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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H02N
審判 全部申し立て 2項進歩性  H02N
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H02N
管理番号 1389404
総通号数 10 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-10-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-12-14 
確定日 2022-09-05 
異議申立件数
事件の表示 特許第6895200号発明「圧電モータ、圧電モータ用の摺動材、及び注入機器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6895200号の請求項1〜12に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6895200号の請求項1〜12に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2019年(令和元年)8月2日(優先権主張 平成30年8月10日)を国際出願日とする特願2020−527130号の一部を令和2年8月17日に新たな特許出願とした特願2020−137603号の一部を令和3年1月8日に新たな特許出願としたものであって、令和3年6月9日にその特許権の設定登録がされ、令和3年6月30日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和3年12月14日 : 特許異議申立人 高橋 真哉(「高」は、正しくは「はしごだか」。以下、「特許異議申立人」という。)による請求項1〜12に係る特許に対する特許異議の申立て
令和4年 3月25日付け: 取消理由通知書

なお、令和4年3月25日付け取消理由通知書により、特許権者 株式会社Piezo Sonic(以下、「特許権者」という。)に取消理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者による意見書の提出はされていない。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1〜12に係る発明(以下、請求項順に「本件特許発明1」などといい、これらの発明をまとめて「本件特許発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1〜12に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
[本件特許発明1]
弾性体と、前記弾性体に貼り付けられた圧電素子及び摺動材とを有しているステータと、
前記摺動材と当接する基体部分を有するロータとを備え、
前記摺動材は、スリットを挟んで対向する複数の摺動片と、前記複数の摺動片を連結するブリッジとを備えている、圧電モータ。
[本件特許発明2]
前記摺動材は、強化繊維を含み、滑り摩耗試験によって測定した場合の比摩耗量が、1×10−6mm3/N・M未満である架橋フッ素樹脂からなる、請求項1に記載の圧電モータ。
[本件特許発明3]
前記ロータと共に回転するシャフトをさらに備え、
前記ロータは、皿バネ部分と前記基体部分とを有する環状部材と、前記環状部材が固定される固定部とをさらに有し、
前記環状部材の前記皿バネ部分は、前記シャフトに固定された前記固定部に固定されており、
前記ロータには、前記皿バネ部分と前記シャフトとの間に環状溝が形成されている、請求項1又は2に記載の圧電モータ。
[本件特許発明4]
前記固定部は、前記皿バネ部分よりも前記シャフトに近い位置において、前記シャフトに固定されている、請求項3に記載の圧電モータ。
[本件特許発明5]
前記固定部の剛性は、前記環状部材の剛性よりも低い、請求項3又は4に記載の圧電モータ。
[本件特許発明6]
前記環状溝は、前記シャフトの回転軸を中心としている、請求項3から5のいずれか一項に記載の圧電モータ。
[本件特許発明7]
前記固定部は、金属からなる、請求項3から6のいずれか一項に記載の圧電モータ。
[本件特許発明8]
前記ステータは、前記弾性体とは別の弾性体と、前記圧電素子とは別の圧電素子と、前記摺動材とは別の摺動材とをさらに有しており、
前記ロータは、前記基体部分とは別の基体部分と、前記皿バネ部分とは別の皿バネ部分とを含む別の環状部材をさらに有している、請求項3から7のいずれか一項に記載の圧電モータ。
[本件特許発明9]
前記皿バネ部分は、前記固定部の一方側に固定されており、
前記別の皿バネ部分は、前記固定部の他方側に固定されている、請求項8に記載の圧電モータ。
[本件特許発明10]
前記ロータは、前記固定部とは別の固定部をさらに有しており、
前記別の皿バネ部分は、前記別の固定部に固定されている、請求項8に記載の圧電モータ。
[本件特許発明11]
薬液を注入するための注入機器であって、
請求項1から10のいずれか一項に記載の圧電モータと、
前記圧電モータによって駆動される駆動機構と、
前記圧電モータを制御する制御装置とを備える、注入機器。
[本件特許発明12]
基体部分を有するロータと、弾性体及び圧電素子を有するステータとを備える圧電モータにおいて、前記基体部分と当接するように前記ステータに設けられる圧電モータ用の摺動材であって、
前記摺動材は、スリットを挟んで対向する複数の摺動片と、前記複数の摺動片を連結するブリッジとを備えている、圧電モータ用の摺動材。

第3 取消理由通知の概要
当審が令和4年3月25日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
新規性)本件特許発明1及び本件特許発明12は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された以下の引用文献1に記載された発明又は以下の引用文献2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に規定された発明に該当するから、請求項1及び12に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

進歩性)本件特許発明1は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された以下の引用文献1に記載された発明に基いて、以下の引用文献2に記載された発明に基いて、若しくは以下の引用文献3に記載された発明及び以下の引用文献1に記載された事項又は以下の引用文献2に記載された事項に基いて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
本件特許発明2は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された以下の引用文献3に記載された発明、以下の引用文献1に記載された事項又は以下の引用文献2に記載された事項、以下の引用文献4に記載された事項及び以下の引用文献5に記載された事項に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
本件特許発明11は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された以下の引用文献1に記載された発明及び以下の引用文献6に記載された事項に基いて、以下の引用文献2に記載された発明及び以下の引用文献6に記載された事項に基いて、若しくは以下の引用文献3に記載された発明、以下の引用文献1に記載された事項又は以下の引用文献2に記載された事項、以下の引用文献4に記載された事項、以下の引用文献5に記載された事項及び以下の引用文献6に記載された事項に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
本件特許発明12は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された以下の引用文献1に記載された発明に基いて、以下の引用文献2に記載された発明に基いて、若しくは以下の引用文献3に記載された発明及び以下の引用文献1に記載された事項又は以下の引用文献2に記載された事項に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1及び12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

明確性)本件特許は、特許請求の範囲の記載に不備があり、本件特許発明2〜本件特許発明11が明確でないため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。

引用文献1:特開2004−266912号公報(甲第1号証)
引用文献2:特開2009−201319号公報(甲第2号証)
引用文献3:特開平7−298652号公報
引用文献4:大島、宇田川、森田,“短繊維を充填したポリテトラフルオロエチレンの放射線架橋”,JAERI-Tech,日本原子力研究所,1999年2月,99-012(甲第3号証)
引用文献5:山本、瀬戸川、西,“架橋PTFEおよびその応用製品”,日本ゴム協会誌,2003年5月,第76巻,第5号,p.173-177(甲第4号証)
引用文献6:特許第4907738号公報(甲第5号証)

第4 引用文献の記載
1.引用文献1
(1)引用文献1の記載
特許異議申立人が提出し、令和4年3月25日付け取消理由通知で引用した前記引用文献1には以下の事項が記載されている(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下、同様である。)。
ア.「【0029】
(第1の実施の形態)
以下、本発明に係る第1の実施の形態について図1、図16及び図17を参照して説明する。
【0030】
図16は、本実施の形態に係る振動波モータの断面図である。
【0031】
図16において、1は円環形状の振動体、2は前記振動体1の一方面に固定された圧電素子、3は前記振動体の他方面に固定された摩擦部材、7は前記振動体1の前記摩擦部材3側に配置された移動体である。
【0032】
13は円筒状の接触ばねであり、一方が前記移動体7に支持され、他方がプレス加工で円錐形状に加工され前記摩擦部材3に加圧接触する。
【0033】
図17に振動体1を移動体7側から見た斜視図を示す。
【0034】
図17において、振動体1は、移動体1と対向する面に複数のくし歯状の突起形状をしたくし歯部1aが円環状に配列されている。くし歯部1aにおいて、移動体1側の面をくし歯部上面1a1、振動体1の円環形状において外周側をくし歯部外周側側面1a2、内周側をくし歯部内周側側面1a3とする。くし歯部1aの外周側側面1a2は内周側側面1a3より円環形状の円周方向に対して幅が広くなっている。また、振動体1は、鉄系材料を用いて焼結加工によって形成されている。
【0035】
また、摩擦部材3は、板材をプレスで打ち抜いた平板のチップ形状をしており、前記複数のくし歯形状にそれぞれ固定される。そして、移動体1の接触ばね13が摩擦部材1aを介してくし歯部1aに加圧接触する。
【0036】
また、前記圧電素子2には前記振動体1に曲げ進行波を生じさせる不図示の分極パターンが施されている。圧電素子2に位置位相がπ/2ずれた2つの定在波を、時間的位相差π/2を持たせて励起することによって、振動体1の円環部に進行性の振動波を生じさせる。そして、くし歯状突起形状によって周方向の振動が増幅され、前記摩擦部材3と接触ばね13との接触部には楕円振動が生じ、移動体7が進行波の移動方向と逆の方向へ駆動される。
【0037】
また、移動体7は加圧ばね9によって加圧されており、移動体7の回転トルクは加圧ばね9、ディスク12を介してシャフト11に伝えられる。
【0038】
図1に振動体1のくし歯部1aを移動体7側から見た斜視図を示す。
【0039】
図1において、くし歯部上面1a1には摩擦部材3が配置される。
【0040】
摩擦部材3は、くし歯部上面1a1の内周側を一部切り取った形状、すなわち扇形状の平板部材である。摩擦部材3は、SUS440Cの板材を用いてあらかじめプレス加工によって扇形のチップに形成したものが使用される。
【0041】
移動体7の接触ばね13は、くし歯部1a上の摩擦部材3に加圧接触しながら、図中X方向に相対移動する。接触ばね13は、摩擦部材3に図中斜線で示す接触部4で加圧接触する。
【0042】
本第1の実施の形態では、摩擦部材3は、くし歯部上面1a1に配置された後に、レーザ溶接によって固定される。摩擦部材3の溶接領域6は、相対移動方向Xと直行する方向に対して前記接触部4の両側、すなわち外周側及び内周側の2箇所であって、摩擦部材3のうち接触ばね13との接触部4の反対面側に相当する領域以外の部分5である。これは、溶接時に接触部4に熱的な変化が生じないように、接触部4と溶接領域6に所定の距離が設けられた構成である。
【0043】
このような構成によれば、摩擦部材3をくし歯部1aに溶接で固定した場合に、接触部4に相当する領域は溶接されないため、接触部4は高温の熱にさらされることがなく、摩擦部材3の材料本来の性質を良好に維持することができる。また、くし歯部1aと摩擦部材3は溶接によって固定されるため、接着剤を用いて固定した場合と比べて、熱的に安定である。」

イ.「【0064】
(第5の実施の形態)
以下、本発明に係る第5の実施の形態について図5を参照して説明する。なお、本第5の実施の形態において特徴的な構成について説明し、上記した実施の形態と同様の部分については説明を省略する。
【0065】
図5は、本第5の実施の形態に係る振動波モータにおける振動体1のくし歯部1aを振動体1側から見た斜視図である。
【0066】
図5において、摩擦部材3は、断面L字形状の板状部材である。この摩擦部材3は、くし歯部上面1a1に一方面が配置され、くし歯部外周側側面1a2に他方面が配置される。そして、摩擦部材3の接触部4がくし歯部1aの外周側端部になるように構成される。
【0067】
また、摩擦部材3の溶接領域6は、くし歯部上面1a1の内周側、及びくし歯部外周側側面1aの2面である。
【0068】
このような構成によれば、摩擦部材3の接触部4がくし歯部1aの外周側先端に位置することができる。振動波モータの出力トルクは、振動体1と移動体7の接触径が大きいほど増加するため、接触部4が最外周であれば、出力トルクを増大させることができる。」

ウ.「【0085】
図9は、本第9の実施の形態に係る振動体1の斜視図である。
【0086】
図9において、摩擦部材3は薄肉円筒状の連結部14で連結されており、連結部14の内径は振動体1の外径と嵌合している。連結部14から上方へ延出し、くし歯部1aの上面を覆うように配置された摩擦部材3は、上記した第5の実施形態と同様に、振動体1に溶接固定され、外周部側に接触部4を形成している。
【0087】
連結部14は、振動体1の外周面の、くし歯部でない部分に周上を溶接固定されている。
【0088】
本第9の実施の形態では、摩擦部材3の配置上の便宜性に加え、摩擦部材3が連結されているために、仮に1つのくし歯上で剥離が生じたとしても、剥離したチップが連結部で固定されたままなので、金属であるチップがモータ筐体内を移動して電気的短絡の原因となることを防ぐことができる。」

エ.図9には、次の事項が図示されている。


オ.図16には、次の事項が図示されている。


カ.前記ウによると、第9の実施の形態において、摩擦部材3は、くし歯部1aの上面を覆うように配置され、連結部14で連結されているといえるが、連結部14で連結された摩擦部材3以外の振動波モータの構造は、前記ウの段落【0086】、前記イの段落【0064】によると、第1の実施の形態の振動波モータの構造と同じであると解される。したがって、前記アも考慮すると、第9の実施の形態の振動波モータは、複数のくし歯部1aが円環状に配列された振動体1と、振動体1の一方面に固定された圧電素子2と、振動体1の他方面のくし歯部1aに溶接で固定された摩擦部材3とを備え、摩擦部材3は、振動体1のくし歯部1aの上面を覆うように配置され、連結部14で連結されているといえる。

キ.前記カに示したように、第9の実施の形態の振動波モータの構造は、連結部14で連結された摩擦部材3以外は、第1の実施の形態の振動波モータの構造と同じであると解されるから、前記アも考慮すると、第9の実施の形態の振動波モータの移動体7は、摩擦部材3に加圧接触する接触ばね13を有し、回転トルクを加圧ばね9、ディスク12を介してシャフト11に伝えるものといえる。

(2)引用文献1に記載された発明
前記(1)ア〜キの記載及び図面を総合すると、引用文献1には、第9の実施の形態として、次の発明(以下、「引用発明1−1」、「引用発明1−2」という。)が記載されていると認められる。

[引用発明1−1]
「複数のくし歯部1aが円環状に配列された振動体1と、前記振動体1の一方面に固定された圧電素子2と、前記振動体1の他方面の前記くし歯部1aに溶接で固定された摩擦部材3と、
前記摩擦部材3に加圧接触する接触ばね13を有し、回転トルクを加圧ばね9、ディスク12を介してシャフト11に伝える移動体7とを備え、
前記摩擦部材3は、前記振動体1の前記くし歯部1aの上面を覆うように配置され、連結部14で連結されている、振動波モータ。」

[引用発明1−2]
「接触ばね13を有し、回転トルクを加圧ばね9、ディスク12を介してシャフト11に伝える移動体7と、複数のくし歯部1aが円環状に配列された振動体1と、圧電素子2とを備える振動波モータにおいて、前記接触ばね13に加圧接触し、前記振動体1の前記くし歯部1aに溶接で固定される振動波モータの摩擦部材3であって、
前記摩擦部材3は、前記振動体1の前記くし歯部1aの上面を覆うように配置され、連結部14で連結されている、振動波モータの摩擦部材3。」

2.引用文献2
(1)引用文献2の記載
特許異議申立人が提出し、令和4年3月25日付け取消理由通知で引用した前記引用文献2には以下の事項が記載されている。
ア.「【0003】
図9は、従来例に係るリング型振動波モータの構成を示す断面図である。リング型振動波モータを構成する弾性体101の一方の端面(図中の左側面)には、分極処理された2群の圧電素子を配置した構造の圧電素子102が同心円状に接着されている。弾性体101及び圧電素子102により振動体が構成されている。圧電素子102における弾性体101との接着面とは反対側の面には、圧電素子102に印加する駆動信号を入力するためのフレキシブル基板104が固着されている。
【0004】
弾性体101における圧電素子102との接着面とは反対側の面には、駆動効率を上げることを目的とした複数の溝が径方向に沿って形成されると共に周方向に規則的に(等間隔で)配置されている。複数の溝は櫛歯を形成している。弾性体101の各櫛歯の端面には、樹脂、金属、セラミックス等により構成される摩擦部材103が設けられている。弾性体101の内周部は、薄肉の円盤状に形成されており、円盤状部の内周側の弾性体固定部は、ベース105に接着あるいはネジにより固定されている。摩擦部材103の表面には、移動体106が接触している。
【0005】
ディスクフランジ109は、シャフト110に嵌合されている。板ばね108の内周部は、ディスクフランジ109により固定されており、板ばね108の外周部は、防振ゴム107を介して移動体106に当接している。これにより、移動体106は、板ばね108の付勢力により摩擦部材103を介して弾性体101に加圧接触される。また、シャフト110は、ベース105に取り付けられた軸受111、112により回転自在に支持されており、更に止め輪113により軸方向の移動が規制されることで板ばね108からの加圧反力を受けている。スペーサ114は、軸受111に予圧を与えてシャフト110の振れ回り量を低減している。」

イ.「【0021】
〔第1の実施の形態〕
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る振動波駆動装置としての振動波モータの構成を示す図であり、(a)は、弾性体1を示す斜視図、(b)は、摩擦部材3を示す斜視図である。図2は、弾性体1と摩擦部材3を位置決めして重ね合わせた状態を示す斜視図である。
【0022】
図1、図2において、振動波モータは、弾性体1、電気量(電圧)と機械量(振動)の相互変換を行う電気−機械エネルギ変換素子としての圧電素子2、摩擦部材3を備えている。振動波モータにおいては、弾性体1及び圧電素子2により振動体が構成されており、圧電素子2を駆動源として弾性体1に振動を励起し、該振動に伴う接触加圧力により移動体(図3参照)を押圧する。なお、図1、図2では、振動波モータを構成する他の部品(移動体、シャフト、軸受、ベース、フランジ、板ばね等)の図示は省略している。
【0023】
弾性体1は、可撓性を有するリング形状の金属材料(例えばステンレスあるいはリン青銅)から形成されており、櫛歯部1aを有する振動部1bと、円盤状部1cと、弾性体固定部1dを備えている。弾性体1の最外周部を構成する厚いリング部は、振動部1bとして構成されている。弾性体1の振動部1bの一方の端面には、駆動効率を上げることを目的とした複数の溝が形成されている。複数の溝は、弾性体1の径方向に沿って形成されると共に弾性体1の周方向に規則的に(等間隔で)配置されている。複数の溝により櫛歯部1aを構成している。
【0024】
弾性体1の振動部1bの内周側は、薄肉の円盤状部1cとして構成されている。更に、弾性体1の円盤状部1cの内周側は、中央に貫通孔を有する弾性体固定部1dとして構成されている。弾性体1の弾性体固定部1dは、ベース(不図示)に対して接着あるいはネジによる締結あるいは嵌合等により固定される。また、弾性体1の弾性体固定部1dは、後述する摩擦部材3の取付け部3cに固定される。
【0025】
摩擦部材3は、金属材料から形成されており、リング形状に形成された取付け部3cと、取付け部3cから外周側へ放射状に延出された複数の腕部3dと、複数の腕部3dからそれぞれ延出された複数の摩擦部3bを備えている。摩擦部材3の取付け部3cからは、可撓性を有する複数の腕部3dが周方向にスリットを介して放射状に延出され一体に設けられている。摩擦部材3の複数の腕部3dの先端には、複数の摩擦部3bがそれぞれ一体に設けられている。
【0026】
摩擦部材3の摩擦部3bは、対向する二つの接触面(図1(b)の表側の面と裏側の面)を有する。摩擦部材3の摩擦部3bの二つの接触面は、それぞれ弾性体1の接触面及び移動体の接触面と接触部を構成し、それぞれ弾性体1の接触面及び移動体の接触面と当接する。なお、本実施の形態では、接触加圧力が伝達付加される方向に当接する2つの部品双方の面を接触面と表現し、当接する2つの部品双方の接触面からなる領域を接触部と表現する。
・・・(中略)・・・
【0029】
摩擦部材3と弾性体1とは、摩擦部材3の周方向にスリットを介して各々分離されている複数の摩擦部3bの先端により形成される円と、弾性体1の複数の櫛歯部1aの先端により形成される円とが同心円状になるように位置決めされ重ね合わせられる。弾性体1の弾性体固定部1dには、摩擦部材3の取付け部3cがネジによる締結あるいは止め輪による拘束などの容易な固定手段により固定される。これにより、摩擦部材3の容易な交換を可能としている。
【0030】
なお、摩擦部材3の取付け部3cは、弾性体1の弾性体固定部1dへの固定に限定されるものではなく、弾性体1自体が設置されるベース(不図示)に固定してもよい。ただし、摩擦部材3の取付け部3cは、弾性体1の振動特性に影響を与える振動部への固定は避けている。即ち、摩擦部材3の取付け部3cは、弾性体1の振動部における摩擦部材3との接触面以外の箇所に固定される。
【0031】
弾性体1と摩擦部材3の双方の接触面からなる接触部は、双方の接触面同士で固着されていない。摩擦部材3を弾性体1から取り外す場合は、摩擦部材3の取付け部3cの固定手段(ネジや止め輪など)を解放することで、摩擦部材3を容易に取り外しすることが可能である。また、摩擦部材3と移動体の双方の接触面からなる接触部は、双方の接触面同士で固着されていない。なお、ここでの固着とは、接着剤や半田等による強固な結合、焼き嵌めや圧入等の嵌合など、着脱が困難な固定手段による固着を指す。
【0032】
弾性体1の弾性体固定部1dに摩擦部材3の取付け部3cを固定する際に、摩擦部材3の摩擦部3bは、ばね性を有する腕部3dの弾性変形で発生する加圧力により弾性体1の櫛歯部1aの端面に押し付けられる。また、摩擦部材3における複数の摩擦部3bの間に周方向に所定間隔で形成されている複数のスリットと、複数の腕部3dの間に周方向に所定間隔で形成されている複数のスリットは、弾性体1の溝と同じピッチで設けられている。
【0033】
弾性体1と摩擦部材3を組み立てる際は、図2に示すように摩擦部材3の摩擦部3bの先端と弾性体1の櫛歯部1aの先端の周方向位置が一致するように、摩擦部材3を弾性体1に位置決めして重ね合わせる。なお、摩擦部材3の腕部3dがばね性を持たない場合、摩擦部材3の摩擦部3bを弾性体1の櫛歯部1aの端面に押し付ける別の方法としては、次の方法が考えられる。
【0034】
摩擦部材3と弾性体1を磁性体により形成し、磁化された摩擦部材3と弾性体1のうち何れか一方の接触面にもう一方の接触面が引きつけられるようにしてもよい。あるいは、摩擦部材3と弾性体1の何れか一方を磁化し、何れか一方の接触面にもう一方の接触面が引きつけられるようにしてもよい。
・・・(中略)・・・
【0044】
本実施の形態の振動波モータは、磨耗した摩擦部材3を容易に交換可能とすることで、摩擦部材3以外の部品の再利用を可能とすることを目的としたものである。そのため、再利用する弾性体1及び移動体の接触面と比較して、簡単に交換可能な摩擦部材3の接触面の磨耗量が多くなる組み合せであることが好ましい。具体的には、摩擦部材3の接触面の硬度が、該接触面に相対する弾性体1の接触面あるいは移動体の接触面の硬度よりも低いことが望ましい。」

ウ.図1には、次の事項が図示されている。


エ.図2には、次の事項が図示されている。


オ.図9には、次の事項が図示されている。


カ.前記エの図2の図示内容によると、圧電素子2は弾性体1に積層されているといえる。さらに、前記イによると、第1の実施の形態の振動波モータは、弾性体1と、弾性体1に積層された圧電素子2と、弾性体1の接触面に引きつけられ、容易に取り外すことが可能に固定されている摩擦部材3を備え、摩擦部材3は、リング形状に形成された取付け部3cから複数の腕部3dが周方向にスリットを介して放射状に延出され一体に設けられ、複数の腕部3dの先端に複数の摩擦部3bがそれぞれ一体に設けられているといえる。

キ.前記イによると、摩擦部材3の摩擦部3bの接触面は、移動体の接触面と当接するから、移動体は、摩擦部材3の接触面と当接する接触面を有するといえる。また、前記イの段落【0022】によると、第1の実施の形態に対応する図1、図2において、振動波モータを構成する移動体、シャフト、軸受、ベース、フランジ、板ばね等の図示は省略されており、これらの構成は、前記アに記載され、前記オの図9に図示された従来例の構成と同じであると解されるから、前記アの記載、及び前記オの図示内容も考慮すると、第1の実施の形態の振動波モータは、防振ゴムを介して移動体に当接している板ばねと、板ばねが固定されているディスクフランジとを備えているといえる。

(2)引用文献2に記載された発明
前記(1)ア〜キの記載及び図面を総合すると、引用文献2には、第1の実施の形態として、次の発明(以下、「引用発明2−1」、「引用発明2−2」という。)が記載されていると認められる。

[引用発明2−1]
「弾性体1と、前記弾性体1に積層された圧電素子2と、前記弾性体1の接触面に引きつけられ、容易に取り外すことが可能に固定されている摩擦部材3と、
前記摩擦部材3の接触面と当接する接触面を有する移動体と、防振ゴムを介して前記移動体に当接している板ばねと、前記板ばねが固定されているディスクフランジとを備え、
前記摩擦部材3は、リング形状に形成された取付け部3cから複数の腕部3dが周方向にスリットを介して放射状に延出され一体に設けられ、前記複数の腕部3dの先端に複数の摩擦部3bがそれぞれ一体に設けられている、振動波モータ。」

[引用発明2−2]
「接触面を有する移動体と、防振ゴムを介して前記移動体に当接している板ばねと、前記板ばねが固定されているディスクフランジと、弾性体1及び圧電素子2とを備える振動波モータにおいて、前記接触面と当接する接触面を有し、前記弾性体1の接触面に引きつけられ、容易に取り外すことが可能に固定されている振動波モータの摩擦部材3であって、
前記摩擦部材3は、リング形状に形成された取付け部3cから複数の腕部3dが周方向にスリットを介して放射状に延出され一体に設けられ、前記複数の腕部3dの先端に複数の摩擦部3bがそれぞれ一体に設けられている、振動波モータの摩擦部材3。」

3.引用文献3
(1)引用文献3の記載
令和4年3月25日付け取消理由通知で引用した前記引用文献3には以下の事項が記載されている。
ア.「【0003】図5は本発明者により提案されている振動波モータの構造を示した図である。
【0004】図5(a)において、1は振動波モータの動力発生源となる振動体で、該振動体1は図5(b)に示される形状を有し、中央のボス部1cにおいてねじ4によりモータ端板3に締結固定されている。該振動体1はステンレス鋼で構成され、一方の端面の外周縁には図5(b)に示すように放射状に多数のスリット1bが形成されるとともに該スリットにより多数の歯状突部1aが形成されている。また、該振動体1の他方の端面には該歯状突部1aの配置されている環状部分に対応して環状の圧電素子2が接着固定されており、該圧電素子に駆動電圧を印加するための不図示のフレキシブルプリント基板が該圧電素子に接着されている。
【0005】モータ端板3の中心には軸受5が固定され、該軸受5には回転軸6が回転可能に支持されている。また、モータ端板3には他方の端板部を有しているモータケース12がねじ13で固定され、該モータケース12の端板部に固定された軸受14にも該回転軸6が回転可能に支持されている。回転軸6の両軸受間の位置には焼きばめ等で該回転軸6に嵌着されたフランジ6aが設けられ、該フランジ6aには図5(b)に示すような移動体支持体としての中間部材8がねじ7で固着されていて該中間部材8は回転軸6とともに回転するようになっている。該中間部材8は図示のように振動体1の歯状突部1aに対向する外周フランジ部8aを有しており、この外周フランジ部8aの端面(振動体1の歯状突部1aに対向する端面)には環状のゴム製弾性シート材9を介してアルミ合金製の環状の摺動体支持体10が取り付けられている。
【0006】摺動体支持体10は図5(c)のように中間部材8のフランジ部8aに固着される固定部10aと、該固定部10aの外周縁に沿って形成された周方向の段部10bにより構成されるとともに該フランジ部8aから外側へ突出した環状のフランジ部10cと、を有しており、フランジ部10cの振動体対向面には複合樹脂から成る環状の摺動体11が接着されている。該摺動体11は振動体1の歯状突部1aに圧接され、該歯状突部1aに生じる周方向への進行波振動により該歯状突部1aとの相互摩擦で該歯状突部1aに沿って相対移動し、その結果、該支持体10を介して中間部材8が回転駆動される。
【0007】なお、本明細書では摺動体11と摺動体支持体10との結合体を移動体と称することにする。
【0008】15は摺動体11を摺動体1の歯状突部1aに圧接させるための円錐形の加圧ばねで、図5(d)の如き平面形状をしており、軸受14と該中間部材8との間に配置されていて該中間部材8を振動体1側へ付勢している。」

イ.「【0026】〈実施例1〉図1に本発明を適用して構成された振動波モータの縦断面図を示す。この振動波モータにおいては移動体支持体に取付けられている移動体を除いては前述した先行技術の振動波モータの構造と同じであるから以下には簡単に各部の構成を説明する。
・・・(中略)・・・
【0028】中間部材8の外周のフランジ部8aにはゴム製弾性シート材9を介して環状の摺動体支持体20が固着されており、該支持体20の第一の端面(すなわち振動体1に対向する面)の外周部には環状の摺動体30が固着されている。
・・・(中略)・・・
【0032】該連結部分20cは軸線方向(図において上下方向)に弾性的にたわみ得るため、ばねとしての機能を有するものとなっており、従って、摺動体30と振動体1との接触部分には加圧ばね15のばね力に加えて該連結部20cのばね力が加えられるため、摺動体30は振動体1の歯状突部1aの振動によく追従するようになり、その結果、本発明の振動波モータは前記先行技術の振動波モータよりもよい特性を示すものとなる。」

ウ.「【0045】〈実施例2〉図3及び図4に示す本発明の第二実施例は、前記振動体側に摺動体を取付け、移動体側の構成要素を少なくしたものである。
【0046】図3は図4に示す移動体と振動体とを有する本発明の第二実施例の振動波モータの縦断面図であり、該モータの移動体と振動体とを除いた構成は図1の振動波モータと同じであるから、図3において図1と同じ符号で表示した構成要素の説明を省略する。」

エ.「【0047】図3に示す振動波モータは図4(a)に示した移動体32と振動体1とを有している。移動体32は図2の実施例の移動体の如き摺動体を有しておらず、図2の摺動体支持体に相当する部分のみで構成されている。該移動体32は図2の摺動体支持体と同じくアルミ合金製であり、中間部材8のフランジ8aに接着固定される環状の固定部32aと、振動体1の歯状突部1aに摺動接触する円筒状の摺動部32bと、該固定部32aと該摺動部32bとを連結する可撓性の連結部32cと、を有しており、振動体1の歯状突部1aに摺動接触する摺動部32bの一端面すなわち摺動接触面32gには弗素樹脂共析のニッケル燐基合金膜が形成されるとともに該合金膜を熱処理してビッカース硬さが800程度になるように硬化されている。該連結部32cの振動体対向面側には深さ一定の周方向溝32eが形成され、また、該連結部32cの反対側の面には半径方向外向きに深さが大きくなる三角形断面状の周方向溝32dが形成され、従って該連結部32cの軸線方向の肉厚は半径方向外側に向かって減少しており、該連結部32cは軸線方向に弾性的にたわみ得るばねとして機能している。また、固定部32aの振動体対向面32fは摺動部32bの摺動面32gよりもわずかに振動体1の面から遠くなるように両面32f及び32gの間には段差がある。
【0048】本実施例の振動波モータでは、振動体1の歯状突部1aの表面に前記実施例の摺動体30と同じ複合樹脂の摺動体34が形成されている。該摺動体34は該移動体32の摺動面32gに接する部分(この部分は図に示されるように他の部分にくらべて厚みが少し厚くなっている)の厚みが0.7mmで表面の硬さがロックウェルのMスケールで90になっており、前記摺動体と同じくPEEKにガラス状カーボンを強化材として混入した複合樹脂で構成されている。」

オ.「【0049】図4(b)は図3の振動波モータに組込んだ本発明の別の実施例の移動体と振動体の構成を示したものである。本実施例の移動体33も前記移動体32と同じくアルミ合金製であり、中間部材8のフランジ部8aに接着固定される環状の固定部33aと、振動体1の歯状突部1aに摺動接触する円筒状の摺動部33bと、該固定部33aと該摺動部33bとを連結する連結部33cと、を有しており、摺動部33bの摺動接触面33gには弗素樹脂共析のニッケル−燐基合金膜が形成されるとともに該合金膜を熱処理してビッカース硬さが800程度になるように硬化処理されている。該連結部33cの振動体非対向面側には半径方向外向きに深さが大きくなる三角形断面形状の周方向溝33dが形成され、固定部33a及び連結部33cの振動体対向面33eは摺動部33bの摺動接触面33gよりも振動体1の面から遠くなるように段差がつけられている。また、摺動接触面33gとは反対側の端面33fは固定部33aの端面33hよりも振動体側に近くなるように該面33hと該面33fとは段差を以て形成されている。
【0050】振動体1の歯状突部1aの表面には前記摺動体31と同じ構成材料から成る摺動体35が固着されている。該摺動体35は移動体33の摺動面33gに接する部分(この部分は図に示されるように他の部分にくらべて厚みが少し厚くなっている)の厚みが0.3mmで表面の硬さがロックウェルのMスケールで82になるように構成されており、PTFE(弗素樹脂)とPOB(ポリオキシベンゾイル)との複合樹脂から成るスクライビングシートを打ち抜いたものを該歯状突部1aの表面に固着させたものである。」

カ.図3には、次の事項が図示されている。


キ.図4(b)には、次の事項が図示されている。


ク.前記オによると、図4(b)に関する実施例において、摺動体35は、振動体1の歯状突部1aの表面に固着され、PTFE(弗化樹脂)とPOB(ポリオキシベンゾイル)との複合樹脂から成るといえるが、摺動体35を振動体1側に固着していること以外の振動体1及び圧電素子2の構造は、前記ウの段落【0046】、前記イの段落【0026】によると、先行技術の振動波モータの構造と同じであると解される。したがって、前記アも考慮すると、図4(b)に関する実施例の振動波モータは、一方の端面の外周縁に多数の歯状突部1aが形成された振動体1と、振動体1の他方の端面に接着固定された圧電素子2と、振動体1の歯状突部1aの表面に固着され、PTFE(弗化樹脂)とPOB(ポリオキシベンゾイル)との複合樹脂から成る摺動体35とを備えているといえる。

ケ.前記オによると、図4(b)に関する実施例の振動波モータは、摺動体35と摺動接触面33gで接する摺動部33bを有する移動体33を備えているといえる。そして、図4(b)に関する実施例において、移動体33及び振動体1以外の構造は、前記ウの段落【0046】、前記イの段落【0026】によると、先行技術の振動波モータの構造と同じであると解されるから、前記アも考慮すると、図4(b)に関する実施例の振動波モータは、外周フランジ部8aの端面に環状のゴム製弾性シート材9を介して、移動体33を接着固定する中間部材8を備えているといえる。

(2)引用文献3に記載された発明
前記(1)ア〜ケ及び図面の図示内容を総合すると、引用文献3には、図4(b)に関する実施例として、次の発明(以下、「引用発明3−1」、「引用発明3−2」という。)が記載されていると認められる。

[引用発明3−1]
「一方の端面の外周縁に多数の歯状突部1aが形成された振動体1と、前記振動体1の他方の端面に接着固定された圧電素子2と、前記振動体1の前記歯状突部1aの表面に固着され、PTFE(弗化樹脂)とPOB(ポリオキシベンゾイル)との複合樹脂から成る摺動体35と、
前記摺動体35と摺動接触面33gで接する摺動部33bを有する移動体33と、外周フランジ部8aの端面に環状のゴム製弾性シート材9を介して、前記移動体33を接着固定する中間部材8とを備えている、振動波モータ。」

[引用発明3−2]
「摺動部33bを有する移動体33と、外周フランジ部8aの端面に環状のゴム製弾性シート材9を介して、前記移動体33を接着固定する中間部材8と、外周縁に多数の歯状突部1aが形成された振動体1と、圧電素子2とを備える振動波モータにおいて、前記摺動部33bの摺動接触面33gと接し、前記振動体1の前記歯状突部1aの表面に固着される振動波モータの摺動体35。」

4.引用文献4
特許異議申立人が提出し、令和4年3月25日付け取消理由通知で引用した前記引用文献4には以下の事項が記載されている。
(1)「1.はじめに
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は耐熱性、耐薬品性が必要とされる様々な工業分野で利用されているが、・・・(中略)・・・、繊維強化樹脂(FRP)としての利用はない。現状では、軸受け等の耐摩耗性能を要求される部品や耐クリープ特性を要求される部品に、ガラス繊維や炭素繊維等の短繊維をPTFE樹脂の粉末に混合し焼成した材料が用いられているのみである。・・・(中略)・・・。その他、放射線架橋したPTFEは力学特性、光学特性、耐クリープ特性や耐摩耗特性などが改善される。・・・(中略)・・・。本報告は、その第1報として、市販されているガラス繊維および炭素繊維の短繊維を充填したPTFEの放射線架橋を検討し、連続長繊維強化複合材料の開発にあたっての問題点を探った。」(第1ページ第1行〜第16行)

5.引用文献5
特許異議申立人が提出し、令和4年3月25日付け取消理由通知で引用した前記引用文献5には以下の事項が記載されている。
(1)「3.架橋PTFEの特長
架橋PTFEの代表的な特長について以下で述べる。
3.1 しゅう動特性
第1の特長は耐摩耗性である。図2に耐摩耗性評価法(リングオンディスク法)、図3に架橋PTFEの耐摩耗性をPTFEおよびしゅう動材料として代表的なガラス繊維充てんPTFEと比較して示す。ここでしゅう動相手材(以下相手材と称す)としては機械部品等で代表的なステンレスとアルミを取り上げた。また、比摩耗量は以下の式(1)で定義される。式中のWaは試験前の試験片の質量(g)、Wbは試験後の試験片の質量(g)、ρは試験片の密度(g/mm3)、Pは試験荷重(N)、Vは回転速度(m/min)、tは試験時間(min)である。すなわち、摩耗した質量を材料の密度で割ることにより摩耗した体積を算出し、これを試験荷重、回転速度、試験時間で割ったもので、数値の小さいほど摩耗が小さいことを表す。


」(第173ページ右欄下から7行〜第174ページ左欄第10行)

(2)第174ページの図3には、次の事項が図示されている。


6.引用文献6
特許異議申立人が提出し、令和4年3月25日付け取消理由通知で引用した前記引用文献6には以下の事項が記載されている。
(1)「【0013】
図1に示すように、薬液を注入するための注入機器1は、超音波モータ31を有する超音波モータ部3と、超音波モータ31が正転するときに薬液を送り出すように、超音波モータ部3によって駆動される駆動機構4と、超音波モータ部3の超音波モータ31を制御する制御装置5とを備える。そして、駆動機構4及び超音波モータ部3は、注入機器1の注入ヘッド2のフレーム21内に格納されている。このフレーム21は、2つのシリンダ91を保持するために2つのシリンジホルダー92を有する。さらに、注入機器1は、薬液の注入状況等が表示されるディスプレイ53を含むコンソール6を有している。このコンソール6は光ケーブルを介して制御装置5に接続されており、制御装置5は注入ヘッド2に接続されている。このように、コンソール6と制御装置5とを光ケーブルを介して接続することにより、ノイズによる悪影響を軽減することができる。また、制御装置5及びコンソール6は検査室内又は検査室外の外部電源に接続されており、制御装置5はパワーサプライとしても機能している。」

(2)図1には、次の事項が図示されている。


第5 当審の判断
1.特許法第29条第1項第3号新規性)及び同条第2項(進歩性)について
(1)引用文献1に記載された発明を主引用発明とした場合
ア.本件特許発明1について
(ア)対比・判断
本件特許発明1と引用発明1−1とを対比すると、引用発明1−1の「振動体1」は、引用文献1の段落【0036】(前記第4 1(1)ア参照。)によると、進行性の振動波が生じるものであるから、弾性を備えた部材と解され、本件特許発明1の「弾性体」に相当する。
引用発明1−1の「圧電素子2」及び「摩擦部材3」は、それぞれ本件特許発明1の「圧電素子」及び「摺動材」に相当し、引用発明1−1の「前記振動体1の一方面に固定された圧電素子2と、前記振動体1の他方面の前記くし歯部1aに溶接で固定された摩擦部材3」は、本件特許発明1の「前記弾性体に貼り付けられた圧電素子及び摺動材」に相当する。
そして、引用発明1−1の「振動体1」、「圧電素子2」及び「摩擦部材3」を合わせたものは、本件特許発明1の「ステータ」に相当するから、引用発明1−1の「複数のくし歯部1aが円環状に配列された振動体1と、前記振動体1の一方面に固定された圧電素子2と、前記振動体1の他方面の前記くし歯部1aに溶接で固定された摩擦部材3」を備えるという事項は、本件特許発明1の「弾性体と、前記弾性体に貼り付けられた圧電素子及び摺動材とを有しているステータ」を備えるという事項に相当する。
引用発明1−1の「接触ばね13」は、摩擦部材3に加圧接触するものであるから、本件特許発明1の「基体部分」に相当し、引用発明1−1の「前記摩擦部材3に加圧接触する接触ばね13」は、本件特許発明1の「前記摺動材と当接する基体部分」に相当する。
そして、引用発明1−1の「移動体7」、「加圧ばね9」及び「ディスク12」を合わせたものは、本件特許発明1の「ロータ」に相当するから、引用発明1−1の「前記摩擦部材3に加圧接触する接触ばね13を有し、回転トルクを加圧ばね9、ディスク12を介してシャフト11に伝える移動体7」を備えるという事項は、本件特許発明1の「前記摺動材と当接する基体部分を有するロータ」を備えるという事項に相当する。
また、引用発明1−1の「くし歯部1a」は、振動体1に複数、円環状に配列されるものであるから、くし歯部1aと他のくし歯部1aの間には隙間が存在しているといえる。そして、引用発明1−1の「摩擦部材3」は、該くし歯部1aの上面を覆うように配置され、連結部14で連結されるものであるから、前記隙間を挟んで対向する複数の片が、連結部14で連結されているといえる。すると、引用発明1−1の「前記摩擦部材3は、前記振動体1の前記くし歯部1aの上面を覆うように配置され、連結部14で連結されている」という事項は、本件特許発明1の「前記摺動材は、スリットを挟んで対向する複数の摺動片と、前記複数の摺動片を連結するブリッジ」を備えるという事項に相当する。
引用発明1−1の「振動波モータ」は、圧電素子2を備えたモータであり、本件特許発明1の「圧電モータ」に相当する。

そうすると、本件特許発明1と引用発明1−1とは、
[一致点1−1]
「弾性体と、前記弾性体に貼り付けられた圧電素子及び摺動材とを有しているステータと、
前記摺動材と当接する基体部分を有するロータとを備え、
前記摺動材は、スリットを挟んで対向する複数の摺動片と、前記複数の摺動片を連結するブリッジとを備えている、圧電モータ。」
である点で一致し、相違する点はない。

(イ)まとめ
以上のとおり、本件特許発明1と引用発明1−1とに相違する点はないから、本件特許発明1は、引用文献1に記載された発明である。
また、仮に本件特許発明1と引用発明1−1とに相違する点があるとしても、引用発明1−1において、当該相違する点に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることに格別の困難性はなく、本件特許発明1は、引用発明1−1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

イ.本件特許発明11について
(ア)対比
本件特許発明11と引用発明1−1とを対比すると、前記ア(ア)に示した本件特許発明1と引用発明1−1との対比と同様のことがいえる。
そうすると、本件特許発明11と引用発明1−1とは、前記ア(ア)に示した[一致点1−1]で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1−1]
本件特許発明11は、「薬液を注入するための注入機器であって」、圧電モータと、「前記圧電モータによって駆動される駆動機構と、前記圧電モータを制御する制御装置とを備える、注入機器。」であるのに対し、引用発明1−1は、振動波モータが、注入機器に備えられるものであるのか明らかでない点。

(イ)判断
以下、[相違点1−1]について検討する。
引用文献6には、段落【0013】、図1(前記第4 6(1)及び(2)参照。)によると、薬液を注入するための注入機器1が、超音波モータ部3と、超音波モータ部3によって駆動される駆動機構4と、超音波モータ部3の超音波モータ31を制御する制御装置5とを備える点が記載されている。
そして、引用発明1−1の振動波モータを、引用文献6に記載された事項に基いて、注入機器の超音波モータに用い、本件特許発明11の相違点1−1に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

(ウ)まとめ
そうすると、本件特許発明11は、引用発明1−1及び引用文献6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

ウ.本件特許発明12について
(ア)対比・判断
本件特許発明12と引用発明1−2とを対比すると、引用発明1−2の「接触ばね13」は、摩擦部材3と加圧接触するものであるから、本件特許発明12の「基体部分」に相当し、引用発明1−2の「移動体7」、「加圧ばね9」及び「ディスク12」を合わせたものは、本件特許発明12の「ロータ」に相当する。すると、引用発明1−2の「接触ばね13を有し、回転トルクを加圧ばね9、ディスク12を介してシャフト11に伝える移動体7」を備えるという事項は、本件特許発明12の「基体部分を有するロータ」を備えるという事項に相当する。
引用発明1−2の「振動体1」は、引用文献1の段落【0036】(前記第4 1(1)ア参照。)によると、進行性の振動波が生じるものであるから、弾性を備えた部材と解され、本件特許発明12の「弾性体」に相当し、引用発明1−2の「圧電素子2」及び「摩擦部材3」は、それぞれ本件特許発明12の「圧電素子」及び「摺動材」に相当する。そして、引用発明1−2の「振動体1」、「圧電素子2」及び「摩擦部材3」を合わせたものは、本件特許発明12の「ステータ」に相当するから、引用発明1−2の「複数のくし歯部1aが円環状に配列された振動体1と、圧電素子2」を備えるという事項は、本件特許発明12の「弾性体及び圧電素子を有するステータ」を備えるという事項に相当する。
引用発明1−2の「振動波モータ」は、圧電素子2を備えたモータであり、本件特許発明12の「圧電モータ」に相当し、引用発明1−2の「振動波モータの摩擦部材3」は、本件特許発明12の「圧電モータ用の摺動材」に相当する。そして、引用発明1−2の「前記接触ばね13に加圧接触し、前記振動体1の前記くし歯部1aに溶接で固定される振動波モータの摩擦部材3」は、本件特許発明12の「前記基体部分と当接するように前記ステータに設けられる圧電モータ用の摺動材」に相当する。
また、引用発明1−2の「くし歯部1a」は、振動体1に複数、円環状に配列されるものであるから、くし歯部1aと他のくし歯部1aの間には隙間が存在しているといえる。そして、引用発明1−2の「摩擦部材3」は、該くし歯部1aの上面を覆うように配置され、連結部14で連結されるものであるから、前記隙間を挟んで対向する複数の片が、連結部14で連結されているといえる。すると、引用発明1−2の「前記摩擦部材3は、前記振動体1の前記くし歯部1aの上面を覆うように配置され、連結部14で連結されている」という事項は、本件特許発明12の「前記摺動材は、スリットを挟んで対向する複数の摺動片と、前記複数の摺動片を連結するブリッジ」を備えるという事項に相当する。

そうすると、本件特許発明12と引用発明1−2とは、
[一致点1−2]
「基体部分を有するロータと、弾性体及び圧電素子を有するステータとを備える圧電モータにおいて、前記基体部分と当接するように前記ステータに設けられる圧電モータ用の摺動材であって、
前記摺動材は、スリットを挟んで対向する複数の摺動片と、前記複数の摺動片を連結するブリッジとを備えている、圧電モータ用の摺動材。」
である点で一致し、相違する点はない。

(イ)まとめ
以上のとおり、本件特許発明12と引用発明1−2とに相違する点はないから、本件特許発明12は、引用文献1に記載された発明である。
また、仮に本件特許発明12と引用発明1−2とに相違する点があるとしても、引用発明1−2において、当該相違する点に係る本件特許発明12の発明特定事項とすることに格別の困難性はなく、本件特許発明12は、引用発明1−2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)引用文献2に記載された発明を主引用発明とした場合
ア.本件特許発明1について
(ア)対比・判断
本件特許発明1と引用発明2−1とを対比すると、引用発明2−1の「弾性体1」、「圧電素子2」及び「摩擦部材3」は、それぞれ本件特許発明1の「弾性体」、「圧電素子」及び「摺動材」に相当し、引用発明2−1の「弾性体1」、「圧電素子2」及び「摩擦部材3」を合わせたものは、本件特許発明1の「ステータ」に相当する。また、引用発明2−1の「圧電素子2」は、弾性体1に積層されているから、何らかの手段で、弾性体1に貼り付けられているといえ、引用発明2−1の「摩擦部材3」は、弾性体1の接触面に引きつけられ、容易に取り外すことが可能に固定されているから、弾性体1の接触面に引きつけられる力により貼り付けられているといえる。すると、引用発明2−1の「弾性体1と、前記弾性体1に積層された圧電素子2と、前記弾性体1の接触面に引きつけられ、容易に取り外すことが可能に固定されている摩擦部材3」を備えるという事項は、本件特許発明1の「弾性体と、前記弾性体に貼り付けられた圧電素子及び摺動材とを有しているステータ」を備えるという事項に相当する。
引用発明2−1の「前記摩擦部材3の接触面と当接する接触面」は、本件特許発明1の「前記摺動部材と当接する基体部分」に相当し、引用発明2−1の「移動体」、「板ばね」及び「ディスクフランジ」を合わせたものは、本件特許発明1の「ロータ」に相当するから、引用発明2−1の「前記摩擦部材3の接触面と当接する接触面を有する移動体と、防振ゴムを介して前記移動体に当接している板ばねと、前記板ばねが固定されているディスクフランジと」を備えるという事項は、本件特許発明1の「前記摺動材と当接する基体部分を有するロータ」を備えるという事項に相当する。
また、引用発明2−1の「複数の腕部3d」及び該複数の腕部3dの先端にそれぞれ一体に設けられている「複数の摩擦部3b」を合わせたものは、周方向にスリットを介して放射状に延出されているといえるから、本件特許発明1の「スリットを挟んで対向する複数の摺動片」に相当し、引用発明2−1の「リング形状に形成された取付け部3c」は、複数の腕部3d及び複数の摩擦部3bを一体にするものであるから、本件特許発明1の「前記複数の摺動片を連結するブリッジ」に相当する。すると、引用発明2−1の「前記摩擦部材3は、リング形状に形成された取付け部3cから複数の腕部3dが周方向にスリットを介して放射状に延出され一体に設けられ、前記複数の腕部3dの先端に複数の摩擦部3bがそれぞれ一体に設けられている」という事項は、本件特許発明1の「前記摺動材は、スリットを挟んで対向する複数の摺動片と、前記複数の摺動片を連結するブリッジとを備えている」という事項に相当する。
引用発明2−1の「振動波モータ」は、圧電素子2を備えたモータであり、本件特許発明1の「圧電モータ」に相当する。

そうすると、本件特許発明1と引用発明2−1とは、
[一致点2−1]
「弾性体と、前記弾性体に貼り付けられた圧電素子及び摺動材とを有しているステータと、
前記摺動材と当接する基体部分を有するロータとを備え、
前記摺動材は、スリットを挟んで対向する複数の摺動片と、前記複数の摺動片を連結するブリッジとを備えている、圧電モータ。」
である点で一致し、相違する点はない。

(イ)まとめ
以上のとおり、本件特許発明1と引用発明2−1とに相違する点はないから、本件特許発明1は、引用文献2に記載された発明である。
また、仮に本件特許発明1と引用発明2−1とに相違する点があるとしても、引用発明2−1において、当該相違する点に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることに格別の困難性はなく、本件特許発明1は、引用発明2−1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

イ.本件特許発明11について
(ア)対比
本件特許発明11と引用発明2−1とを対比すると、前記ア(ア)に示した本件特許発明1と引用発明2−1との対比と同様のことがいえる。
そうすると、本件特許発明11と引用発明2−1とは、前記ア(ア)に示した[一致点2−1]で一致し、以下の点で相違する。

[相違点2−1]
本件特許発明11は、「薬液を注入するための注入機器であって」、圧電モータと、「前記圧電モータによって駆動される駆動機構と、前記圧電モータを制御する制御装置とを備える、注入機器。」であるのに対し、引用発明2−1は、振動波モータが、注入機器に備えられるものであるのか明らかでない点。

(イ)判断
以下、[相違点2−1]について検討する。
引用文献6には、段落【0013】、図1(前記第4 6(1)及び(2)参照。)によると、薬液を注入するための注入機器1が、超音波モータ部3と、超音波モータ部3によって駆動される駆動機構4と、超音波モータ部3の超音波モータ31を制御する制御装置5とを備える点が記載されている。
そして、引用発明2−1の振動波モータを、引用文献6に記載された事項に基いて、注入機器の超音波モータに用い、本件特許発明11の相違点2−1に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

(ウ)まとめ
そうすると、本件特許発明11は、引用発明2−1及び引用文献6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

ウ.本件特許発明12について
(ア)対比・判断
本件特許発明12と引用発明2−2とを対比すると、引用発明2−2の移動体の「接触面」は、摩擦部材3の接触面と当接するものであるから、本件特許発明12の「基体部分」に相当し、引用発明2−2の「移動体」、「板ばね」及び「ディスクフランジ」を合わせたものは、本件特許発明12の「ロータ」に相当するから、引用発明2−2の「接触面を有する移動体と、防振ゴムを介して前記移動体に当接している板ばねと、前記板ばねが固定されているディスクフランジと」を備えるという事項は、本件特許発明12の「基体部分を有するロータ」を備えるという事項に相当する。
引用発明2−2の「弾性体1」、「圧電素子2」及び「摩擦部材3」は、それぞれ本件特許発明12の「弾性体」、「圧電素子」及び「摺動材」に相当し、引用発明2−2の「弾性体1」、「圧電素子2」及び「摩擦部材3」を合わせたものは、本件特許発明12の「ステータ」に相当するから、引用発明2−2の「弾性体1及び圧電素子2」を備えるという事項は、本件特許発明12の「弾性体及び圧電素子を有するステータ」を備えるという事項に相当する。
引用発明2−2の「振動波モータ」は、圧電素子2を備えたモータであり、本件特許発明12の「圧電モータ」に相当し、引用発明2−2の「振動波モータの摩擦部材3」は、本件特許発明12の「圧電モータ用の摺動材」に相当する。そして、引用発明2−2の「前記接触面と当接する接触面を有し、前記弾性体1の接触面に引きつけられ、容易に取り外すことが可能に固定されている振動波モータの摩擦部材3」は、本件特許発明12の「前記基体部分と当接するように前記ステータに設けられる圧電モータ用の摺動材」に相当する。
また、引用発明2−2の「複数の腕部3d」及び該複数の腕部3dの先端にそれぞれ一体に設けられている「複数の摩擦部3b」を合わせたものは、周方向にスリットを介して放射状に延出されているといえるから、本件特許発明12の「スリットを挟んで対向する複数の摺動片」に相当し、引用発明2−2の「リング形状に形成された取付け部3c」は、複数の腕部3d及び複数の摩擦部3bを一体にするものであるから、本件特許発明12の「前記複数の摺動片を連結するブリッジ」に相当する。すると、引用発明2−2の「前記摩擦部材3は、リング形状に形成された取付け部3cから複数の腕部3dが周方向にスリットを介して放射状に延出され一体に設けられ、前記複数の腕部3dの先端に複数の摩擦部3bがそれぞれ一体に設けられている」という事項は、本件特許発明12の「前記摺動材は、スリットを挟んで対向する複数の摺動片と、前記複数の摺動片を連結するブリッジとを備えている」という事項に相当する。

そうすると、本件特許発明12と引用発明2−2とは、
[一致点2−2]
「基体部分を有するロータと、弾性体及び圧電素子を有するステータとを備える圧電モータにおいて、前記基体部分と当接するように前記ステータに設けられる圧電モータ用の摺動材であって、
前記摺動材は、スリットを挟んで対向する複数の摺動片と、前記複数の摺動片を連結するブリッジとを備えている、圧電モータ用の摺動材。」
である点で一致し、相違する点はない。

(イ)まとめ
以上のとおり、本件特許発明12と引用発明2−2とに相違する点はないから、本件特許発明12は、引用文献2に記載された発明である。
また、仮に本件特許発明12と引用発明2−2とに相違する点があるとしても、引用発明2−2において、当該相違する点に係る本件特許発明12の発明特定事項とすることに格別の困難性はなく、本件特許発明12は、引用発明2−2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)引用文献3に記載された発明を主引用発明とした場合
ア.本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と引用発明3−1とを対比すると、引用発明3−1の「振動体1」は、多数の歯状突部1aが形成され、引用文献3の段落【0006】(前記第4 3(1)ア参照。)によると、該歯状突部1aに周方向への進行波振動が生じることから、弾性を備えた部材と解され、本件特許発明1の「弾性体」に相当する。
引用発明3−1の「圧電素子2」及び「摺動体35」は、それぞれ本件特許発明1の「圧電素子」及び「摺動材」に相当し、引用発明3−1の「前記振動体1の他方の端面に接着固定された圧電素子2と、前記振動体1の前記歯状突部1aの表面に固着され、PTFE(弗化樹脂)とPOB(ポリオキシベンゾイル)との複合樹脂から成る摺動体35」は、本件特許発明1の「前記弾性体に貼り付けられた圧電素子及び摺動材」に相当する。
そして、引用発明3−1の「振動体1」、「圧電素子2」及び「摺動体35」を合わせたものは、本件特許発明1の「ステータ」に相当するから、引用発明3−1の「一方の端面の外周縁に多数の歯状突部1aが形成された振動体1と、前記振動体1の他方の端面に接着固定された圧電素子2と、前記振動体1の前記歯状突部1aの表面に固着され、PTFE(弗化樹脂)とPOB(ポリオキシベンゾイル)との複合樹脂から成る摺動体35」を備えるという事項は、本件特許発明1の「弾性体と、前記弾性体に貼り付けられた圧電素子及び摺動材とを有しているステータ」を備えるという事項に相当する。
引用発明3−1の「摺動部33b」は、摺動体35と摺動接触面33gで接するものであるから、本件特許発明1の「基体部分」に相当し、引用発明3−1の「前記摺動体35と摺動接触面33gで接する摺動部33b」は、本件特許発明1の「前記摺動材と当接する基体部分」に相当する。そして、引用発明3−1の「移動体33」及び「中間部材8」を合わせたものは、本件特許発明1の「ロータ」に相当するから、引用発明3−1の「前記摺動体35と摺動接触面33gで接する摺動部33bを有する移動体33と、外周フランジ部8aの端面に環状のゴム製弾性シート材9を介して、前記移動体33を接着固定する中間部材8と」を備えるという事項は、本件特許発明1の「前記摺動材と当接する基体部分を有するロータ」を備えるという事項に相当する。
また、引用発明3−1の「歯状突部1a」は、振動体1の外周縁に多数、形成されるものであるから、歯状突部1aと他の歯状突部1aの間には隙間が存在し、該歯状突部1aの表面に固着される「摺動体35」は、前記隙間を挟んで対向する複数の片からなるといえる。すると、引用発明3−1の「摺動体35」を備えるという事項と、本件特許発明1の「前記摺動材は、スリットを挟んで対向する複数の摺動片と、前記複数の摺動片を連結するブリッジとを備えている」という事項とは、摺動材は、スリットを挟んで対向する複数の摺動片を備えている点において共通する。
引用発明3−1の「振動波モータ」は、圧電素子2を備えたモータであり、本件特許発明1の「圧電モータ」に相当する。

そうすると、本件特許発明1と引用発明3−1とは、
[一致点3−1]
「弾性体と、前記弾性体に貼り付けられた圧電素子及び摺動材とを有しているステータと、
前記摺動材と当接する基体部分を有するロータとを備え、
前記摺動材は、スリットを挟んで対向する複数の摺動片を備えている、圧電モータ。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点3−1]
本件特許発明1は、「前記複数の摺動片を連結するブリッジ」を備えるのに対し、引用発明3−1は、そのようなブリッジを備えない点。

(イ)判断
以下、前記[相違点3−1]について検討する。
引用文献1には、段落【0085】−【0088】、図9(前記第4 1(1)ウ及びエ参照。)によると、摩擦部材3(本件特許発明1の「摺動材」あるいは「摺動片」に相当する。以下、単に「「●●●」に相当。」等と記載する。)の配置上の便宜性等のために、振動体1(「弾性体」に相当。)に溶接固定され、振動体1のくし歯部1aの上面を覆う摩擦部材3を連結する連結部14(「複数の摺動片を連結するブリッジ」に相当。)を設けることが記載されている。
また、引用文献2には、段落【0022】−【0026】、【0029】、図1、図2(前記第4 2(1)イ、ウ及びエ参照。)によると、摩擦部材3(「摺動材」に相当。)の容易な交換を可能とするために、弾性体1(「弾性体」に相当。)に固定される摩擦部材3に、複数の摩擦部3b及び腕部3d(これらを合わせたものが「摺動片」に相当。)と一体に設けられるリング形状に形成された取付け部3c(「複数の摺動片を連結するブリッジ」に相当。)を設けることが記載されている。
そして、引用発明3−1の摺動体35は、振動体1の歯状突部1aの表面に固着されるものであり、また、該摺動体35は摩耗するものであるから、その交換の要請もあるところ、該摺動体35の歯状突部1aの表面への着脱を容易にしたいという課題は当然に内在するものといえる。すると、引用発明3−1において、該課題を解決すべく、引用文献1に記載された事項又は引用文献2に記載された事項に基いて、摺動体35の複数の片を連結するブリッジを設け、本件特許発明1の相違点3−1に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

(ウ)まとめ
そうすると、本件特許発明1は、引用発明3−1及び引用文献1に記載された事項又は引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

イ.本件特許発明2について
(ア)対比
本件特許発明2と引用発明3−1とを対比すると、前記ア(ア)に示した本件特許発明1と引用発明3−1との対比と同様のことがいえ、さらに、引用発明3−1の「PTFE(弗化樹脂)とPOB(ポリオキシベンゾイル)との複合樹脂」と、本件特許発明2の「強化繊維を含み、滑り摩耗試験によって測定した場合の比摩耗量が、1×10−6mm3/N・M未満である架橋フッ素樹脂」とは、フッ素樹脂に係る樹脂を含むものである点において共通する。

そうすると、本件特許発明2と引用発明3−1とは、前記ア(ア)に示した[一致点3−1]に加えて、
[一致点3−2]
「摺動材は、フッ素樹脂に係る樹脂を含む」点
で一致し、前記ア(ア)に示した[相違点3−1]に加えて、以下の点で相違する。

[相違点3−2]
摺動材のフッ素樹脂に係る樹脂について、本件特許発明2は、「強化繊維を含み、滑り摩耗試験によって測定した場合の比摩耗量が、1×10−6mm3/N・M未満である架橋フッ素樹脂」であるのに対し、引用発明3−1は、PTFE(弗化樹脂)とPOB(ポリオキシベンゾイル)との複合樹脂であり、PTFE(弗化樹脂)が、強化繊維を含むかや、架橋されているかが明確でなく、比摩耗量も明らかでない点。

(イ)判断
[相違点3−1]についての判断は、前記ア(イ)に示したとおりである。そこで、以下、[相違点3−2]について検討する。
引用発明3−1の摺動体35は、PTFE(弗化樹脂)とPOB(ポリオキシベンゾイル)との複合樹脂から成るものである。
また、引用文献4の第1ページ(前記第4 4(1)参照。)には、耐摩耗性能を要求される部品に、短繊維をPTFE樹脂に混合した材料を用いることが記載されており、さらに、放射線架橋したPTFEは耐摩耗特性が改善されることが記載されている。
引用発明3−1の摺動体35は、摺動部33bと摺動するものであるから、耐摩耗特性を向上させるという課題が内在していることは明らかであり、この課題を解決すべく、引用発明3−1の摺動体35の材料として、引用文献4に記載された短繊維を含んだ架橋PTFEを採用することは当業者が容易に想到し得たものである。
また、この短繊維を含んだ架橋PTFEの比摩耗量は、引用文献4に明示されていないものの、引用文献5の第174ページの図3(前記第4 5(2)参照。)によると、比摩耗量が、1×10−6mm3/N・m未満の架橋PTFEが示され、短繊維を含むことによりさらに比摩耗量は小さくなると解されるから、短繊維を含んだ架橋PTFEの比摩耗量として、1×10−6mm3/N・m未満という数値は格別のものではない。

(ウ)まとめ
そうすると、本件特許発明2は、引用発明3−1、引用文献1に記載された事項又は引用文献2に記載された事項、引用文献4に記載された事項及び引用文献5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

ウ.本件特許発明11について
(ア)対比
本件特許発明11と引用発明3−1とを対比すると、前記ア(ア)に示した本件特許発明1と引用発明3−1との対比と同様のことがいえる。
そうすると、本件特許発明11と引用発明3−1とは、前記ア(ア)に示した[一致点3−1]で一致し、前記ア(ア)に示した[相違点3−1]に加えて、以下の点で相違する。

[相違点3−3]
本件特許発明11は、「薬液を注入するための注入機器であって」、圧電モータと、「前記圧電モータによって駆動される駆動機構と、前記圧電モータを制御する制御装置とを備える、注入機器。」であるのに対し、引用発明3−1は、振動波モータが、注入機器に備えられるものであるのか明らかでない点。

(イ)判断
[相違点3−1]についての判断は、前記ア(イ)に示したとおりである。そこで、以下、[相違点3−3]について検討する。
引用文献6には、段落【0013】、図1(前記第4 6(1)及び(2)参照。)によると、薬液を注入するための注入機器1が、超音波モータ部3と、超音波モータ部3によって駆動される駆動機構4と、超音波モータ部3の超音波モータ31を制御する制御装置5とを備える点が記載されている。
そして、引用発明3−1の振動波モータを、引用文献6に記載された事項に基いて、注入機器の超音波モータに用い、本件特許発明11の相違点3−3に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

(ウ)まとめ
そうすると、本件特許発明11は、引用発明3−1、引用文献1に記載された事項又は引用文献2に記載された事項、及び引用文献6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

エ.本件特許発明12について
(ア)対比
引用発明3−2の「摺動部33b」は、摺動体35と摺動接触面33gで接するものであるから、本件特許発明12の「基体部分」に相当し、引用発明3−2の「移動体33」及び「中間部材8」を合わせたものは、本件特許発明12の「ロータ」に相当する。すると、引用発明3−2の「摺動部33bを有する移動体33と、外周フランジ部8aの端面に環状のゴム製弾性シート材9を介して、前記移動体33を接着固定する中間部材8」を備えるという事項は、本件特許発明12の「基体部分を有するロータ」を備えるという事項に相当する。
引用発明3−2の「振動体1」は、多数の歯状突部1aが形成され、引用文献3の段落【0006】(前記第4 3(1)ア参照。)によると、該歯状突部1aに周方向への進行波振動が生じることから、弾性を備えた部材と解され、本件特許発明12の「弾性体」に相当し、引用発明3−2の「圧電素子2」及び「摺動体35」は、それぞれ本件特許発明12の「圧電素子」及び「摺動材」に相当する。そして、引用発明3−2の「振動体1」、「圧電素子2」及び「摺動体35」を合わせたものは、本件特許発明12の「ステータ」に相当するから、引用発明3−2の「外周縁に多数の歯状突部1aが形成された振動体1と、圧電素子2」を備えるという事項は、本件特許発明12の「弾性体及び圧電素子を有するステータ」を備えるという事項に相当する。
引用発明3−2の「振動波モータ」は、圧電素子2を備えたモータであり、本件特許発明12の「圧電モータ」に相当し、引用発明3−2の「振動波モータの摺動体35」は、本件特許発明12の「圧電モータ用の摺動材」に相当する。そして、引用発明3−2の「前記摺動部33bの摺動接触面33gと接し、前記振動体1の前記歯状突部1aの表面に固着される振動波モータの摺動体35」は、本件特許発明12の「前記基体部分と当接するように前記ステータに設けられる圧電モータ用の摺動材」に相当する。
また、引用発明3−2の「歯状突部1a」は、振動体1の外周縁に多数、形成されるものであるから、歯状突部1aと他の歯状突部1aの間には隙間が存在し、該歯状突部1aの表面に固着される「摺動体35」は、前記隙間を挟んで対向する複数の片からなるといえる。すると、引用発明3−2の「摺動体35」と、本件特許発明12の「前記摺動材は、スリットを挟んで対向する複数の摺動片と、前記複数の摺動片を連結するブリッジとを備えている」という事項とは、摺動材は、スリットを挟んで対向する複数の摺動片を備えている点において共通する。

そうすると、本件特許発明12と引用発明3−2とは、
[一致点3−3]
「基体部分を有するロータと、弾性体及び圧電素子を有するステータとを備える圧電モータにおいて、前記基体部分と当接するように前記ステータに設けられる圧電モータ用の摺動材であって、
前記摺動材は、スリットを挟んで対向する複数の摺動片を備えている、圧電モータ用の摺動材。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点3−4]
本件特許発明12は、「前記複数の摺動片を連結するブリッジ」を備えるのに対し、引用発明3−2は、そのようなブリッジを備えない点。

(イ)判断
以下、[相違点3−4]について検討すると、[相違点3−1]について検討した理由(前記ア(イ)参照。)と同様の理由により、引用発明3−2において、引用文献1に記載された事項又は引用文献2に記載された事項に基いて、摺動体35の複数の片を連結するブリッジを設け、本件特許発明12の相違点3−4に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

(ウ)まとめ
そうすると、本件特許発明12は、引用発明3−2、引用文献1に記載された事項又は引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2.特許法第36条第6項第2号明確性)について
請求項2には、「前記摺動材は、強化繊維を含み、滑り摩耗試験によって測定した場合の比摩耗量が、1×10−6mm3/N・M未満である架橋フッ素樹脂からなる」と記載されているが、引用文献5(前記第4 5(1)及び(2)参照。)に示されているように、比摩耗量は、試験を行う際に使用する相手材、相手材の表面粗さ、回転速度、試験荷重、試験時間によって、その算出値が異なるものになることが、一般的に知られているところ、請求項2には、これらの事項が特定されていないから、「比摩耗量が、1×10−6mm3/N・M未満である架橋フッ素樹脂」に、どのような架橋フッ素樹脂が含まれるのかが明確でない。
また、比摩耗量を示す単位として、「mm3/N・m」を用いることが一般的であるところ、請求項2に記載された「mm3/N・M」が、該「mm3/N・m」を意味しているのか否かが明確でない。
よって、本件特許発明2は明確でない。請求項2を引用する請求項3〜11に係る本件特許発明3〜本件特許発明11についても同様である。

第6 むすび
以上のとおり、本件特許発明1及び本件特許発明12は、引用文献1に記載された発明又は引用文献2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に規定された発明に該当するから、請求項1及び12に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件特許発明1は、引用発明1−1に基いて、引用発明2−1に基いて、若しくは引用発明3−1及び引用文献1に記載された事項又は引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
本件特許発明2は、引用発明3−1、引用文献1に記載された事項又は引用文献2に記載された事項、引用文献4に記載された事項及び引用文献5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
本件特許発明11は、引用発明1−1及び引用文献6に記載された事項に基いて、引用発明2−1及び引用文献6に記載された事項に基いて、若しくは引用発明3−1、引用文献1に記載された事項又は引用文献2に記載された事項、及び引用文献6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
本件特許発明12は、引用発明1−2に基いて、引用発明2−2に基いて、若しくは引用発明3−2及び引用文献1に記載された事項又は引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件特許発明2〜本件特許発明11は、明確でなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、請求項2〜11に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この決定に対する訴えは、この決定の謄本の送達があった日から30日以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
異議決定日 2022-07-25 
出願番号 P2021-002326
審決分類 P 1 651・ 537- Z (H02N)
P 1 651・ 121- Z (H02N)
P 1 651・ 113- Z (H02N)
最終処分 06   取消
特許庁審判長 小川 恭司
特許庁審判官 長馬 望
柿崎 拓
登録日 2021-06-09 
登録番号 6895200
権利者 株式会社Piezo Sonic
発明の名称 圧電モータ、圧電モータ用の摺動材、及び注入機器  
代理人 内田 浩輔  
代理人 山本 晃司  

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