余剰電流を利用して、それを蓄電して送信あるいは受信する(【0075】)
S バルブポジショナ(フィールド機器)40。

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

ア 「電力を受電し、2線プロセス制御ループを介してデータを伝達するように構成された機器回路と、」について

(ア)引用発明の「4−20mAの信号(アナログ信号)を入力する信号線」(分説B)は、「バルブポジショナ(フィールド機器)40」の「接続点Aと接続点B」(分説B)の2つの接続点に接続される「4−20mAループ」(分説R)であるから、2線式ループである。
また、引用発明の「バブルポジショナ(フィールド機器)40」は、プロセス制御を行う機器であるから、「4−20mAの信号(アナログ信号)を入力する信号線」は、「プロセス制御」のためのものといえる。
したがって、引用発明の「4−20mAの信号(アナログ信号)を入力する信号線」は、本願発明1の「2線プロセス制御ループ」に相当する。

(イ)引用発明の「アナログ/ディジタル変換器33、信号処理部34、ディジタル/アナログ変換器35等の4−20mAの信号処理に係る内部回路」(分説C。以下、単に「内部回路」という。)は、「シャントレギュレータ31」が「4−20mA」の「入力電流」から「生成し」た「電源電圧」(分説C)を電源とするものである。
そして、「4−20mA」は、「4−20mAの信号(アナログ信号)を入力する信号線」から入力されるから、「内部回路」は「4−20mAの信号(アナログ信号)を入力する信号線」を介して電力を受電しているといえる。

(ウ)引用発明では、「入力電流に応じたバルブポジションになるように」、「IPモジュール36」が制御される(分説O)から、「4−20mA」の「入力電流」は「バブルポジション」を示すデータといえる。また、この「4−20mA」の「4−20mAの信号(アナログ信号)を入力する信号線」を介した「バルブポジショナ(フィールド機器)40」への入力は、「4−20mAの信号(アナログ信号)を入力する信号線」を介したデータの伝達といえる。
そして、「内部回路」は、入力された「4−20mA」の「信号処理に係る」回路であるから、「内部回路」は、「4−20mAの信号(アナログ信号)を入力する信号線」を介してデータを伝達するように構成された回路といえる。

(エ)本願発明1の「機器回路」は、明細書に「典型的なフィールド機器は、1つ以上のセンサを用いたプロセスパラメータのモニタリングと測定、および/または1つ以上の制御要素を用いたプロセス制御動作等、フィールド機器が従来のタスクを行うことを可能にする機器回路を含む。」(【0003】)との記載があるように、「フィールド機器が従来のタスクを行うことを可能にする」回路である。
そして、引用発明の「内部回路」は、上記(ウ)のとおり、入力された「4−20mA」の「信号処理に係る」回路であり、「4−20mA」の「信号処理」は、「バルブポジショナ(フィールド機器)40」が本来(従来)のバブルポジション制御を行うための処理である。そうすると、「内部回路」は、「バルブポジショナ(フィールド機器)40」が「従来のタスクを行うことを可能にする」回路であるから、本願発明1の「機器回路」に相当する。

(オ)前記(ア)〜(エ)によれば、本願発明1と引用発明とは、「電力を受電し、2線プロセス制御ループを介してデータを伝達するように構成された機器回路」を備える点で共通する。

イ 「前記電力の未使用部分を電気グランドに分流するように構成されたシャント回路と、」について

引用発明の「シャントレギュレータ(電源電圧生成手段)31」は、前記ア(イ)のとおり、「4−20mAの入力電流」から「内部回路」の「電源電圧」を生成するから、「内部回路」の「電力」のために構成された「回路」といえる。
したがって、引用発明の「シャントレギュレータ(電源電圧生成手段)31」と、本願発明1の「前記電力の未使用部分を電気グランドに分流するように構成されたシャント回路」とは、「前記電力のために構成されたシャント回路」である点で共通する。

ウ 「電力が供給されるバルク供給装置と、」について

引用発明の「蓄電デバイス43」は、「充電回路41」が「接続点Aに流れ込む電流(信号線の電流)の一部から」「生成し」た「接続点Dのための電流あるいは電圧」により「充電」される(分説K)から、「接続点Dのための電流あるいは電圧」によって充電される「電力」が「蓄電デバイス43」に供給されているといえる。
引用発明の「蓄電デバイス43」は、「充電池」または「大容量コンデンサ」で形成された(分説L)ものである。
一方、本願発明1の「バルク供給装置」は、明細書に「いくつかの実施形態において、バルク供給装置122は、充電電流Icにより充電されるバルクキャパシタ160(たとえば、68μF)を含む。あるいは、バルク供給装置122は、充電電流Icにより充電される充電式バッテリを備えてもよい。」(【0037】)との記載があるように、「バルクキャパシタ」あるいは「充電式バッテリ」を備えたものである。
したがって、引用発明の「蓄電デバイス43」は、本願発明1の「バルク供給装置」に相当し、本願発明1と引用発明とは、「電力が供給されるバルク供給装置」を備える点で共通する。

エ 「前記未使用部分の大きさの増加に伴い、前記バルク供給装置に提供される過剰部分が増加するよう調整することで、前記未使用部分の大きさに基づくとともに、充電速度を制御して前記バルク供給装置を充電するように構成された充電電力調節器と、」について

(ア)引用発明は、「余剰電流から蓄電デバイス43に充電する充電電流を、入力電流に応じて最適化する」(分説Q)ものである。
そして、引用発明の「信号処理部34」は、「信号線の電流値と内部回路の消費電流値の相関を算出する充電制御手段の機能を有し」(分説F)、「4−20mAの入力電流(信号線の電流値)から、アナログ/ディジタル変換器33、信号処理部34、ディジタル/アナログ変換器35その他の内部回路の消費電流値を差し引いた余剰電流が、充電回路41に流れるように制御」(分説P)し、「充電回路41」は、「信号処理部34の出力の信号CTRLが入力され」(分説K)、「接続点Aに流れ込む電流(信号線の電流)の一部」(分説K)、すなわち、上記「余剰電流」から「接続点Dのための電流あるいは電圧を生成し、後段の蓄電デバイス43を充電」(分説K)する。
そうすると、「信号処理部34」と「充電回路41」は、「充電電流を、入力電流に応じて最適化する」ために、「入力電流」の変化に応じて「充電電流」を増減し、それにより「蓄電デバイス43」に充電される「電力」を調整しているといえる。
また、「充電電流」の増減に応じて「充電速度」が変化することは技術常識であるから、「信号処理部34」と「充電回路41」は、「充電速度」を制御して「充電デバイス43」を充電しているといえる。

(イ)本願発明1の「バルク供給装置に提供される過剰部分」は、「バルク供給装置」に供給される「電力」であるから、引用発明における「充電電流」により「蓄電デバイス43」に充電される「電力」と、本願発明1の「バルク供給装置に提供される過剰部分」とは、「前記バルク供給装置に供給される電力」である点で共通する。

(ウ)前記(ア)及び(イ)によれば、引用発明の「信号処理部34」及び「充電回路41」と、本願発明1の「前記未使用部分の大きさの増加に伴い、前記バルク供給装置に提供される過剰部分が増加するよう調整することで、前記未使用部分の大きさに基づくとともに、充電速度を制御して前記バルク供給装置を充電するように構成された充電電力調節器」とは、「前記バルク供給装置に提供される電力を調整することで、充電速度を制御して前記バルク供給装置を充電するように構成された充電電力調整器」である点で共通する。

オ 「前記バルク供給装置により給電される補助回路と、」について

(ア)引用発明の「無線信号送受信部44」は、「間欠的に活性化」されて「データの送受信を行」う(分説Q)ものであり、「制御ループ」には「無線でなく4−20mA」が使われる(分説R)から、「無線信号送受信部44」による無線の「データの送受信」は、「制御ループ」に対する補助的な位置づけであることは明らかである。
したがって、引用発明の「無線信号送受信部44」は、本願発明1の「補助回路」に相当する。

(イ)引用発明の「無線信号送受信部44」は、「蓄電デバイス43」と同じく「接続点Dと接続点Eとに接続され」(分説L、分説M)、「蓄電デバイス43の充電電圧が十分であること」が「検知」され、「間欠的に活性化」される(分説Q)から、「無線信号送受信部44」が「蓄電デバイス43」により給電されることは明らかである。

(ウ)前記(ア)及び(イ)によれば、本願発明1と引用発明とは、「前記バルク供給装置により給電される補助回路」を備える点で共通する。

カ 「工業プロセス用のフィールド機器」について

引用発明の「バルブポジショナ(フィールド機器)40」(分説S)は、プラント等に設置され、プロセス制御に用いられるものであることは明らかであるから、後述する相違点を除き、本願発明1の「工業プロセス用のフィールド機器」に相当する。

キ 前記ア〜カによれば、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
電力を受電し、2線プロセス制御ループを介してデータを伝達するように構成された機器回路と、
前記電力のために構成されたシャント回路と、
電力が供給されるバルク供給装置と、
前記バルク供給装置に提供される電力を調整することで、充電速度を制御して前記バルク供給装置を充電するように構成された充電電力調整器と、
前記バルク供給装置により給電される補助回路と、
を備えることを特徴とする工業プロセス用のフィールド機器。

(相違点)
(相違点1)
シャント回路について、本願発明1のものは、「電力の未使用部分を電気グランドに分流する」のに対し、引用発明のものは、「4−20mA」の「入力電流」から「内部回路」の「電源電圧」を生成する「シャントレギュレータ」であって、電力の未使用部分を電気グラウンドに分流するか不明である点。

(相違点2)
前記相違点1に付随して、バルク供給装置の充電について、本願発明1では、電力の「未使用部分の大きさの増加に伴い」、「バルク供給装置に提供される過剰部分が増加するように調整」する、「前記未使用部分の大きさに基づく」充電であるのに対し、引用発明では、「4−20mA」の「入力電流」から「内部回路の消費電流値を差し引いた余剰電流」が「充電回路41」に流れるように制御して、「余剰電流から蓄電デバイス43に充電する充電電流」を「入力電流に応じて最適化」した充電である点。

(2)相違点についての判断
相違点1、2についてまとめて検討する。
引用発明では、信号処理部43が、4−20mAの入力電流から内部回路(アナログ/ディジタル変換器33、信号処理部34、ディジタル/アナログ変換器35等の4−20mAの信号処理に係る内部回路)の消費電流値を差し引いた余剰電流が充電回路41に流れるように制御しているため、4−20mAの入力電流は、内部回路と充電回路41とに分流されることになる。
そのため、引用発明では、内部回路にも充電回路41にも流れない入力電流の余り、すなわち「電力の未使用部分」は生じ得ないといえる。
そして、仮に、引用発明において、「電力の未使用部分」が生じるようにしようとすると、充電回路41に流れる余剰電流を減らすこととなるが、その場合、「余剰電流から蓄電デバイス43に充電する充電電流」が「入力電流に応じて最適化」したものでなくなるため、「電力の未使用部分」を生じるようにすることには阻害事由があるといえる。
したがって、引用発明に相違点1及び2に係る構成を備えるようにすることは、当業者が容易になし得たものではない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本願発明1は、当業者であっても引用発明に基いて容易に発明できたものではない。

2.本願発明2〜11について
本願発明2〜11も、本願発明1と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても引用発明に基いて容易に発明できたものではない。

3.本願発明12について
本願発明12は、本願発明1に対応する方法の発明であり、本願発明1の「前記電力の未使用部分を電気グランドに分流するように構成されたシャント回路と、」及び「前記未使用部分の大きさの増加に伴い、前記バルク供給装置に提供される過剰部分が増加するよう調整することで、前記未使用部分の大きさに基づくとともに、充電速度を制御して前記バルク供給装置を充電するように構成された充電電力調節器と、」と対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても引用発明に基いて容易に発明できたものではない。

4.本願発明13〜20について
本願発明13〜20も、本願発明12と同一の構成を備えるものであるから、本願発明12と同じ理由により、当業者であっても引用発明に基いて容易に発明できたものではない。

第6 原査定について
上記「第5 対比・判断」で示したとおり、本願発明1〜20は、原査定において引用された引用文献1に基いて、当業者が容易に発明できたものとはいえないから、原査定の理由を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2022-09-15 
出願番号 P2019-572127
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H02J)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 角田 慎治
特許庁審判官 寺谷 大亮
衣鳩 文彦
発明の名称 工業プロセス用のフィールド機器及びフィールド機器の充電電力調節方法  
代理人 阪本 清孝  
代理人 田邉 壽二  

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