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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C22B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C22B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C22B
管理番号 1389359
総通号数 10 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-10-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-10-12 
確定日 2022-07-08 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6680369号発明「焼結鉱の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6680369号の特許請求の範囲を、令和 4年 3月17日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜2〕、〔3〜4〕について訂正することを認める。 特許第6680369号の請求項1〜4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6680369号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜4に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、2018年(平成30年) 2月 9日(優先権主張 平成29年 2月16日、日本国)を国際出願日とする特願2018−568489号であって、令和 2年 3月24日にその特許権の設定登録がなされ、同年 4月15日にその特許掲載公報が発行されたものであり、本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和 2年10月12日差出 : 特許異議申立人真壁恵一郎(以下、「申
立人」という。)による請求項1〜4(
全請求項)に係る特許に対する特許異議
の申立て
令和 3年 2月15日付 : 取消理由通知
同年 4月16日差出 : 特許権者による意見書の提出
同年 6月 7日付 : 取消理由(決定の予告)通知
同年 8月12日差出 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の
提出
同年 9月28日差出 : 特許権者による手続補正書の提出
令和 4年 1月13日付 : 取消理由(決定の予告)通知
同年 3月17日差出 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の
提出
同年 5月10日差出 : 申立人による意見書の提出

なお、令和 3年9月28日差出の手続補正書により補正された同年 8月12日差出の訂正請求書による訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げたものとみなす。

第2 令和 4年 3月17日提出の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)について
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。
なお、下線は当審が付したものであり、「・・・」は記載の省略を表すものである。以下同じ。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記鉄含有原料、前記焼結原料および造粒された焼結原料のうち少なくとも1つの成分濃度を、」と記載されているのを、「前記焼結原料の成分濃度を、」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「前記CaO含有原料の配合量、前記凝結材の配合量および前記焼結機のパレット台車の進行速度のうち少なくとも1つの調整を行う調整工程と、」と記載されているのを、「前記凝結材の配合量の調整を行う調整工程と、」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「トータルCaO、SiO2、MgO、Al2O3、FeOおよびCの1種以上の成分濃度を測定する、」と記載されているのを、「Cの成分濃度を測定する、」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2に「前記調整工程では、前記測定工程で測定された成分濃度を用いて、前記CaO含有原料の配合量、前記MgO含有原料の配合量、前記凝結材の配合量および前記焼結機のパレット台車の進行速度のうち少なくとも1つの調整を行う、」と記載されているのを、「前記測定工程では、Cの成分濃度に加えてMgOの成分濃度を測定し、前記調整工程では、前記凝結材の配合量の調整に加えて、前記測定工程で測定されたMgOの成分濃度を用いて、前記MgO含有原料の配合量の調整を行う、」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項3に「前記鉄含有原料、前記焼結原料および造粒された焼結原料のうち少なくとも1つの成分濃度を、」と記載されているのを、「前記焼結原料の成分濃度を、」に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項3に「前記CaO含有原料の配合量、前記凝結材の配合量、前記焼結機のパレット台車の進行速度、前記気体燃料の供給量および前記酸素の供給量のうち少なくとも1つの調整を行う調整工程と、」と記載されているのを、「前記凝結材の配合量の調整を行う調整工程と、」に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項3に「トータルCaO、SiO2、MgO、Al2O3、FeOおよびCの1種以上の成分濃度を測定する、」と記載されているのを、「Cの成分濃度を測定する、」に訂正する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項4に「前記調整工程では、前記測定工程で測定された成分濃度を用いて、前記CaO含有原料の配合量、前記MgO含有原料の配合量、前記凝結材の配合量、前記焼結機のパレット台車の進行速度、前記気体燃料の供給量および前記酸素の供給量のうち少なくとも1つの調整を行う、」と記載されているのを、「前記測定工程では、Cの成分濃度に加えてMgOの成分濃度を測定し、前記調整工程では、前記凝結材の配合量の調整に加えて、前記測定工程で測定されたMgOの成分濃度を用いて、前記MgO含有原料の配合量の調整を行う、」に訂正する。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1、5
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1、5に係る請求項1、3についての訂正は、訂正前の請求項1、3に「前記鉄含有原料、前記焼結原料および造粒された焼結原料のうち少なくとも1つの成分濃度」と記載されていた複数の選択肢を、「前記焼結原料の成分濃度」に減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

イ 新規事項の有無
本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)の段落【0053】に「発明例2では、搬送コンベア30に設けた赤外線分析計32を用いて焼結原料の炭素濃度を連続測定し、測定された炭素濃度を用いて、焼結原料の炭素濃度が目標とする濃度になるように凝結材18の配合量を調整しながら成品焼結鉱を36時間製造した。・・・」と記載されているから、訂正事項1、5に係る請求項1、3についての訂正は、本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1、5に係る請求項1、3についての訂正は、「前記鉄含有原料、前記焼結原料および造粒された焼結原料のうち少なくとも1つの成分濃度」と記載されていた複数の選択肢を、「前記焼結原料の成分濃度」に限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(2)訂正事項2
ア 訂正の目的の適否
訂正事項2に係る請求項1についての訂正は、訂正前の請求項1に「前記CaO含有原料の配合量、前記凝結材の配合量および前記焼結機のパレット台車の進行速度のうち少なくとも1つの調整を行う調整工程と、」と記載されていた複数の選択肢を、「前記凝結材の配合量の調整を行う調整工程と、」に減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

イ 新規事項の有無
本件明細書の段落【0053】に「発明例2では、・・・測定された炭素濃度を用いて、焼結原料の炭素濃度が目標とする濃度になるように凝結材18の配合量を調整しながら成品焼結鉱を36時間製造した。・・・」と記載されているから、訂正事項2に係る請求項1についての訂正は、本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2に係る請求項1についての訂正は、「前記CaO含有原料の配合量、前記凝結材の配合量および前記焼結機のパレット台車の進行速度のうち少なくとも1つの調整を行う調整工程と、」と記載されていた複数の選択肢を、「前記凝結材の配合量の調整を行う調整工程と、」に限定するものであるから、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(3)訂正事項3、7
ア 訂正の目的の適否
訂正事項3、7に係る請求項1、3についての訂正は、訂正前の請求項1、3に「トータルCaO、SiO2、MgO、Al2O3、FeOおよびCの1種以上の成分濃度を測定する、」と記載されていた複数の選択肢を、「Cの成分濃度を測定する、」に減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

イ 新規事項の有無
本件明細書の段落【0053】に「発明例2では、搬送コンベア30に設けた赤外線分析計32を用いて焼結原料の炭素濃度を連続測定し、測定された炭素濃度を用いて、焼結原料の炭素濃度が目標とする濃度になるように凝結材18の配合量を調整しながら成品焼結鉱を36時間製造した。・・・」と記載されているから、訂正事項3、7に係る請求項1、3についての訂正は、本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3、7に係る請求項1、3についての訂正は、「トータルCaO、SiO2、MgO、Al2O3、FeOおよびCの1種以上の成分濃度を測定する、」と記載されていた複数の選択肢を、「Cの成分濃度を測定する、」に限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(4)訂正事項4
ア 訂正の目的の適否
訂正事項4に係る請求項2についての訂正は、訂正前の請求項2に「前記調整工程では、前記測定工程で測定された成分濃度を用いて、前記CaO含有原料の配合量、前記MgO含有原料の配合量、前記凝結材の配合量および前記焼結機のパレット台車の進行速度のうち少なくとも1つの調整を行う、」と記載されていた、調整工程時に用いる成分濃度及び調整対象の複数の選択肢を、それぞれ、「MgOの成分濃度」及び「前記MgO含有原料の配合量」に減縮し、そして、これらと整合するように、「前記測定工程では、Cの成分濃度に加えてMgOの成分濃度を測定し、」及び「前記調整工程では、前記凝結材の配合量の調整に加えて、前記測定工程で測定されたMgOの成分濃度を用いて、前記MgO含有原料の配合量の調整を行う、」と、測定工程及び調整工程における対象を特定する構成を追加するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

イ 新規事項の有無
本件明細書の段落【0014】に、
「このような課題を解決する本発明の特徴は、以下の通りである。
(1)少なくとも鉄含有原料、CaO含有原料および凝結材を配合した焼結原料を造粒し、焼結機で焼結して焼結鉱を製造する焼結鉱の製造方法であって、前記鉄含有原料、前記焼結原料および造粒された焼結原料のうち少なくとも1つの成分濃度を連続測定する測定工程と、前記測定工程で測定された成分濃度を用いて、前記CaO含有原料の配合量、前記凝結材の配合量、水の添加量および焼結機のパレット台車の進行速度のうち少なくとも1つの調整を行う調整工程と、を有する、焼結鉱の製造方法。
(2)前記焼結原料には、さらにMgO含有原料が配合され、前記調整工程では、前記測定工程で測定された成分濃度を用いて、前記CaO含有原料の配合量、前記MgO含有原料の配合量、前記凝結材の配合量、前記水の添加量および焼結機のパレット台車の進行速度のうち少なくとも1つの調整を行う、(1)に記載の焼結鉱の製造方法。
(3)少なくとも鉄含有原料、CaO含有原料および凝結材を配合した焼結原料を造粒し、焼結機で気体燃料および酸素を供給しながら前記焼結原料を焼結して焼結鉱を製造する焼結鉱の製造方法であって、前記鉄含有原料、前記焼結原料および造粒された焼結原料のうち少なくとも1つの成分濃度を連続測定する測定工程を有し、前記測定工程で測定された成分濃度を用いて、前記CaO含有原料の配合量、前記凝結材の配合量、水の添加量、焼結機のパレット台車の進行速度、気体燃料の供給量および酸素の供給量のうち少なくとも1つの調整を行う調整工程と、を有する、焼結鉱の製造方法。
(4)前記焼結原料には、さらにMgO含有原料が配合され、前記調整工程では、前記測定工程で測定された成分濃度を用いて、前記CaO含有原料の配合量、前記MgO含有原料の配合量、前記凝結材の配合量、前記水の添加量、焼結機のパレット台車の進行速度、気体燃料の供給量および酸素の供給量のうち少なくとも1つの調整を行う、(3)に記載の焼結鉱の製造方法。
(5)前記測定工程では、トータルCaO、SiO2、MgO、Al2O3、FeO、Cおよび水分の1種以上の成分濃度を測定する、(1)から(4)の何れか1つに記載の焼結鉱の製造方法。」と記載されており、さらに、段落【0019】に、
「・・・赤外線分析計32を用いて、測定工程が実施される。測定工程では、焼結原料に含まれるトータルCaO、SiO2、MgO、Al2O3、FeO、Cおよび水分の1種以上の成分濃度を測定する。・・・」と記載されているから、訂正事項4に係る請求項2についての訂正は、本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項4に係る請求項2についての訂正は、訂正前の請求項2に「前記調整工程では、前記測定工程で測定された成分濃度を用いて、前記CaO含有原料の配合量、前記MgO含有原料の配合量、前記凝結材の配合量および前記焼結機のパレット台車の進行速度のうち少なくとも1つの調整を行う、」と記載されていた、調整工程時に用いる成分濃度及び調整対象の複数の選択肢を、それぞれ、「MgOの成分濃度」及び「前記MgO含有原料の配合量」に限定し、これらと整合するように、「前記測定工程では、Cの成分濃度に加えてMgOの成分濃度を測定し、」及び「前記調整工程では、前記凝結材の配合量の調整に加えて、前記測定工程で測定されたMgOの成分濃度を用いて、前記MgO含有原料の配合量の調整を行う、」と、測定工程及び調整工程における対象を限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(5)訂正事項6
ア 訂正の目的の適否
訂正事項6に係る請求項3についての訂正は、訂正前の請求項3に「前記CaO含有原料の配合量、前記凝結材の配合量、前記焼結機のパレット台車の進行速度、前記気体燃料の供給量および前記酸素の供給量のうち少なくとも1つの調整を行う調整工程と、」と記載されていた複数の選択肢を、「前記凝結材の配合量の調整を行う調整工程と、」に減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

イ 新規事項の有無
本件明細書の段落【0053】に「発明例2では、・・・測定された炭素濃度を用いて、焼結原料の炭素濃度が目標とする濃度になるように凝結材18の配合量を調整しながら成品焼結鉱を36時間製造した。・・・」と記載されているから、訂正事項6に係る請求項3についての訂正は、本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項6に係る請求項3についての訂正は、訂正前の請求項3に「前記CaO含有原料の配合量、前記凝結材の配合量、前記焼結機のパレット台車の進行速度、前記気体燃料の供給量および前記酸素の供給量のうち少なくとも1つの調整を行う調整工程と、」と記載されていた複数の選択肢を、「前記凝結材の配合量の調整を行う調整工程と、」に限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(6)訂正事項8
ア 訂正の目的の適否
訂正事項8に係る請求項4についての訂正は、訂正前の請求項4に「前記調整工程では、前記測定工程で測定された成分濃度を用いて、前記CaO含有原料の配合量、前記MgO含有原料の配合量、前記凝結材の配合量、前記焼結機のパレット台車の進行速度、前記気体燃料の供給量および前記酸素の供給量のうち少なくとも1つの調整を行う、」と記載されていた、調整工程時に用いる成分濃度及び調整対象の複数の選択肢を、それぞれ、「MgOの成分濃度」及び「前記MgO含有原料の配合量」に減縮し、そして、これらと整合するように、「前記測定工程では、Cの成分濃度に加えてMgOの成分濃度を測定し、」及び「前記調整工程では、前記凝結材の配合量の調整に加えて、前記測定工程で測定されたMgOの成分濃度を用いて、前記MgO含有原料の配合量の調整を行う、」と、測定工程及び調整工程における対象を特定する構成を追加するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

イ 新規事項の有無
本件明細書の段落【0014】に、
「このような課題を解決する本発明の特徴は、以下の通りである。
(1)少なくとも鉄含有原料、CaO含有原料および凝結材を配合した焼結原料を造粒し、焼結機で焼結して焼結鉱を製造する焼結鉱の製造方法であって、前記鉄含有原料、前記焼結原料および造粒された焼結原料のうち少なくとも1つの成分濃度を連続測定する測定工程と、前記測定工程で測定された成分濃度を用いて、前記CaO含有原料の配合量、前記凝結材の配合量、水の添加量および焼結機のパレット台車の進行速度のうち少なくとも1つの調整を行う調整工程と、を有する、焼結鉱の製造方法。
(2)前記焼結原料には、さらにMgO含有原料が配合され、前記調整工程では、前記測定工程で測定された成分濃度を用いて、前記CaO含有原料の配合量、前記MgO含有原料の配合量、前記凝結材の配合量、前記水の添加量および焼結機のパレット台車の進行速度のうち少なくとも1つの調整を行う、(1)に記載の焼結鉱の製造方法。
(3)少なくとも鉄含有原料、CaO含有原料および凝結材を配合した焼結原料を造粒し、焼結機で気体燃料および酸素を供給しながら前記焼結原料を焼結して焼結鉱を製造する焼結鉱の製造方法であって、前記鉄含有原料、前記焼結原料および造粒された焼結原料のうち少なくとも1つの成分濃度を連続測定する測定工程を有し、前記測定工程で測定された成分濃度を用いて、前記CaO含有原料の配合量、前記凝結材の配合量、水の添加量、焼結機のパレット台車の進行速度、気体燃料の供給量および酸素の供給量のうち少なくとも1つの調整を行う調整工程と、を有する、焼結鉱の製造方法。
(4)前記焼結原料には、さらにMgO含有原料が配合され、前記調整工程では、前記測定工程で測定された成分濃度を用いて、前記CaO含有原料の配合量、前記MgO含有原料の配合量、前記凝結材の配合量、前記水の添加量、焼結機のパレット台車の進行速度、気体燃料の供給量および酸素の供給量のうち少なくとも1つの調整を行う、(3)に記載の焼結鉱の製造方法。
(5)前記測定工程では、トータルCaO、SiO2、MgO、Al2O3、FeO、Cおよび水分の1種以上の成分濃度を測定する、(1)から(4)の何れか1つに記載の焼結鉱の製造方法。」と記載されており、さらに、段落【0019】に、
「・・・赤外線分析計32を用いて、測定工程が実施される。測定工程では、焼結原料に含まれるトータルCaO、SiO2、MgO、Al2O3、FeO、Cおよび水分の1種以上の成分濃度を測定する。・・・」と記載されているから、訂正事項4に係る請求項2についての訂正は、本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項8に係る請求項4についての訂正は、訂正前の請求項4に「前記調整工程では、前記測定工程で測定された成分濃度を用いて、前記CaO含有原料の配合量、前記MgO含有原料の配合量、前記凝結材の配合量、前記焼結機のパレット台車の進行速度、前記気体燃料の供給量および前記酸素の供給量のうち少なくとも1つの調整を行う、」と記載されていた、調整工程時に用いる成分濃度及び調整対象の複数の選択肢を、それぞれ、「MgOの成分濃度」及び「前記MgO含有原料の配合量」に限定し、これらと整合するように、「前記測定工程では、Cの成分濃度に加えてMgOの成分濃度を測定し、」及び「前記調整工程では、前記凝結材の配合量の調整に加えて、前記測定工程で測定されたMgOの成分濃度を用いて、前記MgO含有原料の配合量の調整を行う、」と、測定工程及び調整工程における対象を限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(7)一群の請求項について
ア 本件訂正前の請求項1〜2は、請求項2が、請求項1を引用しており、請求項1に連動して訂正されるから、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

イ 本件訂正前の請求項3〜4は、請求項4が、請求項3を引用しており、請求項3に連動して訂正されるから、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

ウ 上記1のとおり、本件訂正請求は、上記一群の請求項〔1〜2〕、〔3〜4〕についてされたものである。
そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもない。

(8)独立特許要件について
特許異議の申立ては、訂正前の全ての請求項である請求項1〜4に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

3 本件訂正請求についての結言
上記のとおり、本件訂正による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項乃至第6項の規定に適合するものである。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜2〕、〔3〜4〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2で検討したとおり、本件訂正は適法になされたものであるから、本件訂正請求により訂正された請求項1〜4に係る発明(以下、「本件発明1〜4」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された次のとおりのものである。「【請求項1】
少なくとも鉄含有原料、CaO含有原料および凝結材を配合した焼結原料に水を添加して造粒し、焼結機で焼結して焼結鉱を製造する焼結鉱の製造方法であって、
前記焼結原料の成分濃度を、搬送コンベア上を搬送される前記焼結原料に赤外線、レーザー、中性子、マイクロ波のいずれか1つ以上を照射する分析装置を用いて連続測定する測定工程と、
前記測定工程で測定された成分濃度を用いて、前記凝結材の配合量の調整を行う調整工程と、
を有し、
前記測定工程では、Cの成分濃度を測定する、焼結鉱の製造方法。

【請求項2】
前記焼結原料には、さらにMgO含有原料が配合され、
前記測定工程では、Cの成分濃度に加えてMgOの成分濃度を測定し、
前記調整工程では、前記凝結材の配合量の調整に加えて、前記測定工程で測定されたMgOの成分濃度を用いて、前記MgO含有原料の配合量の調整を行う、請求項1に記載の焼結鉱の製造方法。

【請求項3】
少なくとも鉄含有原料、CaO含有原料および凝結材を配合した焼結原料に水を添加して造粒し、焼結機で気体燃料および酸素を供給しながら前記焼結原料を焼結して焼結鉱を製造する焼結鉱の製造方法であって、
前記焼結原料の成分濃度を、搬送コンベア上を搬送される前記焼結原料に赤外線、レーザー、中性子、マイクロ波のいずれか1つ以上を照射する分析装置を用いて連続測定する測定工程と、
前記測定工程で測定された成分濃度を用いて、前記凝結材の配合量の調整を行う調整工程と、
を有し、
前記測定工程では、Cの成分濃度を測定する、焼結鉱の製造方法。

【請求項4】
前記焼結原料には、さらにMgO含有原料が配合され、
前記測定工程では、Cの成分濃度に加えてMgOの成分濃度を測定し、
前記調整工程では、前記凝結材の配合量の調整に加えて、前記測定工程で測定されたMgOの成分濃度を用いて、前記MgO含有原料の配合量の調整を行う、請求項3に記載の焼結鉱の製造方法。」

第4 特許異議申立について
1 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、いずれも本願の優先日前に、日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記(3)に示す甲第1〜6号証(以下、「甲1」等という。)を提出して、以下の申立理由1〜2により、請求項1〜4に係る本件特許を取り消すべきものである旨主張している。

(1)申立理由1(新規性進歩性
本件発明1は、甲4に記載された発明であるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当するものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、仮に、本件発明1と甲4に記載された発明との間に相違点があったとしても、本件発明1は、甲4に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)申立理由2(進歩性
ア 申立理由2−1
本件発明1〜4は、甲1に記載された発明及び甲2、甲5〜甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

イ 申立理由2−2
本件発明1〜4は、甲3に記載された発明及び甲2、甲5〜甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

ウ 申立理由2−3
本件発明2〜4は、甲4に記載された発明及び甲5〜甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)証拠方法
甲第1号証(甲1):特公昭46−1688号公報
甲第2号証(甲2):米国特許第7924414号明細書
甲第3号証(甲3):特公昭57−51451号公報
甲第4号証(甲4):T.HAUCK他8名,“New measurement and control
techniques for total control in iron ore
sinter plants”, Publications Office of the
European Union, 2014 p17, 88-97
甲第5号証(甲5):特開2007−138246号公報
甲第6号証(甲6):特開2014−31580号公報

2 取消理由の概要
(1)令和 3年 2月15日付けで通知した取消理由の概要
本件訂正前の請求項1〜4に係る特許に対して、令和 3年 2月15日付け(起案日)で通知した取消理由通知により、当審が特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
ア 取消理由1(甲1を主たる引用文献とする進歩性)(申立理由2−1に対応)
本件訂正前の請求項1〜4に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2、甲5〜甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)令和 3年 6月 7日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要
本件訂正前の請求項1〜4に係る特許に対して、令和 3年 6月 7日付け(起案日)で通知した取消理由通知により、当審が特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
ア 取消理由2(甲1を主たる引用文献とする進歩性)(申立理由2−1に対応)
本件訂正前の請求項1〜4に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2、甲5〜甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)令和 4年 1月13日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要
本件訂正前の請求項2、4に係る特許に対して、令和 4年 1月13日付け(起案日)で通知した取消理由通知により、当審が特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
ア 取消理由3(明確性)(職権で通知)
本件訂正前の請求項2、4に係る特許は、「測定工程」における測定対象が一義的に定まらず、さらに、「調整工程」における調整対象も一義的に定まらないため、その内容が不明確である。そのため、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

3 当審の判断
当審は、本件訂正請求を認めることにより、当審による上記取消理由は全て解消し、本件特許を取り消すことはできないと判断する。
また、当審は、申立人が主張するいずれの申立理由によっても、本件特許を取り消すことはできないと判断する。
(1)取消理由3について
ア 本件訂正によって、本件発明2、4では、「測定工程」における測定対象が、「前記測定工程では、Cの成分濃度に加えてMgOの成分濃度を測定し、」と、Cの成分濃度及びMgOの成分濃度に特定された。

イ また、本件訂正によって、本件発明2、4では、「調整工程」における調整対象が、「前記調整工程では、前記凝結材の配合量の調整に加えて、前記測定工程で測定されたMgOの成分濃度を用いて、前記MgO含有原料の配合量の調整を行う」と、凝結材の配合量及びMgO含有原料の配合量に特定された。

ウ そのため、本件発明2、4では、「測定工程」における測定対象がCの成分濃度とMgOの成分濃度と一義的に定まり、「調整工程」における調整対象が凝結材の配合量とMgO含有原料の配合量と一義的に定まった。

エ したがって、上記取消理由3は、解消された。

(2)取消理由1〜2について
ア 甲1の記載事項
甲1には、「焼結鉱塩基度の自動制御法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(ア)「
図面の簡単な説明
第1図は従来の焼結プロセスを示す流れ図、第2図は本発明実施の一例を示す新焼結プロセスの流れ図である。
発明の詳細な説明
本発明は溶鉱炉に装入する自溶性焼結鉱の塩基度(CaO/SiO2)を自動的に管理するための制御法に係るものである。
従来焼結鉱の塩基度は焼結鉱成品の分析値にもとずき操業者が石灰石の添加量を増減調整して管理していた。しかしながらこの方法では、焼結鉱の試料を採取して、その試料を分析者が分析し操業者へ結果を報告するまでに約8〜10時間を要し(専問の分析員を置けば2〜3時間であるが分析頻度の少い場合は専問化出来ない)更にその結果に基づいて石灰石の添加量を増減調整するまでには、管理の方式によつて異るが大体10〜12時間(数回の分析結果により制御する様な方式の場合)を要していた。その上この様にして調整したとしても、その調整結果が判るのは前述の如く試料を採取してから約8〜10時間であり1周期に要する時間は総計約20時間であつた。
従来法における約20時間に及ぶ無駄な時間をもつプロセスを制御しようとすれば、これは全く無謀に近く塩基度の管理は不可能に近い状態であつた。上述の方法を更に第1図で詳細に説明すると、燃料は燃料貯槽1に、各種鉱石は原料貯槽3に、石灰石は石灰貯槽2に夫々貯鉱され、搬送コンベヤー5上に夫々指定された規定量が切出される。搬送コンベヤー5上の原料は一次混和機6に装入され、ここで充分混合された後、搬送コンベヤー7に排出され滞溜槽8に送り込まれる。そして給鉱機9によつて混合原料は生産量に見合つた規定量、二次混和機10へ供給され、再びここで混合され、水分も添加されて、装入ホツパー11へ装入され給鉱ドラムフイダー12を介して焼結機13上へ装入される。そして焼結機13上で焼結された焼結鉱は破砕機14で破砕されそれが成品処理用搬送機15から高炉送り用搬送コンベヤー16へ送られる。そしてここで試料を採取点17から採取し又一次混和機6で混和後任意の個所にてサンプリングされるが、これらの試料が分析者19へ送られ、CaOとSiO2を分析し工場の操業者20へ報告される。(ここ迄の工程に要する時間は8〜10時間である。)工場の操業者20はこの分析値に基づき或る管理方式で、石灰石添加量の増減を行うために石灰石添加用給鉱機4の給速度を制御するのである。(ここまでの工程に要する時間は10〜12時間である。)この様に順を追って考察してみると、試料採取時の原料と調整時の原料には、約20時間以上のズレがあり、20時間前の原料成分によってその時の石灰石添加量を調整しようとするのであるから、この様な調整は無意味に等しく塩基度(CaO/SiO2)の管理は実質的になされず、そのバラツキを押えることは不可能であった。
本発明は以上の如き欠陥を除去するために、全く独創的な焼結プロセスを案出し、そのプロセスによる自動制御を提供するものである。」(1頁1欄14行〜2欄34行)

(イ)「
即ち本発明は焼結原料を焼結機迄に搬入する装置の搬入過程に原料滞溜槽と石灰石貯槽を設け、前記滞溜槽に搬入される焼結原料をその搬入過程で該原料のSiO2,CaO値の検出を行うと共に該滞溜槽の原料の貯量を検出し、前記SiO2,CaOの検出値に基く指示によつてそれに対応する石灰石を前記滞溜槽内の原料切出量に同調しながら石灰石貯槽より供給制御することを特徴し、前記原料と石灰石の混合物について更に予め設定せる塩基度との偏差を求め、前記石灰石貯槽よりの石灰石供給量を調整することを特徴とする。また原料滞溜槽には原料の量を検出した結果この検出量によつて該槽に搬入するべき原料の搬入を調整する自動制御装置を設けることによつて槽内の原料貯量を調整できる。これによつて従来の調整法と異り本発明においては短時間且正確に塩基度を調整できる。」(1頁2欄35行〜2頁3欄13行)


(ウ)「
以下に本発明を詳説する。
公知のX線螢光分析装置の原理を利用した焼結プロセス用分析装置(Ca及Siの分析に約5〜8minを要する)で石灰石を添加しない前の混合原料を分析し、その分析値を計算機に電気信号として与える。そしてその分析された試料と同じ原料は分析に要する時間以上の滞溜時間をもつ滞溜槽(1000t/dの焼結機で10min滞溜させるに要する槽量は約9m3である)によつて滞溜された後、定量切出装置で切出されるから、滞溜槽へ装入する時の槽内量を検出(例えばロードセル等を用いて容易に連続計量が可能である)しておけば、その分析値の原料が何分後に切出されるかという事は容易に計算で求めることができるから分析CaO値に応じた石灰石を添加すればよい。或はサンプリング後制御指令を受けるまでに要する時間だけ試料採取位置にてSiO2に対応する所定塩基度になるCaOを切出すこの様にして計算して求められた石灰石量を装入原料に添加するのであるから前向きの制御となり非常に精度良く塩基度の管理を行うことが可能となる。更に計算して添加された石灰石は装入原料と充分二次混合機で混合され、排出部で再び分析試料が採取され再分析されて計算され、添加された石灰石量が望み通りのCaO/SiO2になつているかどうかを調べる。若しそこで望み通りのCaO/SiO2でなかつたならば直ちに新しい設定を石灰石用フイダーに与へ、或る時間単位毎の平均値が一定になるが如く制御される。」(2頁3欄14行〜42行)

(エ)「
本発明は以上の如きものであるが、更に詳細を第2図について述べると、石灰石貯槽2(当審注:石灰貯槽2の誤記と認められる。)は滞溜槽8と並列に設備し、従来の原料配合原料槽のように燃料槽1(当審注:燃料貯槽1の誤記と認められる。)、鉱石貯槽3(当審注:原料貯槽3の誤記と認められる。)と並設すべき石灰槽2(当審注:石灰貯槽2の誤記と認められる。)はこのように設置しない。該貯槽1及3から切出された原料はベルトコンベヤー5によつて、一次混和機6に運ばれ、ここで充分混合されてベルトコンベヤー7上に排出される。そして試料採取点29より試料28を採取してX線螢光分析装置27によりCaOとSiO2の分析を行い、使用プラントで統一された数mAの電気信号26に交換して計算機30に入れその値を記憶させる。(電気信号は限定するものではなく空気圧信号でもよい)
一方試料28が採取された混合原料はコンベヤー7で滞溜槽8に送られ、そこで直ちにその時の滞溜槽8内にある原料量を検出器38によつて検出し、その検出信号37は変換器34に送られ、そこで統一された数mA(この電気信号は限定するものではなく空気圧信号でもよい)の電気信号35として計算機30に入れられ前述の電気信号26と共に記憶される。又一方変換器34からの信号36は鉱石及燃料フイダーの自動制御装置へ滞溜槽8内の量を伝へ槽8内の量が常時最適量となる様に自動制御するためのフイドバツク信号となる。」(2頁4欄第7〜32行)

(オ)「CaO添加量を電気信号25として石灰石装入フイダー4に与える。この様にしてCaOは計算値通りに加へるから目標とするSaO(当審注:CaOの誤記と認められる。)/SiO2とすることは容易となる。この様に前向きの制御だけでは実際に計算通りか否か不明瞭である場合も存するので再度試料採取点17より試料が採取される分析装置31によつてCaOとSiO2が分析され、CaO/SiO2の電気信号32は計算機30にフイドバツクされる。そしてここで前向き要素で添加されたCaOによりCaO/SiO2が目標値信号22と合致しているかどうかを差動装置33で再チエツクし、もし偏差があつたならば偏差信号21を直ちに計算機に与え再度目標値22をチエツクして電気信号25を補正する様になつている。この様にして充分CaO/SiO2が管理された装入原料は装入ホツパー11によつて焼結機13に装入され、ここで焼結が行われ完全に焼結した成品は破砕機14で破砕され成品処理搬送機15及16で溶鉱炉へ送られる。」(3頁5欄10〜29行)

(カ)「
特許請求の範囲
・・・
2 焼結原料の塩基度を調整するに際して、焼結原料を焼結機に搬入する過程に原料滞溜槽と石灰貯槽を設け、前記滞溜槽に搬入される過程で原料のSiO2,CaO値の検出を行うと共に搬入された滞溜槽の原料の貯量及び該滞溜槽からの単位時間当りの原料切出量を検出し、それらの検出によつて焼結原料が所定の塩基度になるように、計算された石灰貯槽からの石灰石の添加量を、該滞溜機からの切出された原料に同調して添加した後、混合を行いこの混合物の塩基度を検出し、あらかじめ設定せる塩基度との偏差を求め、この偏差量によつて前記石灰石添加量を制御することを特徴とする焼結原料の塩基度自動制御方法。」(3頁6欄10〜33行)

(キ)「



イ 甲1に記載された発明
(ア)上記ア(ア)における各数字と上記ア(キ)において付与されている数字との対応関係、及び、上記(エ)を考慮すると、上記ア(キ)の新焼結プロセスは、
a 燃料は燃料貯槽1に、各種鉱石は原料貯槽3に、石灰石は石灰貯槽2に夫々貯鉱されること、
b 搬送コンベヤー5上には、燃料貯槽1と原料貯槽3から、夫々指定された規定量が切出されること、
c 搬送コンベヤー5上の原料は一次混和機6に装入され、ここで充分混合された後、搬送コンベヤー7に排出され滞溜槽8に送り込まれること、
d 給鉱機9によって混合原料は生産量に見合つた規定量、二次混和機10へ供給され、再びここで混合され、水分も添加されて、装入ホツパー11へ装入され給鉱ドラムフイダー12を介して焼結機13上へ装入されること、
e 焼結機13上で焼結された焼結鉱は破砕機14で破砕され、それが成品処理用搬送機15から高炉送り用搬送コンベヤー16へ送られること、
を有するものであると認められる。

(イ)上記ア(イ)〜(オ)から、上記ア(キ)の新焼結プロセスは、
a 石灰貯槽2は、滞溜槽8と並列に設備されること、
b 燃料貯槽1と鉱石貯槽3から切出され、混合された混合原料をベルトコンベアー7によって滞溜槽8に送る途中、試料採取点29より試料28を採取し、試料28にX線螢光分析装置27を用いて、CaOとSiO2の分析を行い、電気信号26に交換して計算機30に入れその値を記憶させること、
c 試料28が採取された混合原料はコンベヤー7で滞溜槽8に送られ、そこで直ちにその時の滞溜槽8内にある原料量を検出器38によって検出し、その検出信号37は変換器34に送られ、電気信号35として計算機30に入れられ電気信号26と共に記憶されること、
d SiO2,CaOの検出値に基づく指示によって、CaO添加量を電気信号25として石灰石装入フイダー4に与え、滞溜槽8内の原料切出量に同調しながら、石灰石貯槽より石灰石装入フイダー4を介して石灰石の供給を制御すること、
e 再度試料採取点17より試料が採取される分析装置31によってCaOとSiO2が分析され、CaO/SiO2の電気信号32は計算機30にフイドバツクされる。そしてここで前向き要素で添加されたCaOによりCaO/SiO2が目標値信号22と合致しているかどうかを差動装置33で再チエツクし、もし偏差があつたならば偏差信号21を直ちに計算機に与え再度目標値22をチエツクして電気信号25を補正すること、
を有するものであると認められる。

(ウ)上記ア(イ)、(エ)、(キ)から、上記ア(キ)の新焼結プロセスは、変換器34から、燃料貯槽1及び鉱石貯槽3における鉱石及燃料フイダーの自動制御装置へ、滞溜槽8内の量を伝へ、滞溜槽8内の量が常時最適量となる様に自動制御するためのフイドバツク信号36を送ることを有するものであると認められる。

(エ)上記ア(オ)には、上記ア(キ)の新焼結プロセスは、試料採取点17より再度採取された試料について別の分析装置31を用いて、CaOとSiO2の分析を行うことが記載されている。
また、分析装置31は、上記ア(エ)に記載されたX線螢光分析装置27と同様に、CaOとSiO2の分析を行うものであるから、27と同様にX線螢光分析装置であると認められる。

(オ)上記ア(カ)には、滞溜槽に搬入される過程で原料のSiO2,CaO値の検出を行うと共に搬入された滞溜槽の原料の貯量及び該滞溜槽からの単位時間当りの原料切出量を検出し、それらの検出によつて焼結原料が所定の塩基度になるように、計算された石灰貯槽からの石灰石の添加量を、該滞溜機からの切出された原料に同調して添加することが記載されている。これから、上記(イ)dにおける「SiO2,CaOの検出値に基づく指示」は、混合原料が所定の塩基度(CaO/SiO2)になるようにすることであると認められる。

(カ)上記ア(キ)から、甲1発明において、石灰石は、滞溜槽8と並列に設備された石灰石貯槽2より、石灰石装入フイダー4を介して、二次混和機10に供給されていると認められる。

(キ)上記(ア)〜(カ)によれば、甲1には、次の発明が記載されているものと認められる(以下「甲1発明」という。)。
「鉱石貯槽3から切出された鉱石と燃料貯槽1から切出された燃料を、搬送コンベヤー5によって一次混和機6に装入して混合し、得られた混合原料を搬送コンベアー7によって滞溜槽8に送り、当該滞溜槽8から給鉱機9によって混合原料を、滞溜槽8と並列に設備された石灰石貯槽2より石灰石装入フイダー4を介して供給される石灰石とともに、二次混和機10に供給して混合し、水分も添加して、装入ホツパー11へ装入され給鉱ドラムフイダー12を介して焼結機13上へ装入し、焼結機13上で焼結して破砕機14で破砕し、成品処理用搬送機15から高炉送り用搬送コンベヤー16へ送る焼結プロセスにおいて、搬送コンベヤー7で送られる前記混合原料から採取された試料28のSiO2、CaO値をX線螢光分析装置27を用いて検出し、焼結機13に送られる前記混合原料、前記石灰石、及び水分の混合物から採取された試料のSiO2、CaO値をX線螢光分析装置31を用いて検出し、さらに、滞溜槽8内にある前記混合原料の量も検出し、X線螢光分析装置27及び31によるSiO2,CaOの検出値を用いて、前記混合原料が所定の塩基度(CaO/SiO2)になるように、CaO添加量を電気信号25として前記石灰石装入フイダー4に与え、滞溜槽8内の原料切出量に同調しながら、前記石灰石の供給を制御する焼結プロセス。」

ウ 甲2の記載事項
甲2には、「NON-HAZARDOUS BULK MATERIAL ANALYZER SYSTEM(当審訳:危険性のないバルク材料の分析器システム)」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(ア)「


(当審訳:図2)

(イ)「Bulk materials can be characterized as materials used in industrial applications that are transported in high volumes on a continuously moving means such as a conveyor belt after the materials are crushed or otherwise reduced in size for purposes of easier handling in downstream production. Bulk materials can further be characterized as raw materials that are combined in proportion and processed to form another material (such as pre-blended materials), the resulting combination of mixed raw materials (such as post-blended materials) in a homogeneous or non-homogeneous form, scrap materials, and process waste.」(第1欄第26〜36行)
(当審訳:バルク材料は、産業用途で使用される材料として特徴付けることができ、材料が粉砕されるか下流の生産での取り扱いを容易にするためにサイズが縮小された後、次工程のプロセスへ連続的に大量の物質を搬送することができるコンベアベルト等の連続移動手段で大量に輸送される。また、バルク材料は、混合されて形成される別の異なる原料(例えば調合・調整原料)を作るために使用するための原材料としても分類され、結果として均一・非均一な混合原料を作る。)

(ウ)「During the transportation and processing of bulk materials, it becomes necessary to analyze the exact or average chemical or mineral content and composition of the bulk material for control purposes. Such analysis is especially necessary when the bulk materials are mixed, ground, or processed to form new materials.」(2欄6〜11行)
(当審訳:バルク材料の搬送および処理中には、制御を行うために、バルク材料内の化学成分、鉱物の含有量と組成を厳密に分析することが必要になる。このような分析は、特にバルク材料を混合、粉砕、または新しい材料に加工する際に不可欠になる。)

(エ)「What is needed is a system and method for analyzing bulk materials that provides real-time analyses for rapid and real-time control. It is critical that the apparatus and method analyzed the bulk materials as they pass through. It would be beneficial if such an apparatus and method analyzed the bulk materials in the process stream. Additionally, such apparatus and method must not alter or touch (either physically or chemically) the streaming bulk materials. As a result, the bulk materials analyzed are to pass uninterruptedly along the process flow. Another benefit would be for the apparatus and method to implement the analysis of the bulk materials as it is transported on a moving conveyor belt from one process station to the next.」(5欄33〜45行)
(当審訳:必要となることは、迅速なリアルタイム制御のために、バルク材料の成分をリアルタイムに分析するためのシステムと方法である。バルク材料が通過するときに、装置とその方法がバルク材料を分析することが重要である。そのような装置および方法がプロセスの流れの中のバルク材料を分析するならば、それは有益である。さらに、そのような装置および方法は、プロセスの中で、バルク材料を(物理的または化学的に)変更または接触してはならない。そうすることで、分析されるバルク材料は、プロセスフローに沿って途切れることなく通過する。またこの装置と方法のさらなる利点は、あるプロセスから次にプロセスに移動するコンベアベルトで搬送中のバルク材料の分析を実施することである。)

(オ)「It is therefore an objective of the present invention to provide a robust, consistent, real-time bulk material analyzing system for identifying and quantifying the elemental, chemical, and mineralogical characteristics of a varying bulk material passing unobstructed and undisturbed under or through a detector array.」(5欄49〜54行)
(当審訳:本発明の目的は、検出光の下であってもバルク材料の通過を妨害しない、元素的、化学的、または鉱物的特定を定量化するための堅牢で一貫したリアルタイムのバルク材料分析システムを提供することである。)

(カ)「FIG. 2 is a depiction of bulk material analyzer positioned over a moving conveyor belt loaded with bulk materials.」(6欄49〜50行)
(当審訳:図2は、バルク材料が乗ったコンベアベルト上に配置されたバルク材料分析器の描写である。)

(キ)「FIGS. 2-3 depict portions of systems for processing bulk materials. These systems utilize a bulk material analyzer placed over a transport apparatus such as a conveyor belt or pneumatic transfer that transfers the bulk material from one process point to another.
FIGS. 2 and 3 in particular depict bulk materials 210 loaded and transported by a conveyor belt 200. These bulk materials 210 are a non-uniform distribution of materials on conveyor belt 200 with variable particle sizes, bed height (i.e. the height of the bulk materials above the belt surface) and composition.…
FIGS. 2 and 3 also depict bulk material analyzer 220 positioned over conveyor belt 200 that projects white light 225 on to the surface of bulk material 210. The bulk material analyzer 220 measures the spectral signature of bulk materials 210 based on light that is reflected, emitted and absorbed by bulk materials 210, which is discussed in more detail below.」(7欄18〜39行)
(当審訳:図2−3は、バルク材料を処理するシステムの一部を示している。これらのシステムは、バルク材料をあるプロセスポイントから別のプロセスポイントに搬送するコンベアベルトまたは空気圧式移送などの輸送装置上に配置されたバルク材料分析装置を利用する。
図2および3は、特に、コンベアベルト200によって装填および輸送されるバルク材料210を示している。これらのバルク材料210は、様々な粒子サイズ、床の高さ(すなわち、ベルト表面からのバルク材料の高さ)及び組成を有するコンベアベルト200上の材料の不均一な分布である。…
図2および3はまた、白色光225をバルク材料210の表面に投射するコンベアベルト200上に配置されたバルク材料分析器220を示している。バルク材料分析器220は、バルク材料210によって反射、放出、および吸収される光に基づいてバルク材料210のスペクトルシグネチャを測定する。これについては、以下でより詳細に説明する。)

(ク)「As bulk material passes by the spectrometer, scans can be taken continuously, in regular periods or on demand. Periodic scans are taken at regular time intervals enabling regular measurements of various areas of the scanned materials. Periodic or continuous scans can be used to collect data on the bulk material as it passes beneath the spectrometer.」(8欄25〜30行)
(当審訳:バルク材料が分光計を通過すると、スキャンは連続的に、定期的に、またはオンデマンドで取得できる。スキャンは定期的に行われ、スキャンされた原料のさまざまな領域を定期的に測定できる。定期的または連続的なスキャンを使用して、分光計の下を通過するバルク材料に関するデータを収集できる。)

(ケ)「In one version of the inventive bulk material analyzing system, only white light is required for constant illumination to provide a source for infrared splitting to cause reflective and absorptive spectral structure of the contained bulk materials. Infrared, including NIR (near infra-red), VNIR (Visual near infrared), SWIR (Short-Wave Infrared), and TIR (Thermal Infra-red), span a wavelength range of 250 to 2500 nanometers (nm) for the purposes of compositional characterization of materials.」(8欄48〜56行)
(当審訳:本発明のバルク材料分析システムの1つのバージョンでは、白色光が赤外線の源として安定した照明として必要で、それによりバルク材料の反射および吸収のスペクトル構造を生じさせる。赤外線は、材料の組成分析のために、NIR(近赤外線)、VNIR(可視近赤外線)、SWIR(短波長赤外線)、TIR(熱赤外線)、および、250から2500ナノメートル(nm)の波長範囲に及ぶ。)

エ 甲5の記載事項
甲5には、「焼結原料の事前処理方法及び事前処理装置」(発明の名称)に関して、次の記載がある。

【0017】
本発明で使用する焼結原料は、水分を含むと共に、鉄鉱石を含む焼結原料である。
【0018】
鉄鉱石単独での使用の他、鉄鉱石に加えて、更に、製鉄ダスト(高炉集塵ダスト、転炉ダスト等)、石灰石、ドロマイト、蛇紋岩、珪石、カンラン石、コークス粉、無煙炭等の1種又は2種以上を加えた混合原料を用いることができる。」

オ 甲6の記載事項
甲6には、「焼結機の酸素−気体燃料供給装置」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(ア)「
【請求項1】
点火炉下流の原料装入層上方に設けたフード内に酸素を噴出して富化し、さらに、気体燃料を供給して燃焼下限濃度以下に希釈した空気を、パレット下方に配設したウインドボックスで吸引して装入層内に導入し、該装入層内において上記気体燃料と炭材を燃焼させて焼結鉱を製造する焼結機の酸素ー気体燃料供給装置であって、
上記フード内には、該フードの高さ方向中間部に、山型状の邪魔板を水平方向に間隙を有して複数列かつ垂直方向に上記間隙部が千鳥状になるよう間隔を有して複数段配列した邪魔板群が配設されてなるとともに、
上記邪魔板群の下方には、気体燃料を供給する気体燃料供給配管が配設され、さらに、
上記邪魔板群の上方には、酸素を鉛直下向きかつ最上段の邪魔板間の間隙に向けて噴出する噴出口を有する酸素供給配管が、上記噴出口から見た最上段の邪魔板間の間隙の視野角が20°以上となる高さに配設されてなることを特徴とする焼結機の酸素ー気体燃料供給装置。
【請求項2】
上記酸素供給配管の噴出口と最上段の邪魔板間の間隙との距離を200mm以上としてなることを特徴とする請求項1に記載の焼結機の酸素ー気体燃料供給装置。」

(イ)「
【0001】
本発明は、気体燃料を供給しかつ酸素を富化することで、高品質の高炉原料用焼結鉱を製造する下方吸引式のドワイトロイド焼結機における、酸素ー気体燃料供給装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高炉製銑法の主原料である焼結鉱は、一般に、図1に示すような工程を経て製造される。焼結鉱の原料は、鉄鉱石粉や焼結鉱篩下粉、製鉄所内で発生した回収粉、石灰石およびドロマイトなどの含CaO系副原料、生石灰等の造粒助剤、コークス粉や無煙炭などであり、これらの原料は、ホッパー1の各々から、コンベヤ上に所定の割合で切り出される。切り出された原料は、ドラムミキサー2および3等によって適量の水が加えられ、混合、造粒されて、平均径が3〜6mmの擬似粒子である焼結原料とされる。この焼結原料は、その後、焼結機上に配設されているサージホッパー4、5からドラムフィーダー6と切り出しシュート7を介して、無端移動式の焼結機パレット8上に400〜800mmの厚さで装入され、焼結ベッドともいわれる装入層9を形成する。その後、装入層9の上方に設置された点火炉10で装入層表層の炭材に点火するとともに、パレット8の直下に配設されたウインドボックス11を介して装入層上方の空気を下方に吸引することにより、装入層内の炭材を順次燃焼させ、このときに発生する燃焼熱で前記焼結原料を溶融して焼結ケーキを得る。このようにして得た焼結ケーキは、その後、破砕、整粒され、約5mm以上の塊成物が、成品焼結鉱として回収され、高炉に供給される。
【0003】
上記製造プロセスにおいて、点火炉10によって点火された装入層内の炭材は、その後、ウインドボックス11により吸引され、装入層内を上層から下層に向かって流れる空気によって燃焼を続け、厚さ方向に幅をもった燃焼・溶融帯(以降、単に「燃焼帯」ともいう。)を形成する。この燃焼帯の溶融部分は、上記吸引される空気の流れを阻害するため、焼結時間が延長して生産性が低下する要因となる。また、この燃焼帯は、パレット8が下流側に移動するのに伴って次第に装入層の上層から下層に移行し、燃焼帯が通過した後には、焼結反応が完了した焼結ケーキ層(以降、単に「焼結層」ともいう。)が生成される。また、燃焼帯が上層から下層に移行するのにともない、焼結原料中に含まれる水分は、炭材の燃焼熱で気化して、まだ温度が上昇していない下層の焼結原料中に濃縮し、湿潤帯を形成する。この水分濃度がある程度以上になると、吸引ガスの流路となる焼結原料の粒子間の空隙が水分で埋まり、溶融帯と同様、通気抵抗を増大させる要因となる。」

(ウ)「
【図1】




カ 対比・判断
そこで、甲1発明と本件発明1とを対比する。
(ア)甲1発明の「鉱石貯槽3から切出された鉱石」、「石灰石」、「水分」はそれぞれ、本件発明1の「鉄含有原料」、「CaO含有原料」、「水」に相当する。

(イ)甲1発明において、二次混和機10は、焼結機13を用いる工程より前の工程で使用されるものであるため、二次混和機10に供給された材料が焼結原料であることも明らかである。
したがって、甲1発明の「鉱石貯槽3から切出された鉱石」と「燃料貯槽1から切出された燃料」の「混合原料」に「石灰石」が供給されたものは、本件発明1の「少なくとも鉄含有原料、CaO含有原料」「を配合した焼結原料」に相当すると認められる。

(ウ)甲1発明には、焼結原料に水を添加した後かつ焼結前に、造粒することは記載されていないものの、焼結鉱の製造方法において、水を添加した焼結原料を焼結前に造粒することは技術常識であるから、甲1発明においても二次混和機10で混合原料に石灰石と水分を添加して混合する際に、焼結原料は造粒されているものと認められる。

(エ)甲1発明の「鉱石」を含む「混合原料」を「焼結機13上で焼結」することは、本件発明1の「焼結機で焼結して焼結鉱を製造する」ことに相当する。
そして、甲1発明の「焼結プロセス」及び「新焼結プロセス」は、本件発明1の「焼結鉱の製造方法」に相当する。

(オ)甲1発明の分析装置である「X線螢光分析装置27」及び「X線螢光分析装置31」に関して、一般的に、X線蛍光分析は、X線を試料に照射し発生する蛍光X線が元素固有のエネルギーを持っていることを利用して、試料に特定の元素がどのくらい含まれているのか、すなわち試料中の特定の元素の濃度を知ることができる分析方法である。
そうすると、甲1発明の「焼結機13に送られる前記混合原料、前記石灰石、及び水分の混合物から採取された試料のSiO2、CaO値をX線螢光分析装置31を用いて検出」することは、本件発明1の「造粒された焼結原料の成分濃度を、」「搬送される前記焼結原料に」「照射する分析装置を用いて」「連続測定する測定工程」に相当する。

(カ)甲1発明の「X線螢光分析装置27及び31によるSiO2,CaOの検出値を用いて、前記混合原料が所定の塩基度(CaO/SiO2)になるように、CaO添加量を電気信号25として前記石灰石装入フイダー4に与え、滞溜槽8内の原料切出量に同調しながら、前記石灰石の供給を制御する」することは、本件発明1の「前記測定工程で測定された成分濃度を用いて、」「配合量の調整を行う調整工程」に相当する。

(キ)上記(ア)〜(カ)の検討を踏まえると、本件発明1と甲1発明の一致点と相違点は次のとおりとなる。
<一致点>
「少なくとも鉄含有原料、CaO含有原料を配合した焼結原料に水を添加して造粒し、焼結機で焼結して焼結鉱を製造する焼結鉱の製造方法であって、
前記造粒された焼結原料の成分濃度を、搬送される前記焼結原料に照射する分析装置を用いて測定する連続測定工程と、
前記測定工程で測定された成分濃度を用いて、配合量の調整を行う調整工程と、
を有する焼結鉱の製造方法。」

<相違点1>
鉄含有原料、CaO含有原料以外に焼結原料に配合される原料が、本件発明1では、「凝結材」であるのに対し、甲1発明では、「燃料」である点。

<相違点2>
本件発明1では「搬送コンベア上を搬送される前記焼結原料に赤外線、レーザー、中性子、マイクロ波のいずれか1つ以上を照射する分析装置を用いて連続測定」するのに対し、甲1発明では「焼結機13に送られる前記混合原料、前記石灰石、及び水分の混合物から採取された試料」にX線を照射する「X線螢光分析装置31を用いて測定」する点。

<相違点3>
調整工程の調整が、本件発明1では、「前記測定工程で測定された成分濃度を用いて、前記凝結材の配合量」を調整するのに対し、甲1発明では、「X線螢光分析装置27及び31によるSiO2,CaOの検出値を用いて」「CaO添加量」を調整する点。

<相違点4>
測定工程で測定する対象が、本件発明1では、「Cの成分濃度」であるのに対し、甲1発明では、「SiO2、CaO値」である点。

(キ)以下、事案に鑑み、上記相違点のうち、相違点3〜4について検討する。
a 上記ア(ア)に記載されているように、甲1における、発明が解決しようとする課題は、従来の焼結プロセスにおいては、試料採取時の原料と調整時の原料には、約20時間以上のズレがあり、20時間前の原料成分によってその時の石灰石添加量を調整しようとするために、塩基度(CaO/SiO2)の管理は実質的になされず、そのバラツキを押えることは不可能であるという欠陥を除去することである。

b そのため、甲1発明は、SiO2,CaOの検出値を用いて石灰石の供給を制御するものであるところ、甲1発明において、SiO2,CaO値の検出をCの成分濃度の検出に変更したり、石灰石の量の調整を凝結材の配合量の調整に変更することは、石灰石の供給を制御できなくなることを意味しており、甲1の課題を解決することができなくなるので、阻害要因があるといえる。

c そして、上記ウ〜オから、甲2、甲5〜甲6には、上記阻害要因を覆し、甲1発明におけるSiO2,CaO値の検出をCの成分濃度の検出としたり、甲1発明における石灰石の量の調整を凝結材の配合量の調整とすることについての、積極的な動機は認められない。

d したがって、相違点3〜4に係る本件発明1の構成は、甲1発明及び甲2、甲5〜甲6の記載事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

e よって、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2、甲5〜甲6の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ク)本件発明2
本件発明2は、本件発明1を直接的に引用するものであって、本件発明1をさらに減縮したものであるから、本件発明1において上記(キ)で判断したのと同様の理由によって、甲1発明及び甲2、甲5〜甲6の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ケ)本件発明3
本件発明3は、本件発明1における焼結機での焼結方法を「気体燃料および酸素を供給しながら」「焼結原料を焼結」すると減縮したものであるから、本件発明1において上記(キ)で検討したのと同様の理由によって、甲1発明及び甲2、甲5〜甲6の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(コ)本件発明4
本件発明4は、本件発明3を直接的に引用するものであって、本件発明3をさらに減縮したものであるから、本件発明1において上記(キ)で検討したのと同様の理由によって、甲1発明及び甲2、甲5〜甲6の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

キ 取消理由1〜2の小括
以上から、本件発明1〜4は、甲1発明及び甲2、甲5〜甲6の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、上記取消理由は、解消された。

(3)申立理由2−1について
上記(2)と同内容の理由で、本件発明1〜4は、甲1発明及び甲2、甲5〜甲6の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえず、同法第113条第2号に該当しないものであるから、取り消すことはできない。

(4)申立理由2−2について
ア 甲3の記載事項
甲3には、「焼結鉱製造時のコークス配合制御方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(ア)「
1 焼結原料中に配合するミルスケールのFeO値をFeO測定装置により連続測定すると共に、前記ミルスケール量を連続秤量し、前記FeO値とミルスケール量とを演算器に送信して必要なコークス量を算出し、該算出結果に基づいてコークス配合加減器を作動してコークス切出し量を制御することを特徴とする焼結鉱製造時のコークス配合制御方法。」(特許請求の範囲)

(イ)「
本発明は焼結鉱を製造する場合において、焼結原料中に配合するコークス量を制御する方法に関するものである。
焼結鉱は各種粉鉄、砂鉄、ミルスケールなどに、燃料としてコークスを配合してなる焼結原料を焼結機により焼成して製造されるものであり、かくしてできた焼結鉱の品質は焼結作業における操業条件によっても異なるが、前記焼結原料の配合、特にその中のコークス量の割合によって大きく影響される。
通常コークス量は全焼結原料の3〜4%であるが、0.1%の相違でも焼結鉱品質に影響し、適正量を超えると焼結速度が遅くなって生産量が低下し、反対に不足する場合は未焼結部分ができて強度および成品歩どまりの低下を招く結果となる。
ところでコークスの適正量は種々の原料成分および操業条件にも左右されるが、主として全焼結原料中に含まれるFeOの量によって決められるもので、従来は全焼結原料中からサンプリングしてFeOを化学分析により求め、さらに成品焼結鉱の品質と対比しながらコークスの配合量を設定していたが、前記FeOの化学分析に時間が長くかかる上に、焼結原料中のFeO値の変動も大きく、従ってコークス適正量を維持するのが甚だ困難であった。
前記焼結原料中のFeO値変動の主要原因はFeOの最大供給原料であるミルスケールによるものであり、すなわち該ミルスケールは発生場所もさまざまで異物の混入も多く、ミルスケール中のFeO値はたとえば65〜85%と変動し、ミルスケールを除く他の焼結原料のFeO値が通常2.5%程度のほぼ一定であるところへ前記ミルスケールを5〜6%配合する場合の全焼結原料中の平均FeO値は
FeO(min)=(2.5×95+65×5)/100=5.625%
FeO(max)=(2.5×94+85×6)/100=7.45%
と最低約5.6%から最高約7.5%まで変動することになるのである。
本発明は上記の点に着目して、焼結原料中に配合するミルスケールのFeO値を磁気特性を利用したFeO測定装置により連続的に測定し、必要な酸化熱量分に対応してコークス切出し量を制御する方法を提供するもので、以下実施例を示す図面に基づいて説明する。」(1頁1欄32〜2頁3欄2行)

(ウ)「
第1図は本発明の一実施例を示す要部説明図で、ミルスケール槽1の下方から切出しベルト2によりミルスケールSを秤量ベルト3上に落下させると共に、前記ミルスケール槽1の下側方に分岐管4を設けてミルスケールSの一部が落下するようにし、分岐管4の下方にFeO測定装置5を設ける。該FeO測定装置5はたとえば出願人が昭和53年10月3日出願の特願昭53ー122224号「焼結鉱のFeO測定方法」に示すように、FeOの含有率が変化すると透磁率が変化することを利用したもので、具体的には分岐管4の下方に設けた非磁性体の円筒形状の測定セル5aに透磁率検出コイル5bを巻き、該コイル安定正弦波発振器5cから送電して透磁率の変化をインダクタンスの変化として検出する仕組みになっている。そしてFeO測定装置5を通過したミルスケールSはロールフィーダー等の切出し装置6から前記秤量ベルト3上に落下し、切出しベルト2から落下したミルスケールと合流して秤量ベルト3で秤量されながら秤量ベルト3の一端から落下し、その下方に設けられた原料ベルト7により上流側から搬送されて来た粉鉄などと共に搬送され、さらに下流側に設けたコークス槽8から定量切出し装置9を経て切出されたコークスCと合流した後、混合および攪拌されて焼結機へ送られるのである。
前記定量切出し装置9から切出されるコークス量は前記FeO測定装置5で測定したミルスケールのFeO値と、秤量ベルト3で秤量したミルスケール量とを演算器10に送信し、該演算器10では前記秤量ベルト3で秤量したミルスケール量とミルスケールのFeO値よりFeO量を算出し、あらかじめ記憶させておいたFeO量とコークス量の相関関係式から前記算出FeO量に相応したコークス量を求め、その数値によりコークス配合加減器11を作動させて前記コークス槽8の定量切出し装置9を制御して切出されるのである。」(2頁3欄3行〜4欄6行)

(エ)「

」(第1図)

イ 甲3に記載された発明
上記ア(ア)〜(エ)から、甲3には、次の発明が記載されているものと認められる(以下「甲3発明」という。)。

各種粉鉄、砂鉄、ミルスケールなどに燃料としてコークスを配合してなる焼結原料を焼結機により焼成して焼結鉱を製造する焼結鉱の製造方法であって、
ミルスケール槽1の下方から切出しベルト2によりミルスケールSを秤量ベルト3上に落下させると共に、前記ミルスケール槽1の下側方に分岐管4を設けてミルスケールSの一部が落下するようにし、分岐管4の下方に、非磁性体の円筒形状の測定セル5aに透磁率検出コイル5bを巻き、該コイル安定正弦波発振器5cから送電して透磁率の変化をインダクタンスの変化として検出するFeO測定装置5を設け、前記FeO測定装置5を用いてミルスケールのFeO値を連続的に測定する工程と、
前記測定工程で測定されたミルスケールのFeO値を用いて、コークスの配合量の制御を行う工程と、を有する焼結鉱の製造方法。」

ウ 対比・判断
そこで、本件発明1と甲3発明とを対比する。
(ア)甲3発明の「各種粉鉄、砂鉄、ミルスケールなどに燃料としてコークスを配合してなる焼結原料」について、「ミルスケール」とは、一般に、鋼材の製造過程において空気中の酸素と反応して生成し付着する酸化物皮膜のことであり、CaOを含有していたり、凝結作用を有していたりするものとはいえないものである。
そのため、甲3発明の「各種粉鉄、砂鉄、ミルスケールなどに燃料としてコークスを配合してなる焼結原料」は、本件発明1の「少なくとも鉄含有原料」「を配合した焼結原料」に相当する。
(イ)甲3発明の「非磁性体の円筒形状の測定セル5aに透磁率検出コイル5bを巻き、該コイル安定正弦波発振器5cから送電して透磁率の変化をインダクタンスの変化として検出するFeO測定装置5」は、当該記載から明らかなように、磁場を発生させて透磁率の変化を検出するものであるから、本件発明1の「赤外線、レーザー、中性子、マイクロ波のいずれか1つ以上を照射する分析装置」と、分析装置である限りにおいて共通する。

(ウ)甲3発明の「ミルスケールのFeO値」、「コークス量の制御」は、それぞれ、本件発明1の「成分濃度」、「配合量の調整」に相当する。

(エ)上記(ア)〜(ウ)の検討を踏まえると、本件発明1と甲3発明の一致点と相違点は次のとおりとなる。
<一致点>
「少なくとも鉄含有原料を配合した焼結原料を焼結機で焼結して焼結鉱を製造する焼結鉱の製造方法であって、
前記焼結原料の成分濃度を、分析装置を用いて連続測定する測定工程と、
前記測定工程で測定された成分濃度を用いて、配合量の調整を行う調整工程と、
を有する焼結鉱の製造方法。」

<相違点5>
本件発明1では、「少なくとも鉄含有原料、CaO含有原料および凝結材を配合した焼結原料に水を添加して造粒」するのに対し、甲3発明では、CaO含有原料および凝結材を配合しているか不明であり、水を添加して造粒するのかも不明である点。

<相違点6>
本件発明1では「搬送コンベア上を搬送される前記焼結原料に赤外線、レーザー、中性子、マイクロ波のいずれか1つ以上を照射する分析装置を用い」るのに対し、甲3発明では、「ミルスケール槽1の下方から切出しベルト2によりミルスケールSを秤量ベルト3上に落下させると共に、前記ミルスケール槽1の下側方に分岐管4を設けてミルスケールSの一部が落下するようにし、分岐管4の下方に、非磁性体の円筒形状の測定セル5aに透磁率検出コイル5bを巻き、該コイル安定正弦波発振器5cから送電して透磁率の変化をインダクタンスの変化として検出するFeO測定装置5」を用いる点。

<相違点7>
本件発明1では、「前記測定工程で測定された成分濃度を用いて、前記凝結材の配合量の調整を行う調整工程」であるのに対し、甲3発明では、「コークスの配合量」を調整する点。

<相違点8>
本件発明1では、「前記測定工程では、Cの成分濃度を測定する」のに対し、甲3発明では、ミルスケールのFeO値を測定する点。

(オ)以下、事案に鑑み、上記相違点のうち、相違点7〜8について検討する。
a 上記ア(イ)に記載されているように、甲3における、発明が解決しようとする課題は、焼結原料中に配合するミルスケールのFeO値を、磁気特性を利用したFeO測定装置により連続的に測定し、必要な酸化熱量分に対応してコークス切出し量を制御する方法を提供することである。

b そのため、甲3発明は、ミルスケールのFeO値を用いて、コークス配合量の制御を行うものであるところ、甲3発明において、ミルスケールのFeO値の検出をCの成分濃度の検出に変更したり、コークスの配合量の調整を凝結材の配合量の調整に変更することは、コークス配合量の制御ができなくなることを意味しており、甲3の課題を解決することができなくなるので、阻害要因があるといえる。

c そして、上記(3)ウ〜オから、甲2、甲5〜甲6には、上記阻害要因を覆し、甲3発明におけるミルスケールのFeO値の検出をCの成分濃度の検出としたり、甲3発明におけるコークスの配合量の調整を凝結材の配合量の調整とすることについての、積極的な動機は認められない。

d したがって、相違点7〜8に係る本件発明1の構成は、甲3発明及び甲2、甲5〜甲6の記載事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

e よって、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明及び甲2、甲5〜甲6の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(カ)本件発明2
本件発明2は、本件発明1を直接的に引用するものであって、本件発明1をさらに減縮したものであるから、本件発明1において上記(オ)で判断したのと同様の理由によって、甲3発明及び甲2、甲5〜甲6の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(キ)本件発明3
本件発明3は、本件発明1における焼結機での焼結方法を「気体燃料および酸素を供給しながら」「焼結原料を焼結」すると減縮したものであるから、本件発明1において上記(オ)で検討したのと同様の理由によって、甲3発明及び甲2、甲5〜甲6の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ク)本件発明4
本件発明4は、本件発明3を直接的に引用するものであって、本件発明3をさらに減縮したものであるから、本件発明1において上記(オ)で検討したのと同様の理由によって、甲3発明及び甲2、甲5〜甲6の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 申立理由2−2の小括
本件発明1〜4は、甲3発明及び甲2、甲5〜甲6の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえず、同法第113条第2号に該当しないものであるから、取り消すことはできない。

(5)申立理由2−3について
ア 甲4の記載事項
甲4には、「New measurement and control techniques for total control in iron ore sinter plants」(当審訳:鉄鉱石焼結プラントの完全制御のための新しい測定および制御技術)に関して、次の記載がある。
(ア)「

」(17頁18〜20行)
(当審訳:
ワークパッケージ 4 : 燃料投入の制御
・遊離炭素の量の分析を含む焼結混合物の組成のその場分析のための近赤外線(NIR)測定装置の確立)

(イ)「

」(17頁22〜24行)
(当審訳:
ワークパッケージ 5 : 品質の制御
・燃料添加の最適化による焼結鉱の品質の自動制御
・石灰および水の投与それぞれの塩基度と水分の自動制御)

(ウ)「

」(89頁4〜11行)
(当審訳:ABB Spectra-Flow分析システムは、AGDHの子会社であるROGESAの第3焼結機に設置するために選択された(図73を参照)。この測定システムは、セメント産業での産業用としてすでに確立されている[8]。実験室試験により、焼結原料混合物中の遊離炭素の分析が原則として可能であることがすでに証明されている。
近赤外線測定装置は、焼結混合物中のトータルFe、FeO、CaO、Si02、Al203、MgO、トータルC、有機C、および炭酸塩Cを測定する。焼結混合物の組成の範囲とAGDHが要求する近赤外線測定装置の最小精度を表40にまとめる。)(89頁4〜11行)

(エ)「

」(90頁)
(当審訳:表40:焼結混合物の構成と近赤外線測定装置の要求最小制度の範囲)

(オ)「

」(90頁4〜6行)
(当審訳:近赤外線測定装置の最適な位箇を見つけるために、AGDHの焼結混合物の調製プロセスを分析した。さまざまな準備手順と対応する保持時間を図73に要約する。供給口の直前にデバイスを取り付けることが決定された。)

(カ)「

」(90頁)
(当審訳:図73:AGDHのストランド3における、むだ時間を含んだ焼結混合物調整スキーム)

(キ)「

」(91頁1〜2行)
(当審訳:コンベアベルトの上にデバイスを設置するために、図74に示すスチール構造が構築された。)

(ク)「

」(91頁)
(当審訳:近赤外線測定装置の設置位置におけるスチール構造)

(ケ)「

」(95頁20〜28行)
(当審訳:
制御システムの重要な部分の1つは、投入器、混合ドラム、およびコンベアベルトで構成されるシステムの応答(伝達関数)である。支配的な影響は、混合ドラムおよびコンベアベルトでの輸送中の時間遅延である。
コークスと塩基度の規制のために、積分コントローラーが選択された。純粋なむだ時間と組み合わせた積分コントローラー、は定数Kに応じた減衰特性を持つ。K=kl/Ttで定義される定数の場合、異なるむだ時間(Tt)に対して同じ減衰効果を得ることができる。現在のモデルでは、kl=0.5が使用されている。
図81に示す典型的な制御ループを使用して、AGDH焼結プラントでの実装が計画されている積分コントローラーシステムの応答を分析した。)

(コ)「

」(96頁4行〜97頁1行)
(当審訳:制御システム用のユーザー画面(GUI図84を参照)が設計された。 完全自動制御の代わりに、オペレーターにアドバイスを提供する支援システムが計画された。この支援システムパネルは、過去8時間に発生した焼結混合物の水分、コークス、および石灰含有量の変化を示している。)

イ 甲3に記載された発明
(ア)上記ア(カ)において、一般に、
a 「ore」は、「鉱石」
b 「coke」は、「コークス」
c 「water」は、「水」
d 「Mixing and granulation drum」は、「混合及び造粒ドラム」
e 「belt」は、「ベルト」
と訳される。

(イ)上記ア(ウ)、(カ)から、上記ア(カ)において、「NIR-device」は、「近赤外線測定装置」と訳される。

(ウ)上記ア(カ)、(ケ)(dosing systemを「投入器」と訳すこと)から、上記ア(カ)において、「dosing」は、「投入」と訳される。

(エ)上記ア(カ)〜(キ)、(ケ)から、上記ア(カ)における「belt」は、「conveyer belt」すなわち、「搬送ベルト」を意味していると認められる。

(オ)そうすると、上記ア(ア)〜(コ)、及び上記イ(ア)〜(エ)から、次の装置が記載されているものと認められる。

鉱石、calkおよびコークスの投入と、水を添加した混合及び造粒ドラムと、搬送ベルトと、搬送ベルト上に配置される、焼結混合物中のトータルFe、FeO、CaO、Si02、Al203、MgO、トータルC、有機C、および炭酸塩Cを測定する近赤外線測定装置と、供給口を有するABB Spectra-Flow分析システム。」

(カ)そして、上記ア(カ)において、時間の矢印の向きから、焼結混合物の調整は右向きに進むことは明らかである。
また、上記ア(カ)は、焼結混合物を調整するスキームであるから、当該スキームの後に、焼結機で焼結して焼結鉱を製造する行程が存在することも、明らかである。

(キ)上記(ア)〜(カ)から、最終的に、甲4には、次の発明が記載されているものと認められる(以下「甲4発明」という。)。
「鉱石、calkおよびコークスを配合した焼結原料に水を添加して造粒し、焼結機で焼結して焼結鉱を製造する焼結鉱の製造方法であって、
搬送ベルト上を搬送される前記焼結原料に近赤外線測定装置を用いて測定する測定工程と、
を有し、
前記測定工程では、焼結混合物中のトータルFe、FeO、CaO、Si02、Al203、MgO、トータルC、有機C、および炭酸塩Cを測定する、焼結鉱の製造方法。」

ウ 対比・判断
そこで、本件発明1と甲4発明とを対比する。
(ア)甲4発明の「鉱石」、「搬送ベルト」は、本件発明1の「鉄含有原料」、「搬送コンベア」に相当する。

(イ)甲4発明において、株式会社研究者 リーダーズ英和辞典第2版によれば、「calk」の訳は、「n((すべり止めのための))蹄鉄[靴底]のとがり金」であり、その中に、少なくとも「CaO含有原料」や「凝結材」に相当するものは認められなかった。したがって、甲1発明の「calk」が何を意味するか不明であり、本件発明1の「CaO含有原料」や「凝結材」のいずれにも相当しない。

(ウ)甲4発明の「近赤外線測定装置」について
a 甲4発明の「近赤外線測定装置」は、近赤外線を用いる測定装置である。

b そして、近赤外線について、甲2には、次の記載がある。
「In one version of the inventive bulk material analyzing system, only white light is required for constant illumination to provide a source for infrared splitting to cause reflective and absorptive spectral structure of the contained bulk materials. Infrared, including NIR (near infra-red), VNIR (Visual near infrared), SWIR (Short-Wave Infrared), and TIR (Thermal Infra-red), span a wavelength range of 250 to 2500 nanometers (nm) for the purposes of compositional characterization of materials.」(第8欄第48〜56行)
(当審訳:本発明のバルク材料分析システムの1つのバージョンでは、白色光が赤外線の源として安定した照明として必要で、それによりバルク材料の反射およ び吸収のスペクトル構造を生じさせる。赤外線は、材料の組成分析のために、NIR(近赤外線)、VNIR(可視近赤外線)、SWIR(短波長赤外線)、TIR(熱赤外線)、および、250から2500ナノメートル(nm)の波長範囲に及ぶ。)

c 上記bから、近赤外線は、赤外線の一種であることが理解される。

d したがって、上記a〜cから、甲4発明の「近赤外線測定装置」は、本件発明1の「赤外線、レーザー、中性子、マイクロ波のいずれか1つ以上を照射する分析装置」に相当する。

(エ)上記ア(ウ)〜(エ)、(カ)から、甲4発明の「近赤外線測定装置」は、焼結原料の成分濃度を測定するものであり、搬送ベルト上において、搬送される焼結原料を連続的に測定するものであることが理解される。
そうすると、甲4発明の「搬送ベルト上を搬送される前記焼結原料に近赤外線測定装置を用いて測定する」ことは、本件発明1の「前記焼結原料の成分濃度を、搬送コンベア上を搬送される前記焼結原料に赤外線、レーザー、中性子、マイクロ波のいずれか1つ以上を照射する分析装置を用いて連続測定する」ことに相当する。

(オ)上記(エ)を勘案すると、甲4発明の「焼結混合物中の」「トータルC、有機C、および炭酸塩Cを測定する」ことは、本件発明1の「Cの成分濃度を測定する」ことに相当する。

(カ)上記(ア)〜(オ)の検討を踏まえると、本件発明1と甲4発明の一致点と相違点は次のとおりとなる。
<一致点>

少なくとも鉄含有原料を配合した焼結原料に水を添加して造粒し、焼結機で焼結して焼結鉱を製造する焼結鉱の製造方法であって、
前記焼結原料の成分濃度を、搬送コンベア上を搬送される前記焼結原料に赤外線、レーザー、中性子、マイクロ波のいずれか1つ以上を照射する分析装置を用いて連続測定する測定工程と、
前記測定工程では、Cの成分濃度を測定する、焼結鉱の製造方法。」

<相違点9>
本件発明1では、「少なくとも鉄含有原料、CaO含有原料および凝結材を配合した焼結原料」であるのに対し、甲4発明では、CaO含有原料および凝結材を配合しているか不明である点。

<相違点10>
本件発明1では「前記測定工程で測定された成分濃度を用いて、前記凝結材の配合量の調整を行う調整工程と」を有するのに対し、甲4発明では、前記調整工程について記載されておらず、不明である点。

(キ)以下、事案に鑑み、相違点10について検討する。
a 上記ア(ア)〜(イ)に記載されているように、甲4の目的は、遊離炭素の量の分析を含む焼結混合物の組成のその場分析のための近赤外線(NIR)測定装置の確立、燃料添加の最適化による焼結鉱の品質の自動制御、及び、石灰および水の投与それぞれの塩基度と水分の自動制御であり、甲4の目的の中に、凝結材の配合量の調整は含まれていない。そのため、甲4発明において、「前記測定工程で測定された成分濃度を用いて、前記凝結材の配合量の調整を行う調整工程と」を追加する積極的な動機は認められない。

b 上記(3)エ〜オから、甲5〜甲6にも、上記目的を有する甲4発明において、「前記測定工程で測定された成分濃度を用いて、前記凝結材の配合量の調整を行う調整工程と」を追加する積極的な動機は認められない。

c したがって、相違点10に係る本件発明1の構成は、甲4発明及び甲5〜甲6の記載事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

e よって、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲4発明及び甲5〜甲6の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ク)本件発明2
本件発明2は、本件発明1を直接的に引用するものであって、本件発明1をさらに減縮したものであるから、本件発明1において上記(キ)で判断したのと同様の理由によって、甲4発明及び甲5〜甲6の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ケ)本件発明3
本件発明3は、本件発明1における焼結機での焼結方法を「気体燃料および酸素を供給しながら」「焼結原料を焼結」すると減縮したものであるから、本件発明1において上記(キ)で検討したのと同様の理由によって、甲4発明及び甲5〜甲6の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(コ)本件発明4
本件発明4は、本件発明3を直接的に引用するものであって、本件発明3をさらに減縮したものであるから、本件発明1において上記(キ)で検討したのと同様の理由によって、甲4発明及び甲5〜甲6の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 申立理由2−3の小括
本件発明1〜4は、甲4発明及び甲5〜甲6の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえず、同法第113条第2号に該当しないものであるから、取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、当審の取消理由及び特許異議の申立てに係る申立理由によっては、本件特許の請求項1〜4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1〜4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも鉄含有原料、CaO含有原料および凝結材を配合した焼結原料に水を添加して造粒し、焼結機で焼結して焼結鉱を製造する焼結鉱の製造方法であって、
前記焼結原料の成分濃度を、搬送コンベア上を搬送される前記焼結原料に赤外線、レーザー、中性子、マイクロ波のいずれか1つ以上を照射する分析装置を用いて連続測定する測定工程と、
前記測定工程で測定された成分濃度を用いて、前記凝結材の配合量の調整を行う調整工程と、
を有し、
前記測定工程では、Cの成分濃度を測定する、焼結鉱の製造方法。
【請求項2】
前記焼結原料には、さらにMgO含有原料が配合され、
前記測定工程では、Cの成分濃度に加えてMOの成分濃度を測定し、
前記調整工程では、前記凝結材の配合量の調整に加えて、前記測定工程で測定されたMgOの成分濃度を用いて、前記MgO含有原料の配合量の調整を行う、請求項1に記載の焼結鉱の製造方法。
【請求項3】
少なくとも鉄含有原料、CaO含有原料および凝結材を配合した焼結原料に水を添加して造粒し、焼結機で気体燃料および酸素を供給しながら前記焼結原料を焼結して焼結鉱を製造する焼結鉱の製造方法であって、
前記焼結原料の成分濃度を、搬送コンベア上を搬送される前記焼結原料に赤外線、レーザー、中性子、マイクロ波のいずれか1つ以上を照射する分析装置を用いて連続測定する測定工程と、
前記測定工程で測定された成分濃度を用いて、前記凝結材の配合量の調整を行う調整工程と、
を有し、
前記測定工程では、Cの成分濃度を測定する、焼結鉱の製造方法。
【請求項4】
前記焼結原料には、さらにMgO含有原料が配合され、
前記測定工程では、Cの成分濃度に加えてMOの成分濃度を測定し、
前記調整工程では、前記凝結材の配合量の調整に加えて、前記測定工程で測定されたMgOの成分濃度を用いて、前記MgO含有原料の配合量の調整を行う、請求項3に記載の焼結鉱の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-06-30 
出願番号 P2018-568489
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C22B)
P 1 651・ 121- YAA (C22B)
P 1 651・ 537- YAA (C22B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 平塚 政宏
特許庁審判官 池渕 立
太田 一平
登録日 2020-03-24 
登録番号 6680369
権利者 JFEスチール株式会社
発明の名称 焼結鉱の製造方法  
代理人 熊坂 晃  
代理人 森 和弘  
代理人 磯村 哲朗  
代理人 坂井 哲也  
代理人 森 和弘  
代理人 磯村 哲朗  
代理人 熊坂 晃  
代理人 坂井 哲也  

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